(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】回転体の振動計測装置、及び、振動計測システム
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20221101BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20221101BHJP
【FI】
G01H17/00 A
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2019015527
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大平 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】西野 宏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 領士
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054611(JP,A)
【文献】特開2010-160105(JP,A)
【文献】特開平9-119861(JP,A)
【文献】特開2016-080061(JP,A)
【文献】稲富隆昌、外2名,遠心力場における振動実験装置の開発,地震工学研究発表会講演概要,19巻,公益社団法人土木学会,1987年,p.329-p.332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に配置された少なくとも一つの加速度センサを用いて、前記回転体上に規定される回転座標系を構成する互いに直交する第1方向及び第2方向に沿った第1加速度及び第2加速度をそれぞれ取得する加速度取得部と、
前記少なくとも一つの加速度センサにおける前記第1方向に関する第1運動方程式と前記第2方向に関する第2運動方程式とを連立して解くことにより、前記第1方向及び前記第2方向における第1変位及び第2変位を、前記第1加速度及び前記第2加速度を含む関数としてそれぞれ算出し、前記関数に対して、前記加速度取得部で取得された前記第1加速度及び前記第2加速度の実測値を入力することにより、前記第1変位及び前記第2変位を算出することにより前記回転体の振動を算出する振動算出部と、
を備え、
前記第1運動方程式又は前記第2運動方程式の少なくとも一方には、前記回転体の角周波数に対応するコリオリ力が含まれる、回転体の振動計測装置。
【請求項2】
前記振動算出部は、前記第1変位及び前記第2変位が共通の角周波数を有する振動成分を含む条件下において前記第1運動方程式及び前記第2運動方程式を連立して解く、請求項1に記載の回転体の振動計測装置。
【請求項3】
前記加速度取得部で取得された前記第1加速度及び前記第2加速度を周波数分析することにより、前記第1加速度及び前記第2加速度の周波数成分を求める周波数分析部を更に備え、
前記振動算出部は、前記第1加速度及び前記第2加速度の前記周波数成分を前記関数に入力することにより、前記第1変位及び前記第2変位を算出する、請求項2に記載の回転体の振動計測装置。
【請求項4】
前記振動算出部は、前記少なくとも一つの加速度センサの質量m、前記第1変位ζ、前記第2変位η、前記第1加速度α
ζ、前記第2加速度α
η、及び、前記回転体の角周波数ω
rを用いて、前記第1運動方程式を次式
として求めるとともに、前記第2運動方程式を
として求める、請求項1から3のいずれか一項に記載の回転体の振動計測方法。
【請求項5】
前記少なくとも一つの加速度センサは、前記第1加速度及び前記第2加速度を測定可能な2軸加速度センサである、請求項1から4のいずれか一項に記載の回転体の振動計測装置。
【請求項6】
前記少なくとも一つの加速度センサは、前記回転体の外表面のうち前記回転体の中心部から見て互いに直交する位置にそれぞれ配置される2つの1軸加速度センサを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の回転体の振動計測装置。
【請求項7】
前記少なくとも一つの加速度センサは、前記回転体の外表面のうち前記回転体の中心部から見て互いに周方向に沿って90度離れて配置される4つの1軸加速度センサを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の回転体の振動計測装置。
【請求項8】
前記回転体は、静止系に対して相対的に回転可能に構成されており、
