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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/06 20060101AFI20221102BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20221102BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20221102BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20221102BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20221102BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20221102BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20221102BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C09D183/06
C09D183/08
C09D7/20
B05D3/12 Z
B05D7/14 P
B05D3/02 Z
B05D3/10 F
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019532651
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027769
(87)【国際公開番号】W WO2019022093
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017143605
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岸 克彦
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157546(JP,A)
【文献】特開2014-065771(JP,A)
【文献】特開2007-161988(JP,A)
【文献】特開2003-206478(JP,A)
【文献】特開2009-138063(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D 3/00
B05D 7/14
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)を含み、下記(A)100質量部に対して、下記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物:
(A)下記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で含有する、被膜形成成分の混合物;
(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマー
【化1】

上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を有してもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、およびフェニル基からなる群より選ばれる置換基であり、xは0~3の整数である
(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)
(B)加水分解触媒;ならびに
(C)有機溶剤。
【請求項2】
下記(A)~(C)を含み、下記(A)100質量部に対して、下記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物:
(A)下記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で含有する、被膜形成成分の混合物;
(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマーであって、
下記式(1)において、R,Rともにメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物、および下記式(1)において、Rがメチル基またはフッ素置換アルキル基であり、Rがメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物からなる群より選択される少なくとも一種の加水分解性基含有シリコーンオリゴマー
【化2】

(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)
(B)加水分解触媒;ならびに
(C)有機溶剤。
【請求項3】
前記(C)が、アルコール化合物、ケトン化合物、エステル化合物、エーテル化合物、炭化水素化合物およびハロゲン化炭化水素化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。
【請求項4】
前記(C)がアルコール化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項5】
前記(B)がリン酸化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項6】
鋼板または塗装鋼板の表面に被膜を形成するために使用される、請求項1~5のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。
【請求項7】
前記鋼板または塗装鋼板が、自動車の車体である、請求項6に記載の被膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を、鋼板または塗装鋼板の表面に塗布し、常温または加熱環境下にて前記(C)を揮発させた後、さらに乾拭きすること、またはさらに水拭きを行った後に乾拭きすることを有する、被膜形成方法。
【請求項9】
前記鋼板または塗装鋼板が、自動車の車体である、請求項8に記載の被膜形成方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を硬化してなる、硬化被膜。
【請求項11】
(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマー
【化3】

上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を有してもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、およびフェニル基からなる群より選ばれる置換基であり、xは0~3の整数である
(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)と、
(B)加水分解触媒と、
(C)有機溶剤と、
を混合することを有する、被膜形成用組成物の製造方法であって、
