(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】切削インサート、回転工具及び切削加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20221101BHJP
B23C 5/20 20060101ALI20221101BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B23B51/00 T
B23B51/00 S
B23C5/20
B23C5/10 D
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2020546023
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035502
(87)【国際公開番号】W WO2020054702
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2018170315
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恩地 駿
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021335(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175396(WO,A1)
【文献】特開2017-124475(JP,A)
【文献】特開2016-002617(JP,A)
【文献】特開平02-124208(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
B23C 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有し、第1端から第2端にかけて延びた本体と、
前記本体の前記第1端の側に位置する切刃と、
前記切刃から前記本体の前記第2端の側に向かって延びた溝とを備え、
前記切刃は、
正面視した場合に前記回転軸と交差する第1刃と、
前記第1刃よりも外周側に位置しており、すくい角が正の値である第2刃とを有し、
前記第1刃にRホーニングが施されているとともに、前記第2刃にチャンファーホーニングが施されて
おり、
前記第2刃は、
直線形状である第1部位と、
前記第1部位よりも外周側に位置して凹曲線形状である第2部位とを有し、
前記第2部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅が、前記第1部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅よりも狭い、切削インサート。
【請求項2】
正面視した場合に、前記第1刃における前記第1刃に直交する方向でのホーニング幅が、前記第2刃における前記第2刃に直交する方向でのホーニング幅よりも狭い、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記第2部位は、外周側に向かうにしたがって前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅が広い第1領域を有する、請求項
1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記第1領域におけるホーニング角は、外周側に向かうにしたがって小さい、請求項
3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記第2部位は、前記第1部位及び前記第1領域の間に位置して、外周側に向かうにしたがってホーニング幅が狭い第2領域をさらに有する、請求項
3又は
4に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記第2領域におけるホーニング角は、外周側に向かうにしたがって大きい、請求項
5に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記第2刃は、前記第2部位よりも外周側に位置して直線形状である第3部位をさらに有し、
前記第3部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅が、前記第1部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅よりも狭い、請求項
1~