請求項1から7のいずれか一項の記載の回転体の振動計測装置は前記回転体に搭載されており、前記静止系との間で通信可能に構成される、回転体の振動計測システム。
【請求項9】
前記静止系には、前記振動計測装置から受信した測定結果を分析するための分析装置が設けられる、請求項8に記載の回転体の振動計測システム。
【請求項10】
前記振動計測装置は、前記静止系から非接触式で給電可能に構成される、請求項8又は9に記載の回転体の振動計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械に用いられる回転軸のような回転体の振動計測に用いられる振動計測装置、及び、振動計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ過給器、タービン、圧縮機などの回転機器では、異常又は異常の予兆の有無を診断するために回転体の振動状態を計測することがある。例えば特許文献1では、このような回転体の振動計測に関して、加速度計が内蔵された筐体を回転軸に固定しながら、回転中の回転軸に生じる振動を計測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、加速度計を回転体に取り付けることによって、回転軸の振動を計測している。このような加速度計を用いた振動計測では、加速度計が自ら有する質量が少なくともあるため、加速度計の計測値には、回転体の回転に起因するコリオリ力の影響が少なからず含まれる。このような影響は、振動計測の精度を低下させる一因となる。
【0005】
本発明の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、コリオリ力の影響を排除することにより、精度のよい振動計測が可能な回転体の振動計測装置、及び、当該振動計測装置を備える振動計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転体の振動計測装置は上記課題を解決するために、
回転体に配置された少なくとも一つの加速度センサを用いて、前記回転体上に規定される回転座標系を構成する互いに直交する第1方向及び第2方向に沿った第1加速度及び第2加速度をそれぞれ取得する加速度取得部と、
前記少なくとも一つの加速度センサにおける前記第1方向に関する第1運動方程式と前記第2方向に関する第2運動方程式とを連立して解くことにより、前記第1方向及び前記第2方向における第1変位及び第2変位を、前記第1加速度及び前記第2加速度を含む関数としてそれぞれ算出し、前記関数に対して、前記加速度取得部で取得された前記第1加速度及び前記第2加速度の実測値を入力することにより、前記第1変位及び前記第2変位を算出することにより前記回転体の振動を算出する振動算出部と、
を備え、
前記第1運動方程式又は前記第2運動方程式の少なくとも一方には、前記回転体の角周波数に対応するコリオリ力が含まれる。
【0007】
上記(1)の構成によれば、回転体上に設置される加速度センサについて、互いに直交する第1方向及び第2方向に対応する第1運動方程式と第2運動方程式とを算出する。第1運動方程式又は第2運動方程式の少なくとも一方には、前記回転体の角周波数に対応するコリオリ力が含まれるには、回転体の角周波数に対応するコリオリ力が含まれることから、これらを連立して解くことにより、加速度センサが設置された位置における振動変位(第1変位及び第2変位)をコリオリ力の影響を考慮して演算的に求めることができる。このように求められた第1変位及び第2変位は、それぞれ第1加速度及び第2加速度の関数として求められるため、加速度センサによって取得された第1加速度及び第2加速度の実測値を入力することにより、コリオリ力の影響が排除された真の振動変位として得られる。このように求められた振動変位を扱うことで、高精度な振動計測が可能となる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では上記(1)の構成において、
前記振動算出部は、前記第1変位及び前記第2変位が共通の角周波数を有する振動成分を含む条件下において前記第1運動方程式及び前記第2運動方程式を連立して解く。
【0009】
上記(2)の構成によれば、第1運動方程式及び第2運動方程式を連立して解く際に、第1変位及び第2変位が共通の角周波数を有する振動成分を含むことを条件とする。これにより、第1運動方程式及び第2運動方程式を連立して解くための演算を簡略化できる。その結果、演算負荷が軽減されるため、より簡易的な構成で振動計測装置を実現できる 。特に振動計測装置を回転体に搭載する場合には、簡易な構成が有利である。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では上記(2)の構成において、
