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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】リボン型センサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20221102BHJP
   G01M 3/16 20060101ALI20221102BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G01N27/416 341A
G01M3/16 Z
G01N27/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019022876
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020134138
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596064846
【氏名又は名称】井上リボン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】山宮 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 貴司
(72)【発明者】
【氏名】西山 正三
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】武内 勇介
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 則啓
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 文靖
(72)【発明者】
【氏名】山村 亮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩一
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-173387(JP,A)
【文献】特開昭54-133196(JP,A)
【文献】特開昭62-285053(JP,A)
【文献】実開昭60-156434(JP,U)
【文献】国際公開第2018/079680(WO,A1)
【文献】特表2014-527623(JP,A)
【文献】特開昭59-171409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - 27/49
G01M 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種の金属線を平行に配置してリボン状にしたリボン型センサーであって、
金属線は、保水性の非導電性織布に埋設されて構成されていることを特徴とするリボン型センサー。
【請求項2】
金属線が保水性の非導電性織布に埋設されている構成は、繊維製中空体の内側に収納されている構成であることを特徴とする請求項1記載のリボン型センサー。
【請求項3】
金属線は2種類であり、一方が亜鉛系金属又は亜鉛が表面に付着した繊維、他方が銀系金属又は銀が表面に付着した繊維であることを特徴とする請求項1又は2記載のリボン型センサー。
【請求項4】
金属線は、撚線であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のリボン型センサー。
【請求項5】
織布は、ポリエチレンテレフタレート繊維製であることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載のリボン型センサー。
【請求項6】
リボンの表裏に金属線種別の露出部が設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のリボン型センサー。
【請求項7】
一端または両端に金属線をまとめた接続用のプラグが設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のリボン型センサー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載されたリボン型センサーを用いたことを特徴とする漏水センサー。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載されたリボン型センサーに、蓄電素子と昇圧回路と発信素子を備えたICタグを取り付けたことを特徴とする自己発信型センサー。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載されたリボン型センサー、請求項8に記載された漏水センサー、又は請求項9に記載された自己発信型センサーと、リボン型センサーが発する信号の到達範囲内に設置された中継器と、該中継器の信号を受信するように設定された受信機を備えたことを特徴とする検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リボン状のセンサーに関する。特に、起電型のセンサーである。
