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特許7168552造血幹細胞・前駆細胞の作製、増殖および分化のための置換アゾール誘導体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】造血幹細胞・前駆細胞の作製、増殖および分化のための置換アゾール誘導体
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20221101BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20221101BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20221101BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20221101BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221101BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C12N5/0789
A61K35/28
A61K35/51
A61K35/15
A61P43/00 111
A61L27/38 300
A61L27/38
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019509527
(86)(22)【出願日】2017-08-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 SG2017050409
(87)【国際公開番号】W WO2018048346
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】10201606886V
(32)【優先日】2016-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(73)【特許権者】
【識別番号】508000700
【氏名又は名称】シンガポール・ヘルス・サービシーズ・ピーティーイー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】バリ,スディプト
(72)【発明者】
【氏名】チャイ,クリスティーナ リー リン
(72)【発明者】
【氏名】チウ,ジジ ンガー チー
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ウィリアム イン キー
(72)【発明者】
【氏名】ロー,ジョー レン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,キシン
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/141971(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/086029(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/075274(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血試料、骨髄試料または動員末梢血試料に含まれる総有核細胞および/またはCD45+CD34+造血幹細胞・前駆細胞サブセットをエクスビボで増殖させる方法であって、
(i)前記試料に含まれる総有核細胞、単核細胞画分またはCD45+CD34+造血幹細胞・前駆細胞を培地中で培養する工程;ならびに
(ii)前記工程(i)の細胞を、少なくとも1種のアゾール系低分子を含む組成物に接触させる工程
を含み、
前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、式(I)
【化1】
(式中、
Xは、NRまたはOを示し、Rは、Hまたはメチルであり;
は、フェニルまたはピリジニル(該フェニルまたはピリジニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニル(該フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、Hまたは、無置換もしくはCl、FおよびORから選択される1つ以上の基で置換されたナフチルを示し、Rは、Hまたはメチルである)で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール;
(viii)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(ix)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(x)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール;
(xi)4-(4(5)-(4-フルオロフェニル)-2-(7-メトキシナフタレン-2-イル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル)ピリジン;
(xii)4-[4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;および
(xiii)4-[4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン
から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;および
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール
から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT-3L)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン6(IL-6)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子結合タンパク質2(IGFBP-2)を含む群から選択される少なくとも1種のサイトカインの存在下で前記造血幹細胞・前駆細胞を増殖させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2の存在下で前記造血幹細胞・前駆細胞を増殖させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のアゾール系低分子の共存下で、臍帯血単核細胞、骨髄単核細胞および/または動員末梢血単核細胞を少なくとも9日間培養する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のアゾール系低分子の共存下で、臍帯血単核細胞、骨髄単核細胞および/または動員末梢血単核細胞を約11日間培養する工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
0日目および/または7日目に前記培養に前記サイトカインを添加する、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
0日目および/または7日目に前記培養に前記少なくとも1種のアゾール系低分子を添加する、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
約10~11日間培養後に前記細胞を回収する工程をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
a)CD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞を増殖させ;
b)CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+造血幹細胞を増殖させ;かつ/または
c)CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+造血幹細胞を増殖させる、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
エクスビボで増殖させた前記細胞と同時移植するために、リンパ系細胞を含むCD34-細胞画分を別個に保存しておく工程をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
以下のa)、b)又はc)の少なくとも1種のアゾール系低分子と少なくとも1種のサイトカインとを含む、臍帯血試料、骨髄試料または動員末梢血試料に含まれる総有核細胞および/またはCD45+CD34+造血幹細胞・前駆細胞サブセットをエクスビボで増殖させるための組み合わせ物および/またはキットであって、
a)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
式(I)
【化2】
(式中、
Xは、NR またはOを示し、R は、Hまたはメチルであり;
は、フェニルまたはピリジニル(該フェニルまたはピリジニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニル(該フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、Hまたは、無置換もしくはCl、FおよびOR から選択される1つ以上の基で置換されたナフチルを示し、R は、Hまたはメチルである)で示される化合物であるか、
b)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール;
(viii)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(ix)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(x)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール;
(xi)4-(4(5)-(4-フルオロフェニル)-2-(7-メトキシナフタレン-2-イル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル)ピリジン;
(xii)4-[4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;および
(xiii)4-[4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジンから選択される化合物であるか、又は
c)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;および
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾールから選択される化合物である組み合わせ物および/またはキット
【請求項14】
前記少なくとも1種のサイトカインが、SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2を含む群から選択され、臍帯血、骨髄および/または動員末梢血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖に使用される、請求項13に記載の組み合わせ物および/またはキット。
【請求項15】
前記少なくとも1種のアゾール系低分子によって、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+造血幹細胞、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+造血幹細胞および/またはCD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞の増殖が促される、請求項13または14に記載の組み合わせ物および/またはキット。
【請求項16】
臍帯血、骨髄および/または動員末梢血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖に使用するための、以下のa)、b)又はc)の少なくとも1種のアゾール系低分子を含む組成物であって、
a)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
式(I)
【化3】
(式中、
Xは、NR またはOを示し、R は、Hまたはメチルであり;
は、フェニルまたはピリジニル(該フェニルまたはピリジニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニル(該フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、Hまたは、無置換もしくはCl、FおよびOR から選択される1つ以上の基で置換されたナフチルを示し、R は、Hまたはメチルである)で示される化合物であるか、
b)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール;
(viii)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(ix)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(x)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール;
(xi)4-(4(5)-(4-フルオロフェニル)-2-(7-メトキシナフタレン-2-イル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル)ピリジン;
(xii)4-[4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;および
(xiii)4-[4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジンから選択される化合物であるか、又は
c)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;および
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾールから選択される化合物である組成物
【請求項17】
造血幹細胞移植を必要とする疾患の治療用医薬品の製造における、請求項1~3および12のいずれか一項に記載の方法によって得られる細胞の使用。
【請求項18】
前記医薬品が、エクスビボで増殖された前記細胞と、別個に保存しておいた前記CD34-リンパ系細胞とを含む、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
臍帯血、骨髄および/または動員末梢血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖における、以下のa)、b)又はc)の少なくとも1種のアゾール系低分子の使用であって、
a)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
式(I)
【化4】
(式中、
Xは、NR またはOを示し、R は、Hまたはメチルであり;
は、フェニルまたはピリジニル(該フェニルまたはピリジニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニル(該フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFで置換されている))を示し;
は、Hまたは、無置換もしくはCl、FおよびOR から選択される1つ以上の基で置換されたナフチルを示し、R は、Hまたはメチルである)で示される化合物であるか、
b)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール;
(viii)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(ix)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(x)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール;
(xi)4-(4(5)-(4-フルオロフェニル)-2-(7-メトキシナフタレン-2-イル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル)ピリジン;
(xii)4-[4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;および
(xiii)4-[4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジンから選択される化合物であるか、又は
c)前記少なくとも1種のアゾール系低分子が、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;および
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾールから選択される化合物である使用
【請求項20】
前記少なくとも1種のアゾール系低分子によって、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+造血幹細胞、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+造血幹細胞および/またはCD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞の増殖が促される、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換アゾール誘導体、および生体試料に含まれるCD34発現造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)のエクスビボでの増殖における、該置換アゾール誘導体の使用に関する。より具体的には、本発明は、生体試料の非濃縮画分、すなわち、生体試料の単核細胞画分から得られたCD34発現造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)の増殖における、前記置換アゾール誘導体の使用に関する。本発明はさらに、異種移植研究により構築された、増殖された造血移植片の移植レジメンについて述べる。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞移植(HSCT)は、悪性疾患および良性疾患を引き起こす血液細胞障害を治療することを目的として、疾患細胞を健常ドナー細胞で置き換えることにより行われる[Gratwohl A, et al., JAMA 303(16): 1617-1624 (2010)]。これまでに、動員末梢血幹細胞(PBSC)、骨髄(BM)または臍帯血(UCB)を移植片の供給源として使用して100万症例を超えるHSCTが実施されている。過去10年間で、急性骨髄性白血病などの悪性血液疾患を治療することを主な目的としたHSCTの登録症例数は3倍増加した(National Marrow Donor Programme、米国)[Lund TC, et al., Nature reviews. Clinical Oncology 12(3):163-74 (2015)]。移植片の供給源の区別なく合計すると、2014年には世界中で約6,500件の移植が実施された。PBSCやBMは、移植片の供給源として未だ大部分を占めていると考えられるが、2014年にHSCTを受けた患者のうち約31%に対しては、別の選択肢としてUCBが有効であったことが判明している[Bari S, et al., Biol Blood Marrow Transplant 21(6):1008-19 (2015)]。
