(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】固体表面のスパイダーシルクコーティング
(51)【国際特許分類】
A61L 27/34 20060101AFI20221101BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/08 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20221101BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20221101BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20221101BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/22
A61L27/04
A61L27/02
A61L27/06
A61L27/08
A61L27/10
A61L27/14
A61L27/16
A61L27/12
A61L27/38
C07K14/435 ZNA
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2018560226
(86)(22)【出願日】2017-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2017061712
(87)【国際公開番号】W WO2017198655
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-15
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517451836
【氏名又は名称】スピベル テクノロジーズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ミュー ヘドハンマル
(72)【発明者】
【氏名】リネーア ニレベック
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/016524(WO,A2)
【文献】特表2012-531889(JP,A)
【文献】特表2008-506409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0202614(US,A1)
【文献】Biomacromolecules,2014年,15,p.1696-1706
【文献】Biochemistry,2008年,47,p.3407-3417
【文献】Adv Funct Mater.,2014年,24,p.2658-2666
【文献】Biomacromolecules,2014年,15,p.1696-1706
【文献】Biochemistry,2008年,47,p.3407-3417
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子固体構造を形成することが出来る組換えスパイダーシルクタンパク質で固体表面をコーティングする方法であって、
前記組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液に前記固体表面を曝し、それによって、前記組換えスパイダーシルクタンパク質と前記固体表面の間に共有結合を形成すること無く、前記固体表面上に吸着された前記組換えスパイダーシルクタンパク質の表面層を形成する工程; 及び
前記固体表面の前記表面層を前記組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液にさらに曝し、それによって、前記表面層上に前記組換えスパイダーシルクタンパク質の集合したシルク構造層を形成する工程
を含み、ここで、当該方法は、スパイダーシルクタンパク質の乾燥を含ま
ず、
かつ
前記集合したシルク構造層は、ナノフィブリルの物理形態である、方法。
【請求項2】
前記固体表面又は前記表面層を前記組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液に曝す工程の間又は後に1つ以上の洗浄工程をさらに含み、ここで、各洗浄工程が、前記コーティングされた表面に隣接する可溶性組換えスパイダーシルクタンパク質の除去を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体表面が、疎水性であり、例えば30°超の水との接触角θを有する材料であり、及び/又は前記固体表面が、その露出されたヒドロキシル基のpKaが7未満である材料である、請求項1又は2の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記固体表面が、金属、金属合金、ポリマー、ミネラル、ガラス及びガラス様材料、アミノシラン、及び疎水性炭化水素からなる群から選択される材料であり、例えば、チタニウム、ステンレス・スティール、ポリスチレン、ヒドロキシアパタイト、二酸化ケイ素、APTES機能化二酸化ケイ素、金、及びアルキルチオール機能化金から選択される材料である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、機能的に露出された非スピドロインタンパク質部分又は非スピドロインポリペプチド部分を含む、請求項1~4の何れか1項に記載の
方法。
【請求項6】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が
、タンパク質部分REP及びCT並びに任意で機能的に露出した非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分を含み、ここで、
REPが、L(AG)
nL、L(AG)
nAL、L(GA)
nL、及びL(GA)
nGLからなる群から選択される70~300アミノ酸残基の反復フラグメントであり、ここで、
nが、2~10の整数であり;
各個々のAセグメントが、8~18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、0~3アミノ酸残基がAlaではなく、残りのアミノ酸残基がAlaであり;
各個々のGセグメントが、12~30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、少なく
とも40%のアミノ酸残基がGlyであり; 及び
各個々のLセグメントが、0~30アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列であり;並びに
CTが、配列番号3又は配列番号69に対して少なくとも70%の同一性を有する70~120アミノ酸残基のフラグメントである、
請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
高分子固体構造を形成することが出来る組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品であって、ここで、前記組換えスパイダーシルクタンパク質コーティングが、
前記組換えスパイダーシルクタンパク質と前記固体表面の間に共有結合を形成すること無く前記固体表面に吸着された前記組換えスパイダーシルクタンパク質の表面層; 及び
前記表面層上の前記組換えスパイダーシルクタンパク質の集合したシルク構造層;
を含み、ここで、前記組換えスパイダーシルクタンパク質コーティングが、50nm未満の厚さを有
し、
かつ
前記集合したシルク構造層は、ナノフィブリルの物理形態である、
固体表面を有する物品。
【請求項8】
前記集合したシルク構造層が、前記表面層より粘性が高い、請求項7に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項9】
前記ナノフィブリルが、20nm未満、例えば10~20nmの直径を有する、請求項7~8の何れか1項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項10】
前記固体表面が、疎水性であり、例えば30°超の水との接触角θを有する材料であり、及び/又は前記固体表面が、その露出されたヒドロキシル基のpKaが7未満である材料である、請求項7~9の何れか1項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項11】
前記固体表面が、金属、金属合金、ポリマー、ミネラル、ガラス及びガラス様材料、アミノシラン、及び疎水性炭化水素等からなる群から選択される材料であり、例えば、チタニウム、ステンレス・スティール、ポリスチレン、ヒドロキシアパタイト、二酸化ケイ素、APTES機能化二酸化ケイ素、金、及びアルキルチオール機能化金からなる群から選択される材料である、請求項10に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項12】
前記固体表面が、生体材料、インプラント又は医療機器の表面である、請求項7~11の何れか1項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項13】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、機能的に露出された非スピドロインタンパク質部分又は非スピドロインポリペプチド部分を含む、請求項7~12の何れか1項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項14】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が
、タンパク質部分REP及びCT並びに任意で機能的に露出した非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分を含み、ここで、
REPが、L(AG)
nL、L(AG)
nAL、L(GA)
nL、及びL(GA)
nGLからなる群から選択される70~300アミノ酸残基の反復フラグメントであり、ここで、
nが、2~10の整数であり;
各個々のAセグメントが、8~18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、0~3アミノ酸残基がAlaではなく、残りのアミノ酸残基がAlaであり;
各個々のGセグメントが、12~30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、少なくとも40%のアミノ酸残基がGlyであり; 及び
各個々のLセグメントが、0~30アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列であり; 並びに
CTが、配列番号3又は配列番号69に対して少なくとも70%の同一性を有する70~120アミノ酸残基のフラグメントである、
請求項7~13の何れか1項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品。
【請求項15】
インビトロ細胞培養のためのマトリックスとしての、請求項7~14の何れか1項に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を有する物品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面化学の分野に関連し、より具体的には、表面のコーティング、例えば、表面がコーティングされた医療機器及び科学ツールに関する。本発明は、組換えスパイダーシルクタンパク質で固体表面をコーティングする方法、及び組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を提供する。
【背景技術】
【0002】
インプラントは、骨折の固定、脊髄再建、及び軟部組織の定着等の整形外科用途に広く用いられる。歯及び股関節インプラント等の硬いインプラントは、インプラントの破損のリスクに関連付けて考えられる。これは、感染症又はインプラントのカプセル化及び拒絶反応につながる免疫系からの異物反応が原因となり得る。例えば、整形外科用骨折及び再建装置からの感染症は、米国のみで約5%の症例、合計で約100,000例が発生する。
【0003】
インプラントの感染症は、宿主因子及び外科的手法の結果であるのみではない。サイズ、形状、材料、トポグラフィー及び用途を含むインプラントされた装置の解剖学的部位及び特性は、重要な変更可能要素である。骨結合を増強し、異物反応又は感染症に関連する有害事象を緩和するために、インプラントを抗生物質又は他の生体分子で直接コートするいくつかの方法が、例えば、SB Goodman et al., Biomaterials 34(13): 3184-3183 (2013)等によって提案されている。体内へのインプラントの受け入れを向上させ、感染症のリスクを減少させることが出来る材料でインプラントをプレコートすることに、大きな関心がある。
【0004】
