(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】草刈用チップソー
(51)【国際特許分類】
A01D 34/73 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A01D34/73 102
(21)【出願番号】P 2018157792
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】598000264
【氏名又は名称】株式会社トリガー
(72)【発明者】
【氏名】浅田 仁彦
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104966(JP,A)
【文献】特開2012-125181(JP,A)
【文献】特許第3845847(JP,B2)
【文献】特開平08-309702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0239052(US,A1)
【文献】実開昭61-175319(JP,U)
【文献】特開2006-042750(JP,A)
【文献】特開平09-163848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の台金の外周縁部に一定間隔でチップ固着部が形成されると共に、該チップ固着部にチップがそれぞれ固着された草刈用チップソーにおいて、
前記台金の回転方向前後で隣接する前記チップ間の刃部外周縁を前記チップ固着部の最深位置より外周側に位置させて、前記刃部外周縁にその先端が前記チップの先端より所定寸法低く設定された制限刃と、
該制限刃の前記回転方向後方側に形成された所定深さのスリットと、
前記スリットの後端と前記制限刃の先端より所定寸法低い位置を結ぶ第1縁部及び該第1縁部の後端と前記回転方向後方側のチップの掬い面の長さ寸法の略中間位置を結ぶ第2縁部を有して、前記スリットの後端と前記回転方向後方側のチップとの間に形成された刃室と、を備えることを特徴とする草刈用チップソー。
【請求項5】
前記スリット
は、その長さが前記チップの長さの2倍以下に設定されると共にその底部にスリット幅より広い径大部が設けられていることを特徴とする
請求項4に記載の草刈用チップソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈払機に装着されて雑草や雑木(草木等という)を刈払いする際に使用される草刈用チップソーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、草刈用のチップソーは、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。特許文献1の刈払機用チップソーは、台金の外周縁部に一定間隔で鋸刃状の刃部を形成し、これらの刃部の回転方向に対向する縁部に台金より厚みのある超硬製のチップを固着すると共に、隣接する刃部間にその最深位置が刃部のチップ固着部の最深位置より深い窪み状の刃室をそれぞれ設けたものである。
【0003】
また、特許文献2の草刈用チップソーは、台金の隣接するチップ固着部間の外周縁を、チップ固着部の最深位置よりも深くならない直線もしくは緩やかな曲線の連続した線状に形成することで、前述した特許文献1に記載の刃部間(チップ固着部間)に形成される深さのある窪み状の刃室をなくすようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-42750号公報
【文献】特許第3845847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のチップソーにあっては、各チップの回転方向前方に深さのある窪み状の刃室がそれぞれ形成されているため、草刈(刈払い)作業中にこの刃室内に地面上の小石や地面上に放置されている針金等の異物が進入し易く、これらの異物がチップソーの回転力によって跳ね飛ばされる(飛散する)虞がある。
【0006】
特に、チップソーが取り付けられる刈払機の場合、刈払機のエンジン側に遠心クラッチを有しており、チップソーの刃先が地面に喰い込んだり草木等がチップソーに絡んだ時に、エンジンは作動しているがチップソーの回転が停止した状態となる。このような場合に、チップソーの刃室が異物を抱え込んでしまい、この刃室内の異物がチップソーの回転力で飛散し易くなり、異物飛散の低減化を図ることが非常に難しい。