前記加速度取得部で取得された前記第1加速度及び前記第2加速度を周波数分析することにより、前記第1加速度及び前記第2加速度の周波数成分を求める周波数分析部を更に備え、
前記振動算出部は、前記第1加速度及び前記第2加速度の前記周波数成分を前記関数に入力することにより、前記第1変位及び前記第2変位を算出する。
【0011】
上記(3)の構成によれば、回転体の振動が複数の周波数成分を含む場合には、加速度センサで取得した第1加速度及び第2加速度の実測値について周波数分析を行うことで、第1加速度及び第2加速度が有する周波数成分を把握する。そして、特定された周波数成分について関数に基づく第1変位及び第2変位を算出することで、複数の周波数成分にわたった振動を精度よく評価できる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では上記(1)から(3)のいずれか一構成において、
前記振動算出部は、前記少なくとも一つの加速度センサの質量m、前記第1変位ζ、前記第2変位η、前記第1加速度α
ζ、前記第2加速度α
η、及び、前記回転体の角周波数ω
rを用いて、前記第1運動方程式を次式
として求めるとともに、前記第2運動方程式を
として求める。
【0013】
上記(4)の構成によれば、第1運動方程式及び第2運動方程式として式(1)及び(2)を採用することで、コリオリ力を考慮した演算によって精度のよい振動計測が可能となる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では上記(1)から(4)のいずれか一構成において、
前記少なくとも一つの加速度センサは、前記第1加速度及び前記第2加速度を測定可能な2軸加速度センサである。
【0015】
上記(5)の構成によれば、2軸加速度センサを用いることにより、簡易な構成で、第1方向及び第2方向における第1加速度及び第2加速度の取得が可能である。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では上記(1)から(4)のいずれか一構成において、
前記少なくとも一つの加速度センサは、前記回転体の外表面のうち前記回転体の中心部から見て互いに直交する位置にそれぞれ配置される2つの1軸加速度センサを含む。
【0017】
上記(6)の構成によれば、1軸加速度センサを2つ用いることで、第1方向及び第2方向における第1加速度及び第2加速度の取得が可能である。この場合、2軸加速度センサに比べて安価な1軸加速度センサを利用して同等の構成を実現できるため、コスト的に有利である。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では上記(1)から(4)のいずれか一構成において、
前記少なくとも一つの加速度センサは、前記回転体の外表面のうち前記回転体の中心部から見て互いに周方向に沿って90度離れて配置される4つの1軸加速度センサを含む。
【0019】
上記(7)の構成によれば、4つの1軸加速度センサを用いて第1加速度及び第2加速度を互いに180度離れた位置で取得することで、これらの取得結果から回転体に生じるねじれ成分をキャンセルした振動計測が可能となる。
【0020】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転体の振動計測システムは上記課題を解決するために、
前記回転体は、静止系に対して相対的に回転可能に構成されており、
上記(1)から(7)のいずれか一構成の回転体の振動計測装置は前記回転体に搭載されており、前記静止系との間で通信可能に構成される。
【0021】
上記(8)の構成によれば、を回転体に搭載された振動計測装置で振動解析に関する演算を実施することで、静止系への通信量を低減できる。
【0022】
(9)幾つかの実施形態では上記(8)の構成において、
前記静止系には、前記振動計測装置から受信した測定結果を分析するための分析装置が設けられる。
【0023】
上記(9)の構成によれば、振動計測装置から受信した測定結果を、静止系に設けられた分析装置で分析することで、より詳細な振動解析が可能となる。
【0024】
(10)幾つかの実施形態では上記(8)又は(9)の構成において、
前記振動計測装置は、前記静止系から非接触式で給電可能に構成される。