【0003】
初めてのUCB移植は、1988年にファンコーニ貧血患者を治療することを目的に実施され、これに成功を収めたことから、生物系廃棄物として扱われていたUCBは、公的または私的な血液バンクにおいて積極的に保存されるようになり、近年、米国食品医薬品局(米国FDA)によって正式なHSPC供給源として承認された[Gluckman E, et al., Nouv Rev Fr Hematol 32(6):423-425 (1990); Voelker R. JAMA 306(22): 2442 (2011)]。BMやPBSCと比較して、UCB移植(UCBT)は、HSPCの回収が容易であり、迅速に入手可能であり(全世界でのUCB単位の登録件数は700,000を超える)、感染症伝播のリスクが低く、ヒト白血球抗原(HLA)の障壁が低く、移植片対宿主病(GVHD)の発生率が低いという利点がある[Lund TC, et al., Nature reviews. Clinical Oncology 12(3): 163-74 (2015); Bari S, et al., Biol Blood Marrow Transplant 21(6): 1008-19 (2015)]。また、メタアナリシスを行った報告のいくつかでは、兄弟姉妹の間で適合ドナーのいない成人患者および小児患者においてUCBTを行うと、完全に適合したBM移植と同等のアウトカムが得られることが示された[Hwang WYK, et al., Biol Blood Marrow Transplant 13(4): 444-453 (2007)]。世界的に白人患者の約40%および非白人患者の最大55~80%は、HLA-A、B、C、DR抗原の8/8適合非血縁者ドナー(MUD)を見つけることができず、これは、1年あたり6,000人を超える患者がUCBTの対象となることを意味している[Cunha R, et al., Bone Marrow Transplant 49(1): 24-29 (2014); Barker JN, et al., Biol Blood Marrow Transplant 16(11): 1541-1548 (2010)]。しかし、2014年に実施されたUCBTは960件に過ぎず(NMDP、米国)、これは主に、臍帯血バンクに保管されているUCB移植片から得られる総有核細胞(TNC)の用量が少ないという問題に起因しており、これによってUCB移植の臨床適用が大きく制限されている。
【0004】
小児患者のUCBTでは、1単位の移植片のみで2500万個/kg体重という最小臨床用量を得ることができることから、これまでに成功を収めているが、成人患者におけるUCBTの適用には大きな課題がある[Gluckman E, Rocha V. Cytotherapy 7(3): 219-227 (2005)]。成人にUCBTを行った後の造血機能の回復は、BMやPBSCを移植した場合よりも際だって遅く、これは、移植の成功に必要とされるTNCおよびHSPCの含量が少ないことと、UCB移植片の生着に寄与する細胞本来の機能が不十分であることによる[Ballen KK, et al., Blood 122(4): 491-498 (2013)]。好中球生着までの期間の中央値は、移植の成功を示す早期の指標として使用されるが、細胞操作をしていないUCB移植片では通常25日を超えるのに対して、PBSC移植片では約14日であり、BM移植片では約18日である[Lund TC, et al., Nature reviews. Clinical Oncology 12(3): 163-74 (2015)]。T細胞、B細胞、NK細胞などのその他の免疫細胞が再構築されるまでの期間は、通常、好中球や血小板の回復よりも遅れるが(3ヶ月後以降に起こる)、UCBTではこれよりも大幅に遅れ、これは、UCB細胞の免疫ステータスが比較的未熟であることによる[Komanduri KV, et al., Blood 110(13): 4543-4551 (2007)]。造血の再構築が大幅に遅れることによって、汎血球減少症を起こしているレシピエントにおいて微生物やウイルスの日和見感染のリスクが高くなり、これによりUCBT実施後の移植関連死亡率(TRM)は30%を超える高いものとなる[Bari S, et al., Biol Blood Marrow Transplant 21(6): 1008-19 (2015); Hofmeister CC, et al., Bone Marrow Transplant 39(1): 11-23 (2007)]。これに対して、移植の際に注入される細胞用量を高くすると、感染症や死亡のリスクが低下すると見られる[Kelly SS, et al., Bone Marrow Transplant 44(10): 673-681 (2009); Dahlberg A, et al., Blood 117(23): 6083-6090 (2011)]。このようなUCBTの利点を踏まえると、HSCTの第1の選択肢としてUCBを選択することが可能となることが望ましい。しかし、このような課題を達成するためには、適切な前処置レジメン(骨髄破壊的前処置または強度減弱前処置)を受けた成人に移植を行う前に、TNCおよびHSPCの数を増やしておくことが必要である。
【0005】
したがって、移植に際してTNCおよびHSPCの供給量を増やすこと、ならびにTNCおよびHSPCを作製する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明において、アゾール系低分子であるIM-29またはその誘導体を使用して、凍結解凍された臍帯血(UCB)単核細胞(MNC)から、表現型で定義され、かつ機能的に定義されたHSPCを増殖させる方法について説明する。表現型で定義され、かつ機能的に定義されたHSPCは、本発明の低分子を使用して骨髄試料および/または動員末梢血試料から増殖させてもよい。所望であれば、UCB試料、骨髄試料または動員末梢血試料に含まれる細胞を濃縮したCD34+HSPC集団を、本発明の低分子を使用して増殖させることもできる。
【0007】
好ましい一態様において、本発明は、臍帯血試料、骨髄試料および/または動員末梢血幹細胞試料に含まれる総有核細胞および/またはCD45+CD34+造血幹細胞・前駆細胞サブセットをエクスビボで増殖させる方法であって、
(i)前記試料に含まれる単核細胞画分を培地中で培養する工程;および
(ii)前記単核細胞を、少なくとも1種のアゾール系低分子を含む組成物に接触させる工程
を含む方法を提供する。
【0008】
本発明の好ましい一実施形態において、前記試料は臍帯血試料である。
【0009】
本発明の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子は、式(I)
【化1】
(式中、
Xは、NR、OまたはSを示し;
は、C6~10アリールまたは6~10員の芳香族複素環系(該C6~10アリールおよび該6~10員の芳香族複素環系は、無置換であるか、またはハロ、C1~6アルキル、C1~6アルケニルおよびC1~6アルキニルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該C1~6アルキル、該C1~6アルケニルおよび該C1~6アルキニルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))を示し;
は、C6~10アリールまたは6~10員の複素環系(該C6~10アリールおよび該6~10員の複素環系は、無置換であるか、またはハロ、C1~6アルキル、C1~6アルケニルおよびC1~6アルキニルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該C1~6アルキル、該C1~6アルケニルおよび該C1~6アルキニルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))を示し;
は、無置換またはハロ、OR、C1~6アルキル、C1~6アルケニルおよびC1~6アルキニルから選択される1つ以上の基で置換されたC6~16アリール(該C1~6アルキル、該C1~6アルケニルおよび該C1~6アルキニルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている)を示し;
およびRは、HおよびC1~4アルキルからそれぞれ独立して選択される(該C1~4アルキルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【0010】
本発明の別の好ましい一実施形態において、式(I)で示される前記化合物は、式(II)
【化2】
(式中、
は、H、Cl、BrまたはFを示し;
は、H、Cl、Br、FまたはORを示し;
は、無置換またはClおよびFから選択される1つ以上の置換基で置換されたC1~3アルキルを示し;
およびRは、前記2~11項のいずれか一項で定義した通りである)
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【0011】
本発明の別の好ましい一実施形態において、式(I)で示される前記化合物は、式(III)
【化3】
(式中、
は、H、Cl、Br、FまたはC1~3アルキル(該C1~3アルキルは、無置換であるか、またはClおよびFから選択される1つ以上の置換基で置換されている)を示し;
10は、H、Cl、BrまたはFを示し;
は、前記2~12項のいずれか一項で定義した通りであり;
およびRは、前記12項で定義した通りである)
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【0012】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子は、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール;
(viii)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(ix)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(x)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール;
(xi)4-(4(5)-(4-フルオロフェニル)-2-(7-メトキシナフタレン-2-イル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル)ピリジン;
(xii)4-[4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;および
(xiii)4-[4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン
からなる群から選択される。
【0013】
本発明の別の好ましい一実施形態では、少なくとも1種のサイトカインの存在下で前記造血幹細胞・前駆細胞を増殖させる。前記少なくとも1種のサイトカインは、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT-3L)およびインスリン様成長因子結合タンパク質2(IGFBP-2)を含む群から選択することが好ましい。SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2のうち少なくとも2種、少なくとも3種またはこれら4種すべての存在下で前記造血幹細胞・前駆細胞を増殖させることが好ましい。前記造血幹細胞・前駆細胞は、100ng/ml SCF、100ng/ml TPO、50ng/ml FLT-3Lおよび20ng/ml IGFBP-2の存在下で増殖させることがより好ましい。
【0014】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記方法は、前記少なくとも1種のアゾール系低分子の共存下で、臍帯血単核細胞を少なくとも9日間培養する工程を含む。
【0015】
本発明の別の好ましい一実施形態において、0日目および/または7日目に前記培養に前記サイトカインを添加する。
【0016】
本発明の別の好ましい一実施形態において、0日目および/または7日目に前記培養に前記少なくとも1種のアゾール系低分子を添加する。
【0017】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記方法は、約7~11日間培養後に前記細胞を回収する工程をさらに含む。最適化された増殖が観察された場合、10日目または11日目付近で前記細胞を回収することが好ましい。
【0018】
本発明の別の好ましい一実施形態において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞を増殖させる。
【0019】
本発明の別の好ましい一実施形態において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+(HSC1)造血幹細胞を増殖させる。
【0020】
本発明の別の好ましい一実施形態において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(HSC2)造血幹細胞を増殖させる。
【0021】
本発明の別の好ましい一実施形態において、増殖させた前記造血幹細胞・前駆細胞は正常核型を有し、白血病化を示さない。
【0022】
本発明の別の一態様において、本発明の態様のいずれかに記載の少なくとも1種のアゾール系低分子と少なくとも1種のサイトカインとを含む組み合わせ物および/またはキットを提供する。
【0023】
本発明の別の一態様において、臍帯血幹細胞、骨髄幹細胞および/または動員末梢血幹細胞に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖に使用するための、本発明の態様のいずれかに記載の少なくとも1種のアゾール系低分子を含む組成物を提供する。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子は、臍帯血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖において使用される。
【0025】
本発明の別の一態様において、臍帯血幹細胞、骨髄幹細胞および/または動員末梢血幹細胞に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖における、本明細書に記載の少なくとも1種のアゾール系低分子の使用を提供する。前記造血幹細胞・前駆細胞は、臍帯血から得られたものであることが好ましい。
【0026】
本発明の別の一態様において、治療方法であって、治療を必要とする対象に、本発明の態様のいずれかに記載の方法によって得られる造血幹細胞・前駆細胞の有効量を投与することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】IM-29の存在下または非存在下において様々なサイトカインの組み合わせを使用してアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地中で11日間培養を継続した場合の、生存可能な(7AAD-)造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)および総有核細胞(TNC)の増殖率(倍)を示す。培地、サイトカインおよびIM-29は7日目に補充した。各サイトカインの濃度は、以下の通りである。SはSCFを示し、その濃度は100ng/mlであった。TはTPOを示し、その濃度は100ng/mlであった。FはFLT-3Lを示し、その濃度は50ng/mlであった。IGはIGFBP-2を示し、その濃度は20ng/mlであった。低分子IM-29はIMで示され、5.0μMの濃度で投与した。*P<0.05は、異なる条件の各群と比較した有意差を示す。データはn=3の平均値±SDを示す。
【0028】
図2】IM-29およびその構造類似体を使用して、臍帯血造血幹細胞・前駆細胞(UCB HSPC)のエクスビボでの増殖を可能とする方法の概要を示す。
【0029】
図3】新鮮な臍帯血(UCB)から単核細胞(MNC)を得る方法を示す概略図である。
【0030】
図4】UCB-MNC画分中の細胞の組成と、HSPC中の様々なサブセットの表現型発現を示す概略図である。
【0031】
図5】IM-29の存在下において単核細胞をエクスビボで増殖させたUCB移植片における各細胞の割合の変化を示す概略図である。
【0032】
図6A】UCB細胞の増殖を最適化することができる低分子IM-29(分子量(MW):383.12g/mol)を示す(図8Aに示すように、CD45+CD34+CD38-CD45RA-の表現型発現によって定義される生存可能な造血前駆細胞(HPC)の数を、1200倍を超えて増加させることができる)。
【0033】
図6B】低分子IM-04(MW:379.43g/mol)の構造を示す。この低分子は、図8Aに示すように、CD45+CD34+CD38-CD45RA-の表現型発現によって定義される生存可能な造血前駆細胞の数を1000~1150倍に増加させることができる。
【0034】
図6C】IM-29(図6A)およびIM-04(図6B)の構造類似体である各低分子、IM-01(MW:361.45g/mol)、ZQX-33(MW:365.13g/mol)、ZQX-36(MW:443.04g/mol)、GJ-C(MW:433.41g/mol)、OZ-07(MW:380.42g/mol)、IM-03(MW:384.16g/mol)、IM-09(MW:396.18g/mol)、IM-22(MW:388.14g/mol)、ZQX-53(MW:394.14g/mol)、IM-44(MW:235.11g/mol)およびZQX-42(MW:239.09g/mol)の構造を示す。これらの構造類似体は、CD45+CD34+CD38-CD45RA-の表現型発現によって定義される生存可能な造血前駆細胞(HPC)の数を400~900倍に増加させることができる(図8Aに示す)。
【0035】
図6D】確立されたp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)阻害剤である親化合物SB203580(MW:377.43g/mol)の構造を示す。SB203580の最適作用濃度は5.0μMであることが知られている。
【0036】
図6E】臍帯血(UCB)単核細胞(MNC)からの造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)の増殖誘導を調査するために作製した、親化合物SB203580の類似体の構造を示す。作製したこれらの類似体を、構造および化学修飾に基づいてグループ1~4からなる4つのグループに大きく分類した。
【0037】
図7】3種のUCB試料に由来する凍結解凍されたMNCを使用して試験した、CD45+集団に対する5.0μMの濃度のIM-29およびその構造類似体の効果および72時間後における細胞の生存能力を示す。SB203580、DMSOおよびサイトカインをそれぞれ単独で無血清増殖培地(SFEM)中に溶解し、SB203580を標準化合物として使用し、DMSOを溶媒コントールとして使用し、サイトカインをブランクコントロールとして使用した。データはn=3の平均値±SEMを示す。アネキシンV(早期アポトーシス細胞に発現されるホスファチジルセリン5に結合する)および7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)(死細胞を染色する)によるUCB細胞の染色を含む生存アッセイを使用して、UCB HSPCに対するIM-29およびその構造類似体の効果を評価した。フローサイトメーターを使用したこのアッセイは、過去に発表されている論文[Bari S, et al., Biol Blood Marrow Transplant 21(6): 1008-19 (2015)]において、CD45+白血球(この細胞集団のサブセットの1つとしてHSPCが含まれる)のアポトーシスの自然発生がHSPC増殖培養における顕著な問題の1つであることが示唆されていることから選択した。実験データから、試験した低分子はいずれも、UCB-MNC細胞に対する急性毒性を有していないことが示唆された。
