(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】全固体電池用負極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20221101BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20221101BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20221101BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/70 A
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2019015626
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】山野 裕飛
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142431(JP,A)
【文献】特開2010-250968(JP,A)
【文献】特開2018-074117(JP,A)
【文献】特開2013-026043(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/72
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質層と負極集電体とを有し、
前記負極活物質層は前記負極集電体に積層されており、
前記負極集電体は前記負極活物質層と接する面に凹凸構造を有し、
前記負極活物質層の厚さに対する前記凹凸構造の厚さの割合が20%~90%であ
り、
前記凹凸構造は複数の凸部と複数の溝部からなり、
前記溝部の幅が100μm~500μmであり、
前記溝部の間隔が1mm~5mmである、
全固体電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は全固体電池用負極を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、全固体電池において、ポーラス状の負極集電体の内部に負極活物質を備えることを開示している。特許文献2は、一定のパターンで表面に凹凸構造を設けた負極活物質を配置し、圧延し圧着することで該負極活物質を所定の面積及び厚さに保持する金属集電体の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-111924号公報
【文献】特開平07-272726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にはポーラスの径については開示されておらず、また特許文献2に凹凸構造の大きさについては開示されていない。そのため、負極活物質として、例えばSiのような膨張収縮率の大きい材料を使用した場合、電極積層体の積層方向への膨張収縮は拘束治具により抑制することは可能であるが、負極集電体の面方向への膨張収縮を抑制することができず、負極活物質の周囲に隙間が生じる虞がある。このような隙間が生じると、当該隙間にLiデンドライトが生成し、短絡を引き起こす場合がある。
【0005】
そこで、本願は、繰り返し充放電を行ったとしても短絡への信頼性が担保できる全固体電池用負極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、負極集電体に凹凸構造を設け、負極活物質層の厚さに対する凹凸構造の厚さの割合を20%~90%にすることにより、上記の課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本願は上記課題を解決するための一つの手段として、負極活物質層と負極集電体とを有し、負極活物質層は負極集電体に積層されており、負極集電体は負極活物質層と接する面に凹凸構造を有し、負極活物質層の厚さに対する凹凸構造の厚さの割合が20%~90%である、全固体電池用負極を開示する。
【発明の効果】
【0008】
本願が開示する全固体電池用負極によれば、繰り返し充放電を行ったとしても短絡への信頼性が担保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】実施例1~4、比較例1の負極活物質層の厚さに対する負極集電体の凹凸構造の厚さの割合に着目したグラフである。
【
図5】実施例5~8、比較例1、2の溝部の幅に着目したグラフである。
【
図6】実施例9~12、比較例1、3の溝部の間隔に着目したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0011】
