(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】直動案内ユニット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
F16C29/06
(21)【出願番号】P 2019013886
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】大石 真司
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 健一郎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/004488(WO,A1)
【文献】特開平8-312644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面U字状の軌道レール,及び前記軌道レール上に複数の転動体を介して相対摺動自在に配設された1枚の金属板から形成されたスライダから成り,
前記軌道レールは,底部,及び前記底部の両側に対向して長手方向に延びて立設され且つ前記転動体がそれぞれ転動する第1軌道溝が形成された一対の側部から構成され,前記スライダは,上部,前記上部の両側に対向して長手方向に延びて垂下した一対の袖部,及び前記上部から垂下して前記上部と前記袖部との両端面にそれぞれ位置する一対のエンドキャップ部から構成され,前記袖部には前記第1軌道溝に沿って延びる第2軌道溝と前記第2軌道溝に平行に延びるリターン路が形成され,前記第1軌道溝と前記第2軌道溝が共働して軌道路を形成し,前記エンドキャップ部には前記軌道路と前記リターン路とを連通する円弧状の方向転換路がそれぞれ形成され,前記転動体は,前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路から構成される循環路を転走することから成る直動案内ユニット。
【請求項2】
前記袖部の基部側には半円筒状に内向きに折り曲がった前記第2軌道溝が形成され,前記袖部の先端部側には円筒形状に折り曲がった前記リターン路が形成されていることから成る請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記リターン路を形成する前記円筒形状の長手方向端面に形成された開口は,前記転動体であるボールの径よりも小さく,前記袖部の前記第2軌道溝より内側に位置していることから成る請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記エンドキャップ部は,前記上部の端面から垂下して形成され,前記袖部の両端をそれぞれ覆って前記リターン路と前記軌道路とを連通する前記方向転換路がそれぞれ形成されていることから成る請求項1~3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記方向転換路の前記軌道路側の先端には,前記軌道路から前記方向転換路へ向かう前記転動体をすくい上げるすくい部が形成され,前記すくい部は前記軌道レールの前記第1軌道溝内にR状に突出可能に形成されていることから成る請求項1~4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
少なくとも前記スライダを形成する前記金属板は,実質的に同一の板厚であることから成る請求項1~5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記スライダの前記上部には相手部材を取り付けるための取付けねじ孔が形成され,前記取付けねじ孔は前記上部の一部を裏面側に突出させた円筒状のボス部の内周面に形成されており,前記軌道レールの前記底部には前記軌道レールをベースに取り付けるための取付孔が形成されていることから成る請求項1~6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の前記直動案内ユニットにおける前記スライダは,前記金属板における前記袖部を形成する袖部形成部分と前記エンドキャップ部を形成するエンドキャップ部形成部分との間には前記金属板を折り曲げるための切欠き部が形成されており,前記袖部と前記エンドキャップ部とは上部形成部分に対してプレス成形によってそれぞれ折り曲げ成形加工されることから成る直動案内ユニットの製造方法。
【請求項9】