前記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で混合することを有し、
前記被膜形成用組成物は、前記(A-1)および(A-2)の合計量100質量部に対して、前記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成用組成物に関する。より詳しくは、特に自動車の車体や電車車両の金属面、塗装面または樹脂面などに滑水性および耐久性を与えるための薄膜コーティング層を得ることができる被膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保護及び美観向上を目的として、自動車車体の塗装鋼板などに対して、固形、半固形または液状の被膜形成用組成物を塗布、施工することが実施されてきた。このような被膜形成用組成物として、例えば、湿気硬化性オルガノポリシロキサン、有機溶媒および加水分解触媒に、揮発性オルガノポリシロキサンオイル及び揮発性ジメチルポリシロキサンを添加した組成物(特許文献1:特開平10-36771号公報)や、高粘度のシリコーンガムを添加した組成物(特許文献2:特開2013-194058号公報)が知られている。しかしながらこれら組成物は、非反応性のオルガノポリシロキサンオイルが経時によって揮発散逸してしまうため、長期にわたり滑水特性を発揮することが困難であった。
【0003】
前記問題を解決するために、湿気硬化性シリコーンオリゴマー、有機溶媒、加水分解触媒、および分子中に反応性官能基を有するシリコーンオイルとから成る組成物が種々提案されている。特許文献3(特開2007-270071号公報)には、水分硬化性シリコーン樹脂と特定の加水分解硬化剤成分との混合物、有機溶剤および特定分子量のポリテトラフルオロエチレンからなるコーティング組成物が開示されている。特許文献4(特開2009-138063号公報)には、湿気硬化性液状シリコーンオリゴマー、両末端基にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン、および揮発性溶剤等からなる表面撥水保護剤が開示されている。特許文献5(特開2014-065771号公報)には、シリコーンアルコキシオリゴマー、分子鎖片末端にカルビノール基を有するシリコーンオイル、特定の有機溶媒、加水分解触媒等からなる車両用コーティング剤が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献3(特開2007-270071号公報)の組成物は、反応性の高分子成分が水分硬化性シリコーン樹脂のみであり、依然として被膜の耐久性(摩耗後の滑水性)において問題を有するものである。特許文献4(特開2009-138063号公報)の組成物は、反応性の高分子成分が湿気硬化性液状シリコーンオリゴマーに加え両末端基にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンも含むため、耐久性は改善されているものの、親水性が大きくなりすぎて滑水性が大きくなりすぎる(水滑落角が小さくなりすぎる)という問題を生じる。特許文献5(特開2014-065771号公報)の組成物は、系全体の相溶性が低く、調製時または貯蔵時に分離等が生じるという弊害を有するものであった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、滑水性および耐久性(摩耗後の滑水性)に優れた被膜を形成する被膜形成用組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、調製時または/および貯蔵時に含有成分が分離しにくい被膜形成用組成物を提供することにある。
【0006】
斯様に、従来の被膜形成用組成物では、必要とする特性を同時に満たすことが困難であった。本発明者は、これら特性を改善するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する被膜形成用組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見いだした。
【0007】
すなわち本発明の第一の実施態様は、下記(A)~(C)を含み、下記(A)100質量部に対して、下記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物である:
(A)下記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で含有する、被膜形成成分の混合物;
(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマー
(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)
(B)加水分解触媒;ならびに
(C)有機溶剤。
【0008】
また本発明は以下の実施態様も含む。
【0009】
第二の実施態様は、前記(A-1)は、25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物である、前記第一の実施態様に記載の被膜形成用組成物である:
【0010】
【化1】
【0011】
上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基であり、xは0~3の整数である。
【0012】
第三の実施態様は、前記(C)が、アルコール化合物、ケトン化合物、エステル化合物、エーテル化合物、炭化水素化合物およびハロゲン化炭化水素化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記第一または第二の実施態様に記載の被膜形成用組成物である。
【0013】
第四の実施態様は、前記(C)がアルコール化合物を含む、前記第一~第三の実施態様のいずれかに記載の被膜形成用組成物である。
【0014】
第五の実施態様は、前記(B)がリン酸化合物である、前記第一~第四の実施態様のいずれかに記載の被膜形成用組成物である。
【0015】
第六の実施態様は、鋼板または塗装鋼板の表面に被膜を形成するために用いられる、前記第一~第五の実施態様のいずれかに記載の被膜形成用組成物である。
【0016】
第七の実施態様は、前記鋼板または塗装鋼板が、自動車の車体である、前記第六の実施態様に記載の被膜形成用組成物である。
【0017】
第八の実施態様は、前記第一~第五の実施態様のいずれかに記載の被膜形成用組成物を、鋼板または塗装鋼板の表面に塗布し、常温または加熱環境下にて前記(C)を揮発させた後、さらに乾拭きすること、またはさらに水拭きを行った後に乾拭きすることを有する、被膜形成方法である。
【0018】
第九の実施態様は、前記鋼板または塗装鋼板が、自動車の車体である、前記第八の実施態様に記載の被膜形成方法である。
【0019】
第十の実施態様は、前記第一~第七の実施態様のいずれかに記載の被膜形成用組成物を硬化してなる、硬化被膜である。
【0020】
第十一の実施態様は、
(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマーと、
(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)と、
