(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】還元剤、ガスの製造方法および変換効率増加方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/80 20060101AFI20221101BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20221101BHJP
B01J 23/825 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B01J23/80 M
C01B32/40
B01J23/825 M
(21)【出願番号】P 2021194132
(22)【出願日】2021-11-30
(62)【分割の表示】P 2021034850の分割
【原出願日】2021-03-04
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 理沙
(72)【発明者】
【氏名】飯島 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 昂嗣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 壮一郎
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230854(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0139351(US,A1)
【文献】BROWER, Jeremy C., et al.,Mesoporous Silica Supported Perovskite Oxides for Low Temperature Thermochemical CO2 Conversion,ChemCatChem,2020年,vol.12,p.6317-6328,DOI:10.1002/cctc.202001216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 32/40
JSTPlus/JST7580/JSTPlus(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の還元により炭素有価物を生成する還元剤であって、
複数の細孔を有し、安息角が45°以上である粒状の担体と、
該担体に担持され、酸素イオン伝導性を有する酸素キャリアとを含み、
前記担体の平均細孔径は、0.1nm以上であることを特徴とする還元剤。
【請求項2】
前記担体の平均粒径は、0.1~50μmである請求項1に記載の還元剤。
【請求項3】
前記担体の比表面積は、400m
2/g以上である請求項1または2に記載の還元剤。
【請求項4】
前記担体は、周期表の第2族~第4族、第12族および第13族に属する元素のうちの少なくとも1種を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項5】
前記担体は、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)のうちの少なくとも1種を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項6】
前記酸素キャリアは、周期表の第2族~第4族、第11族~第13族に属する元素のうちの少なくとも2種を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項7】
前記酸素キャリアは、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびインジウム(In)のうちの少なくとも1種を含有する請求項1~6のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項8】
前記担体の含有量は、当該還元剤100mol%に対して、50mol%以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項9】
当該還元剤は、前記二酸化炭素を含む原料ガスと接触させることにより、前記二酸化炭素を還元して、前記炭素有価物としての一酸化炭素を含む生成ガスを製造するのに使用される請求項1~8のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項10】
酸化された当該還元剤は、水素を含む還元ガスと接触させることで還元される請求項1~9のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項11】
当該還元剤は、前記二酸化炭素の還元反応と酸化された当該還元剤の還元反応と、別々の反応工程に使用される請求項1~10のいずれか1項に記載の還元剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の還元剤を、二酸化炭素を含む原料ガスと接触させることにより、前記二酸化炭素を還元して、一酸化炭素を含む生成ガスを製造することを特徴とするガスの製造方法。
【請求項13】
複数の細孔を有し、安息角が45°以上である粒状の担体に、酸素イオン伝導性を有する酸素キャリアを担持してなる還元剤を使用することにより、前記酸素キャリアを単独で使用する場合と比較して、当該還元剤による二酸化炭素から炭素有価物への変換効率を増加させる変換効率増加方法であって、
前記担体の平均細粒径は、0.1nm以上であることを特徴とする変換効率増加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤、ガスの製造方法および変換効率増加方法に関し、より詳しくは、例えば、ケミカルルーピング法に利用可能な還元剤、ならびにかかる還元剤を使用したガスの製造方法および変換効率増加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスの一種である二酸化炭素は、その大気中の濃度が上昇を続けている。大気中の二酸化炭素の濃度の上昇は、地球温暖化を助長する。したがって、大気中に放出される二酸化炭素を回収することは重要であり、さらに回収した二酸化炭素を有価物質に変換して再利用できれば、炭素循環社会を実現することができる。