【背景技術】
【0002】
漏水などを検知するセンサーは、2本の電極を通して、電極間の電気抵抗を測定することにより、電極間に水分があることを検知するセンサーが用いられている。
例えば、特許文献1(特開2008-233031号公報)には、直列に接続され、漏水により導通されて抵抗値により漏水位置を特定可能にされた複数の漏水検知センサと、前記漏水検知センサによる検出位置を読みとる情報読取り手段と、前記情報読取り手段で読みとった情報を記憶する記憶手段とを備えた漏水検知システムが開示されている。
特許文献2(特開2016-45136号公報)には、二本の金属線で絶縁体を挟むように密接させて配置した水分検知センサーが開示されている。
特許文献3(特開2013-167551号公報)には、(a)地下施設の漏水を受けて発電する自己発電型漏水検知センサと、(b)該自己発電型漏水検知センサからの発電電圧を電源として検知データを送信する無線送信装置と、(c)該無線送信装置からの送信データを受ける無線受信装置付きの報知装置とを具備することを特徴とする地下施設の自己発電型漏水検知センサを用いた検知データ伝達・集約システムが開示されている。
特許文献4(特開2001-296201号公報)には、漏水により電気特性の変化が生じる電極部と前記電気特性の変化を検知、判別する回路とからなる漏水検知器において、前記電極部は、電気化学順列による標準単極電位の低い負極と、標準単極電位の高い正極とからなり、前記漏水により生じる前記正極及び負極間の誘起電位差を増幅、判別して検知信号を得る漏水検知器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-233031号公報
【文献】特開2016-45136号公報
【文献】特開2013-167551号公報
【文献】特開2001-296201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無給電型のセンサーを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.異種の金属線を平行に配置してリボン状にしたリボン型センサーであって、
金属線は、保水性の非導電性織布に埋設されて構成されていることを特徴とするリボン型センサー。
2.金属線が保水性の非導電性織布に埋設されている構成は、繊維製中空体の内側に収納されている構成であることを特徴とする1.記載のリボン型センサー。
3.金属線は2種類であり、一方が亜鉛系金属又は亜鉛が表面に付着した繊維、他方が銀系金属又は銀が表面に付着した繊維であることを特徴とする1.又は2.記載のリボン型センサー。
4.金属線は、撚線であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のリボン型センサー。
5.織布は、ポリエチレンテレフタレート繊維製であることを特徴とする2.~4.のいずれかに記載のリボン型センサー。
6.リボンの表裏に金属線種別の露出部が設けられていることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載のリボン型センサー。
7.一端または両端に金属線をまとめた接続用のプラグが設けられていることを特徴とする1.~6.のいずれかに記載のリボン型センサー。
8.1.~7.のいずれかに記載されたリボン型センサーを用いたことを特徴とする漏水センサー。
9.1.~7.のいずれかに記載されたリボン型センサーに、蓄電素子と昇圧回路と発信素子を備えたICタグを取り付けたことを特徴とする自己発信型センサー。
10.1.~7.のいずれかに記載されたリボン型センサー、8.に記載された漏水センサー、又は9.に記載された自己発信型センサーと、リボン型センサーが発する信号の到達範囲内に設置された中継器と、該中継器の信号を受信するように設定された受信機を備えたことを特徴とする検知システム。
さらに、これらの自己発信型センサーを利用して、建物などの検知システムを構成することができる。例えば、(11)漏水を検知することを特徴とする10.記載の検知システム。(12)リボン型センサーが、建造物の漏水危険箇所に配置されている(11)に記載の検知システムであることを特徴とする建造物の漏水検知システム。
【発明の効果】
【0006】
