(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ドリル用切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
B23B51/00 T
(21)【出願番号】P 2020511167
(86)(22)【出願日】2018-07-04
(86)【国際出願番号】 KR2018007546
(87)【国際公開番号】W WO2019039724
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2017-0106510
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515056118
【氏名又は名称】テグテック リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TaeguTec Ltd.
【住所又は居所原語表記】1040,Gachang-ro,Gachang-myeon,Dalseong-gun,Daegu,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ノー,キー ヨン
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/046260(WO,A1)
【文献】特開2009-262319(JP,A)
【文献】特表2004-524176(JP,A)
【文献】米国特許第05758994(US,A)
【文献】特開2001-252809(JP,A)
【文献】国際公開第2008/093748(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0078392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部表面と、
前記上部表面の反対側に形成される下部表面と、
前記上部表面と前記下部表面を連結する側面と、
前記上部表面と前記側面の交差位置に形成された切削エッジと、
チップコントロールを容易にするために、前記上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部(ridge portion)と、を含むドリル用切削インサートであって、
前記切削エッジは、ドリリングに直接使われる稼動切削エッジを含み、
前記リッジ部は、
前記切削エッジから離隔して前記ドリル用切削インサートの中央部に配置されるリッジ本体と、
前記リッジ本体のコーナー付近から前記切削エッジと平行に延びるリッジ延長部と、を含
み、
軸方向下方に位置しながら半径方向外側に位置した前記リッジ延長部は、前記稼動切削エッジに平行な方向に延長される、ドリル用切削インサート。
【請求項2】
前記リッジ本体と前記リッジ延長部は、前記上部表面を基準に同じ高さを有する、請求項1に記載のドリル用切削インサート。
【請求項3】
前記切削エッジと、前記切削エッジと平行に延びる前記リッジ延長部と、の間には、前記上部表面を基準に前記切削エッジおよび前記リッジ延長部より低いチップフォーマが形成され、
前記上部表面を基準に前記リッジ延長部が前記切削エッジより高い、請求項1に記載のドリル用切削インサート。
【請求項4】
前記切削エッジは、第1切削エッジと、コーナー切削エッジで前記第1切削エッジと連結される第2切削エッジとを含み、
前記リッジ延長部は、前記第2切削エッジ側に前記第1切削エッジと平行な方向に延びる、請求項1に記載のドリル用切削インサート。
【請求項5】
前記切削エッジの連続性が断絶しないように、前記リッジ延長部の端部と前記第2切削エッジとの間にはギャップ(gap)空間が形成される、請求項4に記載のドリル用切削インサート。
【請求項6】
前記リッジ延長部は、前記リッジ本体から前記リッジ延長部の端部に行くほど幅が減少する、請求項4に記載のドリル用切削インサート。
【請求項7】
前記リッジ部は、上方から前記上部表面へ下がる程断面が大きくなる形状を有する、請求項4に記載のドリル用切削インサート。
【請求項8】
前記リッジ本体は、前記上部表面から前記下部表面まで貫くボアを囲み、前記ボアの縁が前記リッジ本体の内側閉曲線を形成する、請求項4に記載のドリル用切削インサート。
【請求項9】
縦軸を中心に回転可能なドリル本体と、
少なくとも一つの内側切削インサートおよび前記内側切削インサートと同一であり、半径方向により外側に配置される少なくとも一つの外側切削インサートと、を含み、
前記内側切削インサートと前記外側切削インサートそれぞれは、
上部表面と、
前記上部表面の反対側に形成される下部表面と、
前記上部表面と前記下部表面を連結する側面と、
前記上部表面と前記側面の交差位置に形成された切削エッジと、
チップコントロールを容易にするために、前記上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部(ridge portion)であって、前記切削エッジから離隔して切削インサートの中央部に配置されるリッジ本体と、前記リッジ本体のコーナー付近から前記切削エッジと平行に延びるリッジ延長部を備える前記リッジ部と、を含
