(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】水電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20221101BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20221101BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221101BHJP
H02S 10/00 20140101ALI20221101BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/04
C25B9/00 A
H02S10/00
(21)【出願番号】P 2019189600
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸村 修二
(72)【発明者】
【氏名】村田 元
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】種村 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
(72)【発明者】
【氏名】吉村 篤軌
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-331474(JP,A)
【文献】特開2001-335982(JP,A)
【文献】特開2013-049600(JP,A)
【文献】特開2014-023361(JP,A)
【文献】特開2018-074709(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046958(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0155583(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0285007(US,A1)
【文献】韓国登録特許第1926008(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第110106512(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/02
H02S 10/00 - 10/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解セルと、前記水電解セルに電力を供給する端子と、前記端子に接続されるとともに前記水電解セルに並列接続されたスイッチ素子と、前記水電解セルに並列接続されたコンデンサと、前記水電解セルと前記スイッチ素子との間において前記水電解セルに直列接続され、前記水電解セルに対して前記端子から電力を供給した場合に通電する向きに接続されたダイオードと、を含む水電解セルモジュール、を前記端子を介して複数直列接続した水電解セルモジュール群と、
前記水電解セルモジュールの前記スイッチ素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記水電解セルモジュール群の各水電解セルモジュールの各々に対して一定時間毎に出力する制御回路と、
を備えたことを特徴とする水電解システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水電解システムであって、
前記制御回路は、前記水電解セルモジュールに対応してそれぞれ設けられ、前記水電解セルモジュール群において隣接する水電解セルモジュール間で、前記ゲート信号を一定時間遅延させて伝達する遅延回路を備え、
前記ゲート信号の周期は前記水電解セルモジュールの各々の前記遅延回路における遅延時間の合計値であり、前記スイッチ素子をオフ状態にすることで直列接続された状態にある前記水電解セルモジュールに入力電力が供給されることを特徴とする水電解システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水電解システムであって、
前記水電解セルモジュール群の入力端子は、太陽電池に接続されていることを特徴とする水電解システム。
【請求項4】
請求項3に記載の水電解システムであって、
前記太陽電池の出力が最大となる目標電流又は目標電圧を求める太陽電池最大出力制御目標値設定手段を備え、
前記制御回路は、前記入力端子を流れる電流が前記目標電流に追従するように、又は、前記入力端子に印加される電圧が前記目標電圧に追従するように前記スイッチ素子のオンオフ駆動を制御することを特徴とする水電解システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水電解システムであって、
前記水電解セルの故障状態を検知する水電解セル故障検知手段を備え、
