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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】一酸化窒素発生製剤及びキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/095 20060101AFI20221102BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
A61K31/095
A61K9/14
A61K9/20
A61K31/198
A61K38/38
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/36
A61P11/02
A61P31/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018542710
(86)(22)【出願日】2017-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 US2017019136
(87)【国際公開番号】W WO2017147295
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】62/299,850
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503249418
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーホフ,マーク,イー.
(72)【発明者】
【氏名】ロートナー,ゲアゲリー
(72)【発明者】
【氏名】バリッジュパリ,アナント
(72)【発明者】
【氏名】サジャン,ウマデイ
(72)【発明者】
【氏名】レン,ハン
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/153762(WO,A1)
【文献】特表2011-507968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272988(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0311292(US,A1)
【文献】Hypertension,2000年,Vol.36,P.291-295
【文献】J. Biochem.,1997年,Vol.122,P.1208-1214,特に第1208頁、第1212頁左欄第4-11行、Fig.8、Table1
【文献】Hypertension,2000年,Vol.36,P.291-295
【文献】J. Biochem.,1997年,Vol.122,P.1208-1214,特に第1208頁、第1212頁左欄第4-11行、Fig.8、Table1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/095
A61K 9/14
A61K 31/198
A61K 38/38
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/20
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 47/36
A61P 11/02
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の粉末組成物又は単一のペレットを含む一酸化窒素(NO)発生製剤であって、
前記単一の粉末組成物又は単一のペレットは、
S-ニトロソチオール(RSNO)粉末と、
塩と、
添加剤であって、前記RSNO粉末、前記塩、及び前記添加剤を液体キャリアに溶解させた後にRSNOからのNOの放出速度を加速させるための添加剤と、
を含み、
前記添加剤は、還元グルタチオン、システイン、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩、銅イオン、亜鉛イオン、酸化亜鉛粒子、有機セレン種、又はそれらの組み合わせから成る群から選択され、かつ
前記NO発生製剤は抗菌性鼻副鼻腔処置製剤に使用されるものであり、前記塩は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されるか、又は
前記NO発生製剤はカテーテル固定溶液製剤に使用されるものであり、前記塩は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、一酸化窒素(NO)発生製剤。
【請求項2】
前記NO発生製剤は抗菌性鼻副鼻腔処置製剤であり、
前記抗菌性鼻副鼻腔処置製剤における前記RSNOの量は、前記RSNO粉末、前記塩、及び前記添加剤を所定量の前記液体キャリアに溶解させた場合に形成される抗菌性鼻副鼻腔処置溶液における約25μMから約10mMまでの範囲のRSNO濃度に一致する、請求項1に規定されたNO発生製剤。
【請求項3】
前記NO発生製剤は抗菌性鼻副鼻腔処置製剤であり、前記NO発生製剤は、さらに、水、生理食塩水溶液、重炭酸ナトリウムを含む生理食塩水溶液(NaHCO)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化カルシウムを含む水溶液(CaCl)、及び、リン酸ナトリウム緩衝液又はリン酸カリウム緩衝液を含む水溶液から成る群から選択された前記液体キャリアを更に含む、請求項1に記載されるNO発生製剤。
【請求項4】
