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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】熱膨張性マイクロカプセル
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221101BHJP
   B01J 13/18 20060101ALI20221101BHJP
   C08J 9/32 20060101ALI20221101BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20221101BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C09K3/00 111B
C09K3/00 111A
B01J13/18
C08J9/32 CER
C08J9/14 CEZ
C08J3/22
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022529559
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019389
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021077813
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大日方 秀平
(72)【発明者】
【氏名】脇屋 武司
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-150924(JP,A)
【文献】特表2004-536172(JP,A)
【文献】特許第6825168(JP,B1)
【文献】特開2005-87956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00; C08J3/22; C08J9/14; C08J9/32; B01J13/18
CAplus/REGISTRY (STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、アセタール基を有する化合物を含有する、熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
アセタール基を有する化合物がポリビニルアセタール樹脂である、請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である、請求項2記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
シェルは、更に重合体化合物を含有する、請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項5】
アセタール基を有する化合物の含有量が、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して0.001重量%以上、20重量%以下である、請求項1、2記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項6】
シェルは黒色材を含有する、請求項1載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項7】
黒色材は、熱膨張性マイクロカプセルの内部に存在する、請求項6記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項8】
黒色材は、黒色顔料である、請求項6又は7記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項9】
アセタール基を有する化合物の含有量が、黒色材に対して3重量%以上、10000重量%以下である、請求項6記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項10】
黒色材の含有量が、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して0.01重量%以上、30重量%以下である、請求項6記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル及び熱可塑性樹脂を含有する、発泡性マスターバッチ。
【請求項12】
求項11記載の発泡性マスターバッチを用いてなる、発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた発泡性を有するとともに、分散性が高く、外観が良好な発泡成形体を得ることが可能な熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性マスターバッチ及び発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロカプセルは、意匠性付与剤や軽量化剤として幅広い用途に使用されており、発泡インク、壁紙をはじめとした軽量化を目的とした塗料等にも利用されている。
熱膨張性マイクロカプセルとしては、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤が内包されているものが広く知られている。
【0003】
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えば、特許文献1には、(メタ)アクリロイル基、反応性炭素-炭素二重結合を有する分子量500以上の架橋性単量体からなる重合体を含有する熱膨張性微小球が開示されている。
また、特許文献2には、表面にワックスが付着した熱膨張性微小球を含有する接着剤組成物用改質材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2019/150951号
【文献】特開2015-143331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の熱膨張性微小球は、分散性が充分なものではなく、粒子の凝集に起因して得られる成形体に外観不良が発生するという問題がある。
【0006】
本発明は、優れた発泡性を有するとともに、分散性が高く、外観が良好な発泡成形体を得ることが可能な熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性マスターバッチ及び発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示1は、シェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、アセタール基を有する化合物を含有する、熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示2は、アセタール基を有する化合物がポリビニルアセタール樹脂である、本開示1記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示3は、ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である、本開示2記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示4は、シェルは、更に重合体化合物を含有する、本開示1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示5は、アセタール基を有する化合物の含有量が、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して0.001重量%以上、20重量%以下である、本開示1、2、3又は4記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示6は、シェルは黒色材を含有する、本開示1、2、3、4又は5記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示7は、黒色材は、熱膨張性マイクロカプセルの内部に存在する、本開示6記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示8は、黒色材は、黒色顔料である、本開示6又は7記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示9は、アセタール基を有する化合物の含有量が、黒色材に対して3重量%以上、10000重量%以下である、本開示6、7又は8記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示10は、黒色材の含有量が、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して0.01重量%以上、30重量%以下である、本開示6、7、8又は9記載の熱膨張性マイクロカプセルである。
