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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】カルビン含有複合材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/158 20170101AFI20221101BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221101BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221101BHJP
【FI】
C01B32/158
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019537660
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2018031025
(87)【国際公開番号】W WO2019039516
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2017162599
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 悟
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弥八
(72)【発明者】
【氏名】當間 郷史
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-029695(JP,A)
【文献】KANG, Cheon-Soo et al.,Linear carbon chains inside multi-walled carbon nanotubes: Growth mechanism, thermal stability and electrical properties,Carbon,2016年05月30日,Vol.107,p.217-224,ISSN 0008-6223, 特に"ABSTRACT"欄, "2. Experimental"欄, Figs.1-3
【文献】ANDRADE, N. F. et al.,Linear carbon chains encapsulated in multiwall carbon nanotubes: Resonance Raman spectroscopy and transmission electron microscopy studies,Carbon,2015年04月08日,Vol.90,p.172-180,ISSN 0008-6223, 特に"ABSTRACT"欄, "2. Experimental"欄, Figs.1-6
【文献】SCUDERI, V. et al.,Direct observation of the formation of linear C chain/carbon nanotube hybrid systems,Carbon,2009年04月10日,Vol.47,p.2134-2137,ISSN 0008-6223, 特に"ABSTRACT"欄, Figs.1-4
【文献】SHI, Lei et al.,Carbon nanotubes from enhanced direct injection pyrolytic synthesis as templates for long linear carbon chain formation,Physica Status Solidi B,2013年11月12日,Vol.250, No.12,p.2611-2615,ISSN 0370-1972, 特にアブストラクト欄, "2. Experimental details"欄, Figures1-3
【文献】ZHAO, C. et al.,Growth of Linear Carbon Chains inside Thin Double-Wall Carbon Nanotubes,The Journal of Physical Chemistry C,2011年06月07日,Vol.115, No.27,p.13166-13170,ISSN 1932-7447, 特に"ABSTRACT"欄, "2. EXPERIMENTAL SECTION"欄, Figures1-6
【文献】MALARD, L. M. et al.,Resonance Raman study of polyynes encapsulated in single-wall carbon nanotubes,Physical Review B,2007年,Vol.76, No.23,p.233412,ISSN 1098-0121, 特にアブストラクト欄, FIGs.1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/991
B82Y30/00
B82Y40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブが集合されてなるカーボンナノチューブ集合体と、
カルビンと、
を含み、
前記カルビンは、前記複数のカーボンナノチューブの30%以上に充填されており、
前記カルビンを内包する前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを10本数%以上含む、カルビン含有複合材料。
なお、カーボンナノチューブへのカルビンの充填率Fは、充填率100%のカルビン内包カーボンナノチューブについてのGバンドに対するLCCバンドの相対強度I LCC/G* と、カルビン含有複合材料のGバンドに対するLCCバンドの相対強度I LCC/G とから、次式に基づき算出される。
F(%)=I LCC/G /I LCC/G* ×100
【請求項2】
ラマン分光分析によって測定されるラマンスペクトルにおいて、
Gバンドに基づくピークの強度を1としたときの、
LCCバンドに基づくピークの相対強度が0.4以上である、請求項1に記載のカルビン含有複合材料。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの少なくとも一部は、当該カーボンナノチューブの軸方向に直交する方向において2以上の前記カルビンを内包する、請求項1または2に記載のカルビン含有複合材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のカルビン含有複合材料を備える物品。
【請求項5】
複数のカーボンナノチューブが集合されてなり、G/D比が25以上のカーボンナノチューブ集合体を用意すること、
前記カーボンナノチューブ集合体に、少なくとも電界電子放出が生じる電圧を印加すること、
を含み、
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを10本数%以上含む、カルビン含有複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルビン含有複合材料に関する。
本出願は2017年8月25日に出願された日本国特許出願2017-162599号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
カルビン(carbyne)は、炭素原子(C)が一次元で結合した炭素同素体である。カルビンは、1885年にその存在が指摘されたものの、大気中で不安定であるため、その同定が為されたのは1960年代になってからであった。そして昨年、二層カーボンナノチューブ(Double-walled carbon nanotube:DWNT)をナノリアクターとして利用することで、DWNTの内部空間に非常に長いカルビンを安定的に生成できることが報告された(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Lei Shi et al., "Confined linear carbon chains as a route to bulk carbyne", NATURE MATERIALS, vol. 15, 634-639, 2016
