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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】熱処理方法及び熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20221101BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20221101BHJP
   F27B 9/02 20060101ALI20221101BHJP
   F27B 9/12 20060101ALI20221101BHJP
   F27D 15/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/18 C
F27B9/02
F27B9/12
F27D15/02 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018538676
(86)(22)【出願日】2017-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2017051510
(87)【国際公開番号】W WO2017129602
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】102016201025.5
(32)【優先日】2016-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】315015977
【氏名又は名称】シュヴァルツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ライナルツ,アンドレアス
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】粟野 正明
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/137308(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/150683(WO,A1)
【文献】特開2015-94005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D9/00-9/44
C21D1/00-1/84
B21D22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材(200)の個々の領域を特に対象とする鋼部材の熱処理方法であって、前記鋼部材(200)の、一つ又は複数の第1領域(210)において、オーステナイト組織を設け、一つ又は複数の第2領域(220)において、フェライト・パーライト組織を設ける、鋼部材の熱処理方法であって、
前記鋼部材(200)は、まず、第1炉(110)において、Ac3温度より低い温度まで加熱され、その後、該鋼部材(200)は処理ステーション(150)への移送中に冷却されながら移送され、前記処理ステーション(150)では、前記鋼部材(200)の前記一つ又は複数の第2領域(220)が滞留時間t150内に最終冷却温度θSまで冷却された後、第2炉(130)へと移送され、該一つ又は複数の第2領域(220)の温度が滞留時間t130中に、前記第2炉(130)内において、前記Ac3温度より低い温度まで再び上昇する一方、該一つ又は複数の前記第1領域(210)の温度が同じ前記滞留時間t130中に、前記第2炉(130)において、前記Ac3温度より高い温度まで加熱されるように、前記鋼部材(200)が前記滞留時間t130中は前記第2炉(130)内に留まり、熱が前記鋼部材(200)全体に伝達され、前記第1炉(110)及び前記第2炉(130)は、それぞれ連続加熱炉又はバッチ炉であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2炉(130)の熱供給は、熱放射を介して行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理ステーション(150)において、滞留時間t150の間、前記鋼部材(200)の一つ又は複数の前記第2領域(220)にガス状流体を吹き付けることにより冷却処理が行われる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス状流体には水が含まれる、