(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】服飾資材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A44B 1/02 20060101AFI20221102BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20221102BHJP
A44B 1/00 20060101ALI20221102BHJP
A44B 1/04 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
A44B1/02 C
A41D31/00 504C
A44B1/00 C
A44B1/04 K
(21)【出願番号】P 2022024517
(22)【出願日】2022-02-21
【審査請求日】2022-02-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】312016595
【氏名又は名称】株式会社アースクリエイト
(73)【特許権者】
【識別番号】591115279
【氏名又は名称】株式会社アイリス
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】西宮 祥行
(72)【発明者】
【氏名】大隅 洋
【審査官】西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-146454(JP,A)
【文献】特開2009-142589(JP,A)
【文献】特開平07-233305(JP,A)
【文献】特開平02-300247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 1/02、3/00、5/00
9/00、11/00、13/00
A44C 1/00、3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹
脂、無機充填剤
及びステアリン酸塩を含有し、
前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、
前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超68.0質量%以下であ
り、
前記ステアリン酸塩の含有割合は、0.003質量%以上0.020質量%以下である、服飾資材。
【請求項2】
射出成型品である、
請求項1に記載の服飾資材。
【請求項3】
前記ポリプロピレン樹脂は、ブロックポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂を含む、
請求項1又は2に記載の服飾資材。
【請求項4】
前記ポリプロピレン樹脂の230℃でのメルトフローレートは、25g/10分以上70g/10分以下である、
請求項1から3の何れか一項に記載の服飾資材。
【請求項5】
ボタンとして用いられる、
請求項1から4の何れか一項に記載の服飾資材。
【請求項6】
第1ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有するマスターバッチを準備する準備工程と、
前記マスターバッ
チ、第2ポリプロピレン樹脂
及びステアリン酸塩を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を射出成型することで服飾資材を得る射出成型工程とを備え、
前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、
前記混合物における前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超68.0質量%以下であ
り、
前記混合物における前記ステアリン酸塩の含有割合は、0.003質量%以上0.020質量%以下である、服飾資材の製造方法。
【請求項7】
前記ステアリン酸塩は、ステアリン酸カルシウムを含む、
請求項1に記載の服飾資材。
【請求項8】
前記ステアリン酸塩は、ステアリン酸カルシウムを含む、
請求項6に記載の服飾資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、服飾資材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
服飾資材は、被服の機能性及び装飾性を高めるための部材であり、生地と組み合わせて使用される。服飾資材は、被服の着用時及び洗濯時に強い力を受けるため、優れた強度を有することが要求される。また、服飾資材は、被服にアイロンをかける際に高温に晒される場合があるため、優れた耐熱性を有することが要求される。
