(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】タイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20221101BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20221101BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20221101BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
G06F30/15
(21)【出願番号】P 2019039416
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 寿
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-225952(JP,A)
【文献】特開2005-14301(JP,A)
【文献】特開2006-18422(JP,A)
【文献】特開2007-320221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-35/18
B29D 30/00-30/72
G06F 30/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
モールドモデルのトレッドパターンをグリーンタイヤモデルに接触させることにより、前記トレッドパターンに沿って変形させた前記グリーンタイヤモデルの表面データと、前記モールドモデルの表面データとを取得するステップと、
ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子を用いて前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルを、それぞれグリーンタイヤボクセル及びモールドボクセルに変換するステップと、
前記グリーンタイヤボクセルと前記モールドボクセルとの間に存在する空隙ボクセルを特定するステップと、
前記空隙ボクセルを表示するステップと、
を含む、タイヤ製造工程をシミュレーションする方法。
【請求項2】
前記変換するステップは、前記グリーンタイヤモデルの表面及び前記モールドモデルの表面を前記共通のボクセル格子に重ねて配置し、各モデルの表面の位置と前記ボクセル格子の位置関係に基づき前記グリーンタイヤボクセル及び前記モールドボクセルを生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空隙ボクセルと共に前記モールドボクセルを表示する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルは、オイラー要素又はラグランジェ要素のいずれかで表現されており、
前記ボクセル1つあたりの大きさは、前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルを表現する要素のうち最も小さい要素よりも更に小さい、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記グリーンタイヤモデルは、オイラー要素で表現され、前記モールドモデルはラグランジェ要素で表現されている、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
モールドモデルのトレッドパターンをグリーンタイヤモデルに接触させることにより、前記トレッドパターンに沿って変形させた前記グリーンタイヤモデルの表面データと、前記モールドモデルの表面データとを取得する取得部と、
ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子を用いて前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルを、それぞれグリーンタイヤボクセル及びモールドボクセルに変換する変換部と、
前記グリーンタイヤボクセルと前記モールドボクセルとの間に存在する空隙ボクセルを特定する空隙特定部と、
前記空隙ボクセルを表示する表示部と、
を備える、タイヤ製造工程をシミュレーションするシステム。
【請求項7】
前記変換部は、前記グリーンタイヤモデルの表面及び前記モールドモデルの表面を前記共通のボクセル格子に重ねて配置し、各モデルの表面の位置と前記ボクセル格子の位置関係に基づき前記グリーンタイヤボクセル及び前記モールドボクセルを生成する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記表示部は、前記空隙ボクセルと共に前記モールドボクセルを表示する、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルは、オイラー要素又はラグランジェ要素のいずれかで表現されており、
前記ボクセル1つあたりの大きさは、前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルを表現する要素のうち最も小さい要素よりも更に小さい、請求項6~8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記グリーンタイヤモデルは、オイラー要素で表現され、前記モールドモデルはラグランジェ要素で表現されている、請求項6~9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
