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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ジクロロシランを脱水素化する方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20221101BHJP
   C01B 33/107 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C07F7/12 F
C01B33/107 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021512539
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2018073933
(87)【国際公開番号】W WO2020048597
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ティルマン
(72)【発明者】
【氏名】リヒャルト、バイドナー
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0082438(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C01B
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素が生成する、ジクロロシランを脱水素化する方法であって、
ジクロロシランを、アンモニウムおよび/またはホスホニウム塩の存在下において、70~300℃の範囲内の温度で、以下:
(A)式(I):
-X (I)
(式中、Xは、F、Cl、BrまたはIであり、
は、
分岐または非分岐のC-C20アルキル基、
炭素骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、分岐または非分岐のC-C13ヘテロアルキル基、
部分的または完全にフッ素化されている、分枝または非分枝のC-C10フルオロアルキル基、
分岐または非分岐のC-C20アルケニル基(但し、nが2~4の場合にはC4-nClを除く)、
分岐または非分岐のC-C20アルキニル基、
-C14シクロアルキル基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロシクロアルキル基、
-C14アリール基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロアリール基、
(CH-Ar(式中、Arは、C-C14アリール基であり、nは1~5である)、
ここで、前記基の全てが、非置換であってもよいし、ハロゲン、C-Cアルコキシ、ビニル、フェニルまたはC-Cアルキルで単独または複数置換されていてもよく、
メチル基、
(CHX(式中、nは1~10であり、Xは、F、Cl、BrまたはIである)、
-S-CH基(式中、Rは、C-CアルキルまたはC-C14アリールである)、
(CHSiMe3-m-Cl(式中、nは0~5、mは0、1、2、3である)、
(CHNH(C=O)OCH(式中、nは1~5である)、
(CHOCH(オキシラン)(式中、nは1~5である)、
(CHO(C=O)(C(CH)=CH)(式中、nは1~5である)、
(CHNH(式中、nは1~5である)、
(CHNH(C=O)NH(式中、nは1~5である)、
(CHNHR(式中、nは1~5であり、RはシクロヘキシルまたはCNHである)、
のハロゲン化炭化水素の少なくとも1種、または
(B)ハロゲン化水素
のいずれかと反応させ、
ジクロロシランのハロゲン化水素またはハロゲン化炭化水素に対するモル比が1:1~1:10の範囲内である、方法。
【請求項2】
前記温度が100~300℃の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒のジクロロシランに対するモル比が0.01:1~0.2:1の範囲内である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化水素が塩化水素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アンモニウムおよび/またはホスホニウム塩が、第四級アンモニウムハライド[RN]Xおよびホスホニウムハライド[RP]Xまたは第三級アンモニウムハライド[RNH]Xであり、式中、Xは、それぞれにおいて、Cl、BrまたはIである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アンモニウムおよび/またはホスホニウム塩が、[n-BuN]Cl、[EtN]Cl、[PhP]Cl、および[n-BuP]Clからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
は、
分岐または非分岐のC-C20アルキル基、
炭素骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、分岐または非分岐のC-C13ヘテロアルキル基、
