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特許7168555成形性が向上したアルミニウムシート及び該アルミニウムシートから製造されたアルミニウム容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】成形性が向上したアルミニウムシート及び該アルミニウムシートから製造されたアルミニウム容器
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/04 20060101AFI20221101BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20221101BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20221101BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C22F1/04 C
C22C21/00 L
C22C21/06
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019511441
(86)(22)【出願日】2017-09-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2017049873
(87)【国際公開番号】W WO2018045296
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-04-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521342382
【氏名又は名称】カイザー アルミニウム ウォリック,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Kaiser Aluminum Warrick,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラウンス,トーマス,エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】マクニッシュ,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】キャップス,ジーン,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】コームス,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ウォルタース,クリストファー,エル.
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】粟野 正明
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-198879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C21/00-21/18
C22F1/04-1/057
ICIREPAT
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることであって、前記第1のアルミニウム合金シートのMn含有量が0.45~0.95重量%であり、前記圧延前に、前記第1インゴットは、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている、第1のアルミニウム合金シートを得ることと、
前記第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成することと、を含む方法であって、
前記第1のアルミニウム合金シートから形成され容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少なく、
前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、
(a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、
(b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、
(c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、ビンの上限値を円の面積(πrに等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、
(d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ、
前記5xxx系アルミニウム合金は、AA5043及びAA5006からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記3xxx系アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記3xxx系アルミニウム合金はAA3104である、請求項1の方法。
【請求項5】
前記第1分散質のf/rは4.5以上、7.65未満である、請求項1の方法。
【請求項6】
前記第1のアルミニウム合金シート中のMgの量は0.5重量%~0.9重量%である、請求項1の方法。
【請求項7】
3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、
前記第1インゴットを第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含む方法であって、
前記第1のアルミニウム合金シートから形成され容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少なく、
前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、
(a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、
(b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、
(c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、ビンの上限値を円の面積(πrに等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、
(d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、