【文献】Mingjie Liu et al., "Carbyne from First Principles: Chain of C Atoms, a Nanorod or a Nanorope", ACS Nano, 2013, 7(11), pp10075-10082
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1には、DWNTを8×10-5Paの高真空、かつ、1460℃の高温で加熱することで、DWNTの内部に好適にカルビンを形成できることが開示されている。また、内側のチューブ径が0.62~0.85nmの範囲のDWNTのみでカルビンを成長させることができ、当該内径のDWNTの90%以上にカルビンが充填されると記載されている。しかしながら、非特許文献1の著者によると、たとえDWNTの調製条件を最適化したとしても、上記のチューブ径を有するDWNTは、調製したDWNTの集合のうちの25%程度にしか得ることができていない。そしてまた、調製したDWNTの集合のうち、24%のDWNTsにしかカルビンが充填されていないことが報告されている。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、より高い充填率でカルビンを内包したカーボンナノチューブの集合体であるカルビン含有複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供されるカルビン含有複合材料は、複数のカーボンナノチューブ(carbon nanotube:CNT、以下単に「CNT」と記す場合がある。)が集合されてなるCNT集合体と、カルビンと、を含む。そして上記カルビンは、上記複数のCNTの30%以上に充填されている。
【0007】
すなわち、ここに開示されるカルビン含有複合材料は、これまでに知られているよりも高い充填率でCNT内にカルビンを含んでいる。CNTがその結晶構造に基づいて本来は半導体的性質を有する場合であっても、当該CNT内にカルビンが導入されることで、CNTに金属的特性を付与しうることが報告されている。このことから、例えばCNT集合体が半導体的特性を示すCNTを多く含むものであっても、カルビンが高い充填率で導入されることにより、全体として高い金属的特性(例えば、高い電気伝導率)を備えるものとなり得る。このように、カルビン含有複合材料は、従来のCNTやカルビンを含むCNTと比較して、カルビンの有する特性がより強く反映された材料を実現することができる。カルビン含有複合材料に備えられるカルビンの特性は、電気伝導率に限られることなく、各種の特性であり得る。
【0008】
ここに開示されるカルビン含有複合材料の好ましい一態様では、ラマン分光分析によって測定されるラマンスペクトルにおいて、Gバンドに基づくピークの強度を1としたときの、LCCバンドに基づくピークの相対強度が0.4以上である。このような構成によっても、多量のカルビンが導入されたカルビン含有複合材料が実現される。
【0009】
ここに開示されるカルビン含有複合材料の好ましい一態様では、上記カルビンを内包する上記カーボンナノチューブは、少なくとも一部に単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube:SWNT、以下、単に「SWNT」と示す場合がある。)を含む。より好適には、上記カルビンを内包する上記CNTは、SWNTを10本数%以上含む。上記非特許文献1においては、SWNTはDWNT等と比較して熱安定性が相対的に低いことから、内部にカルビンを形成できないことが開示されている。しかしながら、ここに開示されるカルビン含有複合材料においては、SWNT内にも安定してカルビンを内包することができる。換言すると、ここに開示されるカルビン含有複合材料は、新規なカルビン内包SWNT(カルビン@SWNT)を含むものであり得る。このようなカルビン含有複合材料は、複合材料の全体に占めるカルビンの割合をより効果的に高めることができるために好ましい。これにより、SWNTとカルビンとの特性が強く反映された材料となり得る点においても有用である。
【0010】
なお、CNT集合体において特定の構造を備えるCNTの割合は、たとえば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)観察により把握することができる。具体的には、例えば、CNT集合体におけるSWNTの割合は、TEM観察において視野内に観察されるCNTの総本数のうち、SWNTの総本数の割合(本数%)を算出することで求めることができる。なお、CNTの本数は、例えば観察像内にて確認できる500nm以上の長さのCNTについて計測するとよい。CNTの本数は、例えば、5万倍~50万倍程度の倍率の観察像をもとに計測した値を好ましく採用することができる。
【0011】
ここに開示されるカルビン含有複合材料の好ましい一態様において、上記CNTの少なくとも一部は、当該CNTの軸方向に直交する方向において2以上のカルビンを内包する。すなわち、CNTは、短手方向に並んだ2本以上のカルビンを内包することができる。CNTの内部に、長手方向(軸方向)に沿って断続的にカルビンが形成されることは知られている。つまり複数のカルビンが長手方向に沿ってCNT内に内包され得る。しかしながら、2本のカルビンを束ねたような状態で内包するCNTについては報告されていない。ここに開示されるカルビン含有複合材料は、このような新規なカルビン内包CNT(カルビン@CNT)を含むものであり得る。
【0012】
以上のとおり、ここに開示される技術によって、これまでにない新規なカルビン含有複合材料が提供される。このカルビン含有複合材料は、CNT集合体とカルビンとの特性を併せ持つものとなり得る。例えば、カルビンは、理論的には、グラフェンに対して2倍の抗張力を有し、剛性はグラフェンとCNTの2倍でダイヤモンドの3倍程度になると報告されている。したがって、例えば、カルビン含有複合材料は、抗張力および剛性がCNT集合体に対して著しく向上されたものとなり得る。
【0013】
また一方で、上述のとおり、カルビンは、半導体的性質のCNTを金属的性質に変換する機能を備え得る。したがって、例えば、カルビン含有複合材料は、CNT集合体の電気伝導性を高めたものとなり得る。このように、ここに開示されるカルビン含有複合材は、CNT集合体の特性を向上させたり改変させたりした新しい材料を提供する。この新規な材料は、従来のCNTと同様の用途で使用したり、これまでにない新しい用途で使用したりすることができる。このことから、ここに開示される技術は、カルビン含有複合材料を含む各種の物品を提供することができる。
【0014】
また他の側面において、ここで開示される技術は、カルビン含有複合材料の製造方法をも提供する。この製造方法は、複数のカーボンナノチューブが集合されてなり、G/D比が25以上のカーボンナノチューブ集合体を用意すること、上記カーボンナノチューブ集合体に、少なくとも電界電子放出が生じる電圧を印加すること、を含む。これにより、例えば、非特許文献1に開示されるよりも大幅に低い温度および低い真空度の緩和された条件において、上記カルビン含有複合材料を製造することができる。これにより、上記カルビン含有複合材料を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係るカルビン含有複合材料に含まれる、SWNTに内包されたカルビンの結晶構造を模式的に示した図である。
図2】非特許文献1に開示されたカルビンを100%内包しているCNTのラマンスペクトルである。
図3】一実施形態に係るカルビン含有複合材料についてのラマンスペクトルである。
図4】カルビンを含まないCNTシートについてのラマンスペクトルの一例である。
図5A】他の実施形態に係るカルビン含有複合材料のラマンスペクトル測定位置(a)~(c)を示すSEM像である。
図5B図5Aで示した測定位置(a)~(c)におけるカルビン含有複合材料のラマンスペクトルである。
図6】(A)~(C)は、カルビンを含まないCNTシート中のSWNTのTEM像であり、(D)は(A)の階調プロファイル解析の結果を示す図である。
図7A】一実施形態に係るカルビン含有複合材料に含まれるSWNTのTEM像である。
図7B】一実施形態に係るカルビン含有複合材料に含まれる他のSWNTのTEM像である。
