(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法、これを用いた半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20221101BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20221101BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20221101BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
C22F1/08 C
C22C9/00
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 686A
C22F1/00 694Z
C22F1/00 613
C22F1/00 625
C22F1/00 627
C22F1/00 630K
C22F1/00 630M
C22F1/00 661A
(21)【出願番号】P 2021524674
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010118
(87)【国際公開番号】W WO2020246094
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019104652
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000217332
【氏名又は名称】田中電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 満生
(72)【発明者】
【氏名】前田 菜那子
(72)【発明者】
【氏名】松澤 修
(72)【発明者】
【氏名】石川 良
(72)【発明者】
【氏名】小林 卓也
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特許第6507329(JP,B1)
【文献】特許第6487108(JP,B1)
【文献】特開平02-090639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60-21/603
C22C 9/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする芯材と、前記芯材上のパラジウム層とを有するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤであって、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数が0.20以下であることを特徴とするパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項2】
硫黄族元素の少なくとも1種を含み、前記硫黄族元素のワイヤ全体に対する合計の濃度が、前記銅を主成分とする芯材由来の硫黄族元素を除いた濃度で、50質量ppm以下である請求項1に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項3】
硫黄族元素の少なくとも1種を含み、前記硫黄族元素のワイヤ全体に対する濃度から前記銅を主成分とする芯材由来の硫黄族元素を除いた濃度として、硫黄濃度が5.0質量ppm以上12.0質量ppm以下であるか、セレン濃度が5.0質量ppm以上20.0質量ppm以下であるか又はテルル濃度が15.0質量ppm以上50.0質量ppm以下である請求項1又は2に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項4】
Au、Pd、Pt、Rh、Ni、In、Ga、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上の微量元素を、ワイヤ全体に対して合計で1質量ppm以上3質量%以下含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項5】
前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤが、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、In、Ga、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上の微量元素を含み、かつ、前記微量元素として、Au、Pd、Pt、Rh及びNiから選ばれる1種以上を含む場合にこれらの含有量はワイヤ全体に対して合計で0.05質量%以上3質量%以下、InとGaのうち1種以上を含む場合にこれらの含有量はワイヤ全体に対して合計で0.01質量%以上0.7質量%以下、Pを含む場合にその含有量はワイヤ全体に対して5質量ppm以上500質量ppm以下、Ag、Fe及びTlのうち1種以上を含む場合にこれらの含有量はワイヤ全体に対して合計で1質量ppm以上100質量ppm以下である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項6】
前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの全体に対して、前記パラジウム層由来のパラジウム濃度が1.0質量%以上2.5質量%以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項7】
前記パラジウム層上に金の層を有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項8】
前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径は10μm以上25μm以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ。
【請求項9】
所定の純度の銅を溶解して銅を主成分とする
銅線材を準備し、
前記
銅線材の表面に所定量のパラジウムを被覆してパラジウム層
を形成し、
前記パラジウム層が形成された銅線材を伸線することにより、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0~4.0質量%であり、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数が0.20以下であるパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ
を製造する製造方法。
【請求項10】
前記パラジウム層を形成後からの加工率が60%以上90%以下の間で中間熱処理を行う請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
銅を主成分としてAu、Pd、Pt、Rh、Ni、In、Ga、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上の微量元素を、ワイヤ全体に対して合計で1質量ppm以上3質量%以下となる量で含む銅線材を準備し、前記銅線材の表面にパラジウム層を形成し、
前記パラジウム層を形成した銅線材を伸線する請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
半導体チップと、
前記半導体チップ上に設けられた、アルミニウムを含有するアルミニウム電極と、
前記半導体チップの外部に設けられ、金被覆又は銀被覆を有する外部電極と、
前記アルミニウム電極と前記外部電極表面を接続する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤと
を有する半導体装置。
【請求項13】
QFP(Quad Flat Packaging)、BGA(Ball Grid Array)又はQFN(Quad For Non-Lead Packaging)を構成する請求項12に記載の半導体装置。
【請求項14】
車載用途である請求項12又は13に記載の半導体装置。
【請求項15】
半導体チップと、半導体チップ上に設けられた、アルミニウムを含有するアルミニウム電極と、半導体チップの外部に設けられ、金被覆又は銀被覆を有する外部電極と、前記アルミニウム電極と前記外部電極表面を接続するボンディングワイヤとを有する半導体装置の製造方法であって、
銅を主成分とする芯材と、前記芯材上のパラジウム層とを有し、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数が0.20以下であるパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを準備し、
前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ先端に、フリーエアーボールを形成し、
前記フリーエアーボールを介して前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤを前記アルミニウム電極にボール接合し、
その後、前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの前記フリーエアーボールから前記ボンディングワイヤの長さ分離間した箇所を前記外部電極表面に第二接合することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の電極と外部電極のボールボンディングに好適なパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ、その製造方法、これを用いた半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体素子の電極と半導体用回路配線基板上の外部電極は、ワイヤボンディングにより接続される。このワイヤボンディングでは、ボール接合と呼ばれる方式によって半導体素子の電極とボンディングワイヤの一端が接合され(第一接合)、ウェッジ接合と呼ばれる方式によって、ボンディングワイヤの他端と外部電極とが接合される(第二接合)。ボール接合では、ボンディングワイヤの先端に溶融ボールを形成し、この溶融ボールを介してボンディングワイヤを、例えば、半導体素子上のアルミニウム電極表面に接続する。
【0003】
溶融ボールの形成では、まず、ボンディングワイヤの先端を鉛直方向にして保持し、エレクトロン・フレーム・オフ(EFO)方式によりワイヤ先端と放電トーチとの間でアーク放電を形成し、その放電電流によりワイヤ先端に入熱する。この入熱によりボンディングワイヤの先端が加熱されて溶融する。溶融金属は、その表面張力によってワイヤを伝って上昇し、真球状の溶融ボールがワイヤ先端に形成され、凝固することでフリーエアーボール(FAB)が形成される。そして、半導体素子の電極を140~300℃程度に加熱しながら超音波を印加した状態で、電極上にフリーエアーボールを圧着することでボンディングワイヤの一端がアルミニウム電極上に接合される。