を実行することによって得られる、方法。
【請求項8】
前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項7の方法。
【請求項9】
前記3xxx系アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される、請求項7の方法。
【請求項10】
前記3xxx系アルミニウム合金はAA3104である、請求項7の方法。
【請求項11】
前記5xxx系アルミニウム合金は、AA5043及びAA5006からなる群
から選択される、請求項7の方法。
【請求項12】
前記第1分散質のf/rは4.5以上、7.65未満である、請求項7の方法。
【請求項13】
前記第1のアルミニウム合金シート中のMnの量は0.45重量%~0.95重量%である、請求項7の方法。
【請求項14】
前記第1のアルミニウム合金シート中のMgの量は0.5重量%~0.9重量%である、請求項7の方法。
【請求項15】
3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることであって、前記第1のアルミニウム合金シートのMn含有量が0.45~0.95重量%であり、前記第1インゴットが、圧延前に、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている、第1のアルミニウム合金シートを得ることと、
前記第1のアルミニウム合金シートから容器を成形することと、を含む方法であって、
前記第1インゴットは、前記第1分散質のf/rが7.65未満であり、
前記第1分散質のf/r値は、
(a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、
(b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、
(c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、ビンの上限値を円の面積(πrに等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、
(d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、
を実行することによって得られる、方法。
【請求項16】
前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項15の方法。
【請求項17】
3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、 前記第1インゴットを、第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含む方法であって、
前記第1インゴットは、前記第1分散質のf/rが7.65未満であり、
前記第1分散質のf/r値は、
(a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、
(b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、
(c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、ビンの上限値を円の面積(πrに等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、
(d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、
を実行することによって得られる、方法。
【請求項18】
前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項17の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2016年8月30日に出願された米国仮出願第62/381,341号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
<発明の分野>
広義において、本発明は、飲料容器などの物品を成形するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
容器産業では、実質的に同じ形状の金属飲料容器が大量かつ比較的経済的に製造されている。造形された容器の製造において、容器の直径を拡大又は容器全体の直径を拡大するに際し、各金属容器を所定量拡張するために、幾つかの異なる拡張ダイを使用した幾つかの作業を必要とされることがしばしばある。また、容器のネック形成及び形状形成にダイが使用されている。各金属容器について所定量の拡径及び/又は減径を行うために、幾つかの異なるダイを使用して幾つかの作業を必要とされることがしばしばある。素材(blank)は、一端側に閉じた底部と他端側に開口端部とを有するカップに成形される。カップは、次に、ボディメーカー(例えば、再絞り工程及びしごき工程)を介して、缶に加工/成形される。容器の開口端部は、フランジ加工、カーリング、ネジ形成及び/又は他の加工を行うことによって、王冠キャップ、ツイストオフ王冠キャップ、ROPPクロージャ、キャップ、及び継ぎ端部などのクロージャを受け入れることができるように仕上げられる。ネック形成工程、拡径工程、形状形成工程及び仕上げ工程では、カーリング割れ、容器破損、容器崩れ、しわ発生、ひだ発生、ネジ破損、ネジ崩れ、フランジ割れなどの容器不良を生じることがある。
【発明の概要】
【0004】
<要旨>
方法は、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることを含む。なお、圧延前に、前記第1インゴットは、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱される。方法はまた、前記第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成することを含み、前記第1のアルミニウム合金シートが容器前駆体に形成されると、前記容器前駆体は、f/r値7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション(striations)及びリッジ(ridges)が少ない。
【0005】
幾つかの実施形態において、第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ以上、0.07インチ以下の厚さを有する。
【0006】