(B)加水分解触媒と、
(C)有機溶剤と、
を混合することを有する、被膜形成用組成物の製造方法であって、
前記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で混合することを有し、
前記被膜形成用組成物は、前記(A-1)および(A-2)の合計量100質量部に対して、前記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃~25℃の範囲)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0022】
本発明の一実施形態は、下記(A)~(C)を含み、下記(A)100質量部に対して、下記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物である:
(A)下記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で含有する、被膜形成成分の混合物;
(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマー
(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)
(B)加水分解触媒;ならびに
(C)有機溶剤。
【0023】
当該被膜形成用組成物を用いることにより、鋼板または塗装鋼板(例えば、自動車の車体等)に対し、滑水性および耐久性(摩耗後の滑水性)を兼ね備えた被膜を形成することができる。
【0024】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0025】
[被膜形成用組成物]
<成分(A)>
本発明の被膜形成用組成物に含まれる成分(A)は、下記成分(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で含有する被膜形成成分の混合物である。
【0026】
[成分(A-1)]
成分(A-1)は、JIS Z 8803:2011に準拠して、単一円筒形回転粘度計(B型粘度計)による粘度測定方法で測定した、25℃における動粘度が10mm-1以下(下限:0mm-1)の範囲である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマーである。当該成分は、本発明の被膜形成用組成物から形成される硬化被膜において、主として滑水性の発現に寄与する成分であると推測される。
【0027】
ここで、「加水分解性基」としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アシロキシ基、アミノオキシ基、オキシム基、アミド基等が挙げられる。なかでも、取り扱いが容易であることから、シリコーンオリゴマーに含まれる加水分解性基は、アルコキシ基であると好ましい。
【0028】
ここで、加水分解性基含有シリコーンオリゴマーとは、加水分解性基を有するシラン化合物を酸、塩基または有機錫化合物、有機チタン化合物等の公知の触媒により部分的に加水分解し、縮合(本明細書中では「部分加水分解縮合」とも言う)させてなる重合体であって、分子鎖末端や側鎖等に前記シラン化合物由来の加水分解性基を有し、重量平均分子量を550~20,000の間に有し、直鎖構造、分岐構造または3次元網目構造となっているシリコーン化合物である。
【0029】
なお、本明細書中、「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。なお、測定条件は、以下の通りである;
《測定条件》
カラム:TSKgel(登録商標) SuperMultipore HZ-M(東ソー株式会社製)
流量:0.35mL/分
カラム温度:40℃
溶離液:THF
サンプル:THF100gに対してオリゴマーが0.1質量%の割合となるように溶解して測定した。
【0030】
上記シリコーン化合物(シリコーンオリゴマー)を得るための加水分解性基を有するシラン化合物の好ましい形態としては、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、テトラアルコキシシラン化合物等の多官能アルコキシシラン化合物およびモノアルコキシシラン化合物(単官能アルコキシシラン化合物)が挙げられる。なお、上記シラン化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
したがって、成分(A-1)としての加水分解性基含有シリコーンオリゴマーは、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であると好ましい。したがって、本発明の一実施形態において、成分(A-1)は、25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物である。なお、当該部分加水分解縮合物は、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物を、1種のみ用いて得られたものであってもよいし、2種以上を組み合わせて得られたものであってもよい。
【0032】
【化2】
【0033】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環族炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基である。これらの基が置換基を有する場合、その置換基としては特に制限されないが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等が挙げられる。なお、上記において、同じ置換基で置換されることはない。例えば、置換されたアルキル基は、アルキル基で置換されることはない。
【0034】
およびRは、好適には、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~5の脂肪族炭化水素基および置換基を有してもよい炭素数6~10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる置換基であり、より好適には、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基およびフェニル基からなる群より選ばれる置換基であり、さらにより好適には、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基であり、特に好適には、メチル基である。式(1)中、Rが複数存在する場合、これらは同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。また、Rについても同様である。
【0035】
式(1)中、xは、0~3の整数である。なお、上記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物を単独で用いる場合、xは0~2の整数であると好ましく、1または2であるとより好ましい。さらに、当該アルコキシシラン化合物を2種以上用いる場合は、少なくとも、xが1~3の整数である第一のアルコキシシラン化合物と、xが0~3の整数である第二のアルコキシシラン化合物とを併用すると好ましい(ただし、第一のアルコキシシラン化合物および第二のアルコキシシラン化合物が、ともにx=3となる形態は除く)。
