(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20221101BHJP
B60R 21/206 20110101ALI20221101BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20221101BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/206
B60R21/205
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2019051687
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 将太
(72)【発明者】
【氏名】山下 透
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-247005(JP,A)
【文献】特開平10-071878(JP,A)
【文献】特開2000-335343(JP,A)
【文献】特開平10-138809(JP,A)
【文献】特開2002-087200(JP,A)
【文献】特開2001-130369(JP,A)
【文献】特開2019-038375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B60R 21/08
B60R 21/02
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
展開時の大きさを可変できるメインエアバッグと、
前記メインエアバッグを展開させるエアバッグ展開装置と、
車両の衝突または衝突予測を検知し、衝突速度を算出する衝突速度検知装置と、
シートに着座する乗員の位置を検知する乗員位置検知装置と、
前記シートを移動させるシート移動手段と、
前記シートに着座した乗員の脚の下で展開するサブエアバッグと、
前記衝突速度検知装置の検知結果に基づいて、前記メインエアバッグの展開時の大きさを決定するエアバッグ展開量決定手段と、
前記エアバッグ展開量決定手段に決定された前記メインエアバッグの展開時の大きさ、および、前記乗員位置検知装置に検知された乗員の位置に基づいて、前記シートの移動量を決定して、前記サブエアバッグを展開させて乗員の脚部を上昇させて、前記シート移動手段に前記シートを前記乗員ごと移動させ、前記メインエアバッグを展開させる展開制御装置と、
を備えたことを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記シート移動手段は、展開することにより、前記シートを乗員ごと移動させる移動用エアバッグを有し、
前記展開制御装置は、前記衝突速度検知装置の検知結果に基づいて、前記移動用エアバッグを展開させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等から乗員を保護するため、自動車などの車両では、乗員保護装置としてエアバッグ装置が装備されている。
このエアバッグ装置は、一般に、衝撃センサと、インフレータと、エアバッグと、制御装置等、から構成されている。エアバッグ装置は、前面衝突などにより衝撃センサが衝撃を検知すると、検知信号を制御装置に出力し、制御装置が作動信号をインフレータに送出して、インフレータがガスを発生させてエアバッグに送出する。そして、エアバッグは、インフレータからのガスにより瞬時に膨らみ、乗員の前方に展開する。これにより、エアバッグは、内部のガス圧によって衝撃により前方へ移動する乗員の身体を受け止めて、その運動エネルギーを吸収しながら収縮する。このようにして、自動車の前面衝突等における、衝突の衝撃による乗員の急激な前方移動がエアバッグにより緩和され、乗員の安全が確保される。
【0003】
また、このような従来のエアバッグ装置として、衝撃センサと、インフレータと、エアバッグと、制御装置と、に加え、乗員の重量を検出する重量センサと、インフレータにて発生したガスの一部を外部に排出するためのガス逃し開口と、を備えたエアバッグ装置が提案されている。このエアバッグ装置では、乗員が運転席または助手席に座ると、重量センサが当該乗員の重量を検出して、検出信号を制御装置に出力し、制御装置が重量センサからの検出信号に応じて、インフレータのガス逃し開口の大きさを調整する。
【0004】
そして、自動車が前面衝突等に遭遇すると、インフレータにて所定の圧力で発生するガスは、その一部がインフレータのガス逃し開口から外部に漏出することにより、エアバッグ内に導入されエアバッグを展開する展開圧力が低減されることとなり、乗員の体重に応じて、エアバッグの展開圧力を調整することができるようにしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のエアバッグ装置では、衝突速度や乗員の着座位置は、平均的な値などで予め設定した固定の速度や位置に対応したもので考えられており、設定値以外の様々な衝突速度や乗員の着座位置には、必ずしも対処されていなかった。また、乗員の個体差(体格差等)、および、乗員や衝突の状況の差も含めて、エアバッグの内圧の差だけで、所定位置において衝撃を吸収するには無理がある。例えば、内圧を高めすぎてしまうと、乗員がエアバッグとの接触時に大きな衝撃を受けすぎてしまう。逆に、内圧を低くしすぎてしまうと、乗員の衝撃を十分に吸収することができなくなってしまう。このように、従来のエアバッグでは、様々な衝突速度等に対して、最適なエアバッグを展開することが困難であった。
