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特許7168955ポリイソプレノイドの製造方法、ベクター、形質転換植物、空気入りタイヤの製造方法及びゴム製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ポリイソプレノイドの製造方法、ベクター、形質転換植物、空気入りタイヤの製造方法及びゴム製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20221102BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20221102BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20221102BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C12N15/54
C12P5/02 ZNA
C12N15/82 122Z
A01H1/00 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018166009
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020036560
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山口 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】井之上 ゆき乃
(72)【発明者】
【氏名】伏原 和久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征司
(72)【発明者】
【氏名】中山 亨
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-239664(JP,A)
【文献】特開2014-212706(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116726(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002818(WO,A1)
【文献】特開2016-154458(JP,A)
【文献】特開2017-012058(JP,A)
【文献】特開2013-162776(JP,A)
【文献】特開2016-059313(JP,A)
【文献】PNAS,Vol. 106,2009年,pp. 10865-10870
【文献】The Plant Journal,2013年,Vol. 73,pp. 640-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
A01H 1/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質をゴム粒子に結合させる結合工程を含み、前記結合工程が、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて蛋白質合成を行い、ゴム粒子に、ネリル二リン酸合成酵素を結合させる工程であるポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項2】
前記ポリイソプレノイドが、100%シス型のポリイソプレノイドである請求項1記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項3】
前記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子が、植物由来である請求項1又は2記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項4】
前記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子が、トマト由来である請求項1~3のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項5】
前記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子が、以下の[1]又は[2]のいずれかに記載のDNAからなる請求項1~4のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法。
[1]配列番号7で表される塩基配列からなるDNA
[2]配列番号7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、ネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA
【請求項6】
前記ネリル二リン酸合成酵素が、Helix3部位を、炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位に置換した変異蛋白質である請求項1~5のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項7】
前記無細胞蛋白合成溶液が、胚芽抽出物を含む請求項1~6のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項8】
前記胚芽抽出物が、小麦由来である請求項記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項9】
前記無細胞蛋白合成溶液と共存させるゴム粒子の濃度が、5~50g/Lである請求項のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び前記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び前記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法。
【請求項12】
乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーター、及び、該プロモーターに機能的に連結されたネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を含むベクターを植物に導入することにより、該植物におけるポリイソプレノイドの生産量を向上させる方法。
【請求項13】
前記乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターが、Rubber Elongation Factor(REF)をコードする遺伝子のプロモーター、Small Rubber Particle Protein(SRPP)をコードする遺伝子のプロモーター、Hevein2.1(HEV2.1)をコードする遺伝子のプロモーター、及び、MYC1 transcription factor(MYC1)をコードする遺伝子のプロモーターからなる群より選択される少なくとも1種である請求項12記載のポリイソプレノイドの生産量を向上させる方法。
【請求項14】
乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーター、及び、該プロモーターに機能的に連結されたネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を含むベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び前記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法。
【請求項15】
前記乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターが、Rubber Elongation Factor(REF)をコードする遺伝子のプロモーター、Small Rubber Particle Protein(SRPP)をコードする遺伝子のプロモーター、Hevein2.1(HEV2.1)をコードする遺伝子のプロモーター、及び、MYC1 transcription factor(MYC1)をコードする遺伝子のプロモーターからなる群より選択される少なくとも1種である請求項14記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項16】
乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーター、及び、該プロモーターに機能的に連結されたネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を含むベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び前記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法。
【請求項17】
前記乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターが、Rubber Elongation Factor(REF)をコードする遺伝子のプロモーター、Small Rubber Particle Protein(SRPP)をコードする遺伝子のプロモーター、Hevein2.1(HEV2.1)をコードする遺伝子のプロモーター、及び、MYC1 transcription factor(MYC1)をコードする遺伝子のプロモーターからなる群より選択される少なくとも1種である請求項16記載のゴム製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソプレノイドの製造方法、ベクター、形質転換植物、空気入りタイヤの製造方法、及びゴム製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業用ゴム製品に用いられている天然ゴム(ポリイソプレノイドの1種)は、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)や桑科植物のインドゴムノキ(Ficus elastica)などのゴム産生植物を栽培することで得られるが、このような天然ゴムは、イソプレン単位がシス型に結合したポリイソプレノイドである。ただし、植物内で合成される天然ゴムは、主骨格はシス型で連結されるが、開始末端(ω末端)としてはトランス型のファルネシル二リン酸(E,E-FPP)が用いられるため、トランス型が一部に入ってしまい、ほぼシス型ではあるが、全てのイソプレン単位がシス型で連結されたものはこれまで存在しなかった。
【0003】
自然界では、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)とイソペンテニル二リン酸(IPP)をシス型に結合する酵素として、ネリル二リン酸合成酵素が知られているが、当該酵素は炭素数10までしかイソプレノイド鎖を伸長させることができないため、短鎖の100%シス型のイソプレノイド鎖は合成できるが、高分子量のポリイソプレノイドを合成することはできないものである。
【0004】
一方、イソプレン単位を化学的に結合して得られる合成ゴムであるイソプレンゴムにおいても、重合反応を完全にシス型に制御することは困難であり、重合反応の途中でトランス型の結合が入ってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、自然界でも、化学合成においても、100%シス型のポリイソプレノイドを合成することはできず、全てのイソプレン単位がシス型で連結された、100%シス型のポリイソプレノイドはこれまで存在しなかった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、生体外で、100%シス型のポリイソプレノイドの合成を可能にする、ポリイソプレノイドの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明はまた、前記課題を解決し、遺伝子組換え技術により植物体に導入することでポリイソプレノイドの生産量を向上させることができるベクターを提供することを目的とする。また、該ベクターが導入された形質転換植物、並びに、該ベクターを植物に導入することにより、該植物におけるシス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドの生産量を向上させる方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質をゴム粒子に結合させる結合工程を含むポリイソプレノイドの製造方法に関する。以降、この発明を本発明の第1の発明とし、第1の本発明とも称する。
【0009】
上記ポリイソプレノイドは、100%シス型のポリイソプレノイドであることが好ましい。
【0010】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、植物由来であることが好ましい。
【0011】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、トマト由来であることが好ましい。
【0012】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、以下の[1]又は[2]のいずれかに記載のDNAからなることが好ましい。
[1]配列番号7で表される塩基配列からなるDNA
[2]配列番号7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、ネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0013】
上記ネリル二リン酸合成酵素は、Helix3部位を、炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位に置換した変異蛋白質であることが好ましい。
【0014】
上記結合工程は、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて蛋白質合成を行い、ゴム粒子に、ネリル二リン酸合成酵素を結合させる工程であることが好ましい。
【0015】
上記無細胞蛋白合成溶液は、胚芽抽出物を含むことが好ましい。
【0016】
上記胚芽抽出物は、小麦由来であることが好ましい。
【0017】
上記無細胞蛋白合成溶液と共存させるゴム粒子の濃度は、5~50g/Lであることが好ましい。
【0018】
第1の本発明はまた、上記第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び上記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0019】
第1の本発明はまた、上記第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び上記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法に関する。
【0020】
本発明はまた、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーター、及び、該プロモーターに機能的に連結されたネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を含むベクターに関する。以降、この発明を本発明の第2の発明とし、第2の本発明とも称する。
【0021】
上記乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターは、Rubber Elongation Factor(REF)をコードする遺伝子のプロモーター、Small Rubber Particle Protein(SRPP)をコードする遺伝子のプロモーター、Hevein2.1(HEV2.1)をコードする遺伝子のプロモーター、及び、MYC1 transcription factor(MYC1)をコードする遺伝子のプロモーターからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
第2の本発明はまた、上記いずれかのベクターが導入された形質転換植物に関する。
【0023】
第2の本発明はまた、上記いずれかのベクターを植物に導入することにより、該植物におけるシス型イソプレノイドの生産量を向上させる方法に関する。
【0024】
第2の本発明はまた、上記いずれかのベクターを植物に導入することにより、該植物におけるポリイソプレノイドの生産量を向上させる方法に関する。
【0025】
第2の本発明はまた、上記いずれかのベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び上記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0026】