前記水電解セル故障検知手段において故障が検知された前記水電解セルを含む前記水電解セルモジュールの前記スイッチ素子をオン状態に維持することを特徴とする水電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池と水電解セルとを接続して、太陽電池による発電における余剰電力を水電解に利用することによって電力の有効利用を図る水電解システムが開示されている。
【0003】
例えば、複数の水電解セルからなるセル群を有する水電解装置と、セル群の電源である太陽電池とを接続した水電解システムにおいて、太陽電池の最大出力を利用し得るように水電解セルの使用数を選定する技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、例えば、複数の水電解セルからなるセルスタックを複数有し、セルスタックが互いに電気的に直列又は並列に接続されて構成された水電解装置と、水電解装置に電力を供給する電力供給手段とを接続した水電解システムにおいて、水電解装置に供給する電力の電圧を可変制御する電圧制御部と、水電解装置に供給する電力に応じてセルスタックに作用する電圧及び電流が所定範囲内となるように水電解装置におけるセルスタックの使用数を選定するスタック数制御部とを備えた構成が開示されている(特許文献2)。
【0005】
一方、複数の電池を含む電源システムとして、所望の出力電圧を必要に応じて出力することができる構成が開示されている。すなわち、電池と、電池に並列接続された第1のスイッチ素子と、電池と第1のスイッチ素子との間において電池に直列接続された第2のスイッチング素子とを備えた電池回路モジュールを直列接続した電池回路モジュール群を含み、第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子をオンオフ駆動するゲート信号を電池回路モジュールに対して一定時間毎にそれぞれ出力する電源システムが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-335982号公報
【文献】特開2005-126792号公報
【文献】特開2018-74709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、太陽電池の最大出力を使用するように水電解ユニットの直列数を選択する構成において単に直列数を選択するだけでは水電解ユニットに印加される電圧が離散的になる。したがって、太陽電池の出力の最大値を取るための電圧を必ずしも印加できるとは限らず、太陽電池の出力を有効に利用できない状態が生ずるという課題がある。
【0008】
また、直列数を選択する構成の場合、切り離された水電解ユニットは水電解を行わない状態となる。太陽電池の最大出力に追従するために動作/停止を繰り返すことになり、水電解スタックが劣化するおそれがある。
【0009】
また、水電解装置に供給する電力に応じて各セルスタックに作用する電圧及び電流が所定範囲内となるように水電解装置におけるセルスタックの使用数を選定する構成では、セルスタックが互いに電気的に直列又は並列に接続する手段と、水電解装置に供給する電力の電圧を可変制御する電圧制御部が別々で設けられており、部品点数が増加しコストが上昇するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、水電解セルと、前記水電解セルに電力を供給する端子と、前記端子に接続されるとともに前記水電解セルに並列接続されたスイッチ素子と、前記水電解セルに並列接続されたコンデンサと、前記水電解セルと前記スイッチ素子との間において前記水電解セルに直列接続され、前記水電解セルに対して前記端子から電力を供給した場合に通電する向きに接続されたダイオードと、を含む水電解セルモジュール、を前記端子を介して複数直列接続した水電解セルモジュール群と、前記水電解セルモジュールの前記スイッチ素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記水電解セルモジュール群の各水電解セルモジュールの各々に対して一定時間毎に出力する制御回路と、を備えたことを特徴とする水電解システムである。
【0011】
ここで、前記制御回路は、前記水電解セルモジュールに対応してそれぞれ設けられ、前記水電解セルモジュール群において隣接する水電解セルモジュール間で、前記ゲート信号を一定時間遅延させて伝達する遅延回路を備え、前記ゲート信号の周期は前記水電解セルモジュールの各々の前記遅延回路における遅延時間の合計値であり、前記スイッチ素子をオフ状態にすることで直列接続された状態にある前記水電解セルモジュールに入力電力が供給されることが好適である。
【0012】
また、前記水電解セルモジュール群の入力端子は、太陽電池に接続されていることが好適である。
【0013】
また、前記太陽電池の出力が最大となる目標電流又は目標電圧を求める太陽電池最大出力制御目標値設定手段を備え、前記制御回路は、前記入力端子を流れる電流が前記目標電流に追従するように、又は、前記入力端子に印加される電圧が前記目標電圧に追従するように前記スイッチ素子のオンオフ駆動を制御することが好適である。
【0014】
