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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/60 20060101AFI20221101BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20221101BHJP
   G01S 13/522 20060101ALI20221101BHJP
   G01S 13/536 20060101ALI20221101BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01S13/60 202
G01S13/931
G01S13/522
G01S13/536
G08G1/16 C
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019049010
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2019168449
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2018056398
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003873(JP,A)
【文献】特開2010-038705(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007828(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0124086(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0038083(US,A1)
【文献】特開2017-090066(JP,A)
【文献】特開2017-058291(JP,A)
【文献】特開2010-002410(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0046001(US,A1)
【文献】特表2006-516736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 7/52- 7/64,
G01S 13/00-13/95,
G01S 15/00-15/96,
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(50)に搭載されたレーダ装置(20)であって、
設定された繰り返し周期でパルス信号又はチャープ信号である送信信号を送信するように構成された送信部(21)と、
前記送信部により送信された前記送信信号が物標により反射されて生じた反射信号を受信するように構成された受信部(23)と、
次回の処理サイクルにおける前記繰り返し周期として、今回の処理サイクルにおける前記繰り返し周期と異なる前記繰り返し周期を設定するように構成された設定部(22)と、
前記受信部により受信された反射信号から物標を示す物標信号を検出するように構成された検出部(24)と、
前記検出部により検出された前記物標信号から前記物標に対する相対速度の観測値であって、折り返しによる速度の曖昧さを含んだ速度観測値を算出するように構成された観測部(25)と、
前記今回の処理サイクルにおいて前記検出部により初めて検出された前記物標である初検出物標について、前記観測部により算出された前記速度観測値を用いて、k回からk+n回(kは整数、nは1以上の整数)までの速度の折り返しを仮定した複数の速度推定値を算出するように構成された推定部(29)と、
前記推定部により算出された前記複数の速度推定値のそれぞれから、前記次回の処理サイクルにおける前記速度観測値の予測値である速度予測値を算出するように構成された予測部(30)と、
前記次回の処理サイクルにおいて、前記予測部により算出された前記速度予測値と、前記次回の処理サイクルにおいて前記観測部により算出された前記速度観測値及びその折り返し値との対応付けを行うように構成されたマッチング処理部(27)と、
前記マッチング処理部による対応付けの結果に基づいて、前記速度予測値と前記速度観測値とから前記相対速度を確定するように構成された確定部(32)と、を備える、
レーダ装置。
【請求項2】
車両(50)に搭載されたレーダ装置(20)であって、
設定された繰り返し周期でパルス信号又はチャープ信号である送信信号を送信するように構成された送信部(21)と、
前記送信部により送信された前記送信信号が物標により反射されて生じた反射信号を受信するように構成された受信部(23)と、
次回の処理サイクルにおける前記繰り返し周期として、直前の処理サイクルにおける前記繰り返し周期と異なる前記繰り返し周期を設定するように構成された設定部(22)と、
前記受信部により受信された反射信号から物標を示す物標信号を検出するように構成された検出部(24)と、
前記検出部により検出された前記物標信号から前記物標に対する相対速度の観測値であって、折り返しによる速度の曖昧さを含んだ速度観測値を算出するように構成された観測部(25)と、
前記直前の処理サイクルにおいて前記検出部により初めて検出された前記物標である初検出物標について、前記観測部により算出された前記速度観測値を用いて、k回からk+n回(kは整数、nは1以上の整数)までの速度の折り返しを仮定した複数の速度推定値を算出するように構成された推定部(29)と、
前記推定部により算出された前記複数の速度推定値のそれぞれから、前記次回の処理サイクルにおける前記速度観測値の予測値である速度予測値を算出するように構成された予測部(30)と、
前記次回の処理サイクルにおいて、前記予測部により算出された前記速度予測値と、前記次回の処理サイクルにおいて前記観測部により算出された前記速度観測値及びその折り返し値との対応付けを行うように構成されたマッチング処理部(27)と、
次回以降の処理サイクルにおいて、前記マッチング処理部による対応付けの結果に基づいて、前記速度予測値と前記速度観測値とから前記相対速度を確定するように構成された確定部(32)と、を備える、
レーダ装置。
【請求項3】
前記推定部は、k回からk+n回(kは0以下の整数、nは1以上の整数、k+nは0以上の整数)までの速度折り返しを仮定した前記複数の速度推定値を算出するように構成されている請求項1又は2に記載のレーダ装置
【請求項4】
前記推定部は、前記検出部により前記初検出物標が検出された処理サイクルの次回以降の処理サイクルにおける前記初検出物標の前記速度推定値を、実行中の処理サイクルにおいて前記観測部により算出された前記速度観測値と、前記実行中の処理サイクルよりも一つ前の処理サイクルにおける前記速度推定値から前記予測部により予測された前記速度予測値であって、前記マッチング処理部により当該速度観測値と対応づけられた前記速度予測値と、に基づいて算出するように構成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記速度推定値のそれぞれについて、その速度推定値の確からしさを表す尤度を算出するように構成された尤度算出部(31)を備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記尤度算出部は、前記マッチング処理部による前記対応付けが成立した場合に、前記対応付けが成立した前記速度予測値に対応する前記速度推定値の前記尤度を増加させるように構成されている、
請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記確定部は、いずれかの前記尤度が予め設定された尤度閾値を超えたときの処理サイクルにおいて、同じ前記初検出物標に対応する前記尤度の中で最大で且つ前記尤度閾値を超えた前記尤度を有する前記速度推定値である最尤推定値を前記相対速度として確定し、前記推定部により前記最尤推定値に対応する前記初検出物標について算出された他の前記速度推定値を削除するように構成されている、
請求項5又は6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記尤度算出部は、前記速度推定値のそれぞれについて、前記折り返しの回数ごとに異なる前記尤度の初期値を算出するように構成されている、
請求項5~7のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記尤度算出部は、前記車両の速度、前記物標の種別、及び前記物標の位置の少なくとも1つに応じて、前記尤度の初期値を算出するように構成されている、