第2の本発明はまた、上記いずれかのベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び上記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0027】
第1の本発明によれば、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質をゴム粒子に結合させる結合工程を含むポリイソプレノイドの製造方法であるので、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させることで、ゴム粒子中に100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドを合成することができ、効率的に反応槽(試験管、プラントなど)内でポリイソプレノイドを生産することが可能となる。
【0028】
第1の本発明の空気入りタイヤの製造方法は、第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び上記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法であるので、ポリイソプレノイド製造時の製造効率が高い手法で得られたポリイソプレノイドから空気入りタイヤを製造するため、植物資源を有効に利用でき、環境に配慮して空気入りタイヤを製造することができる。
【0029】
第1の本発明のゴム製品の製造方法は、第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び上記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法であるので、ポリイソプレノイド製造時の製造効率が高い手法で得られたポリイソプレノイドからゴム製品を製造するため、植物資源を有効に利用でき、環境に配慮してゴム製品を製造することができる。
【0030】
第2の本発明のベクターは、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーター、及び、該プロモーターに機能的に連結されたネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を含むベクターである。そして、該ベクターを植物に導入することにより、該ベクターに含まれる、ポリイソプレノイド生合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子が乳管特異的に発現し、当該植物におけるシス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドの生産量を向上させることができる。
【0031】
第2の本発明の空気入りタイヤの製造方法は、第2の本発明のベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び上記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法であるので、ポリイソプレノイド生産量の向上した形質転換植物から得られるポリイソプレノイドから空気入りタイヤを製造するため、植物資源を有効に利用でき、環境に配慮して空気入りタイヤを製造することができる。
【0032】
第2の本発明のゴム製品の製造方法は、第2の本発明のベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び上記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法であるので、ポリイソプレノイド生産量の向上した形質転換植物から得られるポリイソプレノイドから空気入りタイヤを製造するため、植物資源を有効に利用でき、環境に配慮してゴム製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例において透析法を行っている様子を示す概略図である。
図2】実施例1、2、比較例1において合成された超長鎖ポリイソプレノイドの分子量分布の測定結果を表すグラフである。
図3】実施例において用いられたネリル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列のマルチプルシーケンスアライメントを行った様子を示す概略図である。
図4】実施例において用いられたネリル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列のマルチプルシーケンスアライメントを行った様子を示す概略図である。
図5】種々の生物由来の炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのマルチプルシーケンスアライメントを行った様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書においては、第1の本発明と第2の本発明を合わせて本発明ともいう。まず、第1の本発明について説明し、続いて第2の本発明について説明する。
(第1の本発明)
第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法は、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質をゴム粒子に結合させる結合工程を含む。
本発明者らは、生体外で、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させることで、ゴム粒子中に100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドを合成することができることを初めて見出した。ネリル二リン酸合成酵素は、ゴム粒子上に配置され、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、ネリル二リン酸を合成することで、ポリイソプレノイド合成の開始末端(ω末端)を用意し、ゴム粒子によるゴム合成に関与しているものと推測される。より具体的には、ネリル二リン酸合成酵素によって合成されたイソプレン単位がシス型で連結されたネリル二リン酸を開始末端として、ゴム粒子上に存在する、イソプレノイド化合物の鎖長をシス型に延長する反応を触媒するシス型プレニルトランスフェラーゼ等によりポリイソプレノイドが合成されることから、100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドが合成されるものと考えられる。したがって、第1の本発明の製造方法のように、生体外で(例えば、反応槽(試験管、プラントなど)内で)、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させることで、ゴム粒子中に100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドを合成することができ、効率的に反応槽(試験管、プラントなど)内でポリイソプレノイドを生産することができる。
【0035】
更に、野生型のネリル二リン酸合成酵素は炭素数10までしかイソプレノイド鎖を伸長させることが出来ず、ポリイソプレノイド合成の開始末端の提供までしかできないが、ネリル二リン酸合成酵素の生成物の鎖長決定に寄与すると考えられるHelix3部位を、中鎖以上(炭素数35以上)のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位の配列に置換することにより、ネリル二リン酸合成酵素自身が100%シス型のポリイソプレノイドを合成することが可能となることをも本発明者らは初めて見出した。
【0036】
自然界に存在する天然ゴムの開始末端は必ずトランス型のイソプレノイド鎖であり、ゴム粒子に結合しているCPT(シス型プレニルトランスフェラーゼ)はトランス型のイソプレノイド鎖を開始末端として認識するとされてきた。酵素は厳密な基質特異性を有しており、シス型のネリル二リン酸を開始末端として利用できるかはわからなかった。
また、上述のとおり、ネリル二リン酸合成酵素は、炭素数10までしかイソプレノイド鎖を伸長させることができず、短鎖のイソプレノイド鎖しか合成できないものであることが知られていた。
このような中で、第1の本発明の製造方法においては、ネリル二リン酸合成酵素をゴム粒子に結合させることにより、ネリル二リン酸合成酵素の生成物をゴム粒子に結合しているCPTが利用することで、100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドを合成することが可能となったものであり、この結果は、当業者の予測することのできない驚くべき結果といえる。そして更には、ネリル二リン酸合成酵素に上述のような変異を導入してゴム粒子に結合させることにより、ネリル二リン酸合成酵素自身で100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドを合成することが可能となり、この結果も、当業者の予測することのできない驚くべき結果といえる。
【0037】
なお、第1の本発明の製造方法は、上記結合工程を含む限りその他の工程を含んでいてもよく、また、各工程は1回行われてもよいし、複数回繰り返し行われてもよい。
また、第1の本発明において、ゴム粒子に結合するネリル二リン酸合成酵素の量は特に限定されない。
【0038】
本明細書において、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素が結合するとは、ネリル二リン酸合成酵素の全部又は一部がゴム粒子中に取り込まれる又はゴム粒子の膜構造に挿入される、といったことを意味するが、これに限らず、ゴム粒子表面又は内部に局在する等の場合をも意味する。また更には、ゴム粒子に結合している蛋白質とネリル二リン酸合成酵素が複合体を形成し、複合体としてゴム粒子上に存在する場合もゴム粒子に結合しているとの概念範囲に含まれる。
【0039】
上記ゴム粒子の由来は特に限定されず、例えば、パラゴムノキ、ロシアンタンポポ、グアユール、ノゲシなどのゴム産生植物のラテックス由来であればよい。
【0040】
また、上記ゴム粒子の粒子径も特に限定されず、所定の粒子径のものを分取して用いてもよいし、様々な粒子径のものが含まれた状態のものを使用してもよく、所定の粒子径のものを分取して用いる場合であっても、用いられるゴム粒子としては、粒子径の小さいSmall Rubber Particles(SRP)を用いてもよいし、粒子径の大きいLarge Rubber Particles(LRP)を用いてもよい。
【0041】
上記所定の粒子径のゴム粒子を分取する方法としては、通常行われる方法を採用することができるが、例えば、遠心分離処理、より好ましくは多段階の遠心分離処理、を行う方法などが挙げられる。具体的には、500~1500×gでの遠心分離処理、1700~2500×gでの遠心分離処理、7000~9000×gでの遠心分離処理、15000~25000×gでの遠心分離処理、40000~60000×gでの遠心分離処理を順に行う方法が挙げられる。なお、各遠心分離処理の処理時間としては、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、40分以上が更に好ましい。一方、120分以下が好ましく、90分以下がより好ましい。また、各遠心分離処理の処理温度としては、0~10℃が好ましく、2~8℃がより好ましく、4℃が特に好ましい。
【0042】
上記結合工程においては、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質がゴム粒子に結合される。
【0043】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、その由来は特に制限されず、微生物由来であっても、動物由来であっても、植物由来であってもよいが、植物由来であることが好ましく、Solanum属由来であることがより好ましい。中でも、トマト由来であることが特に好ましい。
【0044】
なお、本明細書において、ネリル二リン酸合成酵素は、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質としてネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素である。上記ネリル二リン酸合成酵素としては、トマト由来のNDPSなどが挙げられる。
【0045】
ここで、本明細書において、イソプレノイド化合物とは、イソプレン単位(C)を有する化合物を意味する。また、シス型イソプレノイドは、イソプレン単位がシス型に結合したイソプレノイド化合物を有する化合物であり例えば、ネリル二リン酸、シス-ファルネシル二リン酸(Z,Z-ファルネシル二リン酸)、ネリルネリル二リン酸、シス型ポリイソプレノイドなどが挙げられる。
【0046】
また、第1の本発明においては、生体外で、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させることで、ゴム粒子中にポリイソプレノイドを合成することができるが、上述のように、ネリル二リン酸合成酵素は、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、イソプレン単位がシス型で連結されたネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素であり、ゴム粒子上で、この合成されたネリル二リン酸を開始末端として、イソプレノイド化合物の鎖長をシス型に延長する反応が進行することで、ポリイソプレノイドが合成されるものと推測され、反応に関与する酵素の反応特異性から、100%シス型のポリイソプレノイドが合成されるものと推測される。したがって、第1の本発明においては、トランス型が含まれず、全てのイソプレン単位がシス型で連結された、100%シス型のポリイソプレノイドが得られるといえる。すなわち、第1の本発明において製造されるポリイソプレノイドが、100%シス型のポリイソプレノイドであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0047】
また、上述のように、第1の本発明においては、トランス型が含まれず、全てのイソプレン単位がシス型で連結された、短鎖ではないポリイソプレノイドを得ることができるものであるが、第1の本発明において製造されるポリイソプレノイドの重量平均分子量(Mw)としては、10万以上であることが好ましく、80万以上であることがより好ましい。また、上限は特に限定されないが、通常200万程度である。
【0048】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0049】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、ゴムを産生しない植物由来であり、ネリル二リン酸合成酵素は当然、自然状態ではゴム合成に関与していない。にもかかわらず、本発明においては、ネリル二リン酸合成酵素であれば、ゴム粒子に結合させることで、ゴム粒子中に100%シス型のポリイソプレノイドを含むポリイソプレノイドを合成することができる。
【0050】
本発明において用いるネリル二リン酸合成酵素はゴム粒子との親和性を上げるために、N末端側に膜貫通領域を持っていることが望ましく、野生型として持っていない場合はネリル二リン酸合成酵素のN末端側に人工的に膜貫通領域を融合させても良い。融合させる膜貫通領域のアミノ酸配列は特に限定されないが、自然界で本来ゴム粒子に結合している蛋白質が持つ膜貫通領域のアミノ酸配列であることが望ましい。
【0051】
あるいは、本発明において用いるネリル二リン酸合成酵素はゴム粒子との親和性を上げるために、野生型として末端にシグナル配列を持っている場合は、ネリル二リン酸合成酵素のシグナル配列を除いて用いるのが好ましいが、付加されたものを用いてもよい。
【0052】
上記シグナル配列は、生体内において、リボソームで生合成された蛋白質が各オルガネラ等へ輸送、局在化されるために用いられる、蛋白質中に存在する配列であり、蛋白質が輸送、局在化されるオルガネラごとに異なる配列となっている。
例えば、配列番号2で示されるトマト由来のNDPSであれば、配列番号2における2位から44位までのアミノ酸配列がシグナル配列に相当する。
【0053】
上記ネリル二リン酸合成酵素としては、シグナル配列を除いたものを用いることが好ましく、そのようなネリル二リン酸合成酵素の具体例としては、下記[1]が挙げられる。
[1]配列番号8で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
【0054】
また、蛋白質は、元のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含む場合であっても本来持つ機能を有する場合があることが知られている。従って、上記ネリル二リン酸合成酵素の具体例としては、下記[2]も挙げられる。
[2]配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含む配列からなり、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、ネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質
