(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】パーキング機構
(51)【国際特許分類】
B60T 1/06 20060101AFI20221101BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B60T1/06 G
F16H63/34
(21)【出願番号】P 2019034333
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 匡
(72)【発明者】
【氏名】藏本 裕也
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-089852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00-7/10
F16H 63/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるパーキング機構であって、
駆動軸に連結されたパーキングギヤと、
車両がパーキングレンジに遷移するパーキング位置と車両が非パーキングレンジに遷移する非パーキング位置との間で移動されるマニュアルプレートと、
カム部と回動軸部を有し前記回動軸部が前記マニュアルプレートに連結され前記マニュアルプレートに連動して移動されるパーキングロッドと、
前記パーキングギヤに噛合可能な噛合部を有し前記パーキングロッドの移動による前記カム部の位置に応じて前記噛合部の前記パーキングギヤに対する噛合又は噛合の解除が行われるパーキングポールと、
前記回動軸部を基準として前記パーキングロッドに生じる
前記パーキングロッドの動作方向と異なる方向の第1の慣性モーメントを打ち消す方向に第2の慣性モーメントが生じると共に前記パーキングロッドに結合された錘部材とを備えた
パーキング機構。
【請求項2】
前記錘部材が前記パーキングロッドに結合されるアーム部と前記アーム部に連続する先端部とを有し、
前記カム部に生じる前記第1の慣性モーメントと前記先端部に生じる前記第2の慣性モーメントとが略釣り合うようにされた
請求項1に記載のパーキング機構。
【請求項3】
前記先端部における前記アーム部の軸方向に直交する方向の大きさが前記アーム部の径よりも大きくされた
請求項2に記載のパーキング機構。
【請求項4】
前記パーキングロッドには前記カム部と前記回動軸部を連結する連結軸部が設けられ、
前記連結軸部と前記アーム部が同一軸上に並んで結合された
請求項2又は請求項3に記載のパーキング機構。
【請求項5】
前記錘部材が前記パーキングロッドよりも比重の大きい材料で形成された
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載のパーキング機構。
【請求項6】
前記錘部材が前記パーキングロッドと一体に形成された
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載のパーキング機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の駆動軸に連結されたパーキングギヤをロックするためのパーキング機構の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を有する車両においては、シフトレバーの操作によりパーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、ドライブレンジ(Dレンジ)等のレンジの選択が行われる。また、パーキングスイッチの操作によりパーキングレンジへの選択が行われる車両もある。
【0003】
パーキングレンジは、車両を停止状態に維持するレンジであり、シフトレバー等によりパーキングレンジへの選択操作が行われると、駆動軸の回転が規制されて駆動輪の回転が不能な状態にされる。
【0004】
パーキングレンジへの遷移及びパーキングレンジの解除は、パーキング機構が動作されることにより行われる。パーキング機構は駆動軸に連結されたパーキングギヤとパーキングギヤの回転を規制するパーキングポールと車両の前後方向に延びパーキングポールを動作させるパーキングロッドと、パーキングロッドと連動して動作されるマニュアルプレートとを有し、パーキングポールにはパーキングギヤに噛合される噛合部が設けられている。
【0005】
パーキングレンジへの選択操作が行われると、マニュアルプレートが所定の方向に回動され、マニュアルプレートの回動に連動してパーキングロッドが所定の方向へ移動され、パーキングロッドの移動に伴ってパーキングポールがパーキングギヤに近付く方向へ移動され、噛合部がパーキングギヤに噛合されてパーキングギヤの回転が規制される。パーキングギヤの回転が規制されると、駆動軸の回転が規制されて駆動輪の回転が不能な状態にされ、パーキングレンジへの遷移が行われる。
【0006】