請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記尤度算出部は、前記物標の種別を、前記物標までの距離と前記物標信号の強度との関係から推定するように構成されている、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
複数の前記速度予測値のそれぞれと前記速度観測値又はその折り返し値との差分に基づいて、前記複数の速度予測値のそれぞれと前記速度観測値又はその折り返し値との対応性を評価した評価値を算出するように構成された評価部(26)を備える、
請求項5~10のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記マッチング処理部は、同じ前記初検出物標に対応する前記速度観測値又はその折り返し値と、前記複数の速度予測値のそれぞれとの組み合わせの中で、前記評価部により算出された前記評価値が最大で且つ予め設定された評価閾値よりも高い組み合わせを対応付けるように構成されている、
請求項11に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記マッチング処理部により前記速度予測値が前記速度観測値と対応付けされなかった場合に、対応付けされなかった前記速度予測値を前記速度推定値とする外挿処理を実行するように構成された外挿処理部(28)を備える、
請求項12に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記尤度算出部は、前記外挿処理部により前記外挿処理が実行された場合には、前記外挿処理により算出された前記速度推定値の前記尤度を減少させるように構成されている、
請求項13に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記尤度算出部は、前記マッチング処理部により前記対応付けが成立した場合に、対応付けに用いた前記評価値に応じて、前記対応付けが成立した前記速度予測値に対応する前記速度推定値の前記尤度を変更するように構成されている、
請求項11~14のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記予測部は、更に、前記物標までの距離、前記車両に対する前記物標の方位、及び前記物標信号の強度のうちの少なくとも一つについて、前記次回の処理サイクルにおける予測値を算出するように構成されている、
請求項11~15のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記評価部は、更に、前記予測部により算出された、前記距離、前記方位、及び前記強度の少なくとも一つの予測値とその観測値との差分に基づいて、前記評価値を算出するように構成されている、
請求項16に記載のレーダ装置。
【請求項18】
前記確定部により前記相対速度が確定された前記物標を警報対象として、警報を出力するか否か判定するように構成された警報判定部(33)を備える、
請求項1~17のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項19】
前記予測部は、更に、前記物標までの距離、前記車両に対する前記物標の方位、及び前記物標信号の強度のうちの少なくとも一つについて、前記次回の処理サイクルにおける予測値を算出するように構成されており、
前記速度予測値と前記速度観測値又はその折り返し値との接続精度を算出するように構成された精度算出部であって、前記予測部により算出された、前記距離、前記速度、前記方位、及び前記強度の少なくとも一つの予測値とその観測値との差分と、直前の処理サイクルにおいて算出された前記接続精度と、のうちの少なくとも一方に基づいて、前記接続精度を算出するように構成された前記精度算出部を備える、
請求項1~18のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項20】
前記確定部は、前記マッチング処理部による前記対応付けの回数をカウントするように構成されている、
請求項19に記載のレーダ装置。
【請求項21】
前記確定部は、いずれかの前記対応付けの回数が設定された回数閾値以上で、且つ、前記対応付けの回数が最大である前記速度予測値が1つである場合に、前記相対速度を確定するように構成されている、
請求項19又は20に記載のレーダ装置。
【請求項22】
前記確定部は、前前記物標が前記検出部により初めて検出されてから現在の処理サイクルまでの処理サイクル数が設定された確定閾値未満で、且つ、前記対応付けの回数が最大である前記速度予測値が複数ある場合に、前記相対速度を確定しないように構成されている、
請求項19~21のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項23】
前記確定部は、いずれかの前記対応付けの回数が設定された回数閾値以上で、且つ、現在の処理サイクルにおいて前記マッチング処理部により対応付けが成立した前記速度予測値がない場合に、前記相対速度を確定するように構成されている、
請求項19~22のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項24】
前記確定部は、前記物標が前記検出部により初めて検出されてから現在の処理サイクルまでの処理サイクル数が設定された確定閾値に到達した場合に、前記相対速度を確定するように構成されている、
請求項19~23のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項25】
前記確定部は、前記対応付けの回数が最大である前記速度予測値が1つの場合は、前記対応付けの回数が最大である前記速度予測値に対応する前記速度推定値を前記相対速度として確定するように構成されている、
請求項19~24のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項26】
前記確定部は、前記対応付けの回数が最大である前記速度予測値が複数ある場合は、前記精度算出部により算出された前記接続精度が最大である前記速度予測値に対応する前記速度推定値を前記相対速度として確定するように構成されている、
請求項19~25のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項27】
前記確定部は、前記相対速度を確定した場合に、前記相対速度が確定された物標に対応する他の前記速度推定値を削除するように構成されている、
請求項19~26のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項28】
前記確定部は、前記対応付けの回数が最大ではない前記速度予測値に対応する前記速度推定値を削除するように構成されている、
請求項19~27のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数が連続的に増加又は減少するチャープ信号をレーダ信号として使用し、その送受信信号から生成されたビート信号に2次元FFTを適用することにより、物標までの距離及び物標の速度を計測するFast Chirp Modulation(以下、FCM)方式のレーダ装置が知られている。FCM方式のレーダ装置では、ビート信号の周波数から物標までの距離を求め、同一物標について連続的に検出される周波数成分の位相回転から、物標に対する相対速度を求める。ただし、検出された位相θは折り返している可能性があり、Nを整数とすると、実際の位相はθ+2π×Nの可能性がある。そのため、位相回転から求められる速度は曖昧性が含まれたものとなる。このような速度の曖昧性は、レーダ信号としてパルス信号を使用するレーダ装置においても生じ得る。
【0003】
特許文献1に記載のレーダ装置は、パルス信号の繰り返し周期が異なると、折り返しが発生した場合に観測される速度が異なることに着目している。特許文献1に記載のレーダ装置は、2つの異なる繰り返し周期でパルス信号を送受信し、2つの繰り返し周期の受信信号に基づいて第1の速度及び第2の速度をそれぞれ算出している。そして、特許文献1に記載のレーダ装置は、第1の速度と第2の速度との速度差に基づいて第1の速度及び第2の速度の折り返しを補正し、真の速度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6075846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
