(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】放射線監視装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20221101BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01T1/20 J
G01T1/20 F
G01T1/36 B
(21)【出願番号】P 2019155739
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】伏見 篤
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 久
(72)【発明者】
【氏名】川上 達彦
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-121762(JP,A)
【文献】特開2008-281441(JP,A)
【文献】特開2005-283327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線のエネルギに相当する波高値の信号を出力するシンチレーション検出器からの出力信号を取得して、放射線を監視する放射線監視装置であって、
温度変化により前記波高値が変動する監視対象の監視波高値範囲と、当該監視波高値範囲内で少なくとも2つの波高値範囲を設定する波高値範囲設定手段と、
少なくとも2つの前記波高値範囲の前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する波高値変動量算出手段と、
算出した前記波高値変動量が小さくなるように前記監視波高値範囲を補正する補正手段と、を備
え、
前記波高値変動量算出手段は、
監視対象の波高値分布のうち、正規分布をとるピークの前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出し、
前記監視対象の前記ピークの標準偏差と前記ピークの中心波高値との相関を記憶する標準偏差記憶手段を備え、
前記波高値変動量算出手段は、
前記標準偏差記憶手段に記憶された前記相関をもとに波高値変動量を算出する
ことを特徴とする放射線監視装置。
【請求項2】
放射線のエネルギに相当する波高値の信号を出力するシンチレーション検出器からの出力信号を取得して、放射線を監視する放射線監視装置であって、
温度変化により前記波高値が変動する監視対象の監視波高値範囲と、当該監視波高値範囲内で少なくとも2つの波高値範囲を設定する波高値範囲設定手段と、
少なくとも2つの前記波高値範囲の前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する波高値変動量算出手段と、
算出した前記波高値変動量が小さくなるように前記監視波高値範囲を補正する補正手段
と、
前記計数率の比にもとづき前記監視対象のピークの標準偏差を導出する標準偏差導出手段と、
少なくとも1回前の監視におけるピークの中心波高値と前記標準偏差を記憶する第2記憶手段と、を備え、
前記波高値変動量算出手段は、
前記第2記憶手段に記憶されたピークの中心波高値と前記標準偏差の相関をもとに波高値変動量を算出する
ことを特徴とする放射線監視装置。
【請求項3】
放射線のエネルギに相当する波高値の信号を出力するシンチレーション検出器からの出力信号を取得して、放射線を監視する放射線監視装置であって、
温度変化により前記波高値が変動する監視対象の監視波高値範囲と、当該監視波高値範囲内で少なくとも2つの波高値範囲を設定する波高値範囲設定手段と、
少なくとも2つの前記波高値範囲の前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する波高値変動量算出手段と、
算出した前記波高値変動量が小さくなるように前記監視波高値範囲を補正する補正手段と、を備
え、
前記波高値変動量算出手段は、
監視対象の波高値分布のうち、正規分布をとるピークの前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出し、
ピーク位置(m
n
)は、下記式で示される
【数3】
ただし、
m
n
:正規分布の中心位置(波高値調整量)
x
1
:監視波高値範囲3内の波高値範囲1
x
2
:監視波高値範囲3内の波高値範囲2
σ
n
:標準偏差
F(x
1
,x
2
):計数率の比
ことを特徴とする放射線監視装置。
【請求項4】
前記計数率の比と前記波高値変動量の相関をあらかじめ記憶する記憶手段を備え、
前記波高値変動量算出手段は、
前記記憶手段に記憶された前記相関をもとに波高値変動量を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線監視装置。
【請求項5】
前記監視波高値範囲を調整するマルチチャンネルアナライザと、
前記マルチチャンネルアナライザで示される監視波高値範囲と、監視中のピークの波高値範囲を比較し、差異がある場合には、当該波高値範囲が前記マルチチャンネルアナライザから出力された監視波高値範囲と同じ範囲になるようにする波高値調整量を算出する波高値調整手段と、備える
ことを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の放射線監視装置。
【請求項6】
前記標準偏差(σ
n)は、下記式で示される
【数5】
ただし、
m
n:正規分布の中心位置(波高値調整量)
x
1:監視波高値範囲3内の波高値範囲1
x
2:監視波高値範囲3内の波高値範囲2
σ
n:標準偏差
F(x
1,x
2):計数率の比
ことを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の放射線監視装置。
【請求項7】
放射線のエネルギに相当する波高値の信号を出力するシンチレーション検出器からの出力信号を取得して、放射線を監視する放射線監視装置であって、