【0055】
なお、上記ネリル二リン酸合成酵素としての機能を維持するためには、配列番号8で表されるアミノ酸配列において、好ましくは1若しくは複数個のアミノ酸、より好ましくは1~52個のアミノ酸、更に好ましくは1~39個のアミノ酸、更により好ましくは1~26個のアミノ酸、更に好ましくは1~18個のアミノ酸、特に好ましくは1~13個のアミノ酸、最も好ましくは1~6個のアミノ酸、より最も好ましくは1~3個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列であることが好ましい。
【0056】
アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
【0057】
また、蛋白質は、元のアミノ酸配列と配列同一性の高いアミノ酸配列を有する蛋白質も同様の機能を有する場合があることが知られている。従って、上記ネリル二リン酸合成酵素の具体例としては、下記[3]も挙げられる。
[3]配列番号8で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、ネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質
【0058】
なお、上記ネリル二リン酸合成酵素としての機能を維持するためには、配列番号8で表されるアミノ酸配列との配列同一性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは93%以上、より更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0059】
本明細書において、アミノ酸配列や塩基配列の配列同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)]やFASTA[Methods Enzymol., 183, 63 (1990)]を用いて決定することができる。
【0060】
上記酵素活性を有する蛋白質であることを確認する方法としては、例えば、従来公知の方法を用いることができ、例えば、大腸菌などを用いて、目的の蛋白質をコードする遺伝子を導入した形質転換体により、目的蛋白質を発現させ、目的蛋白質の機能の有無をそれぞれの活性測定法により、活性測定等を行う方法が挙げられる。
【0061】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、ネリル二リン酸合成酵素をコードし、発現させてネリル二リン酸合成酵素を産出できるものであれば特に制限されないが、上述したとおり、上記ネリル二リン酸合成酵素としてはシグナル配列を除いたものを用いることが好ましく、そのようなネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子としては、具体的には、下記[1]又は[2]が挙げられる。
[1]配列番号7で表される塩基配列からなるDNA
[2]配列番号7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、ネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0062】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部にDNAがハイブリダイズする工程である。したがって、該特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部の塩基配列は、ノーザンまたはサザンブロット解析のプローブとして有用であるか、またはPCR(Polymerase Chain Reaction)解析のオリゴヌクレオチドプライマーとして使用できる長さのDNAであってもよい。プローブとして用いるDNAとしては、少なくとも100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは500塩基以上のDNAをあげることができるが、少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上のDNAであってもよい。
【0063】
DNAのハイブリダイゼーション実験の方法はよく知られており、例えばモレキュラー・クローニング第2版、第3版(2001年)、Methods for General and Molecular Bacteriology, ASM Press(1994)、Immunology methods manual, Academic press(Molecular)に記載の他、多数の他の標準的な教科書に従ってハイブリダイゼーションの条件を決定し、実験を行うことができる。
【0064】
上記のストリンジェントな条件とは、例えばDNAを固定化したフィルターとプローブDNAとを50%ホルムアミド、5×SSC(750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20μg/lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で42℃で一晩、インキュベートした後、例えば約65℃の0.2×SSC溶液中で該フィルターを洗浄する条件をあげることができるが、より低いストリンジェント条件を用いることもできる。ストリンジェントな条件の変更は、ホルムアミドの濃度調整(ホルムアミドの濃度を下げるほど低ストリンジェントになる)、塩濃度および温度条件の変更により可能である。低ストリンジェント条件としては、例えば6×SSCE(20×SSCEは、3mol/lの塩化ナトリウム、0.2mol/lのリン酸二水素ナトリウム、0.02mol/lのEDTA、pH7.4)、0.5%のSDS、30%のホルムアミド、100μg/lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベートした後、50℃の1×SSC、0.1%SDS溶液を用いて洗浄する条件をあげることができる。また、さらに低いストリンジェントな条件としては、上記した低ストリンジェント条件において、高塩濃度(例えば5×SSC)の溶液を用いてハイブリダイゼーションを行った後、洗浄する条件をあげることができる。
【0065】
上記した様々な条件は、ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑えるために用いるブロッキング試薬を添加、または変更することにより設定することもできる。上記したブロッキング試薬の添加は、条件を適合させるために、ハイブリダイゼーション条件の変更を伴ってもよい。
【0066】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えばBLASTおよびFASTA等のプログラムを用いて、上記パラメータに基づいて計算したときに、配列番号7で表される塩基配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAをあげることができる。
【0067】
上記したDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが、所定の酵素活性を有する蛋白質をコードするDNAであることを確認する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、大腸菌などを用いて、目的の蛋白質をコードする遺伝子を導入した形質転換体により、目的蛋白質を発現させ、目的蛋白質の機能の有無をそれぞれの活性測定法により、活性測定等を行う方法が挙げられる。
【0068】
また、上記蛋白質のアミノ酸配列及び塩基配列を同定する方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、生育する植物から、Total RNAを抽出し、必要に応じてmRNAを精製し、逆転写反応によりcDNAを合成する。次に目的蛋白質に相当する既知の蛋白質のアミノ酸配列をもとに、縮重プライマーを設計し、RT-PCRを行い、部分的にDNA断片の増幅を行い、部分的に配列を同定する。次いで、RACE法などを行い、全長の塩基配列及びアミノ酸配列を同定する。RACE法(Rapid Amplification of cDNA Ends法)とは、cDNAの塩基配列が部分的に把握されているときに、その既知領域の塩基配列情報を基にPCRを行って、cDNA末端までの未知領域をクローニングする方法で、cDNAライブラリーの作製を経ずに、PCR法によって全長のcDNAをクローニングすることができる方法である。
なお、縮重プライマーは、上記目的蛋白質と共通性の高い配列部位を有する植物由来の配列から作製することが好ましい。
また、上記蛋白質をコードする塩基配列が既知の場合には、その知られている塩基配列から開始コドンを含むプライマー及び終止コドンを含むプライマーを設計し、合成したcDNAを鋳型にしてRT-PCRを行うことで全長の塩基配列及びアミノ酸配列を同定することができる。
【0069】
上記ネリル二リン酸合成酵素としては、Helix3部位を、炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位に置換した変異蛋白質であることが好ましい。
【0070】
上記ネリル二リン酸合成酵素のHelix3部位とは、ネリル二リン酸合成酵素の生成物の鎖長決定に寄与すると考えられている部位であり、例えば、配列番号2で示されるトマト由来のNDPSのアミノ酸配列では、147位から163位までのアミノ酸配列に相当する。
【0071】
上記ネリル二リン酸合成酵素を、上述のような変異蛋白質とすることによって、ネリル二リン酸合成酵素の生成物の鎖長決定に寄与すると考えられるHelix3部位が、中鎖以上(炭素数35以上)のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位の配列に置換され、ネリル二リン酸合成酵素自身が100%シス型のポリイソプレノイドを合成することが可能となる。
【0072】
上記ネリル二リン酸合成酵素のHelix3部位、及び、上記ネリル二リン酸合成酵素のHelix3部位と置換される、炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位は、結晶構造が既知であるマイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)とのマルチアライメントアミノ酸比較により、当該マイクロコッカス属菌由来のUPSのHelix3部位(配列番号15で表されるマイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)における90位から110位のアミノ酸配列〔KLPGDFLNTFLPELIEKNVKV〕)に対応する部位として定義することができ、これにより、当業者であれば、上記ネリル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列、及び、上記炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのアミノ酸配列から当該定義によりHelix3部位を一義的に決定することが可能である。
【0073】
上記ネリル二リン酸合成酵素のHelix3部位は、炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのHelix3部位のアミノ酸配列、又は、該アミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列と置換されることが好ましい。上記配列同一性としては、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0074】
ここで、上記炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼ(CPT)としては、例えば、パラゴムノキ由来のCPT(HRT1、HRT2、CPT3~5)、シロイヌナズナ由来のAtCPT1~9、レタス由来のCPT1~3、Taraxacum brevicorniculatum由来のCPT1~3、大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)、マイクロコッカス属菌由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)、酵母由来のSRT1、タバコ由来のDDPS、マウス由来のDDPS、ヒト由来のHDSなどが挙げられる。
【0075】
より具体的には、上記ネリル二リン酸合成酵素のHelix3部位が、配列番号13で表されるシロイヌナズナ由来のCPT4(AtCPT4)における147位から167位のHelix3部位のアミノ酸配列(SLFERSLKTEFQNLAKNNVRI)で置換される形態が本発明の好適な実施形態の1つである。
【0076】
その他、上記炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼ(CPT)のHelix3部位の具体例としては、配列番号14で表される大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)における86位から106位のアミノ酸配列(ELFVWALDSEVKSLHRHNVRL)、配列番号16で表される酵母由来のSRT1における136位から161位のアミノ酸配列(NLFTVKLDEFAKRAKDYKDPLYGSKI)、配列番号17で表されるヒト由来のHDSにおける95位から118位のアミノ酸配列(DLARQKFSRLMEEKEKLQKHGVCI)などが挙げられる。
【0077】
ここで、種々の生物由来の炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのマルチプルシーケンスアライメントを行った様子を示す概略図を図5に示す。これにより、マイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)のHelix3部位(配列番号15で表されるマイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)における90位から110位のアミノ酸配列)は、大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)においては、配列番号14で表される大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)における86位から106位のアミノ酸配列に対応し、酵母由来のSRT1においては、配列番号16で表される酵母由来のSRT1における136位から161位のアミノ酸配列に対応し、ヒト由来のHDSにおいては、配列番号17で表されるヒト由来のHDSにおける95位から118位のアミノ酸配列に対応することが当業者であれば理解可能である。図5中、Helix3部位を囲んでいる。
なお、上記マルチプルシーケンスアライメントは、後述の実施例の方法により実施できる。
【0078】
上記変異蛋白質の具体例としては、下記[4]が挙げられる。
[4]配列番号12で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
【0079】
また、蛋白質は、元のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含む場合であっても同様の機能を有する場合があることが知られている。従って、上記変異蛋白質の具体例としては、下記[5]も挙げられる。
[5]配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含む配列からなり、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、100%シス型のポリイソプレノイドを合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質
【0080】
なお、上記機能を維持するためには、配列番号12で表されるアミノ酸配列において、好ましくは1若しくは複数個のアミノ酸、より好ましくは1~53個のアミノ酸、更に好ましくは1~40個のアミノ酸、更により好ましくは1~27個のアミノ酸、特に好ましくは1~14個のアミノ酸、最も好ましくは1~6個のアミノ酸、より最も好ましくは1~3個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列であることが好ましい。
【0081】
アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
【0082】
また、蛋白質は、元のアミノ酸配列と配列同一性の高いアミノ酸配列を有する蛋白質も同様の機能を有する場合があることが知られている。従って、上記変異蛋白質の具体例としては、下記[6]も挙げられる。
[6]配列番号12で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、100%シス型のポリイソプレノイドを合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質