【0007】
これに対して、特許文献2のチップソーは、隣接するチップ間の台金の外周縁が直線もしくは緩やかな曲線状に形成されて、特許文献1に示すような台金の中心位置方向に窪んだ刃室を有さないため、チップ間に異物を抱え込む確率が低くなり、その飛散等を低減させることができる。
【0008】
しかし、このチップソーの場合、所定時間使用してチップの先端が例えば半分以上摩耗すると、チップの先端逃げ角が失われてチップソーの切れ味が鈍化したり悪くなるが、使用者(刈払い作業者)はチップに脱落や欠損がなく健在であれば、刃部(チップ自体やチップ間の刃部外周縁で形成される刃室部分)の再研磨を望むことがある。このような場合の再研磨は、チップの先端逃げ角と台金の刃室部分の研磨等が必要となり、例えばチップに近い刃室部分の一般砥石による再研磨は非常に難しく、現実的に困難である。
【0009】
また、チップが欠損等していない場合に、使用者は切れ味が悪くなってもチップソーの回転数を上げてチップが脱落や欠損するまで使い続ける虞もあり、作業の安全性の面からも好ましくない。つまり、特許文献2のチップソーは、小石等の異物飛散の低減化は図れるものの、前述した針金等の異物のチップ等への絡みを十分に低減させることが難しく、また、チップ等の再研磨が困難でチップソーに低回転数でも長期に亘り良好な切れ味を確保することが難しい。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、回転数が低下しても異物の刃室内への進入を抑制して、異物飛散を十分に低減し得ると共に、チップ等の再研磨を可能にして良好な切れ味を長期に亘り維持可能な草刈用チップソーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、円板状の台金の外周縁部に一定間隔でチップ固着部が形成されると共に、該チップ固着部にチップがそれぞれ固着された草刈用チップソーにおいて、前記台金の回転方向前後で隣接する前記チップ間の刃部外周縁を前記チップ固着部の最深位置より外周側に位置させて、前記刃部外周縁にその先端が前記チップの先端より所定寸法低く設定された制限刃と、該制限刃の前記回転方向後方側に形成された所定深さのスリットと、前記スリットの後端と前記制限刃の先端より所定寸法低い位置を結ぶ第1縁部及び該第1縁部の後端と前記回転方向後方側のチップの掬い面の長さ寸法の略中間位置を結ぶ第2縁部を有して、前記スリットの後端と前記回転方向後方側のチップとの間に形成された刃室と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記制限刃とスリットが連接状態で形成されると共に、これらが前記刃部外周縁の中間位置かもしくは前記回転方向後方側のチップ寄りに形成されていることを特徴とする。このとき、前記制限刃は、請求項3に記載の発明のように、その前方側に傾斜面を有し前記チップの摩耗に応じて摩耗可能な形状に設定されていることが好ましい。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記スリットが前記チップの長さより長い略直線状に形成されて、前記回転方向後方側のチップ方向に指向していることを特徴とする。この場合、前記スリットは、請求項5に記載の発明のように、その長さが前記チップの長さの2倍以下に設定されると共にその底部にスリット幅より広い径大部が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、隣接するチップ間の刃部外周縁をチップ固着部の最深位置より外周側に位置させ、この刃部外周縁に、その先端がチップの先端より所定寸法低く設定された制限刃と、この制限刃の回転方向後方側に所定深さのスリットが形成されているため、刃部外周縁の形状と切り込み深さを設定できる制限刃により、回転数が低下した際の隣接チップ間への異物の抱え込みを抑制して、異物飛散の低減化を十分に図ることが可能になり、かつチップの脱落や欠損を抑制できると共に、チップ等の再研磨を可能にしてチップソーに良好な切れ味を長期に亘り維持することが可能になる。
【0016】