このため、衝突の状況に応じてエアバッグの大きさを変更し、エアバッグの大きさを大きくした場合に、座席シートを移動させるということを、本件出願人は考えた。ただし、大きなエアバッグを展開させるために、座席シートを移動させようとしても、乗員がフロアに足を載せているため、移動に支障をきたす虞がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、衝突速度に応じた適切なエアバッグの展開を行い、状況に応じた乗員保護を行うことができる乗員保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、展開時の大きさを可変できるメインエアバッグと、前記メインエアバッグを展開させるエアバッグ展開装置と、車両の衝突または衝突予測を検知し、衝突速度を算出する衝突速度検知装置と、シートに着座する乗員の位置を検知する乗員位置検知装置と、前記シートを移動させるシート移動手段と、前記シートに着座した乗員の脚の下で展開するサブエアバッグと、前記衝突速度検知装置の検知結果に基づいて、前記メインエアバッグの展開時の大きさを決定するエアバッグ展開量決定手段と、前記エアバッグ展開量決定手段に決定された前記メインエアバッグの展開時の大きさ、および、前記乗員位置検知装置に検知された乗員の位置に基づいて、前記シートの移動量を決定して、前記サブエアバッグを展開させて乗員の脚部を上昇させて、前記シート移動手段に前記シートを前記乗員ごと移動させ、前記メインエアバッグを展開させる展開制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る車両の乗員保護装置は、前記シート移動手段は、展開することにより、前記シートを乗員ごと移動させる移動用エアバッグを有し、前記展開制御装置は、前記衝突速度検知装置の検知結果に基づいて、前記移動用エアバッグを展開させる、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、衝突速度に応じた適切なエアバッグの展開を行い、状況に応じた乗員保護を行うことができる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の一部の概略を示す断面図である。
【
図4】乗員保護装置の動作概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の一部の概略を示す断面図である。また、
図2は、本実施の形態の座席シートを可動可能とさせるシート可動装置の概略を示す断面図である。また、
図3は、本実施の形態の乗員保護装置が作動し、エアバッグ袋体が展開した際の側面図である。なお、
図3(a)は、脚下エアバッグ袋体が展開した際の側面図であり、
図3(b)は、ニーエアバッグ袋体が展開した際の側面図であり、
図3(c)は、上体エアバッグ袋体が展開した際の側面図である。
【0013】
(車両1の構成)
図1に示すように、車両1の乗員室は、下部にアンダーフロア3、上部にルーフ4が設けられている。また、アンダーフロア3には、座席シート10が配備されている。
【0014】
座席シート10は、車両1に乗車した乗員Pが着座するものである。また、座席シート10は、乗員Pの臀部から大腿部を支えるシートクッション11(座部)と、リクライニング可能に設けられたシートバック12(背もたれ部)と、乗員Pの頭部を支えるヘッドレスト13(ヘッド部)と、を備えている。
【0015】
また、座席シート10には、シートスライド装置20が設けられている。シートスライド装置20は、乗員Pの操作により、座席シート10の前後位置を調節できるようになっている。なお、シートスライド装置20は、乗員Pの操作によらず、座席シート10の前後位置を自動調節できるものであってもよい。なお、後述するように、ここで決定された座席シート10の位置が、座席シート10に着座する乗員Pの位置として使用される。
さらに、車両1には、乗員保護装置101が備えられている。
【0016】
(乗員保護装置101の構成)
乗員保護装置101は、シートベルト装置30と、乗員姿勢矯正装置40と、シート可動装置50と、車載カメラ60と、上体エアバッグ装置110と、ニーエアバッグ装置120と、脚下エアバッグ装置130と、車両制御装置(以下、ECUという)201と、を備えている。なお、上体エアバッグ装置110、および、ニーエアバッグ装置120は、ダッシュボード5の内部に設けられている。また、脚下エアバッグ装置130は、座席シート10の内部に設けられている。
さらに、ECU201は、車両1の衝突および衝突予測を検知するとともに、衝突速度を算出する衝突速度検知装置、および、展開制御装置たるエアバッグ展開制御ユニット(以下、ACUという)の機能も備えている。すなわち、ECU201は、エアバッグ展開装置としても機能する。なお、衝突速度検知装置およびACUは、ECU201と別体で設けるようにしてもよい。
【0017】
(シートベルト装置30)
シートベルト装置30は、ウェビング31と、図示しないリトラクターと、ラップアンカーと、ショルダーアンカーと、タングと、バックルと、を備えている。
ウェビング31は、帯状のベルトであり、一端が座席シート10の下部に設けられたラップアンカーに固定され、他端がシートバック12の上部に設けられたショルダーアンカーを介して、シートバック12の内部に設けられたリトラクターに巻き取られている。
【0018】