【0004】
ワイヤボンディングには、線径が10~30μm程度の金線が用いられていたが、金は非常に高価なため、一部代替可能なところでは銅線が用いられてきた。しかし、銅線は、酸化しやすいという問題があるため、酸化の問題を解消するために、表面にパラジウムを被覆したパラジウム被覆銅ワイヤが用いられるようになってきた。
【0005】
パラジウム被覆銅ワイヤは、銅そのものが有するワイヤやフリーエアーボールの酸化の問題や、被覆によって損なわれがちな特性改良の問題を有しているものの、金より安価であるため、パーソナルコンピューターやその周辺機器、通信用機器等の民生機器等の比較的緩やかな条件下での使用において急速に普及してきた。さらに、近年では、パラジウム被覆銅ワイヤの改良が進められており、車載用デバイスなど、過酷な条件下で使用されるボンディングワイヤについても、パラジウム被覆銅ワイヤへの移行が進んできている。
【0006】
そのため、パラジウム被覆銅ワイヤに対しては、車載用デバイスに適するように、極めて過酷でかつ変化の激しい条件に耐え得ることが求められるようになってきた。具体的には、熱帯地方や砂漠などの高温、高湿の地域から寒冷地まで、また、山岳地域から臨海地域までに至る幅広い自然環境やその変化に耐え、さらには、道路事情や交通事情によって生じる衝撃や振動に耐え得ることが要求される。さらに近年では、自動車のエンジンルーム内のみならず航空機に搭載される半導体製品への適用も検討されるようになってきた。そのため、接合信頼性において、民生用途の比較的緩やかな条件から、過酷な条件下の使用まで耐え得る、従来よりも高いレベルの信頼性の要求を満たすパラジウム被覆銅ボンディングワイヤが求められるに至ったのである。
【0007】
このような高信頼性の要求を満たすパラジウム被覆銅ワイヤの開発の過程において、0.2%耐力、最大耐力及び単位断面積当たりの伸び値を所定の範囲に調節して、被覆銅ワイヤの接合性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献1参照。)。また、170℃以上の高温環境でのボール接合部の接合信頼性を向上させる目的で、ワイヤにNi、Zn、Rh、In、Ir、Ptなどの元素を所定量含有させて、最大耐力/0.2%耐力で表される耐力比を調節したパラジウム被覆銅ワイヤも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-140953号公報
【文献】特開2017-5240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、近年半導体素子の高集積化、高密度化が著しく進行し、これに伴って、ワイヤボンディングの狭ピッチ化、細線化、多ピン・長ワイヤ化等への要求が厳しくなっている。中でも、狭ピッチ化は急激に加速しており、現行の量産レベルでは、60μmピッチが実現され、50μmピッチの開発が行われている。さらには、45μmや40μmなどの極狭ピッチの実用化が期待されている。
【0010】
QFP(Quad Flat Packaging)、BGA(Ball Grid Array)、QFN(Quad For Non-Lead Packaging)などの半導体パッケージの中でも、例えばBGAでは従来1つの集積回路(IC:Integrated Circuit)に多くのワイヤが接合されていた。ワイヤボンディングの狭ピッチ化に伴い、QFPやQFNでも、1つのICに500本以上のワイヤが接合される製品も製造されている。このように、1つのICに接合されるワイヤの本数が増大してくると、隣接するワイヤとワイヤが接触するリスクが高くなるという問題があった。
【0011】
この接触の問題としては、大まかに分けて横方向に隣り合うワイヤ同士の接触の問題と高さ方向に隣り合うワイヤ同士の接触の問題がある。このような隣り合うワイヤ同士の接触の問題として、ボール接合近傍のワイヤ直立部が倒れて、隣接ワイヤとの間隔が接近するリーニング現象がある。上記のような狭ピッチ接合においては、隣接するワイヤ同士の接触を避けるために、さらなるリーニング性の向上が求められる。
【0012】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、リーニング性を向上することができるとともに、高温、高湿の環境においてもボールボンディングの接合信頼性を安定的に維持することができるパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ及びその製造方法を提供することを目的とする。なお、「リーニング性」とはリーニングを抑制する性質という意味で用いている。
また、本発明は、リーニング性を向上することができるとともに、高温、高湿の環境においても接合信頼性を安定的に維持することができる半導体装置、特には、QFP(Quad Flat Packaging)、BGA(Ball Grid Array)、QFN(Quad For Non-Lead Packaging)のパッケージに好適で、車載用途に使用できる半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、前記芯材上のパラジウム層とを有するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤであって、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、ワイヤの伸び率が2%以上最大伸び率εmax%以下の変化量における加工硬化係数が0.20以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、硫黄族元素の少なくとも1種を含み、前記硫黄族元素のワイヤ全体に対する合計の濃度が、前記銅を主成分とする芯材由来の硫黄族元素を除いた濃度で、50質量ppm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、硫黄族元素の少なくとも1種を含み、前記硫黄族元素のワイヤ全体に対する濃度から前記銅を主成分とする芯材由来の硫黄族元素を除いた濃度として、硫黄濃度が5.0質量ppm以上12.0質量ppm以下であるか、セレン濃度が5.0質量ppm以上20.0質量ppm以下であるか又はテルル濃度が15.0質量ppm以上50.0質量ppm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、In、Ga、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上の微量元素を、ワイヤ全体に対して合計で1質量ppm以上3質量%以下含むことが好ましい。
【0017】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、In、Ga、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上の微量元素を含み、かつ、前記微量元素として、Au、Pd、Pt、Rh及びNiから選ばれる1種以上を含む場合にこれらの含有量はワイヤ全体に対して合計で0.05質量%以上3質量%以下、InとGaのうち1種以上を含む場合にこれらの含有量はワイヤ全体に対して合計で0.01質量%以上0.7質量%以下、Pを含む場合にその含有量はワイヤ全体に対して5質量ppm以上500質量ppm以下、Ag、Fe及びTlのうち1種以上を含む場合にこれらの含有量はワイヤ全体に対して合計で1質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、パラジウム層上に金の層を有することが好ましい。また、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径は10μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法は、銅を主成分とする芯材と、前記芯材上のパラジウム層とを有し、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0~4.0質量%であり、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数が0.20以下であるパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法である。このパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法においては、銅を主成分とする銅線材を準備し、前記銅線材の表面にパラジウム層を形成し、前記パラジウム層を形成した銅線材を伸線し、パラジウム層を形成後からの加工率が60%以上90%以下の間で中間熱処理を行うことが好ましい。または、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法においては、銅を主成分としてAu、Pd、Pt、Rh、Ni、In、Ga、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上の微量元素を、ワイヤ全体に対して合計で1質量ppm以上3質量%以下となる量で含む銅線材を準備し、前記銅線材の表面にパラジウム層を形成し、前記パラジウム層を形成した銅線材を伸線することが好ましい。
【0020】
本発明の半導体装置は、半導体チップと、半導体チップ上に設けられた、アルミニウムを含有するアルミニウム電極と、半導体チップの外部に設けられ、金被覆又は銀被覆を有する外部電極と、前記アルミニウム電極と前記外部電極表面を接続する本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤとを有する。
【0021】
この半導体製造装置の製造方法では、前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ先端に、フリーエアーボールを形成し、前記フリーエアーボールを介して前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤを前記アルミニウム電極にボール接合し、その後、前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの前記フリーエアーボールから前記ボンディングワイヤの長さ分離間した箇所を前記外部電極表面に第二接合する。
【0022】
本発明の半導体装置は、QFP(Quad Flat Packaging)、BGA(Ball Grid Array)又はQFN(Quad For Non-Lead Packaging) を構成することが好ましい。また、本発明の半導体装置は、車載用途であることが好ましい。
【0023】