従来、二酸化炭素から一酸化炭素を製造する方法として、逆水性ガスシフト反応を利用した方法が知られている。しかしながら、この従来の逆水性ガスシフト反応は、生成物である一酸化炭素と水とが系内に共存するため、化学平衡の制約により二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率が低くなるという点で問題があった。
【0003】
そこで、上記問題を解決するため、ケミカルルーピング法を利用して二酸化炭素から一酸化炭素の変換(合成)が行われる。ここで言うケミカルルーピング法とは、上記逆水性ガスシフト反応を、水素による還元反応と、二酸化炭素からの一酸化炭素の生成反応との2つの反応に分割し、これらの反応を酸素キャリア(例えば、金属酸化物:MOx)によって橋渡しさせるという方法である(下記式参照)。
H2 + MOx → H2O + MOx-1
CO2 + MOx-1 → CO + MOx
なお、上記式中、MOx-1は、金属酸化物の一部または全部が還元された状態を示す。
【0004】
かかるケミカルルーピング法では、それぞれの反応時には、逆反応の基質である水および一酸化炭素が共存しないため、逆水性ガスシフト反応の化学平衡よりも高い二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率を得られる可能性がある。
例えば、特許文献1には、ケミカルルーピング法において、担体に担持されたペロブスカイト型の結晶構造を有する酸素キャリアを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公報2020/0139351号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1では、担体の構成(例えば、サイズ、形状等)について何ら検討されておらず、二酸化炭素からの一酸化炭素(炭素有価物)への変換効率が未だ十分ではない。
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定の構成を有する担体を使用することにより、二酸化炭素の炭素有価物への変換効率(すなわち、炭素有価物の収率)が高く、例えば、ケミカルルーピング法に利用可能な還元剤、ならびにかかる還元剤を使用したガスの製造方法および変換効率増加方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
(1) 本発明の還元剤は、二酸化炭素の還元により炭素有価物を生成する還元剤であって、
複数の細孔を有し、安息角が45°以上である粒状の担体と、
該担体に担持され、酸素イオン伝導性を有する酸素キャリアとを含み、
前記担体の平均細孔径は、0.1nm以上であることを特徴とする。
【0008】
(2) 本発明の還元剤では、前記担体の平均粒径は、0.1~50μmであることが好ましい。
(3) 本発明の還元剤では、前記担体の比表面積は、400m2/g以上であることが好ましい。
【0009】
(4) 本発明の還元剤では、前記担体は、周期表の第2族~第4族、第12族および第13族に属する元素のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
(5) 本発明の還元剤では、前記担体は、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0010】
(6) 本発明の還元剤では、前記酸素キャリアは、周期表の第2族~第4族、第11族~第13族に属する元素のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
(7) 本発明の還元剤では、前記酸素キャリアは、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびインジウム(In)のうちの少なくとも2種を含有することが好ましい。
(8) 本発明の還元剤では、前記担体の含有量は、当該還元剤100mol%に対して、50mol%以上であることが好ましい。
【0011】
(9) 本発明の還元剤は、前記二酸化炭素を含む原料ガスと接触させることにより、前記二酸化炭素を還元して、前記炭素有価物としての一酸化炭素を含む生成ガスを製造するのに使用されることが好ましい。
(10) 本発明の還元剤では、酸化された当該還元剤は、水素を含む還元ガスと接触させることで還元されることが好ましい。
【0012】
(11) 本発明の還元剤は、前記二酸化炭素の還元反応と酸化された当該還元剤の還元反応と、別々の反応工程に使用されることが好ましい。
(12) 本発明のガスの製造方法は、本発明の還元剤を、二酸化炭素を含む原料ガスと接触させることにより、前記二酸化炭素を還元して、一酸化炭素を含む生成ガスを製造することを特徴とする。
(13) 本発明の変換効率増加方法は、複数の細孔を有し、安息角が45°以上である粒状の担体に、酸素イオン伝導性を有する酸素キャリアを担持してなる還元剤を使用することにより、前記酸素キャリアを単独または安息角が45°未満である粒状の担体に、前記酸素キャリアを担持してなる他の還元剤を使用する場合と比較して、当該還元剤による二酸化炭素から炭素有価物への変換効率を増加させる方法であって、前記担体の平均細孔径は、0.1nm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二酸化炭素から効率よく炭素有価物を生成することができる。また、本発明の還元剤は、例えば、ケミカルルーピング法に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の還元剤、ガスの製造方法および変換効率増加方法について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
[還元剤]
本発明の還元剤は、二酸化炭素を含む原料ガスと接触させることにより、二酸化炭素を還元して、一酸化炭素(炭素有価物)を含む生成ガスを製造する際に使用される(すなわち、本発明のガスの製造方法に使用される)。また、酸化された還元剤に還元ガスを接触させることにより、還元剤を還元(再生)することができる。
