(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】車両用内燃機関の冷却装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/14 20060101AFI20221101BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20221101BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20221101BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20221101BHJP
F02M 26/41 20160101ALI20221101BHJP
F02M 26/32 20160101ALI20221101BHJP
F02M 26/33 20160101ALI20221101BHJP
F02F 1/36 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F01P7/14 E
F01P7/16 504E
F01P3/20 H
F01P7/16 502A
F01P3/02 G
F02M26/41 311
F02M26/41 321
F02M26/32
F02M26/33 301
F02F1/36 A
(21)【出願番号】P 2018182189
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】頼實 浩一
(72)【発明者】
【氏名】蔵野 順哉
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204460(JP,A)
【文献】特開2014-148912(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/14
F01P 7/16
F01P 3/20
F01P 3/02
F02M 26/41
F02M 26/32
F02M 26/33
F02F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに、当該シリンダヘッドを全体的に冷却するメインウォータジャケットと、前記シリンダヘッドの一端部に設けたEGR通路を冷却するサブウォータジャケットとが形成されており、
前記メインウォータジャケットの出口部とサブウォータジャケットの入口とは、ヒータコアを通過するヒータ管路によって接続されており、
前記メインウォータジャケットの出口部には、ラジエータを経由してウォータポンプに至るメイン戻り通路が接続されており、前記メイン戻り通路の通水はラジエータサーモ弁によって制御されている一方、
前記サブウォータジャケットの出口には、冷却水を前記ウォータポンプに戻すバイパス戻り通路が接続されており、
前記メインウォータジャケット
の出口部とサブウォータジャケットとは、メインウォータジャケットの圧力が設定値を越えると通水するように調圧弁を備えたバイパス通路によって接続されている、
という構成であって、
前記EGR通路とサブウォータジャケットとは、クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向に長い形態に形成されて、前記サブウォータジャケットは、前記EGR通路を外周側から囲うように形成されており、
前記メインウォータジャケットの出口部とサブウォータジャケットとは、前記シリンダヘッドの内部においては前記バイパス通路のみによって連通するように互いに分離している、
車両用内燃機関の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車両用内燃機関の冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は水冷式の冷却装置を備えており、冷却水は、設定温度を越えるとラジエータに流れて、設定温度よりも低い場合はウォータポンプに戻るように、サーモ弁によって流れが制御されている。
【0003】
他方、車両用の内燃機関では、車内の暖房に冷却水の熱を利用することが行われている。そして、従来は、ウォータジャケットは、冷却水が上流から下流に向けて流れるように1つだけ形成されており、例えば特許文献1に開示されているように、シリンダヘッドのウォータジャケットを通過した冷却水をヒータコアに導いている。
【0004】
また、シリンダヘッドにEGR通路を形成することも行われている。その例として特許文献2には、シリンダヘッド内のヘッド内EGR通路をEGRパイプで構成して、EGRパイプをウォータジャケットの冷却水に晒すことにより、EGRガスの冷却を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-312344号公報
【文献】特開2007-224784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、特許文献2は、シリンダヘッドのウォータジャケットを利用してEGRガスを冷却するものであり、従って、シリンダヘッドのウォータジャケットをEGRクーラに代替可能であり、外付けのEGRクーラを廃止できるため、内燃機関全体として構造をコンパクト化できると云える。
【0007】
しかし、EGRパイプは、冷却水の流れ方向の下流側であるシリンダヘッドの後部に配置されており、EGRパイプは、シリンダヘッドのウォータジャケットを通って昇温した冷却水に晒されるため、EGRガスの冷却性能は必ずしも高いとは云えないと解される。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の冷却装置は、
「シリンダヘッドに、当該シリンダヘッドを全体的に冷却するメインウォータジャケットと、前記シリンダヘッドの一端部に設けたEGR通路を冷却するサブウォータジャケットとが形成されており、
