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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】自己拡張型ステントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20221101BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20221101BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20221101BHJP
   A61F 2/844 20130101ALI20221101BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 500
A61L31/12 100
A61L31/14
A61F2/844
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019529100
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2018025582
(87)【国際公開番号】W WO2019013101
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017138397
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松下 周平
(72)【発明者】
【氏名】谷 和佳
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0152831(US,A1)
【文献】特表2013-526649(JP,A)
【文献】国際公開第2016/168706(WO,A1)
【文献】特表2016-512063(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0252144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61F 2/82- 2/97
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸由来の構成単位(A)、ε-カプロラクトンまたはトリメチレンカーボネート由来の構成単位(B)、および架橋剤由来の構成単位(C)を含む架橋重合体を有する自己拡張型ステントであって、前記構成単位(C)の含有量が、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して10重量%以上60重量%未満である、自己拡張型ステント。
【請求項2】
前記架橋重合体のヤング率が500N/mm以上であり、かつ10秒後リカバリー率が70%以上である、請求項1に記載の自己拡張型ステント。
【請求項3】
ナノインデンタを用いて負荷除荷試験した際のマルテンス硬さが50N/mm以上である、請求項1または2に記載の自己拡張型ステント。
【請求項4】
前記架橋重合体が、前記構成単位(A)、および前記構成単位(B)を含む共重合体に対して前記架橋剤を重合させてなり、
前記架橋剤の溶解性パラメータの値と、前記乳酸および前記ε-カプロラクトンおよび/またはトリメチレンカーボネートの溶解性パラメータの加重平均値と、の差の絶対値が5(J/cm1/2以内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の自己拡張型ステント。
【請求項5】
前記構成単位(A)および前記構成単位(B)の合計に対して、前記構成単位(B)が10~35モル%含まれる、請求項1~のいずれか1項に記載の自己拡張型ステント。
【請求項6】
前記架橋剤が多官能(メタ)アクリレートである、請求項1~のいずれか1項に記載の自己拡張型ステント。
【請求項7】
前記多官能(メタ)アクリレートが4官能以上の(メタ)アクリレートである、請求項に記載の自己拡張型ステント。
【請求項8】
乳酸由来の構成単位(A)、およびε-カプロラクトンまたはトリメチレンカーボネート由来の構成単位(B)を含む共重合体と、該共重合体に対して10重量%以上60重量%未満の架橋剤と、を重合させて架橋重合体を得、
該架橋重合体を用いてステントを得る、自己拡張型ステントの製造方法。
【請求項9】
前記共重合体の重量平均分子量が100,000~1,000,000である、請求項に記載の自己拡張型ステントの製造方法。
【請求項10】
前記共重合体と、前記架橋剤と、の重合を紫外線照射下で行う、請求項またはに記載の自己拡張型ステントの製造方法。
【請求項11】
記構成単位(A)、および前記構成単位(B)を含む共重合体と、前記架橋剤との重合を光重合開始剤存在下で行う、請求項10に記載の自己拡張型ステントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己拡張型ステントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、血管等の管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、狭窄もしくは閉塞部位を拡張し、内腔を確保するために使用される医療用具である。近年では、急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction:AMI)においても、ステントを用いた治療が行われている。血栓性の病変であるAMIに対するステントを用いた治療では、ステント留置後の血栓溶解により、ステントの血管壁に対する圧着不良(Incomplete Stent Apposition:ISA)が起きやすい。
【0003】
ところで、ステントには、ステントをマウントしたバルーンによって拡張されるバルーン拡張型ステントと、外部からの拡張を抑制する部材を取り除くことによって自ら拡張する自己拡張型ステントとがある。
【0004】
自己拡張型ステントは、例えば、シースなどのデリバリーシステムに収縮した状態で収納され、留置場所に到達したときに、拘束が解かれることで自己拡張するため、バルーン拡張型ステントを留置する際に行うような拡張作業が不要である。自己拡張型ステントとしては、ニッケルチタン合金などの超弾性合金からなる自己拡張型ステントが欧州では上市されている。このような自己拡張型ステントによる治療により、AMI治療における短期の圧着不良は飛躍的に改善している。
【0005】
ステントを構成する材料としてニッケルチタンなどの超弾性合金は、強いラジアルフォース(径方向への拡張保持力)を有するため、治療の期間にわたって血管壁を所定の径に維持する点において有効である。しかしながら、治療の期間経過後にも強いラジアルフォースが長時間にわたり血管壁にかかるため、中長期の臨床成績における主要有害心血管イベント(Major Adverse Cardiac Events:MACE)、特に標的病変再血行再建(Target Lesion Revascularization:TLR)がバルーン拡張型ステントよりも悪化する場合があった。
【0006】
かような事情に鑑み、生分解性材料からなるステントが開発されている。生分解性材料は生体内で徐々に分解されるために、時間経過とともにステントのラジアルフォースが低下し、中長期の臨床成績(特にTLR)が改善されることが予想される。
【0007】
このような生分解性を有するステントとして、特表2015-527920号公報(国際公開第2014/018123号)では、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)およびゴム状ポリマーからなる形状記憶ランダム共重合体から製造されるステントが開示されている。
【0008】
また、米国特許出願公開第2010/0262223号明細書では、生分解性ポリマーを架橋剤で架橋して基材を形成するステントの製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、特表2015-527920号公報(国際公開第2014/018123号)に記載のステントは、クリンプ状態(収縮された状態)から拡張状態へはバルーンカテーテルによる拡張が必要である。さらに、特表2015-527920号公報(国際公開第2014/018123号)の[0119](国際公開第2014/018123号の38頁第2~8行)には、ポリ乳酸およびポリカプロラクトンが90:10(モル比)の樹脂を用いたステントが拡張後60分間は内向きにリコイルした後、数日かけて外向きにリコイル(形状回復)するとの記載がある。このように形状回復が遅い場合、ステントの圧着不良が発生しやすくなる。ステントの圧着不良により、ステント血栓症が発症したり、場合によっては血流によってステントが動いてしまう事も考えられる。したがって、収縮された状態の径から早期に収縮前の径に戻る形状回復の速さが自己拡張ステントには求められる。
【0010】
これに対し、特表2015-527920号公報の[0049](国際公開第2014/018123号の18頁第14~21行)に記載のように、PLLAおよびゴム状ポリマーの共重合体において、ゴム状ポリマーの配合量を増加させることで、ポリマーの弾性特性が向上し、内向きリコイルも低減すると考えられる。しかしながら、単に樹脂中のゴム状ポリマーを増加させると、狭窄した動脈を支持するのに十分な径方向強度を有さなくなる。
【0011】
また、米国特許出願公開第2010/0262223号明細書では、ステントが自己拡張する傾向があることは記載されているものの、体温付近(37℃)において収縮された状態から外向きに拡張する形状回復の速さについての検討はなされていない。さらに、米国特許出願公開第2010/0262223号明細書では、L-ラクチドおよびα-アリル-σ-バレロラクトンから形成される自己架橋型ポリマーまたは、L-ラクチド-α,α-ジアリル-σ-バレロラクトンから形成される自己架橋型ポリマーを製造しているのみで、その特性についての具体的検討はなされていない。