【0025】
上記(10)の構成によれば、回転体に搭載された振動計測装置に対して静止系から非接触式で給電することで、上記システムを実現できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、コリオリ力の影響を排除することにより、精度のよい振動計測が可能な回転体の振動計測装置、及び、当該振動計測装置を備える振動計測システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の少なくとも一実施形態に係る振動計測装置の加速度センサの配置例を示す模式図である。
【
図2】
図1の振動計測装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の演算装置で実施される振動計測方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図4】
図2の周波数分析部で求められた第1加速度の周波数分析結果の一例である。
【
図7】本発明の少なくとも一実施形態に係る振動計測システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0029】
図1は本発明の少なくとも一実施形態に係る振動計測装置1の加速度センサ4の配置例を示す模式図であり、
図2は
図1の振動計測装置1の全体構成を示すブロック図である。振動計測装置1は、静止系に対して相対的に回転可能な回転体2を測定対象とする。回転体2は、ターボ過給器、タービン、圧縮機などの回転機械の回転要素である。
【0030】
振動計測装置1は、少なくとも一つの加速度センサ4を備える。
図1では、加速度センサ4として、2方向に沿った2つの加速度を計測可能な2軸加速度センサが用いられる。加速度センサ4は、回転体2の中心部2bを中心とする回転座標系において互いに直交するζ方向及びη方向に沿った第1加速度α
ζ及び第2加速度α
ηが測定可能に設置される。このように本実施形態では、加速度センサ4として2軸加速度センサを用いることにより、簡易な構成で、ζ方向及びη方向における第1加速度α
ζ及び第2加速度α
ηの取得が可能に構成される。
【0031】
振動計測装置1は、
図2に示すように、加速度センサ4で取得された加速度に基づいて回転体2の振動計測結果を演算するための演算装置10を備える。演算装置10は電子演算装置であり、例えば、所定のプログラムがインストールされることにより、本発明の少なくとも一実施形態に係る振動計測装置1として機能するように構成される。
尚、演算装置10にインストールされるプログラム、及び、当該プログラムが記録された記録媒体もまた本発明の範囲である。
【0032】
演算装置10は、加速度取得部11と、振動算出部14と、周波数分析部15と、を備える。尚、
図2に示す各ブロックは、互いに統合されていてもよいし、更に細分化されていてもよい。
【0033】
以下、上記構成を有する振動計測装置1を用いた振動計測方法について詳細に説明する。
図3は
図2の演算装置10で実施される振動計測方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0034】
まず加速度取得部11は、加速度センサ4で計測された第1加速度αζ及び第2加速度αηを取得する(ステップS1)。加速度取得部11は加速度センサ4に対して電気的に接続されており、加速度センサ4から送られる電気信号を受けることにより、第1加速度αζ及び第2加速度αηを取得可能に構成される。
【0035】
振動算出部14は、ζ方向に関する第1運動方程式、及び、η方向に関する第2運動方程式を算出する(ステップS2)。第1運動方程式は、加速度センサ4の質量m、第1加速度α
ζ、ζ方向に沿った加速度センサ4に作用する力成分f
ζ、ζ方向に沿った第1変位ζ、η方向に沿った第2変位η、回転体2の角周波数ω
rを用いて、次式
として求められる。式(3)の右辺は加速度センサ4に対して作用する力のζ方向成分を示しており、第1項は慣性力、第2項はコリオリ力にそれぞれ対応している。
一方の第2運動方程式は、第2加速度α
η、η方向に沿った加速度センサ4に作用する力成分f
ηを用いて、次式
として求められる。式(4)の右辺は加速度センサ4に対して作用する力のη方向成分を示しており、第1項は慣性力、第2項はコリオリ力、第3項は遠心力にそれぞれ対応している。
【0036】
式(3)及び(4)に示すように、第1運動方程式又は第2運動方程式の少なくとも一方には、回転体2の角周波数ω
