(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20221101BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20221101BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20221101BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221101BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01J35/04 301L
B01J35/10
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
(21)【出願番号】P 2019088769
(22)【出願日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎮西 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
(72)【発明者】
【氏名】仲東 聖次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏生
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悟
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 敬
(72)【発明者】
【氏名】小里 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】岡田 満克
(72)【発明者】
【氏名】星野 将
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136560(WO,A1)
【文献】特開2016-185495(JP,A)
【文献】特開2016-182585(JP,A)
【文献】特開2018-176109(JP,A)
【文献】特表2016-513014(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200013(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065797(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/73
B01J 53/86-53/90
B01D 53/94
B01D 53/96
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/04-3/38
F01N 9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に
Rh及び金属酸化物を含む触媒コート層を有する排ガス浄化用触媒であって、
触媒コート層において、
コート層の平均厚さが50μm~100μmの範囲内であり、
水中重量法により測定した空隙率が50容量%~80容量%の範囲内であり、
空隙全体の0.5容量%~50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなり、前記高アスペクト比細孔は、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm~50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10~50の範囲内であり、かつ
全
Rh量の80質量%以上が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から25%以上70%以下の範囲に存在する、
前記排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記触媒コート層において、前記高アスペクト比細孔が、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値で0~45度の範囲内に配向している、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記触媒コート層において、被覆量が、前記基材の単位体積当たり50g/L~300g/Lの範囲内である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
全
Rh量の80質量%以上が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から27%以上66%以下の範囲に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒に関する。より詳しくは、一定割合の高アスペクト比である細孔を含む触媒コート層が厚さ方向において貴金属の濃度勾配を有することを特徴とする排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、未燃の炭化水素(HC)等の有害ガスが含まれている。そのような有害ガスを分解する排ガス浄化用触媒は三元触媒とも称され、コージェライト等からなるハニカム状のモノリス基材に、触媒活性を有する貴金属粒子と酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する助触媒とを含むスラリーをウォッシュコートして触媒コート層を設けたものが一般的である。
【0003】
排ガス浄化用触媒における浄化効率を向上させるべく、様々な試みが行われている。その一例として、触媒コート層内における排ガスの拡散性を向上させるため、触媒コート層の内部に空隙を形成する手法が知られている。触媒コート層の内部に空隙を形成する方法としては、触媒粒子の粒径を大きくする方法、あるいは製造の最終段階で触媒を焼成した際に消失する造孔材を用いて空隙を設ける方法等が知られている。例えば、特許文献1には、粒径が0.1~3.0μmのマグネシアを添加して触媒層を形成することにより空隙を設ける方法が記載されている。
【0004】