【0003】
服飾資材の代表として、ボタンが挙げられる。一般的に流通するボタンの材料としては、例えば、ナイロン樹脂(ポリアミド樹脂)、ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、ABS樹脂、金属及び天然素材(例えば、木材、貝殻及び皮革)が挙げられる。これらの中で、ナイロン樹脂は、成形が容易であり、強度及び耐熱性にも優れている。そのため、ナイロン樹脂は、ボタンの材料として最も一般的に使用されている。
【0004】
一方、ナイロン樹脂を用いた服飾資材は、高温高湿下では吸湿して加水分解することがある。また、ナイロン樹脂を用いた服飾資材は、塩素系漂白剤に対する耐性が低い傾向がある。このように、ナイロン樹脂を用いた服飾資材は、取り扱いに一定の制限がある。ナイロン樹脂を用いたボタンの取り扱い性を向上させる方法として、例えば、ポリアミド樹脂にワラステナイトを添加する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の服飾資材によっても、取り扱い性を十分に満足することはできない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、取り扱い性、耐熱性及び強度に優れる服飾資材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の服飾資材は、ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有する。前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。前記無機充填剤の含有割合は、40.0質量%以上68.0質量%以下である。
【0009】
本発明の服飾資材の製造方法は、第1ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有するマスターバッチを準備する準備工程と、前記マスターバッチ及び第2ポリプロピレン樹脂を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を射出成型することで服飾資材を得る射出成型工程とを備える。前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。前記混合物における前記無機充填剤の含有割合は、40.0質量%以上68.0質量%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の服飾資材及びその製造方法は、取り扱い性、耐熱性及び強度に優れる服飾資材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は、実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施できる。本発明の実施形態において説明する各材料は、特に断りのない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
<第1実施形態:服飾資材>
本発明の第1実施形態に係る服飾資材は、ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有する。無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。無機充填剤の含有割合は、40.0質量%以上68.0質量%以下である。
【0013】
本発明の服飾資材は、例えば、ボタン、バックル、襟カラー、パッド、ホック、リベット及びハトメ等の被服の付属部材として用いることができる。本発明の服飾資材は、例えば、被服の販売時に被服の形状を整えるために使用され、被服の販売後は除去される部材(例えば、ハンガー、ピン及びクリップ)として用いることもできる。本発明の服飾資材は、ボタンとして特に好適である。本発明の服飾資材をボタンとして用いる場合、糸を通すための穴(糸穴)、又は生地に固定するための裏足が形成されていてもよい。また、本発明の服飾資材は、射出成型品であることが好ましい。
【0014】
本発明の服飾資材は、上述の構成を満たすことにより、取り扱い性、耐熱性及び強度に優れる。本発明の服飾資材が上述の効果を有する理由は、以下のように推察される。本発明の服飾資材は、樹脂成分としてポリプロピレン樹脂を含有する。ポリプロピレン樹脂は、吸湿性が低く、かつ耐薬品性及び強度に優れる。そのため、本発明の服飾資材は、取り扱い性及び強度に優れる。また、本発明の服飾資材が含有するポリプロピレン樹脂は、汎用樹脂の中では優れた耐熱性を有する。更に、本発明の服飾資材は、炭酸カルシウム粒子を含む無機充填剤を含有し、無機充填剤の含有割合が40.0質量%以上である。本発明の服飾資材において、無機充填剤は、フィラーとして機能し、高温時の変形を抑制する。本発明の服飾資材は、樹脂成分としてポリプロピレン樹脂を含有すると共に、無機充填剤を一定割合以上含有することにより、耐熱性に優れる。このため、本発明の服飾資材は、アイロンがけで高温に晒されたとしても変形し難い。但し、無機充填剤を過剰に含有する服飾資材は、強度が低下する場合がある。これに対して、本発明の服飾資材は、無機充填剤の含有割合が68.0質量%以下と適量である。そのため、本発明の服飾資材は、ポリプロピレン樹脂に由来する優れた強度を十分に発揮できる。
