(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】建設機械の表示システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/26 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
E02F9/26 B
(21)【出願番号】P 2021001420
(22)【出願日】2021-01-07
(62)【分割の表示】P 2018208456の分割
【原出願日】2012-12-28
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪根 大
(72)【発明者】
【氏名】栗原 隆
(72)【発明者】
【氏名】深野 亮
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146846(JP,A)
【文献】特開2009-173195(JP,A)
【文献】特開平01-312129(JP,A)
【文献】特開2009-243073(JP,A)
【文献】特開2010-018141(JP,A)
【文献】特開平06-156119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/26
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を有する建設機械の表示システムであって、
前記作業機の位置情報を検出する作業機位置検出部と、
警告情報を含む実像を表示する実像表示部と、
前記実像を反射することで前記警告情報を含む虚像を
運転室の前方景色に重ねて形成するとともに、光を透過する
単一のコンバイナと、
前記作業機の位置情報に連動して、前記虚像における前記警告情報の表示位置を変更する制御を行う表示制御部と
を備える建設機械の表示システム。
【請求項2】
前記警告情報は、障害物を検出したことを示す情報を含む
請求項1に記載の建設機械の表示システム。
【請求項3】
前記障害物は人を含む、
請求項2に記載の建設機械の表示システム。
【請求項4】
前記警告情報は、前記建設機械の異常を検出したことを示す情報を含む
請求項1に記載の建設機械の表示システム。
【請求項5】
前記
建設機械の異常は、エンジンにかかわる異常を含む
請求項4に記載の建設機械の表示システム。
【請求項6】
前記警告情報の表示位置は、前記作業機の近傍である
請求項1から5のいずれかに記載の建設機械の表示システム。
【請求項7】
作業機を有する建設機械において、実像を表示する実像表示部と、前記実像を反射することで
運転室の前方景色に重ねて虚像を形成するとともに光を透過する
単一のコンバイナとを備えた表示システムの制御方法であって、
前記作業機の位置情報を検出するステップと、
前記実像表示部に警告情報を表示させるステップと、
前記作業機の位置情報に連動して、前記虚像における前記警告情報の表示位置を変更する制御を行うステップと
を備える建設機械の表示システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の表示システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械において、エンジンの冷却水の水温などの各種情報を運転室内のモニタ装置に表示する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、運転室のモニタ装置に、作業対象の設計面やバケットの刃先の位置を示す画像を表示するものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-136985号公報
【文献】特開2012-172431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記モニタ装置は、オペレータの前方視界を妨げないように、運転室の前方窓と側方窓とを仕切る縦枠の下部に設けられていた(特許文献1の
図2参照)。オペレータは、作業機を見ながら操作するため、前記モニタ装置の情報を確認するためには、視点を大きくずらしてモニタ装置を確認する必要がある。
従って、操作作業中の視点の移動が大きくなり作業効率が向上しないという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、操作作業中の視点の移動を少なくできて、作業効率を向上できる建設機械の表示システムおよびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係る建設機械の表示システムは、作業機と、前記作業機が取り付けられかつ運転室を有する本体部とを有する建設機械の表示システムであって、前記作業機の位置情報を検出する作業機位置検出部と、実像を表示する実像表示部と、前記実像を運転室内に反射することで前記運転室の外部に虚像を形成するとともに、前記運転室の外部からの光を透過するコンバイナと、前記作業機の位置情報に基づいて、前記虚像の表示位置を変更する制御を行う表示制御部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
第1態様によれば、表示システムは、実像表示部およびコンバイナを備えるので、虚像を運転室の前方景色に重ねて表示できる。このため、オペレータは、作業機および虚像を視認する場合に、視点の移動を少なくできる。従って、操作作業中の視点の移動を少なくでき、作業効率を向上できる。
その上、表示制御部は、作業機の位置情報に基づいて、前記虚像の位置を制御する。このため、前記運転室のオペレータが知覚する前記虚像を、前記作業機の位置に基づいて表示することができ、オペレータの視線の動きと焦点調節とを最小限に抑えることができる。このため、オペレータが作業機および虚像を認識する場合の負荷も低減できる。