タングは、バックルと連結するためのT字型の連結金具である。また、タングには、挿通用孔が設けられ、ウェビング31が挿通されており、ウェビング31に対して摺動自在に設けられている。
バックルは、タングを着脱する結合部品であり、座席シート10のシートクッション11の車幅方向内側(車両中央側)に設けられている。
【0019】
また、シートベルト装置30は、衝撃を感知すると、リトラクターがウェビング31を巻き込み、乗員Pを座席シート10(シートバック12側)に引き込むようになっている。さらに、シートベルト装置30は、ECU201が衝突予測を検知した場合にも、リトラクターがウェビング31を巻き込むようになっている。
なお、シートベルト装置30は、ECU201が算出した衝突速度によって、リトラクターがウェビング31を巻き込む強さを切り替えるようにしてもよい。また、本実施の形態のシートベルト装置30は、座席シート10と一体となったものとしたが、これに限らず、ラップアンカーがサイドシルの側壁面に固定されたものであったり、ショルダーアンカーがセンターピラーの側壁に設けられたものであったり、リトラクターがセンターピラーの内部に設けられたもの等であってもよい。
【0020】
(乗員姿勢矯正装置40)
乗員姿勢矯正装置40は、ECU201が衝突予測を検知した際に、乗員Pの姿勢を所定の姿勢に正すため、シートバック12の角度を変更するものである。また、乗員姿勢矯正装置40は、ECU201が衝突予測を検知した際に、シートクッション11の角度を変更するものであってもよい。また、乗員姿勢矯正装置40は、ECU201が衝突予測を検知した際に、シートバック12およびシートクッション11の双方の角度を変更するものであってもよい。
【0021】
さらに、乗員姿勢矯正装置40は、シートバック12の中に複数のエアバッグを設け、ECU201が衝突予測を検知した際に、所定のエアバッグを展開し、乗員Pの姿勢を矯正するものであってもよい。
さらに、乗員姿勢矯正装置40は、座席シート10に設けるものではなく、車両1の前方や側方などから、所定のエアバッグ等を展開して、乗員Pの姿勢を所定の姿勢に矯正するものであってもよい。なお、乗員の姿勢矯正は、エアバッグやシートの角度を調整するもの以外であってもよい。
【0022】
(シート可動装置50)
図2は、シート可動装置の概略を示す断面図である。また、
図2(a)は、シート可動装置の側部を示す断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すシート可動装置のA-A矢視図であり、
図2(c)は、
図2(a)に示すシート可動装置のB-B矢視図である。
図2に示すように、シート可動装置50は、スライドレール形状となっており、アウターレール51と、インナーレール52と、シート留め具53と、を備えている。
【0023】
アウターレール51は、車両1の前後方向に延在する溝を有している。また、アウターレール51の溝には、車両1の前方から、シート固定用凹部51a、51b、51c、51dを有している。
ここで、上体エアバッグ装置110の後述する上体エアバッグ袋体112は、基本展開量および拡張展開量のいずれかに展開される。上体エアバッグ袋体112が基本展開量で展開される場合には、座席シート10がシート固定用凹部51aの位置で固定され、この位置を基本位置と呼ぶ。また、上体エアバッグ袋体112が拡張展開量で展開される場合には、座席シート10がシート固定用凹部51b、51c、51dのいずれかの位置で固定され、この位置を拡張展開位置と呼ぶ。なお、座席シート10の初期位置(シートスライド装置20で設定された位置)によっては、上体エアバッグ袋体112が拡張展開量で展開されても、座席シート10がシート固定用凹部51aの位置で固定されたままの場合もある。
【0024】
インナーレール52は、座席シート10の下部に固定されている。また、インナーレール52は、アウターレール51の溝に嵌まり込んでいる。これにより、インナーレール52は、アウターレール51の溝を車両1の前後方向に摺動可能となっている。
また、インナーレール52は、下部にシート留め具53を収納する留め具収納部52aを有している。
【0025】
シート留め具53は、インナーレール52の留め具収納部52aに収納されており、通常状態においては、その先端部53aがインナーレール52から突出するようになっている。
また、シート留め具53は、ECU201により、完全収納状態と、突出状態と、に制御されるようになっている。ここで、完全収納状態とは、シート留め具53がインナーレール52の留め具収納部52aに収納され、先端部53aがインナーレール52の下面に出ていない状態をいう。また、突出状態とは、先端部53aがインナーレール52の下面から突出している状態をいう。
【0026】
したがって、シート留め具53が突出状態にあり、アウターレール51のシート固定用凹部51a、51b、51c、51dのいずれかに嵌まり込んでいる場合には、座席シート10が位置を固定された状態(以下、「固定状態」ともいう)にある。一方、シート留め具53が完全収納状態にある場合には、インナーレール52がアウターレール51の溝を摺動可能となり、座席シート10が車両1の前後方向に移動可能(以下、「移動可能状態」ともいう)となる。
なお、シート留め具53の完全収納状態と、突出状態と、の移動制御は、機械的構成により行うことができる。例えば、モータによりシート留め具53を留め具収納部52aから突出させたり、留め具収納部52aに収納させたり、することができる。また、シート留め具53は、磁力(電磁力)や、油圧等により、移動させるものであってもよい。
【0027】
