(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20221101BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221101BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20221101BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20221101BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20221101BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M10/0567
H01M10/0587
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020190731
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】原 尊
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-076296(JP,A)
【文献】特開2001-006749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 10/0587
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01M 10/0567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の正極集電体の表面に正極活物質層を備える正極シートと、長尺状の負極集電体の表面に負極活物質層を備える負極シートとを、長尺状のセパレータシートを介して重ね合わせ、長尺方向に捲回してなる捲回電極体を備えた非水電解液二次電池であって、
前記負極活物質層の捲回軸方向の中央部分の表面には、捲回された前記負極活物質層の内部から外部に至って周方向に連続する溝が形成され、
前記負極活物質層には、オキサラト錯体化合物に由来する皮膜が形成されている、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質層の厚みに対する前記溝の深さの比は、0.3以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質層の前記捲回軸方向の長さに対する前記溝の前記捲回軸方向の長さの比は、0.1以下である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
長尺状の正極集電体の表面に正極活物質層を備える正極シートと、長尺状の負極集電体の表面に負極活物質層を備える負極シートとを、長尺状のセパレータシートを介して重ね合わせ、長尺方向に捲回してなる捲回電極体を電池ケースに収容すること、
前記電池ケースにオキサラト錯体化合物を含む非水電解液を注液して電池組立体を構築すること、
前記電池組立体を初期充電して、前記負極活物質層に前記オキサラト錯体化合物に由来する皮膜を形成すること、を含み、
前記負極活物質層の捲回軸方向の中央部分の表面には、捲回された前記負極活物質層の内部から外部に至って周方向に連続する溝が形成されている、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質層の厚みに対する前記溝の深さの比は、0.3以下である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記負極活物質層の前記捲回軸方向の長さに対する前記溝の前記捲回軸方向の長さの比は、0.1以下である、請求項4または5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池では、初期充電の際に非水電解液の一部が分解され、負極活物質層の表面にその分解物を含む皮膜(即ち、Solid Electrolyte Interface膜、以下SEI膜とする。)が形成される。SEI膜は負極活物質層を保護する役割を果たすと共に、負極活物質層と非水電解液との界面を安定化し、電池の耐久性(例えばサイクル特性)を向上させ得る。
【0003】
正極シートと負極シートとセパレータシートとが重ね合わされ、長尺方向に捲回された捲回電極体を備える非水電解液二次電池では、電池を作成する際に、非水電解液を捲回電極体の捲回軸方向の両端部分から注液して捲回電極体(特に負極活物資層)に非水電解液を含浸させる。このとき、注入された非水電解液が負極活物質層の捲回軸方向の中央部分において十分に含浸されない虞がある。該中央部分において非水電解液の含浸が十分でないと、初期充電の際にSEI膜が十分に形成されず、電池の耐久性が低下する虞がある。
【0004】
非水電解液の含浸に関する従来技術として、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、負極活物質層の表面において非水電解液の浸透方向に電解液案内溝が形成された電池が開示されている。また、活物質層(合剤層)の表面に溝が形成された従来技術として、特許文献2には、正極板合剤表面に凹状の溝部が形成された電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-298057号公報
【文献】特開2001-23612号公報
