(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物およびガラス溶融窯
(51)【国際特許分類】
C04B 35/109 20060101AFI20221101BHJP
C03B 5/43 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C04B35/109
C03B5/43
(21)【出願番号】P 2019551873
(86)(22)【出願日】2018-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2018020332
(87)【国際公開番号】W WO2019092908
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017214723
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】俣野 健児
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-252574(JP,A)
【文献】特開昭62-059576(JP,A)
【文献】特開2011-020918(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072627(WO,A1)
【文献】特開2001-220249(JP,A)
【文献】特開平10-101439(JP,A)
【文献】米国特許第02438552(US,A)
【文献】特表2012-513360(JP,A)
【文献】特表2015-531736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C03B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分としてAl
2O
3、ZrO
2、SiO
2、Na
2OおよびK
2Oを含むアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物であって、酸化物基準の質量%で、
Al
2O
3を30~75%、
ZrO
2を20~55%、
SiO
2を5~15%、
Na
2Oを0.12~1.52%、
K
2Oを0.11~1.46%、
Al
2
O
3
+ZrO
2
+SiO
2
+Na
2
O+K
2
Oを85.0%以上、含有し、
以下の式(1)および式(2)
0.090≦(Na
2O+K
2O/1.52)/SiO
2≦0.130 …(1)
0.2≦(K
2O/1.52)/(Na
2O+K
2O/1.52)≦0.6 …(2)
(なお、上記式(1)および(2)中、化学式は、その化学式の耐火物中の含有量(質量%)を表す。)を満たすことを特徴とするアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項2】
前記(Na
2O+K
2O/1.52)/SiO
2が0.095~0.125である請求項1に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項3】
前記(K
2O/1.52)/(Na
2O+K
2O/1.52)が0.30~0.57である請求項1または2に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項4】
体積が15L以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項5】
0.2≦(K
2
O/1.52)/(Na
2
O+K
2
O/1.52)≦0.39 …(2)である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項6】
Na
2
Oを0.54~1.52%含有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を具備するガラス溶融窯。
【請求項8】
前記アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物が、溶融ガラスおよびガラスを溶融することにより放出されたガスの少なくとも一方に接触する領域内に配置される請求項
7に記載のガラス溶融窯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物およびガラス溶融窯に係り、特に、製造時等における亀裂の発生を効果的に抑制したアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物およびガラス溶融窯に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融耐火物は、通常、所定配合の耐火物原料を電気炉にて完全に溶融した湯を所定形状の鋳型に流し込み保温しながら常温まで冷却、再固化により得られるものであって、焼成、不焼成の結合耐火物とは組織、製法とも全く異なり、耐食性の高い耐火物として広く知られている。