また、前記水電解セルの故障状態を検知する水電解セル故障検知手段を備え、前記水電解セル故障検知手段において故障が検知された前記水電解セルを含む前記水電解セルモジュールの前記スイッチ素子をオン状態に維持することが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、太陽電池等の発電手段を用いた水電解システムにおいて発電手段を効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における水電解システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における水電解セルモジュールの別例を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態における水電解セルモジュールの制御を説明する図である。
【
図8】本発明の実施の形態における水電解セルモジュールの作用を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態における水電解システムの制御を説明するタイムチャートである。
【
図10】本発明の実施の形態における強制切断制御のフローチャートである。
【
図11】本発明の実施の形態における水電解セルモジュールの別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態における水電解システム100は、
図1に示すように、水電解セルモジュール102及び制御部104を含んで構成される。水電解システム100は、複数の水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)を含んで構成される。複数の水電解セルモジュール102は、制御部104による制御によって互いに直列に接続可能である。水電解システム100に含まれる複数の水電解セルモジュール102は、端子T1及びT2に接続される電源106から電力の供給を受けて、当該電力を利用して水を電気分解することができる。
【0018】
太陽光発電等の出力変動の大きな再生可能エネルギーに対して水電解による水素生成技術は大容量のエネルギー貯蔵技術として利用される。水素は長期貯蔵に適しており、燃料電池やガスタービンなどによる発電で電気に変換することが可能であるため、特に季節変化のような長期での発電量の変動を吸収するエネルギーバッファとして利用可能である。
【0019】
太陽電池において最大電力を引き出せる動作点(電流、電圧)は、太陽電池を照らす照度と太陽電池の温度によって変化する。そのため、太陽電池の出力を最大電力に追従させる最大電力点追従制御(MPPT:Maximum Power Point Tracking)が行われている。水電解システム100は、太陽電池に対するMPPT制御と組み合わせて、発電電力を適切に利用するために用いることができる。
【0020】
水電解セルモジュール102は、水電解セル10、チョークコイル12、コンデンサ14、スイッチ素子16、ダイオード18、遅延回路20、AND素子22、OR素子24及びNOT素子26を含んで構成される。本実施の形態において、各水電解セルモジュール102は同一の構成を備える。
【0021】
水電解セル10は、水を電気分解するためのセルである。すなわち、水電解セル10は、陽極と陰極を有する容器内に水を供給しつつ陽極と陰極との間に電圧を印加することで水を電気分解し、陽極側から酸素を発生させ、陰極側から水素を発生させる。水電解セル10は、単一のセルとしてもよいし、複数のセルを直列又は並列に接続した構成としてもよい。
【0022】
チョークコイル12及びコンデンサ14は、水電解セル10へ供給される電力を平滑化するための平滑回路(ローパスフィルタ回路)を構成する。水電解セル10は、電力が供給された状態と供給されない状態とを頻繁に切り換えることによって劣化し易くなる。そこで、水電解セル10、チョークコイル12及びコンデンサ14によってRLCフィルタを形成して水電解セル10を流れる電流の平準化させることで水電解セル10の劣化を抑制することができる。
【0023】
なお、チョークコイル12及びコンデンサ14は、必須の構成ではなく、これらを設けなくてもよい。例えば、水電解セル自体又は配線のインダクタンスでチョークコイル12のインダクタンスをまかなうことができる場合がある。また、水電解セルモジュール102においてチョークコイル12と水電解セル10との配置位置(接続位置)を入れ替えてもよい。
【0024】
スイッチ素子16は、水電解セル10の出力端を短絡するためのスイッチ素子を含む。本実施の形態では、スイッチ素子16は、スイッチ素子である電界効果トランジスタに対して並列に環流ダイオードを接続した構成としている。スイッチ素子16は、制御部104からのゲート信号によってスイッチング制御される。なお、本実施の形態では、スイッチ素子16は、電界効果トランジスタとしたが、これ以外のスイッチ素子を適用してもよい。あるいは、環流ダイオードを用いずに内蔵ダイオードを用いるようにしてもよい。
【0025】
ダイオード18は、電源106から水電解セル10へ供給される電流の方向を規定するために設けられる。ダイオード18は、水電解セル10とスイッチ素子16との間において水電解セル10に直列接続される。ただし、ダイオード18は、