6のいずれか1つに記載の切削インサート。
【請求項8】
前記第3部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅が、前記第2部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅よりも狭い、請求項
7に記載の切削インサート。
【請求項9】
前記第2部位におけるすくい角が、前記第1部位におけるすくい角よりも大きい、請求項
1~
8のいずれか1つに記載の切削インサート。
【請求項10】
先端側に位置するポケットを有するホルダと、
前記ポケット内に位置する、請求項1~
9のいずれか1つに記載の切削インサートとを有する回転工具。
【請求項11】
回転軸を有し、第1端から第2端にかけて延びた棒形状の基体と、
前記基体の前記第1端の側に位置する切刃と、
前記切刃から前記基体の前記第2端の側に向かって螺旋状に延びた溝とを備え、
前記切刃は、
正面視した場合に前記回転軸と交差する第1刃と、
前記第1刃よりも外周側に位置しており、すくい角が正の値である第2刃とを有し、
前記第1刃にRホーニングが施されているとともに、前記第2刃にチャンファーホーニングが施されて
おり、
前記第2刃は、
直線形状である第1部位と、
前記第1部位よりも外周側に位置して凹曲線形状である第2部位とを有し、
前記第2部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅が、前記第1部位における前記回転軸に沿った方向でのホーニング幅よりも狭い、回転工具。
【請求項12】
被削材を回転させる工程と、
回転している前記被削材に請求項
10又は
11に記載の回転工具を接触させる工程と、
前記回転工具を前記被削材から離す工程とを備えた切削加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年9月12日に出願された日本国特許出願2018-170315号の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本態様は、切削加工において用いられる回転工具に関する。回転工具としては、例えば、ドリル及びエンドミルなどが挙げられる。
【背景技術】
【0003】
金属などの被削材を切削加工する際に用いられる回転工具として、例えば特開2016-002617号公報(特許文献1)に記載のドリルが知られている。特許文献1に記載のドリルは、シンニング切れ刃及び凹円弧切れ刃部を含む切れ刃を有する。特許文献1における切れ刃の全域には、刃先強化用のホーニング面が施される。
【0004】
特許文献1におけるホーニング面の幅は、凹円弧切れ刃部の中間点において最も小さい。そのため、この中間点において亀裂が生じる恐れがある。また、刃先強化のため、ホーニング面の幅を大きくした場合には、食い付き性が低下する。
【発明の概要】
【0005】
一態様に基づく切削インサートは、回転軸を有し、第1端から第2端にかけて延びた本体と、前記本体の前記第1端の側に位置する切刃と、前記切刃から前記本体の前記第2端の側に向かって延びた溝とを備える。前記切刃は、正面視した場合に前記回転軸と交差する第1刃と、前記第1刃よりも外周側に位置しており、すくい角が正の値である第2刃とを有する。そして、前記第1刃にRホーニングが施されるとともに、前記第2刃にチャンファーホーニングが施される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示における限定されない一面の回転工具を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す回転工具をB1方向から見た側面図である。
【
図6】
図3に示す回転工具をB2方向から見た側面図である。
【
図8】
図3に示す回転工具におけるVIII-VIII断面の断面図である。
【
図9】
図3に示す回転工具におけるIX-IX断面の断面図である。
【
図10】
図3に示す回転工具におけるX-X断面の断面図である。
【
図11】本開示における限定されない一面の回転工具を示す斜視図である。
【
図14】
図13に示す回転工具をB3方向から見た側面図である。
【
図16】本開示における限定されない一面の切削加工物の製造方法の一工程を示す概略図である。
【
図17】本開示における限定されない一面の切削加工物の製造方法の一工程を示す概略図である。
【