【0003】
このような溶融鋳造耐火物中で、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、一般に、AZS溶融鋳造耐火物という名称で呼ばれ、ガラス溶融窯用の耐火物として広く用いられている。
【0004】
AZS溶融鋳造耐火物は、通常、約80~85%(質量%、特記しない限り以下同じ)の結晶相とその結晶間隙を埋めている15~20%のマトリックスガラス相からなる。結晶相は、コランダム結晶とバデライト結晶とからなる。その組成は、市販されているもので、概ね、ZrO2 を28~41%、SiO2 を8~16%、Al2 O3 を45~52%、Na2 Oを1~1.9%程度含んでいる。
【0005】
ZrO2は、よく知られているように、昇温時1150℃付近に、降温時850℃付近に、単斜晶と正方晶の相転移による変態膨張があり、異常な収縮、膨張を示す。このマトリックスガラス相は、結晶間のクッションのような役割を果たし、AZS耐火物を製造する際のジルコニアの正方晶から単斜晶の転移による変態膨張による応力を吸収することにより、耐火物を亀裂なく製造するための重要な役割を果たす。
【0006】
しかし、このマトリックスガラス相は、使用時に1400℃以上の温度になると、耐火物の外に滲み出す(ガラス滲出と呼ばれる)現象を示す。このガラス滲出現象は、高温で、マトリックスガラス相の粘性が低下し流動性を帯びるとともに、AZS溶融鋳造耐火物から高温で放出されるガスの力でもって押し出されるためと考えられている。
【0007】
この表面に滲出したガラスの組成は、アルミナおよびジルコニアに富んだ高粘性のガラスであるため、ガラス窯に使用した際、母ガラスに混入するとキャットスクラッチやグラスノットやコードなどの母ガラスの品質を大いに損なうガラス欠点になる。
【0008】
このため、従来よりガラス滲出のないAZS溶融鋳造耐火物として、例えば、マトリックスガラス相の含有量を低減し、ジルコニアの特徴である耐食性を有効に利用した、ガラス滲出を抑制したAZS溶融鋳造耐火物も知られている。
【0009】
そのため、ガラス滲出を抑制しながら、所望の特性を有するAZS溶融鋳造耐火物の開発を目指して、種々の取り組みがなされ、種々の方法が提案されている。例えば、より良好な製造特性を得ようとして、SiO2 とNa2 OやK2 Oを含有し、これらの含有量を所定の関係に調整したAZS溶融鋳造耐火物が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特公平6-053604号公報
【文献】特許第4275867号公報
【文献】特許第4297543号公報
【文献】特許第3904264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、マトリックスガラス相の含有量が少なくなることで、製造時等における亀裂が生じやすくなり、このようなAZS溶融鋳造耐火物においては、その製造時等における亀裂の発生を完全に抑制することは困難である。
そして、亀裂が発生すると、その亀裂部分を研削、研磨等により除去して、亀裂のない耐火物とし、これを製品としている。すなわち、所望の製品形状、大きさに対して、この研削、研磨を考慮した一回り大きい溶融鋳造耐火物を製造する必要があり、製造コストが一定以上低減できない問題がある。
【0012】
本発明は、上記した従来技術が抱える課題を解決して、AZS溶融鋳造耐火物の製造時に亀裂の発生をより抑制し、研削、研磨部分を低減させたAZS溶融鋳造耐火物およびそれを用いたガラス溶融窯の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、必須成分としてAl2 O3 、ZrO2 、SiO2 、Na2 OおよびK2 Oを含むアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物であって、上記必須成分の含有量を所定の量になるように配合することで、上記課題を解決し得ることを見出し、以下のとおりの発明を完成した。
【0014】
[1]必須成分としてAl2 O3 、ZrO2 、SiO2 、Na2 OおよびK2 Oを含むアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物であって、酸化物基準の質量%で、Al2 O3を30~75%、ZrO2 を20~55%、SiO2 を5~15%、Na2 Oを0.12~1.52%、K2 Oを0.11~1.46%、含有し、以下の式(1)および式(2)