【0008】
他の態様において、前記作業支援情報として、前記作業機の位置情報と、前記本体部の三次元位置情報と、前記目標地形情報とに基づいて作業機の操作情報を作成してもよい。このため、操作情報として、作業機の移動方向や移動量を表示でき、オペレータは容易に作業機を操作することができる。
【0009】
他の態様において、本体部の三次元位置情報と、目標地形情報とに基づいて作成される施工設計面情報を、作業対象の地形位置に合わせて表示してもよい。このため、オペレータは、表示された施工設計面情報に合わせて作業機を操作すればよく、容易に作業機を操作することができる。
【0010】
他の態様において、本体部の三次元位置情報と、目標地形情報と、作業機の軌跡情報に基づく作業進度情報とに基づいて作成される施工設計面情報を、作業対象の地形位置に合わせて表示してもよい。このため、オペレータは、表示された施工設計面情報に合わせて作業機を操作すればよく、容易に作業機を操作することができる。また、施工後の出来形を確認でき、目標地形情報通りに正しく施工されているかを容易に確認できる。
【0011】
他の態様において、前記実像表示部とコンバイナとの間に、複数のレンズを備え、かつ、少なくとも一部のレンズが光軸方向に移動可能なレンズ光学系を配置し、前記表示制御部は、前記レンズ光学系の少なくとも一部のレンズを光軸方向に移動してもよい。このため、作業支援情報の奥行き表示位置を容易にかつ迅速に制御できる。
【0012】
他の態様において、前記表示制御部は、前記実像表示部と前記コンバイナとの距離を変更して前記作業支援情報の奥行き表示位置を制御してもよい。このため、一部のレンズが移動可能なレンズ光学系を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる建設機械の斜視図。
【
図3】建設機械が備える制御系の構成を示すブロック図。
【
図6】建設機械の表示装置に表示された案内画面を示す図。
【
図7】建設機械の表示装置に表示された案内画面を示す図。
【
図9】案内画面の表示制御方法を示すフローチャート。
【
図11】施工設計面情報表示処理を示すフローチャート。
【
図12】バケットの軌跡情報の算出方法を説明する図。
【
図13】操作支援情報表示処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[1.油圧ショベルの全体構成]
以下、図面を参照して、本発明の建設機械の表示システムの一実施形態に係る油圧ショベルの表示システムについて説明する。
図1は、表示システムが搭載される油圧ショベル100の斜視図である。油圧ショベル100は、車体1と作業機2とを有する。車体1は、本発明の本体部に相当する。車体1は、旋回体3と運転室4と走行装置5とを有する。旋回体3は、走行装置5に旋回可能に取り付けられている。旋回体3は、図示しないエンジンや油圧ポンプなどの装置を収容している。運転室4は旋回体3の前部に載置されている。運転室4内には、後述する表示装置38および操作装置25が配置される(
図3参照)。走行装置5は左右の履帯5a,5bを有しており、履帯5a,5bが回転することにより油圧ショベル100が走行する。
【0015】
作業機2は、車体1の前部に取り付けられており、ブーム6とアーム7とバケット8とブームシリンダ10とアームシリンダ11とバケットシリンダ12とを有する。
ブーム6の基端部は、ブームピン13を介して車体1の前部に揺動可能に取り付けられている。すなわち、ブームピン13は、ブーム6の旋回体3に対する揺動中心に相当する。
アーム7の基端部は、アームピン14を介してブーム6の先端部に揺動可能に取り付けられている。すなわち、アームピン14は、アーム7のブーム6に対する揺動中心に相当する。
アーム7の先端部には、バケットピン15を介してバケット8が揺動可能に取り付けられている。すなわち、バケットピン15は、バケット8のアーム7に対する揺動中心に相当する。
【0016】
図2は、油圧ショベル100の構成を模式的に示す図である。
図2(A)は油圧ショベル100の側面図であり、
図2(B)は油圧ショベル100の背面図である。
図2(C)は油圧ショベル100の上面図である。
図2(A)に示すように、ブーム6の長さ、すなわち、ブームピン13からアームピン14までの長さは、L1である。アーム7の長さ、すなわち、アームピン14からバケットピン15までの長さは、L2である。バケット8の長さ、すなわち、バケットピン15からバケット8の刃先Pまでの長さは、L3である。
【0017】
図1に示すブームシリンダ10とアームシリンダ11とバケットシリンダ12とは、それぞれ油圧によって駆動される油圧シリンダである。ブームシリンダ10の基端部は、ブームシリンダフートピン10aを介して旋回体3に揺動可能に取り付けられている。また、ブームシリンダ10の先端部は、ブームシリンダトップピン10bを介してブーム6に揺動可能に取り付けられている。ブームシリンダ10は、油圧によって伸縮することによって、ブーム6を駆動する。
アームシリンダ11の基端部は、アームシリンダフートピン11aを介してブーム6に揺動可能に取り付けられている。また、アームシリンダ11の先端部は、アームシリンダトップピン11bを介してアーム7に揺動可能に取り付けられている。アームシリンダ11は、油圧によって伸縮することによって、アーム7を駆動する。
バケットシリンダ12の基端部は、バケットシリンダフートピン12aを介してアーム7に揺動可能に取り付けられている。また、バケットシリンダ12の先端部は、バケットシリンダトップピン12bを介して第1リンク部材47の一端および第2リンク部材48の一端に揺動可能に取り付けられている。第1リンク部材47の他端は、第1リンクピン47aを介してアーム7の先端部に揺動可能に取り付けられている。第2リンク部材48の他端は、第2リンクピン48aを介してバケット8に揺動可能に取り付けられている。バケットシリンダ12は、油圧によって伸縮することによって、バケット8を駆動する。