1.本発明は、絶縁性の繊維製のリボンに異種金属線が長手方向に組み込まれた無給電型のセンサーを実現した。異種金属線が水に触れると、電位差が生じて、ボルタ電池の原理と同様に電気が生ずるので、その電気を利用して、センサー機能とする。本発明は、金属線として細い金属線や金属繊維を使用しているので、繊維製のリボンのように扱うことができる。無給電なので、近くに電源が無くても利用でき、また、漏電などの心配が無く、メンテナンス負担も少ない。リボン型センサーは長さを調整することができるので目地部分や配管など長い区間をカバーすることができる。
異種金属線の本数を増やすことにより起電力を増加することができる。
異種金属は、イオン化傾向に差がある金属を選択することができ、例えば、亜鉛と銀を組み合わせる。金属は、単体のほか、繊維に蒸着やコーティング等により金属表面に付着させた金属細線である。
絶縁性の繊維は、綿等の天然繊維や、ポリエチレンなどの合成繊維を用いることができる。
2.金属線を金属種別に結線して、端子部とし、ICタグなど発信機能を備えた器具との接続部とする。特に、リボンの表裏で異なる金属線の種類別に束ねることにより、絶縁性のリボンが間にあるのでショートする危険が減り現場の取扱が容易になる。端子部は接続用のプラグとしリボンの一端または両端に設ける。両端に設ける場合は、一方をオスプラグ、他方をメスプラグとする。両端にプラグを設けた場合、リボンを接続して延長できるので、各種の長さに対応できる。
3.このリボン型センサーは、水と接触すると自己発電するので、これを利用して漏水センサーなどに利用することができる。自己発電した電気を貯める蓄電素子と、その蓄電された電気を昇圧する昇圧回路と、その昇圧回路を介して発信する発信素子を備えたICタグを取り付けることにより、無電源で漏水したことを発信するセンサーを構成する。リボン型センサーが発電した電気量では直接発信素子を起動できないので、蓄電と昇圧を行う。
4.さらに、本発明のセンサーを建物などに組み込んだ漏水検知システムやおむつなどに適用することができる。
(1)この漏水センサーからの発信を、中継器を介して受信する受信機を監視センターなどに設置することにより漏水検知システムを構成することができ、ビルなどの建造物に漏水検知システムを配置することにより、漏水を容易に発見できるようになる。
雨水などが侵入して建物内で漏水しても水の侵入経路を特定することが困難である。外部から浸透した水は、通りやすい経路をたどって漏水箇所に到達するので、最初の侵入箇所を特定することは簡単ではない。本発明のリボン型センサーを目地部や天井部などの建物内に配置することにより、水を侵入箇所に近い箇所で検知することができ、漏水対策が容易になる。
本発明のリボン型センサーは自己発電するので、給電設備を必要としない。省エネの漏水検知システムを構築することができる。
また、吸水管、排水管などの管系に設置することにより漏水を早期に発見できる漏水検知システムを構築することができる。
(2)おむつやシーツなどにリボン型センサーを適用することにより、介護施設や保育園などの入居者の利便性が向上し、管理も容易になる。無給電なので、感電の恐れもなく安全である。頻繁に交換するリボン型センサーでは、ICタグに対してリボン部分を交換用とする。尿は、電解質が多いので発電力が大きくなり、感度も高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】リボン型センサーの基本構成図
図2】多列リボン型センサー構成図
図3】多列リボン型センサーの織り込み例
図4】織り組織図
図5】金属線組み込み部の織り組織図
図6】自己発信型センサーの例
図7】リボン型センサーの例
図8】タグ付きリボン型センサー
図9】漏水システム構成図
図10】漏水検知フロー図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、絶縁性の繊維製のリボンに異種金属線を長手方向に組み込んだ、リボン型の自己起電性のセンサーである。センサーが水に接触して起電した電気を検出するセンサーである。自己起電するので、給電する必要がなく、電源の無い箇所、電源を設けたくない箇所に適している。
本発明は、リボン型のセンサーに蓄電素子と発信器を備えたICタグを取り付けて、信号を発信する自己発信型のセンサーである。発信された信号は、中継器などを経由して、管理センターなどで受信する検知システムを構成する。
また、本発明は、リボン型センサーあるいは自己発信型センサーを建造物や介護施設の各所に設置して、中央監視センターや保守員が管理できるようにした検知システムに適用することができる。
【0009】
<リボン型センサー>
