(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電力変換回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 V
(21)【出願番号】P 2019016751
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広雄
(72)【発明者】
【氏名】津田 晋佑
(72)【発明者】
【氏名】村山 陽一
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0016479(US,A1)
【文献】特開2015-119598(JP,A)
【文献】国際公開第2020/152745(WO,A1)
【文献】特開2018-014794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0123661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された2つのスイッチング素子からなるアームを2つ有し、外部からの交流電力を入力源として交流電力を出力する系統側ブリッジ回路と、
第1ポートに系統側ブリッジ回路が接続される3ポートトランスと、
直列接続された2つのスイッチング素子からなるアームを2つ有し、3ポートトランスの第2ポートに接続されるとともに主機電池に充電電力を供給する主機側ブリッジ回路と、
直列接続された2つのスイッチング素子からなるアームを2つ有し、3ポートトランスの第3ポートに接続されるとともに補機電池に充電電力を供給する補機側ブリッジ回路と、
を含み、
補機側ブリッジ回路においてインダクタンスを増加させ、補機電池を充電するために必要な系統側ブリッジ回路おける交流に対する補機側ブリッジ回路における交流の必要位相差を、主機電池を充電するために必要な系統側ブリッジ回路における交流に対する主機側ブリッジ回路における交流についての必要位相差に近づける、
電力変換回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換回路において、
補機側ブリッジ回路においてインダクタンスを増加させ、系統側ブリッジ回路おける交流に対する補機側ブリッジ回路における交流の必要位相差を系統側ブリッジ回路における交流に対する主機側ブリッジ回路における交流についての必要位相差と同等にする、
電力変換回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換回路において、
補機側ブリッジ回路において、追加のインダクタを設けること、または第3ポートにおける漏れインダクタンスを増加することで、補機側ブリッジ回路においてインダクタンスを増加させる、
電力変換回路。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換回路であって、
電力変換回路は車載されており、
系統側ブリッジ回路と3ポートトランスの第1ポートとの間に設けられ、両者の接続または切り離しを制御するリレーを有し、
走行時に、リレーにより系統側ブリッジ回路と3ポートトランスの第1ポートを切り離し、主機側ブリッジ回路と、補機側ブリッジ回路との間で電力を伝送し、
停車時に、リレーにより系統側ブリッジ回路と3ポートトランスの第1ポートを接続し、系統側ブリッジ回路から、主機側ブリッジ回路および補機側ブリッジ回路に電力を伝送する、
電力変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの交流電力により主機電池および補機電池を充電するための電力変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
PHV(プラグインハイブリッド自動車)や、EV(電気自動車)等においては、外部交流電源の電力(例えば、電力会社からの電力系統)を用いて車載電池を充電することができる。
【0003】
特許文献1では、3ポートのトランスを用いる、系統と主機電池および補機電池との間の電力変換において、電池SOC(State of charge:充電状態)変動による効率低下を抑制するため、直流電圧を電池SOCに合わせて変動させることが示されている。
【0004】
また、特許文献2では、系統と主機電池の電力交換を行うトランスと、主機電池と補機電池の電力交換を行うトランスを設け、各トランスの両側の位相差を制御することで各トランスでの電力交換を制御することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-119598号公報