しかしながら、ほとんどのインプラントの表面が疎水性で中性に帯電していることを考慮すると、短いペプチド等の生体分子の単純な吸収によるコーティングインプラントは、多くの場合、非効率的であり、これは、インプラント表面に電荷を導入するための複雑且つ、時間のかかる方法の進展及びインプラント表面上の多数のコーティング層の生成という結果をもたらす。例えば、レイヤー・バイ・レイヤー(layer-by-layer(LBL))コーティング方法が開発されており、当該方法は、反対の電荷を有する高分子電解質溶液にインプラントを繰り返し浸漬し、続いてBMP-2等の成長因子を沈着させることを含む。LBLコーティング方法はまた、ヒドロキシアパタイト及びBMP-2を連続して堆積させるために用いられている。ヒドロキシアパタイトは、ベース層を形成し、BMP-2は、再外層に存在した。しかしながら、最新のLBLアプローチは、生体分子のバースト放出を避けるために数百の層の使用を必要とする。従って、LBL方法は、大きな労働力を要し、コストがかかり、バッチ間の変動性が生じ得る。第2に、LBLコーティング処理は、有効な装填のために酸性溶液を使用し実施されることが多く、これは生体分子に好ましくない。
【0005】
G. Vidal et al., Acta Biomaterialia, 9(1), 4935-4943 (2013)は、カイコ(silkworm Bombyx mori)からチタニウム結合ペプチド(TiBP)を介してチタニウム表面へのシルクフィブロインタンパク質のケミカルグラフティング(chemical grafting)を報告した。タンパク質-表面相互作用の初期吸着相の後、タンパク質吸着は、停滞し、本質的にさらなるフィブロインは、結合しない。従って、得られた生成物は、TiBPを介してチタニウム表面上にグラフトされたフィブロイン表面単層からなる。注目すべきことに、吸着されたタンパク質の一部は、緩衝液流中に洗い流され、化学的にグラフトされたカイココーティングが、安定では無いことを意味している。
【0006】
1~2μmの厚さを有する組換えスパイダーシルクタンパク質のフィルムは、空気乾燥方法により以前から達成されている。WO 2012/055854 A1等を参照。この空気乾燥方法は、時間がかかり、得られるフィルムは、下地表面に緩く付着するのみであり、これは、コーティングの予備調製又は滅菌のために必要とされる洗浄条件の間に、それらが容易に表面から落ちる可能性があることを意味する。空気乾燥方法の他の欠点は、得られる表面が少々不均一であり、特定用途のための再現性が低くなり、柔軟性が低く、すなわち水分含有量が低いため粘度が低いことである。さらに、フィルムへの空気乾燥方法は、より単純な開放面及び平坦面に限定される。
【0007】
P.H. Zeplin et al., Adv. Funct. Mater. 24: 2658-2666 (2014)は、浸漬コーティングによるシリコーン表面上へのスパイダーシルクタンパク質のマイクロメーターフィルムの形成を開示している。シリコーン製品は、シルク溶液に浸漬され、数回空気乾燥され、次いで固定工程に供された。この比較的複雑なプロトコールは、細胞増殖及び分化を阻害する典型的に1~6μmの幾分厚いフィルムを産生する。このフィルムは、バイオシールドとしての使用が提案される。
【0008】
US 2011/0230911は、刺激が強い有機溶媒(HFIP)にタンパク質を溶解させ、表面上のHFIP溶液を空気乾燥方法、次いで固定工程によって、ポリスチレン及びガラス表面上にスパイダーシルクタンパク質の厚いフィルム(0.5~1.5μm)の形成を開示する。
【0009】
技術分野の進歩にもかかわらず、インプラント表面及び他の固体表面をコーティングするための簡単且つ、効率的な方法の必要性が依然として存在する。また、簡単且つ、効果的な方法によって適用することができ、コーティングされた表面に魅力的な特性を提供する、インプラント及び他の固体表面用の新しいコーティングが必要とされる。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、インプラント表面及び他の固体表面を生体分子でコーティングするための簡単且つ、効果的な方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、生理学的pHを有する水溶性溶媒中で実施することが出来る、生体分子でインプラント表面及び他の固体表面をコーティングする方法を提供することである。
【0012】
本発明の一目的は、インプラント表面とコーティングの間を共有結合無しで、インプラント表面及び他の固体表面を生体分子で安定にコーティングするための方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、インプラント表面とコーティングの間を共有結合無しで、生体分子で安定にコーティングされた固体表面を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、コーティングの予備調製及び滅菌を可能にするために十分な安定性を有する生体分子で安定にコーティングされた固体表面を提供することである。
【0015】
本発明の目的は、薄いナノサイズのフィルムで安定的にコーティングされた固体表面を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、生体分子を含むナノサイズのフィルムで安定的にコーティングされた固体表面を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、生体分子で全てのタイプの表面形状をコーティングすることである。
【0018】
以下の開示から明らかになり得るこれらの目的及び他の目的のために、本発明は、第1の態様に従って、添付の特許請求の範囲及び本明細書に提示される固体表面をコーティングする方法を提供する。
【0019】
本発明は、第2の態様に従って、添付の特許請求の範囲及び本明細書に提示される固体表面をコーティングする方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、組換えスパイダーシルクタンパク質及び比較タンパク質(プロテアーゼ3C)の吸着挙動を示す。
【
図2】
図2は、種々の濃度の組換えスパイダーシルクタンパク質の吸着のQCM-D測定を示す。
【
図3】
図3は、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質コーティングの粘着特性の評価を示す。
【
図4】
図4は、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質コーティングのナノフィブリルのトポグラフィックイメージを示す。
【
図5】
図5は、本発明によるスパイダーシルクタンパク質コーティングの化学洗浄安定性を示す。
【
図6】
図6は、チタニウム及びステンレス・スティール上の機能化されたスパイダーシルクタンパク質コーティングの集合を示す。
【
図7-1】
図7は、機能化されたスパイダーシルクタンパク質コーティング上の細胞生存率を示す。
【
図7-2】
図7は、機能化されたスパイダーシルクタンパク質コーティング上の細胞生存率を示す。
【
図8-1】
図8は、金及びSiO
2表面上への機能化されたスパイダーシルクタンパク質の吸着挙動を示し、保持された機能性を実証する。
【
図8-2】
図8は、金及びSiO
2表面上への機能化されたスパイダーシルクタンパク質の吸着挙動を示し、保持された機能性を実証する。
【
図9】
図9は、金表面への機能化されたスパイダーシルクタンパク質の吸着挙動を示す。
【
図10-1】
図10は、スピドロインC末端ドメインの配列アライメントを示す。
【
図10-2】
図10は、スピドロインC末端ドメインの配列アライメントを示す。
【
図11】
図11は、機能化されたスパイダーシルクタンパク質コーティング上で増殖する一次細胞の増殖曲線及び顕微鏡写真を示す。
【
図12】
図12は、(A)組換えスパイダーシルクタンパク質の金表面への吸着挙動、及び(B)得られた表面トポグラフィーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質が、生理的条件下で、すなわち、処理の何れかの工程中に変性条件無しで、固体表面との安定なコーティングを自発的に形成することから、固体表面のためのコーティングとして非常に有用であるという見識に基づいている。本明細書に示すように、最初から機能的である組換えスパイダーシルクタンパク質が、生理的条件下で機能的表面コーティングにされ得ることは大きな利点である。本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質は、共有結合を必要とせずに表面上にフィブリル構造に自発的に自己集合する(Self-assemble)ことは注目すべきことである。本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質の表面と初期層の間の共有結合の積極的な形成無しに、安定なコーティングが達成され得ることは、非常に驚くべきことである。これは、コーティングを形成する際にも、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質の生物学的特性が維持された簡単且つ、効果的なコーティング処理を可能にする。当該処理は、湿式コーティング処理である。これは、当該処理が、水性溶液の存在下で行われ、フィルムを形成するために表面上で溶液の何れかの乾燥(drying-in)工程を含まないことを意味する。得られるコーティングは、乾燥方法によって産生されるフィルムよりも有意に薄い。より薄いコーティングは、原材料の消費を減少させることからコスト面の理由で有利である。より薄いコーティングはまた、体内に導入された場合に外来化合物の負荷を減少させることから安全上の理由でも有利である。より薄いコーティングはまた、下地の表面とのより良好な直接的な接触を与えることにおいても有利である。これは、コーティングが表面から剥がれるリスクを減少させるため、コーティングの安定性に貢献する。コーティングの安定性は、インビボでの適用に重要であるコーティングの予備調製及び滅菌を可能にする。
【0023】
組換えスパイダーシルクタンパク質は、いくつかの理由、特にその強度、弾力性及び低い免疫原性のために、生体材料用途にとって興味深い材料である。本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質は、細胞結合モチーフ又は抗微生物ペプチド等の生物学的に活性なペプチドと共に組換え産生され得る。次いで、可溶性融合タンパク質は、シルクに遺伝的に融合されたペプチドモチーフの機能を保持する、安定且つ、フレキシブルな肉眼で見える材料に集合することが出来る。さらに、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質は、親和性ドメイン及び酵素等の機能的タンパク質又はペプチドドメインと共に組換え産生され得る。融合タンパク質は、スパイダーシルク成分を肉眼で見えるシルク構造に集合する能力を保持するだけでなく、加えられた機能ドメイン由来の活性を示す。
【0024】
硬質インプラントの表面特性に関連する合併症に対処する目的で、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質の薄いシルクコーティングは、インプラント表面の特性を改変するために適したフォーマットとして機能する。そのようなシルクコーティングの特性は、機能的ペプチド又はドメインとの融合における組換え発現によって容易に変更され得る。異なるモチーフと融合された本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質は、容易に混合され得、多機能シルクコーティングの形成を可能にする。
【0025】
本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質は、本明細書において、共有結合無しで表面上に安定したシルクコーティングを形成することが示されており、コーティング処理の間に追加の化学物質又は過酷な条件が必要でないことを意味する。
【0026】
第1に、本発明による非機能化組換えスパイダーシルクタンパク質の表面吸着及び集合挙動(assembly behavior)が特徴付けられている。タンパク質のシルクコーティングへの集合は、いくつかの技術によってリアルタイムで研究された。水晶振動子マイクロバランスと散逸モニタリング(Quartz Crystal Microbalance with Dissipation)(QCM-D)は、高感度(ng/cm3)、リアルタイムでセンサー表面上の分子相互作用をモニターする。これは、その共振周波数でセンサーを振動させ、その応答周波数を測定することによって行われる。同時に、振動の散逸が、モニターされ得る。これは材料の粘弾性に関する情報を与える。コーティングに閉じ込められた水は、センサーの振動周波数及び散逸に影響し、従って、信号出力に寄与する。表面プラズモン共鳴(SPR)及びエリプソメトリーは、表面に近いタンパク質の相互作用による反射角及び偏光変化における変化を、それぞれ用いる光学技術である。水は、これら2つの技術の何れにおいても反応に寄与しない。2つの技術を組み合わせるために設計されたモジュールにおける同時のQCM-D及びエリプソメトリーモニタリングにより、各技術による表面上の吸着量が決定され得、コーティング中の水分含量を計算するために用いられ得る。シルクコーティングのナノ構造を詳細に理解するために、ナノスケールでの高解像度トポグラフィックイメージングを可能にする原子間力顕微鏡(AFM)を用いて分析した。水性溶液中で測定することにより、天然構造が、特徴付けの間維持される。