幾つかの実施形態において、3xxx系アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される。
【0007】
幾つかの実施形態において、3xxx系アルミニウム合金はAA3104である。
【0008】
幾つかの実施形態において、5xxx系アルミニウム合金シートは、AA5043及びAA5006からなる群から選択される。
【0009】
幾つかの実施形態において、第1分散質のf/rは約4.5以上、7.65未満である。
【0010】
幾つかの実施の形態において、第1のアルミニウム合金シート中のMnの量は0.45重量%以上、0.95重量%以下である。
【0011】
幾つかの実施形態において、第1のアルミニウム合金シート中のMgの量は0.5重量%以上、0.9重量%以下である。
【0012】
方法は、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、前記第1インゴットを、第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含み、前記第1のアルミニウム合金シートが容器前駆体に形成されると、前記容器前駆体は、f/r値7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少ない。
【0013】
幾つかの実施形態において、第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する。
【0014】
幾つかの実施形態において、3xxx系アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される。
【0015】
幾つかの実施形態において、3xxx系アルミニウム合金はAA3104である。
【0016】
幾つかの実施形態において、5xxx系アルミニウム合金シートは、AA5043及びAA5006からなる群から選択される。
【0017】
幾つかの実施形態において、第1分散質のf/rは約4.5以上、7.65未満である。
【0018】
幾つかの実施の形態において、第1のアルミニウム合金シート中のMnの量は0.45重量%以上、0.95重量%以下である。
【0019】
幾つかの実施形態において、第1のアルミニウム合金シート中のMgの量は0.5重量%以上、0.9重量%以下である。
【0020】
方法は、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることと、前記第1のアルミニウム合金シートから容器を成形することと、を含み、前記第1インゴットは、圧延前に、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されており、前記第1のアルミニウム合金シートが容器に形成されると、前記容器は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器と比べて、少なくも1つの容器欠陥を有さない。
【0021】
幾つかの実施形態において、第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.07インチの厚さを有する。
【0022】
方法は、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、前記第1インゴットを、第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含み、前記第1のアルミニウム合金シートが容器に形成されると、前記容器は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器と比べて、少なくも1つの容器欠陥を有さない。
【0023】
幾つかの実施形態において、第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.07インチの厚さを有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の実施形態は、上記の簡単な要約及び添付の図面に描かれた例示的実施形態を参照した以下の詳細な説明によって理解されることができる。しかしながら、添付の図面は本発明の典型的な実施形態のみを示すものであり、本発明の範囲を限定するものと解されるべきでないことに留意されるべきである。本発明は同等に有効な他の実施形態も認められるものとする。
【0025】
図1図1は、本開示の幾つかの実施形態によるアルミニウムシートの一部分を拡大して示す斜視図である。
【0026】
図2図2は、本開示の幾つかの実施形態による一体型ドーム部を有するアルミニウムボトルの側面図である。
【0027】
図3図3は、本開示の幾つかの実施形態によるプロセス工程を示す図である。
【0028】
図4図4は、本開示の幾つかの実施形態による実施例の項で評価した3種類の合金と対照合金における様々な合金元素の組成を示すグラフである。
【0029】
図5図5は、本開示の幾つかの実施形態における合金1~3及び対照について、予熱17時間後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真を示す。
【0030】
図6図6は、本開示の幾つかの実施形態における合金1~3及び対照について、予熱55時間後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真を示す。
【0031】
図7図7は、本開示の幾つかの実施形態に基づいて従来の予熱と長時間の予熱をした合金1について、再絞り(二次)後のカップ表面外観の比較写真である。
【0032】
図8図8は、本開示の幾つかの実施形態に基づいて従来の予熱と長時間の予熱をした合金3について、再絞り(二次)後のカップ表面外観の比較写真である。
【0033】
図9図9は、本開示の幾つかの実施形態に基づいて従来の予熱と長時間の予熱をした合金2について、再絞り(二次)後のカップ表面外観の比較写真である。
【0034】
図10図10は、本開示の幾つかの実施形態に基づいて従来の予熱と長時間の予熱をした対照合金について、再絞り(二次)後のカップ表面外観の比較写真である。
【0035】
図11図11は、本開示の幾つかの実施形態による例示的方法のフローチャートを示す図である。
【0036】
図12図12は、本開示の幾つかの実施形態による例示的方法のフローチャートを示す図である。
【0037】
理解を容易にするために、図面に共通の同一の要素を示すために同一の参照番号が使用されている。図は縮尺どおりに描かれておらず、明確にするために簡略化されている場合がある。一実施形態の要素及び特徴は、他の実施形態においても、さらなる説明を加えることなく組み込まれている。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<詳細な説明>