図18】本開示における限定されない一面の切削加工物の製造方法の一工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、複数の実施形態の回転工具1について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図では、説明の便宜上、各実施形態を説明するために必要な主要部材のみが簡略化して示される。従って、回転工具1は、本明細書が参照する各図に示されない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率などを忠実に表したものではない。
【0008】
<回転工具>
回転工具1の一例としてドリルが挙げられる。
図1に例示された回転工具1は、ドリルである。回転工具1としては、ドリルの他にも例えばエンドミルなどが挙げられる。
【0009】
本開示における限定されない一面の回転工具1は、例えば
図1に示すように、回転軸X1の周りで回転可能な棒形状のホルダ3を有してもよい。ホルダ3は、回転軸X1に沿って先端3aから後端3bにかけて延びてもよい。
図1に示す一例においては、左下側の端部が先端3aであり、右上側の端部が後端3bである。被削材を切削する際に、回転工具1は、回転軸X1の周りで回転する。なお、
図1などにおける矢印X2は、回転工具1の回転方向を示す。
【0010】
ホルダ3は、例えば
図1に示すように、回転軸X1に沿って細長く伸びた棒形状であってもよい。ホルダ3は、シャンク(shank)5と呼ばれる部位と、ボディ(body)7と呼ばれる部位とを有してもよい。シャンク5は、工作機械における回転可能なスピンドル等で把持されることが可能な部位である。ボディ7は、シャンク5よりも先端3aの側に位置してもよい。
【0011】
ボディ7(ホルダ3)の外径Dは特定の値に限定されない。例えば、外径Dは、6mm~42.5mmに設定されてもよい。また、回転軸X1に沿った方向でのホルダ3の長さLは、L=1.5D~12Dに設定されてもよい。
【0012】
ホルダ3におけるボディ7は、先端3aの側に位置するポケット9を有してもよい。ポケット9は、1つのみであっても、また、複数であってもよい。
図2に示す一例におけるホルダ3は、1つのポケット9を有する。ポケット9は、
図1に示す一例のように、ホルダ3の先端3aの側及び外周面の側にそれぞれ開口してもよい。
【0013】
ポケット9は、切削インサート11が装着される部分である。切削インサート11は、単にインサート11と言ってもよい。ポケット9には、インサート11が位置してもよい。すなわち、回転工具1は、先端3aの側に位置するインサート11を有してもよい。インサート11はポケット9に直接に接してもよく、また、インサート11及びポケット9の間にシートが挟まれてもよい。実施形態におけるインサート11は、ホルダ3に対して着脱可能な構成である。
【0014】
なお、
図1及び
図2に示す一例のように回転工具1がホルダ3及びインサート11によって構成される場合には、回転工具1は、一般的に先端交換式工具と呼ばれる。また、後述するように回転工具1が1つの部材によって構成される場合には、回転工具1は、一般的にソリッド工具と呼ばれる。
【0015】
インサート11は、本体13、切刃15及び第1溝17を備えてもよい。本体13は、回転軸X1を有し、第1端13aから第2端13bにかけて延びてもよい。
図1に示す一例においては、左下側の端部が第1端13aであり、右上側の端部が第2端13bである。
【0016】
ホルダ3における先端3aの側、及び、インサート11における第1端13aの側は、いずれも
図1における左下側を意味し、また、ホルダ3における後端3bの側、及び、インサート11における第2端13bの側は、いずれも
図1における右上側を意味する。切刃15は、本体13の第1端13aの側に位置してもよい。第1溝17は、切刃15から本体13の第2端13bの側に向かって延びてもよい。
【0017】
切刃15は、切削加工において被削材を切削するために用いることが可能である。切刃15は、第1端13aの近傍に位置してもよく、このとき、第1端13aを含むように位置してもよい。
図2に示す一例のように、切刃15は、第1刃19及び第2刃21を有してもよい。第1刃19は、正面視した場合に回転軸X1と交差してもよい。
【0018】
第1刃19における第1すくい角θ1は、負の値であってもよい。一般的に、第1刃19は、チゼルエッジとも呼ばれる。第2刃21は、第1刃19よりも外周側に位置してもよい。第2刃21における第2すくい角θ2は、正の値であってもよい。なおここで、正面視とは、インサート11を先端3aの側から見た場合を意味する。
