(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】造形用材料、機能剤、造形製品の製造方法及び製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/06 20060101AFI20221102BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20221102BHJP
C04B 14/30 20060101ALI20221102BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C04B28/06
C04B18/14 Z
C04B14/30
B28B1/30
(21)【出願番号】P 2018095263
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017099883
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506118412
【氏名又は名称】有限会社小松鋳型製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【氏名又は名称】山内 博明
(74)【代理人】
【識別番号】100115451
【氏名又は名称】山田 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100130029
【氏名又は名称】永井 道雄
(72)【発明者】
【氏名】井家 勝八
(72)【発明者】
【氏名】井家 洋
(72)【発明者】
【氏名】井家 美紀
(72)【発明者】
【氏名】牛丸 之浩
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117069(JP,A)
【文献】特開2010-110802(JP,A)
【文献】特開2013-053059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0177188(US,A1)
【文献】国際公開第2013/054833(WO,A1)
【文献】特開2006-247743(JP,A)
【文献】国際公開第2009/093663(WO,A1)
【文献】特開2014-161883(JP,A)
【文献】特開2018-002587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と当該骨材を相互に結着させるバインダーの粉状前駆体と調整剤とを含む、粉末固着積層法における造形用材料であって、
前記骨材は鋳物砂であり、
前記粉状前駆体は、硬化成分と硬化促進成分を含み、
前記硬化成分はアルミナセメントであり、
前記硬化促進成分は炭酸リチウムであり、
前記調整剤は、珪酸ソーダ、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース、及びデキストリンのうちの少なくとも一つ以上を含み、
前記造形用材料全体に対して、
前記硬化成分は5重量%~18重量%、
前記硬化促進成分は0.05重量%~6重量%である、造形用材料。
【請求項2】
前記粉状前駆体は、機能性成分として、シリカヒューム、マグネシア超微粉及び/又は耐熱性樹脂を含む請求項
1に記載の造形用材料。
【請求項3】
前記鋳物砂は、化学成分として、ZrO
2及び/又はAl
2O
3:75重量%~97重量%、SiO
2:2重量%~25重量%を含む、請求項1~
2のいずれか1項に記載の造形用材料。
【請求項4】
前記鋳物砂は、平均径が5μm~200μmである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の造形用材料。
【請求項5】
前記骨材は、一種類の平均径の鋳物砂である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の造形用材料。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の造形用材料とともに用いられ前記粉状前駆体をバインダーに変質させる機能剤であって、
前記骨材は人工鋳物砂であり、
機能剤本体は水である機能剤。
【請求項7】
さらに、防腐剤、消泡剤、乾燥剤の少なくとも一種を含む、請求項
6記載の機能剤。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の造形用材料を用いる、造形製品の製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の造形製品を成形型として用いる、製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形用材料、機能剤、造形製品及び製品に関し、特に、粉末固着積層法における造形用材料、機能剤、造形製品及び製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元製品の横断面部分を形成し、そしてそれぞれの横断面領域を層方向に集合させて、鋳型を製造する手法がある。この手法では、それぞれの横断面領域は、鋳造砂とそのバインダーとして機能することになる多量の鉱物石膏を含有したプラスターとを含む粒状材料に、水性流体を供給するインク-ジェットプリントヘッドを用いて形成される。この種の鋳型製造手法は、粉末固着積層法と称されている(特許文献1)。
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、石膏が1000℃程度の温度で加熱されると、石膏の主成分である硫酸カルシウムが熱分解され、亜硫酸ガスが発生する。したがって、引用文献1に開示されている技術に対して、融点が1000℃を超える材料(たとえば、高融点金属)を鋳物材料とした場合には、注湯温度が1400℃を超え、溶湯が鋳型に接した際に鋳型が過熱され亜硫酸ガスなどが発生する。この結果、鋳物に気泡巣などの欠陥が生じてしまう。したがって、現実的には、石膏を用いて製造された鋳型に対して使用可能な鋳物材料は、低融点金属であり注湯温度が1000℃程度以下の限定的な金属材料であった。
【0005】
そこで、本発明は、溶湯温度が1400℃を超えるような高融点金属でも注湯可能な粉末固着積層法における造形用材料、及び、それを用いて製造される造形製品(たとえば、鋳型)、さらには、当該造形製品を成形型として用いて製造された製品(たとえば、鋳物)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、骨材と当該骨材を相互に結着させるバインダーの粉状前駆体とを含む、粉末固着積層法における造形用材料であって、前記骨材は人工鋳物砂であり、前記粉状前駆体は硬化成分と硬化促進成分とを含む。
【0007】
すなわち、本発明の一実施形態によれば、石膏に代わる硬化成分と速硬性に寄与する硬化促進成分とを採用することによって、溶湯温度が1400℃を超えるような高融点金属などを注湯しても、その温度に耐えうる造形製品を製造することを可能としている。
【0008】
本発明の一実施形態における粉状前駆体は、硬化成分として、ポルトランドセメント、アルミナセメント、速硬セメント、リン酸セメント、水ガラス、リン酸化合物、金属アルコキシド材料、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシアなどの硫酸塩、ポリ塩化アルミニウムを含む塩化物のうち少なくとも一つを含んでもよいし、及び/又は、機能性成分として、シリカヒューム、マグネシア超微粉及び/又は耐熱性樹脂を含んでもよい。硬化促進成分は硬化成分の硬化を促進する機能があれば特に限定されるものではない。硬化促進成分としては、リチウム塩又は生石灰が好ましい。リチウム塩としては、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウムなどが挙げられ、これらを単独で又は併用して使用できる。入手性、安定性などの点から炭酸リチウムが好ましい。