温度変化により前記波高値が変動する監視対象の監視波高値範囲と、当該監視波高値範囲内で少なくとも2つの波高値範囲を設定する波高値範囲設定手段と、
少なくとも2つの前記波高値範囲の前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する波高値変動量算出手段と、
算出した前記波高値変動量が小さくなるように前記監視波高値範囲を補正する補正手段
と、
前記監視波高値範囲を調整するマルチチャンネルアナライザと、
前記マルチチャンネルアナライザで示される監視波高値範囲と、監視中のピークの波高値範囲を比較し、差異がある場合には、当該波高値範囲が前記マルチチャンネルアナライザから出力された監視波高値範囲と同じ範囲になるようにする波高値調整量を算出する波高値調整手段と、を備え、
前記波高値変動量算出手段は、
監視対象の波高値分布のうち、正規分布をとるピークの前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する
ことを特徴とする放射線監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータ(scintillator)に放射線が入射し、核反応、相互作用などを介して入射した放射線の一部または全部のエネルギがシンチレータに付与されると発光が起こる。多くの場合発光強度は、シンチレータに付与されたエネルギに大きさに依存する。このため発光量を計測することでシンチレータに付与されたエネルギの大きさがわかる。
シンチレータの発光量は、光電子増倍管等の光電変換機器により電気的な情報に変化されて計測される。シンチレータに光電子増倍管を接続したシンチレーション検出器(scintillation detector)では、シンチレータの発光により発生した光子が光電面で電子を励起し、光電子が放出され、この光電子が増幅されることで放射線を計測している。シンチレーション光は、シンチレータの種類によって発光波長が異なるため、シンチレータの種類ごとに適切な光電面が選択されるのが一般的である。波高値を計測するシンチレーション検出器では、増幅された電子はエネルギに応じた波高値を持つパルスとして出力される。シンチレータに付与されたエネルギは、パルスの波高値として計測される。
【0003】
光電面として使われる多くの物質は、温度によって光子の入射あたりに放出する光電子の量が異なる。このため、温度が変動する場では、同一の波高値であっても光電面での温度によって異なるエネルギに対応する。高いエネルギ分解能を持つシンチレータを用いて、複数のエネルギのガンマ線から特定のエネルギのガンマ線を分離して計測する場合など、正確な波高値分析が必要な状況では温度変化を踏まえた計測をする必要がある。
温度による波高値の変動は事前のエネルギ校正、測定後のエネルギ分析、指標となる既知の放射線の波高値との相対的な比較など1回あるいは一定回数の測定ごとに補正、再設定することは可能である。
【0004】
しかし、温度変化がある環境において、連続的な放射線の監視をする場合には、短い時間内に波高値変動量の補正をしなければならない。
このような状況に対する波高値補正方法の一つとして特許文献1がある。
【0005】
特許文献1には、検出器の周囲に設けたサーミスタにより周囲の温度を測定し、そのサーミスタで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定し、推定した測定部の温度に基づき測定部から出力された放射線データを補正する放射線測定装置が記載されている。特許文献1に記載の放射線測定装置は、温度変動を補正するために検出器周りの温度を測定し、温度変動の影響が出るまでの熱の伝達時間などの時間遅れを補正することで連続的な監視を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、シンチレーション検出器を用いて任意のエネルギの放射線を連続的に監視する放射線測定装置においては、温度変動による波高値の変動を、その都度補正しなければ正しい監視を継続することができない。1回の監視時間が一定の長い時間の計測である場合、波高値分布を測定しながら、温度も測定することで1回の監視中に適切な波高値への補正が可能である。しかしながら、シンチレータや光電子増倍管等の温度影響を受ける機器のある位置と温度測定位置との熱伝達等の時間遅れの間に複数回の測定が必要な場合には、温度測定よりも早い波高値補正方法が必要である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、温度変動のある環境において、温度測定の必要がなく、シンチレーション検出器を用いた短時間での連続した監視が可能な放射線監視装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、放射線のエネルギに相当する波高値の信号を出力するシンチレーション検出器からの出力信号を取得して、放射線を監視する放射線監視装置であって、温度変化により前記波高値が変動する監視対象の監視波高値範囲と、当該監視波高値範囲内で少なくとも2つの波高値範囲を設定する波高値範囲設定手段と、少なくとも2つの前記波高値範囲の前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する波高値変動量算出手段と、算出した前記波高値変動量が小さくなるように前記監視波高値範囲を補正する補正手段と、を備え、前記波高値変動量算出手段は、監視対象の波高値分布のうち、正規分布をとるピークの前記波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出し、前記監視対象の前記ピークの標準偏差と前記ピークの中心波高値との相関を記憶する標準偏差記憶手段を備え、前記波高値変動量算出手段は、前記標準偏差記憶手段に記憶された前記相関をもとに波高値変動量を算出することを特徴とする。