【0018】
ブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12などの油圧シリンダと図示しない油圧ポンプとの間には、比例制御弁37が配置されている(
図3参照)。比例制御弁37が後述する作業機コントローラ26によって制御されることにより、油圧シリンダ10~12に供給される作動油の流量が制御される。これにより、油圧シリンダ10~12の動作が制御される。
【0019】
図2(A)に示すように、ブーム6とアーム7とバケット8には、それぞれ第1~第3ストロークセンサ16~18が設けられている。
第1ストロークセンサ16は、ブームシリンダ10のストローク長さを検出する。後述する表示コントローラ39(
図3参照)は、第1ストロークセンサ16が検出したブームシリンダ10のストローク長さから、後述する車体座標系のzm軸に対するブーム6の揺動角αを算出する。
第2ストロークセンサ17は、アームシリンダ11のストローク長さを検出する。表示コントローラ39は、第2ストロークセンサ17が検出したアームシリンダ11のストローク長さから、ブーム6に対するアーム7の揺動角βを算出する。
第3ストロークセンサ18は、バケットシリンダ12のストローク長さを検出する。表示コントローラ39は、第3ストロークセンサ18が検出したバケットシリンダ12のストローク長さから、アーム7に対するバケット8の揺動角γを算出する。
後述するように、第1~第3ストロークセンサ16~18によって、車体1に対する作業機2のバケット8の刃先Pの位置情報を検出できる。従って、第1~第3ストロークセンサ16~18は、本発明の作業機位置検出部に相当する。
【0020】
図2(A)に示すように、車体1には、位置検出部19が備えられている。位置検出部19は、油圧ショベル100の現在位置を検出する。位置検出部19は、RTK-GNSS(Real Time Kinematic - Global Navigation Satellite Systems、GNSSは全地球航法衛星システムをいう。)用の2つのアンテナ21、22と、3次元位置センサ23と、傾斜角センサ24とを有する。
アンテナ21,22は、後述する車体座標系xm-ym-zmのym軸に沿って一定距離だけ離間して配置されている。アンテナ21、22で受信されたGNSS電波に応じた信号は3次元位置センサ23に入力される。3次元位置センサ23は、アンテナ21、22のグローバル座標系における設置位置を検出する。
なお、グローバル座標系は、GNSSによって計測される座標系であり、地球に固定された原点を基準とした座標系である。これに対して、後述する車体座標系は、車体1(具体的には旋回体3)に固定された原点を基準とする座標系である。2つのアンテナ21、22は、車体1の現在位置および車体1(具体的には旋回体3)の向きを検出するためのアンテナである。位置検出部19は、2つのアンテナ21、22の位置によって、後述する車体座標系のxm軸のグローバル座標系での方向角(方位角)を検出する。
【0021】
図3に示すように、車体1には、傾斜角センサ24が備えられている。傾斜角センサ24は、
図2(B)に示すように、重力方向(鉛直線)に対する車体1の幅方向(左右方向)の傾斜角θ1(以下、「ロール角θ1」と呼ぶ)を検出する。また、傾斜角センサ24は、
図2(A)に示すように、重力方向に対する車体1の前後方向の傾斜角θ2(以下、「ピッチ角θ2」と呼ぶ)を検出する。さらに、傾斜角センサ24は、旋回体3の旋回角度つまり車体座標系の鉛直軸(zm軸)回りの傾斜角(以下、「ヨー角θ3」と呼ぶ)を検出する。
なお、本実施形態において、車体1の幅方向とは、バケット8の幅方向を意味しており、車幅方向と一致している。ただし、作業機2がチルトバケットを備える場合には、バケット8の幅方向と車幅方向とが一致しないことがあり得る。
位置検出部19は、アンテナ21、22、3次元位置センサ23、傾斜角センサ24を備えるため、車体1のグローバル座標上の現在位置、向き、傾斜角度を有する本体部の三次元位置情報を検出する。車体1のグローバル座標上の現在位置は、緯度、経度、標高のデータで表される。グローバル座標上の車体1の向きは、方位角で表される。傾斜角度は、前記ロール角θ1、ピッチ角θ2、ヨー角θ3で表される。
【0022】
図3は、油圧ショベル100が備える制御系の構成を示すブロック図である。油圧ショベル100は、操作装置25と、作業機コントローラ26と、作業機制御装置27と、表示システム28とを備える。
操作装置25は、作業機2および旋回体3を操作する操作部材31L、31Rと、操作部材31L、31Rの操作を検出する操作検出部32と、走行操作部材33と、走行操作検出部34とを有する。操作部材31L、31Rは、オペレータが作業機2および旋回体3を操作するための部材であり、例えば操作レバーである。
操作部材31Rは作業機2におけるブーム6とバケット8の操作を行い、操作部材31Rの前後方向の操作はブームの上げ下げの動作に対応し、左右方向の操作はバケットの掘削、開放の動作に対応する。
操作部材31Lは旋回体3とアーム7の操作を行い、操作部材31Lの前後方向の操作はアームの掘削、開放の動作に対応し、左右方向の操作は旋回体3の左右方向の旋回動作に対応する。
操作検出部32は、操作部材31Lの操作を検出する操作検出部32Lと、操作部材31Rの操作を検出する操作検出部32Rとを備える。操作検出部32L、32Rは、例えば操作部材31L、31Rに設けられた図示しない検出角を検出するポテンショメータ等を用いる。操作部材31L、31Rの操作内容に対応し、操作検出部32L、32Rは傾倒角を電気信号として検出して、検出信号として作業機コントローラ26へ送る。操作部材31L、31Rでは操作信号に応じパイロット流量を発生させ、操作検出部32L、32Rではパイロット圧を検出し、検出信号としてもよい。