図8】(A)(B)は、それぞれ図7Aおよび図7Bの四角で囲んだ領域の階調プロファイル解析の結果を示す図である。
図9】(A)(B)は、一実施形態に係るカルビン含有複合材料に含まれるDWNTのTEM像である。
図10】(A)(B)は、それぞれ図9(A)(B)の四角で囲んだ領域の階調プロファイル解析の結果を示す図である。
図11】(A)は、一実施形態に係るカルビン含有複合材料に含まれるMWNTのTEM像であり、(B)はその四角で囲んだ領域の階調プロファイル解析の結果を示す図である。
図12】(A)は、一実施形態に係るカルビン含有複合材料に含まれるDWNTのTEM像であり、(B)はその四角で囲んだ領域の階調プロファイル解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、カルビン含有複合材料の構成)以外であって、本発明の実施に必要な事柄(例えば、出発材料であるCNT集合体の作製方法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面に開示されている内容と、当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、数値範囲を示す「X~Y」との標記は、特にことわりのない限り、「X以上Y以下」を意味する。
【0017】
[カルビン含有複合材料]
ここに開示されるカルビン含有複合材料は、複数のCNTが集合されてなるCNT集合体と、カルビンと、を含む。そしてカルビンは、CNTに充填(内包)されている。以下、カルビン含有複合材料の各構成要素について説明する。
【0018】
[CNT集合体]
CNT集合体は、ここに開示されるカルビン含有複合材料の主体となる要素である。そしてカルビンを安定的に保持する保護ケースとしての役割を有する。また、CNT集合体は、後述のカルビン含有複合材料の製造に際しては、カルビンのリアクターとしての機能をも有する。CNT集合体としては、その構成等は特に制限されず、複数のCNTが別個にあるいは一体的に集合されてなる各種のCNT集合体を考慮することができる。取り扱いの容易性の観点から、複数のCNTが一体的に集合されていてもよい。またCNT集合体は、例えば、基板に垂直な方向に配向して成長された複数のCNTの群れにより構成されていてもよい。ここで「CNT集合体」を構成するCNTの数は厳密には制限されず、一例として、多数(例えば10本程度以上、好ましくは50本程度以上、より好ましくは100本程度以上)のCNTの集合からなるものとして考慮することができる。しかしながら、CNT集合体について、これを構成するCNTの数によって規定することは現実的ではないとも言える。必ずしもこれに限定されるものではないが、例えば、工業的な取り扱いが容易になるとの観点から、例えば、「CNT集合体」は、1μg以上のCNTの集合として把握してもよい。CNT集合体は、10μg以上のCNTの集合であってよく、100μg以上であってよく、例えば1000μg以上であり得る。CNT集合体を構成するCNTの質量の上限については何ら制限はない。
【0019】
CNT集合体は、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まった形態のSWNTによって構成されていてもよいし、2つの異径のSWNTが入れ子状になった形態のDWNTによって構成されていてもよいし、3つ以上の複数の異径のSWNTが入れ子状になった形態の多層カーボンナノチューブ(Multi-walled carbon nanotube:MWNT)によって構成されていてもよい。また、CNT集合体は、これらのSWNT、DWNTおよびMWNTのうちの2種以上が混在して構成されていてもよい。なお本明細書においては、三層以上のCNTをMWNTと総称し、その割合等についても特にことわりのない限り、MWNTの全体についての値を意味するものとする。MWNTとしては、例えば、3~200層程度のCNTが一般的であり、典型的には3~60層程度のCNTであり得る。またCNTは、一つのチューブにおいても、部分的に一層であったり、二層であったり、三層であったりと、異なる層構造を備え得る。このような場合は、そのCNTにおいて最も占める割合の多い層の数を、当該CNTの層の数として採用してもよい。
【0020】
CNT集合体は、必ずしもこれに限定されるものではないが、SWNT、DWNTおよびMWNTの合計に占めるSWNTの割合が、10本数%以上(本数基準で10%以上)であることが好ましい。CNT集合体を構成するSWNTの割合が多くなることにより、CNT集合体の単位重量あたりに含まれるカルビンの量を増大させることができるために好ましい。CNT集合体に占めるSWNTの割合は、20本数%以上がより好ましく、30本数%以上がさらに好ましく、40本数%以上が特に好ましく、例えば50本数%以上であってよい。なお、SWNTの割合は、60本数%以上であってよく、70本数%以上であってよく、80本数%以上であってよく、90本数%以上であってよく、実質的に100本数%であってもよい。
【0021】
なお、近年ではSWNTの合成方法が大幅に改良されており、純度やグラファイト化度の面においてより高品質なSWNTの合成方法が提案されている。またこのようなSWNTを含むCNT集合体においては、SWNTの含有割合を質量基準で評価することがあり得る。したがって、例えば、CNT集合体は、必ずしもこれに限定されるものではないが、SWNT、DWNTおよびMWNTの合計に占めるSWNTの割合が、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましく、例えば70質量%以上とすることができる。このことによっても、例えば、カルビン含有複合材料の全体に占めるCNTの質量割合を効果的に削減することができる。SWNTの割合の上限は特に制限されず、例えば、実質的に100質量%(例えば95質量%以下)であってもよい。
【0022】
一方で、DWNTは、その内部にカルビンを安定的に形成しやすいことが知られている。かかる観点から、CNT集合体において、SWNT、DWNTおよびMWNTの合計に占めるDWNTの割合は、10質量%以上であってよく、15質量%以上であってよく、例えば、20質量%以上であってもよい。しかしながら、ここに開示されるカルビン含有複合材料において、高い割合でカルビンをCNTに内包させるために、必ずしもDWNTの割合を高める必要はない。かかる観点から、CNT集合体は、必ずしもこれに限定されるものではないが、例えば、SWNT、DWNTおよびMWNTの合計に占めるDWNTの割合が、70質量%以下であってよく、60質量%以下以上であってよく、例えば50質量%以下であってよい。なお、CNTの合計に占めるMWNTの割合は、例えば30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、例えば、10質量%以下であってよい。
【0023】
また、CNT集合体におけるCNTの平均直径については厳密には制限されず、例えば、0.43nm以上100nm以下であってよく、典型的には0.5nm以上50nm以下であり、好ましくは0.6nm以上10nm以下である。なお、CNT集合体の直径とは、SWNTについてはチューブ径(直径)を、2層以上のCNTについては最も内側のCNTについてのチューブ系(直径)を意味する。ここに開示されるカルビン含有複合材料においては、必ずしもこれに限定されるものではないが、直径が0.6nm以上、例えば0.7nm以上のCNTにおいて、カルビンを好適に内包し得ることが確認されている。したがって、CNT集合体におけるCNTの平均内径は、0.6nm以上が好ましく、0.7nm以上がより好ましく、例えば0.8nm以上とすることができる。カルビンを内包するCNTについては、カルビンがより安定に存在し得るとの観点から、例えばCNTの平均内径は、5nm以下、より好適には2nm以下とすることが好ましい。
【0024】