【0038】
図8A】無血清増殖培地(SFEM)中で培養を10日間継続し、7日目にサイトカインおよび各低分子を補充した場合の、生存可能な(7AAD-)造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)および総有核細胞(TNC)の増殖率(倍)を示す。*P<0.01は、各群の他の条件と比較した有意差を示す。SB203580、DMSOおよびサイトカインをそれぞれ単独でSFEM中に溶解し、SB203580を標準化合物として使用し、DMSOを溶媒コントールとして使用し、サイトカインをブランクコントロールとして使用した。データはn=4の平均値±SEMを示す。
【0039】
図8B】アニマルコンポーネントフリー培地(ACF)中で培養を11日間継続し、7日目にサイトカインおよび各低分子を補充した場合の、生存可能な(7AAD-)造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)および総有核細胞(TNC)の増殖率(倍)を示す。*P<0.01は、各群の他の条件と比較した有意差を示す。SB203580、DMSOおよびサイトカインをそれぞれ単独でACF培地中に溶解し、SB203580を標準化合物として使用し、DMSOを溶媒コントールとして使用し、サイトカインをブランクコントロールとして使用した。データはn=3の平均値±SEMを示す。
【0040】
図8C】CD45+細胞のサブセットの1つであるCD34+CD38-集団を、(i)解凍した0時間目のUCB MNCにおいて定量し、この解凍したUCB MNCを次いで無血清増殖培地(SFEM)中で(ii)サイトカインコントロールまたは(iii)5.0μMのIM-29とサイトカインの組み合わせの存在下で10日間培養し、CD34+CD38-集団を再度定量したフローサイトメトリー解析の代表的なドットプロットを示す。
【0041】
図9A】アニマルコンポーネントフリー培地(ACF)中で培養を11日間継続し、7日目にサイトカインおよび各低分子を補充した場合の、生存可能な(7AAD-)造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)および総有核細胞(TNC)の増殖率(倍)を示す。使用したIM-29の濃度は1.0μM、5.0μMおよび10.0μMである。サイトカインのみを含むACF培地をブランクコントロールとして使用した。*P<0.01は、各群と比較した有意差を示す。データはn=3の平均値±SDを示す。
【0042】
図9B】培養前に幹細胞の選択を行っていない2単位の別個のUCBを、5.0μMのIM-29と基本サイトカインの存在下で培養した場合の、総有核細胞(TNC)およびコロニー形成単位(CFU)(顆粒球・マクロファージ(GM))のエクスビボでの増殖を示す。増殖培養は10日間継続し、SFEM、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。SB203580、DMSOおよびサイトカインをそれぞれ単独でSFEM中に溶解し、SB203580を標準化合物として使用し、DMSOを溶媒コントールとして使用し、サイトカインをブランクコントロールとして使用した。データはn=6の平均値±SEMを示す。*P<0.01は、他の処理および各集団と比較した有意差を示す。CFU-GMはメチルセルロースを使用したインビトロ機能アッセイであり、このアッセイにおいてHSPCは特徴的なコロニーを形成する。一方、成熟細胞はこのようなコロニーを形成することはできない。
【0043】
図10】基本サイトカインの存在下において5.0μMのIM-29を含む無血清増殖培地(SFEM)またはアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地においてUCB-MNCを培養した場合の、総有核細胞(TNC)、造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)およびコロニー形成単位(CFU)(顆粒球・マクロファージ(GM))のエクスビボでの増殖を示す。増殖培養は10日間継続し、SFEMまたはACF培地、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。サイトカインのみを加えたSFEMまたはACF培地をブランクコントロールとして使用した。データはn=3の平均値±SEMを示す。*P<0.05は、各培地におけるサイトカインコントロールと比較した有意差を示す。IM-29の増殖増強効果は基礎培地の種類とは無関係であった。5.0μMのIM-29の存在下においてSFEMまたはACF培地を使用することによって、各サイトカインコントロールと比較して、TNC、HPC(CD45+CD34+CD38-CD45RA-)およびCFU-GMが有意に良好に増殖した。SFEMはウシ血清アルブミンを含んでいるが、ACFは化学的組成が明らかである。
【0044】
図11】エクスビボでの5.0μM IM-29によるUCBの増殖増強を培養期間/時間の関数として示す。7日間、9日間および11日間にわたって培養を継続した場合の、各培養における造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)(実線)および総有核細胞(TNC)(破線)の増殖率(倍)を示す。9日目および11日目まで継続した培養において、アニマルコンポーネントフリー(ACF)培地、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。これらの一連の実験は、2つの異なるUCB試料を使用して行った。サイトカインのみを加えたACF培地をブランクコントロールとして使用した。*P<0.01または**P<0.01は、前記時点において各パラメータのサイトカインコントロールと比較した有意差を示す。データはn=6の平均値±SEMを示す。IM-29の増殖増強効果は培養期間に依存し、最適な増殖期間は10~11日間であった。
【0045】
図12】エクスビボでのUCBの培養に対する5.0μM IM-29の増殖増強効果を、培養へのIM-29の添加時間の関数として示す。10日間にわたって培養を継続した場合のHPCの増殖率(倍)を示す。表に詳しく示すように、無血清増殖培地(SFEM)またはアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地、サイトカインおよびIM-29は0日目に添加し、7日目に補充した。データはn=3の平均値±SEMを示す。*P<0.05は、各培地における他の群と比較した有意差を示す。UCB HPCの最適化された増殖は、増殖培養の開始時にIM-29を添加した場合においてのみ達成することができた。培地およびサイトカインとともにIM-29を7日目に補充した場合、増殖がさらに有意に増強された。
【0046】
図13A】CD45+CD34+CD38-CD45RA-細胞のサブセットである(a)CD90+集団(*で示した領域);(b)CD90+CD49f+集団(**で示した領域)および(c)CD90-CD49f+集団(***で示した領域)を、(i)解凍した0時間目のUCB MNCにおいて定量し、この解凍したUCB MNCを次いで無血清増殖培地(SFEM)中で(ii)サイトカインコントロールまたは(iii)5.0μMのIM-29とサイトカインの組み合わせの存在下で10日間培養し、前記各サブセットを再度定量したフローサイトメトリー解析の代表的なドットプロットを示す。
【0047】
図13B】CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+の表現型を発現するHSC1のエクスビボでの増殖を示す。HSC1は、免疫不全マウスに生着することが知られている。増殖培養は10日間継続し、SFEM、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。SB203580、DMSOおよびサイトカインをそれぞれ単独でSFEM中に溶解し、SB203580を標準化合物として使用し、DMSOを溶媒コントールとして使用し、サイトカインをブランクコントロールとして使用した。データはn=3の平均値±SDを示す。*P<0.001は、SB203580、DMSOおよびサイトカインコントロールと比較した有意差を示す。
【0048】
図13C】CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+の表現型を発現するHSC2のエクスビボでの増殖を示す。増殖培養は10日間継続し、SFEM、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。SB203580、DMSOおよびサイトカインをそれぞれ単独でSFEM中に溶解し、SB203580を標準化合物として使用し、DMSOを溶媒コントールとして使用し、サイトカインをブランクコントロールとして使用した。データはn=3の平均値±SDを示す。*P<0.001は、SB203580、DMSOおよびサイトカインコントロールと比較した有意差を示す。事前に幹細胞を選択することなくIM-29を使用して増殖させたUCBの表現型発現を詳細に調査したところ、特定の抗原の発現すなわち(a)CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+(HSC1)および(b)CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(HSC2)によって定義されるHSPCのまれなサブセットが有意に増加したことが示された。細胞操作を行っていないUCBから得られたこのようなサブセットは、インビボ累代移植研究による評価結果から高い自己複製能/再構築能を持つことが報告されている。
【0049】
図13D】基本サイトカインを添加したアニマルコンポーネントフリー培地(ACF)中、5.0μM IM-29の存在下において、凍結解凍UCB-MNCから増殖させた細胞の代表的な核型図を示す。増殖培養は11日間継続し、ACF、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。増殖させた細胞の核型は、非培養UCB-MNCと比較して正常である。
【0050】
図13E】基本サイトカインを添加したアニマルコンポーネントフリー培地(ACF)中、5.0μM IM-29の存在下において、凍結解凍UCB-MNCから増殖させた細胞に対して行った蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)および白血球の細胞化学的臨床検査の結果を示す。増殖培養は11日間継続し、ACF、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。使用したFISHプローブは、D7S486/CEP 7(急性骨髄性白血病(AML);骨髄異形成症候群(MDS)検出用);MYC/CEP 8(非ホジキンリンパ腫(NHL);急性リンパ性白血病(ALL)検出用);CDKN2A/CEP 9(ALL検出用);BCR/ABL-1(ALL;AML;慢性骨髄性白血病(CML)検出用);MLL(ALL;AML検出用);TP53/CEP 17(慢性リンパ性白血病(CLL);多発性骨髄腫(MM);NHL検出用);およびETV6/RUNX1(AML;ALL;MDS検出用)であった。白血球の細胞化学的検査は、培養細胞の塗抹標本に、メイグリュンワルドギムザ染色(腫瘍細胞を検出する);ミエロペルオキシダーゼ染色(AMLとALLを識別する);過ヨウ素酸シッフ染色(赤白血病を特定する);およびスダンブラックB染色(AMLとALLを識別する)を行うことによって実施した。FISHおよび白血球の細胞化学診断検査から、IM-29の存在下で増殖させた細胞は白血病化しないことが示唆された。
【0051】
図14】IM-29の存在下で増殖させたUCBを免疫不全マウスに移植することによりインビボにおける機能性を評価するための主な実験操作の概要である。
【0052】
図15A】増殖させていないUCBまたは増殖させたUCBの移植後3週目におけるNOD/SCID/γ(NSG)マウスの末梢血(PB)中のヒトCD45細胞のキメリズムを示す。サイトカインを添加した無血清増殖培地(SFEM)またはアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地中の単核細胞画分(すなわちCD34を選択していない画分)を使用してUCB移植片の増殖を行った。移植は図14に示した概要に従って行った。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は2.5×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞(新鮮または凍結解凍)は2.5×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヒトCD45細胞のキメリズムを示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。グラフに記載の各n数においてスチューデントのt検定により各実験群間のP値を求め、グラフに示した。
【0053】
図15B図15Aに示すように移植を行った3週目のNSGマウスの末梢血(PB)中におけるヒトCD45細胞の分化系列決定を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は5.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は5.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおける全ヒト細胞中の単球(CD45+CD33+)、顆粒球(CD45+CD15+)、T細胞(CD45+CD3+)およびB細胞(CD45+CD19+)の割合を示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。
【0054】
図16A】UCB単核細胞を様々な培養条件下で増殖させた後、致死量以下の放射線を照射した免疫不全NOD/SCID/γ(NSG)マウスに移植し、移植の19週間後に、NSGマウスの骨髄におけるヒトCD45+細胞の割合(%)と骨髄に生着したヒト細胞の分化系列決定を測定した結果を示す。このデータセットにおいて、増殖させていない移植片または(5.0μMのIM-29の存在下または非存在下で)増殖させた移植片を移植したマウスのキメリズムは、移植片の種類ではなく、レシピエントマウスの性別によって差が見られた。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は2.5×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は2.5×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヒトCD45細胞のキメリズムを示し、各性別における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。
【0055】
図16B図16Aに示した移植後19週目の雌性NSGマウスの骨髄(BM)におけるヒトCD45細胞のキメリズムを示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞(新鮮または凍結解凍)は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヒトCD45細胞のキメリズムを示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。グラフに記載の各n数においてスチューデントのt検定により各実験群間のP値を求め、グラフに示した。
【0056】
図16C図16Aに示した移植後19週目の雄性NSGマウスおよび雌性NSGマウスの骨髄(BM)における全ヒト細胞中の前駆細胞の割合を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおける共通前駆細胞(CD45+CD34+)、骨髄系前駆細胞(CD13+CD33+)およびリンパ系前駆細胞(CD45+CD7+)を示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。
【0057】
図16D図16Aに示した移植後19週目の雄性NSGマウスおよび雌性NSGマウスの骨髄(BM)における全ヒト細胞中の骨髄系細胞の割合を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおける単球(CD45+CD33+)、顆粒球(CD45+CD13+/CD15+/CD66b+)および巨核球(CD45+CD41a+)を示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。
【0058】
図16E図16Aに示した移植後19週目の雄性NSGマウスおよび雌性NSGマウスの骨髄(BM)における全ヒト細胞中のリンパ系細胞の割合を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヘルパーT細胞(CD45+CD3+CD4+)、細胞傷害性T細胞(CD45+CD3+CD8+)、B細胞(CD45+CD19+)およびNK細胞(CD45+CD56+)を示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。これらの様々な実験群において、IM-29(5.0μM)およびサイトカインの存在下で増殖させたUCBは、使用する基礎培地の種類に関係なく、レシピエントマウスにおいてこれまでに最も良好なヒトCD45細胞キメリズム示すと見られ、より早い生着をもたらし、長期にわたる造血を維持する能力を有することが示唆された。
【0059】
図17図17A~17Hは、5.0μMのIM-29および基本サイトカインの存在下でUCB単核細胞(MNC)を増殖させ、致死量以下の放射線を照射した免疫不全NOD/SCID/γ(NSG)マウスに移植すると、骨髄系前駆細胞および骨髄系成熟細胞が主に発生し、この結果、末梢血(PB)および骨髄(BM)に骨髄系細胞および骨髄系前駆細胞が早期に生着し、さらに、NSGマウスの骨髄(BM)において長期間にわたり様々なヒト細胞系列の再構築が確認されたことを示す。
【0060】
図17A】11日間のIM-29添加培養およびサイトカインコントロール培養における成熟骨髄系細胞および成熟リンパ系細胞の増殖を示す。これらのMNC増殖培養の7日目にACF培地、サイトカインおよびIM-29を補充した。骨髄系細胞は、CD45+CD33+単球、CD45+CD13+CD15+顆粒球およびCD45+CD41a+CD61+巨核球で構成されていた。リンパ系細胞は、CD45+CD3+T細胞、CD45+CD19+B細胞およびCD45+CD56+NK細胞で構成されていた。*P<0.001は、各処理群における各集団と比較した有意差を示す。データはn=3の平均値±SDを示す。
【0061】
図17B】移植後2週目のNSGマウスの末梢血(PB)中におけるヒトCD45細胞のキメリズムの散布図を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は10.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は10.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヒトCD45細胞のキメリズムを示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。グラフに記載の各n数においてスチューデントのt検定により各実験群間のP値を求め、グラフに示した。
【0062】