本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度変動のある環境において、温度測定の必要がなく、シンチレーション検出器を用いた短時間での連続した監視が可能な放射線監視装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置のシンチレーション検出器にガンマ線が入射した場合のシンチレーション検出器の出力信号を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置の波高値が温度に比例することを説明する図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置のシンチレーション検出器の出力信号の波高値分布を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置のシンチレーション検出器、および各計測装置の出力信号の時間関係を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置の波高値の実測データを示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る放射線監視装置の構成を示す図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る放射線監視装置の構成を示す図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態に係るマルチチャンネルアナライザによる波高値調整機能を設けた放射線監視装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る放射線監視装置の構成を示す図である。本実施形態の放射線監視装置は、例えば波高値分析型の放射線検出器および放射線モニタ装置に適用した例である。
[放射線監視装置100]
放射線監視装置100は、温度が変化する場でシンチレーション検出器11によって任意のエネルギの放射線の計数率を監視する。
図1に示すように、放射線監視装置100は、シンチレーション検出器11の波高値範囲の信号を計測する少なくとも3台の計測装置12a、12b、12cと、分析装置13と、監視装置14と、備える。3台の計測装置12a、12b、12cを総称する場合は、計測装置12と呼ぶ。
【0013】
<シンチレーション検出器11>
シンチレーション検出器11は、放射線のエネルギに相当する波高値の信号を出力する。
シンチレーション検出器11は、例えばヨウ化ナトリウム(NaI)の結晶(タリウム含む)に放射線が入射したときに発生する蛍光を光電子増倍管によって電気信号に変換し、増幅して出力する。このシンチレーション検出器11は、ガンマ線の検出に適しており、放射線のもつエネルギを検出し、このエネルギに相当する波高値のアナログ電気信号を出力する。
【0014】
<計測装置12>
計測装置12は、波高値範囲1を設定する波高値範囲設定値105aを有し、シンチレーション検出器11の波高値範囲1の信号を計測する計測装置12aと、波高値範囲2を設定する波高値範囲設定値105bを有し、シンチレーション検出器11の波高値範囲2の信号を計測する計測装置12bと、監視波高値範囲3を設定する波高値範囲設定値105cを有し、シンチレーション検出器11の監視波高値範囲3の信号を計測する計測装置12cと、を備える。
波高値範囲設定値105a、105b、105c(波高値範囲設定手段)は、波高値範囲演算部104で算出された波高値変動量をもとに設定される。
上記波高値範囲1~3の詳細については、
図2ないし
図4により後記する。
【0015】
計測装置12aは、シンチレーション検出器11からの検出信号と、設定された波高値範囲1とを比較し、波高値範囲1内に相当する波高値が入力された場合にロジックパルスを分析装置13に送信する。
計測装置12bは、シンチレーション検出器11からの検出信号と、設定された波高値範囲2とを比較し、波高値範囲2内に相当する波高値が入力された場合にロジックパルスを分析装置13に送信する。
計測装置12cは、シンチレーション検出器11からの検出信号と、設定された波高値範囲3とを比較し、監視波高値範囲3内に相当する波高値が入力された場合にロジックパルスを監視装置14に送信する。
なお、放射線監視装置100は、監視する波高値範囲1~3ごとに3台の計測装置12a、12b、12cを備える構成を記載しているが、少なくとも3つの波高値範囲を検出することが可能であればよい。また、計測装置12a、12b、12cは、例えば1s未満の早い信号処理速度に対応することができるシングルチャンネルアナライザを用いて実現できる。
【0016】
<分析装置13>
分析装置13は、波高値変動量を算出するとともに(「波高値変動量算出機能」)、計測装置12a、12b、12cの波高値の調整信号を出力する(「監視波高値範囲3補正機能」)。
分析装置13は、計数部101a、101bと、計数率比演算部102(波高値変動量算出手段)と、温度変動補正データベース103(波高値変動量算出手段)と、波高値範囲演算部104(波高値変動量算出手段,補正手段)と、を備える。
計数部101aは、波高値範囲1に入る信号をもとに計測装置12aから出力されたロジックパルスを計数する。
計数部101bは、波高値範囲2に入る信号をもとに計測装置12bから出力されたロジックパルスを計数する。
【0017】
計数率比演算部102は、波高値範囲1の波高値と波高値範囲2の波高値との計数率の比(以下適宜、「計数率比」という)を演算する(後記
図3および式(2)参照)。
温度変動補正データベース103は、計数率の比に対する波高値変動量の関係をあらかじめデータベースとして蓄積する。なお、温度変動補正データベース103は、後記する式(3)の関係があるため、計数率の比の対数と波高値変動量は1次関数の関係にある。計数率の比に対する波高値変動量の関係をあらかじめ温度変動補正データベース103として用意しておくことで、高速かつ高精度で波高値変動量を算出することができる。