したがって、シート留め具53が完全収納状態にある場合に、後述するニーエアバッグ袋体122が、座席シート10ごと乗員Pを車両1の後方に押し込むと、座席シート10に固定されたインナーレール52が車両1の後方に向けて、アウターレール51の溝を移動することとなる。これにより、座席シート10が車両1の後方に移動される。なお、インナーレール52がアウターレール51の溝を移動中に、シート留め具53が突出状態となり、アウターレール51のシート固定用凹部51a、51b、51c、51dのいずれかに嵌まり込むと、その位置で座席シート10は固定される。
【0028】
なお、本実施の形態においては、ニーエアバッグ袋体122の展開により座席シート10が移動するものとしているが、これに限らず、シート可動装置50に座席シート10を移動させる機構を設けてもよい。例えば、シート可動装置50にインフレータやエアバッグを設けて、エアバッグを展開させることにより、インナーレール52がアウターレール51の溝を移動させるようにしてもよい。また、座席シート10の移動機構は、モータや、磁力(電磁力)、油圧等を用いるものであってもよい。
また、上記のように、シート可動装置50は、座席シート10を、基本位置または拡張展開位置のいずれかで固定させるものである。すなわち、シート可動装置50は、シート固定装置として機能する。
【0029】
(車載カメラ60)
車載カメラ60は、座席シート10に着座した乗員Pの着座状態、例えば、乗員Pの姿勢を検知するものである。すなわち、車載カメラ60は、乗員姿勢検知装置として機能する。なお、乗員姿勢検知装置は、車載カメラ60を用いるものに限らず、例えば、座席シート10に圧力センサを用いて乗員Pの姿勢を検知するもの等であってもよい。
また、車載カメラ60は、座席シート10に着座する乗員Pの位置、例えば、座席シート10の位置を検知するものであってもよい。すなわち、車載カメラ60を、乗員位置検知装置として機能させるものであってもよい。
【0030】
また、車載カメラ60は、乗員Pを含む乗員室内の撮影のみを行うものであって、撮影した画像データをECU201に出力し、乗員Pの姿勢や、着座位置は、ECU201が検出するものであってもよい。
なお、車載カメラ60は、車両1の周辺状況や車両1の車室内を撮影し、車両1に衝撃が加わったとき等にその映像を利用するドライブレコーダ等のカメラと兼用するものであってもよい。
【0031】
(上体エアバッグ装置110)
上体エアバッグ装置110は、ECU201(ACU)に制御され、乗員Pの頭部および胸部等を主に保護するものである。また、上体エアバッグ装置110は、上体インフレータ111と、上体エアバッグ袋体112と、を有している。
【0032】
(上体インフレータ111)
上体インフレータ111は、ECU201による車両1の衝突検知または衝突予測に基づく作動信号により、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させるものである。また、上体インフレータ111に発生されたガスは、上体エアバッグ袋体112に圧入される。
また、上体インフレータ111は、複数のインフレータを有し、ECU201に算出された衝突速度に応じて、ガスを発生させるインフレータの数などを設定するようにしてもよい。また、上体インフレータ111は、発生させるガス量を調整できるものであって、ECU201に算出された衝突速度に応じて、発生させるガス量を制御するようにしてもよい。
【0033】
(上体エアバッグ袋体112)
上体エアバッグ袋体112は、上体インフレータ111によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折り畳まれている。また、上体エアバッグ袋体112は、上体インフレータ111からガスが圧入されると、ダッシュボード5から座席シート10の方向に膨張展開し、乗員Pの頭部および胸部等に対する、車両1の衝突の衝撃を緩和するものである。
【0034】
また、上体エアバッグ袋体112は、展開時の大きさが1通りではなく、複数の大きさに展開できるようになっている。すなわち、上体エアバッグ袋体112は、展開時の大きさを可変できるエアバッグである。例えば、上体エアバッグ袋体112は、複数の箇所がテザーで留められており、指定された展開時の大きさに応じて所定のテザーを切断して、展開量が変化するようになっている。このテザーの切断は、例えば、上体インフレータ111が行うようにすればよい。
本実施の形態において、上体エアバッグ袋体112は、基本展開量、第1拡張展開量、第2拡張展開量、最大拡張展開量の4つの異なる大きさに展開できるようになっている。なお、以下では、基本展開量以外の、第1拡張展開量、第2拡張展開量、および、最大拡張展開量を、まとめて拡張展開量ともいう。
【0035】
(ニーエアバッグ装置120)
ニーエアバッグ装置120は、ECU201(ACU)に制御され、乗員Pの脚部の保護を行うものである。また、ニーエアバッグ装置120は、後述するように、乗員Pごと座席シート10を移動させるものである。また、ニーエアバッグ装置120は、ニーインフレータ121と、ニーエアバッグ袋体122と、を有している。
なお、乗員保護装置101が作動時には、乗員Pとダッシュボード5(車載装置)との間の空間を、上体エアバッグ袋体112と、ニーエアバッグ袋体122と、で埋めるようになっている、また、後述するように、ニーエアバッグ袋体122は、上体エアバッグ袋体112の下方に展開し、下から上体エアバッグ袋体112を支えるようになっている。
【0036】