rに対応するコリオリ力が含まれる。本実施形態では、ζ方向及びη方向を含む回転座標系を
図1に示すように規定したため、第2運動方程式のみにコリオリ力が含まれているが、回転座標系の規定次第によってコリオリ力は第1運動方程式のみに含まれていてもよいし、第1運動方程式及び第2運動方程式の両方に含まれていてもよい。
【0037】
尚、式(3)及び(4)に用いられる各パラメータは、不図示のメモリ等の記憶装置に予め記憶されているデータを読み出すことで取得される。
【0038】
振動算出部14は、第1運動方程式及び第2運動方程式を連立して解くことにより、ζ方向に沿った第1変位ζ、及び、η方向に沿った第2変位ηを、第1加速度α
ζ及び第2加速度α
ηを含む関数としてそれぞれ算出する(ステップS3)。振動算出部14はまず、式(3)及び(4)をそれぞれ以下のように変形する。
式(5)及び(6)において、右辺の第1項は第1変位ζ及び第2変位ηの二次微分成分を示しており、それぞれ真の第1加速度及び第2加速度に相当する。また式(5)及び(6)において、右辺の第2項はコリオリ力の影響を示している。
【0039】
続いてζ方向及びη方向における振動が共通の角周波数ωを有すると仮定すると、式(5)及び(6)はそれぞれ以下のように変形される。
ここでβ=ω
r/ωである。
【0040】
振動算出部14は、このように得られた式(7)及び(8)を連立して解くことにより、ζ方向に沿った第1変位ζの二次微分(真の第1加速度α
ζ)、及び、η方向に沿った第2変位ηの二次微分(真の第2加速度α
η)は、次式のように第1加速度α
ζ(実測値)及び第2加速度α
η(実測値)を含む関数として求められる。
【0041】
続いて振動算出部14は、加速度取得部11から第1加速度及び第2加速度の実測値αζ、αηを式(9)及び(10)にそれぞれ入力することにより、第1変位ζの二次微分、及び、第2変位ηの二次微分を算出する(ステップS4)。これらは、コリオリ力の影響が除外された真の第1加速度αζ及び第2加速度αηを意味し、良好な信頼性を有する。
尚、振動算出部14では、例えば、式(9)及び(10)に基づいて得られた第1変位ζ及び第2変位ηの二次微分値を積分処理することにより、振動を速度又は変位の観点から算出することで、他の解析演算が行われてもよい。
【0042】
ここで周波数分析部15は、加速度取得部11で取得された第1加速度α
ζ及び第2加速度α
ηを周波数分析することにより、第1加速度α
ζ及び第2加速度α
ηの周波数成分を求める。
図4は
図2の周波数分析部15で求められた第1加速度α
ζの周波数分析結果の一例である。
図4では、加速度センサ4によって第1加速度α
ζを連続的に取得した時系列変化について、FFT(フーリエ変換)処理を実施することで得られた周波数スペクトルが示されている。
図4に示すように、一般的に第1加速度α
ζは複数の周波数成分を含む周波数スペクトルを有しており、例えば周波数f1、f2において顕著なピークを含んでいる。周波数分析部15は、このような周波数スペクトルを求めることにより、加速度センサ4の検出値における周波数成分を分析し、第1加速度α
ζの各周波数成分を求める。
尚、
図4では第1加速度α
ζに対応する周波数スペクトルを示しているが、第2加速度α
ηについても同様の周波数スペクトルが得られ、周波数成分の分析が行われる(第1加速度α
ζと同様であるため、詳述は省略する)。
【0043】
振動算出部14では、周波数分析部15における周波数分析結果に基づいて得られた第1加速度αζ及び第2加速度αηの各周波数成分を上記関数式(9)及び(10)に入力することにより、第1変位ζ及び第2変位ηの二次微分値について各周波数成分を算出してもよい。このように第1変位ζ及び第2変位ηの二次微分値について各周波数成分を算出することで、それらに基づいて真の第1変位ζ及び第2変位ηの二次微分値(すなわち真の第1加速度αζ及び第2加速度αη)に関する周波数スペクトルを求めることができる。これにより、所定の周波数帯域にわたる第1加速度αζ及び第2加速度αηを精度よく算出することができる。
【0044】
図5は
図1の第1変形例である。第1変形例では、加速度センサ4として、回転体2の外表面2aのうち回転体2の中心部2bから見て互いに直交する位置にそれぞれ配置される2つの1軸加速度センサ4A、4Bが用いられている。1軸加速度センサ4A、4Bは互いに同等の構成を有しており、一方の1軸加速度センサ4Aはζ方向における第1加速度α
ζを取得可能に配置され、他方の一方の1軸加速度センサ4Bはη方向における第2加速度α
