(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物、これを用いた物品、及び医療用混注栓
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20221101BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20221101BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20221101BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20221101BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20221101BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/10
C08L57/02
C08K3/34
C08L91/00
A61J1/05 315B
(21)【出願番号】P 2022546712
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2022021644
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2021091991
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂井 昂次
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-169436(JP,A)
【文献】特開2012-57162(JP,A)
【文献】特開平9-173417(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135927(WO,A1)
【文献】特開2009-144102(JP,A)
【文献】特開2016-150980(JP,A)
【文献】特開2016-196601(JP,A)
【文献】特開2019-131769(JP,A)
【文献】特開2018-145406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
A61J1/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水添ブロック共重合体 72~95質量%;及び
(b)ポリプロピレン系重合体 28~5質量%;
からなる熱可塑性樹脂 100質量部;
(c)水添石油樹脂 0.5~20質量部;並びに、
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤 110~250質量部;
を含み、
ここで前記(a)水添ブロック共重合体と前記(b)ポリプロピレン系重合体の和は100質量%であり;
前記(a)水添ブロック共重合体は、
(a1)芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の水添ブロック共重合体であり;
(a2)イソプレンに由来する構造単位を有し、前記イソプレンに由来する構造単位のうち1,4-ミクロ構造を有する構造単位が、イソプレンに由来する構造単位の総和を100質量%として、70~100質量%であり;
(a3)水素添加前の炭素・炭素二重結合の数を100モル%として、炭素・炭素二重結合の90モル%以上が水素添加されており;
(a4)前記重合体ブロックAの質量が、前記(a)水添ブロック共重合体の質量を100質量%として、5~70質量%であり;
(a5)質量平均分子量が50,000~550,000であ
り;
前記(b)ポリプロピレン系重合体は、
(b1)示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーが20~85J/gであり、融点が130℃~155℃であるポリプロピレン系重合体 5~95質量%;及び
(b2)示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーが85J/g超であり、融点が155℃超であるポリプロピレン系重合体 95~5質量%;
からなる樹脂混合物であり;
ここで前記(b1)ポリプロピレン系重合体と前記(b2)ポリプロピレン系重合体との和は100質量%である;
熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記(b1)ポリプロピレン系重合体は、ASTM D1238に従い、230℃、21.18Nの条件で測定されるメルトマスフローレートが、10g/10分超かつ50g/10分未満であり;
前記(b2)ポリプロピレン系重合体は、ASTM D1238に従い、230℃、21.18Nの条件で測定されるメルトマスフローレートが、10g/10分超かつ80g/10分以下である;
請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
更に(e)タルクを、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、2~20質量部含む、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記(e)タルクの、JIS R 1629:1997に従い、レーザ回折・散乱法により測定した粒子径分布の体積基準の積算分率における50%径の値(メジアン径D50)が、1~40μmである、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
JIS K 6253:2012に従い測定したAタイプデュロメータ硬さの15秒値が10~30である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
混注栓用である請求項1~5の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1~5
の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む物品。
【請求項8】
請求項1~5
の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる医療用混注栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関する。更に詳しくは、医療用混注栓の材料として好適に用いることのできる熱可塑性エラストマー組成物、及びこれを用いた物品、及び医療用混注栓に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用混注栓は、液体物の取り扱いを容易にすることができることから、例えば、輸血用バッグ、輸液用容器、薬液容器、血液透析の血液回路、及び腹膜透析液バックなどに広く使用されている。従来、医療用混注栓の材料としては、耐液漏れ性、針刺し性、及び再シール性などの観点から、ブチルゴムなどの加硫ゴムが用いられてきた。一方、加硫ゴムを材料とする医療用混注栓には、ゴム成分中の硫化化合物やアミン化合物等の溶出や、加硫工程を必要とするための工数がかかる、など問題があった。そこで、医療用混注栓の材料として、熱可塑性エラストマー組成物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-258857号公報