繰り返し周期の異なる処理サイクル間の観測値を比較する場合、処理サイクル間で観測値を対応付けする必要がある。物標が初検出された物標の場合、その折り返し回数はわからないため、速度以外の距離や強度の情報を用いて、処理サイクル間で観測値の対応付けを行う必要がある。しかしながら、複数の物標が存在する環境下において、対象物標からの受信信号と距離及び強度の近い他の受信信号が観測された場合には、処理サイクル間で観測値の対応付けを行うことが難しい。対象物標の観測値と他の物標の観測値とを誤って対応付けると、速度を誤推定してしまう。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、複数の物標が存在する環境下においても精度良く物標の速度を推定することが可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの局面は、車両(50)に搭載されたレーダ装置(20)であって、送信部(21)と、受信部(23)と、設定部(22)と、検出部(24)と、観測部(25)と、推定部(29)と、予測部(30)と、マッチング処理部(27)と、確定部(32)と、を備える。送信部は、設定された繰り返し周期でパルス信号又はチャープ信号である送信信号を送信するように構成される。受信部は、送信部により送信された送信信号が物標により反射されて生じた反射信号を受信するように構成される。設定部は、次回の処理サイクルにおける繰り返し周期として、今回の処理サイクルにおける繰り返し周期と異なる繰り返し周期を設定するように構成される。検出部は、受信部により受信された反射信号から物標を示す物標信号を検出するように構成される。観測部は、検出部により検出された物標信号から物標に対する相対速度の観測値である速度観測値を算出するように構成される。推定部は、今回の処理サイクルにおいて検出部により初めて検出された物標である初検出物標について、観測部により算出された速度観測値を用いて、k回からk+n回(kは整数、nは1以上の整数)までの速度の折り返しを仮定した複数の速度推定値を算出するように構成される。予測部は、推定部により算出された複数の速度推定値のそれぞれから、次回の処理サイクルにおける速度観測値の予測値である速度予測値を算出するように構成される。マッチング処理部は、次回の処理サイクルにおいて、今回の処理サイクルにおいて予測部により算出された速度予測値と、次回の処理サイクルにおいて観測部により算出された速度観測値との対応付けを行うように構成される。確定部は、マッチング処理部による対応付けの結果に基づいて、速度予測値と速度観測値とから相対速度を確定するように構成される。
【0008】
本開示の1つの局面によれば、今回の処理サイクルと次回の処理サイクルとで異なる繰り返し周期によって送信信号が送信され、その反射信号から物標信号が検出されて、物標の速度観測値が検出される。ここで、今回の処理サイクルと次回の処理サイクルとでは繰り返し周期が異なるため、速度観測値の最大検知速度が異なり、折り返しが発生した場合に同一物標の速度観測値に差が生じる。
【0009】
また、今回の処理サイクルにおける速度観測値から、複数の折り返し回数を仮定した複数の速度推定値が算出され、複数の速度推定値から次回の処理サイクルにおける速度観測値の予測値である複数の速度予測値が算出される。
【0010】
そして、次回の処理サイクルにおいて、速度予測値のいずれかと速度観測値との対応付けが行われる。すなわち、今回の処理サイクルにおける速度観測値と次回の処理サイクルにおける速度観測値とが対応付けられる。そして、対応付けられた速度予測値と速度観測値とから物標の相対速度が確定される。このように、異なる折り返し回数に対応した複数の速度予測値が算出されて用いられるため、同じ処理サイクルにおいて距離及び信号強度の近い複数の物標が観測された場合でも、異なる処理サイクル間における速度観測値を適切に対応付けることができる。よって、複数の物標が存在する環境下においても、繰り返し周期の異なる処理サイクル間における速度観測値の対応付けを適切に行って、精度良く物標の速度を推定することができる。
【0011】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】レーダ装置の構成を示すブロック図である。
図2】レーダ装置の車両における搭載位置及び検知範囲の一例を示す図である。
図3】レーダ装置の車両における搭載位置及び検知範囲の一例を示す図である。
図4】レーダ装置の車両における搭載位置及び検知範囲の一例を示す図である。
図5】レーダ装置の車両における搭載位置及び検知範囲の一例を示す図である。
図6】奇数処理サイクル及び偶数処理サイクルにおける送信信号の波形を示す図である。
図7】3処理サイクル分の送信信号の波形の一例を示す図である。
図8】3処理サイクル分の送信信号の波形の他の一例を示す図である。
図9】物標の速度確定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図10】2次元FFTの概要を示す説明図である。
図11】速度推定値の折り返し回数に対する尤度の初期値の一例を示す図である。
図12】速度推定値の折り返し回数に対する尤度の初期値の一例を示す図である。
図13】速度推定値の折り返し回数に対する尤度の初期値の一例を示す図である。
図14】速度推定値の折り返し回数に対する尤度の初期値の一例を示す図である。
図15】-1回の折り返しが発生した場合における、第1~第3処理サイクルの物標の速度観測値、速度推定値、及び速度予測値を示す図である。
図16】折り返しが発生しない場合における、第1~第3処理サイクルの物標の速度観測値、速度推定値、及び速度予測値を示す図である。
図17】第3処理サイクルにおいて物標の速度が確定した場合における、第1~第3処理サイクルの物標の速度観測値、速度推定値、及び速度予測値を示す図である。
図18】外挿処理をした場合における、第1~第3処理サイクルの物標の速度観測値、速度推定値、及び速度予測値を示す図である。
図19】複数の物標が観測された場合における、第1~第3処理サイクルの物標の速度観測値、速度推定値、及び速度予測値を示す図である。
図20】第2実施形態に係る物標の速度確定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
(第1実施形態)
<1.構成>
まず、本実施形態に係るレーダ装置20の構成について、図1図8を参照して説明する。
【0014】
レーダ装置20は、チャープ信号を送受信するFCM(Fast Chirp Modulation)方式のミリ波レーダであり、車両50に搭載されている。例えば、図2に示すように、レーダ装置20は、車両50の前方中央(例えば、前方バンパの中央)に搭載され、車両50の前方中央の領域を検知エリアRdとしてもよい。あるいは、図3に示すように、レーダ装置20は、車両50の左前側方及び右前側方の2箇所(例えば、前方バンパの左端及び右端)に搭載され、車両50の左前方及び右前方の領域を検知エリアRdとしてもよい。
【0015】
あるいは、図4に示すように、レーダ装置20は、車両50の左後側方及び右後側方の2箇所(例えば、後方バンパの左端及び右端)に搭載され、車両50の左後方及び右後方の領域を検知エリアRdとしてもよい。あるいは、図5に示すように、レーダ装置20は、車両50の左前側方、右前側方、左後側方、及び右後側方の4箇所に搭載され、車両50の左前方、右前方、左後方及び右後方の領域を検知エリアRdとしてもよい。
【0016】
チャープ信号は、図6に示すように、周波数がノコギリ波状に変化するように周波数変調されたレーダ信号である。すなわち、チャープ信号は、周波数が連続的に増加又は減少するレーダ信号である。図6には、周波数が連続的に減少するチャープ信号を示しているが、周波数が連続的に増加するチャープ信号でもよい。1つのチャープ信号の送信開始から次のチャープ信号の送信開始までの期間がチャープ信号の繰り返し周期である。また、図7は、2つの異なる繰り返し周期T1,T2のチャープ信号を交互に送信する場合における、3処理サイクル分のチャープ信号の波形を示す。また、図8に示すように、3つの異なる繰り返し周期T1、T2、T3のチャープ信号を順番に送信してもよい。この場合、3処理サイクルで、1セット分のチャープ信号が送信される。
【0017】
