IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ワコムの特許一覧

<>
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図1
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図2
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図3
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図4
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図5
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図6
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図7
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図8
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図9
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図10
  • 特許-位置検出回路及び位置検出方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】位置検出回路及び位置検出方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20221101BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G06F3/041 512
G06F3/044 120
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018189838
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2019145069
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】62/634,030
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】劉 叡明
(72)【発明者】
【氏名】佐野 重幸
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-138026(JP,A)
【文献】特開2016-206741(JP,A)
【文献】特開2014-219925(JP,A)
【文献】特開2017-021516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続される位置検出回路であって、
前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、
取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、
認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側では閾値を相対的に大きくする一方、前記異物存在領域の内側では前記閾値を相対的に小さくし、前記二次元データが示す検出値が前記閾値よりも大きい位置又は領域を前記タッチセンサ上のタッチ位置又はタッチ領域として検出する検出ステップと、
を実行することを特徴とする位置検出回路。
【請求項2】
複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続される位置検出回路であって、
前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、
取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、
認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側では閾値を相対的に小さくする一方、前記異物存在領域の内側では前記閾値を相対的に大きくし、前記二次元データに基づいて検出された前記タッチセンサ上の複数のタッチ領域のうち、隣り合うタッチ領域間における検出値の変化量が前記閾値よりも小さい場合に単一のタッチ領域として検出する検出ステップと、
を実行することを特徴とする位置検出回路。
【請求項3】
複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続される位置検出回路であって、
前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、
取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、
認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側では閾値を相対的に小さくする一方、前記異物存在領域の内側では前記閾値を相対的に大きくし、前記二次元データに基づいて検出された前記タッチセンサ上の領域のサイズが前記閾値よりも大きい場合に前記領域を前記タッチセンサ上のタッチ領域から除外する検出ステップと、
を実行することを特徴とする位置検出回路。
【請求項4】
前記認識ステップでは、前記検出値の分布の中に正の信号レベルと負の信号レベルが混在する領域がある場合に前記異物を認識することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の位置検出回路。
【請求項5】
複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサを用いた位置検出方法であって、