前記NO発生製剤は抗菌性鼻副鼻腔処置製剤であり、前記NO発生製剤は、さらに、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス四酢酸(EGTA)、クエン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された金属イオンキレート剤を更に含む、請求項1に記載されるNO発生製剤。
【請求項5】
前記NO発生製剤はカテーテル固定溶液製剤であり、前記NO発生製剤は、さらに、前記カテーテル固定溶液製剤における前記RSNOの量は、前記RSNO粉末、前記塩、及び前記添加剤を所定量の前記液体キャリアに溶解させた場合に形成されるカテーテル固定溶液における約500μMから約50mMまでの範囲のRSNO濃度に一致する、請求項1に記載されるNO発生製剤。
【請求項6】
前記NO発生製剤はカテーテル固定溶液製剤であり、前記NO発生製剤は、さらに、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された抗凝固剤を更に含む、請求項1に記載されるNO発生製剤。
【請求項7】
前記NO発生製剤はカテーテル固定溶液製剤であり、前記NO発生製剤は、さらに、水、生理食塩水溶液、重炭酸ナトリウムを含む生理食塩水溶液(NaHCO)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、及び、リン酸ナトリウム緩衝液又はリン酸カリウム緩衝液を含む水溶液から成る群から選択された前記液体キャリアを更に含む、請求項6に記載されるNO発生製剤。
【請求項8】
前記RSNOと前記添加剤とのモル比は1:10から10:1までの範囲である、請求項1に記載されるNO発生製剤。
【請求項9】
前記有機セレン種は、セレノシステイン及びエベセレンから成る群から選択される、請求項に記載されるNO発生製剤。
【請求項10】
前記RSNO粉末は、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)、S-ニトロソ-システイン、S-ニトロソ-N-アセチル-ペニシラミン、S-ニトロソ-ペニシラミン、及びS-ニトロソ-ヒト血清アルブミンから成る群から選択される、請求項1に記載されるNO発生製剤。
【請求項11】
単一の粉末組成物、単一のペレット、又は単一のタブレットと、容器とを含む一酸化窒素(NO)発生キットであって、
前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットは、S-ニトロソチオール(RSNO)と、前記RSNOからのNOの放出速度を加速させるための添加剤と、塩と、を含み、
前記添加剤は、還元グルタチオン、システイン、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩、銅イオン、亜鉛イオン、酸化亜鉛粒子、有機セレン種、又はそれらの組み合わせから成る群から選択され、
前記容器は前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットを液体キャリアに溶解させるためのものであり、
前記NO発生キットは抗菌性鼻副鼻腔処置キットであり、前記塩は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、又は、
前記NO発生キットはカテーテル固定溶液キットであり、前記塩は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、一酸化窒素(NO)発生キット。
【請求項12】
前記容器は、
鼻洗浄用ボトル、又は
アンプルもしくはバイアル、
である、請求項11に記載されるNO発生キット。
【請求項13】
前記NO発生キットは抗菌性鼻副鼻腔処置キットであり、
前記抗菌性鼻副鼻腔処置キットは、前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットに存在する金属イオンキレート剤を更に含み、
前記金属イオンキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス四酢酸(EGTA)、クエン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、又は、
前記NO発生キットはカテーテル固定溶液キットであり、
前記カテーテル固定溶液キットの前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットは、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された抗凝固剤を更に含む、
のうち一方である、請求項11に記載されるNO発生キット。
【請求項14】
前記NO発生キットは抗菌性鼻副鼻腔処置キットであり、前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットにおける前記RSNOの量は、前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットを所定量の前記液体キャリアに溶解させた場合に形成される抗菌性鼻副鼻腔処置溶液における約25μMから約10mMまでの範囲のRSNO濃度に一致する、又は、
前記NO発生キットはカテーテル固定溶液キットであり、前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットにおける前記RSNOの量は、前記単一の粉末組成物、前記単一のペレット、又は前記単一のタブレットを所定量の前記液体キャリアに溶解させた場合に形成されるカテーテル固定溶液における約500μMから約50mMまでの範囲のRSNO濃度に一致する、