【0027】
第2に、シルクコーティング上の細胞接着及び増殖を増強するフィブロネクチンペプチドモチーフ、及び抗菌ペプチドマガイニンI等の種々の生物活性タンパク質及びペプチドに融合した組換えスパイダーシルクタンパク質由来の本発明による機能性コーティングを供給することによって、所望の生物活性が、インプラント表面に導入される。コーティング中に機能性モチーフを含むための潜在能力は、体内でのインプラントの受容性を最適化するため、及び感染の問題に取り組むために、生体材料の適用においてきわめて重要であり、これはまた、移植の成功のための課題でもある。さらに、より先進の生物活性が、親和性ドメイン(例えば、Zドメイン結合IgG)、酵素(例えば、キシラナーゼ)又は増殖因子(例えば、繊維芽細胞増殖因子、FGF)等の倍数依存性の機能を有するタンパク質ドメインに融合されたシルクタンパク質を用いて導入された。
【0028】
第1の態様により、本発明は、以下の工程を含む高分子固体構造を形成することが出来る組換えスパイダーシルクタンパク質で固体表面をコーティングする方法を提供する:
-前記組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液に前記固体表面を曝し、それによって、前記組換えスパイダーシルクタンパク質と前記固体表面の間に共有結合を形成すること無く、前記固体表面上に吸着された前記組換えスパイダーシルクタンパク質の表面層を形成する工程; 及び
-前記固体表面の前記表面層を前記組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液にさらに曝し、それによって、前記表面層上に前記組換えスパイダーシルクタンパク質の集合したシルク構造層を形成する工程。
本発明による方法において、前記コーティング処理は、水性溶液中で起こる。これは、当該方法が、前記組換えスパイダーシルクタンパク質の前記水性溶液を表面上での乾燥の何れかの工程を含まないことを意味する。従って、当該方法は、スパイダーシルクタンパク質の乾燥を含まない。
【0029】
集合した(assembled)シルク構造層を形成する第2の工程において、集合(assembly)は、利用可能なタンパク質が存在する限り、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質の自己集合(Self-assembling)の性質に関連する特有の挙動を継続する。
【0030】
水性溶液中で固体表面を組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングする本発明の方法は、組換えスパイダーシルクタンパク質と固体表面の間の非共有結合によって形成される第1の表面層、及び第2の構造層の2層構造を有利に提供し、ここで、組換えスパイダーシルクタンパク質は、自発的に表面層上でシルク構造に集合する。
【0031】
当該処理は、湿式コーティング処理である。これは、コーティング処理が、水性溶液の存在下で行われ、フィルムを形成するために溶液を表面で乾燥させる何れかの工程を含まないことを意味する。
【0032】
スパイダーシルクタンパク質のフィルムを提供する従来の乾燥方法と比較して、水性溶液中で固体表面を組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングするための本発明の方法は、いくつかの利点を提供する:
・コーティングの迅速な製造
・コーティングの厚さが制御され得ること
・バッチ間のばらつきが少なく、再現性が向上したこと
・3次元オブジェクトの何れかの形状をコーティングすることが可能であること。
【0033】
スパイダーシルクタンパク質の従来の乾燥コーティングと比較して、水性溶液中で本発明のコーティング方法によって提供される組換えスパイダーシルクタンパク質のコーティングは、いくつかの利点を有する:
・より均一なコーティング表面
・薄いコーティング(厚さが、空気乾燥したフィルムでの1~2μmに比べて、典型的に50nm未満)、これは必要なタンパク質の量を減少させ、より良好な直接的な接触感覚が得られる
・高い含水率で粘性のある他の層、これはコーティングを生きた組織により似せる。
【0034】
silkworm B. mori由来のシルクでチタニウム表面をコーティングする潜在能力を調べた、G. Vidal et al., Acta Biomaterialia, 9(1), 4935-4943 (2013)と比較して、そのシルクタイプは、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質の集合相(assembly phase)を示さない。その代わりに、Vida et al.におけるタンパク質吸収は、タンパク質と表面の相互作用が形成される初期段階の後に停滞する。注目すべきことに、吸着されたタンパク質の一部は、緩衝液で流す間に洗い流される。B. moriシルクのチタニウム上の吸着挙動は、本発明における参照タンパク質として用いられた非集合(non-assembling)プロテアーゼ3Cに類似する。Vidal et al.は、チタニウム結合ペプチドのB. moriシルクタンパク質へのケミカルカップリングを用いて、チタニウムセンサーへのシルクの吸着を改善し、すすぎ時のタンパク質の損失を回避する。興味深いことに、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質は、それが連続的なシルクの集合を促進するような方法で、チタニウムに良好に吸着する固有の性質を示す。本発明によるスパイダーシルクタンパク質は、驚くべきことに、初期の表面層上に集合したシルク構造層を形成し、安定的に集合したシルク構造層を形成するために有効である。コーティングの厚さは、吸着時間によって制御され得、化学的修飾又は特異的ペプチドモチーフの何れかを必要とすること無く、種々の緩衝液ですすぐことに対して安定である。
【0035】
固体表面は、好ましくは生体材料の表面、及びより好ましくは、インプラントの表面又は医療装置の表面、例えばインプラントの表面である。
【0036】
固体表面は、好ましくは、疎水性の材料である。本発明による好ましい疎水性固体表面は、ペンダントドロップ法による測定で、水と30°超の接触角θを有する。本発明による他の好ましい固体表面は、存在する場合、露出したヒドロキシル基のpKaが7未満である。本発明による疎水性固体方面の好ましい基は、存在する場合、水と30°超の接触角θ及び露出したヒドロキシル基のpKaが7未満の両方を示す。本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質が、インプラント表面に電荷を導入するための複雑且つ、時間のかかる方法及びインプラント表面上の多数の層のコーティング層を形成することを必要とすることなく、疎水性の表面及び低脱プロトン化ヒドロキシル基を有する表面上に自発的に自己集合することは、特に驚くべきことである。本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質のこれらの特性は、当該処理を非常に効率的且つ、複雑ではないものにする。
【0037】
好ましい固体表面の基は、金属、金属合金、ポリマー、ミネラル、ガラス及びガラス様材料、アミノシラン、疎水性炭化水素からなる群から選択される材料であり、例えば、チタニウム、ステンレス・スティール、ポリスチレン、ヒドロキシアパタイト、二酸化ケイ素、APTES機能化二酸化ケイ素、金、及び接触角0°超を有するアルキルチオール機能化金等のアルキルチオール機能化金からなる群から選択される材料である。好ましい固体表面は、ポリスチレンである。
【0038】
本発明による当該方法は、前記固体表面又は前記表面層を前記組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液に曝す工程の間又は後に、1つ以上の洗浄工程をさらに含み得、ここで、各洗浄工程は、前記コーティングされた表面に隣接する可溶性組換えスパイダーシルクタンパク質の除去を含む。好ましい洗浄工程は、エタノール等のアルコール、HCl等の酸及び/又はNaOH等の塩基での洗浄を含む。コーティングは、アルコール、酸及び塩基の実際に関連する濃度に対しての耐性に有利である。これにより、生物学的機能性の損失又は表面からのコーティングの剥離を伴わずに、コーティングされた表面を洗浄及び滅菌することが可能になる。
【0039】
上述したように、当該コーティング処理は、湿式コーティング処理である。これは、コーティングが、組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液の存在下で起こり、この溶液を表面で乾燥させフィルムを形成する何れかの工程を含まないことを意味する。しかしながら、組換えスパイダーシルクタンパク質の水性溶液が除去された後、好ましくは上記1つ以上の洗浄工程の後に、得られたコーティングを固定化されたスパイダーシルクタンパク質と共に乾燥させることが可能である。
【0040】
本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質の好ましい基は、生物活性タンパク質部分又は生物活性ペプチド部分である、機能的に露出された非スピドロインタンパク質部分又は非スピドロインポリペプチド部分をさらに含む。都合よく、生物活性タンパク質/ペプチド部分は、スピドロイン部分が集合したシルク構造層を形成している際でさえ、機能的に露出される。生物活性タンパク質/ペプチド部分の非限定的な例には、細胞結合モチーフ、抗菌ペプチド、親和性ドメイン、酵素、成長因子及び組換え抗体フラグメントが含まれる。
【0041】
非スピドロイン部分は、例えば、親和性及び/又は酵素活性等の生物活性を与える少なくとも3アミノ酸残基を含むタンパク質又はポリペプチドフラグメントである。特に、3~10アミノ酸残基の範囲の短い非スピドロイン部分は、例えば、RGD等の細胞結合モチーフを構成し得る。非スピドロイン部分は、好ましくは10アミノ酸残基超、例えば、30アミノ酸残基超、例えば50アミノ酸残基超を含む。非スピドロイン部分は、好ましくは1000アミノ酸残基未満、例えば、400アミノ酸残基未満、より好ましくは、300アミノ酸残基未満を含む。
【0042】
スパイダーシルクタンパク質に由来する部分は、構造的に再編成され得、その結果、高分子固体構造を形成し、一方、非スピドロイン部分は、構造的に再編成されないが、望ましい構造及び生物活性を維持する。従って、本発明によるタンパク質は、生理学的条件下でタンパク質を構成する際に用いられる所望の生物活性及び内部の固体支持体活性の両方を内部に有し得る。非スピドロイン部分が構造的に再編成されて高分子固体構造を形成する場合、非スピドロイン部分が、スピドロイン部分に共有結合しているが、非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分の生物活性が維持される。
【0043】
用語「非スピドロイン」は、スパイダーシルクタンパク質に由来しない、すなわち、スパイダーシルクタンパク質との同一性及び/又は同一性が低い(又は全くない)タンパク質を意味する。非スピドロイン部分は、好ましくは、本明細書中に開示される何れかのスピドロインアミノ酸配列に対して、好ましくは、配列番号2~8、及び71の何れかに対して、30%未満の同一性、例えば20%未満の同一性、好ましくは10%未満の同一性を有する。
【0044】
本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質の好ましい基は、タンパク質部分REP及びCT、並びに任意で機能的に露出した非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分を含む又はからなる前記組換えスパイダーシルクタンパク質であって、ここで、
REPが、L(AG)nL、L(AG)nAL、L(GA)nL、及びL(GA)nGLからなる群から選択される70~300アミノ酸残基の反復フラグメントであり、ここで、
nが、2~10の整数であり;
各個々のAセグメントが、8~18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、0~3アミノ酸残基がAlaではなく、残りのアミノ酸残基がAlaであり;
各個々のGセグメントが、12~30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、少なくとも40%のアミノ酸残基がGlyであり; 及び
各個々のLセグメントが、0~30アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列であり;及び
CTが、配列番号3又は配列番号69に対して少なくとも70%の同一性を有する70~120アミノ酸残基のフラグメントである。
【0045】
本発明による融合タンパク質は、スピドロインフラグメントREP及びCTにおける内部固体支持活性、及び任意で、機能的に露出した非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分においてさらなる生物活性を内部に有する。融合タンパク質の生物活性は、それが構造的に再編成されて高分子固体構造を形成する際に維持される。これらのタンパク質構造、又はタンパク質ポリマーはまた、機能的に露出された非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分の高く且つ、予測可能な密度を提供する。