走行操作部材33は、オペレータが油圧ショベル100の走行を操作するための部材であり、例えば操作レバーである。走行操作検出部34は、走行操作部材33の操作内容に応じパイロット流量を発生する。パイロット圧に応じて走行モータに供給する流量が決定し、走行装置5が駆動される。
【0023】
作業機コントローラ26は、RAMやROMなどの記憶部35や、CPUなどの演算部36を有している。作業機コントローラ26は、主として作業機2の動作および旋回体3の旋回の制御を行う。作業機コントローラ26は、操作部材31L、31Rの操作に応じて作業機2および旋回体3を動作させるための制御信号を生成して、作業機制御装置27に出力する。
作業機制御装置27は比例制御弁37を有しており、作業機コントローラ26からの制御信号に基づいて比例制御弁37が制御される。作業機コントローラ26からの制御信号に応じた流量の作動油が比例制御弁37から流出され、油圧シリンダ10~12や図示しない旋回モータに供給される。油圧シリンダ10~12や旋回モータは、比例制御弁37から供給された作動油に応じて駆動される。これにより、作業機2が動作し、旋回体3が旋回する。
【0024】
[2.表示システムの構成]
表示システム28は、警告情報、操作ガイダンス、施工設計面情報、車体情報などの各種情報をオペレータに提供するためのシステムである。表示システム28は、表示装置38と、表示コントローラ39と、前記各種のセンサ16、17、18、23、24と、後述する監視装置60とを有している。
【0025】
表示装置38は、
図4、5に示すように、実像表示部40と、レンズ光学系41と、コンバイナ42とを有する。実像表示部40は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プロジェクタおよびスクリーン等の実像を表示できる表示装置で構成される。なお、透過型スクリーンを用いてスクリーンの裏面側に配置したプロジェクタから映像を投射して表示してもよい。
レンズ光学系41は、実像表示部40とコンバイナ42との間に配置され、複数枚のレンズを備える。そして、レンズ光学系41のレンズの一部は光軸方向に移動可能に構成されている。レンズの駆動機構は、カメラのズームレンズなどで利用されている駆動機構が利用できる。
【0026】
コンバイナ42は、運転室4の前面のフレーム4AF内に上下2枚設置されたフロントグラス4A部分に設けられた一部の光を反射し、残りの光を透過するハーフミラーで構成されている。このコンバイナ42は、実像表示部40に表示された映像を運転室4内のオペレータ側に反射するとともに、運転室4の外部からの光を運転室4内に透過する。
このため、オペレータの視点からは、前記実像表示部40に表示された実像を、コンバイナ42から透過して視認できる運転室4の前方景色に重ねて表示される虚像70として捉えることができる。このため、表示装置38は、オペレータの視野に直接映像を映し出すいわゆるヘッドアップディスプレイとして機能する。
【0027】
なお、コンバイナ42にレンズ効果を持たせることで、オペレータが視認する虚像70を拡大したり、虚像70の表示位置を変更することができる。本実施形態では、コンバイナ42にレンズ効果を持たせるために、コンバイナ42として凹面ハーフミラーを用いている。
【0028】
さらに、本実施形態では、表示コントローラ39の制御によって、レンズ光学系41の少なくとも一部のレンズを光軸方向に移動することで、オペレータが視認する虚像70の奥行き表示位置(オペレータの視点位置から運転室の前方に表示される虚像70までの距離)を変更できる。すなわち、レンズ光学系41を配置した場合、この光学系により、その奥にある実像表示部40を拡大して覗き込むような形になる。そして、前記レンズ光学系41内部の一部のレンズを光軸方向に移動することで、実像表示部40の奥行き(コンバイナ42から実像表示部40までの距離)が変化した場合と同様の効果が得られ、結果的に虚像70の奥行き表示位置も変更される。
図5は、点線で示す虚像70と、実線で示す虚像70とで奥行き表示位置が変更されている。
さらに、虚像70の大きさはレンズ光学系41の射出窓の大きさに依存するため、虚像70の奥行き表示位置が変わっても、オペレータの視野角上の虚像70の大きさは一定に保つことができる。
【0029】
なお、前記虚像70の奥行き表示位置を変更するには、レンズ光学系41を配置せずに、リニアアクチュエータなどを用いて前記実像表示部40をコンバイナ42に対して近づく方向および遠ざかる方向に移動可能に構成し、実像表示部40およびコンバイナ42の距離を変更する構成を採用してもよい。
【0030】
表示コントローラ39は、表示システム28の各種の機能を実行する。表示コントローラ39と作業機コントローラ26とは、無線あるいは有線の通信手段で互いに通信可能となっている。
表示コントローラ39は、RAMやROMなどの記憶部43や、CPUなどの演算部44を有している。
記憶部43には、3次元の目標地形情報が記憶されている。目標地形情報は、作業対象となる地面の施工後の地形(設計地形)の形状および位置に関する情報であり、三角形や四角形などのポリゴンによって表現される。
演算部44は、記憶部43に記憶されている目標地形情報や、位置検出部19で検出される車体1の三次元位置情報、作業機位置検出部である第1~第3ストロークセンサ16~18で検出されるバケット8の刃先の位置情報に基づいて、作業支援情報を作成するための各種の演算を実行する。表示コントローラ39は、実像表示部40にオペレータに対する作業支援情報を表示する。このため、表示コントローラ39は、本発明の表示制御部に相当する。
【0031】
[3.案内画面]
以下、表示装置38に表示される案内画面について詳細に説明する。案内画面は、