また、スリットと後方側のチップとの間に、スリットの後端と制限刃の先端より所定寸法低い位置を結ぶ第1縁部と、この第1縁部の後端と回転方向後方側のチップの掬い面の長さ寸法の略中間位置を結ぶ第2縁部を有する刃室が形成されているため、チップの前方に形成される刃室の深さ(大きさ)を必要最低限の最適形状に設定できて、チップや刃部外周縁を再研磨する際の研磨作業を一層容易に行うことができて、チップソー自体の寿命を一層延ばすことができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、制限刃とスリットが連接状態で形成されると共に、これらが刃部外周縁の中間位置かもしくは回転方向後方側のチップ寄りに形成されているため、チップ前方の刃室内への異物の進入を抑制して、異物飛散の一層の低減化を図ることができる。
【0018】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、制限刃が、その前方側に傾斜面を有しチップの摩耗に応じて摩耗可能な形状に設定されているため、傾斜面で異物の刃室内への進入を抑制できると共に、チップの摩耗に応じて制限刃等が摩耗した場合の、制限刃等の再研磨を容易に行って切れ味を復活でき、チップソーの寿命を延ばすことができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3に記載の発明の効果に加え、スリットが所定長さの略直線状に形成されて、回転方向後方側のチップ方向に指向しているため、チップのロー付け時の加熱による台金収縮等をスリットでブロックできて、刃部外周縁(刃先形状)の強度低下を防止することができる。
【0020】
またさらに、請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明の効果に加え、スリットの長さがチップの長さの2倍以下でその最深部にスリット幅より広い応力分散用の径大部が設けられているため、ロー付け時の台金収縮等に十分に耐え得ると共にスリット底部への応力の集中を分散できて、安定した形状の刃部外周縁(刃先形状)を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】 本発明に係わる草刈用チップソーの一実施形態を示す表面図
【
図8】 同その(a)が側面図、(b)が(a)の平面図、(c)が(b)の背面図
【
図10】 同その(a)が側面図、(b)が(a)の平面図、(c)が(b)の背面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1~
図4は、本発明に係わる草刈用チップソーの一実施形態を示している。なお、
図1は、本発明の草刈用チップソー1(チップソー1という)を刈払機取付面2aとなる表面側から見た図を示している。
【0023】
図1~
図3に示すように、チップソー1は、複数個の所定形状の軽量孔3が形成された円板状の台金2を有し、この台金2の中心位置には、図示しない刈払機への取付孔4が形成されている。また、台金2は、その外周縁部2cに一定間隔で多数のチップ固着部5が設けられると共に、この各チップ固着部5には、後述する如く形成された例えば超硬合金からなるチップ6がそれぞれロー付けにより固着されている。
【0024】
そして、台金2の回転方向イの隣接する前後一対のチップ6間の外周縁部2cには、制限刃7とスリット8及び刃室9と凹部10がそれぞれ形成されている。すなわち、
図4及び図5に拡大して示すように、隣接する前方のチップ6と後方のチップ6との間の外周縁部2cの外周縁となる刃部外周縁2c1は、スリット8を除く部分がチップ固着部5の最深位置5aより外周側に位置し、この刃部外周縁2c1の前記回転方向イの略中間位置(あるいは後方のチップ6寄りの位置)に前記制限刃7が台金2自体に一体形成され、この制限刃7の後方側に連接する状態で前記スリット8が形成されている。
【0025】
前記制限刃7は、その刃先となる先端7aがチップソー1の刃先としてのチップ6の先端6aに対して所定寸法t2台金2の中心位置方向に低く、すなわち、
図4の制限刃7の最大切り込み深さt1を、少し過激な作業でも対応できるようにt1=1.5mmとした場合に、前記寸法t2が1.0mmとなるように設定されている。なお、
図4の線L1は、外径φが230mmのチップソー1のチップ6の先端6aを外径φで結んだ円弧を示し、線L2は、同径チップソー1の制限刃7の先端7aを外径φで結んだ円弧を示しており、線L2の制限刃7の先端位置と線L1のチップ6の先端位置との寸法が前記t2となるように設定されている。
【0026】
また、
図5に示すように、制限刃7は、その先端7aの回転方向イの寸法wが例えばw=2mm程度に設定されると共に、その前方に台金2の中心位置方向(内側方向)に、チップ6の先端6aと台金2の中心位置を結ぶ中心線L3に対してθ1=55°傾斜した傾斜面7bが設けられている。この傾斜面7bの角度設定により、異物を可能な限り後述する形状の刃室9内に進入させないようにすると共に、異物によるチップ6への衝撃も低減するようにしている。