【0046】
機能的に露出した非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分を含むように操作されたタンパク質の大部分において、この部分は、N末端又はC末端の何れかへの直線的拡張として加えられ、従って、タンパク質の残存物由来の鎖の最小限の制約が原因となり、露出及び柔軟性が高い可能性がある。REP及びCT部分の間等の組換えスパイダーシルクタンパク質内に配置された機能的に露出した非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分を配置することも可能である。
【0047】
用語「融合タンパク質」は、本明細書において、組換え核酸、すなわち、通常一緒に起こり得ない1つ以上の核酸配列を結合によって人工的に作製される(遺伝子工学)DNA又はRNAからの発現によって作製されるタンパク質を意味する。本発明による融合タンパク質は、組換えタンパク質であり、従って、天然に存在するタンパク質と同一ではない。特に、野生型スピドロインは、上記のような組換え核酸から発現されないため、本発明による融合タンパク質ではない。組み合わせられた核酸配列は、特定の機能特性を有するタンパク質、部分タンパク質又はポリペプチドをコードする。得られた融合タンパク質、又は組換え融合タンパク質は、元のタンパク質、部分タンパク質又はポリペプチドのそれぞれに由来する機能特性を有する単一のタンパク質である。さらに、本発明による融合タンパク質及び対応する遺伝子は、キメラであり、すなわち、タンパク質/遺伝子部分は、少なくとも2つの異なる種に由来する。
【0048】
融合タンパク質は、典型的には、170~2000アミノ酸残基、例えば170~1000アミノ酸残基、例えば170~600アミノ酸残基、好ましくは、170~500アミノ酸残基、例えば、170~400アミノ酸残基からなる。小さいサイズは、スパイダーシルクタンパク質フラグメントを含むより長いタンパク質が、可溶化及び重合のための刺激が強い溶媒の使用を必要とするアモルファス凝集体を形成し得るため、有利である。
【0049】
融合タンパク質は、1つ以上のリンカーペプチド、又はLセグメントを含み得る。リンカーペプチドは、融合タンパク質の何れかの末端又はスピドロインフラグメントと細胞結合モチーフの間で、融合タンパク質の何れかの部分の間、例えばREP及びCT部分の間に配置され得る。リンカー類は、融合タンパク質の機能ユニットの間にスペーサーを提供し得るが、融合タンパク質、例えばHis及び/又はTrxタグ等の同定及び精製のためのハンドルもまた、構成し得る。融合タンパク質が、融合タンパク質の同定及び精製のための2つ以上のリンカーペプチドを含む場合、これらは、スペーサー配列、例えば、His6-スペーサー-His6-等によって分離されていることが好ましい。リンカーはまた、融合タンパク質をフィルムに方向付ける及び/又は融合タンパク質の宿主細胞から周辺培地への分泌を引き起こすシグナル認識粒子等のシグナルペプチドを構成し得る。融合タンパク質はまた、リンカー及び/又は他の関連部分の切断及び除去を可能にする、そのアミノ酸配列中に切断部位を含み得る。例えば、Met残基後のCNBr及びAsn-Gly残基間のヒドロキシルアミン等の化学薬品の切断部位、トロンビン又はプロテアーゼ3C等のプロテアーゼの切断部位、及びインテイン自己スプライシング配列等の自己スプライシング配列等の種々の切断部位が、当業者に公知である。
【0050】
スピドロインフラグメント及び機能的に露出された非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分は、互いに直接又は間接的に連結される。直接の結合とは、介在配列(例えば、リンカー類等)を介さずに部分の間の直接の共有結合を意味する。間接的連結はまた、その部分が共有結合によって連結されていることを意味するが、それらは、介在配列、例えば、リンカー類及び/又は例えば、1~2部分等の1つ以上のさらなる部分である。
【0051】
機能的に露出された非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分は、このように、内部又は融合タンパク質の何れかの末端、すなわちC末端で又はN末端に配置され得る。細胞結合モチーフは、融合タンパク質のN末端に配置されることが好ましい。融合タンパク質が、例えば、His又はTrxタグ等の融合タンパク質の1つ以上のリンカーペプチドを含む場合、融合タンパク質のN末端に配置されることが好ましい。
【0052】
好ましい融合タンパク質は、0~30アミノ酸残基、例えば0~10アミノ酸残基のリンカーペプチドによってREP部分にカップルされたN末端に配置された機能的に露出された非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分の形態を有する。任意で、融合タンパク質は、Hisタグ等の精製タグ及び切断部位を含み得るN末端又はC末端リンカーペプチドを有する。
【0053】
何れかの特定の理論に拘束されることを望まないが、非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分が、得られたコーティングの表面上に機能的に示されることが企図されている。実施例6~13参照。
【0054】
タンパク質部分REPは、アラニン-リッチストレッチとグリシン-リッチストレッチを交互に繰り返す特徴を有するフラグメントである。REPフラグメントは、一般に、70個超、例えば、140個超、及び300個未満、好ましくは240個未満、例えば200個未満のアミノ酸残基を含み、及びそれ自体がいくつかのL(リンカー)セグメント、A(アラニン-リッチ)セグメント及びG(グリシン-リッチ)セグメントに分割されることができ、以下でより詳細に説明する。典型的に、任意である前記リンカーセグメントは、REPフラグメント末端に位置し、残りのフラグメントは、アラニン-リッチ及びグリシン-リッチである。従って、REPフラグメントは、一般に、以下の構造の何れかを有することができ、ここで、nは、整数である:
L(AG)nL、例えば、LA1G1A2G2A3G3A4G4A5G5L;
L(AG)nAL、例えば、LA1G1A2G2A3G3A4G4A5G5A6L;
L(GA)nL、例えば、LG1A1G2A2G3A3G4A4G5A5L; 又は
L(GA)nGL、例えば、LG1A1G2A2G3A3G4A4G5A5G6L。
【0055】
従って、アラニン-リッチ又はグリシン-リッチセグメントが、N末端又はC末端リンカーセグメントに隣接するか否かは重要ではない。nは、2~10、好ましくは2~8、また好ましくは、4~8、より好ましくは4~6、すなわち、n=4、n=5又はn=6であることが好ましい。
【0056】
いくつかの実施形態において、REPフラグメントのアラニン含量は、20%超、好ましくは25%超、より好ましくは30%超、及び50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満である。より高いアラニン含量は、より堅く及び/又はより強く及び/又は伸展性の低い繊維を提供することが企図される。
【0057】
特定の実施形態において、REPフラグメントは、プロリン残基が欠けており、すなわち、REPフラグメント中にPro残基は、存在しない。
【0058】
ここで、REPフラグメントを構成するフラグメントに注目すると、各セグメントは、別個であること、すなわち、特定のREPフラグメントの何れか2つのAセグメント、何れか2つのGセグメント又は何れか2つのLセグメントが、同一であっても同一でなくてもよいことが、協調される。従って、特定のREPフラグメント内で各タイプのセグメントが同一であることは、スピドロインの一般的な特徴ではない。
【0059】
むしろ、以下の開示は、個々のセグメントを設計し、それらを細胞足場材料に有用な機能的スパイダーシルクタンパク質の一部であるREPフラグメントに集める方法を、当業者に提供する。
【0060】
各個々のAセグメントは、8~18アミノ酸残基を有するアミノ酸配列である。各個々のAセグメントは、13~15アミノ酸残基を含むことが好ましい。Aセグメントの大部分、又は2つ超が、13~15アミノ酸残基を含み、Aセグメントの少数(例えば1又は2)が、8~18アミノ酸残基(例えば、8~12又は16~18アミノ酸残基)を含むことも可能である。これらのアミノ酸残基の大部分は、アラニン残基である。より具体的には、0~3アミノ酸残基は、アラニンではなく、残りのアミノ酸残基は、アラニン残基である。従って、各個々のAセグメントにおける全てのアミノ酸残基は、例外を除いて、又は1、2若しくは3アミノ酸残基を除いて(何れかのアミノ酸であり得る)、アラニン残基である。アラニン置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、グルタミン酸、システイン及びグリシンの群から個々に選択され、より好ましくはセリンが選択される天然アミノ酸であることが好ましい。当然ながら、1つ以上のAセグメントは、全てアラニンセグメントであるが、残りのAセグメントは、セリン、グルタミン酸、システイン又はグリシン等の1~3個の非アラニン残基を含む可能性がある。
【0061】
一実施形態において、各Aセグメントは、上記のように10~15個のアラニン残基及び0~3個の非アラニン残基を含む13~15アミノ酸残基を含む。より好ましい一実施形態において、各Aセグメントは、上記のように12~15のアラニン残基及び0~1の非アラニン残基を含む。
【0062】
各個々のAセグメントは、配列番号5の7~19、43~56、71~83、107~120、135~147、171~183、198~211、235~248、266~279、294~306、330~342、357~370、394~406、421~434、458~470、489~502、517~529、553~566、581~594、618~630、648~661、676~688、712~725、740~752、776~789、804~816、840~853、868~880、904~917、932~945、969~981、999~1013、1028~1042及び1060~1073アミノ酸残基の群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは100%の同一性を有することが好ましい。この群の各配列は、対応するcDNAのクローニングから推定されるEuprosthenops australis MaSp1タンパク質の天然配列のセグメントに対応する(WO 2007/078239参照)。あるいは、各個々のAセグメントは、配列番号2の25~36、55~69、84~98、116~129及び149~158アミノ酸残基の群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは100%の同一性を有する。この群の各配列は、適切な条件下で、シルク繊維を形成する能力を有する発現された非天然スパイダーシルクタンパク質のセグメントに対応する。従って、スピドロインの特定の実施形態において、各個々のAセグメントは、上記アミノ酸セグメントから選択されるアミノ酸配列と同一である。何れかの特定の理論に拘束されることを望まないが、本発明によるAセグメントは、らせん構造又はベータシートを形成することが想定される。
【0063】
さらに、実験データから、各個々のGセグメントが、12~30アミノ酸残基であると結論付けられている。各個々のGセグメントは、14~23アミノ酸残基からなることが好ましい。各Gセグメントのアミノ酸残基の少なくとも40%は、グリシン残基である。典型的に、各個々のGセグメントのグリシン含量は、40~60%の範囲である。
【0064】
各個々のGセグメントは、配列番号5の20~42、57~70、84~106、121~134、148~170、184~197、212~234、249~265、280~293、307~329、343~356、371~393、407~420、435~457、471~488、503~516、530~552、567~580、595~617、631~647、662~675、689~711、726~739、753~775、790~803、817~839、854~867、881~903、918~931、946~968、982~998、1014~1027、1043~1059及び1074~1092アミノ酸残基の群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは100%の同一性を有することが好ましい。この群の各配列は、対応するcDNAのクローニングから推定されるEuprosthenops australis MaSp1タンパク質の天然配列のセグメントに対応する(WO 2007/078239参照)。あるいは、各個々のGセグメントは、配列番号2の1~24、37~54、70~83、99~115及び130~148アミノ酸残基の群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは100%の同一性を有する。この群の各配列は、適切な条件下で、シルク繊維を形成する能力を有する発現された非天然スパイダーシルクタンパク質のセグメントに対応する。従って、スピドロインの特定の実施形態において、各個々のGセグメントは、上記アミノ酸セグメントから選択されるアミノ酸配列と同一である。