前記軌道レール及び前記スライダの少なくとも一方は,表面硬化処理されていることから成る請求項8に記載の直動案内ユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,家具,玩具等の引出し,福祉車両の車椅子昇降装置等のスライド部等に適用され,軌道レールに対して長手方向に沿って相対移動可能なスライダを有する直動案内ユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,直動案内装置として,断面U字状の軌道レールと,複数の転動体を介して軌道レールに摺動自在に配設されたスライド部材とから構成された転がり案内装置が知られている。該転がり案内装置では,スライド部材は,金属プレート部材を折り曲げて成形され,横ウェブと該横ウェブの幅方向側面に位置する一対のフランジ部を有してチャンネル状に形成されている。各フランジ部にはボールの循環するトラック溝が形成されている。トラック溝は,ボールが荷重を負荷しながら転走する負荷直線溝と,該負荷直線溝を転走してきたボールを荷重から解放しながら方向転換させる一対のボール偏向溝と,一方のボール偏向溝から他方のボール偏向溝へボールを移送する無負荷直線溝とから構成されている。更に,上記転がり案内装置は,転動体が無負荷直線溝と偏向溝から落ちないように,無負荷直線溝と偏向溝を軌道レールに対向させて形成し,無負荷状態の転動体を軌道レールに摺接させながら移動する(例えば,特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,特許文献1に開示された転がり案内装置では,スライド部材は,荷重を負荷する転動体が転走する軌道路である負荷直線溝と,荷重から解放された転動体が転走する循環路である無負荷直線溝と,一方の直線溝から他方の直線溝へ転動体の転走方向を変える偏向溝とを備えており,これらの溝は,横ウェブの幅方向側面に位置する一対のフランジ部に全て形成されており,転動体を無限循環させるように構成されている。上記転がり案内装置は,部品点数を減らし,簡単に且つ安価にスライド部材を製造するため,スライド部材を1枚の金属板で形成することが記載されている。具体的には,金属板を断面U字状に折り曲げ,軌道レールの軌道溝に対向するフランジ部を形成し,切削加工,プレス成形,コイニング加工等により,フランジ部を凹ませて負荷直線溝,無負荷直線溝及び偏向溝によって楕円のトラック状の無限循環路が形成されている。そして,無負荷直線溝と偏向溝から転動体が落ちないように,無負荷直線溝と偏向溝を軌道レールに対向させて形成し,無負荷状態の転動体を軌道レールに摺接させながら移動する。しかしながら,上記転がり案内装置では,負荷直線溝から偏向溝に向かう転動体を掬い上げる構成を設けていないため,負荷直線溝と偏向溝との境界における転動体の転走が乱れ,スライダのスムーズな摺動が難しくなる恐れがある。
【0005】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,一枚の金属板を成形加工して形成されたスライダを備えた直動案内ユニットであって,同様に,軌道レールを一枚の金属板を成形加工して形成することもでき,特に,スライダの板厚が薄くなるような軌道溝や凹み等を切削加工で形成することなく,スライダをプレス加工や深しぼり加工等によって成形加工して取付けねじ孔を備えた上部,軌道溝とリターン路を形成した袖部,及び方向転換路を形成したエンドキャップ部から形成され,軌道溝,リターン路及び一対の方向転換路から成る循環路での転動体の摺動抵抗を増加させずに,スライダの軌道溝と軌道レールの軌道溝とから構成された軌道路から方向転換路へ向かう転動体がスムーズに転走することから成る直動案内ユニット及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は,断面U字状の軌道レール,及び前記軌道レール上に複数の転動体を介して相対摺動自在に配設された1枚の金属板から形成されたスライダから成り,