この際、好ましくは、本発明の還元剤を充填した反応管(反応容器)内に、原料ガスおよび還元ガスを交互に通過させることにより、還元剤による二酸化炭素の一酸化炭素への変換と、還元ガスによる酸化状態の還元剤の再生とが行われる。
【0015】
本発明の還元剤は、複数の細孔を有し、安息角が45°以上である粒状の担体と、この担体に担持され、酸素イオン伝導性を有する酸素キャリアとを含む。
ここで、酸素キャリアとは、酸素イオン伝導性を有し、可逆的な酸素欠損を生じ得る化合物であり、それ自体から還元により酸素元素が欠損するが、酸素元素が欠損した状態(還元状態)で、二酸化炭素と接触すると、二酸化炭素から酸素元素を奪い取って還元する作用を示す化合物のことを言う。
【0016】
本発明における酸素キャリアは、周期表の第2族~第4族、第11族~第13族に属する元素のうちの少なくとも1種を含有することが好ましく、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびインジウム(In)のうちの少なくとも1種を含有することがより好ましく、少なくとも2種を含有することがより好ましい。
酸素キャリアとしては、上記元素を含む酸化物、上記元素を含む合金等が挙げられる。
なお、担体を構成する化合物は、アモルファスであってもよいし、結晶性を有してもよい。また、結晶は、いかなる構造を有していてもよい。
【0017】
かかる元素を含む酸素キャリア(特に、酸化物)は、酸素欠損がより効率よく生成するとともに、その格子欠損に歪みが生じ、この歪みにより二酸化炭素から酸素元素を奪い取り易くなるものと考えられる。
特に、上記元素を少なくとも2種含む酸化物(複合酸化物)は、不純物を吸着し難く、二酸化炭素から酸素元素を奪い取る能力を長時間にわたって維持することができる。その結果、還元剤による二酸化炭素からの一酸化炭素への変換効率を高めることができる。
【0018】
酸素キャリアの具体例としては、例えば、銅および亜鉛を含む酸化物、セリウムおよびジルコニウムを含む酸化物、セリウムおよびサマリウムを含む酸化物、セリウムおよびハフニウムを含む酸化物、インジウムおよび銅を含む酸化物のような二元系酸化物、インジウム、銅およびマグネシウムを含む酸化物、鉄、セリウムおよびジルコニウムを含む酸化物、ランタン、ストロンチウムおよび鉄を含む酸化物のような三元系酸化物等が挙げられる。
【0019】
本発明における担体は、粒状をなしている。ここで、粒状とは、粉末状、粒子状、塊状等を含む概念であり、いずれの状態であってもよく、その形状も球状、板状、多角状(多面体状)、破砕状、柱状、針状、鱗片状、これらを組み合わせた形状等のいずれでもよい。
また、本発明における担体は、安息角が45°以上であり、50°以上であることが好ましく、55°以上がより好ましい。また、安息角は、90°以下であり、80°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましい。
【0020】
かかる安息角を有する担体を使用することにより、反応管内に充填した還元剤の粒子同士の間に、十分な大きさの空間を確保することができる。このため、原料ガスおよび生成ガスの反応管内での拡散速度が高まり、還元剤による二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率を向上させることができる。なお、担体の安息角が大き過ぎると、還元剤の流動性が低下して、還元剤を反応管内に充填する作業性が悪化し易い。
【0021】
したがって、本発明には、所望の安息角を有する担体に、酸素キャリアを担持させることにより、還元剤の性能を制御する方法が含まれる。すなわち、安息角が45°未満である担体に、酸素キャリアに担持させることにより、還元剤の性能を減少させることができ、逆に、安息角が45°以上である担体に、酸素キャリアを担持させることにより、還元剤の性能を増加させることができる。
具体的には、本発明の変換効率増加方法では、複数の細孔を有し、安息角が45°である粒状の担体に、酸素イオン伝導性を有する酸素キャリアを担持してなる還元剤を使用することにより、酸素キャリアを単独または安息角が45°未満である粒状の担体に、上記と同様の酸素キャリアを担持してなる他の還元剤を使用する場合と比較して、前者の還元剤による二酸化炭素から炭素有価物への変換効率を増加させることができる。
なお、使用する担体は、目的、酸素キャリアの性質に応じて、適宜選択される。
【0022】
粒状の担体は、その表面状態が荒い程(すなわち、表面の凹凸の程度が大きい程)、安息角が大きくなる傾向を示す。したがって、担体の形状は、多角形柱状(ハニカム柱状)、表面の凹凸の程度が大きい球状、破砕状等であることが好ましく、多角形柱状であることがより好ましい。
さらに、担体は、一次粒子であっても、二次粒子以上の高次粒子を形成していても、いずれの粒子形状であってもよい。また、担体は、複数の粒子形状の粒子が混合されていてもよいが、一次粒子が凝集した二次粒子であることが好ましい。二次粒子による担体は、その表面の凹凸の程度がより大きくなり、安息角が上記範囲を満足し易い。また、粒子を高次形状化したり、複数の粒子形状の粒子を混合したりすることで、所望の安息角を有する担体(担体混合物)を調製することもできる。
【0023】
かかる観点から、担体の平均粒径は、0.1~50μmであることが好ましく、0.5~25μmであることがより好ましく、1~10μmであることがさらに好ましい。
担体の粒度分布は、単峰性であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる個数基準粒度分布におけるD10、D90およびD50を用いて表される(D90-D10)/D50の値が2.5以下であることが好ましい。この場合、担体の粒度分布は、半値全幅が小さいシャープなピークを有する分布になるので、粒径が小さ過ぎる担体の割合が少なくなる。よって、反応管内に充填した還元剤の粒子同士の間が還元剤の微小な粒子で閉塞されることがなく、十分な大きさの空間を確実に確保することができる。
【0024】