本開示11は、本開示1~10のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル及び熱可塑性樹脂を含有する、発泡性マスターバッチである。
本開示12は、本開示1~10のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル、又は、本開示11記載の発泡性マスターバッチを用いてなる、発泡成形体である。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、アセタール基を有する化合物を含有する。本発明において、「アセタール基を有する化合物」は「アセタール基」を有するものであれば特に限定されず、例えば、下記式(1)に示すアセタール基を有する構成単位を含む化合物等が挙げられる。なお、下記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。
【0009】
【化1】
【0010】
上記アセタール基を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、アセタール基を有する構成単位を含有する共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
上記ポリビニルアセタール樹脂を含有することにより、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、分散性に優れるものとなり、外観の良好な成形体を得ることが可能となる。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、アルデヒドを用いてポリビニルアルコールをアセタール化する方法等により作製することができる。
また、上記式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、特に、メチル基、プロピル基であることが好ましい。
【0011】
上記アセタール基を有する化合物、特に、ポリビニルアセタール樹脂は、数平均分子量の好ましい下限が5000、好ましい上限が500000である。上記アセタール基を有する化合物の数平均分子量が5000以上であることにより、得られる成形体における外観不良の発生を抑制することができる。上記アセタール基を有する化合物の数平均分子量が500000以下であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記アセタール基を有する化合物の数平均分子量のより好ましい下限は8000、さらに好ましい下限は10000、より好ましい上限は300000、さらに好ましい上限は100000である。
なお、上記数平均分子量はゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。例えば、ポリビニルアセタール樹脂をテトラヒドロフランに0.2重量%の濃度で溶解させ、GPC装置(HLC-8220、東ソー社製)にて測定を行い、得られた測定結果から、単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して、数平均分子量(Mn)、(重量平均分子量(Mw)、Mw/Mn)を算出することができる。上記測定で使用されるカラムとしては、カラムTSKgel SuperHZM-H(東ソー社製)を用いることができる。
【0012】
上記アセタール基を有する化合物、特に、ポリビニルアセタール樹脂は、回転粘度計を用いて20℃で測定した粘度の好ましい下限が5mPa・s、好ましい上限が250mPa・sである。上記粘度が5mPa・s以上であることにより、得られる成形体における外観不良の発生を抑制することができる。上記粘度が250mPa・s以下であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記粘度のより好ましい下限は8mPa・s、より好ましい上限は60mPa・sである。
なお、上記粘度はエタノール/トルエン=1/1混合溶媒中にアセタール基を有する化合物を10重量%になるように添加した溶液について、回転粘度計(BM型)等を用いて20℃の条件下にて測定することができる。
【0013】
上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基を有する構成単位の含有割合(以下、「アセタール基量」ともいう)は、アルデヒドを単独で用いた場合又は2種以上を組み合わせて用いた場合のいずれであっても、好ましい下限が50モル%、好ましい上限が85モル%である。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量が50モル%以上であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量が85モル%以下であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量のより好ましい下限は54モル%、更に好ましい下限は58モル%であり、より好ましい上限は82モル%、更に好ましい上限は79モル%である。
なお、上記アセタール基量の計算方法については、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基がポリビニルアルコールの2個の水酸基をアセタール化して得られたものであることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用する。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂における下記式(2)に示す水酸基を有する構成単位の含有割合(以下、「水酸基量」ともいう)の好ましい下限は16モル%、好ましい上限は45モル%である。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が16モル%以上であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が45モル%以下であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量のより好ましい下限は20モル%、更により好ましい下限は22モル%であり、より好ましい上限は40モル%である。
【0015】
上記ポリビニルアセタール樹脂における下記式(3)に示すアセチル基を有する構成単位の含有割合(以下、「アセチル基量」ともいう)の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が0.1モル%以上、30モル%以下であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量のより好ましい下限は0.2モル%、更に好ましい下限は0.3モル%であり、より好ましい上限は24モル%、更に好ましい上限は20モル%、更により好ましい上限は18モル%である。
【0016】
【化2】
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをアセタール化することで得られるポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。このようなポリビニルアセタール樹脂を用いることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体を得ることができる。上記ポリビニルアルコールのケン化度のより好ましい下限は85モル%である。
【0018】
上記アセタール化の方法としては、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下でポリビニルアルコールの水溶液にアルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0019】
上記アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β-フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、成形体の発泡性および外観の観点から、アセタール基がブチラール基であるポリビニルブチラール樹脂、アセタール基がアセトアセタール基であるポリビニルアセトアセタール樹脂が好ましく、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0021】
上記アセタール基を有する化合物が、アセタール基を有する構成単位を含有する共重合体(アセタール基含有共重合体ともいう)である場合、上記アセタール基を有する構成単位以外の構成単位としては、後述するニトリル系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、架橋性モノマーに由来する構成単位等が挙げられる。
【0022】