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼部材(200)の一つ又は複数の前記第2領域(220)の冷却処理は、熱伝導により滞留時間t150内で前記処理ステーション(150)において行われる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼部材(200)の一つ又は複数の前記第2領域(220)は、滞留時間t150内で前記処理ステーション(150)において金型と接触することで冷却処理が行われ、前記金型の温度は、一つ又は複数の前記第2領域(220)よりも低い、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2炉(130)の内部温度θ4は、前記Ac3温度よりも高い、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材の個々の領域を特に対象とする鋼部材の熱処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
技術分野において、様々な部門における数多くの用途で、高強度かつ低重量の板金部材が望まれている。例えば、自動車産業では、自動車の燃料消費の削減やCO排出の削減と同時に、乗客の安全性の向上への試みが行われている。従って、好適な強度対重量比を有する車体部品に対する要望が急速に高まっている。このような部品には、特に、フロント・ピラー、センター・ピラー、ドアの側面衝突保護ビーム、シル、フレーム部品、バンパー、フロア及びルーフ用クロスメンバ、前側及び後側サイドメンバが含まれる。現代の自動車では、安全ケージを備えた車体シェルは、通常、約1,500MPaの強度を有する硬化鋼板から構成されている。ここでは、Al-Siめっき鋼板が多くの場合に用いられている。硬化鋼板の部品を製造するために、いわゆるプレス硬化処理が開発された。この処理では、鋼板は、まず、オーステナイト温度まで加熱され、その後、プレスツールに配置されて、急速成形され、水冷ツールでマルテンサイト開始温度未満まで焼き入れが急速に行われる。こうして、約1,500MPaの強度を有する硬質かつ強固なマルテンサイト組織が製造される。しかしながら、このような硬化鋼板は、破断伸度が低いため、衝突の運動エネルギーを変形熱へと適切に変換することができない。
【0003】
従って、自動車産業としては、一方では、強固になる傾向がある領域(以下、第1領域と呼ぶ)と、他方では、延性を有する傾向がある領域(以下、第2領域と呼ぶ)とが一つの部材内に存在するように、該部材内に伸度及び強度が異なる複数の部分を有する車体部品を製造できることが望ましい。一方では、機械的負荷容量が高く低重量の部品を得るためには、原則として高強度の部品が望ましい。他方では、高強度の部品であっても、部分的に軟質な領域を有することができるべきである。これによって、望ましい部分的に衝突時変形性を強化することができる。こうして、衝突の運動エネルギーを消散させて、乗客及び車両の他の部分に掛かる加速力を最小限に抑えることができる。また、現代の接合処理では、同一種類の材料又は異なる材料の接合を可能にする軟化点が求められている。例えば、シーム継ぎ目、圧着接合部、リベット継ぎ手を使用しなければならない場合が多く、部品に変形可能な領域が必要となる。
【0004】
これに関し、製造施設に対する一般的な要望も存在しており、プレス硬化工場ではサイクル時間の損失がなく、施設全体が概ね制限なく使用可能であり、製品ごとに迅速に変更可能であるという要望がある。ロバストで経済的な処理が求められ、製造施設は最小限のスペースのみを必要とすべきである。部品の形状や縁取りには高い精度が求められる。
【0005】
すべての既知の方法では、部品に対する目的の熱処理が時間集約的処理工程で行われ、熱処理装置全体のサイクル時間に大きな影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、鋼部材の個々の領域を特に対象とする鋼部材の熱処理方法及び装置であって、硬度と延性が異なる領域が得られ、熱処理装置全体のサイクル時間への影響を最小限に抑える熱処理方法及び装置を特定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この目的は、独立請求項1の特徴を有する方法によって達成される。この方法の有利な発展形態が従属請求項2乃至5から生じる。さらに、この目的は、請求項8に記載の装置によっても達成される。この装置の有利な実施例が従属請求項6乃至15から生じる。
【0008】