しかし、触媒層の内部に空隙を設けると、その分、触媒層の厚さが増すため、触媒の圧力損失が上昇し、エンジン出力の低下や燃費の悪化を招くおそれがある。また、上述のような方法で空隙を設けた場合、触媒層の強度が低下する、あるいは設けた空隙間の繋がりが乏しく十分な効果が得られない等の問題もあった。そのような問題に鑑み、例えば特許文献2では、所定形状の炭素化合物材を混合し、それを触媒焼成時に消失させることにより、断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である空隙を触媒層内に設ける方法が記載されている。
【0005】
一方で、触媒コート層への貴金属担持技術として、貴金属の担持密度や担持部位を制御するための検討が行われている。例えば、特許文献3には、排ガスが流通するセル構造の基材と、基材のセル壁面に形成されている触媒層とからなる触媒コンバーターであって、前記触媒層は、排ガスの流れ方向の上流側に第1の触媒層を有し、排ガスの流れ方向の下流側に第2の触媒層を有しており、前記第1の触媒層は、厚み方向に均一な濃度で貴金属触媒を有しており、前記第2の触媒層は、表層から基材側に向かって貴金属触媒の濃度が低下する濃度分布を有しており、前記第1の触媒層は、前記基材の前記上流側の端部を起点として該基材の全長の10~90%の範囲に形成されており、前記第2の触媒層のうち、該第2の触媒層の表層から全厚みの20%の範囲を表層部とし、該第2の触媒層の基材側の端面から全厚みの20%の範囲を深部とし、表層部における貴金属触媒の濃度をA(質量%)、深部における貴金属触媒の濃度をB(質量%)とした際に、A/Bが1より大きい、触媒コンバーターが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、エンジンの排気通路に設けられ、排ガス中の窒素酸化物を吸蔵して還元する機能を有するとともに、基層側よりも表層側における貴金属担持密度が高く設定されたトラップ触媒と、前記トラップ触媒の上流側に設けられ、前記窒素酸化物を酸化する機能を有するとともに、表層側よりも基層側における貴金属担持密度が高く設定された酸化触媒と、を備えたことを特徴とする、排気浄化装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-104897号
【文献】特開2012-240027号
【文献】特開2017-104825号
【文献】特開2017-115690号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SULEV20等の厳しい排ガス規制の対応では、加速時等の吸入空気量が多い条件下(高吸入空気量又は高Ga条件下:高空間速度又は高SV条件下と同義)、空燃比(A/F)がリッチである雰囲気における浄化性能が問題となる。このような領域において浄化性能の向上が見られる特許文献1~4であっても、より厳しい排ガス規制に対応するために、高価な貴金属を多量に使用する必要がある。つまり、コストを踏まえて、より少ない貴金属量で浄化性能を向上させるための新たな貴金属担持技術が求められる。
【0009】
したがって、本発明は、高Ga条件下、A/Fがリッチである雰囲気において、浄化性能が向上した排ガス浄化用触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述したような問題を検討した結果、所定の形状を有する有機繊維を造孔材として用いることで調製された、連通性に優れ、ガス拡散性に優れた高アスペクト比細孔を有する触媒コート層において、厚さ方向に、貴金属の濃度勾配を形成させることによって、高Ga条件下、A/Fがリッチである雰囲気において、NOx浄化性能が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)基材上に貴金属及び金属酸化物を含む触媒コート層を有する排ガス浄化用触媒であって、
触媒コート層において、
コート層の平均厚さが50μm~100μmの範囲内であり、
水中重量法により測定した空隙率が50容量%~80容量%の範囲内であり、
空隙全体の0.5容量%~50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなり、前記高アスペクト比細孔は、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm~50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10~50の範囲内であり、かつ
全貴金属量の80質量%以上が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から25%以上70%以下の範囲に存在する、
前記排ガス浄化用触媒。
(2)前記触媒コート層において、前記高アスペクト比細孔が、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値で0~45度の範囲内に配向している、(1)に記載の排ガス浄化用触媒。
(3)前記触媒コート層において、被覆量が、前記基材の単位体積当たり50g/L~300g/Lの範囲内である、(1)又は(2)に記載の排ガス浄化用触媒。
(4)全貴金属量の80質量%以上が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から27%以上66%以下の範囲に存在する、(1)~(3)のいずれか一つに記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高Ga条件下、A/Fがリッチである雰囲気において、浄化性能が向上した排ガス浄化用触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像を解析して得た細孔の三次元情報を例示する二次元投影図である。
【
図2】
図1のA~Eにおける触媒コート層断面の細孔を示す概略図である。
【
図3】
図1の二次元投影図において高アスペクト比細孔の円錐角を示す概略図である。
【
図4】本発明の排ガス浄化用触媒の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図5】実施例1~3及び比較例1~7の排ガス浄化用触媒におけるRh担持深さとNOx浄化性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[排ガス浄化用触媒]