前記タッチセンサ上の静電容量の検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、
取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、
認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側では閾値を相対的に大きくする一方、前記異物存在領域の内側では前記閾値を相対的に小さくし、前記二次元データが示す検出値が前記閾値よりも大きい位置又は領域を前記タッチセンサ上のタッチ位置又はタッチ領域として検出する検出ステップと、
を1つ又は複数のプロセッサが実行することを特徴とする位置検出方法。
【請求項6】
複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサを用いた位置検出方法であって、
前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、
取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、
認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側では閾値を相対的に小さくする一方、前記異物存在領域の内側では前記閾値を相対的に大きくし、前記二次元データに基づいて検出された前記タッチセンサ上の複数のタッチ領域のうち、隣り合うタッチ領域間における検出値の変化量が前記閾値よりも小さい場合に単一のタッチ領域として検出する検出ステップと、
を1つ又は複数のプロセッサが実行することを特徴とする位置検出方法。
【請求項7】
複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサを用いた位置検出方法であって、
前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、
取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、
認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側では閾値を相対的に小さくする一方、前記異物存在領域の内側では前記閾値を相対的に大きくし、前記二次元データに基づいて検出された前記タッチセンサ上の領域のサイズが前記閾値よりも大きい場合に前記領域を前記タッチセンサ上のタッチ領域から除外する検出ステップと、
を1つ又は複数のプロセッサが実行することを特徴とする位置検出方法。
【請求項8】
前記認識ステップでは、前記検出値の分布の中に正の信号レベルと負の信号レベルが混在する領域がある場合に前記異物を認識することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検出回路及び位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、相互容量方式の静電タッチパネルへの接触物が水滴であると判定された場合、誤動作を防止するために当該水滴に対応する座標値の出力を無効化するタッチパネル装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-088899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に開示される装置では、例えば、タッチ面上にあるコインを押し付けた状態で指を移動させた場合、この指による動きが一連のタッチ操作として検出されないなど、柔軟な位置検出ができないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、タッチセンサの上方に異物が存在する場合であっても、より柔軟な位置検出を実行可能な位置検出回路及び位置検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明における位置検出回路は、複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続される回路であって、前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側と内側とはタッチ検出条件を異ならせて、前記二次元データに基づいて前記タッチセンサ上のタッチ位置又はタッチ領域を検出する検出ステップを実行する。
【0007】
第2の本発明における位置検出方法は、複数本のライン電極を二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサを用いた方法であって、前記タッチセンサ上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データを取得する取得ステップと、取得された前記二次元データに基づいて前記タッチセンサの上方にある導電性の異物を認識する認識ステップと、認識された前記異物が存在する異物存在領域の外側と内側とはタッチ検出条件を異ならせて、前記二次元データに基づいて前記タッチセンサ上のタッチ位置又はタッチ領域を検出する検出ステップを1つ又は複数のプロセッサが実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タッチセンサの上方に異物が存在する場合であっても、より柔軟な位置検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における位置検出回路が組み込まれた電子機器の概略ブロック図である。
図2図2A及び図2Bは、図1の位置検出回路に関する機能要件を示す模式図である。
図3図3A及び図3Bは、ユーザの指がタッチ面上に接触した状態における信号レベルの分布を示す図である。
図4図4A及び図4Bは、異物がタッチ面上にあり、かつ指が異物に接触していない状態(非接地状態)における信号レベルの分布を示す図である。