イオン化傾向の異なる異種の金属線を平行に配置してリボン状にした自己起電性のリボン型センサーを構成する。イオン化傾向の異なる金属が水などに触れると起電力が発生する現象を利用した発明である。リボン状に長く形成されたセンサーであるので、建築物の屋根下や配管経路が長い物体に沿わせて用いることができる。また、外部電源やバッテリーなどが必要ないので人体に使用した場合、制約や違和感が少なく、自由度が大きく安全である。
リボン型センサーは、図1図2に示す形態の例がある。
図1は、A金属線2aとB金属線2bを別々に繊維製中空体31の内側に収納し、繊維製中空体同士の間に連結部32が形成されているリボン型センサー1である。
繊維はコットンや合成繊維などの絶縁性に優れた素材を用いる。繊維製中空体31は、完全な中空である必要がなく、A金属線2aとB金属線2bが接触しないように区分されるとともに、水が染み込んで両方の金属線2を濡らすことができる構造とする。
したがって、繊維製中空体は、チューブ状に編まれたあるいは織られた物、布をチューブ状に形成した物、編物、織物などで構成することができる。金属線を長さ方向に配置して、繊維で織り込むことや編み込みで形成することができる。
中空体は近接配置するように中間に連結部を設ける。連結部は、連続した織りや編み、あるいは縫製、融着などある。連結部を帯状に設けることもできるが、密着させた方が、異種金属線同士の距離が近いので、発電には適している。
金属繊維は、モノフィラメント、細いフィラメントを多数用いたマルチフィラメント、撚り線、繊維にメッキした金属繊維などを用いることができる。屈曲配線や断線のリスクが少ないマルチフィラメントやフィラメントを撚った撚り線が適している。
異種の金属線を用いたリボン型センサーは、柔軟性があり断線のリスクも小さく、全長に亘ってセンサー機能を発揮するので、長い距離全体に亘って監視する必要のあるセンサーとして有効である。
リボン型センサーは、長さに制限の無い長尺に形成することができる。また、何種類かの定尺長に形成して、組み合わせて使うことも可能である。
リボン型センサーの端部には金属線をまとめてプラグに納め、ICタグなどの検出部や計測部に接続する。プラグはオス、メスを設け、リボン型センサーの両端に配して、リボン型センサー同士を接続して長さを調整することができる。また、製品検査や設置性能試験をする場合、両端にプラグがあった場合、他端を電源に接触させると、通電試験ができるので、敷設作業にも適している。
【0010】
図2に多数の金属線を配置した多列リボン型センサー12を示す。
この図2(a)の例では、金属線として複数の亜鉛細線21(21a~21e)と銀細線22(樹脂繊維銀メッキ細線)(22a~22e)を交互に配置し、その両側に繊維のみの耳部35が形成された多列リボン型センサー12を示している。耳部は必ずしも必要ではない。金属繊維が組みこまれた部分が感知部33を構成している。図4(a)にこの織り組織図を示す。
2種類の金属の組合せを複数設けることにより、発生する電力量が多くなる。
耳部を設けてリボン型センサーを固定することができる。例えば、タッカーで留める際に耳部に打ち込むことで、金属線の断線、ショートを防ぐことができる。また、耳部があることで、水の吸水性、保水性が向上し、発電までの時間短縮と発電時間を長くすることができる。
図2(b)は、銀線22と亜鉛線21の間にPET繊維23を介在させた例である。図2(a)のタイプでは、異種金属線同士の距離が近いので、発電量は多くなる。図2(b)のタイプでは、(a)よりも金属線同士が遠くなる分発電量が抑えられるが、通常の絶縁性が高くなる。また、介在したPET繊維により、繊維量が増加し、保水力が向上し、漏水に伴う水分を長期間保水し、発電時間も長くなるので、発信に必要な電気容量を十分に確保できる。硬めの金属線を用いた場合、屈曲部で隣の金属線に接触してショートする恐れがあるので、繊維を中間に介在させると緩和できる。また、腐蝕しやすい金属を用いると、腐蝕による膨れやさび汁が隣接の金属に接触するおそれがあり、このような場合も、繊維を中間に介在させることでショート回避の安全性が向上する。
その他、亜鉛線を1本、銀線を5本などの異数組合せの多列リボン型センサーも試作して試験した。発電はできたので、利用可能性はあるが、発電量が少ない結果であった。
【0011】
<金属の種類>
金属は、2種類の金属間で電位差が生ずる組合せで用いられるので、電気配列順にしたがって選択することができる。
金属は、線状で、細線や繊維状が適しており、銀メッキなどのメッキ線も利用することができる。合成樹脂に銀やアルミニウムを蒸着することもできる。
例えば、組合せは、銀-亜鉛、銀-アルミニウム、銅-アルミニウム、亜鉛-ステンレス、等である。さらに、導電性である炭素系繊維と亜鉛あるいは銀の組み合わせも試験したが、金属同士の組み合わせよりも得られる起電力が小さかった。