【0012】
さらに、ステントは拡張状態からクリンプ状態に縮径するときに、ステントストラットの折り返し部(ジグザグの頂点)付近で引張方向と圧縮方向にそれぞれ10%程度の局所的な応力がかかり、ひずみが発生する。したがって、発生したひずみに対する耐性も必要となる。
【0013】
したがって、本発明は、十分なラジアルフォースを有し、また、十分なひずみ耐性を有するとともに、体温付近(37℃)において、収縮した状態から拘束を解かれたときに外向きに拡張する形状回復の速い自己拡張型ステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)、ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)、および架橋剤由来の構成単位(C)を含む架橋重合体を有する自己拡張型ステントであって、構成単位(C)の含有量が、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して10重量%以上60重量%未満である、自己拡張型ステントである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係るステントを示す図であって、(A)は、ステントの展開図、(B)は、(A)の部分拡大図である。図1において、3は第1波状ストラット、4は第2波状ストラット、5は接続ストラット、6は結合部、7は放射線不透過性マーカー、8は膨出部、9、51は屈曲部、10はステント、30はステント基体、35a、45aは小屈曲部、38は第1波状ストラット3の上点、39は第1波状ストラット3の下点、48は第2波状ストラット4の下点、49は第2波状ストラット4の上点を示す。
図2】リカバリー率を説明するための、引っ張り試験における時間経過によるストローク変位(Stroke、変位の大きさ)を示すグラフである。
図3】リカバリー率を説明するための、引っ張り試験における応力-ストローク変位線図である。
図4】実施例25および比較例7のステントにおけるラジアルフォースの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0017】
本発明の第一実施形態は、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)、ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)、および架橋剤由来の構成単位(C)を含む架橋重合体を有する自己拡張型ステントであって、構成単位(C)の含有量が、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して10重量%以上60重量%未満である、自己拡張型ステントである。
【0018】
本実施形態によれば、収縮した状態から拘束を解かれたときに形状回復するスピードが速く、また、ステントが拡張状態からクリンプ状態へ縮径する際に発生する、ステントストラットへの局所的な応力に対して十分な耐性を持つとともに、ラジアルフォースが向上した自己拡張型ステントの提供が可能となる。
【0019】
以下、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)を構成単位(A)と、ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)を構成単位(B)と、架橋剤由来の構成単位(C)を構成単位(C)とする。
【0020】
架橋重合体は、構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体を架橋剤由来の構成単位(C)で架橋した構造をとる。
【0021】
構成単位(A)は硬質であるために、体温(37℃)付近で剛性を有する。また、構成単位(B)はゴム状であるために、体温(37℃)付近で弾性を有する。ゆえに、構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体とすることで、体温付近で剛性および弾性(挿入時の縮小された径から収縮前の径に戻る性質)の双方の性質を有するようになるが、双方の性質を高い性能のまま両立させることは難しい。本実施形態では、共重合体を架橋剤で架橋させることで、高い剛性および弾性を両立することが可能となる。さらには、架橋剤量を構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して10重量%以上60重量%未満の範囲とすることで、ステントが拡張状態からクリンプ状態への縮径する際に発生するステントストラットへ局所的にかかる応力によって発生するひずみに対して十分な耐性を持つものとなる。
【0022】
ゆえに、このような構成を採ることで、挿入時径(デリバリーシステムに組み込んだ状態の縮径された直径、例えば、1.5mm)から留置径(体内に留置した直後の直径、例えば、3.0mm)まですぐに(例えば、10秒以内)自己拡張でき、さらに、留置径からもとの径(デリバリーシステムに組み込む前の拘束がない状態での自然直径、例えば、4.0mm)まで早期に(例えば、20分以内)自己拡張することができる。また、十分な径方向強度を発揮できるため、血管などの管腔壁の径方向への拡張が維持されるとともに、生分解性を有するため、治癒とともにステントの径方向強度は低下する。よって、第一実施形態の自己拡張型ステントによれば、ステントの圧着不良が低減され、さらに、時間経過により樹脂が分解することでラジアルフォースが低下し、中長期の臨床成績(特にTLR)も改善されると考えられる。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本実施形態のステントについて説明する。なお、図面の寸法の比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。なお、明細書の説明においては、ステントの長手方向(図1(A)中の左右方向)を軸方向と称する。
【0024】
まず、ステントの各部の構成について説明する。ステントとしては、例えば、国際公開第2011/034009号(米国特許出願公開第2012/158119号明細書)の図7または図8の例が挙げられる。なお、図示により説明するステント10の構成は一例であり、ここで説明する形状や構造(例えば、ストラットの配列やデザイン等)に本発明のステントが限定されることはない。
【0025】
図1(A)、(B)に示すように、本実施形態に係るステント10は、ステント基体(ステント本体部)30を有しており、全体として軸方向に所定の長さを有する略円筒形の外形形状で形成されている。ステント10は、生体内の管腔(例えば、血管、胆管、気管、食道、その他消化管、尿道等)内に留置され、管腔の内腔を押し広げることにより、狭窄もしくは閉塞部位の治療を図るために使用される。ステント10は、留置開始後にステント基体30が予め形状記憶された所定の拡径形状となるように自己拡張する自己拡張型ステントである。また、ステント10は、生体内で分解吸収される生分解性ステントである。ステント10が有するステント基体30を構成するストラットは、生分解性の架橋重合体により構成されている。架橋重合体は、例えば、加水分解により生体内で分解される。
【0026】
ステント基体30は、ステント基体30の一端側から他端側まで軸方向に延びかつステントの周方向に複数配列された波状ストラット3、4と、各隣り合う波状ストラット3、4を接続する複数の接続ストラット5とを備える。隣り合う波状ストラット3、4は、複数の近接部と離間部を備え、接続ストラット5は、隣り合う波状ストラット3、4の近接部間を接続するとともに、中央部にステントの軸方向に延びる屈曲部51を備えている。また、接続ストラット5の屈曲部51は、ステント10の先端方向に延びる自由端となっている。第1波状ストラット3および第2波状ストラット4は、正弦波状のものとなっている。
【0027】
ステント基体30においては、第1波状ストラット3と第2波状ストラット4は、ほぼ同じ波長およびほぼ同じ振幅であり、かつ、第2波状ストラット4は、第1波状ストラット3に対して、約半波長分がステントの軸方向にずれた形態となっている。
【0028】
このため、図1(B)に示すように、隣り合う第1波状ストラット3と第2波状ストラット4において、第1波状ストラット3の上点38もしくは下点39と第2波状ストラット4の下点48もしくは上点49は、ほぼ向かい合い、近接部および離間部を形成している。また、ステント基体30では、各波状ストラット3,4は、両端を除いて全て同じ長さとなっている。
【0029】
そして、ステント基体30では、接続ストラット5の波状ストラット3、4に接続される両端部52,53は、接続ストラット5の外側方向に湾曲する小屈曲部となっている。接続ストラット5は、この小屈曲部において波状ストラット3の上点38もしくは下点39、波状ストラット4の下点48もしくは上点49に接続されている。
【0030】
ステント基体30の先端部において、第1波状ストラット3および第2波状ストラット4の先端部が結合して形成された屈曲部9と、接続ストラット5の屈曲部51に設けられた膨出部8とを、周方向に交互に備えるものとなっている。そして、膨出部8には、後述する放射線不透過性マーカー7が取り付けられている。また、膨出部8より、屈曲部9は、ステントの先端側に位置している。このように先端側の造影マーカーが、ステント端部より若干内側に位置するものとなっている。マーカーより外側までストラットがあるので、病変部を確実にカバーすることが可能である。
【0031】