み、
前記切削エッジは、ドリリングに直接使われる稼動切削エッジを含み、
軸方向下方に位置しながら半径方向外側に位置した前記リッジ延長部は、前記稼動切削エッジに平行な方向に延長される、ドリリング工具。
【請求項10】
前記内側切削インサートの稼動切削エッジと前記外側切削インサートの稼動切削エッジが組み合わされて複合切削エッジを形成する、請求項9に記載のドリリング工具。
【請求項11】
前記外側切削インサートの稼動切削エッジのうち、少なくとも前記縦軸から最も遠い一部分は、前記外側切削インサートのリッジ延長部と平行するように前記外側切削インサートが配置される、請求項10に記載のドリリング工具。
【請求項12】
前記内側切削インサートは、前記内側切削インサートに形成されたリッジ延長部が前記縦軸に近接して前記複合切削エッジから延びて前記縦軸に近接する前記切削エッジと平行するように前記ドリル本体に取り付けられる、請求項10に記載のドリリング工具。
【請求項13】
前記内側切削インサートと前記外側切削インサートを回転方向に重ねるとき、前記外側切削インサートに形成されたリッジ延長部が前記内側切削インサートに重なって覆われる、請求項10に記載のドリリング工具。
【請求項14】
複合切削エッジは、前記縦軸付近、および前記外側切削インサートの稼動切削エッジの外側よりは前記内側切削インサートの稼動切削エッジと前記外側切削インサートが稼動切削エッジに重なる部分でドリル進行方向に突出している、請求項10に記載のドリリング工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドリル用切削インサートに関し、より詳細にはドリリング(Hole making)、軟鋼(mild steel)およびSUS(stainless)など難削材の加工でより効率的にチップコントロールが可能なドリル用切削インサート形状に関する。
【背景技術】
【0002】
固体金属材料内へのドリリングのために縦軸を中心に回転が可能であり、交替可能な複数のドリル用切削インサートが取り付けられるドリル本体を備えたドリリング工具が知られている。この時、前記ドリル用切削インサートは、複数のエッジを順次使えるようにインデックス可能なように(indexable)対称形状を有する。
【0003】
例えば、WO 03/099494 A1には、本体と2個の切削インサートを備えるドリリング工具であって、一つの切削インサートは中心インサートを形成し、他の一つの切削インサートはエッジインサートを形成するドリリング工具が記載されている。使用時において、中心インサートとエッジインサートの稼動(active)切削エッジのそれぞれは、軸方向に本体を越えて突出し、ドリリング工具が作動しているとき被削材からチップが除去されるように作動する。
【0004】
図1のような通常のドリル用切削インサート10において、切削エッジ12はドリル用切削インサート10の上部表面の縁に沿って形成されている。また、ドリリングされる被削材から生成されるチップCに対するコントロール(チップコントロール)のために切削エッジ12と中心穴14との間に切削エッジ12と対応して配置されるチップフォーマ(chip former)15を備える。該チップフォーマは、切削エッジ12に沿って4方向に形成される略上部面16より低い領域である。このとき、チップコントロール性能は、被削材の硬度、前記チップフォーマ15の幅W1などによって変わり得る。
【0005】
特に、ドリル用切削インサート10が加工しようとする被削材が軟鋼(mild steel)、SUS(stainless)などの材質である場合か、ドリル用切削インサート10により穴あけ(hole making)加工をしようとする場合には、一般的にチップコントロールが難しい難削状況であるとみることができる。
【0006】
したがって、難削材用インサートは、一般的にチップコントロールを良くするために、
図2のように通常のインサートより広いチップフォーマ25を有するドリル用切削インサート20を用いる。このようなドリル用切削インサート20においてチップフォーマ25は、より大きい幅W2を有するため、難削材から生成されるチップCに対するチップコントロール性能が向上することができる。
【0007】
これに対し、生成されるチップCに対するチップコントロールが可能なドリル用切削インサート20上部面の有効長さ(D1)、すなわち有効なチップコントロール領域は、幅W2が大きくなる分、減少する。
図2のインデックス可能な切削インサートにおいて、図面に示すD2は実質的にW2と同じ大きさを有するので、W2が大きくなることはD2が大きくなることを意味する。チップフォーマ25のうちD2と表示された位置では、チップフォーマ25aがチップが進入する方向と平行に配置されているので、チップコントロールの機能を遂行することができない。
【0008】