【0015】
[ポリプロピレン樹脂]
ポリプロピレン樹脂は、プロピレンを含む原料モノマーの重合体である。ポリプロピレン樹脂の原料モノマーは、プロピレン以外のモノマー(以下、他のモノマーと記載することがある)を含んでもよい。他のモノマーとしては、例えば、エチレン及び1-ブテンが挙げられる。ポリプロピレン樹脂の原料モノマーにおけるプロピレンの含有割合としては、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0016】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン樹脂)、プロピレンと少量(例えば、モノマー原料の総量に対して1質量%以上5質量%以下)の他のモノマーとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン樹脂)及びプロピレンの単独重合体とエチレン・プロピレンゴムとの混合物(ブロックポリプロピレン樹脂)が挙げられる。ポリプロピレン樹脂としては、ブロックポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂が好ましく、ブロックポリプロピレン樹脂がより好ましい。
【0017】
JIS(日本産業規格)K7210(1999年)に準拠して測定されるポリプロピレン樹脂の230℃でのメルトフローレートとしては、25g/10分以上70g/10分以下が好ましく、50℃g/10分以上65g/10分以下がより好ましい。ポリプロピレン樹脂の230℃でのメルトフローレートを25g/10分以上とすることで、本発明の服飾資材の耐熱性を更に向上できる。230℃でのメルトフローレートを70g/10分以下とすることで、本発明の服飾資材を製造し易くなる。
【0018】
本発明の服飾資材におけるポリプロピレン樹脂の含有割合としては、32.0質量%以上60.0質量%以下が好ましく、35.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、42.0質量%以上47.0質量%以下が更に好ましい。ポリプロピレン樹脂の含有割合を32.0質量%以上とすることで、本発明の服飾資材の強度を更に向上できる。ポリプロピレン樹脂の含有割合を60.0質量%以下とすることで、本発明の服飾資材の耐熱性を更に向上できる。
【0019】
本発明の服飾資材は、少量であれば、ポリプロピレン樹脂以外の他の樹脂を更に含んでもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン)、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂)が挙げられる。本発明の服飾資材における他の樹脂の含有割合としては、3.0質量%以下が好ましく、0.0質量%がより好ましい。
【0020】
[無機充填剤]
無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。ここで、無機充填剤として使用される炭酸カルシウム粒子は、入手元によって純度が大きく異なる。詳しくは、無機充填剤として使用される炭酸カルシウム粒子の多くは、鉱物資源として得られた炭酸カルシウム鉱石を精製せずにそのまま粒子化したものである。そのため、炭酸カルシウム粒子は、産地によって純度が大きく異なる。例えば、産地によっては、炭酸カルシウムの含有割合が70質量%程度である低純度の炭酸カルシウム粒子が存在する。一方、食品用及び医薬品用の炭酸カルシウム粒子として、化学合成により得られた高純度の炭酸カルシウム粒子も存在する。
【0021】
本発明の服飾資材は、なるべく高純度の炭酸カルシウム粒子を含有することが好ましい。具体的には、炭酸カルシウム粒子における炭酸カルシウムの含有割合としては、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、97質量%以上が更に好ましい。炭酸カルシウム粒子は、純度が高いほど環境への負荷が小さい。炭酸カルシウム粒子における炭酸カルシウムの含有割合を90質量%以上とすることで、環境への負荷を低減できる。
【0022】