ステント基体30では、第1波状ストラット3および第2波状ストラット4の先端部が結合して形成された屈曲部9より所定距離基端側に、屈曲部9の内側に屈曲する小屈曲部35a、45aが設けられており、長い自由端となっている屈曲部9の拡張保持力を向上させている。
【0032】
ステント基体30では、ステントの基端部において、第1波状ストラット3および第2波状ストラット4の基端部がすべて結合部6に結合されている。そして、結合部6を除き、ステントの基端方向を向く自由端を持たないものとなっている。言い換えれば、すべての屈曲部がステントの先端方向を向いている。このため、ステントに対してシースを先端側に移動させた際、シース(ステント収納部材)に向かう自由端がないため、ステントがシースに引っかかることがなく、シース(ステント収納部材)へのステントの再収納が可能である。
【0033】
そして、結合部6には、放射線不透過性マーカー7が取り付けられている。結合部6は、端部方向に所定距離離間して平行に延びる2本のフレーム部を備えており、放射線不透過性マーカー7は、2本のフレーム部のほぼ全体もしくは一部を被包するものとなっている。また、放射線不透過性マーカー7は、薄い直方体状のもので、2本のフレーム部を内部に収納し、かつ中央部が窪むことにより、2本のフレーム部に固定されている。放射線不透過性マーカーの形成材料としては、例えば、イリジウム、プラチナ、金、レニウム、タングステン、パラジウム、ロジウム、タンタル、銀、ルテニウム、及びハフニウムからなる元素の群から選択された一種のもの(単体)もしくは二種以上のもの(合金)が好適に使用できる。
【0034】
本発明に係るステントには、ステントおよびステントグラフトが含まれる。
【0035】
ステントの厚さは、従来の一般的なものが採用できる。例えば、ステントの厚さは、50~500μm程度であり、支持性と分解時間との関係から、60~300μm程度が好ましく、70~200μm程度がより好ましい。本実施形態に係るステント基体は、優れた力学特性(例えば、拡張保持力)を有するため、ステントを肉薄にできる。
【0036】
ステントの大きさも、その目的や機能に合わせて適宜調節される。例えば、拡張後におけるステントの外径(直径)は、1~40mm程度が好ましく、1.5~10mm程度がより好ましく、2~5mm程度が特に好ましい。
【0037】
また、ステントの長さも特に制限されず、処置すべき疾患によって適宜選択が可能であり、例えば5~300mm程度が好ましく、10~50mm程度がより好ましい。
【0038】
ステント基体30は、架橋重合体から構成される。架橋重合体は、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)、ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)、および架橋剤由来の構成単位(C)を含む。架橋重合体は、構成単位(C)によって重合体鎖が架橋された構造を有し、具体的には、架橋重合体は、構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体と、該共重合体に対して10重量%以上60重量%未満の架橋剤と、を重合させてなることが好ましい。
【0039】
硬質生分解性ポリマーにおいて、ポリマーが硬質であるとは、モノマーを重合させたホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上のポリマーを指す。ガラス転移温度が40℃以上のポリマーは、体温(37℃付近)において剛性を有する。このため、かような硬質生分解性ポリマーを構成するモノマーを有する共重合体は、管腔内に留置された際にも径方向の力を維持することができる。
【0040】
ガラス転移温度は、Perkin Elmer社製DiamondDSCを用いてJIS K7121:2012(プラスチックの転移温度測定法)法により測定した値を採用する。
【0041】
また、本明細書において、「生分解性」とは、実施例に記載の生分解性試験において、加水分解試験前の破断伸びに対する加水分解試験後の破断伸びが90%以下(下限0%)であることを指す。
【0042】
硬質生分解性ポリマーを構成するモノマーとしては、具体的には、L-乳酸(ポリL-乳酸(PLLA)のTg60℃)、D-乳酸(ポリD-乳酸(PDLA)のTg60℃)、グリコール酸(ポリグリコール酸(PGA)のTg45℃)などが挙げられる。これらのモノマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。例えば、L-乳酸およびグリコール酸を併用してもよく、また、L-乳酸およびD-乳酸を併用してもよい。
【0043】
中でも、生分解性および機械的強度に優れることから、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマーは、乳酸および/またはグリコール酸であることが好ましく、乳酸であることがより好ましく、L-乳酸であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、乳酸の場合、直接重縮合させる方法では高分子量化できないので、ラクチドを用いて必要に応じて用いられる触媒の存在下で開環重合することにより重合することができる。ラクチドには、L-乳酸の環状二量体であるL-ラクチド、D-乳酸の環状二量体であるD-ラクチド、D-乳酸とL-乳酸とが環状二量化したメソ-ラクチドおよびD-ラクチドとL-ラクチドとのラセミ混合物であるDL-ラクチドがある。また、グリコール酸も同様に、直接重縮合させる方法は高分子量化できないので、グリコリドの開環重合を用いることができる。
【0045】
ゴム状生分解性ポリマーにおいて、ポリマーがゴム状であるとは、モノマーを重合させたホモポリマーのTgが30℃以下のポリマーを指す。ガラス転移温度が30℃以下のポリマーは、体温(37℃付近)において弾性を有する。このため、かようなゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマーを有する共重合体は、デリバリーシステムにて縮径された状態から、留置後に収縮前の径に回復することができる。
【0046】
ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマーとしては、ε-カプロラクトン、σ-ブチロラクトン、σ-バレロラクトンなどのラクトン系モノマー;4-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシバレエートなどのヒドロキシアルカノエート;トリメチレンカーボネート、エチレンサクシネート、ブチレンサクシネート、パラジオキサノンなどを用いることができる。これらのモノマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0047】
中でも、低毒性のモノマーに分解されることからゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマーとしては、ε-カプロラクトン(ポリカプロラクトンのTg-54℃)、パラジオキサノン(ポリジオキサノンのTg-10℃)、トリメチレンカーボネート(ポリトリメチレンカーボートのTg-18℃)であることが好ましく、ε-カプロラクトン(ポリカプロラクトンのTg-54℃)、トリメチレンカーボネート(ポリトリメチレンカーボートのTg-18℃)であることがより好ましく、ε-カプロラクトンであることがより好ましい。
【0048】
本実施形態の好適な形態は、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマーが乳酸であり、ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマーがε-カプロラクトンである。具体的には、構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体が-(C-(C10-で表されることが好ましい。ここでnおよびmは、重合体における各構成単位のモル分率を表す。
【0049】
構成単位(A)および構成単位(B)の構成比は、特に限定されるものではないが、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、形状回復が一層速く、ラジアルフォースが一層向上しうることから、構成単位(B)が10モル%以上であることが好ましく、10~60モル%であることがより好ましく、10~35モル%であることがさらに好ましく、10~30モル%であることがさらにより好ましく、20~30モル%であることが特に好ましい。構成単位(B)の含有量が10モル%以上であることで、弾性が高まり、挿入時径からの形状回復の速いステントが得ることができる。また、構成単位(B)の含有量が60モル%以下であることで、ラジアルフォースを確保することができる。なお、構成単位(A)および(B)の構成比は、通常製造時の各モノマーの重合比となる。
【0050】
構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。ブロック共重合体は、ジブロック(AB)、トリブロック(ABAまたはBAB)、マルチブロック(ABABAまたはBABAB)などいずれであってもよい。
【0051】
構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体は、ゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマーおよび硬質生分解性ポリマーを構成するモノマーと共重合可能な他のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。本発明の効果を考慮すれば、かような他のモノマーは5重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。実質的に含まないとは、好ましくは0.01重量%以下(下限0重量%)であることを指す。