0.080≦(Na2 O+K2 O/1.52)/SiO2 ≦0.140 …(1)
0.2≦(K2 O/1.52)/(Na2 O+K2 O/1.52)≦0.6 …(2)
(なお、上記式(1)および(2)中、化学式は、その化学式の耐火物中の含有量(質量%)を表す。)を満たすことを特徴とするアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
[2]前記(Na2 O+K2 O/1.52)/SiO2 が0.090~0.130である[1]に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
[3]前記(K2 O/1.52)/(Na2 O+K2 O/1.52)が0.30~0.55である[1]または[2]に記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
[4]その体積が15L以上である[1]乃至[3]のいずれかに記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
[5][1]乃至[4]のいずれかに記載のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を具備するガラス溶融窯。
[6]前記アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物が、溶融ガラスおよびガラスを溶融することにより放出されたガスの少なくとも一方に接触する領域内に配置される[5]に記載のガラス溶融窯。
【0015】
ここで溶融耐火物は、上記のように一般的には電気炉で溶融した耐火原料を所望形状に鋳込んで造られるものであるため、以下溶融鋳造耐火物として説明するが、本明細書において「溶融鋳造耐火物」との用語は、溶融後炉内でそのまま固化したもの、または固化後粉砕して結合耐火物などの骨材としても有用なもの、も含むものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物によれば、耐火物の製造時等における亀裂の発生を抑制し、ガラス溶融窯用の耐火物として好適なアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を提供できる。
【0017】
また、本発明のガラス溶融窯によれば、ガラス質成分に対して耐食性が良好な溶融鋳造耐火物を用いているため、ガラスの溶融を安定して行うことができ、品質の良好なガラス製品を歩留まり良く製造できる。また、該溶融鋳造耐火物は、その製造にあたって亀裂の発生を効果的に抑制できるため、ガラス溶融窯の製造コストを大幅に下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例における式(1)および(2)との関係を示したグラフである。
【
図2】実施例におけるジルコニア含有量とエッジ亀裂に関する数値との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
上記のとおり、本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、必須成分としてAl2 O3 、ZrO2 、SiO2 、Na2 OおよびK2 Oを含み、これら必須成分の含有量が、所定の量になるように配合された点に特徴を有するものである。なお、本明細書において、溶融鋳造耐火物を、耐火物または鋳塊と表記することがある。
【0020】
以下、本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物の各組成について説明する。
【0021】
Al2 O3 は本実施形態において必須成分である。アルミナはコランダム結晶を構成し、このコランダム結晶は高い耐侵食性を示し、かつ温度変化に伴う異常な膨張、収縮を示さない特性を有する。
【0022】
このAl2 O3 の含有量は30~75%である。Al2 O3 の含有量が75%以下であると相対的にZrO2 の含有量が低くなり過ぎず適量となり耐性が良好となる。また、マトリックスガラス相の量が少なくなり過ぎないようにするとともに、ムライトが生成しにくく、亀裂の無い耐火物を得ることが容易である。Al2 O3 の含有量が30%以上であると、相対的にZrO2 の含有量が高くなりすぎず適量となり、この場合も亀裂の無い耐火物を得ることが容易となる。また、マトリックスガラス相の量が多くなり過ぎず、ガラスの滲み出しを抑制できる。
【0023】
このAl2 O3 の含有量は35%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。また、Al2 O3 の含有量は70%以下が好ましく、65%以下がより好ましい。なお、別途に示されていなければ、本明細書における化学組成は酸化物基準の質量%である。