(ニーインフレータ121)
ニーインフレータ121は、ECU201による車両1の衝突検知または衝突予測に基づく作動信号により、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させるものである。また、ニーインフレータ121に発生されたガスは、ニーエアバッグ袋体122に圧入される。
【0037】
(ニーエアバッグ袋体122)
ニーエアバッグ袋体122は、ニーインフレータ121によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折り畳まれている。また、ニーエアバッグ袋体122は、ニーインフレータ121からガスが圧入されると、ダッシュボード5から座席シート10の方向に膨張展開し、乗員Pの膝を主に保護するものである。
【0038】
また、ニーエアバッグ袋体122は、展開すると、乗員Pの膝部に当接するとともに、上方に展開し、ニーエアバッグ袋体122の上方に展開する上体エアバッグ袋体112を下方から支えるようになっている。
また、ニーエアバッグ袋体122は、上体エアバッグ袋体112の展開時の大きさに合わせて、複数の大きさに展開できるようになっていてもよい。
【0039】
さらに、ニーエアバッグ袋体122は、座席シート10に着座した乗員Pを、座席シート10ごと車両1の後方に移動させるものである。
例えば、シート可動装置50のシート留め具53が完全収納状態となっており、座席シート10が「移動可能状態」である場合に、ニーエアバッグ袋体122が展開すると、座席シート10に着座している乗員Pの膝部や下肢部に当接し、乗員Pごと座席シート10を車両1の後方に移動させることとなる。
【0040】
(脚下エアバッグ装置130)
脚下エアバッグ装置130は、ECU201(ACU)に制御され、乗員Pの脚部を上昇させるものである。また、脚下エアバッグ装置130は、脚下インフレータ131と、脚下エアバッグ袋体132と、を有している。
また、脚下エアバッグ装置130は、座席シート10の下部に設けられ、座席シート10とともに移動されるようになっている。なお、脚下エアバッグ装置130は、アンダーフロア3内に設けられ、固定されたものであってもよい。ただし、脚下エアバッグ装置130は、座席シート10とともに移動される方が、座席シート10と乗員Pの間に保持される状態を維持し易くなる。また、乗員Pの脚部を上昇させた状態を維持することも容易となる。
【0041】
(脚下インフレータ131)
脚下インフレータ131は、ECU201による車両1の衝突検知または衝突予測に基づく作動信号(衝突予測に基づく作動信号が望ましい)により、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させるものである。また、脚下インフレータ131に発生されたガスは、脚下エアバッグ袋体132に圧入される。
【0042】
(脚下エアバッグ袋体132)
脚下エアバッグ袋体132は、脚下インフレータ131によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折り畳まれている。また、脚下エアバッグ袋体132は、脚下インフレータ131からガスが圧入されると、座席シート10の下部と乗員Pの脚部、例えば、ふくらはぎとの間に展開し、さらに、そこから上方に展開するようになっている。
【0043】
したがって、脚下エアバッグ袋体132は、乗員Pの脚部を上昇させ、乗員Pの足をアンダーフロア3から上昇させ、浮かせる、または、アンダーフロア3との摩擦力を低減させるようになっている。これにより、乗員Pおよび座席シート10が移動する際に障害とならず、円滑な移動を行うことができる。
また、脚下エアバッグ袋体132は、乗員Pの脚部と、座席シート10の下部と、の間の隙間を埋めるとともに、緩衝材となり、ニーエアバッグ袋体122が乗員Pの脚部を押し、乗員Pごと座席シート10を移動させる際に、乗員Pに負担をかけずに、座席シート10を効率よく移動させることができる。
【0044】
(ECU201)
ECU201は、車両1全体を制御するためものである。また、ECU201は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、CPUにより実行される制御プログラム、データテーブル、各コマンドやデータ等の記憶を行うROM(Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)および入出力インターフェース回路を備え、車両1の制御を統括するようになっている。
【0045】
また、ECU201は、加速度センサ(Gセンサ)、距離センサ、衝撃センサ(圧力センサ)等による情報から衝突予測および衝突判定を行い、衝突速度を算出する。すなわち、ECU201は、衝突速度検知装置として機能する。
なお、加速度センサ、距離センサ、衝撃センサ等は、ECU201とは別装置として、外部に設けたものであってもよい。また、これらセンサ等から入力する情報を、車載カメラ60から入力した画像データに基づいて、取得するものであってもよい。
【0046】
また、ECU201は、シートスライド装置20から座席シート10の位置を入力し、座席シート10に着座する乗員の位置を検知する。すなわち、ECU201は、乗員位置検知装置として機能する。
なお、ECU201は、シートスライド装置20からの情報によらず、車載カメラ60から入力した画像データに基づいて、乗員の位置を検知するものであってもよい。
【0047】