前記メインウォータジャケットの出口部とサブウォータジャケットの入口とは、ヒータコアを通過するヒータ管路によって接続されており、
前記メインウォータジャケットの出口部には、ラジエータを経由してウォータポンプに至るメイン戻り通路が接続されており、前記メイン戻り通路の通水はラジエータサーモ弁によって制御されている一方、
前記サブウォータジャケットの出口には、冷却水を前記ウォータポンプに戻すバイパス戻り通路が接続されており、
前記メインウォータジャケットの出口部とサブウォータジャケットとは、メインウォータジャケットの圧力が設定値を越えると通水するように調圧弁を備えたバイパス通路によって接続されている」
という構成において、
「前記EGR通路とサブウォータジャケットとは、クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向に長い形態に形成されて、前記サブウォータジャケットは、前記EGR通路を外周側から囲うように形成されており、
前記メインウォータジャケットの出口部とサブウォータジャケットとは、前記シリンダヘッドの内部においては前記バイパス通路のみによって連通するように互いに分離している」
【0010】
冷却水がラジエータを通過していない状態(暖機運転状態)では、メインウォータジャケットを通過した冷却水もサブウォータジャケットを通過した冷却水も、バイパス戻り通路からウォータポンプに戻されるが、暖機運転を終了して冷却水の温度が設定値を超えたら、サブウォータジャケットを通過する冷却水もラジエータを経由して冷却されるように制御することが好ましい。このような制御は、サーモ弁によって容易に実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の特徴は、シリンダヘッドに、シリンダヘッドを全体的に冷却するメインウォータジャケットの他に、EGR通路(を通るEGRガス)を冷却するためのサブウォータジャケットが形成されていることであり、このサブウォータジャケットには、ヒータコアを通過して降温した冷却水が流入する。従って、従来例に比べて、EGRガスの冷却性能を向上できる。
【0012】
更に、本願発明の特徴は、サブウォータジャケットにバイパス戻り通路が接続されていることであり、これにより、冷却水がラジエータを通過していない状態(低温状態)では、冷却水はウォータポンプに戻される。従って、冷却水は温度に関係なく循環する。
【0013】
更に、本願発明の特徴は、メインウォータジャケットとサブウォータジャケットとが、調圧弁(安全弁)を備えたバイパス通路によって連通していることであり、これにより、メインウォータジャケットの内圧が過剰に上昇したときに、冷却水をバイパス戻り通路に逃がして安全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1) 第1実施形態
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、
図1に示す第1実施形態を説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向はクランク軸線及び気筒軸線と直交した方向である。前と後ろについては、タイミングチェーンが配置されている側を前として、ミッションが配置されている側を後ろとしている。
【0016】
内燃機関は、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とを備えており、シリンダヘッド2には、排気空間3などを冷却するためにシリンダヘッド2に広く広がったメインウォータジャケット4と、後端部に設けたヘッド内EGR通路5を冷却するサブウォータジャケット6とが形成されている。ヘッド内EGR通路5は、シリンダヘッド2の排気側面2aに開口している。
【0017】
シリンダヘッド2の排気側面2aには、排気空間3に連通した排気出口7が形成されており、排気出口7に接続された排気通路8に触媒ケース9が介挿されている。そして、触媒ケース9の後端部にEGRパイプ10の始端が接続されており、EGRパイプ10の終端はヘッド内EGR通路5に接続されている。
【0018】
シリンダヘッド2には、ヘッド内EGR通路5の終端に連通するようにEGRバルブ11が取付けられており、EGRガスは、EGRバルブ11を介して吸気系に送られる。なお、図示の例では、ヘッド内EGR通路5はシリンダヘッド2の吸気側面2bに至っていないが、ヘッド内EGR通路5を吸気側面2bに貫通させることも可能である。
【0019】
メインウォータジャケット4の出口部12はシリンダヘッド2の後端面2cに開口しており、この開口部に、メイン戻り通路13が接続されている。メイン戻り通路13の中途部にはラジエータ14が介挿されている。また、メイン戻り通路13の終端はウォータポンプ15の入口ポートに接続されている。更に、メイン戻り通路13の適宜部に、設定温度になると開き始めるラジエータサーモ弁16が介在している。
【0020】
図面では、ラジエータサーモ弁16はウォータポンプ15に近い部位に表示しているが、シリンダヘッド2に設けた通水制御ユニットに設けることも可能である。従って、ラジエータサーモ弁16は、ラジエータ14の上流側に配置することも可能であるし、メイン戻り通路13の始端に設けることも可能である。
【0021】
サブウォータジャケット6は、シリンダヘッド2の左右方向(短手方向)に長く延びる形態であり、メインウォータジャケット4の出口部12の近傍では、ヘッド内EGR通路5を下方と後ろ側から囲って、メインウォータジャケット4の出口部12よりも吸気側に外れた部位では、ヘッド内EGR通路5を上下と後ろから囲う形態になっている(ヘッド内EGR通路5の全周又は略全周を囲うように形成することも可能である。)。
【0022】
