(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】木質系化粧材
(51)【国際特許分類】
B27D 5/00 20060101AFI20221101BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B27D5/00
B27M3/00 M
(21)【出願番号】P 2021140116
(22)【出願日】2021-08-30
(62)【分割の表示】P 2020101218の分割
【原出願日】2016-03-30
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000413
【氏名又は名称】永大産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡子
(72)【発明者】
【氏名】山王 玲子
(72)【発明者】
【氏名】大谷 優
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347149(JP,A)
【文献】特開2008-93910(JP,A)
【文献】特開昭48-87004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/00 - 5/00
B27M 1/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系基材の木材表面に付着したインク粒子により、前記木材表面に模様が形成された木質系化粧材であって、
前記木質系基材の前記木材表面は、木材の導管または仮導管を形成する管壁面を有しており、
前記木質系基材の表面は、文字の形状に応じた第1領域と、前記第1領域以外の領域に相当する第2領域を有しており、
前記第2領域には、前記管壁面により形成された凹空間を残し、かつ、前記導管また
は前記仮導管の表面の一部が露出するように、前記管壁面を含む前記木材表面に、
インク粒子により木目模様が形成されるように、前記導管または前記仮導管の直径よりも小さい直径の
前記インク粒子が吹き付けられており
、
前記第1領域には、前記管壁面により形成された凹空間に樹脂を充填するように樹脂皮膜が被覆されており、前記樹脂皮膜は、平滑な表面が形成されるように、透明の樹脂製インク粒子で前記凹空間を埋めた透明な皮膜であり、前記樹脂皮膜の表面には、前記インク粒子により前記文字となる模様が印刷されていることを特徴とする木質系化粧材。
【請求項2】
前記導管または前記仮導管のそれぞれの前記管壁面には、複数色のインク粒子が付着していることを特徴とする請求項1に記載の木質系化粧材。
【請求項3】
前記管壁面により形成された凹空間と、前記木質系基材の厚さ方向に隣接する導管または仮導管とが、連通し、前記凹空間と連通する前記導管または前記仮導管にも、前記インク粒子が吹き付けられていることを特徴とする請求項1
または2に記載の木質系化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系基材の木材表面に付着したインク粒子により、木材表面に模様が形成された木質系化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木材表面の意匠性を高めるために、その表面に木目模様を印刷した樹脂シートを貼着した木質系化粧材が利用されている。しかしながら、樹脂シートの表面には、同じ木目模様が繰り返し印刷されるばかりでなく、木質系化粧材の表面には、本来の木質感が得られない。
【0003】
このような点を鑑みて、例えば、特許文献1には、木材の一面全面に、本杢調の外観など意匠性を有する木目模様の印刷層が形成されており、印刷層は可視光領域における透過率が70%以上の紫外線硬化型インクからなる木質系化粧材が提案されている。また、特許文献2には、早生樹を用いた木材表面に、紫外線硬化型インクを使って、木材表面が見えるように木目模様を印刷した木質系化粧材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-111069号公報
【文献】特開2006-347149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す木質系化粧材では、可視光を透過させるインク粒子で木材の全面を均一に覆うように、木目模様の印刷層が形成されているので、木質系化粧材の表面は略平坦な面となる。この結果、木質系化粧材の表面を、例えば斜め方向から見た場合には、木質系化粧材の表面に均一なテリが生じるように見え、木材本来の木質感を得ることができない。