また、ECU201は、上記衝突予測および衝突判定の検知結果により算出した衝突速度に基づいて、上体エアバッグ袋体112の展開時の大きさを決定する。すなわち、ECU201は、エアバッグ展開量決定手段として機能する。
例えば、ECU201は、衝突速度が所定の基本展開速度以下であった場合には、上体エアバッグ袋体112の展開量を基本展開量とし、衝突速度が基本展開速度を超える衝突速度であった場合には、上体エアバッグ袋体112の展開量を拡張展開量とする。
【0048】
本実施の形態では、ECU201は、衝突速度が基本展開速度を超え、第1拡張展開速度以下であった場合、上体エアバッグ袋体112の展開量を第1拡張展開量とする。また、ECU201は、衝突速度が第1拡張展開速度を超え、第2拡張展開速度以下であった場合、上体エアバッグ袋体112の展開量を第2拡張展開量とし、衝突速度が第2拡張展開速度を超えた場合、上体エアバッグ袋体112の展開量を最大拡張展開量とする。
【0049】
さらに、ECU201は、衝突判定、衝突予測、衝突速度等に基づいて、上体エアバッグ装置110の上体インフレータ111、ニーエアバッグ装置120のニーインフレータ121、脚下エアバッグ装置130の脚下インフレータ131を作動させ、それぞれ上体エアバッグ袋体112、ニーエアバッグ袋体122、脚下エアバッグ袋体132を展開させる。すなわち、ECU201は、展開制御装置として機能する。
【0050】
また、ECU201は、衝突予測を検知した際に、乗員Pの姿勢が所定の姿勢でない場合、例えば、直立状態でない場合には、乗員姿勢矯正装置40を作動させて、乗員Pの姿勢を矯正させる。
【0051】
さらに、ECU201は、上記決定した上体エアバッグ袋体112の展開時の大きさ(展開量)、および、上記検知した座席シート10の位置、に基づいて、座席シート10の移動量を決定する。そして、ECU201は、ニーエアバッグ袋体122を展開させて、乗員Pごと座席シート10を移動させ、座席シートの移動後、所定位置で、シート留め具53を作動させる。
具体的には、ECU201は、基本位置としてシート固定用凹部51aに対して突出しているシート留め具53を一端「完全収納状態」とし、インナーレール52が移動後、シート留め具53が決定した拡張展開量に応じたシート固定用凹部51b、51c、51dの位置で「突出状態」とさせる。
【0052】
すなわち、ECU201は、まず、シート固定用凹部51aに対して突出しているシート留め具53を、インナーレール52の留め具収納部52aに収納された「完全収納状態」とし、ニーエアバッグ袋体122を展開させる。次に、ECU201は、ニーエアバッグ袋体122の展開により、車両1の後方に座席シート10とともにアウターレール51が移動すると、上記決定した拡張展開量に応じたシート固定用凹部51b、51c、51dの位置で、シート留め具53を突出させる。すなわち、ECU201は、シート留め具53をインナーレール52の留め具収納部52aから「突出状態」とさせる。
【0053】
(乗員保護装置101の動作)
次に、このような乗員保護装置101の動作について、説明する。
図4は、乗員保護装置101の動作概要を示すフローチャートである。
【0054】
乗員保護装置101において、ECU201は車両1が起動する(ステップS11で判定)と、初期情報取得処理を行う(ステップS12)。ECU201は、この初期情報取得処理では、乗員Pの着座位置および姿勢情報を取得する。すなわち、ECU201は、座席シート10の前後位置、および、乗員Pが直立状態であるか否かといった情報を取得する。
この初期情報取得処理は、常時行うものであってもよいが、所定の間隔や、所定の条件が成立したときにのみ実行するものであってもよい。例えば、ECU201は、所定の変化量があったときにのみ、初期情報を取得するものであってもよい。
【0055】
次に、ECU201は、衝突予測の検知処理を行う(ステップS13)。具体的には、ECU201は、車両1の進行方向、車速、加速度、外部の道路環境、建物や障害物、移動体(他車両や歩行者等)等に基づいて、車両1の衝突予測を行う。
次いで、ECU201は、車両1の衝突予測を検知したか否かを判定する(ステップS14)。ECU201は、車両1の衝突予測を検知しない場合には、上記処理を繰り返す。
【0056】
ECU201は、車両1の衝突予測を検知すると、衝突速度を算出する(ステップS15)。なお、ECU201は、この衝突速度の算出を、上記衝突予測の検知処理とともに行うようにしてもよい。
次に、ECU201は、上記算出した衝突速度に基づいて、上体エアバッグ袋体112の展開時の大きさを決定する(ステップS16)。
【0057】
例えば、ECU201は、衝突速度が所定の基本展開速度以下であった場合には、上体エアバッグ袋体112の展開量を基本展開量とし、衝突速度が基本展開速度を超える衝突速度であった場合には、上体エアバッグ袋体112の展開量を拡張展開量とする。
さらに、ECU201は、衝突速度が基本展開速度を超え、第1拡張展開速度以下であった場合、上体エアバッグ袋体112の展開量を第1拡張展開量とする。また、ECU201は、衝突速度が第1拡張展開速度を超え、第2拡張展開速度以下であった場合、上体エアバッグ袋体112の展開量を第2拡張展開量とし、衝突速度が第2拡張展開速度を超えた場合、上体エアバッグ袋体112の展開量を最大拡張展開量とする。
【0058】
次いで、ECU201は、決定した上体エアバッグ袋体112の大きさと、座席シート10の位置と、に基づいて、座席シート10の移動量を決定する(ステップS17)。
