(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】床吹出放射空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 13/02 20060101AFI20221101BHJP
F24F 13/06 20060101ALI20221101BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20221101BHJP
F24F 1/0375 20190101ALI20221101BHJP
【FI】
F24F13/02 B
F24F13/06 A
F24F7/10 A
F24F1/0375
(21)【出願番号】P 2019151116
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】000175803
【氏名又は名称】三建設備工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 勘
(72)【発明者】
【氏名】淵▲崎▼ 礼奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 正樹
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-337690(JP,A)
【文献】特開2006-132822(JP,A)
【文献】特開平11-294794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0048121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/02
F24F 13/06
F24F 7/10
F24F 1/0375
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下に設けられ、空調機と接続されたダクトから排出される空気を床面に設けられた吹出口から居室に吹き出す床吹出放射空調システムであって、
前記ダクトは、
前記空調機から送気される空気を排出する複数の孔を備え、
前記送気される空気の流量に応じ、前記床下の空間の上下方向に膨縮し、最大膨張時に、前記孔が形成された表面が前記床面に接触することを特徴とする床吹出放射空調システム。
【請求項2】
前記ダクトは、前記送気される空気の増加に応じ、前記床面との接触面積が増加することを特徴とする請求項1に記載の床吹出放射空調システム。
【請求項3】
前記複数の孔は、前記床面側に向けて設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の床吹出放射空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床吹出放射空調システムに関し、特に、居室の環境の調整において床からの放射熱を効率的に利用することができる床吹出放射空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機で生成された冷風や温風を居室等の床下空間に敷設した不燃性樹脂フィルムダクト(以下、フィルムダクトという)を介して送気し、上記フィルムダクトに設けた分岐用の器具を用いて水平気流を直噴気流に変換し、床材や天井材を加温、冷却して床材や天井材から生じる冷輻熱や温放射を冷放射に使用する空調システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記、空調システムは、冷風、温風を搬送するためにフィルムダクトが用いられる。このフィルムダクトは、冷風又は温風を搬送するために利用されている。
【0005】
しかしながら、前記空調システムにおいて、フィルムダクトは、冷風、又は、温風の搬送過程の役割しか有しておらず、熱伝達(伝導)に有効利用できているわけではない。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、前記ダクトを搬送経路として利用するのみならず、放射環境をも形成させ、効率的な床吹出放射空調システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための床吹出放射空調システムの構成として、床下に設けられ、空調機と接続されたダクトから排出される空気を床面に設けられた吹出口から居室に吹き出す床吹出放射空調システムであって、ダクトは、空調機から送気される空気を排出する複数の孔を備え、送気される空気の流量に応じ、床下の空間の上下方向に膨縮し、最大膨張時に、孔が形成された表面が床裏面に接触する構成とした。
本構成によれば、効率的に居室内の放射環境を整えることができる。
床吹出放射空調システムの他の構成として、ダクトを、送気される空気の増加に応じ、床裏面との接触面積が増加するように形成したり、複数の孔を、床面側に向けて設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】膨縮ダクトと床下の大きさの関係を示す図である。
【0009】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る床吹出放射空調システムの一例を示す概略図である。
図1(a)及び
図1(b)は、居室2の互いに直交する断面を表すものである。
【0011】