なお、本明細書において、平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる個数基準粒度分布における累積50%径(D50)、すなわちメジアン径を意味する。また、D10は、同様の粒度分布における累積10%径であり、D90は、同様の粒度分布における累積90%径である。
また、担体が非球形状(異形状)である場合の平均粒径とは、担体が球形状であると仮定して計算された回折・散乱光の光強度分布パターンに基づいて測定された粒度分布のD50を意味する。この方法では、測定された散乱パターンに対して最もよく一致する散乱パターンを示す球形状の粒子の粒度分布が、測定結果として得られる。
【0025】
担体の比表面積は、400m2/g以上であることが好ましく、500m2/g以上であることがより好ましく、500~900m2/gであることがさらに好ましい。比表面積が上記範囲内であることで、活性点の数を十分に多くすることができるとともに、原料ガスと還元剤との接触面積を高めることができる。よって、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率を向上させ易くなる。
なお、本明細書において、担体の「比表面積」は、窒素を吸着ガスとし、BET式ガス吸着法により測定されるBET比表面積を意味する。
【0026】
また、担体の全細孔容積は、0.03cm3/g以上であることが好ましく、0.1~30cm3/gであることがより好ましく、0.5~5cm3/gであることがさらに好ましい。この全細孔容積が小さ過ぎると、原料ガスおよび還元ガスが還元剤の内部にまで入り難くなり、細孔内での原料ガスおよび生成ガスの拡散性が低下する。その結果、還元剤と原料ガスおよび還元ガスとの接触面積が減少し、還元剤による二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率や、還元ガスによる酸化状態の還元剤の再生効率が低下し易い。一方、この細孔容積の上限値を超えて大きくしても、それ以上の効果の増大が期待できず、還元剤の種類によっては機械的強度が低下する傾向を示す。
【0027】
なお、本明細書において、担体の「全細孔容積」は、ガス吸着法により測定される値を採用することができる。
ここで、ガス吸着法とは、窒素ガスを吸着ガスとして使用し、担体の表面に窒素分子を吸着させ、分子の凝縮から細孔分布を測定する方法である。
【0028】
担体の平均細孔径は、0.1nm以上であることが好ましく、0.5~30nmであることがより好ましく、1~15nmであることがさらに好ましい。かかる平均細孔径を有する担体(還元剤)には、原料ガスおよび生成ガスが円滑かつ確実に拡散することができる。よって、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率をより向上させることができる。また、酸素キャリアが担体に分散担持され十分な大きさの空間を確保し得ることから、酸素キャリアが酸素元素を取込および放出する際の膨張収縮を緩和することできる。
【0029】
なお、本明細書において、「平均細孔径」は、全細孔容積(担体の細孔容積の合計)とBET比表面積とから算出される値を採用することができる。
具体的には、細孔の形状を円筒形であると仮定して算出する方法(BJH法)を使用することができる。この場合、円筒の側面積をBET比表面積A1とし、円筒の体積を全細孔容積V1と規定すると、細孔の平均細孔径は、4V1/A1により算出することができる。
【0030】
担体は、原料ガスや反応条件等によって変性し難いものであればよく、その構成材料は特に限定されない。なお、担体の構成材料は、酸素キャリアの構成材料と異なる化合物である。
担体は、周期表の第2族~第4族、第12族および第13族に属する元素のうちの少なくとも1種を含有することが好ましく、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)のうちの少なくとも1種を含有することがより好ましい。かかる元素を含有する担体は、酸素キャリアの反応に悪影響を及ぼさず、酸素キャリアの担持能に優れる点で好ましい。
【0031】
酸素キャリアを担体が担持する形態の一例としては、担体の細孔の内周面および表面の少なくとも一部に酸素キャリアが付着(被覆)する態様が挙げられる。かかる構成により、酸素キャリアの凝集等の構造変化を防止することができ、よって、酸素キャリア(還元剤)の長寿命化に寄与する。また、酸素キャリアの比表面積が大きくなり反応効率が向上することから、反応温度を低下させ得るので、運転コストの削減にも寄与する。
さらに、高価な酸素キャリアの使用量を低減することができるので、還元剤の製造コストの削減にも寄与する。
【0032】
担体の具体例としては、例えば、シリカ(SiO2)粒子、チタニア(TiO2)粒子、セリア(CeO2)粒子、マグネシア(MgO)粒子、アルミナ(αAl2O3、γAl2O3)粒子、ジルコニア(ZrO2)粒子、炭化モリブデン(CMo2)粒子、炭化ケイ素(SiC)粒子、酸化ニオブ(Nb2O5)粒子、ゼオライト粒子等が挙げられる。これらの粒子は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの粒子は、上述した効果に優れることから好ましい。
【0033】
担体の含有量は、還元剤100mol%に対して、50mol%以上であることが好ましく、50~95mol%であることがより好ましく、60~90mol%であることがさらに好ましく、70~85mol%であることが特に好ましい。かかる量で担体を含むことにより、酸素キャリアの比表面積(活性点の数)を増大させることができ、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率をより向上させることができる。また、使用する酸素キャリアの量を低減することができるため、還元剤の製造コストの更なる低減を図ることもできる。
【0034】
