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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】親水化表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20221102BHJP
   A61C 13/01 20060101ALI20221102BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
A61K6/30
A61C13/01
C09K3/00 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019101174
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020193299
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(72)【発明者】
【氏名】坂田英武
(72)【発明者】
【氏名】平田広一郎
(72)【発明者】
【氏名】相澤将之
(72)【発明者】
【氏名】洪 光
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓一
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/121539(WO,A1)
【文献】特開2018-076495(JP,A)
【文献】特開2015-004032(JP,A)
【文献】特開2016-153470(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199925(WO,A1)
【文献】特開2016-193876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00-3/32
A61K 6/00-6/90
A61C 5/20-13/38
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタ)アクリレート系樹脂製義歯床の表面を親水化処理するための親水化処理剤であって、
水又は水を含む溶媒に、セルロースナノファイバーが分散してなり、前記親水化処理剤中における前記セルロースナノファイバーの含有量が0.02~0.5wt%である、
ことを特徴とする前記親水化処理剤。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維幅3nm以上、200nm以下であり、且つ平均繊維長が0.1μm以上、5.0μm以下である、請求項1に記載の親水化処理剤。
【請求項3】
ポリ(メタ)アクリレート系樹脂製義歯床を有する義歯を請求項1又は2に記載の親水化処理剤に浸漬する工程を含んでなる、前記義歯の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製義歯床等の表面の親水度を向上させる親水化表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
欠損した歯の代わりに毎日装着し、咀嚼を行うために用いられる義歯は長期間に渡って使用できるように耐久性が求められ、特に口腔内での使用に耐えうるように耐水性に優れているという特徴が求められる。そのため、義歯床材料には、アクリルレジン、ポリカーボネートレジン、ポリアミドレジンなどの高強度で疎水的な樹脂材料が用いられている。
【0003】
また、義歯に求められるもうひとつの特徴として、装着したときの安定感が挙げられる。口腔内での長時間使用を可能にするために、義歯床部分には疎水的な材料が用いられている一方で、義歯床部分が接触する口腔粘膜は親水的な性質を有している。そのため、義歯床材料と口腔粘膜は親疎水性の観点から相反する性質を有しており、義歯の安定した装着感が不十分であるといった課題がある。すなわち、使用者にとってより安定した装着感を与えるためには、義歯床材料の表面は親水的である方が好ましい。
【0004】
一方、不適合義歯を暫定的に口蓋粘膜に固定するために義歯と口腔粘膜の間に介在させて使用する所謂義歯安定剤においては、グリセリン、ソルビット、ポリエチレングリコールなどの粘稠剤にセリンを配合したり、カルボキシメチルセルロース等の水溶性の高分子化合物を配合して、これに唾液などの水分を吸収させて粘着力を持たせたりして、義歯と口腔粘膜の安定性を高める技術が採用されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-1999723号公報