上記アセタール基を有する化合物のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、60℃以上、120℃以下であることが好ましい。上記アセタール基を有する化合物のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体が得ることができる。上記アセタール基を有する化合物のガラス転移温度(Tg)は、120℃以下であることがより好ましく、60℃以上であることが好ましい。
上記アセタール基を有する化合物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、示差走査熱量測定により求めることができる。
【0023】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルにおける上記アセタール基を有する化合物の含有量は、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は20重量%である。熱膨張性マイクロカプセル全体に対する上記アセタール基を有する化合物の含有量が上記範囲内であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体が得られる。熱膨張性マイクロカプセル全体に対する上記アセタール基を有する化合物の含有量のより好ましい下限は0.01重量%、更に好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は10重量%、更に好ましい上限は5重量%である。
また、上記アセタール基を有する化合物の含有量は、後述する黒色材に対して0.5重量%以上、10000重量%以下であることが好ましい。上記アセタール基を有する化合物の含有量が上記範囲内であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体が得られる。
特に、黒色材に対する上記アセタール化合物の含有量が0.5重量%以上であることで、熱膨張性マイクロカプセル及び黒色材の分散性を向上させて発泡性能の低下を防止できる。また、黒色材に対する上記アセタール基を含有する化合物の含有量が10000重量%以下であることで、熱膨張性マイクロカプセルのシェルが均一構造となり、発泡性能を向上させることが可能となる。黒色材に対する上記アセタール基を有する化合物の含有量のより好ましい下限は1重量%、更に好ましい下限は2重量%、更により好ましい下限は3重量%、より好ましい上限は5000重量%、更に好ましい上限は3000重量%、更により好ましい上限は2000重量%、特に好ましい上限は1000重量%、とりわけ好ましい上限は80重量%、ことさら好ましい上限は60重量%、非常に好ましい上限は40重量%、例えば30重量%以下である。
【0024】
上記アセタール基を有する化合物の含有量は、後述する重合性化合物に対して0.01重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。重合性化合物に対する上記アセタール基を有する化合物の含有量が上記範囲内であることにより、優れた分散性を発現させることができ、外観が良好な成形体が得られる。
特に、重合性化合物に対する上記アセタール化合物の含有量が0.01重量%以上であることで、熱膨張性マイクロカプセルの分散性を向上させて成形体の外観低下を防止できる。また、重合性化合物に対する上記アセタール基を含有する化合物の含有量が10重量%以下であることで、熱膨張性マイクロカプセルのシェルが均一構造となり、発泡性能を向上させることが可能となる。
重合性化合物に対する上記アセタール基を有する化合物の含有量は、0.1重量%以上、5重量%以下であることが好ましい。
なお、上記アセタール基を有する化合物の各種含有量は、例えば、NMR、熱分解GC/MS、IR、LC/MS等により測定することができる。また、上記アセタール基を有する化合物の各種含有量は、アセタール基を有する化合物及び各原料の添加量から算出してもよい。
【0025】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、更に重合体化合物を含有してもよい。なお、上記重合体化合物は、上記アセタール基を有する化合物とは異なるものである。
上記重合体化合物は、ニトリル系モノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとを含有するモノマー組成物の重合体であることが好ましい。
【0026】
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル、又は、これらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記モノマー組成物中のニトリル系モノマーの含有量の好ましい下限は40重量%、好ましい上限は90重量%である。40重量%以上とすることで、シェルのガスバリア性を高めて発泡倍率を向上させることができる。90重量%以下とすることで、耐熱性を向上させたり、黄変を抑制したりすることができる。より好ましい下限は45重量%、更に好ましい下限は50重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0028】
上記カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、カルボキシル基を有し、炭素数が3~8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーを用いることができる。
具体的には例えば、不飽和ジカルボン酸やその無水物又は不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記不飽和ジカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等が挙げられる。
上記不飽和ジカルボン酸のモノエステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等が挙げられる。
これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0029】
上記モノマー組成物中における、上記カルボキシル基を有するモノマーの含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は50重量%である。5重量%以上とすることで、最大発泡温度を高めることができ、50重量%以下とすることで、発泡倍率を向上させることが可能となる。より好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は40重量%、更に好ましい上限は30重量%である。
【0030】
上記モノマー組成物は、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等を含有してもよい。
上記アミド基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
上記エポキシ基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
上記モノマー組成物は、分子内に二重結合を2つ以上有する架橋性モノマーを含有することが好ましい。上記架橋性モノマーは、架橋剤としての役割を有する。上記架橋性モノマーを含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
【0032】
上記架橋性モノマーとしては、ラジカル重合性二重結合を2つ以上有するモノマーが挙げられ、具体例には例えば、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリレート、3官能以上の(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。更に、重量平均分子量が200~600であるポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレートを用いてもよい。
上記3官能の(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのなかでは、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能性のものや、ポリエチレングリコール等の2官能性の(メタ)アクリレートが、アクリロニトリルを主体としたシェルには比較的均一に架橋が施される。
【0033】
上記モノマー組成物中における、上記架橋性モノマーの含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は1.0重量%である。上記架橋性モノマーの含有量を0.1重量%以上とすることで、架橋剤としての効果を充分に発揮することができ、上記架橋性モノマーの含有量を1.0重量%以下とすることで、熱膨張性マイクロカプセルの発泡倍率を向上させることが可能となる。上記架橋性モノマーの含有量のより好ましい下限は0.15重量%、より好ましい上限は0.9重量%である。
【0034】
上記モノマー組成物は、上記ニトリル系モノマーと、カルボキシル基を有するモノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、架橋性モノマー以外の他のモノマーを含有することが好ましい。