【0052】
構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体の製造方法としては、従来公知の方法を参酌して製造することができる。例えば、構成単位(A)が乳酸、構成単位(B)がε-カプロラクトンである場合、乳酸の環状二量体であるラクチドおよびε-カプロラクトンを原料として、金属触媒の存在下で重合反応を行うことができる。金属触媒としては、塩化スズ、オクチル酸スズ、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。また、重合反応は有機溶媒の存在下で行ってもよい。さらには、重合反応に際しては重合開始剤を用いてもよい。ラクチドには、L-乳酸の環状二量体であるL-ラクチド、D-乳酸の環状二量体であるD-ラクチド、D-乳酸とL-乳酸とが環状二量化したメソ-ラクチド及びD-ラクチドとL-ラクチドとのラセミ混合物であるDL-ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。また、上記の単量体を複数組み合わせて合成することもできる。
【0053】
上記共重合体の重量平均分子量は、機械的強度の向上および生分解性の観点から、100,000~1,000,000であることが好ましく、150,000~800,000であることがより好ましく、150,000~600,000であることがさらに好ましい。なお、本明細書において重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により下記測定条件にて測定した値である。
【0054】
(分子量の測定条件)
装置:セミミクロGPCシステムLC-20AD(株式会社島津製作所製)
検出器:Shodex(登録商標) RI-104(昭和電工株式会社製)
カラム:Shodex(登録商標) GPC LF-404(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相溶媒:CHCl
流速:0.15mL/min
注入量:20μL
試料の調製:測定するサンプル6mgに、移動相溶媒を2mL加えて、溶解させた後、0.45μmのPTFEメンブレンフィルターでろ過する。
【0055】
構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体は、市販品を用いてもよく、市販品としては、Resomer(登録商標)LC703S、Resomer(登録商標)DLCL9010、Resomer(登録商標)LT706S(以上、EVONIK Industries社製);BioDegmer(登録商標)LCL(75:25)、BioDegmer(登録商標)LCL(60:40)、BioDegmer(登録商標)LCL(50:50)、BioDegmer(登録商標)LCL(90:10)、BioDegmer(登録商標)LCL(65:35)(以上、ビーエムジー社製)等が挙げられる。
【0056】
構成単位(A)、および構成単位(B)を含む共重合体を以下、単に共重合体とも称する。
【0057】
構成単位(C)は、架橋剤由来である。
【0058】
構成単位(C)における架橋剤は、2以上の重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましい。重合性不飽和結合としては、アクリロイル基(CH=CH-CO-)、メタアクリロイル基(CH=C(CH)-CO-)またはビニル基(CH=CH-)であることが好ましい。
【0059】
架橋剤としては、具体的には、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、グリセロールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラメチロールメタンアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレートなどの3官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレートなどの4官能以上の(メタ)アクリレート;N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスメタクリルアミド、N,N’-ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N’-ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、N,N’-ベンジリデンビスアクリルアミド、N,N’-ビス(アクリルアミドメチレン)尿素;トリメリット酸トリアリルエステル、ピロメリット酸トリアリルエステル、シュウ酸ジアリル等のカルボン酸のアリルエステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌール酸又はイソシアヌール酸のアリルエステル;N-フェニルマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド等のマレイミド系化合物;フタル酸ジプロパギル、マレイン酸ジプロパギル等の2個以上の三重結合を有する化合物;ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0060】
架橋剤は、形状回復性が一層向上することから、アクリロイル基(CH=CH-CO-)、またはメタアクリロイル基(CH=C(CH)-CO-)を有するモノマーであることがより好ましい。すなわち、架橋剤は多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。さらに、初期のラジアルフォースに優れることから、架橋剤は、多官能(メタ)アクリレートが4官能以上の(メタ)アクリレートであることがさらに好ましく、4~6官能の(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0061】
中でも、架橋剤は、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレートであることが好ましく、ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよび/またはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであることがより好ましい。
【0062】
また、架橋剤の溶解性パラメータと、構成単位(A)および構成単位(B)の溶解性パラメータの加重平均値と、の差の絶対値が5(J/cm1/2以内であることが好ましい。すなわち、第一実施形態の好適な形態は、架橋重合体が、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)、およびゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)を含む共重合体に対して前記架橋剤を重合させてなり、架橋剤の溶解性パラメータの値と、構成単位(A)および構成単位(B)の溶解性パラメータの加重平均値と、の差(以下、溶解性パラメータ差とも称する)の絶対値が5(J/cm1/2以内である。溶解性パラメータの差が5(J/cm1/2以内であることで、本発明の効果(形状回復が速く(高いリカバリー率)、ラジアルフォースが高い(高いヤング率))が一層得られやすくなる。これは、架橋剤が共重合体と相溶性が高いことで、架橋反応が均一に進行するためであると考えられる。溶解性パラメータ差は、2(J/cm1/2以内であることがより好ましく、1.5(J/cm1/2以内であることが特に好ましい。なお、溶解性パラメータ差の下限は0である。
【0063】
「溶解性パラメータ(SP値)」とは、Fedors法に基づく式から求められるSP値をいう。具体的には、SP値は、Robert F Fedor,Poly Eng Sci 1974;14(2):147-154に記載されているように、下記式(1)より算出することができる。
【0064】
【数1】
【0065】
式中、ΔEvはモル凝集エネルギー(the energy of vaporization at a given temperature)、Vはモル容積(molar volume)を表す。なお、本願では、「所定温度(a given temperature)」は25℃での測定値を指す。
【0066】
また、構成単位(A)および構成単位(B)の溶解性パラメータの加重平均値は、以下のようにして求められる。
【0067】
【数2】
【0068】
架橋剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0069】