請求項1~5のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤ製造工程をシミュレーションし、製造時の不具合の発生を予測する技術が知られている。例えば特許文献1では、グリーンタイヤを加硫するために加硫モールド(セクタモールド及びサイドプレート)を閉じたときの内部のグリーンタイヤの変形をシミュレーションする方法が記載されている。この文献では、タイヤを複数の要素に分割したグリーンタイヤモデルに内圧を付与してグリーンタイヤモデルを拡張させ、モールドモデルを閉めてモールドモデルの内表面を拡張限界としてグリーンタイヤモデルを変形させる処理が記載されている。このシミュレーション方法を利用すれば、モールド内におけるグリーンタイヤの変形後の形状を知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グリーンタイヤがモールドに対して十分に充填されなければ、グリーンタイヤとモールドの間に隙間が発生し、タイヤ表面に凹部が形成されてしまう。タイヤ表面の凹部はベアと呼ばれ、成形不良となる。タイヤの成形を評価するために、変形後のグリーンタイヤとモールドとの間に隙間が存在するか否か、その隙間の大きさなどを知る必要がある。
【0005】
しかしながら、グリーンタイヤの表面と、モールドの表面とを比較して、両者の間に隙間が存在するかを的確に判定することは困難である。なぜならば、物体の表面は、複数の点及び複数の点を結ぶ面で表現されており、閉空間である隙間を認識するために、モールド及びグリーンタイヤを構成する複数の面のうち、互いに交差している面同士を認識する必要がある。面同士が交差しているかを認識するためには、モールドの面を構成する点とタイヤの表面を構成する点とが一致している必要がある。しかし、モールドとタイヤは別モデルであり、各モデルの面を構成する点が離間して一致していないことが大半である。面を構成する点が一致していなければ、双方の面が交差しているか否かを判定することが容易ではない。点同士が一致していれば、面同士が交差しているかの判定が可能であるが、点同士が一致していない場合、点同士、点と面、面と面同士の距離で面同士が交差しているかを判断することが考えられるが、確実な判定ができない。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、モールドとグリーンタイヤの間の隙間の存在を的確に判定でき、隙間を表示可能なタイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤ製造工程をシミュレーションする方法は、
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
モールドモデルのトレッドパターンをグリーンタイヤモデルに接触させることにより、前記トレッドパターンに沿って変形させた前記グリーンタイヤモデルの表面データと、前記モールドモデルの表面データとを取得するステップと、
ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子を用いて前記グリーンタイヤモデル及び前記モールドモデルを、それぞれグリーンタイヤボクセル及びモールドボクセルに変換するステップと、
前記グリーンタイヤボクセルと前記モールドボクセルとの間に存在する空隙ボクセルを特定するステップと、
前記空隙ボクセルを表示するステップと、
を含む。
【0008】
このように、ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子を用いて、グリーンタイヤモデル及びモールドモデルの表面データをボクセルデータに変換するので、タイヤとモールドのボクセルを構成する各点が一致し、タイヤとモールドの間の空隙は、ボクセル単位で表現可能となり、空隙ボクセルとして特定し、表示可能となる。したがって、モールドとグリーンタイヤの間の隙間の存在を的確に判定でき、隙間を表示可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】グリーンタイヤの変形過程をシミュレーションする方法を示すフローチャート
【
図4A】グリーンタイヤをサイドプレートモデル及びブラダモデルで保持する前の初期状態を示す図
【
図4B】グリーンタイヤをサイドプレートモデル及びブラダモデルで保持したサイド閉状態を示す図
【
図5】三次元トレッドモデルのタイヤ子午線断面を示す図
【
図6】オイラー要素で表現したトレッドゴムに関する説明図
【
図7】オイラー要素による表現に置換した後の三次元トレッドモデルの斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図
【
図8】セクタモールドに接触させる前のトレッドゴムを示す斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図
【
図9】セクタモールドに接触することでトレッドパターンが形成されたトレッドゴムを示す斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図
【
図11A】グリーンタイヤモデルとモールドモデルの断面図の一例を示す図
【
図11B】グリーンタイヤモデルとモールドモデルとボクセル格子を重ねて配置した図
【
図12】オイラー要素の格子点及び流体率で表現される流体形状を示す図
【
図14】空隙ボクセル及びモールドボクセルの表示に関する図
【
図15】製造工程をシミュレーションする方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
[タイヤ製造工程をシミュレーションするシステム]
本実施形態に係るシステム1は、タイヤの製造工程をシミュレーションするシステム(装置)である。具体的に、
図1に示すように、システム1は、取得部13と、変換部14、空隙特定部15と、表示部16と、を有する。取得部13は、三次元トレッドモデル取得部10と、置換部11と、流体解析部12と、を有する。これらの各部10~16は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている
図2の処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0012】
<グリーンタイヤ及びモールドの表面データの取得>
取得部13は、
図8に示すように、モールドモデル(2)のトレッドパターンをグリーンタイヤモデル(M4)に接触させることにより、トレッドパターンに沿って変形させたグリーンタイヤモデルの表面データ(
図9のM5)と、モールドモデルの表面データ(
図10のM6)とを取得する。本実施形態では、
図10に示すようにモールドモデルM6はラグランジェ要素で表現されている。ラグランジェ要素を構成する節点及び節点を結ぶ面がモールドモデルM6の表面を表現している。
図9に示すように、グリーンタイヤモデルM5(トレッド部)は、トレッド部が流体であるとしてオイラー要素で表現されている。なお、
図9では、グリーンタイヤモデルM5のみを示しており、モールドモデルの図示は省略している。
【0013】
図11Aは、取得部13が取得したグリーンタイヤモデルM5とモールドモデルM6の断面図の一例を示す。
図11Aは、モールドモデルM6の凸部の根本にグリーンタイヤモデルM5が充填されている様子を示している。斜線部分がモールドモデルM6又はグリーンタイヤモデルM5を示し、モールドモデルM6の凸部の根本に隙間が生じている例を示している。グリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6の表面データは、各物体を形成する複数面を有する。モールドモデルM6の表面データは、モールドモデルM6を表現するラグランジェ要素の境界面が挙げられる。
グリーンタイヤモデルM5の表面データは、
図12に示すように、オイラー要素の複数の格子点(図中ではN1~N8を付した丸で示す)の流体率が表す等値面又は等値線が挙げられる。各格子点の流体率は0~1の間の値を有し、周りの格子点の流体率との比によって流体の形状を示している。
図12に示す例では、格子点N6の流体率が0であり、流体が存在しないことを示しており、他の格子点(N1~5、7~8)の流体率が1であるので、流体としてのゴムの形状は、同図に示す等値線及び等値面で表現されている。
【0014】
以下、取得部13の具体的な構成について詳細に説明する。
【0015】
図1に示す三次元トレッドモデル取得部10は、
図3に示す三次元トレッドモデルM3を取得する。三次元トレッドモデルM3は、
図3に示すように、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴム54を有するトレッド部5が複数のラグランジェ要素で表現されたモデルである。図中ではラグランジェ要素を図示していない。三次元トレッドモデルM3は、
図4Bに示すように一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤM2を構成するトレッド部を示す。本実施形態では、三次元トレッドモデルM3を生成しているが、予め生成されたモデルデータを外部から取得するように構成してもよい。
【0016】
図1に示すように、三次元トレッドモデル取得部10は、二次元グリーンタイヤモデル取得部10aと、変形処理部10bと、三次元トレッドモデル生成部10cと、を有する。
【0017】
二次元グリーンタイヤモデル取得部10aは、
図4Aに示すタイヤ子午線断面にてグリーンタイヤを複数のラグランジェ要素で表現した二次元グリーンタイヤモデルM1を取得する。なお、
図4A及び
図4Bでは、ラグランジェ要素を図示していない。
図4Aに示すように、二次元グリーンタイヤモデルM1は、タイヤ軸回りに回転対称な軸対象モデルであり、タイヤ子午線断面にて定義されている。生タイヤモデルM1は、カーカスプライ、ビードコア、ビードフィラー、サイドウォールゴム、カーカスプライのタイヤ径方向外側に配置される複数のベルト層、前記複数のベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるベースゴム、及びベースゴムのタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴム等のタイヤ構成部材で成形されており、変形解析をするために有限要素モデルが設定されている。
【0018】
変形処理部10bは、一対のサイドプレートモデル3,3と、ブラダモデル4と、二次元グリーンタイヤモデルM1と、を用いて、
図4Aに示す初期状態から
図4Bに示すサイド閉状態までの二次元グリーンタイヤモデルM1の変形をシミュレーションする。演算の結果、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を得ることができる。この解析は、公知なので詳細な説明を省略するが、要旨としては、サイドプレートモデル3及びブラダモデル4によって二次元グリーンタイヤモデルM1に加えられる圧力と、二次元グリーンタイヤモデルM1に設定されている物性値を用いて、運動方程式を演算し、二次元グリーンタイヤモデルM1の変形を模擬する。
【0019】
本実施形態では、ブラダモデル4は変形させるために有限要素(ラグランジェ要素)モデルで構成されている。他の部品すなわちサイドプレートモデル3は形状のみでありメッシュを有さない剛体モデルである。なお、
図4A及び
図4Bでは、現実の加硫工程に合わせてセクタモールド2を図示しているが、変形処理部10bが実行する変形シミュレーションでは使用しない。変形解析で用いる変形解析の条件は予め設定されている。この変形シミュレーションは、初期状態からサイド閉状態までを模擬する。初期状態は、
図4Aに示すように、一対のサイドプレートモデル3,3が開いている状態である。加硫動作が開始すると、