【0009】
また、本発明の一実施形態における鋳物砂は、化学成分として、ZrO2及び/又はAl2O3:75重量%~97重量%、SiO2:2重量%~25重量%を含むものとすることもできる。
【0010】
加えて、本発明の一実施形態における機能剤は、上記造形用材料とともに用いられ前記粉状前駆体をバインダーに変質させることもでき、さらに、防腐剤、消泡剤、乾燥剤の少なくとも一種を含んでもよい。
【0011】
なお、本発明の一実施形態における造形用材料を用いて製造された造形製品(たとえば、鋳型)、さらには、当該造形製品を成形型として用いて製造された製品(たとえば、鋳物)も、本発明の技術範囲に含まれるものとする。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の造形用材料及び機能剤は、粉末固着積層法を採用した、ラピッドプロトタイプの立体造形物製造装置に用いられるものである。立体造形物製造装置は、例えば3DSystems社のSpectrumZ310-3DPrinter、シーメット社のSCM-800を使用できる。
【0013】
1.造形用材料について
本実施形態の造形用材料は、粉末固着積層法において好適に使用できるものである。この造形用材料は、平均径が5μm~200μmの骨材を備える。骨材の平均径は、この範囲とすることが必須ではないが、この範囲内の大きさの骨材は、積層造形を適切に実現できるという利点がある。造形用材料の平均径が大きすぎると、成形物の表面粗さが増すので精密な造型体を得ることが困難となるおそれがある。一方、造形用材料の平均径が小さすぎると、骨材の流動性が悪くなり、また必要量を適正に排出することが難しくなる等の問題が生じるおそれがある。このような観点から造形用材料の平均径は、10μm~100μmが望ましく、20μm~75μmがより望ましい。なお、本明細書において、平均径は、レーザー回折式粒度計の値をいうものとする。
【0014】
本実施形態の造形用材料を用いて鋳型を製造する場合には、骨材として鋳物砂を採用することが考えられる。鋳肌の品質と溶融金属を注湯時に発生するガスの通気性とを考慮して、鋳物砂の平均径は好ましくは20μm~75μmである。
【0015】
鋳物砂は、成分の観点からすれば、天然鋳物砂であってもよいし、セラミックスなどの人工鋳物砂であってもよい。ただし、人工鋳物砂の方が、平均径の大きさにばらつきがなく、低熱膨張化、粉状前駆体の高充填性が得られるという点で好ましい。特に、人工鋳物砂は、真球形に近いので、下記の粉状前駆体との混合をさせやすいという効果がある。
【0016】
もっとも、天然鋳物砂であっても、例えば10μm~90μmメッシュ、好ましくは20μm~70μmメッシュの篩器を用いて、所望の粒径のものだけを篩別けして用いればよい。また、形状に関しては、篩器を用いて篩分けしたものは、様々な形状のものを用いると、石垣効果により下記の粉状前駆体と混合させ易いという効果があり、さらに、一般的に安価であるため、鋳物の用途などに応じて、天然鋳物砂と人工鋳物砂とを使い分けをすればよい。
【0017】
また、鋳物砂は、新砂のみならず、再生砂を用いることもできる。鋳物砂は、様々な粒径のものを用いると、石垣効果により下記の粉状前駆体と混合させ易いという効果がある。したがって、この観点によれば、粒径分布に広がりを持たせるとよく、このためには、新砂と再生砂との混合砂を用いることも一法である。加えて、天然鋳物砂と人工鋳物砂と
の混合砂を用いることも一法である。
【0018】
本実施形態において好適に用いられる鋳物砂は、市販品としては、FINE-Bz(AGCセラミックス社製)、ルナモス(花王クエーカー社製)、AR SAND(群栄化学工業社製)、ナイガイセラビーズ(伊藤忠セラテック社製)、ジルコンサンド、クロマイトサンド、エスパール(山川産業社製)、球状シリカ、球状に加工されたケイ砂などを使用できる。
【0019】
鋳物砂は、高温用溶融物を凝固することで生産される鋳物用途に使用されるため、より耐火度、熱伝導率が高いことが望まれる。この観点からコランダムで構成されアルミナ含有量が高く、純度が高い、FINE-Bzが最適であるといえる。また、FINE-Bzは、高耐火度、高熱伝導率を有しており、化学成分としてZrO2及び/又はAl2O3:75重量%~97重量%、SiO2:2重量%~25重量%を含有する耐火物粒子であり、溶解、急冷法により生産される球状粒子で滑らかな表面を有するため、高い成形強度を有するというメリットもある。
【0020】
また、本実施形態の造形用材料は、少なくとも硬化成分と炭酸リチウムなどの硬化促進成分を含む粉状前駆体を備える。この粉状前駆体には、例えば相対的に多量のアルミナセメントなどの硬化成分と相対的に少量の炭酸リチウム(Li2CO3)などの硬化促進成分との混合物とすることができる。ここでいう相対的に少量とは、造形用材料全体に対して、0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。一方、6重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましく、2重量%以下であるとさらに好ましい。例えば、相対的に少量とは0.05重量%~6重量%程度の場合をいう。また、相対的に多量とは、造形用材料全体に対して、7重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、12重量%以上がさらに好ましい。一方、30重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、18重量%以下がさらに好ましい。
【0021】
また、ここでは、粉状前駆体は、硬化促進成分を炭酸リチウムとし、硬化成分としてアルミナセメントを含む例を示しているが、硬化成分は、必ずしもアルミナセメントに限定されない。アルミナセメント以外の硬化成分としては、ポルトランドセメント、速硬セメント、リン酸セメントなどの種々のセメント材料、リン酸化合物、水ガラス、ゾルゲル法によるセラミックスの製造法などで用いられる金属アルコキシド材料、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシアなどの硫酸塩、ポリ塩化アルミニウムを含む塩化物が例示され、これらを単独で又はアルミナセメントを含めたこれらの混合物を使用できる。
【0022】
また、粉状前駆体は、耐熱性や強度などの機能性を付与するために種々の機能性成分をさらに含んでもよい。機能性成分としては、シリカヒューム、マグネシア超微粉(平均径10μm以下)、耐熱性を備える樹脂材料などを挙げることができる。
【0023】
さらに、ここでいう耐熱性とは、鋳物の製造についていえば、鋳物材料を鋳型に注湯したときに、鋳物材料と鋳型との接触面で所要のシェルが形成されるという条件を満たすものをいう。したがって、必ずしも、粉状前駆体の融点が、1400℃を超える必要はない点に留意されたい。
【0024】
ここで、粉状前駆体について補足しておく。まず、ガス欠陥を防止するという観点に立てば、石膏分が含まれていないセメントを用いることが好ましい。この種のセメントの典型例としては、アルミナセメントが挙げられる。アルミナセメントは、更に上記のように耐熱性などのメリットもあるので好適である。ただ、本願出願時点で存在するアルミナセメントは、硬化速度の面では他の速硬性セメントに比して劣る。
【0025】