【文献】特開2018-14794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、通常、主機電池は補機電池に比べ、高電圧・大容量であり、系統からの充電電力も大きい。このため、トランスでの電力交換において、系統側ブリッジ回路:主機電池側ブリッジ回路間の位相差が系統側ブリッジ回路:補機電池側ブリッジ回路間の位相差より大きく設定される。従って、主機電池と補機電池を同時に充電する場合、主機電池側ブリッジ回路:補機電池側ブリッジ回路の位相差に基づき、系統側ブリッジ回路からの電力が補機電池側ブリッジ回路を経由して主機電池側ブリッジ回路に供給される電力迂回が生じ、補機電池側ブリッジ回路による損失が大きくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電力変換回路は、直列接続された2つのスイッチング素子からなるアームを2つ有し、外部からの交流電力を入力源として交流電力を出力する系統側ブリッジ回路と、第1ポートに系統側ブリッジ回路が接続される3ポートトランスと、直列接続された2つのスイッチング素子からなるアームを2つ有し、3ポートトランスの第2ポートに接続されるとともに主機電池に充電電力を供給する主機側ブリッジ回路と、直列接続された2つのスイッチング素子からなるアームを2つ有し、3ポートトランスの第3ポートに接続されるとともに補機電池に充電電力を供給する補機側ブリッジ回路と、を含み、補機側ブリッジ回路においてインダクタンスを増加させ、補機電池を充電するために必要な系統側ブリッジ回路おける交流に対する補機側ブリッジ回路における交流の必要位相差を、主機電池を充電するために必要な系統側ブリッジ回路における交流に対する主機側ブリッジ回路における交流についての必要位相差に近づける。
【0008】
また、補機側ブリッジ回路においてインダクタンスを増加させ、系統側ブリッジ回路おける交流に対する補機側ブリッジ回路における交流の必要位相差を系統側ブリッジ回路における交流に対する主機側ブリッジ回路における交流についての必要位相差と同等にするとよい。
【0009】
また、補機側ブリッジ回路において、追加のインダクタを設けること、または第3ポートにおける漏れインダクタンスを増加することで、補機側ブリッジ回路においてインダクタンスを増加させるとよい。
【0010】
また、電力変換回路は車載されており、系統側ブリッジ回路と3ポートトランスの第1ポートとの間に設けられ、両者の接続または切り離しを制御するリレーを有し、走行時に、リレーにより系統側ブリッジ回路と3ポートトランスの第1ポートを切り離し、主機側ブリッジ回路と、補機側ブリッジ回路との間で電力を伝送し、停車時に、リレーにより系統側ブリッジ回路と3ポートトランスの第1ポートを接続し、系統側ブリッジ回路から、主機側ブリッジ回路および補機側ブリッジ回路に電力を伝送するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、主機電池と補機電池の同時充電の際の電力損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る電力変換回路を用いたシステムの構成を示す図である。
【
図2】停車時および走行時における回路動作を説明する図であり、(a)は停車時、(b)が走行時を示す。
【
図3】3ポートトランスの等価回路を示す図であり、(a)は、結合率を1とした理想的な3ポートトランスの等価回路、(b)はY結線トランス等価回路である。
【
図4】YΔ変換後の3ポートトランス等価回路を示す図である。
【
図5】回路シミュレータによる、あるduty値における電力迂回発生時のトランス巻線LL3の電流iyの波形と、その電流実効値iyrmsの演算結果を示す図である。
【
図6】停車充電時にφ
1=φ
2となるよう補機側インダクタンスL
3rを設定した際のトランス巻線LL2,LL3の電流波形を示す図である。
【
図7】走行中の定格100A出力での動作波形を示す図であり、(a)は主機電池側、(b)は補機電池側を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る電力変換回路を用いたシステムの構成を示す図である。
【0015】
まず、3ポートトランスTRの第1トランス巻線LL1に第1ポートを介し接続される力率改善機能を有する系統側ブリッジ回路Aについて説明する。
【0016】
例えば、交流100Vの商用電源などの外部交流電源10には、コンデンサC0が並列接続されており、外部交流電源10の一端は、整流回路を構成する同一方向を向く2つのダイオードD1,D2の直列接続の中点に接続される。外部交流電源10は、電力会社から供給されるものであり、適宜係合と呼ぶ。また、ダイオードD1,D2の直列接続のアノード側が正側母線、カソード側が負側母線となり、負側母線はグランドに接続されている。正側負側母線間には、平滑コンデンサC1が接続されているとともに、スイッチング素子S1,S2の直列接続からなるアームと、スイッチング素子S3,S4の直列接続からなるアームを含むフルブリッジBR1が接続されている。