レーダ装置20は、CPU、ROM、RAM、及び、高速フーリエ変換(以下、FFT)処理等を実行するコアプロセッサを含むマイクロコンピュータを備える。そして、レーダ装置20は、送信部21、設定部22、受信部23、検出部24、観測部25、評価部26、マッチング処理部27、外挿処理部28、推定部29、予測部30、尤度算出部31、確定部32及び警報判定部33の機能を備える。これらの各機能は、CPU等がROM等のメモリに記憶されているプログラムを実行することにより実現してもよいし、その一部又は全部を、論理回路やアナログ回路等を組み合わせたハードウェアを用いて実現してもよい。
【0018】
送信部21は、複数のアンテナ素子によって構成された送信アレーアンテナを含み、設定部22により設定された繰り返し周期Tcyでチャープ信号を繰り返し送信する。受信部23は、複数のアンテナ素子によって構成された受信アレーアンテナを含み、チャープ信号が物標で反射されて生じた反射信号を受信する。
【0019】
送信部21は、1回の処理サイクルにおいて、複数のチャープ信号を、設定部22により設定された繰り返し周期Tcyで送信する。そして、設定部22は、連続する処理サイクルにおける繰り返し周期Tcyが互いに異なるように繰り返し周期Tcyを設定する。例えば、図6に示すように、設定部22は、今回(又は現在)の処理サイクルにおける繰り返し周期TcyをT1に設定した場合に、次回の処理サイクルにおける繰り返し周期TcyをT1と異なるT2に設定する。例えば、設定部22は、奇数の処理サイクルにおける繰り返し周期TcyをT1に設定し、偶数の処理サイクルにおける繰り返し周期TcyをT2に設定してもよい。
【0020】
ここで、チャープ信号の最大検知速度Vmaxは、光速をc、チャープ信号の中心周波数をfcとした場合、次の式(1)で示される。
Vmax=c/(4×fc×Tcy) (1)
最大検知速度Vmaxは、折り返しなく検知できる速度Vの大きさの最大値である。速度Vが、-Vmax<V<Vmaxの範囲である場合に、チャープ信号を送受して取得したビート信号から折り返しのなく速度Vを検知できる。式(1)に示すように、最大検知速度Vmaxは繰り返し周期Tcyが大きいほど小さくなる。連続する処理サイクルにおいて互いに異なる繰り返し周期Tcyが設定されている場合、連続する処理サイクルにおける最大検知速度Vmaxは互いに異なる。
【0021】
検出部24、観測部25、評価部26、マッチング処理部27、外挿処理部28、推定部29、予測部30、尤度算出部31、及び確定部32は、受信部23により受信された反射信号から物標信号を検出し、検出した物標信号から物標の速度V及び距離Rを推定して確定する。物標信号は、物標の存在を示す信号である。また、ここでは、車両50に対する相対速度を物標の速度Vと称し、車両50から物標までの距離を物標の距離Rと称する。なお、物標の速度及び距離の確定処理の詳細は後述する。
【0022】
警報判定部33は、確定部32により物標の速度が確定された物標を警報対象として、警報を出力するか否か判定する。すなわち、警報判定部33は、速度が確定された物標と車両50とが衝突する可能性を算出し、衝突する可能性が閾値を超えた場合に、警報を出力すると判定して、警報装置40へ警報出力を指示する。
【0023】
警報装置40は、ドアミラーや車室内に設けられたインジケータ、車室内のスピーカ、車室内のディスプレイなどである。警報装置40は、警報判定部33からの警報出力の指示に応じて、点滅したり、警告音や音声を出力したり、警告を表示したりする。
【0024】
<2.速度確定処理>
次に、レーダ装置20が実行する速度確定処理の処理手順について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0025】
まず、S10では、送信部21が、設定されている繰り返し周期で複数のチャープ信号を繰り返し送信する。そして、受信部23が、送信部21により送信されたチャープ信号が物標により反射されて生じた反射信号を受信する。
【0026】
続いて、S20では、検出部24が、S10において受信された反射信号から物標を示す物標信号を検出する。具体的には、図10に示すように、検出部24は、送信信号と反射信号とからビート信号を取得する。1つの処理サイクルに含まれるチャープ信号の個数をN個とすると、N個のビート信号が取得される。
【0027】
そして、検出部24は、図10に示すように、1回目のFFT処理として、取得したN個のビート信号のそれぞれに対してFFT処理を実行して、N個の距離スペクトラムを算出する。距離スペクトラムは、距離に対するパワーを表す2次元のスペクトラムである。ビート信号は物体までの距離に応じた周波数成分を持つため、算出された距離スペクトラムの周波数BINは距離BINに相当する。さらに、検出部24は、2回目のFFT処理として、算出したN個の距離スペクトラムの各距離BINに対してFFT処理を実行して、距離速度スペクトラムを算出する。距離速度スペクトラムは、距離及び速度に対するパワーを表す3次元のスペクトラムである。そして、検出部24は、算出した距離速度スペクトラムからピークとなる速度BIN及び距離BINをサーチして、ピークを物標の存在を示す物標信号として抽出する。
【0028】
続いて、S30では、観測部25が、S20において抽出された物標信号の速度BIN及び距離BINから、物標の速度観測値Vob及び距離観測値Robを算出する。さらに、観測部25は、物標信号に到来方向推定アルゴリズムを適用して、車両50に対する物標の方位情報を含む方位スペクトラムを算出し、物標の方位を算出してもよい。
【0029】
続いて、S40では、レーダ装置20は、未処理の物標情報が存在するか否か判定する。未処理の物標情報とは、前回の処理サイクルにおけるS70又はS150の処理において算出され、評価値が算出されていない速度予測値Vprのことである。速度予測値Vprは、前回の処理サイクルにおいて、今回の処理サイクルにおける物標の速度観測値Vobの予測値として算出された値である。距離予測値Rprは、前回の処理サイクルにおいて、今回の処理サイクルにおける物標の距離観測値Robの予測値として算出された値である。また、評価値は、後述するS100の処理において算出される値であり、速度予測値Vprと速度観測値Vobとのマッチングに用いられる値である。
【0030】
S40において未処理の物標情報が存在しないと判定された場合は、S50の処理へ進み、S40において未処理の物標情報が存在すると判定された場合は、S100の処理へ進む。
【0031】
S50では、レーダ装置20は、後述するマッチング処理又は外挿処理が未実行の物標信号が存在するか否か判定する。S50において、マッチング処理等が未実行の物標信号が存在すると判定された場合、未処理の物標情報が存在しないにもかかわらず、マッチング処理等が未実行の物標信号が存在する。この場合、レーダ装置20は、マッチング処理等が未実行の物標信号を、今回の処理サイクルにおいて初めて検出された初検出物標を示す信号と判定し、S60の処理へ進む。
【0032】
S60では、推定部29が、S30において算出された速度観測値Vobを用いて、k回からk+n回(kは整数、nは1以上の整数)までの速度折り返しを仮定した複数の速度推定値Vesを算出する。k回からk+n回までの速度折り返しの仮定には、折り返しなしの仮定が含まれていなくてもよい。本実施形態では、推定部29は、折り返しなしの仮定を含むように、k回からk+n回(kは0以下の整数、nは1以上の整数、k+nは0以上の整数)までの速度折り返しを仮定した複数の速度推定値Vesを算出する。Mは折り返し回数であり、kからk+nまでの整数である。具体的には、速度推定値Vesは、次の式(2)から算出される。
Ves=Vob+2×Vmax×M (2)
例えば、推定部29は、折り返しなし(すなわち、M=0)、+1回の折り返し(すなわち、M=1)、-1回の折り返し(すなわち、M=-1)を仮定して、3個の速度推定値Vesa,Vesb,Vescを算出する。
【0033】
続いて、S70では、予測部30が、S60において算出された複数の速度推定値Vesのそれぞれから、次回の処理サイクルにおける速度観測値Vobの予測値である速度予測値Vpr、及び次回の処理サイクルにおける距離観測値Robの予測値である距離予測値Rprを算出する。詳しくは、予測部30は、物標の方位が一定であるとして、複数の速度推定値Vesをそのまま複数の速度予測値Vprとする。また、予測部30は、複数の速度推定値Vesのそれぞれで物標が移動するとして、複数の距離予測値Rprを算出する。
【0034】
例えば、3個の速度推定値Vesa,Vesb,Vescが算出されている場合には、予測部30は、3個の速度予測値Vpra,Vprb,Vprcを算出する。また、この場合、予測部30は、物標がVesa,Vesb,Vescのそれぞれで移動した場合における距離予測値Rpra,Rprb,Rpcを算出する。