一方で、鋳物表面の解像度を向上させるという要請もある。このため、本発明者らは、速硬性に優れたセメントを用いたいと考え、所望のセメントを過去に突きとめようとしたという経緯がある。
【0026】
しかし、石膏分が含まれているセメントは、多少のガス欠陥の発生は否めず、従来技術に比べると著しい効果が得られたといえるものの、まだ改善の余地があった。
【0027】
以上の考察から、本実施形態では、粉状前駆体として、耐熱性があることに加えて、石膏分がなく、かつ、速硬性に優れているという条件を満足するものを用いるということがいえるが、このようなものは、本願出願時点では存在していない。
【0028】
本発明者らは、ガス欠陥の発生をより抑止するために、石膏分が皆無であるアルミナセメントを用いることが好適であることを突き止めた。つまり、本実施形態に係る粉状前駆体は、硬化成分に対して、炭酸リチウム等の硬化促進成分を混合させたものを用いることで、速硬性と耐熱性とを有し、ガス欠陥を大幅に抑制できる造形用材料を提供できることを突き止めた。
【0029】
なお、セメントは、ブレーン比表面積値が大きいほどセメントの粒径が小さく、水和反応が促進されやすいし、ブリージング量も減少し、また、ブレーン比表面積値が大きいほど、初期強度が大きい。したがって、本実施形態の場合には、ブレーン比表面積値が大きいセメントを採用するほど好ましいといえる。例えば、ポルトランドセメントはブレーン比表面積値が2500cm2/g程度、速硬セメントは4000cm2/g程度であり、アルミナセメントは4600cm2/g程度である。なお、ブレーン比表面積値は、JIS R5201に規定するプレーン空気透過装置を用いて測定する。
【0030】
このような理由から、これらの例示のものの中では、アルミナセメントを採択することが最も好ましいといえるが、速硬セメント、或いは、ポルトランドセメントなどのセメントを用いることが排除されるものではない点には留意されたい。
【0031】
さらに、造形用材料には、各種調整剤を混合させることもできる。ここでいう調整剤としては、例えば、後述するように、造形用材料に対して機能剤を噴霧したときに、機能剤の余剰分がその噴霧すべき位置の周辺に染込むことを抑止するものが挙げられる。この種の調整剤を用いると、鋳型の解像度を向上させることができ、ひいては、鋳肌の高品質化を図ることができる。
【0032】
また、この種の調整剤を用いると、機能剤の種別によっては、その余剰分の存在によって、溶融金属を注湯時に発生するガスを減少させることができる。したがって、ガス欠陥を抑止することが可能となる。調整剤は、鋳物砂又は粉状前駆体の種別に応じたものを選択すればよい。
【0033】
例えば、粉状前駆体がセメントの場合には、機能剤本体として水を用いることになるが、この場合には、調整剤として、珪酸ソーダ、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、デキストリン、或いは、これらの混合物を配合することができる。これにより、機能剤本体であるところの水の余剰分が、珪酸ソーダ等に吸収されることになる。なお、鋳物砂の粒径の大きさに応じて、調整剤の配合割合を適宜選択すればよい。
【0034】
鋳物砂と粉状前駆体との混合割合を例示すると、鋳物砂:粉状前駆体の比率は、概ね、65重量%~95重量%:5重量%~35重量%であることが好ましい。例えば、鋳物砂
として花王クエーカー社製のルナモス(商品名)を用い、粉状前駆体としてアルミナセメント(硬化成分)及び炭酸リチウム(硬化促進成分)を用いた場合には、鋳物砂(ルナモス):粉状前駆体(アルミナセメント+炭酸リチウム)の比率は、概ね、65重量%~75重量%:25重量%~35重量%の割合で混合すればよい。鋳物砂としてAGCセラミックス社のFINE-Bz(商品名)を用い、粉状前駆体としてアルミナセメント(硬化成分)及び炭酸リチウム(硬化促進成分)を用いた場合には、鋳物砂(FINE-Bz):粉状前駆体(アルミナセメント+炭酸リチウム)の比率は、概ね、80重量%~95重量%:5重量%~20重量%の割合で混合すればよい。
【0035】
また、造型用材料に調整剤を含める場合には、粉状前駆体を構成する硬化成分と硬化促進成分と調整剤との混合割合は、これらの成分条件にもよるが、造型用材料全体に対して、概ね、硬化成分:5重量%~35重量%、硬化促進成分:0.1重量%~6重量%、調整剤:1重量%~5重量%であることが好ましい。この場合、鋳物砂は、54重量%~93.9重量%とするのが好ましい。粉状前駆体を構成する硬化成分がアルミナセメントであり、硬化促進成分が炭酸リチウムである場合、アルミナセメント及び炭酸リチウムと調整剤との混合割合は、これらの成分条件にもよるが、造型用材料全体に対して、概ね、アルミナセメント:5重量%~30重量%、炭酸リチウム:0.1重量%~5重量%、及び、調整剤:1重量%~4重量%であることが好ましい。この場合、鋳物砂は、61重量%~93.9重量%とするのが好ましい。汎用的なものを例にすれば、アルミナセメントとしてAGCセラミックス社のアサヒアルミナセメント1号を用い、炭酸リチウムとしてキシダ化学社製炭酸リチウム或いは本荘ケミカルなどを用いる場合には、造形用材料全体に対して、アルミナセメント、炭酸リチウム、及び、調整剤は、概ね、5重量%~25重量%、0.1重量%~3重量%、及び、1重量%~3重量%とすればよい。この場合、鋳物砂は、69重量%~93.9重量%とするのが好ましい。
【0036】
なお、調整剤の上記例示には有機系物質も含まれるが、有機系物質はガスの発生原因になるため、有機系物質の調整剤を採用する場合には、造形用材料全体に対して、例えば2重量%を超えないようにすべきである。
【0037】
造形用材料の製造方法は限定的でなく、骨材と粉状前駆体と調整剤とが十分に攪拌されさえすればよい。したがって、例えば、約100kgの造形用材料を製造する場合には、骨材を約68.0kgと、粉状前駆体を約29.0kgと、調整剤を約1.0kg用意し、これらを攪拌器にセットして適宜攪拌すればよい。
【0038】
2.機能剤について
本実施形態の機能剤は、造形用材料の鋳物砂を相互に結着させるように、粉状前駆体をバインダーに変質させるものであればよい。したがって、機能剤は、例えば、粉状前駆体としてセメントを用いる場合には水を含むもの、樹脂を用いる場合には当該樹脂を硬化させるもの(例えば、水系樹脂硬化剤)とすることができる。もっとも、樹脂を用いた場合には、ノズルからの水系樹脂硬化剤等の噴霧に代えて、樹脂硬化用のエネルギー(例えば、熱又は紫外線)を付加してもよい。
【0039】
ここで、粉状前駆体としてセメントを用いる場合には、原理的には、水のみをバインダーへ変質させるための機能剤として用いればよい。しかし、水とその噴霧手段(ノズルヘッド)との間の摩擦により、当該噴霧手段が発熱することがあり、これは粉状前駆体として、既述の各種セラミックス系の材料を用いる場合も同様の問題が発生する可能性がある。そこで、この発熱に対応すべく、機能剤には、温度上昇を抑止する抑止剤及び/又は機能剤本体の表面張力を調整する界面活性剤を混合するとよい。
【0040】
機能剤本体に対する抑止剤及び/または界面活性剤の混合割合は、機能剤本体が90容
量%~95容量%、抑止剤が4容量%~10容量%、界面活性剤が1容量%~2容量%であることが好ましい。例えば、粉状前駆体としてセメントを用いる場合であって、噴霧手段としてヒューレット・パッカード社のカートリッジHp11を用いる場合には、機能剤本体である水が90容量%~95容量%(例えば94容量%)、抑止剤としてのグリセリンを4容量%~10容量%(例えば5容量%)、界面活性剤を1容量%~2容量%(例えば1容量%)とすればよい。さらに、この機能剤には、保存性、作業性などを考慮して、選択的に、防腐剤、消泡剤、乾燥剤などを含めてもよい。その場合には、機能剤中、それぞれ5容量%以下となるように添加すればよい。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、石膏に代わる粉状前駆体を選択して、粉末固着積層法における造形用材料を構成している。このため、融点が1400℃を超えるような高融点金属を注湯しても、その温度に耐え得る鋳型を得ることが可能となる。