【0017】
スイッチング素子S1,S2の中点と、スイッチング素子S3,S4の中点はリレーRLを介し、3ポートトランスTRの第1トランス巻線LL1の両端である第1ポートに接続される。また、第1トランス巻線LL1の中間ポートには、外部交流電源10の他端に接続されている。
【0018】
従って、外部交流電源10のからの交流成分は、ダイオードD1,D2の中点と、3ポートトランスTRの第1トランス巻線LL1の中間ポートの間に印加される。整流ダイオードD1,D2で整流され平滑コンデンサC1で平滑された直流電圧VC1は、正側負側母線間に印加され、スイッチング素子S1~S4のスイッチングによって、トランスTRの第1トランス巻線LL1に所定の交流電圧Vuvが印加される。ここで、ライン周期(例えば、50Hz)で変動する外部交流電源の出力(系統電圧)に合わせて、スイッチング素子S1~S4からなるフルブリッジBR1のスイッチングを制御することで、第1トランス巻線LL1における電圧電流の位相を制御して損失を低減することができる。
【0019】
3ポートトランスTRの第2トランス巻線LL2の両端である、第2のポートには主機側ブリッジ回路Bが接続され、第3トランス巻線LL3の両端である第3ポートには補機側ブリッジ回路Cが接続される。このように、系統側ブリッジ回路A、主機側ブリッジ回路Bおよび補機側ブリッジ回路Cはトランスコアを共有している。
【0020】
主機側ブリッジ回路Bは、スイッチング素子S5,S6の直列接続からなるアームと、スイッチング素子S7,S8の直列接続からなるアームを含むフルブリッジBR2を有しており、スイッチング素子S5,S6の中点と、スイッチング素子S7,S8の中点が、3ポートトランスTRの第2ポート、すなわち第2トランス巻線LL2の両端に接続されている。このフルブリッジBR2には、平滑コンデンサC2と主機電池12が並列接続されている。従って、スイッチング素子S5~S8のスイッチングを制御することで、3ポートトランスの第2ポートへの印加電圧Vwxを制御することができ、トランス巻線LL2の電圧を制御することができる。
【0021】
補機側ブリッジ回路Cは、上述した主機側ブリッジ回路Bと同様の構成を有しており、スイッチング素子S9,S10の直列接続からなるアームと、スイッチング素子S11,S12の直列接続からなるアームを含むフルブリッジBR3を有しており、スイッチング素子S9,S10の中点と、スイッチング素子S11,S12の中点が、3ポートトランスTRの第3ポート、すなわちトランス巻線LL3の両端に接続されている。フルブリッジBR3には、平滑コンデンサC3と補機電池14が並列接続されている。従って、スイッチング素子S9~S12のスイッチングを制御することで、3ポートトランスの第3ポートへの印加電圧Vyzを制御することができ、トランス巻線LL3の電圧を制御することができる。
【0022】
なお、各スイッチング素子S1~S12は、逆流防止ダイオードがそれぞれ並列接続されている。
【0023】
ここで、3ポートトランスTRの各トランス巻線LL1,LL2,LL3の巻線数の比によって各ポート間の電圧比を決定することができる。また、系統側ブリッジ回路A:主機側ブリッジ回路B:補機側ブリッジ回路Cの位相差を制御することで、電力伝送量を制御することができる。すなわち、回路間の伝送電力量は、回路間の位相差に比例し、回路間のインダクタンスに反比例する。なお、位相は、例えばブリッジ回路におけるスイッチング周期の位相としてよい。
【0024】
系統側ブリッジ回路Aと主機側ブリッジ回路B、補機側ブリッジ回路Cにおいては、フルブリッジBR1,BR2,BR3におけるスイッチング素子をPWM(パルス幅変調)制御して、対応するポートへの波形を制御する。特に、系統側ブリッジ回路Aでは、力率改善(PFC)機能を有しており、時比率(duty)を変調することで、入力電流高調波を抑制して、所定の位相で3ポートトランスTRの一次側に電力を供給する。また、主機側ブリッジ回路B、補機側ブリッジ回路Cでは、フルブリッジBR2,BR3のスイッチングを制御して、系統側ブリッジ回路Aとの位相差を制御するとともに、各回路間のインダクタンスを適切に設定することで、各回路間で伝送される電力量を制御する。
【0025】
「システムの動作」
図2は、停車時および走行時における回路動作を説明する図であり、(a)は停車時、(b)が走行時を示す。なお、
図2においては、
図1の回路を簡略化して示してある。
【0026】