金属は、金属そのものの他、基材の表面に所望の金属をコーティングやメッキなどの手段により付着させた物を用いることができる。例えば、基材を繊維としメッキコーティングして使用することができる。メッキコーティングした繊維は腰がなく、柔軟でリボンに馴染みやすい。 蒸着等でコーティングできる金属は、アルミニウム、銀、銅、クロム、錫、ニッケル、亜鉛などがある。
例えば、銀線は、ナイロン6.6繊維に銀をメッキコーティングした繊維を使用することができる。ナイロンの持つ物理的な特性と銀が持つ特性を併せ持つという特色があり、しなやかで折り曲げに強く、引っ張り強度が高いので、破断し難い。
金属はリボン状の長手方向に連続した線材として用いられる。線材の太さは、特にこだわるものではないが、湾曲部に使用される場合もあるので、細い線が適している。また、金属線は、リボンを形成する繊維に織りや編みとともに用いられる形状としても、細い方がなじみが良い。金属線は一列に複数本をまとめて使用する形態が主であるが、1本でも可である。
金属線は、単独線あるいは撚線として用いることができる。撚線にすることによって、破断耐性が向上するとともに、撚りの分金属面積が増えて発電量も増加する。
【0012】
<繊維の種類>
リボンを形成する基材に使用する繊維は、非導電性であり、水に接触した場合、透水性、保水性のある繊維を使用する。天然繊維や合成繊維は一般に非導電性である。繊維は、リボンを形成する基材であり、2種類の金属が接触しないように分離する機能と、水に接触したときに2種類の金属が水に接触する状況を保つ機能を有する。密度にもよるが、疎水性や撥水性が高い繊維は相応しくない。両金属間で電子が移動できるように繊維が濡れている状態を保持することも重要であるので、親水性、保水性も重要な要素である。
具体的な繊維は、例えば、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられ、複数種類の繊維素材を混繊したものでもよい。また、伸縮性を付与するためにポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム及び合成ゴム系弾性繊維等を組み合わせてもよい。非導電性であれば、公知の繊維から任意に選定できる。
適している繊維は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
これらの繊維は、単繊維を束にして使用することも撚り線として使用することもできる。
これらの繊維を織り手段や編み手段によりリボン状に形成する。リボンを形成するときに長手方向に金属細線を取り込んで、リボン型センサーを形成する。例えば、経糸に金属細線と繊維線を用い、緯糸に繊維線を用いて織り込むことでリボン型センサーを形成することができる。
【0013】
<リボン型センサーの織り込み構成例>
金属線をリボンに組み込む織りは、基本的には、経糸の一部に金属細線を用いることで作成することができる。単純に経糸と緯糸を交差した織り込み手段から、金属細線の周囲を包囲するように織り込むなど、各種の織り手段を用いることができる。なお、「金属」としての属性を利用するものについては、単に「金属線」と表現している。
金属線をリボンの表裏に端子用に露出させる方法は、金属線を織り込まない部分を設けることにより作成することができる。そして、金属線露出部及び露出長は、適宜の間隔で作成することができる。したがって、金属線の露出部を1mピッチや50cmピッチなど任意に設定できる。必要な長さにカットして長さを調整することができる。金属の種別にリボンの表裏に露出するので、両金属は接触せず絶縁を保つことができる。なお、リボンの中間に金属線を露出した状態で使用する場合は、周囲の金属に接触することを防止するために絶縁テープなどで被覆することが好ましい。図4(b)にリボンの途中に金属線を露出させた例を示す。この例では、銀線が表面側に露出し、亜鉛線が裏面側に露出している。
図4(a)に織り組織図の例、図4(b)にリボンの途中に金属線が露出した例を模式的に示している。さらに、図5(a)に、図4(a)の金属線組み込み部の織り組織図の拡大図と、図5(b)に多列リボン型センサーの構造を模式的に示し、図5(c)に織りの状態を拡大して模示的に示す。このような織りによって、芯部分に金属線が位置しており、亜鉛線と銀線は独立した筒によって囲まれた状態となり、短絡が防止されている。また、経糸緯糸によって金属繊維が包囲された状態と表裏に金属線が露出する部分を織り分けることができる。
織物は、経糸に対し、直交する方向に緯糸を通す。図4(a)に示す織り組織図の例では、緯糸に対して経糸は上か下の位置を取り、このパターンが緯糸を通すたびに異なることを「×」印などで表している。この図の生地の織り組織は、×印をPet糸、印をZn線、△印をAg線で示し、印の入っている箇所が緯糸に対して上がっている状態であり、空白の箇所が緯糸に対して下がっている状態である。