本明細書において「~」の符号はその左右の数値を含む数値範囲を表す。また、硫黄族元素とは硫黄(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ及びその製造方法によれば、ボールボンディングに使用した場合に、リーニング性を向上することができるとともに、高温、高湿の環境においても長期間優れた接合信頼性を安定的に維持することができる。
本発明の半導体装置及びその製造方法によれば、リーニング性を向上することができるため、例えば狭ピッチ接合のショート不良の発生を抑制できるとともに、高温、高湿の環境においても長期間優れた接合信頼性を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】引け巣の一例を表す写真であり、
図1(a)は問題とならない小さな引け巣、
図1(b)は問題となる大きな引け巣である。
【
図3】実施形態の半導体装置におけるボール接合部の断面を模式的に表す図である。
【
図4】実施例のリーニング性評価方法を説明するための図であり、
図4(a)はルーピング接合の側面図、
図4(b)はその平面図である。
【
図6】伸び率の自然対数の変化量(Δlnε)と応力の自然対数の変化量(Δlnσ)のプロットの一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
本実施形態のパラジウム(Pd)被覆銅ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、前記芯材上のパラジウム層とを有する。そして、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0~4.0質量%であり、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下の変化量における加工硬化係数が0.20以下である。本明細書において、特に断らない限り、「加工硬化係数」は、伸び率2%から最大伸び率εmax%までの変化量における加工硬化係数を意味する。最大伸び率は、引張試験における、ワイヤが破断したときのワイヤ初期(引張試験前)の長さからのワイヤの伸び(長さ)の、ワイヤ初期の長さに対する割合であり、線径が10~25μmのパラジウム被覆銅ボンディングワイヤでは、通常2~20%の範囲の値であり得る。
【0028】
本発明者らは鋭意研究の結果、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、加工硬化係数が0.20以下であることで、極めて良好なリーニング性を実現することができることを見出した。加工硬化係数は0.18以下であることがより好ましい。また、加工硬化係数は小さいほど好ましいが、0.05以上であることがワイヤの加工性の点で好ましい。
【0029】
加工硬化係数とは、引張試験において所定の材料に応力を加えて変形させるときの、塑性変形領域の加工硬化特性を表す値であり、加工硬化係数が小さいワイヤほど、大小様々な応力に対して変形しにくい傾向を示す。この加工硬化係数を0.20以下にすることで、近接するワイヤ同士の接触によるショート不具合を防ぐ効果があることが見出された。
【0030】
ここで、加工硬化係数について説明する。ワイヤの機械的特性を測る試験の一つである引張試験を行う際に、ワイヤを引っ張る力を増大させていくとワイヤが変形する。引張試験においてワイヤを引っ張る力は一般に、「Stress」、「σ」、「荷重」、「耐力」、「応力」等と称される。また、上記ワイヤの変形量は、一般に、「Strain」、「ε」、「ひずみ」、「伸び率」等と称される。本明細書では、引張試験においてワイヤを引っ張る力を「応力」といい、符号σで表し、また、ワイヤの変形を「伸び率」といい、符号εで表す。この引張試験における応力と伸び率の関係を、縦軸を応力σ(MPa)とし、横軸を伸び率ε(%)として示したグラフがSS曲線(Stress-Strain曲線)である。
図5のグラフは、SS曲線のグラフの一例を表す。本実施形態におけるワイヤの加工硬化係数は、このSS曲線のグラフを用いて算出することができる。具体的に、加工硬化係数は伸び率の自然対数の変化量に対する応力の自然対数の変化量として、次式(1)で求めることができる。
【0031】
加工硬化係数=((応力の自然対数の変化量(Δlnσ)/(伸び率の自然対数の変化量(Δlnε)) ・・・(1)
【0032】
ワイヤボンディング時に繰り返し行われる、第一接合部(ボール接合部)から第二接合(ウェッジ接合)までのワイヤルーピングは、所望のルーピング形状に応じた制御プログラムによって、装置を自動制御して行われるのが一般的である。この制御プログラムは、ワイヤを繰り出す、キャピラリの動作とクランパ開閉のタイミングの組み合わせを、パラメータにより決定しており、ルーピング中のワイヤには、このパラメータに応じた応力が加わる。これら以外にも、ルーピング中のワイヤには、既にループ接合されたワイヤとの接触による応力や、ルーピングされているワイヤを繰り出しているキャピラリとの接触による応力などが加わる。
【0033】
近年の集積回路の多段化により、ループ形状は益々複雑となってきており、ルーピング実行中のワイヤには、複雑なループ形状を付与するための大きな応力が連続的に加えられる。所望のルーピング形状を連続的かつ高精度で形成させるため、このループ形状を付与するための大きな応力は、上記のパラメータ制御によって極めて安定的に保たれる。一方、ルーピング中のワイヤが、ルーピング接合後のワイヤやキャピラリとの接触から受ける応力は、大小様々であり、また、予期せず生じ、不安定である。
【0034】
加工硬化係数が小さいワイヤでは、わずかな応力で変形しにくいため、このような予期しない不安定な応力による変形が起きにくいが、意図的に強く与えられた応力に対しては安定的に変形する。そのため、加工硬化係数が小さいワイヤによれば、ルーピング中のワイヤの、意図しない部分的な変形を回避できることから、ループ形状の微小な変形が抑えられ、整然としたループボンディング配列を実現することができる。
【0035】
また、加工硬化係数として、伸び率2%以上最大伸び率εmax%の変化量による値を採用した理由は、概ね次のとおりである。本発明者らは、ルーピングで生じる変形が塑性変形であることから、ワイヤの塑性変形のしにくさが、近接するワイヤ同士の接触によるショート不具合の抑制につながると考えた。そして、この塑性変形のしにくさを反映させる条件として、引張試験におけるSS曲線グラフの塑性変形領域でのSSカーブの傾きに着目し、SSカーブの傾きが小さくフラットであるほど応力差による変形が抑えられると推定した。
【0036】
ボンディングワイヤを構成するCuやAgなどを主成分とする非鉄金属においては、塑性変形領域の起点を0.2%耐力(応力)点で近似するのが一般的である。しかし、0.2%耐力付近における、弾性変形領域と塑性変形領域の境界が必ずしも明瞭ではなく、0.2%耐力点での伸び率が塑性変形領域内に存在しないことがある。このことから、ワイヤの塑性変形に関する特徴を総合的に考慮するために、塑性変形領域内の範囲として、0.2%耐力点での伸び率よりも大きい、伸び率2%を、加工硬化係数を算出するための変化量の起点として採用した。そして、ワイヤが伸びきったときの値、すなわち、ワイヤが破断したときの伸び率(最大伸び率εmax%)を変化量の終点として採用した。
【0037】
本実施形態における「伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数」は次のように求められる。上記式(1)の分母「伸び率の自然対数の変化量(Δlnε)」は(ln最大伸び率εmax-ln2)と表される。そして、上記式(1)の分子「応力の自然対数の変化量(Δlnσ)」としては、SS曲線グラフより伸び率2%と最大伸び率εmax%における応力をそれぞれ読み取った値を用い、上記式に代入すると、(ln(最大伸び率εmax%のときの応力)-ln(伸び率2%のときの応力))が得られる。これらを用いて、加工硬化係数は、(ln(最大伸び率εmax%のときの応力)-ln(伸び率2%のときの応力))/(ln最大伸び率εmax-ln2)で算出される値となる。
また、
図6に示すように、ΔlnεとΔlnσのプロットから近似式を求め、その傾きから算出してもよい。
【0038】
次に、本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの構成について説明する。本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径は通常10~30μmであり、好ましくは10~25μmである。パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径は細い方が、狭ピッチ接合に適している。
【0039】
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、ワイヤ全体に対するパラジウムの濃度が1.0~4.0質量%である。本実施形態のパラジウム(Pd)被覆銅ボンディングワイヤは、パラジウムの濃度が1.0質量%以上であることで、ボール接合の信頼性を高めることができるので、高温、高湿下においても長期間優れたボール接合性が維持される。パラジウムの濃度が4.0質量%以下であることで、フリーエアーボール(FAB)の引け巣の発生を抑制することができると考えられ、このため、長期接合信頼性を向上させることができる。
【0040】
ここで、「引け巣」は、フリーエアーボール表面に観察されるしわ状の溝である。
図1に引け巣の一例の写真を示す。
図1(a)に問題とならない小さな引け巣の写真を、
図1(b)に問題となる大きな引け巣の写真を表す。フリーエアーボール表面に大きな引け巣がある場合、半導体チップ上の電極におけるボール接合の接合面の、上記溝に対応する箇所に空隙が生じると考えられる。そのため、空隙の大きさによってはこの空隙を起点として経時的に接合面の接合強度が弱くなったり、腐食が生じやすくなり、接合信頼性を低下させると考えられる。
【0041】
パラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおいて、パラジウム層由来のパラジウムの濃度は、ワイヤ全体に対して1.0~2.5質量%であることが好ましい。これにより、接合の高信頼性をより高めることが可能である。本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、パラジウム層上にその他の層を有していてもよい。パラジウム被覆銅ボンディングワイヤが、パラジウム層上にその他の層を有しない場合、ワイヤ全体としてのパラジウムの濃度は、パラジウム層由来のパラジウム濃度と、銅の芯材由来のパラジウム濃度の合計である。本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤが、パラジウム層上にその他の層を有する場合、パラジウム層から拡散等によってその他の層内に染み出したパラジウムやその他の層に含有されているパラジウムも、パラジウム層由来のパラジウムとみなしてパラジウム濃度を求めることができる。
【0042】