【0027】
なお、
図5において、P1は、チップ6の先端6aを中心とした半径8mmの円R8に示すようにチップ6の先端6aから8mmで台金2の外周から1mmの位置を示し、P2は、同半径2mmの円R2に示すようにチップ6の先端6aから2mmの位置を示し、P3は、同半径3mmの円R3と半径8mmの円R8-半径2mmの円R2との交点(制限刃7の先端7aより所定寸法低い位置)を示し、P4は、チップ6の掬い面6bの先端6aから3mmの位置を示している。
【0028】
さらに、前記制限刃7は、その先端7aが、チップ6の先端6aからの距離が前記円R8で示す8mmとなるように設定され、この距離の設定で、制限刃7に確実な制限量の機能を持たせつつチップ6の切断効率(刈払い効率)への悪影響を最小限とするように設定されている。また、制限刃7は、前述した形状設定により、制限刃7自体がチップ6の摩耗に応じて摩耗可能となっており、チップ6の先端6aの摩耗に応じて制限刃7自体も摩耗することで長期に亘り適切な制限量を維持すると共に、制限刃7の切り込み深さ(切込量)を制限する機能(役割)と異物を刃室内に進入させ難くする機能(役割)の両機能を確実に発揮できるようになっている。
【0029】
一方、前記制限刃7に隣接する状態で設けられる前記スリット8は、
図4及び
図5に示すように、直線部8aと径大部8bを有して、前記中心線L3に対して
図5に示すθ2=20°に設定することで、その開口方向が後方側のチップ6に指向する如く形成されている。このときスリット8は、その長さがチップ6の長さ(例えば5.2mm)の2倍以下(例えば8mm程度)で、その幅が1.8mm程度が好ましく、この設定により、チップソー1にとって特に重要である台金2の外周縁部2c(刃部)の強度が所定に維持(確保)されるようになっている。
【0030】
また、このスリット8の直線部8aの先端である底部に形成される径大部8bは、後方側のチップ6方向(台金2の反回転方向)に張り出して形成され、スリット8の底部に集中する応力を径大部8bで効果的に分散して、底部への応力集中によるスリット8の亀裂発生を防止するようになっている。なお、この径大部8bの形状は、図示した例に限定されず、適宜の形状を採用することができる。
【0031】
前記刃室9は、第1縁部9aと第2縁部9bを有し、
図5に示すように、第1縁部9aは、スリット8の後端と前記位置P3との間に略直線状に形成されると共に、この第1縁部9aに連続状態で第2縁部9bが前記位置P3から前記位置P4まで略直線状に形成されている。この形状設定により、刃室9自体の深さ等の面積を極力小さくし、かつ切り屑の排出が容易に行えるようになっている。なお、この刃室9も、第1縁部9aや第2縁部9bを直線状ではなく、共に緩やかな曲線状としたり直線と緩やかな曲線を組み合わせた形状とすることも勿論可能である。
【0032】
この刃室9や制限刃7等の形状により、チップソー1を所定時間使用してチップ6の先端6aが摩耗した場合に、例えばダイヤモンド砥石を使用して、
図6に示す制限刃7のハッチングで示す研磨部分7cと刃室9のハッチングで示す研磨部分9cを研磨すると共に、チップ6の逃げ面6cの上部や掬い面6b等を研磨することで、チップソー1の切れ味を復活させることが可能になる。
【0033】
また、
図4~
図6に示すように、隣接するチップ6間の刃部外周縁2c1の制限刃7の前方には、制限刃7の傾斜面7bの前端と前方のチップ6の逃げ面6c後端との間に、内側方向に僅かに(例えば深さ1mm程度)を凹んだ略曲線状の凹部10(第2の刃室)が一体形成されている。
【0034】
この凹部10も、従来のような内側に大きく窪んだ形状ではないことから、異物を抱え込むことは殆どなく、異物飛散の低減化を妨げるものでもないし、むしろ凹部10の凹み形状と制限刃7の傾斜面7bとにより、異物としての針金等を制限刃7まで誘導して台金2の外側方向に排出させて、刃室9内への進入やチップ6への絡み付きを抑制できる等、刃室9による異物の飛散を効果的に低減できることになる。なお、この凹部10の形状も、略曲線状に限らず略直線状に形成することも勿論可能である。
【0035】