このような理由から、チップフォーマ25の幅が大きくなると自体では難削材のチップコントロール性能が向上するが、チップが進入する方向と平行な部分、すなわちチップコントロールにならない部分の幅も連動して大きくなるので、相殺効果によって全体的にチップコントロール性能が向上しないか、向上の程度が小さいという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような問題点を考慮して創案されたものであり、本発明の技術的課題は、チップコントロール性能改善のためにチップフォーマの幅を広げた場合も、チップフォーマの幅を広げたことによる前述した副作用をなくすことのできるドリル用切削インサートを提供することである。
【0011】
また、本発明が解決しようとする他の技術的課題は、複数のドリル用切削インサートを取り付けるドリリング工具において、前記複数のドリル用切削インサート間の配置を最適化してドリリング過程で発生するチップコントロール性能を向上させることである。
【0012】
なお、本発明の技術的課題は、以上で言及した技術的課題に制限されず、言及されていないその他の技術的課題は、以下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記技術的課題を達成するための本発明の一実施形態によるドリル用切削インサートは、上部表面と、前記上部表面の反対側に形成される下部表面と、前記上部表面と前記下部表面を連結する側面と、前記上部表面と前記側面の交差位置に形成された切削エッジと、チップコントロールを容易にするために、前記上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部(ridge portion)と、を含むドリル用切削インサートであって、前記切削エッジは、ドリリングに直接使われる稼動切削エッジを含み、前記リッジ部は、前記切削エッジから離隔して前記ドリル用切削インサートの中央部に配置されるリッジ本体と、前記リッジ本体のコーナー付近から前記切削エッジと平行に延びるリッジ延長部と、を含み、軸方向下方に位置しながら半径方向外側に位置した前記リッジ延長部は、前記稼動切削エッジに平行な方向に延長される。
【0014】
また、前記技術的課題を達成するための本発明の他の実施形態によるドリリング工具は、縦軸を中心に回転可能なドリル本体と、少なくとも一つの内側切削インサートおよび前記内側切削インサートと同一であり、半径方向により外側に配置される少なくとも一つの外側切削インサートと、を含み、前記内側切削インサートと前記外側切削インサートそれぞれは、上部表面と、前記上部表面の反対側に形成される下部表面と、前記上部表面と前記下部表面を連結する側面と、前記上部表面と前記側面の交差位置に形成された切削エッジと、チップコントロールを容易にするために、前記上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部(ridge portion)であって、前記切削エッジから離隔して切削インサートの中央部に配置されるリッジ本体と、前記リッジ本体のコーナー付近から前記切削エッジと平行に延びるリッジ延長部を備える前記リッジ部と、を含み、前記切削エッジは、ドリリングに直接使われる稼動切削エッジを含み、軸方向下方に位置しながら半径方向外側に位置した前記リッジ延長部は、前記稼動切削エッジに平行な方向に延長される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるインデックス可能なドリル用切削インサートによれば、難削材の加工に適するようにチップフォーマの幅を広げながらも、チップフォーマの幅を広げたことによる有効なチップコントロール領域の減少を最小化することができる。
【0016】
本発明によるドリリング工具によれば、該ドリリング工具に取り付けられる複数のドリル用切削インサート間の配置を最適化して有効なチップコントロールを妨げるドリル用切削インサート内の非使用領域を隠匿し、ドリリング性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来技術による一般ドリル用切削インサートを示す平面図である。
【
図2】従来技術による難削材用のドリル用切削インサートを示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるドリル用切削インサートにおけるチップコントロールのためのリッジ部の形態を示す平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるドリル用切削インサートを示す斜視図である。
【
図5】
図4のドリル用切削インサートの平面図である。
【
図6】
図4のドリル用切削インサートの側面図である。
【
図7】
図4のドリル用切削インサートの底面図である。
【
図9】2個のドリル用切削インサートが配置されるドリリング工具の全体形状を示す図である。
【
図10】
図9に示すドリル用切削インサートが配置されたドリリング工具の端部を拡大した図である。
【
図11】縦軸から視たドリリング工具の軸方向端部の平面図である。
【
図12】内側切削インサートおよび外側切削インサートが回転半径に沿って重なる形態で示す図である。
【