還元剤の充填密度は、1.1g/mL以下であることが好ましく、0.03~1g/mLであることがより好ましく、0.05~0.9g/mLであることがさらに好ましい。この充填密度が低過ぎると、ガスの拡散速度が速くなり過ぎ、還元剤と原料ガスおよび還元ガスとが接触する時間が減少する。その結果、還元剤による二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率や、還元ガスによる酸化状態の還元剤の再生効率が低下し易い。一方、この充填密度が高過ぎると、ガスの通過速度が遅くなり、反応が進行し難くなったり、生成ガスを製造するのに長時間を要するようになったりする。
【0035】
また、かかる還元剤では、酸素キャリアの格子欠損の歪みを十分に大きくすることができるため、低温(400℃程度)~高温(650℃程度)の広い範囲において、還元剤の酸素容量を高い状態に維持することができる。すなわち、還元剤は、広い温度範囲で二酸化炭素を一酸化炭素へ効率よく変換することができる。
還元剤の400℃における酸素容量は、1~40質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましい。還元剤の低温における酸素容量が上記範囲であれば、実稼働時の温度(650℃程度)においても酸素容量が十分に高いことを意味しており、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率が極めて高い還元剤であると言える。
【0036】
[還元剤の製造方法]
次に、本発明の還元剤の製造方法について説明する。
[[担体の作製]]
本発明に使用可能な担体は、例えば、界面活性剤の存在下に、担体の構成元素を含む化合物(担体前駆体)を添加、混合することにより反応させて複合体を得、その後、複合体から界面活性剤を除去する方法が挙げられる。
担体前駆体には、例えば、アルコキシド、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。また、塩の場合には、必要に応じて、水和物を使用してもよい。
【0037】
界面活性剤には、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩が好ましく、アルキル(炭素数:8~22)トリメチルアンモニウム塩がより好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等が挙げられる。
【0038】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、エーテル型のノニオン性界面活性剤、含窒素型のノニオン性界面活性剤等が挙げられる。中でも、ノニオン性界面活性剤としては、エーテル型のノニオン性界面活性剤が好ましく、ポリエチレンオキシド鎖およびポリプロピレンオキシド鎖を構成単位として有するポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーがより好ましい。
【0039】
担体前駆体と界面活性剤とを混合する場合、適当な溶媒を用いてもよい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒、これらの混合溶媒等が挙げられる。
水としては、例えば、金属イオン等を除去したイオン交換水、または蒸留水が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ヘキサノール等の脂肪族直鎖アルコールが好ましい。
また、溶媒には、酸性溶液または塩基性溶液を添加してもよい。酸性溶液には、例えば、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸の水溶液を使用することができる。一方、塩基性溶液には、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、アンモニア等の無機塩基の水溶液を使用することができる。
【0040】
得られた複合体は、濾別され、水等により洗浄および乾燥した後、界面活性剤が除去される。
界面活性剤を除去する方法としては、例えば、複合体を焼成する方法、塩酸-エタノール等の有機溶媒により抽出する方法等が挙げられる。
なお、焼成の際の温度は、特に限定されないが、200~800℃であることが好ましく、400~700℃であることがより好ましい。
以上の工程を経て、上述した構造および特性を有する担体が得られる。
【0041】
なお、担体には、市販品を使用することもできる。この担体の市販品としては、例えば、TMPS-4R、TMPS-2(いずれも太陽化学株式会社製)、SBA-15(ACS Material社製またはSigma-Aldrich社製)、サンスフィアHシリーズ(AGCエスアイテック株式会社製)、セリア(富士フイルム和光純薬株式会社製)、CARiACTシリーズ(富士シリシア化学株式会社製)、マグネシア(Sigma-Aldrich社製)、αアルミナ(富士フイルム和光純薬株式会社製)、ジルコニア(富士フイルム和光純薬株式会社製)等が挙げられる。
【0042】
[[酸素キャリアの担体への担持]]
酸素キャリアの担体への担持は、例えば、次のようにして行うことができる。
まず、酸素キャリアの構成元素の塩を水に溶解して水溶液を調製する。
なお、水溶液の調整には、例えば、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、塩酸、硝酸またはこれらの混合物等で酸性に調整した酸性水を用いてもよい。
酸素キャリアの構成元素の塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、水酸化物、炭酸塩またはこれらの複合物等が挙げられるが、これらの中でも硝酸塩であることが好ましい。また、上記塩には、必要に応じて、水和物を使用してもよい。
【0043】
次に、水溶液を担体に接触させる。
水溶液を担体に接触させる際には、水溶液に担体を添加してもよく、担体に水溶液を添加(例えば、滴下)してもよいが、後者が好ましい。後者の方法によれば、水溶液を担体に緩徐に浸透させることができ、担体のより内部にまで水溶液を含浸させることができる。したがって、多孔質担体を使用する場合、本工程を含浸工程と呼ぶこともできる。
水溶液および担体のいずれか一方に、他方を添加した後には、担体を水溶液に浸漬することが好ましい。
【0044】