そして、このように形成されたチップソー1によれば、例えば繁茂する雑草の中に木の枝のような直径2cmぐらいのものがあっても、チップ6が摩耗していない場合はそのままの状態で、またチップ6が摩耗した場合には前述したように台金の刃部外周縁2c1の研磨部分7c、9cとチップ6の逃げ面6cや掬い面6b等を再研磨することで、チップソー1を高回転数にすることなく、これらの草木等を良好に刈払いできる。このことは実験により確認されている。
【0036】
次に、前記チップ6について、
図7~
図10に基づいて説明する。先ず、焼結された状態のチップ6は、
図7及び
図8に示すように、長さh(例えばh=5.2mm)の略角柱形状に形成された本体部6Aと、この本体部6Aの後述する固着面6d1側に一体形成された鍔部6Bを有している。本体部6Aは、前面に形成された掬い面6bと、この救い面6bの先端に後方側に連接して設けられた逃げ面6cと、この逃げ面6cの後端から下方に延設された固着面6d1と、この固着面6d1の下端と前記掬い面6bの下端とを連結する固着面6d2、及び両側の側面6eを有している。
【0037】
また、前記
鍔部6Bは、固着面6d1の幅方向(台金2の厚さ方向)の一方の端部で該固着面6d1の長手方向の全域に亘って一体形成されている。なお、このチップ6の
図8に示す各部の寸法は、例えばh=5.2mm、w1=1.8mm、w2=2.3mm、w3=2.0mm、w4=0.5mmに設定されている。
【0038】
そして、このチップ6は、台金2のチップ固着部5に嵌装されて例えば高周波の誘導加熱を利用し、各チップ固着部5にそれぞれロー付け固着される。このとき、各チップ6は、
図10の二点鎖線で示す台金2のチップ固着部5に嵌装されると共に、
図2に示すように、その全ての鍔部6Bの一側面が台金2の接地面2bに当接した状態で、固着面6d1、6d2と救い面6bの下部及び鍔部6Bがロー付け固着される。この固着後に、
図9及び
図10に示すように各面を研磨、すなわち
図10に示す各寸法が、例えばh=4.8mm、w1=1.7mm、w2=2.2mm、w3=1.8mm、w4=0.4mmになるように研磨される。なお、研磨後のチップ6の逃げ面は、焼結時に成形されていた先端の平面が研磨されて先端6aが鋭利な角度に設定される。
【0039】
このチップ6の形状と前記刃室9の形状等により、
図5等に示すように、例えば長さh=5.2mmのチップ6の掬い面6bの略上半分が略刃室9内に位置する状態となって、チップ6が摩耗した場合に、チップ6の逃げ面6cを例えば10°程度再研磨すると共に、掬い面6bの上部を再研磨することで、摩耗したチップ6に良好な切れ味を復活させることができる。
【0040】
また、チップ6が本体部6Aの幅方向一端の全域に鍔部6Bが形成され、この鍔部6Bが台金2の接地面2bに当接状態でそれぞれロー付け固着されることから、チップ6の接地面2b側を補強しつつロー付け面積を拡大できて、チップ6の固着強度を大幅に高めてその脱落や欠損を抑制することができる。また、チップ6の本体部6Aを台金2のチップ固着部5に接地面2b側から嵌装(挿入)して、その鍔部6Bを接地面2bに当接させるだけでチップ6の台金2に対する位置決めができることから、チップ6のセット作業等を簡単に行うことができて、そのロー付け作業の能率向上も図れることになる。
【0041】
つまり、前記チップソー1の場合、隣接するチップ6間の最適位置にそれぞれ最適形状の制限刃7とスリット8をそれぞれ設けると共に、刃室9や凹部10の形状を最適に設定することで、異物の刃室9内への進入を抑制したり、摩耗したチップ6や刃部外周縁2c1の形状を容易に再研磨できるようにしている。また同時に、摩耗したチップ6の掬い面6bを再研磨したチップソーと、そうでないチップソーの切れ味の差は歴然であることから、チップ6の限界使用長さを略1/2とし、かつその位置まで再研磨できる形状を採用することで、チップソー1の寿命を大幅に延ばすようにしている。
【0042】
このように、前記チップソー1によれば、隣接するチップ6間の刃部外周縁2c1に、その先端7aがチップ6の先端6aより所定寸法t2低く設定された制限刃7が形成され、この制限刃7の回転方向イ後方側に所定深さのスリット8が形成されているため、刃部外周縁2c1の形状と切り込み深さを設定できる制限刃7とにより、回転数が低下した際の隣接チップ6間への異物の抱え込みを防止できて、異物飛散の低減化を十分に図ることができ、かつ制限刃7でチップ6の脱落や欠損を抑制できると共に、チップ6や刃部外周縁2c1等の再研磨が可能でチップソー1に良好な切れ味を長期に亘り維持することができる。
【0043】