【文献】特開平9-000601号公報
【文献】特開2007-169436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した特許文献に記載されている技術は耐液漏れ性が十分に満足のできるものではなかった。特に、長時間針を装着した後、針を抜く場合に、液漏れが発生するという課題があった。
【0005】
本発明の課題は、耐液漏れ性に優れる熱可塑性エラストマー組成物、及びこれを用いた医療用混注栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の熱可塑性エラストマー組成物により、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1] (a)水添ブロック共重合体 72~95質量%;及び
(b)ポリプロピレン系重合体 28~5質量%;からなる熱可塑性樹脂 100質量部;
(c)水添石油樹脂 0.5~20質量部;並びに、
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤 110~250質量部;を含み、
ここで前記(a)水添ブロック共重合体と前記(b)ポリプロピレン系重合体の和は100質量%であり;
前記(a)水添ブロック共重合体は、
(a1)芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の水添ブロック共重合体であり;
(a2)イソプレンに由来する構造単位を有し、前記イソプレンに由来する構造単位のうち1,4-ミクロ構造を有する構造単位が、イソプレンに由来する構造単位の総和を100質量%として、70~100質量%であり;
(a3)水素添加前の炭素・炭素二重結合の数を100モル%として、炭素・炭素二重結合の90モル%以上が水素添加されており;
(a4)前記重合体ブロックAの質量が、前記(a)水添ブロック共重合体の質量を100質量%として、5~70質量%であり;
(a5)質量平均分子量が50,000~550,000である;
熱可塑性エラストマー組成物。
[2] 前記(b)ポリプロピレン系重合体が、
(b1)示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーが20~85J/gであり、融点が130℃~155℃であるポリプロピレン系重合体 5~95質量%;及び
(b2)示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーが85J/g超であり、融点が155℃超であるポリプロピレン系重合体 95~5質量%;
からなる樹脂混合物であり;
ここで前記(b1)ポリプロピレン系重合体と前記(b2)ポリプロピレン系重合体との和は100質量%である;[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3] 更に(e)タルクを、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、2~20質量部含む、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 前記(e)タルクの、JIS R1629:1997に従い、レーザ回折・散乱法により測定した粒子径分布の体積基準の積算分率における50%径の値(メジアン径D50)が、1~40μmである、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5] JIS K 6253:2012に従い測定したAタイプデュロメータ硬さの15秒値が10~30である[1]~[4]の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6] [1]~[5]の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む物品。[7] [1]~[5]の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる医療用混注栓。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐液漏れ性に優れた熱可塑性エラストマーを提供できる。本発明の好ましい実施態様によれば、耐液漏れ性、及び耐針刺し性に優れ、再シール性にも優れた熱可塑性エラストマーを提供できる。本発明の更に好ましい実施態様によれば、耐液漏れ性、及び針刺し性に優れ、特に、長時間針を装着した後に針を抜く場合にも液漏れを起こさないという非常に高い再シール性を有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。そのため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、医療用混注栓の材料として好適に用いることができる。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐液漏れ性、及び針刺し性に優れた特性を有することから、医療用混注栓以外の物品、例えば、プレフィールドシリンジガスケット、連結ゴム管、パッキン類等の物品の材料としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】セカンド融解曲線から融解エンタルピーを算出する方法を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。
【0011】
本明細書において「シート」の用語は、「フィルム」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。
【0012】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。また数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、そのある特性の数値範囲は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0013】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0014】