【0036】
なお、成分(A-1)の特徴のみ満たす化合物と、成分(A-1)および(A-2)両方の特徴を備える化合物とを併用する場合には、前者を成分(A-1)に、後者を成分(A-2)に、それぞれ分類するものとする。
【0037】
成分(A-1)の製法としては、上記式(1)で表される化合物に公知の加水分解触媒を加え、水の存在下で加温しながら攪拌することにより、部分加水分解縮合を起こさせる方法が挙げられるが、これに制限されない。
【0038】
ここで、上記式(1)において、xが0または1の場合、当該アルコキシシラン化合物の重合体の主骨格が直鎖となった場合には、側鎖中に(OR)で示されるアルコキシ基を有することとなる。また、重合体の主骨格が直鎖構造とならず、分岐構造または三次元架橋体を構成した場合には、その構造中に、部分的に(OR)で示されるアルコキシ基を含有することとなる。当該アルコキシシラン化合物は、上記式(1)において、xが2または3のものを含んでいてもよいが、成分(A-1)の構造中にアルコキシ基を効果的に追加するためには、上記式(1)において、xが0または1であることが好ましい。また、上記式(1)において、xが3であるアルコキシシラン化合物のみでは重合体を形成できないため、xが3であるアルコキシシラン化合物を含むときは、xが0~2の範囲にあるものと併用し、部分加水分解縮合を行う。
【0039】
ここで、成分(A-1)は、上記方法で測定される25℃における動粘度が10mm-1以下(下限:0mm-1)の範囲のものであれば特段の制約は無く、本発明の作用を妨げない範囲で分子構造中に有機基を含有していてもよい。また、成分(A-1)としては、予め当該成分を硬化させる為の加水分解触媒等の成分と混合したものを用いてもよい。
【0040】
滑水性および耐久性をより高度に両立する観点から、成分(A-1)は、上記方法で測定される25℃における動粘度が、0.01mm-1以上8mm-1以下であることが好ましく、0.05mm-1以上6mm-1以下であることがより好ましく、0.10mm-1以上4mm-1以下であることがさらにより好ましく、0.15mm-1以上2mm-1以下であることが特に好ましい。
【0041】
成分(A-1)は、上記特性を有するシリコーンオリゴマーであれば、合成品、市販品いずれも用いることができる。市販品としては、例えばKC-89S(信越化学工業株式会社製、25℃における動粘度が5mm-1であり、上記式(1)において、R,Rともにメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物)、KR-515(信越化学工業株式会社製品、25℃における動粘度が7mm-1であり、上記式(1)において、R、Rがいずれもメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物)、X-40-2327(信越化学工業株式会社製、25℃での動粘度が0.6mm-1であり、上記式(1)において、R、Rがいずれもメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物と、リン酸系加水分解触媒との混合物)、KR-400F(信越化学工業株式会社製、25℃での動粘度が1.2mm-1であり、上記式(1)において、Rがメチル基またはフッ素置換アルキル基、Rがメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物と、チタン系加水分解触媒との混合物)、XC96-B0446(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製品、25℃での動粘度が4.5mm-1であり、上記式(1)において、R、Rがいずれもメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物)等を挙げることができ、これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0042】
[成分(A-2)]
成分(A-2)は、片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)である。当該成分は、本発明の被膜形成用組成物から形成される硬化被膜において、主として、硬化被膜の強度を高め、耐久性(耐摩耗性)の発現に寄与する成分であると推測される。なお、両末端に上記官能基を有するシリコーンオイルは、成分(A-2)に含まないものとする。また、片末端および側鎖に上記官能基を有するシリコーンオイルは、成分(A-2)に含むものとする。
【0043】
本明細書において、「片末端にモノカルビノール基を有する」とは、片末端のSi原子にカルビノール基(-ROH)が1つのみ結合していることを意味する。この際、Rは、例えば-(CH-O-(CH-のように、炭素数1~10のアルキレン基とエーテル結合とが連結した基を表す。但し、エーテル酸素がOH基に結合することはない。
【0044】
炭素数1~10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基等が挙げられる。
【0045】
ここで、「官能基当量」は、下記式により算出される値である。下記式中、水酸基価は、JIS K 0070:1992(中和滴定法)に準じて測定される値である。本発明の効果を一層向上させる観点から、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルの官能基当量は、好ましくは500~4000g/molであり、より好ましくは1000~3500g/molであり、さらにより好ましくは2000~3200g/molである。すなわち、水酸基価としては、好ましくは14~112mgKOH/gであり、より好ましくは16~56mgKOH/gであり、さらにより好ましくは17.5~28mgKOH/gである。
【0046】
【数1】
【0047】
なかでも、滑水性と耐久性とを高度に両立する観点から、成分(A-2)は、片末端にメルカプト基を有する反応性シリコーンオイルを含むことが好ましい。
【0048】
ここで、シリコーンオイルは、直鎖状(シリコーン主鎖にシリコーン鎖がグラフトされていない形態)であってもよいし、分岐状(シリコーン主鎖にシリコーン鎖がグラフトされた形態)であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0049】
直鎖状のシリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられるが、好ましくはジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーンオイル)である。
【0050】
