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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/74 20060101AFI20221102BHJP
   B60N 2/56 20060101ALI20221102BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20221102BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
A47C7/74 B
B60N2/56
B60H1/00 102V
B60H1/22 611
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021088720
(22)【出願日】2021-05-26
(62)【分割の表示】P 2020075220の分割
【原出願日】2015-09-08
(65)【公開番号】P2021176532
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 生佳
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-178247(JP,A)
【文献】特開2009-269480(JP,A)
【文献】特開2013-001360(JP,A)
【文献】特開2010-040185(JP,A)
【文献】特開平05-220026(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137290(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/74
B60N 2/56
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ヒータおよび第2ヒータと、前記第1ヒータおよび前記第2ヒータの出力を制御する制御装置とを備えるシートであって、
前記第1ヒータに対応した部位に設けられた温度センサを備え、
前記制御装置は、
環境温度が第1温度である場合に、環境温度が前記第1温度より高い第2温度である場合よりも、前記第1ヒータで加熱される第1部位に対する前記第2ヒータで加熱される第2部位の温度を低くするように前記第2ヒータの出力を制御することで、前記第1部位と前記第2部位との温度差を大きくする温度差調整制御を実行可能であり、
前記温度差調整制御において、
前記第1ヒータを制御するための第1必要制御量を、目標温度と前記温度センサが取得した検知温度とに基づいて算出し、
前記第1必要制御量を、環境温度に基づいて変化する温度差調整値で割ることで、前記第2ヒータを制御するための第2必要制御量を算出し、
前記温度差調整値は、環境温度が前記第1温度である場合に、環境温度が前記第2温度である場合よりも大きいことを特徴とするシート。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記検知温度が前記目標温度よりも低い切替温度に達するまでの間、所定時間ごとに前記第1ヒータに出力した電力量を積算した積算電力量を算出し、
前記温度差調整値を、前記検知温度が前記切替温度に達したときの積算電力量に応じた値として決定することを特徴とする請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記制御装置は、シート加熱の指示を受けたときに、前記検知温度が前記目標温度よりも低い切替温度に達していなければ、前記第1ヒータのみに電力を供給することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシート。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記第2ヒータに最大出力の電力を供給するとともに、前記第1ヒータに、前記第1ヒータおよび前記第2ヒータのトータルの許容最大出力の範囲内の電力を供給する所定の制御を実行可能であり、
前記検知温度が前記切替温度に達するまでの間、所定時間ごとに前記第1ヒータに出力した電力量を積算した積算電力量を算出し、
前記検知温度が前記切替温度に達したときに前記所定の制御を実行し、
前記所定の制御において、
前記第2ヒータに供給した電力量に、前記温度差調整値を掛けた値を、前記積算電力量から減算し、
減算後の前記積算電力量が所定値以下になった場合に、前記温度差調整制御を実行することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のシート。
【請求項5】
前記第1ヒータは、シートの座面部に設けられ、
前記第2ヒータは、前記座面部の左右外側に配置され、着座者の側部を支持するために着座者側に張り出した張り出し部に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
座面部を有するシートクッションと、
座面部を有するシートバックと、
ヘッドレストと、を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座面を加熱可能なシートに関する。
【背景技術】
【0002】
座面を加熱可能なシートとして、例えば、特許文献1には、シートに着座した者(着座者)の各接触部位別に相対して配設された複数のヒータと、ヒータの発熱動作を制御する制御部とを備えるものが開示されている。特許文献1のシートは、着座者の接触部位の中に、暖感覚が早く熱供給に対し暖房効果が高い部位と、暖感覚は遅く鈍感ではあるが暖めると快適性を向上することが可能となる部位の二つが存在することを前提に、この二つの部位を順に発熱させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-269480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のシートでは、快適性の向上を目的として、各ヒータで加熱される部位間に大きな温度差が生じないように各ヒータの出力を制御していた。しかしながら、各ヒータで加熱される複数の部位を同じように暖めると、消費電力が大きくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、快適性を備えながら、消費電力を抑えることができるシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するため、本発明のシートは、第1ヒータおよび第2ヒータと、前記第1ヒータおよび前記第2ヒータの出力を制御する制御装置とを備えるシートであって、前記制御装置は、環境温度が第1温度である場合に、環境温度が前記第1温度より高い第2温度である場合よりも、前記第1ヒータで加熱される第1部位に対する前記第2ヒータで加熱される第2部位の温度を低くするように前記第2ヒータの出力を制御することで、前記第1部位と前記第2部位との温度差を大きくする温度差調整制御を実行することを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、環境温度が低い第1温度である場合には、第1部位と第2部位との温度差が大きくても着座者はその温度差を感じにくいため、環境温度が高い第2温度である場合よりも、第1部位に対する第2部位の温度を低くするように第2ヒータの出力を制御することで、着座者に不快感を与えずに、消費電力を抑えることができる。一方で、環境温度が高い第2温度である場合には、第1部位と第2部位との温度差が大きくなくても着座者はその温度差を感じやすいが、この場合には、環境温度が低い第1温度である場合よりも、第1部位と第2部位との温度差が小さくなるので、快適性を確保することができる。
