(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電気機械を備える車両の給油装置
(51)【国際特許分類】
B60K 1/00 20060101AFI20221101BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B60K1/00
H02K9/19 A
(21)【出願番号】P 2020505479
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2018067762
(87)【国際公開番号】W WO2019025097
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】102017213513.1
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】ティーモ ヴェーレン
(72)【発明者】
【氏名】イングリッド レー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ ケール
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフガング リーガー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン スカール
(72)【発明者】
【氏名】エックハルト リュプケ
(72)【発明者】
【氏名】マルク シース
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン ディヒトゥル
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-057093(JP,A)
【文献】特開2013-095389(JP,A)
【文献】特開2015-196459(JP,A)
【文献】特開2014-225971(JP,A)
【文献】特開2016-059155(JP,A)
【文献】特開2016-111918(JP,A)
【文献】国際公開第2017/072874(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0147289(US,A1)
【文献】特開2015-148302(JP,A)
【文献】特開2008-132941(JP,A)
【文献】特開2009-108898(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0035393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00
B60K 7/00
H02K 9/19
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのオイル容積部を有するハウジング(2)内に電気機械(EM)を備える、車両の給油装置であって、前記オイル容積部は、オイル供給のために、前記車両の変速機ハウジング(1)のオイル容積部(A)と接続され、前記電気機械(EM)の前記オイル容積部は、前記ハウジング(2)内のオイルレベルを補償するために、少なくとも2つの給油スペース(B、C)に分割され、第1給油スペース(B)は、前記車両の走行方向(FR)を向く前記ハウジング(2)の側に配置され、第2給油スペース(C)は、前記車両の走行方向(FR)と反対を向く前記ハウジング(2)の側に配置されて
おり、
前記第1給油スペース(B)および前記第2給油スペース(C)は、前記電気機械(EM)のロータ軸に対して平行に延在し、それぞれ、側方で相互に対向して、前記電気機械(EM)の前記ロータ軸(4)の下に配置されていることを特徴とする、給油装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の給油装置であって、前記第1給油スペースおよび前記第2給油スペースは、それぞれ、チャネルの形態で、前記ハウジング(2)の幅に亘って延在し、前記電気機械(EM)のステータ(7)の積層鉄心の下で前記ハウジング(2)内に密閉されていることを特徴とする、給油装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の給油装置であって、前記第1給油スペース(B)および前記第2給油スペース(C)は、前記電気機械(EM)の第1巻線ヘッドスペース(D)および/または前記電気機械(EM)の第2巻線ヘッドスペース(E)によって相互に流れ連通して接続され、前記巻線ヘッドスペース(D、E)は、前記電気機械(EM)の前記ロータ軸(4)に対して横方向に延在することを特徴とする、給油装