本発明の排ガス浄化用触媒は、基材上に貴金属及び金属酸化物を含む触媒コート層を有する。そして、触媒コート層は、平均厚さが50μm~100μmの範囲内であり、水中重量法により測定した空隙率が50容量%~80容量%の範囲内であり、空隙全体の0.5容量%~50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなり、前記高アスペクト比細孔は、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm~50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10~50の範囲内であり、かつ全貴金属量の80質量%以上が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から25%以上70%以下の範囲に存在することを特徴とする。
【0015】
(基材)
本発明の排ガス浄化用触媒における基材としては、公知のハニカム形状を有する基材を使用することができ、具体的には、ハニカム形状のモノリス基材(ハニカムフィルタ、高密度ハニカム等)等が好適に採用される。また、このような基材の材質も特に制限されず、コージェライト、炭化ケイ素、シリカ、アルミナ、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。これらの中でも、コストの観点から、コージェライトであることが好ましい。
【0016】
(触媒コート層)
本発明の排ガス浄化用触媒における触媒コート層は、前記基材の表面に形成されており、一層であっても、あるいは二層以上、すなわち二層、三層、又は四層以上の層からなってもよい。好ましくは、本発明の排ガス浄化用触媒における触媒コート層は一層からなる。各触媒コート層は、必ずしも排ガス浄化用触媒の基材全体に渡って均一でなくてもよく、基材の部分ごと、例えば排ガス流れ方向に対して上流側と下流側で、ゾーンごとに異なる組成を有していてもよい。触媒コート層が二層以上からなる場合、触媒コート層は、最上層としての触媒コート層と、それに対して下に存在する触媒コート層に分類することができる。最上層としての触媒コート層は、後述するように空隙を多く含み、厚さ方向に貴金属の濃度勾配が形成されている構造を有する。
【0017】
触媒コート層は、主触媒として機能する貴金属、金属酸化物等を含む。金属酸化物としては、具体的には、酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)、酸化ランタン(La2O3)、酸化セリウム(CeO2、セリア)、酸化ジルコニウム(ZrO2、ジルコニア)、酸化イットリウム(Y2O3、イットリア)、酸化珪素(SiO2、シリカ)、酸化ネオジム(Nd2O3)、及びこれらからなる複合酸化物が挙げられる。金属酸化物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
貴金属としては、具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)が挙げられる。これらの中でも、触媒性能の観点から、Pt、Rh、Pd、Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、Pt、Rh及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が特に好ましい。貴金属は、触媒コート層一層あたり一種用いることが好ましい。
【0019】
貴金属は、上述したような金属酸化物に担持されていることが好ましい。貴金属の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量を担持させればよい。貴金属の含有量としては、金属換算で、触媒コート層100質量部に対して0.01質量部~10質量部であることが好ましく、0.01質量部~5質量部であることがより好ましい。貴金属の担持量は、少なすぎると触媒活性が不十分となる傾向にあり、他方、多すぎても触媒活性が飽和するとともにコストが上昇する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。
【0020】
本発明の触媒コート層では、触媒コート層中に存在する全貴金属量の80質量%以上が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から25%以上70%以下の範囲(すわなち、0%と25%~70%との間)、好ましくは0%から27%以上66%以下の範囲(すわなち、0%と27%~66%との間)、より好ましくは0%から35%以上60%以下の範囲(すわなち、0%と35%~60%との間)に存在する。なお、触媒コート層の厚さ方向の%は、触媒コート層の全体の厚さを100としたときの、触媒コート層の排ガスに接する表面側からの深さの割合を示す。
【0021】
触媒コート層中に存在する貴金属の担持分布は、例えば、触媒コート層を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で観察し、元素分析を行うことで、材料への担持状態を確認することができる。
【0022】
触媒コート層の一層あたりの被覆量は、基材の単位体積当たり50g/L~300g/Lの範囲内であることが好ましい。被覆量が少なすぎると、触媒の触媒活性性能が十分に得られないためNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られない一方、多すぎても、圧力損失が増大し燃費が悪化する原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、圧力損失と触媒性能と耐久性のバランスの観点から、触媒コート層の一層あたりの被覆量は、基材の単位体積当たり50g/L~250g/L、特に50g/L~200g/Lの範囲内であることがより好ましい。
【0023】
また、触媒コート層の一層あたりの厚さは、平均厚さが50μm~100μmの範囲内であることが好ましい。触媒コート層が薄すぎると、十分な触媒性能が得られなくなる一方、厚すぎても、排ガス等が通過する際の圧力損失が大きくなりNOx浄化性能等の十分な触媒性能が得られないが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、圧力損失と触媒性能と耐久性のバランスの観点から、50μm~100μm、特に60μm~80μmの範囲内であることがより好ましい。ここで、触媒コート層の「厚さ」とは、触媒コート層の基材の平坦部の中心に対して垂直な方向の長さ、すなわち触媒コート層の表面と基材表面(下層触媒コートが存在する場合は、その下層触媒コートとの間の界面)の間の最短距離を意味する。触媒コート層の平均厚さは、例えば、触媒コート層を、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡を用いて観察して、任意の10個以上の部分について厚さを測定し、その厚さの平均値を算出することにより算出することができる。