【0008】
前記したシートにおいては、前記第1ヒータに対応した部位に設けられた温度センサを備え、前記制御装置は、前記温度差調整制御において、目標温度と前記温度センサが取得した検知温度とに基づいて第1必要制御量を算出し、当該第1必要制御量で前記第1ヒータを制御するとともに、前記第1必要制御量に基づいて第2必要制御量を算出し、当該第2必要制御量で前記第2ヒータを制御し、前記第2必要制御量の前記第1必要制御量に対する大きさは、環境温度が前記第1温度である場合に、環境温度が前記第2温度である場合よりも小さい構成とすることができる。
【0009】
これによれば、第1ヒータに対応する部位の温度センサだけで、第1部位に対する第2部位の温度を低くするように第2ヒータの出力を制御することができ、快適性を備えながら、消費電力を抑えることができる。
【0010】
前記したシートにおいて、前記制御装置は、シート加熱の指示を受けたときに、前記検知温度が前記目標温度よりも低い切替温度に達していなければ、前記第1ヒータのみに電力を供給する構成とすることができる。
【0011】
これによれば、第1部位をまず加熱できるので、例えば、第1ヒータを着座者が温度を感じやすい部位に配置することで、当該部位を速やかに加熱して快適性を高めることができる。
【0012】
前記したシートにおいて、前記制御装置は、前記検知温度が前記切替温度に達するまでの間、所定時間ごとに前記第1ヒータに出力した電力量を積算した積算電力量を算出し、前記検知温度が前記切替温度に達したときに前記第2ヒータに最大出力の電力を供給するとともに、環境温度に基づいて変化する温度差調整値を前記積算電力量から減算し、前記積算電力量が所定値以下になった場合に、前記温度差調整制御を実行し、前記温度差調整値は、環境温度が前記第1温度である場合に、環境温度が前記第2温度である場合よりも大きい構成とすることができる。
【0013】
これによれば、第1部位を加熱した後に、第2部位を迅速に加熱して、第2部位の温度を迅速に第1部位の温度に近づけることができるので、快適性を高めることができる。そして、環境温度が低い第1温度である場合には、環境温度が高い第2温度である場合よりも、早く積算電力量が所定値以下になって温度差調整制御が実行されるため、第2ヒータが最大出力で作動する時間を短くすることができる。これにより、第2ヒータによって第2部位が無駄に加熱されることがないので、消費電力を抑えることができる。
【0014】
前記したシートにおいては、前記第1ヒータに対応した部位に設けられた第1温度センサと、前記第2ヒータに対応した部位に設けられた第2温度センサとを備え、前記制御装置は、前記温度差調整制御において、第1目標温度と前記第1温度センサが取得した第1検知温度とに基づいて第1必要制御量を算出し、当該第1必要制御量で前記第1ヒータを制御するとともに、第2目標温度と前記第2温度センサが取得した第2検知温度とに基づいて第2必要制御量を算出し、当該第2必要制御量で前記第2ヒータを制御し、前記第1目標温度と前記第2目標温度の差は、環境温度が前記第1温度である場合に、環境温度が前記第2温度である場合よりも大きい構成とすることができる。
【0015】
これによれば、第1部位に対する第2部位の温度を低くするように第2ヒータの出力を制御できるので、快適性を備えながら、消費電力を抑えることができる。また、第1ヒータに対応する部位と第2ヒータに対応する部位の両方に温度センサが設けられているので、温度制御の精度を高めることができ、快適性を高めることができる。
【0016】
前記したシートにおいて、前記制御装置は、前記温度差調整制御の実行前において、前記第2検知温度が前記第2目標温度よりも低い第2切替温度に達していなければ、前記第2ヒータに最大出力の電力を供給する構成とすることができる。
【0017】
これによれば、第2部位を迅速に加熱できるので、快適性を高めることができる。
【0018】
前記したシートにおいて、前記制御装置は、前記第2検知温度が前記第2切替温度に達した場合に、前記温度差調整制御を実行し、前記第2切替温度は、環境温度が前記第1温度である場合に、環境温度が前記第2温度である場合よりも低い構成とすることができる。
【0019】
これによれば、環境温度が低い第1温度である場合には、環境温度が高い第2温度である場合よりも、早く第2検知温度が第2切替温度に達して温度差調整制御が実行されるため、第2ヒータが最大出力で作動する時間を短くすることができる。これにより、第2ヒータによって第2部位が無駄に加熱されることがないので、消費電力を抑えることができる。
【0020】
前記したシートにおいて、前記制御装置は、シート加熱の指示を受けたときに、前記第1検知温度が前記第1目標温度よりも低い第1切替温度に達していなければ、前記第1ヒータのみに電力を供給する構成とすることができる。
【0021】
これによれば、第1部位をまず加熱できるので、例えば、第1ヒータを着座者が温度を感じやすい部位に配置することで、当該部位を速やかに加熱して快適性を高めることができる。
【0022】
前記したシートにおいて、前記第1ヒータは、シートの座面部に設けられ、前記第2ヒータは、前記座面部の左右外側に配置され、着座者の側部を支持するために着座者側に張り出した張り出し部に設けられた構成とすることができる。
【0023】
これによれば、着座者が温度を感じやすい座面部を、第1ヒータによって加熱できるので、快適性を高めることができる。一方で、座面部よりも着座者から遠くに配置された張り出し部については、座面部との間にある程度温度差があっても着座者に不快感を与えにくいので、第2ヒータの出力をより抑えて、消費電力をより抑えることができる。
ここで、座面部は、シートクッションまたはシートバックの座面部を意味し、張り出し部は、シートクッションまたはシートバックの張り出し部を意味する。シートクッションの座面部は、シートクッションの、着座者の臀部および太ももが乗る部分、さらに言えば、着座者の臀部および太ももを下から支える部分であり、シートバックの座面部は、シートバックの、着座者の背中が接触する部分、さらに言えば、着座者の背中を後から支える部分である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、快適性を備えながら、消費電力を抑えることができる。
【0025】
また、本発明によれば、第1ヒータに対応する部位の温度センサだけで、快適性を備えながら、消費電力を抑える構成を実現することができる。
【0026】
また、本発明によれば、シート加熱の指示を受けたときに、検知温度が切替温度に達していない場合に第1ヒータのみに電力を供給することで、快適性を高めることができる。
【0027】
また、本発明によれば、第1部位を加熱した後に第2部位を迅速に加熱するようにすることで、快適性を高めることができる。また、環境温度が低い場合に早く温度差調整制御を実行するようにすることで、消費電力を抑えることができる。