なお、鋳型等の造形品を作成する際に、減圧漕内などの減圧下でコロイダルシリカ等を含浸させることにより造形品の強度を向上させたり、不要な場所への湯の浸透を防止できたりするなどの利点がある。コロイダルシリカを含浸させる場合には、その後、400℃~1200℃で焼成することが好ましい。
【0042】
本実施形態では、主として、鋳型を製造する場合を例に説明したが、鋳型のみならず他の成形型、例えば、樹脂系、ガラス系、又は、ゴム系などの流動硬化性材料を使用した成形型を製造することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例の造形用材料について説明する。なお、実施例1~実施例4の造形用材料は、相互に、鋳物砂と炭酸リチウムとの割合を変更したものである。また、実施例5~実施例7の造形用材料は、相互に、炭酸リチウムの種別を変更したものである。さらに、実施例8~実施例12の造形用材料は、実施例1~実施例7のものとは骨材の種別を変更するとともに、鋳物砂と炭酸リチウムとの割合を変更したものである。さらに、実施例13~実施例16の造形用材料は、実施例1のものとは骨材の種別および粉状前駆体の硬化成分の種別を変更するとともに、鋳物砂と粉状前駆体の硬化成分との割合を変更したものである。なお、各実施例及び比較例についての硬化結果は、複数回の測定の平均値である。
【0044】
(実施例1)
実施例1の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):花王クエーカー社製のルナモスを約70.0重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約28.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:キシダ化学社製炭酸リチウム(特級500g)を約1.0重量%
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.0重量%
【0045】
(比較例1)
比較例1の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):花王クエーカー社製のルナモスを約71.0重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約28.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:なし
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.0重量%
【0046】
実施例1の造型用材料をシャーレに入れ、これに対して5mlの水を、ピペットの上部を開放し一滴ずつ自然に滴下させて硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約30秒
造形用材料の硬化開始時間:約3分
造形用材料の硬化開始後の硬度 (ナカヤマ社の硬度計NK-403で測定。以下、同
じ。):
10分後;約90
30分後;約95
90分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約35g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.5mm
造形用材料の硬化部分の体積:約14.9cm3
【0047】
ここで、造形用材料への水の浸透時間は、数十秒~数分であることが好ましい。なお、造形用材料への水の浸透時間は、滴下終了後、目視で材料表面から水滴が消えるまでの時間を測定した。また、造形用材料の硬化開始時間とは、硬化効果測定対象を竹串などで突いて、固化に向けて変化を開始して、明らかに粉体ではないと判断できるようになった際の時間としている。そして、造形用材料の硬化開始後の硬度に関していえば、一般的には、アルミナセメントに水が浸透して硬化が開始されてから、早期に硬度90以上となることが好ましい。硬度90以上という理由は、硬化させた造形用材料のハンドリングのしやすさの観点によるものである。
【0048】
また、造形用材料の硬化部分の厚さは、約7.5mm以下が好ましく、約7.0mm以下であるとより好ましい。なお、造形用材料の硬化部分の重量は、骨材とアルミナセメントとの混合割合にもよるが、3DSystems社のSpectrumZ310-3DPrinterの純正品である造形用材料に対応させると、約20g~約40gの範囲に収まり、また、造形用材料の硬化部分の体積は、同じく、約9.0cm3~約18.0cm3の範囲に収まることが好ましい。各実施例及び各比較例の造形用材料は、造形用材料の硬化部分の重量及び体積については、この数値をすべて満たしている。なお、硬化部分の厚さ、重量、体積は、水を滴下後、5時間以上放置し、十分に硬化させた後、以下のようにして測った。厚さは定規を当てて目視計測し、重量は硬化部分を重量計測し、体積は、硬化部分を取り除いた(非硬化)残留部分の体積を測定し、硬化前の充填体積から引いて算出した。
【0049】
実施例1の造形用材料は、硬化開始まで約3分で、それから10分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0050】
一方、比較例1の造形用材料をシャーレに入れ、これに対して実施例1と同様に水を、滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約30秒
水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間:約17.5分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
10分後;硬化せず
30分後;約75
90分後;約90
造形用材料の硬化部分の重量:約34.5g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.2mm
造形用材料の硬化部分の体積:約14.5cm3
【0051】
比較例1の造形用材料は、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積は、上記の対応する各条件を満たすが、硬化開始まで約17.5分も必要で、それから90分後でないと硬
度約90が達成できなかった。
【0052】
また、実施例1の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例1の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/6に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/9に短縮していることがわかる。
【0053】
(実施例2)
実施例2の造形用材料は、実施例1の造型用材料に比して、骨材を約0.5重量%減らすとともに、粉状前駆体の炭酸リチウムを約0.5重量%増やすことによって製造したものである。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0054】
実施例1の場合と同様の条件で水を滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約30秒
造形用材料の硬化開始後の硬度 :約3分