すなわち、本発明の一実施形態において、滑水性と耐久性とをより高度に両立する観点から、成分(A-2)は、片末端がメルカプト基で変性されたジメチルポリシロキサン、片末端がアミノ基で変性されたジメチルポリシロキサン、および片末端が1つのカルビノール基で変性され、かつ官能基当量が4500g/mol以下であるジメチルポリシロキサンの少なくとも1種であることが好ましく、片末端がメルカプト基で変性されたジメチルポリシロキサンを含むことがより好ましい。
【0051】
なお、成分(A-1)および(A-2)両方の特徴を備える化合物と、成分(A-2)の特徴のみ満たす化合物とを併用する場合には、前者を成分(A-1)に、後者を成分(A-2)に、それぞれ分類するものとする。なお本発明の作用を妨げない範囲であれば、非反応性の有機基を当該シリコーンオイルの分子鎖中(例えば、側鎖や別の末端等)にさらに有していても構わない。
【0052】
成分(A-2)は、メルカプト基、アミノ基およびカルビノール基からなる群より選択される官能基(以下、反応性官能基とも称する)を有することにより、本発明の被膜形成用組成物から形成される硬化被膜は、好適な滑水性と、耐久性(摩耗後の滑水性)とを兼ね備えることができると推測される。
【0053】
当該作用を発現するメカニズムは明らかでは無いが、以下の機構が推定される。成分(A-2)は、シリコーンオイルの片末端に上記反応性官能基を有する構造を有しており、上記反応性官能基は金属等からなる基材と相互作用することができ、分子の一端が当該基材に吸着することとなる。これが基材表面に立ち並んだ単分子の層となって疎水膜を形成し、滑水性を発現する。また、かように成分(A-2)が基材と相互作用し、成分(A-2)と成分(A-1)が相補的に被膜を形成することにより、緻密で耐久性(耐摩耗性)に優れた被膜となり、本発明の作用を発現しているものと推察される。
【0054】
なお、反応性官能基がカルビノール基である場合には、メルカプト基やアミノ基に比べて基材(例えば、鋼板や塗装鋼板)との相互作用が比較的弱く、ある程度の官能基濃度が必要となるため、官能基当量を4500g/mol以下(すなわち、水酸基価12.4mgKOH/g以上)に特定しているのである。また片末端に当該官能基当量でカルビノール基を有するものであっても、片末端のSi原子上に複数のカルビノール基を有する場合は、当該カルビノール基が分子間で架橋してしまい、基材に対する吸着性が低下する。ゆえに、片末端にモノカルビノール基を有する(すなわち、片末端のSi原子にカルビノール基が1つのみ結合している)形態に特定している。
【0055】
なお、上記メカニズムは推測であり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0056】
当該成分(A-2)としては、上記の各特性を有するものであれば、合成品、市販品いずれも用いることができる。市販品としては、例えば、X-22-170BX(信越化学工業株式会社製、片末端モノカルビノール基変性シリコーンオイル、官能基当量 2800g/mol)、MCR-A11(Gelest,Inc.製、片末端アミノ基変性シリコーンオイル)等を挙げることができ、これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0057】
本発明の被膜形成用組成物において、(A)各成分は、上記成分(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の範囲の質量比で含む。成分(A-1)に対する成分(A-2)の質量比が上記範囲よりも小さい場合(例えば、(A-1):(A-2)=1:1など)や、成分(A-1)に対する成分(A-2)の質量比が上記範囲よりも大きい場合(例えば、(A-1):(A-2)=1:5など)には、滑水性および耐水性(摩耗後の滑水性)ともに劣る結果となる。当該質量比は、好ましくは1:1.5~1:4.5の範囲であり、より好ましくは1:1.8~1:4.2の範囲であり、さらにより好ましくは1:2.0~1:4.0の範囲であり、特に好ましくは1:2.5~1:3.5の範囲である。成分(A-1)と成分(A-2)との質量比が上記範囲にあることにより、被膜形成用組成物から硬化被膜を形成した際に、滑水性と耐久性とを好ましい水準で両立させることができる。
【0058】
<成分(B)>
本発明の被膜形成用組成物に含まれる成分(B)は、加水分解触媒であり、前記成分(A-1)に含まれる加水分解性基(好ましくはSi-OR)を空気中の湿気などと反応させて縮合反応させるための化合物である。
【0059】
成分(B)としては、従来公知の化合物を適宜選択して用いることができ、例えば有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ニッケル化合物、無機酸化合物、有機酸化合物、無機塩基化合物、有機塩基化合物等から、反応活性や貯蔵安定性、着色性等の観点から必要な特性の化合物を選定して用いることができる。
【0060】
有機錫化合物としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート等を例示することができる。
【0061】
有機亜鉛化合物としては、亜鉛トリアセチルアセトネート、亜鉛-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等を例示することができる。
【0062】
有機チタン化合物としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトラキスエチレングリコールメチルエーテルチタネート、テトラキスエチレングリコールエチルエーテルチタネート、ビス(アセチルアセトニル)ジプロピルチタネート等を例示することができる。
【0063】
有機ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシジアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムアシレート、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムオクトエート、ジルコニル(2-エチルヘキサノエート)、ジルコニウム(2-エチルヘキソエート)等を例示することができる。
【0064】
有機アルミニウム化合物としては、オクチル酸アルミニウム、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムトリステアレートのようなアルミニウム塩化合物、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリアリルオキシド、アルミニウムトリフェノキシド等のアルミニウムアルコキシド化合物、アルミニウムメトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムメトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムエトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムエトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(t-ブチルアセトアセテート)、アルミニウムブトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジメトキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジメトキシ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジエトキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジエトキシ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシ(メチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムオクチルアセトアセテートジイソプロプレート等のアルミニウムキレート化合物等を例示することができる。