【0018】
波高値範囲演算部104は、少なくとも2つの波高値範囲(1,2)の波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する。本実施形態では、波高値範囲演算部104は、温度変動補正データベース103を参照することで、計数率の比から波高値変動量を算出する。
波高値範囲演算部104は、算出した波高値変動量が小さくなるように監視波高値範囲(3)を補正する補正手段としての機能を有する。波高値範囲演算部104で設定された波高値範囲(波高値範囲1~3)はそれぞれ計測装置12a、12b、12cに入力され、計測装置12a、12b、12cの波高値範囲設定値105a、105b、105cを設定する。
また、波高値範囲設定値105a、105bは、温度変動補正データベース103に入力され、次の計数率の比によって温度変動補正データベース103から波高値変動量を算出する際に用いられる。
【0019】
<監視装置14>
監視装置14は、計測装置12cで検出された信号の数を計数する計数部101cを備える。計数部101cは、監視波高値範囲3に入る信号をもとに計測装置12cから出力されたロジックパルスを計数する。
監視装置14は、波高値範囲設定値105cの監視波高値範囲3の波高値を取得して、放射線を監視する。
【0020】
[シンチレーション検出器11の出力信号]
図2は、シンチレーション検出器11にガンマ線が入射した場合のシンチレーション検出器11の出力信号を示す図である。横軸に時間をとり、縦軸に波高値をとる。
シンチレーション検出器11(
図1参照)で得られる信号は、ノイズ成分、コンプトン散乱に伴う信号、光電吸収に伴う信号、電子対生成に伴う信号である。このうち、ノイズ成分は、波高値は一意に決まることはないが、比較的低い波高値である場合が多い。コンプトン散乱、光電吸収、電子対生成は、ガンマ線とシンチレータの相互作用によって起こる現象である。
【0021】
シンチレーション検出器11で得られる信号の波高値は、シンチレータに付与されたエネルギによって決まり、付与エネルギが大きいほど波高値は高い。コンプトン散乱は、入射ガンマ線のエネルギと散乱角によってシンチレータに付与するエネルギが決まる。また、光電吸収は、入射ガンマ線のエネルギによってシンチレータに付与するエネルギが決まる。電子対生成は、入射ガンマ線のエネルギによってシンチレータに付与されるエネルギが決まるが、全エネルギが付与された場合だけでなく、発生した陽電子が対消滅を起こすことによって放出されるガンマ線が1本シンチレータから飛び出す場合(シングルエスケープ)、2本シンチレータから飛び出す場合(ダブルエスケープ)それぞれでシンチレータに付与されるエネルギが異なる。入射ガンマ線あたりに複数の相互作用が起こった場合は、起こった相互作用によって付与されるエネルギの総和に応じた波高値が得られる。
【0022】
放射線監視装置100(
図1参照)は、シンチレーション検出器11の出力信号の波高値分布のうち、正規分布(後記
図4参照)に従う範囲を、
図2に示す監視波高値範囲3として設定する。また、監視波高値範囲3内の2点を波高値範囲1および波高値範囲2と設定する。
図2に示す波高値範囲1は、
図1の計測装置12aの波高値範囲設定値105aで設定する波高値範囲である。
図2に示す波高値範囲2は、
図1の計測装置12bの波高値範囲設定値105bで設定する波高値範囲である。
図2に示す監視波高値範囲3は、
図1の計測装置12cの波高値範囲設定値105cで設定する波高値範囲である。
上記波高値範囲1~3と波高値分布との関係については、
図4により後記する。
【0023】
<温度変動による波高値の変動>
図3は、波高値が温度に比例することを説明する図である。横軸にTemperature [degrees Celsius]をとり、縦軸にPeak channel [ch]をとる。
図2の▲印は、波高値を表わしている。
図3に示すように、波高値は温度に比例して変動する。例えば、
図2の符号aに示す波高値を観測したとすると、温度の上昇に伴い、
図3に示すように、低下するように変動する。このため、シンチレーション検出器11(
図1参照)を用いて任意のエネルギの放射線を連続的に監視する放射線測定装置においては、温度変動による波高値の変動を、その都度補正しなければ正しい監視を継続することができない。
【0024】
<出力信号の波高値分布>
図4は、シンチレーション検出器11の出力信号の波高値分布を示す図である。横軸に波高値、縦軸に放射線の計数率をとる。
図4では、簡単のためシンチレーション検出器11(
図1参照)には、単一のエネルギのガンマ線のみ入射する場合を想定した波高値分布を示した。
【0025】
光電吸収あるいは、全吸収(複数の相互作用により全エネルギがシンチレータに付与された場合)により、
図4に示す波高値分布が得られる。
図4に示す波高値分布は、正規分布に従うピーク301と、コンプトン散乱または多重散乱が支配的な領域302と、ノイズ成分が支配的な領域303とに分離可能である。
【0026】
正規分布に従うピーク301を、監視範囲である監視波高値範囲3として設定する。監視波高値範囲3は、計測装置12cで設定する波高値範囲(
図1の波高値範囲設定値105c参照)である。監視波高値範囲3は、温度により波高値が変動する。
【0027】
また、監視波高値範囲3内の任意の2点(x
1,x
2)を、波高値範囲1と波高値範囲2に設定する。波高値範囲1は、
図1の計測装置12aで設定する波高値範囲1(
図1の波高値範囲設定値105a参照)であり、波高値範囲2は、計測装置12bで設定する波高値範囲2(
図1の波高値範囲設定値105b参照)である。
【0028】
以下、上述のように構成された放射線監視装置100の動作について説明する。
[原理説明]
まず、本発明の基本的な考え方について述べる。
図3に示すように、波高値が温度に比例することを前提条件として留意する。
【0029】
本発明者らは、波高値分布のピーク301(
図4参照)は、正規分布で与えられることに着目した。