【0014】
<基礎試験1>
図1に示す2本タイプのリボン型センサーを用いた試験体(a)(b)(c)を試作した。(a)綿繊維、亜鉛線、ステンレス線、(b)綿繊維、亜鉛線、銀線(銀コーティングナイロン繊維)、(c)PET繊維、亜鉛線、銀線の3種類を試験体として、吸水性と発電力を試験した。
試験体(a)(b)は発電したが、試験体(c)の方が吸水性と発電量が大きかった。したがって、PET繊維、亜鉛線、銀線の組合せを採用する。
【0015】
<基礎試験2>
多列リボン型センサーにおける繊維の使用形態について試作して、屈曲性などの使用性について試験した。
試験体(c)(図3)は、緯糸としてPET繊維、経糸として、銀線と亜鉛線の間にPET繊維を配置して織り込んだ試験体である。
試験体(d)(図2)は、銀線と亜鉛線をPET繊維が包囲するように配置した試験体である。
試験体(c)(d)は、吸水性、発電量は良好であるが、試験体(c)は屈曲を強くすると亜鉛線の飛び出しが発生し、さらに屈曲が強くなると断線する事例があった。試験体(d)は、飛び出し、断線とも観察されなかった。試験体(d)は、曲げ耐性などに強く使用性にすぐれている。
試験体(c)の構成は、直線状の使用に適しており、カーブやコーナーがあるような場所には試験体(d)の構成が適している。
【0016】
<自己発信型センサー>
リボン型センサーから引き出された金属線を束ねてプラグなどの接続部を設け、ICタグに取り付けて、自己発信型のセンサーを構成する。
ICタグは、発信器毎に識別できるコードを付与する。識別コードによって、センサーの設置箇所が特定できる。
ICタグとリボン型センサーは着脱自在として、日常的に使用する場合は、リボン型センサー部を交換して使用することができる。建造物などでは、長期間取り付けていることになるので、交換する必要は殆どない。
図6にICタグ付きリボン型センサー5の例を示す。リボン型センサー1の先端にICタグ4を取り付けた構成である。ICタグ4には、リボン型センサー1から送られている電気を蓄電する蓄電素子41と昇圧回路42と発信素子43を備えている。蓄電素子41に電気が一定定量貯まったら昇圧回路で発信素子が起動する電圧に昇圧して発信素子43に通電し、発信素子43から信号が発信されることとなる。信号は、発信素子43からの信号を受信できる距離に設けられている中継器が受信する。現状の機器構成では、ICタグからの受信距離は10m程度となっている。これは、機器の性能によるので、発信に必要な電気量、受信距離も今後向上する。
リボン型センサーの起電力は小さく、そのままでは発信素子を起動できないので、蓄電し昇圧する。蓄電するための時間が必要なので、発信される信号は断続する。リボン型センサーは、亜鉛が溶出する間は電気を発生するので、電気が発生する時間中、ICタグは蓄電と発信を断続的に行うこととなる。本試験では、亜鉛線として亜鉛メッキのスチール線を用いたので、表面の亜鉛が溶出した後、鉄がイオン化して溶け出し、1週間の間断続した信号を確認できた。
【0017】
<ICタグを構成する機器について>
ICタグの素子構成は、異種金属線により起電された電気が、コンデンサなどの蓄電素子41に蓄えられ、容量以上の電気がたまると、放電され昇圧回路42を経由して発信素子43に入り、発信する構造である。
具体的な回路構成は、図6(b)に例示される。この回路は共同出願人の一人が開発
し、特開2018-85888号公報図1に開示したものである。本発明のリボン型センサーが発電素子に相当し、負荷が発信素子に相当する。そして、発信素子として、BLE(Bluetooth Low Energy)(Bluetoothは登録商標)方式などを利用する。昇圧電力でBLE方式の無線TAGが駆動され電波が発信され、現状ではBLE方式の無線TAGの通信距離は10m程度である。
【0018】
<検知システム>
漏水検知システムは、建造物の目地などに設置された自己発信型センサーと自己発信型センサーが発する信号の受信範囲内に設置した給電型中継器と、中継器からの信号をインターネットやクラウドなどの通信システムを利用して、ビルの管理システムあるいは施設管理者の携帯やモバイルPCなどに通知するシステムである。
ビル管理システムや施設管理者は、漏水を感知したリボン型センサーによって、漏水箇所が特定できるので、速やかに現場確認やメンテナンスの専門家を手配するなど、緊急対応をする。
リボン型センサーを、漏水の危険がある箇所に沿って設置することができる。