上記他のモノマーを含有することで、熱膨張性マイクロカプセルと熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂の混和性が良好となり、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体が優れた外観を有する。
上記他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルのほか、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル類、又は、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環・芳香環・複素環含有メタクリル酸エステル類が好ましい。
【0035】
上記モノマー組成物中における、上記他のモノマーの含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は25重量%である。上記他のモノマーの含有量を0.1重量%以上とすることで、熱膨張性マイクロカプセルを用いた組成物の分散性を向上させることができ、25重量%以下とすることで、セル壁のガスバリア性を向上させて、熱膨張性を改善することが可能となる。上記他のモノマーの含有量のより好ましい下限は0.3重量%、より好ましい上限は22重量%である。
【0036】
上記モノマー組成物は、上記ニトリル系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、架橋性モノマー、他のモノマー以外に熱硬化性樹脂を含有していてもよい。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0037】
上記エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ベンジリックエーテル型フェノール樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0038】
上記熱硬化性樹脂は、カルボキシル基と反応する官能基を1分子中に2個以上有することが好ましい。上記カルボキシル基と反応する官能基を2個以上有することで、熱硬化性樹脂の硬化性をより強固なものとすることができる。特に、上記モノマー組成物がカルボキシル基を有するモノマーを含有する場合は、加熱発泡させる際の熱によって、カルボキシル基と熱硬化性樹脂とがより強固に結合し、耐熱性や耐久性を大幅に向上させることが可能となる。
なお、上記熱硬化性樹脂は、ラジカル重合性の二重結合を有しないものであることが好ましい。
【0039】
上記カルボキシル基と反応する官能基としては、例えば、グリシジル基、フェノール基、メチロール基、アミノ基等が挙げられる。なかでも、グリシジル基が好ましい。上記カルボキシル基と反応する官能基としては、同種のものを用いてもよく、2種以上のものを用いてもよい。
【0040】
上記モノマー組成物中における、上記熱硬化性樹脂の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は30重量%である。
上記熱硬化性樹脂の含有量を0.01重量%以上とすることで、加熱発泡時の耐圧縮性を向上できる。上記熱硬化性樹脂の含有量を30重量%以下とすることで、シェルのガスバリア性を改善し、発泡性が向上する。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0041】
上記モノマー組成物には、上記モノマーを重合させるため、重合開始剤を添加する。
上記重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。
具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化ジアルキル;イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル等が挙げられる。
また、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート等が挙げられる。
また、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α-ビス-ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどのパーオキシエステル;ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピル-オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
更に、ジ(2-エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
加えて、2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ化合物等が挙げられる。
【0042】
上記重合体化合物の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0043】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、黒色材を含有することが好ましい。
従来の熱膨張性マイクロカプセルでは、黒色材を添加した場合、黒色材の分散性が低いことに起因して、黒色の発泡成形体を製造する場合には、発泡後に得られる成形体の黒色度が低くなり、成形体表面に熱膨張性マイクロカプセル由来の白斑点が生じるという問題がある(白化・外観不良)。
しかしながら、本発明では、黒色材を添加した場合でも、黒色材の分散性を高めることができ、得られる成形体に白斑点が生じることを抑制することができる。
また、本発明では、成形体表面の色ムラの発生についても効果的に抑制することが可能となる。
なお、上記黒色材は、太陽光のうちの可視光領域を含む全ての光線を吸収することで黒色を示すものである。一般的な黒色顔料は可視光領域(約380~780nm)の光を吸収して黒色を示すが、実際には、熱に寄与する度合いの大きい800~1,400nmの波長領域を含む近赤外領域の光も吸収する。
【0044】
上記黒色材のOD値の好ましい下限は1.5、好ましい上限は5.0である。上記範囲内とすることで、高い遮光性ならびに漆黒性を両立させた黒色塗膜、ならびにブラックマトリクスを得ることができる。
上記黒色材のOD値は、上記黒色材を50重量%含有するアクリル樹脂(塗膜厚み50μm)を測定した場合のOD値をいう。
なお、本明細書において、光学濃度(OD値)とは、光学濃度変化素子に対する入射光強度をI、透過光強度をIとした際に、X=-log(I/I)で表される値Xのことを差す。
なお、光学濃度(OD値)は、色彩色差計、マクベス濃度計等を用いることで測定することができる。
【0045】
上記黒色材としては、黒色顔料、黒色染料、黒色導電性ポリマー等が挙げられる。なかでも、発泡成形体の外観の観点から、黒色顔料が好ましい。
上記黒色顔料としては、炭素系黒色顔料、酸化物系黒色顔料等の無機系黒色顔料のほか、有機系黒色顔料が挙げられる。なかでも、炭素系黒色顔料及び酸化物系黒色顔料からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
上記炭素系黒色顔料としては、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、グラフェン等が挙げられる。
上記酸化物系黒色顔料としては、チタンブラック、酸化鉄、マグネタイト、酸化第一銅(亜酸化銅)のほか、銅とクロム、銅とマンガン、銅と鉄とマンガン、コバルトとクロムと鉄を主金属成分とした複合酸化物黒色顔料等が挙げられる。
上記有機系黒色顔料としては、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等が挙げられる。
なかでも、優れた耐熱性に加え、樹脂中での分散性に優れること、均質な黒色を付与できる点でカーボンブラックがより好ましい。
【0046】
上記黒色染料としては、無機系黒色染料、有機系黒色染料等が挙げられる。なかでも、有機系黒色染料が好ましい。
上記無機系黒色染料としては、金属錯塩アゾ系黒色染料が挙げられる。
上記金属錯塩アゾ系黒色染料としては、NeoSuper Black C-832(商品名 ソルベントブラック27、中央合成化学社製)等が挙げられる。
【0047】
上記有機系黒色染料としては、ジスアゾ系黒色染料、アジン系黒色染料、フタロシアニン系黒色染料、アントラキノン系黒色染料、インジゴイド系黒色染料等が挙げられる。
上記ジスアゾ系黒色染料としては、Chuo Sudan Black 141(商品名 ソルベントブラック3、中央合成化学社製)等が挙げられる。
上記アジン系黒色染料としては、として知られているChuo Black F5(商品名 ソルベントブラック7、中央合成化学社製)等が挙げられる。
【0048】