あるエネルギのガンマ線をシンチレーション検出器11で計測し、その波高値分布を測定すると、光電吸収や複数回の相互作用により全エネルギがシンチレータに付与される。これにより、波高値分布中に正規分布で表されるピーク301(
図4参照)が形成される。この正規分布で表されるピーク301を監視範囲(温度により変動)、ここでは監視波高値範囲3とする。また、監視波高値範囲3内の任意の2点(x
1,x
2)をとり、その波高値x
1と波高値x
2の計数率の比(計数率比)をとる。
連続測定中のn回目の測定における正規分布G
n(x)は、次式(1)で表される。
【0030】
【0031】
ここで、σnは標準偏差、mnは正規分布の中心位置である。任意の2点x1,x2、における正規分布の比をとると次式(2)のようになる。
【0032】
【0033】
上記式(2)は、波高値x1と波高値x2の計数率比F(x1,x2)を表わしている。
上記式(2)をピーク位置mnについて解くと式(3)となる。
【0034】
【0035】
上記式(3)は、実際の処理を示している。すなわち、式(3)の第一項の(x1+x2)/2は2つの波高値範囲の設定値を示し、第二項のσn
2/(x1-x2)は既知または(n-1回目)の情報の利用を示し、第二項のln(F(x1,x2))は波高値x1と波高値x2の計数率の比の測定値を示している。
【0036】
上記式(3)により、n回目の正規分布の中心位置は任意の2点のより算出することが可能である。任意の2点x1,x2は設定値、F(x1,x2)は測定値によって求められる値である。標準偏差σnは、シンチレーション検出器11の性能として事前にピーク位置mnごとに設定するか、波高値の変動が微小であれば(n-1回目)の値を代入することで、n回目の正規分布の中心位置を求めることができる。多くの場合、σnはmnの1次関数として与えられる。
ピーク位置とσの関係が一次関数で与えられる場合、σnは、次式(4)となる。
【0037】
【0038】
上記式(4)に示すσnと、上記式(3)に示すピーク位置mnをもとに、次式(5)に従ってσnが計算できる。式(5)に示す条件は、n回目の情報のみで(n-1回目の情報なしに)σnを算出することも可能である。
【0039】
【0040】
ここで、算出したい値は、波高値変動量であるため、上記式(4)または上記式(5)のいずれかによって得たσnを用いて監視の回ごとにmnを求め、(n-1回目)との差分により求められる正規分布の中心位置の差異が波高値変動量になる。
【0041】
このように、放射線監視装置100は、監視対象の監視波高値範囲3(
図4参照)内の少なくとも2つの波高値範囲1,2の計数率の比から波高値変動量を推定し、温度により変動する監視波高値範囲3を補正する。
【0042】
[動作説明]
次に、放射線監視装置100の動作について説明する。
図5は、シンチレーション検出器11、計測装置12a、計測装置12b、および計測装置12cの出力信号の時間関係を示す図である。
符号401~404はシンチレーション検出器11(
図1参照)の出力信号、符号411は計測装置12aの出力信号、符号421は計測装置12bの出力信号、符号431~433は計測装置12cの出力信号である。
【0043】
図5に示すように、シンチレーション検出器11から出力される信号のうち、監視波高値範囲3に入らない信号(例えば、出力信号404)は、監視対象ではない。シンチレーション検出器11の出力信号のうち、波高値範囲1に入る信号401が計測装置12aに入力された場合、計測装置12aは、
図5に示すロジックパルス411を分析装置13(
図1参照)の計数部101aに出力する。出力される。同様に、シンチレーション検出器11の出力信号のうち、波高値範囲2に入る信号402が計測装置12bに入力された場合、計測装置12bは、
図5に示すロジックパルス421を分析装置13の計数部101bに出力する。
【0044】
シンチレーション検出器11の出力信号のうち、監視波高値範囲3に入る信号401、403、402が計測装置12cに入力された場合、計測装置12cは、
図5に示すロジックパルス431、432、433を監視装置14(
図1参照)の計数部101cに出力する。
【0045】
<分析装置13の動作>
図1に示すように、分析装置13(
図1参照)の計数部101aは、計測装置12aから出力されるロジックパルスの数を計数し、計数結果を計数率比演算部102に出力する。計数部101bは、計測装置12bから出力されるロジックパルスの数を計数し、計数結果を計数率比演算部102に出力する。
計数率比演算部102は、計数部101a、101bで得られた計数結果をもとに、計数率の比を算出する。
【0046】
また、温度変動補正データベース103には、前記計数率比に対する波高値変動量の関係があらかじめ蓄積されている。温度変動補正データベース103は、式(3)の関係があるため、計数率の比の対数と波高値変動量は1次関数の関係にある。
【0047】
波高値範囲演算部104は、計数率比演算部102により算出された計数率の比をもとに、温度変動補正データベース103を参照して波高値変動量を算出する。
波高値範囲演算部104は、算出した波高値変動量をもとに、計測装置12a、12b、12cで設定されている波高値範囲設定値105a、105b、105cを修正する。この時、波高値範囲設定値105a、105bについては、波高値変動後の波高値範囲が波高値範囲設定値105cの範囲であれば必ずしも修正する必要はない。波高値範囲設定値105cについては、波高値変動があった場合には、修正される必要がある。波高値範囲演算部104は、算出した波高値変動量が小さくなるように波高値範囲設定値105cの監視波高値範囲3を補正する。
上記を測定回の度あるいは動的に調整することで、連続監視中の波高値変動に対応した監視を継続することができる。
【0048】
<監視装置14の動作>
図1に示すように、監視装置14(
図1参照)の計数部101cは、計測装置12cから出力されるロジックパルスの数を計数する。