[全固体電池用負極]
本開示の全固体電池用負極について、一実施形態である全固体電池用負極10を用いて説明する。
【0012】
全固体電池用負極10は、負極活物質層1と負極集電体2とを有し、負極活物質層1は負極集電体2に積層されており、負極集電体2は負極活物質層1と接する面に凹凸構造を有し、負極活物質層1の厚さに対する凹凸構造の厚さの割合が20%~90%であることを特徴とする。
図1に全固体電池10の断面概略図を示した。また、
図2に負極集電体2の平面図を示した。
【0013】
(負極活物質層1)
負極活物質層1は負極集電体2に積層されており、
図1に記載されているとおり負極活物質層1の一部が負極集電体2の凹凸構造に嵌入する構造となっている。
【0014】
負極活物質層1を構成する材料は少なくとも負極活物質及び固体電解質を含む。また、負極活物質層1は必要に応じて、導電材やバインダーを備えてもよい。また、その他の添加材を含むこともできる。
【0015】
負極活物質としては、特に限定されず全固体電池に使用可能な公知の負極活物質を用いることができ、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。ただし、全固体電池用負極10は、後述するように負極活物質の面方向への膨張が抑制可能であるため、Si等の膨張収縮率の大きい負極活物質の使用も好適である。Siは炭素材料よりも容量が高い一方でLiと反応したときの体積変化が3~4倍と非常に大きい。
【0016】
固体電解質としては、特に限定されず全固体電池に使用可能な公知の固体電解質を用いることができ、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。例えば、Li3PO4等の酸化物固体電解質やLi2S-P2S5等の硫化物固体電解質、LiBH4等の水素化物固体電解質を挙げることができる。イオン伝導度が高い等の観点から、これらの中でも硫化物固体電解質が好ましい。
【0017】
導電材としては、特に限定されず全固体電池に使用可能な公知の導電材を用いることができ、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)等の炭素材料やニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。
【0018】
バインダーとしては、特に限定されず全固体電池に使用可能な公知のバインダーを用いることができ、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、ブチレンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。
【0019】
負極活物質層1における負極活物質の含有量は特に限定されないが、10wt%~99wt%であることが好ましい。
負極活物質層1の厚さD1も特に限定されないが、0.1μm~1000μmであることが好ましい。ここで、負極活物質層1の厚さD1とは、負極活物質層1の負極集電体2側とは反対側の面から、負極活物質層1と溝部2bの底面との界面までの長さである。
【0020】
(負極集電体2)
負極集電体2は、
図1、
図2に記載されているとおり、負極活物質層1に接する面に凹凸構造を備えており、該凹凸構造は複数の凸部2aと複数の溝部2bからなる。溝部2bは、
図2のとおり、負極集電体2の縦方向(
図2の紙面上下方向)及び横方向(
図2の紙面左右)に所定の間隔毎で設けられ、全体として格子状になっている。凸部2aは該溝部2bによって形成されている。
【0021】
負極集電体2が凹凸構造を有することにより、溝部2bに嵌入した負極活物質層1の負極活物質の面方向への膨張を抑制することができる。凸部2aが負極活物質の膨張を妨げる壁となるためである。そのため、負極活物質の膨張収縮によって生じる隙間を抑制することができる。よって、全固体電池用負極10によれば、負極活物質の膨張収縮により生じた隙間にLiデンドライトが生成することを抑制できるので、繰り返し充放電を行ったとしても短絡への信頼性を担保することができる。
【0022】
ここで、負極活物質層1の厚さD1に対する凹凸構造の厚さD2(溝部2bの深さ)の割合は20%~90%であることが好ましい。より好ましくは60%~90%である。上記割合が20%未満であると、凸部2aが負極活物質の面方向への膨張を押さえる壁としての役割を十分に果たせず、負極活物質の面方向への膨張を抑制できない虞がある。上記割合が90%を超えると、負極集電体2bに嵌入していない部分の負極活物質層2aが薄くなりすぎ、電池として機能しなくなる虞が生じる。
【0023】