図5図5A及び図5Bは、異物がタッチ面上にあり、かつ指が異物に接触している状態(接地状態)における信号レベルの分布を示す図である。
図6図1の位置検出回路による位置検出方法に関するフローチャートである。
図7図7Aは、ステップS2における異物認識処理の一例を示す図である。図7Bは、異物の認識結果の一例を示す図である。
図8図6のステップS5において実行されるコインモードのタッチ検出処理の詳細フローチャートである。
図9】閾値の変更(T1→T2)に伴う指判定の改善効果を示す模式図である。
図10】閾値の変更(L1→L2)に伴う同一物体判定の改善効果を示す模式図である。
図11】閾値の変更(S1→S2)に伴うパーム判定の改善効果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における位置検出回路及び位置検出方法について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0011】
[電子機器10の構成]
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における位置検出回路18が組み込まれた電子機器10の概略ブロック図である。電子機器10は、例えば、タブレット型端末、スマートフォン、パーソナルコンピュータで構成される。ユーザは、電子ペン12(あるいはスタイラス)を片手で把持し、図示しない表示パネルのタッチ面24(図2Aなどを参照)にペン先を押し当てながら移動させることで、電子機器10に絵や文字を書き込むことができる。あるいは、ユーザは、自身の指14でタッチ面24に接触することで、表示中のユーザコントロールを介して所望の操作を行うことができる。
【0012】
この電子機器10は、静電容量方式のタッチセンサ16と、位置検出回路18と、ホストプロセッサ20と、を含んで構成される。なお、本図に示すx方向,y方向は、タッチセンサ16がなす平面上において定義される直交座標系のX軸,Y軸に相当する。
【0013】
タッチセンサ16は、表示パネル上に配置される複数の電極を含んで構成される。タッチセンサ16は、X座標(x方向の位置)を検出するための複数のライン電極16xと、Y座標(y方向の位置)を検出するための複数のライン電極16yと、を含む。複数のライン電極16xは、y方向に延びて設けられ、かつx方向に沿って等間隔に配置されている。複数のライン電極16yは、x方向に延びて設けられ、かつy方向に沿って等間隔に配置されている。
【0014】
位置検出回路18は、ファームウェア22を実行可能に構成された集積回路であり、タッチセンサ16を構成する複数の電極にそれぞれ接続されている。ファームウェア22は、ユーザの指14などによるタッチを検出するタッチ検出機能24tと、電子ペン12の状態を検出するペン検出機能24pと、を実現可能に構成される。
【0015】
タッチ検出機能24tは、例えば、タッチセンサ16の二次元スキャン機能、タッチセンサ16上の二次元データ30(図7B)の取得機能、二次元データ30上の領域分類機能(例えば、指14、手の平の分類)を含む。ペン検出機能24pは、例えば、タッチセンサ16の二次元スキャン機能、ダウンリンク信号の受信・解析機能、電子ペン12の状態(例えば、位置、姿勢、筆圧)の推定機能、電子ペン12に対する指令を含むアップリンク信号の生成・送信機能を含む。
【0016】
ホストプロセッサ20は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)からなるプロセッサである。ホストプロセッサ20は、図示しないメモリからプログラムを読み出し実行することで、例えば、位置検出回路18からのデータを用いてデジタルインクを生成する処理、当該デジタルインクが示す描画内容を表示させるための可視化処理などを行う。
【0017】
<位置検出回路18の機能要件>
図2A及び図2Bは、図1の位置検出回路18に関する機能要件を示す模式図である。
【0018】
図2Aの左側に示すように、電子機器10のタッチ面24上には、コインや水滴などの導電性の異物C1が配置されている。この状態から電子機器10を傾けることで、異物C1は、自重によりタッチ面24上を滑り降りていく。1つ目の機能要件として、図2Aの右側に示すように、異物C1がタッチ面24上に接触した状態のまま移動したにもかかわらず、一連のタッチ操作として検出しないことが挙げられる。
【0019】
図2Bの左側に示すように、電子機器10のタッチ面24上には2つの異物C1,C2が配置され、かつユーザが、自身の指14にて異物C1,C2を押さえ付けている。この状態から指14を移動させることで、異物C1,C2は、指14の動きに追従して移動する。2つ目の機能要件として、図2Bの右側に示すように、異物C1,C2が介在するにもかかわらず、指14による動きを一連のタッチ操作として検出することが挙げられる。
【0020】
[位置検出回路18の動作]
<静電容量の検出傾向>
この実施形態における位置検出回路18は、以上のように構成される。続いて、様々な使用状態下でのタッチセンサ16による静電容量の検出傾向について、図3A図5Bを参照しながら説明する。
【0021】
図3Aは、ユーザの指14がタッチ面24上に接触した状態における信号レベルの一次元分布を示す図である。グラフの横軸は一軸方向に沿った位置(Position)を示すとともに、グラフの縦軸は信号レベル(Level)を示している。この信号レベルは、静電容量(相互容量あるいは自己容量)に関する検出値に相当し、指14が接触した時に「正」になるように正負の符号が設定されている。
【0022】
図3Bは、ユーザの指14がタッチ面24上に接触した状態における信号レベルの二次元分布を示す図である。各セルの値は、二次元位置毎の信号レベルを示している。図示の便宜上、信号レベルが基準値(=0)付近であるセルは、数字を省略して表記している。なお、太線枠で囲まれる単体のセル又はセルの集合は、正の信号レベルPvが検出される位置を示す。