【0024】
ZrO2 は、バデライト結晶を構成し、溶融ガラスの浸食に対する抵抗力が強く、耐火物の耐性を高める成分であり、本実施形態において必須成分である。
【0025】
このZrO2 の含有量は20~55%である。ZrO2 は耐性を向上させるという点から多く含まれるほうが好ましく、その含有量が20%以上であると耐性が非常に良好となる。ZrO2 の含有量が55%未満であると、後述のマトリックスガラス相の量の範囲においては、ジルコニアの相転移による膨張および収縮が緩和され、亀裂の無い耐火物が得られる。また、アルミナ含有量に対するジルコニアの含有量が増大すると初晶ジルコニアが生成しやすく、滲出量が増加しやすい傾向がある。
【0026】
このZrO2 の含有量は、25%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、32%以上が特に好ましい。また、ZrO2 の含有量は、53%以下が好ましく、52%以下がより好ましく、47%以下が特に好ましい。
【0027】
ここで、共晶ジルコニアとは、溶融法によるアルミナ・ジルコニア・シリカ質耐火物の製造時において、冷却末期に共晶点で析出する小さなジルコニア結晶のことである。これに対して、初晶ジルコニアとは、その冷却初期に析出する大きなジルコニア結晶のことである。また、初晶アルミナとは、冷却初期に析出する大きなアルミナ結晶のことである。
【0028】
これらの結晶の区別は、顕微鏡で観察することで容易に識別できる。しかも、顕微鏡で観察した場合、共晶ジルコニア結晶はコランダムの結晶粒中に微細な結晶の集合体として観察され、近接する結晶同士が同じ方向に配向して存在する特徴があるが、初晶ジルコニア結晶および初晶アルミナ結晶の場合には近接する結晶間にはほとんど方向性がない。また、共晶ジルコニア結晶は微細なジルコニア結晶が連なってコランダム中に生成するのに対し、初晶ジルコニアおよび初晶アルミナは結晶粒子同士の連なりはほとんど無い。さらに、結晶粒径で表現すれば、初晶ジルコニアおよび初晶アルミナの最大結晶粒径に対して共晶ジルコニア結晶の結晶粒径は約1/5以下の大きさである。
【0029】
SiO2 は、マトリックスガラスの骨格を形成する主成分であり、本実施形態において必須成分である。その含有量は5~15%である。SiO2 の含有量が5%以上であると、マトリックスガラスの絶対量が多くなり、亀裂の無い耐火物が得られ易く、得られた耐火物が良好な組織を呈する。SiO2 の含有量が15%以下であると、相対的に結晶成分であるAl2 O3 、ZrO2 の含有量が増え、耐性が向上する。
【0030】
このSiO2 の含有量は、6%以上が好ましく、8%以上がより好ましい。また、SiO2 の含有量は、14%以下が好ましい。
【0031】
Na2 Oは、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物の製造に際し、マトリックスガラスの粘性を制御する作用を示し、本実施形態における必須成分である。
本実施形態においてNa2 Oの含有量は0.12~1.52%である。上記の含有量を満たす範囲でNa2 Oを含有させることによって、マトリックスガラス相の量を調整し、亀裂の無い耐火物が得られ易く、ガラスの滲出を抑制できる。
【0032】
このNa2 Oの含有量が0.12%以上であると、マトリックスガラス相の粘性が調整でき、同時にムライトの生成が抑制され、耐火物の亀裂の発生を抑制できる。また、Na2 Oの含有量が1.52%以下であると、ガラスの滲出を抑制できる。
【0033】
Na2 Oの含有量は0.2%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.35%以上が更に好ましく、0.4%以上が特に好ましい。また、Na2 Oの含有量は1.4%以下が好ましく、1.3%以下がより好ましく、1.25%以下が更に好ましく、1.2%以下が特に好ましい。
【0034】
K2 Oは、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物の製造に際し、マトリックスガラスの粘性を制御する作用を示し、本実施形態における必須成分である。
【0035】
本実施形態においてK2 Oの含有量は0.11~1.46%である。上記の含有量を満たす範囲でK2 Oを含有させることによって、マトリックスガラス相の量を調整し、亀裂の無い耐火物が得られ易く、ガラスの滲出を抑制できる。
【0036】
このK2 Oの含有量が0.11%以上であると、マトリックスガラス相の粘性が調整でき、同時にムライトの生成が抑制され、耐火物の亀裂の発生を抑制できる。また、K2 Oの含有量が1.46%以下であると、ガラスの滲出を抑制できる。