図6に示すように、操作支援情報82を作業支援情報として表示し、さらに、車体情報83や施工設計面情報84を表示する。また、警告情報(コーション情報)81を表示する場合は、
図7に示すように、作業支援情報として警告情報81も表示する。
【0032】
警告情報81は、表示コントローラ39に接続された監視装置60から出力される。監視装置60は、油圧ショベル100における各種状態を検出するセンサ等を備え、検出データに異常があった場合に警告情報81を表示コントローラ39に出力する。例えば、監視装置60は、油圧ポンプの吐出圧を検出するセンサや、エンジンの冷却水の水温を検出するセンサ、コンタミセンサなどを備える。また、監視装置60は、油圧ショベル100の周囲に人等の障害物が近接したことを検出する近接センサなども備える。
監視装置60は、これらのセンサのデータに基づいて、オペレータに警告を伝えるための警告情報81を作成し、表示コントローラ39に出力する。表示コントローラ39は、監視装置60から警告情報81を受信すると、直ちに実像表示部40に表示する。すなわち、警告情報81は最優先で表示する。
図7の警告情報81は、油圧ショベル100の左方向に人などの障害物を検出した場合の警告情報の例である。
【0033】
操作支援情報82は、作業機2の操作をサポートするガイダンス情報である。例えば、表示コントローラ39の演算部44は、後述するように、位置検出部19で検出された車体1の三次元位置情報と、第1~第3ストロークセンサ16~18で検出された作業機2におけるバケット8の刃先の位置情報と、記憶部43に記憶された目標地形情報とを参照することで、作業機2の移動方向および移動量を算出する。そして、表示コントローラ39は、作業機2の移動方向および移動量から操作支援情報82を作成し、実像表示部40に表示する。
例えば、
図6の操作支援情報82は、
図8に示す油圧ショベル100において、バケット8がバケット8Aの位置にある場合に表示される情報である。
図6の操作支援情報82では、バケット8が目標地形から4m上方に配置されているため、4m下方に移動させる必要があることを示している。
図7の操作支援情報82は、バケット8がバケット8Bの位置にある場合に表示される情報である。
図7の操作支援情報82では、バケット8の残りの移動量を示している。
なお、操作支援情報82は、バケット8の移動方向を示す矢印と、移動距離を示す数字とで表示するタイプでもよいし、移動目標位置(高さレベル)を示す三角マークと現在のバケット8の位置を示すバーとで表示するタイプでもよい。
図6,7にはこれら2つの表示タイプを併記しているが、通常は、いずれか一方のみを表示すればよい。
【0034】
車体情報83は、燃料計のデータや、現在時刻、現在の燃費での残り稼動時間などの情報である。車体情報83の表示の有無や、表示するデータの種類等は、オペレータが設定でき、この設定情報は記憶部43に記憶される。表示コントローラ39は、車体情報83が表示有りに設定されている場合、指定されたデータを表示する。なお、車体情報83の表示位置は、バケット8の刃先位置に連動せず、固定されている。
【0035】
施工設計面情報84は、前記目標地形情報と、バケット8の刃先の軌跡情報とを用いて作成される。すなわち、表示コントローラ39は、施工前には、前記目標地形情報や、位置検出部19で検出される三次元位置情報に基づいて、目標地形情報を施工設計面情報84として実像表示部40に表示する。このため、オペレータの視点からは、コンバイナ42を通して視認できる作業対象の地面に、前記目標地形情報が重なって見える。
また、表示コントローラ39は、施工途中や施工後には、前記目標地形情報に加えてバケット8の刃先の軌跡情報を重ねて施工設計面情報84を作成し、出来形の情報も表示する。
【0036】
実像表示部40に表示された案内画面は、レンズ光学系41を介してコンバイナ42で反射され、オペレータに視認される。このため、オペレータは、コンバイナ42を透過して見ることができるフロントグラス4Aの前方景色つまり作業現場の光景に、前記案内画面を重ねて見ることができる。
表示コントローラ39は、警告情報81、操作支援情報82を、作業機2のバケット8の位置に合わせて表示する。このため、警告情報81および操作支援情報82は、バケット8の移動に伴い、コンバイナ42の表面に沿った表示位置および奥行き表示位置が変化する。
表示コントローラ39は、車体情報83を、実像表示部40の決められた位置に固定して表示する。ただし、警告情報81、操作支援情報82と同様に、車体情報83をバケット8の位置に合わせて表示してもよい。
表示コントローラ39は、施工設計面情報84を、作業対象となる地面に合わせて表示する。
【0037】
[4.案内画面の表示制御方法]
次に、上述した案内画面の表示制御方法について
図9のフローチャートに基づいて説明する。表示コントローラ39は、油圧ショベル100による施工作業中、
図9に示す案内画面の表示制御を、一定時間間隔、例えば0.1秒間隔で繰り返し実行し、例えば1秒程度の間隔で表示を変更する。
【0038】
(警告情報の表示)
案内画面の表示制御を開始すると、表示コントローラ39の演算部44は、監視装置60から警告情報81が出力されているか(警告情報81が有るか)を判定する(ステップS1)。警告情報81が有る場合、演算部44は警告情報81を表示する(ステップS2)。表示制御の最初に警告情報81の表示処理を行うことで、警告情報81を最優先で表示でき、オペレータに迅速に警告情報を伝えることができる。警告情報の表示処理の詳細は後述する。なお、他の情報の表示処理時に、監視装置60から警告情報81が出力された場合は、警告情報81の表示処理(ステップS2)を割り込みで実行すればよい。
【0039】
(施工設計面情報の表示)