ボール接合の高信頼性を得る観点から、パラジウム層由来のパラジウムの濃度は、1.3質量%以上であることが好ましく、2.3質量%以下であることが好ましい。
【0043】
パラジウム層由来のパラジウム濃度は、ワイヤ全体のパラジウム濃度と銅の芯材中のパラジウム濃度をそれぞれ測定し、これらを用いて算出することができる。具体的には、二次イオン質量分析(SIMS)によって次のように分析することができる。まず、測定対象のワイヤをプレスして平坦化させる。これをSIMS分析装置(例えば、CAMECA製IMS-7f二次イオン質量分析装置)を使用し、銅(Cu)芯材中のパラジウムの濃度測定を行う。上記平坦化させたワイヤの表面のパラジウム層を上記分析装置内でスパッタリングにより除去し、銅を露出させる。銅(Cu)を露出させるために、例えば線径が10μm~30μmのワイヤでは、パラジウム(Pd)換算で表面から少なくとも0.5μm以上スパッタリングし、パラジウム層を除去した後、SIMS分析を開始し、深さ方向に2.0μmまで分析する。分析開始点から分析終了点(深さ2.0μm)までは、例えば100点以上測定を行い、この100点の平均濃度を算出する。分析条件は、例えば、SIMS装置の設定条件として、一次イオン種Cs+、一次イオン加速電圧15.0keV、一次イオン照射領域約30μm×30μm、分析領域約12μm×12μmである。SIMS分析は、Cs+等の一次イオンを用いてスパッタリングにより放出された二次イオンを質量分析計により検出し、元素分析を行うものであるが、パラジウム濃度は、測定したパラジウム(Pd)の二次イオン強度を用いて、パラジウム(Pd)濃度既知の銅(Cu)ワイヤを標準試料として、濃度換算して求めることができる。
【0044】
(銅の芯材)
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおける芯材は、銅を主成分とした芯材であり、銅又は銅合金で構成される。ここでの主成分とは、量又は特性において中心的であることを意味し、含有量であれば少なくとも50.0質量%である。主成分としての特性は、その構成に求められる特性であり、例えば、銅の芯材ではワイヤの破断力や伸び率等の機械的性質である。主成分は、例えば、このような特性に中心的に影響を与える成分ということができる。
【0045】
銅の芯材は、銅(Cu)以外にも、不可避不純物や、一般的にパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの耐酸化性(接合信頼性)、ボール形成性(真円性)などの性質向上等を目的として微量に添加される添加元素などの微量元素を含んでいてもよい。このような微量元素は、例えば、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、リン(P)、銀(Ag)、鉄(Fe)、及びタリウム(Tl)等である。
【0046】
銅の芯材は、上記微量元素の中でも、特に、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、In及びGaから選ばれる1種以上を含むことで、第一接合の接合信頼性をより向上できる。上記微量元素の中で特に、P、Ag、Fe及びTlから選ばれる1種以上を含むことで、第一接合のボール接合部の真円性がより向上できる。ボール接合部の真円性が向上することにより狭ピッチ接合のショート不良を抑制することができる。銅の芯材が微量元素を含む場合、その合計の量は芯材の全体に対して1質量ppm以上であることが好ましい。微量元素の割合は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、第一接合の高い接合信頼性を得た上に、コストの増大を抑えることができ、さらには、良好なワイヤの伸線加工性が維持できる。また、ボール接合時にチップダメージが生じにくくなる。微量元素の割合は、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
具体的に、微量元素として、Au、Pd、Pt、Rh及びNiから選ばれる1種以上を含む場合、その含有割合はワイヤ全体に対して合計で0.05質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。なかでも、微量元素としてNiを含む場合、その含有割合はワイヤ全体に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
微量元素として、InとGaのうち1種以上を含む場合、その量はワイヤ全体に対する量として、合計で0.01質量%以上0.7質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.6質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましい。微量元素として、Pを含む場合、ワイヤ全体に対して5質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましく、20質量ppm以上400質量ppm以下であることがより好ましく、50質量ppm以上250質量ppm以下であることがさらに好ましい。微量元素として、Ag、Fe及びTlのうち1種以上を含む場合は、その量はワイヤ全体に対して合計で、1質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましく、3質量ppm以上60質量ppm以下であることがより好ましく、5質量ppm以上30質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
ワイヤ中の微量元素や含有割合は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析(AES)または誘導結合プラズマ(ICP)質量分析(MS)等の化学分析で測定されるのが一般的であるが、これに限定されない。
【0050】
なお、本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、銅の芯材中に硫黄族元素を含んでいてもよい。この場合の、銅の芯材中の硫黄族元素の量は、ワイヤの加工性を考慮して、ワイヤ全体に対して、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0051】
銅の芯材中の硫黄族元素の含有量は前述した銅の芯材中のパラジウム濃度の分析方法と同様に分析できる。すなわち、二次イオン質量分析(SIMS)によって、まず、測定対象のワイヤをプレスして平坦化させる。これをSIMS分析装置(例えば、CAMECA製IMS-7f二次イオン質量分析装置)を使用し、銅(Cu)芯材中の硫黄族元素の濃度測定を行う。上記平坦化させたワイヤの表面のパラジウム層を上記分析装置内でスパッタリングにより除去し、銅を露出させる。銅(Cu)を露出させるために、例えば線径が10μm~30μmのワイヤでは、パラジウム(Pd)換算で表面から少なくとも0.5μm以上スパッタリングし、パラジウム層を除去した後、SIMS分析を開始し、深さ方向に2.0μmまで分析する。分析開始点から分析終了点(深さ2.0μm)までは、例えば100点以上測定を行い、この100点の平均濃度を算出する。分析条件は、例えば、SIMS装置の設定条件として、一次イオン種Cs+、一次イオン加速電圧15.0keV、一次イオン照射領域約30μm×30μm、分析領域約12μm×12μmである。SIMS分析は、Cs+等の一次イオンを用いてスパッタリングにより放出された二次イオンを質量分析計により検出し、元素分析を行うものであるが、硫黄族元素濃度は、測定した硫黄族元素の二次イオン強度を用いて、硫黄族元素濃度が既知である銅(Cu)ワイヤを標準試料として、濃度換算して求めることができる。こうして、ワイヤ全体の硫黄族元素の含有量をICP-MSで分析し、銅の芯材の硫黄族元素含有量をSIMSで分析することで、銅の芯材由来の硫黄族元素の量を測定することができる。この場合、完全に同一なサンプルでの分析はできないが、同一ワイヤの長手方向において、どの部分をサンプリングしても同じ組成であるとみなして分析しても問題ないと考えられる。
【0052】
(パラジウム層)
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは銅の芯材上に、パラジウム層を有する。パラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、本発明の効果を損なわない限り、銅の芯材とパラジウム層との間に、銅とパラジウム以外の他の金属を主成分とする他の層を有していてもよいが、好ましくは当該他の層を有しない。当該他の層が存在しない場合、本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおけるパラジウム層とは、オージェ(AES)分析において、ワイヤの表面から深さ方向のデプスプロファイル分析(SiO2換算)を用いて、表面近傍のパラジウムの濃度の最大値を100%とした場合にパラジウム濃度がその半分、すなわち50%に当たる地点が、パラジウムと銅の境界部であると定義する。よって、その境界部から表面までの領域がパラジウム層となる。
【0053】
パラジウム層の厚さは、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径にもよるが、線径が10μm~30μmでは、0.020μm以上0.150μm以下であることが好ましく、0.030μm以上0.130μm以下であることがより好ましい。パラジウム層の厚さは上記範囲内で均一であるほうがボンディングワイヤを接合したときのリーニング性やループ高さの安定性などループ特性の品質が向上するためである。パラジウム層の厚さの測定手法としては上述したAES分析を用いることができる。
【0054】
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、パラジウム層(及び必要に応じてパラジウム層上のその他の層)に由来する硫黄族元素(硫黄、セレン及びテルルの1種以上)を合計で、ワイヤ全体に対して50.0質量ppm以下含むことが好ましい。パラジウム被覆銅ボンディングワイヤが硫黄族元素を含むことで、ボール接合の高信頼性を得やすくなる。
【0055】
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤはパラジウム層(及び必要に応じてパラジウム層上のその他の層)中に、硫黄族元素を所定量含有すると、フリーエアーボール(FAB)を形成してその先端部分を分析したときに、FABの先端部分の表面近傍に、ボール内部よりもパラジウムリッチな領域を観測することができる。このパラジウムリッチな領域は、FABの先端部分の表面から5.0nm以上100.0nm以下の深さ方向の範囲で、銅とパラジウムの合計に対して、パラジウムを6.5~30.0原子%含む領域として観測することができる。以下、パラジウム層中に硫黄族元素を含有する場合について説明するが、これに加えてパラジウム層上のその他の層に硫黄族元素が含有される場合も同様である。つまり、以下における「パラジウム層由来の」硫黄族元素族濃度は、ワイヤ全体に対する硫黄族元素濃度のうち銅の芯材由来の硫黄族元素濃度を除いた濃度を意味する。