CNTの平均長さは、典型的には1μm以上であることが適当である。低抵抗や膜強度を高める等の観点から、CNTの長さの平均値は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上、例えば10μm超である。CNTの平均長さの上限は特に限定されないが、概ね30μm以下にすることが適当であり、例えば25μm以下、典型的には20μm以下、例えば15μm以下であってもよい。例えば、CNTの平均長さが5μm以上30μm以下、好ましくは10μm超25μm以下、典型的には12μm以上20μm以下であるCNTが好適である。
【0025】
CNT集合体におけるCNTのアスペクト比(CNTの長さ/直径)の平均値は特に制限されないが、典型的には100以上である。CNTのアスペクト比が大きいほど、CNT同士が機械的に絡み合い易く、一体的な集合体を形成し易くなるために好ましい。さらには、バインダを含むことなく所望の形状の集合体を形成しうる点においても好ましい。CNTの平均アスペクト比は、CNT集合体の低抵抗特性や強度を高める等の観点から、好ましくは250以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは800以上、特に好ましくは1000以上である。CNTの平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、取扱性や製造容易性等の観点からは、概ね25000以下にすることが適当であり、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下、さらに好ましくは12000以下、特に好ましくは10000以下である。例えば、CNTの平均アスペクト比が100~10000であるCNTが好適である。なお、CNTの平均アスペクト比(CNTの長さ/直径)、平均長さおよび平均直径は、典型的には電子顕微鏡観察に基づく測定で得られた値を採用することができる。
【0026】
[カルビン]
ここに開示されるカルビン含有複合材料において、カルビンは、例えば図1に示すように、CNTに内包されている。カルビンとCNTとは、長手方向(軸方向)が同一である。カルビンは、上述のように、炭素の同素体の一つであり、炭素原子が一次元で直鎖状にsp結合した構造を有する。具体的には、カルビンは、下式(1)(2)で示すように、隣り合う炭素原子が三重結合と単結合とで交互に結合されたポリイン型構造(1)と、連続する二重結合で結合されたクムレン型構造(2)と、の共鳴構造により表すことができる。したがって、カルビンは、厚み(直径)が炭素原子1個分であり、この厚みに対して長さが十分に長い(例えば、凡そ9nm以上)ことから、カルビンは究極の一次元物質であるといえる。
【0027】
-C≡C-C≡C-C≡C-C≡C-C≡C- …(1)

=C=C=C=C=C=C=C=C=C=C= …(2)
【0028】
非特許文献2では、式(1)(2)で示されるカルビンについて、コンピュータを用いた精密なシミュレーションを行い、カルビンがこの世に存在するどの物質よりも固いことを予測している。具体的には、抗張力がグラフェンの約2倍であり、剛性はグラフェンとナノチューブの約2倍でダイヤモンドの約3倍に達するとしている。また、カルビンは、その結合方向を回転軸として90°捻ると、磁性半導体になる他、エネルギーを貯蔵して常温でも安定することが予想されている。カルビンの相図は、気相、液相、ダイヤモンド、グラファイトに囲まれた狭い領域に存在すると言われているが、実際のカルビンは単体では常圧下で非常に不安定な物質であることから、その詳細は明らかにされていない。
【0029】
しかし、このようなカルビンであっても、CNTに内包されることによって、常温常圧下で安定に存在することができる。ここに開示されるカルビン含有複合材料がカルビンを含んでいることは、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、凡そ1850cm-1から1865cm-1の範囲に、直鎖炭素鎖(linear carbon chains:LCC)バンドに基づくピークが見られることにより、カルビンの存在を確認することができる。換言すると、LCCバンドの検出により、カルビンがCNTに内包されていることを確認することができる。
【0030】
なお、本明細書において、ラマンスペクトルは、特にことわりのない限り、励起光として波長532nmのレーザを使用したラマン分光分析によって得られるスペクトルを意味する。また、かかるカルビン含有複合材料のラマンスペクトルには、CNTのグラファイト構造に由来して1590cm-1付近にGバンドに基づくピークが観察される。また、かかるカルビン含有複合材料のラマンスペクトルには、グラファイト構造の欠陥に由来して1350cm-1付近にDバンドに基づくピークが観察され得る。
【0031】
なお、ここに開示されるカルビン含有複合材料は、従来よりもたくさんの割合でCNT内にカルビンを含んでいる。その結果、ラマンスペクトルにおいて、Gバンドに基づくピークの強度Iを「1」(基準)としたときの、LCCバンドに基づくピークの相対強度ILCC、すなわち相対強度ILCC/I、が0.4以上となり得る。相対強度ILCC/Iは0.8以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましく、1.5以上が特に好ましい。また、相対強度ILCC/Iは、2以上とすることができ、2.5以上がより好ましく、3.0以上が特に好ましい。相対強度ILCC/Iの上限は厳密には限定されない。例えば、後述するように、非特許文献1に開示されたCNTのカルビン内包部分(局所)についての相対強度ILCC/Iが6.1であることから、相対強度ILCC/Iの上限は6.1程度とすることができる。
【0032】
ここに開示されるカルビン含有複合材料において、CNTに内包されるカルビンの量は、カルビンの充填率によっても評価することができる。ここに開示されるカルビン含有複合材料において、カルビンの充填率は30%以上が好適である。このような高い充填率でカルビンを含むCNT集合体は、これまでに知られていない。カルビンの充填率は、後述のカルビン含有複合材料の製造方法や出発材料を調整することで、さらに高めることができる。例えば、カルビンの充填率は32%以上であってよく、33%以上がより好ましく、35%以上が特に好ましく、37%以上がさらに好ましく、例えば40%以上であってよい。
【0033】
なお、本明細書において、CNTへのカルビンの充填率は、以下のように定義される。すなわち、まず、1本の長尺のカルビンを長さ方向で間欠することなく内包している1本のCNTのカルビン内包部分について、カルビンの充填率が100%であると定義する。そしてこの充填率100%のカルビン内包部分のラマンスペクトルにおいて、Gバンドに基づくピークの強度IG*を「1」としたときの、LCCバンドに基づくピークの強度ILCC*、すなわちILCC*/IG*をもって、充填率100%のときのGバンドに対するLCCバンドの相対強度ILCC/G*(基準)とする。また、カルビン含有複合材料のラマンスペクトルにおいて、Gバンドに基づくピークの強度Iを「1」としたときの、LCCバンドに基づくピークの強度ILCCを、カルビン含有複合材料のGバンドに対するLCCバンドの相対強度ILCC/Gとする。このとき、カルビン含有複合材料におけるCNTのカルビン充填率Fは、次式で表される。
F(%)=ILCC/G/ILCC/G*×100
【0034】
充填率が100%のときのGバンドに対するLCCバンドの相対強度ILCC/G*は、充填率100%のカルビン内包CNTを用いて測定により求めた値を採用してもよいし、例えば、非特許文献1に開示されたラマンスペクトルに基づいて算出された値である「6.1」を用いてもよい。図2に、非特許文献1に開示されたラマンスペクトルを示した。
【0035】
また、カルビン含有複合材料は、CNT集合体部分に表面欠陥が少ないほど、それぞれのCNT間の分子間力が効果的に高められるために好ましい。また、CNTが金属的性質を示す場合は、表面欠陥が少ない方が導電率が上昇し得る。したがって、CNT集合体は表面欠陥が少ないほうが好ましい。かかる観点において、ここに開示されるカルビン含有複合材料は、Dバンドに基づくピークの強度Iに対する、Gバンドに基づくピークの強度Iの比(I/I:G/D比)が高いことが好ましい。カルビン含有複合材料のG/D比は、例えば6以上であることが好ましく、7以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が特に好ましい。