逆に、パーキングレンジ以外への選択操作が行われると、マニュアルプレートが上記とは逆方向へ回動され、マニュアルプレートの回動に連動してパーキングロッドが上記とは逆方向へ移動され、パーキングロッドの移動に伴ってパーキングポールがパーキングギヤから離隔する方向へ移動され、噛合部のパーキングギヤへの噛合が解除されてパーキングギヤに対する回転の規制が解除される。パーキングギヤに対する回転の規制が解除されると、駆動軸の回転の規制が解除されて駆動輪の回転が可能な状態にされ、パーキングレンジ以外のレンジへの遷移が行われる。
【0007】
パーキング機構においては、車両の走行中に意図せずパーキングレンジに遷移してしまうと走行に支障を及ぼすおそれがあるため、リターンスプリングによってパーキングポールがパーキングレンジ以外のレンジへ遷移する方向へ付勢されている。
【0008】
また、パーキング機構を有する車両においては、衝突時や急制動時に前後方向において生じる慣性力によるパーキングロッドの軸方向への急激な移動を抑制したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、車両の走行中には、パーキングロッドに対して車両の前後方向だけでなく様々な方向からの力が作用しており、例えば、波状路の走行時や左右への旋回時に、パーキングロッドに大きな慣性モーメントが生じると、パーキングロッドが意図せず移動されてしまうおそれがある。
【0011】
このような大きな慣性モーメントに対しては、リターンスプリングの付勢力を大きくすることによりパーキングロッドの意図しない移動を防止することが可能であるが、リターンスプリングの付勢力を大きくすると、その付勢力がパーキング機構の各部材に付与されて設計の自由度が低下してしまう。
【0012】
一方、パーキングポールの重量を小さくすることでリターンスプリングの付勢力を相対的に大きくすることも可能である。この方法であれば、従来のリターンスプリングを使用してパーキング機構の各部に過度な付勢力が付与されないようにすることができるが、パーキングポールの重量が小さいためパーキングポールの強度が低下してしまうおそれがある。
【0013】
そこで、本発明は、車両の走行中のパーキングロッドの意図しない移動を設計の自由度を低下させることなく防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るパーキング機構は、駆動軸に連結されたパーキングギヤと、車両がパーキングレンジに遷移するパーキング位置と車両が非パーキングレンジに遷移する非パーキング位置との間で移動されるマニュアルプレートと、カム部と回動軸部を有し前記回動軸部が前記マニュアルプレートに連結され前記マニュアルプレートに連動して移動されるパーキングロッドと、前記パーキングギヤに噛合可能な噛合部を有し前記パーキングロッドの移動による前記カム部の位置に応じて前記噛合部の前記パーキングギヤに対する噛合又は噛合の解除が行われるパーキングポールと、前記回動軸部を基準として前記パーキングロッドに生じる前記パーキングロッドの動作方向と異なる方向の第1の慣性モーメントを打ち消す方向に第2の慣性モーメントが生じると共に前記パーキングロッドに結合された錘部材とを備えたものである。
【0015】
これにより、車両の走行に伴い回動軸部を基準としてパーキングロッドに生じる第1の慣性モーメントに対して、パーキングロッドに結合された錘部材に第1の慣性モーメントを打ち消す方向に第2の慣性モーメントが生じるため、回動軸部を基準とする慣性モーメントによってパーキングロッドが移動されにくくなる。
【0016】
第2に、上記した本発明に係るパーキング機構においては、前記錘部材が前記パーキングロッドに結合されるアーム部と前記アーム部に連続する先端部とを有し、前記カム部に生じる前記第1の慣性モーメントと前記先端部に生じる前記第2の慣性モーメントとが略釣り合うようにされることが望ましい。
【0017】
これにより、第1の慣性モーメントと第2の慣性モーメントとが効果的に打ち消される。
【0018】
第3に、上記した本発明に係るパーキング機構においては、前記先端部における前記アーム部の軸方向に直交する方向の大きさが前記アーム部の径よりも大きくされることが望ましい。
【0019】
これにより、先端部の重量が大きくなり、アーム部の長さを長くすることなく先端部に生じる第2の慣性モーメントが大きくなる。
【0020】
第4に、上記した本発明に係るパーキング機構においては、前記パーキングロッドには前記カム部と前記回動軸部を連結する連結軸部が設けられ、前記連結軸部と前記アーム部が同一軸上に並んで結合されることが望ましい。
【0021】
これにより、第1の慣性モーメントの作用線と第2の慣性モーメントに関する設計が容易になる。
【0022】
第5に、上記した本発明に係るパーキング機構においては、前記錘部材が前記パーキングロッドよりも比重の大きい材料で形成されることが望ましい。
【0023】
これにより、錘部材の長さを短くしても錘部材の十分な重量が確保される。
【0024】
第6に、上記した本発明に係るパーキング機構においては、前記錘部材が前記パーキングロッドと一体に形成されることが望ましい。
【0025】