【0024】
触媒コート層は、主として貴金属及び金属酸化物から構成されるが、さらに本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、この種の用途の触媒コート層に用いられる他の金属酸化物や添加剤等、具体的にはカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、ランタン(La)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)等の希土類元素、鉄(Fe)等の遷移金属等の一種以上が挙げられる。
【0025】
触媒コート層は、空隙を多く有し、その空隙率は、水中重量法により測定した空隙率で50容量%~80容量%の範囲内であることが好ましい。触媒コート層の空隙率が低すぎると、ガス拡散性が悪くなるため十分な触媒性能が得られない一方、高すぎると、拡散性が高すぎることにより触媒活性点と接触せずにコート層を素通りするガスの割合が増え十分な触媒性能が得られないが、上記範囲ではそのような問題は生じない。触媒コート層の空隙率は、ガス拡散性と触媒性能のバランスの観点から、50.9容量%~78.8容量%、特に54.0容量%~78.0容量%の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
触媒コート層の「空隙」とは、触媒コート層が内部に有する空間を意味する。「空隙」の形状は特に限定されず、例えば、球状、楕円状、円筒形状、直方体状(角柱)、円盤状、貫通路形状及びこれらに類似する形状等のいずれのものであってよい。このような空隙には、断面の円相当径が2μm未満の微小細孔、断面の円相当径が2μm以上でかつ5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔、断面の円相当径が2μm以上でかつ5以上のアスペクト比を有さない細孔等の細孔が含まれる。このような触媒コート層の空隙率は、例えば、触媒コート層のみを形成した排ガス浄化用触媒を水中重量法により測定することにより求めることができる。具体的には、空隙率は、例えばJIS R 2205に規定される方法に準じた方法により測定することができる。
【0027】
本発明の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層が有する空隙のうち、全体の0.5容量%~50容量%が、5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔からなる。高アスペクト比細孔は、排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm~50μmの範囲内であり、かつ平均アスペクト比が10~50の範囲内であることを特徴とする。従って、円相当径が2μm未満である細孔は、たとえアスペクト比が5以上であっても高アスペクト比細孔とはみなさない。
【0028】
高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、低すぎると細孔の連通性が十分得られない一方、高すぎるとガス拡散性が高すぎることにより、触媒活性点と接触せずにコート層を素通りするガスの割合が増えて十分な触媒性能が得られないが、平均アスペクト比が10~50の範囲内であればそのような問題は生じない。ガス拡散性と触媒性能の両立という観点から、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、10~35、特に10~30の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
触媒コート層における高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、FIB-SEM(Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscope)又はX線CT等で得られる触媒コート層の細孔の三次元情報から、基材の排ガスの流れ方向(ハニカム状の基材の軸方向)に垂直な触媒コート層断面の断面画像を解析することにより測定することができる。
【0030】
具体的には、例えば、FIB-SEM分析により行う場合、先ず、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像(SEM像)をFIB-SEM分析により取得する。次に、得られた連続断面画像を解析し、断面の円相当径が2μm以上の細孔の三次元情報を抽出する。
図1に、細孔の三次元情報の解析結果の一例として、排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像を解析して得た細孔の三次元情報の解析結果を例示する二次元投影図の例を示す。
図1に例示する細孔の三次元情報の解析結果にも表れているように、細孔の形は不定形であり、細孔の連続断面画像(SEM像)における始点と終点を結んだ距離を「長径」と定義する。なお、始点と終点はそれぞれのSEM像における重心とする。次に、細孔の連続断面画像(SEM像)における始点と終点を最短距離で接続する経路におけるくびれのうち断面SEM像における円相当径が2μm以上であって最小のものを「喉」と定義し、この断面SEM像における円相当径を「喉径」と定義する。(細孔においてくびれが複数存在する場合があるが、アスペクト比を算出するための喉径として、始点と終点を最短距離で接続する経路における最小のくびれを選択し、この最小のくびれ(喉)の断面SEM像における細孔の円相当径を「喉径」と定義する。)更に、前記細孔のアスペクト比は「長径/喉径」と定義する。
【0031】
次に、
図1の(A)(細孔の始点)、(B)(細孔の喉部)、(C)(細孔の長径の中位点)、(D)(細孔の最大円相当径である最大径部)、(E)(細孔の終点)のそれぞれの断面画像(SEM像)の例を
図2に示す。
図2は、
図1の(A)~(E)における触媒コート層断面の細孔を示す断面画像(SEM像)の概略図である。
図2の(A)は、
図1に例示した細孔の二次元投影図の始点(細孔の円相当径が2μm以上となっている一方の端部)における細孔の断面画像の概略図であり、G1は断面画像における細孔の重心を示す。