【0023】
図3A及び図3Bから理解されるように、指14の接触に伴って、この指14の接触部分に対応する狭い範囲内にて閾値T1を大きく上回る信号レベルが検出される。
【0024】
図4A及び図4Bは、異物C1がタッチ面24上にあり、かつ指14が異物C1に接触していない状態(非接地状態)における信号レベルの分布を示す図である。より詳しくは、図4Aは一次元分布、図4Bは二次元分布をそれぞれ示している。図4A及び図4Bから理解されるように、異物C1が存在する領域には、正の信号レベルPvの小領域のみならず、負の値の信号レベルNvの小領域が混在して含まれる。
【0025】
図5A及び図5Bは、異物C1がタッチ面24上にあり、かつ指14が異物C1に接触している状態(接地状態)における信号レベルの分布を示す図である。より詳しくは、図5Aは一次元分布、図5Bは二次元分布をそれぞれ示している。
【0026】
指14の接触に伴って、負の信号レベルNvは消滅し、異物C1の接触部分に対応する広い範囲にて相対的に低い正の信号レベルPvが検出されるようになる。この理由は、指14から吸収される電荷量Qは異物C1の有無によってそれほど大きく変わらないが、異物C1の接触面積が指14のそれに比して大きく、単位面積あたりの電荷の吸収量が低下するためと考えられる。
【0027】
<具体的な動作>
上記した検出傾向を踏まえて、2つの機能要件(図2A図2B参照)を同時に実現することができる。以下、位置検出回路18の具体的な動作について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。なお、この動作は、1つのプロセッサ(位置検出回路18)が実行してもよいし、複数のプロセッサが協働して実行してもよい。
【0028】
図6のステップS1において、位置検出回路18は、タッチセンサ16上の静電容量に関する検出値を示す検出信号を入力し、検出レベルの位置分布を示す分布データ(以下、二次元データ30ともいう)を取得する。
【0029】
ステップS2において、位置検出回路18は、ステップS1で取得された二次元データ30に基づいて、タッチセンサ16の上方にある導電性の異物C1(つまり、タッチ面24上に接触する異物C1)を認識する。
【0030】
図7Aは、ステップS2における異物認識処理の一例を示す図である。この処理では、指14の接触範囲よりも広いパターン(以下、コインパターンともいう)を認識し、当該コインパターンを認識領域32として抽出する。このようなコインパターンでは、上記した通り、正の信号レベルPvの領域と負の信号レベルNvの領域とが明確に分離されることはなく、実際には2種類の小領域が混在して発生する。塗り潰しで示す部分は正の信号レベルPv(1),Pv(2)が検出された小領域に相当し、ハッチングで示す部分は負の信号レベルNvが検出された小領域に相当する。したがって、コインパターンを認識する際、領域同士の境界線(エッジ)を検出する代わりに、符号の異なる信号レベルが混在することを認識条件に含めることが望ましい。
【0031】
これと併せて又はこれとは別に、認識領域32のサイズに関する認識条件を含んでもよい。具体的には、所定のサイズCSよりも大きい面積を有する領域を認識領域32として抽出してもよい。その理由は、水滴やコインなどより十分に小さい領域内では、上述した電子機器10の操作上の問題が発生し得ないためである。なお、領域の面積は、例えば、信号レベルの絶対値が閾値を上回り、かつ互いに隣り合ってクラスターをなすデータ点の個数により求めることができる。
【0032】
図7Bは、異物C1の認識結果の一例を示す図である。二次元データ30は、予め定められた矩形状の全体領域(0≦X≦Xo,0≦Y≦Yo)内で定義される。ハッチングで示す閉領域は、異物C1の認識領域32に相当する。また、破線で囲む領域は、認識領域32そのもの、あるいは認識領域32の近傍をさらに含む異物存在領域34(異物C1が存在する領域)に相当する。一方、全体領域から異物存在領域34を除いた残り領域は、異物C1が存在しない通常検出領域36に相当する。
【0033】
図6のステップS3において、位置検出回路18は、二次元データ30上の異物C1(コインパターン)を認識しなかった場合(ステップS3;NO)、通常モードのタッチ検出処理を実行する(ステップS4)。この通常モードでは、タッチセンサ16の全体領域において、通常のタッチ判定条件に基づいてタッチ位置又はタッチ領域を検出する。具体的には、[A]指14がタッチ面24上に接触しているか否かを判定する指判定、[B]隣り合うタッチ領域が同一の連続体による接触(いわゆる、シングルタッチ)又は別個の連続体による同時接触(いわゆる、マルチタッチ)であるかを判定する同一物体判定、並びに、[C]手の平(パーム)がタッチ面24上に接触しているか否かを判定するパーム判定が実行される。
【0034】
「指判定」では、二次元データ30が示す検出値が閾値T1(検出閾値)よりも大きいタッチ領域を抽出し、当該タッチ領域の代表点(例えば、重心位置)を指14による指示位置として検出する。「同一物体判定」では、二次元データ30が示す検出値が閾値T1よりも大きいタッチ領域を抽出し、隣り合うタッチ領域間における検出値の変化量を示す指標が閾値L1(変化量閾値)よりも小さい場合に、両者のタッチ領域が単一の領域であるとみなして検出する。「パーム判定」では、二次元データ30が示す検出値が閾値T1よりも大きいタッチ領域を抽出し、当該タッチ領域のサイズを示す指標が閾値S1(サイズ閾値)よりも大きい場合に、ユーザが意図しない指示とみなしてタッチ領域から除外する。
【0035】
一方、ステップS3に戻って、位置検出回路18は、二次元データ30上の異物C1を少なくとも1つ認識した場合(ステップS3;YES)、コインモードのタッチ検出処理を実行する(ステップS5)。このコインモードでは、異物存在領域34の外側と内側とはタッチ判定条件を異ならせて、二次元データ30上のタッチ位置又はタッチ領域を検出する処理を行う。