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の給油装置であって、2つの前記巻線ヘッドスペース(D、E)のうち、1つの巻線ヘッドスペース(D)は前記変速機ハウジング(1)と反対を向く前記ハウジング(2)の側に備えられ、1つの巻線ヘッドスペース(E)は前記変速機ハウジング(1)に向く前記ハウジング(2)の側に備えられ、前記巻線ヘッドスペース(D、E)のうちの少なくとも1つの巻線ヘッドスペースは、オイルレベルを補償するために、前記変速機ハウジング(1)の前記オイル容積部(A)と流れ連通して接続されていることを特徴とする、給油装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念において詳細に定義された種類の、少なくとも1つのオイル容積部を有するハウジング内に電気機械を備える、車両の給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両技術からは、例えばハイブリッド車両、または電気駆動車両が既知である。これらの車両では、電気機械が、内燃機関に加えて追加的に、または排他的に、駆動機関として備えられている。電気機械は、潤滑と冷却のためにオイル容積部またはオイルウェットスペースを備えるハウジング内に配置されている。電気機械のハウジングは、通常、変速機ハウジングにフランジ結合され、変速機ハウジングによってオイルを供給される。
【0003】
電気機械がオイル容積部内に配置された場合、車両が対応して傾斜、または対応して加速する際に、オイル容積部内のオイルレベルが上昇し、通常はオイルと接触すべきでない電気機械の構成部分が、オイル容積部のオイル容積に浸ってしまうという危険性がある。例えば、望ましくない態様で、電気機械のロータがオイルで濡れる可能性がある。その場合、オイルがロータとステータとの間の空隙に入り込むことがある。不都合なことに、これによってドラグトルクが高まる。さらに、こうした場合、オイルが加熱され、温度に耐性のないオイル添加剤が破壊される恐れがある。
【0004】
車両の水平な、または準静的な駆動状態においては、上述の欠点を回避するように、オイルレベルが可及的に低いレベルに設定される。しかしながら、同時に、冷却および潤滑機能を維持可能とするために、登坂、降坂、および加速の際にもオイルポンプの吸引を保証しなければならない。この点で、オイル容積部の容積を随意に低減することはできない。
【0005】
例えば、文献DE11 2013 003 975 T5号から、液冷式の電気モータが既知である。この電気モータには、冷却剤収集容器が備えられている。冷却剤収集容器は、ハウジングの底部にフランジ結合されている。これによって、加速または傾斜の際に、不所望にオイルレベルが上昇することが防止される。容器を別個にすることにより、同時に、オイルの吸引が保証される。しかしながら、容器をハウジングの底部に配置するためには、追加的な構造スペースが必要である。この構造スペースによって、不利なことに構造スペース要件が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】DE11 2013 003 975 T5号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式の給油装置を提案することである。この給油装置では、一方では、車両の傾斜または加速の際にも最適な給油が保証され、他方では、構造スペース要件が可及的に低減される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明により、請求項1に記載の特徴によって解決される。有利な発展形態、および特許請求の範囲の発展形態は、従属請求項、明細書の記載、および図面から明らかとなる。
【0009】
したがって、少なくとも1つのオイル容積部を有するハウジング内に電気機械を備える、車両の給油装置を提案する。オイル容積部は、オイル供給のために、変速機ハウジングのオイル容積部と接続されている。車両の傾斜または加速の際にも最適な供給を保証し、さらに要求される構造スペースを可及的に低減するために、電気機械のオイル容積部は、ハウジング内のオイルレベルを補償するために、少なくとも2つの給油スペースに分割されている。第1給油スペースは、車両の走行方向を向くハウジングの側に配置されている。第2給油スペースは、車両の走行方向と反対を向くハウジングの側に配置されている。
【0010】