前記軌道レールは,底部,及び前記底部の両側に対向して長手方向に延びて立設され且つ前記転動体がそれぞれ転動する第1軌道溝が形成された一対の側部から構成され,前記スライダは,上部,前記上部の両側に対向して長手方向に延びて垂下した一対の袖部,及び前記上部から垂下して前記上部と前記袖部との両端面にそれぞれ位置する一対のエンドキャップ部から構成され,前記袖部には前記第1軌道溝に沿って延びる第2軌道溝と前記第2軌道溝に平行に延びるリターン路が形成され,前記第1軌道溝と前記第2軌道溝が共働して軌道路を形成し,前記エンドキャップ部には前記軌道路と前記リターン路とを連通する円弧状の方向転換路がそれぞれ形成され,前記転動体は,前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路から構成される循環路を転走することから成る直動案内ユニットに関する。
【0007】
また,この直動案内ユニットは,前記袖部の基部側には半円筒状に内向きに折り曲がった前記第2軌道溝が形成され,前記袖部の先端部側には円筒形状に折り曲がった前記リターン路が形成されている。
【0008】
また,前記リターン路を形成する前記円筒形状の長手方向端面に形成された開口は,前記転動体であるボールの径よりも小さく,前記袖部の前記第2軌道溝より内側に位置している。
【0009】
また,前記エンドキャップ部は,前記上部の端面から垂下して形成され,前記袖部の両端をそれぞれ覆って前記リターン路と前記軌道路とを連通する前記方向転換路がそれぞれ形成されているものである。
【0010】
また,この直動案内ユニットは,前記方向転換路の前記軌道路側の先端には,前記軌道路から前記方向転換路へ向かう前記転動体をすくい上げるすくい部が形成され,前記すくい部は前記軌道レールの前記第1軌道溝内にR状に突出可能に形成されている。
【0011】
また,この直動案内ユニットにおいて,少なくとも前記スライダを形成する前記金属板は,実質的に同一の板厚である。
【0012】
また,この直動案内ユニットは,前記スライダの前記上部には相手部材を取り付けるための取付けねじ孔が形成され,前記取付けねじ孔は前記上部の一部を裏面側に突出させた円筒状のボス部の内周面に形成されており,前記軌道レールの前記底部には前記軌道レールをベースに取り付けるための取付孔が形成されている。
【0013】
或いは,この発明は,上記直動案内ユニットにおける前記スライダは,前記金属板における前記袖部を形成する袖部形成部分と前記エンドキャップ部を形成するエンドキャップ部形成部分との間には前記金属板を折り曲げるための切欠き部が形成されており,前記袖部と前記エンドキャップ部とは上部形成部分に対してプレス成形によってそれぞれ折り曲げ成形加工されることから成る直動案内ユニットの製造方法に関する。
【0014】
また,この直動案内ユニットの製造方法において,前記軌道レール及び前記スライダの少なくとも一方は,表面硬化処理されている。
【発明の効果】
【0015】
この発明による直動案内ユニットは,上記のように,一枚の金属板をプレス加工によって簡単に成形加工したスライダ,及び断面U字状の軌道レールをから構成されている。軌道レールは,底部と該底部の対向する両側から立設させた一対の側部とから構成され.スライダは,軌道レールに複数の転動体を介して摺動自在に配設されている。軌道レールの側部にはそれぞれ転動体が転動する第1軌道溝を形成し,スライダを構成する袖部には第1軌道溝に対向した第2軌道溝と該第2軌道溝と平行なリターン路が形成され,スライダを構成するエンドキャップ部にはリターン路と第1軌道溝と第2軌道溝とで共働して形成された軌道路とを連通する方向転換路が形成されている。軌道路は,荷重を負荷する転動体が転走し,リターン路と方向転換路とは無負荷の転動体が転走するよう形成されている。転動体は,軌道路,リターン路及び一対の方向転換路から成る循環路を無限循環する。この発明の直動案内ユニットは,鋼板を折り曲げて形成したスライダを用いたものであり,従来のブロック状の金属固まりから切削加工で形成したスライダに比べると剛性は低くなるが,安価に形成でき,例えば,引出しのスライド部等に用いることが可能である。
【0016】