【0036】
ここで「異なるタッチ判定条件」とは、例えば、[1]判定処理に用いられるパラメータ(例えば、閾値)が異なる場合、[2]判定処理に用いられる指標の算出方法が異なる場合、[3]複数の判定条件の組み合わせ・条件数が異なる場合、又は[4]上記した[1]~[3]の組み合わせ、が挙げられる。以下、ステップS5で実行されるコインモードのタッチ検出処理の一例について、図8のフローチャート及び図9図11を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
まず、図8のステップS51において、位置検出回路18は、通常モードで用いられる閾値T1よりも小さい閾値T2を用いて「指判定」を行う。図3A及び図5Aの関係から理解されるように、異物C1の介在に起因して、指14の接触を検出する正の信号レベルPvが相対的に低下する傾向がある。そこで、コインモードでは、閾値T1に代えて閾値T2を用いることで、タッチの検出感度を上げておく。これにより、図9に示すように、異物C1が介在する場合であっても指14のタッチを検出することができる。
【0038】
次に、ステップS52において、位置検出回路18は、通常モードで用いられる閾値L1よりも大きい閾値L2を用いて「同一物体判定」を行う。図3A及び図5Aの関係から理解されるように、異物C1の介在に起因して、正の信号レベルPvが現われる範囲が相対的に広くなり、その分だけ不連続性を検出しやすい傾向がある。そこで、コインモードでは、閾値L1に代えて閾値L2を用いることで、不連続性の検出感度を下げておく。これにより、図10に示すように、指14が異物C1に接触している状態であっても、異物C1を同一物体として検出することができる。
【0039】
次に、ステップS53において、位置検出回路18は、通常モードで用いられる閾値S1よりも大きい閾値S2を用いて「パーム判定」を行う。例えば、パーム判定によりコインパターンが検出された場合、当該コインパターンがタッチ領域から除外されてしまうので、指14によるタッチ操作が無効化されやすくなる。特に、流動性が高い異物C1(例えば、水滴など)の場合にその影響が大きくなる。そこで、コインモードでは、閾値S1に代えて閾値S2を用いることで、パーム領域の検出感度を下げておく。これにより、図11に示すように、異物C1が介在する場合であっても指14によるタッチ操作の無効化が抑制される。
【0040】
最後に、ステップS54において、位置検出回路18は、ステップS51~S53での判定結果に応じて、異物存在領域34内におけるタッチ位置(座標値)を出力する。
【0041】
[位置検出回路18による効果]
以上のように、この位置検出回路18は、複数本のライン電極16x,16yを二次元的に配置してなる静電容量方式のタッチセンサ16に接続される回路であって、タッチセンサ16上の静電容量に関する検出値の分布を示す二次元データ30を取得する取得ステップ(S1)と、取得された二次元データ30に基づいてタッチセンサ16の上方にある導電性の異物C1,C2を認識する認識ステップ(S2)と、認識された異物C1,C2が存在する異物存在領域34の外側と内側とはタッチ検出条件を異ならせて、二次元データ30に基づいてタッチセンサ16上のタッチ位置又はタッチ領域を検出する検出ステップ(S4,S5)と、を実行する。
【0042】
このように構成したので、タッチセンサ16の上方(タッチ面24の上)に異物C1,C2が存在する場合であっても、より柔軟な位置検出を行うことができる。例えば、異物存在領域34及び通常検出領域36に対してそれぞれ適切なタッチ検出条件を設けることで、異物C1,C2の有無を意識することなく同等の位置検出が行われる。
【0043】
また、この検出ステップでは、二次元データ30が示す検出値が閾値(T1,T2)よりも大きい位置又は領域をタッチ位置又はタッチ領域として検出するタッチ検出条件を用いる場合、異物存在領域34の外側では閾値(T1)を相対的に大きくする一方、異物存在領域34の内側では閾値(T2)を相対的に小さくしてもよい。異物存在領域34内におけるタッチの検出感度を相対的に上げることで、異物C1,C2上からのタッチを検出しやすくなる。
【0044】
また、この検出ステップでは、隣り合うタッチ領域間における検出値の変化量が閾値(L1,L2)よりも小さい場合に単一のタッチ領域として検出するタッチ検出条件を用いる場合、異物存在領域34の外側では閾値(L1)を相対的に小さくする一方、異物存在領域34の内側では閾値(L2)を相対的に大きくしてもよい。異物存在領域34内における不連続性の検出感度を相対的に下げることで、異物C1,C2を同一物体として検出しやすくなる。
【0045】
また、この検出ステップでは、検出された領域のサイズが閾値(S1,S2)よりも大きい場合にタッチ領域から除外するタッチ検出条件を用いる場合、異物存在領域34の外側では閾値(S1)を相対的に小さくする一方、異物存在領域34の内側では閾値(S2)を相対的に大きくしてもよい。除外対象となるタッチ領域(つまり、パーム領域)の検出感度を相対的に下げることで、異物C1,C2が介在する場合であってもタッチ操作の無効化が抑制されやすくなる。
【0046】
また、この認識ステップでは、二次元データ30が示す検出値の分布の中に正の信号レベルと負の信号レベルが混在する領域がある場合に異物C1,C2を認識してもよい。図4A及び図4Bに示す静電容量の検出傾向を考慮することで、異物C1,C2の認識精度が向上する。
【符号の説明】
【0047】
10 電子機器、12 電子ペン、14 指、16 タッチセンサ、16x(16y) ライン電極、18 位置検出回路、20 ホストプロセッサ、30 二次元データ、32 認識領域、34 異物存在領域、36 通常検出領域、T1,T2,L1,L2,S1,S2 閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11