図1に示すように、床吹出放射空調システム1は、居室2外に設けた空調機3から温風や冷風を、居室2の床5下に設けられた床下空間6にダクト4を通じて送気し、床5に設けた吹出口7を介して居室2に吹き出させ、居室2の壁8に設けられた吸込口9から居室2内の空気を取り込み、ダクト10を通じて空調機3に戻すことで循環可能に構成される。
【0012】
居室2は、床5、壁8及び天井11等により1つの空間として区画される。空調機3は、居室2の環境が最適化されるように空気の温湿度を調整し、温風や冷風等を送気する。
【0013】
ダクト4は、例えば、空調機3から床下空間6の近傍まで延長する通気ダクト12と、通気ダクト12に接続され、床下空間6に設けられる膨縮ダクト13とで構成される。通気ダクト12は、金属や樹脂などからなる管であって、空調機3から送気された温風や冷風が通過する。
【0014】
膨縮ダクト13は、床下空間6における断熱材19と床下地基板17の間を例えば、一方向に延長するように設けられる。
【0015】
ここで、床下空間6について説明する。床下空間6は、例えば、大梁14上に設けられたコンクリートスラブ15と、コンクリートスラブ15に対して所定距離上方に離間するための支持部材16により支持された床下地基板17と床仕上材18を密着させた床5との間に形成される空間である。床下地基板17は、熱伝導率の良い素材で形成すると良く、より好ましくは熱交換を促進させるフィンを床裏面5aに備えたものが好ましい。コンクリートスラブ15の床5側の面には、断熱材19が貼り付けられている。
【0016】
膨縮ダクト13は、例えば、伸縮性と可撓性を有する布等の多孔質の通気性を有する素材からなる筒体であって、一方の端部が通気ダクト12に接続され、他方の端部が閉鎖した袋状に形成される。なお、膨縮ダクト13は、温度により形状を変化させることができる形状記憶素材等としても良く、さらに閉鎖した端部側に膨縮ダクトを延長可能に構成しても良い。
【0017】
膨縮ダクト13は、この膨縮ダクト13を形成する布等の繊維の網目により形成される図外の多孔による通気性により、空調機3から送気された温風や冷風を通気ダクト12を介して、
図1中の矢印で示すように、膨縮ダクト13を通り抜けて、床下空間6に染み出るように床下空間6に吹き出す。このような機能を有する膨縮ダクト13には、例えば、所謂ソックダクト等を用いることができる。
【0018】
吹出口7は、ファン7Aを備え、膨縮ダクト13から床下空間6に吹き出された温風や冷風をファン7Aの動作により居室2に吹き出す。なお、吹出口7の構成においてファン7Aは、必須ではない。吸込口9は、吹出口7から居室2に吹き出され、居室2内の空気と熱交換をした後の空気を取り込むための開口として設けられる。ダクト10は、通気ダクト12と同様な、金属や樹脂等からなる管であって、空調機3に接続される。
なお、床5は、吹出口7を設けずに床下空間6に貫通する複数の孔を有するものを用いても良い。
【0019】
図2は、
図1(b)の方向から見た膨縮ダクト13の動作を示す図である。膨縮ダクト13は、例えば、空調機3による送気が停止されているときには、
図2(a)に示すように、最も収縮した状態にあり、床下地基板17から離れ、断熱材19上に載置された状態にある。膨縮ダクト13は、空調機3から送気されると、
図2(b)に示すように、膨張し、外周面が床下地基板17の下面(以下、床裏面5aという)に近づく。膨縮ダクト13は、空調機3からの送気が所定風量(流量)に達すると、
図2(c)に示すように、
図2(b)に示す状態からさらに膨張し、床裏面5aに接触する。即ち、膨縮ダクト13は、内部を流通する送風量に応じて膨張・収縮可能に構成されている。
【0020】
図3は、膨縮ダクト13の大きさと、床下における断熱材19から床下地基板17までの距離との関係を示す図である。膨縮ダクト13の大きさは、断熱材19から床下地基板17までの距離Lに応じて設定すると良い。ここで言う大きさとは、膨縮ダクト13が最大膨張時にあるときの外径寸法を意味する。例えば、膨縮ダクト13は、最も膨張したときに、
図3中(A)に示すように、少なくとも床裏面5aに接触可能な大きさとすると良い。好ましくは、
図3中(B)に示すように、最も膨張したときを真円とみなし、このときの直径を距離Lよりも大きく設定することにより、送風量の増減に応じて床裏面5aとの接触面積を増減させることができる。即ち、膨縮ダクト13をある程度膨張させて、床裏面5aに接触させた状態からさらに送風量を増加させることにより接触面積が増加し、接触面積が増加した状態から送風量を減少させることにより接触面積を減少させ、温度調節につなげることができる。
【0021】
以下、本空調システムの使用時における膨縮ダクト13の作用について説明する。
図4,5は、暖房時の作用を示す図である。
【0022】
居室2を加熱する場合は、
図4に示すように、膨縮ダクト13の表面と床裏面5aとの接触面Sの面積が最大となるように温風の送風量を調整し、膨縮ダクト13を膨張させる。
【0023】
膨縮ダクト13を膨張させた温風は、膨縮ダクト13の通気性により床下空間6に吹き出し、床裏面5aに沿って広がり層状の熱気溜まりHを形成し、床5を床裏面5a側から加熱する。また、床下空間6に吹き出した温風は、ファン7Aを介して吹出口7から居室2へ送気される。
【0024】
さらに、膨縮ダクト13の内部を流通する温風の熱、及び、温風によって温められた膨縮ダクト13により、膨縮ダクト13と接触している床裏面5aに温熱を与える。そして、熱気溜まりH及び膨縮ダクト13の接触により、床下地基板17、床仕上材18は、加熱される。床5表面は、放射場となって居室2を加熱する。
【0025】