電気機械のハウジング内に設けられた給油スペースは、電気機械のハウジング内のオイルレベルを補償するために、一方では変速機ハウジングのオイル容積部と接続されている。電気機械のハウジング内に設けられたこの給油スペースが、他方では、例えば車両の傾斜または加速に起因して一方の給油スペース内で上昇するオイルレベルが、例えば変速機ハウジングのオイル容積部を介して、他方の給油スペース内で下降するオイルレベルで補償されるように配置されている。
【0011】
例えば、第1給油スペースおよび第2給油スペースは、ハウジング内で電気機械のロータ軸に対して平行に延在することによって、特に省スペースの装置を達成することができる。電気機械のロータは、通常、車両の長手方向に対して横方向に延在する。そのため、給油スペースは、車両が長手方向に加速または傾斜する際に、オイルレベルの補償を、長手方向に対して保証することができる。好適には、供給スペースは、ハウジングの既存の内部空間の内部で実現される。
【0012】
例えばロータ軸が車両の長手方向に対して横方向に配向されている場合、例えば給油スペースを、それぞれ、側方で相互に対向してロータ軸の下に配置することができる。このようにして、従来未使用であったスペース領域であって、更なるコンポーネントの収容に関してスペース領域自体に制約がなく、車両の地上高に関してもクリティカルでないスペース領域を、ハウジングにおいて、給油スペースを構成するために利用することができる。
【0013】
本発明による給油装置では、第1給油スペースおよび第2給油スペースが、それぞれ、チャネルの形態で、例えばハウジングの全幅に亘って延在し、ステータの積層鉄心の下で密閉されていることによって、構造的に特に容易な設計を実現することができる。このようにして、車両の傾斜および加速の際にも、ハウジングを底部領域で拡大することなく、オイルが電気機械の空隙に入り込むことができないように保証される。
【0014】
本発明の有利な発展実施形態において、第1給油スペースおよび第2給油スペースを、電気機械の第1巻線ヘッドスペースおよび電気機械の第2巻線ヘッドスペースによって、相互に流れ連通して接続することができる。このようにして、車両の傾斜または加速の際に、2つの巻線ヘッドスペースを介して、2つの給油スペースにおいてオイルレベルをより迅速に直接に補償することができる。
【0015】
例えば、車両の横方向の傾斜または車両の横方向の加速に起因して横方向の力が発生する際にも、電気機械のハウジング内のオイルレベルの対応する補償を実現するために、更なる発展形態においては、2つの巻線ヘッドスペースのうち、1つの巻線ヘッドスペースを変速機ハウジングと反対を向くハウジングの側に備え、1つの巻線ヘッドスペースを変速機ハウジングに向くハウジングの側に備えることができる。巻線ヘッドスペースのうちの少なくとも1つの巻線ヘッドスペースは、オイルレベルを補償するために、変速機ハウジングのオイル容積部と流れ連通して接続されている。
【0016】
以下に、図面を参照して本発明を更に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】車両における本発明による給油装置の概略的な平面図である。
【
図3】車両が長手方向に傾斜する際、または長手方向に加速する際の、
図1の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至
図3において、例示的に、車両、特に電気駆動車軸を備える電気車両またはハイブリッド車両における給油装置の様々な図を示す。
【0019】
ハウジング2内に電気機械EMを備える本発明による車両の給油装置は、少なくとも1つのオイル容積部を備える。オイル容積部は、オイル供給のために、車両の変速機ハウジング1のオイル容積部Aと接続されている。加速または傾斜による外的影響が車両に及ぶ際にも、補償されたオイルレベルをハウジング2内で確保するために、電気機械EMのオイル容積部は、少なくとも2つの給油スペースB、Cに分割されている。その結果、外的影響が及ぶ際にも、ハウジング1および2内のオイルレベルが確実に補償される。第1給油スペースBは、好適には、車両の走行方向FRを向くハウジング2の側に配置されている。ハウジング2の第2給油スペースCは、車両の走行方向FRまたは出力部8と反対を向くハウジング2の側に配置されている。給油スペースB、Cの位置は、
図1に例示されている。
【0020】
第1給油スペースBの方向への傾斜または加速の際に、オイルは、少なくとも部分的に、第2給油スペースCおよび/または変速機ハウジング1のオイル容積部Aへと逃れることができる。これは、
図1において対応する矢印でしめされている。そのため電気機械EMは、存在するオイルにあまり浸からない。対応して、第2給油スペースCは反対方向に作用する。このようにして、車両の走行方向FRで、または走行方向FRと反対方向で車両が加速され、または対応して車両が傾斜する際に、給油スペースB、Cが装備されていることによって、対応する補償が実現される。そのため、オイルレベルが所定のレベルを超えて上昇しない。所定のレベルは、例えば、オイルが電気機械EMのロータ3とステータ7との間の空隙6に流入することができないように設定される。