【文献】特開2007-254287号公報
【文献】特開2007-051266号公報
【文献】特許5836361号公報
【文献】特開2017-205683号公報
【文献】特開2005-270891号公報
【文献】特開2015-142900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1及び2に記載されている義歯安定剤は、主に不適合義歯に対して暫定的に使用することが推奨されるものである。すなわち、義歯は、本来、残った歯や歯茎、顎の骨の状態などに厳密に合わせて作成されるものであり、安定剤を用いて不適合な義歯を長期間使用し続けた場合には、その不適切な使用方法によっては均等に力が加わらずに顎堤の吸収が進み、義歯の適合がさらに悪化してしまう。また、成分が粘着性を有することが多く、口中や義歯に取り残しの安定剤がこびりついてしまうケースも報告されている。
【0007】
このように、義歯安定剤は、基本的には適合義歯を対象とするものではなく、その使用にも注意が必要であり、適合義歯に対して簡単に適用して、その義歯床粘膜面を親水化することができ、汚れなどの粘着成分を使用しない処理剤は、本発明者等の知る限りにおいては存在しない。
【0008】
そこで、本発明は、疎水性表面を有する物品の当該疎水性表面を親水化するための親水化処理剤であって、汚れなどの粘着成分を含まず且つ簡単に使用できる親水化処理剤提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は検討を重ねた結果、樹脂など繊維強化等に使用されるセルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略記することもある。)を水系の分散媒中に懸濁させた縣濁液に義歯を浸漬した場合には、義歯床表面の親水度が高まり、義歯床表面と口腔粘膜との親和性も高まることがることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、第一の本発明は、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂製義歯床の表面を親水化処理するための親水化処理剤であって、水又は水を含む溶媒に、セルロースナノファイバーが分散してなり、前記親水化処理剤中における前記セルロースナノファイバーの含有量が0.02~0.5wt%である、ことを特徴とする前記親水化処理剤である。

【0011】
上記親水化処理剤においては、セルロースナノファイバーの平均繊維幅3nm以上、200nm以下であり、且つ平均繊維長が0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。また、セルロースナノファイバーの含有量が0.05wt%~0.20wt%であることが好ましく、更に、樹脂製義歯床の表面を親水化処理するための親水化処理剤であることが好ましい。
【0012】
また、第二本発明は、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂製義歯床を有する義歯を前記親水化処理剤に浸漬する工程を含んでなる、前記義歯の処理方法である。

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CNF懸濁液に義歯を浸漬するという簡単な操作で、義歯床表面等の疎水性表面の親水度を高めることができる。たとえば、水に対する接触角が94°である表面を、水に対する接触角が77°~80°である表面とすることができる。そして、本発明の親水化処理剤で処理された義歯は、義歯床面膜面の表面が親水的に変化しているため、口腔粘膜との親和性が高まり、口腔粘膜と義歯の密着性が向上して安定した装着感を得ることができる。
【0014】
本発明の親水化処理剤は、これに被処理物を浸漬するという簡単な操作で表面の親水性を高めることができる。また、粘稠剤や水溶性高分子などの粘着成分を含まないので、適合義歯にも適用でき、さらに粘着成分が口腔内や義歯表面に残ることもないし、当該成分に汚れが付着することもなく、衛生的である。さらに、このような粘着成分を含まないにもかかわらず、有効成分であるCNFは、比較的安定に被処理面上に保持され、たとえば数回程度水洗を行ってもその効果を持続することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の親水化処理剤は、水又は水を含む溶媒に、平均繊維幅3nm以上、200nm以下であり、且つ平均繊維長が0.1μm以上、5.0μm以下であるセルロースナノファイバー(CNF)が分散してなる。ここでCNFは、特許文献3及び4に記載されているように樹脂の繊維強化に使用される強化材として知られたものであるが、表面の新化処理剤として使用された例は、本発明者等が知る限りにおいて、知られていない。