図13A】本発明の第2実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図13B】本発明の第2実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図13C】本発明の第2実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図14A】本発明の第3実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図14B】本発明の第3実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図14C】本発明の第3実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図15A】本発明の第4実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図15B】本発明の第4実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【
図15C】本発明の第4実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の利点および特徴、並びにこれらを達成する方法は、添付する図面と共に詳細に後述されている実施形態を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、以下で開示する実施形態に限定されるものではなく互いに異なる多様な形態で実現することができ、本実施形態は、単に本発明の開示を完全にし、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供するものであり、本発明は請求項の範疇によってのみ定義される。明細書全体にわたって同一参照符号は同一構成要素を指称する。
【0019】
以下、添付する図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0020】
他に定義のない限り、本明細書において使われるすべての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に共通して理解されることができる意味で使われる。また、一般的に使われる辞典に定義されている用語は明白に特に定義されていない限り、理想的にまたは過度に解釈されない。
【0021】
本明細書において使われた用語は、実施形態を説明するためのものであり、本発明を制限しようとするものではない。本明細書において、単数形は文面で特記しない限り、複数形も含む。明細書で使われる「含む(comprises)」および/または「含み(comprising)」は、言及された構成要素の他に一つ以上の他の構成要素の存在または追加を排除しない。
【0022】
図3は本発明の一実施形態によるドリル用切削インサート100において、チップコントロールのためのリッジ部(ridge portion、114)の形態を示す平面図である。
【0023】
本発明の一実施形態によるドリル用切削インサート100は、インデックス可能な複数の切削エッジ50を備える。また、ドリル用切削インサート100のリッジ部114は、中央のボア105を囲む閉曲線形態のリッジ本体113と、リッジ部113のコーナーからそれぞれ切削エッジ50に向かって延びるリッジ延長部115を含む。このような本発明の一実施形態によるドリル用切削インサート100は、チップフォーマの幅W3を十分に大きくしてもリッジ延長部115の付加によって有効なチップコントロール領域は既存のD3からD4に増加する。したがって、リッジ延長部115によりリッジ部114の幅が十分に大きくなることによって難削材のチップコントロールを容易にしながらも、有効なチップコントロール領域D4を十分に確保することができるので、チップフォーマの幅W3の増加による副作用をなくすことができる。すなわち、切削エッジ50で発生するチップがこのように延びたリッジ部113を乗り越えるようにチップコントロールが可能な領域が拡張される。
【0024】
図4は本発明の一実施形態によるドリル用切削インサート100を示す斜視図であり、
図5はドリル用切削インサート100の平面図であり、
図6はドリル用切削インサート100の側面図であり、
図7はドリル用切削インサート100の底面図であり、そして
図8は
図5でA-A’を切り取った断面図である。以下、
図4ないし
図8を参照して本発明の一実施形態によるドリル用切削インサート100の構造および作用を説明する。
【0025】
図面に示すドリル用切削インサート100は、上部表面110と、上部表面110の反対側に形成される下部表面150と、上部表面110と下部表面150を連結する側面130と、上部表面110と前記側面の交差位置に形成された切削エッジ50と、チップコントロールを容易にするために、上部表面110から上方に隆起形成されるリッジ部114を含んで構成されることができる。リッジ部114の一面にはインデックス可能なドリル用切削インサート100で必要な切削エッジを交替して使うことにおいて基準マーカーの役割をするノッチ116が形成されている。