図2に示すように、スイッチ素子16に対して出力端子の反対側に配置してもよい。すなわち、水電解セル10に対して電源106から電圧を印加した場合に通電する向きに接続されていればよい。あるいは、
図11に示すように、ダイオード18の代わりにFET18aを用いて同期整流するようにしてもよい。それにより、スイッチ素子16における損失を低減することができる。
【0026】
遅延回路20は、制御部104から水電解セルモジュール102に入力されるゲート信号を所定の時間だけ遅延させる回路である。水電解システム100では、各水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)にそれぞれ遅延回路20が設けられており、それらが直列接続されている。したがって、制御部104から入力されたゲート信号は所定の時間ずつ遅延させられながら各水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)に順次入力されることになる。
【0027】
AND素子22は、制御部104からの強制切断信号に応じて水電解セルモジュール102aを直列接続状態から強制的に切り離す切断手段を構成する。また、OR素子24は、制御部104からの強制接続信号に応じて水電解セルモジュール102aを直列接続状態に強制的に接続する接続手段を構成する。
【0028】
なお、本実施の形態では、遅延回路20をAND素子22及びOR素子24の前段に配置したが、AND素子22及びOR素子24の後段に配置してもよい。すなわち、各水電解セルモジュール102の遅延回路20に対してゲート信号が所定時間だけ遅延されて順に伝送される構成であればよい。
【0029】
電源106は、水電解セルモジュール102に対して電力を供給する電力供給手段である。本実施の形態では、電源106は、光照射によって電力を発生させる光電変換素子を含む太陽電池とする。ただし、電源106は、これに限定されるものではなく、火力発電、水力発電、地熱発電、風力発電、燃料電池等の他の発電手段を備えるものとしてもよい。
【0030】
[システム構成]
図3は、太陽電池の太陽光放射強度特性の例を示す。また、
図4は、太陽電池の温度特性の例を示す。上記のように、太陽電池において最大電力を引き出せる動作点(電流、電圧)は、太陽電池を照らす照度と太陽電池の温度によって変化する。
【0031】
一方、
図5は、水電解セル10の電圧-電流特性の例を示す。水電解セル10の電圧は、単セルで1.5V~2.0V程度と低い。したがって、一般的には、セルを多直列に接続した水電解セル10として用いられる。例えば、
図6に示すように、Ir-ND触媒を用いた面積15cm
2のセルを2つ直列に接続した水電解セル10では出力電圧が3.2V~4V程度となる。
【0032】
このような水電解セル10を含む水電解セルモジュール102を複数含み、電源106として最大出力280W時において最大出力電圧35.2Vの太陽電池を接続した場合の水電解システム100の構成について検討する。具体的には、表1に示す特性。
【表1】
【0033】
まず、水電解システム100に組み込む水電解セルモジュール102の必要数を求める。水電解セルモジュール102を接続する数により電源106である太陽電池の電圧に対応する必要がある。したがって、水電解セルモジュール102の最低電圧3.2[V]で太陽電池の最大出力電圧35.2Vの出力電圧に対応するためには(太陽電池の最大出力電圧)/(水電解セルモジュール102の最低電圧)=35.2/3.2≒11個の水電解セルモジュール102が最低限必要である。
【0034】
次に、水電解セルモジュール102が故障しても水電解システム100の運用を維持するには水電解セルモジュール102に余裕が必要である。例えば、水電解セルモジュール102が2個まで故障してもシステムを維持するためには、水電解セルモジュール102に2個分の余裕が必要となるため、13個の水電解セルモジュール102が必要となる。
【0035】
さらに、制御デューティ(水電解システム100において同時に直列接続される水電解セルモジュール102の比率)について制御余裕をみて0.9以下とするためには、13/0.9≒15個の水電解セルモジュール102が必要となる。
【0036】
次に、電源106である太陽電池の並列接続の個数を求める。15個の水電解セルモジュール102のうち余裕分の2個をパススルーして13個の水電解セルモジュール102を使用する場合に水の電気分解に必要な電力は129W×13=1677Wである。この必要電力を
図6の太陽電池モジュールから供給するには1677W/280W=5.99となり6個の太陽電池モジュールが必要となる。
【0037】
[通常制御]
以下、水電解システム100の制御について