建造物では、屋根や屋上からの漏水、外壁面の目地部からの漏水、開口枠の接続部からの漏水、地下壁面からの漏水、上水や下水の配管からの漏水などの危険がある。配水管では分岐や継ぎ目、メーター回り、台所、バス、トイレ、洗濯排水口など注意箇所がある。漏水に気づかないでいると、被害が拡大し、直接の修繕のほか、住人等利用者の事業や生活に大きな影響を及ぼすので、早期に原因を発見し、措置を講じることが重要である。
また、トンネルなどの地下施設などでは、地盤からの漏水を検知するセンサーに利用することができる。貯水槽や液体貯蔵施設、食品工場などの給排水設備などにも利用することができる。
以上建造物に関して説明したが、これらに限らず、一般的に吸水現象を検知するセンサーに利用することができる。リボン型センサーは吸水して信号を発生するセンサーである。リボン型センサーを対象物の長手方向に設置して使用することができ、ライン状に検知できる。リボン型センサーを平行に設置することにより面として検知することもでき、検知信号を発する順によって、濡れていく方向性も把握することができる。さらに、リボン型センサーを格子状に設置することにより、座標的に濡れた箇所を特定することができる。配管等の円筒や柱状の物体に巻いて使用することもできる。
例えば、介護用のシーツそのものに適用するか、介護用ベッドのシーツの下に敷設すると、おもらしなどを検知することができる。さらに、介護用おむつに張り付けることもできる。赤ちゃん用のおむつにも適用することができる。それによって、おむつ交換のタイミングを知ることができ、ケア職員や保母さんの労力を軽減することができる。
【実施例1】
【0019】
<リボン型センサー>
図7に示される実施例1の多列リボン型センサー12は、亜鉛線7列と銀線(銀コーティングナイロン繊維)7列を縦方向に配列した構成とした。リボンの基本構成は経糸、緯糸にPET繊維を用いている。
多列リボン型センサー12は、リボンの途中から金属線が引き出されており、金属線が埋設されている部分が感知部12aとなり、金属線が埋設されていない部分が引き出された金属線が接触しないように介在する絶縁部12bとなる。引き出された金属線は撚り合わされて一本にまとめられ、保護チューブを取り付けて、先端にプラグ14を取り付けてある。
図7(a)は多列リボン型センサーの亜鉛線が露出した一面を示している。露出した亜鉛線をまとめて亜鉛線露出部21aとし、まとめた亜鉛線に保護チューブを被せて亜鉛ライン13aとし、プラグ14にまとめている。 図7(b)は多列リボン型センサーの銀線が露出した他面を示している。露出した銀線をまとめて銀線露出部22aとし、まとめた銀線に保護チューブを被せて銀線ライン13bとし、プラグ14にまとめている。
亜鉛線は、スチールに亜鉛メッキ処理した単線4本を撚って一列に配置してあり、銀線は銀コーティングしたマルチフィラメント8本を撚線にしてある。それをPET繊維で織り込み14mm幅のリボンに仕上げている。亜鉛線と銀線はPET繊維に囲まれた状態になっており、それぞれの金属線は表面に露出していない。
端部側で亜鉛線と銀線がリボンの表裏別に露出しており、まとめてプラグを取り付けた。プラグはICタグに接続するための端子となる。リボン端部は亜鉛線と銀線の間にあって、両者が接触することを防止する絶縁層となっている。
このリボン型センサーは、柔軟性があるPET繊維に包囲されており、金属線の断線耐性が良く、断線が発生しにくい。建物などに敷設する場合になじみが良く、障害が発生しがたく、誤動作が少ない。
【実施例2】
【0020】
<自己発信型センサー>
実施例1記載のリボン型センサーにICタグを取り付けた自己発信型のリボン型センサーを作成して、リボン部分に水滴を垂らして起電力試験と発信試験を行った。ICタグの素子構成は、図6に示したものを用いた。
試験は図8(a)に示すセンサーの原型モデルによって行った。リボン型センサー1の両端側に銀線22を引き出した銀電極と亜鉛線21を引き出した亜鉛電極にICタグ4を接続した。さらに、起電力測定用のテスターに接続した。
リボン型センサーの中央付近に水滴101を垂らした結果、起電による電圧が計測された。水滴101の滴下した水の量は0.1mL~0.2mLである。水道水を滴下後、電圧が徐々に昇圧し0.7V前後に達しICタグより信号が発信されるまでの経過時間を測定した。
ICタグ4から5分45秒で発信され、中継器のゲートウェイを経由して携帯端末及びPCで受信することができた。
その後6分弱の間隔で発信が断続的に続き、濡れている間は発信が継続することが確認できた。
建物など漏水において、5、6分で通報されることは、十分実用的である。
【0021】