1.熱可塑性エラストマー組成物:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(a)水添ブロック共重合体、及び(b)ポリプロピレン系重合体からなる熱可塑性樹脂;(c)水添石油樹脂;並びに、(d)非芳香族系ゴム用軟化剤を含む。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、実施形態の1つにおいて、更に(e)タルクを含む。以下、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する各成分について説明する。
【0015】
(a)水添ブロック共重合体:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(a)水添ブロック共重合体を含む。(a)水添ブロック共重合体は、(a1)芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の水添ブロック共重合体である。(a)水添ブロック共重合体としては、例えば、A-B-A、B-A-B-A、及びA-B-A-B-Aなどの構造を有するブロック共重合体を挙げることができる。
【0016】
(a)水添ブロック共重合体を構成する重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックである。このような重合体ブロックAとしては、例えば、芳香族ビニル化合物の単独重合体ブロック、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックなどを挙げることができる。重合体ブロックAが共重合体ブロックである場合における、重合体ブロックA中の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、成形加工性の観点から、重合体ブロックAを構成する全構造単位の総和を100質量%として、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であってよい。重合体ブロックA中の芳香族ビニル化合物以外のモノマーに由来する構造単位の分布は、特に制限されない。(a)水添ブロック共重合体において、重合体ブロックAが2個以上あるとき、これらは同一構造であってもよく、互いに異なる構造であってもよい。
【0017】
(a)水添ブロック共重合体を構成する重合体ブロックBは、イソプレンを主体とする重合体ブロックである。このような重合体ブロックBとしては、例えば、イソプレンの単独重合体ブロック、イソプレンとイソプレン以外の共役ジエンとの共重合体ブロック、イソプレンと芳香族ビニル化合物との共重合体ブロック、並びにイソプレン、イソプレン以外の共役ジエン、及び芳香族ビニル化合物の共重合体ブロックなどを挙げることができる。重合体ブロックBが共重合体ブロックである場合における、重合体ブロックB中のイソプレンに由来する構造単位の含有量は、耐液漏れ性の観点から、重合体ブロックBを構成する全構造単位の総和を100質量%として、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上でであってよい。重合体ブロックB中のイソプレン以外のモノマーに由来する構造単位の分布は、特に制限されない。(a)水添ブロック共重合体において、重合体ブロックBが2個以上あるとき、これらは同一構造であってもよく、互いに異なる構造であってもよい。
【0018】
上記芳香族ビニル化合物は、重合性の炭素・炭素二重結合と芳香環を有する重合性モノマーである。上記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、及びp-第3ブチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。上記芳香族ビニル化合物としては、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
上記共役ジエンは、2つの炭素・炭素二重結合が1つの炭素・炭素単結合により結合された構造を有する重合性モノマーである。イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)以外の共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、及びクロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)などを挙げることができる。イソプレン以外の上記共役ジエンとしては、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明において、(a)水添ブロック共重合体は、イソプレンに由来する構造単位のうち1,4-ミクロ構造を有する構造単位を含む。ここでミクロ構造とは、イソプレンの何位の炭素が隣接する構造単位と結合しているかをいう。1,4-ミクロ構造を下記式(1)に示す。
【0021】
【0022】
上記式(1)中、R1及びR2は隣接する構造単位を意味する。本発明において、(a)水添ブロック共重合体は、耐液漏れ性の観点から、(a2)上記1,4-ミクロ構造を有する構造単位がイソプレンに由来する構造単位の総和を100質量%として通常70~100質量%、好ましくは80~100質量%の割合で含まれる。
【0023】
上記特性(a2)は、13C-NMRを使用して測定されるスペクトルから、全てのイソプレンに由来する構造単位のシグナル強度に対する、イソプレンに由来し、かつ1,4-ミクロ構造を有する構造単位であって飽和(水素添加されている)の構造単位のシグナル強度とイソプレンに由来し、かつ1,4-ミクロ構造を有する構造単位であって不飽和(水素添加されていない)の構造単位のシグナル強度との和の割合として算出することができる。
【0024】
(a)水添ブロック共重合体は、(b)ポリプロピレン系重合体や(c)水添石油樹脂との混和性、相溶性の観点から、(a3)水素添加前の炭素・炭素二重結合の数を100モル%として、炭素・炭素二重結合の通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上が水素添加され、炭素・炭素単結合となっている。即ち、(a)水添ブロック共重合体中に残存する炭素・炭素二重結合の数は、通常15モル%以下、好ましくは10モル%以下である。なお(a)水添ブロック共重合体中の炭素・炭素二重結合の由来は特に限定されないが、通常は、イソプレンなどの共役ジエンに由来すると考えられる。
【0025】
上記特性(a3)は、13C-NMRを使用して測定されるスペクトルから、全ての炭素・炭素二重結合を有するモノマーに由来する構造単位のシグナル強度から算出される水素添加前の炭素・炭素二重結合の数に対する、全ての炭素・炭素二重結合を有するモノマーに由来する構造単位であって飽和(水素添加されている)の構造単位のシグナル強度から算出される水素添加され炭素・炭素単結合となっている結合の数の割合として算出することができる。