監視装置14は、波高値範囲設定値105cの監視波高値範囲3の波高値を取得して、放射線を監視する。
【0049】
図6は、波高値の実測データを示す図である。縦軸に推定される波高値の変化分[ch]をとり、横軸に実際の波高値の変化分[ch]とる。
図6に示すように、波高値の実測データは、推定される波高値と正の相関関係があることが分かった。温度変動場に適応できることが確かめられた。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る放射線監視装置100は、シンチレーション検出器11の波高値範囲の信号を計測する少なくとも3台の計測装置12a、12b、12cと、分析装置13と、監視装置14と、備える。計測装置12a、12b、12cは、シンチレーション検出器11からの出力信号を取得し、温度変化により波高値が変動する監視対象の監視波高値範囲3と、当該監視波高値範囲3内で少なくとも2つの波高値範囲1,2を設定する波高値範囲設定値105a、105b、105cと、を有する。分析装置13は、計数部101a、101bと、波高値範囲1の波高値と波高値範囲2の波高値との計数率の比を演算する計数率比演算部102と、温度変動補正データベース103と、波高値範囲演算部104と、を備える。波高値範囲演算部104は、温度変動補正データベース103を参照することで、計数率の比から波高値変動量を算出する。また、波高値範囲演算部104は、算出した波高値変動量が小さくなるように監視波高値範囲3を補正する。
【0051】
この構成により、温度測定の必要がなく、即座に波高値変動量を算出することができ、算出した波高値変動量をもとに温度により波高値が変動する監視波高値範囲3を調整(補正)することができる。すなわち、放射線監視装置100は、温度変化以外の2つの波高値範囲1,2の波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出し、この波高値変動量をもとに監視波高値範囲3を補正する。これにより、温度測定による補正方法で発生する時間遅れがなく、連続的に監視することができる。したがって、温度変動のある環境において、シンチレーション検出器11を用いた短時間での連続した監視を実現することができる。
【0052】
例えば、シンチレータや光電子増倍管等の温度影響を受ける機器のある位置と温度測定位置との熱伝達等の時間遅れの間に複数回の測定が必要な場合は、温度測定よりも早い波高値補正方法が必要であるが、本実施形態では、温度測定の必要がなく、即座に波高値変動量を算出することができるので、温度測定による補正に伴う時間遅れ無く監視が可能である特有の効果を奏する。
【0053】
本実施形態では、波高値範囲演算部104は、監視対象の波高値分布のうち、正規分布をとるピークの波高値の計数率の比をもとに波高値変動量を算出する。これにより、正規分布をとるピークにおいて、温度変化以外の2つの波高値範囲1,2の波高値の計数率の比から、波高値変動量を算出(推定)することができる。特に、処理信号数を最小化することで早い応答が可能になる。
なお、2つの波高値範囲1,2は、監視波高値範囲3内の任意の2点であればよい。
【0054】
本実施形態では、波高値範囲演算部104は、計数率の比に対する波高値変動量の関係を蓄積する温度変動補正データベース103を参照することで、高速かつ高精度で波高値変動量を算出することができる。
【0055】
本実施形態では、放射線監視装置100は、測定回の度あるいは動的に調整することで、連続監視中の波高値変動に対応した監視を継続することができる。
【0056】
本実施形態では、放射線監視装置100は、連続監視中の1回以上測定によって算出された波高値変動量の変化の傾向から現在の波高値変動量を推定する。これにより、誤差の影響を抑制した監視波高値範囲3を設定することができる。
【0057】
本実施形態では、計測装置12a、12b、12cにシングルチャンネルアナライザを用いることで、波高値変動推定のために設定するピーク範囲内の2点の計数および監視波高値範囲の計数をシングルチャンネルアナライザにより計測する。これにより、シングルチャンネルアナライザにより、処理信号数を最小化することができ、早い応答が可能になる。
【0058】
本実施形態では、放射線監視装置100は、計測装置12c(
図1参照)の波高値範囲設定値105cの監視波高値範囲3の波高値を取得して、放射線を監視する監視装置14を備える。監視装置14は、監視範囲を調整するため、調整した結果として監視している波高値範囲が妥当であるか確認する。これにより、信頼性を向上させることができる。
【0059】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、温度変動補正データベース103を用いたが、式(3)の関係があることから、温度変動補正データベース103の代わりに波高値変動量算出部106を備える構成も可能である。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る放射線監視装置の構成を示す図である。
図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
図7に示すように、放射線監視装置200の分析装置13Aは、
図1の温度変動補正データベース103に代えて、波高値変動量算出部106と、記憶装置107と、標準偏差データベース108と、を備える。
【0060】
式(3)では、監視対象のピークの中心となる波高値が算出される。1回前(n-1回目)のピーク中心となる波高値との差分より波高値変動量を算出するために、波高値変動量算出部106が動作する度にピーク中心となる波高値を記憶する記憶装置107を備える。
【0061】
また、式(3)では、標準偏差が既知である必要がある。標準偏差は、ピーク中心位置と相関がある。このために、ピーク中心となる波高値と共に標準偏差を蓄積する標準偏差データベース108を備える。
なお、式(3)のx1、x2に相当する波高値は、波高値範囲演算部104から入力される。