【0083】
なお、上記機能を維持するためには、配列番号12で表されるアミノ酸配列との配列同一性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0084】
上記酵素活性を有する蛋白質であることを確認する方法としては、上述したのと同様の方法が挙げられる。
【0085】
上記変異蛋白質をコードする遺伝子としては、具体的には、下記[3]又は[4]が挙げられる。
[3]配列番号11で表される塩基配列からなるDNA
[4]配列番号11で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつイソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、100%シス型のポリイソプレノイドを合成する反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0086】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、上述したのと同様である。また、上記ストリンジェントな条件についても、上述したのと同様である。
【0087】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えばBLASTおよびFASTA等のプログラムを用いて、上記パラメータに基づいて計算したときに、配列番号11で表される塩基配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAをあげることができる。
【0088】
上記したDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが、所定の酵素活性を有する蛋白質をコードするDNAであることを確認する方法としては、上述したのと同様の方法が挙げられる。
【0089】
なお、上記蛋白質のアミノ酸配列及び塩基配列を同定する方法は、上述したのと同様である。
【0090】
なお、上記結合工程においては、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質がゴム粒子に結合される限り、更にその他の蛋白質が結合されてもよい。
【0091】
上記その他の蛋白質の由来は特に制限されないが、植物由来であることが好ましく、ゴム産生植物由来であることがより好ましく、Hevea属、Sonchus属、Taraxacum属、及びParthenium属からなる群より選択される少なくとも1種の属に属する植物由来であることが更に好ましい。中でも、パラゴムノキ、ノゲシ、グアユール及びロシアンタンポポからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来であることがより更に好ましく、特に好ましくは、パラゴムノキ由来であることである。
【0092】
上記その他の蛋白質としては、何ら制限されずいかなる蛋白質であってもよいが、ゴム粒子のゴム合成能力の観点からは、ゴム産生植物体内でもともとゴム粒子上に存在する蛋白質であることが好ましい。なお、ゴム粒子上に存在する蛋白質は、大きくゴム粒子の膜表面に結合する蛋白質であってもよいし、ゴム粒子の膜に挿入されるように結合する蛋白質であってもよいし、上記膜に結合している蛋白質と複合体を形成して膜表面上に存在することになる蛋白質であってもよい。
【0093】
上記ゴム産生植物体内でもともとゴム粒子上に存在する蛋白質としては、例えば、シス型プレニルトランスフェラーゼ(CPT)、Nogo-B receptor(NgBR)、Rubber Elongation Factor(REF)、Small Rubber Particle Protein(SRPP)、β-1,3-グルカナーゼ、Heveinなどが挙げられる。
【0094】
上記結合工程は、生体外で、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させることができればその手段は特に制限されず、例えば、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて蛋白質合成を行い、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させる方法などが挙げられる。
【0095】
上記結合工程としては、中でも、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて蛋白質合成を行い、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素を結合させる工程であることが好ましい。
すなわち、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて(より具体的には、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを混合して)蛋白質合成を行うことで、ネリル二リン酸合成酵素の結合したゴム粒子を得ることが好ましい。
なお、リポソームはリン脂質、グリセロ糖脂質、コレステロール等から構成される脂質二重膜として人工的に製造されるため、製造されたリポソームの表面には蛋白質は結合していないのに対して、ゴム産生植物のラテックスから採取されるゴム粒子も脂質膜で覆われた粒子であるが、その膜は天然由来の膜であるため、その表面には植物体内で合成された蛋白質が既に結合している。このことから、蛋白質が結合していないリポソームなどに比べて、既に蛋白質が結合しており、蛋白質で覆われた状態にあるゴム粒子に更に蛋白質を結合させるのは困難であることが予想される。また、ゴム粒子に既に結合している蛋白質が無細胞蛋白合成を阻害することも懸念される。以上のような点から、ゴム粒子共存下での無細胞蛋白合成は実現が困難であると考えられてきた。このような状況下、本発明者らは、これまでに試みられていなかった、ネリル二リン酸合成酵素の無細胞蛋白合成をゴム粒子の共存下で行ったところ、ネリル二リン酸合成酵素の結合したゴム粒子を製造することができることを見出した。
【0096】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて行われる蛋白質合成は、いわゆる、無細胞蛋白合成法を用いたネリル二リン酸合成酵素の合成であり、生物学的機能を担持した(native状態の)ネリル二リン酸合成酵素を合成でき、当該無細胞蛋白合成法をゴム粒子の共存下で行うことにより、合成されるネリル二リン酸合成酵素をnative状態でゴム粒子に結合することが可能となる。
【0097】
ここで、上記無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子との共存下、蛋白質合成を行うことで、ゴム粒子にネリル二リン酸合成酵素が結合するとは、当該蛋白質合成により合成されたネリル二リン酸合成酵素の各蛋白質の全部又は一部がゴム粒子中に取り込まれる又はゴム粒子の膜構造に挿入される、といったことを意味するが、これに限らず、ゴム粒子表面又は内部に局在する等の場合をも意味する。また更には、上述のようにゴム粒子に結合している蛋白質と複合体を形成し、複合体としてゴム粒子上に存在する場合もゴム粒子に結合しているとの概念範囲に含まれる。
【0098】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAはそれぞれ、翻訳されてネリル二リン酸合成酵素を合成しうる翻訳鋳型である。
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAの由来は特に制限されず、微生物由来であっても、動物由来であっても、植物由来であってもよいが、植物由来であることが好ましく、Solanum属由来であることがより好ましい。中でも、トマト由来であることが特に好ましい。
【0099】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAはそれぞれ、翻訳されてネリル二リン酸合成酵素を合成しうる翻訳鋳型であればその調製方法は特に制限されないが、例えば、植物の葉からホットフェノール法などによりTotal RNAを抽出し、得られたTotal RNAからcDNAを合成し、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子の塩基配列情報を元に作製したプライマーを用いてネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子のDNA断片を取得して、該DNA断片を元に通常行われるインビトロでの転写反応を行うことにより調製することができる。
【0100】
上記無細胞蛋白合成溶液は、上記ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む限り、その他の蛋白質をコードするmRNAを含んでいてもよい。
上記その他の蛋白質をコードするmRNAとしては、翻訳されてその他の蛋白質を発現することができるものを用いることができる。なお、その他の蛋白質としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0101】
第1の本発明における結合工程においては、ゴム粒子の共存下でネリル二リン酸合成酵素の無細胞蛋白合成が行われることが好ましいが、当該無細胞蛋白合成は、上記無細胞蛋白合成溶液を用いて、従来と同様の方法で行うことができる。用いられる無細胞蛋白合成系としては、通常用いられる無細胞蛋白質合成手段を採用することができる。例えば、Rapid Translation System RTS500(Roshe Diagnostics社製)やProc.Natl.Acad.Sci.USA,97:559-564(2000)、特開2000-236896号公報、特開2002-125693号公報、特開2002-204689号公報に従って調製された小麦胚芽抽出液及びその無細胞蛋白質合成系(特開2002-204689号公報、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:14652-14657(2002))を使用することができる。中でも、胚芽抽出物を用いる系が好ましい。すなわち、上記無細胞蛋白合成溶液が、胚芽抽出物を含むこともまた、第1の本発明の好適な実施形態の1つである。
【0102】
上記胚芽抽出物の由来は特に限定されないが、翻訳効率の観点からは、植物の蛋白質を無細胞蛋白合成法で合成する場合には植物由来の胚芽抽出物を用いることが好ましい。特に好ましくは小麦由来の胚芽抽出物を用いることである。すなわち、上記胚芽抽出物が小麦由来であることもまた、第1の本発明の好適な実施形態の1つである。
【0103】
上記胚芽抽出物の調製方法としては特に制限されず、通常の胚芽抽出物調製方法を採用することができるが、例えば、特開2005-218357号公報に記載された方法を採用すればよい。
【0104】
上記無細胞蛋白合成溶液は、更にサイクリックヌクレオシド一リン酸誘導体又はその塩(以降、単に「活性増強物質」とも称する。)を含むことが好ましい。該活性増強物質を含有することにより、蛋白質合成活性を更に増強させることができる。
【0105】
上記サイクリックヌクレオシド一リン酸誘導体又はその塩としては、無細胞蛋白合成活性を増強しうるものであれば特に制限されず、例えば、アデノシン-3’,5’サイクリック一リン酸及びその塩、アデノシン-3’,5’サイクリックチオ一リン酸(Spアイソマー)及びその塩、アデノシン-3’,5’サイクリックチオ一リン酸(Rpアイソマー)及びその塩、グアノシン-3’,5’サイクリック一リン酸及びその塩、グアノシン-3’,5’サイクリックチオ一リン酸(Spアイソマー)及びその塩、グアノシン-3’,5’サイクリックチオ一リン酸(Rpアイソマー)及びその塩、8-ブロモアデノシン-3’,5’-サイクリック一リン酸(ブロモcAMP)及びその塩、8-(4-クロロフェニルチオ)アデノシン-3’,5’-サイクリック一リン酸(クロロフェニルチオcAMP)及びその塩、5,6-ジクロロ-1-β-D-リボフラノシルべンジミダゾルアデノシン-3’,5’-サイクリック一リン酸(ジクロロリボフラノシルべンジミダゾルcAMP)及びその塩、アデノシン-2’,5’サイクリック一リン酸及びその塩、アデノシン-2’,5’サイクリックチオ一リン酸(Spアイソマー)及びその塩、アデノシン-2’,5’サイクリックチオ一リン酸(Rpアイソマー)及びその塩、グアノシン-2’,5’サイクリック一リン酸及びその塩、グアノシン-2’,5’サイクリックチオ一リン酸(Spアイソマー)及びその塩、グアノシン-2’,5’サイクリックチオ一リン酸(Rpアイソマー)及びその塩等が挙げられる。
【0106】
上記サイクリックヌクレオシド一リン酸誘導体との塩を形成する塩基としては、生化学的に許容しうるもので、当該誘導体と塩を形成するものであれば特に制限されないが、中でも好ましいものとしては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、トリスヒドロキシアミノメタン等の有機塩基が挙げられる。
【0107】
上記活性増強物質としては、中でも、アデノシン-3’,5’サイクリック一リン酸、アデノシン-3’,5’サイクリック一リン酸ナトリウムが特に好ましい。また、これら活性増強物質は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
上記活性増強物質は、あらかじめ上記無細胞蛋白合成溶液に加えておいてもよいが、当該溶液中で不安定である場合には、無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて蛋白質合成反応を行う際に加えるのが好ましい。
【0109】
上記活性増強物質の添加量としては、上記無細胞蛋白合成溶液による蛋白質合成反応が活性化(増加)しうる濃度であれば特に制限されない。具体的には、反応系中の最終濃度として、通常0.1ミリモル/リットル以上であればよい。濃度の下限は、好ましくは0.2ミリモル/リットル、より好ましくは0.4ミリモル/リットル、特に好ましくは0.8ミリモル/リットルである。他方、濃度の上限は、好ましくは24ミリモル/リットル、より好ましくは6.4ミリモル/リットル、特に好ましくは3.2ミリモル/リットルである。
【0110】
上記活性増強物質を上記無細胞蛋白合成溶液に加える際の無細胞蛋白合成溶液の温度としては特に限定されないが、0~30℃が好ましく、10~26℃がより好ましい。
【0111】
上記無細胞蛋白合成溶液は、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNA(翻訳鋳型)に加え、蛋白質合成に必須の成分であるATP、GTP、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、L型アミノ酸、カリウムイオン及びマグネシウムイオン等を含有し、更には必要に応じて活性増強物質を含むものであり、このような無細胞蛋白合成溶液を用いることにより無細胞蛋白合成反応系とすることができる。
なお、上記特開2005-218357号公報に記載された方法で調製された胚芽抽出物には蛋白質合成反応に必要とされる量のtRNAが含まれているため、当該方法により調製された胚芽抽出物を無細胞蛋白合成溶液に用いる場合には、別途調製したtRNAを追加することは必須要件ではない。すなわち、無細胞蛋白合成溶液には、必要に応じてtRNAを追加すればよい。
【0112】
第1の本発明における結合工程は、ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを含む無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とを共存させて蛋白質合成を行うことが好ましいものであるが、具体的には蛋白質の合成前又は合成後の適当な時期に、好ましくは蛋白質合成前に、上記無細胞蛋白合成溶液にゴム粒子を加えることにより行うことができる。
また、無細胞蛋白合成溶液と共存させるゴム粒子の濃度は、5~50g/Lであることが好ましい。すなわち、無細胞蛋白合成溶液1Lに対してゴム粒子を5~50g共存させることが好ましい。無細胞蛋白合成溶液と共存させるゴム粒子の濃度が5g/L未満であると、合成されたネリル二リン酸合成酵素が結合したゴム粒子を回収するために、超遠心分離等による分離処理を行った際に、ゴム層が形成されず、合成されたネリル二リン酸合成酵素が結合したゴム粒子を回収することが困難になる場合がある。一方、無細胞蛋白合成溶液と共存させるゴム粒子の濃度が50g/Lを超えると、ゴム粒子同士が凝集し、合成されたネリル二リン酸合成酵素がうまくゴム粒子に結合できなくなるおそれがある。上記ゴム粒子の濃度としてより好ましくは10~40g/L、更に好ましくは15~35g/L、特に好ましくは15~30g/Lである。
【0113】