【0019】
上記の実施形態においては、第1刃19における第1すくい角θ1が負の値である一方で、第2刃21における第2すくい角θ2が正の値である。このとき、第1刃19及び第2刃21の境界は、外周側に向かうにしたがってすくい角が負の値から正の値に変わる箇所によって評価されてもよい。
【0020】
第2刃21は、1つのみであってもよく、また、複数であってもよい。
図2に示す一例のように、切刃15は、2つの第2刃21を有してもよい。これら2つの第2刃21は、それぞれ第1刃19に繋がってもよい。
【0021】
ここで、すくい角とは、正面視した場合に対象となる切刃15の部分に直交するとともに、回転軸X1に平行な断面において評価できる。例えば、上記の断面において、回転軸X1に平行な仮想直線と、第1溝17のうち切刃15に沿った部分と、のなす角によって評価できる。第1溝17のうち切刃15に沿った部分が切刃15よりも回転方向の前方に位置する場合には、すくい角が負の値である。また、第1溝17のうち切刃15に沿った部分が切刃15よりも回転方向の後方に位置する場合には、すくい角が正の値である。
【0022】
第1すくい角θ1及び第2すくい角θ2は、特定の値には限定されない。第1すくい角θ1の最小値は、例えば、-30°~-50°に設定できる。第2すくい角θ2の最大値は、例えば、1°~40°に設定できる。なお、負の値である第1すくい角θ1が負の値である場合に、第1すくい角θ1の最小値は、第1すくい角θ1の絶対値の最大値と言い換えてもよい。
【0023】
実施形態では、回転軸X1に平行な断面において第1すくい角θ1及び第2すくい角θ2を評価しているが、必ずしも本体13を切断しなくてもよい。本体13の表面形状をスキャニングして、このスキャニングしたデータから仮想的に回転軸X1に平行な断面を評価してもよい。
【0024】
切刃15の形状及び位置は、特定の構成に限定されない。例えば、切刃15は、インサート11を正面視した場合において回転軸X1を基準として180°の回転対称の形状であってもよい。また、第1刃19及び第2刃21は、それぞれ正面視した場合において、直線形状であってもよく、また、曲線形状であってもよい。
【0025】
第1溝17は、切刃15で生じた切屑を外部に排出するために用いることが可能である。
図2に示す一例においては、切刃15が2つの第2刃21を有することから、インサート11は、2つの第1溝17を有してもよい。第1溝17は、回転軸X1に平行に延びてもよく、また、回転軸X1の周りで捩じれてもよい。言い換えれば、第1溝17は、回転軸X1を基準として、螺旋状に延びてもよい。また、切屑を円滑に外部に排出するという観点から、例えば、第1溝17は、回転軸X1に直交する断面において、凹曲線形状であってもよい。
【0026】
切刃15は、2つの面が交わる陵線に位置するが、このとき、刃先の耐久性という観点から厳密な意味での稜線には位置しなくてもよい。すなわち、切刃15にはホーニング加工が施されてもよい。具体的には、第1刃19にRホーニングが施されるとともに、第2刃21にチャンファーホーニングが施されてもよい。
【0027】
ここで、Rホーニングとは、2つの面が交わる稜線に、これら2つの面に接続される凸曲面23が設けられることを意味する。また、チャンファーホーニングとは、2つの面が交わる稜線に、これら2つの面に接続される平面25が設けられることを意味する。
【0028】
正面視した場合に回転軸X1と交差するように位置する第1刃19にRホーニングが施される場合には、切刃15の強度が高く、且つ、食い付き性が高い。これは、被削材に食いつく第1刃19に平面25ではなく凸曲面23が設けられる場合には、第1刃19が被削材に面接触しにくいからである。
【0029】
また、第1刃19よりも外周側に位置する第2刃21にチャンファーホーニングが施される場合には、切刃15の強度が特に高い。被削材を切削する第2刃21に凸曲面23ではなく平面25が設けられる場合には、Rホーニングが施される場合と比較して、第2刃21の耐久性がさらに高く、チッピングが生じにくいからである。
【0030】
正面視した場合における、第1刃19及び第2刃21のホーニング幅は特定の値に限定されない。第1刃19における第1刃19に直交する方向でのホーニング幅W11が、第2刃21における第2刃21に直交する方向でのホーニング幅W12より狭くてもよい。ホーニング幅W11が相対的に狭い場合には、第1刃19の食い付き性が向上する。また、ホーニング幅W12が相対的に広い場合には、第2刃21の耐久性が向上する。