ηを取得可能に配置される。
【0045】
第1変形例では、このように配置された2つの1軸加速度センサ4A、4Bから取得した第1加速度αζ及び第2加速度αηを用いることで、上述の実施形態と同様に振動評価を行うことができる。一般的に1軸加速度センサは、前述の2軸加速度センサに比べて安価であるため、第1変形例ではコスト的に有利な振動計測装置1を実現できる。
【0046】
図6は
図1の第2変形例である。第2変形例では、加速度センサ4として、回転体2の外表面2aのうち回転体2の中心部2bから見て互いに周方向に沿って90度離れて配置される4つの1軸加速度センサ4A、4B、4C、4Dを含む。1軸加速度センサ4A、4Cは、回転体2の中心部2bから見て互いに180度離れた位置にあり、ζ方向に沿って互いに逆向きに配置されることで、それぞれ第1加速度α
ζA、α
ζCを取得可能に設置されている。一方の1軸加速度センサ4B、4Dは、回転体2の中心部2bから見て互いに180度離れた位置にあり、η方向に沿って互いに逆向きに配置されることで、それぞれη方向における第2加速度α
ηB、α
ηDを取得可能に設置されている。
【0047】
そのためζ方向における第1加速度α
ζは、1軸加速度センサ4Aで取得される信号α
ζAと、1軸加速度センサ4Cで取得される信号α
ζCとを用いて、次式で得られる。
一方でη方向における第2加速度α
ηは、1軸加速度センサ4Bで取得される信号α
ηBと、1軸加速度センサ4Dで取得される信号α
ηDとを用いて、次式で得られる。
【0048】
第2変形例では、このように求められた第1加速度αζ及び第2加速度αηを用いることで、ζ方向及びη方向におけるゆらぎ成分の影響を排除して、より精度の高い振動計測が可能となる。
【0049】
続いて上記構成(上述の各変形例を含む)を有する振動計測装置1を含む振動計測システム100について説明する。
図7は本発明の少なくとも一実施形態に係る振動計測システム100の概略構成図である。
【0050】
振動計測システム100は、静止系200と、静止系200に対して回転する回転系300とを備える。静止系200は、例えば地上などの静止したフィールドであり、振動計測装置1と通信を行うための静止側通信部210と、振動計測装置1に対して給電するための電源220と、静止側通信部210で受けたデータ類を分析するための分析装置230と、分析装置230の分析結果を表示するための表示装置240と、を備える。
【0051】
回転系300では、加速度センサ4と、上述の振動計測装置1と、振動計測装置1の計測結果を静止側通信部210との間で通信可能に構成された回転側通信部310と、電源220から給電される給電部320と、を備える。静止側通信部210と回転側通信部310とは、互いに無線ネットワークで通信可能に構成される。また電源220と給電部320とは、無線給電(非接触給電)可能に構成される。これにより、静止系200と回転系300との間で電力及び各種データの送受信が可能になっている。特に本構成では振動計測を行う振動計測装置1を回転体2に搭載することによって、主な振動解析に要する演算は回転系300側で実施される。そのため、静止側通信部210と回転側通信部310との間における通信量を効果的に低減できるように構成されている。
【0052】
尚、静止側通信部210で取得された回転側通信部310からの送信データは、分析装置230によって、より詳細に分析するとともに、その分析結果を表示装置240に表示することも可能である。これにより、回転体2の振動状態を的確にモニタリングすることができる。
【0053】
以上説明したように上述の実施形態によれば、コリオリ力の影響を排除することにより、精度のよい振動計測が可能な回転体2の振動計測装置1、及び、当該振動計測装置1を備える振動計測システム100を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の少なくとも一実施形態は、回転機械に用いられる回転軸のような回転体の振動計測に用いられる振動計測装置、及び、振動計測システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 振動計測装置
2 回転体
4 加速度センサ
10 演算装置
11 加速度取得部
14 振動算出部
15 周波数分析部
100 振動計測システム
200 静止系
210 静止側通信部
220 電源
230 分析装置
240 表示装置
300 回転系
310 回転側通信部
320 給電部