【0016】
すなわち、CNFは軽量且つ高強度な材料として知られており、所謂繊維強化樹脂における繊維強化材として注目されているばかりでなく、自体を構造材料とすることに関しても研究・開発が進められている。ところが、CNFは、その親水性に起因して、樹脂となじみ難く、樹脂と混合した場合には、凝集してしまい所期の効果を得ることが難しいという課題がある。そのため、CNFを繊維強化材として使用する場合には、特許文献4に記載されているようにCNFのセルロースユニット内に存在する水酸基を疎水化するなどの工夫が必要であった。本発明者等は、CNFが本来有する親水性を欠点として捉えるのではなく、これを積極的に活用しようとして、表面親水化処理剤としての用途を着想し、検討を行った結果、上記したような効果が得られることを確認し、本発明を成すに至ったものである。なお、CNFが親水性を有るにもかかわらず、疎水性の樹脂表面に比較的安定に保持されるのは、ファンデルワールス力、極性引力、水素結合等の分子間力によるものと考えられる。たとえばCNF凝集するときセルロース分子内の疎水的な部分の密度が高い領域が発生する等によって、被処理体の疎水性表面とCNF凝集体との間のファンデルワールス力が高まり、簡単な水洗では流されないような保持力が発生したものと推定している。

【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0018】
本発明の親水化処理剤に用いられるCNFとしては、特に限定されず、工業的又は試薬等として入手可能なものが使用できる。義歯床表面と口腔粘膜との間の吸着性及びCNF解繊に要するコストや手間の観点から、平均繊維幅が3~200nm、平均繊維長が0.1~5.0μmで有るもの、更に、平均繊維幅が3nm~80nm、特に5nm~50nmであるものを使用することがよりましい。また、CNF繊維自体の剛直性や強度の観点から、結晶化度が50%以上のものを使用することがより好ましい。このようなCNFは、例えばセルロースを高圧水流によって解繊することで形成される。平均繊維幅、平均繊維長については、電子顕微鏡等を用いて測定することができる。

【0019】
このようなCNFはパルプをナノサイズまで解繊することで得られる。パルプの解繊方法としては公知のものであれば特に制限されず、例えば、TEMPO酸化法、酵素加水分解法、イオン選択液体溶解法などの化学的処理、水中対向衝突法、水圧貫通微細化法、高圧ホモジナイザー法、マイクロフルイダイザ―法、グラインダー法、2軸混錬法、ボールミル粉砕法、などの機械的処理が挙げられる。また、これらの方法を組み合わせて解繊してもよい。たとえば、特許文献5に記載されている水中対向衝突処理法、特許文献6に記載されている多糖類の湿式粉砕化法、特許文献7に記載されているナノ微細化品製造方法等によって、0.5~10質量%の水に懸濁させたセルロース繊維に対し50~400MPa程度の高圧水を衝突させる方法等が好適に採用できる。
【0020】
CNFの原料パルプは、公知のものであれば特に限定されず、任意の材料を用いることができる。例えば、リンターパルプ、ぼろパルプ、竹パルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、麻パルプ、わらパルプ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプが挙げられ、これらの原料は一種を単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。原料パルプとしてはα-セルロース含有率60%~99wt%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60wt%以上の純度であれば繊維幅及び繊維長が調整しやすくなって繊維同士の絡み合いを抑えることができ、α-セルロース含有率60wt%未満のものを用いた場合に比べ、着色抑制効果が良好である。
【0021】
本発明で使用するCNFは、本発明の効果を損なわない範囲で、表面の水酸基の少なくとも一部が他の官能基に置換されていてもよい。CNF表面上に水酸基の代わりに置換される官能基としては、化学的に水酸基と反応し導入されうる官能基であれば任意の官能基を導入することが可能であるが、義歯床表面への親水性を効果的に付与するためには、導入された官能基の親水性が高い方が好ましく、誘電率が5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。このような官能基を例示すると、カルボキシル基、リン酸基等を挙げることができる。