図7を参照して説明する。通常制御時において、各水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)のAND素子22に対して制御部104からハイ(H)レベルの強制切断信号が入力される。また、各水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)のOR素子24に対して制御部104からロー(L)レベルの強制接続信号が入力される。したがって、スイッチ素子16のゲート端子には遅延回路20からの出力信号がNOT素子26を介して反転信号として入力される。
【0038】
図7は、水電解セルモジュール102aの動作に関するタイムチャートを示す。また、
図7では、水電解セルモジュール102aを駆動するゲート信号D1のパルス波形、スイッチ素子16のスイッチング状態を示す矩形波D2、及び、水電解セルモジュール102aに印加される電圧V
modの波形D3を示している。
【0039】
水電解セルモジュール102aの初期状態、すなわち、ゲート信号が出力されていない状態では、スイッチ素子16はオン状態である。そして、制御部104からゲート信号が水電解セルモジュール102aに入力されると、水電解セルモジュール102aはPWM制御によってスイッチング制御される。このスイッチング制御では、スイッチ素子16がオン状態/オフ状態にスイッチングされる。
【0040】
図7に示すように、制御部104からゲート信号D1が出力されると、このゲート信号D1に応じて、水電解セルモジュール102aのスイッチ素子16が駆動される。スイッチ素子16は、ゲート信号D1の立ち上がりに応じたNOT素子26からの信号の立ち下がりによって、オン状態からオフ状態に切り替わる。
【0041】
水電解セルモジュール102aでは、ゲート信号D1がオフ時(すなわち、スイッチ素子16がオン)では、水電解セルモジュール102aの両端子は短絡され、電源106から電圧が印加されない。この状態では、
図8(a)に示すように、水電解セルモジュール102aの水電解セル10(コンデンサ14)がバイパスされたスルー状態となっている。
【0042】
また、ゲート信号D1がオン時(すなわち、スイッチ素子16がオフ)では、水電解セルモジュール102aの両端子は開放される。したがって、水電解セルモジュール102aには電源106から電圧が印加される。この状態では、
図8(b)に示すように、水電解セルモジュール102aにおけるコンデンサ14を介して電圧V
modが印加される。
【0043】
次に、制御部104による水電解システム100の制御について説明する。制御部104は、水電解セルモジュール102の全体を制御する。すなわち、複数の水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nを制御して、電源106から各水電解セルモジュール102への電力供給を制御する。
【0044】
制御部104は、各水電解セルモジュール102に対して矩形波のゲート信号を出力するゲート回路を備える。ゲート信号は、水電解セルモジュール102aに含まれる遅延回路20、水電解セルモジュール102bに含まれる遅延回路20・・・と順次後段の水電解セルモジュール102へと伝達される。すなわち、水電解システム100において直列に接続されている水電解セルモジュール102の最上流側から順に所定の遅延時間ずつゲート信号が遅延されて下流側へと伝達される。
【0045】
通常制御時においては、AND素子22に対して制御部104からハイ(H)レベルの強制切断信号が入力され、OR素子24に対して制御部104からロー(L)レベルの強制接続信号が入力されているので、各水電解セルモジュール102の遅延回路20から出力されたゲート信号を反転した信号がスイッチ素子16のゲート端子に入力される。したがって、ゲート信号がハイ(H)レベルのときにスイッチ素子16がオフ状態となり、ゲート信号がロー(L)レベルのときにスイッチ素子16がオン状態となる。
【0046】
すなわち、ゲート信号がハイ(H)レベルのときに水電解セルモジュール102は他の水電解セルモジュール102と直列に接続された状態となり、ゲート信号がロー(L)レベルのときに水電解セルモジュール102は他の水電解セルモジュール102と切り離されたスルー状態となる。
【0047】
図9は、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nのうち所定の個数を順次直列に接続して電力を出力する制御シーケンスを示す。
図9に示すように、ゲート信号に応じて、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nが、一定の遅延時間を持って上流側から下流側に次々と駆動される。
図9において、期間E1は、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nのスイッチ素子16がオフして、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nが電源106からの電力の供給を受けている状態(接続状態)を示している。また、期間E2は、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nのスイッチ素子16がオンして、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nへ電源106から電力が供給されていない状態(スルー状態)を示す。このように、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nは、一定の遅延時間を持って順次駆動される。