溝部2bの幅Wは100μm~500μmであることが好ましい。溝部2bの幅Wが100μm未満であると、負極活物質が溝部2bに入り込むことが難しくなり、負極活物質の面方向への膨張が抑制できない虞がある。溝部2bの幅Wが500μmを超えると、負極活物質の面方向への膨張を抑える凸部2aの数が少なくなり、負極活物質の面方向への膨張を十分に抑制できない。
【0024】
溝部2bの間隔Pは1mm~5mmであることが好ましい。より好ましくは2mm~3mmである。溝部2bの間隔Pが1mm未満であると、負極活物質の面方向への膨張抑制効果が低減する。溝部2bの間隔Pが5mmを超えると、負極活物質の面方向への膨張を押さえる凸部2aの存在頻度が下がり、負極活物質の面方向への膨張を十分に抑制できない。
ここで、溝部2bの間隔Pとは隣接する溝部2bの幅方向の長さの中点間の距離である。
【0025】
負極集電体2の厚さD3は特に限定されないが、10μm~40μmであることが好ましい。
ここで、負極集電体2の厚さD3とは、負極集電体2の凸部2aの負極活物質側の面から、負極集電体2の負極活物質層1側とは反対の面までの長さである。
【0026】
負極集電体2を構成する材料としては、公知の負極集電体の材料を用いることができる。例えば、SUS,Cu,Ni,Fe,Ti,Co,Zn等の公知の負極集電体の材料を用いることができる。好ましくはCuであり、より好ましくは電解銅である。
【0027】
このような負極集電体2の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属箔に格子状のフレーム治具を挟み込み、メッキを施して所定の厚みに成膜することにより作製することができる。
【0028】
以上、全固体電池用負極10について説明した。
本開示の全固体電池用負極によれば、繰り返し充放電を行ったとしても短絡への信頼性が担保できる。
【0029】
なお、本開示の全固体電池用負極の製造方法は、特に限定されず公知の方法で作製することができる。例えば、本開示の負極活物質層と負極集電体とを所定の圧力でプレスすることにより製造することができる。または、負極活物質層の成分を含むスラリーを負極集電体に塗布、乾燥させることにより製造することができる。
【0030】
[全固体電池]
次に、本開示の全固体電池用負極を用いた全固体電池について、一実施形態である全固体電池100を用いて説明する。
図3に全固体電池100の概略断面図を示した。
【0031】
全固体電池100は正極110と、負極10と、正極110と負極10との間に配置される固体電解質層120とを備えている。負極10は上述したものである。
【0032】
正極110は正極活物質層111と、正極活物質層111の固体電解質層120側とは反対側の面に配置された正極集電体112を備えている。
正極活物質層111を構成する材料は、少なくとも正極活物質及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は必要に応じて、導電材やバインダーを備えてもよい。正極活物質としては、特に限定されず全固体電池に使用可能な公知の正極活物質を用いることができ、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトアルミ酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを挙げることができる。固体電解質、導電材、バインダーとしては、上述した材料を用いることができる。正極活物質層111を構成する材料の含有量や正極活物質層111の厚みは、特に限定されず、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。
正極集電体112を構成する材料としては、公知の正極集電体の材料を用いることができる。例えば、SUS,Ni,Cr,Au,Pt,Al,Fe,Ti,Zn等の公知の正極集電体を用いることができる。正極集電体112の厚みは、特に限定されず、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。
【0033】
固体電解質層120を構成する材料は少なくとも固体電解質を含む。必要に応じてバインダーを含めてもよい。固体電解質、バインダーは、上述した材料を用いることができる。固体電解質層120を構成する材料の含有量や固体電解質層120の厚みは、特に限定されず、電池の構成や目的とする性能に応じて適宜選択することができる。
【0034】
このような全固体電池100は、公知の方法により製造することができる。例えば、正極110、固体電解質層120、負極10をそれぞれ積層し、プレスすることにより作製することができる。
また、全固体電池100は積層方向を拘束する拘束治具を備えることがよい。これにより、負極活物質の積層方向への膨張を抑制することができる。