【0026】
切削エッジ50は、被削材の切削時メイン役割をする主切削エッジ51と、切削時に補助の役割を果たす第2切削エッジ52と、両者を連結するコーナー切削エッジ53を含む。後述する
図12にも示すように、主切削エッジ(51a、51b)は、ドリリング表面に隣接してメイン切削機能を遂行することに比べて、第2切削エッジ(51b、52b)は、ドリリング表面に垂直に配置されて補助切削機能を遂行する。切削エッジ50に切削角を付与するために切削エッジ50から上部表面110の内側に向かって下降傾斜を有する傾斜面111が形成されている。傾斜面111の内側端部は上部表面110の底面112と隣接する。切削エッジ50の傾斜面111、底面112、およびリッジ部114に形成された傾斜面117は、共に切削エッジ50およびリッジ部114より下方に陥没したチップフォーマを形成する。一方、場合によっては、傾斜面111なしにチップフォーマを形成することもできる。
【0027】
このようなリッジ部114は、具体的には、上部表面110を上方から見るとき閉曲線形状を有するリッジ本体113と、リッジ本体113のコーナーから切削エッジ50に向かって延びるリッジ延長部115と、を含む。このようなリッジ延長部115は、リッジ本体113と同じ高さを有することが好ましい。具体的には、リッジ延長部115は、第2切削エッジ52側に配置され、第2切削エッジ52と垂直であり、主切削エッジ51と平行な方向に延びる。このように、リッジ延長部115が第2切削エッジ52と垂直であり、主切削エッジ51と平行に延びることによって、主切削エッジ51により切削されて生成されたチップが主切削エッジ51と垂直方向に進入するときに、リッジ延長部115により適切なチップコントロールが行われる。
【0028】
ただし、切削エッジ50の連続性が断絶しないように、リッジ延長部115の端部と第2切削エッジ52との間にはギャップ(gap)空間55が形成される。このようなギャップ空間55は切削エッジ50の一部分でも切削機能が失われることを防止する。
【0029】
また、切削エッジ52のコーナーの部分におけるチップコントロール性能を向上させるために、リッジ延長部115は、リッジ本体113からリッジ延長部115の端部に行くほど幅が減少するように形成されることが好ましい。また、リッジ部114全般的に流入したチップが傾斜面を円滑に乗り越えられるように、リッジ部114は上方から前記上部表面へ下がるほど断面が大きくなる形状を有することが好ましい。
【0030】
図4および
図5で示すように、リッジ本体113は上部表面110から下部表面150まで貫くボア105を囲むように配置されている。ボア105は、スクリューによってドリル本体に形成されたポケット(pocket)に固定するために必要な構成要素である。また、ドリル用切削インサート100の下部表面150近くのコーナー部には凹溝135が形成されており、ポケットにドリル用切削インサート100を固定するときの位置を決める役割をする。
【0031】
本発明の一実施形態において、ボア105の縁はリッジ本体113の内側閉曲線と一致する。すなわち、ボア105の縁とリッジ本体113との間には別途の屈曲や凹凸が存在しない。したがって、ドリル用切削インサート100の構造がより簡単になり、上部表面110に十分な大きさのボア105空間を確保することができ、別途のリッジ本体113の内側に下降傾斜面を形成する必要がなくボア105自体の縁の部分がその役割を果たすことができる。
【0032】
以上のように、本発明によれば、リッジ本体113から延びたリッジ延長部115によって有効なチップコントロール領域が増大するので、ドリル用切削インサート100を用いたドリリング過程でチップフォーマ(111、112、117)の幅を充分に確保しながらもチップコントロール性能を向上させることができる。
【0033】
一方、このようなチップコントロール性能のさらなる向上のためには、最も好ましくはチップフォーマが溝ないし溝(groove)形状を有しながら、切削エッジ50と、チップフォーマの底面である底面112と、リッジ本体113とリッジ延長部115を含むリッジ部114と、の間には特定の高さ条件を満足するようにする必要がある。
図8を参照すると、リッジ本体113またはリッジ延長部115は同じ高さaを有し、切削エッジ50およびチップフォーマの底面112より高く、切削エッジ50は溝の底面112より高い。したがって、リッジ部114の高さa、切削エッジ50の高さb、チップフォーマ112の面の高さcの間には、「a>b>c」の関係が成立する。
【0034】
このような高さの関係によって、ドリリング過程において、切削エッジ50付近で被削材から発生するチップは、チップフォーマ112およびリッジ部114を順次経過しながら上方に巻き上げられる形態で好ましいチップコントロールが行われる。
【0035】
以下では、前述したドリル用切削インサート100を2個備えるドリリング工具60が記述される。
図9は2個のドリル用切削インサート100が配置されるドリリング工具60の全体形状を示す図であり、