例えば、ECU201は、シートスライド装置20により座席シート10が所定の範囲内に設定されている場合には、決定した上体エアバッグ袋体112の大きさに対応して、第1拡張展開量であればシート固定用凹部51bの位置に、第2拡張展開量であればシート固定用凹部51cの位置に、最大拡張展開量であればシート固定用凹部51dの位置に、それぞれシート留め具53が移動するように設定する。
【0059】
一方、ECU201は、シートスライド装置20により座席シート10が所定の範囲よりも後ろに設定されている場合には、初期位置に応じて固定位置を設定する。例えば、ECU201は、シートスライド装置20により座席シート10が1段階分後ろに設定されている場合には、決定した上体エアバッグ袋体112の大きさが最大拡張展開量であっても、シート固定用凹部51cの位置を設定し、2段階分後ろに設定されている場合には、シート固定用凹部51bの位置に、シート留め具53が移動するように設定する。
【0060】
次いで、ECU201は、車両1の衝突予測を行うと、乗員Pの姿勢矯正処理を行う(ステップS18)。ここでは、乗員Pの姿勢が所定の姿勢(例えば、直立状態)でない場合に、ECU201は、シートバック12の角度を規定の位置に戻すものである。
なお、乗員Pの姿勢の検出、および、判定については、処理速度の観点からも衝突予測判定よりも前に行っている(初期情報取得処理等)ことが望ましい。ただし、乗員Pの姿勢の検出を、衝突予測判定の後に行ってもよい。この場合、より直近の乗員Pの姿勢を検出することができ、正確な判定を行うことができる。また、姿勢判定のみを、衝突予測判定の後に行ってもよい。
【0061】
また、ECU201は、シートベルト装置30に対して乗員Pを座席シート10に拘束させる(ステップS19)。
具体的には、ECU201は、衝突予測を行うと、シートベルト装置30のリトラクターに対して巻き取り信号を出力する。リトラクターは、ECU201より巻き取り信号を入力すると、ウェビング31を巻き取るように作動する。したがって、ECU201が車両1の衝突予測を行うことにより、シートベルト装置30のウェビング31が巻き取られ、乗員Pが座席シート10に拘束される。
【0062】
次いで、ECU201は、座席シート10のシート可動装置50による固定を解除させる(ステップS20)。なお、シートスライド装置20による固定は解除せず、後述するように、シートスライド装置20ごと、座席シート10をシート可動装置50で移動させる。
具体的には、ECU201は、車両1の衝突予測を検知すると、シート可動装置50のシート留め具53を、シート固定用凹部51aから抜き、インナーレール52の留め具収納部52aに完全収納状態となるように、制御する。これにより、座席シート10が、アウターレール51の溝にそって移動可能となる。
【0063】
次に、ECU201は、脚下エアバッグ袋体132を展開させる(ステップS21)。
具体的には、ECU201は、脚下エアバッグ装置130の脚下インフレータ131に対して作動信号を出力する。脚下インフレータ131は、ECU201から作動信号が入力されると、ガスを発生させ、発生させたガスを脚下エアバッグ袋体132に圧入させる。
【0064】
脚下エアバッグ袋体132は、脚下インフレータ131からガスが圧入されると、座席シート10の下部から乗員Pのふくらはぎ近傍に突出する。脚下エアバッグ袋体132は、さらに脚下インフレータ131からガスが圧入されると、その形状から、乗員Pのふくらはぎ近傍から上方に膨張展開する。そして、脚下エアバッグ袋体132は、乗員Pの膝裏または大腿部裏に達し、乗員Pの脚を上方に押し上げる。
これにより、脚下エアバッグ袋体132の膨張展開により、乗員Pの脚部を上昇させ、乗員Pの足をアンダーフロア3から上昇させ、浮かせる、または、アンダーフロア3との摩擦力を低減させることができる。
また、脚下エアバッグ袋体132の膨張展開により、乗員Pの脚部と、座席シート10の下部と、の間の隙間が埋まるとともに、ニーエアバッグ袋体122に前方から押された際に、乗員Pの脚部が座席シート10に直接ぶつかることがなく、緩衝材としても機能することができる。
【0065】
次に、ECU201は、ニーエアバッグ袋体122を展開させる(ステップS22)。
具体的には、ECU201は、ニーエアバッグ装置120のニーインフレータ121に対して作動信号を出力する。ニーインフレータ121は、ECU201から作動信号が入力されると、ガスを発生させ、発生させたガスをニーエアバッグ袋体122に圧入させる。
【0066】
ニーエアバッグ袋体122は、ニーインフレータ121からガスが圧入されると、ダッシュボード5の下部から車両1の後方、乗員Pの膝に向かって膨張展開する。ニーエアバッグ袋体122は、膨張展開し、乗員Pの膝まで達することにより、車両1のダッシュボード5(車載装置)から乗員Pの間の空間を、下方において埋めることとなる。なお、ニーエアバッグ袋体122は、乗員Pの膝まで膨張展開するとともに、ニーインフレータ121から圧入されるガスにより、上方へも展開し、所定の圧力を有している。
【0067】
ニーエアバッグ袋体122は、乗員Pの膝まで達しても、さらに膨張し、乗員Pの下肢を車両1の後方に押し込む。ここで、座席シート10は、シート可動装置50のシート留め具53による固定が解除されており、インナーレール52がアウターレール51の溝を滑走自在状態であるため、車両1の前後方向に移動可能となっている。したがって、ニーエアバッグ袋体122により乗員Pが後方に押し込まれると、座席シート10ごと乗員Pが後方に移動される。