これにより、錘部材とパーキングロッドとを別々に製造する必要がない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、車両の走行に伴い回動軸部を基準としてパーキングロッドに生じる第1の慣性モーメントに対して、パーキングロッドに結合された錘部材に第1の慣性モーメントを打ち消す方向に第2の慣性モーメントが生じるため、回動軸部を基準とする慣性モーメントによってパーキングロッドが移動されにくくなり、パーキングロッドの意図しない移動を設計の自由度を低下させることなく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図2乃至
図6と共に本発明パーキング機構の実施の形態を示すものであり、本図は、パーキング機構を示す斜視図である。
【
図2】パーキングレンジに遷移されている状態を示す側面図である。
【
図3】非パーキングレンジに遷移されている状態を示す側面図である。
【
図4】第1の慣性モーメントと第2の慣性モーメントの関係を一部を断面にして示す平面図である。
【
図5】錘部材の先端部が大きくされた例を一部を断面にして示す平面図である。
【
図6】錘部材がパーキングロッドよりも比重の大きい材料で形成された例を一部を断面にして示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明のパーキング機構を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。
【0029】
<パーキング機構の構成>
パーキング機構1は、車両における自動変速機構を備えた動力伝達装置に設けられている。例えば、動力伝達装置は車両において縦置きにされており、駆動軸は軸方向が車両の前後方向に略一致されている。
【0030】
車両においては、運転者等がシフトレバーの操作を行うことにより、パーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、ドライブレンジ(Dレンジ)等のレンジの選択が行われる。また、パーキングスイッチの操作によりパーキングレンジへの選択が行われる車両もある。
【0031】
パーキングレンジは、車両を停止させておくためのレンジであり、リバースレンジは車両を後進走行させるためのレンジであり、ニュートラルレンジはエンジン等の動力源からの駆動軸への動力伝達を遮断するレンジであり、ドライブレンジは車両を前進走行させるためのレンジである。パーキングレンジとニュートラルレンジは非走行レンジに相当し、リバースレンジとドライブレンジは走行レンジに相当する。
【0032】
シフトレバーにおいては、パーキングレンジとリバースレンジとニュートラルレンジとドライブレンジを選択するためのシフト位置がそれぞれ定められており、パーキングレンジの選択はシフトレバーがパーキングシフト位置に操作されることにより行われる。また、パーキングレンジの選択がパーキングスイッチの操作により行われる場合もある。
【0033】
パーキング機構1は、駆動軸100に連結されたパーキングギヤ2と、パーキングギヤ2に噛合可能なパーキングポール3と、パーキングポール3を動作させるパーキングロッド4と、パーキングロッド4と連動して動作されるマニュアルプレート6と、パーキングロッド4に結合された錘部材5とを有している(
図1参照)。
【0034】
パーキングギヤ2は図示しないトランスミッションケースに回転自在に支持され、平ギヤであり外周部がギヤ部2aとして設けられている。パーキングギヤ2は中心部が駆動軸100に連結されている。従って、パーキングギヤ2は車両の走行時に駆動軸100の回転に伴って回転され、車両の非走行時には回転が停止される。駆動軸100はデファレンシャル機構等を介して図示しない駆動輪に連結されている。
【0035】
パーキングポール3は長手方向が上下方向にされ、上端部が支点部3aとして設けられ、下端部がカム作用部3bとして設けられている。パーキングポール3の上下方向における中央部には噛合部3cが設けられている。
【0036】
支点部3aには軸方向が前後方向にされた支軸101が連結され、支軸101は軸方向における両端部がトランスミッションケースに結合されている。従って、パーキングポール3は支軸101を支点としてカム作用部3bが略左右方向へ変位する方向へ回動される。
【0037】
噛合部3cはパーキングギヤ2側に突出された形状にされ、パーキングギヤ2の下側に位置されている。パーキングポール3は、パーキングギヤ2に近付く方向へ回動されることにより噛合部3cがパーキングギヤ2に噛合され、パーキングギヤ2から離隔する方向へ回動されることにより噛合部3cのパーキングギヤ2との噛合が解除される。
【0038】
支軸101にはリターンスプリング7が支持されている。リターンスプリング7は、例えば、捩じりコイルバネであり、コイル部7aとコイル部7aに連続する一対の腕部7b、7bとを有している。コイル部7aには支軸101が挿通され、一方の腕部7bがパーキングポール3に係合され、他方の腕部7bがトランスミッションケースの図示しないバネ受部に支持されている。従って、リターンスプリング7によってパーキングポール3には噛合部3cがパーキングギヤ2から離隔する回動方向への付勢力が付与されている。