【0065】
特定の実施形態において、各Gセグメントの最初の2アミノ酸残基は、-Gln-Gln-ではない。
【0066】
Gセグメントには、3つのサブタイプがある。この分類は、Euprosthenops australis MaSp1タンパク質配列(WO 2007/078239参照)の慎重な分析に基づいており、当該情報は、新規な非天然スパイダーシルクタンパク質の構築において採用され且つ、確認されている。
【0067】
Gセグメントの第1のサブタイプは、アミノ酸一文字のコンセンサス配列GQG(G/S)QGG(Q/Y)GG (L/Q)GQGGYGQGA GSS (配列番号6)によって表される。この第1の、典型的に23アミノ酸残基を含む一般的に最長のGセグメントサブタイプは、わずか17アミノ酸残基しかなく、荷電残基を欠くか又は1つの荷電残基を含み得る。従って、この第1のGセグメントサブタイプは、17~23アミノ酸残基を含むことが好ましいが、12又は30個までのアミノ酸残基を含み得ると考えられる。何れかの特定の理論に拘束されることを望まないが、このサブタイプは、コイル構造又は31-らせん構造を形成することが想定される。この第1のサブタイプの代表的なGセグメントは、配列番号5の20~42、84~106、148~170、212~234、307~329、371~393、435~457、530~552、595~617、689~711、753~775、817~839、881~903、946~968、1043~1059及び1074~1092アミノ酸残基である。特定の実施形態において、本発明によるこの第1のサブタイプの各Gセグメントの最初の2アミノ酸残基は、-Gln-Gln-ではない。
【0068】
Gセグメントの第2のサブタイプは、アミノ酸一文字のコンセンサス配列GQGGQGQG(G/R)Y GQG(A/S)G(S/G)S (配列番号7)によって表される。この第2の一般的に中程度の大きさのGセグメントサブタイプは、典型的に17アミノ酸残基を含み、荷電残基を欠くか又は1つの荷電残基を含む。この第2のGセグメントサブタイプは、14~20アミノ酸残基を含むことが好ましいが、わずか12又は30個までのアミノ酸残基を含み得ると考えられる。何れかの特定の理論に拘束されることを望まないが、このサブタイプは、コイル構造を形成することが想定される。この第2のサブタイプの代表的なGセグメントは、配列番号5の249~265、471~488、631~647及び982~998アミノ酸残基である。
【0069】
Gセグメントの第3のサブタイプは、アミノ酸一文字のコンセンサス配列G(R/Q)GQG(G/R)YGQG (A/S/V)GGN (配列番号8)によって表される。この第3のGセグメントサブタイプは、典型的に14アミノ酸残基を含み、一般的にGセグメントサブタイプにおいて最短である。この第3のGセグメントサブタイプは、12~17アミノ酸残基を含むことが好ましいが、23までのアミノ酸残基を含み得ると考えられる。何れかの特定の理論に拘束されることを望まないが、このサブタイプは、ターン構造を形成することが想定される。この第3のサブタイプの代表的なGセグメントは、配列番号5の57~70、121~134、184~197、280~293、343~356、407~420、503~516、567~580、662~675、726~739、790~803、854~867、918~931及び1014~1027アミノ酸残基である。
【0070】
従って、シルクコーティング中のスピドロインの好ましい実施形態において、各個々のGセグメントは、配列番号6、配列番号7及び配列番号8から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%同一性を有する。
【0071】
REPフラグメントのA及びGセグメントの交互配列の一実施形態において、全ての第2のGセグメントは、第1のサブタイプであるが、残りのGセグメントは、第3のサブタイプ、例えば、...A1GshortA2GlongA3GshortA4GlongA5Gshort...である。REPフラグメントの他の実施形態において、第2のサブタイプの1つのGセグメントは、挿入(例えば、...A1GshortA2GlongA3GmidA4GshortA5Glong...)を介してGセグメントの規則性を中断する。
【0072】
各個々のLセグメントは、任意のリンカーアミノ酸配列を表し、0~30アミノ酸残基、例えば、0~20アミノ酸残基を含み得る。このセグメントは、任意であり、スパイダーシルクタンパク質の機能にとって重要ではないが、その存在は依然として、繊維、フィルム、発泡体及び他の構造を形成する完全に機能的なスパイダーシルクタンパク質及びそのポリマーの形成を可能にする。Euprosthenops australis由来のMaSp1タンパク質の推定アミノ酸配列の反復部分(配列番号5)にリンカーアミノ酸配列も存在する。特に、リンカーセグメントのアミノ酸配列は、記載されたA又はGセグメントの何れかに類似し得るが、通常、本明細書で定義されるそれらの基準を満たすために十分ではない。
【0073】
WO 2007/078239で示したように、REPフラグメントのC末端部分に配置されたリンカーセグメントは、アラニンを富むアミノ酸一文字のコンセンサス配列ASASAAASAA STVANSVS(配列番号31)及びASAASAAA(配列番号32)によって表され得る。実際、第2の配列は、本明細書の定義によればAセグメントであるとみなされ得るが、第1の配列は、この定義に従ってAセグメントと高い類似性を有する。リンカーセグメントの他の例は、一文字アミノ酸配列GSAMGQGS(配列番号33)を有し、これはグリシンが豊富であり、本明細書の定義によりGセグメントと高い類似性を有する。リンカーセグメントの他の実施例は、SASAG(配列番号34)である。
【0074】
代表的なLセグメントは、配列番号5の1-6及び1093-1110アミノ酸残基; 及び配列番号2の159~165アミノ酸残基を含むが、これらのセグメントには多くの適切な代替アミノ酸配列があることを当業者は容易に認識し得る。REPフラグメントの一実施形態において、Lセグメントの1つは、0アミノ酸を含み、すなわち、Lセグメントの1つは、欠如している。REPフラグメントの一実施形態において、両方のLセグメントは、0アミノ酸を含み、すなわち、両方のLセグメントは、欠如(void)している。従って、本発明によるREPフラグメントのこれらの実施形態は、以下のように概略的に表され得る: (AG)nL、(AG)nAL、(GA)nL、(GA)nGL; L(AG)n、L(AG)nA、L(GA)n、L(GA)nG; 及び(AG)n、(AG)nA、(GA)n、(GA)nG。これらのREPフラグメントの何れも以下に定義する何れかのCTフラグメントとの使用に適している。
【0075】
細胞足場材料において選択的であるが好ましいCTフラグメントは、スパイダーシルクタンパク質のC末端アミノ酸配列と高い類似性を有する。WO 2007/078239に示したように、このアミノ酸配列は、MaSp1、MaSp2及びMiSp(マイナーアンプレートスピドロイン)を含む種々の種及びスパイダーシルクタンパク質の間でよく保存されている。MaSp1及びMaSp2のC末端領域のコンセンサス配列は、配列番号4として提供される。
図10において、表1に示されるMaSpタンパク質(配列番号38~68)は、該当する場合にはGenBankアクセッションエントリーで並べられ、示される。
【0076】
【0077】
特定のCTフラグメントが、細胞足場材料中のスパイダーシルクタンパク質に存在することは重要ではない。従って、CTフラグメントは、
図10及び表1に示されるアミノ酸配列の何れか、又はAraneus ventricosus (Genbank エントリー AFV 31615)由来のMiSp CTフラグメント(配列番号69)等の高い類似性を有する配列から選択され得る。スパイダーシルクタンパク質には、多種多様なC末端配列を用いることが出来る。
【0078】
CTフラグメントの配列は、コンセンサスアミノ酸配列(配列番号4)に対し少なくとも50%の同一性、好ましくは少なくとも60%の同一性、より好ましくは少なくとも65%の同一性、又は少なくとも70%に等しい同一性を有し、これは、
図10のアミノ酸配列に対応する。
【0079】
代表的なCTフラグメントは、Euprosthenops australis配列の配列番号3又は配列番号2のアミノ酸残基166-263である。他の代表的なCTフラグメントは、MiSp配列の配列番号69である。従って、一実施形態において、CTフラグメントは、配列番号3、配列番号2の166-263アミノ酸残基、
図10及び表1、又は配列番号69の何れかの個別のアミノ酸配列に対し少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%の同一性を有する。例えば、CTフラグメントは、配列番号3、配列番号2の166-263アミノ酸残基、
図10及び表1の何れかの個々のアミノ酸配列、又は配列番号69と同一であり得る。
【0080】
CTフラグメントは、典型的には、70~120アミノ酸残基からなる。CTフラグメントは、少なくとも70、又は80超、好ましくは90超のアミノ酸残基を含むことが好ましい。また、CTフラグメントは、多くとも120、又は110未満のアミノ酸残基を含むことが好ましい。典型的なCTフラグメントは、約100アミノ酸残基を含む。
【0081】
本明細書で用いられる用語「%同一性」は、以下のように計算される。クエリー配列は、CLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson et al, Nucleic Acids Research, 22:4673-4680 (1994))を用いて標的配列に整列される。整列された配列の最短に対応するウィンドウにわたって比較が行われる。各位置のアミノ酸残基を比較し、標的配列中に同一の対応を有するクエリー配列における位置のパーセンテージを%同一性として報告する。
【0082】
本明細書で用いられる用語「%類似性」は、Ala、Val、Phe、Pro、Leu、Ile、Trp、Met及びCysが類似していること; 塩基性残基Lys、Arg及びHisが類似であること; 酸性残基Glu及びAspが類似であること; 及び親水性の非荷電残基Gln、Asn、Ser、Thr及びTyrが類似することを除いて、上記の「%同一性」として記載される。残りの天然アミノ酸Glyは、この状況において、他のアミノ酸の何れかと類似しない。
【0083】
この説明を通して、本発明による代替の実施形態は、特定の同一性のパーセンテージの代わりに、対応する類似性のパーセンテージを満たす。他の代替の実施形態は、各配列の同一性の好ましいパーセンテージの群から選択される、特定のパーセンテージ並びに類似性の他のより高いパーセンテージを満たす。例えば、配列は、他の配列と70%類似し得る; 又は他の配列と70%同一であり得る; 又は他の配列と70%同一であり得且つ、90%類似し得る。
【0084】
本発明による好ましい融合タンパク質において、REP-CTフラグメントは、配列番号2に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%同一性を有する。
【0085】
本発明による1つの好ましい融合タンパク質において、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29及び70の何れか1つに対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%同一性を有する。特定の好ましい実施形態において、本発明による融合タンパク質は、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29及び70の何れか1つである。
【0086】
機能的に露出された非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分は、この状況で曝すことが望ましい何れかの部分であり得、特に、本発明によるスパイダーシルクタンパク質に望ましい結合機能を提供することが出来る、細胞結合モチーフ又は他のペプチド/タンパク質であり得る。
【0087】
本発明において有用な特定の細胞結合ペプチドとしては、RGD、IKVAV(配列番号35)、YIGSR(配列番号36)、及び特にRGDが挙げられる。特に好ましい細胞結合ペプチドモチーフは、FNccモチーフ、すなわち、第3の上流残基として第1のCys及び第4の下流残基としての第2のCys残基に隣接する(CXXRGDXXXC; 配列番号37)、RGDモチーフである(配列番号11と比較して)。
【0088】
他の特定の有用なタンパク質は、ブドウ球菌タンパク質A及びその変異体、例えばZドメイン; レンサ球菌プロテインG及びその変異体、ビオチン及びその変異体; 及びストレプトアビジン及びその変異体を含む親和性ドメインである。
【0089】