分岐または非分岐のC-C20アルケニル基(但し、nが2~4の場合にはC4-nClを除く)、
-C14シクロアルキル基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロシクロアルキル基、
(CH-Ar(式中、Arは、C-C14アリール基であり、nは1~3である)、
ここで、前記基の全てが、非置換であってもよいし、ハロゲン、C-Cアルコキシ、ビニル、フェニルまたはC-Cアルキルで単独または複数置換されていてもよく、
メチル基、
(CHX(式中、nは、1~10であり、Xは、F、Cl、BrまたはIである)、
(CHSiMe3-m-Cl(式中、nは0~5、mは0、1、2、3である)、
からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化炭化水素が、メチルクロライド、エチルクロライド、n-プロピルクロライド、イソプロピルクロライド、n-ブチルクロライド、tert-ブチルクロライド、イソブチルクロライド、sec-ブチルクロライド、n-ペンチルクロライド、n-ペンチルヨード、n-ペンチルブロマイド、n-ペンチルフロライド、n-オクチルクロライド、1-クロロヘキサデカン、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロプロパン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロパン、モノクロロベンゼン、ベンジルクロライド、ビニルクロライド、アリルクロライド、アリルブロマイド、1-クロロ-2,4,4-トリメチルペンタン、ヘキサデシルクロライド、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン、トリクロロ(クロロメチル)シラン、ジクロロ(クロロメチル)シラン、トリメチル(クロロメチル)シラン、トリメチル(3-クロロプロピル)シラン、クロチルクロライド、4-フルオロベンジルクロライド、4-クロロベンジルクロライド、4-メトキシベンジルクロライド、4-フェニルベンジルクロライド、ジフェニル-1-ジクロロメタン、(1-クロロエチル)ベンゼン、シクロペンチルクロライド、1-ブロモ-3-クロロプロパン、1,4-ジクロロブタン、1,4-ビス(クロロメチル)ベンゼンからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ジクロロシランがトリクロロシランの不均化によってその場で形成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が連続的またはバッチ式で操作される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロシランをアンモニウムおよび/またはホスホニウム塩の存在下において、少なくとも1つのハロゲン化炭化水素またはハロゲン化水素と反応させる、ジクロロシランの脱水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハロシラン、特に有機トリハロシランは、疎水化剤として、または有機シランの出発原料として使用される。有機シランまたは有機官能性シランは、反応性有機基の機能性とアルキルケイ酸塩の無機官能性を組み合わせたハイブリッド化合物である。これらは、有機ポリマーと無機材料の間の分子ブリッジとして使用することができる。工業的に重要なもう一つの用途は、シリコーンの成分としての使用である。
【0003】
大規模にC-Si結合を効率的に構築するための唯一の方法は、これまでヒドロシリル化とミュラー・ローショー法であった。ハイドロシリル化は、Si-C結合を形成できるように、常に有機基とSi-Hの二重結合または三重結合が必要である。ミュラー・ローショー法は、元素シリコンとMeClのような単純な有機塩素化合物をベースにしている。ミュラー・ローショー法には約300℃の温度が必要であるが、ほとんどの物質が分解するため、使用できる物質の範囲が限られている。
【0004】
有機シランを調製するためのいくつかの方法が文献から知られている。例えば、US2002/0082438A1には、トリクロロシラン、ジクロロシランまたはジクロロメチルシランから出発する有機クロロシランの合成が記載されている。使用されるさらなる出発物質は、式RCHX(式中、XはClまたはBrであり、Rは、C1-17アルキル、部分的または完全にフッ素化されたC1-10フッ素化アルキル、C1-5アルケニル、(CHSiMe3-mCl(式中、nは0~2、mは0~3である)、(CHX(式中、pは1~9、XはClまたはBrである)、またはArCHX(式中、Arは芳香族C6-14炭化水素、XはClまたはBrである)から選択され、Rは、H、C1-6アルキル、Ar(R’)(式中、Arは芳香族C6-14炭化水素、RはC1-4アルキル、ハロゲン、アルコキシまたはビニルであり、qは0~5である)から選択される)の化合物である。触媒としては、各種の第4級ホスホニウムハライドが用いられる。反応機構は、全ての反応において塩化水素の消去を伴う脱塩素化であると想定される。