【0031】
ホルダ3は、第1溝17に接続された第2溝27を有してもよい。ホルダ3が第2溝27を有する場合には、切刃15で生じて第1溝17を流れる切屑を第2溝27へと流すことが可能である。第1溝17は、回転軸X1に平行に延びてもよく、また、回転軸X1を基準として螺旋状に延びてもよい。第1溝17及び第2溝27のねじれ角は、同じであってもよく、また、互いに異なってもよい。
【0032】
第2溝27は、ホルダ3におけるボディ7に形成される一方でシャンク5に形成されなくてもよい。第2溝27がシャンク5に形成されない場合には、工作機械で安定してホルダ3を把持することが可能である。
【0033】
第2刃21は、
図3に示す一例のように、第1部位29、第2部位31及び第3部位33を有してもよい。
図3に示す一例のように、第1部位29は、直線形状であってもよい。
図3に示す一例のように、第2部位31は、第1部位29よりも外周側に位置して、正面視した場合に凹曲線形状であってもよい。
図3に示す一例のように、第3部位33は、第1部位29よりも外周側に位置して、直線形状であってもよい。
【0034】
第2刃21が上記の第1部位29及び第2部位31を有する場合において、
図5に示すように、第2部位31における回転軸X1に沿った方向でのホーニング幅W22が、第1部位29における回転軸X1に沿った方向でのホーニング幅W21より狭くてもよい。言い換えれば、第1部位29における回転軸X1に沿った方向でのホーニング幅W21が、第2部位31における回転軸X1に沿った方向でのホーニング幅W22より広くてもよい。なお、
図5は、回転軸X1の回転方向の前方から第2刃21を見た図面である。
【0035】
第1部位29は、切削速度が比較的遅い部位であることから、凹曲面形状である第2部位31と比較してチッピングが生じやすい。このチッピングが生じやすい第1部位29におけるホーニング幅W21が相対的に広い場合には、第2刃21の耐久性が向上する。また、第1部位29よりも外周側に位置する第2部位31のホーニング幅W22が相対的に狭い場合には、第2部位31における切削抵抗が小さい。そのため、ビビり振動を抑制することができる。従って、加工精度が高い。
【0036】
なお、第2部位31は外周側に向かうほど切削速度が高くなる。そのため、第2部位31は外周側に向かうほど切削抵抗が大きくなり易い。そこで、第2部位31における切削抵抗を小さく抑えつつ第2部位31の耐久性を向上させる観点から、第2部位31が、外周側に向かうにしたがってホーニング幅W22が広くなる第1領域31aを有してもよい。
【0037】
また、第2部位31は、第1部位29及び第1領域31aの間に位置する第2領域31bをさらに有してもよい。このとき、第2領域31bのホーニング幅W22は、外周側に向かうにしたがって狭くなってもよい。第2部位31が第2領域31bを有する場合には、第1部位29及び第2部位31の境界でホーニング幅が急激に変わりにくい。そのため、第1部位29及び第2部位31の境界における第2刃21の耐久性が高い。
【0038】
第2部位31が第1領域31aを有する場合において、この第1領域31aにおけるホーニング角φ1は、一定であっても、また、外周側に向かうにしたがって小さくなってもよい。ホーニング角φ1が外周側に向かうにしたがって小さくなる場合には、第1領域31aにおける外周側の部分ほど耐久性が高くなる。そのため、第2部位31における切削抵抗を小さく抑えつつ第2部位31の耐久性が向上する。
【0039】
また、第2部位31が第2領域31bを有する場合において、この第2領域31bにおけるホーニング角φ2は、一定であっても、また、外周側に向かうにしたがって大きくなってもよい。言い換えれば、第2領域31bにおけるホーニング角φ2は、回転軸X1に近づくにしたがって小さくなってもよい。この場合には、第1部位29及び第2部位31の境界でホーニング角が急激に変わりにくい。そのため、第1部位29及び第2部位31の境界における第2刃21の耐久性が高い。
【0040】
なお、上記したホーニング角とは、正面視した場合に対象となる切刃15の部分に直交するとともに、回転軸X1に平行な断面において評価できる。例えば、上記の断面において、回転軸X1に平行な仮想直線と平面25とのなす鋭角によって評価できる。
【0041】