上記黒色導電性ポリマーとしては、例えば、ポリチオフェン、ポリドーパミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレン、ポリアセチレン、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジアゾール等や、これら導電骨格を複数有するポリマー等が挙げられる。これらのなかではポリチオフェンおよびその誘導体が好ましく、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)[PEDOT]、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)[PEDOT/PSS]、ポリチエノチオフェンが特に好ましい。
【0049】
上記黒色材のなかでは、微粒子状の黒色材(黒色微粒子)が好ましい。
上記黒色微粒子としては、平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.4μm以下がさらに好ましく、0.3μm以下であることがさらにより好ましい。上記範囲内とすることで、樹脂中で黒色微粒子が分散され、色相(黒色)が均一となる。
上記平均粒子径は、粒子径分布測定装置(例えば、ELSZ-2000ZS、大塚電子社製)を用いた観察により測定することができる。
上記黒色微粒子としては、一次平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましく、80nm以下がさらにより好ましく、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。上記範囲内とすることで、樹脂中で黒色微粒子が分散され、色相(黒色)が均一となる。
上記一次平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(Regulus8220、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた観察により測定することができる。
なお、本明細書において、「平均粒子径」は、実在粒子(二次粒子も含む)の平均粒子径のことであり、特に液体中での流体力学的直径を意味する。また、「一次平均粒子径」は、最小単位の粒子(一次粒子)の平均粒子径を意味する。
【0050】
上記黒色材の含有量の好ましい下限は、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して0.01重量%、好ましい上限は30重量%である。0.01重量%以上とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。30重量%以下とすることで、分散性を改善して、外観性能をより一層高めることができる。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は20重量%、さらに好ましい上限は10重量%である。
なお、黒色材の含有量は、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを窒素雰囲気下で600℃まで10℃/minで昇温し、10分間保持した後、400℃まで10℃/minで降温して10分間保持し、雰囲気を空気に切り替え、空気下で1000℃まで昇温して、10分間1000℃で維持する。この際における400℃~1000℃の重量減少分から求めることができる。
【0051】
上記黒色材としては、比表面積が500m/g以下であることが好ましく、より好ましくは5~300m/g、更に好ましくは10~200m/gである。上記範囲内とすることで、樹脂中で黒色材が分散され、色相(黒色)が均一となる。
上記比表面積は、表面積/細孔径分析装置(NOVA4200e、カンタクローム・インスツルメンツ社製)を用いて、窒素の吸着等温線を測定し、測定結果から、BET法に準拠して、黒色材の比表面積を算出することで測定できる。
【0052】
上記黒色材は、DBP吸収量が10~200cm/100gであることが好ましい。上記DBP吸収量を、上記範囲内とすることで、樹脂中で黒色材が分散され、色相(黒色)を均一にすることができる。上記DBP吸収量は30~150cm/100gであることが好ましい。
なお、DBP吸収量(cm/100g)とは、100gのカーボンブラックが吸着し得るジブチルフタレート(DBP)の体積であり、JIS K 6217に準じて測定される。
【0053】
上記黒色材としては、表面が被覆されていないものを用いてもよく、表面が被覆されたものを用いてもよい。上記表面が被覆されたものとしては、ポリマー又は低分子化合物により表面が被覆されたもの等が挙げられる。
【0054】
本発明において、上記黒色材は、熱膨張性マイクロカプセルの表面に存在していてもよく、内部に存在していてもよい。また、内部に存在する場合は、熱膨張性マイクロカプセルのシェル内部に黒色材が存在していてもよく、シェルの内側界面(コアシェル界面)に存在していてもよい。本発明では、上記黒色材が熱膨張性マイクロカプセルのシェル内部に存在することが好ましい。黒色材がシェル内部に存在する場合、黒色材の脱落が生じ難くなり発泡体の外観を良好にできると共に、発泡性能を高く維持することが容易となる。
また、上記熱膨張性マイクロカプセルは、最外層を有し、最外層に黒色材が含まれる形態であってもよい。
なお、上記シェル内部に黒色材が存在する熱膨張性マイクロカプセルは、表面が被覆されていない黒色材を用いることで製造することができる。また、上記シェルの内側界面に黒色材が存在する熱膨張性マイクロカプセルは、ポリマー又は低分子化合物で表面が被覆された黒色材を用いることで製造することができる。
上記黒色材の存在位置は、埋め込み樹脂中に分散した熱膨張性マイクロカプセルの中心付近を通るように薄膜を作製した後、透過型電子顕微鏡等を用いて確認することができる。
【0055】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、更に、Si系化合物及びMg系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の無機系化合物を含有することが好ましい。
上記無機系化合物を含有することで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することが可能となる。
なお、上記無機系化合物は、上記黒色材とは異なるものである。
【0056】
上記Si系化合物、Mg系化合物としては、ケイ素、マグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩又は炭酸水素塩を含有するものであることが好ましい。
これらのSi系化合物、Mg系化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記Si系化合物としては、コロイダルシリカ、ケイ酸ゾル等のほか、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカが好ましい。
上記Mg系化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、ジハイドロタルサイト、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムカルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム等が挙げられる。なかでも、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0058】
上記無機系化合物としては、他に例えば、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等を添加してもよい。また、必要に応じて、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩や、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0059】
上記無機系化合物としては、微粒子状のものが好ましい。
上記無機系化合物が微粒子状である場合、1次粒子径は0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは5~100nmである。上記範囲内とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。上記1次粒子径は、走査型電子顕微鏡(Regulus8220、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた観察により測定することができる。
【0060】
上記無機系化合物の含有量は、熱膨張性マイクロカプセル全体に対して0.01重量%、好ましい上限は7重量%である。0.01重量%以上とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。7重量%以下とすることで、成形時の樹脂分散性をより一層高めることができる。より好ましい下限は0.3重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0061】