【0005】
DE10018101A1は、トリクロロシラン、ジクロロシランまたはジクロロメチルシランから出発する有機クロロシランを調製する方法を開示している。使用されるさらなる出発物質は、式RCHX(式中、XはClまたはBrであり、Rは、C1-17アルキル、部分的または完全にフッ素化されたC1-10フッ素化アルキル、C1-5アルケニル、(CHSiMe3-mCl(式中、nは0~2であり、mは0~3である)、Ar(R’)(式中、Arは芳香族C6-14炭化水素、RはC1-4アルキル、ハロゲン、アルコキシまたはビニルであり、qは0~5である)、(CHX(式中、pは1~9、XはClまたはBrである)、またはArCHX(式中、Arは芳香族C6-14炭化水素、XはClまたはBrである)から選択される)の化合物である。触媒としては、第3級アミンまたはホスフィンが用いられる。反応機構は、全ての反応において塩化水素の消去を伴う脱塩素化であると想定される。
【0006】
US2012/0114544A1は、式HClSi-R(式中、RはCl、メチル、トリクロロシリルメチル、ジクロロシリルメチルまたはメチルジクロロシリルメチル)のシランから出発する有機クロロシランを調製する方法を開示している。使用されるさらなる出発物質は、式R-SiCl(式中、RはCl、直鎖C2-18アルキル基、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、イソオクチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロヘキセニルメチル、2-(2-ピリジル)エチル、2-(4-ピリジル)エチル、ビシクロヘプト-2-イル、ビシクロヘプテン-5-イルエチル、11-アセトキシウンデシル、11-クロロウンデシル、フェニル、ベンジル、2-フェニルエチル、1-ナフチル、ジフェニルメチル、CH(C=O)O(CH)k(式中、kは2.3、10である)、CF(CF2)CHCH(式中、lは0~12である)、R-Ph-(CH(式中、mは0、1、2、3、およびRはC1~4アルキル基またはハロゲンである)、Cl-(CH-(式中、nは1~12)、NC-(CH-(式中、oは2~11)、CH=CH-(CH-(式中、pは0~20である)、Ar-CH(Me)-CH-(式中、ArはC1~4アルキル基、ハロゲン原子で置換されたフェニル、ビフェニル、ビフェニルエーテル、またはナフチルである)、ArO-(CH-(式中、qは3~18、Arはフェニル、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ナフチル、またはフェナントリルである)、ClSi-(CH(式中、rは0~12である)、ClSi-(CH-Ar-(CH(式中、sは0または1であり、Arはフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニルまたは2,2,5,5-テトラクロロ-4-トリクロロシリル-2,5-ジシリルシクロヘキシルである)、またはAr-(CH-(式中、tは0または1であり、Arはフェニル、ビフェニル、ナフチルまたはアントラセニル)、トリクロロシリル(ClSi-)またはトリクロロシリルオキシ(ClSiO)である)の化合物である。触媒としては、第4級ホスホニウムハライドが用いられる。
【0007】
Jungら(J.Org.Chem.692(2007)3901-3906)は、トリクロロシランとクロロホルムや四塩化炭素などのポリクロロメタンとの反応を開示している。触媒として第四級ホスホニウムハライドBuPClを使用している。反応機構は、全ての反応において塩化水素の消去を伴う脱ハロゲン化であると想定される。
【0008】
EP1705180A1は、式HClSi-R(式中、Rは、H、ハロゲンまたはC1-6アルキル)のシランから出発する有機チオメチルシランを合成する方法を開示している。使用されるさらなる出発物質は、式R-S-CH-X(式中、Xはハロゲンであり、RはC1-6アルキルまたはアリールである)の化合物である。触媒として第四級アンモニウムまたはホスホニウムハライドが使用される。反応機構は、全ての反応において塩化水素の消去を伴う脱ハロゲン化であると想定される。
【0009】
DE102014118658A1には、トリクロロシランとジクロロシランから出発する過ハロゲン化シクロヘキサシランアニオンの調製方法が記載されている。触媒として第四級アンモニウムまたはホスホニウムハライドが使用される。合成の副産物としての水素の生成が記載されている。
【0010】
DE102015105501A1は、以下の過塩素化、アニオン性、シリル化炭素化合物[C(SiCl、[(ClSi)C-C(SiCl、[(ClC)SiCl、および[ClCSiClの合成を記載している。
式C4-nCl(式中、mは1または2、nは2~4)のクロロ炭素化合物が使用される。他の出発化合物であるシランは、トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、および過塩素化シクロヘキサシランアニオンに限定される。触媒としては、化学量論的量の第四級アンモニウムまたはホスホニウムハライドが使用される。