サブウォータジャケット6は、吸気側に寄った端部に入口17を設けて、排気側に寄った端部に出口18を設けており、出口18は、バイパス戻り通路19を介してウォータポンプ15に接続されている。このバイパス戻り通路19は、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1の外側に露出したパイプで構成することも可能であるが、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1に内蔵すると、コンパクト化できる利点がある。
【0023】
車両は暖房用のヒータコア20を備えており、ヒータコア20の入口とメインウォータジャケット4の出口部12とがヒータ送り管21で接続されて、ヒータコア20の出口とサブウォータジャケット6の入口17とが、ヒータ戻り管22によって接続されている。
【0024】
メインウォータジャケット4の出口部12とサブウォータジャケット6とは、調圧弁23を有するバイパス通路24によって接続されている。従って、メインウォータジャケット4の水圧が設定値を越えると、冷却水が出口部12からサブウォータジャケット6に流入して、バイパス戻り通路19を経由してウォータポンプ15に還流する。
【0025】
シリンダブロック1には、冷却水をウォータポンプ15からメインウォータジャケット4に送る送水通路25が形成されているが、冷却水は、シリンダブロック1を経由してからシリンダヘッド2に流入する場合も多い。
【0026】
(2) 作用の説明
以上の構成において、暖機運転時のように、冷却水の水温が設定値以下である状態では、ラジエータサーモ弁16は閉じている。従って、冷却水は、ラジエータ14には流れず、一部は、ヒータコア20を介してサブウォータジャケット6からバイパス戻り通路19を経由してウォータポンプ15に戻り、残りは、バイパス通路24、サブウォータジャケット6、バイパス戻り通路19を経由してウォータポンプ15に戻される。
【0027】
冷却水の温度が設定値を越えると、ラジエータサーモ弁16が開き始めて、冷却水はラジエータ14を経由してウォータポンプ15に戻る。また、冷却水の温度が設定値を越えてもヒータコア20への通水は維持されており、冷却水の一部は、サブウォータジャケット6からバイパス戻り通路19を経由してウォータポンプ15に戻される。
【0028】
そして、本実施形態では、サブウォータジャケット6がEGRクーラとして機能するため、特許文献2と同様に外付け式のEGRクーラを無くしてコンパクト化できるが、ヘッド内EGR通路5はシリンダヘッド2に穴を空けることによって形成しているため、特許文献2のようなシールに関する問題はない。従って、信頼性に優れている。
【0029】
また、サブウォータジャケット6に流入する冷却水は、ヒータコア20を経由して温度が低下しているため、ヘッド内EGR通路5を流れるEGRガスの冷却性能に優れている。従って、EGRクーラとしての機能を向上できる。
【0030】
バイパス通路24に設けた調圧弁23はシリンダヘッド2に内蔵できるため、冷却水のバイパス構造(逃がし構造)を簡素化することができる。
【0031】
(3) 第2実施形態
図2に示す第2実施形態は第1実施形態の変形例であり、第1実施形態との主たる相違点は、サブウォータジャケット6の出口とバイパス戻り通路19の入口19aとの間にバイパス用サーモ弁26が配置されている点と、メイン戻り通路13のうちラジエータ14よりも上流側の部位とサブウォータジャケット6の出口部とが補助戻し通路27によって接続されている点と、バイパス通路24がメインウォータジャケット4の出口部12とバイパス戻り通路19の入口19aとに接続されている点である。
【0032】
この実施形態では、サブウォータジャケット6での冷却水の温度が設定値以下の場合は、バイパス用サーモ弁26は開いていて、サブウォータジャケット6の冷却水はバイパス戻り通路19を経由してウォータポンプ15に戻る。
【0033】
他方、サブウォータジャケット6での冷却水の温度が設定値を越えると、バイパス用サーモ弁26は閉じ始めて、サブウォータジャケット6の冷却水はラジエータ14を経由してウォータポンプ15に戻る。従って、ラジエータサーモ弁16とバイパス用サーモ弁26とは連動している。
【0034】
図では、ラジエータサーモ弁16とバイパス用サーモ弁26とは、互いに離反した状態で別々に表示しているが、実際には、両者は一体の構造として、可動軸に2つの弁体を設けることにより、メイン戻り通路13への通水とバイパス戻り通路19への通水とを同時に制御するのが合理的である。メイン戻り通路13のうち、補助戻し通路27の接続部よりも上流側の部位には、冷却水の逆流を防止する逆止弁28を設けている。
【0035】
本実施形態では、冷却水の温度が設定値を越えると、昇温した冷却水の全体をラジエータ14によって冷却できるため、エンジン及びEGRガスの冷却を確実化できる。
【0036】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、ヘッド内EGR通路の具体例としては、特許文献2のようにシリンダヘッドとは別体のパイプを使用することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明は、車両用内燃機関の冷却装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダブロック
2 シリンダヘッド
4 メインウォータジャケット
5 ヘッド内EGR通路
6 サブウォータジャケット
12 メインウォータジャケットの出口部
13 メイン戻り通路
15 ウォータポンプ
16 ラジエータサーモ弁
17 サブウォータジャケットの入口
18 サブウォータジャケットの出口
19 バイパス戻り通路
20 ヒータコア
21 ヒータ送り管
22 ヒータ戻り管
23 調圧弁
24 バイパス通路