図10は
図9に示すドリル用切削インサート100が配置されたドリリング工具60の端部Zを拡大して示す図である。
【0036】
ドリリング工具60は、ドリリングのために縦軸Rを中心に回転可能なドリル本体65を備える。ドリル本体65は、それぞれの場合に一つのドリル用切削インサート100を収容するための2個の収容部分を備える。2個の収容部分のうち一つの収容部分は内側収容部分の役割をし、他の一つの収容部分は外側収容部分の役割をする。収容部分は、特にそれぞれの場合にそれぞれのドリル用切削インサート100内のボア105を介して案内されるスクリューを収容するためのねじ形成されたボアを備える。また、収容部分はそれぞれの場合にそこに収容されるそれぞれのドリル用切削インサート100が当接してフォームフィッティング(form-fitting)方式で支持されることができる一つまたは数個の接触面を備え得る。
【0037】
図11は縦軸Rによるドリリング工具60の軸方向端部の平面図を示す。第1ドリル用切削インサートが内側切削インサート100aとしてドリル本体65上に締結され、第2ドリル用切削インサートが外側切削インサート100bとしてドリル本体65上に締結される。内側切削インサート100aと外側切削インサート100bは、縦軸Rから相異する半径方向距離をおいて、そして実質的に縦軸Rを含む第1平面P1内に配置される。また、縦軸Rを含む第2平面P2が第1平面P1に対して垂直に延び、内側切削インサート100aはその内側の部分が第2平面P2と交差するように配置され得る。
【0038】
外側切削インサート100bは、軸方向にドリル本体65を越えて突出する稼動切削エッジが第1平面P1に少なくとも実質的に平行に延びてドリリング工具60が作動しているとき、縦軸Rを中心にする回転に関して第1平面P1の若干前に配置される。したがって、内側切削インサート100aと外側切削インサート100bは、ドリリング工具60が作動しているとき縦軸Rを中心にする回転に関して相異する半径方向位置に配置され、互いに対して略半回転だけ偏位する。
【0039】
図12は、
図10および
図11のように配置された内側切削インサート100aおよび外側切削インサート100bが回転半径に沿って重なる形態で示す図である。ここで、内側切削インサート100aの稼動切削エッジと外側切削インサート100bの稼動切削エッジが組み合わされて複合切削エッジLを形成する。ここで稼動切削エッジとは、インデックス可能なドリル用切削エッジ52のうちの現在取り付けた構造上のドリリングに直接使われる切削エッジを意味する。
図12では、複合切削エッジLを形成する、内側および外側切削インサート(100a、100b)の下側に備えられた切削エッジを示す。
【0040】
内側切削インサート100aは、内側切削インサート100aに形成されたリッジ延長部115aが前記縦軸に近接して前記縦軸と並ぶ方向を有するように、ドリル本体65に取り付けられる。内側切削インサート100aと外側切削インサート100bを回転方向に重ねるとき、外側切削インサート100bは、外側切削インサート100bに形成されたリッジ延長部115bが内側切削インサート100aに重なって覆われる。
【0041】
したがって、内側切削インサート100aにおいてチップコントロールないしチップ排出を妨げ得る稼動切削エッジに垂直なリッジ延長部115aは、縦軸Rと隣接しているので(回転速度が0に近いので)、切削に影響を及ぼさない領域に位置する。また、外側切削インサート100bにおいてチップコントロールないしチップ排出を妨げ得る稼動切削エッジに垂直なリッジ延長部115bは、ドリリング加工時にリードする内側切削インサート100aにより覆われて実質的に切削に関与しないので同様に問題が発生しない。このような内側切削インサート100aと外側切削インサート100bの計画した配置によって、チップコントロールに悪影響を与え得る一部の領域でさえ、縦軸Rに近接するように配置したり、リードする切削インサートによって隠匿したりすることで、全般的にチップコントロールに悪影響を与える問題を全般的に除去することができる。
【0042】
一方、ドリリング回転速度は、外側切削インサート100bにおいて縦軸Rから最も遠い側の主切削エッジ51bで最大となる。したがって、最も遠い主切削エッジ51bで切削されて形成されたチップのコントロールが最も大きい問題になり得る。なぜなら、切削速度が大きいほど被削材のチップカーリング(chip curling)が円滑にならずチップが長く広がる現象が発生するからである。このような現象は被削材がやわらかい軟鋼である場合により顕著に現れる。しかし、本発明によれば、このような主切削エッジ51bに対応してリッジ延長部115b’が形成されているので、最大回転速度を有する位置でもチップカーリングおよびチップカッティングが円滑に行われることができる。
【0043】
一方、複合切削エッジLは、縦軸R付近、および外側切削インサート100bの稼動切削エッジの外側よりは、内側切削インサート100aの稼動切削エッジと外側切削インサート100bが稼動切削エッジに重なる部分(複合切削エッジLの中央部分)でドリル進行方向(下方)に突出している。したがって、複合切削エッジLの中央部分がドリリング過程で先端の役割をする。