特定の有用なタンパク質の他の群は、抗菌性ペプチド及びその変異体、例えばマガイニンI(magainin I)を含む。
【0090】
特定の有用なタンパク質の他の群は、キシラナーゼ(xylanase)及びディスパーションB(Dispersin B)を含む、酵素及びその変異体である。
【0091】
特定の有用なタンパク質の他の群は、FGF、FGF2、IGF1、EGF1、NGF1、VEGF及びそれらの変異体を含む、増殖因子及びその変異体である。
【0092】
特定の有用なタンパク質の他の群は、一本鎖可変フラグメント(scFV)、Fabフラグメント及びその変異体を含む組換え抗体フラグメント及びその融合体である。
【0093】
これに関連して、タンパク質は、標的分子に対して特異的結合親和性を有し、元の分子に対して少なくとも70%、例えば80%、85%、90%又は95%の同一性、又は少なくとも15アミノ酸残基、好ましくは少なくとも20、25又は30アミノ酸残基のウィンドウにわたるその部分の1つである場合、「変異体」であるとみなされる。
【0094】
関連する態様に従って、本発明は、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質の使用を提供し、ここで、前記組換えスパイダーシルクタンパク質は、機能的に露出された非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分を含む融合タンパク質である。好ましい非スピドロインタンパク質/ポリペプチド部分は、上記の通りである。
【0095】
第2の態様に従って、本発明は、高分子固体構造を形成することが出来る組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面を提供し、ここで、前記組換えスパイダーシルクタンパク質コーティングが、
前記組換えスパイダーシルクタンパク質と前記固体表面の間に共有結合を形成すること無く前記固体表面に吸着された前記組換えスパイダーシルクタンパク質の表面層; 及び
前記表面層上の前記組換えスパイダーシルクタンパク質の集合したシルク構造層;
を含む。
【0096】
スパイダーシルクタンパク質の従来の乾燥コーティングと比較して、水性溶液中でコーティングする本発明の方法によって提供される組換えスパイダーシルクタンパク質のコーティングは、いくつかの利点を有する:
・より均一なコーティング表面
・薄いコーティング(厚さが、空気乾燥したフィルムでの1~2μmに比べて、典型的に50nm未満)、これは必要なタンパク質の量を減少させ、より良好な直接的な接触感覚が得られる
・高い含水率で粘性のある他の層、これはコーティングを生きた組織により似せる。
【0097】
水性溶液中で固体表面を組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングする本発明の方法は、組換えスパイダーシルクタンパク質と固体表面の間の非共有結合によって形成される第1の層、及び第2の構造層の2層構造を有利に提供し、ここで、組換えスパイダーシルクタンパク質は、自発的に表面層上のシルク構造層に集合する。本発明によるスパイダーシルクタンパク質は、最初に表面層上に集合したシルク構造層を形成することにおいて、及び安定的に集合したシルク構造層の形成において、驚くほど効率的である。
【0098】
得られる2層構造の興味深い特性は、集合したシルク構造層が、表面層より粘性が高いことである。最初の表面層は、より少ない水しか含まず、従ってより硬く、集合したシルク構造層は、より多くの水を含み、より粘性が高い。これにより、例えば、周囲の組織により類似したインプラント及び炎症反応等のリスクを減少させるインプラント等のコーティングされた構造を形成する。2つの層の粘度は、水晶振動子マイクロバランスと散逸モニタリング(Quartz Crystal Microbalance with Dissipation Monitoring)(QCM-D)を用いてその散逸と周波数の比を比較することによって決定され得る。集合したシルク構造層は、最初の表面層よりも高い散逸対周波数の比を有し、好ましくは少なくとも2倍高く、及び典型的には5~10倍高い。
【0099】
集合したシルク構造層は、好ましくは20nm未満、例えば10~20nmの直径を有する、好ましくはナノフィブリルの物理的形態であり; 及び/又はここで、組換えスパイダーシルクタンパク質コーティングが、50nm未満、例えば10~40nmの合計の厚さを有する。
【0100】
固体表面を構成し得る好ましい材料が、本明細書に開示される。好ましい組換えスパイダーシルクタンパク質もまた、本明細書に開示される。
【0101】
好ましい実施形態において、本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面は、本発明による処理によって調製可能であるか、又は調製されている。
【0102】
固体表面は、好ましくは生体材料、インプラント又は医療装置の表面、より好ましくはインプラントの表面である。コーティングされた表面はまた、好ましくはインビトロでの細胞培養のためのマトリックスとしても有用である。本発明によるコーティングされた表面はまた、組織固定化、細胞培養、細胞分化、細胞工学及び細胞再生誘導のための足場としても有用である。これは、例えば、クロマトグラフィー、細胞捕捉、選択及び培養、活性フィルター、並びに診断等の分取及び分析分離手順にも有用である。
【0103】
一実施形態において、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質でコーティングされた固体表面は、組換えスパイダーシルクタンパク質コーティング上に付着して増殖する真核生物細胞をさらに含む。好ましい細胞タイプは、線維芽細胞及び内皮細胞、好ましくはヒト細胞、及びより好ましくはヒト初代細胞を含む。
【0104】
QCM-D、エリプソメトリー及びSPRにより本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質の表面吸着をリアルタイムで調べることにより、表面がタンパク質液に曝されている限り、これらのタンパク質は、自発的にシルクコーティング内に集合することが示された。コーティングは、0.5MのHCl、0.5MのNaOH、及び70%のエタノール並びにPBSとともに洗浄することに対し安定であった。これは、コーティングが滅菌され得、インビボ用途に使用され得る潜在能力を有することを意味する。タンパク質-表面の相互作用は、表面上に硬い初期タンパク質層を構築するが、その後、タンパク質-タンパク質の集合は、コーティング中に多量の水を取り込み、粘性層が生じる。タンパク質コーティングの表面トポグラフィーの調査は、タンパク質がナノフィブリル内に集合し、不均一な層を形成することを示し、これは、体内の結合組織の線維構造と比較され得る。フィブロネクチンモチーフ及び抗菌性ペプチドで機能化されたシルクタンパク質は、ポリスチレン、チタニウム、及びステンレス・スティール上にコーティングを形成することが出来る。コーティング方法は、体内で機能を改善するために、生理学的条件を用いてインプラント材料を機能化するために非常に有用である。両方のタイプの機能化されたシルクのコーティング上の線維芽細胞を培養することは、良好な細胞生存率を示した。同様の結果が、フィブロネクチンモチーフを有するシルクコーティング上の内皮細胞の培養から得られた。コーティング方法はまた、固体表面の多目的機能化を可能にするために非常に有用である。例えば、実質的に何れかの所望する親和性を有するIgG分子のFc部分は、Z部分との融合において、スパイダーシルクを有するコーティングに固定化され得る。
【0105】
本発明は以下において、以下の非限定的な例によってさらに説明される。
【実施例】
【0106】
実験セクション
材料
タンパク質は、E. coli BL21株で組換え生産され、クロマトグラフィーを用いて精製された。タンパク質は、他の条件が記載されていない場合、20mMトリス緩衝液、pH8.0で用いられた。タンパク質溶液は、吸着測定の間氷上に保持された。1-ウンデカンチオール(1-undecanethiol)(Sigma Aldrich)を含むアルキルチオール溶液が、99.5%エタノール(Solveco)中に2mM溶液として調製された。ペトリ皿片をトルエンに溶解することによって2%ポリスチレン溶液を調製した。
【0107】
水晶振動子マイクロバランスと散逸モニタリング(Quartz Crystal Microbalance with Dissipation Monitoring)
水晶振動子マイクロバランスと散逸モニタリング(QCM-D)は、ATカット水晶振動子の圧電特性を利用して、発振周波数の変化及び脈流電圧の印加による振動の散逸をモニターする。水晶センサー上に質量が吸着されると、周波数が減少し、散逸が増加する。散逸変化を周波数変化と比較することにより、吸着層の粘弾特性が評価され得る。
【0108】
タイプSS2343(Biolin Scientific)のチタニウム及びステンレス・スティールでコーティングされたQCM-Dセンサーは、製造業者の推奨に従って洗浄し、それ以上改変することなく使用された。金コーティングQCM-Dセンサーは、98%ギ酸中に10分間浸漬した後にMilli-Q水で十分にすすぐことから開始し、Harrick Plasma PDC-3XGプラズマクリーナーで最大出力での5分間のプラズマ処理、Milli-Q水、32%アンモニア、及び30%過酸化水素の6:1:1混合物中で80℃8分間インキュベートすることの3段階手順で洗浄された。Milli-Q水で十分にすすいだ後、表面を窒素ガス中で乾燥させ、アルキルチオール溶液中で一晩インキュベートした。過剰のアルキルチオールは、99.5%エタノールの5分間の超音波処理を5回繰り返すことによって除去された。機能付加は、DataPhysics OCA40機器上の各センサー上の2μlのMilli-Q水滴の接触角を測定することによって確認され、102°±2°の接触角を有する疎水性表面を示す。ポリスチレンセンサーは、製造業者の推奨に従って洗浄された金センサー上のトルエン中2%ポリスチレンのスピンコーティングによって調製された。
【0109】
QCM-D測定は、E4装置(Q-Sense)で行われた。フローは、20μl/分に設定され、温度は20.0℃に固定された。ベースラインが安定するまでシステムは、20mMトリスで平衡化された。同じ設定で、タンパク質コーティングの安定性が調査された。疎水性表面への120分間のタンパク質吸着及び20mMトリスでの60分間のすすぎの後、センサーを、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、並びに0.1及び0.5M水酸化ナトリウム、0.1及び0.5M塩酸、又は20%及び70%エタノールに提示した。各溶液は、センサー上に30分間流され、続いて触接20mMとトリスですすぎを行い、表面上のタンパク質量の変化に対応する正味の周波数の変化を評価するためにベースラインを回復する。
【0110】
エリプソメトリー
エリプソメトリーは、表面で反射する光の変更の変化をモニターする。タンパク質が、表面に吸着するにつれて、光の分極が変化する。これをモニタリングすることにより、屈折率及び吸着された質量の変化が、計算され得る。アルキルチオール機能化金センサーは、QCM-Dモニター用のE1装置(Q-sense AB)及び吸収中のコーティングのタンパク質の誘電特性の変化を記録するためのエリプソメーター(Physics Instruments)を用いた同時データ収集を可能にするためQ-Senseエリプソメトリーモジュールに取付けられた。
【0111】
エリプソメトリーでは、入射角65°で532nmのレーザーが用いられた。流速を25μ/分に設定した以外は、E4装置での測定と同じ設定を使用した。QToolsソフトウェア(Biolin Scientific)が用いられ、周波数及び散逸シフトから質量吸着を計算した。この技術では、コーティングに組み込まれた水が、信号の原因となっているため、これらの計算で得られた質量は、水分を含む質量である。エリプソメトリーソフトウェア(Plamen Petrov)及び3層モデルを用いてエリプソメトリーデータから乾燥質量が計算された。
【0112】
表面プラズモン共鳴
表面プラズモン共鳴(SPR)において、クリスタルチップ上の薄い金層にプラズモン共鳴が生じる入射角が、記録される。分子がチップ表面と相互作用すると、この角度が変化し、これは、屈折率の変化と相関し、それによってチップ表面に近い質量変化に間接的に相関する。
【0113】
ProteOn(商標)GLMセンサーチップが、ホルダーから取り外され、QCM-D金センサーを上記のように洗浄した。ProteOn(商標)XPR36 Protein Interaction Array System(Bio-Rad)を使用し、チップとラックの温度を25℃に設定し、流速を25μl/分に設定した。最大注入量を用い、所定の流速で960秒間のタンパク質注入を行った。3回のタンパク質注入を行った。各注入の後、自動シリンジ補充期間中にチップ上に20mMトリス緩衝液を流した。
【0114】
原子間力顕微鏡
QCM-D分析の後、吸着されたタンパク質を有するセンサーを原子間力顕微鏡イメージングに用いた。表面トポグラフィーは、試料上の選択された領域を走査している表面に近接したチップの偏差変化を測定することによって決定される。タンパク質コーティングは、Bruker Dimension FastScan装置でPeakForce Tappingモードを用いて20mMトリス緩衝液中でイメージ化された。ScanAsyst Fluid + tipsが用いられた。