また、第2刃21が上記の第1部位29、第2部位31及び第3部位33を有する場合において、第2刃21を回転軸X1の回転方向の前方から見た際に、第3部位33における回転軸X1に沿った方向でのホーニング幅W23が、第1部位29における回転軸X1に沿った方向でのホーニング幅W21より狭くてもよい。第1部位29よりも外周側に位置する第3部位33のホーニング幅W23が相対的に狭い場合には、第3部位33における切削抵抗が小さい。そのため、ビビり振動を抑制することができる。従って、加工精度が高い。
【0042】
さらに、第3部位33におけるホーニング幅W23が、第2部位31におけるホーニング幅W22より狭くてもよい。第2部位31よりも外周側に位置する第3部位33のホーニング幅W23が相対的に狭い場合には、第3部位33における切削抵抗が小さい。そのため、ビビり振動を抑制することができる。従って、加工精度が高い。
【0043】
第3部位33が第2刃21における最も外周側に位置する場合には、第3部位33によって加工穴の壁面が形成されることになる。第3部位33のホーニング幅W23が相対的に狭く、第3部位33における切削抵抗が小さい場合には、加工穴の壁面の面精度が高い。
【0044】
上記した通り、実施形態のインサート11においては、第2刃21における第2すくい角θ2が正の値である。ここで、第2刃21における第2すくい角θ2が一定であってもよく、また、変化してもよい。例えば、第2刃21が上記の第1部位29及び第2部位31を有する場合において、第2部位31における第2すくい角θ22が、第1部位29における第2すくい角θ21より大きくてもよい。
【0045】
第2部位31は第1部位29よりも外周側に位置してもよい。そのため、第1部位29よりも第2部位31において多くの切屑が生じやすい。第2部位31における第2すくい角θ22が、第1部位29における第2すくい角θ21より大きい場合には、第2部位31で生じる切屑が第1溝17において流れ易い。切屑が多く生じやすい場所において、切屑が流れ易くなることから、切屑が詰まりにくい。
【0046】
回転工具1を構成するインサート11の材質としては、例えば、超硬合金或いはサーメットなどが挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、WC-Co、WC-TiC-Co及びWC-TiC-TaC-Coが挙げられる。ここで、WC、TiC、TaCは硬質粒子であり、Coは結合相である。
【0047】
また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料である。具体的には、サーメットとして、炭化チタン(TiC)又は窒化チタン(TiN)を主成分としたチタン化合物が挙げられる。
【0048】
インサート11の表面は、化学蒸着(CVD)法、又は物理蒸着(PVD)法を用いて被膜でコーティングされてもよい。被膜の組成としては、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)又はアルミナ(Al2O3)などが挙げられる。
【0049】
また、回転工具1を構成するホルダ3の材質としては、例えば、鋼、鋳鉄又はアルミ合金などを用いることができる。靱性が高いという点では、鋼が好適である。
【0050】
なお、ホルダ3及びインサート11が1つの部材によって構成される場合には、この部材の材質としては、インサート11の材質と同様のものを用いることが可能である。
【0051】
上記の実施形態の回転工具1が、ホルダ3及びインサート11を有する先端交換式工具である一方で、回転工具1Aは、一般的にソリッド工具と呼ばれる構成であってもよい。
図11に回転工具1Aがソリッド工具である場合の一例を示す。
図11に示す回転工具1Aは、
図1に示す回転工具1と同様に、ドリルである。
【0052】
回転工具1Aは、基体35、切刃15A及び溝37を有してもよい。基体35は、回転軸X1の周りで回転可能な棒形状であり、第3端35aから第4端35bにかけて延びてもよい。実施形態における基体35は、
図1に示す一例におけるホルダ3及びインサート11に相当する部分である。
【0053】
基体35における第3端35aの側は、
図11における左下側を意味しており、また、基体35における第4端35bの側は、
図11における右上側を意味する。
図11に示す一例における第3端35aは、
図1に示す一例における第1端13aに相当する。
図11に示す一例における第4端35bは、
図1に示す一例における後端3bに相当する。
【0054】
切刃15Aは、基体35の第3端35aの側に位置してもよい。このとき、切刃15Aは、第3端35aを含む領域に位置してもよい。溝37は、切刃15Aから基体35の第4端35bの側に向かって螺旋状に延びてもよい。言い換えれば、溝37は、回転軸X1の周りで捩じれてもよい。実施形態における溝37は、