【0037】
K2 Oの含有量は0.2%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.4%以上が更に好ましく、0.42%以上が特に好ましい。また、K2 Oの含有量は1.4%以下が好ましく、1.3%以下がより好ましく、1.2%以下が特に好ましい。
【0038】
本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、ジルコニア源に自然に存在する酸化ハフニウムHfO2 を含んでいてもよい。本実施形態の上記耐火物におけるその含有量は5%以下であり、一般的に2%以下である。従来のように、「ZrO2 」との用語は、ジルコニアおよびこれらに含まれる微量の酸化ハフニウムを意味している。
【0039】
なお、上記の他の成分としては、本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物としての特性を損なわないものであれば特に限定されず、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物に使用される公知の成分が挙げられる。他の成分としては、例えば、SnO2 、ZnO、CuO、MnO2 、Cr2 O3 、P2 O5 、Sb2 O5 、As2 O5 、Yb2 O3 などの酸化物が挙げられる。これらの成分を含有させる場合、その合量は10%以下が好ましく、3%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0040】
本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、使用する出発材料に存在しているまたは、製品の製造中に生じる構成要素、すなわち、例えばフッ素、塩素等のハロゲン、カルシウム、マグネシウム、硼素、チタン、そして、鉄、を不純物として含んでいてもよいが、これら不純物は耐侵食性を低下させるため少ない方が好ましい。
【0041】
ここで、「不純物」との用語は、開始材料に必然的に取り入れられているかまたはこれらの組成の反応に起因する避けられない組成を意味している。特に、鉄またはチタンの酸化物は有害であり、およびこれらの含有量は不純物として開始材料に取り入れられた微量なものに制限されなければならない。特に、Fe2 O3 +TiO2 の質量は1%以下が好ましく、0.5%より小さい方がより好ましい。
【0042】
本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物においては、耐火物中に含有されるAl2 O3 +ZrO2 +SiO2 +Na2 O+K2 Oの必須成分の合量を85.0%以上とする。これは、耐火物中に他の成分があまりに多量に含まれてしまうと、Al2 O3 およびZrO2 の含有量が低下し、耐性が低下するとともに、滲出量が増大してしまうためである。耐性を良好なものとするには、これらの合量は、Al2 O3 +ZrO2 +SiO2 +Na2 O+K2 O≧95.0%が好ましく、Al2 O3 +ZrO2 +SiO2 +Na2 O+K2 O≧99.5%がより好ましく、Al2 O3 +ZrO2 +SiO2 +Na2 O+K2 O≧99.9%が特に好ましい。
【0043】
さらに、本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物においては、亀裂の発生を抑制するために、以下のように、SiO2、Na2 OおよびK2 Oの含有量における式(1)と、Na2 OとK2 Oの含有量における式(2)の2つの関係式を満たす点に特徴を有する。
0.080≦(Na2 O+K2 O/1.52)/SiO2 ≦0.140 …(1)
0.2≦(K2 O/1.52)/(Na2 O+K2 O/1.52)≦0.6 …(2)
(なお、上記式(1)および(2)中、化学式は、その化学式の耐火物中の含有量(質量%)を表す。)
【0044】
上記式(1)の関係を満たすことで、マトリックスガラスの粘度を適度に調整し、ガラス質成分の滲出を抑制し、また、亀裂の発生を抑制できる。特に、内部亀裂の発生を抑制できる。さらに、この式(1)は、0.090以上が好ましく、0.095以上がより好ましい。また、この式(1)は、0.130以下が好ましく、0.125以下がより好ましい。なお、式(1)及び式(2)において、K2Oを1.52で割っているが、1.52はK2O/Na2Oの分子量の比である。本発明者らは、単にNa2OとK2Oの合量で制御するよりも、K2OをNa2Oに換算した量で制御すると所望の特性が得られることを見出したためである。
【0045】