10分後;約90
30分後;約95
90分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約35.5g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約5.5mm
造形用材料の硬化部分の体積:約15.2cm3
【0055】
実施例2の造形用材料は、硬化開始まで約3分で、それから10分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0056】
また、実施例2の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例2の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/6に短縮し、硬度約90を得るための時間が約1/9に短縮していることがわかる。
【0057】
(実施例3)
実施例3の造形用材料は、実施例1の造型用材料に比して、骨材を約2.0重量%減らすとともに、粉状前駆体の炭酸リチウムを約2.0重量%増やすことによって製造したものである。他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0058】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約45秒
造形用材料の硬化開始後の硬度 :約2.5分
10分後;約90
30分後;約95
90分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約36.5g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.0mm
造形用材料の硬化部分の体積:約15.7cm3
【0059】
実施例3の造形用材料は、硬化開始まで約2.5分で、それから10分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0060】
また、実施例3の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例3の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/7に短縮し、硬度約90を得るための時間が約1/9に短縮していることがわかる。
【0061】
(実施例4)
また、実施例4の造形用材料を、実施例1の造型用材料に比して、骨材を約5.0重量%減らすとともに、粉状前駆体の炭酸リチウムを約5.0重量%増やすことによって製造したものである。他の条件は、実施例1の場合と同様とした。
【0062】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約45秒
造形用材料の硬化開始後の硬度 :約2.2分
10分後;約90
30分後;約95
90分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約34.0g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.0mm
造形用材料の硬化部分の体積:約14.5cm3
【0063】
実施例4の造形用材料は、硬化開始まで約2.2分で、それから10分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0064】
また、実施例4の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例4の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/8に短縮し、硬度約90を得るための時間が約1/9に短縮していることがわかる。
【0065】
実施例1~実施例4の硬化効果の考察結果をまとめると、実施例1の造形用材料のように、僅か約1.0重量%の炭酸リチウムを混合するだけで、所望の硬度が得られることが分かった。また、炭酸リチウムの混合量は、実施例4のように約6.0重量%であっても、所望の硬化結果が得られており、少なくともこの範囲で混合すればよいことがわかる。
【0066】
上記のように、僅か約1.0重量%の炭酸リチウムを混合するだけで、所望の硬度が得られることが分かったので、実施例5~実施例7では、炭酸リチウムを約1.0重量%混合し、炭酸リチウムの種別を変更することとした。
【0067】
(実施例5)
実施例5の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):花王クエーカー社製のルナモスを約70.5重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約27.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:本荘ケミカル社製高純度炭酸リチウム(4N:純度99.99%)を約1.0重量%
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.5重量%
【0068】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約60秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.5分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約80
10分後;約90
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約31.5g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約5.4mm
造形用材料の硬化部分の体積:約13.1cm3
【0069】
実施例5の造形用材料は、硬化開始まで約2.5分で、それから10分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0070】
実施例5の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例5の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/7に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/9に短縮していることがわかる。
【0071】
(実施例6)
実施例6の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):花王クエーカー社製のルナモスを約70.5重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約27.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:本荘ケミカル社製高純度炭酸リチウム(工業用-3633:純度99.60%)を約1.0重量%
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.5重量%
【0072】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約100秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.8分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約73
10分後;約85