【0028】
また、本発明によれば、第1ヒータに対応する部位と第2ヒータに対応する部位の両方に温度センサを設けることで、温度制御の精度を高めることができるので、快適性を高めることができる。
【0029】
また、本発明によれば、温度差調整制御の実行前に、第2検知温度が第2切替温度に達していない場合に第2ヒータに最大出力の電力を供給することで、快適性を高めることができる。
【0030】
また、本発明によれば、環境温度が低い場合に早く温度差調整制御を実行するようにすることで、消費電力を抑えることができる。
【0031】
また、本発明によれば、シート加熱の指示を受けたときに、第1検知温度が第1切替温度に達していない場合に第1ヒータのみに電力を供給することで、快適性を高めることができる。
【0032】
また、本発明によれば、第1ヒータをシートの座面部に設け、第2ヒータを張り出し部に設けることで、快適性を高めることができるとともに、消費電力をより抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態に係るシートとしての車両用シートの斜視図である。
図2】第1実施形態における積算電力量と温度差調整値との関係を示すマップである。
図3】第1実施形態における制御装置の処理を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態における、環境温度が第1温度である場合の、座面部と張り出し部の温度変化を示すグラフ(a)と、第1ヒータと第2ヒータの出力を示すグラフ(b)と、積算電力量Wを示すグラフ(c)である。
図5】第1実施形態における、環境温度が第1温度より高い第2温度である場合の、座面部と張り出し部の温度変化を示すグラフ(a)と、第1ヒータと第2ヒータの出力を示すグラフ(b)と、積算電力量Wを示すグラフ(c)である。
図6】第2実施形態に係るシートとしての車両用シートの斜視図である。
図7】第2実施形態における、第1目標温度と第2目標温度の差と、環境温度との関係を示すマップである。
図8】第2実施形態における制御装置の処理を示すフローチャートである。
図9】第2実施形態における、環境温度が第1温度である場合の座面部と張り出し部の温度変化を示すグラフ(a)と、環境温度が第1温度より高い第2温度である場合の座面部と張り出し部の温度変化を示すグラフ(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係るシートの実施形態について説明する。
[第1実施形態]
本実施形態のシートは、図1に示すように、自動車に搭載される車両用シートSとして構成されている。この車両用シートSは、ウレタンフォームなどのクッション材からなるパッド材が合成皮革や布地などの表皮材で覆われたシートクッションS1、シートバックS2およびヘッドレストS3を備えている。
【0035】
シートクッションS1は、左右中央に配置された、着座者の臀部および太ももを下から接触して支える座面部S11と、座面部S11の左右両方の外側に配置され、着座者の太ももおよび臀部の側部を支持するために着座者側に張り出した張り出し部S12を有する。また、シートバックS2も同様に、左右中央に配置された、着座者の背中に接触して背中を後から支える座面部S21と、座面部S21の左右両方の外側に配置され、着座者の上体の側部を支持するために着座者側に張り出した張り出し部S22を有する。
【0036】
シートクッションS1の座面部S11と、シートバックS2の座面部S21には、表皮の内側に、それぞれ、第1ヒータ10として、センターヒータ11,12が配置されている。また、シートクッションS1の張り出し部S12と、シートバックS2の張り出し部S22には、表皮の内側に、それぞれ、第2ヒータ20として、サイドヒータ21,22が配置されている。すなわち、本実施形態では、第1ヒータ10が設けられた座面部S11,S21が、第1ヒータ10で加熱される第1部位に相当し、第2ヒータ20が設けられた張り出し部S12,S22が、第2ヒータ20で加熱される第2部位に相当する。
【0037】
シートバックS2の座面部S21には、表皮の内側で、第1ヒータ10に対応した部位に、温度センサ30が内蔵されている。温度センサ30は、着座者の体温の影響を受けない位置に配置されている。例えば、温度センサ30は、シートバックS2の下部や、シートクッションS1の後部に配置することができる。なお、温度センサ30が検知した温度と、座面部S21の着座者が接触する部分の温度との間には略一定の相関がある。制御装置100は、温度センサ30が検知した温度そのものを検知温度として用いて制御を行ってもよいし、上述の相関に基づいて着座者が接触する部分の温度を推定し、この推定した温度を検知温度Tとして制御を行ってもよい。
【0038】
車両用シートSには、適宜な位置に、制御装置100が配置されている。前記した温度センサ30は、検知温度Tの信号を制御装置100に出力するように制御装置100に接続されている。また、第1ヒータ10および第2ヒータ20は、制御装置100に接続されている。そして、制御装置100は、車両に搭載されたバッテリにより駆動される電源装置90から電力が供給され、この電力を、温度センサ30から取得した検知温度Tに基づいて、第1ヒータ10および第2ヒータ20の出力を制御するように構成されている。本実施形態において、電源装置90は、車両用シートSの第1ヒータ10および第2ヒータ20のためには、所定の上限出力の範囲内で電力を供給するように構成され、一例として100Wを上限としている。
【0039】
制御装置100は、車両に搭載されたヒータの操作スイッチと接続され、当該操作スイッチから車両用シートSの加熱の指示を受けて、第1ヒータ10および第2ヒータ20を制御する。制御装置100は、操作スイッチからシート加熱の指示を受けたときに検知温度Tを目標温度T12へ向けて上昇させる加熱期間において、第1ヒータ10を集中的に加熱して着座者が接する座面部S11,S21の温度を速やかに上昇させる第1ステージと、第2ヒータ20の加熱を開始して、張り出し部S12,S22の温度を座面部S11,S21の温度に近づける第2ステージと、張り出し部S12,S22の温度がある程度上昇した後、検知温度Tを目標温度T12に合わせるように調整する第3ステージとを実行するように構成されている。
なお、暖かい時期や、操作スイッチの操作以前に一度ヒータを使用していた場合などにおいては、操作スイッチで加熱の指示を受けたときに、すでに検知温度Tが目標温度T12よりも高い場合がある。その場合には、制御装置100は、ここでいう加熱期間の制御は実行せず、第3ステージと同様に制御を行う。
【0040】
制御装置100は、第1ステージから第2ステージに切り替えるための基準として、検知温度Tが、目標温度T12よりも低い切替温度T11に達したか否かを判定する。検知温度Tが切替温度T11に達していない第1ステージにおいては、制御装置100は、第1ヒータ10のみに電力を供給し、第2ヒータ20には電力を供給せず、第1ヒータ10を100%の第1出力割合で制御する。