【0035】
続いて、S80では、尤度算出部31が、S60において算出された速度推定値Vesのそれぞれの確からしさを表す尤度の初期値を算出する。車両50の速度、物標の種別、及び物標の位置によって、物標の取り得る速度Vの範囲が変わり、それに応じて折り返し回数Mが取り得る範囲も変わる。よって、尤度算出部31は、車両50の速度、物標の種別、及び物標の位置の少なくとも1つに応じて、折り返し回数ごとに異なる尤度の初期値を算出する。
【0036】
物標の種別は、車両、歩行者、自転車などである。物標によって距離と物標信号の強度との関係が異なる。例えば、物標が歩行者であれば距離が近くても低強度となり、物標が車両であれば距離が遠くても高強度となる。したがって、尤度算出部31は、物標までの距離と物標信号の強度との関係から、物標の種別を推定する。
【0037】
例えば、尤度算出部31は、物標を車両と判定し且つ最大検知速度Vmaxが比較的大きい場合や、物標の種別が判別できない場合には、速度の折り返しが生じていない可能性が高いと判定して、図11に示す初期値分布を用いて尤度の初期値を算出してもよい。図11に示す初期値分布は、折り返し回数M=0の尤度が最大で、折り返し回数Mの絶対値の増加に応じて尤度が緩やかに減少する分布である。
【0038】
また、例えば、尤度算出部31は、物標を車両と判定し且つ最大検知速度Vmaxが比較的小さい場合には、速度の折り返しが生じている可能性が高いと判定して、図12に示す初期値分布を用いて尤度の初期値を算出してもよい。図12に示す初期値分布は、折り返し回数M=0よりもM=±1の尤度が大きく、折り返し回数Mの絶対値の増加に応じて尤度が緩やかに減少する分布である。
【0039】
また、例えば、尤度算出部31は、物標が車両50の前方における左側、詳しくは車両50の走行中の道路よりも左側に位置している場合には、物標は左方向へ移動し、車両50から遠ざかる可能性が高いと判定して、図13に示す初期値分布を用いて尤度の初期値を算出してもよい。図13に示す初期値分布は、折り返し回数M=-1の尤度が最大で、折り返し回数Mの-1からの増減に応じて尤度が緩やかに減少する分布である。なお、折り返し回数Mが正の場合には、物標は車両50に近づき、折り返し回数Mが負の場合には、物標は車両50から遠ざかる。
【0040】
また、例えば、尤度算出部31は、物標が歩行者であると判定した場合には、速度の折り返しが生じていない可能性が非常に高いと判定して、図14に示す初期値分布を用いて尤度の初期値を算出してもよい。図14に示す初期値分布は、折り返し回数M=0の尤度が最大で、且つ、図11に示す初期値分布におけるM=0の尤度よりも大きく、折り返し回数Mの絶対値の増加に応じて尤度が急峻に減少する分布である。図14に示めす初期値分布において、折り返し回数Mの絶対値が2以上の尤度は0になっている。
【0041】
さらに、車両50の速度が速いほど速度の折り返しが生じやすいので、尤度算出部31は、車両50の速度が速いほど、分布幅を広げた初期値分布を用いて尤度の初期値を算出してもよい。
【0042】
次に、S50の処理に戻って、マッチング処理等が未実行の物標信号が存在しないと判定された場合は、すべての物標信号に対してマッチング処理又は外挿処理が実行されている。よって、この場合、レーダ装置20は、S90の処理へ進む。
【0043】
S90では、設定部22は、今回の処理サイクルと異なるチャープ信号の繰り返し周期Tcyを設定し、今回の処理サイクルを終了する。これにより、次の処理サイクルにおいて検出される物標の速度の最大検知速度Vmaxは、今回の処理サイクルにおける最大検知速度Vmaxとは異なる値となる。
【0044】
次に、S40の処理に戻って、未処理の物標情報が存在すると判定された場合には、S100の処理へ進む。
S100では、評価部26が評価値を算出する。評価値は、前回の処理サイクルにおいて算出された速度予測値Vpr及び距離予測値Rprのそれぞれと、今回の処理サイクルのS30の処理において算出された速度観測値Vob及び距離観測値Robのそれぞれとの対応性を評価した値であり、値が大きいほど対応性が高いことを示す。
【0045】
評価部26は、前回の処理サイクルにおいて算出された速度予測値Vpr及び距離予測値Rprのそれぞれと、今回の処理サイクルにおいて算出された速度観測値Vob及び距離観測値Robのそれぞれとの差分が小さいほど、評価値を高く算出する。
【0046】
詳しくは、評価部26は、前回の処理サイクルにおいて算出された複数の速度予測値Vprのそれぞれについて、速度観測値Vob及びその折り返し値のうち最も近い値との差分である第1差分を算出する。また、評価部26は、速度予測値Vprのそれぞれについて、対応する距離予測値Rprと距離観測値Robとの差分である第2差分を算出する。そして、評価部26は、速度予測値Vprごとに、第1差分と第2差分との合計が小さいほど、評価値を高く算出する。
【0047】
続いて、S110では、マッチング処理部27が、マッチング対象が存在するか否か判定する。マッチング対象は、同じ初検出物標に対応する速度観測値Vob及びその折り返し値と、複数の速度予測値Vprのそれぞれとの組み合わせの中で、評価値が最大で且つ予め設定された評価閾値よりも高い組み合わせである。S110において、マッチング対象が存在すると判定された場合はS120の処理へ進み、マッチング対象が存在しないと判定された場合はS130の処理へ進む。
【0048】
S120では、マッチング処理部27が、マッチング対象の組み合わせを対応づける。例えば、-1回の折り返しが生じている物標の場合には、その物標に対応する速度観測値Vob及びその折り返し値と、複数の速度予測値Vpのそれぞれとの組み合わせの中で、-1回の折り返しを仮定した速度予測値Vprcを含む組み合わせの評価値が最大且つ評価閾値よりも高くなる。よって、この組み合わせを対応づける。
【0049】
続いて、S140では、推定部29が、複数の速度予測値Vprのうちマッチングが成立した速度予測値Vprと速度観測値Vobとに基づいて、速度推定値Vesを算出する。すなわち、推定部29は、評価閾値を超えた評価値に対応する速度予測値Vprと速度観測値Vob又はその折り返し値とに基づいて、速度推定値Vesを算出する。
【0050】
初検出物標の場合は、速度予測値Vprが存在しないため、推定部29は、S60の処理において、速度観測値Vobのみから速度推定値Vesを算出した。これに対して、過去の処理サイクルで検出されている物標の場合は、速度予測値Vprが存在するので、推定部29は、マッチングが成立した速度予測値Vprと速度観測値Vob又はその折り返し値の両方を用いて、速度推定値Vesを算出する。具体的には、推定部29は、速度観測値Vobと速度推定値Ves又はその折り返し値を加重平均して、速度推定値Vesを算出する。これにより、変動が大きい速度観測値Vobのみを用いて速度推定値Vesを算出する場合よりも、安定した速度推定値Vesが算出される。
【0051】
また、推定部29は、マッチングが成立していない速度予測値Vprについては、速度観測値Vob又はその折り返し値を用いないで速度推定値Vesを算出する、外挿処理を実行する。つまり、推定部29は、マッチングが成立していない速度予測値Vprを、そのまま速度推定値Vesとする。以上から、速度予測値Vprと同数の速度推定値Vesが算出される。
【0052】
さらに、推定部29は、速度推定値Vesと同様に、マッチングが成立した速度予測値Vprに対応する距離予測値Rprと距離観測値Robとに基づいて、距離推定値Resを算出する。具体的には、推定部29は、次の式(3)から距離推定値Resを算出する。αはフィルタゲインである。
Res=Rpr+α(Rob―Rpr) (3)
また、推定部29は、マッチングが成立していない速度予測値Vprに対応する速度予測値Rprについては、距離観測値Robを用いないで距離推定値Resを算出する外挿処理を実行する。具体的には、推定部29は、次の式(4)から距離推定値Resを算出する。以上から速度予測値Vprと同数の距離推定値Resが算出される。
Res=Rpr (4)
一方、S130では、複数の速度予測値Vprのうちのいずれもマッチングが成立していないので、外挿処理部28が、各速度予測値Vprについて、上述した外挿処理を実行して、速度予測値Vprと同数の速度推定値Vesを算出する。また、外挿処理部28は、各距離予測値Rprについて、上述した外挿処理を実行して、速度予測値Vprと同数の距離推定値Resを算出する。
【0053】