なお、本実施の形態においては、ニーエアバッグ袋体122の展開により座席シート10が移動するものとしているが、上述のように、シート可動装置50に座席シート10を移動させる機構を設け、座席シート10を移動させるようにしてもよい。この場合、ニーエアバッグ袋体122の展開処理の前に、座席シート10の移動処理を行うことが望ましい。
【0068】
次いで、ECU201は、座席シート10を所定位置に固定させる(ステップS23)。
具体的には、ECU201は、上記決定した座席シート10の移動量に基づいて設定したシート固定用凹部51a~51dにより、座席シート10とともに移動しているシート留め具53が、設定したシート固定用凹部51a~51dに対応する位置となったら、シート留め具53を、留め具収納部52aから突出させ、突出状態とさせる。これにより、シート留め具53が、設定したシート固定用凹部51a~51dに嵌まり込み、座席シート10が固定されることとなる。
【0069】
次に、ECU201は、上体エアバッグ袋体112を所定の大きさに展開させる(ステップS24)。
具体的には、ECU201は、上記決定した上体エアバッグ袋体112の大きさに基づいて、上体エアバッグ装置110の上体インフレータ111に対して作動信号を出力する。上体インフレータ111は、ECU201から作動信号が入力されると、ガスを発生させ、発生させたガスを上体エアバッグ袋体112に圧入させる。
【0070】
また、上体インフレータ111は、決定した上体エアバッグ袋体112の大きさに基づく作動信号により、上体エアバッグ袋体112に対する所定のテザーを切断することにより、上体エアバッグ袋体112の展開量を変更させる。なお、上述したように、複数のインフレータを有し、作動させるインフレータの数で展開量を変更するものであってもよいし、上体インフレータ111から出力するガスの量を変更して、展開量の変更を行うものであってもよい。
【0071】
上体エアバッグ袋体112は、上体インフレータ111からガスが圧入されると、ダッシュボード5の上部から車両1の後方、乗員Pの上体(頭部や胸部等)に向かって膨張展開する。上体エアバッグ袋体112は、上記のように、衝突速度によって展開量が決定されるので、衝突の状態に合わせて、適切な展開量で乗員Pを保護することができる。例えば、衝突速度が大きな場合には、上体エアバッグ袋体112が大きく展開して、乗員Pの衝撃を長い距離で吸収することができ、衝突の衝撃が大きくても、急激な衝撃を与えずに、乗員Pを安全に保護することができる。
【0072】
また、上記のように、ニーエアバッグ袋体122が上体エアバッグ袋体112の下部に展開しているので、上体エアバッグ袋体112が大きく、長く展開しても、下方に落ちてしまったり、あらぬ方向に移動してしまうこともなく、しっかりと反力を取ることができ、乗員Pを適切に保護することができる。
【0073】
なお、本実施の形態においては、上体エアバッグ袋体112の展開を、座席シート10を固定してから行うようしているが、これに限らず、座席シート10の固定の前に上体エアバッグ袋体112を展開するようにしてもよい。
また、上記一連の作動中であっても、衝突を検知した際には、直ちに上体エアバッグ袋体112およびニーエアバッグ袋体122を展開させる。
また、上記では、座席シート10の移動やエアバッグの展開の順番を基本的な順番で説明したが、これに限らず、所定の処理を同時に行うものであっても、他の順番で移動や展開をさせるものであってもよい。
【0074】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置は、衝突速度に応じて上体エアバッグ袋体112の展開時の大きさを決定して、座席シート10を移動させるとともに、この移動の際に、脚下エアバッグ132袋体を展開させて乗員Pの脚部を上昇させてアンダーフロア3と乗員Pとの摩擦力を軽減する。これにより、座席シート10を容易に移動させることができる。そして、上体エアバッグ袋体112の下部、車載装置と乗員Pとの間に、ニーエアバッグ袋体122を展開させているので、状況に応じた適切な乗員保護を行うとともに、上体エアバッグ袋体112を大きく展開させても、確実に反力をとることができ、上体エアバッグ袋体112で乗員Pを確実に保護することができる。
【0075】
なお、本実施の形態において、上体エアバッグ袋体112は、本願のメインエアバッグを構成する。また、本実施の形態において、脚下エアバッグ袋体132は、本願のサブエアバッグを構成する。
さらに、本実施の形態において、ニーエアバッグ装置120は、シート移動手段を構成する。また、本実施の形態において、ニーエアバッグ袋体122は、本願の移動用エアバッグを構成する。
【符号の説明】
【0076】
1 車両、3 アンダーフロア、4 ルーフ、5 ダッシュボード、10 座席シート、11 シートクッション、12 シートバック、13 ヘッドレスト、20 シートスライド装置、30 シートベルト装置、31 ウェビング、40 乗員姿勢矯正装置、50 シート可動装置、51 アウターレール、51a、51b、51c、51d シート固定用凹部、52 インナーレール、52a 留め具収納部、53 シート留め具、53a 先端部、60 車載カメラ、101 乗員保護装置、110 上体エアバッグ装置、111 上体インフレータ、112 上体エアバッグ袋体、120 ニーエアバッグ装置、121 ニーインフレータ、122 ニーエアバッグ袋体、130 脚下エアバッグ装置、131 脚下インフレータ、132 脚下エアバッグ袋体、201 ECU