図1に示す一例における第1溝17及び第2溝27に相当する部分である。
【0055】
実施形態における切刃15Aは、
図1に示す一例の切刃15と同様に、第1刃19A及び第2刃21Aを有してもよい。そして、
図1に示す一例のように、実施形態における第1刃19AにRホーニングが施されるとともに、第2刃21Aにチャンファーホーニングが施されてもよい。そのため、第1刃19Aに凸曲面23Aが設けられ、且つ、第2刃21Aに平面25Aが設けられてもよい。従って、
図11に示す一例の回転工具1Aにおいてもまた、切刃15の強度が高く、且つ、食い付き性が高い。
【0056】
以上、実施形態の回転工具1、1Aについて例示したが、本開示はこれらに限定されず、本開示の要旨を逸脱しない限り任意のものにできることは言うまでもない。例えば、
図13に示す一例の回転工具1Aにおいては、
図3に示す一例の回転工具1と同様に、第2刃21が、第1部位29A、第2部位31A及び第3部位33Aを有してもよい。
【0057】
<切削加工物(machined product)の製造方法>
次に、本開示における限定されない一面の切削加工物101の製造方法について、上述の実施形態の回転工具1を用いる場合を例に挙げて詳細に説明する。切削加工物101は、被削材103を切削加工することによって作製され得る。以下、
図16~
図18を参照しつつ説明する。
【0058】
切削加工物101の製造方法は、以下の(1)~(4)の工程を備えてもよい。
【0059】
(1)準備された被削材103に対して上方に回転工具1を配置する(
図16参照)。
【0060】
(2)回転工具1を、回転軸X1を中心に矢印X2の方向に回転させ、被削材103に向かってY1方向に回転工具1を近付ける(
図16及び
図17参照)。
【0061】
本工程は、例えば、被削材103を、回転工具1が取り付けられた工作機械のテーブル上に固定し、回転工具1を回転した状態で近付けることにより行うことができる。なお、本工程では、被削材103と回転工具1とは相対的に近付けばよく、例えば被削材103を回転工具1に近付けてもよい。
【0062】
(3)回転工具1をさらに被削材103に近付けることによって、回転する回転工具1の切刃を、被削材103の表面の所望の位置に接触させて、被削材103に加工穴(貫通孔)105を形成する(
図17参照)。
【0063】
本工程において、ホルダにおけるボディの少なくとも一部が加工穴の中に位置するように切削加工が行われる。このとき、ホルダにおけるシャンクが、加工穴105の外側に位置するように設定してもよい。また、良好な仕上げ面を得る観点から、ボディのうち後端の側の一部が加工穴105の外側に位置するように設定してもよい。上記の一部を切屑排出のためのマージン領域として機能させることが可能であり、当該領域を介して優れた切屑排出性を奏することが可能である。
【0064】
(4)回転工具1を被削材103からY2方向に離す(
図18参照)。
【0065】
本工程においても、上述の(2)の工程と同様に、被削材103及び回転工具1は相対的に離せばよく、例えば被削材103を回転工具1から離してもよい。
【0066】
以上のような工程を経ることによって、優れた加工性を発揮することが可能である。
【0067】
なお、以上に示したような被削材103の切削加工を複数回行う場合であって、例えば、1つの被削材103に対して複数の加工穴105を形成する場合には、回転工具1を回転させた状態を保持しつつ、被削材103の異なる箇所に回転工具1の切刃を接触させる工程を繰り返せばよい。
【符号の説明】
【0068】
1・・・回転工具
3・・・ホルダ
3a・・先端
3b・・後端
5・・・シャンク
7・・・ボディ
9・・・ポケット
11・・・切削インサート(インサート)
13・・・本体
13a・・第1端
13b・・第2端
15、15A・・・切刃
17・・・第1溝
19、19A・・・第1刃
21、21A・・・第2刃
23、23A・・・凸曲面
25、25A・・・平面
27・・・第2溝
29、29A・・・第1部位
31、31A・・・第2部位
31a・・第1領域
31b・・第2領域
33、33A・・・第3部位
35・・・基体
37・・・溝
101・・・切削加工物
103・・・被削材
105・・・加工穴
X1・・・回転軸
X2・・・回転方向
D・・・外径
L・・・長さ
φ1、φ2・・・ホーニング角
θ1・・・第1すくい角
θ2・・・第2すくい角
W11、W12、W21、W22、W23・・・ホーニング幅