炭酸カルシウム粒子の最大粒径としては、20μm以下が好ましい。ここで、炭酸カルシウム粒子及びポリプロピレン樹脂の界面には空隙が存在する場合がある。本発明の服飾資材は、上述の空隙が少ないほど優れた強度を発揮できる。上述の空隙は、炭酸カルシウム粒子の粒径が大きいほど形成され易いと判断される。そのため、炭酸カルシウム粒子の最大粒径を20μm以下とすることで、炭酸カルシウム粒子及びポリプロピレン樹脂の界面の空隙が発生することを抑制できる。その結果、本発明の服飾資材の強度を更に向上できる。
【0023】
なお、炭酸カルシウム粒子の最大粒径は、以下の方法で測定することができる。まず、電子顕微鏡を用い、本発明の服飾資材の断面から無作為に選択された5箇所(視野:100μm×100μm)において、炭酸カルシウム粒子の粒径(長径)を測定する。そして、測定された炭酸カルシウム粒子の粒径の最大値を、炭酸カルシウム粒子の最大粒径とする。
【0024】
炭酸カルシウム粒子は、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、シランカップリング剤処理、及び金属石鹸処理(例えば、ステアリン酸カルシウム処理)が挙げられる。炭酸カルシウム粒子に表面処理を施すことで、炭酸カルシウム粒子及びポリプロピレン樹脂の界面に空隙が発生することを抑制できる。その結果、本発明の服飾資材の強度を更に向上できる。
【0025】
本発明の服飾資材における無機充填剤の含有割合としては、40.0質量%以上68.0質量%以下であり、50.0質量%以上65.0質量%以下が好ましく、53.0質量%以上58.0質量%以下がより好ましい。無機充填剤の含有割合を40.0質量%以上とすることで、本発明の服飾資材は優れた耐熱性を発揮する。無機充填剤の含有割合を68.0質量%以下とすることで、本発明の服飾資材は優れた強度を発揮する。無機充填剤の含有割合を68.0質量%超にすると、引張応力には比較的強いが、圧縮応力に弱くなり割れが生じ易くなる。
【0026】
また、本発明の服飾資材は、樹脂成分の含有割合が低く、焼却時の二酸化炭素排出量が比較的少ないため、環境への負荷が小さいという特徴がある。特に、無機充填剤の含有割合が50.0質量%超である場合、本発明の服飾資材は、無機充填剤が質量比で最も大きな比率を占めるため、プラスチック製品としては扱われなくなる。その結果、プラスチック製品の規制が進行している欧州等の地域において、本発明の服飾資材が規制対象となることを回避できる。
【0027】
無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子以外の他の無機充填剤を含んでいてもよい。他の無機充填剤としては、例えば、硫酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、カオリン粒子、マイカ粒子、酸化亜鉛粒子、ドロマイト粒子、ガラス繊維、中空ガラスミクロビーズ、シリカ粒子、チョーク粒子、タルク、ピグメント粒子、二酸化チタン粒子、二酸化ケイ素粒子、ベントナイト、クレー、珪藻土及びゼオライトが挙げられる。但し、炭酸カルシウム粒子は、他の無機充填剤と比較して、安価であり、かつ安定的に入手できるため、無機充填剤として好適である。
【0028】
無機充填剤における炭酸カルシウム粒子の含有割合としては、90質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0029】
[ステアリン酸塩]
本発明の服飾資材は、ステアリン酸塩を更に含有することが好ましい。ステアリン酸塩は、本発明の服飾資材の製造時に離型剤として機能する。ステアリン酸塩は、他の離型剤として比較し、本発明の服飾資材の離型性を効果的に向上させることができる。また、ステアリン酸塩は、本発明の服飾資材の強度を更に向上させる機能も有する。本発明の服飾資材において、ステアリン酸塩は、無機充填剤(特に、炭酸カルシウム粒子)の表面に付着した状態で存在していてもよく、ポリプロピレン樹脂に分散した状態で存在していてもよい。本発明の服飾資材において、ステアリン酸塩の少なくとも一部は、ポリプロピレン樹脂に分散した状態で存在することが好ましい。この場合、少量のステアリン酸塩によって本発明の服飾資材の強度を効果的に向上させることができる。
【0030】
ステアリン酸塩としては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム及びステアリン酸亜鉛が挙げられる。この中で、ステアリン酸カルシウムは、本発明の服飾資材の強度を特に効果的に向上させることができる。そのため、ステアリン酸塩としては、ステアリン酸カルシウムが好ましい。
【0031】