演算部44は、ステップS2の警告情報81の表示処理後、または、警告情報81が無いためにステップS1でNoと判定された場合、施工設計面情報84が記憶部43に記憶されているかを判定する(ステップS3)。施工現場によっては施工設計面情報84が存在しない場合もあるため、その有無を判定している。
施工設計面情報84が有る場合、演算部44は、施工設計面情報84の表示処理を行う(ステップS4)。
【0040】
(操作支援情報の表示)
演算部44は、ステップS4の施工設計面情報84の表示処理後、または、施工設計面情報84が無いためにステップS3でNoと判定された場合、操作支援情報82の表示設定の有無を判定する(ステップS5)。
操作支援情報82の表示設定が有る場合、演算部44は、操作支援情報82の表示処理を行う(ステップS6)。
なお、ステップS2、S4、S6の各表示処理の詳細は後述する。
【0041】
(車体情報の表示)
演算部44は、ステップS5でNoと判定された場合、またはステップS6の表示処理の後、車体情報83を表示する設定になっているかを判定する(ステップS7)。
そして、演算部44は、車体情報83の表示設定有りと判定された場合、車体情報83の表示処理を行う(ステップS8)。この場合、演算部44は実像表示部40を制御し、
図6、7に示すように、燃料計のデータや、現在時刻等の車体情報を、決められた表示位置に表示する。
そして、演算部44は、前述のとおり、施工作業が継続している間は、前記ステップS1からステップS8までの処理を所定時間間隔で繰り返すため、ステップS1に戻り、表示処理を続行する。
【0042】
[4-1.警告情報表示処理S2]
次に、ステップS2の警告情報81の表示処理について、
図10のフローチャートに基づいて説明する。なお、警告情報表示処理S2では、油圧ショベル100の車体座標系を利用して刃先位置を算出するため、まず、車体座標系に関して説明する。
【0043】
(車体座標系の説明)
油圧ショベル100では、
図2に示すように、前記傾斜角センサ24の検出値を参照して、ブームピン13の軸と作業機2の動作平面との交点を原点として車体座標系xm-ym-zmを設定している。ここで作業機2の動作平面はxm-zmとなる。また、車体座標系は、各アンテナ21、22の位置データを用いても設定できる。なお、以下の説明においてブームピン13の位置は、ブームピン13の車幅方向における中点の位置を意味するものとする。
アンテナ21,22と車体座標系の原点との位置関係、すなわち、アンテナ21,22とブームピン13の車幅方向における中点との位置関係は予め設定される。具体的には、
図2(B)及び
図2(C)に示すように、ブームピン13とアンテナ21との間の車体座標系のxm軸方向の距離Lbbxと、ブームピン13とアンテナ21との間の車体座標系のym軸方向の距離Lbbyと、ブームピン13とアンテナ21との間の車体座標系のzm軸方向の距離Lbbzとで、車体座標系の原点とアンテナ21との位置関係が決まる。
また、ブームピン13とアンテナ22との間の車体座標系のxm軸方向の距離Lbdxと、ブームピン13とアンテナ22との間の車体座標系のym軸方向の距離Lbdyと、ブームピン13とアンテナ22との間の車体座標系のzm軸方向の距離Lbdzとで、車体座標系の原点とアンテナ22との位置関係が決まる。
【0044】
(車体座標系上の刃先位置算出S11)
演算部44は、車体座標系上のバケット8の刃先位置を算出する(ステップS11)。演算部44は、第1~第3ストロークセンサ16~18の検出結果から、上述したブーム6、アーム7、バケット8の現在の揺動角α、β、γを算出する。
演算部44は、ブーム6、アーム7、バケット8の揺動角α、β、γと、ブーム6、アーム7、バケット8の長さL1、L2、L3とを用いて、以下の数1の式により、車体座標系でのバケット8の刃先の座標(x、y、z)を演算する。
【0045】
【0046】
(警告情報の生成S12)
次に、演算部44は、監視装置60から出力される警告情報81の表示内容を生成する(S12)。例えば、監視装置60の近接センサが左方向に障害物があることを検出し、その検出情報を出力すると、演算部44は、警告情報81の表示内容(表示画像)として、左方向の矢印と、エクスクラメーションマークとを生成する。なお、警告情報81の表示内容(表示画像)は、警告情報の種類に応じて設定される。すなわち、オペレータの注意喚起が必要な場合にエクスクラメーションマークを生成する。そして、前記障害物の検出のように注意すべき方向を指示する必要がある場合に、その方向の矢印を生成する。また、油圧ポンプの吐出圧や、エンジン冷却水の水温の異常を警告する場合には、それらの警告対象を示すアイコンや文字などの画像を生成する。
【0047】
(警告情報の表示位置算出S13)
次に、演算部44は、バケット8の刃先の現在位置に合わせて警告情報81の表示位置を算出する(ステップS13)。コンバイナ42の表示面における警告情報81の表示位置は、バケット8や操作支援情報82に重ならない位置であり、かつ、バケット8に近接した位置に設定される。また、警告情報81の内容に合わせて表示位置を調整する。このため、
図7に示すように、左方向の障害物を警告する警告情報81は、バケット8の斜め左上方位置などに表示される。右方向の障害物を警告する警告情報であれば、バケット8の斜め右上方位置などに表示される。
また、虚像として表示される警告情報81のオペレータから見て奥行き方向になる座標(x)に相当する奥行き表示位置は、バケット8の刃先のコンバイナ42からの距離つまりオペレータの視点からの距離に合わせて設定される。
【0048】
(警告情報の表示S14)
次に、演算部44は、レンズ光学系41および実像表示部40を制御し、ステップS13で算出した表示位置に、警告情報81を表示する(ステップS14)。以上のS11~S14の処理により、警告情報表示処理S2が終了する。
【0049】
[4-2.施工設計面情報表示処理S4]