本発明について、添付の図面を参照してさらに説明するが、同様の構造については、幾つかの図を通して同じ参照番号が付されている。示された図は必ずしも縮尺とおりではなく、本発明の原理を説明することに重点が置かれている。さらに、幾つかの特徴については、特定の構成要素の詳細を示すために誇張されている場合がある。
【0039】
図は、本明細書の一部を構成し、本発明の例示的な実施形態を含み、その様々な目的及び特徴を示す。さらに、図面は必ずしも縮尺とおりではなく、特徴の中には特定の構成要素の詳細を示すために誇張されている場合がある。加えて、図面に示された全ての寸法、仕様などは、例示的なものであって、限定するものでないことが意図されている。それゆえ、本明細書で開示される具体的構造的及び機能説明は、限定するものとして解釈されるべきではなく、本発明が様々に使用され得ることを当業者に教示するための代表的な例として解釈されるべきである。
【0040】
開示された利点及び改良の中で、本発明の他の目的及び利点は、添付の図と併せて以下の説明から明らかになるであろう。本発明の詳細な実施形態を本明細書に開示するが、開示された実施形態は、様々な形態で具体化され得る本発明の単なる例示であることが理解されるべきである。さらに、本発明の様々な実施形態に関連して示される各実施例は、例示的であり、限定するものではないことが意図されている。
【0041】
明細書及び特許請求の範囲全体を通して、以下の用語は、文脈上他に明確に示されない限り、明示的に関連づけられた意味を有するものとする。本明細書で使用する「一実施形態」及び「幾つかの実施形態」という語は、たとえそのように記載されていたとしても、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。さらに、本明細書で使用される「他の実施形態」及び「幾つかの他の実施形態」という語は、たとえそのように記載されていたとしても、必ずしも異なる実施形態を指すとは限らない。それゆえ、以下に説明するように、本発明の様々な実施形態は、本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、容易に組み合わせることができる。
【0042】
また、本明細書で使用される「を基準として(based on)」という用語は排他的なものではなく、文脈上他に明確に指示されていない限り、記載されていない追加の要素に基づくものを許容する。また、本明細書を通して、「1つの(a/an)」及び「その(the)」は、複数のものを指す場合も含まれる。「~の中に(中の)(in)」の意味は、「~の中に(中の)(in)」と「~の上に(上の)(on)」を含む。
【0043】
図11は、本開示の幾つかの実施形態による例示的方法1100のフローチャートを示す。方法1100は、1102において、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金の第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることを含む。前記第1インゴットは、圧延前に、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている。次に、方法1100は、1104において、第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成することを含み、前記第1のアルミニウム合金シートが容器前駆体に形成されると、容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少ない。
【0044】
図12は、本開示の幾つかの実施形態による例示的方法1200のフローチャートを示す。方法1200は、1202において、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/rが7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することを含む。次に、方法は、1204において、前記第1インゴットを第1のアルミニウム合金シートに圧延することを含み、前記第1のアルミニウム合金シートが容器前駆体に形成されると、容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少ない。
【0045】
本明細書で使用される「容器前駆体(container precursor)」という語は、カップ又は1若しくは複数回再絞りされた(redrawn)カップのことをいう。幾つかの実施形態において、カップは、底部と、前記底部の周囲から周方向上向きに延びる周囲側壁と、を具えた構成である。幾つかの実施形態において、カップは、閉じた端部(底部)と開放された上端部とを有する一体型(one-piece)である。幾つかの実施形態において、平らな底部又はドーム部状の底部を有するように構成されたアルミニウム容器を形成するために、カップ(例えば、底部及び/又は側壁)に追加の成形工程を行うこともできる。
【0046】
幾つかの実施形態において、図1に示されるアルミニウム合金シート100は、f/r値が7.65未満の分散質を有するAA3xxx又は5xxx合金を含む。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、AA:3x03、3x04又は3x05のうちの1つを含む。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートはAA3104を含む。幾つかの実施形態では、アルミニウム合金シートはAA5043及びAA5006からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは圧延されたアルミニウム合金シートである。
【0047】
幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.06インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.05インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.04インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.03インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.02インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.006インチ~0.01インチの範囲の厚さを有する。