図17C】移植後2週目のNSGマウスの末梢血(PB)中におけるヒトCD45+CD3+T細胞のキメリズムの散布図を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は10.0×107個/kgまたは5.0×107個/kgとし、IM-29の存在下で増殖させた移植片細胞は10.0×107個/kgまたは5.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヒトT細胞のキメリズムを示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。グラフに記載の各n数においてスチューデントのt検定により各実験群間のP値を求め、グラフに示した。
【0063】
図17D】移植後2週目の雌性NSGマウスの骨髄(BM)におけるCD45+細胞、CD45+CD34+前駆細胞およびCD45+CD3+T細胞のキメリズムの散布図を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は10.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は10.0×107個/kgの等価用量で移植した。図に示す散布図は、各マウスにおけるヒトCD45+細胞、ヒトCD45+CD34+前駆細胞およびヒトCD45+CD3+T細胞のキメリズムを示し、各処理における幾何平均値および95%信頼区間(CI)を示す。グラフに記載の各n数においてスチューデントのt検定により各実験群間のP値を求め、グラフに示した。
【0064】
図17E】IM-29またはサイトカインの存在下で増殖させたUCB-MNCまたは増殖させていない移植片を移植したNSGマウスを60日間にわたって観察したカプランマイヤー生存曲線を示す。増殖させていない移植片細胞の絶対用量は10.0×107個/kgとし、増殖させた移植片細胞は10.0×107個/kgの等価用量で移植した。統計解析を用いた実験群の全体的な比較も示す。
【0065】
図17F】磁気精製したCD34+細胞から増殖培養を開始した場合の、IM-29の存在下で増殖させたUCBを移植するためのレジメンの概要を示す。IM-29を使用した増殖プロトコルを第1相臨床試験に移行するためには、精製されたHSPCの増殖におけるこのプロトコルの有効性を証明することが必要である。
【0066】
図17G】基本サイトカインの存在下において5.0μMのIM-29を含む無血清増殖培地(SFEM)またはアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地中でCD45+CD34+CD38-の表現型の精製された未熟なHSPCを培養した場合の、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f-(HSC1)またはCD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(HSC2)の表現型のHSPCのエクスビボでの増殖量を示す。増殖培養は10日間継続し、SFEM/ACF培地、サイトカインおよびIM-29を7日目に補充した。サイトカインのみを加えたSFEMまたはACF培地をブランクコントロールとして使用した。*P<0.05は、各培地におけるサイトカインコントロールと比較した有意差を示す。データはn=3の平均値±SDを示す。
【0067】
図17H】磁気精製されたCD34+細胞から培養を開始した場合の、CD34+細胞のエクスビボでの増殖量を示す。増殖培養は11日間継続し、ACF培地、サイトカインおよび5.0μMのIM-29を7日目に補充した。*P<0.0001は、サイトカインコントロールと比較した有意差を示す。データはn=6の平均値±SEMを示す。
【0068】
図18】細胞操作を行ったUCB移植片の移植を伴う、これまでに完了した複数の臨床試験における好中球回復までの期間の中央値をまとめた概略図である。好中球回復までの期間の中央値は、適合ドナーの骨髄(BM)、動員末梢血(mPB)または臍帯血(UCB)を移植の供給源として使用して実施することが可能な造血幹細胞移植(HSCT)の成功を示す最も重要な指標である。移植後の時間軸を中央の右向きの矢印によって示し、好中球回復までの期間の中央値を、時間軸の矢印に向けられた実線の上向き/下向きの矢印で示す。これらの矢印で示された好中球回復までの期間の中央値は、mPB、BMまたはUCBを使用した従来のHSCT(移植後の時間軸の上に示す)においてそれぞれ14日、18日および25日である。細胞操作を行ったUCB移植片を使用したHSCT(移植後の時間軸の下に示す)では、移植の前に骨髄非破壊的前処置/強度減弱前処置(実線の囲み枠)または骨髄破壊的前処置(破線の囲み枠)を患者に行った。これらの各試験に登録された患者の人数は、囲み枠に記載したN数で示す。各試験は、(表1および表2に示すように)大きく以下の2種に分類することができる。第1の方法としては、輸注された総有核細胞の絶対数を増加させる方法、すなわち、(a)2単位のUCBT(dUCBT)を行う方法;(b)ハプロタイプが一致したCD34+細胞を併用した1単位のUCBT(UCB+ハプロ一致CD34+)を行う方法;(c)細胞操作を行っていない別の単位を共移植して1単位のUCBをエクスビボで増殖する方法がある。現在行われている臨床増殖では、(i)サイトカイン;(ii)バイオリアクター;(iii)間葉系間質細胞(MSC)との共培養;(iv)Notchなどの生体分子;(v)ニコチンアミド(NAM)(SIRT1阻害剤);(vi)Stemregenin 1(SR1)(アリール炭化水素受容体のアンタゴニスト);(vii)テトラエチレンペンタミン(TEPA)(銅キレート化剤)が使用されている。第2の方法としては、輸注または移植された細胞のホーミングを向上させる方法、すなわち、(a)細胞操作を行っていない別の単位の静脈内(i.v.)注入を併用して、または併用せずに、1単位のUCBを骨内骨髄内(i.b.)注入する方法;(b)1単位のUCBとMSCを静脈内(i.v.)共投与する方法(UCB+MSC);(c)UCB単位のプライミングを、様々な化学物質や生体分子、たとえば、(i)ジメチルプロスタグランジンE2(dmPGE2);(ii)補体断片3a(C3a);または(iii)2単位のUCBTを行う条件下でのフコシル化を利用して行う方法がある。
【発明を実施するための形態】
【0069】
簡便に参照できるように、本明細書に記載の参考文献を一覧にして実施例の後に記載している。参考文献の一覧に記載された文献はいずれも、引用によってその内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0070】
用語の定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0071】
本明細書において「含む」とは、本発明の実施に際して、様々な成分、材料または工程を組み合わせて使用できることと定義される。したがって、「含む」という用語には、この用語よりも限定的な意味の「から実質的になる」および「からなる」という用語も包含される。
【0072】
本明細書において「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを含む。
【0073】
特に記載がない限り、本明細書において「アリール」は、C6~16(たとえばC6~14またはC6~10)アリール基を含む。これらのアリール基は、単環式、二環式、三環式のいずれであってよく、環炭素原子を6~16個(たとえば6~14個または6~10個)有していてもよく、これらのアリール基に含まれる少なくとも1つの環は芳香族環である。アリール基は、該基の任意の原子を介して結合していてもよい。アリール基が二環式または三環式である場合、該基の芳香環部を介して分子内の他の原子と結合する。C6~16アリール基としては、フェニル、ナフチル、フェナントラセニル、ピレニルなどが挙げられ、たとえば、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルおよびフルオレニルが挙げられる。本明細書に記載の本発明の実施形態のいくつかにおいて、アリールは、フェニル、ナフチル、フェナントラセニルまたはピレニルである。
【0074】
特に記載がない限り、本明細書において「芳香族複素環」は6~10員の芳香族複素環系を含み、該芳香族複素環系は、単環式、二環式、三環式のいずれであってもよく、O、NおよびSから選択される1~6個(たとえば1~3個、たとえば1個)のヘテロ原子を有する。また、芳香族複素環系は、芳香族の特性を有する少なくとも1つの環を含む。芳香族複素環系が二環式または三環式である場合、芳香族複素環系は、該複素環系の芳香族複素環部を介して分子内の他の原子と結合する。
【0075】
単環式の芳香族複素基としては、たとえば、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニルなどが挙げられる。二環式の芳香族複素基としては、たとえば、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチエニル、インダゾリル、インドリル、イソインドリル、プリニル、ピロロ[2,3-6]ピリジニル、ピロロ[5,1-6]ピリジニル、ピロロ[2,3-c]ピリジニル、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾリル、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾピラゾリル、チエノ[5,1-c]ピリジニルなどが挙げられる。二環式の芳香族複素基は、該複素基の5員環部の任意の原子を介して分子内の他の原子と結合する。三環式の芳香族複素基としては、アクリジニルおよびフェナジニルが挙げられる。
【0076】
複素環基は、完全飽和複素環基、部分不飽和複素環基、全芳香族複素環基、部分芳香族複素環基のいずれであってもよい。本明細書において複素環基としては、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾジオキサニル、ベンゾジオキセパニル、ベンゾジオキセピニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾフラニル、ベンゾフラザニル、ベンゾ[c]イソオキサゾリジニル、ベンゾモルホリニル、2,1,3-ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾオキサジニル(3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾオキサジニルを含む)、ベンゾオキサゾリジニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾ[e]ピリミジン、2,1,3-ベンゾチアジアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾトリアゾリル、カルバゾリル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、2,3-ジヒドロベンゾイミダゾリル、2,3-ジヒドロベンゾ[6]フラニル、1,3-ジヒドロベンゾ[c]フラニル、1,3-ジヒドロ-2,1-ベンゾイソオキサゾリル、2,3-ジヒドロピロロ[2,3-b]ピリジニル、ジオキサニル、ヘキサヒドロピリミジニル、イミダゾ[1,2-a]ピリジニル、イミダゾ[2,3-b]チアゾリル、インダゾリル、インドリニル、インドリル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソチオクロマニル、イソオキサゾリジニル、イソオキサゾリル、モルホリニル、ナフト[1,2-b]フラニル、ナフチリジニル(1,6-ナフチリジニルを含み、特に1,5-ナフチリジニルおよび1,8-ナフチリジニルが挙げられる)、1,2-オキサジナニル、1,3-オキサジナニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリジニル、ピリミジニル、ピロロ[2,3-b]ピリジニル、ピロロ[5,1-b]ピリジニル、ピロロ[2,3-c]ピリジニル、キナゾリニル、キノリニル、キノリジニル、キノキサリニル、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾリル、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾピラゾリル、5,6,7,8-テトラヒドロベンゾ[e]ピリミジン、テトラヒドロイソキノリニル(1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニルおよび5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリニルを含む)、テトラヒドロピラニル、3,4,5,6-テトラヒドロピリジニル、1,2,3,4-テトラヒドロピリミジニル、3,4,5,6-テトラヒドロピリミジニル、テトラヒドロキノリニル(1,2,3,4-テトラヒドロキノリニルおよび5,6,7,8-テトラヒドロキノリニルを含む)、チエノ[5,1-c]ピリジニル、チオクロマニル、1,3,4-トリアゾロ[2,3-b]ピリミジニル、キサンテニルなどが挙げられる。
【0077】
本明細書において(本発明の任意の態様または実施形態において)式(I)(式(II)または式(III))で示される化合物について述べる場合、これらの化合物自体、これらの化合物の互変異性体、およびこれらの化合物の塩または溶媒和物について述べるものとする。
【0078】
前記塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。このような塩は従来の方法で形成してもよく、たとえば、形成される塩が不溶性を示す溶媒または培地を必要に応じて使用して、遊離酸または遊離塩基の形態の式(I)の化合物を1当量以上の適切な酸または塩基と反応させ、標準的な技術(たとえば減圧濃縮、凍結乾燥または濾過)を使用して前記溶媒または前記培地を除去することによって塩を形成してもよい。別の方法として、たとえば適切なイオン交換樹脂を使用して、塩の形態の式(I)の化合物の対イオンを別の対イオンと交換することによって塩を調製してもよい。
【0079】
前記塩としては、無機酸または有機酸の酸付加塩、およびナトリウム、マグネシウム、好ましくはカリウムおよびカルシウムなどの金属の塩が挙げられる。
【0080】
酸付加塩としては、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アリールスルホン酸(たとえば、ベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)、アスコルビン酸(たとえば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)-カンファー酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸(たとえば、D-グルコン酸)、グルクロン酸(たとえば、D-グルクロン酸)、グルタミン酸(たとえば、L-グルタミン酸)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸(たとえば、(+)-L-乳酸および(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸(たとえば、(-)-L-リンゴ酸)、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタリン酸、メタンスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸(たとえば、(+)-L-酒石酸)、チオシアン酸、ウンデシレン酸または吉草酸で形成された酸付加塩が挙げられる。
【0081】
塩の具体例としては、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸、硫酸などの無機酸の塩;酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、アリールスルホン酸などの有機酸の塩;およびナトリウム、マグネシウム、好ましくはカリウムおよびカルシウムなどの金属の塩が挙げられる。
【0082】
前述のように、式(I)(式(II)または式(III))で示される化合物には、これらの化合物の溶媒和物およびこれらの塩が包含される。溶媒和物としては、無毒性の薬学的に許容される溶媒(以下、溶媒和溶媒と呼ぶ)の分子が、固体状態(たとえば結晶構造)の本発明の化合物に組み込まれることによって形成された溶媒和物が好ましい。溶媒和溶媒としては、水、アルコール(たとえば、エタノール、イソプロパノールおよびブタノール)およびジメチルスルホキシドが挙げられる。溶媒和物は、溶媒和溶媒を含む溶媒または溶媒混合物中で本発明の化合物を再結晶化することによって調製することができる。特定の調製方法において溶媒和物が形成されたかどうかは、熱重量分析(TGA)、示差走査熱量測定(DSC)およびX線結晶解析などの公知の標準的な技術を使用して本発明の化合物の結晶を分析することによって確認することができる。
【0083】
溶媒和物は、化学量論的溶媒和物であってもよく、非化学量論的溶媒和物であってもよい。溶媒和物としては水和物が特に好ましく、水和物としては、半水和物、一水和物および二水和物が挙げられる。
【0084】
溶媒和物、その調製方法およびその特性を評価する方法の詳細な考察については、Bryn et al., Solid-State Chemistry of Drugs, Second Edition, published by SSCI, Inc of West Lafayette, IN, USA, 1999, ISBN 0-967-06710-3を参照されたい。
【0085】
以下、記載を簡潔にするため、式(I)で示される化合物(式(II)で示される化合物および式(III)で示される化合物)、ならびにこれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物および薬学的に機能的な誘導体をまとめて「式(I)の化合物」と呼ぶ。
【0086】
式(I)の化合物は二重結合を含んでいてもよく、したがって、各二重結合を軸として、E型(entgegen)幾何異性体およびZ型(zusammen)幾何異性体として存在していてもよい。このような異性体およびその混合物はいずれも本発明の範囲に含まれる。
【0087】
式(I)の化合物は位置異性体として存在していてもよく、互変異性体として存在していてもよい。このような互変異性体およびその混合物はいずれも本発明の範囲に含まれる。
【0088】
式(I)の化合物は1つ以上の不斉炭素原子を含んでいてもよく、したがって、光学異性体および/またはジアステレオマーとして存在していてもよい。ジアステレオマーは、たとえばクロマトグラフィーや分別晶出などの従来技術を使用して分離することができる。また、たとえば分別晶出やHPLCなどの従来技術を使用して、本発明の化合物のラセミ混合物またはその他の混合物を分離することによって様々な立体異性体を単離してもよい。別の方法として、所望の光学異性体を得るために、ラセミ化またはエピマー化を起こさない条件下において光学的に活性な適切な出発材料を反応させる方法(すなわち「キラルプール」法)を行ってもよく;適切な段階で除去できる「キラル補助基」と適切な出発材料とを反応させる方法を行ってもよく;光学的に均質な酸などを使用して誘導体化し(すなわち動的光学分割などの光学分割を行い)、クロマトグラフィーなどの従来技術によってジアステレオマー誘導体を分離する方法を行ってもよく;あるいは当業者に公知の任意の条件下において適切なキラル試薬またはキラル触媒を使用して反応を行ってもよい。このような立体異性体およびその混合物はいずれも本発明の範囲に含まれる。
【0089】