上記式(2)の関係を満たすことで、内部亀裂およびエッジ亀裂の発生を抑制できる。本実施形態においては、特に、この関係式を満たす点に特徴を有し、アルカリ金属酸化物として、Na2 OとK2 Oの2成分を必須とし、かつ、これらの配合量を所定の関係とした点に特徴を有し、この関係を満たすことで、亀裂の発生を抑制し得るものである。さらに、この式(2)は、0.30以上が好ましく、0.35以上がより好ましい。また、この式(2)は、0.57以下が好ましく、0.55以下がより好ましい。
【0046】
これら2つの関係式を同時に満たすことで、亀裂の発生、例えば、内部からの亀裂、エッジ亀裂、亀甲状表面亀裂、等の様々な種類の亀裂の発生を抑制でき、特に、上記の種類の亀裂全ての発生を抑制できる。
【0047】
ここで、内部亀裂は、溶融鋳造耐火物中、内部を起点にして生じた亀裂であり、表面に到達しているものは、溶融鋳造耐火物の内部から生じるため、加工による除去が困難であり、この亀裂があると製品として使用できない場合が多く、製品歩留まりが著しく低下する。一方で、亀裂が表面に達せず、亀裂が溶融鋳造耐火物(煉瓦)に内在しているものは、製品として扱うことができるが、耐火物の使用中に内在する亀裂が進展し、表面まで到達し、使用上、深刻な問題となる場合がある。そのため、内部亀裂は、表面までの到達の有無に関わらず、発生を十分に抑制しなければならない亀裂である。
【0048】
エッジ亀裂は、溶融鋳造耐火物のエッジ部分から生じた亀裂であり、その亀裂の長さ(深さ)にもよるが、溶融鋳造耐火物表面を研削、研磨することにより、製品として使用することは可能である。しかし、研削、研磨によって余分なコストが発生してしまうため、エッジ亀裂は、その本数および長さが所定の範囲内になるように抑制するのが好ましい。
【0049】
亀甲状表面亀裂は、溶融鋳造耐火物の表面付近において、亀甲状にひび割れた亀裂であり、その発生状況に応じて、溶融鋳造耐火物表面を研削、研磨することにより、製品として使用することは可能である。しかし、研削、研磨によって余分なコストが発生してしまうため、亀甲状表面亀裂は、目視上、隙間のない、筋状に抑制することが好ましく、発生させないことがより好ましい。
【0050】
ここで、上記亀裂の評価は、所定の大きさの溶融鋳造耐火物を製造し、その一部表面を研磨することで、溶融鋳造耐火物の表面付近の状態を確認して行う。確認は、目視でもよいし、カメラ等の撮像装置で撮影し、画像処理等を利用してもよい。
この評価は、所定の大きさ(例えば、900mm×400mm×400mm)の溶融鋳造耐火物を作成し、その表面(鋳込み面とは反対側の面)の長辺に沿って半分の領域を所定の深さ(例えば、3mm程度)研磨し、その研磨面における亀裂の発生状況を確認すればよい。
【0051】
また、本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物の形状、寸法、質量は限定されない。例えば、厚みが100mm以下のスラブの形態にあってもよい。好ましくは、ブロックまたはスラブは、ガラス溶融窯の一部を形成する、あるいは壁または炉床を構成する。このとき、ブロックまたはスラブが、溶融ガラスとの接触または溶融ガラスから放出されるガスとの接触する領域内に配置されていると、上記説明のような耐食性の高い効果を有効に発揮でき好ましい。
【0052】
上記のように、本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物をガラス溶融窯の一部を形成する場合、その耐火物の体積は、15L以上が好ましい。
本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、各種の亀裂の発生を抑制し得るため、上記のように大型の耐火物の製造も可能であり、また、ブロックまたはスラブ以外に、ガラス溶融窯の顎瓦等の特殊な形状とすることもできる。
【0053】
本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、上記配合割合となるように粉末原料を均質に混合し、これをアーク電気炉により溶融させて、溶融した原料を砂型などに流し込み、冷却して製造できる。この耐火物は、溶融時にかかるエネルギーが大きいためコストはかかるが、ZrO2結晶の組織が緻密で、結晶の大きさも大きいことから、焼結耐火物よりも耐食安定性に優れたものである。なお、溶融時の加熱は、グラファイト電極と原料粉末を接触させ、電極に通電することにより行われる。このようにして得られた本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、溶融ガラスに対して優れた耐侵食性を示し、板ガラス等のガラス製品を製造する際に用いる、ガラス溶融窯用の炉材に適したものである。
【0054】