【0048】
幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.01インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.012インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.014インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.016インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.018インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートは、0.02インチ~0.07インチの範囲の厚さを有する。
【0049】
幾つかの実施形態において、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金シートは適当なインゴットから形成される。前記インゴットは、f/r値が7.65未満の分散質を有するのに十分な時間と十分な温度の予熱が施される。インゴットに対する予熱の実施は、適当な温度での予備均熱時間(presoak time)と適当な温度での均熱時間(soak time)とを加えたものを指す。
【0050】
幾つかの実施形態において、分散質f/r値は7.65未満である。幾つかの実施形態において、分散質f/r値は、7.5未満、7未満、6.5未満、6未満、5.5未満、5未満、4.5未満、4未満、3.5未満、3未満、2.5未満、2未満、1.5未満、1未満、又はそれより小さい。
【0051】
幾つかの実施形態において、アルミニウム合金シートには、少なくとも幾つかの分散質が存在する。
【0052】
幾つかの実施形態において、上記の分散質f/r値は、アルミニウムシートコイルとしてアルミニウム容器メーカー(例えば、アルミニウム缶及び/又はアルミニウムボトルのメーカー)に出荷されるアルミニウム合金シートを形成するために加工されるインゴットに対するものである。
【0053】
本明細書で使用される「分散質(dispersoid)」という語は、インゴットの予熱実施中に生成する第2相粒子を意味する。例えば、分散質は、3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金のどちらの合金においてもMnを含有する相である。
【0054】
本明細書で使用される「分散質f/r」という語は、第2相の量を第2相のサイズで割算した比を意味する。
【0055】
幾つかの実施形態において、3xxx又は5xxxアルミニウム合金シートは、0.4重量%~0.95重量%のMnと、0.5重量%~0.9重量%のMgとを含有し、f/r値が7.65未満の分散質を有する。
【0056】
幾つかの実施形態において、3xxx又は5xxxのアルミニウム合金シートは、0.4重量%~0.95重量%のMnと、0.5重量%~0.9重量%のMgとを含有し、f/r値が7.65未満の分散質を有するのに十分な時間と十分な温度の予熱が施されたインゴットから形成される。
【0057】
幾つかの実施形態において、Mn含有量は、少なくとも0.45重量%、少なくとも0.5重量%、少なくとも0.55重量%、少なくとも0.60重量%、少なくとも0.65重量%、少なくとも0.70重量%、少なくとも0.75重量%、少なくとも0.8重量%、少なくとも0.85重量%、少なくとも9重量%、又は少なくとも0.95重量%である。
【0058】
幾つかの実施形態において、Mn含有量は、0.45重量%以下、0.5重量%以下、0.55重量%以下、0.60重量%以下、0.65重量%以下、0.70重量%以下、0.75重量%以下、0.8重量%以下、0.85重量%以下、9重量%以下、又は0.95重量%以下である。
【0059】
幾つかの実施の形態において、Mg含有量は、少なくとも0.5重量%、少なくとも0.55重量%、少なくとも0.60重量%、少なくとも0.65重量%、少なくとも0.70重量%、少なくとも0.75重量%、少なくとも0.8重量%、少なくとも0.85重量%、又は少なくとも9重量%である。
【0060】
幾つかの実施形態において、Mg含有量は、0.5重量%以下、0.55重量%以下、0.60重量%以下で、0.65重量%以下、0.70重量%以下、0.75重量%以下、0.8重量%以下、0.85重量%以下、又は0.9重量%以下である。
【0061】
幾つかの実施形態において、図3に示されるように、上記した方法1100、1200は、300において、容器前駆体から容器を形成することと、310において、(例えば、アルミニウムボトルの形状に対応するテーパ状ネックを形成するために)容器の一部分(portion)の直径を少なくとも26%減少させることと、を含む。
【0062】
幾つかの実施形態において、容器の直径を減少させることは、容器をネッキングダイでネッキングすることを含む(すなわち、複数の工程を通じて)。幾つかの実施形態において、方法1100、1200は、減少した直径を有する容器の前記一部分の区域(section)を拡大することをさらに含む。幾つかの実施形態では、前記区域は長さを有する。幾つかの実施形態では、前記長さは少なくとも0.3インチである。幾つかの実施形態では、前記長さは少なくとも0.4インチである。幾つかの実施形態でにおいて、方法1100、1200は、減少した直径を有する容器の前記一部分のネッキングされた区域を拡大することをさらに含む。幾つかの実施形態において、容器はボトルである。一実施形態では、ボトルは、ネック部直径が本体の直径よりも小さい剛性容器である。幾つかの実施形態では、容器は再密閉可能である。
【0063】
図2は、本開示の幾つかの実施形態に基づいて形成されたドーム部210を有するアルミニウム容器(例えば、アルミニウムボトル)200の例を示す。幾つかの実施形態において、ドーム部210は、アルミニウム容器200の底部にあるドーム部210である。幾つかの実施形態において、アルミニウム容器200は、f/r値が7.65未満の分散質を有するAA3xxx又は5xxx合金を含む。幾つかの実施形態において、アルミニウム容器200は、第1直径202及び第2直径204を有し得る。幾つかの実施形態において、前記第1直径202は、アルミニウム容器200のドーム部210以外の部分の最小直径である。前記第2直径204は、アルミニウム容器200の最大直径である。幾つかの実施形態において、第1直径202は、アルミニウム容器200のドーム部210とは反対側の第1端部にある。幾つかの実施形態において、第2直径204は、前記第1端部と前記ドーム部210との間にある。幾つかの実施形態では、第1直径202は第2直径204の70%未満である。幾つかの実施形態では、第1直径202は第2直径204の65%未満である。幾つかの実施形態では、第1直径202は第2直径204の60%未満である。幾つかの実施形態では、第1直径202は第2直径204の55%未満である。