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約29.0g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約5.2mm
造形用材料の硬化部分の体積:約11.8cm3
【0073】
実施例6の造形用材料は、硬化開始まで約2.8分で、それからおそらく20分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0074】
実施例6の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例6の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/6に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/5に短縮していることがわかる。
【0075】
(実施例7)
実施例7の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):花王クエーカー社製のルナモスを約70.5重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約27.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:本荘ケミカル社製高純度炭酸リチウム(UF-300:純度99.60%)を約1.0重量%
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.5重量%
【0076】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約60秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.0分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約90
10分後;約95
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約31.5g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約5.0mm
造形用材料の硬化部分の体積:約13.1cm3
【0077】
実施例7の造形用材料は、硬化開始まで約2.0分で、それから5分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0078】
実施例7の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例7の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間が約1/9に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/18に短縮していることがわかる。
【0079】
実施例5~実施例7の硬化効果の考察結果をまとめると、炭酸リチウムの種別によって、造形用材料の硬化開始後に硬度が例えば約90に到達するまでに必要な時間は異なることが分かった。
【0080】
ただし、どのような種別の炭酸リチウムを用いると良いといえるかという点については、微粉/顆粒の相違、粒径の相違などがあるが、当該硬化効果をみるだけでは必ずしも明らかになっていない。もっとも、実施例7の造型用材料が、造形用材料の硬化開始時間、及び、造形用材料の硬化開始後の硬度 の点でもっとも優れているといえる。
【0081】
そこで、後述する実施例8~実施例11では、実施例7で用いた本荘ケミカル社製高純度炭酸リチウム(UF-300:純度99.60%)を用いて、鋳物砂と炭酸リチウムとの割合を変更することとする。
【0082】
なお、実施例7の造形用材料を用いて、3DSystems社のSpectrumZ310-3DPrinterにて成形実験を行ってみた。具体的には、成形時間完了後から所定時間毎に圧縮強度を測定して、炭酸リチウム配合による迅速硬化の程度を確認した。
【0083】
まず、実施例7の造形用材料は、成形時間完了後の養生時間が約3.5時間の時点では、成形品の圧力強度は、鋳型分野の成形品として十分な圧力強度と考えられる7.0kgf/cm2を遥かに上回る9.3kgf/cm2が確認できた。
【0084】
その後、圧力強度の計測を、成形時間完了後の養生時間が約4.0時間、約5.0時間、約6.0時間、約7.0時間、約24.0時間の各時点で行ったところ、それぞれ、約10.1kgf/cm2、約9.9kgf/cm2、約9.2kgf/cm2、約9.8kgf/cm2、約10.0kgf/cm2あった。
【0085】
ここで、比較例1の造型用材料は、9.3kgf/cm2程度の圧力強度を得るためには、成形時間完了後の養生時間が約10時間程度必要であったので、比較例1に比して、実施例7の造型用材料は、同程度の圧力強度を得るためには1/3程度の時間で済み、迅
速な硬化時間が得られることがわかった。
【0086】
(実施例8)
実施例8の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):AGCセラミックス社製のFINE-Bzを約83.0重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約15.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:本荘ケミカル社製高純度炭酸リチウム(UF-300:純度99.60%)を約0.5重量%
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.5重量%
【0087】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約37秒
造形用材料の硬化開始時間:約5.8分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
8分後;約90
10分後;約90
12分後;約95
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約26.3g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.0mm
造形用材料の硬化部分の体積:約12.7cm3
【0088】
実施例8の造形用材料は、硬化開始まで約5.8分で、それから8分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0089】
実施例8の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例8の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間:約1/3に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/11に短縮していることがわかる。
【0090】
(比較例2)
比較例2の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):AGCセラミックス社製のFINE-Bzを約83.5重量%
粉状前駆体のアルミナセメント:アサヒアルミナセメント1号を約15.0重量%
粉状前駆体の炭酸リチウム:なし
調整剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.5重量%
【0091】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約43秒