【0006】
一方、特許文献2に示す木質系化粧材では、印刷の下地となる木材表面を露出するように木目模様を印刷しているが、この場合であっても、インク粒子は、下地である木材表面の凹部を略埋めるように付着しているため、特許文献1のものと同様に、木材本来の木質感を得ることができない。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木材表面に、模様を形成するインク粒子を付着させたとしても、木材本来の木質感を得ることができる木質系化粧材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、木材には、木材由来の導管または仮導管が形成され、切り出された木材表面には、凹空間を形成するように導管または仮導管の管壁面が露出していることに着眼した。この着眼点に基づいて、管壁面により形成された凹空間を残すように、インク粒子で印刷することで、木材表面に、導管または仮導管に起因した細かな陰影が形成され、この表面の細かな陰影が、木材本来の木質感に影響を与えるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、このような発明者らの知見に基づくものであり、本発明に係る木質系化粧材の製造方法は、木質系基材の木材表面に付着したインク粒子により、前記木材表面に模様が形成された木質系化粧材の製造方法であって、前記木質系基材として、前記木材表面に、木材の導管または仮導管を形成する管壁面が露出した木質系基材を準備する工程と、前記管壁面により形成された凹空間を残すように、前記管壁面を含む前記木材表面に、前記導管または仮導管の直径よりも直径の小さいインク粒子を、インクジェット印刷により吹き付けることにより、前記木材表面に前記模様を印刷する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、模様を印刷する工程において、管壁面により形成された凹空間を残すように、管壁面を含む木材表面に、導管または仮導管の直径よりも直径の小さいインク粒子を、インクジェット印刷により吹き付ける。これにより、管壁面にインク粒子が付着しても、木材表面に凹空間が残るので、露出した管壁面の開口縁部がぼやけ難い。このような結果、木材表面に模様が印刷されたとしても、木質系化粧材の表面に、木材由来の導管または仮導管の陰影を与えることができ、木材本来の木質感を与えることができる。
【0011】
ここで、本発明でいう「木材表面」とは、広葉樹または針葉樹などの天然の木材を切り出す際に、この木材に由来した導管または仮導管を形成する管壁面が露出した表面であって、凹空間を形成するように管壁面が露出した表面のことをいう。「管壁面により形成された凹空間を残す」とは、導管または仮導管と直交する断面において、凹空間をインク粒子で完全に埋めてしまわないことをいう。
【0012】
より好ましい態様としては、前記模様を印刷する工程において、前記管壁面に、複数色のインク粒子を付着させる。この態様によれば、管壁面により形成された凹空間を完全に埋めないように、複数色の微細なインク粒子が付着するので、木材表面の質感を損なうことなく、より繊細な模様を、木質化粧材の表面に付与することができる。
【0013】
さらに好ましい態様としては、前記木質系基材を準備する工程後に、前記模様を印刷する工程の前に、前記木質系基材の前記木材表面を着色する。この態様によれば、模様を印刷する工程の前に、木質系基材の木材表面を着色するので、この木材表面の木質繊維に着色剤が含浸された着色層が形成される。これにより、木質系基材の表面に形成された着色層に付着するインク粒子は、木質系基材の木材表面に滲み難いため、印刷された模様を際立たせることができる。また、木質系基材の木材表面を着色剤に含浸すれば、印刷工程において、木材表面の全面を着色したい色にインクジェットで印刷する必要がないので、迅速かつ安価に所望の下地色の木質系化粧材を得ることができる。
【0014】
さらに好ましい態様としては、前記模様を印刷する工程の前に、前記木材表面の所定の領域を、前記管壁面により形成された凹空間に樹脂を充填するように樹脂皮膜で覆い、前記模様を印刷する工程において、前記木材表面とともに、前記樹脂皮膜の表面に、前記模様を印刷する。