【0064】
幾つかの実施形態において、アルミニウム容器200は、AA3x03、AA3x04又はAA3x05のうちの1つを含む。幾つかの実施形態では、アルミニウム容器200は、AA3104を含む。幾つかの実施形態では、アルミニウム容器200は、AA5043及びAA5006からなる群から選択される。幾つかの実施形態において、アルミニウム容器200はアルミニウムシートを絞ること(drawing)及びしごくこと(ironing)によって形成される。
【0065】
本明細書の中で記載される合金及び質別(temper)は、アルミニウムに関する米国国家規格合金及び質別記号体系ANSI H35.1(American National Standard Alloy and Temper Designation System for Aluminum ANSI H35.1)並びに、2009年2月に改定された展伸用アルミニウム及び展伸用アルミニウム合金に関するアルミニウム協会国際合金記号及び化学組成限定(Aluminum Association International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys)によって規定される。
【0066】
<実施例:成形性評価>
【0067】
厚さ0.0186インチの3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金シートから容器前駆体(例えば、カップ)を形成した。アルミニウム合金シートの成形性の評価は、f/r値が7.65以上の分散質を有するアルミニウム合金シートから形成したカップと、f/r値が7.65未満の分散質を有するアルミニウム合金シートから形成したカップとの比較により行なった。
【0068】
カップ表面の外観を目視観察した。 1又は複数の実施形態において、カップ形成の改善は、1又は複数の基準によって定量化/評価されることでき、前記基準は、カップの廃棄に至るか、又は下流側でのネッキング、カーリング、ネジ形成、フランジ形成、若しくは拡径の作業で問題となる不良又は欠陥を生じる特徴を含む。
【0069】
成形性特性は目視観察によって評価され、f/r値が7.65以上の分散質を有する3xxx系アルミニウム及び5xxx系アルミニウムから形成されたカップと、f/r値が7.65未満の分散質を有する3xxx系アルミニウム及び5xxx系アルミニウムシートから形成されたカップとを対比することによって行なった。
【0070】
長時間の予熱時間では、評価された全ての事例のカップにおいて、滑らな外観を有することが視覚的に観察された(図7~10に示される)。それゆえ、予熱時間を長くすることより、アルミニウム合金シートの成形性が向上すると言える。すなわち、予熱時間が長いアルミニウム合金シートから再絞りされたカップは、予熱時間が長くないアルミニウム合金シートから再絞りされたカップよりも良好で改善された品質を有する。前記良好なカップは、下流での追加の成形加工によって、より良好なアルミニウム容器(すなわち、不良率及び/又は欠陥が少ない)に作られる。
【0071】
商業的ボトルラインでは、これらのカップは、さらなる成形工程が行われ、前記成形工程には、カップを(ボディメーカーを介して)缶に加工する工程、ネッキング工程、拡径工程、ネジ形成工程、ナロウイング(narrowing)工程、カーリング工程、フランジ形成工程、又はクロージャを受け入れるために容器の開口を形成する工程のうちの1又は複数の仕上げ工程を含む。f/r値が7.65以上の分散質を有するシートから形成されたカップの表面に観察されたストライエーションとリッジは、商業的ボトルラインの続いて行われる成形加工において、(f/r値が7.65未満の分散質を有するシートから形成されたカップで、そのような表面欠陥を有しないカップと比べて)高い不良率を有すると考えられる。不良の原因となる容器の欠陥は、例えば、カール割れ(curl splits)、容器破損(container fracture)、容器崩れ(container collapse)、しわ(wrinkles)、ひだ(puckers)、ネジ破損、ネジ崩れ、フランジ割れ(split flange)、又は表面仕上げのうちの1又は複数の欠陥が含まれる。
【0072】
<実施例:組成及び予熱の分散質f/rに対する影響>
【0073】
組成及び/又は予熱実施のアルミニウムシートに対する影響を評価するために、3種類の異なる合金を、商業的に入手可能なボトル原料(bottlestock)合金の対照と比較した。
【0074】
前記シートに対して、定量的微細構造キャラクタリゼーション(例えば、分散質f/rの計算)を行なった。前記試料について、金属組織学的に調製した縦断面上の3箇所の厚さ位置におけるSEM画像を、倍率10kXの後方散乱電子画像(15画像)で収集した。図5は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について17時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。図6は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について55時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。
【0075】
大きな平均原子番号を有する位置では、BSE画像が明るく見える。つまり、 不溶性成分Al12 [Fe,Mn]Siと分散質Al12 MnSiは、アルミニウムマトリックスよりも明るい。得られた画像を画像分析を行い、直径<550nm(0.55μm)の全ての粒子を測定した。
【0076】
分散質を同定し、これを利用して、分散質のf/r値を定量化する。SEMにより、表面で15画像、t / 4(1/4平面(plane))で15画像、t / 2(1/2平面)で15画像のデジタル画像を収集した。グレイレベルの画像は、画像に対して2段階の区別がされており、所定の閾値サイズ[サブミクロンサイズ粒子上限(submicron sized particle upper limit)]を超える全ての粒子は切り捨てられる(構成要素(constituents))。このようにして、インゴットの特定位置における分散質(粒子<所定の閾値)を規定する(defining)