続いて、S150では、予測部30が、S130又はS140の処理において算出された速度推定値Vesを用いて、次回の処理サイクルにおける複数の速度予測値Vprを算出する。また、予測部30は、S130又はS140の処理において算出された速度推定値Ves及び距離推定値Resを用いて、次回の処理サイクルにおける複数の距離予測値Rprを算出する。
【0054】
続いて、S160では、尤度算出部31が、S130又はS140において算出された速度推定値Vesのそれぞれの尤度を算出する。具体的には、尤度算出部31は、マッチングが成立した速度予測値Vprから算出された速度推定値Vesについては、前回の処理サイクルにおいて当該速度推定値Vesと対応する速度推定値Vesについて算出された尤度を増加させて、今回の処理サイクルにおける尤度とする。このとき、尤度算出部31は、マッチングが成立した速度予測値Vprについての評価値に応じて、速度推定値Vesの尤度を変更してもよい。すなわち、尤度算出部31は、評価値が高いほど、尤度の増加量を大きくしてもよい。
【0055】
一方、尤度算出部31は、外挿処理が実行された速度推定値Vesについては、前回の処理サイクルにおいて当該速度推定値Vesと対応する速度推定値Vesについて算出された尤度を減少させて、今回の処理サイクルにおける尤度とする。
【0056】
続いてS170では、確定部32が、各速度推定値Vesの尤度のうち、予め設定された尤度閾値以上の尤度が存在するか否か判定する。S170において、尤度閾値以上の尤度が存在しないと判定された場合にはS40の処理へ戻り、尤度閾値以上の尤度が存在すると判定された場合にはS180の処理へ進む。
【0057】
S180では、確定部32が、物標の速度Vを確定する。具体的には、確定部32は、同じ初検出物標に対応する速度推定値Vesの尤度の中で最大で且つ尤度閾値以上の尤度を有する速度推定値Vesを物標の速度Vと確定する。また、物標の速度Vと確定された速度推定値Vesに対応する距離推定値Resを物標の距離Rと確定する。
【0058】
続いて、S190では、確定部32が、速度Vが確定した物標と同一の物標について算出された他の速度推定値Vesを削除する。すなわち、確定された速度Vとして確定された速度推定値Vesと同じ初検出物標について、当該速度推定値Vesとは異なる折り返し回数Mを仮定して算出された速度推定値Vesを削除する。
【0059】
続いて、S200では、警報判定部33が、S180において確定された速度V及び距離Rに基づいて、警報を出力するか否か判定する。すなわち、警報判定部33は、S180において確定された速度V及び距離Rに基づいて、車両50と物標との衝突可能性を判定し、衝突可能性が予め設定された警報閾値よりも高い場合には警報を出力すると判定し、衝突可能性が警報閾値よりも低い場合には警報を出力しないと判定する。この後、S40の処理に戻る。
【0060】
なお、上述したフローチャートでは、今回の処理サイクルにおけるS60において速度推定値Vesを算出し、S70において、次回の処理サイクルにおける速度観測値Vobの予測値である速度予測値Vprを算出しているが、本開示はこれに限定されるものではない。次回の処理サイクルにおいて、前回の処理サイクルにおける速度観測値Vobから速度折り返しを仮定した速度推定値Vesを算出してもよいし、その回の処理サイクルにおける速度観測値Vobの予測値である速度予測値Vprを算出してもよい。すなわち、L(Lは1以上の整数)回の処理サイクルにおいて速度観測値Vobを算出してから、L+1回の処理サイクルにおいて評価値を算出するまでの間に、L回の処理サイクルにおける速度観測値Vobから速度推定値Vesを算出し、L+1回の処理サイクルにおける速度観測値Vobの予測値である速度予測値Vprを算出すればよい。
【0061】
<3.動作>
次に、図9に示すフローチャートを実行した場合における動作について、図15図19を参照して説明する。図15図19は、縦軸が速度を示し、横軸は距離を示す。第11~第3処理サイクルの各サイクルにおける最大検知速度は、Vmax1,Vmax2,Vmax3であり互に異なる。すなわち、図15図19は、図8に示すように、3つの異なる繰り返し周期Tcyのチャープ信号を送受信した場合の動作を示す。
【0062】
まず、図15は、-1回の速度の折り返しが発生している場合の一例を示す。第1処理サイクルにおいて、物標が初検出され、初検出物標の速度観測値Voba及び距離観測値Robが算出される。さらに、折り返しなしの速度観測値Voba、速度観測値Vobaの+1回の折り返し値Vobb、速度観測値Vobaの-1回の折り返し値Vobcを値とする、速度推定値Vesa、Vesb、Vescが算出される。また、速度推定値Vesa,Vesb,Vescの尤度の初期値がそれぞれ算出される。
【0063】
さらに、速度推定値Vesa,Vesb,Vescのそれぞれを用いて、第2処理サイクルにおける速度予測値Vpra,Vprb,Vprc、及び距離予測値Rpra,Rprb,Rprcが算出される。このとき、速度予測値Vpra,Vprbは、車両50に対して遠ざかる方向の速度であるため、距離予測値Rpra,Rprbは距離観測値Robよりも大きな値になっている。一方、速度予測値Vprcは、車両50に対して近づく方向の速度であるため、距離予測値Rprcは距離観測値Robよりも小さな値になっている。
【0064】
続いて、第2処理サイクルにおいて、物標の速度観測値Voba及び距離観測値Robが算出される。そして、速度予測値Vpra,Vprb,Vprcのそれぞれについて、評価値が算出され、速度予測値Vprcに対応する評価値が評価閾値を超える。これにより、速度予測値Vprcが速度観測値Vobaと対応付けられ、速度予測値Vprcと、速度観測値Vobaの-1回の折り返し値Vobcとから、速度推定値Vescが算出される。一方、速度予測値Vpra,Vprbについては外挿処理され、速度推定値Vesa,Vesbが算出される。そして、速度推定値Vescの尤度が、尤度の初期値から増やされ、速度推定値Vesa,Vesbの尤度が、尤度の初期値から減らされる。
【0065】
続いて、第3処理サイクルでは、第2処理サイクルと同様の動作が繰り返され、速度推定値Vesa,Vesb,Vescが算出される。そして、速度推定値Vescの尤度が第2処理サイクルから増やされ、速度推定値Vesa,Vesbの尤度が第2処理サイクルから減らされる。
【0066】
次に、図16は、速度の折り返しが発生していない場合の一例を示す。この場合、第1処理サイクルでは、図15に示す例と同様の動作が行われる。そして、第2処理サイクルでは、図15に示す例における速度Vprcの代わりに、速度予測値Vpraが速度観測値Vobaと対応付けられ、速度予測値Vpraと速度観測値Vobaとから、速度推定値Vesaが算出される。また、速度予測値Vprb,Vprcについては外挿処理され、速度推定値Vesb,Vescが算出される。そして、速度推定値Vesaの尤度が、尤度の初期値から増やされ、速度推定値Vesb,Vescの尤度が、尤度の初期値から減らされる。さらに、第3処理サイクルでは、第2処理サイクルと同様の動作が繰り返される。
【0067】
次に、図17は、図15と同様に、-1回の速度折り返しが発生している場合の一例である。図17に示す例では、第3処理サイクルにおいて、速度推定値Vescの尤度が尤度閾値を超える。その結果、速度推定値Vescが物標の速度Vに確定される。速度推定値Vescが速度Vに確定されたことにより、速度推定値Vescと同一物標について算出された他の速度推定値Vesa,Vesbは誤った値であると判定され、速度推定値Vesa,Vesbは削除される。
【0068】
次に、図18は、図15と同様に、-1回の速度折り返しが発生している場合の一例である。図18に示す例では、第2処理サイクルにおいて、速度観測値Vobaに誤差が含まれ、第2処理サイクルにおいてマッチングが成立していない。そのため、第2処理サイクルにおいて、速度予測値Vpra,Vprb,Vprcについて外挿処理され、速度推定値Vesa,Vesb,Vescが算出されている。
【0069】
次に、図19は、2つの物標が検出される場合の一例である。図19に示す例では、2つの物標のうちの一方の物標の速度は-1回の速度折り返しが発生しており、他方の物標の速度は速度折り返しが発生していない。第1処理サイクルでは、2つの物標が検出され、2つの速度観測値Voba及び2つの距離観測値Robが算出される。この例では、2つの物標の距離観測値Robは等しい値になっている。そして、速度推定値Vesa,Vesb,Vesc及び速度予測値Vpra,Vprb,Vprcがそれぞれ2つずつ算出される。