【0015】
この態様によれば、木材表面に模様を印刷する前に、所定の領域を樹脂皮膜で覆い、その後、木材表面と樹脂皮膜の表面に模様を印刷するので、所定の領域以外の印刷された表面に、木材本来の木質感を得ることができる。一方、所定の領域を覆う樹脂皮膜の表面は、凹空間が埋まった平滑な面であるので、樹脂皮膜の表面に印刷された模様は、平滑な模様に見え、木質系化粧材の表面から浮き上がったような模様に見える。なお、ここで、この態様の「前記模様を印刷する工程の前」とは、木質系基材を準備する工程後、上述した木材を着色する工程の前であっても、木材を着色する工程の後であってもよい。
【0016】
さらに好ましい態様としては、前記木質系基材を準備する工程において、前記露出した管壁面を削る。この態様によれば、管壁面を棒たわし(うずくり)等で削ることにより、管壁面の縁部も削り、凹空間を広げかつ深くすることができる。これにより、管壁面により形成された凹空間を際立たせることができ、インク粒子が付着した木質系化粧材の表面の木質感をさらに高めることができる。さらに、凹空間と、木質系基材の厚さ方向に隣接する導管または仮導管とを、連通させることも可能であり、これにより、木材由来の導管または仮導管の模様をより一層際立たせることができる。
【0017】
本明細書では、上述した知見に基づいた発明として、木質系化粧材を開示する。本発明に係る木質化粧材は、木質系基材の木材表面に付着したインク粒子により、前記木材表面に模様が形成された木質系化粧材であって、前記木質系基材の前記木材表面は、木材の導管または仮導管を形成する管壁面を有しており、前記管壁面により形成された凹空間を残すように、前記管壁面を含む前記木材表面にインク粒子が付着していることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、木材表面に露出した管壁面により形成された凹空間を残すように、木材表面に、インク粒子が付着しているので、露出した管壁面の開口縁部がぼやけ難い。このような結果、木材表面に模様が印刷されたとしても、インク粒子が付着した木質系化粧材の表面に、木材の導管または仮導管由来の陰影を与えることができ、木材本来の木質感を与えることができる。
【0019】
より好ましい態様としては、前記管壁面には、複数色のインク粒子が付着している。管壁面により形成された凹空間を埋めないように、複数色のインク粒子が付着しているので、木材表面の質感を損なうことなく、より繊細な模様を、木材表面に付与することができる。
【0020】
より好ましい態様としては、前記木質系基材の前記木材表面には、着色層が形成されており、前記着色層の表面に前記インク粒子が付着している。ここでいう着色層は、この木材表面に含浸された状態の層のことをいう。
【0021】
この態様によれば、着色層の表面に、インク粒子が付着するので、付着したインク粒子により形成された模様を際立たせることができる。特に、このような木質系化粧材を製造する際には、インク粒子を付着させる前に、着色層を予め形成するので、インク粒子が、着色層に付着する。これにより、インク粒子が木質系基材に滲み難いため、印刷された模様をさらに際立たせることができる。
【0022】
さらに好ましい態様としては、前記木材表面の所定の領域には、前記管壁面により形成された凹空間に樹脂を充填するように樹脂皮膜が被覆されており、前記木材表面とともに前記樹脂皮膜の表面に、前記インク粒子が付着している。
【0023】
この態様によれば、木材表面のうち、所定の領域では、管壁面に由来の凹空間が埋まった樹脂皮膜の平滑な表面が形成され、この表面に、模様の一部を形成するインク粒子が付着している。一方、所定の領域以外では、管壁面に由来の凹空間が形成され、この凹空間を埋めないようにインク粒子が付着している。このような結果、樹脂皮膜の表面の模様は、平滑な模様に見え、その他の木材表面は木質感を有するので、樹脂皮膜の表面の模様は、木質系化粧材の表面から浮き上がったような模様に見える。
【0024】