この直動案内ユニットの製造方法は,軌道溝,リターン路及び方向転換路を一枚の金属板を折り曲げ加工するだけで形成しているので,スライダを凹ませることなく,略同一の板厚に形成することができる。また,無負荷の転動体が転走するリターン路を円筒状に,方向転換路を円弧状に形成して,それらの中を転動体が通過するようにしているため,リターン路と方向転換路との循環路では転動体を保持することができる。即ち,無負荷路を転走する転動体は,スライダのみで保持することができ,転動体を他部材に押し当てて保持しないため,転動体を保持するための摺動抵抗を抑制することができる。更に,軌道路から方向転換路へ向かう転動体をすくい上げるすくい部が軌道路に対して張り出して設けられているため,軌道路の深い位置にすくい部を位置させることができ,軌道路から方向転換路へ向かう転動体をスムーズにすくい上げて転走させることができる。また,スライダは,第2軌道溝及び循環路が形成される袖部,方向転換路が形成されるエンドキャップ部を軌道レールの底部に向けてプレスで曲げる構成を採用しているため,袖部又はエンドキャップ部の少なくとも一方の基部に切込み部を設けることにより,袖部又はエンドキャップ部を曲げた影響が他方に伝わり難くできると共に,容易に折り曲げることができる。なお,軽量化のためスライダを薄い金属板で形成し,相手部材をスライダにねじで固定する場合に,薄板のスライダはねじ孔の深さを十分に確保できないことがある。しかしながら,この発明によれば,金属板を深絞りやバーリング加工により円筒状に突出させ,その突出部の内周面にねじ溝を形成してねじ孔としていることから,スライダの板厚よりもねじ孔の深さを深く構成することができ,相手部材をスライダに強固に締結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明による直動案内ユニットの一実施例を示し,軌道レールの側部の一部を切り欠いた状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の直動案内ユニットを示す平面図である。
【
図3】
図2の線分A-Aにおける直動案内ユニットを示す断面図である。
【
図4】
図1の直動案内ユニットから軌道レールを取り外した状態のスライダを示す側面図である。
【
図5】
図1の直動案内ユニットにおけるスライダを摺動方向の端部から見た側面図である。
【
図6】
図5の線分B-Bにおけるスライダを示す断面図である。
【
図7】
図1の直動案内ユニットにおけるスライダの製造工程を示す説明図である。
【
図8】
図7の(b)の線分C-Cにおける金属板に形成する取付孔の製造工程を説明する断面図である。
【
図9】
図7の(c)の線分D-Dにおける金属板に形成するリターン路の製造工程を説明する断面図である。
【
図10】
図7の(d)の金属板に形成する方向転換路の製造工程を説明する拡大側面図である。
【
図11】
図10の方向転換路を転動体の導入方向から見た拡大下面図である。
【
図12】
図1の直動案内ユニットにおける軌道レールの製造工程を示す説明図である。
【
図13】この直動案内ユニットにおけるスライダのリターン路にグリースを給油するミニグリースインジェクタの給油する一例を示す斜視図である。
【
図14】
図13における符号Eにおける領域の拡大斜視図である。
【
図15】
図13のスライダへの給脂状態を別の角度から見た状態であり,ミニグリースインジェクタのノズルをスライダに形成された隙間に差し込んだ状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニット及びその製造方法の実施例を説明する。
図1~
図6に示すように,この直動案内ユニットは,例えば,家具,玩具等の引出し等の摺動部に適用され,軌道レール1に対して長手方向に沿って相対移動するスライダ2を備えている。この直動案内ユニットは,特に,金属板9を断面U字状の樋状の凹部33に形成された軌道レール1,及び軌道レール1の断面U字状の凹部33内に配設され且つ複数の転動体であるボール3を介して相対摺動自在に配設された1枚の金属板10から形成されたスライダ2から構成されていることを特徴としている。
【0019】
軌道レール1は,基部を構成する底部5と,底部5の両側に対向して長手方向に延びて立設された一対の側部4とを有する形状に形成され,側部4にはそれぞれのボール3が転動する軌道溝11(第1軌道溝)が形成されている。軌道レール1は,例えば,クロムモリブデン鋼の平板状の金属板9をプレスでU字状に塑性変形させて断面樋状の凹部33が成形される。軌道レール1の底部5には,軌道レール1を構造物のフレーム,ベース(図示せず)等に取付ける際に,ボルト等が挿通される取付け孔17が複数形成されている。軌道レール1の両側即ち一対の側部4には,ボール3が転動可能な軌道溝11が各一条ずつ形成されている。軌道溝11は,軌道レール1の側部4を外側に湾曲状に膨出させ,内側が断面R状に形成されている。
【0020】