担体を水溶液に浸漬する時間は、担体の構成、水溶液の粘度等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、0.1時間~5日間であることが好ましく、1時間~3日間であることがより好ましい。この際の圧力も、特に限定されないが、0~2MPaであることが好ましく、0~1MPaであることがより好ましい。
また、水溶液の量も、担体の構成、水溶液の粘度等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、担体1gあたり、1~500mLであることが好ましく、5~350mLであることがより好ましい。
【0045】
このような条件で、水溶液を担体に接触させることにより、十分な量の酸素キャリアを担体に担持させることができる。
また、この際、水溶液には、例えば、振動(超音波振動)、揺動のような外部エネルギーを付与してもよい。
なお、以上のような水溶液に担体を接触(浸漬)させる操作は、1回のみ行うようにしてもよく、複数回繰り返して行うようにしてもよい。
【0046】
次に、水溶液を接触させた担体を、水溶液から分離および乾燥した後、焼成する。これにより、酸素キャリアが担体に固定され、還元剤を得ることができる。
担体の水溶液からの分離は、例えば、濾過、デカンテーション、遠心分離、エバポレーターによる溶媒除去等により行うことができる。
乾燥温度は、20~200℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましい。また、乾燥時間は、1時間~10日間であることが好ましく、2時間~5日間であることがより好ましい。
【0047】
焼成温度は、200~800℃であることが好ましく、400~700℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、10分間~2日間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。
このような条件で、焼成を行うことにより、酸素キャリア中に不純物が残留しないか、ほとんど残留しないようにしつつ、酸素キャリアを直接または酸素元素を介して担体に強固に結合させることができる。
【0048】
[還元剤の使用方法]
本発明の還元剤は、上述したように、例えば、ケミカルルーピング法で利用することができる。また、本発明の還元剤は、上述したように、二酸化炭素を還元する用途に使用することができる。
より具体的には、二酸化炭素の還元反応と、還元剤の還元反応とを行うとよく、還元剤は、二酸化炭素の還元反応と還元剤の還元反応との間で循環するように使用することが好ましい。なお、還元剤の還元反応では、他の還元剤(還元ガス)を使用する。
【0049】
また、本発明の還元剤は、いわゆる逆水性ガスシフト反応に使用することが好ましい。逆水性ガスシフト反応とは、二酸化炭素と水素とから、一酸化炭素と水とを生成する反応である。逆水性ガスシフト反応は、ケミカルルーピング法を適用する場合、還元剤の還元反応(第1プロセス)と二酸化炭素の還元反応(第2プロセス)とに分割して行われ、還元剤の還元反応が下記式(A)に示す反応となり、二酸化炭素の還元反応が下記式(B)で示す反応となる。以下には、酸素キャリアがMOxで表される酸化物である場合について示す。
【0050】
H2(ガス)+MOx(固体)→H2O(ガス)+MOx-1(固体) (A)
CO2(ガス)+MOx-1(固体)→CO(ガス)+MO(固体) (B)
なお、式(A)および(B)において、Mは少なくとも2種の元素である。
すなわち、上記式(A)で示される還元剤の還元反応では、還元ガスの一種である水素が酸化されて水が生成される。また、上記式(B)で示される二酸化炭素の還元反応では、二酸化炭素が還元されて一酸化炭素が生成される。
【0051】
還元剤の還元反応における反応温度は、還元反応が進行できる温度であればよいが、300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。かかる温度範囲で、効率的な還元剤の還元反応を進行させることができる。
この反応温度の上限は、850℃以下であることが好ましく、750℃以下であることがより好ましく、700℃以下であることがさらに好ましい。反応温度の上限を上記範囲に設定することにより、経済性の向上を図ることができる。
【0052】
また、二酸化炭素の還元反応における反応温度は、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましい。かかる温度範囲で、効率的な二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。
この反応温度の上限は、1000℃以下であることが好ましく、850℃以下であることがより好ましく、700℃以下であることがさらに好ましく、650℃以下であることが特に好ましい。還元剤は、低温下でも高い効率で二酸化炭素の一酸化炭素への還元反応を行うことができるので、二酸化炭素の還元反応を比較的低温に設定することができる。また、反応温度の上限を上記範囲に設定することにより、廃熱活用が容易になるばかりでなく、更なる経済性の向上を図ることができる。
【0053】
なお、本発明では、二酸化炭素の還元反応で得られる還元物(炭素有価物)は、一酸化炭素以外の物質であってもよく、具体的にはメタンが挙げられる。上記二酸化炭素の還元反応で得られた一酸化炭素等の還元物は、さらに微生物発酵等により有機物質等に変換されることが好ましい。微生物発酵としては、嫌気性発酵が挙げられる。得られる有機物質としては、メタノール、エタノール、酢酸、ブタノール、これらの誘導体、またはこれらの混合物、イソプレン等のC5以上の化合物等が挙げられる。
さらに、一酸化炭素等の還元物は、金属酸化物等により、従来石油化学により合成される炭化水素、アルコールを含むC1からC20までの化合物に変換されてもよい。得られる具体的な化合物としては、メタン、エタン、プロピレン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトアルデヒド、ジエチルエーテル、酢酸、酪酸、炭酸ジエチル、ブタジエン等が挙げられる。
【0054】
[還元剤の特性]