【0022】
本発明の親水化処理剤においてCNFの分散媒は、CFNが均一に分散するという観点から、水又は水を含む溶媒を用いる。水を含む溶媒は、水と水溶性有機溶媒の混合液であることが好ましく、水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が好適に使用でき、中でもアルコール類が最も好ましい。
【0023】
本発明の親水化処理剤中のCNF含有量は、CNFの過剰使用を防止して有効量のCNFを効率よく義歯に付着させ、且つ取り扱いやすいという理由から、0.001wt%以上、3.0%以下とすることが好ましく、0.01wt%~1.0wt%、特に0.02wt%~0.5wt%とすることがさらに好ましく、0.03wt~0.3wt%とすることが最も好ましい。
【0024】
なお、本発明の親水化処理剤は、前記したような理由から粘着成分となるような物質を含まないものであることが好ましいが、本発明の硬化を損なわない範囲の少量であれば他の保湿成分を含んでいても良い。このような保湿成分としては、グリセリン、ブチレングリコール等の多価アルコール、ポリエチレングリコールなどの保湿性を有するポリマー等を挙げることができる。
【0025】
本発明の親水化処理剤の処理対象となる物品(被処理物品)は、疎水性表面を有する物品で有れば特に限定されない。ここで、疎水性表面とは、水との接触角が90°以上となるような表面を意味し、通常、合成樹脂からなる表面がこれに該当する。被処理物品としてはこのような疎水性表面を有し、当該表面に親水性を付与したいものが適宜使用されるが、親水化による効果の観点から樹脂製の義歯床を有する義歯であることが好ましい。義歯の義歯床部分に用いられる樹脂材料を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートの単独重合体もしくはこれらの共重合体から少なくとも一つ選ばれるポリ(メタ)アクリレート系樹脂、並びにポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン66(商標登録))、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリカーボネート)、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリアセタール、ポリサルフォン)、ポリニトリル系樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル)、ポリビニル系樹脂(例えば、ポリ酢酸ビニル)、セルロース系樹脂(例えば、酢酸セルロース)、フッ素系樹脂(例えば、ポリクロルフルオロエチレン)、イミド系樹脂(例えば、芳香族ポリイミド)等を挙げることができる。義歯床は、裏層材修復されたたものであっても良く、裏層材に用いられる樹脂成分としては、シリコーン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
【0026】
本発明の親水化処理剤を用いて被処理物品を処理するには、前記疎水性表面と本発明の親水化処理剤を接触させて分散媒(水又は水を含む溶媒)を除去ればよい。疎水性表面と親水化処理剤とを接触させると、分散媒中に分散しているCNFが疎水性表面に収着し、ファンデルワールス力等の分子間力によって分散媒を除去しても、分散媒と共に流されることなく、有効量のCNFが疎水性表面に保持される。接触方法及び接触時間等の接触条件は、被処理物品等に応じて適宜決定すればよいが、被処理物品が義歯である場合には、義歯を本発明の親水化処理剤に浸漬することが好ましい。浸漬時間は長時間浸漬する方がより安定的に義歯床表面へCNFが付着するため、より効果的に義歯表面へ親水性の付与効果を得るためには、3時間以上の浸漬が好ましく、5時間以上の浸漬がより好ましく、12時間以上の浸漬がさらに好ましい。
【0027】
また、付着したCNFは分子間力でのみで付着していると考えられることから、義歯の機械的清掃時には脱離してしまう(除去されてしまう)ため、処理(義歯を浸漬する)頻度としては、1週間に1回以上、特に3日に1回以上浸漬することが好ましく、1日に1回以上浸漬することがさらに好ましい。さらに処理後に義歯表面を水洗してもよいが、CNFをより多く付着させた状態を保ち、効果を最大限に発現させるためには、水洗をしないでそのまま義歯を用いることが好ましい。
【実施例
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に特に限定されるものではない。