【0056】
パラジウム層中に硫黄族元素を含有する実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを用いてフリーエアーボールを形成すると、ボール溶融時に、バラジウムの大部分がボール内部に拡散吸収されずに表面近傍に残る。この表面近傍に残ったパラジウムが、凝固後のボール表面にパラジウム濃化領域を形成する。そのため、パラジウム濃化領域は、凝固前のフリーエアーボール表面近傍に残ったパラジウムの痕跡として上記組成を有する。フリーエアーボールの先端部表面に、パラジウム濃化領域が観測されれば、ボール表面近傍全体又は先端部分を含む部分的範囲にパラジウムリッチな状態となったパラジウム濃化領域が層状に形成されていると推定できる。アルミニウム電極との接合に際して、フリーエアーボールの、電極との接合箇所にパラジウム濃化領域があることで、ボール接合(第一接合)の接合信頼性を高めることができる。
【0057】
パラジウム被覆銅ボンディングワイヤがパラジウム層中に硫黄族元素を含む場合、ワイヤ全体に対するパラジウム層由来の硫黄族元素の濃度、つまり、ワイヤ全体における硫黄族元素から、銅の芯材由来の硫黄族元素の量を除いて、ワイヤ全体に対する濃度として計算されるワイヤ全体に対する硫黄族元素濃度が合計で50.0質量ppm以下であることで、伸線加工中のパラジウム層の割れや、その割れを起点とするワイヤの断線が生じにくく、良好な伸線加工性を得やすい。パラジウム銅ボンディングワイヤが、硫黄族元素を含む場合、ボール接合の高信頼性が得やすくなる点で、ワイヤ全体に占める硫黄族元素の割合は、5.0質量ppm以上であることが好ましく、6.0質量ppm以上であることがより好ましい。また、伸線加工性を向上させるために、硫黄族元素濃度は、45.0質量ppm以下が好ましく、41.0質量ppm以下がより好ましい。
【0058】
実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、パラジウム層由来の硫黄族元素を含む場合、パラジウム層由来の硫黄(S)濃度がワイヤ全体の5.0質量ppm以上であることが好ましく、6.0質量ppm以上であることがよち好ましい。パラジウム層由来の硫黄(S)濃度が5.0質量ppm以上であることで、ボール接合の信頼性を高めることができる。一方、パラジウム層由来の硫黄(S)濃度はワイヤ全体の12.0質量ppm以下であることが好ましく、これにより、パラジウム層が脆くなりにくく、伸線加工性が向上しやすくなる。パラジウム層由来の硫黄(S)濃度はワイヤ全体の10.0質量ppm以下であることがより好ましい。
【0059】
また、パラジウム層由来のセレン(Se)濃度がワイヤ全体の5.0質量ppm以上であることが好ましく、6.0質量ppm以上であることがより好ましく、8.0質量ppm以上であることがさらに好ましい。パラジウム層由来のセレン(Se)濃度が5.0質量ppm以上であることで、ボール接合の信頼性を高めることができる。一方、パラジウム層由来のセレン(Se)濃度はワイヤ全体の20.0質量ppm以下であることが好ましく、これにより、パラジウム層が脆くなりにくく、伸線加工性が向上しやすくなる。パラジウム層由来のセレン(Se)濃度はワイヤ全体の15.0質量ppm以下であることがより好ましい。
【0060】
また、パラジウム層由来のテルル(Te)濃度がワイヤ全体の15.0質量ppm以上であることが好ましく、16.0質量ppm以上であることがより好ましい。パラジウム層由来のテルル(Te)濃度が15.0質量ppm以上であることで、ボール接合の信頼性を高めることができる。一方、パラジウム層由来のテルル(Te)濃度はワイヤ全体の50.0質量ppm以下であることが好ましく、50.0質量ppmを超えるとパラジウム層が脆くなるため、50.0質量ppm以下にすることで、伸線加工性が向上しやすくなる。パラジウム層由来のテルル(Te)濃度はワイヤ全体の45.0質量ppm以下であることがより好ましく、41.0質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0061】
本実施形態で使用するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤはパラジウム層由来の硫黄族元素濃度が合計で50質量ppm以下の範囲で、硫黄、セレン、テルルのいずれかが上記濃度範囲を満たしていれば、硫黄族元素を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。このように、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤが、上記の濃度でパラジウム層に各硫黄族元素を含有することで、フリーエアーボールの先端部表面にパラジウム濃化領域を形成するという特性を有し、ボール接合部に上記のパラジウム濃化接合領域をボール形成条件によらずに安定的に形成しやすく、接合信頼性が著しく向上され得る。
【0062】
ここで、硫黄族元素は、主にパラジウム層内に含有される。しかしながら、硫黄族元素が極微量であるため、特にパラジウム層が非常に薄い構成では、現状では、各種分析手法により、硫黄族元素の存在箇所とその濃度を正確に測定できないことがあり得る。一方で、銅の芯材由来の硫黄族元素の量は、前述した方法によって測定することができる。そのため、硫黄族元素の量は、パラジウム層中の含有量ではなく、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ全体に対する硫黄族元素の濃度のうち、銅の芯材由来の硫黄族元濃度を除いた濃度として上記範囲としている。
【0063】
パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ中のパラジウム層由来の硫黄族元素は、上述したフリーエアーボール表面近傍のパラジウム分布領域の形成に寄与する。硫黄族元素は銅との反応性が高いため、パラジウム層由来の硫黄族元素が主としてワイヤの金属が溶融する初期の段階で、銅とパラジウムの接触する領域に集中すると考えられる。この銅とパラジウムの接触領域に集中した硫黄族元素と銅との反応生成物が、パラジウムの溶融銅中への溶け込みを遮蔽すると考えられる。このような観点で硫黄族元素量が決定されている。
【0064】
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、パラジウム層上にその他の層として、パラジウム以外の金属からなる第二層を有していてもよい。第二層の金属は純金属であっても、2種以上の金属の合金であってもよい。パラジウム被覆銅ボンディングワイヤがパラジウム層上に第二層を有する場合、パラジウム層と第二層の境界は、第二層の主成分金属濃度が最大濃度に対して50.0%となる部分として測定することができる。第二層表面上に第三層、第四層を有する場合にも上記に準じて分析することができる。
【0065】
(金の層)
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤはパラジウム層以外のその他の層として、最外層に金の層を有することが好ましい。本実施形態のパラジウム被覆銅ワイヤは、金の層を有することで、第二接合の接合性を向上させるとともに、伸線加工時のダイス摩耗を低減することができる。金の層は、金を主成分として形成される層である。金の層はパラジウム層表面にわたって形成されていれば、その一部が途切れていてもよく、金の層中にパラジウムが含有されていても構わない。金の層中にパラジウムが含有される場合、パラジウム濃度は厚さ方向に均一であっても表面に向かって減衰する濃度勾配を有していてもよい。
【0066】
また、金の層が2種以上の金属合金で構成される場合、金の層は本発明の効果を損なわない限り、パラジウムと金以外にも銀、銅などを含んでいてもよい。この場合の金の層中のパラジウム以外の金属元素の量は、例えば、金の層の全体に対して50.0質量%未満である。
【0067】
本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは金の層を有する場合、ワイヤ全体に占める当該金の層由来の金の濃度が0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。金の層由来の金の濃度が0.01質量%以上であると、第二接合性が良好となりやすく、伸線加工時のダイス摩耗を低減しやすい。ワイヤ全体に占める金の層由来の金の濃度は0.20質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましい。金の層由来の金の濃度が0.20質量%以下であればワイヤ性能に悪影響を及ぼしにくく、また、フリーエアーボールの真球性を損ないにくい。なお、銅の芯材に金を含む場合にはワイヤ全体としての金の濃度は、上記金の層由来の金の濃度と銅の芯材中の金の濃度の合計である。そのため、金の層由来の金の濃度を測定する場合には、ワイヤ全体の金の濃度と銅の芯材中の金の濃度をそれぞれ測定し、これらを用いて金の層由来の金の濃度を算出することができる。金の層由来の金の濃度は具体的には上記パラジウム層由来のパラジウム濃度と同様にSIMS分析によって測定することができる。
【0068】
金の層の厚さは、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径にもよるが、8nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。金の層の厚さが8nm以下であると、金の層を有する場合にも、フリーエアーボールの真球性を損なうことなく、ボール接合の高信頼性を維持し易い。金の層の厚さの下限は特に限定されないが、後述する濃度換算の平均膜厚で、1nm以上であれば十分である。金の層の厚さの測定手法としては、パラジウム層と同様に、AES分析を用いることができる。
【0069】
なお、金の層の厚さは、ワイヤ全体に占める金の濃度が上記した好ましい範囲であると、著しく薄くなる。このように金の層の厚さが著しく薄くなる場合には、現状では、金の層の厚さを一般的な測定手法で正確に測定することが困難である。そのため、金の層の厚さが著しく薄くなる場合には、金の層の厚さを、ワイヤ全体に占める金の濃度をとワイヤ線径を用いて算出される濃度換算平均膜厚で評価することができる。この濃度換算平均膜厚は、金の濃度と金の比重から単位長さ当たりの金の質量を算出し、ワイヤ断面が真円であり、金が最表面に均一に存在すると仮定してその膜厚を求める方法や、めっき線径での金被覆の厚さ(設計値でよい。)と最終線径を用いて比例計算する方法がある。
【0070】
<パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法>