また、上記無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子との共存下での蛋白質合成は、その反応の進展に伴い、適宜ゴム粒子を追加していってもよい。ゴム粒子を上記無細胞蛋白合成溶液に加えてから例えば3~48時間(好ましくは3~30時間、より好ましくは3~24時間)など無細胞蛋白合成系が活性な間、上記無細胞蛋白合成溶液とゴム粒子とが共存するようにしておくことが好ましい。
【0114】
上記ゴム粒子は、第1の本発明における結合工程に用いる前に(より好ましくは前記無細胞蛋白合成溶液と共存させる前に)前処理等の特段の処理を行う必要はない。ただし、ゴム粒子上に存在する蛋白質のうち、第1の本発明の方法により結合させたいネリル二リン酸合成酵素の割合を高めるために、予め界面活性剤によりゴム粒子からある程度蛋白質を除去してもよい。その際、除去後のゴム粒子のゴム合成活性が除去前の50%以上残っていることが好ましい。このように、第1の本発明において用いられるゴム粒子が、第1の本発明における結合工程に用いる前に(より好ましくは前記無細胞蛋白合成溶液と共存させる前に)、界面活性剤で洗浄されたものであることもまた、第1の本発明の好適な実施形態の1つである。
【0115】
上記界面活性剤としては特に限定されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、膜上の蛋白質の変性作用が小さい点で、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好適に用いられ、両性界面活性剤が特に好適に用いられる。すなわち、上記界面活性剤が、両性界面活性剤であることもまた、第1の本発明の好適な実施形態の1つである。
これら界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0116】
上記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系、ポリオキシアルキレンポリグルコシド系の非イオン性界面活性剤や、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオキシアルキレンエーテル系の非イオン性界面活性剤、多価アルコール脂肪酸エステル系の非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0117】
上記ポリオキシアルキレンエーテル系の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンモノ、ジ、又はトリスチリルフェニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルが好適に使用される。なお、前記ポリオールとしては、炭素数2~12の多価アルコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、グルコース、スクロース、ペンタエリトリトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0118】
上記ポリオキシアルキレンエステル系の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルロジン酸エステル等が挙げられる。
上記多価アルコール脂肪酸エステル系の非イオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数2~12の多価アルコールの脂肪酸エステル又はポリオキシアルキレン多価アルコールの脂肪酸エステル等が挙げられる。より具体的には、例えば、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリトリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。また、これらのポリアルキレンオキサイド付加物(例えば、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル等)も使用可能である。これらの中でも、ソルビタン脂肪酸エステルが好適に使用される。
上記糖脂肪酸エステル系の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ショ糖、グルコース、マルトース、フルクトース、多糖類の脂肪酸エステル等が挙げられ、これらのポリアルキレンオキサイド付加物も使用可能である。
上記アルキルポリグリコシド系の非イオン性界面活性剤としては、グリコシドとしてグルコース、マルトース、フルクトース、ショ糖などが挙げられ、例えば、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、ポリオキシアルキレンアルキルグルコシド、ポリオキシアルキレンアルキルポリグルコシドなどが挙げられ、これらの脂肪酸エステル類も挙げられる。また、これらすべてのポリアルキレンオキサイド付加物も使用可能である。
【0119】
これら非イオン性界面活性剤におけるアルキル基としては、例えば、炭素数4~30の直鎖又は分岐した飽和若しくは不飽和のアルキル基が挙げられる。また、ポリオキシアルキレン基としては、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、例えば、酸化エチレンの付加モル数が1~50モル程度のものが挙げられる。また、前記脂肪酸としては、例えば、炭素数4~30の直鎖又は分岐した飽和若しくは不飽和の脂肪酸が挙げられる。
【0120】
上記非イオン性界面活性剤としては、中でも、ゴム粒子の膜を安定化させた状態で、かつ蛋白質の変性作用が小さい状態で、適度に膜結合蛋白質を除去できるという理由から、ポリオキシエチレンエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)、ソルビタンモノラウレート(Span 20)が特に好ましい。
【0121】
上記両性界面活性剤としては、例えば、四級アンモニウム塩基/スルホン酸基(-SOH)タイプ、四級アンモニウム塩基/リン酸酸基タイプ(水に可溶)、四級アンモニウム塩基/リン酸酸基タイプ(水に不溶)、四級アンモニウム塩基/カルボキシル基タイプなどの両性イオン界面活性剤が挙げられる。なお、前記の酸基は塩であってもよい。
特に、前記の両性イオン界面活性剤が一分子中に+と-の両電荷を有することが好ましく、前記の酸基の酸解離定数(pKa)が、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。
【0122】
上記両性界面活性剤としては、具体的には、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(CHAPSO)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ]-プロパンスルホン酸(CHAPS)、N,N-ビス(3-D-グルコナミドプロピル)-コラミド、n-オクタデシル-N,N’-ジメチル-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、n-デシル-N,N’-ジメチル-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、n-ドデシル-N,N’-ジメチル-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、n-テトラデシル-N,N’-ジメチル-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸{Zwittergent(商標)-3-14}、n-ヘキサデシル-N,N’-ジメチル-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、n-オクタデシル-N,N’-ジメチル-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸等のアンモニウムスルホベタイン類、n-オクチルホスホコリン、n-ノニルホスホコリン、n-デシルホスホコリン、n-ドデシルホスホコリン、n-テトラデシルホスホコリン、n-ヘキサデシルホスホコリン等のホスホコリン類、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン類が挙げられる。これらの中でも、ゴム粒子の膜を安定化させた状態で適度に蛋白質を除去できるという理由から、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ]-プロパンスルホン酸(CHAPS)が特に好ましい。
【0123】
上記界面活性剤の処理濃度は、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)の3倍以内であることが好ましい。臨界ミセル濃度の3倍を超える濃度の界面活性剤で処理するとゴム粒子の膜安定性が低下するおそれがある。より好ましくは2.5倍以内であり、更に好ましくは2.0倍以内である。また下限としては、0.05倍以上であることが好ましく、0.1倍以上であることがより好ましく、0.3倍以上であることが更に好ましい。
【0124】
上記無細胞蛋白合成における蛋白質合成のための反応システムまたは装置としては、バッチ(回分)法(Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179-209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford(1984))や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞蛋白質合成システム(Spirin,A.S.et al.,Science,242,1162-1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WID6)、重層法(PROTEIOSTM Wheat germ cell-free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。その他、蛋白質合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法等も用いることができる。
【0125】
中でも、重層法は操作が簡便であるという利点はあるものの反応溶液中でゴム粒子が分散してしまい、合成されるネリル二リン酸合成酵素をゴム粒子に効率よく結合させることが困難であるのに対して、透析法では、合成されるネリル二リン酸合成酵素の原料となるアミノ酸は透析膜を透過できるがゴム粒子は透過しないため、ゴム粒子の分散を防ぐことができ、効率的にゴム粒子に合成されるネリル二リン酸合成酵素を結合させることができることから、透析法が好ましい。
【0126】
なお、上記透析法とは、上記無細胞蛋白合成における蛋白質合成の合成反応液を透析内液とし、透析外液と物質移動が可能な透析膜によって隔離される装置を用いて、蛋白質合成を行う方法である。具体的には、例えば、翻訳鋳型を除いた上記合成反応液を必要に応じて適当時間プレインキュベートした後、翻訳鋳型を添加して、適当な透析容器に入れ反応内液とする。透析容器としては、底部に透析膜が付加されている容器(第一化学社製の透析カップ12,000等)や、透析用チューブ(三光純薬社製の12,000等)が挙げられる。透析膜は、10,000ダルトン以上の分子量限界を有するものが用いられるが、12,000ダルトン程度の分子量限界を有するものが好ましい。
【0127】
上記透析外液としては、アミノ酸を含む緩衝液が用いられる。透析外液は反応速度が低下した時点で、新鮮なものと交換することにより透析効率を上昇させることができる。反応温度及び時間は用いる蛋白質合成系において適宜選択されるが、例えば、小麦由来の胚芽抽出物を用いた系においては、通常10~40℃、好ましくは18~30℃、より好ましくは20~26℃で、10分~48時間(好ましくは10分~30時間、より好ましくは10分~24時間)行うことができる。
【0128】
また、上記無細胞蛋白合成溶液に含まれるネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAは、分解されやすいことから、上記蛋白質合成反応中に適宜当該mRNAを追加することで、蛋白質の合成をより効率的に行うことができる。すなわち、上記蛋白質合成反応中に、上記ネリル二リン酸合成酵素をコードするmRNAを更に加えることもまた、第1の本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上記mRNAの添加時間、添加回数、添加量等は特に制限されず、適宜設定することができる。
【0129】
第1の本発明の製造方法においては、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質をゴム粒子に結合させる結合工程を行った後、必要に応じてゴム粒子を回収する工程を行ってもよい。
【0130】
上記ゴム粒子回収工程は、ゴム粒子を回収することができればその手法は特に制限されず、ゴム粒子を回収する通常行われる方法により行うことができる。具体的には、例えば、遠心分離により行う方法などが挙げられる。当該遠心分離によりゴム粒子を回収する場合、その遠心力や、遠心分離処理時間、遠心分離処理温度はゴム粒子を回収できるよう適宜設定することができるが、例えば、遠心分離処理の遠心力としては、15000×g以上が好ましく、20000×g以上がより好ましく、25000×g以上が更に好ましい。一方、遠心力は大きくしすぎてもそれに見合うだけの分離効果が望めないことから、遠心力の上限としては、50000×g以下が好ましく、45000×g以下がより好ましい。遠心分離処理時間としては、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、40分以上が更に好ましい。一方、遠心分離処理時間を長くしすぎてもそれに見合うだけの分離効果が望めないことから、遠心分離処理時間の上限としては、120分以下が好ましく、90分以下がより好ましい。
また、遠心分離処理温度としては、ゴム粒子に結合したネリル二リン酸合成酵素のタンパク活性を維持するという観点から、0~10℃が好ましく、2~8℃がより好ましく、4℃が特に好ましい。
【0131】
例えば、上記無細胞蛋白合成を行った場合には、上記遠心分離処理を行うと、ゴム粒子が上層に、無細胞蛋白合成溶液が下層に分離される。その後、下層の無細胞蛋白合成溶液を除去することで、ネリル二リン酸合成酵素を結合させたゴム粒子を回収することができる。回収したゴム粒子はpHが中性の適当な緩衝液に再懸濁することで保存することができる。
【0132】
なお、上記ゴム粒子回収工程を行った後に回収されたゴム粒子は更なる特別な処理を経ずに通常の天然ゴムと同様に用いることができる。
【0133】
更に、第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドは、上記ゴム粒子を以下の固化工程に供することで回収することができる。
【0134】
上記固化工程において、固化する方法としては、特に限定されず、エタノール、メタノール、アセトン等のポリイソプレノイドを溶解しない溶媒にゴム粒子を添加する方法やゴム粒子に酸を添加する方法等が挙げられる。固化工程を行うことにより、ゴム粒子からゴム(ポリイソプレノイドの1種)を固形分として回収できる。得られたゴムは、必要に応じて乾燥してから使用すればよい。
【0135】
このように、第1の本発明によれば、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質をゴム粒子に結合させることで、ゴム粒子中にポリイソプレノイドを合成することができ、効率的に反応槽(試験管、プラントなど)内でポリイソプレノイドを生産することが可能となる。
すなわち、ポリイソプレノイドを合成する方法であって、該方法は、生体外(例えば、反応槽(試験管、プラントなど)内)で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質を、ゴム粒子に結合させる結合工程を含むポリイソプレノイドを合成する方法もまた、第1の本発明の1つである。
なお、生体外で、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を発現させた蛋白質を、ゴム粒子に結合させる結合工程については、上述したとおりである。
【0136】
なお、本明細書において、ポリイソプレノイドは、イソプレン単位(C)で構成された重合体の総称である。ポリイソプレノイドとしては、例えばセスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)、ゴムなどの重合体が挙げられる。また、本明細書において、イソプレノイドは、イソプレン単位(C)を有する化合物を意味し、ポリイソプレノイドをも含む概念である。
【0137】
(ゴム製品の製造方法)
第1の本発明のゴム製品の製造方法は、上記第1の本発明のポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び上記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法である。
【0138】