【0029】
(義歯床の作製)
熱硬化性アクリル樹脂義歯床(アクロン、GC社製)を添付文書およびISO20795-1記載の方法で直方体(64.0×10.0×3.3mm)になるように硬化させた。得られた硬化体の両面を♯600、♯800、♯1000、♯1200のエメリー研磨紙で研磨した。硬化体を15秒間水洗した後に、室温下(23±2℃)、蒸留水に24時間浸漬した。
【0030】
(CNFの製造方法)
CNFは、竹由来のパルプを原料として用い、特許文献5(特開2017-205683号公報)に記載の水中対向衝突処理法によって製造した。
水中対向衝突法は、水に懸濁させたセルロース繊維をチャンバー内で相対する二つのノズルに導入し、高圧下でこれらノズルから噴射して、対向衝突させることで、多糖の表面をナノフィブリル化させて引き剥がし、キャリアーである水に対し最終的には溶解に近い状態に至らせることができる。この手法では、繊維間の相互作用のみを解裂させることにより微細化を行うためセルロース分子の構造変化がなく、解裂に伴う重合度の低下を最小限にした状態でセルロースナノ繊維を得ることができる。
【0031】
(CNF懸濁液への浸漬)
1.34wt%のセルロースナノファイバー水分散液を蒸留水で希釈することで、0.05wt%、0.10wt%、0.20wt%のCNF懸濁液を調製した。義歯床作製の項で作成した直方体の義歯床片を23±2℃の条件下でそれぞれの濃度のCNF懸濁液に1週間浸漬した後に、CNF懸濁液から取り出して、蒸留水で洗浄する操作を行った。義歯床片をCNF懸濁液に浸漬してから蒸留水で洗浄するまでの操作を1サイクルとして、このサイクルを繰り返した。4サイクル終了後(通算浸漬日数28日)、8サイクル終了後(通算浸漬日数56日)のサンプルについて、接触角を測定した。結果を表1に示す。なお、表1には、参照として、CNF浸漬液に浸漬していない義歯床片の表面の接触角を、初期の接触角として示している。また、試験は、それぞれの濃度に試験片を7つの試験片を用意して(n=7で)行い、表にはその平均値を記載した。
【0032】
(繊維幅測定)
CNFの平均繊維幅は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察することで、測定することができる。ランダムに選んだ20本以上の平均値を平均繊維幅とした。繊維幅測定の結果、本実施例に用いたCNFの平均幅は12nmであった。
【0033】
(重合度測定)
CNF懸濁液のCNF試料固形分0.15gを30mlの0.5M銅エチレンジアミン溶液になるように溶解し、キャノンフェンスケ動粘度管を用いて、25℃で保温した後に、流下時間を測定することで粘度の測定を行った。このCNF銅エチレンジアミン溶液の粘度をη、0.5M銅エチレンジアミン溶液の粘度をη0として、次の計算式により重合度を算出した。なお、n=3で試験を行った平均値を平均重合度とした。
極限粘度[η]=(η/η0)/{c(1+A×η/η0)}(ただしcは、粘度測定時の繊維状セルロース濃度(g/dL)、Aは溶液の種類による固有の値であり0.5Mの銅エチレンジアミン溶液の場合A=0.28)
重合度DP=[η]/aK (Kとaは高分子と用いている溶媒の種類によって決まる値であり、銅エチレンジアミンに溶解したセルロースの場合 K=5.7×10-3、a=1)
重合度測定の結果、本実施例のCNFは平均重合度700であった。
【0034】
(接触角測定)
CNF浸漬液から義歯床を取り出し、表面を乾燥させた。義歯床表面にオートピペットおよびゴニオメーターを用いて正確に2μLの水滴を滴下し、接触角を測定した。接触角の測定には、ポータブル接触角測定機(PCA-1、協和界面科学社製)を用いて行い、各試験片に対して2点測定し、得られた測定値(n=14)の平均値を各試験片の接触角とした接触角の測定は、全て室温下、50%湿度の条件で行った。
【0035】
(3点曲げ試験)
CNF懸濁液に168日間浸漬後に、3点曲げ試験を行い、試験片の曲げ特性を測定した。3点曲げ試験としては、材料試験機(Model5565;Instron Co.,MA,USA)を用いて、ISO20795-1に従って行い、2kNロードセル(シリアルNo.:UK268)でクロスヘッドスピード5mm/minで、室温下で行った。
弾性率(E)は下記の式を用いて算出した。
E=F・l/4bh
なお、Fは試験片破折時の荷重を表し、lは支点間距離(50.0mm)を表し、bはh試験片幅(10.0mm)を表し、hは試験片の厚み(3.0mm)を表し、dは荷重F時のたわみを表す。
曲げ強さ(δ)は。下記の式を用いて算出した。
δ=3Fl/2bh
なお、Fは曲げ試験中の最大荷重を表す。
【0036】

【0037】