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  • 特許-靴、特に運動靴を製造する方法 図1
  • 特許-靴、特に運動靴を製造する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】靴、特に運動靴を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A43D 1/02 20060101AFI20221101BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20221101BHJP
   B29D 35/02 20100101ALI20221101BHJP
【FI】
A43D1/02
B29C45/00
B29D35/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018540743
(86)(22)【出願日】2016-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2016000297
(87)【国際公開番号】W WO2017140328
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2018-09-13
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】511264353
【氏名又は名称】プーマ エス イー
【氏名又は名称原語表記】PUMA SE
【住所又は居所原語表記】Puma Way 1,91074 Herzogenaurach Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ハートマン、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ススマン、ラインホルト
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】田合 弘幸
【審判官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501114(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0031531(US,A1)
【文献】特開昭60-189410(JP,A)
【文献】特開2008-132008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0264997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43D 1/02
B29C 45/00
B29D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴(1)、特に、運動靴を製造する方法であって、
a)測定デバイス(2)によって、人の足の少なくとも1つの個々の特性、および/または前記人の1つの歩行特性を測定するステップと、
b)指定されたアルゴリズムまたは指定された規則を使用してステップa)に準じて測定された値に従って、前記靴(1)の少なくとも1つのソール(3)または1つのソール部分の材料特性および/または機械特性の、前記ソール(3)または前記ソール部分の少なくとも1つの伸張方向(L)に沿った特性値を求めるステップと、
c)前記靴(1)の前記ソール(3)またはソール部分を製造するステップであって、前記材料特性および/または機械特性がステップb)に従って求められた前記特性値にほぼ対応するように、前記材料特性および/または機械特性は、前記ソール(3)または前記ソール部分の前記少なくとも1つの伸張方向(L)に沿って変えられる、製造するステップと、
d)前記靴(1)を完成させるために、ステップc)に従って製造された前記ソール(3)または前記ソール部分をアッパー(4)に連結するステップと、を含み、
ステップc)による製造が、複数のミキシングヘッド(7)を介して射出成形型の空洞内に成形型の異なる場所においてプラスチック材料を注入することによって行われ、前記ソール(3)または前記ソール部分の製造時に前記ソール(3)または前記ソール部分の基材(A、B)に、少なくとも1つの添加剤(C)が部分的に異なる量で付加され、不均一な構造が得られるように前記ソール(3)または前記ソール部分の射出成形プロセスを制御するために、前記基材(A、B)および前記少なくとも1つの添加剤(C)は前記ミキシングヘッド(7)において混合され、添加剤(C)の付加の制御は、前記空洞内に注入される前記プラスチック材料の流動作用の数値的な溶融流解析によって行われることにより、前記空洞を完全に充填した後の異なる性質を有する前記プラスチック材料の分布が前記空洞内にもたらされることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステップa)による測定は、人の足に生じる圧力分布を測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定は圧力センサプレート(2)によって行われることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載のステップa)による測定は、前記人の走行時の挙動、とりわけ、前記足の回内運動または回外運動に対する傾向を判断することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記測定は、カメラおよびトレッドミルによって行われることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ソール(3)または前記ソール部分の前記基材(A、B)はポリウレタンであることを特徴とする、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ソール(3)または前記ソール部分の少なくとも1つの伸張方向(L)に沿って修正される前記材料特性は、硬度、とりわけショアー硬度であることを特徴とする、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
製造された前記ソール部分は前記靴(1)のミッドソールであることを特徴とする、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記製造されたソール部分は前記靴(1)のアウトソールであることを特徴とする、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ソール(3)は、請求項1に記載のステップd)による連結時に前記アッパー(4)と縫製および/または接着されることを特徴とする、請求項1~9のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載のステップa)~d)は、地域に密着して、とりわけ、靴屋で行われることを特徴とする、請求項1~10のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のステップa)~d)は、時間に厳密に、とりわけ、最大3時間以内で行われることを特徴とする、請求項1~11のうちいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴、特に、運動靴を製造する方法であって、
a)測定デバイスによって、人の足の少なくとも1つの個々の特性、および/または人の1つの歩行特性を測定するステップと、
b)指定されたアルゴリズムまたは指定された規則を使用してステップa)に準じて測定された値に従って、靴の少なくとも1つのソールまたは1つのソール部分の材料特性および/または機械特性の、ソールまたはソール部分の少なくとも1つの伸張方向に沿った特性値を求めるステップと、
c)靴のソールまたはソール部分を製造するステップであって、材料特性および/または機械特性がステップb)に従って求められた特性値に少なくともほぼ対応するように、材料特性および/または機械特性は、ソールまたはソール部分の少なくとも1つの伸張方向に沿って変えられる、製造するステップと、
d)靴を完成させるために、ステップc)に従って製造されたソールまたはソール部分をアッパーに連結するステップと、を含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
靴、特に、運動靴の典型的な製造方法が知られている。大部分は、場合によっては、いくつかの部分(アウターソール、ミッドソール、インナーソール)から成る、靴底が製造されるが、これは、適したプラスチック材料の射出成形によって生じさせることが多い。次いで、アッパーが製造され、この場合、皮革または織物材料が利用可能である。靴を仕上げるために、ソールおよびアッパーは、例えば、縫製または接着によって互いに連結される。
【0003】
それによって、所定の場合に、靴の使用者の個々の要件も考慮可能であり、特注製作を行うことができる。しかしながら、これには通常、高費用を要するが、これは、対応する靴の専門技術者の作業にかなりの金額を要するからである。
【0004】
一般的な種類による方法は特許文献1から既知である。同様の方法は、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/126111号
【文献】独国特許出願公開第102012017882号
【文献】米国特許出願公開第2014/0182170号
【文献】国際公開第2010/037028号
【文献】米国特許出願公開第2011/283560号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡易で費用効率の高いやり方で最適に合わせた靴を提供することが可能となるように、上述された種類の方法をさらに発展させることである。それによって、靴は、迅速に、ひいては費用効率良く製造可能とするが、使用者の個々の要件を満たすものとする。靴の製造における専門技術者の作業は、縮小されるまたは完全に回避されるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のこの目的の解決策は、上記ステップc)による製造が、射出成形型の空洞内にプラスチック材料を注入することによって行われ、この場合、ソールまたはソール部分の製造時にソールまたはソール部分の基材に、少なくとも1つの添加剤が部分的に異なる量で付加されることを特徴とする。