上記黒色材に対する無機系化合物の重量比率(無機系化合物/黒色材)は、0.001~300であることが好ましい。0.001以上とすることで、成形時に樹脂中での熱膨張性マイクロカプセル同士の融着を抑制することができる。300以下とすることで、成形時の樹脂分散性をより一層高めることができ、また遮光性や外観性能をより一層高めることができる。より好ましい下限は0.3、より好ましい上限は100である。
【0062】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0063】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n-ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n-へキサン、ヘプタン、石油エーテル、イソオクタン、オクタン、デカン、イソドデカン、ドデカン、ヘキサンデカン等の低分子量炭化水素等が挙げられる。
また、CClF、CCl、CClF、CClF-CClF等のクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル-n-プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、イソオクタン、イソドデカン及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状となる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0064】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0065】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が150℃である。150℃以上とすることで、耐熱性が高くなり、熱膨張性マイクロカプセルを含有する組成物を高温領域で塗工する際に、熱膨張性マイクロカプセルが破裂、収縮することを抑制することができる。また、塗工時における熱膨張性マイクロカプセル同士の凝集を抑制して、外観を良好なものとすることができる。より好ましい下限は170℃、さらに好ましい下限は190℃、好ましい上限は240℃である。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となったとき(最大変位量)における温度を意味する。
【0066】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルは、熱機械分析で測定した最大変位量(Dmax)の好ましい下限が10μmである。10μm未満であると、発泡倍率が低下し、所望の発泡性能が得られないことがある。より好ましい下限は20μm、更に好ましい下限は100μm、更により好ましい下限は300μmである。また、上記最大変位量の好ましい上限は2000μm、より好ましい上限は1800μm、更に好ましい上限は1500μmである。
なお、上記最大変位量は、所定量の熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、所定量全体の熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となるときの値をいう。
【0067】
また、発泡開始温度(Ts)の好ましい上限は175℃である。175℃以下とすることで、発泡が容易となり所望の発泡倍率を実現することができる。好ましい下限は130℃、より好ましい上限は170℃である。
【0068】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルは、高温燃焼物含有量の好ましい下限が0.1重量%、好ましい上限が20重量%である。上記範囲内とすることで、優れた発泡性を有するとともに、分散性が高く、外観が良好な発泡成形体を得ることが可能となる。
上記高温燃焼物含有量は、示差熱熱重量同時測定装置(TA7200、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、得られた熱膨張性マイクロカプセル1.0mgを窒素雰囲気下で600℃まで10℃/minで昇温し、10分間保持した後、400℃まで10℃/minで降温して10分間保持した。その後、雰囲気を空気に切り替え、空気下で1000℃まで昇温し、10分間1000℃で維持した際の、400℃~1000℃における重量減少分を求めることで測定することができる。
【0069】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は3μm、好ましい上限は45μmである。3μm以上であると、得られる成形体の気泡が小さすぎず、発泡倍率が充分なものとなり、45μm以下であることで、得られる塗工物の気泡が大きくなりすぎず、外観に優れたものとなる。より好ましい下限は5μm、更に好ましい下限は10μm、より好ましい上限は35μmである。
上記体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0070】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては特に限定されないが、以下の方法を用いることができる。例えば、無機系化合物等を含有する水性分散媒体を調製する工程、モノマー組成物、揮発性膨張剤、アセタール基を有する化合物、黒色材等とを含有する油性混合液を水性分散媒体中に分散させる工程、及び、上記モノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
上記モノマー組成物としては、上記ニトリル系モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、架橋性モノマー、他のモノマーを含有するものを用いることができる。
【0071】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルを製造する場合、最初に水性分散媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水、無機系化合物、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、無機系化合物を含有する水性分散媒体を調製する。
【0072】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物等が挙げられる。また、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0073】
また、補助安定剤に加えて、縮合生成物、水溶性窒素化合物を添加してもよい。
上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0074】
上記水溶性窒素化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0075】
上記無機系化合物、補助安定剤を含有する水性分散媒体は、脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する無機系化合物、補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、無機系化合物としてコロイダルシリカ等のSi系化合物を使用する場合は、酸性の水性分散媒体を用いて重合が行われ、水性分散媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3~4に調製される。一方、無機系化合物として水酸化マグネシウム等のMg系化合物やリン酸カルシウムを使用する場合は、pHが8~11に調製されたアルカリ性の水性分散媒体を用いて重合させる。
【0076】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、モノマー組成物、揮発性膨張剤、アセタール基を含有する化合物、必要に応じて黒色材および分散剤を含有する油性混合液を水性分散媒体中に分散させる工程を行う。
具体的には、モノマー組成物、揮発性膨張剤、アセタール基を含有する化合物、ならびに必要に応じて黒色材および分散剤を含有する油性混合液を水性分散媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー組成物及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加してもよい。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
水性分散媒体が黒色材及び必要に応じて分散剤を含む場合、熱膨張性マイクロカプセルの内部に、使用した黒色材を存在させることができる。
【0077】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水性分散媒体と重合性混合物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0078】