【0077】
粒子が測定されると、それら粒子は横断面積の関数としてビンに分けられ(binned)、グループ化される。ディケイド(decade)当たりビンが5つの対数領域(log space)において、各ビンにおける分散質粒子の面積を合計し、得られた分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シート面積で割算し、次に100を掛算したものが分散質の面積%(「f」値)として得られる。「r」値は、ビンの上限(upper bin limit)値を円の面積(πrに等しいとして規定される円におけるrの値(rは、粒子の半径(d/2)であり、dは粒子の直径であって、dの単位はナノメートルであるが、f/r値を算出するときのrの単位はμm(マイクロメートル))として求められる。個々のビンについて、分散質f/rを計算し、次いで、分散質f/rを合計することにより、特定の合金試料(例えば、合金1~3及び対照合金)の分散質f/r値が得られる。
【0078】
ミクロ組織、機械的性質、及び成形性に対する予熱時間(従来の時間、及び従来より長時間)の影響を評価/決定するために、3種類の合金を対照合金と比較して評価した。
【0079】
次の表は、SEM画像及び定量的金属組織学を用いて、分散質(Al12Mn3Si)について、合金と予熱とによる差異を定量化したものである。
【表1】
【0080】
合金1は、Si0.21重量%、Fe0.51重量%、Cu0.16重量%、Mn0.88重量%、Mg0.50重量%、残部アルミニウムの組成を有するアルミニウム合金シートである。合金2は、Si0.21重量%、Fe0.52重量%、Cu0.15重量%、Mn0.69重量%、Mg0.70重量%、残部アルミニウムの組成を有するアルミニウム合金シートである。合金3は、Si0.2重量%、Fe0.53重量%、Cu0.15重量%、Mn0.55重量%、Mg0.99重量%、残部アルミニウムの組成を有するアルミニウム合金シートである。幾つかの実施形態では、対照合金はAA3104である。図4は、本開示の幾つかの実施形態に係るもので、実施例の項で示された3種類の合金における様々な合金元素の組成をグラフで表している。
【0081】
長時間の予熱時間では、面積%及び数密度が小さくなったことが観察された。また、予熱時間が17時間の画像を、予熱時間が55時間の画像と比較すると、構成相(constituent phase)の成長が分散質を犠牲にして起こったことが観察された。さらに、分散質粒子の直径に僅かな変化が観察された。また、長時間(55時間)の予熱により、全ての試料(すなわち、合金1~3及び対照合金)について、分散質f/r値に有意な低下が観察された。
【0082】
f/rが7.65未満の分散質を有するシートを製造するための1つの方法は、缶シートに利用される標準的な製造目標における予熱の実施時間を増やすことである。
【0083】
特定のメカニズム及び/又は理論に拘束されるものでないが、予熱の均熱温度が上昇するにつれて、最も小さい分散質Al12 MnSiは、熱力学的に不安定になり溶解すると考えられる。固溶体に戻るMnは、より大きな粒子(構成成分又は分散質のどちらも、大きな粒子が小さな粒子を犠牲にして成長する)に拡散する。特定のメカニズム及び/又は理論に拘束されるものでないが、この拡散により、不溶性構成成分の量が増加し、分散質の量が減少すると考えられる(すなわち、これらの相の総量は一定のままである)。このプロセスは、予熱均熱時間の増加及び/又は予熱均熱温度の上昇によって持続する。
【0084】
幾つかの実施形態において、アルミニウムシート用のインゴットの予熱時間は、1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1085°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1090°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1095°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱 、又は1100°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱である。さらに長い時間又は高い温度を適用することができる。
【0085】
幾つかの実施形態において、アルミニウムシート用のインゴットの予熱時間は、1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで35~40時間の均熱、又は1085°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで35~40時間の均熱、又は1090°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで35~40時間の均熱、又は1095°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで35~40時間の均熱 、又は1100°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで35~40時間の均熱である。さらに長い時間又は高い温度を適用することができる。
【0086】
幾つかの実施形態において、アルミニウムシート用のインゴットの予熱時間は、1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで37~40時間の均熱、又は1085°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで37~40時間の均熱、又は1090°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで37~40時間の均熱、又は1095°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで37~40時間の均熱 、又は1100°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで37~40時間の均熱である。さらに長い時間又は高い温度を適用することができる。
【0087】
本開示の様々な実施形態を詳細に説明したが、当業者であれば、それら実施形態の変形及び適用を思いつくであろうことは明らかである。しかしながら、そのような変形及び適用は本開示の精神及び範囲内にあることは理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12