構成単位(C)の含有量は、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、10重量%以上60重量%未満である。構成単位(C)の含有量が構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して10重量%未満であると、ヤング率が著しく低下し、径方向の拡張力を維持できなくなる(後述の比較例4または比較例5)。一方、構成単位(C)の含有量が架橋重合体に対して、60重量%以上であると、樹脂が脆くなり、ひずみ耐性が低下する(後述の比較例3)。構成単位(C)の含有量は、ステントの拡張力を向上させる観点から、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、10重量%を超えることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましく、25重量%以上であることがさらにより好ましく、30重量%以上であることが特に好ましい。また、構成単位(C)は、ひずみ耐性の観点から、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることがさらに好ましい。構成単位(C)は、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、10~50重量%であることが好ましく、10~45重量%であることがより好ましく、10~40重量%であることがさらに好ましく、20~40重量%であることがさらにより好ましく、25~40重量%であることが特に好ましく、30~40重量%であることが最も好ましい。また、架橋剤が4官能の(メタ)アクリレートである場合、構成単位(C)の含有量は、ヤング率が高いことから、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、20~50重量%であることが好ましく、30~50重量%であることがより好ましく、形状回復とラジカルフォースとのバランスから、30~40重量%が特に好ましい。さらに、架橋剤が6官能の(メタ)アクリレートである場合、構成単位(C)の含有量は、ヤング率が高いことから、構成単位(A)および構成単位(B)の合計に対して、30~50重量%であることが好ましい。
【0070】
なお、構成単位(C)の含有量は、製造段階の架橋剤の添加量と一致する。また、ステント材料を加水分解でモノマー構成単位まで分解し、構成単位(C)を含有するモノマーについてHPLCで定量することにより、構成単位(C)の含有量を把握することができる。
【0071】
架橋重合体は、共重合体と、共重合体に対して10重量%以上60重量%未満の架橋剤と、を重合させて得ることができる。架橋重合体の製造方法については後述する。
【0072】
架橋とは、1のポリマー鎖および他のポリマー鎖を連結させる化学結合を指す。例えば、非限定的な例示ではあるが、共重合体中のC-H結合が紫外線照射などにより切断され、生じたフリーラジカル部と、架橋剤中の不飽和結合部とが反応して、架橋剤により架橋された構造が形成される。
【0073】
架橋重合体は、構成単位(A)、(B)および(C)のほか、生分解性を有するその他の構成単位を有していてもよい。当該その他の構成単位を重合体に導入するために使用する化合物としては、例えばヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、多価アルコール、環状デプシペプチド等が挙げられる。また、当該その他の構成単位の含有比率は、架橋重合体の構成単位の全体に対して、0~10モル%であることが好ましく、0~5モル%であることがより好ましい。
【0074】
架橋重合体のヤング率は、400N/mm以上であることが好ましく、500N/mm以上であることがより好ましく、550N/mm以上であることがさらに好ましい。ヤング率がこのような範囲であることで、ラジアルフォースが高いものとなり、機械的強度が確保される。架橋重合体のヤング率は、600N/mm以上であることがさらに好ましく、800N/mm以上であることがさらにより好ましく、1000N/mm以上であることが特に好ましい。架橋重合体のヤング率は高ければ高いほど好ましいため、その上限は特に限定されないが、通常3000N/mm以下である。架橋重合体のヤング率は、架橋剤の添加量、架橋剤種(架橋剤および共重合体の組み合わせ)などによって制御することができる。共重合体に対する架橋剤の添加量が多くなればなるほど、ヤング率は大きくなる傾向にある。
【0075】
架橋重合体のヤング率は、後述の実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0076】
架橋重合体は、10秒後リカバリー率が70%以上であることが好ましい。10秒後リカバリー率が70%以上であることで、挿入時の縮径からすぐに収縮前の径に回復することができ、バルーンカテーテルによる拡張が不要となるとともに圧着不良が低減される。10秒後リカバリー率は、72%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。10秒後リカバリー率の上限は100%であるが、通常は95%以下である。10秒後リカバリー率は、構成単位(B)の種類、量、構成単位(C)の種類、量で制御することができる。構成単位(B)の割合が高いほど、10秒後リカバリー率は高くなる。また、構成単位(C)の割合が高いほど、10秒後リカバリー率は高くなる傾向がある。
【0077】
また、架橋重合体の20分後リカバリー率は、90%以上であることが好ましく、91.0%以上であることがより好ましい。20分後リカバリー率が90%以上であることで、挿入時の縮径から収縮前の径にほぼ回復できるステントとなり、圧着不良が低減される。20分後リカバリー率の上限は100%である。
【0078】
架橋重合体の10秒後リカバリー率または20分後リカバリー率は、後述の実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0079】
本明細書においては、ステント基体を構成する樹脂(例えば、架橋重合体)の20分後リカバリー率が70%以上のものを自己拡張ステントとする。
【0080】
本実施形態の好適な形態は、架橋重合体のヤング率が500N/mm以上であり、かつ10秒後リカバリー率が70%以上である。本実施形態の他の好適な形態は、架橋重合体のヤング率が600N/mm以上であり、かつ10秒後リカバリー率が70%以上である。本実施形態のさらに他の好適な形態は、架橋重合体のヤング率が800N/mm以上であり、かつ10秒後リカバリー率が70%以上である。本実施形態のさらに他の好適な形態は、架橋重合体のヤング率が800N/mm以上であり、かつ10秒後リカバリー率が72%以上である。
【0081】
架橋重合体のガラス転移温度(Tg)は、45℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。架橋重合体のガラス転移温度が上記温度範囲内であることで、体内付近の温度で弾性を有するため、リカバリーが速いステントとなる。なお、ガラス転移温度は低ければ低いほど好ましいが、通常-50℃以上となる。
【0082】
架橋重合体は、ゲル分率が、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。ゲル分率が上記範囲内であることで、架橋が十分に進行し、所望の効果を得ることができる。すなわち、ゲル分率により架橋の程度が把握される。ゲル分率の上限は特に限定されるものではないが、100%以下であることが好ましい。ゲル分率は下記実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0083】
または、架橋重合体における架橋の程度(例えば、架橋密度)は、DSCによる融解熱ピークの減少度合を追いかける方法などによっても測定することができる。
【0084】
さらに、ステントは、ナノインデンタを用いて負荷除荷試験した際のマルテンス硬さ(以下、単にマルテンス硬さとも称する)が50N/mm以上であることが好ましい。マルテンス硬さが50N/mm以上であることで、ラジアルフォースが高いものとなり、機械的強度が確保される。マルテンス硬さは、100N/mm以上であることがより好ましい。ステントのマルテンス硬さは高ければ高いほど好ましいため、その上限は特に限定されないが、通常200N/mm以下である。ステントのマルテンス硬さは、架橋剤の添加量、架橋剤種(架橋剤および共重合体の組み合わせ)などによって制御することができる。ベースポリマー(共重合体)に対する架橋剤の添加量が多くなればなるほど、マルテンス硬さは大きくなる傾向にある。
【0085】
架橋重合体は、加水分解のしやすさ、すなわち生分解性を考慮すると、結晶性は低いほうがよい(非晶性が高いほうがよい)。このため、製造工程においてアニーリングなど結晶性を高める操作は特には要さない。
【0086】
本発明の第二実施形態は、硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)、およびゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)を含む共重合体と、該共重合体に対して10重量%以上60重量%未満の架橋剤と、を重合させて架橋重合体を得、該架橋重合体を用いてステントを得る、自己拡張型ステントの製造方法である。
【0087】
硬質生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(A)、およびゴム状生分解性ポリマーを構成するモノマー由来の構成単位(B)、およびこれらを含む共重合体については上述したとおりである。
【0088】
また、架橋剤の具体例については上述したとおりである。
【0089】
共重合体および架橋剤の重合は、特に限定されるものではないが、溶液重合、塊状重合などいずれの形態であってもよい。溶液重合の際に用いられる溶媒は、共重合体および架橋剤を溶解できる溶媒であればよく、例えば、クロロホルム、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、N-N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0090】
重合方法としては、不飽和結合を容易に活性化することができることから、光重合であることが好ましい。この際に用いられる光(活性放射線)としては、電子線、α線、β線、γ線などの電離性放射線;紫外線などが挙げられる。中でも製造設備が簡易であり、製造が簡便であることから、重合体と架橋剤との重合は紫外線照射下で行うことが好ましい。紫外線の波長は200~400nmが好ましい。また、紫外線の照射量(積算光量)は、重合が適切に行われるように適宜設定されるが、例えば、500~20,000mJ/cmであり、1,000~5,000mJ/cmであることが好ましい。