本発明の還元剤は、次のような特性を有することが好ましい。
すなわち、流路内に圧力計を配置した内径8mmのステンレス鋼製の反応管内に、還元剤を40cmの高さで充填し、濃度100体積%の窒素ガスを30mL/分で通過させたとき、10分間での圧力上昇が0.03MPaG以下であることが好ましく、0.01MPaG以下であることがより好ましい。
かかる特性を示す還元剤は、充填密度および細孔容積が上記範囲を満たすと判断することができ、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率を十分に高めることができる。
【0055】
以上、本発明の還元剤、ガスの製造方法および変換効率増加方法について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の還元剤、ガスの製造方法および変換効率増加方法は、上記実施形態に対して、他の任意の追加の構成を有していてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよく、一部の構成が省略されていてもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
1.担体の準備
担体1:多角形柱状のシリカ(SiO2)粒子(Sigma-Aldrich社製、「 SBA-15」)
担体2:球状のシリカ(SiO2)粒子(AGCエスアイテック株式会社製、「AGC
-H51」)
【0057】
担体3:多角形柱状のシリカ(SiO2)粒子(ACS Material社製、「S
BA-15」)
担体4:球状のセリア(CeO2)粒子(富士フイルム和光純薬株式会社製、「和光特 級」)
担体5:粉砕状のシリカ(SiO2)粒子(富士シリシア化学株式会社製、「CARi ACTQ-50」)の磨り潰し品
【0058】
担体6:球状のマグネシア(MgO)粒子(Sigma-Aldrich社製)
担体7:球状のアルミナ(αAl2O3)粒子(富士フイルム和光純薬株式会社製、「 精密研磨用」)
担体8:球状のジルコニア(ZrO2)粒子(富士フイルム和光純薬株式会社製、「和 光特級」)
【0059】
担体9:粉砕状のシリカ(SiO2)粒子(富士シリシア化学株式会社製、「CARi ACTQ-10」)の磨り潰し品
担体10:セル状のシリカ(SiO2)粒子(Sigma-Aldrich社製、「M SU-F」)
担体11:粉砕状のシリカ(SiO2)粒子(富士シリシア化学株式会社製、「CAR iACTQ-15」)
【0060】
担体12:球状のアルミナ(γAl2O3)粒子(ストレンケミカル社製)
担体13:球状のチタニア(TiO2)粒子(株式会社テイカ社製、「AMT400」 )
担体14:球状の炭化モリブデン(CMo2)粒子(Sigma-Aldrich社製 )
【0061】
2.還元剤の製造
(実施例A1)
まず、原料として、硝酸銅(II)三水和物(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、純度:99.9%)と、硝酸亜鉛六水和物(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、純度:99.0%)とを用意した。
次に、この原料を水に溶解して、0.5mol/Lの原料水溶液を調製した。なお、原料水溶液中におけるCuとZnとのモル比が0.5:0.5となるようにした。
次に、この原料水溶液を担体1に滴下した。なお、担体1の使用量は、生成する酸素キャリアと担体1との合計(還元剤)100mol%に対して83.3mol%となるように設定した。
【0062】
次に、ロータリーエバポレーターを用いて担体1が浸漬された原料水溶液から液性成分を除去した。
回収された担体1を120℃で4時間乾燥した後、さらに700℃で3時間焼成して、酸素キャリア(金属酸化物)を担持(結合)した担体で構成される還元剤を製造した。
(実施例A2~A8)
表1に示す担体を使用した以外は、実施例A1と同様にして、還元剤を製造した。
【0063】
(比較例A1)
担体1を省略した以外は、実施例A1と同様にして、還元剤を製造した。
(比較例A2~A7)
表1に示す担体を使用した以外は、実施例A1と同様にして、還元剤を製造した。
【0064】
(実施例B1)
まず、原料として、硝酸セリウム(III)六水和物(Sigma-Aldrich社製、純度:99.0%)と、オキシ硝酸ジルコニウム(II)二水和物(キシダ化学株式会社製、純度:99.0%)とを使用した以外は、実施例A1と同様にして、還元剤を製造した。なお、原料水溶液中におけるCeとZrとのモル比が0.8:0.2となるようにした。
【0065】
(実施例B2)
まず、原料として、硝酸セリウム(III)六水和物(Sigma-Aldrich社製、純度:99.0%)と、オキシ硝酸ジルコニウム(II)二水和物(キシダ化学株式会社製、純度:99.0%)とを用意した。
次に、クエン酸を溶解したエタノールに、硝酸セリウム(III)六水和物およびオキシ硝酸ジルコニウム(II)二水和物を溶解させ、原料溶液を調製した。なお、原料溶液中におけるCeとZrとのモル比が0.8:0.2となるようにした。
【0066】
次に、担体1をイオン交換水に分散させた水分散液に、原料溶液をゆっくりと滴下し、室温で5時間攪拌して、混合液を得た。
次に、ロータリーエバポレーターを用いて混合液から液性成分を除去した。回収された担体1を80℃で4時間乾燥した後、さらに500℃で4時間焼成した。
再度、焼成後の担体1をイオン交換水に分散させた水分散液に、原料溶液をゆっくりと滴下し、室温で5時間攪拌して、混合液を得た。
次に、ロータリーエバポレーターを用いて混合液から液性成分を除去した。回収された担体1を80℃で4時間乾燥した後、さらに700℃で6時間焼成した。
【0067】
以上の工程を経て、酸素キャリア(金属酸化物)を担持(結合)した担体で構成される還元剤を製造した。
なお、担体1の使用量は、生成する酸素キャリアと担体1との合計(還元剤)100mol%に対して73.5mol%となるように設定した。
(比較例B1)
担体1を省略した以外は、実施例B1と同様にして、還元剤を製造した。
【0068】
(実施例C1)