【文献】特開2016-95988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、非水電解液は捲回電極体の捲回軸方向の両端部分から注液されて、負極活物質層の中央部分に含侵するため、負極活物質層の中央部分には空気が残存する虞がある。負極活物質層のうち空気と接触している部分は非水電解液がほとんど含侵しないため、初期充電の際にSEI膜が十分に形成されない虞がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分に好ましい態様の皮膜を備える非水電解液二次電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、長尺状の正極集電体の表面に正極活物質層を備える正極シートと、長尺状の負極集電体の表面に負極活物質層を備える負極シートとを、長尺状のセパレータシートを介して重ね合わせ、長尺方向に捲回してなる捲回電極体を備えた非水電解液二次電池が提供される。上記負極活物質層の捲回軸方向の中央部分の表面には、捲回された上記負極活物質層の内部から外部に至って周方向に連続する溝が形成され、上記負極活物質層には、オキサラト錯体化合物に由来する皮膜が形成されている。
【0009】
上記構成では、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分の表面には、捲回された負極活物質層の内部から外部に至って周方向に連続する溝が形成されている。このため、非水電解液が捲回電極体の捲回軸方向の両端部分から注液されて、非水電解液が負極活物質層の中央部分に移動すると、負極活物質層の中央部分に集まった空気は溝を介して負極活物質層(即ち捲回電極体)の外部に排出される。これにより、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分にも好適に非水電解液が含侵する。即ち、初期充電の際に負極活物質層の全体に亘ってオキサラト錯体化合物に由来する皮膜が好適に形成されている。従って、耐久性が向上された非水電解液二次電池が実現される。なお、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分に溝が形成されていることで、中央部分の負極活物質層の割合がその他の部分の負極活物質層の割合より小さくなる。このため、比較的少ない非水電解液によって中央部分にもオキサラト錯体化合物に由来する皮膜が好適に形成され得る。
【0010】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記負極活物質層の厚みに対する上記溝の深さの比は、0.3以下である。これにより、電池容量を確保しつつ、負極活物質層の全体に亘ってオキサラト錯体化合物に由来する皮膜を好適に形成することができる。
【0011】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記負極活物質層の上記捲回軸方向の長さに対する上記溝の上記捲回軸方向の長さの比は、0.1以下である。これにより、電池容量を確保しつつ、負極活物質層の全体に亘ってオキサラト錯体化合物に由来する皮膜を好適に形成することができる。
【0012】
ここに開示される非水電解液二次電池の製造方法は、長尺状の正極集電体の表面に正極活物質層を備える正極シートと、長尺状の負極集電体の表面に負極活物質層を備える負極シートとを、長尺状のセパレータシートを介して重ね合わせ、長尺方向に捲回してなる捲回電極体を電池ケースに収容すること、上記電池ケースにオキサラト錯体化合物を含む非水電解液を注液して電池組立体を構築すること、上記電池組立体を初期充電して、上記負極活物質層に上記オキサラト錯体化合物に由来する皮膜を形成すること、を含む。上記負極活物質層の捲回軸方向の中央部分の表面には、捲回された上記負極活物質層の内部から外部に至って周方向に連続する溝が形成されている。電池ケースに非水電解液を注液することにより、非水電解液が捲回電極体の捲回軸方向の両端部分から注液されて、非水電解液が負極活物質層の中央部分に移動する。これにより、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分に集まった空気は溝を介して負極活物質層(即ち捲回電極体)の外部に排出される。この結果、負極活物質層の中央部分にも好適に非水電解液が含侵する。そして、電池組立体を初期充電することにより、負極活物質層の全体に亘ってオキサラト錯体化合物に由来する皮膜を好適に形成することができる。これにより、耐久性が向上された非水電解液二次電池を製造することができる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記負極活物質層の厚みに対する上記溝の深さの比は、0.3以下である。これにより、電池容量を確保しつつ、負極活物質層の全体に亘ってオキサラト錯体化合物に由来する皮膜を好適に形成することができる。
【0014】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記負極活物質層の上記捲回軸方向の長さに対する上記溝の上記捲回軸方向の長さの比は、0.1以下である。これにより、電池容量を確保しつつ、負極活物質層の全体に亘ってオキサラト錯体化合物に由来する皮膜を好適に形成することができる。
【0015】
ところで、特許文献3には、負極シートの幅方向の中央部分に負極活物質層が形成されていない負極中央未塗工部が設けられた非水電解質二次電池が開示されている。しかしながら、かかる電池では、負極中央未塗工部に負極活物質層がないため、他の部分で負極活物質層をより厚くしているが、負極活物質層が厚すぎる場合には皮膜ムラが発生する虞がある。また、負極シートの幅方向の中央部分では負極集電体が非水電解液に直接接触することになるため、初期充電の際に負極集電体を構成する金属が溶出する虞がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】一実施形態に係る捲回電極体を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図2中のIII-IIIに沿う断面図であり、一実施形態に係る負極シートを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいう。また、非水電解液二次電池とは、非水系の電解液中に含まれる電解質イオンを電荷担体として利用する二次電池をいう。以下、電池がリチウムイオン二次電池である場合を例に、本技術について説明する。なお、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0019】