図2の(B)は、
図1に例示した細孔の二次元投影図の喉(細孔の円相当径が2μm以上細孔であって、始点と終点を最短距離で接続する経路における最小のくびれ)における細孔の断面画像の概略図である。
図2の(C)は、
図1に例示した細孔の二次元投影図の長径の始点と終点を最短距離で接続する経路の中位点における細孔の断面画像の概略図である。
図2の(D)は、
図1に例示した細孔の二次元投影図の長径の始点と終点を最短距離で接続する経路における細孔の円相当径が最大となる部分における細孔の断面画像である。
図2の(E)は、
図1に例示した細孔の二次元投影図の終点(細孔の円相当径が2μm以上となっている他方の端部)における細孔の断面画像の概略図であり、G2は断面画像における細孔の重心を示す。ここで、
図2において、細孔の始点(
図2の(A)に示すG1)と細孔の終点(
図2の(E)に示すG2)を結ぶ直線の距離を「長径」と定義する。また、細孔の始点と終点を最短距離で接続する経路におけるくびれのうち断面SEM像における円相当径が2μm以上であって最小のものを「喉」と定義し、この断面SEM像における円相当径を「喉径」と定義する。前記細孔のアスペクト比は「長径/喉径」と定義する。更に、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に500μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上、軸方向に1000μm以上の範囲、又はこれに相当する範囲を測定し、前記細孔のうち5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔の平均アスペクト比を計算することにより、「触媒コート層における高アスペクト比細孔の平均アスペクト比」を求めることができる。
【0032】
前述のとおり、触媒コート層における高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は0.5容量%~50容量%の範囲内である。この割合が低すぎると、細孔の連通性が不足し、他方、高すぎると、排ガスの流れ方向に対して垂直な方向のガス拡散性が不十分になり十分な触媒性能が得られず、触媒コート層の強度低下による剥離等も生じるが、上記範囲であればそのような問題は発生しない。なお、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は、ガス拡散性と触媒性能と触媒コート層の強度のバランスの観点から、0.6容量%~40.9容量%、特に1容量%~30.1容量%の範囲内であることが好ましい。
【0033】
触媒コート層における高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に500μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上、軸方向に1000μm以上の範囲、又はこれに相当する範囲における高アスペクト比細孔の空隙率を、水中重量法により測定して得られる触媒コート層の空隙率で割って求めることができる。
【0034】
更に、触媒コート層においては、前記高アスペクト比細孔が、高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値で0度~45度の範囲内に配向していることが好ましい。このようにすることにより、排ガスの流れ方向(ハニカム形状の基材の軸方向)におけるガス拡散性が特に向上し、活性点の利用効率を向上させることができる。累積80%角度の値が大きすぎると、ガス拡散性の軸方向の成分が不十分となり活性点の利用効率が低下する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお。前記累積80%角度の値は、触媒性能の観点から、15度~45度、特に30度~45度の範囲内であることが好ましい。
【0035】
触媒コート層における高アスペクト比細孔の円錐角(配向角)は、触媒コート層の細孔の三次元情報から、基材の排ガスの流れ方向(ハニカム状の基材の軸方向)に垂直な触媒コート層断面の断面画像を解析することにより測定することができる。具体的には、例えば、FIB-SEM分析により行う場合、前記により得られる高アスペクト比細孔の「長径」により得られる長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角から「円錐角」を求めることができる。
図3は高アスペクト比細孔の円錐角(配向角)を示す概略図であり、「円錐角」の求め方の一例を示すものである。
図3は、
図1の二次元投影図において、高アスペクト比細孔の長径方向ベクトル(Y)及び前記基材の排ガスの流れ方向ベクトル(X)を示しており、前記長径方向ベクトル(Y)と前記基材の排ガスの流れ方向ベクトル(X)のがなす角を「円錐角」と定義する。上記細孔の三次元情報(三次元画像)の画像解析により、前記円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を算出することができる。なお、高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度とは、前記高アスペクト比細孔の円錐角(角度)の小さいものから、高アスペクト比細孔の数をカウントしたときに、高アスペクト比細孔の数が全体の80%(円錐角の角度基準積算頻度が80%)に相当するときのアスペクト比細孔の円錐角を意味する。なお、高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値は、無作為に20個以上の高アスペクト比細孔を抽出し、これら高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を測定して平均することによって求めることができる。
【0036】
図4に、本発明の排ガス浄化用触媒の構成の一例を模式的に示す。
図4では、貴金属を含む触媒コート層が基材上に被覆されており、触媒コート層は、一定割合の高アスペクト比である細孔を含み、厚さ方向において貴金属の濃度勾配を有する。
【0037】
本発明の触媒コート層が、上述するように空隙を多く含み、厚さ方向に、貴金属の濃度勾配を形成していることによって、本発明の触媒コート層を備える排ガス浄化用触媒は、高Ga条件下、A/Fがリッチである雰囲気においても、少ない貴金属量で十分な浄化性能を発揮することができる。
【0038】
(排ガス浄化用触媒の利用態様)