【0008】
上記ステップa)による測定は、好ましくは、人の足の圧力分布を、地面における足の接触面積に従って求めることによって行われ、この測定は、この場合、好ましくは圧力センサプレートによって行われる。
【0009】
上記ステップa)による測定は、人の走行時の挙動、とりわけ、足の回内運動または回外運動に対する傾向を求めることによる別の好ましい解決策に従って行われる。該測定は、この場合、好ましくは、カメラおよびトレッドミルによって行われる。
【0010】
上記ステップb)による判断は、好ましくは、ソールの縦軸に沿った材料特性および/または機械特性の特性値を求めることによって行われる。しかしながら、有益には、ソールの縦軸を横断するように及ぶ軸に沿った材料特性および/または機械特性の特性値が求められるようにすることもできる。具体的には、両方の述べられたアプローチの組み合わせが好ましく、これによって、上記の、材料特性および/または機械特性の特性値は、着用者の足が地面に接触する平面に沿って生じる。
【0011】
それによって、特別な実施形態では、ソールまたはソール部分の基材はポリウレタンであるようにする。そして、添加剤を付加することによって、ポリウレタンの材料特性および/または機械特性は修正されることで、選択的に制御可能である。それによって、現状技術では、添加剤が、とりわけ、例えばポリウレタンの硬度に影響を与えるのに適していることは、周知である。
【0012】
ソールまたはソール部分の少なくとも1つの伸張方向に沿って修正される材料特性は、好ましくは、材料の硬度、とりわけショアー硬度である。
【0013】
製造されたソール部分は好ましくは、靴のミッドソール、および/または靴のアウトソールである。
【0014】
ソールは、上記ステップd)による連結時にアッパーと縫製および/または接着可能である。
【0015】
提案された方法は、好ましくは、時間および地域に焦点を合わせた靴の製造を可能にする総合設備で実施される時に有益である。それゆえに、上記ステップa)~d)は、地域に密着して、とりわけ、靴屋で行われ得る。ステップa)~d)はまた、時間に厳密に、とりわけ、最大3時間以内で行われ得る。それによって、靴を顧客に非常に迅速に販売することが可能であり、靴は、顧客の状況に最適に合わせるように顧客の個々の必要性に合わせて作られる。
【0016】
よって、提案された概念は、有益には靴屋で直接要求に応じて、ソールおよび該ソールの部分それぞれ(ミッドソールおよび/またはアウターソール)を製造するための着想に基づいており、ソールおよびソール部分はそれぞれ、一部の、および所定の区域の、それぞれ異なる性質を含む。
【0017】
一般に、このような製造を可能にするソール製造機械は現状技術では既知である。例として、ソールおよびソール部分をそれぞれ、1つの単一材料で均質に製造するだけでなく、不均一な構造が得られるようにソールおよびソール部分それぞれの射出成形プロセスを制御することを可能にする、Klockner Desma Schuhmaschinen GmbHのソール機械を参照する。
【0018】
好ましくは、述べられたように、提案された着想において、ポリウレタン混合物では、この性質は、靴底の一部に異なる性質を与えるように、本発明に従って現在使用されている少なくとも1つの適した添加剤を付加することによって、変えられる。
【0019】
設備の場所において、とりわけ、ひいては靴屋では、最初に、例えば、顧客の足の走査が行われ、かつ、顧客がどんな走行特性を有するかが求められる。そのことによって、ソールの設計は、異なる区域、および、さらにまた局所的に製造されかつアッパーと連結される区域に対して求められる。
【0020】
有益には、そのように、ひいては顧客に個々に適応させた、個々に特別に合わせた靴は、迅速に、ひいては費用効率の高いやり方で製造可能である。
【0021】
図面には、本発明の実施形態が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】人の足の圧力分布が地面における接触面積に従って記録された、圧力センサプレートの概略的な上面図である。
図2】靴のソールが製造される射出成形型を概略的に示す側面断面図である。
図3】仕上がったソールおよびアッパーの、この両方の部分の接合前を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1には、平面状圧力センサプレート2が概略的に示されている。この圧力センサプレート2は、人が圧力センサプレート2上で踏み込む時に生じる圧力分布が測定される測定デバイスとして機能する。概略的には、かつ単なる例示の目的で、人が地面に立つ時の異なる圧力がもたらされる6つの領域a、b、c、d、e、およびfが図示されている。
【0024】
圧力センサプレート2による限りにおいて、個人の足の人間工学によって、個々の人に対してどのような圧力分布が生じるかが判断可能である。よって、圧力センサプレート2によって、異なる圧力がもたらされる述べられた領域a、b、c、d、e、およびfを特定することが可能である(異なる述べられた領域に対して、各圧力範囲が定められ得る)。足、および、それに応じて、製造されるべき靴のソールの縦軸Lのみならず、これに対する横向き方向Qによって、個々の人の地面での足の接触面積に従った圧力分布は、圧力センサプレートによって判断可能である。