【0091】
また、重合効率性を高めるために、紫外線照射下で重合する場合には、光重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましい。光重合開始剤としては、照射する紫外線波長に合わせたものを選択すればよく、ベンジルジメチルケタール、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノアルキルフェノンなどのアルキルフェノン系;MAPO,BAPOなどのアシルフォスフィンオキサイド系;オキシムエステル系などのいずれであってもよい。重合効率の観点からは、アルキルフェノン系であることが好ましく、α-ヒドロキシアルキルフェノンであることがより好ましい。
【0092】
光重合開始剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンなどのα-ヒドロキシアルキルフェノン;2-メチル-1[4-メチルチオフェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)ブタン-1-オンなどのα-アミノアルキルフェノン;ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)などのアシルフォスフィンオキサイド系などが挙げられる。
【0093】
光重合開始剤は市販品を用いてもよく、市販品としては、Irgacure(登録商標)2959、184、1173、907、369E、379EG、TPO、819(以上、BASF社製)などを挙げることができる。
【0094】
光重合開始剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0095】
光重合開始剤の量は、架橋剤の量に対して、1~20重量%であることが好ましく、2~15重量%であることがより好ましい。
【0096】
光照射を行うタイミングは特に限定されず、共重合体および架橋剤を含む混合物を押し出しまたは射出成形などによりチューブ形状に成形後、光照射を行ってもよい。なお、その後、レーザーカット等により所望のステント形状に加工することができる。さらには、共重合体および架橋剤を含む混合物を押し出しまたは射出成形などによりチューブ形状に成形後、レーザーカット等により所望のステント形状に加工した後、光照射を行ってもよい。また、共重合体および架橋剤を含む混合物を射出成形などによりステント形状に加工した後、光照射を行ってもよい。
【0097】
ステントには、架橋重合体以外にも、本発明の目的効果が損なわれない範囲においてその他の成分が含まれてもよい。その他の成分としては、例えば、ステントを病変部に留置した際に起こりうる脈管系の狭窄、閉塞を抑制する薬剤等が例示できる。具体的には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、脂質改善薬、抗血小板薬、および抗炎症薬などが挙げられる。これらの薬剤は、病変部組織の細胞の挙動を制御して、病変部を治療することができるという利点がある。上記のようなその他の成分は、架橋重合体とともにステント基体を構成してもよいし、架橋重合体を構成するステント基体上にコート層として存在していてもよい。
【0098】
抗癌剤としては、特に制限されないが、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン等が好ましい。
【0099】
免疫抑制剤としては、特に制限されないが、例えば、シロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、ゾタロリムス等のシロリムス誘導体、バイオリムス(例えば、バイオリムスA9(登録商標))、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス等が好ましい。
【0100】
抗生物質としては、特に制限されないが、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
【0101】
抗血栓薬としては、特に制限されないが、例えば、アスピリン、チクロピジン、アルガトロバン等が好ましい。
【0102】
HMG-CoA還元酵素阻害剤としては、特に制限されないが、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン等が好ましい。
【0103】
ACE阻害剤としては、特に制限されないが、例えば、キナプリル、トランドラプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、カプトプリル等が好ましい。
【0104】
カルシウム拮抗剤としては、特に制限されないが、例えば、ヒフェジピン、ニルバジピン、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0105】
抗高脂血症剤としては、特に制限されないが、例えば、プロブコールが好ましい。
【0106】
インテグリン阻害薬としては、特に制限されないが、例えば、AJM300が好ましい。
【0107】
抗アレルギー剤としては、特に制限されないが、例えば、トラニラストが好ましい。
【0108】
抗酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、α-トコフェロール、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールが好ましい。
【0109】
GPIIbIIIa拮抗薬としては、特に制限されないが、例えば、アブシキシマブが好ましい。
【0110】
レチノイドとしては、特に制限されないが、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0111】
脂質改善薬としては、特に制限されないが、例えば、エイコサペンタエン酸が好ましい。
【0112】
抗血小板薬としては、特に制限されないが、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルが好ましい。
【0113】
抗炎症剤としては、特に制限されないが、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
【0114】
ステントが架橋重合体以外に、その他の成分を含む場合、ステント全体に対し、架橋重合体は、合計で、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上(上限100重量%)含み、残りがその他の成分となる。
【0115】
本発明にかかるステントは、上記のステント基体のほか、本発明の目的効果を損なわない範囲において、任意の生分解性材料を用いてステント基体上にコート層を設けてもよい。コート層の形成に用いられる生分解性材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体が例示でき、より具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸-カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、およびヒアルロン酸、からなる群から選ばれた少なくとも1種またはブレンドであり、生体内で分解することを考慮すると医学的に安全なものが好ましい。ステント外表面(ステント基体外表面)をコーティングする生分解材料の分子量、精製度、結晶化度を調節して親水性を低く抑えることで、強度維持期間を長くすることができる。例えば、上記の生分解性材料の精製度を高めて未反応のモノマーや低分子量各分を排除したり、結晶化度を高めてステント骨格内部に侵入する水分量を抑制したりすることで、加水分解時間を長くすることができる。また、上記のコート層形成生分解性材料と、上述した薬剤の1種または2種以上とを、任意の割合で、例えば1:99~99:1(w/w)、好ましくは95:5~80:20(w/w)の割合で含有させ、コート層を薬剤コーティング層とすることもできる。コート層の形成方法は、特に制限されず、通常のコーティング方法が同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。具体的には、生分解性材料、ならびに必要に応じて上記薬剤および適当な溶剤を混合して混合物を調製し、当該混合物をステント基体に塗布する方法が適用できる。
【実施例
【0116】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0117】
(実施例1)
L-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル比であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標) LCL(75:25)、SP値 22.6、分子量570,000)1g、架橋剤であるペンタエリスリトールテトラアクリレート(SP値 21.5、PETA)(Sigma-Aldrich社製) 0.1g、2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(2-Hydroxy-1-[4-(2-hydroxyethoxy) phenyl]-2-methyl-1-propanone)(Irgacure(登録商標)2959、BASF社製) 0.01g、およびクロロホルム 29.6gを混合してポリマー溶液を調製した。
【0118】
ポリマー溶液をφ100mmのPFAシャーレに気泡が混じらないように流し込み、室温で1晩風乾してキャストフィルムを得た。得られたフィルムに対して、UV照射装置(VB-15201BY-A、ウシオ電機社製)を使用し、表裏それぞれから波長365nmのUV光を積算光量が3000mJ/cmとなるように照射して形成されたフィルム(厚さ約0.1mm)をシャーレからはがし、試験フィルムを得た。