【0115】
シルクコーティング上の細胞培養及び細胞播種
ヒト起源の小血管(ヒト真皮微小血管内皮細胞、HDMEC、Promocell)由来の一次内皮細胞を、5%FBSを含有する内皮細胞増殖培地MV2(Promocell)で培養した。ヒト初代真皮線維芽細胞(HDFn、ECACC、UK)を、5%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM F12中で培養した。細胞を、96ウェルプレート(Sarstedt Tc懸濁細胞)中のシルクコーティング上に5000/cm2で播種した。
【0116】
生存/死滅染色
2日目及び8日目に、細胞をPBSで洗浄し、生存細胞及び死滅細胞それぞれを培地中でCalcein-AM及びEthD-1(Live/dead Viability kit, Molecular probes)で30分間染色した。倒立蛍光顕微鏡(NikonTSi-u)を用い、倍率10倍で顕微鏡写真を撮影した。
【0117】
アラマーブルー(Alamar Blue)生存率アッセイ
0、3、8及び11日目の細胞生存率を、培養培地中1:10に希釈したアラマーブルーで2時間分析した。上清の蛍光強度をClarioStarプレートリーダーで励起/放射540/595で測定した。細胞を含まない培地をブランクとして使用し、これを値から差し引いた。ウェルは3連で行った。
【0118】
実施例1 シルクコーティング形成のリアルタイムモニタリングは、連続吸着を明らかにする
組換えスパイダーシルクタンパク質RepCT(配列番号2)が、それぞれ、QCM-Dセンサー及びSPRセンサーを用いて金表面上に流された。
図1は、アルキルチオール変性金センサーへのタンパク質吸着を示す。QCM-D(A)及びSPR(B)によって試験された0.1gのL-1RepCTの吸着、QCM-D(C)及びSPR(D)によって試験された0.1gのL-1プロテアーゼ3Cの吸着を示す。I、III及びVは、表面上でのタンパク質の流れの開始を示し、一方、時点II及びIVでは、表面を緩衝液ですすぐことを示す。
【0119】
RepCTをQCM-Dセンサー上を越える際に、2つの異なる相で表面上に吸着する(
図1A)。最初の数分間の間に、タンパク質-表面相互作用は、-23Hzの高周波数シフト(n=6、σ=4)及び表面層の形成をもたらす。不思議なことに、表面が、タンパク質の最初の表面層でコーティングされているとき、吸着は停滞しない。代わりに、バルクタンパク質は、表面吸着タンパク質と相互作用し、タンパク質-タンパク質相互作用を介してより厚いコーティングを構築する。この処理は、タンパク質がバルク中に存在する限り継続する。これをシルクの集合、すなわち、最初の表面層上に集合したシルク構造の形成と判断する。タンパク質溶液を緩衝液溶液と交換して表面をすすぐ際、センサーの周波数及び散逸は変化しないままであり、これは、コーティングの吸着質量及び粘弾特性が維持されることを意味する。従って、緩衝液流中にタンパク質が洗い流されず、タンパク質-タンパク質相互作用が安定していることを示している。
【0120】
同じ実験が、RepCTのサイズ(それぞれ、24kDa及び23kDa)及び主要な二次構造モチーフ(本明細書中のプロテアーゼ3Cに類似したPDB配列中の55%ベータシート、及びベータシート形成を起こしやすい領域のパーセンテージから予想されるように、シルク形態のRepCTにおける30~60%のベータシート)に類似する、非シルクタンパク質プロテアーゼ3Cを用いて行われた。プロテアーゼ3C吸着の最初の数分後、タンパク質-表面の相互作用により、これらのタンパク質は自己集合することができないので、これ以上吸着は起こらない(
図1C)。
【0121】
同じ吸着パターンが、RepCT及びプロテアーゼ3Cを用いたSPR分析において見られた。ここで、シリンジの容量は、各注入のための吸着時間を15分に制限した。長期間の吸着を試験する目的で、3回のタンパク質注入が、緩衝液すすぎの間(
図1B及びDにおける相II及びIV)に行われた(
図1B及びDにおける相I、III及びV)。QCM-Dで見られるように、プロテアーゼ3Cの吸着は飽和に達するが、タンパク質がバルク溶液で利用可能になるとすぐにRepCTの吸着が継続する。これらの実験は、継続する吸着挙動が、非集合タンパク質の飽和吸収とは異なるので、表面上への吸着時にシルクアの集合が起こることを明らかに示している。
【0122】
実施例2 集合処理の濃度依存性
組換えスパイダーシルクタンパク質RepCT(配列番号2)の集合処理の能動依存性が、金表面上にタンパク質濃度を増加させることによって試験された。
【0123】
図2の左のパネルは、疎水性アルキルチオール処理された金センサーへのRepCT吸着のQCM-D測定を示す。各矢印で、緩衝液を30分間表面上に流す。タンパク質濃度は、I)0.05mg/ml、II)0.1mg/ml、III)0.3mg/ml、及びIV)0.5mg/mlの各番号記されたように増加する。右側の画像は、同じ濃度のシルク繊維の光学顕微鏡写真である。スケールバーは、1.0mmである。
【0124】
RepCTの濃度を0.05~0.1、0.3、及び最終的に0.5mg/mlまで増加させると、表面を飽和させることなく、濃度が増加するごとに集合相で吸着が速くなる(
図2)。これは、観察された吸着パターンが、RepCTタンパク質の自己集合の性質に起因することを再度証明する。同じ同度依存性は、対応する濃度のタンパク質溶液から繊維形成に関し観察される(
図2)。
【0125】
実施例3 自己集合したシルクコーティングは、水分に富む
吸着層の粘弾特性は、散逸(D)対周波数(f)の比を用いてQCM-D測定から導かれ得る。硬い層の形成は、低いD値、従って低いΔD/Δfをもたらし、粘性層の形成は高いΔD/Δfをもたらす。組換えスパイダーシルクタンパク質RepCT(配列番号2)について、最初の吸着層は、0.014(n=6、σ=0.017)のΔD/Δfをもたらし、集合相においては、ΔD/Δfは、0.118(n=6、σ=0.017)である。従って、最初の表面層は硬質であり、連続したシルクの集合は、より粘性のある層、集合したシルク構造層をもたらす。
【0126】
シルクコーティングのこの粘弾特性は、周波数シフトに対する散逸をプロットすることによって、
図3に示される。
図3Aにおいて、RepCT(黒、長い曲線)及びプロテアーゼ3C(示された3組、より短い灰色曲線)の対応する周波数変化に対してQCM-Dセンサーへの吸着中の散逸の変化がプロットされた。ここで両方のタンパク質は、20mMトリス緩衝液中で用いられた。
図3Bにおいて、RepCTコーティングの含水量(点線)は、QCM-D測定(実線)からの水分を含んだ質量と同時エリプソメトリー測定(破線)からの乾燥重量の計算によって決定された。
【0127】
ゼロに近い周波数で、すなわち、コーティング形成の開始時に、散逸変化は、周波数変化よりもはるかに遅い。特定のポイントでは、カーブの傾きは、より高い値を採用し、これは測定の残りの部分が残っているが、高い散逸と周波数値をもたらす。この挙動は、プロテアーゼ3C吸着の散逸-周波数プロットと比較されるべきである(
図3A、3つの下の曲線は、プロテアーゼ3C吸着測定の3組に対応する)。これらのタンパク質は、RepCTが行うことが出来るように、自己集合して連続的にコーティングすることが出来ない。従って、これらの曲線は、決して-30Hz以下の周波数に達しない。傾きは、実験の主要部分では常に低く、硬いタンパク質層の形成を意味する。最小周波数に達した後、緩衝液すすぎの結果として傾きが、逆転される。これは、いくつかの緩く結合したタンパク質の除去であると判断され、同時に粘弾性をわずかに減少させる。
【0128】
同じ表面上の同時測定から得られたQCM-D及びエリプソメトリーデータから計算された吸着された質量を比較することによって、水の有無にかかわらず質量が抽出され得、タンパク質コーティング中の含水量が決定され得る(
図3B)。RepCTコーティングは、かなり高いD/f値に従って77%(n=3、σ=11)より高い水分含量を示すが、プロテアーゼ3C層の含水量は、40%(n=3、σ=10)である。
【0129】
実施例4 フィブリル構造へのシルクの集合
組換えスパイダーシルクタンパク質RepCT(配列番号2)のコーティングの構造が、顕微鏡を用いて視覚化された。アルキルチオール化された金センサーは、QCM-D測定において吸着後に原子間力顕微鏡でイメージ化された。
【0130】
図4は、トリス緩衝液中のAFMによって得られたアルキルチオール機能化金QCM-Dセンサー上の2分間吸着(A)及び12分間吸着(B)後のRepCTタンパク質のトポグラフィックイメージを示す。興味深いことに、タンパク質が、均一な層として吸着するのではなく、ナノフィブリルとして吸着することを発見した(
図4)。ナノフィブリルは、10~20nm幅であり、70~400nmの範囲の様々な長さで、見かけ上、真珠の列に似た糸状に積み重なる。
【0131】
実施例5 コーティングは、化学洗浄に対して安定である
組換えスパイダーシルクタンパク質RepCT(配列番号2)のコーティングのコーティング安定性は、PBS、0.1及び0.5MのHCl、0.1及び0.5MのNaOH、並びに20%及び70%エタノールをコーティング上に流すことにより、QCM-D測定中で評価された。これら洗浄の各々の間において、トリス緩衝液が表面上に流され、緩衝液バルクの効果を、コーティングの実際の変化から区別した。トリス緩衝液に戻した後の高い周波数への何れかの正味シフトは、タンパク質が洗い流されたことを示し得る。
【0132】
図5は、疎水性表面上のRepCT集合のQCM-D分析、続いて図表に記載されているように溶液でのすすぎを示す。すすぎ溶液がトリス緩衝液に変更された際を矢印で示す。
図5から明らかなように、何れかの洗浄工程の後に質量の損失は生じなかった。これは、シルクコーティングが、全ての試験溶液に対して安定であることを意味する。
【0133】
実施例6 インプラント表面の簡単で無化学的な機能付加
臨床的に関連するインプラント材料を機能化する可能性を評価するために、抗菌ペプチドマガイニンI(MAG-RepCT; 配列番号9)及びフィブロネクチンモチーフ(FNcc RepCT; 配列番号11)と融合した組換えスパイダーシルクタンパク質のそれぞれが用いられた。QCM-Dにより、ポリスチレン、チタニウム及びステンレス・スティールコーティングされたセンサー上にそれらを流しながら、各シルクタイプの吸着をリアルタイムで調べた。両方のシルクタイプは、何れかの前処理無しで全ての表面に良好に吸着することが出来た。
【0134】
図6は、FNcc-RepCT(A)及びMAG-RepCT(B)を用いたチタニウム(実線)及びステンレス・スティール(破線)上のシルクの集合のQCM-D試験を示す。集合する能力は、MAG-シルク及びFNcc-シルクの両方で保持され、非機能化シルクとして機能化シルク表面上に同様に良好なコーティング形成をもたらした。
【0135】
これは、臨床関連のインプラント材料の容易で非共有結合的な機能付加を可能にし、ここで、インビボでのインプラントの性能を改善することが出来るペプチドモチーフは、何れかの化学的な付着を必要とせずにインプラント表面上に固定化され得る。
【0136】
QCM-D技術は、種々のタイプ(MAG-RepCT、FNcc-RepCT及びZ-RepCT)のZ-RepCT(配列番号13)(Zドメインに融合された組換えスパイダーシルクタンパク質)、すなわち、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のタンパク質AのIgG結合ドメインBの操作されたアナログ、を用いて異なる化学的及び物理的特性を構成する他の表面をコーティングする可能性を調べるためにさらに用いられた。結果の要約を表2に示す。
【0137】
【0138】
実施例7 機能化コーティングは、インプラント表面との細胞相互作用を強化する
本発明による組換えスパイダーシルクコーティングの細胞適合性を評価する目的で、真皮由来のヒト線維芽細胞及び内皮細胞をコーティング上で11日間増殖させ、その間アラマーブルーによって増殖をモニターした(
図7A及びB)。2日及び8日後に、細胞は、生存細胞及び死滅細胞の存在を調査するために染色されたが、またマトリックス上の細胞形態及び細胞の広がりを可視化した(緑色染色)(
図7C及びD)。
【0139】
図7は、ポリスチレン上のFN
cc-RepCT(配列番号9)及びMAG-RepCT(配列番号11)のシルクコーティングにおける細胞生存率を示す。HDF(A)及びHDMEC(B)の細胞の数が示される。各シルクタイプのHDF(C)及びHDMEC(D)の2日目(d2)及び8日目(d8)の生存/死滅イメージが右側に示される。
【0140】
結果は、両方の細胞タイプが生き残り、シルクコーティング上で増殖することを示す。MAGシルク上で、線維芽細胞は、RepCTシルク(配列番号2)、すなわち、何れかの特定の機能を加えていない本発明による組換えスパイダーシルクタンパク質に非常に類似した増殖曲線を示すが、内皮細胞は、RepCTシルクと比較してMAG-RepCTシルク上でわずかに増殖が増加した。
【0141】