【0065】
有機ニッケル化合物としては、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート水和物等を例示することができる。
【0066】
無機酸化合物としては、塩酸、リン酸、硫酸、フッ酸等の化合物を例示することができる。有機酸化合物としては、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸等の化合物を例示することができる。無機塩基化合物としては、アンモニアや水酸化ナトリウム等の化合物を例示することができる。有機塩基化合物としては、トリブチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等の化合物を例示することができる。無機酸化合物および有機酸化合物は、塩やエステルの形態であってもよい。
【0067】
成分(B)は、単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0068】
本発明において当該成分(B)は、被膜形成用組成物に対する経時での着色性の観点から、無機酸化合物が好ましく、本発明の効果を一層向上させる観点から、リン酸化合物がより好ましく、特に好ましくはリン酸またはそのエステル体である。
【0069】
本発明の被膜形成用組成物中における(B)成分の含有量の上限は、貯蔵安定性の観点から、(A-1)成分に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましい。また、(B)成分の含有量の下限は、成分(A-1)の縮合反応を十分に進行させ、本発明の効果に優れた硬化被膜を得る観点から、(A-1)成分に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらにより好ましい。
【0070】
<成分(C)>
本発明の被膜形成用組成物に含まれる成分(C)は、有機溶剤である。当該(C)は、前記成分(A)及び成分(B)を均一に溶解し、希釈して薄膜を形成させる上で必要な成分である。
【0071】
本発明における前記成分(C)の沸点は、好適には40~155℃、より好適には55~120℃、さらにより好適には70~100℃である。沸点が上記範囲にあることにより、被膜形成用組成物を被膜にする際の揮発性が適正なものとなり、また成分(A)や成分(B)に対して無用な相互作用を生じないため、むらの無い、緻密な被膜を形成することができるようになる。
【0072】
成分(C)としては、ソルベントナフサ、n-ヘキサン、i-ヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、i-オクタン、n-デカン、n-ペンタン、プロピルシクロヘキサン、1、3、5-トリメチルシクロヘキサン、1、2、3-トリメチルシクロヘキサン、1、2、4-トリメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、1、1、3、5-テトラメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、イソドデカン、トルエン、キシレン、スチレン等の炭化水素化合物;ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ブロモプロパン等のハロゲン化炭化水素化合物;メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール(イソプロピルアルコール)、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、ブタンジオール、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン化合物;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチル等のエステル化合物;ジエチルエーテル、プロピルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1,4-ジオキサン等のエーテル化合物を挙げることができ、これらは単独で用いても複数種を混合して用いてもよい。
【0073】
貯蔵安定性および施工性(例えば、溶剤の揮発性、塗膜の乾燥性)の観点から、本発明において好ましい(C)としては、アルコール化合物、ケトン化合物、エステル化合物、エーテル化合物、炭化水素化合物およびハロゲン化炭化水素化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、より好ましくはアルコール化合物を含み、特に好ましくはイソプロピルアルコールを含む。
【0074】
本発明の被膜形成用組成物において、成分(C)の含有量は、前記(A)100質量部に対し100~2000質量部の範囲である。当該含有量が100質量部未満または2000質量部超の場合には、滑水性および耐久性(耐摩耗性)ともに劣る結果となる。当該含有量は、好ましくは150~1500質量部の範囲であり、より好ましくは200~1000質量部の範囲であり、さらにより好ましくは200~400質量部である。上記範囲にあることにより、本発明の被膜形成用組成物は、施工前の処理液中に適切な濃度で有効成分を含有することができ、施工時に基材に対して適正量を塗布することができるため、緻密な被膜を形成できる。ゆえに、耐水性(摩耗後の滑水性)の面で有利となりうる。
【0075】
<その他の成分>
本発明の被膜形成用組成物は、その特性を損なわない範囲で、任意の添加成分を加えることができる。かような添加成分として、たとえば、前記成分(A)に相当しない反応性または非反応性のシリコーンオイル、アルコキシシラン化合物、シランカップリング剤等の密着付与剤、老化防止剤、防錆剤、着色剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光剤、研磨剤、香料、充填剤等が挙げられ、目的に応じた成分を選択することができる。
【0076】
[被膜形成用組成物の製造方法]