鋼部材は、まず、オーステナイト温度Ac3未満に加熱される。その後、鋼部材は、処理ステーションに移送される。ここで、一つ又は複数の第2領域は、処理時間t内にできるだけ迅速に冷却される。この熱処理装置の好適な実施例において、上記処理ステーションは位置決め装置を備え、それによって個々の領域の正確な位置決めが保証される。上記方法の好適な実施例では、一つ又は複数の第2領域の急速冷却はガス状流体、例えば、空気や不活性ガスを吹き付けることによって行われる。このため、好ましい実施例では、処理ステーションに一つ又は複数の第2領域への吹き付けを行う装置が備えられている。この装置は、例えば、一つ又は複数のノズルを備えることができる。上記方法の好ましい実施例では、一つ又は複数の第2領域への吹き付けは、例えば、霧状の水が添加されたガス状流体が吹き付けられる。この目的のために、一つの好ましい実施例では、上記装置に一つ又は複数の噴霧ノズルが備えられている。水が添加されたガス状流体を吹き付けることで、一つ又は複数の第2領域からの熱放散が増大する。上記処理時間tが終了すると、一つ又は複数の第2領域が最終冷却温度θに到達する。この処理時間tは、通常、数秒の範囲である。この場合、一つ又は複数の第2領域は、マルテンサイト開始温度Mを大きく下回る温度にさえ冷却可能である。このマルテンサイト開始温度Mは、例えば、よく使われる車体構造用鋼22MnB5では、約410度である。上記処理ステーションでは、一つ又は複数の第1領域に対して特別な処理は行われない、すなわち、他の特別な手段で吹き付けや加熱や冷却が行われることはない。一つ又は複数の第1領域は、処理ステーションにおいて、例えば、自然対流によってゆっくりと冷却する。処理ステーションにおいて、一つ又は複数の第1領域の熱損失を抑える手段を講じると有利なことが証明されている。そのような手段としては、例えば、一つ又は複数の第1領域の部分に熱放射反射器を取り付けたり、及び/又は、処理ステーションの表面に断熱処理を施したりすることが挙げられる。
【0009】
その後、すなわち、上記処理時間tが終了すると、鋼部材は、第2炉に移送される。この第2炉では、鋼部材全体の加熱が行われる。この加熱は、例えば、熱放射によって行うことができる。ここで、鋼部材は、一つ又は複数の第1領域の温度がAc3温度より高い温度に上昇するよう測定された滞留時間t130中は第2炉に留まる。前述の方法工程後の一つ又は複数の第2領域の温度は、上記滞留時間t130の開始時では、一つ又は複数の第1領域よりもはるかに低いため、第2炉における滞留時間t130の終了時にAc3温度に達することはない。その後、鋼部材はプレス硬化ツールに移送可能であり、そこで一つ又は複数の第1領域は完全にオーステナイト化されるが、一つ又は複数の第2領域はオーステナイト化されない。これにより、それに続くプレス硬化処理における焼き入れによって、一つ又は複数の第1領域は、高い強度値を有するマルテンサイト組織を形成する。この方法では、一つ又は複数の第2領域は、どの時点においてもオーステナイト化が行われなかったので、プレス硬化工程後の強度値が低く、延性が高いフェライト・パーライト組織を有することになる。
【0010】
本発明によれば、上記部材は、それぞれの領域の正確な位置決めを保証する位置決め装置を備えることもできる処理ステーションにおいて数秒後に第2炉へと搬送され、この第2炉は、個々の領域に対してさまざまな処理を行うための特別な装置を備えていないことが好ましい。一実施例では、オーステナイト化温度Ac3より高い炉温θ、すなわち、炉内部空間全体でほぼ均一な温度にしか設定されてない。これらの個々の領域については、はっきりと境界を画定することができ、これらの2つの領域間の温度差が小さいことによって、鋼部材の歪みが最小限に抑えられる。この部材の温度レベルがわずかに広がることにより、プレス機におけるさらなる処理において有利な効果が得られる。
【0011】
一実施例では、上記第1炉として連続加熱炉を備えることが好ましい。連続加熱炉は、通常、容量が大きく、高い費用をかけなくても充電や運転が行えるため、特に大量生産に適している。一方、第1炉としては、バッチ炉、例えば、チャンバ炉を用いることもできる。
【0012】
一実施例では、第2炉が連続加熱炉であることが好ましい。
【0013】
第1炉及び第2炉の両方が連続加熱炉として構成される場合、この一つ又は複数の第1及び第2領域に必要な滞留時間は、搬送速度の設定や各炉の長さ設計を行うことにより、部材の長さに応じて実現可能である。このように、熱処理装置や後続のプレス硬化を行うためのプレス機を用いることで、製造ライン全体のサイクル時間に及ぼす影響を回避することが可能である。