【0070】
第2処理サイクルでは、図15に示す例と同様の動作が行われ、2つの速度予測値Vprcのうちの一方が速度観測値Vobaの一方と対応付けられ、速度推定値Vescが算出される。また、図16に示す例と同様の動作が行われ、2つの速度予測値Vpraのうちの一方が速度観測値Vobaの残りの一方と対応付けられ、速度推定値Vesaが算出される。また、図15及び図16に示す例と同様の動作が行われ、2つの速度推定値Vesb、1つの速度推定値Vesa、及び1つの速度推定値Vescが算出される。
【0071】
第3処理サイクルでは、第2処理サイクルと同様の動作が繰り返される。その結果、第1処理サイクルにおいて検出された、距離と速度の近い2つの物標の観測速度Vobが、サイクル間で適切に対応付けられる。そして、2つの物標のうちの一方は、車両50に近づく物標であり、他方は車両50から遠ざかる物標であることが判定される。
【0072】
<4.効果>
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)連続する処理サイクル間における最大検知速度Vmaxが異なり、速度の折り返しが発生した場合に処理サイクル間において同一物標の速度観測値Vobに差が生じる。また、今回の処理サイクルにおける速度観測値Vobから、複数の折り返し回数を仮定した複数の速度推定値Vesが算出され、複数の速度推定値Vesから次回の処理サイクルにおける複数の速度予測値Vprが算出される。そして、次回の処理サイクルにおいて、複数の速度予測値Vprのいずれかと速度観測値Vobとの対応付けが行われる。複数の折り返し回数を仮定した複数の速度予測値Vprが算出されて用いられることにより、同じ処理サイクルにおいて距離及び信号強度の近い複数の物標が観測された場合でも、処理サイクル間における速度観測値Vobを適切に対応付けることができる。そして、速度予測値Vprと速度観測値Vobとの対応付けの結果に基づいて、速度予測値Vprと速度観測値Vobとから物標の速度Vが確定される。よって、複数の物標が存在する環境下においても、繰り返し周期の異なる処理サイクル間における速度観測値Vobの対応付けを適切に行って、精度良く物標の速度Vを算出することができる。
【0073】
(2)物標が初めて検出された処理サイクル以降においても、当該物標を継続してトラッキングすることにより、物標の速度Vの算出精度を上げることができる。
(3)マッチングが成立した速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesは、物標の速度Vである可能性が高い。よって、このような速度推定値Vesの尤度を上昇させることにより、物標の速度Vを早期に確定することができる。
【0074】
(4)速度Vが確定した場合には、速度Vと確定した速度推定値Vesと同一の物標について算出された他の速度推定値Vesが削除される。これにより、正しい速度推定値Vesのみを残すことができる。
【0075】
(5)折り返し回数ごとに異なる尤度の初期値を算出することにより、物標の速度Vとなる確率が高い範囲の速度に応じた折り返し回数の尤度の初期値を高くし、物標の速度Vとなる確率が低い範囲の速度に応じた折り返し回数の尤度の初期値を低くすることができる。ひいては、誤った速度推定値Vesが速度Vとして確定されることを抑制することができる。
【0076】
(6)車両50の速度、物標の種別、及び物標の位置の少なくとも一つに応じて、折り返し回数ごとに異なる尤度の初期値を算出することで、誤った速度推定値Vesが速度Vとして確定されることを抑制し、より精度の良い物標の速度Vを確定することができる。
【0077】
(7)物標までの距離と物標信号の強度との関係から、物標の種別を推定することができる。
(8)速度予測値Vprと速度観測値Vob又はその折り返し値とが近いほど、速度予測値Vprが対応する物標と速度観測値Vobが対応する物標とが同一の物標である可能性が高い。よって、速度予測値Vprと速度観測値Vob又はその折り返し値との差分に基づいて評価値を算出することにより、評価値を用いて、速度予測値Vprと速度観測値Vobとの対応性を適切に評価することができる。
【0078】
(9)評価値が評価閾値を超える場合は、速度予測値Vprに対応する物標と速度観測値Vobに対応する物標とが同一の物標である可能性が高い。よって。評価値を用いることにより、上述したような場合に、速度予測値と速度観測値とを対応付けることができる。
【0079】
(10)速度予測値Vprのいずれも速度観測値Vobとの対応付けが成立しなかった場合でも、外挿処理を実行することにより、物標の瞬時的なロストを抑制することができる。
【0080】
(11)外挿処理により算出された速度推定値Vesは、マッチングが成立した場合に算出された速度推定値Vesと比べて確からしさが低い。そのため、外挿処理により算出された速度推定値Vesの尤度を減少させることにより、誤った速度推定値Vesを速度Vとして確定することを抑制することができる。
【0081】
(12)マッチングが成立した場合に、マッチング処理に用いた評価値に応じて、マッチングが成立した速度予測値を用いて算出された速度推定値の尤度が変更される。これにより、速度観測値Vob又はその折り返し値に近い速度予測値Vprから算出された速度推定値Vesほど尤度を高くし、物標の速度Vを早期に確定することができる。
【0082】
(13)速度Vが確定した物標のみが警報対象とされる。これにより、誤った警報を出力することを抑制することができる。
(第2実施形態)
<1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0083】
第2実施形態では、マッチング処理部27及び確定部32が実行する処理が第1実施形態と異なる。第2実施形態に係る確定部32は、マッチング処理部27による対応付けの回数をカウントし、カウントした対応付けの回数を用いて、物標の速度Vを確定する。
【0084】
また、第2実施形態に係るレーダ装置20は、尤度算出部31の代わりに接続精度算出部35の機能を備える。接続精度算出部35は、マッチング処理部27により対応付けられた速度予測値Vprと速度観測値Vobとの接続精度を算出する。ここでは、予測部30は、物標の速度及び距離の予測値だけでなく、物標の方位及び物標信号の強度の予測値も算出する。接続精度算出部35は、次の式(5)で示すように、予測部30により算出された、距離、速度、方位、及び強度の予測値と観測値との差分と、前回の処理サイクルにおいて算出された接続精度との少なくとも一方に基づいて、今回の処理サイクルにおける接続精度を算出する。
【0085】
接続精度= α(A|Rpr-Rob|+B|Vpr-Vob|+C|Θpr-Θob|+D|Ppr-Pob|)+((1-α)×前回処理サイクルの接続精度) 式(5)
式(5)において、Θprは方位の予測値、Θobは方位の観測値、Pprは強度の予測値、Pobは強度の観測値である。また、A、B、C、Dは係数であり、負の数値である。αは0から1までの数値である。式(5)は、距離、速度、方位、及び強度の予測値と観測値との差分と、前回の処理サイクルにおける接続精度とを加重平均して、今回の処理サイクルを算出する式である。なお、予測値と観測値との差分には、距離、速度、方位及び強度の4つの要素のうちの少なくとも一つの要素の予測値と観測値との差分が含まれていればよい。
【0086】
<2.処理>
次に、第2実施形態に係るレーダ装置20が実行する速度確定処理の処理手順について、図9及び図20のフローチャートを参照して、第1実施形態と異なる点について説明する。なお、ここでは、距離の確定については説明を省略する。
【0087】
レーダ装置20は、第1実施形態と同様に、S10~S70及びS90~S100の処理を実行する。続いて、S110及びS120において、評価値が評価閾値よりも高い組み合わせを対応付ける。さらに、折り返し回数Mごとに、対応付け回数をカウントする。例えば、前回の処理サイクルにおける対応付け回数が1であり、現在の処理サイクルにおいても対応付けされた場合には、対応付け回数を2にカウントアップする。
【0088】
続いて、レーダ装置20は、第1実施形態と同様に、S130~S150の処理を実行する。
続いて、レーダ装置20は、S160~S180の処理の代わりに、図20に示すフローチャートを実行する。
【0089】
S300では、折り返し回数Mごとにカウントされた対応付け回数のうちの最大値(以下、回数最大値と称する)が、予め設定された回数閾値未満か否か判定する。回数最大値が回数閾値未満の場合には、S310の処理へ進み、接続成立数を判定する。