つまり、居室2は、熱気溜まりHの熱、膨縮ダクト13を流通する温風の熱、及び、膨縮ダクト13を流通する温風の熱により温められた膨縮ダクト13が、床下地基板17を加熱し、床仕上材18に伝導した放射温熱と、吹出口7から吹き出された温風の熱とにより暖房することができる。
【0026】
そして、居室2が暖かくなり過ぎた場合には、
図5に示すように、膨縮ダクト13を収縮させて床5から離間させることが出来る。これにより、床下に形成された熱気溜まりHが加熱する床5の熱と、吹出口7から吹き出される温風の熱により暖房を維持することができる。なお、居室2が温め過ぎとなった場合は、送風量を下げて床5から離間させるか送風温度を下げても良い。
【0027】
図6,
図7は、冷房時の作用を示す図である。
居室2を冷却する場合は、
図6に示すように、膨縮ダクト13の表面と床裏面5aとの接触面Sの面積が最大となるように冷風の送風量を調整し、膨縮ダクト13を膨張させる。
【0028】
膨縮ダクト13を膨張させた冷風は、膨縮ダクト13の通気性により床下空間6に吹き出し、ファン7Aを介して吹出口7から居室2へ送気される。
【0029】
さらに、膨縮ダクト13の内部を流通する冷風の熱、及び、冷風によって冷やされた膨縮ダクト13により、膨縮ダクト13と接触している床裏面5aに冷熱を与える。そして、膨縮ダクト13の接触により、床下地基板17、床仕上材18は、冷却される。床5表面は、放射場となって居室2を冷却する。
【0030】
つまり、居室2は、膨縮ダクト13を流通する冷風の熱、及び、膨縮ダクト13を流通する冷風の熱により冷やされた膨縮ダクト13が、床下地基板17を冷却し、床仕上材18に伝導した放射冷熱と、吹出口7から吹き出された冷風の熱とにより冷房することができる。
【0031】
そして、居室2が寒くなり過ぎた場合には、
図7に示すように、膨縮ダクト13を収縮させて床5から離間させることができる。これにより、吹出口7から吹き出される冷風の熱により冷房を維持することができる。なお、居室2が冷え過ぎとなった場合は、送風量を下げて膨縮ダクト13を床5から離間させるか送風温度を上げても良い。
【0032】
なお、断熱材19を省くことにより、床下空間6の冷気が、下階の天井を冷却することになり、上下階に対して放射環境を形成できる。
【0033】
以上説明したように、床吹出放射空調システム1によれば、空調機3から膨縮ダクト13に温風や冷風を送気し、膨縮ダクト13の膨縮ダクト13の通気性により床下空間6に吹き出し、床下空間6に拡散させることにより、床5を加熱又は冷却することができる。加えて、温風や冷風により加熱或いは冷却された膨縮ダクト13が、床裏面5aに接触し、床裏面5aを直接的に加熱或いは冷却するため、床仕上材18から生じる冷放射や温放射の効果を高めることができる。
【0034】
図8は、ダクトの他の形態を示す図である。
同図に示すように、膨縮ダクト13は、膨張時に、図中矢印で示すように、床裏面5aに向けて吹き出すように構成しても良い。膨縮ダクト13の通気性による吹き出しに加え、さらに吹き出したい位置に応じて膨縮ダクト13に孔20を設け、膨縮ダクト13を膨張させながら、図中矢印に示すように孔20から床裏面5aに向けてより多くの温風や冷風を吹き出すことにより、コアンダ効果により、温風が床裏面5aに沿って流れる到達距離を延ばすことができる。なお、コアンダ効果を用いる場合、孔20は、膨縮ダクト13の床裏面5a側に設けると良い。
【0035】
図9は、本空調システムを居室2で用いる場合の具体的な実施例である。
【0036】
前述した実施例は、膨縮ダクト13を一方向に延長させて使用するものとしたが、
図9のように居室2内の一定範囲を取り囲むようにループ状に床下空間6に敷設しても良い。この場合、囲まれた内側に吹き出すように前述の孔20を形成し、送風量を増やすことで、膨縮ダクト13で取り囲まれた範囲は、温風又は冷風の送気、また、膨縮ダクト13から吹き出された温風・冷風による床5の加温・冷却に加え、膨縮ダクト13と床5の接触による加温・冷却による放射熱の増加により空調が積極的に行われる。
【0037】
膨縮ダクト13は、一方を空調機3から延長する通気ダクト12と接続される。なお、膨縮ダクト13は、一本の長尺のダクト、或いは、複数のダクトを接続して用いても良い。
【0038】
前記温風・冷風の送風量を調整することにより膨縮ダクト13から床下空間6に吹き出す温風・冷風の量及び膨縮ダクト13を床5の接触面積を変更することができる。これにより、風だけでなく放射の効果を得つつ、居室2の加熱・冷却を調整することができる。
【0039】
図9の実施例は、事務室などを想定したものであり、膨縮ダクト13、作業者Mが作業する机32の下を通過するように床下空間6に敷設されている。
【0040】
この実施例において、本空調システムで暖房運転とした場合、作業者Mは、床下空間6から居室2へ吹き出される温風と、床下空間6の熱気だまり及び床5からの温放射による暖房の効果を得られる。
【0041】
また、居室2内に複数の本空調システムを設けることにより、居室2内の使用状況に応じた快適な環境を局所的に設けることができる。これにより、当該部分の居室2内の快適性を向上させることと、省エネルギーに効果を及ぼすことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 床吹出放射空調システム、2 居室、3 空調機、4 ダクト、5 床、
6 床下空間、7 吹出口、7A ファン、8 壁、9 吸込口、10 ダクト、
11 天井、12 通気ダクト、13 膨縮ダクト、14 大梁、
15 コンクリートスラブ、16 支持部材、17 床下地基板、18 床仕上材、
19 断熱材、20 孔。