本発明の排ガス浄化用触媒は、単独で用いても、あるいは他の触媒と組み合わせて利用してもよい。このような他の触媒としては、特に制限されず、公知の触媒(例えば、自動車の排ガス浄化用触媒の場合は、酸化触媒、NOx還元触媒、NOx吸蔵還元型触媒(NSR触媒)、希薄NOxトラップ触媒(LNT触媒)、NOx選択還元触媒(SCR触媒)等)を適宜用いてもよい。
【0039】
[排ガス浄化用触媒の製造方法]
本発明の、基材上に貴金属及び金属酸化物を含む触媒コート層を有する排ガス浄化用触媒の製造方法は、金属酸化物粒子と、前記金属酸化物粒子100質量部に対して0.5質量部~9.0質量部の繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いて、触媒コート層前駆体を形成させること、及び触媒コート層前駆体に触媒活性を有する貴金属粒子を担持させることを含むことを特徴とする。繊維状有機物は、平均繊維径が1.7μm~8.0μmの範囲内、かつ平均アスペクト比が9~40の範囲内であるという特徴を有する。繊維状有機物は、触媒スラリーを基材に塗布した後に加熱することで、その少なくとも一部を除去され、触媒コート層に空隙が形成されるものであることが好ましい。なお、触媒コート層が二層以上からなる場合、触媒コート層のうち、最上層としての触媒コート層より下の触媒コート層については、例えば繊維状有機物を含まない貴金属及び金属酸化物を含む触媒スラリーを用いる等、従来公知の方法に従って形成することができる。
【0040】
(金属酸化物粒子)
金属酸化物粒子は、本発明の排ガス浄化用触媒の触媒コート層に含まれる金属酸化物に関して既に説明したものと同様である。金属酸化物粒子の調製方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、このような金属酸化物粒子としては、市販のものを用いてもよい。本発明の方法で用いる金属酸化物粒子の形態としては、公知の方法で調製した金属酸化物粒子(複合酸化物粒子を含む)、市販の金属酸化物粒子(複合酸化物粒子を含む)又はこれらの混合物、或いは、これらをイオン交換水等の溶媒等に分散させた分散液等が挙げられる。
【0041】
金属酸化物粒子の粒径は、限定されず、体積基準で累積粒度分布における累積50%径の値で、通常0.1μm~10μm、好ましくは1μm~8μm、より好ましくは3μm~8μmである。
【0042】
(触媒スラリーの調製及び塗布)
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法では、金属酸化物粒子、及び前記金属酸化物粒子100質量部に対して0.5質量部~9.0質量部の繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いる。
【0043】
溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水(好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)が挙げられる。
【0044】
繊維状有機物としては、後述する加熱工程により除去可能な物質であれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、セルロース繊維が挙げられる。その中でも、加工性と焼成温度のバランスの観点から、PET繊維及びナイロン繊維からなる群から選択される少なくとも1種のものを用いることが好ましい。触媒スラリーにこのような繊維状有機物を含有させ、その後の工程において繊維状有機物の少なくとも一部を除去せしめることにより、繊維状有機物の形状と同等形状の空隙を触媒コート層内に形成せしめることが可能となる。このようにして調製した空隙は排ガスの拡散流路となり、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することができる。
【0045】
本発明の触媒の製造方法で用いる繊維状有機物は、平均繊維径が1.7μm~8.0μmの範囲内である。平均繊維径が小さすぎると、有効な高アスペクト比細孔が得られないため触媒性能が不十分となり、他方、大きすぎると、触媒コート層の厚さが増大することで圧力損失が増大し燃費悪化の原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。触媒性能とコート厚さのバランスの観点から、繊維状有機物の平均繊維径は、2.0μm~6.0μm、特に2.0μm~5.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
また、本発明の触媒の製造方法で用いる繊維状有機物は、平均アスペクト比が9~40の範囲内である。平均アスペクト比が小さすぎると、細孔の連通性が不十分なためガス拡散性が不足し、他方、大きすぎると、拡散性が大きすぎることにより触媒活性点と接触せずにコート層を素通りするガスの割合が増え十分な触媒性能が得られないが、上記範囲ではそのような問題は生じない。繊維状有機物の平均アスペクト比は、ガス拡散性と触媒性能のバランスの観点から、9~30、特に9~28の範囲内であることが好ましい。なお、繊維状有機物の平均アスペクト比は「平均繊維長/平均繊維径」と定義する。ここで、繊維長とは繊維の始点と終点を結ぶ直線距離とする。平均繊維長は、無作為に50以上の繊維状有機物を抽出し、これら繊維状有機物の繊維長を測定して平均することによって求めることができる。また、平均繊維径は、無作為に50以上の繊維状有機物を抽出し、これら繊維状有機物の繊維径を測定して平均することによって求めることができる。
【0047】
本発明の触媒の製造方法では、金属酸化物粒子100質量部に対して0.5質量部~9.0質量部の範囲内の量で繊維状有機物を、触媒コート層形成用の触媒スラリーに用いる。繊維状有機物の混合量が少なすぎると、十分な細孔連通性が得られないため触媒性能が不十分となり、他方、多すぎると、触媒コート層の厚さが増大することで圧力損失が増大し燃費悪化の原因となるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。なお、触媒性能と圧力損失のバランスの観点から、繊維状有機物は、前記金属酸化物粒子100質量部に対して0.5質量部~8.0質量部、特に0.5質量部~5.0質量部の範囲内の量で触媒スラリーに用いることが好ましい。なお、繊維状有機物は、平均繊維径が2.0μm~6.0μmの範囲内でかつ平均アスペクト比が9~30の範囲内であると、より好ましい。