本発明のさらなる実施形態のいくつかにおいて、式(I)(式(II)または式(III))で示される化合物を同位体で標識してもよい。しかし、本発明の別の特定の実施形態のいくつかにおいて、式(I)で示される化合物は同位体で標識されていなくてもよい。
【0090】
本明細書において「同位体で標識された」とは、1つ以上の位置に非天然の同位体(または自然界では見られない同位体分布)を含む式(I)の化合物を包含する。本明細書において「本発明の化合物の1つ以上の位置」とは、式(I)の化合物を構成する1つ以上の原子を指すと当業者によって理解される。したがって、「同位体で標識された」とは、1つ以上の位置に同位体を含む式(I)の化合物を該同位体で濃縮したものを包含する。
【0091】
同位体を利用した式(I)の化合物の標識または濃縮は、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄、フッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素の放射性同位体または非放射性同位体を使用して行ってもよい。この用途に使用できる同位体の具体例としては、2H、3H、11C、13C、14C、13N、15N、15O、17O、18O、35S、18F、37Cl、77Br、82Brおよび125Iが挙げられる。
【0092】
式(I)の化合物を放射性同位体または非放射性同位体で標識または濃縮する場合、式(I)の化合物は、該化合物中の少なくとも1つの原子において放射性同位体または非放射性同位体が天然レベルよりも少なくとも10%(たとえば10%~5000%、特に50%~1000%、さらには特に100%~500%)高いレベルで存在する同位体分布を示すものであってもよい。
【0093】
式(I)で示されるその他の化合物は、当業者に公知の技術、たとえば、本明細書の実施例に記載の技術によって調製してもよい。
【0094】
最終化合物である式(I)の化合物(またはその前駆体およびその他の関連中間体)のRなどの置換基は、後述する合成プロセスの後または合成プロセス中に、当業者に公知の方法を利用して1回以上修飾してもよい。公知の修飾方法としては、置換、還元(たとえば、適切な還元剤の存在下、必要に応じて、適切な化学選択的還元剤(LiBHやNaBHなど)の存在下で実施されるカルボニル結合の還元)、酸化、アルキル化、アシル化、加水分解、エステル化およびエーテル化が挙げられる。前駆基は、一連の反応系の任意のタイミングにおいて、このような修飾を加えた別の基に変換したり、式(I)において定義された基に変換したりすることができる。
【0095】
本発明の化合物は、従来技術(たとえば、再結晶、カラムクロマトグラフィー、分取HPLCなど)を使用して反応混合物から単離してもよい。
【0096】
後述する合成プロセスにおいて、中間体化合物の官能基を保護基で保護する必要がでてくる場合がある。
【0097】
官能基の保護および脱保護は、前述のスキームに示した反応の前またはその後に行ってもよい。
【0098】
保護基の除去は、後述するように当業者に公知の技術を使用して実施してもよい。たとえば、後述する保護された化合物/中間体は、標準的な脱保護技術を使用して、保護されていない化合物に化学的に変換してもよい。
【0099】
使用する化学反応の種類によって、保護基の必要性および保護基の種類ならびに合成の順序が決まってくる。
【0100】
保護基の使用については、“Protective Groups in Organic Chemistry”, edited by J W F McOmie, Plenum Press (1973)、および“Protective Groups in Organic Synthesis”, 3rd edition, T. W. Greene & P. G. M. Wutz, Wiley-Interscience (1999)に詳しく説明されている。
【0101】
本明細書において「官能基」は、保護されていない官能基について述べる場合は、ヒドロキシ基、チオロ基、アミノ基およびカルボン酸を指し、保護された官能基について述べる場合には、低級アルコキシ、N-アセチル、O-アセチル、S-アセチル、カルボン酸エステルを指す。
【0102】
本発明に関連して使用される「治療」という用語は、予防的処置、緩和処置、治療的処置または治癒処置を指す。
【0103】
本明細書において「対象」は脊椎動物として定義され、特に哺乳動物、さらに特にはヒトを指す。特に研究を目的とする場合、対象は、少なくとも1種の動物モデル(たとえばマウス、ラットなど)であってもよい。たとえば、悪性血液疾患または良性血液疾患の治療の対象は、急性骨髄性白血病を有するヒトであってもよい。
【0104】
当業者であれば、過度の実験を行うことなく、本明細書に記載の方法に従って本発明を実施できることを十分に理解できるであろう。本明細書に記載の方法、技術および化学物質は、本願で引用した参考文献に記載されているものであるか、あるいは標準的な生物工学や分子生物学の教科書に記載のプロトコルから得たものである。
【0105】
好ましい一態様によれば、本発明は、臍帯血試料、骨髄試料および/または動員末梢血幹細胞試料に含まれる造血幹細胞・前駆細胞をエクスビボで増殖させる方法であって、
(i)前記試料に含まれる単核細胞画分を培地中で培養する工程;および
(ii)前記単核細胞を、少なくとも1種のアゾール系低分子を含む組成物に接触させる工程
を含む方法を提供する。
【0106】
本発明の増殖方法は、非濃縮試料を使用することに利点があるものの、少なくとも1種のアゾール系低分子の存在下で培養を開始する場合、臍帯血試料、骨髄試料または末梢血試料から濃縮または事前に選択されたCD34+細胞画分を使用して実施してもよい。
【0107】
本発明の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子は、式(I)
【化4】
(式中、
Xは、NR、OまたはSを示し;
は、C6~10アリールまたは6~10員の芳香族複素環系(該C6~10アリールおよび該6~10員の芳香族複素環系は、無置換であるか、またはハロ、C1~6アルキル、C1~6アルケニルおよびC1~6アルキニルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該C1~6アルキル、該C1~6アルケニルおよび該C1~6アルキニルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))を示し;
は、C6~10アリールまたは6~10員の複素環系(該C6~10アリールおよび該6~10員の複素環系は、無置換であるか、またはハロ、C1~6アルキル、C1~6アルケニルおよびC1~6アルキニルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該C1~6アルキル、該C1~6アルケニルおよび該C1~6アルキニルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))を示し;
は、無置換またはハロ、OR、C1~6アルキル、C1~6アルケニルおよびC1~6アルキニルから選択される1つ以上の基で置換されたC6~16アリール(該C1~6アルキル、該C1~6アルケニルおよび該C1~6アルキニルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている)を示し;
およびRは、HおよびC1~4アルキルからそれぞれ独立して選択される(該C1~4アルキルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【0108】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてXはNRまたはOを示す。
【0109】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRは、フェニルまたは6員の芳香族複素環系(該フェニルおよび該6員の芳香族複素環系は、無置換であるか、またはハロおよびC1~3アルキルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該C1~3アルキルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))を示す。
【0110】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRは、フェニルまたはピリジニル(該フェニルおよび該ピリジニルは、無置換であるか、またはCl、Br、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFから選択される1つ以上の基で置換されている))を示す。
【0111】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRは、フェニルまたは6員の複素環系(該フェニルおよび該6員の複素環系は、無置換であるか、またはハロおよびC1~3アルキルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該C1~3アルキルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている))を示す。
【0112】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRは、フェニル、ピリジルまたはジヒドロピラニル(該フェニル、該ピリジルおよび該ジヒドロピラニルは、無置換であるか、またはBr、Cl、Fおよびメチルから選択される1つ以上の置換基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFから選択される1つ以上の基で置換されている))を示す。
【0113】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRは、無置換またはハロ、ORおよびC1~3アルキルから選択される1つ以上の基で置換されたC10~16アリール(該C1~3アルキルは、無置換であるか、またはハロから選択される1つ以上の基で置換されている)を示す。
【0114】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRは、ナフチル、フェナントラセニルまたはピレニル(該ナフチル、該フェナントラセニルおよび該ピレニルは、無置換であるか、またはBr、Cl、F、ORおよびメチルから選択される1つ以上の基で置換されている(該メチルは、無置換であるか、またはFから選択される1つ以上の基で置換されている))を示す。
【0115】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRはナフチルを示し、該ナフチルは、無置換であるか、またはCl、FおよびORから選択される1つ以上の基で置換されている。
【0116】
本発明の別の好ましい一実施形態では、式(I)においてRおよびRは、Hおよびメチル(該メチルは、無置換であるか、またはFから選択される1つ以上の基で置換されている)からそれぞれ独立して選択される。
【0117】
本発明の別の好ましい一実施形態において、式(I)で示される前記化合物は、式(II)
【化5】
(式中、
は、H、Cl、BrまたはFを示し;
は、H、Cl、Br、FまたはORを示し;
は、無置換またはClおよびFから選択される1つ以上の置換基で置換されたC1~3アルキルを示し;
およびRは、前記2~11項のいずれか一項で定義した通りである)
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【0118】
本発明の別の好ましい一実施形態において、式(I)で示される前記化合物は、式(III)
【化6】
(式中、
は、H、Cl、Br、FまたはC1~3アルキル(該C1~3アルキルは、無置換であるか、またはClおよびFから選択される1つ以上の置換基で置換されている)を示し;
10は、H、Cl、BrまたはFを示し;
は、前記2~12項のいずれか一項で定義した通りであり;
およびRは、前記12項で定義した通りである)
で示される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【0119】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子は、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール;
(viii)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(ix)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(6-メトキシナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール;
(x)5(4)-(3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール;
(xi)4-(4(5)-(4-フルオロフェニル)-2-(7-メトキシナフタレン-2-イル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル)ピリジン;
(xii)4-[4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;および
(xiii)4-[4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン
からなる群から選択される。
【0120】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子は、
(i)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(ii)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;
(iii)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(m-トリル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(iv)4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(v)4-[2-(1-ブロモナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン;
(vi)4-[2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル]ピリジン;および
(vii)2-(1-フルオロナフタレン-2-イル)-4-(ピリジン-4-イル)-5-(m-トリル)オキサゾール
からなる群から選択される。
【0121】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記造血幹細胞・前駆細胞を、少なくとも1種のサイトカインの存在下で増殖させる。前記少なくとも1種のサイトカインは、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT-3L)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン6(IL-6)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)およびインスリン様成長因子結合タンパク質2(IGFBP-2)を含む群から選択されることが好ましい。前記少なくとも1種のサイトカインは、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT-3L)およびインスリン様成長因子結合タンパク質2(IGFBP-2)を含む群から選択することがより好ましい。SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2のうち少なくとも2種、少なくとも3種またはこれら4種すべての存在下で前記造血幹細胞・前駆細胞を増殖させることが好ましい。SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2の存在下で前記造血幹細胞・前駆細胞を増殖させることが好ましい。前記造血幹細胞・前駆細胞は、100ng/ml SCF、100ng/ml TPO、50ng/ml FLT-3Lおよび20ng/ml IGFBP-2の存在下で増殖させることがより好ましい。
【0122】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記方法は、前記少なくとも1種のアゾール系低分子の共存下で、臍帯血単核細胞を少なくとも9日間培養する工程を含む。前記方法は、前記少なくとも1種のアゾール系低分子の共存下で、臍帯血単核細胞を約11日間培養する工程を含むことが好ましい。培養期間は、たとえば、出発試料として使用される臍帯血の種類、細胞の増殖速度または移植に必要な細胞数によって変わりうる。骨髄および動員末梢血にもCD45+CD34+HSPC細胞が含まれることから、本発明の方法に従って骨髄および/または動員末梢血に含まれる細胞を増殖させてもよい。
【0123】
本発明の別の好ましい一実施形態において、0日目および/または7日目に前記培養に前記サイトカインを添加する。本発明者らは、通常の培養において、細胞が増殖することによって新鮮な培地の添加が必要とされるのは7日目であることを見出し、これに従って、サイトカインおよびアゾール系低分子を所望により同時に補充した。培地の補充は7日目前後に必要とされ、たとえば6日目または8日目に補充が必要となる。培地には、たとえば、同じ量の新鮮培地を補充してもよい。
【0124】
本発明の別の好ましい一実施形態において、0日目および/または7日目に前記培養に前記少なくとも1種のアゾール系低分子を添加する。アゾール系低分子を0日目に添加するだけでも顕著な増殖が確認されたが、アゾール系低分子を0日目に添加し、かつ7日目前後に培地に補充した場合に細胞増殖が最適化されることが見出された(たとえば図12を参照されたい)。0日目にアゾール系低分子を添加した場合、約7日目までに数多くの細胞が発生することによって培地の効力が失われてしまうため、増殖を最適化するには培地の補充が必要であると認められる。
【0125】
本発明の別の好ましい一実施形態において、前記方法は、約7~11日間培養後に前記細胞を回収する工程をさらに含む。最適化された増殖が観察された場合、10日目または11日目付近で前記細胞を回収することが好ましい。
【0126】
本発明の別の好ましい一実施形態において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞を増殖させる。
【0127】
本発明の別の好ましい一実施形態において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+(HSC1)造血幹細胞を増殖させる。
【0128】
本発明の別の好ましい一実施形態において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(HSC2)造血幹細胞を増殖させる。
【0129】
本発明の別の好ましい一実施形態において、増殖させた前記造血幹細胞・前駆細胞は正常核型を有し、白血病化の徴候を示さない。
【0130】
本発明の別の好ましい一実施形態において、有核白血球のCD34-画分を単離し、移植を必要とする対象にエクスビボで増殖させた細胞と同時に移植するために保存しておく。リンパ系細胞を含むCD34-画分を同時に移植した場合、このCD34-画分によって、特にヒトにおいて、拒絶反応が起こる可能性が低下するか、あるいは、エクスビボで増殖させた細胞の移植の生着が改善する。
【0131】
本発明の別の一態様では、前記方法は、増殖させた造血前駆細胞および/または造血幹細胞の少なくとも一部をNK細胞に分化誘導する工程をさらに含む。このようにして得られたNK細胞を使用して、増殖させた造血前駆細胞および/または造血幹細胞の移植片による治療を受けているがん患者にさらなる治療を行ってもよい。このNK細胞は、治療後に再発を起こすリスクのある患者の予防、または移植片による治療後に再発を起こした患者の治療に使用することもできる。