【0062】
以下、上述のように構成された放射線監視装置200の動作について説明する。
図7に示すように、計数率比算出部102の出力信号が波高値変動量算出部106に入力されると、波高値変動量算出部106は、標準偏差データベース108から1回前(n-1回目)のピーク中心となる波高値と標準偏差を読み込み、式(3)に従って現在(n回目)のピーク中心となる波高値を算出する。算出された波高値は、標準偏差データベース108に入力される。
【0063】
波高値変動量算出部106は、n回目のピーク中心となる波高値に基づき標準偏差を算出し、記憶装置107へn回目のピーク中心となる波高値との組として送信する。波高値変動量算出部106は、記憶装置107から読み込んだ(n-1回目)の標準偏差からn回目のピーク中心となる波高値を算出し、標準偏差データベース108から読み込んだ(n-1回目)のピーク中心となる波高値との差分により、波高値変動量を算出して波高値範囲演算部104に送信する。
【0064】
波高値範囲演算部104は、算出された波高値変動量をもとに計測装置12a、12b、12cで設定されている波高値範囲設定値105a、105b、105cを修正する。この時、波高値範囲設定値105cは、少なくとも波高値変動があった場合には、修正される必要がある。これに対し、波高値範囲設定値105a、105bは、波高値変動後の波高値範囲が波高値範囲設定値105cの範囲であればよく、必ずしも修正する必要はない。
【0065】
上記、波高値範囲設定値105a、105bは、波高値変動量算出部106に入力され、次(n+1回目)の計数率の比によって波高値変動量算出部106から波高値変動量を算出する際に用いられる。
【0066】
このように、第2の実施形態では、連続監視中の1回以上測定によって推定された波高値変動量の変化の傾向から現在の波高値変動量を算出(推定)する。これにより、誤差の影響を抑制した監視波高値範囲3を設定することができる。
【0067】
また、第2の実施形態では、式(3)の関係を用いることで、温度変動補正データベース103を設けることなく、波高値変動量を算出することができる(ただし、標準偏差データベース108は必要となる)。データベースの資源が簡素化され、低コスト化が期待できる。
【0068】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、標準偏差の導出方法として(n-1回目)の標準偏差を用いた。これは、波高値変動が微小である場合には、対応可能である。波高値変動量が大きい場合には、実測値をもとに波高値変動量を導出することが好ましい場合がある。
図8は、本発明の第3の実施形態に係る放射線監視装置の構成を示す図である。
図7と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
図8に示すように、放射線監視装置300の分析装置13Bは、
図7の波高値変動量算出部106、記憶装置107および標準偏差データベース108に代えて、標準偏差算出部109と、記憶装置110と、を備える。
分析装置13Bは、(n-1回目)の標準偏差を用いることなく、波高値変動量を算出する。
【0069】
以下、上述のように構成された放射線監視装置300の動作について説明する。
図8に示すように、波高値変動量算出部106に計数率の比が入力されると、標準偏差導出部109が式(5)に基づき標準偏差を導出する。式(5)のx
1、x
2に相当する波高値は、波高値範囲演算部104から、(n-1回目)の波高値範囲設定値105a、波高値範囲設定値105bが入力される。(n-1回目)の波高値範囲設定値105a、波高値範囲設定値105bは、波高値変動量算出部106にも入力され、計数率の比、標準偏差、波高値範囲設定値からn回目のピーク中心となる波高値が算出される。
得られたピーク中心となる波高値は、記憶装置110に入力されて記憶され、記憶装置110からは(n-1回目)のピーク中心となる波高値が出力されて波高値変動量算出部106に入力される。波高値変動量算出部106では、n回目のピーク中心となる波高値と(n-1回目)のピーク中心となる波高値の差分より波高値変動量が算出され、波高値範囲演算部104に入力される。
【0070】
算出された波高値変動量は、波高値範囲演算部104によって計測装置12a、12b、12cで設定されている波高値範囲設定値105a、105b、105cを修正する。この時、波高値範囲設定値105cは、少なくとも波高値変動があった場合には、修正される必要がある。これに対し、波高値範囲設定値105a、105bは、波高値変動後の波高値範囲が波高値範囲設定値105cの範囲であれば必ずしも修正する必要はない。また、波高値範囲設定値105a、105bは、波高値変動量算出部106、標準偏差導出部109に入力され、次(n+1回目)の計数率の比によって波高値変動量算出部106から波高値変動量を算出する際に用いられる。
【0071】
このように、第3の実施形態では、式(5)の関係を用いることで、標準偏差データベース108も用いることなく、波高値変動量を算出することができる。データベースの資源が簡素化され、より一層低コスト化が期待できる。
【0072】
(第4の実施形態)
シンチレーション検出器11の出力信号の波高値を判定し、ロジックパルスを出力する計測装置12a、12b、12c(
図1、
図7、
図8参照)の機能は、シングルチャンネルアナライザである。シングルチャンネルアナライザは、例えば1s未満の早い信号処理速度に対応することができる。しかし、シングルチャンネルアナライザを用いた場合、波高値分布の全体像が把握できないため、正しくピークを監視しているかの確認は不向きである。
【0073】
波高値を分析する装置として、このシングルチャンネルアナライザの他に、マルチチャンネルアナライザが存在する。マルチチャンネルアナライザは、着目する全波高値範囲を収集し、