また、刃部外周縁2c1に、チップ6の先端6aより所定寸法t2低い制限刃7と所定長さのスリット8とが連接状態で形成されると共に、これらが刃部外周縁2c1の略中間位置に形成されているため、制限刃7で切込深さを制御しつつ異物の刃室9内への進入を抑制できて、異物飛散の一層の低減化が図れると共に、使用で摩耗したチップ6や刃部外周縁2c1を再研磨する際の研磨作業を容易に行うことができて、チップソー1自体の寿命を延ばすことができる。また同時に、チップ6のロー付け時の台金2の外周縁部2cの収縮をスリット8で吸収等して、外周縁部2cがその熱変形に十分に耐えることができて、安定した形状の刃部外周縁2c1(刃先形状)を容易に得ることができる。
【0044】
特に、制限刃7がチップ6の摩耗に対応して摩耗可能な形状及び位置に形成されているため、チップ6が1/2程度の長さになっても、チップ6や刃部外周縁2c1の再研磨でチップソー1に良好な切れ味が復活し、結果として長期に亘り切れ味に優れた従来にないチップソー1を得ることが可能になる。
【0045】
また、スリット8の後端と後方側のチップ6との間に刃室9が形成され、この刃室9がスリット8の後端と制限刃7の先端より所定寸法低い前記位置P3を直線状に結ぶ第1縁部9aと、この第1縁部9aに連続状態でその後端と前記位置P3を結ぶ第2縁部9bとを有するため、刃室9の深さを必要最低限の最適形状に設定できて、チップ6や刃部外周縁2c1を再研磨する際の研磨作業を容易に行うことができて、チップソー1自体の寿命をより一層延ばすことができる。
【0046】
さらに、スリット9が所定幅で所定長さの略直線状に形成されて、回転方向イ後方側のチップ6方向に指向しているため、チップ6のロー付け時の加熱による台金収縮等をスリット8でブロック(吸収等)できて、所定形状の刃部外周縁2c1(刃先形状)の強度低下を防止できる。また、スリット8の長さがチップ6の長さの2倍以下でその底部にスリット幅より広い応力分散用の径大部8bが設けられているため、ロー付け時の台金収縮に十分に耐え得ると共に応力の集中を分散できて、安定した形状の刃部外周縁2c1を容易かつ安価に得ることができる。
【0047】
このように、台金2の前後一対のチップ6間の刃部外周縁2c1を従来にない形状に設定することにより、草刈時の小石等の飛散を低減化できて、例えば道路の路肩や中央分離帯の草刈り、太陽光パネル設置箇所周辺の草刈り等、飛散異物の衝突による各種不具合が発生し易い箇所での草刈り等を安心かつ効率良く行える草刈用チップソー1の提供が可能になる。
【0048】
なお、前記実施形態においては、チップ6を略角柱形状に形成して、角柱形状の本体部6Aの幅方向一端の全域に鍔部6Bを一体形成したが、本発明はこの形状に限定されず、例えば固着部6d1、6d2を円弧形状として、鍔部6Bを例えば円弧状もしくは略連接する直線状に形成して、台金2の接地面2bに当接させる等、台金2のチップ固着部5の形状に合わせて適宜形状を採用することができる。
【0049】
また、前記実施形態における、台金2の外径、チップ6の個数や形状及び配列形態、軽量孔3の形態、制限刃7やスリット8の形状、刃室9や凹部10の形状及び前述した各種寸法や角度等は一例であって、例えばチップ6の鍔部6B側の側面6eにアサリ寸法を確保したり、チップ6の鍔部6Bを台金2の接地面2b側のみに固着するのではなく、接地面2bと刈払機取付面2aに交互(千鳥状)に固着配列する等、本発明の各発明に係わる要旨を逸脱しない範囲において適宜の構成を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、台金の外周縁部にチップが固着されて草木等の刈払いに使用される全ての草刈用チップソーに利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1・・・草刈用チップソー、2・・・台金、2a・・・刈払機取付面、2b・・・接地面、2c・・・外周縁部、2c1・・・刃部外周縁、4・・・取付孔、5・・・チップ固着部、5a・・・最深位置、6・・・チップ、6A・・・本体部、6B・・・鍔部、6a・・・先端、6b・・・掬い面、6c・・・逃げ面、6d1、6d2・・・固着面、6e・・・側面、7・・・制限刃、7a・・・先端、7b・・・傾斜面、7c・・・研磨部分、8・・・スリット、8a・・・直線部、8b・・・径大部、9・・・刃室、9a・・・第1縁部、9b・・・第2縁部、9c・・・研磨部分、10・・・凹部、h・・・チップの長さ、t2・・・制限刃とチップ間の寸法、θ1・・・傾斜面の傾斜角度、θ2・・・スリット指向角度、イ・・・台金の回転方向。