本発明の服飾資材におけるステアリン酸塩の含有割合としては、0.001質量%以上0.060質量%以下が好ましく、0.003質量%以上0.060質量%以下がより好ましく、0.008質量%以上0.020質量%以下が更に好ましい。ステアリン酸塩の含有割合を0.001質量%以上0.060質量%以下とすることで、本発明の服飾資材の強度を更に向上させることができる。
【0032】
[他の添加剤]
本発明の服飾資材は、無機充填剤及びステアリン酸塩以外の他の添加剤を更に含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、カップリング剤、潤滑剤、フィラー分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、及び耐候剤が挙げられる。
【0033】
<第2実施形態:服飾資材の製造方法>
本発明の第2実施形態に係る服飾資材の製造方法は、第1ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有するマスターバッチを準備する準備工程と、マスターバッチ及び第2ポリプロピレン樹脂を混合して混合物を得る混合工程と、混合物を射出成型することで服飾資材を得る射出成型工程とを備える。無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。混合物における無機充填剤の含有割合は、40.0質量%以上68.0質量%以下である。本発明の服飾資材の製造方法は、取り扱い性、耐熱性及び強度に優れる服飾資材である第1実施形態に係る服飾資材を製造できる。
【0034】
本発明の服飾資材の製造方法では、混合工程において、ステアリン酸塩を更に添加することが好ましい。この場合、混合物におけるステアリン酸塩の含有割合としては、0.001質量%以上0.060質量%以下が好ましい。服飾資材にステアリン酸塩を添加する方法としては、マスターバッチに予め添加する方法と、混合工程で添加する方法(追添)とが挙げられる。このうち、ステアリン酸塩を追添した場合、ステアリン酸塩による服飾資材の強度向上効果が更に効果的に発揮される。
【0035】
本発明の服飾資材の製造方法に用いる無機充填剤、第1ポリプロピレン樹脂、第2ポリプロピレン樹脂及びステアリン酸塩としては、例えば、第1実施形態において説明した無機充填剤、ポリプロピレン樹脂及びステアリン酸塩を用いることができる。第1ポリプロピレン樹脂及び第2ポリプロピレン樹脂は、同一の種類でもよく、互いに異なる種類でもよいが、同一の種類であることが好ましい。
【0036】
[準備工程]
本工程では、第1ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有するマスターバッチを準備する。マスターバッチにおける無機充填剤の割合としては、例えば、50.0質量%以上75.0質量%以下である。
【0037】
マスターバッチを準備する方法としては、例えば、第1ポリプロピレン樹脂のペレット及び無機充填剤をブレンダー等で混合する工程と、得られた混合物を押出機(例えば、二軸押出機)で混練する工程と、得られた混練物をペレット状にカットする工程とを備える方法が挙げられる。本工程で第1ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を予め混ぜておくことにより、ポリプロピレン樹脂に無機充填剤が十分に分散した服飾資材を得ることができる。
【0038】
[混合工程]
本工程では、マスターバッチ及び第2ポリプロピレン樹脂を混合して混合物を得る。マスターバッチ及び第2ポリプロピレン樹脂を混合する方法としては、例えば、ブレンダー等で混合する方法が挙げられる。混合物における第2ポリプロピレン樹脂の割合としては、例えば、10.0質量%以上40.0質量%以下である。なお、上述の通り、本工程では、混合物の調製において、ステアリン酸塩を更に添加することが好ましい。
【0039】
[射出成型工程]
本工程では、混合工程で得られた混合物を射出成型することで服飾資材を得る。射出成型時のシリンダー温度としては、例えば、150℃以上200℃以下である。射出成型では、例えば、服飾資材と、スプール、ランナー及びゲートとが一体化した射出成型品が得られる。この射出成型品から切り出すことにより、目的とする服飾資材を得ることができる。なお、射出成型品から切り出された服飾資材には、必要に応じて塗装及び研磨等の加工を行ってもよい。
【0040】
なお、本発明の製造方法でボタンを製造する場合、例えば、本工程で円柱状の射出成型品を得た後に、円柱状の射出成型品を切削又は切断することでボタン形状に加工してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明を更に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0042】
[材料]