次に、ステップS4の施工設計面情報84の表示処理について、
図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
(グローバル座標系の車体の三次元位置情報算出S21)
施工設計面情報84を表示する場合、演算部44は、グローバル座標系上の車体1の三次元位置情報を算出する(ステップS21)。
具体的に、演算部44は、3次元位置センサ23および傾斜角センサ24の検出値を用いて、グローバル座標系上の車体1の三次元位置情報(緯度、経度、高度、方位角、ロール角、ピッチ角、ヨー角)を算出する(ステップS21)。
すなわち、3次元位置センサ23は、アンテナ21、22のグローバル座標上の位置(緯度、経度、高度)を検出する。そして、演算部44は、前述した車体座標系の原点と各アンテナ21、22との位置関係と、3次元位置センサ23が検出したグローバル座標系におけるアンテナ21,22の座標から、車体座標系の原点位置のグローバル座標(A,B,C)を演算する。
さらに、アンテナ21,22は、車体座標系のym軸に沿って配置されるため、演算部44は、グローバル座標系におけるアンテナ21,22の座標から車体1(旋回体3)の向き(方位角)を演算する。
【0051】
(車体座標系上の刃先位置算出S22)
次に、演算部44は、車体座標系上のバケット8の刃先の位置を算出する(ステップS22)。この車体座標系上のバケット8の刃先位置の具体的な算出方法は、前記警告情報81の表示処理におけるステップS11と同じであるため、説明を省略する。
【0052】
(グローバル座標系上の刃先位置算出S23)
次に、演算部44は、グローバル座標系上のバケット8の刃先位置を算出する(ステップS23)。演算部44は、数1から求められた車体座標系でのバケット8の刃先の座標(x、y、z)を、以下の数2の式により、グローバル座標系での座標(X,Y,Z)に変換する。
【0053】
【0054】
ただし、ω,φ,κは以下の数3で表される。
【0055】
【0056】
ここで、上述したとおり、θ1はロール角である。θ2はピッチ角である。θ3はヨー角である。
【0057】
(刃先の軌跡情報記憶S24)
次に、演算部44は、ステップS23で算出された刃先位置を記憶部43に記憶することで、刃先の軌跡情報を記憶する(ステップS24)。
この際、施工後の出来形を計算・表示するためには、バケット8の刃先をバケット8の刃先の両端により形成する線として捉え、その軌跡を計算する必要がある。このため、
図12に示すように、車体1と施工面200が並行でない時には、バケット8の刃先の中で地形に最も近い点と地形との距離d1に加え、グローバル座標系における車体1の傾斜角度と施工面200の傾斜角度の情報を用いてバケット8の刃先の線201が移動した時の軌跡情報を取得する。
【0058】
(目標地形に対する作業進度情報算出S25)
次に、演算部44は、記憶部43に記憶したバケット8の刃先の軌跡情報と、記憶部43に記憶されている目標地形情報とに基づいて、目標地形に対する作業進度情報を算出する(ステップS25)。
【0059】
(施工設計面情報生成&表示位置算出S26)
次に、演算部44は、前記目標地形情報および作業進度情報に基づいて施工設計面情報84の表示内容を生成する(ステップS26)。また、車体1の三次元位置情報に基づいて、施工設計面情報84を表示する位置を算出する(ステップS26)。
【0060】
(施工設計面情報表示S27)
そして、演算部44は、レンズ光学系41および実像表示部40を制御し、ステップS26で算出した表示位置に、施工設計面情報84を表示する(ステップS27)。
【0061】
このため、オペレータは、作業対象の地面に、施工設計面情報84を重ねて視認することができる。例えば、施工作業前であれば、施工設計面情報84は、作業目標の地形が表示されるため、オペレータはこれからの作業すべき目標面を容易に把握できる。
また、作業中であれば、施工設計面情報84は作業進度情報も含んでいるため、オペレータは、実際に視認できるバケット8の刃先位置と、掘削等の作業の目標面の位置関係を視点および焦点を変更することなく容易に把握でき、かつ、目標通りに施工できているかも容易に確認できる。
【0062】
なお、施工設計面情報84と、警告情報81や操作支援情報82とを同時に表示する場合、表示コントローラ39は、警告情報81や操作支援情報82の奥行き表示位置が、バケット8の位置となることを優先してレンズ光学系41を制御する。すなわち、警告情報81や操作支援情報82の奥行き表示位置と、施工設計面情報84の奥行き表示位置が異なる場合、レンズ光学系41は、警告情報81や操作支援情報82の奥行き表示位置を設定するために制御される。
また、バケット8の刃先位置に合わせて表示位置を変更する作業支援情報である警告情報81や操作支援情報82を表示する実像表示部40およびレンズ光学系41と、バケット8の刃先位置に合わせて表示位置を変更しない情報である車体情報83や施工設計面情報84を表示する実像表示部40およびレンズ光学系41を別々に設けてもよい。
【0063】
[4-3.操作支援情報表示処理S6]
次に、ステップS6の施工設計面情報84を利用した操作支援情報82の表示処理について
図13のフローチャートに基づいて説明する。
操作支援情報82を表示する場合も、演算部44は、グローバル座標系上の車体1の三次元位置情報を算出する(ステップS31)。次に、演算部44は、車体座標系上の刃先の位置を算出する(ステップS32)。次に、演算部44は、グローバル座標上の刃先位置を算出する(ステップS33)。これらのステップS31~S33の具体的な算出方法は、前記施工設計面情報84の表示処理におけるステップS21~S23と同じであるため、説明を省略する。なお、ステップS6の操作支援情報82の表示処理が、ステップS4の施工設計面情報84の表示処理に続いて行われた場合、ステップS31~S33を省略し、ステップS21~S23で算出したデータを利用してもよい。