ゴム製品としては、ゴム(好ましくは天然ゴム)を使用して製造できるゴム製品であれば特に限定されず、例えば、空気入りタイヤ、ゴムローラ、ゴム防舷材、手袋、医療用ゴムチューブ等が挙げられる。
【0139】
ゴム製品が空気入りタイヤの場合、すなわち、第1の本発明のゴム製品の製造方法が第1の本発明の空気入りタイヤの製造方法の場合、上記生ゴム製品成形工程は、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程に、上記加硫工程は、上記生タイヤを加硫する加硫工程に相当する。すなわち、第1の本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上記ポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び上記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法である。
【0140】
<混練工程>
混練工程では、上記ポリイソプレノイドの製造方法により得られたポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る。
【0141】
添加剤としては特に限定されず、ゴム製品の製造に用いられる添加剤を使用できる。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、例えば、上記ポリイソプレノイド以外のゴム成分、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなどの補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤等が挙げられる。
【0142】
混練工程における混練は、オープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて行えばよい。
【0143】
<生ゴム製品成形工程(タイヤの場合は生タイヤ成形工程)>
生ゴム製品成形工程では、混練工程により得られた混練物から生ゴム製品(タイヤの場合は生タイヤ)を成形する。
生ゴム製品の成形方法としては特に限定されず、生ゴム製品の成形に用いられる方法を適宜適用すればよい。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、混練工程により得られた混練物を、各タイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、各タイヤ部材を貼り合わせ、生タイヤ(未加硫タイヤ)を成形すればよい。
【0144】
<加硫工程>
加硫工程では、生ゴム製品成形工程により得られた生ゴム製品を加硫することにより、ゴム製品が得られる。
生ゴム製品を加硫する方法としては特に限定されず、生ゴム製品の加硫に用いられる方法を適宜適用すればよい。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、生ゴム製品成形工程により得られた生タイヤ(未加硫タイヤ)を加硫機中で加熱加圧して加硫することにより空気入りタイヤが得られる。
【0145】
(第2の本発明)
(ベクター)
第2の本発明のベクターは、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターに、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を機能的に連結させた塩基配列を含むベクターである。このようなベクターを植物に導入して形質転換を行うことにより、当該ベクターに含まれる、ポリイソプレノイド生合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子が乳管特異的に発現し、当該植物におけるシス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドの生産量を向上させることが可能となる。これは、乳液の生産性向上のために導入した外来遺伝子の発現が乳管以外の部位で促進されると、植物体の代謝や乳液の生産に負荷がかかり、悪影響を及ぼすためと推測される。
【0146】
なお、本明細書において、プロモーターが乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するとは、所望の遺伝子を当該プロモーターと機能的に連結させて植物に導入した場合に、当該所望の遺伝子が乳管で特異的に発現されるように遺伝子発現を制御する活性を有することを意味する。ここで、乳管特異的に遺伝子が発現するとは、当該遺伝子が植物中、乳管以外の部位では全く又はほとんど発現せず、当該遺伝子が実質的に乳管でのみ専ら発現しているといえる状態を意味する。また、遺伝子をプロモーターと機能的に連結させるとは、当該プロモーターの制御を受けるように、当該プロモーターの下流に当該遺伝子配列を連結することを意味する。
【0147】
第2の本発明のベクターは、一般的に植物の形質転換用ベクターとして知られているベクターに、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターの塩基配列、及び、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子の塩基配列を従来公知の方法により挿入することで作製することができる。第2の本発明のベクターを作製するために使用することができるベクターとしては、例えば、pBI系のベクターや、pGA482、pGAH、pBIGなどのバイナリーベクター、pLGV23Neo、pNCAT、pMON200などの中間系プラスミド、GATEWAYカセットを含むpH35GSなどが挙げられる。
【0148】
第2の本発明のベクターは、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターの塩基配列、及び、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子の塩基配列を含む限り、その他の塩基配列を含んでいてもよい。通常、ベクターにはこれらの塩基配列に加えて、ベクター由来の配列が含まれており、更に、制限酵素認識配列、スペーサ―配列、マーカー遺伝子の配列、レポーター遺伝子の配列などが含まれる。
【0149】
上記マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブレオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。また、上記レポーター遺伝子は、植物体中での発現部位を確認するために導入するものであり、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、GUS(βグルクロニダーゼ)遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)、RFP(赤色蛍光タンパク質)等が挙げられる。
【0150】
上記ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子は、その由来は特に制限されず、微生物由来であっても、動物由来であっても、植物由来であってもよいが、植物由来であることが好ましく、Solanum属由来であることがより好ましい。中でも、トマト由来であることが特に好ましい。
【0151】
なお、第2の本発明におけるネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子、ネリル二リン酸合成酵素については、上述の第1の本発明で述べたとおりである。
【0152】
第2の本発明のベクターにおいては、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターの塩基配列、及び、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子の塩基配列を含む限り、更にその他の蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を含んでいてもよい。
【0153】
上記その他の蛋白質をコードする遺伝子としては、第1の本発明において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0154】
上記乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターとしては、Rubber Elongation Factor(REF)をコードする遺伝子のプロモーター、Small Rubber Particle Protein(SRPP)をコードする遺伝子のプロモーター、Hevein2.1(HEV2.1)をコードする遺伝子のプロモーター、及び、MYC1 transcription factor(MYC1)をコードする遺伝子のプロモーターからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0155】
なお、本明細書において、Rubber Elongation Factor(REF)は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のゴム産生植物のラテックスに存在するゴム粒子に結合するゴム粒子結合蛋白質のことであり、ゴム粒子が安定化するのに寄与する。
Small Rubber Particle Protein(SRPP)は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のゴム産生植物のラテックスに存在するゴム粒子に結合するゴム粒子結合蛋白質のことである。
Hevein2.1(HEV2.1)は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のゴム産生植物の乳管細胞に多く発現している蛋白質のことであり、ゴム粒子の凝集に関与し、抗真菌活性を有するものである。
また、MYC1 transcription factor(MYC1)は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のゴム産生植物のラテックスで多く発現している、ジャスモン酸シグナルに関わる転写因子のことである。ここで、transcription factor(転写因子)とは、遺伝子の転写量を増加若しくは減少(好ましくは増加)させる活性を有する蛋白質を意味する。すなわち、本明細書において、MYC1は、ジャスモン酸シグナルに関わる蛋白質のうち少なくとも1種の蛋白質をコードする遺伝子の転写量を増加若しくは減少(好ましくは増加)させる活性(転写因子活性)を有する蛋白質のことである。
【0156】
(Rubber Elongation Factor(REF)をコードする遺伝子のプロモーター)
上記REFをコードする遺伝子のプロモーターは、その由来は特に制限されないが、植物由来であることが好ましく、ゴム産生植物由来であることがより好ましく、Hevea属、Sonchus属、Taraxacum属、及びParthenium属からなる群より選択される少なくとも1種の属に属する植物由来であることが更に好ましい。中でも、パラゴムノキ、ノゲシ、グアユール及びロシアンタンポポからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来であることがより更に好ましく、特に好ましくは、パラゴムノキ由来であることである。
【0157】
上記REFをコードする遺伝子のプロモーターは、下記[A1]~[A3]のいずれかで表されるDNAであることが好ましい。
[A1]配列番号3で表される塩基配列からなるDNA
[A2]配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
[A3]配列番号3で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
【0158】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、上述したのと同様である。また、上記ストリンジェントな条件についても、上述したのと同様である。
【0159】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAのように、プロモーターの塩基配列は、元の塩基配列とある程度の配列同一性を有している場合には、同様にプロモーター活性を有する場合があることが知られている。プロモーター活性を維持するための、配列番号3で表される塩基配列との配列同一性としては、少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0160】
(SRPPをコードする遺伝子のプロモーター)
上記SRPPをコードする遺伝子のプロモーターは、その由来は特に制限されないが、植物由来であることが好ましく、ゴム産生植物由来であることがより好ましく、Hevea属、Sonchus属、Taraxacum属、及びParthenium属からなる群より選択される少なくとも1種の属に属する植物由来であることが更に好ましい。中でも、パラゴムノキ、ノゲシ、グアユール及びロシアンタンポポからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来であることがより更に好ましく、特に好ましくは、パラゴムノキ由来であることである。
【0161】
上記SRPPをコードする遺伝子のプロモーターは、下記[B1]~[B3]のいずれかで表されるDNAであることが好ましい。
[B1]配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
[B2]配列番号4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
[B3]配列番号4で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
【0162】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、上述したのと同様である。また、上記ストリンジェントな条件についても、上述したのと同様である。
【0163】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAのように、プロモーターの塩基配列は、元の塩基配列とある程度の配列同一性を有している場合には、同様にプロモーター活性を有する場合があることが知られている。プロモーター活性を維持するための、配列番号4で表される塩基配列との配列同一性としては、少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0164】
(HEV2.1をコードする遺伝子のプロモーター)
上記HEV2.1をコードする遺伝子のプロモーターは、その由来は特に制限されないが、植物由来であることが好ましく、ゴム産生植物由来であることがより好ましく、Hevea属、Sonchus属、Taraxacum属、及びParthenium属からなる群より選択される少なくとも1種の属に属する植物由来であることが更に好ましい。中でも、パラゴムノキ、ノゲシ、グアユール及びロシアンタンポポからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来であることがより更に好ましく、特に好ましくは、パラゴムノキ由来であることである。
【0165】
上記HEV2.1をコードする遺伝子のプロモーターは、下記[C1]~[C3]のいずれかで表されるDNAであることが好ましい。
[C1]配列番号5で表される塩基配列からなるDNA
[C2]配列番号5で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
[C3]配列番号5で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
【0166】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、上述したのと同様である。また、上記ストリンジェントな条件についても、上述したのと同様である。
【0167】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAのように、プロモーターの塩基配列は、元の塩基配列とある程度の配列同一性を有している場合には、同様にプロモーター活性を有する場合があることが知られている。プロモーター活性を維持するための、配列番号5で表される塩基配列との配列同一性としては、少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0168】
(MYC1をコードする遺伝子のプロモーター)
上記MYC1をコードする遺伝子のプロモーターは、その由来は特に制限されないが、植物由来であることが好ましく、ゴム産生植物由来であることがより好ましく、Hevea属、Sonchus属、Taraxacum属、及びParthenium属からなる群より選択される少なくとも1種の属に属する植物由来であることが更に好ましい。中でも、パラゴムノキ、ノゲシ、グアユール及びロシアンタンポポからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来であることがより更に好ましく、特に好ましくは、パラゴムノキ由来であることである。