なお、本実施形態において、第1ヒータ10の最大出力に対する出力の割合を第1出力割合といい、第2ヒータ20の最大出力に対する出力の割合を第2出力割合という。そして、理解を容易にするため、第1ヒータ10と第2ヒータ20の最大出力を例示すると、第1ヒータ10の最大出力は、第1ヒータ10および第2ヒータ20のトータルの許容最大出力(100W)と同じ100Wであり、第2ヒータ20の最大出力は、50Wであるとする。すなわち、第1ヒータ10を第1ステージにおいて100%で出力する場合、100Wの電力を供給することになる。
また、制御装置100は、検知温度Tが一度、切替温度T11に達して第2ステージに進んだ後は、第1ステージには戻らない。そのため、制御装置100は、検知温度Tが切替温度T11に達した場合には、そのことを示すフラグFを1にする。なお、フラグFは初期値が0であり、操作スイッチが切られたときなどの制御装置100に電力が供給されなくなったときに0にリセットされる。
【0041】
制御装置100は、検知温度Tが切替温度T11に達した後の第2ステージにおいて、第2ヒータ20の能力をできるだけ使いきって張り出し部S12,S22の温度を座面部S11,S21の温度に近づけるため、第2出力割合を100%とし、第1出力割合を許容最大出力の範囲内の適宜な値とする。このため、制御装置100は、第2ステージにおいて、第2ヒータ20に対して、最大出力、つまり100%の第2出力割合で電力を供給する。すなわち、制御装置100は、第2ヒータ20に50Wで電力を供給する。一方、第1ヒータ10の制御のため、制御装置100は、目標温度T12と、温度センサ30が取得した検知温度Tとに基づいて、第1必要制御量mv1を算出する。第1必要制御量mv1は、例えば、いわゆるPI制御の必要制御量として、
mv1=Kp×e+ie/Ki
により計算することができる。
【0042】
ここで、eは、目標温度T12と検知温度Tの差分であり、Kpは比例制御定数であり、ieは、過去の所定期間内のeの積分(積算)であり、Kiは、積分制御定数である。各定数Kp,Kiは、第1必要制御量mv1が、検知温度Tが目標温度T12に近づいた後の第3ステージにおける出力の指示値(第1出力割合および第2出力割合を指示する値)として利用できるように設定されている。また、検知温度Tおよび目標温度T12は、ここでの計算上、「℃」などの単位である必要はなく、温度センサ30から出力される電圧を数値化したものでよい。各定数Kp,Kiは、これらの温度の値のスケールによっても適宜調整するとよい。なお、mv1は、上記の計算によると、第1ステージおよび第2ステージ(つまり、可能な限り大きな出力で加熱したい状態)においては、目標温度T12と検知温度Tの差分eが大きい結果、100を超えることがある。第1ヒータ10および第2ヒータ20には、出力割合(0~100%)の値で電力を供給するので、mv1が100以下の数値となるように、100を超える場合には、100とされる。つまり、mv1は上限値の100以下の範囲で算出される。
【0043】
第2ステージにおいて、第2ヒータ20には、50Wで電力を供給するので、許容最大出力100Wの残りは50Wである。そのため、第2ステージにおいて、第1ヒータ10は50W以下で制御する必要があるので、制御装置100は、算出した第1必要制御量mv1が50より大きい場合には、第1ヒータ10を50W、つまり、50%の第1出力割合で制御し、第1必要制御量mv1が50以下の場合には、算出した第1必要制御量mv1を第1出力割合として第1ヒータ10を制御する。これにより、第1ヒータ10は、第2ステージにおいて50%以下の出力割合で制御される。
【0044】
第2ステージと第3ステージの切替は、張り出し部S12,S22の温度が座面部S11,S21の温度にある程度近づいた場合に行う。本実施形態において、温度センサ30は座面部S21に一つ設けられているだけであるため、制御装置100は、張り出し部S12,S22の温度が座面部S11,S21の温度に近づいたことの推定を、加熱の開始から第1ヒータ10で座面部S11,S21に供給した熱量、つまり、積算電力量に基づいて行う。
【0045】
ここで、例えば、座面部S11,S21の熱容量と、張り出し部S12,S22の熱容量が同じであり、加熱開始時の両部分の温度が同じであり、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22に供給する総熱量が同じであれば、両部分は、ほぼ同じ温度まで上昇するはずである。もちろん、先に加熱を開始した部分については、温度が高い時間が長い分だけ放熱量が多くなるので、温度は厳密には一致しないが、加熱のテスト結果に基づいて供給する熱量を調整すれば、充分同じ程度の温度に調整することができる。座面部S11,S21と張り出し部S12,S22の熱容量の差についても同様に、加熱のテスト結果に基づいて供給する熱量を調整することで、第1ヒータ10に先行して電力を供給した場合であっても、同等の温度に合わせることができる。そして、このような傾向を利用して、例えば、第2ヒータ20で供給する熱量を調整することで、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との間に所望の温度差を設けることもできる。
【0046】
本実施形態においては、制御装置100は、積算電力量Wとして、所定時間、例えば、制御の1サイクル(例えば、10msec)ごとに、第1ヒータ10に出力した電力量(ワット数)に所定の第1係数A1を掛けた値を積算する。すなわち、検知温度Tが切替温度T11に達するまでの間の、第1ヒータ10を100%(100W)で出力する第1ステージにおいては、
W=W+100×A1
で、積算電力量Wを算出する。
【0047】
また、第2ステージにおいては、第1ヒータ10を50W(50%)または第1必要制御量mv1の値を第1出力割合として制御するので、制御装置100は、それぞれ、制御サイクルごとに、50×A1またはmv1×A1を積算電力量Wに加算する。
【0048】
一方、制御装置100は、第2ステージにおいては、第2ヒータ20に供給した電力量(ワット数)に、第2係数A2と、車両用シートSが配置された環境の温度(環境温度)に基づいて変化する温度差調整値A3を掛けた値を積算電力量Wから減算する。すなわち、第2ステージにおいては、第2ヒータ20の最大出力である50Wで第2ヒータ20を制御するので、50×A2×A3を積算電力量Wから減算する。
そして、制御装置100は、積算電力量Wが所定値以下、例えば0以下になった場合に、第2ステージを終え、第3ステージに移行し、後述する温度差調整制御を実行する。
【0049】
なお、本実施形態においては、第2係数A2は第1係数A1より大きく、一例として、第1係数A1は0.01であり、第2係数A2は、0.04である。
また、温度差調整値A3は、一例として、
A3=a1×W1+b1
により計算することができる。ここで、W1は、検知温度Tが切替温度T11に達したときの積算電力量である。図2に示すように、温度差調整値A3は、W1が大きくなるほど大きい値となるように設定されている。
【0050】