【0026】
(a)水添ブロック共重合体は、柔軟性、再シール性、及び耐液漏れ性の観点から、(a4)重合体ブロックAの質量が、(a)水添ブロック共重合体の質量を100質量%として、通常5~70質量%、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~50質量%である。
【0027】
(a)水添ブロック共重合体の、(a5)ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定されるGPC微分曲線から算出されるポリスチレン換算の質量平均分子量は、耐液漏れ性、及び再シール性の観点から、通常50,000~550,000、好ましくは100,000~300,0000、より好ましくは150,000~200,000である。(a)水添ブロック共重合体の、GPC微分曲線から算出したポリスチレン換算の数平均分子量は、耐液漏れ性、及び再シール性の観点から、好ましくは5,000~1,500,000、より好ましくは10,000~550,000、更に好ましくは100,000~400,000であってよい。(a)水添ブロック共重合体の、分子量分布(上記質量平均分子量(Mw)と上記数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn))は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは2以下、かつ1以上であってよい。
【0028】
GPC微分曲線は、以下の条件で測定することができる。
システムとして日本分光株式会社の高速液体クロマトグラフィシステム「LC-2000Plus(商品名)」(デガッサー、送液ポンプ「PU-2080(商品名)」、オートサンプラー「AS-2055(商品名)」、カラムオーブンCO-2065及びRI検出器RI-2031を含むシステム。)を使用し、カラムとしてアジレントテクノロジー株式会社のポリスチレンジビニルベンゼン共重合体カラム「PLgel Mixed-D(商品名)」2本を連結して用い、関東化学株式会社の高速液体クロマトグラフィー用クロロホルムを移動相として、流速1.0ミリリットル/分、カラム温度40℃、試料濃度1ミリグラム/ミリリットル、試料注入量100マイクロリットルの条件で行う。
試料は、移動相として使用するクロロホルム10ミリリットルにサンプル10ミリグラムを投入し、室温で静置して溶解後、アジレントテクノロジー株式会社のシリンジフィルター「Captiva Econo Filter PTFE(商品名)」のポアサイズ0.45μmを使用して濾過し、調製する。また保持容量からポリスチレン換算分子量への較正曲線は、市販の標準ポリスチレンを使用して作成することができる。その際に測定値が検量線において内挿されるように適宜選択すべきことに留意する。なお後述する実施例においては、アジレントテクノロジー株式会社の標準ポリスチレン「EasiCal PS-1(商品名)」(Plain Spatula Aの分子量6870000、841700、152800、28770、2930;Hole-puncched Spatula Bの分子量2348000、327300、74800、10110、580)を使用して作成した。解析プログラムは、日本分光株式会社の「ChromNAV(商品名)」を使用することができる。
GPCの理論及び測定の実際については、共立出版株式会社の「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、著者:森定雄、初版第1刷1991年12月10日」、株式会社オーム社の「合成高分子クロマトグラフィー、編者:大谷肇、寶崎達也(「崎」はつくりの上部が「立」)、初版第1刷2013年7月25日」などの参考書を参照することができる。
【0029】
(a)水添ブロック共重合体の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、特に制限されないが、機械的強度の観点から、(a)水添ブロック共重合体を構成する全構造単位の総和を100質量%として、好ましくは5~60質量%、より好ましくは20~50質量%であってよい。
【0030】
(b)ポリプロピレン系重合体:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(b)ポリプロピレン系重合体を含む。(b)ポリプロピレン系重合体は、プロピレンに由来する構成単位を主として含む重合体である。ここで、「プロピレンに由来する構成単位を主として含む」とは、プロピレンに由来する構成単位の含有量が、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、典型的には75~100質量%であることを意味する。
【0031】
(b)ポリプロピレン系重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体、及びプロピレンとα‐オレフィン(例えば、エチレン、1‐ブテン、1‐ヘキセン、及び1‐オクテンなど)の1種又は2種以上との共重合体(ブロック共重合体、及びランダム共重合体を含む)などを挙げることができる。
【0032】
(b)ポリプロピレン系重合体は、好ましい実施形態の1つにおいて、(b1)示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーが20~85J/gであり、融点が130℃~155℃であるポリプロピレン系重合体、及び(b2)示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーが85J/g超であり、融点が155℃超であるポリプロピレン系重合体からなる樹脂混合物であってよい。
【0033】
本明細書において、(b)ポリプロピレン系重合体の示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーは、JIS K7121‐1987に準拠し、示差走査熱量測定装置(DSC測定装置)を使用し、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)から算出する。また(b)ポリプロピレン系重合体の融点は、同様にして測定されるセカンド融解曲線のピークトップ高さが最大の融解ピークのピークトップ温度である。DSC測定装置としては、例えば、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用することができる。
セカンド融解曲線から融解エンタルピーを算出する方法の概念図を示す(
図1)。算出に際しては、ポリプロピレン系重合体のセカンド融解曲線に現れる融解ピークは、通常、低温側の裾がなだらかに長く伸びること;及び、ベースラインは、JIS K7121‐1987の9.DTA又はDSC曲線の読み方の