そのほかいくつかの構成で試験を行った、例えば亜鉛線1本と銀線8本の組合せでは、発信時間が5分40秒、亜鉛線6本と銀線5本などの組合せでは2分25秒であった。いずれも、続けて発信が行われた。また、図2(b)に示す金属細線間にPET繊維を介在させるタイプであって、亜鉛線5本、銀線5本の組合せのリボン型センサーでは、発信まで5分15秒であった。亜鉛線と銀線の間隔が開いた分若干長くなったが、実用性は十分である。
用途に応じて金属細線の本数の組合せや絶縁間隔などを調整して、使用することができる。
図8(b)に開発したICタグ付きリボン型センサーと中継機の例を示す。現状では、ICタグの大きさは2~3cm×4~6cm程度(ほぼ名刺の半分)、リボン部分は、厚さ0.3mm程度にすることができた。この例では、リボンの幅は13mmであるが、金属細線の本数などにより任意に設定できる。
【0022】
<漏水検知システム適用例>
適用例として、図9に漏水検知システム構成の概念を示す。
ICタグ付きリボン型センサー5(51a・・・51n)を建造物の漏水危険性のある箇所に設置し、ICタグ付きリボン型センサー5の通信範囲(例えば10m以内)に中継器となるゲートウェイ6を設置し、このゲートウェイ6には、電力を供給し、クラウド71などのインターネットが利用できるようにする。クラウド71などのシステムを活用して、施設の中央監視システム73、警備担当の職員のスマートフォン72aやモバイル72b等の携帯端末72に漏水情報を伝達するシステムである。ICタグ4、4、4・・・には、固有識別の符号が設けられている。
ICタグ付きリボン型センサー51a~51nは、自己起電力に基づいて自己発信するので、無給電となり、センサー設置に伴う配電設備が不要となり、センサーを建造物内に配置する自由度が向上し、漏電事故などの電気系統のトラブルの危険がなくなる。ゲートウェイ6は、給電する必要があるが、既存の電源設備が使用可能で、アクセスしやすい箇所に設置でき、メンテナンスも容易になる。
この漏水検知システムは、キッチン、バス、トイレ、炊事場などの住戸内、縦排水管、縦浄水管、引き込み管などの配管系統、屋上防水、ドレン排水管の下部、屋根部、窓などの開口部周囲など、漏水の危険が高いところに設置することができる。処分場の遮水シートの破れ検知センサーなど屋外でも使用することができる。
例えば、電車管理施設の電気室が漏水によって浸水すると、各種の設備が停止し、電車が止まるなど社会活動に大きな影響が出る。したがって、駅設備などで浸水危険箇所などに設置する。
また、地下室、地下道、トンネル、地下駅舎など、業務系の施設に設置することができる。例えば、排水溝の天場付近や外面に取り付けて溢水危険感知や溢水感知を行う。
【0023】
図10に漏水検知フローを示す。
漏水箇所に設置されているICタグ付きリボン型センサーが濡れると(S110)、センサーの自己起電力により微弱電流が発生し(S120)、ICタグの蓄電素子に蓄えられ(S130)、昇圧し(S140)、電気容量が一定を越えるとICタグの発信素子に通電して、信号が発信され(S150)、信号が中継器に受信されて、中継器からさらに信号が発信され(S160)、クラウドなどを通して監視センターに通報される(S170)こととなる。
したがって、この漏水検知システムによって、漏水が発生してICタグ付きリボン型センサーが濡れると、自己起電力が生じ、微弱電流が流れてICタグ内の蓄電素子に蓄えられ、蓄電に伴い昇圧して発信素子に電流が流れて発信し、中継器のゲートウェイが信号を受信して、クラウドに通知し、監視センターへ漏水信号が伝達されることとなる。監視センターでは、どのICタグの識別符号かによって、漏水場所を特定することができる。リボン型センサーの敷設長の範囲で、さらに調査することにより、詳細な漏水箇所を判明することができ、漏水事故が大きくならないうちに、早期に対策することができるようになる。
【符号の説明】
【0024】
1 リボン型センサー
11 並列リボン型センサー
12 多列リボン型センサー
12a 感知部
12b 絶縁部
13 取り出しライン
13a Znライン
13b Agライン
14 プラグ
2 金属線
2a A金属線
2b B金属線
21(21a~21e) A金属線(Zn)
21a 亜鉛線露出部
22(22a~22e) B金属線(Ag)
22a 銀線露出部
23 PET繊維
31 繊維製中空体
32 連結部
33 感知部
34 横糸(繊維)
35 耳部
4 ICタグ
41 蓄電素子
42 昇圧回路
43 発信素子
5 ICタグ付きリボン型センサー
51a、51b、51c、51n ICタグ付きリボン型センサー
6 ゲートウェイ
7 漏水検知システム構成図
71 クラウド
72 携帯端末
72a スマートフォン
72b モバイル
73 中央監視システム
101 水滴
230 建造物等
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10