【発明の概要】
【0011】
従って、本発明の目的は、(有機)トリハロシランまたはトリクロロシランを経済的に製造することができる方法を提供することである。さらに、この方法はまた、2つの既存の方法によって調製することができない物質へのアクセスを可能にする。
【0012】
この目的は、ジクロロシランを脱水素化する方法によって達成され、この方法は、ジクロロシランを、アンモニウムおよび/またはホスホニウム塩の存在下において、70~300℃の範囲内の温度で、以下:
(A)式(I):
-X (I)
(式中、Xは、F、Cl、BrまたはIであり、
は、
分岐または非分岐のC-C20アルキル基、
炭素骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、分岐または非分岐のC-C13ヘテロアルキル基、
部分的または完全にフッ素化されている、分枝または非分枝のC-C10フルオロアルキル基、
分岐または非分岐のC-C20アルケニル基(但し、nが2~4の場合にはC4-nClを除く)、
分岐または非分岐のC-C20アルキニル基、
-C14シクロアルキル基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロシクロアルキル基、
-C14アリール基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロアリール基、
(CH-Ar(式中、Arは、C-C14アリール基であり、nは1~5である)、
ここで、前記基の全てが、非置換であってもよいし、ハロゲン、C-Cアルコキシ、ビニル、フェニルまたはC-Cアルキルで単独または複数置換されていてもよく、
メチル基、
(CHX(式中、nは1~10であり、Xは、F、Cl、BrまたはIである)、
-S-CH基(式中、Rは、C-CアルキルまたはC-C14アリールである)、
(CHSiMe3-m-Cl(式中、nは0~5、mは0、1、2、3である)、
(CHNH(C=O)OCH(式中、nは1~5である)、
(CHOCH(オキシラン)(式中、nは1~5である)、
(CHO(C=O)(C(CH)=CH)(式中、nは1~5である)、
(CHNH(式中、nは1~5である)、
(CHNH(C=O)NH(式中、nは1~5である)、
(CHNHR(式中、nは1~5であり、RはシクロヘキシルまたはCNHである)、
のハロゲン化炭化水素の少なくとも1種、または
(B)ハロゲン化水素
のいずれかと反応させる方法である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に従った方法において、ジクロロシランを、触媒としてのアンモニウムおよび/またはホスホニウム塩の存在下において、式(I)のハロゲン化炭化水素またはハロゲン化水素と反応させる。ジクロロシランおよびトリクロロシランの両方を、本発明に従った方法において反応物として使用することができる。ジクロロシランは、この方法によって直接脱水素化される。一方、トリクロロシランは、最初はテトラクロロシランとジクロロシランに不均化され(反応スキーム1)、その後、脱水素化を受ける。
【化1】
【0014】
ジクロロシランの脱水素化は、以下の反応スキーム2に従って進行する。
【化2】
【0015】
最初の反応ステップでは、水素の除去により、ジクロロシランから非可溶性中間体[SiClが形成される(反応スキーム2)。このアニオンは、形式的な求核置換を介してさらに反応するか、またはジクロロシレンとして挿入することができる。R-Cl結合との反応の場合、生成物はどちらの場合も化合物R-SiClであり、どちらの場合も塩化物イオンが再び遊離し、それが触媒として利用可能になる(反応スキーム3)。
【化3】
【0016】
中間体と化合物R-X(XはF、BrまたはIである)との反応により、塩化物イオンに加えて、ケイ素でのハロゲン交換の結果、化合物R-SiCl3-n(nは0、1、2または3である)が形成され、合計4つの生成物が得られる(反応スキーム4)。
【化4】
【0017】
中間体が例えばHClと反応すると、トリクロロシランが生成し、塩化物イオンが遊離する(反応スキーム5)。
【化5】
【0018】
本発明に従った方法では、触媒としてアンモニウムおよび/またはホスホニウム塩が使用される。アンモニウムおよび/またはホスホニウム塩はまた、固定化された形態、例えばシリコーン樹脂上、シリカ上、無機支持体上、または有機ポリマー上で使用されてもよい。また、アンモニウムおよび/またはホスホニウム塩は、アミンまたはホスフィンとHClとからその場で形成されてもよい。
【0019】
第四級アンモニウムハライド[RN]Xとホスホニウムハライド[RP]Xまたは第三級アンモニウムハライド[RNH]Xが特に好適であり、それぞれの場合には以下の通りである。
XはCl、BrまたはIであり、好ましくはClまたはBrである。
Rは独立して、C-C12アルキル基、C-Cアルキル置換C-C14アリール基、およびフェニル基からなる群から選択され、好ましくはエチル、n-ブチル、およびフェニルが挙げられる。
【0020】
特に好ましい例としては、[n-BuN]Cl、[EtN]Cl、[PhP]Cl、[n-BuP]Clが挙げられる。