【0048】
図9を参照して、ゲート信号やゲート信号の遅延時間の設定について説明する。ゲート信号の周期Fは、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nの遅延時間を合計することによって設定される。このため、遅延時間を長くするほどゲート信号の周波数を低周波にする。逆に、遅延時間を短くするほどゲート信号の周波数を高周波にする。また、ゲート信号を遅延する遅延時間は、水電解システム100に求められる仕様に応じて適宜設定される。
【0049】
ゲート信号の周期Fにおけるオン時比率G1(デューティ比D)、すなわち、周期Fのうちのゲート信号がハイ(H)レベルにある時間の比率は、水電解システム100の端子電圧/水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nに対して電源106から印加される電圧(各水電解セルモジュール102の端子電圧×水電解セルモジュール数)により算出される。すなわち、オン時比率G1=(水電解システム100の端子電圧)/(水電解セルモジュール102の端子電圧×水電解セルモジュール102の数)となる。
【0050】
水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nの合計端子電圧は、上述したように、各水電解セルモジュール102の端子電圧に互いに直列接続の状態にある水電解セルモジュール102の数を乗算した値によって表される。電源106の出力電圧が、1つの水電解セルモジュール102の端子電圧で割り切れる値であれば、水電解セルモジュール102がスルー状態から接続状態に切り替わる瞬間に、他の水電解セルモジュール102が接続状態からスルー状態に切り替わるので、水電解セルモジュール102の全体の出力電圧に変動はない。
【0051】
しかしながら、電源106の出力電圧が各水電解セルモジュール102の端子電圧で割り切れない値であれば、電源106の出力電圧と水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nの合計端子電圧とは整合しない。このとき、水電解システム100全体の合計電圧が変動する。ただし、このときの変動振幅は1つの水電解セルモジュール分の電圧であり、また、この変動周期は、ゲート信号の周期F/水電解セルモジュール102の数となる。多数の水電解セルモジュール102を直列接続すれば、水電解システム100全体の寄生インダクタンスは大きな値となっており、この電圧変動はフィルタされて結果的には安定した水電解システム100の出力電圧を得ることができる。
【0052】
次に、具体例について説明する。
図8において、例えば、電源106の所望の出力電圧が35.2V、各水電解セルモジュール102の端子電圧が3.2V、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102n数が15個、遅延時間が200nsであるとする。なお、この場合は、電源106の出力電圧(35.2V)が、水電解セルモジュール102の端子電圧(3.5V)で割り切れない場合に相当する。
【0053】
これらの数値に基づくと、ゲート信号の周期Fは、遅延時間×水電解セルモジュール数により算出されるので200ns×15個=3μsとなる。したがって、ゲート信号は約333kHz相当の周波数の矩形波とされる。また、ゲート信号のオン時比率G1は、水電解システム100の電圧(=電源106の出力電圧)/(水電解セルモジュール102の端子電圧×水電解セルモジュール102の数)により算出されるので、オン時比率G1は、35.2V/(3.5V×15個)≒0.67となる。
【0054】
これらの数値に基づいて、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nを順次駆動すると、水電解システム100として、
図9中、矩形波状の端子電圧H1となる。この端子電圧H1は、35.0Vと38.5Vとの間で変動する。すなわち、端子電圧H1は、ゲート信号の周期F/水電解セルモジュール数により算出される周期、すなわち3μs/15個=200nsで変動する。この変動は、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nの配線による寄生インダクタンスでフィルタリングされ、水電解システム100全体としては約35.2Vの端子電圧H2として出力される。
【0055】
なお、各水電解セルモジュール102のコンデンサ14には、接続状態の場合に電流が流れ、