より好ましい態様としては、前記管壁面により形成された凹空間と、前記木質系基材の厚さ方向に隣接する導管または仮導管とが、連通している。この態様によれば、前記凹空間と、木質系基材の厚さ方向に隣接する導管または仮導管とを連通させることにより、木材由来の導管または仮導管をより一層際立たせることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、木材表面に、模様を形成するインク粒子を付着させたとしても、木材本来の木質感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】(a)は、第1実施形態に係る木質系基材と印刷される木目模様とを示した模式的斜視図であり、(b)は、(a)に示す木質系化粧材の模式的斜視図である。
【
図2】
図1(b)に示す木質系化粧材の表面の模式的拡大断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る木質系化粧材の製造方法において、印刷工程を説明するための模式的拡大断面図である。
【
図4】(a)は、第2実施形態に係る木質系化粧材の製造方法において、着色工程を説明するための模式的拡大断面図であり、(b)は、(a)に示す着色工程後に、行う印刷工程を説明するための模式的拡大断面図である。
【
図5】(a)は、第3実施形態に係る木質系基材と印刷される模様を示した模式的斜視図であり、(b)は、(a)に示す木質系化粧材の模式的斜視図である。
【
図6】(a)は、第1領域における木質系化粧材の表面の模式的拡大断面図であり、(b)は、第2領域における木質系化粧材の表面の模式的拡大断面図である。
【
図7】第4実施形態に係る木質系基材に前処理工程を行った木質系化粧材の模式的拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照して、第1~第4実施形態に係る木質系化粧材1とその製造方法について説明する。
〔第1実施形態〕
1.木目模様3が印刷される木質系基材2について
図1(a)は、第1実施形態に係る木質系基材2と印刷される木目模様3とを示した模式的斜視図であり、(b)は、(a)に示す木質系化粧材1の模式的斜視図である。
図2は、
図1(b)に示す木質系化粧材1の表面の模式的拡大断面図である。
【0028】
本実施形態に係る木質系化粧材1は、
図1に示すように、木質系基材2の天然木材からなる木材表面2aに、後述する木目模様3を印刷したものである。なお、本実施形態では、
図1に示す如く、木質系基材の一例として床材を例示しているが、表面に天然の木目模様が形成されているのであれば、壁材、階段の踏板、または天井材など、特に限定されるものではない。
【0029】
本実施形態では、
図1(a)に示すように、木質系基材2は、合板からなる基材本体21の表面に、複数(具体的は4枚)の突板(木片)23が貼着されている。突板23の表面23aは、天然の木材表面であり、隣接する突板23,23同士には継ぎ目23bが形成されている。
【0030】
木質系基材2の木材表面2aの周縁は面取り部23cが形成されており、具体的には、面取り部23cは、突板23の表面23aから、基材本体21の側面の一部に亘って形成されている。木質系基材2の側面の周縁には、雄実部22aと雌実部22bとが形成されている。木質系基材2の雄実部22aとこれに隣接する木質系基材2の雌実部22bを係合することにより、木質系基材2,2(木質系化粧材1,1)同士を実接合することができる。
【0031】
ここで、本実施形態では、基材本体21の一例として合板を挙げたが、例えば、パーティクルボード(PB)、木質繊維板(MDF・インシュレーションボード・ハードボードなど)、配向性ストランドボード(OSB)、LVL、集成材、または無垢材などを挙げることができる。上述した突板23等の木材を、その表面に貼着することができ、木質系基材2(木質系化粧材1)の剛性および強度を確保することができるのであれば、その材質および厚さは特に限定されるものではない。
【0032】
さらに、基材本体21は、合板等の木質材料を例示したが、突板23等の天然の木材(道管または仮導管の一部有した木材)を表面に貼着し、木質系基材2を、木材からなる木材表面2aにすることができるのであれば、その材質は限定されるものではない。したがって、基材本体21が、樹脂と木材を混合した複合型のベース部材であってもよく、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリビニルアルコールなど)の樹脂製の基材本体であってもよい。さらに、基材本体21が、ロックウールボードなどの無機繊維、または、炭素繊維からなる基材本体であってもよい。
【0033】