図1に示されるリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液(図示せず)とが角型の電池ケース(即ち外装容器)10に収容されることにより構築される。電池ケース10の蓋体12には、外部接続用の外部正極端子38および外部負極端子48、電池ケース10の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁14、非水電解液を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。外部正極端子38および外部負極端子48の一部は、電池ケース10の内部で正極集電端子37および負極集電端子47にそれぞれ接続されている。電池ケース10の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0020】
図2に示すように、捲回電極体20は、長尺状の正極集電体32の片面または両面(ここでは両面)に長尺方向Lに沿って正極活物質層34が形成された正極シート30と、長尺状の負極集電体42の片面または両面(ここでは両面)に長尺方向Lに沿って負極活物質層44が形成された負極シート40とが、2枚のセパレータシート50を介して重ね合わされて長尺方向Lに捲回された形態を有する。なお、捲回電極体20の捲回軸方向Wの両端から外方にはみ出すように形成された正極集電体露出部分36(即ち、正極活物質層34が形成されずに正極集電体32が露出した部分)が積層された正極集電体積層部35と、負極集電体露出部分46(即ち、負極活物質層44が形成されずに負極集電体42が露出した部分)が積層された負極集電体積層部45には、それぞれ正極集電端子37(
図1参照)および負極集電端子47(
図1参照)が接合されている。かかる接合は、正極集電体積層部35および負極集電体積層部45をそれぞれ所定の位置において集めた後、対応する正極集電端子37および負極集電端子47の一部をそれぞれ配置し、超音波溶接等の溶接手段により接合することによりなされる。
【0021】
正極シート30および負極シート40には、従来のリチウムイオン二次電池に用いられているものと同様のものを特に制限なく使用することができる。典型的な一態様を以下に示す。
【0022】
正極シート30を構成する正極集電体32としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。正極活物質層34に含まれる正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO4等)等が挙げられる。正極活物質層34は、活物質以外の成分、例えば導電材やバインダ等を含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0023】
負極シート40を構成する負極集電体42としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層44に含まれる負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。なかでも、黒鉛が好ましい。黒鉛は、天然黒鉛であっても人工黒鉛であってもよく、非晶質炭素材料で被覆されていてもよい。負極活物質層44は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0024】
図3に示すように、負極活物質層44の捲回軸方向Wの中央部分の表面には、溝44Hが形成されている。溝44Hは、負極活物質層44の表面から負極集電体42に向かう方向に凹む。溝44Hは、負極集電体42に達していない(即ち負極活物質層44の捲回軸方向Wの中央部分には負極活物質層44が存在する)。溝44Hは、捲回された負極活物質層44の内部から外部に至って周方向(即ち捲回方向)に連続する。即ち、
図2に示すように、負極活物質層44が捲回されていない状態では、溝44Hは負極活物質層44の長尺方向L(即ち捲回軸方向Wと直交する方向)の全体に亘って形成されている。負極活物質層44の厚みT1(典型的には平均厚み)に対する溝44Hの深さT2(典型的には平均深さ)の比は、0.3以下(典型的には0.1以上0.3以下、例えば0.25。)である。負極活物質層44の捲回軸方向Wの長さW1に対する溝44Hの捲回軸方向Wの長さW2の比は、0.1以下(典型的には0.05以上0.1以下、例えば0.07.)である。溝44Hは、例えば、プレス加工処理や切削処理によって形成される。
【0025】
負極活物質層44(典型的には溝44Hを含む負極活物質層44の表面)には、オキサラト錯体化合物に由来する皮膜が形成されている。これにより、負極活物質層44と非水電解液との界面が安定化されている。ここで、溝44Hが形成された部分では他の部分に比べて負極活物質層44の量が少ないため、比較的少量の非水電解液により好適な上記皮膜が形成され得る。なお、負極活物質層44にオキサラト錯体化合物由来の皮膜が形成されているか否かは、従来公知の各種構造解析法を利用して確認することができる。例えば、X線吸収微細構造解析(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry) 等を利用することができる。これらの分析によれば、負極活物質層44の表面の元素組成やその結合に関する情報を得ることができ、負極活物質層44がオキサラト錯体化合物由来の成分(例えば、C2O4
2-、B、P)を含むかどうかを判別することができる。
【0026】
セパレータシート50としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン製の多孔性シート(フィルム)が好適に使用され得る。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータシート50の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0027】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池が具備する非水電解液は、通常、有機溶媒(非水溶媒)、支持塩および皮膜形成剤を含有する。