水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間:約23.6分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
60分後;約90
造形用材料の硬化部分の重量:約25.1g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.4mm
造形用材料の硬化部分の体積:約11.8cm3
【0092】
実施例8の造形用材料と比較例2の造形用材料とを対比すると、実施例8の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/4に短縮しており、硬度約9
0を得るための時間が約1/8に短縮していることがわかる。
【0093】
(実施例9)
実施例9の造形用材料は、実施例8の造型用材料に比して、骨材を約0.5重量%減らすとともに、粉状前駆体の炭酸リチウムを約0.5重量%増やすことによって製造したものである。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
【0094】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約30秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.9分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約90
8分後;約90
10分後;約95
12分後;約95
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約27.3g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.2mm
造形用材料の硬化部分の体積:約13.1cm3
【0095】
実施例9の造形用材料は、硬化開始まで約2.9分で、それから5分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0096】
実施例9の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例9の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/6に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/18に短縮していることがわかる。
【0097】
実施例9の造形用材料と比較例2の造形用材料とを対比すると、実施例9の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/8に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/12に短縮していることがわかる。
【0098】
(実施例10)
実施例10の造形用材料は、実施例8の造型用材料に比して、骨材を約1.0重量%減らすとともに、粉状前駆体の炭酸リチウムを約1.0重量%増やすことによって製造したものである。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
【0099】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約28秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.5分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約90
8分後;約90
10分後;約95
12分後;約95
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約25.7g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.6mm
造形用材料の硬化部分の体積:約12.3cm3
【0100】
実施例10の造形用材料は、硬化開始まで約2.5分で、それから5分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0101】
実施例10の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例10の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/7に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/18に短縮していることがわかる。
【0102】
実施例10の造形用材料と比較例2の造形用材料とを対比すると、実施例10の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/9に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/12に短縮していることがわかる。
【0103】
(実施例11)
実施例11の造形用材料は、実施例8の造型用材料に比して、骨材を約1.5重量%減らすとともに、粉状前駆体の炭酸リチウムを約1.5重量%増やすことによって製造したものである。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
【0104】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約26秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.4分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約90
8分後;約90
10分後;約95
12分後;約95
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約26.8g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約6.4mm
造形用材料の硬化部分の体積:約12.8cm3
【0105】
実施例11の造形用材料は、硬化開始まで約2.4分で、それから5分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0106】
実施例11の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例11の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/7に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/18に短縮していることがわかる。
【0107】
実施例11の造形用材料と比較例2の造形用材料とを対比すると、実施例11の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/10に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/12に短縮していることがわかる。
【0108】
実施例8~実施例11の硬化効果の考察結果をまとめると、造形用材料の硬化速度は、炭酸リチウムの混合量にさほど依存しないとわかる。一方、造形用材料の硬化開始時間は、炭酸リチウムの混合量に応じて短縮され、炭酸リチウムが0.5重量%と1.0重量%との間でブレイクスルーがあることがわかる。もっとも、造形用材料の硬化部分の重量等の条件は、実施例8~実施例11のいずれも満たすので、炭酸リチウムの混合量は、0.