図9に示すように、コンデンサ電流波形J1は矩形波になる。また、水電解セル10とコンデンサ14はRLCフィルタを形成しているので、水電解システム100にはフィルタリングされて平準化された電流J2が流れる。このように、全ての水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nにおいて電流波形は一様であり、また、全ての水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nには均等に電流が流れる。このように、出力電圧を制御しながらも水電解システム100の電流は平準化されているため、従来技術において単純に切り離すことで電圧を制御する構成のように電流が間欠的にならないので水電解システム100の劣化を抑制することができる。
【0056】
以上説明したように、水電解システム100を制御する際、最上流側の水電解セルモジュール102aに出力したゲート信号を、下流側の水電解セルモジュール102bに一定時間遅延して出力して、さらに、このゲート信号を一定時間遅延して下流側の水電解セルモジュール102に順次伝達するので、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nには、一定時間遅延しながら電源106から順次電圧が印加される。そして、水電解システム100に含まれる水電解セルモジュール102の各々において電源106の出力電圧に応じた水の電気分解を行うことができる。
【0057】
なお、電源106から出力される電圧は、電源106の状況に応じて電源106の効率が高くなるように設定すればよい。例えば、電源106が太陽電池である場合、太陽電池に対する日照状態や温度に応じた最大電力動作点における最大出力電圧となるように設定すればよい。具体的には、水電解システム100の端子間に設けられた電圧センサ34によって電源106の出力電圧を測定し、電源106の出力電圧に応じて制御部104はオン時比率G1を設定すればよい。これによって、太陽電池のMPPT制御による最大電力動作点に精度良く追従させて水電解システム100を運用することができる。
【0058】
水電解システム100によれば、降圧回路が不要になり、回路構成を簡素化することができ、小型化、低コスト化することができる。また、電力損失を生ずるバランス回路等も不要であり、水電解システム100の効率を向上させることができる。さらに、複数の水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nに対して略均等に電圧を印加しているので、特定の水電解セルモジュール102に負荷が集中することもなく、水電解システム100の劣化を抑制することができる。
【0059】
また、オン時比率G1を調整することによって、所望の電圧に容易に対応することができ、水電解システム100としての汎用性を向上することができる。特に、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nに故障が発生して、使用困難な水電解セルモジュール102が発生した場合でも、その故障した水電解セルモジュール102を除外して、正常な水電解セルモジュール102を使用して、ゲート信号の周期F、オン時比率G1、遅延時間を再設定することによって所望の電圧に対応することができる。すなわち、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nに故障が発生しても電源106の出力電圧に応じた制御を実現することができる。
【0060】
さらに、ゲート信号を遅延する遅延時間を長く設定することによって、ゲート信号の周波数が低周波になるので、スイッチ素子16及びダイオード18のスイッチング周波数も低くなり、スイッチング損失を低減することができる。逆に、ゲート信号を遅延する遅延時間を短くすることによって、ゲート信号の周波数が高周波になるので、電圧変動の周波数が高くなり、フィルタリングが容易になって安定した水電解処理を行うことができる。また、電流変動をRLCフィルタによって平準化することも容易になる。このように、ゲート信号を遅延する遅延時間を調整することによって、求められる仕様、性能に応じた水電解システム100を提供することができる。
【0061】
なお、本実施の形態では、各水電解セルモジュール102に遅延回路20を設けてゲート信号を遅延させつつ伝送させる構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、各水電解セルモジュール102に遅延回路20を設けない構成としてもよい。この場合、制御部104から各水電解セルモジュール102のAND素子22及びOR素子24に対してゲート信号を個別に出力すればよい。すなわち、制御部104から水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nに対してゲート信号を一定時間毎にそれぞれ出力する。このとき、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nに対して、水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nの配置位置にとらわれず、任意の順序で水電解セルモジュール102a,102b,・・・102nを一定時間毎にゲート信号を出力して接続状態とする水電解セルモジュール102の数を制御する。例えば、最初に、水電解セルモジュール102bにゲート信号を出力して水電解セルモジュール102bを駆動させ、その一定時間後に、水電解セルモジュール102aにゲート信号を出力して水電解セルモジュール102aを駆動させるように制御を行えばよい。