【実施例】
【0035】
本開示の全固体電池用負極について、実施例を用いてさらに説明する。
【0036】
[全固体電池の作製]
(固体電解質の作製)
Li2S(日本化学工業)とP2S5(アルドリッチ)を出発原料として、Li2Sを0.7656g、P2S5を1.2344g秤量し、メノウ乳鉢で5分間混合し、その後ヘプタンを4g加え、遊星型ボールミルを用いて40時間メカニカルミリングを行うことにより、固体電解質を作製した。
【0037】
(負極合材の作製)
負極活物質にSiを使用した。負極活物質10.0mgと固体電解質4.0mgとVGCF0.6mgを秤量し、メノウ乳鉢で混合した。次に、PVDFを75mol%含有するバインダーを5wt%の濃度で有機溶媒(酪酸ブチル)に溶かし、上記で混合したものを加え混合し、さらに有機溶媒を留去し、負極合材とした。
【0038】
(正極合材の作製)
正極活物質にニッケルコバルトマンガン酸リチウムLiNi3/5Co1/5Mn1/5O2を使用し、さらに正極活物質にはLiNbO3の表面処理を施した。この正極活物質24mg、VGCF(昭和電工)0.9mg、固体電解質6.0mgを秤量し、メノウ乳鉢で混合して正極合材とした。
【0039】
(負極集電体の作製)
電解銅箔上に格子状のフレーム治具を挟み込みながら、電解銅メッキを施し成膜した。そして、フレーム治具を取り外し、負極集電体を得た。作製した負極集電体の凹凸構造の溝部の幅、溝部の間隔を表1に記載した。
なお、比較例1では凹凸構造を形成していない負極集電体を用いている。
【0040】
(全固体電池の作製)
1cm2のセラミックス製の型に固体電解質(0.9mg)を入れ、1ton/cm2でプレスして固体電解質層を作製し、その一方側に正極合材(30.9mg)を入れ、1ton/cm2でプレスして正極活物質層を作製した。また、固体電解質層の正極活物質層とは反対側に負極合材(14.6mg)を入れ、6ton/cm2でプレスして、負極活物質層を作製した。そして、正極活物質層に正極集電体(アルミ箔)を配置し、負極活物質層に上記の負極集電体を配置し、拘束治具により積層方向に1MPaの圧力で全体を拘束して、評価用の全固体電池を作製した。
また、負極活物質層の厚さに対する負極集電体の凹凸構造の厚さの割合をそれぞれ求め、表1に示した。
【0041】
[評価]
作製した全固体電池を0.2mAで4.35VまでCC/CV充電を行った、その後、4mAでCC充放電を3.2V-4.0Vの間で600サイクル行った。
そして、セルの寸法を測定し、負極活物質層の面積増加率を算出した。そして、比較例1の容量当たりの負極活物質層の面積増加率を100としたときの相対値を求めた。上記相対値が100以下となる場合、負極活物質の面方向への膨張が抑えられていると評価できる。表1に結果を示した。また、
図4に、実施例1~4、比較例1の負極活物質層の厚さに対する負極集電体の凹凸構造の厚さの割合に着目したグラフを示した。
図5に、実施例5~8、比較例1、2の溝部の幅に着目したグラフを示した。
図6に、実施例9~12、比較例1、3の溝部の間隔に着目したグラフを示した。
【0042】
【0043】
図4より、負極活物質層の厚さに対する凹凸構造の厚さ割合が29%以上であると、負極活物質の面方向への膨張が抑制されることが分かった。また、負極活物質層の厚さに対する凹凸構造の厚さ割合が大きくなるほど、負極活物質の面方向への膨張を抑制する効果が大きくなり、上記の割合が約60%になるところから効果が飽和することが分かった。
【0044】
図5より、溝部の幅が100μm~500μmであると、負極活物質の面方向への膨張が抑制されることが分かった。一方で、比較例2より、溝部の幅が800μmであると、負極活物質の面方向への膨張抑制効果を奏しないことも分かった。これは、溝部の幅が大きすぎると、負極活物質の面方向への膨張を抑える凸部が少なくなるため、負極活物質の面方向への膨張抑制が十分にできなかったためであると考えられる。
【0045】
図6より、溝部の間隔が1mm~5mmであると、負極活物質の面方向への膨張が抑制されることが分かった。また、溝部の間隔が2mm~3mmであると、より効果が高いことも分かった。これに対し、比較例3より、溝部の間隔が7mmであると、負極活物質の面方向への膨張抑制効果を奏しないことが分かった。これは、溝部の間隔が大きすぎると、負極活物質の面方向への膨張を抑える凸部の存在頻度が下がるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0046】
1 負極活物質層
2 負極集電体
10 全固体電池用負極
100 全固体電池
110 正極
111 正極活物質層
112 正極集電体
120 固体電解質層