図2(a)は停車時の状態を示し、リレーRLがオンし、外部交流電源10から主機電池12への充電(例えば3000W程度)が行われる。また、停車充電時であっても、電池監視ユニットなど複数の補機系部品が動作する。このため、補機電池14が枯渇しないように、3ポートトランスTRを介し、数百W程度の小電力を補機電池14へ供給する。
【0027】
図2(b)は走行時の状態を示し、リレーRLをオフし、系統側ブリッジ回路Aを第1ポートから切り離す。そして、この状態で、必要に応じて、主機電池12から補機電池14へ給電する。このとき、PFC機能は不要のため、duty値は固定値、例えば変換効率が最大となるduty=50%近傍で動作させる。このように、動作シーン毎に、リレーRLのオンオフおよび回路動作を切り替えることで、車載充電およびDC/DC変換の機能を統合することができる。
【0028】
なお、
図2(a)に示した停車充電時に、ライン周期でdutyが変動することを除けば、2ポートの絶縁型コンバータを拡張した絶縁型3ポートDC/DCコンバータとして機能する。
【0029】
図3は3ポートトランスTRの等価回路を示す図であり、(a)は、結合率を1とした理想的な3ポートトランスの等価回路、(b)はY結線トランス等価回路である。
【0030】
図3(a)のn
tr1,n
tr2,n
tr3は,それぞれ系統側ブリッジ回路A、主機側ブリッジ回路B、および補機側ブリッジ回路Cが接続されるトランス巻線LL1,LL2,LL3の巻数であり,L
mは励磁インダクタンス、L
1,L
2,L
3は各巻線に外付けされたインダクタンス値である。このとき、巻数比を、N
12=n
tr1/n
tr2,N
13=n
tr1/n
tr3とし、V
wx’=N
12・V
wx,V
yz’=N
13・V
yzすると、3つのフルブリッジBR1,BR2,BR3をパルス電圧源としたY結線トランス等価回路は、
図3(b)のように書き直せる。
【0031】
各フルブリッジBR1,BR2,BR3間の伝送電力を導出するには,
図3(b)のY結線等価回路を、Δ結線等価回路へ変換する必要がある。
【0032】
図4は、YΔ変換後の3ポートトランス等価回路を示す図である。このとき、パルス電圧源間のインダクタンス値L
12r,L
13rおよびL
23rは,それぞれL
12r=L
k/L
3r,L
13r=L
k/L
2r,L
23r=L
k/L
1rで与えられる。ここで、L
kは、Y-Δ変換時に現れる分母項で、L
k=L
1r・L
2r+L
1r・L
3r+L
2r・L
3rで与えられる。
【0033】
図4に示されるΔ結線等価回路において、外部交流電源10から主機電池12への伝送電力をP
12、外部交流電源10から補機電池14への伝送電力をP
13、および主機電池12から補機電池14への伝送電力をP
23とすると、P
12,P
13,P
23はそれぞれ式(1)の関係で与えられる。
【0034】
【0035】
ここで、δ(=2πduty)は,フルブリッジBR1,BR2,BR3の時比率であり、本実施形態では、停車充電時においてすべてのブリッジ回路で、δを同期させている。また、Vuv(アッパーバー),Vwx(アッパーバー),Vyz(アッパーバー)は、各パルス電圧源の振幅である。式(1)より、φ1>φ2となる動作条件では、P12およびP13が正であり、系統側ブリッジ回路Aから主機側ブリッジ回路Bおよび補機側ブリッジ回路Cへ電力が伝送される。ここで、P23が負であり、補機側ブリッジ回路Cから主機側ブリッジ回路Bへ電力が伝送される。これは、補機電池14の負荷が必要としている電力以上の電力が、系統側ブリッジ回路Aから補機側ブリッジ回路Cへ伝送され、残りの電力が補機側ブリッジ回路Cを迂回して主機側ブリッジ回路Bへ伝送されることを示している。
【0036】
図5は、回路シミュレータによる、あるduty値における電力迂回発生時のトランス巻線LL3の電流i
yの波形と、その電流実効値i
yrmsの演算結果を示す図である。ここで、補機負荷は16Aである。このように、補機負荷の要求電流が16Aであるのに対し、トランス巻線LL3の電流の実効値i
yrmsは30Aであり、迂回電力により補機側ブリッジ回路Cにおける電流ストレスが増大することが分かる。
【0037】
電圧の低い補機側ブリッジ回路C側では、数百Wの迂回電力で電流実効値が顕著に増大するため、同時充電時の高効率を維持するためには、補機側ブリッジ回路Cへの迂回電力を抑制する必要がある。
【0038】
上述の式(1)より、補機側ブリッジ回路Cを迂回する電力P23をゼロに抑制するためには、位相差φ1とφ2を等しくするか、位相差φ2をφ1より大きくすればよい。一方で、位相差φ1,φ2は、それぞれ主機電池12および補機電池14への充電電力に比例して増加させる必要があり、充電電力が大きい、系統側ブリッジ回路A:主機側ブリッジ回路B間の位相差φ1は、φ2に比べて必然的に大きくなる。