【0048】
触媒スラリーの調製方法は、特に制限されず、前記金属酸化物粒子と前記繊維状有機物とを、必要に応じて公知のバインダー等と共に混合すればよく、公知の方法を適宜採用することができる。なお、このような混合の条件としては、特に制限されず、例えば、撹拌速度としては100rpm~400rpmの範囲内、処理時間としては30分以上であることが好ましく、繊維状有機物が触媒スラリー中で均一に分散混合できればよい。また、混合する順序は、特に制限されず、金属酸化物粒子を含む分散液に繊維状有機物を混合する方法、繊維状有機物を含む分散液に金属酸化物粒子を混合する方法、等のいずれでもよい。処理条件については特に制限されず、目的とする排ガス浄化用触媒の設計等に応じて適宜選択される。
【0049】
金属酸化物粒子及び繊維状有機物を含有する触媒スラリーは、基材の表面、場合により基材上の下層の触媒コート層上に、焼成後の触媒コート層の被覆量及び平均厚さがそれぞれ前記基材の単位体積当たり50g/L~300g/Lの範囲内及び50μm~100μmの範囲内となるように塗布して触媒スラリー層を形成することが好ましい。塗布方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。具体的には、ハニカム形状の基材を触媒スラリーに浸漬させて塗布する方法(浸漬法)、ウォッシュコート法、触媒スラリーを圧入手段により圧入する方法、等が挙げられる。なお、塗布条件としては、前記触媒スラリーをハニカム形状の基材の表面に、焼成後の触媒コート層の被覆量が前記基材の単位体積当たり50g/L~300g/Lの範囲内でかつ触媒コート層の平均厚さが50μm~100μmの範囲内となるように塗布することが必要である。
【0050】
本発明の触媒の製造方法では、基材に触媒スラリーを塗布した後、加熱することにより、スラリーに含まれる溶媒等を蒸発させると共に、繊維状有機物を除去する。加熱は、典型的には触媒スラリーを塗布した基材を焼成することにより行われる。焼成は、300℃~800℃、特に400℃~700℃の範囲内の温度で行うことが好ましい。焼成温度が低すぎると、繊維状有機物が残存する傾向にあり、他方、高すぎると、粒子が焼結する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。焼成時間は、焼成温度により異なるものであるため一概には言えないが、20分以上であることが好ましく、30分~2時間であることがより好ましい。更に、焼成時の雰囲気としては、特に制限されないが、大気中或いは窒素(N2)等の不活性ガス中であることが好ましい。
【0051】
触媒コート層が二層以上である排ガス浄化用触媒は、触媒スラリーを塗布し加熱することにより基材上に形成された触媒コート層の上に、組成、すなわち金属酸化物や貴金属等の量や種類が場合により異なる触媒スラリーを再度塗布し加熱することを繰り返すことにより調製することができる。触媒コート層が二層以上である排ガス浄化用触媒は、貴金属粒子及び金属酸化物粒子を含む触媒スラリーを用いて下層の触媒コート層を形成した後、その上に、金属酸化物粒子及び繊維状有機物を含む触媒スラリーを用いて最上層の触媒コート層前駆体を形成することにより調製することができる。
【0052】
基材上に触媒コート層前駆体を形成させたら、触媒コート層前駆体に触媒活性を有する貴金属粒子を担持させる。
【0053】
貴金属粒子を調製するための貴金属原料としては、特に制限されないが、例えば、貴金属(例えば、Pt、Rh、Pd、Ru等、又はその化合物)の塩(例えば、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩、等)又はそれらの錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を水、アルコール等の溶媒に溶解した溶液が挙げられる。また、貴金属の量は特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよく、0.01質量%以上とすることが好ましい。なお、貴金属として白金を用いる場合、白金塩としては、特に制限されないが、例えば、白金(Pt)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、ジニトロジアンミン塩が好ましい。また、貴金属としてパラジウムを用いる場合、パラジウム塩としては、特に制限されないが、例えば、パラジウム(Pd)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体の溶液が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、硝酸塩やジニトロジアンミン塩が好ましい。また、貴金属としてロジウムを用いる場合、ロジウム塩としては、特に制限されないが、例えば、ロジウム(Rh)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、硝酸塩やジニトロジアンミン塩が好ましい。更に、溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水(好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)等のイオン状に溶解せしめることが可能な溶媒が挙げられる。
【0054】
触媒コート層中に前述の貴金属の濃度勾配を形成させるためには、貴金属原料のpHを、通常2~3に調整することにより実施することができる。
【0055】
触媒コート層前駆体への貴金属粒子の担持方法は、貴金属原料のpHを前記のように調整する以外は、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。具体的には、触媒コート層前駆体が塗布されたハニカム形状の基材を貴金属原料に浸漬させて塗布する方法(浸漬法)、ウォッシュコート法、貴金属原料を圧入手段により圧入する方法、等が挙げられる。
【0056】
本発明の触媒の製造方法では、触媒コート層前駆体に貴金属原料を塗布した後、加熱することにより、貴金属原料に含まれる溶媒等を蒸発させると共に、貴金属を担持する。加熱は、典型的には貴金属原料を塗布した触媒コート層前駆体を焼成することにより行われる。焼成は、300℃~800℃、特に400℃~700℃の範囲内の温度で行うことが好ましい。焼成温度が低すぎると、溶媒が残存する傾向にあり、他方、高すぎると、貴金属粒子が焼結する傾向にあるが、上記範囲ではそのような問題は生じない。焼成時間は、焼成温度により異なるものであるため一概には言えないが、20分以上であることが好ましく、30分~2時間であることがより好ましい。更に、焼成時の雰囲気としては、特に制限されないが、大気中或いは窒素(N2)等の不活性ガス中であることが好ましい。