突板23は、表面23aに、突板23(木材)に由来した天然の木目模様が形成された単板であり、木質系基材2の表面を化粧する表面化粧材として用いられる単板である。突板23の厚さは、0.1~1.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0034】
突板23の表面23aである木質系基材2の木材表面2aには、
図2に示すように、導管または仮導管を形成する管壁面24が露出しており、管壁面24により凹空間25が形成されている。より具体的には、管壁面24は、木材表面2aに沿って溝状に凹空間25を形成しており、本実施形態では、印刷後の木質系化粧材1の表面の木質感を高めるため、木材表面2aは、板目または柾目であることが好ましい。
【0035】
ここで、突板23の材料(木材表面2aを構成する材料)としては、仮導管が形成されたスギ、ヒノキ、エゾマツ、ネコズ、または、カラマツなどの針葉樹などでもあってよい。しかしながらが、一般的に、針葉樹の仮導管の直径よりも、広葉樹の導管の直径の方が大きいことから、広葉樹であることが好ましい。これにより、後述するインクジェット印刷を行っても、導管に由来した木材表面に特有の陰影を、より際立たせることができる。
【0036】
突板23の材料(木材表面2aを構成する材料)としては、ビーチ、オーク、メイプル、ケヤキ、ウォールナット、シナ、ナラ、ヤチダモ、キリ、マホガニー、チーク、ローズウッド、トチ、クロガキ、シオジ、ニレ、カバ、クリ、レッドラワン、ブナ、ヤマザクラ、タンギール、またはコクタンなどの広葉樹が好ましい。
【0037】
特に、本実施形態では、後述する印刷工程において、木質系基材2の木材表面2aに吹き付けるインク粒子31の直径D2よりも、その木材の導管の直径D1が大きいことが条件である。したがって、上に例示した広葉樹の中でも、導管の直径が比較的に大きいクリ、ミズナラなどのオーク、チーク、または、レッドラワンなどが好ましい。
【0038】
ここで、例えば、突板23の代わりに、基材本体21の表面を化粧する表面化粧材として上述した材料からなる挽板を用いてもよい。その場合には、挽板の厚さは、1mm~3mmの範囲にあることが好ましい。
【0039】
突板23を基材本体21に貼着するにあたっては、基材本体21の表面または突板23の裏面の少なくとも一方に粘着剤を塗布し、接着剤を硬化させることにより、基材本体21の表面に突板23を接着する。上述した雄実部22aと雌実部22bの実加工および木材表面2aの周縁の面取り加工は、これらが接着された後、行われる。
【0040】
なお、木質系基材2の裏面には、防音用の複数の溝が形成されていてもよく、発泡ゴムシート、発泡樹脂シートなどの衝撃緩衝材が貼着されていてもよく、紙、不織布、生地(フェルトなど)の裏打ち材などが、貼着されていてもよい。
【0041】
2.木質系化粧材1について
図1(a)に示す木質系基材2の木材表面2aに、木目模様(印刷パターン)3を印刷し、
図1(b)に示す木質系化粧材1を得ることができる。具体的には、
図2に示すように、木質系基材2の木材表面2aの管壁面24により形成された凹空間25を残すように、管壁面24を含む木材表面2aに、(紫外線硬化)樹脂製のインク粒子31が付着し、このインク粒子31により、木目模様3が形成されている。
【0042】
このように、木材表面2aの管壁面24により形成された凹空間25を残すように、木材表面2aに、インク粒子31が付着しているので、露出した管壁面24の開口縁部がぼやけ難い。このような結果、木材表面2aに模様が印刷されたとしても、インク粒子31が付着した木質系基材2の木材表面2a(すなわち、木質系化粧材1の表面1a)に、木材の導管または仮導管に由来の陰影を与えることができ、木材本来の木質感を与えることができる。
【0043】
インク粒子31は、単色の粒子であってもよいが、本実施形態では、後述するように、イエロー、マゼンダ、シアン、およびブラックの4色の粒子で構成され、管壁面24を含む木質系基材2の木材表面2aには、複数色のインク粒子31が付着している。これにより、管壁面24により形成された凹空間25を埋めないように、複数色のインク粒子31が付着しているので、木材表面2aの質感を損なうことなく、より繊細な模様を、木質系化粧材1の表面1aに付与することができる。
【0044】
3.木質系化粧材1の製造方法について
以下に、本実施形態に係る木質系化粧材1の製造方法を説明する。
図3は、第1実施形態に係る木質系化粧材1の製造方法において、印刷工程を説明するための模式的拡大断面図である。