次に、本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造方法について説明する。本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは、芯材となる銅を主成分とする銅線材表面にパラジウムが被覆され、伸線加工及び、必要に応じて熱処理されることで得られる。パラジウム被覆後に金が被覆されてもよく、また、パラジウム又は金が被覆された後に、段階的に伸線や、熱処理が施されてもよい。
【0071】
芯材として銅を用いる場合、所定の純度の銅を溶解させ、また、銅合金を用いる場合、所定の純度の銅を、添加する微量元素とともに溶解させることで、銅芯材材料又は銅合金芯材材料が得られる。溶解には、アーク加熱炉、高周波加熱炉、抵抗加熱炉、連続鋳造炉等の加熱炉が用いられる。大気中からの酸素や水素の混入を防止する目的で、加熱炉において、銅溶解時の雰囲気は、真空あるいはアルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気に保持することが好ましい。溶解させた芯材材料は、加熱炉から所定の線径となるように鋳造凝固させるか、溶融した芯材材料を鋳型に鋳造してインゴットを作り、そのインゴットを繰返しロール圧延したあと、所定の線径まで伸線して銅線材が得られる。
【0072】
銅線材の表面にパラジウム又は金を被覆する方法としては、めっき法(湿式法)と蒸着法(乾式法)がある。めっき法は電解めっき法と無電解めっき法のいずれの方法であってもよい。ストライクめっきやフラッシュめっきなどの電解めっきでは、めっき速度が速く、パラジウムめっきに使用すると、パラジウム層の芯材への密着性が良好であるため好ましい。めっき法によってパラジウム層内に硫黄族元素を含有させる手法としては、上記電解めっきにおいて、パラジウムめっき液に、硫黄、セレン又はテルルを含むめっき添加剤を含有させためっき液を用い、めっき添加剤の種類や量を調整する手法がある。これにより、パラジウム層由来の硫黄族元素の濃度を調整することもできる。
【0073】
蒸着法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着等の物理吸着と、プラズマCVD等の化学吸着を利用することができる。これらの方法によれば、形成後のパラジウム被覆や金被覆の洗浄が不要であり、洗浄時の表面汚染等の懸念がない。蒸着法によってパラジウム層内に硫黄族元素を含有させる手法としては、硫黄族元素を含有させたパラジウムターゲットを用い、マグネトロンスパッタリングなどによってパラジウム層を形成する手法がある。
【0074】
このようにして、パラジウム被覆と必要に応じて金などのその他の被覆を施した銅線が、続いて最終線径まで伸線され、熱処理される。この伸線加工と熱処理は、段階的に行われてもよい。また上記では、パラジウム被覆と金被覆を施した銅線材を最終線径に伸線する方法について説明したが、パラジウム被覆した銅線材を所定の線径に伸線した。
【0075】
銅線材の伸線の工程では加工集合組織が形成され、熱処理工程では回復、再結晶が進行して再結晶集合組織が形成され、これらの集合組織が相互に関連して加工硬化係数に影響を与える。パラジウム被覆と必要に応じて形成されるその他の被覆の形成後に熱処理条件を適正化することで、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの加工硬化係数を調整することができる。通常、被覆の形成後の中間熱処理のタイミングと回数によって、加工硬化係数を調整することができる。具体的には、被覆を形成後、被覆線径からの加工率が60%~90%の間で複数回の熱処理を施すことで、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数を0.2以下に調節しやすくなる。例えば、中間熱処理の温度は、300℃~600℃、1回の熱処理時間は前記温度がワイヤ表面温度の場合、1秒以上で充分である。中間熱処理の温度は、そのほかの条件が同じ場合、高い方が、また回数は多い方が、加工硬化係数は小さくなる傾向を示す。
【0076】
さらに、熱処理温度が同じであっても、熱処理装置の構造や速度によってワイヤの特性が影響されることがある。また、同一の装置で熱処理条件が同じであっても芯材中の微量元素の種類や量によって、ワイヤの特性が影響されることもある。この点、本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造工程において、上記中間熱処理条件に加えて、1回当たりのダイスの減面率を調整することで、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数を0.2以下に調節しやすくなる。
【0077】
伸線加工は、複数のダイヤモンドダイスを用いて、段階的に行われることが好ましい。ダイヤモンドダイス1つあたりの減面率(加工率)は、生産性と加工性を考慮して、通常5.0~15.0%で行われる。ただし、加工硬化係数を0.2以下の範囲にするためには、ダイヤモンドダイス1つあたりの減面率を7.5%以下で伸線することが好ましい。これにより、生産性はやや落ちるが加工硬化係数を0.2以下に調節しやすくなる。
【0078】
最終熱処理は、最終線径において、ワイヤ内部に残留する金属組織の歪みを除去する歪み取り熱処理が実行される。歪み取り熱処理(調質熱処理)は、ワイヤ断面の結晶方位と、ワイヤ特性を考慮しながら、温度及び時間が決定されることが好ましい。伸び率はボンディングワイヤの引張試験によって得られる値である。最大伸び率は、例えば、引張実験装置(例えば、株式会社 TSE製オートコム)にて、長さ100mmのボンディングワイヤを速度20mm/minで引っ張り続け、破断に至ったときにサンプルがもとの長さ(100mm)からどのくらい伸びたか、の割合として算出される。仮に、長さ100mmのサンプルの引張試験において、破断時のサンプルの長さが120mmであれば、最大伸び率εmaxは20%と算出される。応力は、上記速度で引っ張られるワイヤにかかる力であり、通常、ロードセルにより、引っ張り力を電気信号に変換して自動で算出される。伸び率は、測定結果のばらつきを考慮し、5本の平均値を求めることが望ましい。
【0079】
熱処理の方法は、所定の温度に加熱された加熱用容器雰囲気の中にワイヤを通過させ熱処理を行う走間熱処理が、熱処理条件を調節しやすいため好ましい。走間熱処理の場合、熱処理時間は、ワイヤの通過速度と加熱用容器内のワイヤの通過距離によって算出することができる。加熱用容器としては管状電気炉などが使用される。
【0080】
以上説明した本実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤによれば、高温高湿下においてもボール接合信頼性に優れ、さらに、リーニング性を向上することができる。そのため、長期信頼性の極めて高いワイヤ接合構造を形成できるので、QFP(Quad Flat Packaging)、BGA(Ball Grid Array)、QFN(Quad For Non-Lead Packaging) に好適である。また、信頼性の高いワイヤ接合構造を形成できるので車載用デバイスなどの、高温、高湿の環境での使用に適している。さらに、リーニング性が向上されるため、小型半導体デバイスなどの狭ピッチ接合構造にも適している。
【0081】
<半導体装置及びその製造方法>
次に、上記実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを用いた半導体装置について説明する。
図2に示すように、本実施形態の半導体装置1は、半導体チップ2と、半導体チップ2上に設けられた、アルミニウムを含有するアルミニウム電極3と、半導体チップ2の外部に設けられた、金被覆を有する外部電極4と、アルミニウム電極3と外部電極4表面を接続するボンディングワイヤ5を有する。なお、
図2では外部電極上に金被覆を有する場合を例に説明するが、金被覆に代えて、又は金被覆とともに銀被覆を有していても同様である。
【0082】
半導体装置1において、ボンディングワイヤ5は、上記実施形態のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤからなる。
【0083】
半導体チップ2は、シリコン(Si)半導体或いは化合物半導体等からなる集積回路(IC)を備えてなる。アルミニウム電極は、例えば、シリコン(Si)母材の表面にAl、AlSiCu、AlCuなどの電極材料を被覆して形成される。外部電極4は、半導体チップ2の近傍に設けられ、半導体チップ2に外部から電力を供給するための電極である。外部電極4からの電力は、ボンディングワイヤ5を介して半導体チップ2に供給される。
【0084】
本実施形態の半導体装置1の製造において、ボンディグワイヤ5によるアルミニウム電極3と外部電極4の接続は、例えば、次のように行われる。ボンディング装置や、ボンディングワイヤをその内部に通して接続に用いるキャピラリ冶具等を用い、例えばキャピラリで把持したワイヤ先端にアーク放電によって入熱し、ワイヤ先端を加熱溶融させる。これにより、ワイヤ先端にフリーエア-ボールが形成される。その後、例えば、半導体チップ2を140~200℃の範囲内で加熱した状態で、アルミニウム電極3上に、このフリーエア-ボールを圧着接合させてボール接合(第一接合)が形成される。その後で、ボンディングワイヤ5の第一接合と所定の間隔で離間した反対側の端を直接、外部電極4に超音波圧着によりウェッジ接合(第二接合)させる。
【0085】
本実施形態の半導体装置の製造方法においては、フリーエアーボールの形成条件は、ボンダー装置を用いて、ボンディングワイヤ5の線径が10~30μm、好ましくは15~25μm、より好ましくは18~20μmである場合に、アーク放電電流値が30~90mAである。通常接合では、フリーエアーボール径がワイヤ線径の1.7倍を超え2.3倍以下となるようにアーク放電条件を設定する。狭ピッチ接合の際には、電極間隔の幅にもよるが、例えば、ボンディングワイヤ5の線径が18μmである場合に、フリーエアーボール径がワイヤ線径の1.5~1.7倍となるようにアーク放電条件を設定する。ボンダー装置は、例えば、ケー・アンド・エス社製のボンダー装置(全自動Cu線ボンダー;IConn ProCu PLUS)などの市販品を使用することができる。当該ボンダー装置を使用する場合、装置の設定として放電時間が50~1000μs、EFO-Gapが25~45mil(約635~1143μm)、テール長さが6~12mil(約152~305μm)であることが好ましい。当該ボンダー装置以外のその他のボンダー装置を用いる場合、上記と同等の条件、例えばフリーエアーボール径が上記と同等の大きさになる条件であればよい。また、ワイヤ先端部を窒素と水素の混合ガス雰囲気又は窒素ガス雰囲気にするために、上記のガスをガス流量が0.2~0.8L/分、好ましくは0.3~0.6L/分で吹き付ける。フリーエアーボール形成時のガスは、窒素95.0体積%と水素5.0体積%の混合ガスであることが好ましく、フリーエアーボール径は狙い値として上記の範囲であればよい。