【0014】
他の実施例では、上記第2炉は、バッチ炉、例えば、チャンバ炉である。
【0015】
好適な実施例では、処理ステーションは、鋼部材の一つ又は複数の第2領域を急速冷却する装置を備えている。一つの好ましい実施例では、上記装置は、ガス状流体、例えば、窒素など、空気や不活性ガスを鋼部材の一つ又は複数の第2領域へ吹き付けるノズルを備えている。この目的のために、好ましい実施例において、上記装置は一つ又は複数の噴霧ノズルを備えている。水が添加されたガス状流体を吹き付けることで、一つ又は複数の第2領域からの熱放散が増大する。
【0016】
他の実施例では、一つ又は複数の第2領域の冷却は、熱伝導により、例えば、鋼部材よりも温度がはるかに低い一つ又は複数の金型と接触させることにより行われる。この金型は、このために十分な熱伝導性を有する材料からの製造、及び/又は、直接的又は間接的な冷却が可能である。冷却方式を組み合わせることも考えられる。
【0017】
本発明に係る方法及び本発明に係る熱処理装置を用いることで、複雑な方法で形成することも可能な一つ又は複数の第1領域及び/又は第2領域をそれぞれ有する鋼部材は、各領域をぴったり合ったやり方で非常に迅速に必要な処理温度にすることができるので、対応する温度プロファイルを経済的に得ることが可能である。
【0018】
本発明によれば、図示の方法と本発明に係る熱処理装置を用いることで、第2領域の数をほぼどんな数にも設定することができる。この方法の実施時は、一つ又は複数の第2領域にはオーステナイト化が行われず、プレス処理後でも未処理の鋼部材の元の強度と同様に低い強度値を有することになる。サブ領域に選択される形状も、自由に選択可能である。例えば、大型の領域のように、点状又は線状領域を形成することができる。これらの領域の位置も無関係である。第2領域は、第1領域に完全に含まれていても、鋼部材の端部に配置されていてもよい。また、全表面処理も考えられる。スループット方向に対する鋼部材の特定の配向は、鋼部材の個々の領域を特に対象とする鋼部材の熱処理を行う本発明に係る方法の目的には必要ではない。同時に、処理が行われる鋼部材の個数の制限は、全体として熱処理装置のプレス硬化ツールやコンベヤ技術によって最大に設定される。同様に、本発明の方法をあらかじめ形成された鋼部材に適用することも可能である。あらかじめ形成された鋼部材の3次元成形表面が原因で、設計に高い費用をかけても、対向面の形成しか行えない。
【0019】
さらに、既存の熱処理施設でも本発明に係る方法に適応可能であることが好ましい。このためには、炉を一つだけ備えた従来の熱処理装置の場合、処理ステーションと第2炉をこの後方に設置するだけでよい。既存の炉の構成によっては、この元の一つの炉から第1及び第2炉を形成するよう分割することも可能である。
【0020】
本発明のさらなる利点、特別な特徴及び適切な発展形態は、従属する請求項及び図を参照する以下の好適な実施例の提示によって示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1領域及び第2領域を有する鋼部材の熱処理における典型的な温度曲線を示す図である。
図2】本発明に係る熱処理装置を上から見た概略図である。
図3】本発明に係る別の熱処理装置を上から見た概略図である。
図4】本発明に係る別の熱処理装置を上から見た概略図である。
図5】本発明に係る別の熱処理装置を上から見た概略図である。
図6】本発明に係る別の熱処理装置を上から見た概略図である。
図7】本発明に係る別の熱処理装置を上から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の方法に係る第1領域210及び第2領域220を有する鋼部材200の熱処理における典型的な温度曲線を示す図である。この鋼部材200は、第1炉110における滞留時間t110中に、概略的に描かれた温度曲線θ200,110に従って第1炉でAc3温度より低い温度まで加熱される。そして、鋼部材200は、移送時間t120中に処理ステーション150へ移送され、この間も鋼部材は熱を失う。この処理ステーションでは、鋼部材200の第2領域220が急速に冷却され、この第2領域220は、引き込み曲線θ220,150に従って熱を失う。鋼部材200の厚さや第2領域220の大きさに応じたほんの数秒である処理時間tの終了時に吹き付けが終了する。第1の近似では、処理ステーション150において、処理時間tがここでは滞留時間t150と等しい。この時点で第2領域220が最終冷却温度θに達する。