【0119】
(実施例2)
架橋剤の量を0.1gから0.2gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0120】
(実施例3)
架橋剤の量を0.1gから0.3gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0121】
(実施例4)
架橋剤の量を0.1gから0.4gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0122】
(実施例5)
架橋剤の量を0.1gから0.5gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0123】
(実施例6)
架橋剤種をペンタエリスリトールテトラアクリレートからジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(SP値22.5、DPEHA)(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして試験フィルムを得た。
【0124】
(実施例7)
架橋剤種をペンタエリスリトールテトラアクリレートからジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(SP値22.5、DPEHA)(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして試験フィルムを得た。
【0125】
(実施例8)
架橋剤種をペンタエリスリトールテトラアクリレートからエチレングリコールジメタクリレート(SP値18.2、EGDM)(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして試験フィルムを得た。
【0126】
(実施例9)
架橋剤種をペンタエリスリトールテトラアクリレートからエチレングリコールジメタクリレート(SP値18.2、EGDM)(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0127】
(実施例10)
実施例9において、重合開始剤を添加せず、電子線25kGyで架橋したこと以外は、実施例9と同様にして試験フィルムを得た。
【0128】
(実施例11)
実施例1において、L-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体を、L-乳酸:ε-カプロラクトン=90:10モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(乳酸-カプロラクトン共重合体;株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標) LCL(90:10)、(SP値 22.9、分子量530,000)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0129】
(実施例12)
架橋剤の量を0.1gから0.3gに変更したこと以外は、実施例11と同様にして試験フィルムを得た。
【0130】
(実施例13)
架橋剤の量を0.1gから0.4gに変更したこと以外は、実施例11と同様にして試験フィルムを得た。
【0131】
(実施例14)
実施例2において、L-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体を、L-乳酸:ε-カプロラクトン=65:35モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(乳酸-カプロラクトン共重合体;株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標) LCL(65:35)、(SP値 22.4、分子量320,000)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして試験フィルムを得た。
【0132】
(実施例15)
架橋剤の量を0.2gから0.3gに変更したこと以外は、実施例14と同様にして試験フィルムを得た。
(実施例16)
架橋剤の量を0.2gから0.5gに変更したこと以外は、実施例14と同様にして試験フィルムを得た。
【0133】
(実施例17)
実施例4において、L-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体を、L-乳酸:ε-カプロラクトン=60:40モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標) LCL(60:40)、SP値 22.3、分子量370,000)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして試験フィルムを得た。
【0134】
(実施例18)
架橋剤種をエチレングリコールジメタクリレートからトリアリルイソシアネート(SP値29.2、TAIC)(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0135】
(実施例19)
架橋剤の量を0.1gから0.3gに変更したこと以外は、実施例18と同様にして試験フィルムを得た。
【0136】
(実施例20)
架橋剤の量を0.1gから0.5gに変更したこと以外は、実施例18と同様にして試験フィルムを得た。
【0137】
(実施例21)
架橋剤種をエチレングリコールジメタクリレートからトリアリルイソシアネート(SP値29.2、TAIC)(Sigma-Aldrich社製)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして試験フィルムを得た。
【0138】
(実施例22)
実施例4において、L-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体を、DL-乳酸:ε-カプロラクトン=90:10モル%であるDL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(乳酸-カプロラクトン共重合体;EVONIK Industries社、商品名Resomer(登録商標)DLCL9010、Mw:180,000、乳酸単位:カプロラクトン単位=90:10(モル/モル)))に変更したこと以外は、実施例4と同様にして試験フィルムを得た。
【0139】
(実施例23)
実施例3において、L-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体を、L-乳酸:トリメチレンカーボネート=70:30モル%であるL-乳酸/トリメチレンカーボネート共重合体(EVONIK Industries社、商品名Resomer(登録商標)LT706S、Mw:250,000、乳酸単位:トリメチレンカーボネート単位=70:30(モル/モル)))に変更したこと以外は、実施例3と同様にして試験フィルムを得た。
【0140】
(比較例1)
ポリL-乳酸(株式会社ビーエムジー社製、BioDegmer(登録商標) PLLA、SP値23.1、重量平均分子量510,000)1g、クロロホルム 29.6gを混合してポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液をφ100mmのPFAシャーレに気泡が混じらないように流し込み、室温で風乾させた後、真空オーブンにて120℃、2時間、減圧乾燥させた。形成されたフィルム(厚さ約0.1mm)をPFAシャーレからはがし、試験フィルムを得た。
【0141】
(比較例2)
比較例1において、ポリL-乳酸を実施例1で用いたL-乳酸:ε-カプロラクトン=75:25モル%であるL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標) LCL(75:25)、SP値 22.6、分子量570,000)に変更したこと、また減圧乾燥の温度および時間を80℃、2時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0142】
(比較例3)
架橋剤の量を0.1gから0.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0143】
(比較例4)
架橋剤の量を0.1gから0.05gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験フィルムを得た。
【0144】
(比較例5)
架橋剤の量を0.1gから0.05gに変更したこと以外は、実施例8と同様にして試験フィルムを得た。
【0145】
(比較例6)
比較例2において、L-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(株式会社ビーエムジー、BioDegmer(登録商標) LCL(75:25)、SP値 22.6、分子量570,000)を実施例23で用いたL-乳酸:トリメチレンカーボネート=70:30モル%であるL-乳酸/トリメチレンカーボネート共重合体(EVONIK Industries社、商品名Resomer(登録商標)LT706S、Mw:250,000、乳酸単位:トリメチレンカーボネート単位=70:30(モル/モル))に変更したこと以外は、比較例2と同様にして試験フィルムを得た。
【0146】
[評価]
<ヤング率>
ISO 527-2に示す5B型ダンベル試験片を抜き型により作製した後、恒温槽付き引っ張り試験機(オートグラフAG-1kNIS、株式会社島津製作所製)を使用して37℃雰囲気下においてチャック間距離20mm、試験速度1mm/minにて引張試験を実施し、応力-ひずみ曲線の弾性変形領域内における初期の傾きからヤング率(MPa)を求めた。
【0147】