図1に言う高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、同低温側のベースラインを高温側に延長した直線とが一致するように引くべきことに留意する。
【0034】
成分(b1)の示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーは、柔軟性の観点から、通常85J/g以下である。一方、機械的強度及び成分(a)との混和性の観点から、通常20J/g以上、好ましくは30J/g以上、より好ましくは40J/g以上、更に好ましくは50J/g以上である。
【0035】
成分(b1)の示差走査熱量計により測定される融点は、耐液漏れ性の観点から、通常130℃以上、好ましくは135℃以上である。一方、耐液漏れ性の観点から、通常155℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0036】
成分(b1)としては、例えば、プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体であって、結晶性成分がプロピレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であるもの;プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体であって、結晶性成分が低立体規則性のプロピレン単独重合体であるもの;及び、プロピレンとα-オレフィンとのランダム共重合体などを挙げることができる。
【0037】
成分(b1)に含み得るα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンなどを挙げることができる。また、α-オレフィンとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0038】
成分(b1)中の非結晶性成分の含有量は、柔軟性の観点から、通常30質量%以上(結晶性成分70質量%以下)、好ましくは40質量%以上(結晶性成分60質量%以下)であってよい。一方、機械的強度の観点から、通常90質量%以下(結晶性成分10質量%以上)、好ましくは80質量%以下(結晶性成分20質量%以上)であってよい。
【0039】
本明細書において、ポリプロピレン系重合体の結晶性成分、及び非結晶性成分の含有量は、以下の方法により測定する。
即ち、ポリプロピレン系重合体1gを、140℃の沸騰(パラ)キシレン300ミリリットルに、攪拌下で溶解させる。溶解後、攪拌を続けながら、更に1時間、140℃に保持した後、30分間かけて100℃まで降温する。
次に急冷用油浴槽を用いて、攪拌下に23℃まで急冷し、更に20分間放置した後、濾紙を用いて析出物を自然濾過する。
析出物をポリプロピレン系重合体の結晶性成分と定義し、その質量を測定する。
続いて、エバポレーターを用いて濾液を蒸発乾固し、更に120℃で2時間減圧乾燥した後、常温まで放冷する。
得られた乾固物をポリプロピレン系重合体の非結晶性成分と定義し、その質量を測定する。
【0040】
成分(b1)は、成形加工性と機械的強度とのバランスの観点から、ASTM D1238に従い、230℃、21.18Nの条件で測定されるメルトマスフローレートが、好ましくは5~50g/10分、より好ましくは10~40g/10分であってよい。
【0041】
成分(b2)の示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーは、耐液漏れ性の観点から、85J/g超、好ましくは90J/g以上である。なお融解エンタルピーの上限は、特にない。もっともポリプロピレン系重合体であるから、通常入手可能なのは、高くてもせいぜい120J/g程度であろう。
【0042】
成分(b2)の示差走査熱量計により測定される融点は、高温環境下での機械的強度保持の観点から、155℃超、好ましくは160℃以上である。なお融点の上限は、特にない。もっともポリプロピレン系重合体であるから、通常入手可能なのは、高くてもせいぜい167℃程度であろう。
【0043】
成分(b2)としては、例えば、高立体規則性のプロピレン単独重合体;プロピレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であって、α-オレフィンに由来する構造単位の含有量が極少量であるもの;プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体であって、結晶性成分が高立体規則性のプロピレン単独重合体であるもの;及び、プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体であって、結晶性成分がプロピレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であり、かつ結晶性成分中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量が極少量であるものなどを挙げることができる。
【0044】
成分(b2)に含み得るα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンなどを挙げることができる。α-オレフィンとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0045】
成分(b2)は、成形加工性の観点から、ASTM D1238に従い、230℃、21.18Nの条件で測定されるメルトマスフローレートが、好ましくは5~80g/10分、より好ましくは10~65g/10分であってよい。
【0046】
(b)ポリプロピレン系重合体として、成分(b1)と成分(b2)との混合物を用いる実施形態において、成分(b1)と成分(b2)との配合割合は、耐液漏れ性及び柔軟性の観点から、通常成分(b1)5~95質量%、成分(b2)95~5質量%、好ましくは成分(b1)10~90質量%、成分(b2)90~10質量%、より好ましくは成分(b1)20~80質量%、成分(b2)80~20質量%であってよい。ここで成分(b1)と成分(b2)との和は100質量%である。
【0047】
熱可塑性樹脂中の(a)水添ブロック共重合体と(b)ポリプロピレン系重合体との配合割合は、耐液漏れ性及び柔軟性の観点から、通常成分(a)72~95質量%、成分(b)28~5質量%、好ましくは成分(a)78~90質量%、成分(b)22~10質量%である。ここで成分(a)と成分(b)との合計は100質量%である。
【0048】
(c)水添石油樹脂:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(c)水添石油樹脂を含む。(c)水添石油樹脂は、ナフサ等の分解により生成する不飽和炭化水素化合物、あるいはテレピン油などの植物の精油中に含まれるテルペンなどの不飽和炭化水素化合物であって、炭素数の多い(通常、炭素数4~20程度)不飽和炭化水素化合物の重合体の水素添加物である。つまり、本明細書において、(c)水添石油樹脂は水添テルペン樹脂などの植物精油樹脂の水素添加物を含む。