5重量%以上あればよいことがわかり、また、炭酸リチウムの混合割合を増やすことによって、特段、不都合が生じるといった傾向はみられないので、造形用材料全体に対して例えば10.0重量%程度とすることが妨げられるものではない。
【0109】
(実施例12)
実施例12の造形用材料は、実施例8の造型用材料に比して、骨材を約0.5重量%増やすとともに、粉状前駆体の調整剤を約0.5重量%減らすことによって製造したものである。他の条件は、実施例8の場合と同様である。
【0110】
実施例1の場合と同様の条件で滴下して硬化効果について検証したところ、以下の結果が得られた。
造形用材料への水の浸透時間:約14秒
造形用材料の硬化開始時間:約2.8分
造形用材料の硬化開始後の硬度 :
5分後;約80
8分後;約85
10分後;約90
30分後;約95
造形用材料の硬化部分の重量:約34.0g
造形用材料の硬化部分の厚さ:約7.3mm
造形用材料の硬化部分の体積:約15.7cm3
【0111】
実施例12の造形用材料は、硬化開始まで約2.8分で、それから10分後には硬度約90が達成でき、造形用材料の硬化部分の重量・厚さ・体積も上記の対応する各条件を満たしているので、良好な造形用材料であると評価できる。
【0112】
実施例12の造形用材料と比較例1の造形用材料とを対比すると、実施例12の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/6に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/9に短縮していることがわかる。
【0113】
実施例12の造形用材料と比較例2の造形用材料とを対比すると、実施例12の造形用材料は、水を滴下してからの造形用材料の硬化開始時間は約1/8に短縮しており、硬度約90を得るための時間が約1/6に短縮していることがわかる。
【0114】
なお、実施例8の造型用材料に比して、骨材を約1.0重量%増やすとともに、粉状前駆体の調整剤を約1.0重量%減らすことによって製造したところ、造形用材料の硬化部分の厚さは約9.8mmとなり、上記の対応する条件を満たさないことがわかった。また、調整剤をゼロにしたところ、造形用材料の硬化部分の厚さは約10.0mmとなった。
【0115】
(実施例13)
実施例13の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):AGCセラミックス社製、FINE―Bzを約93.9重量%
粉状前駆体のハイアルミナセメント(Al2O3 約70重量%、CaO 約28重量%)を約5.0重量%、
粉状前駆体の炭酸リチウム:キシダ化学社製炭酸リチウム(特級500g)を約0.1重量%
調製剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.0重量%
【0116】
(実施例14)
実施例14の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):AGCセラミックス社製、FINE―Bzを約90.9重量%
粉状前駆体のハイアルミナセメント(Al2O3 約70重量%、CaO 約28重量%)を約8.0重量%、
粉状前駆体の炭酸リチウム:キシダ化学社製炭酸リチウム(特級500g)を約0.1重量%
調製剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.0重量%
【0117】
(実施例15)
実施例15の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):AGCセラミックス社製、FINE―Bzを約86.9重量%
粉状前駆体のハイアルミナセメント(Al2O3 約70重量%、CaO 約28重量%)を約12.0重量%、
粉状前駆体の炭酸リチウム:キシダ化学社製炭酸リチウム(特級500g)を約0.1重量%
調製剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.0重量%
【0118】
(実施例16)
実施例16の造形用材料を、以下の成分を十分に撹拌することにより製造した。
骨材(鋳物砂):AGCセラミックス社製、FINE―Bzを約83.9重量%
粉状前駆体のハイアルミナセメント(Al2O3 約70重量%、CaO 約28重量%)を約15.0重量%、
粉状前駆体の炭酸リチウム:キシダ化学社製炭酸リチウム(特級500g)を約0.1重量%
調製剤:日本合成化学工業社製のゴーセノールを約1.0重量%
【0119】
実施例13~16の造形用材料についても同様に試験したところ、好適に使用できることも確認できた。
【0120】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年5月19日出願の日本特許出願2017-099883に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。