<10秒後リカバリー率、20分後リカバリー率>
ISO 527-2に示す5B型ダンベル試験片を抜き型により作製した後、恒温槽付き引っ張り試験機(オートグラフAG-1kNIS、株式会社島津製作所製)を使用して37℃雰囲気下において図2に示すようにチャック間距離20mm、試験速度10mm/min、最大引張距離0.6mm(ダンベル試験片の平行部長12mm×5%)、引張ひずみ保持時間10秒にて2サイクルの引張試験を実施し、図3に示すように1サイクル目の伸長量x(1サイクル目の応力検出位置から最大引張位置までの距離)に対する2サイクル目の伸長量距離x(2サイクル目の応力検出位置から最大引張位置までの距離)の比率からリカバリー率を算出した((x/x)×100%)。なおサイクル間の待機時間は10秒または20分とした。
【0148】
当試験で測定されるリカバリー率は、ステントの形状回復の程度と相関する。ステントを外力で拘束して縮径させると、屈曲部頂点の外湾側に引張方向のひずみが生じる。この状態から拘束を解くと、当試験で見られるようなひずみの減少が起きるため、ステント径は縮径前の径に戻ろうとする。このとき、リカバリー率が高いほど、ひずみはより減少するため、ステント径は縮径前の径により近づく。すなわち、リカバリー率は形状回復の程度と相関し、リカバリー率が高い程、形状回復の程度も高くなる。
【0149】
<耐ひずみ特性>
ISO 527-2に示す5B型ダンベル試験片を抜き型により作製した後、恒温槽付き引っ張り試験機(オートグラフAG-1kNIS、株式会社島津製作所製)を使用して37℃雰囲気下においてチャック間距離20mm、試験速度10mm/minで引張試験を実施し、1.8mm(ダンベル試験片の平行部長12mm×15%)引っ張った時点でのサンプルの破断の有無を確認した。サンプル破断がないものを○、サンプル破断があったものを×とした。
【0150】
なお、縮径状態において、曲がりの頂点付近では外湾側が引き延ばされる、すなわち、引張方向のひずみとなり、内湾側は圧縮される、すなわち、圧縮方向のひずみとなる。ここでは、引張方向ひずみを与えた時の破断の有無からステントとしての耐ひずみ特性を評価した。なお、自己拡張型ステントとしてデザインしたものでは、縮径時に外湾側での引張ひずみや、内湾側での圧縮ひずみは概ね10%(最大でも15%以内)になるため、耐ひずみ特性として、15%で破断が発生するものは、縮径操作においてステントが破断する可能性がある。
【0151】
<マルテンス硬さ試験>
ISO14577-1「計装化押し込み硬さ」に準じて、ダイナミック超微小硬度計(DUH-W201S、株式会社島津製作所製)を用い、圧子:バーコビッチ圧子 稜間角115°正三角錐圧子(ダイヤモンド製)、試験力:10mN、負荷速度:0.473988mN/sec、保持時間:5秒間の条件下で、シート表面に対し、圧子押し込み試験を行ない、そのときの押し込み深さ(μm)、およびマルテンス硬さを式:[マルテンス硬さ(N/mm)]=1000×[押し込み深さにおける荷重(mN)]/26.43×[押し込み深さ(μm)]に基づいて求めた。
【0152】
<ゲル分率>
各フィルムを約25mg精密に秤量し、25℃のクロロホルム25mlに3時間浸漬した後、200メッシュのステンレス製金網で濾過して、金網状の不溶解分を真空乾燥する。次いで、この不溶解分の重量を精密に秤量し、以下の式に従ってゲル分率を百分率で算出した。
【0153】
【数3】
【0154】
<生分解性試験>
ISO 527-2に示す5B型ダンベル試験片を抜き型により作製した後、50mLのサンプル瓶にリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)を50mL入れ、その中にダンベル型試験片を投入し完全に浸漬させる。サンプル瓶を50℃のオーブンに入れて2週間おく。サンプルをリン酸緩衝生理食塩水から取り出し、37℃のイオン交換水に浸漬して、サンプルを洗浄する。その後、速やかに恒温槽付き引っ張り試験機(オートグラフAG-1kNIS、株式会社島津製作所製)を使用して37℃雰囲気下で、チャック間距離20mm、試験速度10mm/minにて引張試験を実施し、破断伸びを測定する。また、別途、加水分解前の検体として上記の37℃のイオン交換水に2時間浸漬したものを取り出し、速やかに引張試験を実施する。最後に加水分解前の破断伸びに対する加水分解試験後の破断伸び((加水分解試験後の破断伸び/加水分解前の破断伸び)×100(%))を求める。
【0155】
下記表1に各実施例および比較例におけるポリマー溶液組成および上記評価の評価結果ならびに架橋重合体のTg(℃)を記載する。各実施例のゲル分率は50%以上であった。例えば、実施例1では90%、実施例9では52%、実施例11では66%であった。さらに、各実施例は、いずれも生分解性を有していた。例えば、実施例2では、加水分解試験前の破断伸びが204%、加水分解試験後の破断伸びが122%であり、加水分解前の破断伸びに対する加水分解試験後の破断伸びは60%であった。また、比較例2では、加水分解試験前の破断伸びが330%、加水分解試験後の破断伸びが295%であり、加水分解前の破断伸びに対する加水分解試験後の破断伸びは89%であった。
【0156】
【表1-1】
【0157】
【表1-2】
【0158】
【表1-3】
【0159】
以上の結果より、実施例の架橋重合体により、ヤング率が高く、耐ひずみ特性も良好で、また、10秒リカバリー率が高いものとなった。
【0160】
また、実施例10と21との比較により、架橋剤の溶解性パラメータの値と、構成単位(A)および構成単位(B)の溶解性パラメータの加重平均値と、の差の絶対値が5(J/cm1/2以内であることで、ヤング率が向上することがわかる。実施例10で用いているEGDMは官能基が2であり、実施例21で用いている官能基が3であるTAICよりもヤング率が高いものとなっている。すなわち、架橋剤としてTAICやEGDMを用いた場合、添加した架橋剤中の官能基の数(架橋可能な反応点の数)としてはTAICの方が多いにもかかわらず、ヤング率の向上の効果は小さくなっており、溶解性パラメータの差が重要であることがわかる。同様に実施例9と実施例18の結果を比較すると、ヤング率の向上とともに、形状回復率が高いものとなっている。すなわち、架橋剤としてTAICやEGDMを用いた場合、添加した架橋剤中の官能基の数(架橋可能な反応点の数)としてはTAICの方が多いにもかかわらず、ヤング率および形状回復率の向上の効果は小さくなっており、溶解性パラメータの差が重要であることがわかる。ゆえに架橋剤の溶解性パラメータの値と、構成単位(A)および構成単位(B)の溶解性パラメータの加重平均値と、の差の絶対値が5(J/cm1/2以内であることで、本発明の効果(形状回復が速く(高いリカバリー率)、ラジアルフォースが高い(高いヤング率))が一層得られやすくなることがわかる。
【0161】
一方、ポリ乳酸を用いた比較例1は、ヤング率は高いものの、リカバリー率が低いものとなった。また、架橋していないL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体(75/25)を用いた比較例2は、ヤング率の低いものであった。特表2015-527920号公報(国際公開第2014/018123号)の[0049]に記載のように、ゴム状ポリマーの配合量を増加させた比較例2では、ポリマーの弾性が向上し、10秒リカバリー率は比較的高いものとなる一方、機械的強度は低下していることがわかる。
【0162】
なお、実施例6~23の20分後リカバリー率は70%以上であった。
【0163】
(実施例24)
実施例1の材料によりチューブを作製し、レーザーカットにより自己拡張型ステントを作製した(厚み150μm、ストラット幅150μm、外径3.5mm(D1)、長さ18mm)。作製した自己拡張型ステントを縮径し、内径1.2mmのPTFE製チューブに装填した。37℃に調温したイオン交換水中に当該チューブを浸漬し、装填した自己拡張型ステントを当該チューブから放出し、37℃のイオン交換水中で1分間静置した。その後、ステントを水から取り出し、再度外径(D2)をノギスで測定し、形状回復率((D2÷D1)×100(%))を算出した。
【0164】
その結果、本実施例にかかるステントは、97%という高い形状回復率を示した。このことから、本発明にかかるステントは、自己拡張型ステントとして好適に用いられ得ることが分かる。
【0165】
(実施例25、比較例7)
実施例2または比較例2の材料によりチューブを作製し、レーザーカットにより自己拡張型ステントを作製した(厚み100μm、ストラット幅150μm、外径3.2mm、長さ11mm)。
【0166】
実施例24と同様に形状回復率を測定した。その結果、実施例25および比較例7の形状回復率は97%であった。
【0167】
また、上記自己拡張型ステントを用いて、ASTM F3067-14に準拠してラジアルフォースを測定した。
【0168】
(測定条件)
・仕様装置:Blockwise Engineering LLC 製 Radial Force Testing System-Model RFJ
・測定温度:37℃・速度(rate of diameter):0.05mm/sec
・測定径:φ3.2mm~φ1.5mm
・測定手順:サンプルを37℃に加温した装置にセットする。0.05mm/secのスピードでφ3.2mm~φ1.5mmまで縮径し、続いてφ1.5mm~φ3.2mmまで拡径した時のラジアルフォースを測定する。
【0169】
結果を図4に示す。図4に示されるとおり、実施例25のステントは比較例7のステントと比較して、ラジアルフォースが大幅に改善していることがわかる。
【0170】
本出願は、2017年7月14日に出願された日本特許出願番号2017-138397号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
図1
図2
図3
図4