【0132】
本発明の別の一態様において、本発明の態様のいずれかに記載の少なくとも1種のアゾール系低分子と少なくとも1種のサイトカインとを含む組み合わせ物および/またはキットを提供する。
【0133】
前記組み合わせ物および/またはキットの好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のサイトカインは、SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2を含む群から選択され、臍帯血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖に使用される。
【0134】
別の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子によって、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+造血幹細胞、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+造血幹細胞および/またはCD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞の増殖が促される。
【0135】
本発明の別の一態様において、臍帯血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖に使用するための、本発明の態様のいずれかに記載の少なくとも1種のアゾール系低分子を含む組成物を提供する。骨髄および動員末梢血にもCD45+CD34+HSPC細胞が含まれることから、骨髄および/または動員末梢血に含まれる細胞を本発明の化合物の存在下で増殖させてもよい。
【0136】
本発明の別の好ましい一実施形態において、造血幹細胞移植を必要とする疾患の治療用医薬品の製造における、本発明の実施形態のいずれかに記載の方法によって得られる細胞の使用を提供する。
【0137】
好ましい一実施形態において、前記医薬品は、エクスビボで増殖された前記細胞と、別個に保存された前記CD34-リンパ系細胞とを含む。
【0138】
本発明の別の一態様において、臍帯血に含まれる造血幹細胞・前駆細胞のエクスビボでの増殖における、本明細書に記載の少なくとも1種のアゾール系低分子の使用を提供する。骨髄および動員末梢血にもCD45+CD34+HSPCが含まれることから、骨髄および/または動員末梢血に含まれる細胞を本発明の化合物の存在下で増殖させてもよい。
【0139】
別の好ましい一実施形態において、前記少なくとも1種のアゾール系低分子によって、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+造血幹細胞、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+造血幹細胞および/またはCD45+CD34+造血前駆細胞の増殖が促される。
【0140】
本発明の別の一態様において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+造血幹細胞および/またはCD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+造血幹細胞および/またはCD45+CD34+CD38-CD45RA-造血前駆細胞の増殖を必要とする患者を予防または治療するための医薬品を製造するための、本明細書に記載の少なくとも1種のアゾール系低分子の使用を提供する。
【0141】
本発明の別の一態様において、治療方法であって、治療を必要とする対象に、本発明の態様のいずれかに記載の方法によって得られる造血幹細胞・前駆細胞の有効量を投与することを含む方法を提供する。好ましい一実施形態において、前記治療は、CD34-リンパ系細胞の有効量を前記対象に投与することをさらに含む。
【0142】
本発明の別の一態様において、治療方法であって、治療を必要とする対象に、本発明の態様のいずれかに記載のアゾール系低分子の有効量を投与することを含む方法を提供する。前記方法は、たとえば、静脈内投与を含んでいてもよい。このような治療を必要とする患者は、(化学療法または放射線の全身照射を受けたことによって)血球数が減少している患者であってもよく、骨髄疾患を有する患者であってもよい。
【0143】
前記対象は、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、再生不良性貧血、赤芽球癆、発作性夜間色素尿症、ファンコーニ貧血、サラセミアメジャー、鎌形赤血球貧血症、重症複合免疫不全、ウィスコット・アルドリッチ症候群、血球貪食性リンパ組織球症および先天性代謝異常から選択される造血疾患を有する対象であってもよい。
【実施例
【0144】
実施例1
方法
臍帯血(UCB)の採取、処理、解凍および播種
ドナーから提供されたものの臍帯血バンクの臨床基準を満たさなかった臍帯血単位をSingapore Cord Blood Bank(SCBB)から入手し、これらの臍帯血単位から臍帯血(UCB)を得た。臍帯血の提供者である母親およびSCBBの研究諮問倫理委員会から事前の承諾を得るとともに、シンガポール国立大学(NUS)の施設内審査委員会およびSingapore General Hospital(SGH)から、試料を使用する承認を得た。Ficoll-HistopaqueTM Premium(GEヘルスケア、英国)を使用した密度勾配遠心分離によって新鮮なUCBから単核細胞(MNC)を単離した。臍帯血単核細胞(UCB-MNC)をカウントし、10%v/vジメチルスルホキシド(DMSO)(シグマ アルドリッチ、米国)を加えた90%v/v自己血漿中に入れ、次の使用まで凍結保存した。この方法の概要を図3に示す。ヒト血清アルブミン(25%v/v)(Health Sciences Authority、シンガポール)およびデキストラン40(75%v/v)(Hospira、米国)を使用してUCB-MNCを解凍した。次いで、細胞表面マーカーによる幹細胞濃縮を行わずに、100ng/mLの幹細胞因子(SCF)(PeproTech、米国)とトロンボポエチン(TPO)(PeproTech、米国)からなるヒトサイトカインカクテル;50ng/mL FLT-3リガンド(FLT-3L)(PeproTech、米国);および20ng/mLインスリン様成長因子結合タンパク質-2(IGFBP-2)(R&Dシステムズ、米国)を添加したStemSpanTM Serum-Free Expansion Media(SFEM)またはアニマルコンポーネントフリー培地(ACF)(STEMCELL Technologies、カナダ)中に、経験則に基づいて決定した最適密度4.0×105個/mLでUCB-MNCを播種して培養した。UCB-MNCに対する効果について、5μMの濃度のIM-29の存在下または非存在下における様々なサイトカインの組み合わせ(各濃度は前掲の通り)を試験し、ACF培地中で11日間培養した際の総有核細胞(TNC)および造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)の増殖に対するこれらのサイトカインおよびIM-29の効果を調べた。いくつかの実験では、精製された細胞集団、たとえば、初期前駆細胞(CD45+CD34+CD38-)を5.0×104個/mlの最適播種濃度で播種し、あるいは後期前駆細胞(CD45+CD34+CD38+)を2.0×106個/mlの最適播種濃度で播種して細胞培養を開始した。これらの純粋な細胞集団は、凍結解凍した未濃縮のUCB-MNCを蛍光標識抗体で標識し、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を行うことによって得た。様々な置換アゾール系低分子をDMSOに溶解し、経験則に基づいて決定した最適濃度5.0μMで培養に加えた。アゾール系低分子の非存在下においてサイトカインを添加したUCB-MNC培養をコントロールとして使用し、サイトカインおよびDMSOを添加した培養を溶媒コントロールとして使用した。
【0145】
インビトロ実験のための細胞培養は、6ウェルプレートまたは24ウェルプレート(BD Falcon、米国)にて行い、インビボ移植研究のための培養はT-175フラスコ(コーニング、米国)にて行った。5%COインキュベーター内にて湿潤下37℃で必要な期間にわたって細胞培養を維持した。UCBの増殖評価および動物実験では、7日目にサイトカインおよび低分子を補充することを含む10~11日間の増殖プロトコルを確立し、これを使用して実験を行った。インキュベーション終了後、培養容器から細胞を吸引回収し、ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Hyclone、米国)で細胞をリンスした。回収した細胞を、白血球分類機能付自動血球計数装置(コールター(登録商標)Ac・TTM diff血球計数装置、ベックマン・コールター社、米国)を使用してカウントし、DPBS中に再懸濁し、インビトロ解析またはマウスへの移植に使用した。
【0146】
コロニー形成単位アッセイ
解凍した新鮮なUCB-MNCから得た顆粒球・単球(GM)または前記細胞培養プロトコルによって11日間増殖させた細胞のコロニー形成単位(CFU)を評価した。エリスロポエチン(EPO)(ミルテニーバイオテク、ドイツ)を添加した造血幹細胞(HSC)CFU測定用完全培地1.1mLを入れた35mmのペトリディッシュ(BD Falcon、米国)中に、解凍した新鮮なUCB-MNC(5,000個または10,000個)および増殖させた細胞(1,000個または5,000個)を二連で播種し、途中で培地を変更することなく培養した。37℃、5%COの湿潤環境下で14~16日間培養後、コロニーを定量し、電荷結合素子(CCD)カメラ(Olympus Europa GmbH、ドイツ)を備えたオリンパス社製SZ61顕微鏡を使用して写真を撮影した。
【0147】
動物の飼育、移植および操作
異種移植研究は、Singapore Health Services(SingHealth)の動物実験委員会による承認を受けてなされた。非肥満糖尿病(NOD)重症複合免疫不全(SCID)γ鎖欠損(NSG)マウスとしてよく知られているNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJマウスをジャクソン研究所(バー・ハーバー、米国)から購入し、SingHealth Experimental Medicine Centreにおいて性別ごとに6匹ずつケージに収容した。滅菌した食餌および水を自由に摂取させた。順化させ、繁殖させた後、8~12週齢のマウスに致死量以下の放射線(240cGy)を照射し、5つの実験群に無作為に分け、(i)生理食塩水;(ii)増殖させていないUCB-MNC;(iii)StemSpanTM-SFEMまたはStemSpanTM-ACF中においてサイトカインの存在下で増殖させたUCB-MNC(コントロール増殖培養);(iv)StemSpanTM-SFEMまたはStemSpanTM-ACF中においてIM-29およびサイトカインの存在下で増殖させたUCB-MNCのいずれかを尾静脈内投与した。インビボにおけるヒト細胞の生着動態を調べるため、(SFEMまたはACF中でIM-29の存在下または非存在下において)増殖させたUCBを、経験則に基づいて最適化した等価用量(equivalent dosage)2.5×107個/kg、5.0×107個/kgまたは10.0×107個/kgで移植するとともに、増殖させていないUCBを絶対用量2.5×107個/kg、5.0×107個/kgまたは10.0×107個/kgで移植した。移植の20週間後に一次NSGレシピエントマウスの骨髄から細胞を得て、(メーカーのプロトコルに従って)磁気抗体標識およびカラム精製(ミルテニーバイオテク、ドイツ)を行い、ヒトCD45+細胞を単離した。二次NSGレシピエントマウスを、(i)増殖させていないUCB-MNC移植群、(ii)サイトカインの存在下で増殖させたUCB-MNC移植群および(iii)IM-29およびサイトカインの存在下で増殖させたUCB-MNC移植群の各実験群に分け、単離したヒトCD45+細胞をマウス1匹あたり1×106~2×106個の移植用量で尾静脈注射することによって投与した。
【0148】
いずれのマウスにも、細菌性感染症を最小限に抑えるために抗生物質を投与し、移植片対宿主病(GVHD)の発症リスクを低下させるため免疫抑制薬を投与した。簡潔に説明すると、すべての実験群において、シクロスポリン(ノバルティス、米国)を使用した免疫抑制療法を細胞接種実験の翌日から開始し、最初の2日間は10mg/kgの用量で投与を行い、その後は15mg/kgの用量で1日おきにさらに3回投与を行った(計5回投与)。細菌性感染症を最小限に抑えるため、移植前の7日間および移植後の23日間にわたって、1.1g/L三硫酸ネオマイシン(シグマ アルドリッチ、米国)および0.1g/LポリミキシンB硫酸塩(シグマ アルドリッチ、米国)を含む酸性(pH=2.2)飲料水を与えた。下顎下静脈から採取した血液試料を使用して、移植から2~3週間後におけるヒト細胞の再構築を評価した。2週目の終わりまたは20週目の終わりにマウスを屠殺し、骨髄を採取して、様々なヒト細胞系列の再構築を解析した。
【0149】
フローサイトメトリー解析およびセルソーティング
データはいずれも、Cytomics FC500フローサイトメーター(ベックマン・コールター社、米国)またはBDTM LSR II(ベクトン・ディッキンソン社、米国)を使用し、1試料あたり少なくとも10,000イベントを測定することによって得た。次に、取得したデータを、CXP解析ソフトウェア(ベックマン・コールター社、米国)またはBD FACSDivaTM 8.0ソフトウェア(ベクトン・ディクソン社、米国)を使用して解析した。後述の滅菌された適切な蛍光標識モノクローナル抗体で標識し、UCB-MNCに由来する初期前駆細胞(CD45+CD34+CD38-)と後期前駆細胞(CD45+CD34+CD38+)をBD FACSAriaTM III(ベクトン・ディクソン、米国)を使用して識別した(図17G)。染色に使用する抗体の最適な濃度を特定するために滴定を行った。解析における非特異的な抗体結合をゲーティングにより除外するために、アイソタイプコントロールを使用した。
【0150】
フィコエリトリン(PE)標識CD34抗体、アロフィコシアニン(APC)標識CD38抗体およびフィコエリトリン-Cy7(PE-Cy7)標識CD45抗体を使用して、造血前駆細胞(HPC)の表現型解析または滅菌ソーティングを行った。CD45RA-V450、CD90-FITC(フルオレセインイソチオシアネート)およびCD49f-PerCP-Cy5.5を前記HPC抗体と併用して、まれなHSPC集団を検出した。リンパ系前駆細胞およびリンパ系分化細胞の表現型解析は、CD7-FITC、CD3-BV605、CD19-BUV395、CD56-V450およびCD138-PerCP-Cy5.5を使用して行った。骨髄系前駆細胞および骨髄系分化細胞の表現型解析は、CD33-PE-Cy7、CD41a-FITC、CD15-BUV395、CD13-BV421およびCD61-PerCP-Cy5.5を使用して行った。これらの表現型発現解析のいずれにおいても、7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)を使用して生細胞と死細胞を識別した。抗体はいずれもBD Pharmingen社(米国)から購入した。
【0151】
アネキシンV-FITC(ベックマン・コールター社、米国)、7-AAD(ベックマン・コールター社、米国)およびCD45-PE-Cy7を使用してCD45+細胞の生存能力を解析した。
【0152】
増殖させていない移植片および増殖させた移植片を移植した後、14日目、21日目、42日目、63日目、84日目、105日目、126日目または196日目においてマウス末梢血中におけるヒトキメリズムを解析した。約190μlの各血液試料に塩化アンモニウム(自家製処方)を加えて赤血球を溶解した後、非特異的な抗体結合を最小限に抑えるため、マウスFcR試薬およびヒトFcR試薬を使用してブロッキングを行った。試料中に残った白血球を、抗ヒトCD45-APC、抗ヒトCD3-PE/FITC、抗ヒトCD19-VioBlue/PE-Vio615、抗ヒトCD33-PE-Vio770、抗ヒトCD15-PerCP-Vio770、抗ヒトCD34-PEおよび抗マウスCD45-FITC/VioGreenで染色した。抗体およびブロッキング試薬はいずれもミルテニーバイオテク社(ドイツ)から購入した。
【0153】
移植後2週目または20週目に、2%ウシ胎仔血清(FBS)(シグマ アルドリッチ、米国)を添加したRPMI培地(インビトロジェン、米国)を使用して、各マウスの大腿骨および脛骨をフラッシュすることによって骨髄を得た。塩化アンモニウムを使用して各試料中の赤血球(RBC)を溶解した。2%FBS(シグマ アルドリッチ、米国)を含むDPBS(Hyclone、米国)を使用して有核細胞の洗浄および再懸濁を行い、適切な蛍光標識抗体およびフローサイトメーターを使用してヒト細胞表面マーカー/抗原を解析した。簡潔に説明すると、抗ヒトCD45-APC抗体および抗マウスCD45-FITC/VioGreen抗体を使用して、骨髄試料中に残った白血球を染色し、ヒト細胞とマウス細胞を識別した。ヒトCD34-PE抗体を使用してヒト前駆細胞を解析した。また、CD71-VioBlue、CD33-PE-Vio770、CD15-PerCP-Vio770、CD13-PE-Vio615、CD66b-APC-Vio770およびCD41a-VioGreenで染色することによって、ヒト骨髄系細胞を解析した。さらに、CD3-VioGreen、CD4-VioBlue、CD7-APC-Vio770、CD8-PerCP-Vio700、CD19-PE-Vio615およびCD56-PE-Vio770で染色することによって、ヒトリンパ系細胞を解析した。抗体およびブロッキング試薬はいずれもミルテニーバイオテク社(ドイツ)から購入した。
【0154】
抗体染色後、標識した各細胞をDPBS(Hyclone、米国)で洗浄し、2%FBS(シグマ アルドリッチ、米国)を含むDPBS(Hyclone、米国)中に再懸濁し、フローサイトメーターで解析した。
【0155】
蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)
UCB-MNC試料を改変カルノア固定液(ライカバイオシステムズ、ドイツ)で固定し、ガラス製の顕微鏡用スライド上に載せ、エタノール系列(シグマ アルドリッチ、米国)(70%、85%および100%)で2分間ずつ脱水し、空気乾燥させた。
【0156】
FISHアッセイは、LSI D7S486 SpectrumOrangeTM/CEP 7 SpectrumGreenTM、CEP 8 SpectrumAquaTM/LSI MYC SpectrumOrangeTM、LSI CDKN2A SpectrumOrangeTM/CEP 9 SpectrumGreenTM、LSI ABL1 SpectrumOrangeTM/BCR SpectrumGreenTM dual fusion translocation probe、LSI MLL dual color break-apart probe、LSI ETV6 SpectrumGreenTM/RUNX1 SpectrumOrangeTM extra signal dual color translocation probeおよびLSI TP53 SpectrumOrangeTM/CEP 17 SpectrumGreenTM probe setを含む一連のプローブ(Abbott Molecular、米国)を使用して行った。固定した細胞に各FISHプローブを載せ、75℃で同時変性し、37℃で一晩ハイブリダイゼーションした。スライドを洗浄し、DAPIアンチフェード溶液(Vectashield、ベクターラボラトリーズ、米国)で対比染色し、落射蛍光顕微鏡(ライカ、ドイツ)を使用して解析した。