【0045】
まず、木目模様3が印刷される木質系基材2を準備する。具体的には、上述した如く、突板23の表面23aである木質系基材2の木材表面2aには、木材の導管を形成する管壁面24が露出しており、露出した管壁面24により凹空間25が形成されている。
【0046】
次に、木質系基材2の木材表面2aに、木目模様3を印刷する。木目模様3の印刷はインクジェットプリンタ(図示せず)を用いて行われる。本実施形態では、インクジェットプリンタのインクは、例えばイエロー、マゼンダ、シアン、およびブラックの4色で構成され、これらのインクを用いて、
図3に示すように、突板23の表面23aに木目模様3を印刷する。
【0047】
インクジェットプリンタは、一般的な印刷に用いられるインクを収容し、上述した画像に基づいて印刷すべき表面模様3に合わせて各インクを個別に噴射するヘッドと、木質系基材2を送るフィーダと、を少なくとも備えている。
【0048】
このようなインクジェットプリンタを用いて、各インクを木目模様3に応じて、木質系基材2の木材表面2aに対して略直交した方向からヘッドで噴射しながら、フィーダで木質系基材2を送り、木質系基材2の木材表面2a(具体的には突板23の表面23a)、雄実部22aの表面等に木目模様3を印刷する。本実施形態では、木質系化粧材1の表面1aに対して平面視した状態で、突板23、面取り部23c、および雄実部22aの上表面に印刷された表面模様3が、連続した1つの木目模様に見えるように、木質系基材2に木目模様3を印刷する。これにより、印刷された木質系化粧材1は、1枚の無垢材のごとく見える。
【0049】
図3に示すように、本実施形態では、管壁面24により形成された凹空間25を残すように、管壁面24を含む木材表面2aに木目模様3を印刷する。具体的には、導管の直径D1よりも小さい直径D2を有した、未硬化の紫外線硬化樹脂製のインク粒子31を、インクジェット印刷により吹き付ける。これにより、インク粒子31で凹空間25を完全に埋めることなく、木材表面2aに木質感を残しつつ、木目模様3を印刷することができる。
【0050】
ここで、導管の直径D1とは、導管に対して直交する断面における導管に内接する直径(最小の直径)のことである。一方、インク粒子31の直径D2とは、ヘッド(のノズル)から噴射されるインク粒子を球体と仮定したときに、噴射されるインク粒子の量から算出される球体の直径である。
【0051】
例えば、突板の木材にクリを選定した場合には、その導管の直径は80~400μmである。突板の木材にブナを選定した場合には、その導管の直径は20~110μmである。突板の木材にミズナラを選定した場合には、その導管の直径は100~300μmである。突板の木材にヤマザクラを選定した場合には、その導管の直径は15~90μmである。突板の木材にチークを選定した場合には、その導管の直径は240~450μmである。突板の木材にレッドラワンを選定した場合には、その導管の直径は210~480μmである。なお、突板の木材に、針葉樹であるスギを選定した場合には、その仮導管の直径は、10~50μmである。突板の木材に、ヒノキを選定した場合には、その仮導管の直径は、5~50μmである。
【0052】
例えば、これらの木材の中でも導管の直径が比較的に大きいクリ、ミズナラなどのオーク、チーク、または、レッドラワンなどを選定した場合には、導管の直径D1は、80~480μmの範囲に収まる。このような場合、例えば、インク粒子31の直径D2は、好ましくは、20~45μmであり、より好ましくは、20~30μmである。
【0053】
例えば、吹き付けるインク粒子31の直径D1が、20~45μmである場合には、インクジェットノズルからのインクの吐出量が、4~50plであればよい。また、吹き付けるインク粒子31の直径D1が、20~30μmである場合には、インクジェットノズルからのインクの吐出量が、4~14plであればよい。
【0054】
ここで、表面模様3の印刷用のインクに紫外線硬化型のインクを用いた場合には、上述したインクジェットプリンタで紫外線硬化型のインクを表面模様3となるように木質系基材2の木材表面2aに塗布後、その表面に紫外線を照射させ、インクを硬化させる。
【0055】
紫外線硬化型のインクとしては、例えば、一般的に知れた反応性オリゴマー、反応性モノマーおよび光重合開始剤からなる紫外線硬化型樹脂と、着色剤とから構成されたインクなどを挙げることができる。本実施形態では、印刷用のインクに、紫外線硬化型のインクを用いたので、インク34が突板23の表面23aに殆ど含浸されず、鮮明な木目模様を得ることができる。