まず、原料として、硝酸インジウム三水和物(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、純度:97.0%)と、硝酸銅(II)三水和物(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、純度:99.9%)と、硝酸マグネシウム六水和物(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、純度:99.0%)とを使用した以外は、実施例A1と同様にして、還元剤を製造した。なお、原料水溶液中におけるInとCuとMgとのモル比が0.4:0.3:0.3となるようにした。
(比較例C1)
担体1を省略した以外は、実施例C1と同様にして、還元剤を製造した。
【0069】
3.測定および評価
3-1.担体の安息角の測定
各担体を漏斗に供給し自然落下させ、直径22mmの円柱の水平面に粉体を堆積させた。なお、漏斗の下端から円柱の水平面までの離間距離を25mmに設定した。
このとき、円柱上に形成された円錐状の担体の山について、山を側面から観察し、水平面からの山の頂点までの高さを測定し、円柱の直径と高さとから水平面に対してなす角度を算出した。
この測定を3回繰り返して行って得られた角度の相加平均値を求めて、安息角(°)とした。
【0070】
3-2.担体の比表面積の測定
各担体を10mg程度計量し、試料管に封入した。その後、試料管ごと120℃に加熱し、10時間真空脱気をした。
窒素ガス吸着測定には、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラックベル社製、「BELSORP Mini2」)を使用し、吸脱着等温線を相対圧0~0.99の範囲で測定した。
なお、比表面積の算出には、測定した吸着等温線から相対圧0.05~0.35の範囲のデータに対してBET法を適用した。
【0071】
3-3.担体の平均細孔径の測定
まず、各担体の全細孔容積を、窒素を使用したガス吸着法による窒素の最大吸着量から算出した。
各担体の平均細孔径は、前記の方法で測定した、全細孔容積と比表面積とから、細孔が円筒状であると仮定して、下記の式に基づいて計算により求めた。
平均細孔径(nm)=4×全細孔容積(mL/g)÷比表面積(m2/g)×1000
【0072】
3-4.担体の平均粒径の測定
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、「LA960」)を用いて乾式測定法により粒度分布を測定した。なお、個数基準粒度分布におけるD50、すなわちメジアン径を平均粒径とした。
【0073】
4.還元剤の特性評価(変換効率)
マイクロリアクターと、マイクロリアクターに直結するガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)とを備える迅速触媒評価システム(フロンティア・ラボ株式会社製、「シングルμ-リアクターRx-3050SR」)を用いて、以下の手順により還元剤の特性を評価した
まず、内径3mm、長さ78mmの石英反応管内に、0.1gの還元剤を充填した。その後、20mL/minの流量でヘリウムガスを流しつつ、40℃/minの昇温速度で昇温させ、20分間加熱した。
次に、マイクロリアクターには、水素ガス(還元ガス)を流量15mL/minで5分間流して還元剤の還元反応(第1プロセス)を実施して、還元剤を還元した。このとき、マイクロリアクターの排出口から排出されるガスには、水蒸気が含まれていた。
【0074】
その後、ガス交換のために、ヘリウムガスを流量20mL/minで5分間流した後、二酸化炭素ガスを流量5mL/minで5分間流して、二酸化炭素の還元反応(第2プロセス)を実施して、二酸化炭素ガス(原料ガス)を還元した。このとき、リアクターの排出口から排出される生成ガスには、一酸化炭素が含まれていた。
その後、ガス交換のために、ヘリウムガスを流量20mL/minで5分間流した。
なお、本試験では、いずれのガスを流す際にも、マイクロリアクターの温度を500℃(表1に示す例)または650℃(表2に示す例)に維持するとともに、大気圧条件で行った。
【0075】
還元剤による二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率(一酸化炭素の収率)は、次の式により計算した。
なお、変換効率は、石英反応管内へ流通させた二酸化炭素の物質量に対する、二酸化炭素ガスの流通を開始した後、ヘリウムガスの流通が終了するまでの10分間で生成した酸素キャリア1molあたりの一酸化炭素の物質量の比である。
XCO=nCO,out/nCO2,in
上記式中、nCO2,inは二酸化炭素ガス(原料ガス)中の二酸化炭素の物質量であり、nCO,outは生成ガス中の一酸化炭素の物質量である。
【0076】
なお、表1および表2中には、各実施例A1~A8、比較例A2~A7の還元剤のXCOの値は、比較例A1の還元剤のXCOの値を「1」とした場合の相対値(XCO,r)として、実施例B1およびB2の還元剤のXCOの値は、比較例B1の還元剤のXCOの値を「1」とした場合の相対値(XCO,r)として、実施例C1の還元剤のXCOの値は、比較例C1の還元剤のXCOの値を「1」とした場合の相対値(XCO,r)として示す。
【0077】
なお、ガスクロマトグラフ質量分析計における測定条件は、以下の通りである。
カラム温度: 200℃
インジェクション温度: 200℃
検出器温度: 250℃
カラム: EGAチューブ(L:2.5m、φ(内径):0.15mm、t:0mm)
カラム流量: 1.00mL/min
スプリット比: 250
パージ流量: 3.0mL/min
【0078】
これらの結果を、以下の表1~表2に示す。
【表1】
【0079】
【0080】
各実施例の還元剤は、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率が高かった。また、担体の安息角を変更することにより、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率を調整することができた。
これに対して、各比較例の還元剤は、二酸化炭素の一酸化炭素への変換効率が低かった。