【0086】
図3は、本実施形態のワイヤ接合構造10の一例を示す断面模式図である。
図3に示すワイヤ接合構造10は、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤをシリコン(Si)基板51上のアルミニウムを含む電極52表面にボール接合して形成される。
図1はこのワイヤ接合構造10を、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤのワイヤ長手方向の中心線Lを通り中心線Lに平行な面で切断した断面を表している。ワイヤ接合構造10は、ボール接合部20と、接合面21と、上記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤからなるワイヤ部22とを有している。ワイヤ部22の線径φはパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの線径と等しい。
【0087】
ボール接合部20はその上側の第1ボール圧縮部20aと、その下側の第2ボール圧縮部20bから構成される。ボール接合に際しては、パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ先端に形成されたフリーエアーボールが電極52上に圧接されるところ、第1ボール圧縮部20aは、ボール接合前のフリーエアーボールの形状を比較的維持した部位であり、第2ボール圧縮部20bは、フリーエアーボールが潰され、変形して形成された部位である。また、表面23は第2ボール圧縮部20bの表面である。図中のX0は、第2ボール圧縮部20bの接合面21に平行方向(ワイヤ中心線Lに垂直方向)の最大幅であり、Yは第2ボール圧縮部20bの、接合面21に対する最大高さである。なお、接合面21を特定し難い場合、X0は、第2ボール圧縮部20bの、ワイヤ中心線Lに垂直方向の最大幅で測定しても、同等の値となるため、構わない。Yはフリーエアーボールと電極52の接触点を基準とした最大高さで算出してもよい。なお、ボール接合部20における各部分の大きさや方向などは、測定などの誤差の範囲は当然に許容される。
【0088】
また、ボール接合及びウェッジ接合の条件は、半導体装置の構造や用途によって適宜調節でき、例えば、ワイヤ線径φが18μmでボール径が32μmのフリーエアーボールを形成したものについては、ボンダー装置の設定として、ボール圧着力7.5gf、超音波印加出力70mA、ボール圧着時間15ms、圧着温度150℃である。これにより、第2ボール圧縮部20bの高さYが略10μm、第2ボール圧縮部20bの接合面21に略平行方向の最大幅X0が略40μmでボール接合を形成することができる。ウェッジ接合は、スクラブモードにて圧着力70gf、圧着時間20ms、圧着温度150℃、周波数200kHz、振幅3.0μm、サイクル2回の条件にてループ長さ2mmとしてウェッジ接合することができる。
【0089】
以上をまとめると、実施形態の半導体装置の製造方法は、半導体チップと、半導体チップ上に設けられた、アルミニウムを含有するアルミニウム電極と、半導体チップの外部に設けられ、金被覆又は銀被覆を有する外部電極と、前記アルミニウム電極と前記外部電極表面を接続するボンディングワイヤとを有する半導体装置の製造方法であって、前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、前記芯材上のパラジウム層とを有し、硫黄族元素を含有するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤであって、前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの銅とパラジウムと硫黄族元素の合計に対してパラジウムの濃度が1.0質量%以上4.0質量%以下であり、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数が0.20以下であるパラジウム被覆銅ボンディングワイヤからなる。そして、前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ先端に、フリーエアーボールを形成し、前記フリーエアーボールを介して前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤを前記アルミニウム電極に接合し、前記パラジウム被覆銅ボンディングワイヤの前記フリーエアーボールから略前記ボンディングワイヤの長さ分離間した箇所を前記外部電極表面に第二接合する。
【0090】
実施形態の半導体装置は、例えば、プリント配線板等に用いられるQFP(Quad Flat Packaging)、BGA(Ball Grid Array) 、QFN(Quad For Non-Lead Packaging) に好適である。
【0091】
以上説明した本実施形態の半導体装置によれば、ワイヤボンディングにおいて、リーニング性を向上することができるとともに、高温高湿下においてもボール接合信頼性に優れる。そのため、長期信頼性の極めて高い接合構造を形成できるので、車載用デバイスなどの、高温、高湿の環境での使用に適している。また、本実施形態の半導体装置の製造方法によれば、リーニング性が向上されるとともに、長期信頼性の高い接合構造が形成されるので、車載用デバイスなどの、高温、高湿の環境での使用に適した半導体装置を得ることができる。
【実施例】
【0092】
次に、実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。例1~33は実施例であり、例34~36は比較例である。
【0093】
芯材は純度99.99質量%以上の銅(Cu)を用い、これを連続鋳造し、前熱処理をしながら圧延し、その後伸線して線径400μm~600μmの銅線材を得た。銅の芯材に微量元素や硫黄族元素を含むワイヤについては、各表に記載した所定濃度となるように各微量元素と硫黄族元素を加えた銅合金を用いて上記同様に銅合金線材を得た。微量元素及び硫黄族元素は各々純度99.99質量%以上の原料を用いた。以下、銅線材を用いたパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを製造した場合について説明するが、微量元素及び硫黄族元素を含む銅合金線材を用いた場合も同様である。
【0094】
パラジウム被覆層は次のようにして形成した。市販のパラジウム電気めっき浴、又は、これに硫黄、セレン、テルルを含む添加剤を所定量添加しためっき浴を用いた。硫黄族元素を添加した例については、ワイヤ全体(銅、パラジウム及び硫黄族元素の合計)に対するパラジウム層由来の硫黄族元素濃度が下記各表に記載された濃度となるように、めっき浴中の硫黄、セレン、テルルの濃度を制御し、めっき浴をそれぞれ作製した。めっき浴中に銅線材を浸漬した状態で、パラジウム被覆を形成した。硫黄、セレン及びテルルのうち2種以上を含むパラジウム被覆を形成する場合には、上記添加剤の2種以上を添加しためっき浴を用いた。
【0095】
その後、ダイヤモンドダイスによりパラジウム被覆形成後からの、さらにパラジウム被覆の表面に金を被覆する場合には金被覆形成後からの、合計で60~90%の加工率で伸線したあと、熱処理を0.3~5秒間、300℃~600℃にて実行した。サンプルによっては、伸線と熱処理の組み合わせを数回繰り返し行った。その後、最終線径まで伸線し、最終の調質熱処理を300℃~600℃で行って、線径18μmのパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを得た。なお、被覆後のワイヤから最終線径までの、ワイヤ断面の減面率で算出される加工率は99.0%以上の範囲であり、伸線加工における線速は100~1000m/分である。
【0096】
より具体的には、例1では、線径500μmのパラジウム被覆銅線材を減面率12%のダイヤモンドダイスによって加工率75%まで連続伸線した。次に500℃で3秒間、熱処理を行い、その後、減面率4.8%のダイヤモンドダイスで最終線径まで連続伸線した。その後、500℃で3秒間の調質熱処理を行ってパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを得た。他の例では、被覆時の線径、ダイヤモンドダイスの減面率、熱処理条件、伸線加工による線速などをそれぞれ調節して、各例のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを得た。なお、この製造条件は1例であり、これ以外の条件でも、適宜調節することで、本件発明の加工硬化係数を実現することが可能である。
【0097】
金の層を有するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは次のように作製した。上記のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの製造過程で、パラジウムを被覆した後、さらに、市販の金めっき浴を用いて金めっきを施した。
【0098】
銅の芯材にパラジウムを添加していないパラジウム被覆銅ボンディングワイヤ中のパラジウム濃度は次のように測定した。製造したワイヤを王水で溶解し、その溶液中のパラジウム(Pd)の濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(株式会社島津製作所のICPS-8100)により求めた。これによって、パラジウム層由来のパラジウム濃度を求め、結果を下記の表の「Pd(Pd層由来)」の欄に示す。微量元素として銅の芯材にパラジウム(Pd)を含む例では、パラジウム層由来のパラジウム濃度及び硫黄族元素濃度は、上述の通り二次イオン質量分析(SIMS)によって銅の芯材中のパラジウム濃度を測定し、ワイヤ全体のパラジウム濃度及び硫黄族元素濃度と、銅の芯材中のパラジウム濃度及び硫黄族元素濃度を用いて算出した。なお、下記表において、「mass」の略称は質量を意味する。
【0099】
パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ中のその他の微量元素の濃度は次のように測定した。製造したワイヤを100mほど王水で溶解し、その溶液中の硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)白金(Pt)等の微量元素の濃度を誘導結合プラズマ質量分析計(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent8800)で求めた。
【0100】
上記で得られた実施例及び比較例のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤの組成を下記表に示す。金の層の厚さは、金の濃度と金の比重から単位長さ当たりの金の質量を算出し、単位長さのワイヤについて、ワイヤ断面が真円であり、金が最表面に均一に存在すると仮定して求めた値である。次に、上記で得られたパラジウム被覆銅ボンディングワイヤについて次の特性評価を行なった。