また,スライダ2は,例えば,クロムモリブデン鋼製の金属板10をプレス成形で塑性変形させて成形加工されている。スライダ2は,特に,1枚の金属板10から成形加工で形成されていることを特徴とする。スライダ2は,軌道レール1の断面U状部材の内側に配設され,ボール3を介して軌道レール1に沿って摺動移動できるように構成されている。スライダ2は,主として,上部6,その両側に対向して長手方向に延びて垂下した一対の袖部7,及び上部6から垂下して上部6と袖部7との両端部23にそれぞれ形成されたエンドキャップ部8を有している。スライダ2の袖部7には,軌道レール1の軌道溝11に沿って延びるそれぞれボール3が転走する軌道溝12(第2軌道溝)と軌道溝12に平行に延びるリターン路14が形成されている。エンドキャップ部8には,軌道溝11と軌道溝12とから構成される軌道路13とリターン路14とを連通する端部の突出部16として形成されている円弧状の方向転換路15が形成されている。この実施例では,方向転換路15の内側壁面は,袖部7の端部23で構成される。転動体のボール3は,軌道レール1に対するスライダ2の相対往復移動に対応して,軌道路13,リターン路14及びスライダ2の両端側の一対の方向転換路15から構成された循環路24を転走する。方向転換路15内をボール3がスムーズに転走するように,端部23の先端はR状に形成されている。
【0021】
また,この直動案内ユニットは,スライダ2の上部6には引出し等の相手部材を取り付けるための取付けねじ孔18が,例えば,各角部に1つずつ形成されている。取付けねじ孔18は,上部6の一部を裏面側に突出させた円筒状のボス部19の内周面に形成されている。各取付けねじ孔18は,取付部の裏面に向けて円筒状に突出するボス部19の内周面に,ねじ溝(図示せず)を形成したねじ孔である。また,袖部7の基部側には円弧状に内向きに折り曲がった軌道溝12が形成されており,袖部7の先端側には円筒形状に折り曲がったリターン路14が形成されている。リターン路14を形成する円筒形状の繋ぎ目の領域にはスリット状の開口である隙間25ができるが.この隙間25は,ボール3が落ちないようにボール3の径よりも小さく形成されている。また,隙間25には,例えば,
図13~
図15に示すように,ミニグリースインジェクタ35のノズル36を後述する切欠き部21,次いで隙間25に差し込んで,ノズル36からリターン路14に給脂することができる。リターン路14は,袖部7の軌道溝12より内側に位置している。また,スライダ2のエンドキャップ部8には,軌道レール1の底部5に向かって垂下して袖部7の両端部23をそれぞれ覆って方向転換路15がそれぞれ形成されている。また,この直動案内ユニットは,方向転換路15の軌道路13側の先端には,軌道路13から方向転換路15へ向かうボール3を掬い上げるすくい部20が形成され,すくい部20は,軌道レール1の軌道溝内11にR状に突出して配設されている。
【0022】
次に,この発明による直動案内ユニットの製造方法を,特に,
図7~
図10を参照して説明する。この発明による直動案内ユニットの製造方法において,スライダ2を作製する1枚の金属板10は,上部6を形成する上部形成部分26,袖部7を形成する袖部形成部分27,エンドキャップ部8を形成するエンドキャップ部形成部分28から打ち抜き加工等で形成されている。金属板10では,上部形成部分26とエンドキャップ部形成部分28との間には切欠き部21が切り込まれている。ここでは,スライダ2を形成するための金属板10は,打ち抜き等の加工によって,上部形成部分26,袖部形成部分27,及びエンドキャップ部形成部分28が形成されると共に,上部形成部分26とエンドキャップ部形成部分28との間には,切欠き部21が形成される。
【0023】
図7には,この直動案内ユニットの製造方法について,上記のように打ち抜かれた金属板10から製品のスライダ2までの製造工程〔ステップS1~ステップS4)が示されている。上記のような形状に打ち抜き加工された金属板10に対して,パンチ加工等で下孔を空け,下孔の位置をバーリング加工で裏面に突出させて,ボス部19(
図8参照)が形成される(ステップS1)。上部6を形成する取付けねじ孔18は,
図8に示すボス部19の内周面にねじ切りされて形成される。袖部7は,プレス成形によって折り曲げ成形加工が容易にできるように構成されている。