【0049】
(c)水添石油樹脂のモノマーとして用いられる不飽和炭化水素化合物は、典型的には、脂肪族不飽和炭化水素化合物、又は/及び芳香族不飽和炭化水素化合物である。
【0050】
脂肪族不飽和炭化水素化合物としては、例えば、1‐ブテン、2‐ブテン、1‐ペンテン、2‐ペンテン、1‐ヘキセン、2‐ヘキセン、3‐ヘキセン、1‐ヘプテン、2‐ヘプテン、3‐ヘプテン、1,3‐ペンタジエン、シクロペンタジエン(シクロペンタ‐1,3‐ジエン)、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、1,3‐ブタジエン、イソプレン(2‐メチル‐1,3‐ブタジエン)、ジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ‐3,8‐ジエン)、及びこれらの1種以上のオリゴマーなどを挙げることができる。
【0051】
芳香族不飽和炭化水素化合物としては、例えば、スチレン,α‐メチルスチレン,β‐メチルスチレン、4‐メチルスチレン、ビニルキシレン、インデン、メチルインデン、エチルインデン、及びこれらの1種以上のオリゴマーなどを挙げることができる。
【0052】
不飽和炭化水素化合物としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0053】
不飽和炭化水素化合物の重合体の水素添加は、公知の方法、例えば、不活性溶媒中で水素添加触媒を用いて処理することにより行うことができる。(c)水添石油樹脂の水素添加率(水素添加前の石油樹脂中の炭素・炭素二重結合の数に対する水素添加により炭素・炭素単結合となった結合の数の割合。)は、通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であってよい。
【0054】
(c)水添石油樹脂の軟化点は、滅菌処理の際のブリードを抑制する観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上であってよい。一方、熱可塑性エラストマー組成物を製造する際の溶融混練性の観点から、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下であってよい。ここで軟化点は、JIS K2207‐1996の6.4軟化点試験方法(環球法)に従い測定される。
【0055】
(c)水添石油樹脂の配合量は、成分(a)と成分(b)からなる熱可塑性樹脂100質量部に対して、柔軟性、耐液漏れ性の観点から、通常0.5~20質量部、好ましくは2~16質量部、より好ましくは4~14質量部である。
【0056】
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(d)非芳香族系ゴム用軟化剤を含む。(d)非芳香族系ゴム用軟化剤は、非芳香族系の鉱物油(石油等に由来する炭化水素化合物)又は合成油(合成炭化水素化合物)である。非芳香族系ゴム用軟化剤は、通常、常温では液状又はゲル状若しくはガム状である。ここで非芳香族系とは、鉱物油については、下記の区分において芳香族系に区分されない(芳香族炭素数が30%未満である)ことを意味する。合成油については、芳香族モノマーを使用していないことを意味する。
【0057】
ゴム用軟化剤として用いられる鉱物油は、パラフィン鎖、ナフテン環、及び芳香環の何れか1種以上の組み合わさった混合物であって、ナフテン環炭素数が30~45%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれ、ナフテン系にも芳香族系にも属さず、かつパラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものはパラフィン系と呼ばれて区別されている。
【0058】
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤としては、例えば、直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、及びこれらの誘導体等のパラフィン系鉱物油;ナフテン系鉱物油;並びに、水素添加ポリイソブチレン、ポリイソブチレン、及びポリブテン等の合成油などを挙げることができる。これらの中で、相溶性の観点から、パラフィン系鉱物油が好ましく、芳香族炭素数の少ないパラフィン系鉱物油がより好ましい。また取扱い性の観点から、室温で液状であるものが好ましい。(d)非芳香族系ゴム用軟化剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0059】
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤は、相溶性及び取扱い性の観点から、37.8℃における動的粘度が好ましくは20~1000cStであってよい。また取扱い性の観点から、流動点が好ましくは-10~-15℃であってよい。更に安全性の観点から、引火点(COC)が好ましくは170~300℃であってよい。
【0060】
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤の配合量は、成分(a)と成分(b)からなる熱可塑性樹脂100質量部に対して、耐液漏れ性、柔軟性、及び熱可塑性エラストマー組成物の各成分との混和性の観点から、通常110質量部以上、好ましくは120質量部以上、より好ましくは125質量部以上、更に好ましくは130質量部以上である。一方、耐液漏れ性、柔軟性、機械的強度、及び摺動性(滑り性)を高くし、混注栓の装着性を良好に保つ観点から、通常250質量部以下、好ましくは220質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは180質量部以下である。
【0061】
(e)タルク:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは更に(e)タルクを含む。(e)タルクは、輸血用バッグ、輸液用容器、薬液容器、血液透析の血液回路、及び腹膜透析液バックなどに使用される医療用混注栓の材料として用いることができるようにする観点から、薬事法に規定された基準に適合するものが好ましい。(e)タルクは、食品包装の混注栓の材料として用いることができるようにする観点から、食品衛生法に規定された基準に適合するものが好ましい。
【0062】
(e)タルクのJIS R1629:1997に従い、レーザ回折・散乱法により測定した粒子径分布の体積基準の積算分率における50%径の値(メジアン径D50)は、耐液漏れ性、及び寸法安定性の観点から、通常1~40μm、好ましくは2~30μmであってよい。
【0063】