図4で示される波高値分布などを出力する装置である。計測装置12a、12b、12cとしてマルチチャンネルアナライザを用いたとしても各実施形態の放射線監視装置100,200,300は、正常に動作する。しかし、マルチチャンネルアナライザを用いた場合には、処理する信号数が増加するため、高計数率の場合には、処理が追いつかない可能性がある。あるいは、例えば1s未満の早い信号処理速度が求められた場合、マルチチャンネルアナライザでは、信号処理速度が遅く、対応できない可能性がある。このため、計測装置12a、12b、12cは、シングルチャンネルアナライザであることが望ましい。
【0074】
図9は、本発明の第4の実施形態に係るマルチチャンネルアナライザによる波高値調整機能を設けた放射線監視装置の構成を示す図である。
図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
第4の実施形態は、シングルチャンネルアナライザとマルチチャンネルアナライザを併用する例である。
図9に示すように、放射線監視装置400は、シングルチャンネルアナライザ701a、701b、701cと、マルチチャンネルアナライザ702と、波高値調整部703と、を備える。
波高値調整部703は、入力された両波高値を比較し、波高値範囲設定値105cがマルチチャンネルアナライザ702から出力された波高値範囲と同じ範囲になるようために必要な波高値調整量を算出する。
【0075】
図9に示すように、シンチレーション検出器11から出力された信号は、シングルチャンネルアナライザ701a、701b、701cに入力される。入力された信号の波高値が波高値範囲設定105aの範囲(波高値範囲1:
図4参照)にある時、シングルチャンネルアナライザ701aからロジックパルスが出力される。同様に、入力された信号の波高値が波高値範囲設定105bの範囲(波高値範囲2:
図4参照)にある時、シングルチャンネルアナライザ701bからロジックパルスが出力され、入力された信号の波高値が波高値範囲設定105cの範囲(監視波高値範囲3:
図4参照)にある時、シングルチャンネルアナライザ701cからロジックパルスが出力される。
【0076】
マルチチャンネルアナライザ702に入力された信号は、波高値分布を形成する。すなわち、マルチチャンネルアナライザ702に入力された信号は、着目する全波高値範囲を監視するためのものである。マルチチャンネルアナライザ702による監視は、シングルチャンネルアナライザ701a、701b、701cよりも遅い信号処理でよく、一定の時間をかけて波高値分布を形成する。上記一定の時間は、波高値変動が無い範囲であることが望ましい。波高値変動がない場合には、波高値範囲設定値105cが妥当であることを確認する。つまり、マルチチャンネルアナライザ702は、波高値変動がない場合、波高値変動がなかった一定時間の間測定して得られた波高値分布をもとに、これまで調整してきた結果としての波高値範囲設定値105cが妥当であることを確認する。
【0077】
波高値範囲演算部104は、波高値範囲設定値105cを波高値調整部703に出力する。また、マルチチャンネルアナライザ702は、適切なピークの波高値範囲を波高値調整部703に出力する。
波高値調整部703では、入力された波高値範囲設定値105cと適切なピークの波高値範囲の両波高値を比較し、波高値範囲設定値105cがマルチチャンネルアナライザ702から出力された波高値範囲と同じ範囲になるようために必要な波高値調整量を算出する。波高値調整量は、波高値範囲演算部104に入力され、波高値範囲演算部104は、波高値調整量をもとに、波高値のずれ分を調整する。
【0078】
マルチチャンネルアナライザ702の測定時間を波高値変動の無い時間内としたが、波高値変動があっても微小であり、波高値範囲設定値105cが変わることがなければ同様の操作をしても問題がない。また、波高値変動による波高値分布への影響が、波高値変動と時間による推定などから把握できる場合には、波高値範囲設定値105cが変わったとしても、マルチチャンネルアナライザ702による測定中の波高値変動量を踏まえた上での調整をしてもよい。
【0079】
放射線監視装置400は、高計数率によりマルチチャンネルアナライザの信号処理が追いつかない場合(不感時間が100%など)には、適用が困難である。一方、放射線監視装置400は、必要な信号処理速度に追いつかないだけであって、信号処理そのものは可能である環境では、適切に監視ができているかを確認することができる。
【0080】
このように、本実施形態では、シングルチャンネルアナライザの代わりにマルチチャンネルアナライザを適用することで、複数点でのピークを推定し、フィッティングにより波高値変動量を推定することができる。これにより、温度測定による補正に伴う時間遅れなく監視が可能になる。
【0081】
特に、本実施形態では、連続監視系統から分岐した信号によりマルチチャンネル波高値分析を行い、波高値変動が微小であった監視時とマルチチャンネル波高値分析によって判定される波高値範囲を比較し、監視中の波高値範囲が妥当であることを確認または補正する。これにより、長時間の連続測定によるずれを補正することができる。
【0082】
なお、本発明は、上記各実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜その構成を変更することができる。
【0083】
上記した各実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
11 シンチレーション検出器
12、12a~12c 計測装置
13 分析装置
14 監視装置
100,200,300,400 放射線監視装置
101a~101c 計数部
102 計数率比演算部
103 波高値変動量データベース
104 波高値範囲演算部
105a~105c 波高値範囲設定値
106 波高値変動量算出部
107 記憶装置
108 標準偏差データベース
109 標準偏差導出部
110 記憶装置
701、701a~701c シングルチャンネルアナライザ
702 マルチチャンネルアナライザ
703 波高値調整部