【0056】
なお、本実施形態では、印刷用のインクに、紫外線硬化型のインクを用いたが、水性インクまたは油性インクを用いてもよい。このようなインクを用いた場合には、インク粒子31が突板23の表面23aに含浸される。これにより、木質系化粧材1は、突板23の表面23aの天然の木目模様に応じて形成された突板23の表面23aの凹凸形状を鮮明に残すことができ、表面模様3とともに突板23の表面23aに形成された天然の木目模様を視認することができる。
【0057】
本実施形態では、上述したごとく、管壁面24により形成された凹空間25を残すように、管壁面24を含む木材表面2aに、導管の直径D2よりも直径の小さいインク粒子31を、インクジェット印刷により吹き付ける。これにより、管壁面24にインク粒子31が付着しても、木材表面2aには凹空間25が残るので、管壁面24の開口縁部がぼやけ難い。このような結果、木材表面2aに木目模様3が印刷されたとしても、インク粒子31が付着した木質系化粧材1の表面1aに、木材由来の導管の陰影を与えることができ、木材本来の木質感を与えることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、模様として、インク粒子31を付着させることにより、木目模様3を形成した。さらに、この木目模様に対して、例えば、従来、木材表面模様としては良好とされない、節、割れ、やに、杢、入り皮、金筋、シュガー筋、偽芯、アテ、色ムラ、または、てりの模様など、木材固有の模様を含めてもよく、木材を切断加工したときに形成されるノコギリの傷跡(ラフソーン)の模様を印刷してもよい。
【0059】
このような木質系化粧材1によれば、木質系化粧材1の表面1aにおいて、突板23に由来した天然の木目模様とともに、この木目模様とは異なる木目模様3が見えるので、木質系化粧材1の表面1aに、その木目模様が形成されているかのように見える。
【0060】
〔第2実施形態〕
図4(a)は、第2実施形態に係る木質系化粧材1の製造方法において、着色工程を説明するための模式的拡大断面図であり、
図4(b)は、
図4(a)に示す着色工程後に、行う印刷工程を説明するための模式的拡大断面図である。第2実施形態に係る木質系化粧材1の製造方法が、第1実施形態のものと異なる点は、着色工程をさらに含む点である。したがって、他の工程は第1実施形態のものと同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0061】
本実施形態では、木質系基材2を準備する工程後、
図4(b)に示す木目模様を印刷する印刷工程の前に、
図4(a)に示すように、木質系基材2の木材表面2aを着色する。本実施形態では、木質系基材2の木材表面2aを着色するので、この木材表面の木質繊維に着色剤が含浸された着色層4が形成される。本実施形態では、木質系基材2の木材表面2aには、着色層4が含浸されているが、例えば、着色層4が、木質系基材2の木材表面2aに被覆されていてもよい。
【0062】
このように、木材表面2aに着色層4が形成されているので、本実施形態では、
図4(a)に示すように、印刷工程において、着色層4にインク粒子31が付着し、付着したインク粒子31は、木質系基材2の木材表面2aに滲み難い。このため、印刷された木目模様3を際立たせることができる。また、印刷工程において、木材表面2aの全面を着色したい色にインクジェットで印刷する必要がないので、迅速かつ安価に所望の下地色の木質系化粧材1を得ることができる。
【0063】
〔第3実施形態〕
図5(a)は、第3実施形態に係る木質系基材2と印刷される模様3Aを示した模式的斜視図であり、
図5(b)は、
図5(a)に示す木質系化粧材1の模式的斜視図である。
図6(a)は、第1領域2bにおける木質系化粧材1の表面の模式的拡大断面図であり、
図6(b)は、第2領域2cにおける木質系化粧材1の表面の模式的拡大断面図である。第3実施形態が、第1実施形態と相違する点は、樹脂皮膜6を設けた点と、印刷される模様3Aである。したがって、第1実施形態のものと同じ構成の詳細な説明を省略する。
【0064】
本実施形態では、
図5(a)および
図6(b)に示すように、文字「E」に相当する木材表面2aの第1領域2bには、管壁面24により形成された凹空間25に樹脂を充填するように樹脂皮膜6が被覆されている。樹脂皮膜6の表面6aには、インク粒子31により文字となる模様3aが印刷されている。一方、