本発明に係る被膜形成用組成物は、上記の各成分を所定の比率で混合することにより製造することができる。すなわち、本発明の他の形態によれば、(A-1)25℃における動粘度が10mm-1以下の範囲である、加水分解性基含有シリコーンオリゴマーと、(A-2)片末端にメルカプト基、アミノ基およびモノカルビノール基からなる群より選択される官能基を有する反応性シリコーンオイル(この際、片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイルは、官能基当量が4500g/mol以下である)と、(B)加水分解触媒と、(C)有機溶剤と、を混合することを有する、被膜形成用組成物の製造方法であって、前記(A-1)および(A-2)を、(A-1):(A-2)=1:1.1~1:4.9の質量比で混合することを有し、前記被膜形成用組成物は、前記(A-1)および(A-2)の合計量100質量部に対して、前記(C)を100~2000質量部含む、被膜形成用組成物の製造方法が提供される。
【0077】
上記各成分の添加順、添加方法等は特に制限されない。また、混合方法や混合時間も特に制限されず、当業者に公知の手法を用いることができる。なお、上記製造方法における各成分の好ましい組成比(質量比)、化合物の種類、構造等に係る説明は、上記[被膜形成用組成物]の項における説明を援用する。
【0078】
[被膜形成用組成物の用途]
本発明の被膜形成用組成物は、各種金属、ガラス、セラミックス、樹脂等の基材に対して適用することができる。なかでも、金属鋼板、塗装が施された金属鋼板およびガラス面への適用が好適であり、特に自動車の外装に用いられている塗装鋼板(本明細書中では自動車外装鋼板ともいう)への利用が好適である。すなわち、本発明の好ましい形態は、上記被膜形成用組成物が、鋼板または塗装鋼板の表面に被膜を形成するために用いられる形態である。また、さらに好ましい形態は、前記鋼板または塗装鋼板が、自動車の車体である形態である。
【0079】
また、本発明の他の形態によれば、前記被膜形成用組成物による被膜形成方法が提供される。本発明の被膜形成方法は、前記被膜形成用組成物を鋼板または塗装鋼板(好ましくは、自動車の車体)の表面に塗工し、常温または加熱環境下にて前記成分(C)を揮発させた後、さらに乾拭きすること、またはさらに水拭きを行った後に乾拭きすることを有する。
【0080】
本明細書中、「常温」とは、空調等により温度調整を行っていない室温環境での温度を指し、概ね15~25℃程度を意味する。また、本明細書中、「加熱環境」とは、空調、ヒーター(熱線照射手段)等により加熱された環境、高温に設定した恒温環境(例えば、恒温室内における静置)等を指し、室温より高い(概ね40℃以上の)環境を指す。
【0081】
本発明では、前記被膜形成用組成物を鋼板または塗装鋼板の表面に塗布し、さらに水拭きを行った後に乾拭きを行うという方法(すなわち、後者の施工方法)を採用しても良いし、前記被膜形成用組成物を鋼板または塗装鋼板の表面に塗布した後、乾拭きのみを行う方法(すなわち、前者の施工方法)を採用してもよい。上記のいずれの方法によっても良好な特性を有する硬化被膜が得られる。このように、本発明に係る被膜形成用組成物および被膜形成方法は、施工時の作業性が優れていることを特徴としている。
【0082】
なお、前記被膜形成方法の被膜形成時における適用手段(被膜形成用組成物の塗布方法)は特段限定されるものではなく、例えば当該組成物を含浸させた繊維を用いた手塗り、刷毛塗り、自動機を用いた機械塗布等、適宜任意の適用手段を用いることができる。本発明においては、以下の方法が好適に用いられる。すなわち、本発明の被膜形成方法の好ましい形態によれば、本発明に係る被膜形成用組成物を乾燥したスポンジやウェス等の繊維に適量含浸させ、含浸させた当該被膜形成用組成物を手で鋼板または塗装鋼板(基材)の表面に薄く塗り広げ、自然乾燥または乾燥機等を用いた強制乾燥により揮発成分を揮散させることを有する。この際、被膜形成用組成物に含まれる反応成分である成分(A)は、空気中の湿分と接触して、加水分解触媒(B)の作用により加水分解反応が進行し、揮発成分の揮散と並行して鋼板または塗装鋼板(基材)上で架橋硬化し、レジン状の硬化物を形成する。然る後、当該硬化物を乾布等で乾拭きすることによって、基材表面に均質な硬化被膜からなるコーティング層を形成することができる。
【0083】
従来知られている被膜形成方法は、施工時に、揮発成分の揮散後に水拭きを行う工程や、別途拭き上げのための処理液で表面処理を行った後に乾布で乾拭きを行う工程という後工程を必要としていた。ここで、本発明の被膜形成方法においても、これらの後工程を行ってもよいが、本発明の被膜形成方法によれば、溶剤揮散後に乾布で乾拭き処理のみを行うことによって、直ちに均質な硬化被膜が得ることができる。すなわち、本発明に係る被膜形成方法は、極めて作業性に優れる。
【0084】
さらに、本発明の他の形態によれば、前記被膜形成用組成物を硬化してなる、硬化被膜が提供される。前記被膜形成用組成物を用いて形成される硬化被膜は、滑水性および耐久性(耐摩耗性)に優れる。
【0085】
本発明に係る硬化被膜は、薄膜の形態が好適であり、その膜厚は、好ましくは0.002~75μmであり、より好ましくは0.01~50μmであり、さらに好ましくは0.05~10μmである。硬化被膜の膜厚が当該範囲にあることで、良好な滑水特性と、施工時の作業性と、耐摩耗性とを共に向上させることができる。
【0086】
このように、本発明によれば、滑水性および耐久性(摩耗後の滑水性)に優れた硬化被膜を形成手段が提供される。本発明は、特に自動車の車体や電車車両の金属面、塗装面といった鋼板または塗装鋼板に、滑水性、耐久性等を与えるための被膜を形成する上で有用である。
【0087】
以下、実施例により本発明の効果を詳説するが、これら実施例は本発明の態様の限定を意図するものでは無い。
【実施例
【0088】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、以下の操作および物性等の測定は室温(20℃~25℃の範囲)/相対湿度40~50%RHの条件で測定した。
【0089】
以下の方法を用いて、実施例および比較例にてそれぞれ調製した各被膜形成用組成物(以下、単に「組成物」ともいう)について、特性評価を行った。また各被膜形成用組成物の調製方法は以下の通りである。
【0090】
[試験片の作製方法]
各組成物をティッシュペーパーの表面半分が湿る程度の量(約2mL)染み込ませた。黒色塗装板(材質:SPCC-SD(冷間圧延鋼板)、規格:JIS G 3141:2017、寸法:0.8mm×70mm×150mm、化成電着後片面にアミノアルキド黒色塗装をしたもの、株式会社アサヒビーテクノ社製)に、上記ティッシュペーパーを用いて各組成物を手で薄く塗り広げた。これを25℃の室内で10分間静置した後、乾いたマイクロファイバー布で余剰の組成物を拭き取り、25℃室内で2週間静置して養生することにより、被膜形成用組成物の硬化被膜(膜厚0.01~100μm程度)を表面に有する試験片を得た。
【0091】
[滑水性評価方法]
前記試験片の硬化被膜が設けられた面に精製水を1滴(約0.005ml)滴下したものを、水平な状態から徐々に傾斜をつけて行き、水滴が流れ始めた角度を水滑落角として滑水性(水滑落性)の評価を行った。水滑落角が10°以下、好ましくは7°以下であれば、滑水性に優れると言える。