同時に、第1領域210の温度が、処理ステーション150において、引き込み曲線θ210,150に従って低下する。この第1領域210は、冷却装置の領域に位置していない。処理時間tが終了すると、鋼部材200は、移送時間t121の間に第2炉130へと移送され、そこでさらに熱を失う。この第2炉130では、鋼部材200の第1領域210の温度が、滞留時間t130中に概略的な引き込み温度曲線θ210,130に従って変化する、すなわち、鋼部材200の第1領域210の温度がAc3温度より高い温度まで加熱される。また、鋼部材200の第2領域220の温度も、Ac3温度には達することなく、滞留時間t130中に引き込み温度曲線θ220,130に従って上昇する。この第2炉130は、個々の領域210、220のさまざまな処理に対して特別な装置を備えていない。オーステナイト化温度Ac3より高い炉温θ、すなわち、第2炉130の内部空間全体でほぼ均一な温度θのみが設定される。この一つ又は複数の第2領域の温度は、第2炉130において、滞留時間t130の始めには一つ又は複数の第1領域よりもはるかに低く、この第2炉130では両領域が同様に加熱されるため、滞留時間t130の終わりには、両者が同様に異なる温度を有することになる。第2炉130における鋼部材200の滞留時間t130は、上記一つ又は複数の第1領域が滞留時間t130の終了時にAc3温度より高い温度を有するよう測定が行われるが、この時点で一つ又は複数の第2領域はまだAc3温度に達していない。
【0023】
その後、上記鋼部材は、移送時間t131の間に、図示しないプレス機に設置されたプレス硬化ツール160へと移送可能となる。鋼部材200は、この移送時間t131中にも同様に熱を失い、上記一つ又は複数の第1領域の温度もAc3温度より低い温度に低下する。しかしながら、この又はこれらの領域は、第2炉130を出る際、ほぼ完全にオーステナイト化される。これにより、プレス硬化ツール160における滞留時間t160中の焼き入れによって、硬質のマルテンサイト組織へと変態を遂げる。
【0024】
これらの個々の領域210、220については、これらの2つの領域210、220間ではっきりと境界を画定することができ、温度差が小さいため、鋼部材200の歪みが最小限に抑えられる。鋼部材200の温度レベルがわずかに広がることにより、プレス硬化ツール160におけるさらなる処理において有利な効果が得られる。第2炉130において鋼部材200が必要な滞留時間t130は、搬送速度の設定及び第2炉130の長さ設計を行うことにより、鋼部材200の長さに応じて実現可能である。このように、熱処理装置100のサイクル時間に及ぼす影響が最小限に抑えられ、完全に回避することさえ可能である。
【0025】
図2は、本発明に係る熱処理装置100を90度配置で示す図である。この熱処理装置100は、装填ステーション101を備え、それを介して第1炉110に鋼部材が供給される。また、熱処理装置100には、その後方に処理ステーション150と第2炉130が主スループット方向Dに配置されている。さらにその主スループット方向Dにおける後方には、位置決め装置(図示せず)を備えた除去ステーション131が配置されている。そして、鋼部材200のプレス硬化を行うプレス機(図示せず)内のプレス硬化ツール160がその後に続くように主スループット方向Dがほぼ90度に曲がっている。第1炉110及び第2炉130の軸方向には、容器161が配置され、その中に不良部品が送られる。第1炉110及び第2炉130は、連続加熱炉、例えば、ローラー炉床炉としてこのように配置されることが好ましい。
【0026】
図3は、本発明に係る熱処理装置100を直線配置で示す図である。この熱処理装置100は、装填ステーション101を備え、それを介して第1炉110に鋼部材が供給される。また、熱処理装置100は、処理ステーション150も備え、その主スループット方向Dにおける後方に第2炉130が配置されている。さらにその主スループット方向Dにおける後方には、位置決め装置(図示せず)を備えた除去ステーション131が配置されている。また、引き続き直線状に伸びる主スループット方向Dにおいて、鋼部材200のプレス硬化を行うプレス機(図示せず)内のプレス硬化ツール160がその後続いて配置される。そして、容器161が上記除去ステーション131に対してほぼ90度に配置され、その中に不良部品が送られる。第1炉110及び第2炉130は、同様に、連続加熱炉、例えば、ローラー炉床炉としてこのように配置されることが好ましい。
【0027】