【0090】
S310において、接続成立数が0と判定された場合は、S320へ進み、物標を削除する。
また、S310において、接続成立数が1と判定された場合は、S390へ進み、現在の処理サイクルにおいて未接続の速度推定値Vesを削除する。未接続の速度推定値Vesは、速度観測値Vob又はその折り返し値と対応づけられていない速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesである。対応付け回数が最大値となる速度予測値Vprは、現在の処理サイクルにおいて接続が成立している。よって、S390では、対応付け回数が最大値ではない速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを削除する。
【0091】
また、S310において、接続成立数が0及び1以外(すなわち、2以上)と判定された場合は、成立している接続ごとに、上述した式(4)を用いて接続精度を算出する。その後、S390へ進み、現在の処理サイクルにおいて未接続の速度推定値Vesを削除する。
【0092】
一方、S300において、回数最大値が回数閾値以上と判定された場合には、S340の処理へ進む。S340では、物標が初めて検出されてから現在までの処理サイクル数が、予め設定された確定閾値未満か否か判定する。確定閾値は、速度Vを確定するまでに費やす処理サイクル数の上限値である。現在の処理サイクルまでの処理サイクル数が確定閾値未満と判定された場合は、S350の処理へ進み、接続成立数を判定する。
【0093】
S350において、接続成立数が0と判定された場合は、S360へ進む。この場合、前回の処理サイクルにおいて、回数最大値は回数閾値以上になっている。しかしながら、前回の処理サイクルにおいて、対応付け回数が最大値である速度予測値Vprが複数存在したため、速度Vが確定されていない。そして、成立している接続ごとに接続精度が算出されている。よって、S360では、対応付け回数が最大値である速度予測値Vprのうち、前回の処理サイクルにおいて算出された接続精度が最大である速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを、速度Vとして確定する。すなわち、回数最大値が回数閾値以上で、且つ、現在の処理サイクルにおいて対応付けが成立した速度予測値Vprがない場合には、接続精度を用いて速度Vを確定する。
【0094】
また、S350において、接続成立数が1と判定された場合は、S370の処理へ進み、回数最大値である速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを速度Vとして確定する。
また、S350において、接続成立数が0及び1以外と判定された場合は、S380へ進み、成立している接続ごとに、接続精度を算出する。すなわち、回数最大値である速度予測値Vprが複数あり、且つ、現在の処理サイクルにおいて、対応付けが成立した速度予測値Vprが複数ある場合には、速度Vを確定せずに、接続ごとの接続精度を算出する。その後、S390へ進み、未接続の速度推定値Vesを削除する。
【0095】
一方、S340において、現在までの処理サイクル数が確定閾値以上と判定された場合には、S400へ進み、接続成立数を判定する。
S400において、接続成立数が0と判定された場合は、S410へ進む。S410では、対応付け回数が最大値である速度予測値Vprのうち、前回の処理サイクルにおいて算出された接続精度が最大である速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを、速度Vとして確定する。
【0096】
また、S400において、接続成立数が1と判定された場合は、S420へ進み、回数最大値である速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを速度Vとして確定する。
また、S400において、接続成立数が0及び1以外と判定された場合は、S430へ進み、成立している接続ごとに接続精度を算出する。その後、S440において、対応付け回数が最大値である速度予測値Vprのうち、S430において算出された接続精度が最大である速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを、速度Vとして確定する。
【0097】
すなわち、現在までの処理サイクル数が確定閾値に到達した場合には、速度Vを確定する。その際、対応付け回数が最大値である速度予測値Vprが複数存在する場合には、算出された接続精度が最大である速度予測値Vprに対応する速度推定値Vesを、速度Vとして確定する。
【0098】
続いて、レーダ装置20は、第1実施形態と同様に、S190及びS200の処理を実行する。
以上説明した第2実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0099】
(14)距離、速度、方位及び強度のうちの少なくとも一つの予測値とその観測値との差分と、前回の処理サイクルにおいて算出された接続精度と、のうちの少なくとも一方に基づいて、接続精度が算出される。これにより、接続精度を用いて速度Vを確定することができる。
【0100】
(15)折り返し回数Mごとに対応付け回数をカウントすることにより、対応付け回数を用いて、速度Vを確定することができる。
(16)回数最大値が回数閾値以上で、且つ、対応付け回数が最大である速度予測値Vprが1つである場合には、接続精度を用いることなく、速度Vを確定することができる。
【0101】
(17)物標が初めて検出されてから現在の処理サイクルまでの処理サイクル数が確定閾値未満で、且つ、対応付け回数が最大である速度予測値Vprが複数ある場合には、速度Vが確定されない。このため、次回以降の処理サイクルにおいて、物標のトラッキングを続けることができる。
【0102】
(18)回数最大値が回数閾値以上で、且つ、現在の処理サイクルにおいて接続が成立していない場合には、前回の処理サイクルにおいて算出された接続精度を用いて、速度Vを確定することができる。
【0103】
(19)現在までの処理サイクル数が確定閾値に到達した場合には、速度Vを確定することができる。
(20)対応付け回数が最大である速度予測値Vprが複数ある場合には、前回の処理サイクルにおいて算出された接続精度を用いて、速度Vを確定することができる。
【0104】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0105】
(a)上記実施形態では、評価部26は、物標の速度予測値Vprと距離予測値Rprの両方を用いて評価値を算出していたが、速度予測値Vprのみを用いて評価値を算出してもよい。すなわち、評価部26は、速度予測値Vprと速度観測値Vob又はその折り返し値との差分のみに基づいて評価値を算出してもよい。
【0106】
(b)上記第1実施形態では、予測部30は、物標の速度及び距離の予測値を算出していたが、物標の方位及び物標信号の強度の予測値も算出するようにしてもよい。予測部30は、物標の速度の予測値に加えて、物標の距離、物標の方位及び物標信号の強度の少なくとも1つの予測値を算出するようにしてもよい。これにより、物標の速度Vをより精度良く算出することができる。
【0107】
この場合、評価部26は、速度予測値Vprと速度観測値Vob又はその折り返し値との差分に加えて、算出されたその他の予測値と観測値との差分に基づいて、評価値を算出するようにしてもよい。すなわち、評価部26は、算出されたすべての差分の合計値が小さいほど、大きくなるように評価値を算出してもよい。これにより、物標の速度Vをより精度良く算出することができる。
【0108】
(c)上記実施形態では、レーダ装置20はFCM方式のミリ波レーダであるが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、レーダ装置20は、設定された繰り返し周期でパルス信号を送信するパルス方式のミリ波レーダでもよい。
【0109】
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0110】
20…レーダ装置、21…送信部、22…設定部、23…受信部、24…検出部、25…観測部、27…マッチング処理部、29…推定部、30…予測部、32…確定部、50…車両。
図1
図2
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