図9に示すように,袖部7には,軌道溝12とリターン路が折り曲げ成形加工によって形成される(ステップS2)。また,エンドキャップ部8の方向転換路15を形成するエンドキャップ部形成部分28は,絞り加工によって成形加工され(ステップS3),また,エンドキャップ部形成部分28は,
図10及び
図11に示すように,縁部31,折り曲げ部22によって形成される方向転換部15,及びすくい部20が形成される。次いで,エンドキャップ部8は,プレス成形によって折り曲げ成形加工が容易にできるように形成されている(ステップS4)。製造工程であるステップS1~ステップS4により,実質的に同一の板厚のスライダ2が形成される。
【0024】
また,スライダ2を形成する金属板10は,実質的に同一の板厚のものが使用されている。また,軌道レール1及びスライダ2の少なくとも一方は,軌道溝11,12の耐磨耗性を向上させて寿命を延ばすための表面硬化処理が施されている。また,軌道レール1は,1枚の金属板9の成形加工によって形成することができる。例えば,金属板9は,
図12に示すように,底部5とその両側に対向して長手方向に延びて立設された一対の側部4とによってプレス成形によってそれぞれ折り曲げ成形加工され,断面U字状の凹部33に形成され,側部4に形成された軌道溝11はプレス加工によって成形加工されている。
【0025】
この直動案内ユニットの製造方法において,1枚の金属板10は,スライダ2を構成する上部6を形成する上部形成部分26,上部形成部分26の幅方向両側に位置するスライダ2を構成する一対の袖部7を形成する袖部形成部分27,及び上部形成部分26の長手方向両端側に位置するスライダ2のエンドキャップ部8を形成するエンドキャップ部形成部分28に,打ち抜きプレス加工で形成されている。袖部形成部分27は,上部形成部分26の幅方向の両側部からプレスで上部6に対して実質的に角度90°で垂下させた袖部7に成形加工されている。即ち,袖部7と上部6とのなす角度は実質的に90°になっている。一対の袖部7と上部6によりスライダ2は,断面U字状に形成されている。各袖部7の基部29に近い位置には,プレスで半円弧状に成形された軌道溝12がそれぞれ形成されており,各軌道溝12は,ボール3と2点で接触するように形成されている。軌道溝12と,軌道レール1の軌道溝11とにより,荷重を負荷するボール3が転走する軌道路13が形成されている。軌道路13は,
図3に示すように,ボール3と4点接触する所謂ゴシックアーチ形状に形成されており,ボール3との接触角αが実質的に45°になっている。また,軌道路13は,ゴシックアーチ形状に限定されず,2点接触のサーキュラアーク形状,4点接触のV溝形状に形成することもできる。
【0026】
また,各袖部形成部分27の先端部30は,無負荷の転動体のボール3が転走可能なリターン路14が形成されている。リターン路14は,例えば,カーリング加工により,スライダ2の内側に袖部形成部分27を折り返して円筒状に丸めて形成されている。リターン路14の内径は,ボール3の直径より僅かに大きく設定され,ボール3とリターン路14との接触面積を小さくし,摺動抵抗を小さくしている。上部6の摺動方向両端には,U字のスライダ2の両端を閉塞するように配置されるエンドキャップ部がそれぞれ設けられている。各エンドキャップ部8には,軌道路13とリターン路14を連通する方向転換路15がそれぞれ設けられている。方向転換路15は,ボール3の進行方向を変える円弧状の通路部と,軌道路13から方向転換路15に導入されるボール3を掬い上げる掬い部20を有している。方向転換路15は,軌道路13とリターン路14とを連する即ち跨るように形成されている。方向転換路15の軌道路13側に位置する掬い部20は,軌道レール1の軌道溝11に向かって軌道路13にR状に突出する,言い換えると,軌道溝11の深い位置までに延びて形成されている。掬い部20が,軌道路13を転走するボール3を方向転換路15へ掬い上げることにより,ボール3を方向転換路15へとスムーズに転走するように形成されている。スライダ2には,軌道路13,一端側の方向転換路15,リターン路14,及び他端側の方向転換路15を転走して無限循環させる循環路24が形成されている。また,
図6に示すように,方向転換路15の内周側には,内周側から外周側に向かってR状に突出する端部の突出部16を形成しているため,軌道路13と方向転換路15,又はリターン路14と方向転換路15との接続部でボール3が引っかかることなく,方向転換路15の外周側に沿ってボール3がスムーズにガイドされるように構成されている。