図4は、本発明に係る熱処理装置100の別の変形例を示す図である。ここでも同様に、熱処理装置100は、装填ステーション101を備え、それを介して第1炉110に鋼部材が供給される。この第1炉110は、この実施例でも同様に、連続加熱炉として形成されることが好ましい。また、熱処理装置100は、処理ステーション150も備えており、この処理ステーション150は、本実施例では、除去ステーション131と合体している。この除去ステーション131は、例えば、グリッパ装置(図示せず)を備えることもできる。除去ステーション131は、例えば、そのグリッパ装置によって、第1炉110から鋼部材200の除去を行う。一つ又は複数の第2領域220の冷却処理を含む熱処理が行われ、第1炉110の軸に対してほぼ90度に配置された第2炉130へと一つ又は複数の鋼部材200が投入される。この第2炉130は、本実施例では、例えば、いくつかのチャンバを有するチャンバ炉として設けられることが好ましい。第2炉130において鋼部材200の滞留時間t130が終了すると、この鋼部材200は、除去ステーション131を介して第2炉130から除去され、反対側に位置するプレス機(図示せず)に組み込まれたプレス硬化ツール160へと投入される。除去ステーション131には、このための位置決め装置(図示せず)が備えられていてもよい。第1炉110の軸方向において、除去ステーション131の後方に容器161が配置され、その中に不良部品を送ることができる。本実施例では、主スループット方向Dがほぼ90度の偏向を示す。本実施例では、処理ステーション150のための第2の位置決めシステムを必要としない。また、本実施例は、例えば、製造ホールにおいて、第1炉110の軸方向に十分な空間が確保されていない場合に有利である。本実施例でも、除去ステーション131と第2炉130との間で鋼部材200の第2領域220の冷却処理を行うことができるため、固定式の処理ステーション150を必要としない。例えば、冷却装置、例えば、吹き付けノズルを上記グリッパ装置に組み込むこともできる。除去装置131は、第1炉110から第2炉130へ、そしてさらにプレス硬化ツール160又は容器161への鋼部材200の移送を管理する。
【0028】
本実施例では、図5からも分かるように、プレス硬化ツール160と容器161の位置を入れ替えることもできる。本実施例では、主スループット方向Dがほぼ90度の2つの偏向を示す。
【0029】
熱処理装置の設置スペースが限られている場合、図6に示す、図4に示す実施例と比べて第2炉130が第1炉110上方の第2レベルに移動されている熱処理装置が提案される。本実施例でも、除去ステーション131と第2炉130との間で鋼部材200の第2領域220の冷却処理を行うことができるため、固定式の処理ステーション150を必要としない。同様に、第1炉110を連続加熱炉として、第2炉130を場合によってはいくつかのチャンバを有するチャンバ炉として設けることが好ましい。
【0030】
最後に、本発明の熱処理装置の最後の実施例を図7に概略的に示す。図6に示す実施例と比較して、プレス硬化ツール160と容器161の位置が入れ替わっている。
【0031】
ここで示す実施例は、単に本発明の例を示すものにすぎず、限定的に理解すべきものではない。当業者によって考慮される他の実施例も同様に本発明の保護の範囲に包含されるものとする
【符号の説明】
【0032】
100 熱処理装置
110 第1炉
130 第2炉
131 除去ステーション
135 除去ステーション
150 処理ステーション
152 点状赤外線ラジエータ
153 発熱パネル
160 プレス硬化ツール
161 容器
200 鋼部材
210 第1領域
220 第2領域
D 主スループット方向
Ms マルテンサイト開始温度
処理時間
110 第1炉での滞留時間
120 鋼部材の処理ステーションへの移送時間
121 鋼部材の第2炉への移送時間
130 第2炉での滞留時間
131 鋼部材のプレス硬化ツールへの移送時間
150 処理ステーションでの滞留時間
160 プレス硬化ツールでの滞留時間
θ 最終冷却温度
θ 第1炉の内部温度
θ 第2炉の内部温度
θ200,110 第1炉における鋼部材の温度曲線
θ210,150 処理ステーションにおける金属部材の第1領域の温度曲線
θ220,150 処理ステーションにおける鋼部材の第2領域の温度曲線
θ210,130 第2炉における鋼部材の第1領域の温度曲線
θ220,130 第2炉における鋼部材の第2領域の温度曲線
θ200,160 プレス硬化ツールにおける鋼部材の温度曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7