【0036】
[用途]
以上のカルビン含有複合材料は、CNT集合体にカルビンがこれまでにない高い割合で内包されている。したがって、カルビン含有複合材料は、CNTの本来有する特性に加えて、カルビンに由来する特性をも備え得る。例えば、従来のCNTシートなどと比較して高い強度を備える物品を提供することができる。また一方で、カルビンは、カルビンを内包するCNTの性状に変化をもたらし得る。例えば、SWNTはカイラリティによって金属的性質を示すか半導体的性質を示すかが分かれるが、DWNTおよびMWNTについては一層でも金属的性質のCNTを含むことで全体として金属的性質を示すことから、現実的にはほぼ全てDWNTおよびMWNTが金属的性質を示し得ることが知られている。ここに開示されるカルビン含有複合材料はSWNTを好適に含みうることから、SWNTが半導体的性質を示すとき、カルビン含有複合材料とすることで、SWNTは金属的性質を示すように改質され得る。このことにより、例えば金属/半導体の作り分けが完全でないCNT集合体におけるCNTの性状を、金属的特性に揃えることができる。このようなカルビン含有複合材料を備える物品は、従来のCNTを使用した製品のほぼ全てに置き換えて用いることができる。例えば、カルビン含有複合材料を含む物品は、機械的用途または導電材用途の軽量材料等として特に有用であり得る。かかる物品の好適例としては、例えば、透明電極、透明導電膜などが挙げられる。
【0037】
[カルビン含有複合材料の製造方法]
またここに開示される技術によると、上記のカルビン含有複合材料の好適な製造方法が提供される。この製造方法は、以下の工程(1)~(2)を含む。以下、各工程について説明する。
(1)出発材料として、複数のCNTが集合されてなり、G/D比が25以上のCNT集合体を用意する。
(2)CNT集合体に、少なくとも電界電子放出(Field Emission:FE)が生じる電圧を印加する。
【0038】
[1.出発材料の用意]
カルビン含有複合材料は、出発材料として、CNT集合体を用いる。このCNT集合体は、目的のカルビン含有複合材料とほぼ同じ構成を有するものを用意すればよい。例えば、カルビン含有複合材料のCNT集合体におけるSWNT、DWNT、MWNTの各割合や形状および集合形態等は、出発材料の段階で所望の態様を備えるCNT集合体を用意するとよい。なお、次工程のFEを生じさせ易くなるとの観点からは、概ね表面形態が平坦なシート状のCNT集合体を使用することが好ましい。CNT集合体は、任意の基材に保持されていてもよいし、CNT集合体のみの独立体として用意されてもよい。
【0039】
上記CNT集合体としては、FEを好適に生じさせるとの観点から、ラマン分光分析によって測定されるG/D比が25以上のものを好ましく採用することができる。G/D比が大きいCNT集合体ほど、CNTの表面欠陥が少なく、結晶性が高いと評価することができる。このことにより、次工程でFEを好適な状態で生じさせることができる。また、CNTは表面欠陥が少ないことで、各CNT間の分子間力が効果的に高められている。そのため、CNT集合体の形成において、例えばバインダを必要とせずに高い膜強度を実現しうる点においても好適である。CNTのG/D比は、好ましくは28以上、より好ましくは30以上、特に好ましくは35以上である。例えば、CNTのG/D比は、50以上であってもよく、典型的には100以上であってもよい。上記CNTのG/D比の上限は特に限定されないが、製造容易性等の観点からは、例えば200以下、典型的には150以下、例えば120以下であってもよい。このCNT集合体の製造方法は特に限定されない。例えば、アーク放電法や、CVD法などにより製造されたCNT集合体であってよい。しかしながら、上記のような高いG/D比を備えるCNT集合体は、例えば、CVD法により好ましく作製される。
【0040】
また、CNT集合体の純度は特に制限されないが、典型的には85%以上である。ここでいう純度とは、CNT集合体に占める炭素質材料(CNTおよびアモルファスカーボン)の割合である。FEのばらつきの抑制や、低抵抗化、膜強度向上等の観点から、CNT集合体の純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。CNT集合体の純度の上限は特に限定されず、製造容易性等の観点からは、典型的には99%以下、例えば98%以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、CNT集合体の純度が85%以上100%以下(典型的には95%以上99%以下)である態様で好ましく実施され得る。なお、本明細書において、CNTの純度は、示差熱重量分析(TG-DTA)装置による測定で得られた値を採用することができる。例えば一例として、TG/DTAチャートにおいて、683℃付近におけるSWNTの燃焼と、322℃付近のアモルファスカーボンの燃焼とによる重量減少率から、SWNTとアモルファスカーボンの合計であるCNTの含有量を算出することができる。CNT集合体がDWNTやMWNTを含む場合は、それらの燃焼に伴う重量減少を加味すればよい。
【0041】
さらに、CNT集合体のかさ密度は特に制限されない。カルビンをより高濃度に含むカルビン含有複合材料を得るとの目的からは、例えば、CNT集合体のかさ密度は、0.1g/cm以上であることが好ましく、0.3g/cm以上がより好ましく、0.5g/cm以上が特に好ましい。CNT集合体のかさ密度の上限は特に限定されず、例えば過度に密度の高いCNT集合体はCNTがMWNTで構成される割合が高まったり、圧密によりCNTが折れる割合が高まったりし得る。かかる不都合を避けやすいなどといった観点から、CNT集合体のかさ密度が典型的には1g/cm以下とすることができる。なお、このかさ密度は、後述の触媒金属やアモルファス金属等を含まないCNTについての値であることがより一層好ましい。
【0042】
さらに、CNT集合体は、例えば、CNTの合成等に用いられた触媒金属などの含有が許容される。触媒金属は、例えば、Fe,Coおよび白金族元素(Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属または該金属を主体とする合金であり得る。このような触媒金属は、典型的には微粒子(例えば、平均粒子径が3nm~100nm程度)の形態でCNT集合体中に含まれ得る。出発材料としてのCNT集合体の好ましい一態様では、炭素質材料の85atom%以上(より好ましくは90atom%以上)が炭素原子(C)である。該炭素質材料の95atom%以上が炭素原子であってもよく、99atom%以上が炭素原子であってもよく、実質的に炭素原子のみからなるCNTであってもよい。後述するCNT製造方法により得られた生成物に任意の後処理(例えば、アモルファスカーボンの除去、触媒金属の除去等の精製処理)を施したものを上記CNTとして使用してもよい。
【0043】
なお、CNT集合体は、次工程のFEの発生を著しく妨げない範囲において、上述した炭素質材料および触媒金属以外の材料(以下、添加材料ともいう。)を含有してもよい。そのような添加材料の例として、樹脂バインダ、導電材、増粘剤などが挙げられる。しかしながら、これらの添加材料の含有量は、CNT集合体の全質量のうち、例えば10質量%以下とすることが適当であり、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。CNT集合体は、中でも、絶縁作用を有する樹脂バインダを実質的に含まないことが好ましい態様であり得る。
【0044】
[2.CNT集合体のFE処理]
ここに開示されるカルビン含有複合材料は、上記で用意したCNT集合体に電圧を印加して、FEを生じさせるか、これに等しい状態に置くことで得ることができる。印加する電圧および雰囲気条件等は、CNT集合体の性状(結晶性や形状、延いては電界放出特性)によって異なるために一概にはいえない。CNT集合体が電界の作用によって電子を放出していることは、例えば、CNT集合体への電界の印加によって印加電極間に微弱な電流(FE電流)が流れることで、確認することができる。一般に、金属性材料についての電界放出は、超高真空雰囲気下(典型的には、10-8Pa以下の雰囲気)でないと安定して生じさせることができない。しかしながら、出発材料として上記の高い結晶性を備えるCNT集合体を用いることで、従来よりも緩い減圧環境および/または従来よりも低い電圧でFEを生じさせることができる。そしてこのような高い結晶性を備えるCNT集合体においてFE環境を創り出すことで、カルビンの形成により適した環境が整えられると考えられる。