ここで、図4および図5の(a)に示すように、環境温度(ここでは車両用シートSを加熱する前の検知温度Tに相当)が低い第1温度T1である場合には、環境温度が第1温度T1よりも高い第2温度T2である場合よりも、第1ヒータ10に電力を供給してから検知温度Tが第1切替温度T11に達するまでに時間がかかる。そのため、第1ヒータ10に供給される電力が多くなって積算電力量Wが大きくなり、検知温度Tが切替温度T11に達したときの積算電力量であるW1も大きくなるので、温度差調整値A3は、環境温度が第1温度T1である場合に、環境温度が第2温度T2である場合よりも大きい値となる。そして、その結果、50×A2×A3も、環境温度が低い場合に大きい値となる。これにより、第2ステージにおいて、環境温度が低い場合には、大きな値となる50×A2×A3が積算電力量Wから減算されることになるので、早く積算電力量Wが所定値以下になり、早く第3ステージに移行することとなる。
【0051】
第3ステージにおいて、制御装置100は、環境温度が低い第1温度T1である場合に、環境温度が高い第2温度T2である場合よりも、座面部S11,S21に対する張り出し部S12,S22の温度を低くするように第2ヒータ20の出力を制御することで、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差を大きくする温度差調整制御を実行する。具体的に、本実施形態では、制御装置100は、温度差調整制御において、目標温度T12と検知温度Tに基づいて算出した第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御するとともに、第1必要制御量mv1に基づいて第2必要制御量mv2を算出し、当該第2必要制御量mv2で第2ヒータ20を制御する。第2必要制御量mv2は、例えば、
mv2=mv1/A3
により計算することができる。
【0052】
ここで、温度差調整値A3は、環境温度が第1温度T1である場合に、環境温度が第2温度T2である場合よりも大きいので、第2必要制御量mv2の第1必要制御量mv1に対する大きさmv2/mv1は、環境温度が第1温度T1である場合に、環境温度が第2温度T2である場合よりも小さくなる。そのため、第3ステージにおいて、環境温度が第1温度T1である場合には、環境温度が第2温度T2である場合よりも、第1ヒータ10で供給する熱量に対する第2ヒータ20で供給する熱量が少なくなるので、座面部S11,S21の温度に対する張り出し部S12,S22の温度が低くなって、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差が大きくなる。
【0053】
以上のような車両用シートSにおける制御装置100の処理について、図3を参照しながら説明する。制御装置100は、図3に示すスタートからエンドまでの処理を、制御サイクルごとに繰り返し行っている。
制御装置100は、まず、ヒータの加熱指示を受けたか否かを判定し、指示がない場合(S101,No)、処理を終了する。
【0054】
一方、ヒータの加熱指示がある場合(S101,Yes)、制御装置100は、温度センサ30から検知温度Tを取得するとともに(S102)、第1必要制御量mv1を計算する(S103)。そして、制御装置100は、フラグFが1であるかを判断し、1でない場合(S104,No)、ステップS110に進み、1の場合(S104,Yes)、ステップS110での第1ステージに入るか否かの判断をすることなく、ステップS114に進む。
【0055】
ステップS110において、制御装置100は、検知温度Tが切替温度T11以上か否か判定し、切替温度T11以上でない場合(S110,No)、第1ステージとして、第1ヒータ10を100%、つまり、100Wで出力し(S111)、積算電力量WをW=W+100×A1により計算し(S112)、処理を終了する。
【0056】
一方、検知温度Tが切替温度T11以上である場合(S110,Yes)、フラグFを1にし(S113)、さらに、温度差調整値A3をA3=a1×W1+b1により計算する(S114)。そして、制御装置100は、積算電力量Wが0以下か否かを判定する(S120)。
【0057】
積算電力量Wが0以下でない場合(S120,No)、第2ステージであるので、制御装置100は、第1必要制御量mv1が50より大きいか否かを判定する。第1必要制御量mv1が上限値の50より大きい場合(S121,Yes)、制御装置100は、第1ヒータ10を50%(50W)で出力し、第2ヒータ20を100%(50W)で出力する(S122)。そして、積算電力量WをW=W+50×A1-50×A2×A3で計算し(S123)、処理を終了する。
【0058】
一方、第1必要制御量mv1が上限値の50より大きくない場合(S121,No)、制御装置100は、第1ヒータ10をmv1(50W未満。100W×mv1となる。)で出力し、第2ヒータ20を100%(50W)で出力する(S124)。そして、積算電力量WをW=W+mv1×A1-50×A2×A3で計算し(S125)、処理を終了する。
【0059】
ステップS120において、積算電力量Wが0以下である場合(S120,Yes)、第3ステージであるので、制御装置100は、第2必要制御量mv2をmv2=mv1/A3により計算し(S131)、第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御するとともに、第2必要制御量mv2で第2ヒータ20を制御し(S132)、処理を終了する。
【0060】
以上のような処理によると、着座者が操作スイッチを操作して車両用シートSの加熱を開始すると、図4および図5の(a),(b)に示すように第1ヒータ10および第2ヒータ20の出力と座面部S11,S21と張り出し部S12,S22の温度が変化する。具体的には、時刻t11,t21までの第1ステージにおいては、許容最大出力の100Wをすべて第1ヒータ10で使用して、座面部S11,S21の温度を可及的に速やかに加熱する。これにより、着座者との接触が強く、着座者が特に温度を感じやすい腰から背中にかけての部分を暖め、快適な着座感を着座者に与えることができる。なお、時刻t11,t21までにおいて張り出し部S12,S22の温度が上がっているのは、着座者の熱を受けてシートが暖まっているものである。
そして、この第1ステージにおいて、図4および図5の(c)に示すように、積算電力量Wは、第1ヒータ10に出力した電力が積算される。
【0061】
時刻t11,t21になって、温度センサ30が検知した検知温度Tが切替温度T11に到達すると、第2ステージに移行する。第2ステージにおいては、図4および図5の(b)に示すように、第2ヒータ20に最大出力50W(100%)で電力を供給し、第1ヒータ10には、残りの50Wの電力を供給する。そして、時刻t12,t22において、検知温度Tが目標温度T12に近づくと、差分eが小さくなる結果、mv1が50以下となるので、第1ヒータ10を50以下の値である第1必要制御量mv1(50W以下の電力)で制御する。
この第2ステージ(時刻t11~t13,t21~t23)においては、図4および図5の(c)に示すように、第2ヒータ20に電力を供給した分、積算電力量Wは、小さくなっていく。
【0062】