【0027】
まず,
図12を参照して,この直動案内ユニットにおける軌道レール1の製造工程を説明する。軌道レール1の製造工程は,1枚の平板状の薄板である金属板9を打抜き加工により形成する。次いで,金属板9を予め決められた所定の金型でプレス成形により,側部形成部分32に軌道溝11を形成すると共に,図示していないが,必要な取付け孔17を打抜き加工で形成する(ステップS21)。次いで,予め決められた所定の金型でプレス成形により,側部形成部分32を底部形成部分34に対して実質的に90°折り曲げる(ステップS22)。この製造工程により,金属板9は,一対の側部4と底部5とから成る軌道レール1が成形される。
【0028】
次に,
図7を参照して,この直動案内ユニットにおけるスライダ2の製造工程を説明する。なお,
図7のスライダ2の製造方法を連続して行うという順送プレス加工で複数のスライダ2を連続製造することができる。スライダ2の製造工程は,1枚の平板状の薄板である金属板10を打抜き加工により,上部形成部分26,上部形成部分26の幅方向両側に位置する袖部形成部分27,及び上部形成部分26の長手方向両端側に位置するエンドキャップ部形成部分28から成る形状に形成される。金属板10における所定の形状に形成した上部形成部分26を,バーリング加工で
図10に示すように,円筒状に突出させてボス部19を形成する。ボス部19の内周面はタップ加工でねじ溝(図示せず)が形成される。これらの加工により相手部材を取付ける取付けねじ孔18を,スライダ2の上部6に形成することができる。このように金属板10を突出させたボス部19を取付けねじ孔18に形成しているため,金属板10の板厚より取付けねじ孔18を深く形成することができる。次に,取付けねじ孔18が形成された金属板10の袖部形成部分27には,基部29側に軌道溝12,及び先端側30にリターン路14が形成される。軌道溝12は,袖部7の基部側29を所定の金型でプレス成形により,
図9に示すように,断面円弧状(断面V字状)に凹ませるように折り曲げて形成されている。リターン路14は,袖部7の基部29側を所定の金型でプレス成形により,
図9に示すように,断面円筒状になるように丸めて形成されている。この際,リターン路14の円筒の繋ぎ目の隙間25をボール3が落下しない寸法に形成できる。これにより,リターン路14を転走するボール3がリターン路14から落下しないようにリターン路14に保持される。なお,軌道溝12とリターン路14をプレス成形で同時に形成する場合,又は軌道溝12とリターン路14とを別々に形成する場合のいずれの方法でも,軌道溝12とリターン路14を形成することができる。
【0029】
次に,
図9に示すように,袖部形成部分27に軌道溝12及びリターン路14が形成された金属板10に対して,プレス成形で方向転換路15を形成する。方向転換路15は,上部6の摺動方向両端に位置するエンドキャップ部形成部分28に形成されている。具体的には,上部6の両端をスライダ2の摺動方向に沿って延在して一対のエンドキャップ部8を形成し,そのエンドキャップ部8を,
図10及び
図11に示すように,プレス成形で円弧状に折り曲げる。これにより,ボール3の進行方向を転換する方向転換路15が形成される。方向転換路15が形成されたエンドキャップ部形成部分28を,上部形成部分26の摺動方向両端で上部形成部分26から垂下させることにより,方向転換路15が形成される。また,軌道溝12及びリターン路14が形成された袖部7を,上部6に対して略90°になるようにプレス成形で折り曲げて垂下させることにより,上部6と袖部7によりU字状に形成されたスライダ2となる。この際,エンドキャップ部8の基部に設けた切欠き部21により袖部7を折り曲げる時の力がエンドキャップ部8側に伝わらないようになっている。次に,上部6の両端のエンドキャップ部8を,軌道レール1の底部である底部5に向けて垂直に折り曲げる。これにより,スライダ2の摺動方向の両端,言い換えると,袖部7間を閉塞するように,エンドキャップ部8が配置される。具体的には,所定の金型や押さえ板を用いて,上部6に対して実質的に90°になるように,エンドキャップ部8を垂直に折り曲げる。この際,金属板10におけるエンドキャップ部8の基部に切欠き部21を形成しているため,エンドキャップ部形成部分28を容易に曲げることができる。
【0030】