【0039】
パーキングロッド4は、軸方向が前後方向にされた連結軸部8と、連結軸部8の一端部に連続され連結軸部8に対して直交する方向に折り曲げられた回動軸部9と、連結軸部8の他端部寄りに設けられたカム部10とから構成されている。
【0040】
回動軸部9はマニュアルプレート6に回動可能な状態で連結されている。カム部10は最も径が小さくされた第1の作用部10aと第1の作用部10aから離隔するに従って径が大きくなる変位部10bと変位部10bに連続する第2の作用部10cとを有している。カム部10の径はいずれも回動軸部8の径よりも大きくされ、第2の作用部10cの径が最も大きくされている。
【0041】
パーキングロッド4はカム部10がサポート部材11に前後方向へ移動可能に支持されている。サポート部材11はトランスミッションケースに固定され、側方に開口された支持凹部11aを有している。パーキングロッド4はカム部10が支持凹部11aに挿入された状態でサポート部材11に対して移動される。
【0042】
錘部材5は軸状に形成され連結軸部8に結合されたアーム部5aとアーム部5aに連続して設けられた先端部5bとを有している。
【0043】
アーム部5aは連結軸部8と同一軸上に並んで結合されている。なお、アーム部5aは軸方向が連結軸部8の軸方向と平行となるように位置されることが望ましいが、これに限るものではない。例えば、アーム部5aが連結軸部8に対して傾斜された状態で位置されていてもよい。また、アーム部5aは回動軸部9に結合されていてもよい。
【0044】
先端部5bは、例えば、球状に形成され、先端部5bの直径はアーム部5aの径よりも
大きくされている。なお、先端部5bは球状以外の形状にされていてもよい。例えば、直方体状や円筒状や錐体状にされていてもよいし、カム部10と同様の形状にされていてもよい。また、錘部材5には先端部5bが形成されず、錘部材5がアーム部5aのみで構成されていてもよい。
【0045】
錘部材5は、例えば、パーキングロッド4と同じ材料によって形成され、錘部材5とパーキングロッド4は重さが同じにされている。また、錘部材5の前後方向における長さは、例えば、パーキングロッド4の前後方向における長さと同じにされている。尚、回動軸部9からカム部10までの重さ又は長さと回動軸部9から先端部6bまでの重さ又は長さが同じにされていてもよい。
【0046】
マニュアルプレート6は上方に凸の略三角形状に形成され、上端部が被連結部6aとして設けられ、下端部がレンジ切換部6bとして設けられている。マニュアルプレート6の上下方向における中央部はシフト軸102に連結されている。シフト軸102は軸方向における一端部が図示しない連結部材に連結され、連結部材を介してシフトレバーに連結されている。従って、マニュアルプレート6はシフトレバーの操作に連動してシフト軸102の回転に伴って回動される。
【0047】
被連結部6aには挿通孔が形成されており、挿通孔に回動軸部9が挿通されることでパーキングポール4とマニュアルプレート6が連結される。従って、マニュアルプレート6が回動されると、パーキングロッド4と錘部材5が一体になって連結軸部8の軸方向へ移動される。レンジ切換部6bは凹凸状に形成され、各凹部にディテントスプリング12が係合可能にされている。
【0048】
ディテントスプリング12は薄板状の弾性部12aと円筒状に形成され弾性部12aの一端に連結された係合部12bと弾性部12aの他端に連続された被固定部12cとを有している。ディテントスプリング12は、被固定部12cがトランスミッションケースに固定されており弾性部12aが厚み方向において弾性変形可能な状態にされている。従って、係合部12bは弾性部12aの弾性によって上方へ付勢された状態で被係合部6cに押しつけられた状態で係合される。
【0049】
上記のように構成されたパーキング機構1においては、シフトレバーがパーキングシフト位置に操作され又はパーキングスイッチが操作されると、シフト軸102が回転されシフト軸102に連動してマニュアルプレート6が非パーキング位置からパーキング位置まで回動される(
図2参照)。マニュアルプレート6の回動に連動してパーキングロッド4と錘部材5が連結軸部8の軸方向へ移動され、カム部10の第2の作用部10cがカム作用部3bに当接する位置まで移動される。第2の作用部10cがカム作用部3bに当接しカム作用部3bが押し上げられることで、パーキングポール3がリターンスプリング7の付勢力に反して回動され、噛合部3cがパーキングギヤ2に噛合され、パーキングレンジへの遷移が行われる。
【0050】
一方、シフトレバーがパーキングシフト位置以外の位置に操作され又はパーキングスイッチの操作状態が解除されると、シフト軸102が回転されシフト軸102に連動してマニュアルプレート6がパーキング位置から非パーキング位置まで回動される(