【0021】
使用される反応剤は、ハロゲン化水素または式(I)のハロゲン化炭化水素である。
【0022】
ハロゲン化水素は、フッ化水素、塩化水素、臭化水素またはヨウ化水素を意味するものと理解され、塩化水素が好ましい。
【0023】
-X (I)
(式中、Xは、F、Cl、BrまたはIであり、
は、
分岐または非分岐のC-C20アルキル基、
炭素骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、分岐または非分岐のC-C13ヘテロアルキル基、
部分的または完全にフッ素化されている、分枝または非分枝のC-C10フルオロアルキル基、
分岐または非分岐のC-C20アルケニル基(但し、nが2~4の場合にはC4-nClを除く)、
分岐または非分岐のC-C20アルキニル基、
-C14シクロアルキル基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロシクロアルキル基、
-C14アリール基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロアリール基、
(CH-Ar(式中、Arは、C-C14アリール基であり、nは1~5である)、
ここで、前記基の全てが、非置換であってもよいし、ハロゲン、C-Cアルコキシ、ビニル、フェニルまたはC-Cアルキルで単独または複数置換されていてもよく、
メチル基、
(CHX(式中、nは1~10であり、Xは、F、Cl、BrまたはIである)、
-S-CH基(式中、Rは、C-CアルキルまたはC-C14アリールである)、
(CHSiMe3-m-Cl(式中、nは0~5、mは0、1、2、3である)、
(CHNH(C=O)OCH(式中、nは1~5である)、
(CHOCH(オキシラン)(式中、nは1~5である)、
(CHO(C=O)(C(CH)=CH)(式中、nは1~5である)、
(CHNH(式中、nは1~5である)、
(CHNH(C=O)NH(式中、nは1~5である)、
(CHNHR(式中、nは1~5であり、RはシクロヘキシルまたはCNHである)。
【0024】
式(I)のRは、好ましくは、以下:
分岐または非分岐のC-C20アルキル基、
炭素骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、分岐または非分岐のC-C13ヘテロアルキル基、
分岐または非分岐のC-C20アルケニル基(但し、nが2~4の場合にはC4-nClを除く)、
-C14シクロアルキル基、
環骨格がN、P、SまたはOから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む、C-C13ヘテロシクロアルキル基、
(CH-Ar(式中、Arは、C-C14アリール基であり、nは1~3である)、
ここで、前記基の全てが、非置換であってもよいし、ハロゲン、C-Cアルコキシ、ビニル、フェニルまたはC-Cアルキルで単独または複数置換されていてもよく、
メチル基、
(CHX(式中、nは1~10であり、Xは、F、Cl、BrまたはIである)、
(CHSiMe3-m-Cl(式中、nは0~5、mは0、1、2、3である)、
からなる群から選択される、
【0025】
そのような化合物の例としては、メチルクロライド、エチルクロライド、n-プロピルクロライド、イソプロピルクロライド、n-ブチルクロライド、tert-ブチルクロライド、イソブチルクロライド、sec-ブチルクロライド、n-ペンチルクロライド、n-ペンチルヨード、n-ペンチルブロマイド、n-ペンチルフロライド、n-オクチルクロライド、1-クロロヘキサデカン、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロプロパン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロパン、モノクロロベンゼン、ベンジルクロライド、ビニルクロライド、アリルクロライド、アリルブロマイド、1-クロロ-2,4,4-トリメチルペンタン、ヘキサデシルクロライド、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン、トリクロロ(クロロメチル)シラン、ジクロロ(クロロメチル)シラン、トリメチル(クロロメチル)シラン、トリメチル(3-クロロプロピル)シラン、クロチルクロライド、4-フルオロベンジルクロライド、4-クロロベンジルクロライド、4-メトキシベンジルクロライド、4-フェニルベンジルクロライド、ジフェニル-1-ジクロロメタン、(1-クロロエチル)ベンゼン、シクロペンチルクロライド、1-ブロモ-3-クロロプロパン、1,4-ジクロロブタン、1,4-ビス(クロロメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0026】
本発明に従った方法は、70~300℃の範囲内の温度で実施される。好ましくは100~300℃の範囲内の温度であり、より好ましくは100~180℃の範囲内の温度であり、特に好ましくは150~180℃の範囲内の温度である。最も好ましくは、温度は170~180℃の範囲内である。
【0027】