そして、時刻t13,t23において、積算電力量Wが0以下になると、第3ステージに移行する。本実施形態においては、図4に示す環境温度が低い第1温度T1である場合には、図5に示す環境温度が第1温度T1より高い第2温度T2である場合よりも、検知温度Tが切替温度T11に到達したときの積算電力量W1が大きいことで温度差調整値A3が大きい値となるので(図2参照)、積算電力量Wから減算される値(50×A2×A3)が大きくなり、図4(c)の時刻t11~t13に示す積算電力量Wの減少勾配が図5(c)の時刻t21~t23に示す減少勾配と比べて大きくなっている。そのため、環境温度が低い第1温度T1である場合に、仮に図5(c)に示すような緩やかな減少勾配で積算電力量Wが減少した場合と比べて、積算電力量Wが早く減少して早く0以下となるため、第2ヒータ20に最大出力で電力を供給する第2ステージを早く終了させることができる。そして、これにより、第3ステージでの温度差調整制御の実行前から、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差を、環境温度が第2温度T2である場合よりも大きくすることができる。
【0063】
第3ステージでは、第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御するとともに、第2必要制御量mv2(=mv1/A3)で第2ヒータ20を制御する。このとき、環境温度が第1温度T1である場合には、環境温度が第2温度T2である場合よりも、温度差調整値A3が大きいことで、第2必要制御量mv2の第1必要制御量mv1に対する大きさmv2/mv1が小さくなるので、図4(b)に示す環境温度が第1温度T1である場合の第1ヒータ10の出力に対する第2ヒータ20の出力の割合が、図5(b)に示す環境温度が第2温度T2である場合よりも小さくなり、第1ヒータ10で供給する熱量に対する第2ヒータ20で供給する熱量が少なくなる。これにより、座面部S11,S21の温度に対する張り出し部S12,S22の温度が低くなるので、環境温度が第1温度T1である場合には、環境温度が第2温度T2である場合よりも、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差を大きい状態に保つことができる。
【0064】
以上に説明した本実施形態の車両用シートSによれば、快適性を備えながら、消費電力を抑えることができる。詳しくは、環境温度が低い第1温度T1である場合には、研究の結果、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差が大きくても着座者はその温度差を感じにくいということが分かったため、環境温度が高い第2温度T2である場合よりも、座面部S11,S21に対する張り出し部S12,S22の温度を低くするように第2ヒータ20の出力を制御することで、着座者に不快感を与えずに、消費電力を抑えることができる。一方で、環境温度が高い第2温度T2である場合には、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差が大きくなくても着座者はその温度差を感じやすいということが分かったが、この場合には、環境温度が低い第1温度T1である場合よりも、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差が小さくなるので、快適性を確保することができる。
【0065】
また、本実施形態では、制御装置100は、温度差調整制御において、検知温度Tと目標温度T12とに基づいて算出した第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御し、第1必要制御量mv1に基づいて環境温度が低い場合に小さい値となる第2必要制御量mv2を算出し、当該第2必要制御量mv2で第2ヒータ20を制御するので、一つの温度センサ30だけで、座面部S11,S21に対する張り出し部S12,S22の温度を低くするように第2ヒータ20の出力を制御することができる。
【0066】
また、制御装置100は、車両用シートSの加熱指示を受けたときに検知温度Tが切替温度T11に達していなければ、第1ヒータ10のみに電力を供給するので、まず着座者が温度を感じやすい座面部S11,S21を速やかに加熱することができる。これにより、快適性を高めることができる。
【0067】
また、本実施形態では、制御装置100は、検知温度Tが切替温度T11に達したときに第2ヒータ20に最大出力の電力を供給するので、座面部S11,S21を加熱した後に、張り出し部S12,S22を迅速に加熱して、張り出し部S12,S22の温度を迅速に座面部S11,S21の温度に近づけることができる。これにより、快適性を高めることができる。さらに、環境温度が低い場合に大きい値となる温度差調整値A3を積算電力量Wから減算し、積算電力量Wが所定値以下になった場合に、温度差調整制御を実行するので、環境温度が低い第1温度T1である場合には、環境温度が高い第2温度T2である場合よりも、早く積算電力量Wが0以下になって温度差調整制御を実行することができる。これにより、第2ヒータ20が最大出力で作動する時間を短くすることができ、第2ヒータ20によって張り出し部S12,S22が無駄に加熱されることがないので、消費電力を抑えることができる。
【0068】
また、第1ヒータ10が座面部S11,S21に設けられていることで、着座者が温度を感じやすい座面部S11,S21を、第1ヒータ10によって加熱できるので、快適性を高めることができる。また、座面部S11,S21よりも着座者から遠くに配置された張り出し部S12,S22については、座面部S11,S21との間にある程度温度差があっても着座者に不快感を与えにくいので、第2ヒータ20が張り出し部S12,S22に設けられていることで、第2ヒータ20の出力をより抑えて、消費電力をより抑えることができる。
【0069】
[第2実施形態]
本実施形態のシートは、図6に示すように、自動車に搭載される車両用シートSとして構成されている。この車両用シートSは、シートクッションS1、シートバックS2およびヘッドレストS3を備えている。なお、本実施形態では、第1実施形態と異なる点について詳細に説明し、第1実施形態と同様の構成要素については同一符号を付して適宜説明を省略する。
【0070】
シートバックS2の座面部S21には、表皮の内側で、第1ヒータ10に対応した部位に、第1温度センサ30Aが内蔵され、張り出し部S22には、表皮の内側で、第2ヒータ20に対応した部位に、第2温度センサ30Bが内蔵されている。温度センサ30A,30Bは、第1実施形態の温度センサ30と同様に、着座者の体温の影響を受けない位置に配置されている。
【0071】
第1温度センサ30Aは、第1検知温度Taの信号を制御装置100に出力するように制御装置100に接続され、第2温度センサ30Bは、第2検知温度Tbの信号を制御装置100に出力するように制御装置100に接続されている。また、制御装置100には、環境温度、具体的には車室内の温度を検知する第3温度センサとしての環境温度センサ30Cが接続されている。環境温度センサ30Cは、環境温度Tcの信号を制御装置100に出力する。なお、環境温度センサ30Cは、温度センサ30A,30Bと同様に車両用シートSに内蔵されていてもよいし、自動車にもともと設けられている室温センサのような車両用シートSとは別に設けられているセンサであってもよい。すなわち、環境温度Tcは、車両用シートSが備えるセンサから取得してもよいし、車両用シートSの外に設けられたセンサから取得してもよい。
【0072】