【0092】
[耐久性評価方法]
前記試験片の硬化被膜が設けられた面に対し、簡易摩擦試験機(井本製作所製品)を用いて30回/分の速度、100mmの移動距離、荷重500gにて摩擦物を設置し、100回ストロークさせることにより摩耗を行い、摩耗後の表面の水滑落角を前記と同じ方法で測定した。測定される水滑落角が15°以下、好ましくは10°以下であれば、耐久性(摩耗後の滑水性)に優れると言える。
【0093】
ここで当該試験に用いた摩擦物は、幅が40mmの乾燥した清浄な布帛(セルロース/木綿複合繊維からなる吸水布、スリーボンド社製品「スリーボンド6644E」)に蒸留水を充分に含ませたものを直径20mmのステンレスの円柱に巻き付けたものとし、摺動する方向と直交する方向に円柱の軸が向くよう設置して、当該摩擦物を摺動した。
【0094】
[組成物の調製]
実施例、比較例の各組成物に含まれる原料は以下のものを用いた。以下の表中に記載の質量となるように各成分を計量し、25℃で30分間、新東科学株式会社のスリーワンモータによって混合し、組成物を得た。なお、以下の表中における各成分の単位は「質量部」である。なお(A-1)成分中に(B)に相当する成分を含む原料に関しては、(A-1)相当成分と(B)相当成分の各質量に換算して、それぞれ表中の該当する項目に別個に記載した。
【0095】
<成分(A)>
成分(A-1):
・X-40-2327:前記式(1)において、R、Rがいずれもメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であり、重量平均分子量が550~20,000であり、25℃での動粘度が0.6mm-1である部分加水分解縮合物と、当該縮合物に対して30質量%のリン酸系化合物(X-40-2309A、信越化学工業株式会社製品)よりなる加水分解触媒とが予め混合された混合物(信越化学工業株式会社製)
・KR-515:前記式(1)において、R、Rがいずれもメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であり、重量平均分子量が550~20,000であり、25℃での動粘度が7mm-1の部分加水分解縮合物(信越化学工業株式会社製)
成分(A’-1)(成分(A-1)の比較成分):
・KR-401:前記式(1)において、Rがいずれもメチル基及びフェニル基であり、Rがメチル基であり、xが0~3の整数であるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物であり、25℃での動粘度が14mm-1である部分加水分解縮合物と、当該縮合物に対して5質量%のチタン系化合物(DX-175、信越化学工業株式会社製品)よりなる加水分解触媒とが予め混合された混合物(信越化学工業株式会社製)
成分(A-2)成分:
・X-22-170BX:片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイル(片末端が1つのカルビノール基(-COCOH)で変性されたジメチルポリシロキサン)、官能基当量 2800g/mol(信越化学工業株式会社製)
・amine:片末端にアミノ基を有する反応性シリコーンオイル(片末端がアミノ基で変性されたジメチルポリシロキサン)であり、以下の方法で製造した。上記X-22-170BX 100gを1リットルのトルエン溶媒と混合させた上でフラスコに仕込み、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン12gを加えて5分間攪拌した後、触媒としてジヘキシルアミン0.1gと、2-エチルヘキサン酸0.1gを加え、60℃で2時間攪拌、反応させ、常温に戻した後溶媒を揮散し、さらに不純物を洗浄除去し精製することにより得た
・thiol:片末端にメルカプト基を有する反応性シリコーンオイル(片末端がメルカプト基で変性されたジメチルポリシロキサン)であり、以下の方法で製造した。上記X-22-170BX 100gを1リットルのトルエン溶媒と混合させた上でフラスコに仕込み、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン12gを加えて5分間攪拌した後、触媒としてジヘキシルアミン0.1gと、2-エチルヘキサン酸0.1gを加え、60℃で2時間攪拌、反応させ、常温に戻した後溶媒を揮散し、さらに不純物を洗浄除去し精製することにより得た
成分(A’-2)成分(成分(A-2)の比較成分):
・X-22-170DX:片末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイル、官能基当量 4670g/mol(信越化学工業株式会社製)
・X-22-176DX:片末端にジオール基を有する反応性シリコーンオイル、官能基当量 1600g/mol(信越化学工業株式会社製)
・KF-6003:両末端にモノカルビノール基を有する反応性シリコーンオイル、官能基当量 2500g/mol(信越化学工業株式会社製)
<成分(B)>:
・X-40-2309A:リン酸系化合物(信越化学工業株式会社製)
・DX-175:チタン系化合物(信越化学工業株式会社製)
<成分(C)>:
・イソプロピルアルコール(試薬)。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
表1に示すように、実施例1~6(成分(A)~(C)を本発明の所定の組成比で含む組成物)は、滑水性、耐久性共に良好なものとなっていることが確認された。また、実施例1~6では、組成物を調製する際に含有成分の分離沈降は確認されなかった。なかでも、実施例1~3は、実施例4~6に比べて動粘度が低い成分(A-1)を用いたものであり、滑水性および耐久性のさらなる向上が認められた。
【0099】
他方、表2に示すように、比較例1および2((A-1)および(A-2)の質量比が本発明の範囲から外れた組合せの組成物)、比較例3および4(本発明の(A-1)相当成分を含まない組成物)、比較例5~7(本発明の(A-1)に替えて、本発明の範囲外に動粘度を有する加水分解性基含有シリコーンオリゴマーを用いた組成物)、比較例8(本発明の(A-2)相当成分を含まない組成物)、比較例9~11(本発明の(A-2)相当成分を、本発明で特定した化学構造を有さない化合物で置き換えた組成物)による滑水性、耐久性の評価結果は、いずれも本発明の組合せと比べて大幅に低下していることが認められた。なお(A-2)相当成分を片末端にジオール基を有する反応性シリコーンオイルに置き換えた比較例10は、組成物調製時に含有成分が十分に混和せず分離沈降が生じていた為、各特性の評価には供していない。
【0100】
本発明の被膜形成用組成物は、硬化後の被膜が優れた特性を備えたものであり、特に自動車の車体や電車車両の金属面、塗装面または樹脂面などに防護性能を与えるための薄膜コーティングを形成する上で好適に用いることのできる、有用なものである。
【0101】
本出願は、2017年7月25日に出願された日本特許出願番号2017-143605号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。