まず、実施例に用いた各材料について説明する。実施例においては、炭酸カルシウム粒子(最大粒径約20μm)と、1種類のホモポリプロピレン樹脂(ホモPP、ペレット状)と、4種類のブロックポリプロピレン樹脂(ブロックPP(A)~(D)、ペレット状)と、耐候剤と、ステアリン酸カルシウム(ステアリン酸Ca)と、ポリエチレンワックスとを用いた。以下に各ポリプロピレン樹脂の230℃でのメルトフローレートを示す。
ホモPP:30g/10分
ブロックPP(A):230℃でのメルトフローレート60g/10分
ブロックPP(B):230℃でのメルトフローレート30g/10分
ブロックPP(C):230℃でのメルトフローレート30g/10分
ブロックPP(D):230℃でのメルトフローレート30g/10分
【0043】
[マスターバッチの作成]
以下に示す材料を二軸混練機によって混錬した後にチップ化することにより、マスターバッチを作成した。
樹脂成分:ブロックPP(A)(30.0質量部)
無機充填剤:炭酸カルシウム粒子(70.0質量部)
【0044】
[比較例1]
ブロックPP(A)を80℃で6時間乾燥させた。乾燥後のブロックPP(A)について、射出成型機(日精樹脂工業株式会社製、型締め力60tf、シリンダー温度165~175℃、金型温度25℃、射出速度設定12%)を用いて、ボタン、スプール、ランナー及びゲートが一体となった射出成型品を成形した。ボタンは、中央付近の対象な位置に4個の糸穴を有する円盤形状であり、外径20mm、厚さ3mm、糸穴径2mmであった。次に、射出成型品からボタンを切り離した。得られたボタンを比較例1のボタン(ポリプロピレン樹脂単体の成型物)とした。
【0045】
[実施例1]
ホモPP(25.0質量部)及びマスターバッチ(75.0質量部)をブレンダーで混合した。得られた混合物を80℃で6時間乾燥させた。乾燥後の混合物をブロックPP(A)の代わりに用いた以外は、比較例1のボタンと同様の方法により実施例1のボタンを得た。
【0046】
[実施例2~14及び比較例2~3]
混合物の調製における各成分の配合を下記表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2~14及び比較例2~3のボタンを得た。
【0047】
【0048】
<評価>
以下の方法により、実施例1~14及び比較例1~3のボタンについて、引張強度及び圧縮強度を測定すると共に、ホットプレッシング試験を実施した。結果を下記表2に示す。なお、下記表2において、「CaCO3」は、炭酸カルシウム粒子を示す。「PEワックス」は、ポリエチレンワックスを示す。「%」は、質量%を示す。
【0049】
[引張試験]
JIS(日本産業規格)S4025(1993年)(廃止済み規格)に準拠して測定対象(実施例1~14及び比較例1~3のボタンの何れか)に対して引張試験を実施した。まず、測定対象に形成された4つの糸穴(便宜上、時計回りに第1糸穴、第2糸穴、第3糸穴及び第4糸穴とする)に二本のピアノ線を通した。より具体的には、測定対象に形成された4つの糸穴のうち、第1糸穴及び第2糸穴に一方のピアノ線を通し、第3糸穴及び第4糸穴に他方のピアノ線を通した。次に、引張圧縮試験機(ミネベアミツミ株式会社製「テクノグラフTGE-5kN」)を用い、二本のピアノ線をそれぞれ反対方向から引っ張ることにより引張試験を行った。引張速度は、10mm/分とした。引張試験は、測定対象が破壊されるまで行った。引張試験では、測定対象が割れる瞬間に付与されていた引張張力(破壊値[kgf])を測定した。引張試験は、10個の測定対象に対してそれぞれ行った(n=10)。そして、得られた10個の測定結果の最小値(min)、最大値(max)及び平均値を記録した。
【0050】
[圧縮試験]
測定対象(実施例1~14及び比較例1~3のボタンの何れか)の上に直径63.5mmの鋼球を載せた。そして、引張圧縮試験機(ミネベアミツミ株式会社製「テクノグラフTGE-5kN」)を用い、鋼球に荷重を加えることにより圧縮試験を行った。圧縮速度は、5mm/分とした。圧縮試験は、試験機の測定限度である200kgfの荷重が測定対象に付与されるまで行った。圧縮試験は、10個の測定対象に対してそれぞれ行った(n=10)。そして、測定対象の表面にクラックが発生するか否かを判定した。10個の測定対象のうち、少なくとも1つの測定対象でクラックが発生した場合、下記表2のクラックを「割」とした。一方、10個の測定対象の何れにおいてもクラックが発生しなかった場合、下記表2のクラックを「無」とした。なお、クラックが「無」であるボタンについては、いずれの測定対象についても、200kgfの荷重を加えた場合に破壊(割れ)は発生しなかった。
【0051】
(強度の基準)
測定対象の強度は、以下の基準で判定した。
A(極めて良好):引張試験における破壊値の平均値が7.50kgf超であり、かつ圧縮試験でクラックが発生しなかった。