図4Bに示すように、ブラダモデル4が膨らみ且つ一対のサイドプレートモデル3,3が閉められ、サイド閉状態になる。サイド閉状態は、
図4Bに示すように、ブラダモデル4と一対のサイドプレートモデル3,3で二次元グリーンタイヤモデルM2を保持する状態であり、セクタモールド2を閉める前の状態である。設定する変形解析条件としては、サイドプレートモデル3、ブラダモデル4及び二次元グリーンタイヤモデルM1の初期位置、サイドプレートモデル3及びブラダモデル4の動作時の位置を時点毎に示す時系列データ、ブラダモデル4の内圧を時点毎に示す時系列データが挙げられる。
【0020】
三次元トレッドモデル生成部10cは、変形処理部10bにより得られた変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を生成する。本実施形態では、タイヤ周方向に展開する長さを1.5ピッチとしているが、これに限定されず、1ピッチ以上あればよい。1ピッチは、トレッドパターンの最小単位を意味する。ここで
図5に示すようにトレッド部5のタイヤ幅方向WDの最も外側の位置P1は、
図4A及び
図4Bに示すサイドプレートモデル3のタイヤ成形面3aとセクタモールド2のタイヤ成形面2aの突き合わせ部位P2よりもタイヤ幅方向WDの外側にあればよい。すなわち、トレッドゴム54が前記突き合わせ部位P2よりもタイヤ幅方向外側まで配置されているので、セクタモールド2を適切にトレッドゴム54に接触させることができる。
【0021】
図5は、三次元トレッドモデルM3のタイヤ子午線断面を示す。二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5は、ビード部(非図示)からサイドウォール部(非図示)を経てトレッド部5に至るカーカスプライ50と、カーカスプライ50のタイヤ径方向内側RD2に配置されるインナーライナーゴム51と、カーカスプライ50のタイヤ径方向外側RD1に配置される複数のベルト層52と、複数のベルト層52のタイヤ径方向外側RD1に配置されるベースゴム53と、ベースゴム53のタイヤ径方向外側RD1に配置されるトレッドゴム54(キャップゴムとも呼ばれる)と、を有する。
【0022】
なお、本実施形態では、二次元グリーンタイヤモデルM1をサイドプレートモデル3で挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を取得し、その後、二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を得ているが、これに限定されない。計算コストがかかるが、三次元グリーンタイヤモデルを取得又は生成し、その後、三次元グリーンタイヤモデルをサイドプレートモデルで挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の三次元グリーンタイヤモデルを生成し、その後、トレッド部5のみを抽出してもよい。
【0023】
図1に示す置換部11は、
図5に示すラグランジェ要素で表現されるトレッドゴム54をオイラー要素による表現に置換する。具体的には、
図6に示すように、トレッドゴム54を含む所定領域Ar1にオイラー要素を配置する。オイラー要素はラグランジェ要素よりも小さく、図示が難しいので概念図を示す。
図6に示す一つの格子が一つのオイラー要素である。
図6の拡大図において斜線部分がトレッドゴム54の存在する領域である。オイラー要素には流体の有無を示す存在情報(流体率、流体無しとする0又は流体有りとする1の値を取り得る)があり、存在情報にて流体があるとすればそのオイラー要素全体に流体があり、存在情報にて流体がないとすれば、そのオイラー要素には流体がないと取り扱う。すなわち、このようなマッピングを実行し、トレッドゴム54が存在する領域のオイラー要素にトレッドゴム54の存在情報を保持させることにより、ラグランジェ要素による表現からオイラー要素による表現に置換している。オイラー要素の格子が細かいほど、トレッドゴム54の形状の再現度が向上し、逆にオイラー要素の格子が大きくなるほど、トレッドゴム54の形状の再現度が低下する。
図7は、オイラー要素による表現に置換した後の三次元トレッドモデルM4の斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図であり、トレッドゴム54はオイラー要素にて流体が存在する部分を描き、トレッドゴム54よりもタイヤ径方向内側の部材はラグランジェ要素で表現している。流体としてのトレッドゴム54には、流体としての物性値が設定されている。
【0024】
図1に示す流体解析部12は、
図8に示すように、トレッドゴム54をオイラー要素化した三次元トレッドモデルM4のタイヤ径方向外側RD1にセクタモールド2を配置する。その後、セクタモールド2を閉めてセクタモールド2をトレッドゴム54に接触させることでトレッドゴム54にトレッドパターンを形成し、セクタモールド2との接触を入力として流体であるトレッドゴム54の変形を算出する。
【0025】
オイラー要素を用いた流体シミュレーション方法は公知であるので詳細な説明は省略するが、トレッドゴム54を流体として取り扱うために、本実施形態では、
図8に示すように、オイラー要素が配置された所定領域Ar1内のタイヤ幅方向WDの両側にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件Br2が設定している。また、所定領域Ar1内のタイヤ周方向RDの両側にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件Br1を設定している。また、図示しないが、トレッドゴム54よりもタイヤ径方向内側RD2に存在するタイヤ構成部材(ベルト層52)とトレッドゴム54との間の境界にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件が設定されている。これらの境界条件により、いわゆる底面と側面とで流体を包囲する容器に対し、凹凸のある蓋としてのセクタモールドを閉める形となり、簡素な条件で流体としてのトレッドゴムの挙動をシミュレーションすることが可能となる。勿論、流体解析が可能であれば、このような境界条件の設定に限定されない。なお、