【0045】
かかる減圧環境としては、例えば、10-5Paを超える圧力(例えば、10-5Pa超過10Pa以下程度)とすることができる。JIS Z8126-1:1999によると、10-5Pa以下の真空を「超高真空」と定義していることから、ここに開示される技術によると、FEのための減圧環境は、例えば10-5Pa超過0.1Pa-1以下の「高真空」や、0.1Pa-1超過10Pa以下の「中真空」とすることができる。なお、より常圧に近い環境においてFEを発生させるとの観点からは、減圧環境は10-4Pa以上が好ましく、10-3Pa以上がより好ましく、10-2Pa以上が特に好ましく、10-1Pa以上がさらに好ましく、例えば、10Pa以上としてもよい。
【0046】
また、電界発生のための電圧条件は、CNT集合体の結晶性や表面形態、電極間距離等に大きく依存するために一概にはいえない。例えば、電極間距離が1.6mmの場合、おおよその目安として、0Vを超えて、例えば、0.5kV以上程度が好ましく、1kV以上程度がより好ましい。また、電界発生のための電圧条件は、例えば、3kV以下程度であってよく、より好ましくは2.8kV以下程度、例えば2.5kV以下程度とすることが例示される。電界の方向に厳密な制限はない。しかしながら、FEを生じ得るような状態にCNTをより好適に晒すとの観点からは、CNTのチューブ軸に対して交わる方向に電界を印加することが好ましいといえる。これにより、CNT集合体に対して高電界によるエネルギーを好適に供給するとともに、かかるエネルギーをFEによって過剰に消失することなく、カルビンの形成に利用できると考えられる。電界の方向は、例えば、CNT集合体がシート状である場合は、その表面に対して平行な方向よりは、表面に交わる方向であることが好ましく、表面に対して垂直な方向に近づけば近づくほどより好ましい。これにより、CNT集合体の全体に有効に電界を印加することができる。
【0047】
詳細は明らかではないが、電界の作用によって、CNT内の電子はチューブ壁(グラフェンシート)をスムーズかつ低抵抗で移動することができる。そしてCNT集合体のうちの、電界が集中される部位において電子の引き出し作用が発現される。これによって当該部位においてCNTを構成する炭素原子の結合に乱れが生じ、CNTの内部空間の中心に炭素原子が一次元状に配列されて、sp結合することで、カルビンを形成すると考えられる。あるいは、CNT集合体に含まれるアモルファスカーボンが揮発することで、CNTの内部空間の中心に、同様にカルビンを形成するものと考えられる。なお、電界放出に際し、放電現象(絶縁破壊)は必要ではない。換言すると、非破壊電圧によって電界を印加してもよい。しかしながら、カルビンの形成には、CNT集合体に比較的高い電圧を印加することが好ましい。かかる観点から、カルビン含有複合材料により多くのカルビンを含有させるために、電界放出に際して放電を生じさせることは許容される。この場合、放電に伴い、カルビン含有複合材料中のCNTのG/D比は上述のとおり低下し得る。このようにしてCNT集合体の電界放出が行われた付近には、CNTの内部にカルビンが形成され得る。カルビンは、例えば充填率が30%以上の比較的高い割合で、CNT内に充填されている。これによって、ここに開示されるカルビン含有複合材料を製造することができる。
【0048】
以下、本発明に関する具体的な実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0049】
[試験例1]
G/D比が異なる3種のシート状のCNT集合体(以下、単に「CNTシート」という。)を用意した。具体的には、例1のCNTシートは、株式会社名城ナノカーボン製のSWNT「EC1.5」からなるシートである。このEC1.5は、CVD法により作製された主としてSWNTにより構成される。例2のCNTシートは、株式会社名城ナノカーボン製のアーク放電法により作製された、主としてSWNTからなるシートである。例3のCNTシートは、JFEエンジニアリング株式会社製の「高純度CNTテープ」である。例3のCNTシートは、アーク放電法により作製されたMWNTからなるシートである。これらのCNTシートは、いずれもCNTのバッキーペーパーをシート状に成形したものであり、いずれのシートにもバインダは含まれていない。
【0050】
用意した例1~3のCNTシートについてラマン分光分析を行い、得られたラマンスペクトルからG/D比を算出して表1に示した。ラマン分光分析には、顕微ラマン分光装置(Renishaw社製、inVia Reflex)を用い、励起光として波長532nmのレーザを使用した。また、各例のCNTシートのかさ密度と、シートを構成するCNTの平均直径と、シートの厚みとを測定し、併せて示した。なお、CNTの平均直径は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)とTEMとを用いた観察により測定された10点のCNTの直径の算術平均値である。直径の測定に際し、例1および2のシートではSWNTを測定対象とし、例3のシートでは任意のMWNTを測定対象とした。また、シート厚みは、SEMを用いた断面観察により測定した各CNTシートの3点以上の厚みの算術平均値である。
【0051】
【表1】
【0052】
[カルビン形成1]
次に、上記で用意した例1~3のCNTシートのCNTを、5mm角の正方形に切り出して測定用サンプルとした。そして例1~3のサンプルを真空チャンバ内設置し、電界を印加することで電界電子放出(Field Enission:FE)を生じさせた。具体的には、まず、例1~3のサンプルをアルミニウム製ホルダに銀ペーストで固定してカソードユニットを構築し、チャンバ内のアースされたステンレス製ステージに載置した。また、チャンバ内のアルミニウム製ホルダにアノードを平行に対面させて、両電極間に電圧を印加した。すなわち、CNTシートに対して垂直な方向に電界を印加した。印加電圧は0~2.5kVの間で放電が起こるまで変化させた。チャンバ内圧力は、(a)約1×10-5Paと(b)約1×10-1Paの二通りに設定した。また、電極間には絶縁性のセラミックガラスをスペーサとして挿入し、電極間距離を約1.6mmに調整した。
【0053】
[ラマン分光分析]
FE後の各例のサンプルについて、上記と同様にラマン分光分析を行った。なお、ラマンスペクトルは、各例のサンプルのうち、放電が生じた箇所ないしはその近辺について測定した。得られたラマンスペクトルからG/D比を算出し、下記の表2に示した。表2には、参考のために、FE前の初期のG/D比も併せて示している。また、1860cm-1近傍にLCCバンドに帰属されるピークが見られた場合は、Gバンドのピーク強度に対するLCCバンドのピーク相対強度(LCC/G比)を算出して表2に記載した。また、このLCC/G比に基づき、カルビンの充填率を算出して表2に記載した。ただし、例3のサンプルについては、チャンバ内圧力を約1×10-1Paと常圧に近い条件とした場合にFE電流自体が観測されなかったため、ラマン分光分析を省略した。ラマン分析の結果、得られた例1のサンプルのラマンスペクトルを図3に、例2および例3のサンプルのラマンスペクトルを図4に示した。なお、各ラマンスペクトルは、Gバンドのピーク強度が1となるように、縦軸のピーク強度を調整して示している。
【0054】
【表2】
【0055】
[評価]
表1に示すように、初期のCNTシートのラマンスペクトルには、CNT特有のDバンドおよびGバンドが観測され、そのG/D比は、高い順に並べると、例1、例2、例3であることが確認できた。このことから、CNTシートを構成するCNTの結晶性は、例1、例2、例3の順に高いことが確認できた。