【0169】
上記MYC1をコードする遺伝子のプロモーターは、下記[D1]~[D3]のいずれかで表されるDNAであることが好ましい。
[D1]配列番号6で表される塩基配列からなるDNA
[D2]配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
[D3]配列番号6で表される塩基配列と60%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNA
【0170】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、上述したのと同様である。また、上記ストリンジェントな条件についても、上述したのと同様である。
【0171】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAのように、プロモーターの塩基配列は、元の塩基配列とある程度の配列同一性を有している場合には、同様にプロモーター活性を有する場合があることが知られている。プロモーター活性を維持するための、配列番号6で表される塩基配列との配列同一性としては、少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0172】
上記したDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAや、上記したDNAと60%以上の配列同一性を有するDNAが、乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するDNAであることを確認する方法としては、例えば、従来公知の方法である、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、又はGFP(Green Fluorescent Protein)等をレポーター遺伝子としたレポーターアッセイなどにより確認する方法が挙げられる。
【0173】
また、上記プロモーターの塩基配列を同定する方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、生育する植物から、CTAB(Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide)法によりゲノムDNAを抽出する。次に上記プロモーターの既知の塩基配列を基に特異的なプライマーと、ランダムプライマーを設計し、抽出したゲノムDNAを鋳型にしてTAIL(Thermal Asymmetric Interlaced)-PCR法を行って、上記プロモーターを含む遺伝子の増幅を行い、塩基配列を同定する。
【0174】
第2の本発明のベクター(乳管特異的に遺伝子を発現させるプロモーター活性を有するプロモーターに、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子を機能的に連結させた塩基配列を含むベクター)を植物に導入することにより、ポリイソプレノイド生合成に関わる所定の蛋白質を乳管特異的に発現するように形質転換された形質転換植物が得られる。そして、当該形質転換植物では、ポリイソプレノイド生合成に関わる所定の蛋白質が乳管特異的に発現することにより、第2の本発明のベクターが導入された植物体内で新たに該蛋白質が有する所定の酵素活性等の機能が乳管内で増強されてポリイソプレノイドの生合成経路の一部が増強され、結果的に植物体でのシス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドの生産量を向上させることができる。
【0175】
次に、上記形質転換植物の作製方法について簡単に説明するが、このような形質転換植物は従来公知の方法により作製することができる。
【0176】
上記形質転換植物を作出するために、第2の本発明のベクターが導入される植物としては、特に限定されないが、中でも、ポリイソプレノイドを生合成できる植物でネリル二リン酸合成酵素を発現させることにより、ポリイソプレノイドの生産性の向上、ポリイソプレノイドの製造量の増大が特に期待できることから、上記植物としては、ゴム産生植物が好ましい。中でも、パラゴムノキ、ノゲシ、グアユール及びロシアンタンポポからなる群より選択される少なくとも1種のゴム産生植物であることがより好ましく、特に好ましくは、パラゴムノキであることである。
【0177】
第2の本発明のベクターを植物(カルスや、培養細胞、スフェロプラスト、プロトプラストといった植物細胞を含む)に導入する方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いる方法(特開昭59-140885号公報、特開昭60-70080号公報、国際公開第94/00977号)、エレクトロポレーション法(特開昭60-251887号公報)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許第2606856号、特許第2517813号)等を挙げることができる。中でも、アグロバクテリウムを用いる方法(アグロバクテリウム法)を用いて第2の本発明のベクターを植物に導入して形質転換植物(形質転換植物細胞)を作製するのが好ましい。
なお更には、第2の本発明のベクターを、上記DNAを導入する方法などにより、微生物、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、生物体、生物体の一部、器官、組織や培養細胞、スフェロプラスト、プロトプラストなどに導入することによって、シス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドを生産することも可能である。
【0178】
以上の方法等により、上記形質転換植物(形質転換植物細胞)が得られる。なお、上記形質転換植物は、上述の方法で得られた形質転換植物細胞のみならず、その子孫又はクローン、さらにそれらを継代させて得られる子孫植物の全てを含む概念である。一旦、第2の本発明のベクターが導入された形質転換植物細胞が得られれば、該形質転換植物細胞から有性生殖、無性生殖、組織培養、細胞培養、細胞融合等により子孫又はクローンを得ることが可能である。また、該形質転換植物細胞やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、不定芽、不定胚、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該形質転換植物を量産することも可能である。
【0179】
形質転換植物細胞から植物体(形質転換植物)を再生する方法としては、例えば、ユーカリでは土肥らの方法(特願平11-127025号公報)、イネではFujimuraらの方法(Fujimuraら(1995), Plant Tissue Culture Lett.,vol.2:p74-)、トウモロコシではShillitoらの方法(Shillitoら(1989), Bio/Technology,vol.7:p581-)、ジャガイモではVisserらの方法(Visserら(1989), Theor.Appl.Genet.,vol.78:p589-)、シロイヌナズナではAkamaらの方法(Akamaら(1992), Plant Cell Rep.,vol.12:p7-)が知られており、当業者であれば、これらを参照して形質転換植物細胞から植物体を再生できる。
【0180】
再生した植物体において、周知の手法を用いることで、目的の蛋白質遺伝子の発現を確認することが出来る。例えば、目的の蛋白質の発現をウエスタンブロット解析すればよい。
【0181】
上記形質転換植物から種子を得る方法としては、例えば、形質転換植物を適当な培地において発根させ、その発根体を水分含有の土を入れたポットに移植する。適当な栽培条件下で生育させ、最終的に種子を形成させて、該種子を得る。また、種子から植物体を得る方法としては、例えば、前記のようにして得られた形質転換植物由来の種子を、水分含有の土に播種し、適当な栽培条件下で生育させることにより植物体を得ることができる。
【0182】
第2の本発明では、第2の本発明のベクターを植物に導入することにより、該ベクターに含まれるポリイソプレノイド生合成に関わる蛋白質をコードする遺伝子(特に好ましくは、ネリル二リン酸合成酵素をコードする遺伝子)が乳管特異的に発現し、当該植物におけるシス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドの生産量を向上させることができる。具体的には、上述の方法で得られた形質転換植物細胞、形質転換植物細胞から得られたカルス、該カルスから再分化した細胞等を適当な培地で培養したり、形質転換植物細胞から再分化した形質転換植物、該形質転換植物から得られた種子から得られた植物体等を適当な栽培条件下で生育させたりすることにより、シス型イソプレノイド、ポリイソプレノイドを製造することができる。
【0183】
このように、第2の本発明のベクターを植物に導入することにより、該植物におけるシス型イソプレノイドの生産量を向上させる方法もまた、第2の本発明の1つである。また、第2の本発明のベクターを植物に導入することにより、該植物におけるポリイソプレノイドの生産量を向上させる方法もまた、第2の本発明の1つである。
【0184】
(ゴム製品の製造方法)
第2の本発明のゴム製品の製造方法は、上記第2の本発明のベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び上記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法である。
【0185】
ゴム製品としては、第1の本発明において上述したものと同様である。
【0186】
ゴム製品が空気入りタイヤの場合、すなわち、第2の本発明のゴム製品の製造方法が第2の本発明の空気入りタイヤの製造方法の場合、上記生ゴム製品成形工程は、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程に、上記加硫工程は、上記生タイヤを加硫する加硫工程に相当する。すなわち、第2の本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上記第2の本発明のベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、上記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び上記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法である。
【0187】
<混練工程>
混練工程では、上記第2の本発明のベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドと、添加剤とを混練して混練物を得る。
【0188】
上記第2の本発明のベクターを植物に導入することにより得られる形質転換植物から得られるポリイソプレノイドは、上記形質転換植物からラテックスを採取し、採取したラテックスを以下の固化工程に供することにより得られる。
なお、上記形質転換植物からのラテックスの採取方法は特に制限されず、通常行われる方法を採用することができるが、例えば、植物の幹を傷つけてにじみ出る乳液を回収したり(タッピング)、根など形質転換植物の一部を切断し、切断した部分からにじみ出る乳液を回収したり、切断した組織を粉砕し、有機溶媒を用いて抽出して採取したりすることができる。
【0189】
<固化工程>
上記採取されたラテックスは、固化工程に供される。固化する方法としては、特に限定されず、エタノール、メタノール、アセトン等のポリイソプレノイドを溶解しない溶媒にラテックスを添加する方法やラテックスに酸を添加する方法等が挙げられる。固化工程を行うことにより、ラテックスからゴム(ポリイソプレノイドの1種)を固形分として回収できる。得られたゴムは、必要に応じて乾燥してから使用すればよい。
【0190】
添加剤としては特に限定されず、ゴム製品の製造に用いられる添加剤を使用できる。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、例えば、上記ラテックスから得られたゴム以外のゴム成分、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなどの補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤等が挙げられる。
【0191】
混練工程における混練は、オープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて行えばよい。
【0192】
<生ゴム製品成形工程(タイヤの場合は生タイヤ成形工程)>
生ゴム製品成形工程では、第1の本発明において上述した工程と同様である。
【0193】
<加硫工程>
加硫工程は、第1の本発明において上述した工程と同様である。
【実施例
【0194】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0195】
(実施例1)
〔ベクターの構築〕
トマト(Solanum lycopersicum)ネリル二リン酸合成酵素遺伝子(NDPS)のBLASTに公開されている情報(配列番号1)をもとに、開始コドンから終始コドンまでの領域のうち、シグナル配列をコードする塩基配列部分(配列番号1の4塩基目から132塩基目まで)を取り除いたtrNDPS1遺伝子を遺伝子合成サービスをもとに合成して作成した。
なお、配列番号1で示されるNDPSの塩基配列によってコードされるNDPSのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0196】
上述の方法により、trNDPS1が得られた。その配列を同定し、全長の塩基配列及びアミノ酸配列を同定した。trNDPS1の塩基配列を配列番号7に示した。trNDPS1のアミノ酸配列を配列番号8に示した。
【0197】
上記取得したDNA断片は、pUC57に挿入し、pUC57-trNDPS1を作製した。
【0198】
〔大腸菌の形質転換〕
上記作製したVectorを用いて大腸菌DH5αの形質転換を行い、形質転換体はアンピシリンとX-galを含むLB寒天培地上で培養し、青/白スクリーニング法によって目的遺伝子を導入した大腸菌の選別を行った。
【0199】
〔プラスミドの抽出〕
目的遺伝子を含むプラスミドで形質転換された大腸菌は、LB液体培地上で37℃で一晩培養したのち、菌体を回収し、プラスミドの回収を行った。プラスミドの回収はFast Geneプラスミドミニキット(日本ジェネティクス社製)を使用した。
回収したプラスミドに挿入された遺伝子の塩基配列に変異がないことをシークエンス解析により確認した。
【0200】
〔無細胞蛋白合成法用ベクターの作製〕
無細胞発現系の遺伝子の挿入はSLiCE(Seamless Ligation Cloning Extract)法を用いて行った。
上記〔ベクターの構築〕で獲得したpUC57-trNDPS1を鋳型に下記するプライマー1、2を用いてPCR反応を行い、trNDPS1遺伝子の両端に19~21塩基の無細胞発現用ベクターに含まれる配列を付加したPCR断片を得た。
プライマー1:5′-CTGTATTTTCAGGGCGGATATTCTGCTCGTGGACTCAAC-3′
プライマー2:5′-CAAAACTAGTGCGGCCGCGTCAATATGTGTGTCCACC-3′
【0201】
無細胞発現用ベクターpEU-E01-His-TEV-MCS―N2は制限酵素EcoRIとKpnIで処理し、ゲル回収によって精製した。SLiCE反応に用いるSLiCE溶液は、以下のように作成した。
培養した大腸菌DH5α 0.3~0.4gを3% Triton X-100を含む50mM Tris-HCL(pH8.0)1.2mLで穏やかに懸濁し、室温で10分間インキュベートした。インキュベート後、4℃、20000×gの条件下で2分間遠心し、上清を回収した。回収した上清に等量の80%グリセロール溶液を添加し、SLiCE溶液とした。SLiCE溶液は一定量ごとに小分けし、使用するまで-80℃で保管した。得られたPCR断片、制限酵素処理したベクターを1:1~3:1の比率になるように混ぜ、10×SLiCE Buffer(500μM Tris-HCL(pH7.5)、100mM MgCl、10mM ATP、10mM DTT)を反応系最終容量の10分の1量、SLiCE溶液を反応系最終容量の10分の1量加え、37℃で15分反応させ、pEU-His-N2-trNDPS1を作製した。
【0202】
〔大腸菌の形質転換〕
上記作製したVectorを用いて大腸菌DH5αの形質転換を行い、形質転換体はアンピシリンとX-galを含むLB寒天培地上で培養し、コロニーPCRによって目的遺伝子を導入した大腸菌の選別を行った。
【0203】
〔プラスミドの抽出〕