【0025】
接触面積に従った圧力分布の上記の測定は、個々の靴の製造時の第1のステップを構成する(上述したステップaを参照)。
【0026】
別のやり方で、代替的なまたは追加の上記の測定も実施可能である。例えば、カメラによって、人の足は、トレッドミル上で走るまたはジョギングする間監視可能であり、これにより、人の足の回内および回外の挙動に関する成果を得ることができる。
【0027】
両方の場合において、一般的に、上記ステップb)によるさらなるプロセスにおいて、製造されるべき靴底の材料特性および/または機械特性それぞれの特性値を求めることが可能である。それによって、ソールの縦軸Lの方向、およびこれを横断する方向Qにおけるソールの異なる領域について、例えば、人の足に対する最適なサポートを供給することを目的とする、ソールの材料の剛性または硬度が定められることは、理解されるべきである。
【0028】
そのために、例えば、他の領域に対して、高圧がもたらされる領域において(例えば、図1における領域d)に対する領域a)を参照)、ソールの他の領域において、その限りにおいて足により良いサポートをもたらすようなケースにおけるようなより硬い材料が提供されるようにすることができる。
【0029】
同じように、例えば、理想的な形状からの逸脱は、ソールの材料の剛性、それに応じて、材料の剛直性を選択的に高めるまたは低減させることによって、人の足の回内または回外の挙動の評価によって、相加的にまたは代替的に妨害可能である。
【0030】
これによって、LおよびQの座標に沿ったソールの、材料性質およびそれに応じて機械性質の特性値を求めることは、専門技術者によって実施可能である。しかしながら、測定デバイス2によって測定される、求められる値が、上記の性質に対する対応する仕様において、事前設定されたアルゴリズムによって自動的に変換されることも可能である。それゆえに、上記ステップb)は、好ましくは、コンピュータによって自動的に実施される。そうすることで、場合によっては、性質の特性値の判断に対して考慮に入れることができる比較値または最適値が記憶される。上記の値はまた、場合によっては、人のデータ(例えば、サイズ、重量、性別)を提供後、データベースから取り出され得る。
【0031】
図2では、上述した、ソール3の製造のステップc)が図示されている。射出成形型の、型の上部分5および型の下部分6では、ソール3のための空洞が設計されているのが分かる。湯口システムによって、プラスチック材料は型の空洞内に注入され、ここで、ポリウレタンが製造され、かつ型に注入されるミキシングヘッド7が指示される。それによって、ポリオールの形態の第1の基材Aは、イソシアネートの形態の第2の基材Bと混合されて、ポリウレタンを得る。
【0032】
さらに、材料AおよびBに付加可能である添加剤Cの容器も図示されており、この添加剤Cによって、この材料性質およびそれに応じてこの機械性質が変更される。
【0033】
異なる陰影によって図2に指示されるように、ソール3の異なる一部は、構成要素A、B、およびCの異なる選定、および、とりわけ、異なる材料特性および/または機械特性によって特徴付けられるソール3の伸張方向Lに沿った、添加剤Cの異なる付加量によって、設計される。それによって、構成要素A、B、Cのミキシングヘッド7内への付加の制御は、領域a、b、c、d、e、およびfに対する所望の特性値が図1に示されるように得られるように行われる。
【0034】
現段階で述べるまでもないが、図2は、この限りにおいて、説明した原理を単に概略的に図示したものであり、(図1に示されるように)LおよびQの2つの座標方向における対応する材料分布の対応する事前判断において、場合によっては、平面における各性質を有する材料の所望の分布を選択的に得るために、型の異なる場所において、いくつかの噴射ノズルおよびそれに応じてミキシングヘッド7によって材料を準備しかつ注入することが必要になる。しかしながら、そうするために必要な機械技術は、既知であり、ここで詳細に説明する必要はない。
【0035】
場合によっては、構成要素A、B、Cの付加の制御は、空洞内に注入される材料の流動作用の数値的なレオロジー解析(いわゆる「溶融流」解析)によって行われ得るため、空洞を完全に充填した後の異なる性質を有する材料がソール3の平面上で所望の分布となるように空洞内にもたらされる(図2におけるソール3の陰影を参照)。
【0036】
最後に、図3において、上記ステップd)の実行が示されており、これによって、ここで、製造により仕上げられたソール3は、アッパー4と連結されて、靴1を完成させる(それぞれに向けられた2つの矢印を参照)。
【0037】
ソール3とアッパー4との間の連結は、既知のやり方で、ひいては、とりわけ、縫製または接着によって、行われ得る。
【符号の説明】
【0038】
1 靴
2 測定デバイス(圧力センサプレート)
3 ソール
4 アッパー
5 型の上部分
6 型の下部分
7 ミキシングヘッド
L ソールの伸張方向(ソールの縦方向)
Q 縦軸を横断する方向
A 第1の基材(ポリオール)
B 第2の基材(イソシアネート)
C 添加剤
a、b、c、d、e、f 異なる圧力の領域

図1
図2
図3