【0044】
以上、本発明の説明ではドリル用切削インサート100が略正四角形形状を有する実施形態について説明した。しかし、本発明の範疇を逸脱せず、多様に変形された形態の切削インサートを提供することも可能である。以下ではこのように多様に変形された実施形態について説明する。
【0045】
図13Aないし
図13Cは、本発明の第2実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
図13Aは略平行四辺形形状を有する切削インサート200の平面図である。
【0046】
切削インサート200においても上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部214を含み、リッジ部214は切削エッジ150から離隔して切削インサートの中央部205に配置されるリッジ本体213と、リッジ本体213のコーナー付近から切削エッジ150、特に第1切削エッジ151と平行に延びるリッジ延長部215と、を含む。ここで、リッジ本体213とリッジ延長部215は、前記上部表面を基準に同じ高さを有することが好ましい。
【0047】
切削エッジ150、特に第1切削エッジ151と、第1切削エッジ151と平行に延びるリッジ延長部215と、の間には、前記上部表面を基準に切削エッジ150およびリッジ延長部215より低いチップフォーマ212が形成され、前記上部表面を基準にリッジ延長部215が切削エッジ150より高く形成されることが、第1切削エッジ151により切削されて排出されるチップのコントロールのためにより好ましい。
【0048】
切削エッジ150は、第1切削エッジ151および、コーナー切削エッジ153で第1切削エッジ151と連結される第2切削エッジ152を含む。リッジ延長部215は、第2切削エッジ152側に配置され、第1切削エッジ151と平行な方向に延びており、第1切削エッジ151により切削されて排出されるチップのカーリング(curling)が円滑に行われるようにする。
【0049】
図13Bは本発明の第2実施形態による切削インサート200が配置されたドリリング工具160の端部を拡大した図であり、
図13Cは
図13Bのドリリング工具160で内側切削インサート200aおよび外側切削インサート200bが回転半径に沿って重なる形態で示す図である。
【0050】
内側切削インサート200aの稼動切削エッジ151aと外側切削インサート200bの稼動切削エッジ152bが重なって組み合わされて複合切削エッジを形成する。このとき、外側切削インサート200bの稼動切削エッジ152bのうちの少なくとも縦軸Rで最も遠い一部分152b’が外側切削インサート200bのリッジ延長部215bと平行するように外側切削インサート200bが配置されている。
【0051】
また、内側切削インサート200aに形成されたリッジ延長部215aは、縦軸Rに近接して略縦軸Rと並ぶ方向を有するので(回転速度が0に近い)、実質的にドリリング過程に影響を及ぼさない。そして、内側切削インサート200aと外側切削インサート200bを回転方向に重ねるとき、外側切削インサート200bに形成された、略縦軸Rと平行な方向に形成されるリッジ延長部(図示せず)は、内側切削インサート200aに重なって覆われている。したがって、外側切削インサート200bでチップコントロールを妨げ得る前記リッジ延長部はドリリング過程で切削に関与しなくなる。
【0052】
図14Aないし
図14Cは本発明の第3実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
図14Aは六角形形状を有する切削インサート300の平面図である。
【0053】
切削インサート300においても上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部314を含み、リッジ部314は切削エッジ250から離隔して切削インサートの中央部305に配置されるリッジ本体313と、リッジ本体313のコーナー付近から切削エッジ250、特に第1切削エッジ251と平行に延びるリッジ延長部315と、を含む。ここで、リッジ本体313とリッジ延長部315は、前記上部表面を基準に同じ高さを有することが好ましい。
【0054】
切削エッジ250、特に第1切削エッジ251と、第1切削エッジ251と平行に延びるリッジ延長部315と、の間には、前記上部表面を基準に切削エッジ250およびリッジ延長部315より低いチップフォーマ312が形成され、前記上部表面を基準にリッジ延長部315が切削エッジ250より高く形成されることが、第1切削エッジ251により切削されて排出されるチップのコントロールのためにより好ましい。
【0055】
切削エッジ250は、第1切削エッジ251および、コーナー切削エッジ253で第1切削エッジ251と連結される第2切削エッジ252を含む。リッジ延長部315は、第2切削エッジ252側に配置され、第1切削エッジ251と平行な方向に延びており、第1切削エッジ251により切削されて排出されるチップのカーリング(curling)が円滑に行われるようにする。