B(良好):引張試験における破壊値の平均値が7.50kgf超であったが、圧縮試験でクラックが発生した。又は、引張試験における破壊値の平均値が7.10kgf以上7.50kgf以下であった。
C(不良):引張試験における破壊値の平均値が7.10kgf未満であった。
【0052】
[ホットプレッシング試験]
JIS(日本産業規格)L0850(2015年)のA-1法に準拠して測定対象(実施例1~14及び比較例1~3のボタンの何れか)にホットプレッシング試験を実施した。具体的には、試験台の上に乾燥状態の白綿布を載置した。次に、乾燥状態の白綿布の中央に測定対象を載置した。次に、乾燥状態の白綿布及び測定対象の上に湿潤状態の白綿布(水分量約50質量%)を載置した。次に、湿潤状態の白綿布の上から表面温度110℃の加熱板を荷重4kPaで15秒間押し当てた。その後、測定対象を取り出してその表面を肉眼で観察した。
【0053】
(耐熱性の基準)
測定対象の耐熱性は、以下の基準で判定した。
A(合格):測定対象の外観に変化が見られなかった。
B(不合格):測定対象の表面に白綿布の織り目の跡が少しでも確認された。
【0054】
【0055】
比較例1(ポリプロピレン樹脂単体の成型物)は、強度は良好であったが、耐熱性が不十分であった。この結果から、ポリプロピレン樹脂は、服飾資材の材料として、強度は十分であるが耐熱性が不十分であると判断される。比較例3(無機充填剤の含有割合35.0質量%)も、比較例1と同様に耐熱性が不十分であった。この結果から、ポリプロピレン樹脂の耐熱性は、多少の無機充填剤を添加するだけでは改善されないと判断される。
【0056】
これに対して、実施例1及び13~14に示すように、無機充填剤の含有割合を40.0質量%以上68.0質量%以下とすると、ポリプロピレン樹脂の優れた強度を維持しつつ、耐熱性を向上できた。但し、比較例3(無機充填剤の含有割合70.0質量%)に示すように、無機充填剤の含有割合を68.0質量%超とすると、ポリプロピレン樹脂の優れた強度が失われ、ボタンに割れが生じた。
【0057】
実施例2~4及び8に示すように、ポリプロピレン樹脂の種類を変更しても、無機充填剤の含有割合を40.0質量%以上68.0質量%以下とすることで強度及び耐熱性を両立できることが確認された。
【0058】
他方、実施例5~7に示すように、服飾資材にステアリン酸塩を添加すると、強度を更に向上させることができた。このような性質は、ステアリン酸塩以外の添加剤では確認されなかった。
【0059】
実施例9~11に示すように、ステアリン酸塩の添加による強度の向上は、ステアリン酸塩の添加量を0.001質量%以上0.060質量%以下としたときに顕著であった。
【0060】
なお、データは省略するが、ステアリン酸カルシウム以外のステアリン酸塩でも同様の強度向上が確認された。また、ステアリン酸塩の中で、ステアリン酸カルシウムは、離型性の向上においても優れた効果があった。
【0061】
以上の結果から、本発明の服飾資材は、樹脂成分としてポリプロピレン樹脂を含有すると共に、一定量の無機充填剤を含有することで、優れた耐熱性及び強度を発揮できると判断される。また、本発明の服飾資材は、ポリプロピレン樹脂を含有するため、取り扱い性に優れると判断される。更に、本発明の服飾資材は、ステアリン酸塩を適度に添加することにより、強度を更に向上できると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の服飾資材は、被服の材料として利用できる。本発明の服飾資材の製造方法は、被服の材料として利用できる服飾資材を製造できる。
【要約】
【課題】取り扱い性、耐熱性及び強度に優れる服飾資材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】服飾資材は、ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有する。前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。前記無機充填剤の含有割合は、40.0質量%以上68.0質量%以下である。服飾資材の製造方法は、第1ポリプロピレン樹脂及び無機充填剤を含有するマスターバッチを準備する準備工程と、前記マスターバッチ及び第2ポリプロピレン樹脂を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を射出成型することで服飾資材を得る射出成型工程とを備える。前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。前記混合物における前記無機充填剤の含有割合は、40.0質量%以上68.0質量%以下である。
【選択図】なし