目的遺伝子を含むプラスミドで形質転換された大腸菌は、LB液体培地上で37℃で一晩培養したのち、菌体を回収し、プラスミドの回収を行った。プラスミドの回収はFast Geneプラスミドミニキット(日本ジェネティクス社製)を使用した。
【0204】
〔ゴム粒子の調製〕
ゴム粒子は、5段階の遠心分離によってパラゴムノキのラテックス(Heveaラテックス)から調製した。Heveaラテックス900mLに、20mMのジチオスレイトール(DTT)を含む1M Tris緩衝液(pH7.5)100mLを添加し、ラテックス溶液を調製した。得られたラテックス溶液を、1000×g、2000×g、8000×g、20000×g、50000×gの異なる遠心速度で段階的に遠心分離した。遠心分離はいずれも4℃、45分で行った。50000×gでの遠心分離で残ったゴム粒子層に、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアミノ]-プロパンスルホン酸(CHAPS)を終濃度0.1~2.0×CMC(臨界ミセル濃度CMCの0.1~2.0倍)になるように加え、ゴム粒子を洗浄した。洗浄処理後、洗浄されたゴム粒子を超遠心分離(40000×g、4℃、45分)によって回収し、等量の2mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100M Tris緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。
【0205】
〔無細胞蛋白合成反応(STEP1 mRNAの転写反応)〕
無細胞蛋白合成は、WEPRO7240H Expression kit((株)セルフリーサイエンス製)を使用して行った。上記〔無細胞蛋白合成法用ベクターの作製〕で獲得したベクターを鋳型に、WEPRO7240H Expression kitのプロトコルに従って、mRNAの転写反応を行った。
【0206】
〔mRNAの精製〕
転写反応後、得られたmRNAはエタノール沈殿により精製した。
【0207】
〔無細胞蛋白合成反応(STEP2 透析法による蛋白合成)〕
透析カップ(MWCO 12000)(Bio-Teck社製)中に、以下の量をそれぞれ添加した。WEPRO7240H Expression kitのプロトコルに従って全量60μLで反応溶液を調整した。反応溶液にゴム粒子を1~2mg添加した。さらに、PP容器No.2(マルエム容器)にSUB-AMIX 650μLを添加した。
透析カップをPP容器No.2にはめ、26℃で蛋白合成反応を開始した。反応開始から2度のmRNAの追加と透析外液(SUB-AMIX)の交換を行った。反応は24時間行った。透析法を行っている様子の概略図を図1に示す。
【0208】
〔反応後のゴム粒子の回収〕
透析カップの溶液を新しい1.5μLチューブに移し、反応後のゴム粒子を超遠心分離(40000×g、4℃、45分)によって回収し、等量の2mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100M Tris緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。
【0209】
〔反応後のゴム粒子のゴム合成活性の測定〕
回収した反応後のゴム粒子のゴム合成活性を以下の方法により測定した。
まず、50mM Tris-HCl(pH7.5)、2mM DTT、5mM MgCl、15μM ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、100μM 1-14Cイソペンテニル二リン酸([1-14C]IPP)(比活性:5Ci/mol)、10μL ゴム粒子溶液を混合した反応溶液(Total 100μL)を調製し、30℃で16時間反応させた。
反応後、飽和NaClを200μL加え、1mLのジエチルエーテルでイソペンテノールなどを抽出した。次に、水相のポリプレニル二リン酸を1mLの食塩水飽和BuOHで抽出し、その後さらに、水相の超長鎖ポリイソプレノイド(ゴム)を1mLのトルエン/ヘキサン(1:1)で抽出し、放射活性を計測した。各層の放射活性は液体シンチレーションカウンターで14Cのカウントを計測した。放射活性(dpm)が高いほど、超長鎖ポリイソプレノイド(ゴム)が多く生産されており、ゴム合成活性が高いことを示す。
結果を表1に示す。
【0210】
〔合成した超長鎖ポリイソプレノイドの分子量分布測定〕
上記合成した超長鎖ポリイソプレノイド(ゴム)の分子量分布を下記の条件でRadio HPLCにより測定した。結果を図2に示す。
HPLCシステム:GILSON社製
カラム:TOSOH社製のTSKguardcolumn MP(XL),TSKgel Multipore HXL-M(2本)
カラム温度:40℃
溶媒:Merck社製のTHF
流速:1ml/分
UV検出:215nm
RI検出:Ramona Star(Raytest GmbH)
【0211】
(実施例2)
〔ベクターの構築〕
トマト(Solanum lycopersicum)ネリル二リン酸合成酵素遺伝子(NDPS)のBLASTに公開されている情報(配列番号1)をもとに、実施例1と同様に、開始コドンから終始コドンまでの領域のうち、シグナル配列をコードする塩基配列部分(配列番号1の4塩基目から132塩基目まで)を取り除き、更にHelix3部位をコードする塩基配列部分(配列番号1の439塩基目から489塩基目まで)を、炭素数50以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼであるシロイヌナズナ由来のCPT4(AtCPT4)のHelix3部位をコードする塩基配列と置換したtrNDPS1 Chimera遺伝子を遺伝子合成サービスをもとに合成して作成した。
【0212】
上述の方法により、trNDPS1 Chimeraが得られた。その配列を同定し、全長の塩基配列及びアミノ酸配列を同定した。trNDPS1 Chimeraの塩基配列を配列番号11に示した。trNDPS1 Chimeraのアミノ酸配列を配列番号12に示した。
【0213】
上記取得したDNA断片は、pUC57に挿入し、pUC57-trNDPS1 Chimeraを作製した。
【0214】
〔大腸菌の形質転換〕
上記作製したVectorを用いて、実施例1と同様にして行った。
【0215】
〔プラスミドの抽出〕
実施例1と同様にして行った。
【0216】
〔無細胞蛋白合成法用ベクターの作製〕
実施例1と同様にSLiCE法を用いて無細胞発現用ベクターpEU-E01-His-TEV-MCS-N2に挿入し、pEU-His-N2-trNDPS1 Chimeraを作製した。
【0217】
〔大腸菌の形質転換〕
上記作製したVectorを用いて、実施例1と同様にして行った。
【0218】
〔プラスミドの抽出〕
実施例1と同様にして行った。
【0219】
〔ゴム粒子の調製〕
実施例1と同様にして行った。
【0220】
〔無細胞蛋白合成反応(STEP1 mRNAの転写反応)〕
無細胞蛋白合成は、WEPRO7240H Expression kit((株)セルフリーサイエンス製)を使用して行った。上記〔無細胞蛋白合成法用ベクターの作製〕で獲得したベクターpEU-His-N2-trNDPS1 Chimeraを鋳型に、WEPRO7240H Expression kitのプロトコルに従って、mRNAの転写反応を行った。
【0221】
〔mRNAの精製〕
転写反応後、得られたmRNAはエタノール沈殿により精製した。
【0222】
〔無細胞蛋白合成反応(STEP2 透析法による蛋白合成)〕
上記mRNAを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
【0223】
〔反応後のゴム粒子の回収〕
実施例1と同様にして反応後のゴム粒子を回収し、等量の2mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100M Tris緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。
【0224】
〔反応後のゴム粒子のゴム合成活性の測定〕
回収した反応後のゴム粒子のゴム合成活性を、実施例1と同様にして測定した。
結果を表1に示す。
【0225】
〔合成した超長鎖ポリイソプレノイドの分子量分布測定〕
上記〔反応後のゴム粒子のゴム合成活性の測定〕で合成した超長鎖ポリイソプレノイドの分子量分布を、実施例1と同様にして測定した。結果を図2に示す。
【0226】
(比較例1)
〔ゴム粒子の調製〕
実施例1と同様にして行った。
【0227】
〔無細胞蛋白合成反応(STEP1 mRNAの転写反応)〕
無細胞蛋白合成は、WEPRO7240H Expression kit((株)セルフリーサイエンス製)を使用して行った。無細胞発現用ベクターpEU-E01-His-TEV-MCS-N2を鋳型に、WEPRO7240H Expression kitのプロトコルに従って、mRNAの転写反応を行った。
【0228】
〔mRNAの精製〕
転写反応後、得られたmRNAはエタノール沈殿により精製した。
【0229】
〔無細胞蛋白合成反応(STEP2 透析法による蛋白合成)〕
上記mRNAを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
【0230】
〔反応後のゴム粒子の回収〕
実施例1と同様にして反応後のゴム粒子を回収し、等量の2mMのジチオスレイトール(DTT)を含む100M Tris緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。
【0231】
〔反応後のゴム粒子のゴム合成活性の測定〕
回収した反応後のゴム粒子のゴム合成活性を、実施例1と同様にして測定した。
結果を表1に示す。
【0232】
〔合成した超長鎖ポリイソプレノイドの分子量分布測定〕
上記〔反応後のゴム粒子のゴム合成活性の測定〕で合成した超長鎖ポリイソプレノイドの分子量分布を、実施例1と同様にして測定した。結果を図2に示す。
【0233】
【表1】
【0234】
表1より、ネリル二リン酸合成酵素をゴム粒子に結合させることにより(実施例1~2)、ゴム粒子に何も結合させなかった場合(比較例1)に比べて、超長鎖ポリイソプレノイドの生産量を向上させることができることが確認できた。このことから、実施例1~2において、比較例1からの超長鎖ポリイソプレノイド生産量の増加分が、ゴム粒子に結合させた蛋白質が関与して製造された超長鎖ポリイソプレノイドと考えられる。ここで、ネリル二リン酸合成酵素(trNDPS1;実施例1)は、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、イソプレン単位がシス型で連結されたネリル二リン酸を合成する反応を触媒する酵素であり、ゴム粒子上で、この合成されたネリル二リン酸を開始末端として、イソプレノイド化合物の鎖長をシス型に延長する反応が進行することで、ポリイソプレノイドが合成されると推測されることから、反応に関与する酵素の反応特異性に鑑み、合成されるポリイソプレノイドは、トランス型が含まれず、全てのイソプレン単位がシス型で連結された、100%シス型のポリイソプレノイドであると考えられる。
また、変異型ネリル二リン酸合成酵素(trNDPS1 Chimera;実施例2)は、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸とを基質として、イソプレノイド化合物の鎖長をネリル二リン酸以上にシス型に延長する反応をも触媒することができるために、実施例1に比べて実施例2では更に超長鎖ポリイソプレノイドの生産量が向上しているものと考えられる。
【0235】
また、図2より、実施例1~2において合成される超長鎖ポリイソプレノイドは、重量平均分子量(Mw)100万程度のGPC溶出時間のところにピークトップを有する長鎖のゴムであることが分かる。また、分子量分布パターンとして同等といえる超長鎖ポリイソプレノイドが実施例1~2において合成されているといえる。なお、図2の結果は、サンプル間で規格化されていないため、ピークの高さで活性を比較することはできないものである。
【0236】
なお、実施例において用いられたネリル二リン酸合成酵素(NDPS(配列番号2)、trNDPS1(配列番号8)、trNDPS1 Chimera(配列番号12))のアミノ酸配列のマルチプルシーケンスアライメントを行った様子を図3に示す。図3中、シグナル配列部分、Helix3部位を囲んでいる。また、マイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)〔UDP(M.luteus B-P 26CPT)〕、ネリル二リン酸合成酵素(NDPS(配列番号2)、シロイヌナズナ由来のCPT4(AtCPT4)、trNDPS1 Chimera(配列番号12))のアミノ酸配列のマルチプルシーケンスアライメントを行った様子を図4に示す。図4では、Helix3部位周辺のアライメントの結果が示されている。図4中、Helix3部位を囲んでいる。マルチプルシーケンスアライメントは、Genetyx Ver.11と呼ばれるソフトを用いて行った。
【0237】
図5で示される種々の生物由来の炭素数35以上のイソプレノイド鎖を生成するシス型プレニルトランスフェラーゼのマルチプルシーケンスアライメントを行った。Helix3部位周辺のアライメントの結果を図5に示す。図5中、Helix3部位を囲んでいる。マルチプルシーケンスアライメントは、上記同様、Genetyx Ver.11と呼ばれるソフトを用いて行った。
【0238】
図5中、UDP(M.luteus B-P 26CPT)は、マイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)の75位から129位を抜粋したものである。
UPPS(Escherichia coli).は、大腸菌(Escherichia coli)由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)の71位から125位を抜粋したものである。
Srt1(Yeast CPT)は、酵母由来のSRT1の121位から180位を抜粋したものである。
HDS(Human CPT)は、ヒト由来のHDSの80位から137位を抜粋したものである。
【0239】
図5より、マイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)のHelix3部位(配列番号15で表されるマイクロコッカス属菌(Micrococcus luteus B-P 26)由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)における90位から110位のアミノ酸配列)が、大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)においては、配列番号14で表される大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)における86位から106位のアミノ酸配列に対応し、酵母由来のSRT1においては、配列番号16で表される酵母由来のSRT1における136位から161位のアミノ酸配列に対応し、ヒト由来のHDSにおいては、配列番号17で表されるヒト由来のHDSにおける95位から118位のアミノ酸配列に対応することが分かる。
【0240】
(配列表フリーテキスト)
配列番号1:トマト由来のNDPSをコードする遺伝子の塩基配列
配列番号2:トマト由来のNDPSのアミノ酸配列
配列番号3:パラゴムノキ由来のRubber Elongation Factorをコードする遺伝子のプロモーターの塩基配列
配列番号4:パラゴムノキ由来のSmall Rubber Particle Proteinをコードする遺伝子のプロモーターの塩基配列
配列番号5:パラゴムノキ由来のHevien2.1をコードする遺伝子のプロモーターの塩基配列
配列番号6:パラゴムノキ由来のMYC1 transcription factorをコードする遺伝子のプロモーターの塩基配列
配列番号7:実施例1で得られるトマト由来のtrNDPS1をコードする遺伝子の塩基配列
配列番号8:実施例1で得られるトマト由来のtrNDPS1のアミノ酸配列
配列番号9:プライマー1
配列番号10:プライマー2
配列番号11:実施例2で得られるトマト由来のtrNDPS1 Chimeraをコードする遺伝子の塩基配列
配列番号12:実施例2で得られるトマト由来のtrNDPS1 Chimeraのアミノ酸配列
配列番号13:シロイヌナズナ由来のCPT4(AtCPT4)における147位から167位のアミノ酸配列
配列番号14:大腸菌由来のウンデカプレニルリン酸合成酵素(UPPS)における86位から106位のアミノ酸配列
配列番号15:マイクロコッカス属菌由来のウンデカプレニル二リン酸合成酵素(UPS)における90位から110位のアミノ酸配列
配列番号16:酵母由来のSRT1における136位から161位のアミノ酸配列
配列番号17:ヒト由来のHDSにおける95位から118位のアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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