図5(a)および
図6(b)に示すように、第2領域2cには、第1実施形態と同じく、凹空間25を残すように付着したインク粒子31により、木目模様3bが形成されている。
【0065】
図5(b)に示す木質系化粧材1を製造する際には、模様3Aを印刷する工程の前に、木材表面2aの第1領域2bを、管壁面24により形成された凹空間25に樹脂を充填するように樹脂皮膜6で覆う。樹脂皮膜6は、例えば、第2領域2cをマスキング後、第1領域2bに樹脂をコーティングすることにより得ることができる。この他にも、樹脂皮膜6は、例えば、インクジェット印刷により、第1領域2bに、管壁面24により形成された凹空間25を埋めるように、樹脂製のインク粒子を付着させることにより、得ることもできる。その後、樹脂皮膜の表面6aに、模様3aを印刷し、第2領域2cである木材表面に、第1実施形態と同じく、凹空間25を残すようにインク粒子31で模様3bを印刷する。
【0066】
本実施形態によれば、
図5(a)および
図6(a)に示すように、木材表面2aのうち、第1領域2bでは、導管に由来の凹空間25が埋まった樹脂皮膜6の平滑な表面6aが形成され、この表面6aに、模様3Aの一部である文字「E」の模様3aを形成するインク粒子31が付着している。一方、
図5(a)および
図6(b)に示すように、第2領域2cでは、導管に由来の凹空間25が形成され、凹空間25を埋めないようにインク粒子31が付着し、木目模様3bを形成している。
【0067】
このような結果、
図5(b)に示すように、樹脂皮膜6の表面6aの模様3aは、平滑な模様に見え、その他の木目模様3bは、木材表面2aの木質感を有するので、樹脂皮膜6の表面6aの模様3aは、木質系化粧材1の表面1aから浮き上がったような模様に見える。特に、樹脂皮膜6を透明色にすることにより、この効果をより一層発揮することができる。
【0068】
〔第4実施形態〕
図7は、第4実施形態に係る木質系基材2に前処理工程を行った木質系化粧材1の模式的拡大断面図である。第4実施形態が、第1実施形態と相違する点は、木質系基材2の表面に前処理工程を行った点である。したがって、第1実施形態のものと同じ構成については詳細な説明を省略する。
【0069】
本実施形態では、木質系基材2を準備する工程において、印刷工程の前処理工程として露出した管壁面24を削り、その後、第1実施形態と同様に印刷工程を行う。具体的には、前処理工程として木質系基材2の管壁面24を棒たわし(うずくり)等で削ることにより、凹空間25を広げかつ深くすることができる。
【0070】
これにより、
図7に示すように、管壁面24により形成された凹空間25を際立たせることができ、インク粒子31が付着した木質系化粧材1の表面1aの木質感をさらに高めることができる。さらに、凹空間25と、木質系基材2の厚さ方向に隣接する導管7とを、連通させることも可能であり、これにより、木材由来の導管の模様をより一層際立たせることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0072】
本実施形態では、木質系基材の木材表面に、木目模様を印刷したが、印刷する模様は木目模様に限定されるものではなく、例えば幾何学的な模様、文字、図形、その他、インク粒子を付着させることにより、木材表面に模様を付すことができるのであれば、これらの模様は特に限定されるものではない。
【0073】
本実施形態では、木質系基材の表面に突板を貼着することにより、木質系基材(木材)とした。しかしながら、木質系基材に合板の代わりに無垢材を用いた場合には、無垢材の表面に、木材に由来した天然の木目模様が形成されているので、突板を省略してもよい。
【0074】
本実施形態では、木質系基材の木質表面が、広葉樹の木質表面であり、導管が形成されていた。しかしながら、例えば、針葉樹の仮導管に由来の凹空間を残すように、インク粒子により模様を形成することができるのであれば、木質系基材の木質表面が、針葉樹の木質表面であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1:木質系化粧材、2:木質系基材、3:木目模様、3A:模様、4:着色層、6:樹脂皮膜、21:基材本体、22a:雄実部、22b:雌実部、23:突板、24:管壁面、25:凹空間、31:インク粒子