【0062】
当該構成とすることによって、遅延回路20が不要となり、水電解システム100の構成をさらに簡素化することができ、製造コストや消費電力を抑制することができる。
【0063】
[強制切り離し制御]
次に、複数の水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)のうち選択されたものを強制的に切り離す制御について説明する。制御部104は、強制的に切り離す対象とする水電解セルモジュール102のAND素子22に対してロー(L)レベルの強制切断信号を出力する。また、制御部104は、当該水電解セルモジュール102のOR素子24に対してはロー(L)レベルの強制接続信号を出力する。
【0064】
これによって、AND素子22からはロー(L)レベルが出力され、OR素子24を介して、スイッチ素子16のゲート端子にはNOT素子26によってハイ(H)レベルが入力される。したがって、スイッチ素子16は常時オン状態とされ、水電解セルモジュール102はゲート信号の状態によらず強制的に切り離された状態(スルー状態)となる。
【0065】
このような強制切り離し制御は、水電解システム100における水電解セルモジュール102の故障に対応するために利用することができる。
図10は、水電解セルモジュール102の故障に対する制御のフローチャートを示す。以下、
図10を参照しつつ、水電解セルモジュール102のいずれかが故障した際の制御について説明する。
【0066】
ステップS10では、水電解システム100に含まれるすべての水電解セルモジュール102の状態を判定する。制御部104は、電源106から電圧を印加したときの水電解セルモジュール102に含まれる水電解セル10の端子電圧を電圧センサ30によって検出する。そして、電圧センサ30の検出結果に応じて水電解セル10の故障を検出する。例えば、電源106から電圧を印加したときの電圧センサ30の測定電圧が所定の基準値以下である場合に水電解セル10が故障していると判定する。
【0067】
ステップS12では、水電解システム100において故障した水電解セル10を含む水電解セルモジュール102が有るか否かが判定される。制御部104は、ステップS10における判定結果に基づいて、故障した水電解セル10を含む水電解セルモジュール102が有ればステップS14に処理を移行させ、そうでなければ強制切り離し制御を終了する。
【0068】
ステップS14では、水電解セルモジュール102の強制的な切り離し処理が行われる。制御部104は、ステップS10にて故障判定された水電解セルモジュール102のAND素子22に対してロー(L)レベルの強制切断信号を出力する。これにより、選択された水電解セルモジュール102は直列接続から強制的に切り離され、水電解システム100における水の電気分解に寄与しなくなる。
【0069】
以上の制御によって、水電解システム100に含まれる水電解セルモジュール102の中から故障した水電解セル10を含む水電解セルモジュール102を強制的に切り離すことができる。その結果、一部の水電解セルモジュール102の故障に伴って水電解システム100全体をシステム停止させることを防止することができる。したがって、水電解システム100を安定的に運用することができる。
【0070】
[強制接続制御]
なお、複数の水電解セルモジュール102(102a,102b,・・・102n)のうち選択されたものを強制的に接続する制御を行うこともできる。制御部104は、強制的に接続する対象とする水電解セルモジュール102のOR素子24にハイ(H)レベルの強制接続信号を出力する。これによって、OR素子24からはハイ(H)レベルが出力され、スイッチ素子16のゲート端子にはNOT素子26によってロー(L)レベルが入力される。したがって、スイッチ素子16は常時オフ状態となり、水電解セルモジュール102はゲート信号の状態によらず強制的に直列接続に繋がれた状態となる。
【0071】
このような強制接続制御は、水電解システム100において特定の水電解セルモジュール102に含まれる水電解セル10によって強制的に水の電気分解を行わせることができる。例えば、いずれかの水電解セルモジュール102に含まれる水電解セル10から水素や酸素を発生させる必要がある場合、当該水電解セルモジュール102を強制接続させるようにすればよい。
【符号の説明】
【0072】
10 水電解セル、12 チョークコイル、14 コンデンサ、16 スイッチ素子、18 ダイオード、18a FET、20 遅延回路、22 AND素子、24 OR素子、26 NOT素子、30 電圧センサ、32 電流センサ、34 電圧センサ、100 水電解システム、102(102a,102b,・・・102n) 水電解セルモジュール。