また,上記の製造工程によりプレスで成形されたスライダ2は,浸炭焼入,焼き戻し,浸炭窒化,軟窒化処理,ハードクロムメッキ等の表面硬化処理を実施し,本実施例の板厚が略同一のスライダ2が形成されることになる。上述したように本実施例によれば,一枚の金属板10のみでスライダ2を成形できるため,スライダ2のコストを低減できると共に,直動案内ユニットに用いる部品点数を削減でき,ユニット自体のコスト低減,組立工数の削減,部品調達管理工数の削減を実現できる。加えて,一枚の金属板10をプレスで成形し板厚が実質的に同一のスライダ2を構成したため,板厚が薄い場所は生じない。従って,金属板10の板厚が薄くなることによるスライダ2の強度低下等の問題は発生しない。また,無負荷のボール3が転走するリターン路14を円筒状に形成し,リターン路14からボール3が落下しないようにしているため,リターン路14を転走するボール3を軌道レール1で押さえる必要はない。従って,リターン路14を転走するボール3が軌道レール1に摺接することによる摺動抵抗の増加を防止することができる。更に,軌道路13から方向転換路15へ向かうボール3を掬い上げる掬い部20を設けているため,軌道路13から方向転換路15へ向かうボール3をスムーズに循環させることができる。また,方向転換路15の基部に形成された切欠き部21により,袖部7の折り曲げ時の力が方向転換路15に伝わり難いと共に,エンドキャップ部8を容易に折り曲げることができる。なお,スライダ2の軽量化のため,スライダ2を薄い金属板10で形成し,相手部材をスライダ2に固定する場合に,薄板のスライダ2は,取付けねじ孔18の深さを十分に確保できないことがある。しかし,本発明によれば,金属板10をバーリング加工により円筒状に突出させ,その突出部即ちボス部19の内周面にねじ溝を形成して,取付けねじ孔18としていることから,スライダ2の板厚よりも取付けねじ孔18の深さを深く形成でき,相手部材を強固に締結することができる。
【0031】
また,本実施例の直動案内ユニットは,金属板9,10はクロムモリブデン鋼製であるが,これに限定されるものではなく,例えば,ステンレスを用いることができる。また,軌道溝12をより硬くする場合は,浸炭窒化処理の後に焼入れ,焼き戻し処理を行うこともできる。軌道レール1とスライダ2を熱処理なしに周知の表面処理を行いサビ対策することもできる。また,よりサビ対策が必要な場合は,SUS304等のオーステナイト系スレンレスやSUS430等のフェライト系のステンレスを用いることができる。また,方向転換路15の基部に設けた切欠き部21と同様の切欠き部を,袖部形成部分27との上部形成部分26との間に設けることもできる。また,軌道レール1の両端にストッパ(図示せず)を取り付け,軌道レール1からスライダ2が脱落しないように構成することができる。本実施例の直動案内ユニットには,潤滑油,グリース等の周知の潤滑剤を用いることができる。なお,袖部7とエンドキャップ部8とを溶接等で固定することにより,軌道路13,リターン路14,及び方向転換路15を強固に連結することもできる。また,本実施例の直動案内ユニットの製造方法は,上記に限定されず,周知のプレス成形を採用することができる。また,転動体は,ボールに限定されず円筒のころ(図示せず)を採用することができる。また,ボス部19は.深絞り加工等で形成することもできる。なお,軌道レール1はプレス成形による製作に限定されず,押出成形,引き抜き成形,ロール成形,スピニング加工,圧延加工,ロールフォーミング等の周知の加工方法で製造できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明による直動案内ユニット及びその製造方法は,例えば,家具,玩具等の引出し等,福祉車両の車椅子昇降装置等のスライド部に適用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0033】
1 軌道レール
2 スライダ
3 転動体(ボール)
4 側部
5 底部
6 上部
7 袖部
8 エンドキャップ部
9,10 金属板
11 軌道溝(第1軌道溝)
12 軌道溝(第2軌道溝)
13 軌道路
14 リターン路
15 方向転換路
18 取付けねじ孔
19 取付け孔のボス部
20 すくい部
21 切欠き部
24 循環路
25 隙間
26 上部形成部分
27 袖部形成部分
28 エンドキャップ部形成部分
29 基部
30 先端部
32 側部形成部分
34 底部形成部分