【0101】
(ワイヤ表面割れの観察)
パラジウムめっき後(金の層を有するものは金被覆後)の銅線材について稔回試験を行い、ワイヤ表面割れを観察した。ワイヤ表面割れの有無は、稔回試験後の線材表面の外観を光学実体顕微鏡(オリンパス社製、製品名:SZX16)で観察し、パラジウムの亀裂が芯材の銅まで達しているかどうかで評価した。10本の試験片を用い、10本全部において亀裂が全く無いものをワイヤ表面割れが無いため大変良好(A)、亀裂はあるが銅まで達していないものが1本以上あり、それ以外は銅まで達していないものをワイヤ表面割れの問題が無いため良(B)、1本でも亀裂が銅まで達しているものがある場合は、ワイヤ表面割れの問題あるため不良(×)と評価した。稔回試験方法は、前川試験機製作所製の装置(装置名:TO-202)を用いて、ワイヤから約20cmサンプリングしたサンプルワイヤの両端を固定して、時計回りに180度、反時計回りに180度回転させることを5往復行ったあと、外観を観察した。結果を下記表に示す。
【0102】
(加工硬化係数)
加工硬化係数についても前述した要領で引張試験のSS曲線グラフより算出した。引張試験装置は上記と同じものを使用し、ワイヤが破断したときの伸び率(最大伸び率)と、そのときの応力を測定した。ここでも10本のサンプルについて試験し、平均値を求めて表1に示した。
【0103】
(フリーエアーボール形成)
上述の製造方法で得られた線径18μmのパラジウム被覆銅ボンディングワイヤをケイ・アンド・エス社製の装置(全自動Cu線ボンダー;IConn ProCu PLUS)型超音波装置にてアーク放電電流値(エレクトロン・フレーム・オフ(EFO)電流値)を65mAにして、放電時間を50~1000μsの範囲で調節し、ボール径(FAB径)約32μm(ワイヤ線径の約1.8倍)のフリーエアーボールを形成した。フリーエアーボール形成雰囲気は、窒素ガス95.0体積%と水素ガス5.0体積%の混合ガスで、ガス流量5.0L/分でワイヤ先端にガスを吹き付けた。
【0104】
(引け巣)
前記で得られたフリーエアーボールの引け巣評価を次のように行った。フリーエアーボールの表面に引け巣がある場合、これをSEM等で観察し、引け巣の最大長がワイヤの直径の3分の2以下の長さであれば問題なしでAとし、3分の2を超えた場合は問題ありでXとした。例えば、ワイヤの直径が18μmの場合、引け巣の最大長が12μmを超える長さの引け巣を、問題となる大きな引け巣とし、この大きさ以下の引け巣では、接合信頼性への影響はほとんどないと推定される。なお、引け巣評価でXだったサンプルは、それ以降の評価は行わなかったので表2には未評価と記載した。
【0105】
(第一接合)
前記の条件でフリーエアーボールを形成し、その後の第一接合(ボール接合)は次のように行なった。第2ボール圧縮部20bの高さYが約10μm、第2ボール圧縮部20bの接合面21に平行方向の最大幅X0が約40μm(ボール経の約1.2~1.3倍)となるように、ボールボンディングの条件(ボール圧着力7.5gf、超音波印加出力70mA、ボール圧着時間15ms、圧着温度150℃)をボンダー装置にて調節し、チップのアルミニウム電極上にボールボンディングを形成した。
【0106】
(第二接合)
また、第二接合はスクラブモードにて圧着力70gf、圧着時間20ms、圧着温度150℃、周波数200kHz、振幅3.0μm、サイクル2回の条件にてウェッジボンディングし、ループ長さ2mmで行った。
【0107】
(真円性)
上記接合でのボール部の真円性の評価は、100本の第一接合について、接合されたボールを上部から観察し、圧着ボールの最大幅とこれに直交する幅を測定し、最大幅とこれに直交する幅の比(最大幅/直交する幅)を求めた。この比の値の、上記100本の平均値が1.00以上1.10未満であれば非常に良好(A)、1.10以上1.15未満であれば良好(B)、1.15以上であれば問題ありで不良(X)とした。
【0108】
(リーニング性)
図4は、実施例におけるリーニング性の評価方法を説明する図である。リーニング性の評価は、
図4に示すように、第一接合41と第二接合42の接合箇所を結んだ直線(リーニングが全くない理想的な状態を表す線)43から、各例でボンディングしたループボンディング44の傾きによるズレ、すなわち理想的な状態を表す線43からの、ループボンディング44のループ頂点Pのズレ幅によって評価した。具体的には、ループボンディング44を、理想的な状態を表す線43の真上(半導体チップ46の平面に対して上方)から光学顕微鏡(オリンパス製測定顕微鏡、STM6)で観察する。そして、ループ頂点Pを真上から理想的な直線43と同平面上に投影したときの位置P1と、理想的な直線43との距離(ズレ幅)Lを測定する。100本のサンプルを観察し、そのズレ幅Lの平均値および標準偏差(σ)を求める。標準偏差は((100本のボンディングワイヤのズレ幅の平均値)―(各ワイヤのズレ幅))の2乗の和の平均の平方根で求められる。標準偏差が小さいほど、平均値からのばらつきが小さいことを意味する。リーニング性は「ズレ幅Lの平均値+その標準偏差」の値とする。その値が3μm未満のものをリーニング性が非常に良好(A)、3μm以上7μm未満のものをリーニング性が良好(B)、7μm以上のものをリーニング不良(X)と判定した。なお、ズレ幅の測定は、光学顕微鏡観察に限らず、画像処理装置による測定で行ってもよい。
【0109】
(チップダメージ)
チップダメージ評価は、前述と同様の条件でボール接合を行い、ボール接合部直下の基板を光学顕微鏡で観察することによって行った。ボール接合部を100箇所観察し、すべてにおいて基板に亀裂が全く発生しなかったものは非常に良好(A)、特に使用上問題とならない小さな亀裂が1箇所以上ある場合は良好(B)と評価した。また、1箇所でも使用上問題となる大きな亀裂があるものは不良(X)と判定した。
【0110】
(HAST及びHTS用の試験片作製)
各例で得られたパラジウム被覆銅ボンディングワイヤについて、上記同様の全自動Cu線ボンダー装置にて、BGA(ball grid array)基板上の厚さ400μmのSiチップ上の厚さ2μmのAl-1.0質量%Si-0.5質量%Cu合金電極上に、それぞれフリーエアーボール、ボール接合及び第二接合について、前記と同様の条件で1,000本のワイヤボンディングを行なった。
【0111】
この際、チップ上のAl-1.0質量%Si-0.5質量%Cu合金電極は隣り合うボンド部のみが電気的に接続されて、隣り合う2本のワイヤ同士で電気的に1つの回路を形成しており、計500回路が形成される。その後、このBGA基板上のSiチップを市販のトランズファーモールド機(第一精工製株式会社、GPGP-PRO-LAB80)を使って樹脂封止して試験片を得た。なお、封止した樹脂は市販されているハロゲンフリーではない樹脂を使用した。
【0112】
<HAST(Highly Accelerated Temperature and Humidity Stress Test)(高温高湿環境暴露試験)>
この試験片についてHAST装置(株式会社平山製作所、PCR8D)を用いて、130℃×85.0%RH(相対湿度)で400時間保持した。また、設定温度を5℃上昇させた135℃×85.0%RH(相対湿度)にて600時間保持した過酷仕様の試験も500回路実施した。各々の時間において保持する前と保持した後の上記500回路の電気抵抗値を測定した。すべての回路において過酷仕様の135℃600時間保持後の電気抵抗値が保持前の電気抵抗値の1.1倍未満であれば非常に良好(A)、過酷仕様では電気抵抗の上昇率が1.1以上の回路はあったが、通常仕様の130℃600時間保持後において電気抵抗上昇率が1.1未満であった場合はとても良好(B)、通常仕様で600時間保持後では電気抵抗上昇率が1.1以上である回路があったが、それ以外の回路が500時間保持後で電気抵抗上昇率が1.1未満であれば良(C)、通常仕様で500時間後の電気抵抗上昇率が1.1以上の回路があったが、それ以外の回路が400時間で電気抵抗上昇率が1.1未満であった場合は合格(D)、400時間保持後で1.1以上の回路が1回路以上あったものは高信頼性を保証していないため不良(X)とした。
【0113】
<HTS(High Temperature Storage Test)(高温放置試験)>
また、上記同様の条件で作製した試験片についてHTS装置(アドバンテック社製、DRS420DA)を用いて、220℃で2000時間保持した。保持前後に上記同様に500回路の電気抵抗値を測定し、保持後の電気抵抗値がすべての回路で保持前の電気抵抗値の1.1未満であれば非常に良好(A)、電気抵抗上昇率がすべての回路で1.2以上ではなく、1つでも1.1以上1.2未満があれば良好(B)、電気抵抗上昇率が1つでも1.2以上がある場合は不良(X)とした。
【0114】
【0115】
【0116】
上記の表より、ワイヤ全体に占めるパラジウムの濃度が1.0~4.0質量%で、伸び率2%以上最大伸び率εmax%以下における加工硬化係数が0.20以下であるパラジウム被覆銅ボンディングワイヤによれば、リーニング性が良好であり、HAST及びHTSによる信頼性が優れている。
【0117】
例えば、上述した車載用デバイスでは、特にフリーエアーボールと電極を接合したボール接合部(第一接合)の接合寿命が最大の問題となる。車載用デバイスではアルミ電極とボール接合し、樹脂封止した半導体装置をHASTにて長時間暴露した後の抵抗値が、暴露する前の1.1倍以下の上昇までに抑えなければならないという条件に適合することが求められている。接合寿命すなわち抵抗値の上昇に悪影響を及ぼすのは、ボール接合後に実施される封止樹脂に含有している塩素などのハロゲン元素や水分である。これらの塩素や水分がボール接合部に生じた金属間化合物を腐食することで、接合部の抵抗値を上昇させる。抵抗値の上昇は通電不良や電気信号の伝達を阻害し、車載用ともなると自動車事故にもつながるおそれがあり深刻な問題となる。また、上記した実施例のパラジウム被覆銅ボンディングワイヤでは、リーニング性が良好であるため、1つのICにおけるボンディング数の増大によるワイヤ間の挟ピッチ化によるワイヤ接触(特にリーニング)によるショート不良も激減し、HAST試験の結果が400時間暴露した後もすべて良好であるため、接合信頼性が高く、車載用デバイスに使用した場合も上記のような深刻な問題を生じないことが分かる。
【0118】
上記の表に示されるように、金の層を有するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおいて、リーニング性、HAST、HTSの評価は、金の層を有しないパラジウム被覆銅ボンディングワイヤと同様に良好であった。これは、金の層由来の金は、第二接合時に付着する金のように局所的ではなく、金が均一にワイヤ全体を覆っているため、局所的に融点が下がるということがないため、引け巣が起きなかったと考えられる。
【符号の説明】
【0119】
1…半導体装置、2…半導体チップ、3…アルミニウム電極、4…外部電極、5…ボンディグワイヤ。