図8では、三次元トレッドモデルM4が1.5ピッチであるのに対し、セクタモールド2が2ピッチであるが、セクタモールド2が三次元トレッドモデルM4のピッチ以上あれば、適宜変更可能である。
【0026】
流体解析部12による流体シミュレーションは、
図8に示すようにトレッドゴム54がセクタモールド2から離れた状態から、セクタモールド2が完全に閉まるまで(セクタモールド2がサイドプレートモデル3に接触する等の所定の終了位置に移動するまで)、トレッドゴム54の挙動を演算する。演算の結果、
図9に示すように、トレッドゴム54の変形後の形状を得ることができる。
図9は、セクタモールド2の図示を省略している。
【0027】
<ボクセルデータへの変換>
変換部14は、
図11A~Dに示すように、ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子8を用いてグリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6を、それぞれグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2に変換する。
【0028】
具体的には、
図11Bに示すように、グリーンタイヤモデルM5の表面と、モールドモデルM6の表面とを、共通のボクセル格子8に重なるように配置する。ボクセル格子8は、ボクセルの位置を規定するために用いられ、積み重ねた複数の仮想ボクセル80の境界を示す。ボクセル格子8を構成する仮想ボクセル80(ボクセル)1つあたりの大きさは、グリーンタイヤモデルM5を表現するオイラー要素よりも小さい。一般的に、オイラー要素はラグランジェ要素よりも小さいので、ボクセル1つあたりの大きさは、グリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6を表現する要素のうち最も小さい要素よりも更に小さいことになる。このようにすれば、ボクセルデータでの表現精度を確保しやすいからである。例えば、ボクセル1つあたりの大きさは、モデルM5、M6の最も小さい要素の1/5以下であることが好ましい。
【0029】
図11Cは、
図11Bの一部拡大図である。次に、
図11Cに示すように、各モデルM5、M6の表面の位置とボクセル格子8の位置関係に基づきグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2を生成する。本実施形態では、仮想ボクセル80の重心位置にある部材に基づき当該仮想ボクセル80をいずれのボクセルにするかを決定している。例えば、仮想ボクセル80の重心位置にグリーンタイヤM5が存在すれば、当該仮想ボクセル80をグリーンタイヤボクセルV1とする。また、重心位置にモールドモデルM6が存在すれば、当該仮想ボクセル80をモールドボクセルV2とする。なお、本実施形態では、仮想ボクセル80の重心位置を用いているが、これに限定されない。例えば、体積比率で最も体積比率が多い部材のボクセルとしてもよい。いずれの判断条件を採用しても、全てのボクセルについて同一条件で判断すればよい。
【0030】
なお、面データのみで部材の内外を判定する必要があるが、その一例として光線追跡法(Ray tracing method)が使用可能である。
図13は一例を示している。
図13に示すように、まず表面データを全て三角形の面データに変換する。その次に、光線追跡法によりモデルの内外判定を行う。光線と物体(三角形面)の交点を求め、次の物体の交点までをモデルの内部と判定する。この光線追跡法をx軸、y軸及びz軸の三軸に対して走査することで、面データはボクセル格子8内の内部判定データ(ボクセルデータ)に変換可能となる。
【0031】
<空隙の特定>
空隙特定部15は、
図11Cに示すように、グリーンタイヤボクセルV1とモールドボクセルV2との間に存在する空隙ボクセルV3を特定する。これは、仮想ボクセル80の重心位置の部材が存在しなければ、空隙ボクセルV3とすることが挙げられる。
【0032】
図11Dは、ボクセル格子8を用いてグリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6に基づき、グリーンタイヤボクセルV1、モールドボクセルV2及び空隙ボクセルV3に変換した様子を示している。ボクセル格子8を構成する複数の仮想ボクセル80がいずれかのボクセルに変換されている。
【0033】
<空隙ボクセルの表示>
表示部16は、空隙ボクセルV3を表示する。
図14に示すように、空隙ボクセルV3と共にモールドボクセルV2を表示することが好ましい。このようにすれば、モールド形状に起因する空隙の発生を理解しやすくなり、設計が容易となる。なお、
図14では、図示の都合上、モールドボクセルV2を黒色の枠で表示し、空隙ボクセルV3を白色で示している。
【0034】
[タイヤ製造工程をシミュレーションする方法]
上記システム1を用いた方法を、
図15を用いて説明する。
【0035】
まず、取得部13は、ステップS200において、モールドモデルM6のトレッドパターンをグリーンタイヤモデルM5に接触させることにより、トレッドパターンに沿って変形させたグリーンタイヤモデルM5の表面データと、モールドモデルM6の表面データとを取得する。
【0036】