また、表2に示すように、FEに伴う放電によって、例1,2のCNTシートのG/D比は大きく低下することがわかった。DバンドはCNTの結晶構造の欠陥周辺の特殊な振動に起因することから、例1,2のCNTシートは放電によってCNTに欠陥が導入されたことがわかった。一方の、もともと結晶性が相対的に低かった例3のCNTシートでは、放電によってG/D比が上昇する結果となったが、G/D比自体が1に近い値であり、顕著な結晶性の変化は見られないといえる。
【0056】
そして、G/D比の最も高い例1のCNTシートについては、FEにより放電させることで、ラマンスペクトルにLCCバンドに基づくピークが出現し、その他のCNTシートについてはLCCバンドに基づくピークが出現しないことが確認された。このことにより、例1のSWNTからなるCNT内にカルビンが形成されたことがわかった。例1のCNTシートについては、チャンバ内圧力が(a)約1×10-5Paの高真空でも、(b)約1×10-1Paの低真空でもLCCバンドが出現した。図3に示すように、Gバンドのピークに対するLCCバンドのピークの高さ(LCC/G比)は、(b)低真空でFE放電させたサンプルのほうが高いという結果になった。これまで、カルビンはDWNTを10-5Pa~10-6Paオーダーの高真空で高温に加熱することで生成できるといわれていた。しかしながら、本試験例では、約1×10-1Paのほぼ常圧においてもカルビンが生成されることが確認された。また、これまでカルビンは、2層以上のMWNT内でないと安定性が保てずに生成されないといわれていた。しかしながら、本実施形態では、SWNT内においてもカルビンが生成されることが確認された。
【0057】
[試験例2]
[カルビン形成2]
上記で用意した例1のCNTシートについて、(a)約1×10-5Paの真空条件下、上記試験例1と同様に電圧を印加してFEを生じさせ、放電が起こる前にFEを終了させることで、放電なしのFE-CNTシートを用意した。そして用意したFE-CNTシートのうち、図5Aに示す測定位置a~cの3箇所について、上記と同様の条件によってラマン分光法によりラマンスペクトルを得た。測定位置a~cはいずれも、測定用サンプルの端部においてCNTシートの一部がめくれ上がった部分に位置している。本試験例の測定用サンプルでは放電は生じなかったものの、高電界エネルギーの供給によって加熱された不純物(例えばアモルファスカーボン)が溶融・気化し、発生した蒸気等によってシートの表面の一部がめくれ上がったものと考えられる。測定位置aは、その中でも比較的一様で、表面形態が平らな領域である。測定位置bおよびcは、山の尾根または壁のように立ち上がった部位であり、SEM像でbよりもcのほうが明るく見えるため、cのほうがシート表面からより高い場所に位置していると考えられる。得られたラマンスペクトルを図5Bに示した。各測定位置についてのラマンスペクトルは、Gバンドのピーク強度が1となるように、縦軸のピーク強度を調整して示している。
【0058】
図5Bに示すように、FEはしているものの放電はしていないCNTシートについても、ラマン分析した3箇所の全てにおいて、LCCバンドに基づくピークが観測されることがわかった。換言すると、カルビンの形成は、必ずしも放電がトリガーではないことがわかった。ただし、LCC/G比の値は、上記試験例1よりも大幅に低くなり、またばらつきも大きく、本試験例ではLCC/G比は0.47~1.2の範囲であった。すなわち、カルビンの形成には必ずしも放電は必要ではないが、放電に伴ってカルビンが形成されやすい状況が作られることがわかった。LCC/G比は、測定位置a、b、cの順に高くなることから、高電界エネルギーの供給によるCNTシートの変動が大きい位置ほどカルビンが形成され易かったといる。3つのラマンスペクトルはLCCバンドに基づくピーク高さの他には目立った相違がなく、例えばG/D比も大きく変わらない。このことから、必ずしも放電に伴うCNTの破壊(欠陥の増加)のみがカルビンの形成に影響を与えているわけではないことが予想される。換言すると、カルビンは、CNTの欠陥部分(崩壊部分)の炭素原子のみを炭素源として形成されているわけではなく、高電界エネルギーの影響による部分があることが予想される。

【0059】
[参考例]
[出発材料]
上記試験例1で用いた例1のCNTシートを、TEM(PHILIPS社製、CM120)にて観察した。TEMの加速電圧は80kVとした。その結果得られたTEM像を図6(A)~(C)に示した。また、図6(A)に示されたCNTについて、図中の四角で囲んだ領域においてCNTに直交する方向にラインスキャンを行い、TEM像の白黒の階調(コントラスト)を数値化して階調プロファイルへ加工するラインスキャン解析を行った。その結果を図6(D)に示した。
【0060】
その結果、図6の(A)に示されたCNTは、一層のCNTからなるSWNTであった。(B)に示されたCNTは、二つの異径のSWNTが入れ子状になったDWNTであった。(C)に示されたCNTは、三つの異径のSWNTが入れ子状になった3層のMWNTであった。これら図6(A)~(C)に示したように、例1のCNTシートは、(A)SWNTを主体(おおよそ70本数%以上)としつつ、一部に(B)DWNTや(C)3層のMWNTを含むことが確認された。
【0061】
図6(D)のラインスキャン結果は、縦軸がTEM像のコントラストに対応している。縦軸は、上に行くほどTEM像の対応位置が明るいことを意味し、下に行くほどTEM像の対応位置が暗いことを意味する。図6(D)に示されるように、このラインスキャンによって、図6(A)中に矢印で示したSWNTのウォールに対応する暗い位置が深い谷状に、その他の何も観察されない明るい領域が山状(丘状)に表されることが確認できた。SWNTのウォールの間では、階調プロファイルは概ね平坦になることが確認できた。なお、SWNTのTEM像のコントラストの階調プロファイルにおいて、例えば、SWNTのウォール(チューブ壁)に対応する部分の階調と、ウォールに挟まれた中空部のうちの最も明るい階調との差ΔCに対する、中空部の階調の最大ばらつきΔCの比(ΔC/ΔC)、換言すると、SWNT全体のTEMコントラスト差に対する中空部のコントラスト変化の割合は、おおよそ0.15程度であった。なお、ウォール部と中空部との階調の差ΔCとしては、最も内側のウォールに対応するコントラストが最も暗い一組の点(図6(D)のa1,b1)を繋ぐ線をベースラインとして、この一組の点(a1,b1)の間の領域であって、ベースラインからの階調プロファイルの距離が最大となる最大コントラストΔCを採用した。また、中空部の階調の最大ばらつきΔCとしては、一組の点(a1,b1)の間の領域における、ベースラインからの階調プロファイルの距離が最大となる最大コントラストと、ベースラインからの階調プロファイルの距離が最小となる最小コントラストと、の差を採用した。図6(D)の場合、ウォールに対応する一組の点(a1,b1)は、スキャン地点が約1.1nm、約3.8nmの地点である。これらの点を結ぶベースラインからの距離が最も遠い階調プロファイルは、スキャン地点が約1.6nmと約3.3nmの地点(最大コントラストΔCは何れも約8.6目盛)であり、距離が最も近い階調プロファイルは、スキャン地点が約2.75nmの地点(最小コントラストは約7.3目盛)であり、これらの差ΔCは約1.3目盛であった。これらの情報から、上記比(ΔC/ΔC)が算出される。なお、CNTのTEM像のコントラストにおいて、チューブ壁に対応する相対的に暗い部分と、中空部に対応する相対的に明るい部分と、の境界は必ずしも明確ではない。そのため、最も内側のチューブ壁に対応する上記一組の点(a1,b1)の間であって、当該一組の点に最近接する明るい部分のピーク(図6(D)については、スキャン地点が約1.6nmと約3.3nmの極大点)に挟まれた領域を、便宜的にCNTの中空部に対応する部分と判断し、ベースラインからの距離が最も近い階調プロファイルはこれら一組の極大点の間で計測される。
【0062】
[試験例3]
[カルビン形成3、カルビン含有複合材料:SWNT]