【0157】
重なり合っていない100個の核からシグナルをカウントし、LSI D7S486の欠失、8トリソミー、CDKN2Aの欠失、ABL1およびBCRが関与する転座、MLLの切断、ETV6およびRUNX1が関与する転座、ならびにTP53の欠失を判定した。正常なシグナルパターンは、D7S486プローブのシグナルとCEP7プローブのシグナルが2個ずつ検出されること、CEP 8プローブのシグナルとMYCプローブのシグナルが2個ずつ検出されること、CDKN2AプローブのシグナルとCEP 9プローブのシグナルが2個ずつ検出されること、ABL1とBCRの融合シグナルが存在しないこと、離れることなく融合状態にあるMLL二重融合シグナルが検出されること、ETV6とRUNX1の融合シグナルが存在しないこと、およびTP53プローブのシグナルが2個検出されることとして定義される。
【0158】
細胞遺伝学的解析/核型解析
培養を行っていないUCB-MNCと、リード化合物であるIM-29の存在下または非存在下において標準的なサイトカインカクテルを含むStemSpanTM-ACF培地中で培養した10日目のUCB-MNCとを使用して核型解析を行った。核型解析を行うため、ウシ胎仔血清(シグマ、米国)、L-グルタミン(Gibco、米国)および抗生物質(Gibco、米国)を添加したRPMI 1640培地(Gibco、米国)を使用して、37℃に維持した5%CO湿潤インキュベーター内で各UCB-MNC細胞をさらに48時間培養した。培養した細胞を回収し、標準的な臨床検査プロトコルに従ってGバンド解析を行った。20個の細胞を解析し、核型解析の結果は、International System for Human Cytogenetic Nomenclature (2016)に従って記載した。
【0159】
白血球の細胞化学解析
解凍した新鮮なUCB-MNC細胞または(5.0μM IM-29の存在下または非存在下において)培養したUCB-MNC細胞の細胞塗抹標本を、標準的な臨床検査プロトコルを使用して、メイグリュンワルドギムザ(MGG)染色、スダンブラックB染色、過ヨウ素酸シッフ反応(PAS)染色およびミエロペルオキシダーゼ染色(p-フェニレンジアミンおよびカテコール)で染め、正立顕微鏡を使用して画像を撮影した。染色試薬はすべてシグマ アルドリッチ社(米国)から入手した。
【0160】
統計解析
結果は、図面の簡単な説明に記載の特定のn数の平均値±標準誤差(SEM)または平均値±標準偏差(SD)として報告する。2群間の有意差は、スチューデントの両側t検定を使用して決定し、P値は図面の簡単な説明に記載した。データ処理および統計解析は、OriginPro(登録商標)9.1(OriginPro社、米国)、GraphPad Prism 6.0(GraphPad Software社、米国)およびマイクロソフトOffice Excel(マイクロソフト社、米国)を使用して行った。
【0161】
実施例2
培養方法の主な工程
IM-29を使用して、凍結解凍したUCB-MNCからHSPCを増殖させる本発明の方法を本発明の実施例において実施し、この方法に含まれる主な工程を図2に示す。具体的には、この方法は、
(i)密度勾配遠心分離によって新鮮なUCBから単核細胞(MNC)画分を単離し、増殖を行うまで-180℃で凍結保存する工程;
(ii)UCB-MNCを解凍し、SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2からなるサイトカインカクテルを含み、既知成分からなる培地中でUCB-MNCを培養する工程;
(iii)5.0μMの最終濃度でIM-29を加える工程;
(iv)37℃に維持した5%CO湿潤インキュベーター内で細胞をインキュベートする工程;
(v)3日目に、CD45を発現する白血球(WBC)の生存能力を確認する工程(CD45細胞のサブセットの1つとしてHSPCが含まれる);
(vi)7日目に、増殖培地、サイトカインおよびIM-29を補充する(注ぎ足す)工程;ならびに
(vii)10日目または11日目に、細胞を回収して、インビトロ表現型アッセイおよびインビトロ機能アッセイを使用して増殖を評価するとともに、免疫不全マウスにインビボ移植して再構築能を確認する工程
を含む。
【0162】
増殖過程における細胞組成の変化を図5に示す。
【0163】
実施例3
SB203580化合物から誘導された低分子
p38 MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)の公知の阻害剤である親化合物SB203580(図6D)から誘導されたいくつかの類似体で構成された低分子ライブラリーを構築した。これらの類似体は、5~10μMの作用濃度で最適な活性を有していた。試験した化合物のうち、最も高い効果を示したのは図6Aに示す化学構造を有する化合物IM-29である。2番目に高い効果を示したのは、図6Bに示す化学構造を有する化合物IM-04である。IM-29およびIM-04の構造類似体のうち、IM-29およびIM-04に次いで効果が高かったものを図6Cに示す。本研究において、SB203580の類似体として、図6Eに示す計40種の化合物を作製し、構造および化学修飾に基づいて大きく4つのグループに分類した。図6Eに示すグループ1では、イミダゾールのC-4位およびC-5位の隣接するピリジン-4-イル/3-トリル部分またはピリジン-4-イル/3-(トリフルオロメチル)フェニル部分を保持したまま、イミダゾールのC-2位の置換基の様々なバリエーションを評価し、計6種の類似体を作製した。2番目に高い効果を示す化合物IM-04はグループ1に属する。さらに、イミダゾールのC-4位のトリル基または4-フルオロフェニル置換基を保持したまま、C-5位のピリジン-4-イル置換基をピラン-4-イル置換基で置換することによって、別の13種の類似体をグループ2として作製した(図6Eに示す)。図6Eに示すグループ3は、隣接するピリジン-4-イル/4-フルオロフェニル部分を保持したまま、イミダゾールのC-2位の置換基の様々なバリエーションを評価するために使用した化合物の構造を示す。リード化合物であるIM-29は、グループ3に属する。グループ4(図6E)では、化合物のコア構造であるイミダゾールをオキサゾールと置換した。図6Eに示したすべての類似体に基づいて構造活性相関研究を行い、HSPCの増殖を仲介するのに必須の重要な特異的化学構造および特異的修飾を特定した。概して、隣接するピリジン-4-イル/4-フルオロフェニル置換基を有するイミダゾールでは、C5位およびC4位に芳香族領域とH結合アクセプターが存在することによって、エクスビボにおけるHPCの増殖の誘導により高い活性を示すことが観察された。イミダゾールのC4位の置換基をトリルまたは3-(トリフルオロメチル)フェニル基と置換した場合、HPCの増殖に対する類似体の増強能が低下した。これと同様に、イミダゾールのC5位の置換基をピラン-4-イル基と置換した場合、HPCの増殖が有意に低下した。アゾールのC2位の置換基として最も好適であるのはナフチル置換基であり、このような置換基を有する類似体のうち、1-フルオロナフタレン-2-イルを置換基として有する化合物IM-29が、スクリーニングしたすべての化合物において、エクスビボでのHPCの増殖の誘導に最も強力な効果を示すことが特定された。IM-29において、イミダゾールのC2位の1-フルオロナフタレン-2-イルをナフタレン-2-イルで置換すると(たとえば化合物ZQX-33:4-[2-(ナフタレン-2-イル)-4(5)-(4-フルオロフェニル)-1H-イミダゾール-5(4)-イル]ピリジン)、HPCに対する増殖誘導能が少なくとも2分の1に低下した(P<0.001)。さらに、オキサゾール化合物(OZ-07)は、エクスビボにおけるHPCの増殖誘導において最適な活性を示さなかったことから、分子の中心構造にH結合ドナー基を有していることが必須であることが示唆された。
【0164】
すべての化合物について、アネキシンVおよび7-AADを併用して、CD45+白血球の生存能を維持する能力を評価した。エクスビボでの培養中にCD45+細胞のアポトーシスが誘導されると、HSPCの増殖が制限される。試験した化合物はいずれも、UCB細胞に対する急性毒性は最小限に抑えられていた(図7)。
【0165】
実施例4
類似体IM-29によるエクスビボHPC増殖の有意な向上
5.0μMの濃度のIM-29の添加によって、CD45+CD34+CD38-CD45RA-の発現プロファイルを有する造血前駆細胞(HPC)が10日間で少なくとも1,200倍に増殖することが示された(図8A)。HPCに対するIM-29の増殖増強効果は、サイトカインコントロールの8倍となった。また、IM-04の添加によってHPCが10日間で1,000~1,150倍に増殖したのに対して(図8A)、IM-01、ZQX-33、ZQX-36、GJ-CまたはOZ-07の添加によってHPCが10日間で400~900倍に増殖した(図8A)。別のアゾール系低分子をさらに含めてアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地でスクリーニングを再度行い、増殖データを図8Bに示した。さらに別の実験でも、HPCに関連するCD45+CD34+CD38-CD45RA-の発現がIM-29によって約68%に増加し、これはサイトカインコントロールの3倍であった(図8C)。
【0166】
親化合物であるSB203580の最適作用濃度が5.0μMであることから、先の実験は5.0μMの濃度で各低分子を添加して行ったが、HPCの増殖におけるIM-29の最適作用濃度を特定することが必要であった。図9Aに示すように、未選別のMNCから培養を開始し、5.0μMの濃度のIM-29を添加した場合に総有核細胞(TNC)の最適化された増殖が達成された。1.0μMまたは10μMの濃度のIM-29を添加した場合、総有核細胞(TNC)の増殖は、5.0μMの濃度で添加した場合と比較してそれぞれ0.83倍および0.70倍に低下した。同様に、1.0μM、5.0μMまたは10.0μMのIM-29を添加した場合、HPCの増殖が、サイトカインコントロールと比較してそれぞれ2.7倍、3.6倍および2.4倍に増加した(図9A)。以降の実験はいずれも、IM-29を5.0μMの作用濃度で使用して実施した。
【0167】
IM-29は、HPCを増殖させることができる新規な低分子であることから、最適なサイトカインの組み合わせを特定することを目的として、様々に組み合わせたサイトカインの存在下でIM-29を培養に添加した場合のIM-29の効果を調査した(図1)。サイトカインはHSPCの増殖に欠かすことができず、SCF、TPOおよびFLT-3Lからなるカクテルが一般に最もよく使用されている。図1に示すように、SCF(S)、TPO(T)、FLT-3L(F)、IGFBP-2(IG)およびIM-29(IM)を培養に添加した場合、HPCが1513.9±6.4倍に増殖し、最適化された増殖が観察された。これは、4種のサイトカイン(S+T+F+I)を添加した培養の少なくとも4.7倍であった(P<0.05)。この基本的なサイトカインカクテルが3種のサイトカインのみからなる場合(たとえばS+T+Fの組み合わせ;T+F+IGの組み合わせ;F+IG+Sの組み合わせ;S+IG+Tの組み合わせなど)、IM-29を添加することによってHPCの増殖が有意に増強された(P<0.05)。たとえば、S+T+Fの組み合わせ(486.8±27.2倍)とS+T+F+IM-29の組み合わせ(1265.2±39.1倍)を比較した場合、2.6倍(P<0.05)の増殖増強効果が観察された。同様に、S+IG+Tの基本カクテルにIM-29を加えると、HPCの増殖が2倍になる(P<0.05)。興味深いことに、2種のサイトカイン(たとえばS+TまたはT+F)のみを培養系に加えた場合であっても、IM-29の添加によって、HPCの比較的良好な増殖が達成された。一方、特定のサイトカインの組み合わせ(たとえばS+IM;T+IM;F+IMまたはIG+IM)を併用してIM-29を使用した場合、増殖が最小となった(データ示さず)。また、IM-29を単独で(すなわちサイトカインを添加せずに)加えると、HPCの増殖は増強されず、これは、成長因子をまったく加えずに細胞を培養した場合とよく似ていた(データ示さず)。総有核細胞(TNC)の増殖においては、S+T+F+IGからなるサイトカインカクテルとIM-29を併用した場合に最適化された増殖が観察された(図1
【0168】
IM-29で処理した細胞では、コロニー形成単位(CFU)の増殖が、非培養細胞と比較して少なくとも100倍に増加し、サイトカインのみを使用して増殖させた細胞では、CFUが非培養画分と比較して約25倍に増加した(図9B)。
【0169】
無血清増殖培地(ウシ血清アルブミンを含むSFEM)またはアニマルコンポーネントフリー(ACF)培地(化学的組成の明らかな培地)にIM-29を添加し、表現型アッセイおよび機能アッセイで評価したところ、UCB HPCの有意に良好な増殖が認められた(図10)。IM-29を添加した場合、HPCの増殖がサイトカインコントロールと比較して少なくとも2~3倍増加した。CFUに関しては、IM-29を添加した場合、顆粒球・単球(GM)コロニーの形成がサイトカインコントロールと比較して2.5~5倍増加した。これらのデータから、IM-29は、様々な増殖用基礎培地でもその作用を発揮できることが示唆された。
【0170】
実施例5
IM-29を培養に添加するタイミングおよび添加期間がHPCの増殖に及ぼす効果
IM-29を添加した培養においてUCBの培養期間を7日間から9日間に延長すると、HPCの増殖が少なくとも5倍増加した。一方、サイトカインのみを添加した培養では、同じ培養期間においてHPCの増加はわずか2.7倍に留まった。11日目までには培養開始時の細胞数と比較して、サイトカインコントロールでは総有核細胞(TNC)が最大で3倍に増加したのに対して、IM-29を添加した培養ではTNCが約6倍に増加した(図11)。
【0171】
10日間の培養において、0日目と7日目の両方でIM-29を添加したところ、HPC(CD45+CD34+CD38-CD45RA-)の増殖が、無血清増殖培地(SFEM)では少なくとも750倍に増加し、アニマルコンポーネントフリー(ACF)培地では少なくとも450倍に増加した(図12、グループ1)。基礎培地の種類に関係なく、グループ1におけるHPCの増殖は、サイトカインコントロールであるグループ3の少なくとも12倍であった。7日目にIM-29を補充しなかったグループ2では、HPCの増殖はグループ1と比較して少なくとも0.7倍に減少した。7日目にのみIM-29を添加した場合、すなわち培養開始時にIM-29を添加しなかった場合(グループ4)、HSPCの増殖に対する効果は認められなかった。したがって、UCB HSPCの最適化された増殖を可能とするためには、0日目と7日目の両方でIM-29を添加することが必要である。
【0172】
実施例6
IM-29による免疫不全マウス生着細胞(HSC1およびHSC2)の割合の増加
IM-29およびサイトカインの存在下において、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+(HSC1)およびCD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(HSC2)の発現率(%)が、非培養細胞の4~5倍に増加した(図13A)。細胞の絶対数に関しては、IM-29を添加して10日間培養した場合、免疫不全マウスに生着する細胞(HSC1:CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+)の割合が0日目と比べて少なくとも1,000倍に増加し、これに対して同じ集団にサイトカインのみを添加したコントロールでは、約80倍の増加しか観察されなかった(図13B)。CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+によって定義されるHSC2では、IM-29を添加して10日間培養した場合、サイトカインのみのコントロールと比較して増殖が少なくとも7.5倍増加した(図13C)。
【0173】
実施例7
IM-29の存在下で培養した細胞における正常核型の維持
細胞遺伝学的解析を行ったところ、IM-29の存在下で培養した細胞は正常核型を維持し(図13D)、非培養細胞の核型(データ示さず)と比較しても差が認められないことがわかった。また、悪性血液疾患に関連する様々なプローブを使用した蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行ったところ、IM-29の存在下で増殖させた移植片は、サイトカインのみの存在下で増殖させた移植片や非培養移植片(データ示さず)と比べて正常な結果を示すことがわかった(図13E)。細胞形態学的解析および白血球細胞化学解析の結果、IM-29の存在下で増殖させた移植片の白血病化を示す証拠は得られなかった(図13E)。
【0174】
IM-29の存在下で増殖させたUCB移植片を免疫不全マウスモデルに移植する方法の概要を図14に示す。IM-29の存在下で増殖させたUCB単核細胞を移植することによって得られた生着データを図15および図16に示す。UCB移植片(n=11)をIM-29の存在下で増殖させ、致死量以下の放射線を照射したNOD SCID γ(NSG)マウスに2.5×107個/kgの等価用量で移植したところ、21日目までに生着した末梢血中ヒトCD45+細胞が、増殖させていない移植片を移植した場合と比較して3.53倍増加し(P=0.0030;n=11)、サイトカインのみの存在下で増殖させた移植片を移植した場合と比較して2.09倍増加した(P=0.0005;n=12)(図15A)。凍結融解後に増殖させた移植片をNSGマウスに移植したところ、IM-29の存在下で増殖させた移植片は3週目のNSGマウスの末梢血(PB)中においてインビボでの再構築能を維持していたが(IM-29の存在下で増殖させた新鮮な移植片と凍結解凍した移植片の差はP=0.0730であった;図15A)、サイトカインのみの存在下で増殖させた移植片を移植した場合では、生着したヒトCD45細胞は少なかった(サイトカインのみの存在下で増殖させた新鮮な移植片と凍結解凍した移植片の差はP=0.0008であった;図15A)ことが示された。IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植した場合、NSGマウスの末梢血(PB)中において少なくとも最大19週間にわたりヒト細胞の生着が維持されていた(データ示さず)。また、増殖させていない移植片はCD3+T細胞で構成されていたのに対して、IM-29の存在下で増殖させた移植片は主に骨髄系細胞(CD33+/CD15+)で構成されていた(図15B)。さらに、IM-29の存在下で増殖させた移植片では、ドナー細胞が迅速に生着した。SCIDマウスに生着してヒト造血を再構築し、早期の末梢血生着に寄与する細胞(SCID repopulating cell)の頻度は、IM-29の存在下で増殖させた移植片では、細胞操作をしていない移植片の2.48倍となった。
【0175】
実施例8
IM-29の存在下で増殖させた移植片によるNSGマウスでの長期的な造血
IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植した19週間後のNSGレシピエントマウスの骨髄を解析したところ、この移植片は、長期的な造血を誘導する能力を有することが認められた(図16A~16E)。他の研究者によって報告されているように[Notta F, et al., Blood 115(18): 3704-7 (2010); McDermott SP, et al., Blood 116(2):193-200 (2010)]、移植片の種類(すなわち増殖させた移植片であるか、あるいは増殖させていない移植片であるか)に関係なく、このマウスモデルでは、雌性レシピエントは雄性レシピエントよりも生着率が高かった(図16A)。雄性レシピエントおよび雌性レシピエントに2.5×107個/kgまたは5.0×107個/kgの移植用量で移植を行った場合、IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植すると、絶対幾何平均値に差が認められたものの、増殖させていない移植片と比較して統計学的に同程度の量のヒトCD45細胞が確認され(図16B)、生着した共通前駆細胞(CD45+CD34+)、骨髄系前駆細胞(CD45+CD13+CD33+)およびリンパ系前駆細胞(CD45+CD7+)の量も同程度であった(図16C)。さらに、末梢血(PB)中におけるヒトCD45細胞の早期の生着と同様に(図15A)、凍結解凍後にIM-29の存在下で増殖させた移植片を投与すると、骨髄(BM)におけるヒト細胞の生着が、新鮮なUCBをIM-29の存在下で増殖させた移植片を投与した場合と同程度に長期間にわたって維持された(新鮮なUCBをIM-29の存在下で増殖させた移植片と凍結解凍後のUCBをIM-29の存在下で増殖させた移植片の間の差はP=0.6593であった;図16B)。また、IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植したところ、末梢血中の初期の生着細胞は骨髄系細胞への分化に傾倒したものの、NSGマウスの骨髄(BM)においてヒト成熟骨髄系細胞(図16D)およびヒト成熟リンパ系細胞(図16E)を含む様々な細胞系列が再構築された。さらに、IM-29の存在下で増殖させた移植片は、移植を受けたNSGマウスの骨髄(BM)において白血病化しなかった。
【0176】
実施例9
IM-29およびサイトカインを添加して培養したUCB MNCから主に発生する成熟骨髄系細胞の維持とその増加
図17Aに示したデータは、臍帯血(UCB)単核細胞(MNC)からエクスビボで増殖培養を開始した場合、IM-29およびサイトカインを添加した培養では、骨髄系の成熟細胞(CD45+CD33+単球、CD45+CD13+CD15+顆粒球およびCD45+CD41a+CD61+巨核球で構成される)が主に維持され、増加することを示している。これは、IM-29の存在下で増殖させた移植片では、移植前に成熟リンパ系細胞(CD45+CD3+T細胞、CD45+CD19+B細胞およびCD45+CD56+NK細胞で構成される)が排除されていることを意味している。図17Bに示すように、移植用量を1億個/kgに増加したところ、IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植した2週目までには、NSGマウスの末梢血(PB)中のヒトCD45+細胞の割合が7.1±0.6%となり、これはサイトカインのみの存在下で増殖させた移植片を移植したレシピエントの少なくとも5倍であり(P<0.0001;n=14)、さらに全ヒト細胞の絶対数も増加していた。一方、増殖させていないUCBをこのような1億個/kgという高い移植用量で移植すると、IM-29の存在下で増殖させた移植片と比較して少なくとも3.7倍有意に高い生着率を示した(P<0.0001;n=15)(図17B)。図15Bに示したデータと同様に、増殖させていない移植片を高い細胞用量で移植すると、移植後2週目のNSGマウスの末梢血(PB)中においてCD3+T細胞が主に生じたが、IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植すると、ヒトT細胞集団の維持は最小限に抑えられた(図17C)。移植後2週目のNSGマウスの骨髄(BM)を解析したところ、増殖させていない移植片の移植(n=6)とIM-29の存在下で増殖させた移植片の移植(n=6)とでは、上記と同様のヒトCD45+細胞の生着が再現され、これは、サイトカインのみの存在下で増殖させたコントロール移植片(n=6)を移植した場合よりも有意に高かった(P<0.01)(図17D)。NSGマウスの骨髄(BM)中のCD34+ヒト前駆細胞に関しては、移植後2週目において、IM-29の存在下で増殖させた移植片の移植(n=6)では13.3±0.8%のCD34+ヒト前駆細胞が維持されていたのに対して、増殖させていない移植片の移植(n=6)では0.7±0.1%のCD34+ヒト前駆細胞が維持されていた(P<0.001)(図17D)。前記の末梢血(PB)中における生着データと同様に、増殖させていないUCBを移植したNSGマウスでは、増殖させた移植片を移植した場合と比較して、骨髄(BM)においてCD3+T細胞が割合の大部分を占めていた(図17D)。しかしながら、図16A~16Eに示したデータに基づくと、IM-29の存在下で増殖させた移植片を移植した場合、ヒト細胞の早期の生着は前駆細胞および骨髄系細胞への分化に傾倒するものの、長期研究(移植の19週間後以降)では、NSGマウスの骨髄(BM)中にリンパ系細胞の発生も見られることから、様々な細胞系列の再構築が維持されるということには注目すべきである。増殖させていない移植片から再構築されたヒトT細胞の量が多いことから、NSGレシピエントマウスにおいて移植片対宿主病(GVHD)がより高率に発生し、その結果、移植後60日目における生存率は約25%と低くなった(図17E)。一方、(IM-29の存在下または非存在下において)増殖させた移植片を移植したNSGマウスでは、GVHDの症状が最小限に抑えられていたことから、移植後60日目において70%を超える生存率となった(図17D)。
【0177】
IM-29の存在下で増殖させた移植片の有効性を第1相臨床試験で評価する場合、臨床安全性を検討するために細胞操作を行っていない第2の移植片の輸注が必要とされる。図17A~17Hに示したデータに基づくと、IM-29の存在下でUCB MNCを増殖させることによって、CD34+前駆細胞および成熟骨髄系細胞が主に生じることが明らかである。リンパ系細胞が排除されたこのような増殖移植片を、細胞操作を行っていない移植片を含む第2の免疫細胞(UCB2、図17F)とともに輸注した場合、免疫拒絶を起こし、生着不全となると考えられる。したがって、第1相臨床試験では、UCB1移植片からCD34細胞を選択した際に凍結保存されたCD34-リンパ系細胞を、細胞操作を行っていない第2の単位(UCB2)とともに輸注することが必要とされる。これは、図17Fの概略図に示した以下の工程によって達成することができると考えられる。
(i)工程1-移植には不十分な細胞用量の臨床凍結UCB単位1(UCB1)を得る。解凍して洗浄後、磁気カラムを使用してUCB単位1からCD34+細胞を選択する。
(ii)工程2-前述したIM-29の存在下での増殖プロトコルを使用してUCB1由来のCD34+細胞を培養する。
(iii)工程3-成熟リンパ系細胞を含むUCB1由来CD34-画分を凍結保存する。
(iv)工程4-10~11日間かけてUCB1由来CD34+細胞を増殖させ、7日目に培地、サイトカインおよびIM-29を補充する。
(v)工程5-増殖させたUCB1を回収して洗浄後、特性を評価する。
(vi)工程6-増殖させたUCB1を患者に注入する。
(vii)工程7-UCB1由来CD34-画分を解凍して洗浄後、患者に注入する。
(viii)工程8-移植に十分な細胞用量の臨床凍結UCB単位2(UCB2)を得る。解凍して洗浄後、患者に注入する。
【0178】
IM-29を添加することによって、濃縮していないUCB MNCからHSPCを増殖することができたが、第1相臨床試験において増殖プロトコルを支持するには、精製されたCD34+細胞から培養を開始した場合のIM-29の増殖増強効果を調査することが必要であった。(蛍光標識抗体を使用して細胞を標識し、蛍光活性化セルソーティングを行うことによって)精製したCD34+CD38-細胞から培養を開始した場合、CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+によって定義されるHSC1のIM-29存在下での増殖が、サイトカイン培養の少なくとも15.9倍となった(P<0.0001)(図17G)。さらに、臨床グレードの選択方法に倣い、磁気カラムを使用してUCB移植片を濃縮することによりCD34細胞を得た。得られたCD34+細胞を、5.0μMのIM-29およびサイトカインカクテル(SCF、TPO、FLT-3LおよびIGFBP-2)の存在下で培養すると、11日以内にCD34+細胞が283.7±14.7倍に増加し、これはサイトカインコントロール培養の約1.9倍であった(図17H)。
【0179】
公知の他の方法との比較
IM-29に匹敵する低分子であるstemregenin-1(SR-1)を使用して濃縮HSPCを最長で15日間培養する類似の方法[Wagner JE, et al., Cell stem cell 18(1): 144-155 (2016)]では、CD34細胞の増殖率の中央値が330倍となっている。一方、本発明の方法に匹敵するニコチンアミド(NAM)を使用した別の技術[Horwitz ME, et al., J Clin Invest 124(7): 3121-3128 (2014)]では、21日間の培養においてCD34細胞の増加はわずか72倍に留まっている。これは、これらの低分子や方法と比べてIM-29が、CD34選択後の移植片の増殖に対して非常に強力な効果を発揮し、より短期間で有意により良好な増殖を達成できることを示している。これによって、試薬コストを節約することができる(SR1やNAMを使用した場合と比較して、培地、サイトカインおよび低分子の補充が少なく済む)とともに、このような細胞療法製品の製造に必要とされる期間を短縮することができると考えられる。少ない細胞用量や、造血機能回復の遅れなどの、臍帯血移植(UCBT)に不随する問題を解決するため、大きく2種に分けられる以下の方法を使用していくつかの臨床試験が試みられている。これら2種の方法を、注意すべき主な点とともに表1および表2にまとめた。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
【0182】
上記表1および表2に示したUCB操作の検討の大部分は、限られた細胞用量や、好中球および血小板の迅速な回復(移植後14日未満)といった問題を同時に解決することはできておらず、また1単位のUCB移植片のみを使用した長期的な造血も達成されていない。現在のところ、エクスビボでの増殖は最も有望な技術であることが証明されているが、ほとんどの場合(>60%)、早期の生着はそれほど良好ではなく、生涯を通じての造血機能は、細胞操作を行っていない共注入単位によってもたらされている。さらに、前記増殖プロトコルのいずれにおいても、CD34またはCD133に対する細胞表面マーカーを使用して幹細胞を事前に濃縮する必要がある。前述した現在の方法における、移植の成功を示す初期の指標である好中球の回復(3日連続して測定された血液1μlあたりの好中球の絶対数が500個を超えると定義される)までの期間と、使用した前処置レジメンを図17にまとめ、従来のHSCT移植と比較した。これらの方法に対して、本発明では、アゾール系低分子を使用して1単位の移植片を増殖させることによって、増殖させていない移植片では達成し得ない十分な細胞用量を確保できることが示されている。
【0183】
まとめ
本研究では、新鮮なヒト臍帯血(UCB)を造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)の供給源として使用した。
【0184】
UCB単核細胞(UCB-MNC)は、新鮮な試料を密度勾配遠心分離することによって得た(図3)。このMNCの増殖に際して、磁気選別によりCD34発現細胞を濃縮する必要はない。しかし、CD34+細胞を濃縮した試料も、本発明のアゾール系低分子を使用した増殖に適している。
【0185】
臨床では、増殖または移植に際して凍結試料のみが入手可能であることから、UCB-MNCを凍結後に解凍して実験に使用した(図3)。
【0186】
UCB MNC画分は、CD45を発現しない赤血球(RBC)と、CD45を発現する白血球(WBC)とを含む。HSPCは有核白血球のサブセットの1つであり、CD45抗原とCD34抗原を発現する(図4)。
【0187】
HSPCは様々な抗原の発現に基づき様々なサブセットに分類される(図4)。
a.造血前駆細胞(HPC)→CD45+CD34+CD38-CD45RA-(最も頻度が高いが自己複製能は最も低い)
b.造血幹細胞1(HSC1)→CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+(中程度の頻度で見られ、中程度の自己複製能を示す)
c.造血幹細胞2(HSC2)→CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(最も頻度が低いが自己複製能は最も高い)
【0188】
HSPCの増殖を促す化合物として、IM-29が最も高い効果を示した。IM-29の構造を図6Aに示す。
【0189】
HSPCの増殖を促す化合物として、IM-04が2番目に効果が高かった。IM-04の構造を図6Bに示す。
【0190】
IM-29およびその他の構造類似体の作用濃度は5.0μMである。
【0191】
IM-29を使用した増殖培養の開始時の細胞として好ましい細胞集団は、UCB単核細胞であり、すなわち、CD34やCD133などの細胞表面マーカーを使用した事前の幹細胞選択を必要とすることなく、十分な増殖を達成することができる。
【0192】
IM-29の存在下におけるUCB MNCの増殖に、無血清増殖培地(StemSpanTM-SFEM)およびアニマルコンポーネントフリー(StemSpanTM-ACF)培地を使用することができたことが本発明者らによって示された(図10)。その他の幹細胞増殖培地も適している可能性がある。
【0193】
すべての増殖培養(IM-29の存在下または非存在下で実施)にサイトカインカクテルを添加した。このサイトカインカクテルは、100ng/mlの幹細胞因子(SCF)とトロンボポエチン(TPO);50ng/ml FMS関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT-3L);および20ng/mlインスリン様成長因子結合タンパク質2(IGFBP-2)を含んでいた(図1および図2)。
【0194】
IM-29の存在下においてUCB移植片を増殖させるために実施例で使用した物理的条件として、5%COと37℃の温度が含まれる(図2)。しかし、骨髄の微小環境内における天然の幹細胞ニッチにより近づけるために、低酸素インキュベーター内で造血幹細胞・前駆細胞を培養してもよいことが知られている。本発明は低酸素の培養条件でも実施可能であると考えられる。
【0195】
IM-29およびその構造類似体はいずれも、3日目までのUCB細胞に対する毒性は最小限に抑えられていた(図7)。
【0196】
IM-29の存在下におけるUCB MNCの増殖培養は約7~11日間行う。表現型解析を行ったところ、最適な増殖培養期間は10日間であることが判明した(図11)。
【0197】
増殖を最適化するために培地およびサイトカインを補充する場合、IM-29を培養の開始時と7日目に添加することが好ましい(図12)。
【0198】
UCB MNCから培養を開始した場合、CD90(HSC1)およびCD49f(HSC2)を発現するHSPCが増殖する(図13)。増殖した細胞は、細胞遺伝学的異常を示さず、白血病化も起こさない(図13)。
【0199】
IM-29の存在下で増殖させた移植片(新鮮または凍結解凍)は、NSGマウスの血液中において早くも2~3週目に造血を再構築することができ(CD34前駆細胞および骨髄系細胞の初期生着)、この生着は骨髄中で少なくとも19~20週目まで継続した(幹細胞・前駆細胞、骨髄系細胞およびリンパ系細胞から派生した様々なヒト細胞系列の再構築が見られた)(図15~17)。
【0200】
IM-29を使用してUCBを増殖させる本発明の方法によって、成人の同種移植片としてのUCBの使用に不随する以下の問題を解決することができる。
1.総有核細胞数を少なくとも5倍増加させることができることから、移植片の細胞用量が少ないという問題を解決できる。
2.造血幹細胞・前駆細胞を増殖させることができる。具体的には、造血前駆細胞(HPC:CD45+CD34+CD38-CD45RA-)を少なくとも1,000倍に増殖させることができる。低分子を使用するだけで、このようなスケールで増殖させることができる方法は過去に報告されていない。確立された他のプロトコルでは、選択または精製されたCD34/CD133細胞から培養を開始した場合に限って、上記のようなスケールでの増殖が達成されている。また、本発明者らが知る限り、本発明の方法は、(a)CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+(HSC1)および(b)CD45+CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+(HSC2)の表現型発現によって定義されるまれなHSPC細胞の増殖を報告した最初の増殖プロトコルである。
3.増殖させたUCB移植片は、インビトロおよびインビボの機能アッセイを使用して測定される幹細胞・前駆細胞の機能性を維持している。具体的には、IM-29の存在下で増殖させた移植片を、致死量以下の放射線を照射した免疫不全マウスに移植すると、3週目までに末梢血中にキメリズムが示されることから、通常よりも早いヒト細胞の生着が認められる。今日まで、異種移植研究およびヒト臨床試験のいずれにおいても、増殖させた移植片から迅速に(3週間未満で)血球数を回復させることは大きな課題であった。さらに、本発明の方法で増殖させた移植片では、移植から19~20週間経過した免疫不全レシピエントマウスの骨髄において様々な細胞系列の造血が検出されたことから、長期間にわたって様々な細胞系列の造血を維持する能力を有することが示された。
【0201】
IM-29を使用した本発明の増殖プロトコルでは、十分な数の幹細胞・前駆細胞(>2500万個/kg)を得るために1単位のUCBしか必要とされず、現在の方法と比較して以下の利点を有する。
1.臨床的意義のあるレベルまでHSPCを増殖させるために、事前に幹細胞の選択を行う必要はなく、培地へのウシ胎仔血清の添加も必要とされない。臨床的見地から見て、事前の細胞選択を省略できると、非常に幼若な幹・前駆細胞、特に細胞の選択に必要とされる表面マーカーを発現しない幼若な幹・前駆細胞を排除してしまう可能性のあるさらなる操作工程が必要でなくなるという利点がある。
2.増殖技術の大部分では複雑なサイトカインカクテルが必要とされ、このうちのいくつかは、分化の後期段階に作用するサイトカインであり、自己複製を停止させて分化を急速に促進する。これに対して、本発明で提案された方法では、細胞増殖を達成するために、4種の成長因子からなる単純なカクテルと低分子とを使用しており、したがって操作が単純化されている。
3.IM-29の存在下で増殖させた移植片を得るにあたって、1単位のUCBTしか必要とされない。現在の臨床手技では、移植片対宿主病の発生率が高くなるにも関わらず、十分な細胞用量を確保するために細胞操作なしで2単位が同時に移植されているが、1単位のUCBTから増殖を行う本発明の方法では、このような現在の臨床手技と比較して、HLAマッチングの煩雑さが低減されている。
【0202】
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図1
図2
図3
図4
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図6A-B】
図6C-1】
図6C-2】
図6D
図6E-1】
図6E-2】
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図8A
図8B-C】
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B-C】
図13D-E】
図14
図15A
図15B
図16A-B】
図16C
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図16E
図17A-B】
図17C-D】
図17E-F】
図17G-H】
図18