制御装置100は、操作スイッチから車両用シートSの加熱の指示を受けて、第1ヒータ10および第2ヒータ20を制御する。制御装置100は、操作スイッチからシート加熱の指示を受けたときに、第1ヒータ10を集中的に加熱して座面部S11,S21の温度を速やかに上昇させる第1ステージと、第2ヒータ20の加熱を開始して、張り出し部S12,S22の温度を座面部S11,S21の温度に近づける第2ステージと、検知温度Ta,Tbを目標温度T12,T22に合わせるように調整する第3ステージとを実行するように構成されている。
【0073】
制御装置100は、第1ステージから第2ステージに切り替えるための基準として、第1温度センサ30Aが取得した第1検知温度Taが、第1目標温度T12よりも低い第1切替温度T11に達したか否かを判定する。第1検知温度Taが第1切替温度T11に達していない第1ステージにおいては、制御装置100は、第1ヒータ10のみに電力を供給し、第2ヒータ20には電力を供給せず、第1ヒータ10を最大出力で制御する。
制御装置100は、第1検知温度Taが第1切替温度T11に達した場合には、そのことを示すフラグFを1にする。
【0074】
また、制御装置100は、第2ステージから第3ステージに切り替えるための基準として、第2温度センサ30Bが取得した第2検知温度Tbが、第2目標温度T22よりも低い第2切替温度T21に達したか否かを判定する。第2検知温度Tbが第2切替温度T21に達していない第2ステージ(温度差調整制御の実行前)においては、制御装置100は、第2ヒータ20に最大出力の電力を供給する。また、第2ステージにおいて、制御装置100は、第1目標温度T12と第1検知温度Taとに基づいて第1必要制御量mv1を算出し、当該第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御する。第1必要制御量mv1は、例えば、第1実施形態の場合と同様に、PI制御の必要制御量として、
mv1=Kp×e+ie/Ki
により計算することができる。
制御装置100は、第2検知温度Tbが第2切替温度T21に達した場合には、そのことを示すフラグFを2にする。フラグFは初期値が0であり、操作スイッチが切られたときなどに0にリセットされる。
【0075】
制御装置100は、第2検知温度Tbが第2切替温度T21に達した場合に、第2ステージを終え、第3ステージに移行し、温度差調整制御を実行する。
第3ステージにおいて、制御装置100は、環境温度Tcが第1温度T1である場合に、環境温度Tcが第1温度T1より高い第2温度T2である場合よりも、座面部S11,S21に対する張り出し部S12,S22の温度を低くするように第2ヒータ20の出力を制御することで、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差を大きくする温度差調整制御を実行する。具体的に、本実施形態では、制御装置100は、温度差調整制御において、第1目標温度T12と第1検知温度Taとに基づいて算出した第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御するとともに、第2目標温度T22と第2検知温度Tbとに基づいて第2必要制御量mv2を算出し、当該第2必要制御量mv2で第2ヒータ20を制御する。第2必要制御量mv2は、例えば、第1必要制御量mv1と同様に、PI制御の必要制御量として計算することができる。
【0076】
第2目標温度T22は、第1目標温度T12と環境温度Tcに基づいて、一例として、
T22=T12-(-a2×Tc+b2)
により計算することができる。図7に示すように、第1目標温度T12と第2目標温度T22の差(T12-T22)は、環境温度Tcが第1温度T1である場合に、環境温度Tcが第1温度T1より高い第2温度T2である場合よりも大きい値となるように設定されている。そのため、環境温度Tcが第1温度T1である場合、環境温度Tcが第2温度T2である場合よりも、-a2×Tc+b2が大きい値となるので、T12-(-a2×Tc+b2)により計算される第2目標温度T22は、小さい値となる。
【0077】
また、第2ステージから第3ステージに切り替えるための基準としての第2切替温度T21は、環境温度Tcが第1温度T1である場合に、環境温度Tcが第2温度T2である場合よりも低い値となるように設定されている。一例として、第2切替温度T21は、
T21=T22-Td
により計算することができる。これにより、第2切替温度T21は、環境温度Tcが低くて第2目標温度T22が小さい値となるときには低い値となり、環境温度Tcが高くて第2目標温度T22が大きい値となるときには高い値となる。ここで、Tdは、定数であってもよいし、変数であってもよい。
【0078】
以上のような車両用シートSにおける制御装置100の処理について、図8を参照しながら説明する。制御装置100は、図8に示すスタートからエンドまでの処理を、制御サイクルごとに繰り返し行っている。
制御装置100は、まず、ヒータの加熱指示を受けたか否かを判定し、指示がない場合(S201,No)、処理を終了する。
【0079】
一方、ヒータの加熱指示がある場合(S201,Yes)、制御装置100は、各温度センサ30A,30B,30Cから検知温度Ta,Tb,Tcを取得するとともに(S202)、第2目標温度T22と第2切替温度T21をそれぞれ計算する(S203)。そして、制御装置100は、フラグFが1以上(1または2)であるかを判断し、1以上でない(0である)場合(S204,No)、ステップS210に進み、1以上の場合(S204,Yes)、ステップS215に進む。
【0080】
ステップS210において、制御装置100は、第1温度センサ30Aの第1検知温度Taが第1切替温度T11以上か否か判定し、第1切替温度T11以上でない場合(S210,No)、第1ステージであるので、第1ヒータ10を100%で出力して(S211)、処理を終了する。
【0081】
一方、第1検知温度Taが第1切替温度T11以上である場合(S210,Yes)、制御装置100は、フラグFを1にする(S214)。そして、フラグFが2であるかを判断し、2でない場合(S215,No)、ステップS220に進み、2の場合(S215,Yes)、ステップS231に進む。
【0082】
ステップS220において、制御装置100は、第2温度センサ30Bの第2検知温度Tbが第2切替温度T21以上か否か判定し、第2切替温度T21以上でない場合(S220,No)、第2ステージであるので、第1必要制御量mv1を計算し(S221)、第1ヒータ10をmv1で出力するとともに、第2ヒータ20を100%で出力して(S222)、処理を終了する。
【0083】
一方、第2検知温度Tbが第2切替温度T21以上である場合(S220,Yes)、制御装置100は、フラグFを2にする(S223)。そして、第3ステージであるので、制御装置100は、第1必要制御量mv1と第2必要制御量mv2をそれぞれ計算し(S231)、第1ヒータ10をmv1で出力するとともに、第2ヒータ20をmv2で出力して(S232)、処理を終了する。
【0084】
以上のような処理によると、着座者が操作スイッチを操作して車両用シートSの加熱を開始すると、図9(a),(b)に示すように、時刻t31,t41までの第1ステージにおいては、第1ヒータ10に最大出力の電力を供給して、座面部S11,S21の温度を速やかに加熱する。そして、時刻t31,t41になって、第1温度センサ30Aが検知した第1検知温度Taが第1切替温度T11に到達すると、第2ステージに移行する。