本発明の一実施態様である熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を、加熱することによりモノマーを重合させる工程、及び、洗浄する工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域での塗工時においても破裂、収縮することがない。
【0079】
上記熱膨張性マイクロカプセル及び熱可塑性樹脂(ベースレジン)を含有する発泡性マスターバッチもまた本発明の1つである。
【0080】
上記ベースレジンに使用される熱可塑性樹脂は特に限定されず、通常の発泡成形に用いられる熱可塑性樹脂を用いることができる。上記熱可塑性樹脂として、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ポリスチレン、熱可塑性エラストマー、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)等が挙げられる。
これらのなかでは、融点が低く加工しやすいことから、LDPE、EVA、EMMA等が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0081】
発泡性マスターバッチにおける上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が10重量部、好ましい上限が90重量部である。
【0082】
上記発泡性マスターバッチを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂等のベースレジン、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、熱膨張性マイクロカプセル等の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチとする方法等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂等のベースレジンや熱膨張性マイクロカプセル等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒することによりペレット形状のマスターバッチを製造してもよい。
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0083】
また、上記熱膨張性マイクロカプセル、発泡性マスターバッチを用いて得られる発泡成形体もまた本発明の1つである。特に上記熱膨張性マイクロカプセルは、凹凸形状等の高外観品質を有する発泡シートが得られ、住宅用壁紙等の用途に好適に用いることができる。
具体的には、上記熱膨張性マイクロカプセル又は上記熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡性マスターバッチと、マトリックス樹脂とを混練し、成形することで発泡成形体が得られる。
【0084】
上記発泡成形体の成形方法としては、特に限定されず、例えば、混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等が挙げられる。射出成形の場合、工法は特に限定されず、金型に樹脂材料を一部入れて発泡させるショートショート法や金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0085】
本発明によれば、優れた発泡性を有するとともに、分散性が高く、外観が良好な発泡成形体を得ることが可能な熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性マスターバッチ及び発泡成形体とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0086】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0087】
(実施例1)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)35重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.8重量部と、1N塩酸1.8重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、表1に記載のモノマー組成物、揮発性膨張剤、ポリビニルブチラール(PVB1)0.013重量部、及び、重合開始剤(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.8重量部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.6重量部からなる油性混合物を水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。
なお、モノマー組成物は、アクリロニトリル20重量部、メタクリロニトリル30重量部、メタクリル酸35重量部、メチルメタクリレート15重量部からなり、揮発性膨張剤は、イソペンタン15重量部、イソオクタン10重量部からなるものである。
また、PVB1(積水化学工業社製)は、粘度:平均12mPa・s、数平均分子量:15000、水酸基量:28モル%、アセチル基量:2モル%、アセタール基量(ブチラール基量):70モル%、ガラス転移温度:67℃であった。粘度はエタノール/トルエン=1/1溶媒中に10重量%になるようにPVB1を添加した溶液を回転粘度計(BM型)を用いて20℃の条件下で測定した。
得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を得た。
得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0088】
(実施例2~5)
ポリビニルブチラール(PVB1)の添加量を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0089】
(実施例6)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)35重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.8重量部と、1N塩酸1.8重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、表1のモノマー組成物、揮発性膨張剤、ポリビニルブチラール(PVB1)1.25重量部、黒色材としてカーボンブラック(CB1、一次平均粒径24nm、比表面積110m/g、DBP吸収量100cm/100g、油性混合物中での平均粒子径150nm)0.013重量部、重合開始剤からなる油性混合物を超音波照射した後、水性分散媒体に添加した。その後、懸濁させて、分散液を調製した。なお、モノマー組成物は、アクリロニトリル20重量部、メタクリロニトリル30重量部、メタクリル酸35重量部、メチルメタクリレート15重量部からなり、揮発性膨張剤は、イソペンタン15重量部、イソオクタン10重量部からなるものである。
また、重合開始剤は、(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.8重量部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.6重量部からなるものである。
また、超音波照射後の油性混合物中のカーボンブラックの平均粒子径は150nmであった。
得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で21時間反応させることにより、反応生成物を得た。
得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
なお、得られた熱膨張性マイクロカプセルを粒子の含有量が3重量%となるように、埋め込み樹脂(テクノビット4000、Kulzer社製)に添加し、分散させて、熱膨張性マイクロカプセル埋め込み樹脂を作製した。埋め込み樹脂中に分散した熱膨張性マイクロカプセルの中心付近を通るようにミクロトーム(EM UC7、LEICA社製)で薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡(JEM-2100、日本電子社製)で黒色材の存在位置を確認したところ、シェルの内部に黒色材が存在することが確認できた。
なお、以降で作製する熱膨張性マイクロカプセルに関しても、同様に黒色材の存在位置を確認した。表1では、黒色材が熱膨張性マイクロカプセルの表面に存在する場合は「粒子表面」とし、黒色材がシェルの内側界面に存在する場合は「コアシェル界面」とした。また、黒色材の一部がシェルの表面に出ており、一部がシェルの内部に埋まっている状態である場合は「シェル内部」とした。
【0090】
(実施例7~14)
ポリビニルブチラール(PVB1)、カーボンブラックの添加量を表1に示す量に変更した以外は実施例6と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0091】