次のステップS201において、変換部14は、ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子8を用いてグリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6を、それぞれグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2に変換する。
【0037】
次のステップS202において、空隙特定部15は、グリーンタイヤボクセルV1とモールドボクセルV2との間に存在する空隙ボクセルを特定する。
【0038】
次のステップS203において、表示部16は、空隙ボクセルV3を表示する。
【0039】
以上のように、本実施形態のタイヤ製造工程をシミュレーションする方法は、
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
モールドモデルM6のトレッドパターンをグリーンタイヤモデルM5に接触させることにより、トレッドパターンに沿って変形させたグリーンタイヤモデルM5の表面データと、モールドモデルM6の表面データとを取得するステップ(S200)と、
ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子8を用いてグリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6を、それぞれグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2に変換するステップ(S201)と、
グリーンタイヤボクセルV1とモールドボクセルV2との間に存在する空隙ボクセルV3を特定するステップ(S202)と、
空隙ボクセルV3を表示するステップ(S203)と、
を含む。
【0040】
本実施形態のタイヤ製造工程をシミュレーションするシステムは、
モールドモデルM6のトレッドパターンをグリーンタイヤモデルM5に接触させることにより、トレッドパターンに沿って変形させたグリーンタイヤモデルM5の表面データと、モールドモデルM6の表面データとを取得する取得部13と、
ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子8を用いてグリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6を、それぞれグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2に変換する変換部14と、
グリーンタイヤボクセルV1とモールドボクセルV2との間に存在する空隙ボクセルV3を特定する空隙特定部15と、
空隙ボクセルV3を表示する表示部16と、
を備える。
【0041】
このように、ボクセルの位置を規定するための共通のボクセル格子8を用いて、グリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6の表面データをボクセルデータ(V1、V2)に変換するので、タイヤとモールドのボクセルを構成する各点が一致し、タイヤとモールドの間の空隙は、ボクセル単位で表現可能となり、空隙ボクセルV3として特定し、表示可能となる。したがって、モールドとグリーンタイヤの間の隙間の存在を的確に判定でき、隙間を表示可能となる。
【0042】
本実施形態のように、変換部14は、グリーンタイヤモデルM5の表面及びモールドモデルM6の表面を共通のボクセル格子8に重ねて配置し、各モデル(M5、M6)の表面の位置とボクセル格子8の位置関係に基づきグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2を生成することが好ましい。
【0043】
このようにすれば、グリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6をグリーンタイヤボクセルV1及びモールドボクセルV2に適切に変換することが可能となる。
【0044】
本実施形態のように、表示部16は、空隙ボクセルV3と共にモールドボクセルV2を表示することが好ましい。
【0045】
このようにすれば、このようにすれば、モールド形状に起因する空隙の発生を理解しやすくなり、設計が容易となる。
【0046】
本実施形態のように、グリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6は、オイラー要素又はラグランジェ要素のいずれかで表現されており、ボクセル1つあたりの大きさは、グリーンタイヤモデルM5及びモールドモデルM6を表現する要素のうち最も小さい要素よりも更に小さいことが好ましい。
【0047】
このようにすれば、表面データをボクセルデータに変換した際に形状の再現精度を最低限確保可能となる。
【0048】
本実施形態のように、グリーンタイヤモデルM5は、オイラー要素で表現され、モールドモデルM6はラグランジェ要素で表現されていることが好ましい。
【0049】
モールドモデルM6のトレッドパターンは複雑な形状であるため、グリーンタイヤモデルM5のトレッド部がラグランジェ要素であると、変形過程で要素が潰れてしまい、変形シミュレーションを継続できなくなるおそれがある。しかし、グリーンタイヤモデルM5のトレッド部がオイラー要素であれば、トレッドゴムが流体として取り扱われるので、変形シミュレーションを的確に継続可能となる。勿論、変形後の形状が取得できるのであれば、グリーンタイヤモデルM5がオイラー要素でなくても、ラグランジェ要素でもよい。
【0050】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0052】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
8 ボクセル格子
13 取得部
14 変換部
15 空隙特定部
16 表示部
M5 グリーンタイヤモデル
M6 モールドモデル
V1 グリーンタイヤボクセル
V2 モールドボクセル
V3 空隙ボクセル