【0085】
第2ステージにおいては、第2ヒータ20に最大出力の電力を供給するとともに、第1ヒータ10を第1必要制御量mv1で制御する。そして、時刻t32,t42になって、第2温度センサ30Bが検知した第2検知温度Tbが第2切替温度T21に到達すると、第3ステージに移行する。本実施形態では、図9(a)に示す環境温度Tcが低い第1温度T1である場合には、図9(b)に示す環境温度Tcが第1温度T1より高い第2温度T2である場合よりも、第2切替温度T21が低いので、第2検知温度Tbが第2切替温度T21に早く到達し、第2ヒータ20に最大出力で電力を供給する第2ステージを早く終了させることができる。そして、これにより、第3ステージでの温度差調整制御の実行前から、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差を、環境温度Tcが第2温度T2である場合よりも大きくすることができる。
【0086】
第3ステージでは、第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御するとともに、第2必要制御量mv2で第2ヒータ20を制御する。このとき、環境温度Tcが第1温度T1である場合には、環境温度Tcが第2温度T2である場合よりも、第1目標温度T12と第2目標温度T22の差が大きく、さらに言えば、第1目標温度T12に対して第2目標温度T22が小さくなる。そのため、第2必要制御量mv2の第1必要制御量mv1に対する大きさmv2/mv1が小さくなるので、第1ヒータ10で供給する熱量に対する第2ヒータ20で供給する熱量が少なくなる。これにより、座面部S11,S21の温度に対する張り出し部S12,S22の温度が低くなるので、環境温度Tcが第1温度T1である場合には、環境温度Tcが第2温度T2である場合よりも、座面部S11,S21と張り出し部S12,S22との温度差を大きい状態に保つことができる。
【0087】
以上に説明した本実施形態の車両用シートSによれば、第1実施形態と同様に、快適性を備えながら、消費電力を抑えることができる。
【0088】
また、本実施形態では、制御装置100は、温度差調整制御において、第1目標温度T12と第1検知温度Taとに基づいて算出した第1必要制御量mv1で第1ヒータ10を制御し、環境温度Tcが低い場合に第1目標温度T12との差が大きい第2目標温度T22と、第2検知温度Tbとに基づいて算出した第2必要制御量mv2で第2ヒータ20を制御するので、座面部S11,S21に対する張り出し部S12,S22の温度を低くするように第2ヒータ20の出力を制御することができる。また、第1ヒータ10に対応した部位に第1検知温度Taを取得する第1温度センサ30Aが設けられ、第2ヒータ20に対応した部位に第2検知温度Tbを取得する第2温度センサ30Bが設けられているので、二つの温度センサ30A,30Bにより温度制御の精度を高めることができ、快適性を高めることができる。
【0089】
また、本実施形態では、制御装置100は、温度差調整制御の実行前において、第2検知温度Tbが第2切替温度T21に達していなければ、第2ヒータ20に最大出力の電力を供給するので、張り出し部S12,S22を迅速に加熱して、座面部S11,S21の温度に迅速に近づけることができるため、快適性を高めることができる。
【0090】
また、本実施形態では、制御装置100は、第2検知温度Tbが、環境温度Tcが低い場合に低い値となる第2切替温度T21に達した場合に、温度差調整制御を実行するので、環境温度Tcが低い第1温度T1である場合には、環境温度Tcが高い第2温度T2である場合よりも、早く第2検知温度Tbが第2切替温度T21に達して温度差調整制御を実行することができる。これにより、第2ヒータ20が最大出力で作動する時間を短くすることができ、第2ヒータ20によって張り出し部S12,S22が無駄に加熱されることがないので、消費電力を抑えることができる。
【0091】
また、制御装置100は、車両用シートSの加熱指示を受けたときに第1検知温度Taが第1切替温度T11に達していなければ、第1ヒータ10のみに電力を供給するので、まず着座者が温度を感じやすい座面部S11,S21を速やかに加熱することができる。これにより、快適性を高めることができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、その構造は適宜変更することができる。
【0093】
例えば、前記第1実施形態においては、第2必要制御量mv2を、第1必要制御量mv1に温度差調整値A3の逆数を掛けて算出したが、これに限定されない。例えば、第2必要制御量は、加熱のテスト結果に基づいて予め設定した、第1必要制御量と第2必要制御量との関係を示すマップや式などから算出してもよい。
【0094】
また、時間が経つにつれて環境温度が変化することを想定して、環境温度に基づいて温度差調整値A3を変化させ、第3ステージでの第2ヒータの出力を環境温度によって変化させてもよい。例えば、環境温度が高くなれば検知温度Tが切替温度T11以上となるまでの時間は短くなるので、この時間に基づいて温度差調整値A3を時間の関数として変化させてもよい。また、環境温度を検知し、検知した環境温度に基づいて温度差調整値A3を環境温度の関数として変化させてもよい。
【0095】
前記実施形態においては、第1ヒータ10が座面部S11,S21に設けられ、第2ヒータ20が張り出し部S12,S22に設けられていたが、第1ヒータおよび第2ヒータの配置は特に限定されない。例えば、第1ヒータがシートクッションに設けられ、第2ヒータがシートバックに設けられていてもよい。また、第1ヒータと第2ヒータは、両方とも座面部に設けられていてもよいし、両方とも張り出し部に設けられていてもよい。
【0096】
前記実施形態においては、車両用シートSとして、乗用車の運転席や助手席に採用されるような独立タイプのシートを例示したが、これに限定されず、例えば、乗用車の後部座席によく採用されるようなベンチタイプのシートであってもよい。また、前記実施形態においては、シートとして、自動車に搭載される車両用シートSを例示したが、シートは、自動車以外の乗物、例えば、鉄道車両や船舶、航空機などに搭載される乗物用シートであってもよい。さらに、シートは、乗物用のシートに限定されず、例えば、家庭などで使用されるシートであってもよい。
【0097】
前記実施形態において、シートは、車両に搭載されたバッテリにより駆動される電源装置90から電力が供給される構成であったが、これに限定されない。例えば、シート自体にバッテリが搭載されている構成であってもよいし、シートが家庭などで使用されるシートである場合には商用電源から電力が供給される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0098】
10 第1ヒータ
20 第2ヒータ
30 温度センサ
30A 第1温度センサ
30B 第2温度センサ
30C 環境温度センサ
100 制御装置
S 車両用シート
S1 シートクッション
S2 シートバック
S11 座面部
S12 張り出し部
S21 座面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9