【0056】
図14Bは本発明の第3実施形態による切削インサート300が配置されたドリリング工具260の端部を拡大した図であり、
図14Cは
図14Bのドリリング工具260で内側切削インサート300aおよび外側切削インサート300bが回転半径に沿って重なる形態で示す図である。
【0057】
内側切削インサート300aの稼動切削エッジ251aと外側切削インサート300bの稼動切削エッジ251bが重なって組み合わされて複合切削エッジを形成する。このとき、外側切削インサート300bの稼動切削エッジ251bのうちの少なくとも縦軸Rで最も遠い一部分251b’が外側切削インサート300bのリッジ延長部315bと平行するように外側切削インサート300bが配置されている。
【0058】
また、内側切削インサート300aに形成されたリッジ延長部315aは、縦軸Rに近接しており、回転速度が0に近いので、実質的にドリリング過程に影響を及ぼさない。そして、内側切削インサート300aと外側切削インサート300bを回転方向に重ねるとき、外側切削インサート300bにおいてチップコントロールに適しない方向に配置されたリッジ延長部(図示せず)は内側切削インサート300aに重なって覆われている。したがって、外側切削インサート300bでチップコントロールを妨げ得るリッジ延長部はドリリング過程で切削に関与しなくなる。
【0059】
図15Aないし
図15Cは本発明の第4実施形態による切削インサートおよびドリリング工具を示す図である。
図15Aは略正三角形形状を有する切削インサート400の平面図である。
【0060】
切削インサート400においても上部表面から上方に隆起形成されるリッジ部414を含み、リッジ部414は切削エッジ350から離隔して切削インサートの中央部405に配置されるリッジ本体413と、リッジ本体413のコーナー付近から切削エッジ350、特に第1切削エッジ351と平行に延びるリッジ延長部415と、を含む。ここで、リッジ本体413とリッジ延長部415は、前記上部表面を基準に同じ高さを有することが好ましい。
【0061】
切削エッジ350、特に第1切削エッジ351と、第1切削エッジ351と平行に延びるリッジ延長部415と、の間には、前記上部表面を基準に切削エッジ350およびリッジ延長部415より低いチップフォーマ412が形成され、前記上部表面を基準にリッジ延長部415が切削エッジ350より高く形成されることが、第1切削エッジ351により切削されて排出されるチップのコントロールのためにより好ましい。
【0062】
切削エッジ350は、第1切削エッジ351および、コーナー切削エッジ353で第1切削エッジ351と連結される第2切削エッジ352を含む。リッジ延長部415は、第2切削エッジ352側に配置され、第1切削エッジ351と平行な方向に延びており、第1切削エッジ351により切削されて排出されるチップのカーリング(curling)が円滑に行われるようにする。
【0063】
図15Bは本発明の第4実施形態による切削インサート400が配置されたドリリング工具360の端部を拡大した図であり、
図15Cは
図15Bのドリリング工具360で内側切削インサート400aおよび外側切削インサート400bが回転半径に沿って重なる形態で示す図である。
【0064】
内側切削インサート400aの稼動切削エッジ351aと外側切削インサート400bの稼動切削エッジ351bが重なって組み合わされて複合切削エッジを形成する。このとき、外側切削インサート400bの稼動切削エッジ351bのうちの少なくとも縦軸Rで最も遠い一部分351b’が外側切削インサート400bのリッジ延長部415bと平行するように外側切削インサート400bが配置されている。
【0065】
また、内側切削インサート400aに形成されたリッジ延長部415aは縦軸Rに近接しており、回転速度が0に近いので、実質的にドリリング過程に影響を及ぼさない。そして、内側切削インサート400aと外側切削インサート400bを回転方向に重ねるとき、外側切削インサート400bでチップコントロールに適しない方向に配置されたリッジ延長部(図示せず)は内側切削インサート400aに重なって覆われている。したがって、外側切削インサート400bでチップコントロールを妨げ得る前記リッジ延長部は、ドリリング過程で切削に関与しなくなる。
【0066】
以上、ドリリング工具(60、160、260、360)には内側切削インサート(100a、200a、300a、400a)と外側切削インサート(100b、200b、300b、400b)を含む2個の切削インサートが配置される場合を説明したが、これに限定されず発明の範疇を逸脱しない範囲で3以上の切削インサートが配置されるように構成することができる。
【0067】
以上、添付する図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態で実施できることを理解することができる。したがって、上記一実施形態はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。