【0021】
第1給油スペースBおよび第2給油スペースCが、電気機械EMの第1巻線ヘッドスペースDおよび/または電気機械EMの第2巻線ヘッドスペースEによって、相互に流れ連通して接続されている場合、有利にも、そのために変速機ハウジング1内のオイル容積部Aを使用することなく、巻線ヘッドスペースD、Eを介して、オイルレベルを直接に補償することができる。この実施形態において、変速機ハウジング1と反対を向くハウジング2の側には、ハウジングカバーが備えられている。ハウジングカバーは、更なるスペースとして、電気機械EMのハウジングカバースペースFを構成することができる。ハウジングカバースペースFは、そこに位置する巻線ヘッドスペースDと共に、共通スペースを構成することができる。好適には、電気機械EMの巻線ヘッドスペースD、Eは、ロータ軸4に対して横方向に、または車両の長手方向に平行に延在する。
【0022】
車両が長手方向に対して横方向に傾斜または加速する際にも補償を可能にするために、ハウジングカバースペースFおよび巻線ヘッドスペースDから構成された共通スペースF、Dは、オイルレベルを補償するために、第1給油スペースBおよび第2給油スペースCと接続されている。傾斜の間、オイルは、給油スペースB、Cを通って、変速機ハウジング1のオイル容積部Aに流入することができる。
【0023】
本発明による給油装置に装備されたオイルチャネル接続によって生じる、車両の加速および傾斜の際のオイルの流れは、
図1において対応する矢印で例示されている。
【0024】
電気機械EMのロータ軸3に沿って記された二重矢印は、変速機ハウジング1と、電気機械EMのハウジング2との間、特に変速機側の巻線ヘッドスペースEとの間に、オイルの流れが実現されることを示すものである。このようにして、流れ連通する接続が、給油スペースB、C、巻線ヘッドスペースD、Eと、一方ではハウジングカバースペースFとの間で、また変速機ハウジング1のオイル容積部Aとの間で、提供される。
【0025】
図2および
図3において、変速機ハウジング1内の、中間軸における平歯車9、および駆動軸における平歯車10が例示されている。さらに、給油スペースB、Cは側面図で示されている。この側面図からは、給油スペースB、Cが、電気機械EMのロータ軸4に対して平行に、または車両の長手方向に対して横方向に延在することが明らかである。オイルレベルの対応する補償を実現するために、第1給油スペースBおよび第2給油スペースCは、それぞれ、側方で相互に対向してロータ軸4の下に配置されている。この場合、第1給油スペースBおよび第2給油スペースCは、それぞれ、チャネルの形態でハウジング2の幅に亘って延在し、電気機械EMのステータの積層鉄心の下でハウジング2内に密閉されている。これによって、給油スペースB、Cが、ハウジング2の底部領域を超えて延在することが防止される。そのため、特に省スペースの装置が可能になる。このようにして、有利なことに、自動変速機において一般的な、ハウジング2および変速機ハウジング1の底部に取り付けられたオイルパンを、省略することができる。
【0026】
さらに
図3は、車両の長手方向に傾斜した位置、または走行方向FRへの加速の際の状態を示す。この位置または加速の際に、オイルレベル5Aの最大の傾斜角度35°が給油スペースB、C内で発生する。
図2は、車両の静止状態におけるオイルレベル5を示す。
【0027】
給油スペースB、Cは、共通のオイル容積部、または2つの個別の容積部を、容易に含むことができる。
【0028】
したがって本発明による給油装置は、特に、電気駆動機関用、またはオイルウェットスペース内に配置された電気機械EMを備えるハイブリッド駆動機関用のチャネルシステムを実現する。その際、不所望な態様でオイルがロータ3を濡らす、またはそのようにしてオイルが空隙6に入り込むことがないように保証される。そのため、ドラグトルクが高められない。
【符号の説明】
【0029】
1 変速機ハウジング
2 電気機械のハウジング
3 電気機械のロータ
4 ロータ軸
5 車両の静止状態におけるオイルレベル
5A 車両の傾斜状態または加速状態でのオイルレベル
6 間隙
7 ステータ
8 出力部
9 中間軸の平歯車
10 出力軸の平歯車
A 変速機ハウジング内のオイル容積部またはオイルスペース
B ハウジング内の第1給油スペース
C ハウジング内の第2給油スペース
D 第1巻線ヘッドスペース
E 第2巻線ヘッドスペース
F ハウジングカバースペース
FR 走行方向
EM 電気機械