【0057】
本発明の排ガス浄化用触媒は、内燃機関から排出された排ガスを接触させて排ガスを浄化する方法に用いられる。排ガス浄化用触媒に排ガスを接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、内燃機関から排出されるガスが流通する排ガス管内に上記本発明にかかる排ガス浄化用触媒を配置することにより、排ガス浄化用触媒に対して内燃機関からの排ガスを接触させる方法を採用してもよい。
【0058】
本発明の排ガス浄化用触媒は、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮するものであるため、このような前記本発明の排ガス浄化用触媒に、例えば、自動車等の内燃機関から排出される排ガスを接触させることで、高ガス流量の高負荷領域においても排ガスを浄化することが可能となる。本発明の排ガス浄化用触媒は、自動車等の内燃機関から排出されるような排ガス中の有害ガス(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx))等の有害成分を浄化するために用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
I.触媒の調製
I-1.使用材料
材料1(Al2O3)
4質量%-La2O3複合化Al2O3
材料2(ZC)
21質量%-CeO2、72質量%-ZrO2、1.7質量%-La2O3、5.3質量%-Y2O3複合化酸化物
材料3(Rh)
硝酸Rh
材料4(繊維状有機物)
有機繊維
基材
875cc(400セル四角 壁厚4mil)のコージェライトハニカム基材
【0061】
I-2.触媒の調製
実施例1
最初に、蒸留水に、撹拌しながら、材料1、材料2、Al2O3系バインダーを投入し、約10分間撹拌し、その後、材料4を投入し、約10分間撹拌することで、懸濁したスラリー1を調製した。
【0062】
次に、調製したスラリー1を基材に流し込み、ブロアーで不要分を吹き払うことで、基材壁面に材料をコーティングした。その際に、材料1が、基材1Lに対して、50g(50g/L)になり、材料2が、基材1Lに対して、30g(30g/L)になるようにした。基材全長に対して100%コートした後、120℃に保たれた乾燥機で、2時間水分を飛ばし、500℃に保たれた電気炉で、2時間の焼成を行い、触媒コート層前駆体を調製した。
【0063】
触媒コート層前駆体に、材料3と蒸留水とを混合し、pHを2に調整したRh溶液を吸液させ、ブロアーで不要分を吹き払うことで、触媒コート層前駆体にRhを担持した。120℃に保たれた乾燥機で、2時間水分を飛ばした後、500℃に保たれた電気炉で、2時間の焼成を行い、触媒コート層を調製した。
【0064】
実施例2
Rh溶液のpHを2~3に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0065】
実施例3
Rh溶液のpHを2~3に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0066】
比較例1
Rh溶液のpHを4に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0067】
比較例2
Rh溶液のpHを1に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0068】
比較例3
材料4を使用せず、Rh溶液のpHを1~4に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0069】
比較例4
材料4を使用せず、Rh溶液のpHを1~4に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0070】
比較例5
材料4を使用せず、Rh溶液のpHを1~4に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0071】
比較例6
材料4を使用せず、Rh溶液のpHを1~4に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0072】
比較例7
材料4を使用せず、Rh溶液のpHを1~4に調整した以外は、実施例1と同様にして、触媒コート層を調製した。
【0073】
表1に、実施例1~3及び比較例1~7の排ガス浄化用触媒の触媒構成をまとめる。
【0074】
【0075】
ここで、Rh担持深さ(%)は、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、全Rh量の80質量%(mass%)が存在する深さを示す。したがって、例えば、比較例1では、全Rh量の80質量%が、0%~11%に存在し、実施例1では、全Rh量の80質量%が、0%~27%に存在し、実施例2では、全Rh量の80質量%が、0%~55%に存在し、実施例3では、全Rh量の80質量%が、0%~66%に存在し、比較例2では、全Rh量の80質量%が、0%~100%に存在する。
【0076】
II.触媒の評価
まず、実施例1~3及び比較例1~7の排ガス浄化用触媒について、実際のエンジンを用いて、以下の耐久試験を実施した。
【0077】
各排ガス浄化用触媒を、V型8気筒エンジンの排気系にそれぞれ装着し、触媒床温900℃で50時間にわたって、ストイキ及びリーンの各雰囲気の排ガスを一定時間(3:1の比率)ずつ繰り返して流すことにより行った。
【0078】
続いて、耐久試験を実施した実施例1~3及び比較例1~7の排ガス浄化用触媒について、以下の性能評価を実施した。
【0079】
各排ガス浄化用触媒を、L型4気筒エンジンの排気系にそれぞれ装着し、触媒床温550℃で、Ga=40g/s、空燃比(A/F)14.4の排ガスを供給し、NOx浄化率を算出した。
【0080】
結果を
図5に示す。
図5より、全Rhの80質量%が、触媒コート層の厚さ方向において排ガスに接する表面側を0%、基材に接する側を100%としたときに、0%から25%以上70%以下の範囲、好ましくは0%から27%以上66%以下の範囲、より好ましくは0%から35%以上60%以下の範囲に存在するときに、NOx浄化率が高くなることがわかった。