【0028】
非水溶媒は、リチウムイオン二次電池用電解液の非水溶媒として用いられている公知のものを使用することができ、その具体例としては、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等が挙げられる。なかでも、カーボネート類が好ましい。カーボネート類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
支持塩は、主たる電解質として用いられ、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩が好適に用いられる。かかる支持塩の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されない。例えば、支持塩としてLiPF6を用いる場合、LiPF6のモル含有量は、0.5mol/L~3.0mol/L(好ましくは0.5mol/L~1.5mol/L、例えば1mol/L)に調整される。このように非水電解液中のLiPF6の含有量を調整することによって、非水電解液中の総イオン含有量と電解液の粘性を適度なバランスにすることができるため、イオン伝導度を過度に低下させることなく、入出力特性を向上させることができる。
【0030】
皮膜形成剤として、オキサラト錯体化合物が挙げられる。オキサラト錯体化合物としては、例えば、(i)中心原子としてのホウ素(B)に少なくとも一つのシュウ酸イオン(C2O4
2-)が配位した4配位の構造部分を有する化合物;(ii)中心原子としてのリン(P)少なくとも一つのシュウ酸イオン(C2O4
2-)が配位した6配位の構造部分を有する化合物;等が例示される。なかでも、なかでも、支持塩と同じカチオン種(電荷担体イオン)を含む化合物が特に好ましい。具体例として、リチウムビスオキサレートボレート(Li[B(C2O4)2];LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(Li[BF2(C2O4)];LBFO)、リチウムジフルオロビスオキサレートホスフェート(Li[PF2(C2O4)2];LPFO)等が挙げられる。なかでも、低抵抗化の観点からLiBOBが好ましい。かかるオキサラト錯体化合物が非水電解液に含まれていることによって、後述する電池組立体に初期充電を行った際に、負極活物質層44の表面(例えば負極活物質の表面)に、オキサラト錯体化合物に由来する成分を含む皮膜(典型的にはSEI膜)を形成し、非水電解液の分解による容量低下を抑制することができる。
【0031】
上述のようなリチウムイオン二次電池100は、例えば、以下の工程(1)~(4)を包含する製造方法によって製造することができる。なお、各構成部材の詳細については既に上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。先ず、(1)上述のような構成の正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して重ね合わせ、長尺方向に捲回してなる捲回電極体を電池ケースに収容する。次に、(2)電池ケースにオキサラト錯体化合物を含む非水電解液を注液して電池組立体を構築する。オキサラト錯体化合物としては、例えば、LiBOBが挙げられる。このとき、
図2の矢印Fに示すように、非水電解液は、捲回電極体20の捲回軸方向Wの両端部分から内部に移動する。次に、(3)当該電池組立体を少なくとも1回充電処理(初期充電)する。これにより、オキサラト錯体化合物が電気的に分解されて、負極活物質層(例えば負極活物質)の表面に皮膜が形成される。ここに開示される負極シートは捲回軸方向の中央部分の表面には溝が形成されている。このため、非水電解液が捲回電極体に含侵される際に捲回電極体の内部の空気が溝を介して捲回電極体の外部へと排出される。また、初期充電時にガスが発生する場合には、捲回電極体の内部で発生したガスは溝を介して捲回電極体の外部へと排出される。なお、初期充電時の充電レートは、短時間で均質な皮膜を形成する観点から、例えば0.1~10C程度(例えば0.2~2C)とするとよい。また、正負極端子間の電圧(典型的には最高到達電圧)は、例えば使用する活物質や非水溶媒の種類等にもよるが、4.5~5.5V程度とすることができる。なお、充電は1回でもよく、例えば放電を挟んで2回以上繰り返し行ってもよい。また、充電状態を保ったまま所定の期間保持(エージング)してもよい。
【0032】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【0033】
上述した実施形態では、溝44Hは負極活物質層44の長尺方向Lの全体に亘って形成、即ち、捲回された負極活物質層44の中心部から外周端に至って周方向に連続しているが、これに限定されない。例えば、溝44Hは負極活物質層44の長尺方向Lの中途部から他方の端部に亘って形成、即ち、捲回された負極活物質層44の中途部から外周端に至って周方向に連続していてもよい。これにより、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分に集まった空気は、少なくとも中途部から外周端に至って形成された溝44Hを介して負極活物質層44(即ち捲回電極体20)の外部に排出される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。
【符号の説明】
【0035】
10 電池ケース
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
44H 溝
50 セパレータシート
100 リチウムイオン二次電池
L 長尺方向
W 捲回軸方向