生存/死滅染色は、生存細胞の高いレベルを示し、両方のコーティングで偶然死滅した細胞のみを示した。線維芽細胞は、正常な形態でFNシルク及びMAGシルク上に広がって現れた。内皮細胞は、2日目にわずかな弱い広がりを示したが、培養期間中は改善し、細胞は、FNシルクほど高い集密ではないが、8日目に正常な形態を示した。この結果は、シルクコーティングが、細胞との相互作用を増強し、コーティングされた表面上での細胞の増殖及び生存を助けることが出来ると示唆している。
【0142】
実施例8 親和性シルク融合体のコーティング形成
親和性ドメインを有する3つの異なるシルク融合体; Z-RepCT、C2-RepCT及びABD-RepCTは、QCM-Dセンサーを用いて金表面上に個別に流された。Z-RepCT(配列番号13;
図8A)は、Zドメイン、すなわち、スタフィロコッカス・アウレウス由来のタンパク質AのIgG結合ドメインBの操作された類似体と融合した組換えスパイダーシルクタンパク質である。C2-RepCT(配列番号15;
図8B)は、ブドウ球菌タンパク質GのFc結合ドメインB1に由来するC2と融合した組換えスパイダーシルクタンパク質である。ABD-RepCT(配列番号17;
図8C)は、ブドウ球菌タンパク質Gに由来するアルブミン結合ドメインと融合した組換えスパイダーシルクタンパク質である。
【0143】
図8A~Cは、20mMトリス中の0.1mg/mlシルク融合タンパク質の典型的な吸着挙動を示す。時点Iにおいて、表面は、タンパク質溶液に曝され、時点IIにおいて、表面は緩衝液ですすがれる。まさに最初の数分間の間、タンパク質-表面相互作用は、表面層の形成のために速い周波数シフトをもたらす。その後、バルクタンパク質は、表面吸着タンパク質と相互作用して、タンパク質-タンパク質相互作用を介してより厚いコーティングを構築し、継続的な傾きの周波数シフトを示す。この処理は、バルク中にタンパク質が存在する限り継続されるが、表面が緩衝液ですすがれると周波数が安定する。
【0144】
Z RepCTコーティング(配列番号13; 8D)の維持された親和性を確認する目的で、SiO2表面が、最初にZ RepCT溶液(I)でコーティングされ、トリス(II)で洗浄され、その後、露出したZ部分の結合機能性を示すため、IgG(III)に曝した。結合したIgGは、トリス緩衝液(IV)の存在下で保持された。機能化コーティングは、最終的にHCl(V)で再生され、結合したIgGを除去した。
【0145】
実施例9 増殖因子シルク融合体のコーティング形成
増殖因子を有する2つの異なるシルク融合体; RepCT-FGF(配列番号19)及びIGF1-RepCT(配列番号21)が、QCM-Dセンサーを用いて金表面上に個別に流された。
図9は、20mMトリス中の0.1mg/mlのRepCT-FGFの典型的な吸着挙動を示す。時点Iで表面が、RepCT-FGFタンパク質溶液に曝され、時点IIで表面が、トリス緩衝液ですすがれた。
【0146】
まさに最初の数分間の間、タンパク質-表面の相互作用は、表面層の形成のために速い周波数シフトをもたらす。その後、バルクタンパク質は、表面吸着タンパク質と相互作用し、タンパク質-タンパク質相互作用を介してより厚いコーティングを構築し、継続的な傾きの周波数シフトを示す。この処理は、バルク中にタンパク質が存在する限り継続されるが、表面が、緩衝液ですすがれると周波数が安定する。
【0147】
コーティング内の機能化増殖因子を確認する目的で、内皮細胞は、補充された可溶性増殖因子を含む又は含まない既定の細胞培養培地中にポリスチレンウェル上に形成されたシルクコーティング上で培養された。細胞がコーティング上に付着し広がる能力は、迅速吸着アッセイを用いて分析された。培養1週間にわたりアラマーブルー生存率アッセイを繰り返し行い増殖挙動が分析された。これらのアッセイは、コーティング内の増殖因子が機能的であることを確認した。
【0148】
実施例10 抗菌シルク融合体のコーティング形成
抗菌配列を有する2つの異なるシルク融合体; DspB-RepCT(配列番号23; バイオフィルム中のグリコシドを加水分解する酵素ディスパーションBを含む)及びWGR-RepCT(配列番号25; 操作された抗菌ペプチドを含む)は、タンパク質-タンパク質相互作用を確認するために、金表面に流され、QCM-Dセンサーを用いて分析された。
【0149】
抗菌効果を調査するために、2種類の細菌(スタフィロコッカス・アウレウス及びシュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa))が、コーティングされた表面上でインキュベートされ、その後、生存/死滅染色及び生存細菌の割合を決定するために共焦点顕微鏡で分析された。
【0150】
実施例11 抗体フラグメントシルク融合体のコーティング形成
タンパク質吸着及びタンパク質-タンパク質相互作用を確認するために、scFVライブラリー由来の組換え抗体フラグメントと融合したシルクが金表面に流され、QCM-Dセンサーを用いて分析された。
【0151】
その標的抗原に結合する能力を確認するために、フルオロフォアで標識された抗原が、コーティングした表面に加えられ、その後、十分な洗浄が行われ、蛍光顕微鏡及びイメージ分析を用いた分析を行った。
【0152】
実施例12 酵素シルク融合体のコーティング形成
酵素キシラナーゼ(Xyl-RepCT; 配列番号27)と融合したシルクが金表面上に流され、QCM-Dセンサーを用いて分析し、タンパク質吸着及びタンパク質-タンパク質相互作用を確認した。
【0153】
コーティング中の酵素活性は、キシランの切断に関する比色アッセイを用いて検証された。簡単に説明すると、40mMのPNX(p-ニトロフェニル-キシロピラノシド(p-nitrophenyl-xylopyranoside))基質を加え、続いて、例えば50℃、10分~一晩インキュベートする。次に、各フィルムに100μlの停止液(0.5M Na2CO3)を加え、410nmの吸光度を測定し、酵素反応から生成物を同定した。
【0154】
実施例13 ストレプトアビジンシルク融合体のコーティング形成
タンパク質-タンパク質相互作用を検証するために、モノマーストレプトアビジン(M4-RepCT; 配列番号29)と融合したシルクが、金表面上に流され、QCM-Dセンサーを用いて分析された。
【0155】
ビオチン化分子の結合を検証するために、コーティングが、Atto-565-ビオチンを含む溶液と共にインキュベートされた。十分に洗浄した後、結合した標識されたビオチンの存在を調べるために、逆Nikon Eclipse Ti装置(563nmで励起、592nmで放射)を用いて蛍光顕微鏡分析に供した。
【0156】
【0157】
実施例14 細胞結合モチーフに融合したシルクのコーティング形成
細胞培養用のコーティングは、96ウェル非処理プレート(Sarstedt)中で0.5時間滅菌濾過したFNcc-RepCT(MiSp)-シルクタンパク質(配列番号70)(0.3g L-1)をインキュベートすることによって調製された。液体を、除去し、ウェルを、トリス緩衝液(20mM)で2回洗浄し、滅菌条件で一晩乾燥させた。
【0158】
ヒト起源の毛細血管由来の一次内皮細胞(HUVEC、PromoCell)は、ウシ胎仔血清(FBS、5%)を含む内皮細胞増殖培地MV2(PromoCell)で培養された。細胞は、6継代で使用され、コントロールとして非コーティングウェルを有する96ウェルプレートのシルクコーティング上に5000/ウェルで播種した。細胞は、制御されたCO2レベル(5%)及び湿度(95%)、37℃で培養された。
【0159】
1日目、4日目及び7日目の細胞の生存率は、培養培地中で1:10に希釈されたAlamarBlue(登録商標)Cell Viability Reagent (Invitrogen)で2時間分析された。上清の蛍光強度は、CLARIOstarマイクロプレートリーダー(BMG LABTECH GmbH)で、励起= 540nm及び放射= 595nmで測定された。細胞を含まない培地中のアラマーブルーをブランクとして用い、値から差し引いた。ウェルは、3連で行った。
図11は、FN
cc-RepCT(MiSp)-シルクタンパク質のコーティングが、細胞の増殖を促進するが、コーティング無しのコントロールウェルは、細胞培養を助けないことが明らかである増殖曲線のグラフを示す。
【0160】
9日目において、細胞は、PBSで洗浄され、それぞれ、生存細胞及び死滅細胞の検出のための培地中のカルセイン-AM及びエチジウムホモダイマー-1(LIVE/DEAD(登録商標) Viability/Cytotoxicity Kit L3224, Molecular Probes)で30分間染色された。顕微鏡写真は、倒立蛍光顕微鏡(Nikon Ti-S)にて倍率10倍で撮影した。
図11の上部の顕微鏡写真に見られるように、FN
cc-RepCT(MiSp)-シルクコーティングウェルは、生存細胞で覆われており、死滅細胞は、ほとんど見られない(下部顕微鏡写真)。
【0161】
実施例15 C末端ドメインを欠くスピドロインのコーティング形成
何れかのC末端(CT)ドメインを欠くタンパク質Rep(配列番号71)の溶液が、QCM-Dセンサーを用いて金表面に流された。
図12Aは、20mMトリス中の0.3mg/ml Repの典型的な吸着挙動を示す。20mMトリス緩衝液で平衡化した後、表面をタンパク質溶液に曝した。まさに最初の数分間の間、タンパク質-表面の相互作用は、表面層の形成のために速い周波数シフトをもたらす。その後、バルクタンパク質は、表面吸着タンパク質と相互作用し、タンパク質-タンパク質相互作用を介してより厚いコーティングを構築し、連続した傾きの周波数シフトとして示された。この処理は、タンパク質が、バルク中に存在する限り続く(140分)。これをシルクの集合、すなわちC末端ドメインを欠くスピドロインについても初期表面層へ集合したシルク構造層の形成と判断する。タンパク質溶液を緩衝溶液と交換して表面をすすぐと、センサーの周波数及び散逸は、変化しないままであり、これは、コーティングの吸着質量及び粘弾性が維持されることを意味する。
【0162】
Repタンパク質を45分間吸着させた表面を原子間力顕微鏡法イメージングに用いた。表面トポグラフィーは、試料上の選択された領域を走査している表面に隣接したチップの変更変化を測定することによって決定される。タンパク質コーティングは、
図12Bに示すBruker Dimension FastScan装置にてPeakForceタッピングモードを用いて20mM Tris緩衝液中でイメージ化した。ScanAsyst Fluid+ tipsが用いられた。原繊維状(fibrillar)のコーティングが、観察され得るが、C末端ドメインを有するスピドロインの対応するコーティングよりも均一ではない。
【0163】
実施例16 細胞培養用途のための組換えスパイダーシルクタンパク質のフィルム及び湿式コーティング
精製後、組換えスパイダーシルクタンパク質RepCT(配列番号2)及びRGD-RepCT(配列番号72)の溶液は、濾過滅菌され(0.22μm)、遠心濾過(Amicon Ultra, Millipore)により濃縮された。
【0164】
フィルムは、96ウェル細胞培養プレート(Sarstedt、懸濁細胞用)に0.3mg/mlのタンパク質濃度の溶液を注入し、滅菌条件下で25℃及び30%相対湿度(rh)で一晩乾燥させることによって調製された。液体を除去する前に、2時間0.3mg/mlのタンパク質溶液で培養ウェルを覆うことにより、湿式コーティングが、本発明による方法により調製された。フィルム及びコーティングされた表面の両方は、滅菌20mMリン酸緩衝液(pH 7.4)で2回洗浄され、細胞播種の前に5% CO2にて37℃、1時間、完全培養培地で前培養された。
【0165】
若年包皮(HDF)(ECACC)由来の一次ヒト真皮線維芽細胞は、5%ウシ胎仔血清(Sigma)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(VWR)を添加したDMEM F12ハム(Sigma)で培養された。解凍後、細胞を7日間増殖させ、細胞生存率を、20,000生存細胞/ cm2で播種する前にトリパンブルーでチェックされた。細胞は、フィルム又はコーティングに1時間、細胞インキュベーター中で接触させた後、予め加熱したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で2回穏やかに洗浄し、次いで96%エタノールで10分間固定した。水で3回洗浄した後、細胞が、0.1%クリスタルバイオレットで30分間染色された。水中で十分に洗浄した後、プレートを乾燥させた。
【0166】
フィルムに結合した細胞の付着及び形態は、倒立顕微鏡で2倍及び10倍の倍率で撮影することによって記録された。次いで、この着色を、20%酢酸40μLに10分間溶解し、35μLの溶液を384ウェルプレートに移し、595nmでの光学密度測定(TECAN Infinite M200)に供した。
【0167】
接着した細胞の量は、同じタンパク質タイプ(WT60%、RGD100%)のフィルムとコーティングの間で同等であった。しかしながら、フィルムの剥離した部分が、多くの場合、観察され、特にフィルムの端部で観察された。この現象は、本発明による湿式コーティング法によって調製される対応するコーティングにおいては決して観察されなかった。
【配列表】