(e)タルクの配合量は、任意成分であるから特に限定されないが、耐液漏れ性、及び寸法安定性の観点から、成分(a)と成分(b)とからなる熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましく8質量部以上であってよい。一方、柔軟性、及び機械的強度の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは35質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、最も好ましくは15質量部以下であってよい。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のJIS K 6253:2012に従い測定したAタイプデュロメータ硬さの15秒値は、耐液漏れ性の観点から、好ましくは10~30、より好ましくは13~28であってよい。
【0065】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、成分(a)~(c)以外の樹脂、成分(d)以外の軟化剤あるいは可塑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤(例えば、ステアリン酸、及びシリコンオイルなど。)、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、顔料、成分(e)以外の無機充填剤(例えば、アルミナ、炭酸カルシウム、マイカ、ウァラステナイト、及びクレーなど。)、発泡剤(有機系、無機系)、及び難燃剤(例えば、水和金属化合物、赤燐、ポリ燐酸アンモニウム、アンチモン化合物、及びシリコンなど。)などの任意成分を更に含ませることができる。該任意成分の配合量は、任意成分であるから特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は0.1~5質量部程度であってよい。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、一実施形態において、成分(a)~(c)以外の樹脂を含まないものであってよい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、一実施形態において、成分(d)以外の軟化剤あるいは可塑剤を含まないものであってよい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、一実施形態において、成分(e)以外の無機充填剤を含まないものであってよい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、一実施形態において、成分(a)~(c)以外の樹脂、成分(d)以外の軟化剤あるいは可塑剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤(例えば、ステアリン酸、及びシリコンオイルなど。)、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、顔料、上記成分(e)以外の無機充填剤(例えば、アルミナ、炭酸カルシウム、マイカ、ウァラステナイト、及びクレーなど。)、発泡剤(有機系、無機系)、及び難燃剤(例えば、水和金属化合物、赤燐、ポリ燐酸アンモニウム、アンチモン化合物、及びシリコンなど。)から選択される何れか1種、又は複数種の物質を含まないものであってよい。
【0067】
2.製造方法:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(a)~(d)、及び所望に応じて用いる任意成分を、同時に、又は任意の順に加えて、任意の溶融混練機を使用して、通常120~240℃、好ましくは140~200℃の温度で溶融混練することにより得ることができる。
【0068】
溶融混練機としては、加圧ニーダーやミキサーなどのバッチ混練機;一軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機等の押出混練機;カレンダーロール混練機などを挙げることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0069】
得られた樹脂組成物は、任意の方法でペレット化した後、任意の方法で任意の物品に成形することができる。ペレット化はホットカット、ストランドカット、及びアンダーウォーターカットなどの方法により行うことができる。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、及びブロー成形などの方法を挙げることができる。
【0070】
3.物品:
本発明の物品は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含む。本発明の物品としては、例えば、医療用混注栓、並びに該医療用混注栓を含む輸血用バッグ、輸液用容器、薬液容器、血液透析の血液回路、及び腹膜透析液バック;食品包装用混注栓、及び、該食品包装用混注栓を含む食品包装用容器、食品包装用袋;更に、医療用混注栓や食品包装用混注栓以外の混注栓、該混注栓を含む容器、プレフィールドシリンジガスケット、連結ゴム管、及びパッキンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
<評価試験方法>
(1)硬さ:
熱可塑性エラストマー組成物を用い、厚さ6.3mmのプレスシートを作製し、試験片とした。JIS K 6253:2012に従い、上記試験片を用いて、Aタイプデュロメータ硬さの15秒値を測定した。
【0073】
(2)耐液漏れ性1:
熱可塑性エラストマー組成物を用い、温度220℃、射出圧力150MPaの条件で射出成形し、直径22mm、高さ5.6mmの円柱状の試験片を作製した。次に、内容積1000ml、口の内径18mm、口首の長さ8mmの口首部の内径が一定であるポリプロピレン製嵌合ユニットの内部に蒸留水を500ml入れ、上記試験片と篏合ユニット間を水が漏れない様にテープを用いて装着させた(
図2参照)。続いて、上記試験片に対して、太さ3.6mmのプラスチック製針(株式会社ジェイ・エム・エスの「JY-ND323L(商品名)」)を刺し、試験片を装着した嵌合ユニットを天地反転させ、そのまま温度23℃、相対湿度50%環境下で2時間放置した。その後、上記プラスチック製針を抜き、1分間目視観察を行い、上記試験片からの水漏れの有無を判定した。同様の試験を5回繰り返し、水漏れのなかった回数を記録した。また漏れた水の量を、全5回の合計量から1回分の平均量として(自然数5で除して)算出した。
【0074】
(3)耐液漏れ性2:
上記試験片に対して針を刺した後、そのまま温度23℃、相対湿度50%環境下で24時間放置してから抜く操作に変更したこと以外は、上記試験(2)耐液漏れ性1と同様に行った。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記試験(2)耐液漏れ性1の水漏れのなかった回数が、好ましくは4回又は5回、より好ましくは5回であってよい。水漏れ量が好ましくは0.2g未満、より好ましくは0g(水漏れなし)であってよい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記試験(3)耐液漏れ性2の水漏れのなかった回数が、好ましくは4回又は5回、より好ましくは5回であってよい。水漏れ量が好ましくは1.0g未満、より好ましくは0g(水漏れなし)であってよい。
【0076】
<使用した原材料>
(a)水添ブロック共重合体:
(a-1)株式会社クラレのスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体(スチレン・ブタジエン・イソプレン・スチレンブロック共重合体の水素添加物)「セプトン4044(商品名)」。重合体ブロックAはスチレンの単独重合体であって少なくとも2個有する;重合体ブロックBはイソプレンとブタジエンとの共重合体であって、イソプレンに由来する構造単位の含有量は70質量%;イソプレンに由来する構造単位のミクロ構造は、1,4-ミクロ構造が100質量%;水素添加率90モル%;スチレンに由来する構造単位の含有量32質量%(上記重合体ブロックAの質量は32質量%);質量平均分子量173,000;分子量分布1.23。
【0077】
(a-2)株式会社クラレのスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体(スチレン・ブタジエン・イソプレン・スチレンブロック共重合体の水素添加物)「セプトン4055(商品名)」。重合体ブロックAはスチレンの単独重合体であって少なくとも2個有する;重合体ブロックBはイソプレンとブタジエンの共重合体であって、イソプレンに由来する構造単位の含有量は70質量%;イソプレンに由来する構造単位のミクロ構造は、1,4-ミクロ構造が100質量%;水素添加率98モル%;スチレンに由来する構造単位の含有量30質量%(上記重合体ブロックAの質量は30質量%);質量平均分子量290,000;分子量分布1.3。
【0078】
(a’)参考ブロック共重合体:
(a’-1)クレイトンジャパン社のスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物)「クレイトンG1654H(商品名)」。重合体ブロックAはスチレンの単独重合体であって少なくとも2個有する;重合体ブロックBはブタジエンの単独重合体であり、イソプレンに由来する構造単位を有しない;水素添加率90モル%以上;スチレンに由来する構造単位の含有量29質量%(上記重合体ブロックAの質量は29質量%);質量平均分子量189,000;分子量分布1.33。
【0079】
(a’-2)株式会社カネカのスチレン・イソブチレン・スチレン共重合体「SIBSTAR103T(商品名)」。重合体ブロックAはスチレンの単独重合体であって少なくとも2個有する;重合体ブッロクBはイソブチレンの単独重合体であり、イソプレンに由来する構造単位を有しない;炭素・炭素二重結合を有しない;スチレンに由来する構造単位の含有量31質量%(上記重合体ブロックAの質量は31質量%);質量平均分子量142,000;分子量分布1.09。
【0080】
(b)ポリプロピレン系重合体:
(b1-1)日本ポリプロ株式会社のプロピレンとエチレンとのランダム共重合体「MG03E(商品名)」。融解エンタルピー83J/g;融点148℃;MFR30g/10分。
【0081】
(b2-1)株式会社プライムポリマーのプロピレンとエチレンとのブロック共重合体「J739E(商品名)」。融解エンタルピー90J/g;融点162℃;MFR54g/10分。
【0082】
(b’)参考ポリオレフィン系重合体:
(b’-1)日本ポリエチレン株式会社の高密度ポリエチレン「HJ490(商品名)」。融解エンタルピー185J/g;融点133℃;MFR(温度190℃、荷重21.18N)20g/10分。
【0083】
(c)水添石油樹脂:
(c-1)ヤスハラケミカル株式会社の水添テルペン樹脂「クリアロンP-135(商品名)」。軟化点135℃。
(c-2)出光興産株式会社の水添石油樹脂「アイマープP-140(商品名)」。軟化点140℃。
【0084】
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤:
(d-1)出光興産株式会社の直鎖状飽和炭化水素系パラフィンオイル「ダイアナプロセスオイルPW-380(商品名)」。37.8℃における動的粘度380cSt;流動点-15℃;引火点300℃。
【0085】
(e)タルク:
(e-1)松村産業株式会社のタルク「クラウンタルクJS(商品名)」。メジアン径D50は10μm。
【0086】
<例1~24>
表1~3の何れか1に示す配合物を、L/D=57、シリンダー径45mmの同方向回転二軸押出機を使用し、ダイス出口樹脂温度200℃、スクリュウ回転数200rpmの条件で溶融混練し、熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、上記評価試験(1)~(3)を行った。結果を表1~3の何れか1に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1~3の評価結果からも明らかなように、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐液漏れ性に優れることが分かる。また、本発明の好ましい実施態様による熱可塑性エラストマー組成物は、耐液漏れ性、及び針刺し性に優れ、高い再シール性を有することが分かる。本発明の更に好ましい実施態様による熱可塑性エラストマー組成物は、耐液漏れ性、及び針刺し性に優れ、長時間針を装着後に針を抜く場合にも液漏れを起こさないという非常に高い再シール性を有することが分かる。従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は医療用混注栓、食品包装用混注栓などの混注栓の材料として好適に用いることができると考察した。
【符号の説明】
【0091】
1: セカンド融解曲線
2: ベースライン
3: 融解エンタルピーを表す領域
4: ピークトップ
5: 積分始点
6: 積分終点
7: 口の内径
8: 口首の長さ
9: 嵌合ユニットの口に装着された試験片
10: 嵌合ユニット内部に入れられた水
【要約】
[課題]耐液漏れ性に優れる熱可塑性エラストマー組成物、及びこれを用いた医療用混注栓を提供すること。
[解決手段]
(a)水添ブロック共重合体、(b)ポリプロピレン系重合体、(c)水添石油樹脂、及び(d)非芳香族系ゴム用軟化剤、好ましくは更に(e)タルクを含み、好ましくはAタイプデュロメータ硬さの15秒値が10~30である熱可塑性エラストマー組成物。上記成分(a)は主としてイソプレンに由来する構造単位からなる重合体ブロックを有し、該重合体ブロック中のイソプレンに由来する構造単位は主として1,4-ミクロ構造を有する。