本実施形態のガラス溶融窯は、上記した本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を具備してなる。上記した本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を具備したガラス溶融窯であれば、耐火物からのガラス質成分の滲出を抑制し、かつ、ガラス蒸気に対する優れた耐性を有するため、ガラスの溶融を安定して行うことができ、品質の良好なガラス製品を歩留まり良く製造できる。上記した本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、溶融ガラスとの接触部位や上部構造部位に用いることが好ましい。
【0055】
本実施形態のガラス溶融窯は、上記した本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物が、溶融ガラスおよびガラスを溶融することにより放出されたガスの少なくとも一方に接触する領域内に配置されていてもよい。本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を用いたガラス溶融窯であれば、耐火物からのガラス質成分の滲出を抑制し、かつ、ガラス蒸気に対する優れた耐性を有するため、溶融ガラスに接触する領域内に配置されていてもガラスの溶融を安定して行うことができ、品質の良好なガラス製品を歩留まり良く製造できる。
【0056】
また、ガラス溶融窯では、ガラスを溶融することにより溶融ガラスからNaやKを含むガスが発生することがある。耐火物が珪石煉瓦であるガラス溶融窯であると、これらのガスによって耐火物が低融点化し変形しやすい。本実施形態のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を用いたガラス溶融窯であれば、耐熱性の高いZrO2を含有しているため、ガラスを溶融することにより放出されたガスに接触する領域内に配置されていても高い耐熱性を有することができる。また、マトリックスガラス成分が少ないため、ガラス質成分の滲出を抑制でき、減少させることができる。
【0057】
次に、本実施形態のガラス板の製造方法について説明する。
本実施形態のガラス板の製造方法は、上記した本実施形態のガラス溶融窯においてガラス原料を加熱して溶融ガラスを得て、溶融ガラスを板状に成形するものである。
【0058】
本実施形態のガラス板の製造方法において、まずは、得られるガラス板の組成となるように調製した原料を上記した本実施形態のガラス溶融窯に投入し、好ましくは1400~1650℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。
【0059】
ここで用いるガラス原料は、特に限定されるものではなく、公知のガラス原料を用いることができ、さらに公知のガラス原料を任意の割合で混合したガラス原料でもよい。なかでも、Na2 O等のアルカリ金属成分を含有するガラス原料を用いた場合、その効果を十分に発揮できる。すなわち、これまで滲み出しが生じていたようなガラス原料であっても、滲み出しを有意に抑制してガラス板を製造できる。また、原料に清澄剤としてSO3 やSnO2 などを用いてもよい。清澄剤を用いることでガラスから泡を取り除くことができる。また、清澄するために減圧による脱泡法を適用してもよい。
【0060】
次いで、本実施形態のガラス板の製造方法において、フュージョン法、フロート法、プレス成形法などにより、溶融ガラスを板状に成形する。例えばフロート法では、溶融ガラスを溶融金属上に流して板状に成形される。
【0061】
本実施形態のガラス板の製造方法において、板状に成形されたガラス板は徐冷することが好ましい。徐冷されたガラス板は所望の形状に切断される。
【0062】
本実施形態のガラス板の製造方法によれば、上記した本実施形態のガラス溶融窯においてガラス原料を加熱して溶融ガラスを得るため、耐火物からのガラス質成分の滲出を抑制し、かつ、ガラス蒸気に対する優れた耐性を有するため、ガラスの溶融を安定して行うことができ、品質の良好なガラスを歩留まり良く製造できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0064】
(例1~例11)
脱珪ジルコニアやジルコンサンドなどのZrO2 原料とバイヤーアルミナなどのAl2 O3 原料と珪砂などのSiO2 原料とNa2 O、K2 Oなどの原料となるものを所定量に調製したバッチ混合物を、500KVA単相アーク電気炉に装入し、溶融温度1900℃前後で完全に溶融した。
【0065】
溶融して得られた湯を、内容積900mm×400mm×400mmの、周囲をシリカ質の中空球やバイヤーアルミナからなる保温材で囲まれた砂などで作った鋳型に注入して鋳造し、室温付近まで徐冷した。溶解は従来方法と同様に、電極を湯面からあげるいわゆるロングアーク法で、溶融途中に酸素を吹き込むなどを行い、できるだけ溶融物の酸化状態を保つようにしてアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を得た。