【0064】
次に、演算部44は、上記のように演算したバケット8の刃先のグローバル座標での現在位置と、記憶部43に記憶されている目標地形情報とに基づいて、目標地点への到達に必要な刃先の移動量情報を算出する(ステップS34)。
次に、演算部44は、ステップS34で算出した移動量情報に基づいて操作支援情報82の表示内容を生成し、バケット8の刃先の現在位置に合わせて表示位置を算出する(ステップS35)。コンバイナ42の表示面における操作支援情報82の表示位置は、バケット8や警告情報81に重ならない位置であり、かつ、バケット8に近接した位置に設定される。このため、
図6,7では、バケット8の側方位置に表示される。また、虚像として表示される操作支援情報82のオペレータから見て奥行き方向となる座標(x)に相当する奥行き表示位置は、バケット8の刃先の位置に合わせて設定される。
【0065】
次に、演算部44は、レンズ光学系41および実像表示部40を制御し、ステップS35で算出した表示位置に、操作支援情報82を表示する(ステップS36)。
【0066】
このような本実施形態によれば、表示装置38を、実像表示部40、レンズ光学系41、コンバイナ42を備えて構成したので、作業支援情報を運転室4の前方景色に重ねて表示できる。このため、オペレータは、作業機2のバケット8および作業支援情報である警告情報81や操作支援情報82を視認する場合に、視点および焦点の移動を少なくでき、作業効率を向上できる。
表示コントローラ39は、バケット8の位置情報に基づいて、警告情報81、操作支援情報82のコンバイナ42の表面に沿った表示位置および奥行き表示位置を制御する。このため、オペレータが知覚する警告情報81や操作支援情報82の投影像を、バケット8の周囲に表示でき、オペレータの視線の動きと焦点調節とを最小限に抑えることができる。このため、オペレータがバケット8および作業支援情報を認識する場合の負荷を低減できる。
コンバイナ42は、フロントグラス4Aの大きさに合わせて設定できるため、従来のモニタ装置に比べて各種情報の表示領域を大きくできる。このため、従来は、モニタ装置の画面を切り替えなければ表示できない複数の情報を、コンバイナ42の領域内に継ぎ目なく表示できる。さらに、情報化による様々な作業支援情報を提供する場合に、運転室4内のモニタ装置を増やす必要がなく、運転室4内のスペースを確保でき、オペレータの作業性や視界性を維持できる。
【0067】
[実施形態の変形]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
上記の実施形態では、第1~第3ストロークセンサ16~18によって、ブーム6、アーム7、バケット8の傾斜角を検出しているが、傾斜角の検出手段はこれらに限られない。例えば、ブーム6、アーム7、バケット8の傾斜角を検出する角度センサが備えられてもよい。
【0068】
上記の実施形態では、バケット8を有しているが、バケット8はこれに限られず、チルトバケットであってもよい。チルトバケットとは、バケットチルトシリンダを備え、バケットが左右にチルト傾斜することで油圧ショベルが傾斜地にあっても、斜面、平地を自由な形に成形、整地をすることができ、低板プレートによる転圧作業もできるバケットである。
また、作業機2は、バケット8を有するものに限らない。例えば、作業機2としては、油圧ブレーカ等のバケット8以外のアタッチメントを装着したものでもよい。
さらに、建設機械としては、油圧ショベル100に限らず、ブルドーザ、ホイールローダー、モーターグレーダー等の作業機を有する各種の建設機械でもよい。
【0069】
実像表示部40に表示される案内画面の内容は、上記のものに限られず、アタッチメントの種類や建設機械の種類などに応じて設定すればよい。また、表示コントローラ39の機能の一部、あるいは、全てが、建設機械の外部の基地局に配置されたコンピュータによって実行されて配信されてもよい。
操作支援情報82としては、目標地点までの移動量情報に限らない。例えば、掘削後にバケット8を上方に移動する場合は、バケット8の上方への移動量を操作支援情報82として表示してもよい。操作支援情報82の内容は、作業機の種類や、オペレータの操作に応じて設定すればよい。
【0070】
建設機械としては、アンテナ21、22等のグローバル座標系上の現在位置を検出する機構を備えないものでもよい。この場合は、車体座標系上での情報に基づいて警告情報81などを作成して表示すればよい。
また、作業機2の位置に合わせて表示する作業支援情報の奥行き表示位置は、レンズ光学系41のレンズを移動したり、実像表示部40を移動するものに限定されない。例えば、作業支援情報の表示画像を処理して、オペレータが知覚する投影像の奥行き表示位置を調整してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、油圧ショベルに利用できる他、ホイールローダー、ブルドーザ、モーターグレーダーなど、オペレータが作業機を視認できる各種の建設機械にも利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…車体、3…旋回体、4…運転室、4A…フロントグラス、5…走行装置、6…ブーム、7…アーム、8…バケット、16…第1ストロークセンサ、17…第2ストロークセンサ、18…第3ストロークセンサ、19…位置検出部、21、22…アンテナ、23…3次元位置センサ、24…傾斜角センサ、25…操作装置、26…作業機コントローラ、27…作業機制御装置、28…表示システム、38…表示装置、39…表示コントローラ、40…実像表示部、41…レンズ光学系、42…コンバイナ、43…記憶部、44…演算部、60…監視装置、70…虚像、81…警告情報、82…操作支援情報、83…車体情報、84…施工設計面情報、100…油圧ショベル