図3参照)。マニュアルプレート6の回動に連動してパーキングロッド4と錘部材5が連結軸部8の軸方向において上記とは反対方向へ移動され、第2の作用部10cがカム作用部3bと離隔し、第1の作用部10aがカム作用部3bに対向する位置まで移動される。第2の作用部10cがカム作用部3bから離隔しカム作用部3bに対する押し上げが解消されることで、リターンスプリング7の付勢力によりパーキングポール3が回動され、噛合部3cのパーキングギヤ2に対する噛合が解消され、非パーキングレンジへの遷移が行われる。
【0051】
<慣性モーメントに対する動作>
上記のように構成されたパーキング機構1において、車両の走行時にはパーキングロッド4に対して車両の様々な方向からの力が作用している。例えば、波状路の走行時や左右への旋回時には、パーキングロッド4に対して回動軸部9を基準とした第1の慣性モーメントM1が生じる(
図4参照)。このとき、錘部材5にもパーキングロッド4に作用する力と同じ方向への力が作用するため、錘部材5には回動軸部9を基準とした第2の慣性モーメントM2が生じる。
【0052】
パーキングロッド4と錘部材5は重量と前後方向における長さが同じにされているため、第1の慣性モーメントM1と第2の慣性モーメントM2は大きさが等しくされており、互いに打ち消し合う方向に作用することで、パーキングロッド4又は錘部材5に作用する力が小さくなり、パーキングロッド4の変位が抑制される。
【0053】
従って、リターンスプリング7の付勢力を大きくすることなくパーキングロッド4の変位が抑制されるため、設計の自由度を低下させることなくパーキングロッド4の意図しない移動を防止することができる。また、パーキングポール3の重量を小さくすることなくパーキングロッド4の変位を抑制することが可能であるため、パーキングポール3の軽量化に伴う強度の低下を来すことなくパーキングロッドの意図しない移動を防止することができる。
【0054】
また、パーキング機構1においては、カム部10に生じる第1の慣性モーメントM1と先端部5bに生じる第2の慣性モーメントM2とが略釣り合うようにされている。
【0055】
カム部10は、パーキングロッド4において最も重量が大きくなり易く、パーキングロッド4において最も大きな慣性モーメントが生じ易い。一方で、錘部材5においては、回動軸部9からの距離が最も長い先端部5bに最も大きな慣性モーメントが生じ易い。
【0056】
従って、カム部10に生じる第1の慣性モーメントM1と先端部5bに生じる第2の慣性モーメントM2が釣り合うようにされることで、第1の慣性モーメントM1と第2慣性モーメントM2とが効果的に打ち消され、パーキングロッド4の意図しない移動を効果的に防止することができる。
【0057】
さらに、錘部材5における先端部5bの直径はアーム部6の軸径よりも大きくされている。
【0058】
これにより、先端部5bの重量が大きくなり、アーム部5aの長さを長くすることなく先端部5bに生じる慣性モーメントを大きくすることができる。
【0059】
従って、錘部材5の長さを短縮することができ、錘部材5の小型化を図ることができる。
なお、先端部5bの直径をより大きくすることで、アーム部5aの長さをより短縮することができる(
図5参照)。
【0060】
また、連結軸部8とアーム部5aは同一軸上に並んで結合されている。
【0061】
これにより、第1の慣性モーメントM1の作用線と第2の慣性モーメントM2に関する設計が容易になり、簡素な構成で慣性モーメントのつり合いを取りやすくすることができる。
【0062】
なお、上記にはパーキングロッド4と錘部材5が同一の材料によって形成された例を示したが、錘部材5がパーキングロッド4よりも比重の大きい材料で形成されていてもよい。例えば、パーキングロッド4が鉄によって形成され、錘部材5が鉛によって形成されていてもよい。
【0063】
錘部材5がパーキングロッド4よりも比重の大きい材料で形成されることで、錘部材5の長さを短くしても錘部材5の十分な重量が確保され、錘部材5に生じる第2の慣性モーメントM2を大きくすることができるため、錘部材5の長さを短くしてパーキング機構1の小型化を図ることができる(
図6参照)。
【0064】
また、上記にはパーキングロッド4と錘部材5が別部材として設けられ、結合された例を示したが、錘部材5はパーキングロッド4と一体に形成されていてもよい。
【0065】
これにより、錘部材5とパーキングロッド4とを別々に製造する必要がなく、部品点数の削減や製造工程の簡略化を図ることができるため、パーキング機構1の製造コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0066】
100…駆動軸、1…パーキング機構、2…パーキングギヤ、3…パーキングポール、3b…カム作用部、3c…噛合部、4…パーキングロッド、5…錘部材、5a…アーム部、5b…先端部、6…マニュアルプレート、6a…アーム部、6b…先端部、7…リターンスプリング、8…連結軸部、9…回動軸部、10…カム部、10c…第2の作用部、M1…第1の慣性モーメント、M2…第2の慣性モーメント