【0039】
これに対し、
図2(a)における補機側インダクタンスL
3rを増大させ、系統側ブリッジ回路A:補機側ブリッジ回路Cの必要位相差φ
2を増やすことで、補機側ブリッジ回路Cを介し主機側ブリッジ回路Bへ迂回する電力を抑制することができる。なお、主機側ブリッジ回路Bを迂回して補機側ブリッジ回路Cに電力を伝送する場合、主機側ブリッジ回路Bの伝送量に比べて、迂回電力量が小さくほとんど問題にならない。
【0040】
図6は、停車充電時にφ
1=φ
2となるよう補機側インダクタンスL
3rを設定した際のトランス巻線LL2,LL3の電流波形を示す図である。電流実効値i
yrmsは、負荷電流16Aと等価となり、補機側ブリッジ回路への迂回電力が抑制できていることが分かる。
【0041】
このとき、式(1)において、V
uv(アッパーバー)=V
wx(アッパーバー)=V
yz(アッパーバー)とすると、迂回電力抑制に必要なインダクタンス値L
3rは下式で与えられる。必要なインダクタンスL
3rを得る手段は、3ポートトランスTRの補機側ブリッジ回路Cが接続されるトランス巻線LL3への固定インダクタの追加か、もしくはトランス構造設計による漏れL成分の調整により実施可能である。
図1においては、追加の固定インダクタLL3+を点線で示してある。
【0042】
【0043】
図7は、式(2)で与えられたインダクタンス設計条件下における、走行中(
図2(b))の定格100A出力での動作波形を示す図であり、(a)は主機電池側、(b)は補機電池側を示す。走行時は、力率改善の必要がなく、式(1)におけるδを0.5に固定して動作させることで、伝送可能な電力を大きくすることができる。また、迂回抑制のため、補機側ブリッジ回路CのインダクタンスL
3rを大きくしたことにより、Δ結線における主機側ブリッジ回路B:補機側ブリッジ回路C間のインダクタンスL
23rが大きくなった回路条件においても、走行時に必要な電力を伝送可能である。すなわち、
図2(b)に示すように、100Aでの補機電池14の充電が行える。
【0044】
「実施形態の効果」
本実施形態によれば、リレーRLを設け、走行時には系統側ブリッジ回路Aを3ポートトランスTRから切り離す。従って、3ポートトランスTR、主機側ブリッジ回路B、補機側ブリッジ回路Cを主機電池12と補機電池14との間のDC/DCコンバータとして使用することができ、効率的な電力伝送が行える。
【0045】
また、停車時の外部交流電源10からの充電時においては、3ポートトランスTRに接続された系統側ブリッジ回路A、主機側ブリッジ回路Bおよび補機側ブリッジ回路Cにおいて、位相差変調による電力伝送が行える。ここで、このような位相差変調による電力伝送を行う際、系統側ブリッジ回路A、主機側ブリッジ回路Bおよび補機側ブリッジ回路Cの負荷状態によっては、電力迂回が生じる。特に、主機電池12と補機電池14のように、電圧差が大きい負荷(電池)に対し同時充電する場合、電圧の低い補機側ブリッジ回路Cを迂回した主機側ブリッジ回路Bへの電力伝送が生じると、巻線や半導体スイッチへの電流ストレスが大きく効率悪化が懸念される。本実施形態では、同時充電時において、系統側ブリッジ回路A:主機側ブリッジ回路B間の必要位相差と、系統側ブリッジ回路A:補機側ブリッジ回路C間の必要位相差が等しくなるように、系統:補機側ブリッジ回路間の等価インダクタンス値を設定して、迂回電力を抑制することができる。このとき、系統側ブリッジ回路A:補機側ブリッジ回路C間の等価インダクタンス値は、補機側ブリッジ回路Cに接続されるトランス巻線LL3上のインダクタンス値で調整することができる。
【0046】
また、回路間の伝送電力量は、回路間位相差に比例し、回路間等価インダクタンス値に反比例する。停車充電時は、一定電力での動作期間(定常期間)が充電期間のほとんどを占めるため、定常期間で電力迂回が発生しないように、予め回路間等価インダクタンス値を設計すれば、迂回電力を抑制するよう系統側ブリッジ回路A:主機側ブリッジ回路B間の必要位相差と、系統側ブリッジ回路A:補機側ブリッジ回路C間の必要位相差を等しくすることができる。
【0047】
このように、同時充電定常期間における必要位相差を、インダクタンス値の設計で等しく保つことで、効率悪化要因である迂回電力を抑制することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 外部交流電源、12 主機電池、14 補機電池、A 系統側ブリッジ回路、B 主機側ブリッジ回路、C 補機側ブリッジ回路、BR1,BR2,BR3 フルブリッジ、C0~C3 コンデンサ、D1,D2 ダイオード、LL1,LL2,LL3 トランス巻線、RL リレー、S1~S12 スイッチング素子、TR 3ポートトランス。