ハロゲン化水素またはハロゲン化炭化水素のジクロロシランに対するモル比は、当業者であれば自由に選択することができる。
【0028】
反応物としてハロゲン化水素を用いる場合、好ましくはハロゲン化水素の添加量は、変換されるジクロロシランの化学量論量に相当する。他のすべての反応物の場合、形式的に使用されるジクロロシランの化学量論的量は、好ましくは、少なくともシリル化されるR-X結合の量に相当する。仮に全てのR-X結合がシリル化されない場合、化合物R-Xは、好ましくは超化学量論的量で使用される。ジクロロシランとハロゲン化水素またはハロゲン化炭化水素とのモル比は、R-X結合の量に基づいて、1:1~1:10の範囲内であることが特に好ましい。
【0029】
触媒とジクロロシランとのモル比は、当業者であれば自由に選択することができる。好ましくは、モル比は0.01:1~0.2:1の範囲内である。
【0030】
ジクロロシランの脱水素化のための本発明に従った方法は、経済的な方法で有機シランを調製することを可能にする。この方法はまた、ジクロロシランをトリクロロシランに変換することを可能にする。一方で、クロロシラン工程で副産物として形成されたジクロロシランは、原理的にこの方法で主生成物であるトリクロロシランに変換することができる。あるいは、両物質の混合物を、混合物中のジクロロシランの割合を低くするように、あるいは混合物を完全にトリクロロシランに変換するように加工してもよい。
【実施例
【0031】
GC測定は、Agilent6890N(WLD検出器;カラムAgilent社製HP5:長さ30m/直径0.32mm/膜厚0.25μm、Restek社製RTX-200:長さ60m/直径0.32mm/膜厚1μm)を用いて行った。保持時間は市販の物質と比較し、全ての化学品は購入したものを使用した。MS測定は、イリジウム陰極を備えたThermoStarTMGSD320T2を用いて行った。
【0032】
トリクロロシランを出発物質とする反応
実施例1:トリクロロメチルシランの合成
オートクレーブにHSiCl(50g;0.37mol)、[n-BuN]Cl(0.2g;0.7mmol)、及びMeCl(9.4g;0.19mol)を充填した。オートクレーブを140℃に13時間加熱した。冷却後、約10バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、30重量%のClSiMe、50重量%のSiCl及び20重量%のHSiClから構成され、これに加えて、痕跡量のMeCl及び痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0033】
実施例2:n-プロピルトリクロロシランの合成
オートクレーブにHSiCl(40g;0.30mol)、[n-BuP]Cl(2g;6.8mmol)、及びMeCHCHCl(10g;0.13mol)を充填した。オートクレーブを175℃に13時間加熱した。冷却後、約20バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、48重量%のClSiCHCHMe、42重量%のSiCl、8重量%のHSiCl、及び2重量%のMeCHCHClから構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0034】
実施例3:1-クロロ-3-トリクロロシリルプロパンおよび1,3-ビス(トリクロロシリル)プロパンの合成
オートクレーブにHSiCl(36.6g;0.27mol)、[n-BuP]Cl(2g;6.8mmol)、およびCl-CHCHCH-Cl(15.4g;0.13mol)を充填した。オートクレーブを170℃に13時間加熱した。冷却後、約10バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、25重量%のClSiCHCHCHCl、14重量%のClSiCHCHCHSiCl、14重量%のClCHCHCHCl、45重量%のSiCl、2重量%のHSiCl、および痕跡量のHSiClから構成されていた。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0035】
実施例4:1-クロロ-3-トリクロロシリルプロパンの合成
オートクレーブにHSiCl(18g;0.13mol)、[n-BuP]Cl(2g;6.8mmol)、およびCl-CHCHCH-Cl(30.2g;0.27mol)を充填した。オートクレーブを170℃に13時間加熱した。冷却後、約5barの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、21重量%のClSiCHCHCHCl、1重量%のClSiCHCHCHSiCl、59重量%のCl-CHCHCH-Cl、19重量%のSiCl、および痕跡量のHSiClから構成されていた。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0036】
実施例5:アリルトリクロロシランの合成