次いで、例1のCNTシートに対し、高周波電圧によって発生させたプラズマを作用させた後に、約1×10-5Paの真空条件下で上記試験例1と同様に電圧を印加してFE放電を生じさせた。より具体的には、CNTシートに対して所定の開口を備えるマスクを付した後、反応性イオンエッチング(RIE)を施すことで、マスクの開口近傍のCNTシートに対してプラズマを作用させた。RIEの条件は、100Paの減圧雰囲気下、酸素(O)およびアルゴン(Ar)とからなる反応性ガスに200Wの高周波電界を印加することで反応性ガスを活性化し、これにより生じたラジカルイオンをエッチング用粒子としてCNTシート表面をエッチングした。上記RIE条件によると、エッチングによりマスク開口部のCNTシートは全て消失し、マスクの開口近傍のCNTシートに対して反応性プラズマを作用させることができる。そしてRIE後のCNTシートについて、試験例1と同様のFE放電を生じさせた。
【0063】
RIEおよびFE放電後のCNTシート中のSWNTについてTEM観察を行い、その結果を図7A、7Bに示した。また、図7A、7B中にそれぞれ四角で示した領域においてSWNTと直交する方向でラインスキャン解析を行い、その結果を図8(A)(B)にそれぞれ示した。
【0064】
図7AのSWNTを観察すると、矢印a1、b1で示したチューブ壁の中心に、うっすらとではあるが、チューブ軸に沿って筋状に延びる濃いコントラストが確認された。図8(A)の階調プロファイルを見ると、一対のチューブ壁に対応する位置a1、b1の真ん中に、一つの谷が形成されていることが確認できた。階調プロファイルから、SWNTの直径は約1.9nm程度であり、真ん中の谷はSWNTのほぼ中心(軸)に位置していることが確認された。また、図7BのSWNTについては、矢印a2、b2で示した一対のチューブ壁の中心に、軸に沿って断続的に濃いコントラストが確認された。そして図8(B)の階調プロファイルにおいても、チューブ壁に対応する位置a2、b2の真ん中に、一つの谷が形成されていることが確認できた。階調プロファイルから、SWNTの直径は約1.4nm程度であり、真ん中の谷はSWNTのほぼ中心(軸)に位置していることが確認された。TEMのコントラストから、SWNTの中心に存在するものは軽元素からなる物質である。またそのコントラストは、SWNTのチューブ壁よりも十分に細い。以上の結果を総合すると、SWNTの中心に、線状カーボン同素体であるカルビンが形成されていると結論づけることができる。カルビンは、これまで二層以上のMWNT内にしか安定に形成されないといわれてきた。しかしながら、ここに開示されるカルビン含有複合材料においては、SWNTの内部にカルビンが形成されることが初めて確認された。
【0065】
なお、図8の(A)を基に、SWNT全体のTEMコントラスト差に対する中空部のコントラスト変化として算出される、比(ΔC/ΔC)は約0.34であり、(B)を基に算出される比(ΔC/ΔC)は約0.35であった。カルビンの存在により、例えば、TEM像におけるCNTの中空部のコントラストは明らかに暗く変化することがわかる。
【0066】
[カルビン含有複合材料:DWNT]
用意したRIEおよびFE放電後のCNTシート中に見られた2つのDWNTについて、同様にTEM観察を行い、その結果を図9(A)(B)に示した。また、図9(A)(B)中にそれぞれ四角で示した領域においてDWNTと直交する方向でラインスキャン解析を行い、その結果を図10(A)(B)にそれぞれ示した。
【0067】
図9(A)では、DWNTの内側のチューブ壁を矢印a1、b1で示した。図9(A)を観察すると、やはりうっすらとではあるが、チューブ壁の中心付近に筋状に延びる濃いコントラストが確認された。図10(A)のDWNTの階調プロファイルでは、2層のCNTに対応する二重のチューブ壁が、二対の深い谷として明瞭に観察された。そして矢印a1、b1で示した内側の一対のチューブ壁の中央付近に、一つの谷が形成されていることが確認できた。階調プロファイルから、DWNTの内側のチューブの直径は約1.2nm程度であり、真ん中の谷はそのほぼ中心に位置していることが確認された。また、図9(B)のDWNTについては、矢印a2、b2で示した内側の一対のチューブ壁の中心に、軸方向に沿って断続的に濃いコントラストが確認された。そして図10(B)の階調プロファイルにおいても、内側のチューブ壁に対応する位置a2、b2の真ん中に、一つの谷が形成されていることが確認できた。階調プロファイルから、DWNTの内側のチューブの直径は約1.4nm程度であり、真ん中の谷はその中心からややずれた位置に現れたことが確認された。TEMのコントラストから、DWNTのチューブ内に存在する物質は軽元素から構成されていると考えられる。またそのコントラストは、TEM像の同視野に観察されるSWNTのチューブ壁よりも十分に細い。以上の結果を総合すると、ここに開示されるカルビン含有複合材料においては、DWNTのチューブ内にも、線状カーボン同素体であるカルビンが形成されていると結論づけることができる。
【0068】
なお、図10の(A)を基に、DWNT全体のTEMコントラスト差に対する中空部のコントラスト変化として算出される、比(ΔC/ΔC)は約0.19であり、(B)を基に算出される比(ΔC/ΔC)は約0.17であった。DWNTの二重壁に起因してウォールのコントラストが濃く観察されたことにより、比(ΔC/ΔC)はやや小さめの値となったが、カルビンの存在により、例えば、TEM像におけるCNTの中空部のコントラスト比(ΔC/ΔC)は例えば0.16以上、典型的には0.17以上となるといえる。
【0069】
[カルビン含有複合材料:MWNT]
さらに、用意したRIEおよびFE放電後のCNTシート中に見られた三層のMWNTについて、同様にTEM観察した結果を図11(A)に、また、図11(B)中に四角で示した領域においてCNTと直交する方向でラインスキャン解析を行った結果を図11(B)にそれぞれ示した。
図11(A)には、三層CNTが示されており、最も内側のチューブ壁を矢印a1、b1で示した。図11(A)には、三対のチューブ壁の真ん中に、筋状に延びる濃いコントラストが明瞭に確認された。図11(B)のMWNTの階調プロファイルでは、三層のCNTに対応する三重のチューブ壁が、概ね三対の谷として確認できた。そして矢印a1、b1で示した最も内側の一対のチューブ壁の中央付近に、一つの谷が深く形成されていることが確認できた。階調プロファイルから、三層CNTの内側のチューブの直径は約0.8nm程度であり、真ん中の谷はそのほぼ中心に位置していることが確認された。以上の結果から、ここに開示されるカルビン含有複合材料においては、三層CNTのチューブ内にも、線状カーボン同素体であるカルビンが形成されるといえる。なお、図11(B)を基に算出される比(ΔC/ΔC)は約0.63であった。
【0070】
[カルビン含有複合材料:複数のカルビン]
さらに、RIEおよびFE放電後のCNTシート中に見られたDWNTについて、同様にTEM観察した結果を図12(A)に示した。また、図12(A)中に四角で示した領域においてCNTと直交する方向でラインスキャン解析を行った結果を図12(B)に示した。
図12(A)には、折れ曲がったDWNTが示されており、内側の一対のチューブ壁を矢印a1、b1で示した。このDWNTでは、内側の一対のチューブ壁の間に、筋状に明るいコントラストが三本ほど確認できた。そこで図12(B)の階調プロファイルを確認したところ、内側のチューブ壁に対応する位置a1、b1の間に、二つの谷が形成されていることが確認できた。すなわち、TEM像における明るい三本のコントラストは、2本の暗いコントラストの形成により現れたものと考えられる。階調プロファイルから、DWNTの内側のチューブの直径は約1.5nm程度であり、その内側の二つの谷は間隔が約0.43nmで、内側チューブのほぼ中央の位置に現れていることが確認された。TEMのコントラストから、DWNTのチューブ内に存在する物質は軽元素から構成されていると考えられる。またそのコントラストは、TEM像の同視野に観察されるSWNTのチューブ壁よりも十分に細い。これらのことから、ここに開示されるカルビン含有複合材料においては、CNT内に、線状カーボン同素体であるカルビンが複数安定に形成され得ることが確認された。また、この結果から、カルビンの配置が最も内側のCNTの中心からずれている場合は、TEMでは観察され難いものの、CNT内に複数のカルビンが形成されていることが予想される。
【0071】
以上、本発明の一実施形態に係るカルビン含有複合材料について説明したが、本発明に係るカルビン含有複合材料は、上述した実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12