【0066】
得られた溶融鋳造耐火物の化学分析値(単位:質量%)と諸性質を表1に示した。例1~6、8、11が比較例であり、例7、9~10が実施例である。
なお、各化合物の含有量に基づいて、式(1)は(Na2 O+K2 O/1.52)/SiO2 の値を、式(2)は(K2 O/1.52)/(Na2 O+K2 O/1.52)の値を表している。
【0067】
なお、溶融鋳造耐火物中の化学組成については波長分散型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、装置名:ZSX PrimusII)により決定した定量分析値である。しかし、各成分の定量はこの分析方法に限定されるものではなく、他の定量分析方法によっても実施できる。
【0068】
【0069】
なお、
図1に、上記得られた例1~11の溶融鋳造耐火物について、式(1)と式(2)との関係を表したグラフを示した。斜線部分が、本発明において上記式を満たす領域であり、黒丸が実施例、白丸が比較例である。
【0070】
[亀裂の評価]
製造した溶融鋳造耐火物の外観上の亀裂の有無について次のように評価した。評価結果は、表1にまとめて示した。
まず、得られた溶融鋳造耐火物(900mm×400mm×400mm)の表面(鋳込み面とは反対側の面)の領域(900mm×400mm)を3mm研磨し、その研磨面における亀裂の発生状況を目視にて確認した。その後、溶融鋳造耐火物(煉瓦)を切断し内部からの亀裂の発生状況を目視にて確認した。
亀裂については、内部亀裂、エッジ亀裂、亀甲状表面亀裂の3種類の亀裂についての発生状況を以下の基準で評価した。評価結果は表1に併せて示した。
なお、エッジ亀裂については、エッジ亀裂の本数と、各エッジ亀裂の長さの平均値とを掛け合わせた数値を算出し、その数値により評価した。
【0071】
(内部亀裂)
良:内部からの亀裂なし
可:外部(研磨していない表面)に表れていないが、内部に亀裂あり
不可:内部からの亀裂が外部(研磨していない表面)に到達している
【0072】
(エッジ亀裂)
良:エッジ亀裂本数×長さ(mm)≦50
可:50<エッジ亀裂本数×長さ(mm)≦500
不可:500<エッジ亀裂本数×長さ(mm)
【0073】
(亀甲状表面亀裂)
良:亀甲状表面亀裂なし
可:目視上、隙間の無い、筋状の亀裂からなる亀甲状表面亀裂あり
不可:0.5mm程度の隙間の開いた亀裂を有する亀甲状表面亀裂あり
【0074】
製造時の亀裂が生じていない場合、耐火物の製造に問題は生じない。なお、エッジ亀裂を発生させないことは非常に困難であり、製造時の亀裂が小さければ、必要な製品耐火物の寸法よりわずかに大きい溶融鋳造耐火物を製造し、表面の研削を行えば耐火物の製造は容易にできる。一方で、製造時の亀裂が大きいと、必要な製品耐火物の寸法に対して非常に大きな耐火物(鋳塊)を製造した上で、重度の研削や切断が必要となるため、その耐火物の製造は原価が非常に高くなり現実的でない。
【0075】
(例12~15)
例7および例9と式(1)および(2)が同程度のものとし、ジルコニア含有量を35.9~41.1まで変動させたアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を上記製造例と同様の操作により得た。
【0076】
得られた溶融鋳造耐火物の化学分析値(単位:質量%)、諸性質および亀裂の評価を表2に示した。例12~15はいずれも実施例である。
【0077】
【0078】
なお、
図2に、上記得られた例12~15に加え、例4~7,9で得られた溶融鋳造耐火物について、ジルコニア含有量とエッジ亀裂の評価値との関係を表したグラフを示した。ジルコニア含有量が高まるとエッジ亀裂も効果的に抑制できており、さらに、本例の組成にすることで、さらに抑制できていることがわかる。黒丸が実施例、白丸が比較例である。
【0079】
例7、9~10、12~15のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、耐火物の各種亀裂の発生を抑制し、製造歩留まりを大幅に向上できる。そのため、これを用いたガラス溶融窯は、低コストで製造可能であり、ガラスを安定して溶融でき、品質の良好なガラス製品を製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、耐火物からのガラス質成分の滲出を抑制し、かつ、蒸気相の腐食に対する高い耐性を併せて有し、高い生産性で容易に製造できるため、ガラス溶融窯用の耐火物、特に、ガラス溶融窯の溶融ガラスとの接触部位や上部構造部位に使用される耐火物として好適である。