オートクレーブにHSiCl(20g;0.15mol)、[n-BuP]Cl(2g;6.8mmol)、および塩化アリル(11.2g;0.15mol)を充填した。オートクレーブを150℃に13時間加熱した。冷却後、約15バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、42重量%のClSiCHCH、40重量%のSiCl、18重量%のClCHCH、および痕跡量のHSiClから構成されていた。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0037】
ジクロロシランを出発物質とする反応
実施例6a)N-プロピルトリクロロシランの合成
オートクレーブに、HSiCl(27g;0.27mol)、[n-BuP]Cl(2.5g;8mmol)、およびMeCHCHCl(49.5g;0.63mol)を充填した。オートクレーブを175℃に13時間加熱した。冷却後、約45バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、50重量%のClSiCHCHMe、2重量%のSiCl、2重量%のHSiCl、及び46重量%のMeCHCHClから構成され、これに加えて、痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0038】
実施例6b)n-ペンチルトリクロロシランの合成
オートクレーブにHSiCl(15g;0.15mol)、[n-BuP]Cl(2.5g;8mmol)、およびMe(CHCl(50.5g;0.48mol)を充填した。オートクレーブを177℃に13時間加熱した。冷却後、約13バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、45重量%のClSi(CHMeと55重量%のMe(CHClから構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0039】
実施例6c)1-ヨードペンタンからのn-ペンチルトリハロシランの合成
オートクレーブにHSiCl(11g;0.11mol)、[n-BuP]Cl(2.0g;7mmol)、およびMe(CHI(27.5g;0.14mol)を充填した。オートクレーブを175℃に13時間加熱した。冷却後、約16barの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、80重量%のCl3-nSi(CHMe(nは0~3である)と20重量%のMe(CHIの混合物から構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0040】
実施例6d)1-ブロモペンタンからのn-ペンチルトリハロシランの合成
オートクレーブにHSiCl(26g;0.26mol)、[n-BuP]Cl(2.0g;7mmol)、およびMe(CHBr(40.0g;0.27mol)を充填した。オートクレーブを170℃に13時間加熱した。冷却後、約33barの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、100重量%のCl3-nBrSi(CHMe(nは0~3である)から構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認された。
【0041】
実施例6e)1-フルオロペンタンからのn-ペンチルトリハロシランの合成
オートクレーブにHSiCl(26g;0.26mol)、[n-BuP]Cl(2.0g;7mmol)、およびMe(CHF(23.5g;0.26mol)を充填した。オートクレーブを170℃に13時間加熱した。冷却後、約10バールの圧力がオートクレーブ内に残った。生成物の混合物は、100重量%のCl3-nSi(CHMe(nは0~3である)から構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により、水素であることが明確に確認された。
【0042】
実施例7a)ジクロロシランとHClとの反応
オートクレーブに、HSiCl(17g;0.17mol)、HCl(6.2g;0.17mol)、[n-BuP]Cl(2.0g;7mmol)、およびHSiCl(20g;0.25mol)を充填した。オートクレーブを180℃に13時間加熱した。冷却後、約19気圧の圧力がオートクレーブ内に残った。生成物は100%重量%のHSiClから構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応中に発生したガスは、質量分析により水素であることが明確に確認され、さらに痕跡量のHClも検出可能であった。
【0043】
実施例7b)ジクロロシランとHClの反応
オートクレーブに、HSiCl(17g;0.17mol)、HCl(6.2g;0.17mol)、BuN(1.0g;5mmol)、およびHSiCl(20g;0.15mol)を充填した。オートクレーブを180℃に13時間加熱した。冷却後、約19気圧の圧力がオートクレーブ内に残った。生成物は100%重量%のHSiClから構成され、これに加えて痕跡量のHSiClが検出可能であった。反応で発生したガスは、質量分析法により水素であることが明確に確認され、さらに、痕跡量のHClも検出可能であった。