(実施例15~20)
ポリビニルブチラール(PVB1)を、表1に示すポリビニルブチラール(PVB2~PVB7)に変更した以外は実施例6と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。なお、PVB2~PVB7としては、以下のものを使用した。
PVB2:粘度:平均20mPa・s、数平均分子量19000、水酸基量:36モル%、アセチル基量:1モル%、アセタール基量(ブチラール基量):63モル%、ガラス転移温度:70℃
PVB3:粘度:平均17mPa・s、数平均分子量20000、水酸基量:30モル%、アセチル基量:1モル%、アセタール基量(ブチラール基量):69モル%、ガラス転移温度:68℃
PVB4:粘度:平均23mPa・s、数平均分子量23000、水酸基量:23モル%、アセチル基量:5モル%、アセタール基量(ブチラール基量):72モル%、ガラス転移温度:66℃
PVB5:粘度:平均34mPa・s、数平均分子量28000、水酸基量:30モル%、アセチル基量:1モル%、アセタール基量(ブチラール基量):69モル%、ガラス転移温度:70℃
PVB6:粘度:9~13mPa・s、水酸基量:14~18モル%、アセチル基量:5~8モル%、アセタール基量(ブチラール基量):74~81モル%
PVB7:粘度:14~20mPa・s、水酸基量:18~21モル%、アセチル基量:1~4モル%、アセタール基量(ブチラール基量):75~81モル%
【0092】
(実施例21~23)
カーボンブラック(CB1、一次平均粒径24nm、比表面積110m/g、DBP吸収量100cm/100g、油性混合物中での平均粒子径150nm)に代えて、表1に示すCB2(一次平均粒径13nm、比表面積370m/g、DBP吸収量77cm/100g、油性混合物中での平均粒子径80nm)、CB3(一次平均粒径30nm、比表面積74m/g、DBP吸収量113cm/100g、油性混合物中での平均粒子径200nm)、CB4(一次平均粒径55nm、比表面積36m/g、DBP吸収量93cm/100g、油性混合物中での平均粒子径350nm)を用いた以外は実施例6と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0093】
(実施例24)
水性分散媒体に黒色材としてカーボンブラック(CB5、アクアブラック#001、東海カーボン社製、平均粒子径:160nm)を3.75重量部加え、油性混合物にカーボンブラックを加えなかったこと以外は実施例9と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0094】
(実施例25)
カーボンブラック(CB1、一次平均粒径24nm、比表面積110m/g、DBP吸収量100cm/100g、油性混合物中での平均粒子径150nm)に代えて、表1に示すCB6(一次平均粒径24nm、油性混合物中での平均粒子径150nm、ポリマー又は低分子化合物により表面が被覆された表面被覆カーボンブラック)を用いた以外は実施例6と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0095】
(実施例26)
(マスターバッチペレットの作製)
低密度ポリエチレン(LDPE、融点103℃)100重量部と、滑剤としてステアリン酸10重量部とをバンバリーミキサーで混練し、約100℃になったところで、実施例9で得られた熱膨張性マイクロカプセル100重量部添加し、更に30秒間混練して押し出すと同時にペレット化し、マスターバッチペレットを得た。
【0096】
(比較例1)
ポリビニルブチラール(PVB1)を添加しなかった以外は実施例6と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0097】
(比較例2)
ポリビニルブチラール(PVB1)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0098】
(評価方法)
得られた熱膨張性マイクロカプセルの性能を以下の方法で評価した。結果を表1に示した。
【0099】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1-1)体積平均粒子径測定
得られた熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径をレーザー回折・散乱法粒度分布測定装置(LS 13 320、ベックマンコールター社製)を用いて測定した。
【0100】
(1-2)発泡開始温度、最大変位量及び最大発泡温度測定
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA インスツルメンツ社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。
【0101】
(1-3)分散性評価
得られた熱膨張性マイクロカプセル1万個をFE-SEM(Regulus8220、日立ハイテク社製)を用いて観察した。2個以上の凝集が発生した個数を計数し、以下の基準で評価した。
【0102】
50個未満:○○
50個以上100個未満:○
100個以上300個未満:△
300個以上:×
【0103】
(1-4)黒色材含有量測定
示差熱熱重量同時測定装置(TA7200、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、得られた熱膨張性マイクロカプセル1.0mgを窒素雰囲気下で600℃まで10℃/minで昇温し、10分間保持した後、400℃まで10℃/minで降温して10分間保持した。その後、雰囲気を空気に切り替え、空気下で1000℃まで昇温し、10分間1000℃で維持した際の、400℃~1000℃における重量減少分を求め、高温燃焼物含有量とした。
また、黒色材を含有しない同成分の熱膨張性マイクロカプセルの高温燃焼物含有量を別途測定し、黒色材を含有する場合の高温燃焼物含有量と、黒色材を含有しない場合の高温燃焼物含有量と差を黒色材含有量として算出した。
【0104】
(2)発泡成形体の評価
(2-1)表面粗さ
得られた熱膨張性マイクロカプセル5g、TPV樹脂(エラストマー7030BS,三井化学社製)195gを計量後、カップにて混合し、8インチロール(191-TM、安田精機製作所社製)にて110℃でロールシートを作製した。このロールシートをカットし、プレス機(PA-40E/40C、小平製作所社製)にて205℃で加熱することで発泡成形体を得た。得られた発泡成形体サンプルについて、3D形状測定機(キーエンス社製)を用いて、成形体表面の表面粗さ(Rz)を計測し、以下の基準で評価した。
【0105】
50μm未満:○○
50μm以上80μm以下:○
80μm超100μm以下:△
100μm超:×
【0106】
(2-2)色ムラ(ΔEab)評価
得られた発泡成形体サンプルについて、色彩色差計(CM-26dG、コニカミノルタ社製)を用いて、任意の3か所のL値を測定し、平均値を算出した。ベースレジンのL値(熱膨張性マイクロカプセル無添加)を基準として、その差(ΔEab=√((ΔL)^2+(Δa)^2(Δb)^2))を算出し、以下の基準で評価した。
【0107】
差が0.5未満:○○○
差が0.5以上1未満:○○
差が1以上2未満:○
差が2以上3未満:△
差が3以上:×
【0108】
(2-3)白斑点評価
得られた発泡成形体のサンプルについて、光学顕微鏡を用いて表面の1mm四方における白斑点個数を計数し、以下の基準で評価した。
【0109】
10個未満:○○○
10個以上20個未満:○○
20個以上50個未満:〇
50個以上70個未満:△
70個以上:×
【0110】
(2-4)発泡倍率
「(2-1)表面粗さ」において、発泡前の密度(発泡成形体作製時のペーストの密度)、及び、得られた発泡成形体サンプルの密度をJIS K 7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定し、発泡前後の密度から発泡倍率を算出し、以下の基準で評価した。
【0111】
1.15倍以上:○○
1.10倍以上1.15倍未満:○
1.05倍以上1.10倍未満:△
1.05倍未満:×
【0112】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、優れた発泡性を有するとともに、分散性が高く、外観が良好な発泡成形体を得ることが可能な熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性マスターバッチ及び発泡成形体を提供することができる。
【要約】
本発明は、優れた発泡性を有するとともに、分散性が高く、外観が良好な発泡成形体を得ることが可能な熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性マスターバッチ及び発泡成形体を提供する。
本発明は、シェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、アセタール基を有する化合物を含有する、熱膨張性マイクロカプセルである。