のうち一方である、請求項11に記載されるNO発生キット。
【請求項15】
前記RSNOは、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)、S-ニトロソ-システイン、S-ニトロソ-N-アセチル-ペニシラミン、S-ニトロソ-ペニシラミン、及びS-ニトロソ-ヒト血清アルブミンから成る群から選択される、請求項11に記載されるNO発生キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2016年2月25日に出願された米国仮出願第62/299,850号の利益を主張する。その内容は参照により全体が本願に含まれる。
【背景技術】
【0002】
人体において、一酸化窒素(NO:nitric oxide)は、酵素一酸化窒素合成酵素(NOS:nitric oxide synthase)のいくつかのイソファームのいずれかによって産生され得る。NOは、哺乳類の免疫応答又は防御の中心であり、多数の細菌種の中でも、L.メジャー(L.major)、M.ボビス(M.bovis)、M.ツベルクロシス(M.tuberculosis)を死滅させるため、マクロファージが用いる機構における細胞毒性物質である。また、NOは、風邪を引き起こすライノウイルスに対して活性を有する効果的な抗ウイルス物質である。NOは、気道(例えば上気道)において、免疫細胞(マクロファージ、好中球、リンパ球等)並びに気道上皮細胞(例えば伝導性(conductive)及び呼吸上皮細胞)により、主として誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)を介して、エルアルギニンから産生される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
NO産生の欠損は、免疫応答及び/又は微生物膜形成の低減を招く可能性がある。鼻のNOレベルの欠損は、原発性線毛運動障害及び慢性鼻副鼻腔炎(CRS:chronic rhinosinusitis)のような疾患と結び付いており、更に、風邪を引き起こすウイルス性因子と闘えないことに関連している可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一酸化窒素発生製剤の一実施形態は、S-ニトロソチオール(RSNO)粉末と、塩と、添加剤と、を含む。添加剤は、RSNO粉末、塩、及び添加剤を液体キャリアに溶解させた後に、RSNOからの一酸化窒素(NO)の放出速度を制御又は加速するためのものである。一酸化窒素発生製剤は、これらの構成要素を液体キャリアに溶解させるための容器を含むキットの一部とすることができる。このキットを用いて、抗菌性鼻副鼻腔処置(sinonasal treatment)溶液又はカテーテル固定溶液を得ることができる。
【0005】
本開示の実施例の特徴は、以下の詳細な説明及び図面を参照することによって明らかとなろう。図面のいくつか(例えば図3図5図7図9図11図13図24、及び図25)において、時間(X軸)の関数として、一酸化窒素(NO)放出プロファイル又は動態のデータが示されている(例えばppb又はPPB/mL、Y軸)。これらの図面/図においては、化学発光測定に関連する高レベルのノイズのため、データは広帯域の値を示している。ノイズは、窒素でパージした溶液からのエアロゾル液滴が、光を散乱させ、化学発光機器内の光学光電子増倍管検出器により検出される気相レベルのノイズを増大させることから生じる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】鼻腔を介して上気道に導入される、(本明細書に開示される抗菌性鼻副鼻腔処置製剤の実施例から形成された)抗菌性鼻副鼻腔処置溶液の実施例の概略的な図であり、拡大図は、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)からの一酸化窒素ガス(NO(g))の産生を示す。
図2】本明細書に開示されるカテーテル固定溶液製剤の実施例から形成され、血管(例えば動脈又は静脈)に挿入されたカテーテルに導入されるカテーテル固定溶液の概略図であり、拡大図は、固定溶液中のNO供与体からの一酸化窒素ガス(NO)の産生を示す。
図3】7時間にわたる、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中に10μMのGSNOを含む溶液及び25μMのGSNOを含む溶液からの一酸化窒素(NO)放出プロファイルを示すグラフである。
図4】アルコルビン酸を含まない場合(GSNO)及びアスコルビン酸を含む場合(GSNO:Ascは1:1モル比、それぞれ100μM)の双方の、生理食塩水(ミリポア精製水中の0.16M NaCl+0.03M NaHCO)中のGSNOの一酸化窒素(NO)放出動態を示すグラフである。
図5】37℃及び室温(例えば20℃から25℃)における、生理食塩水(ミリポア水中の0.16M NaCl+0.065M NaHCO)中の異なる濃度のGSNOのNO放出動態を示すグラフである。
図6】新たに調製した場合と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した後の、乾燥粉末GSNO製剤の安定性を、紫外可視分光光度測定法で測定された初期GSNO%対時間で示す棒グラフである。
図7】37℃、室温(例えば20℃から25℃)、及び酸素(空気)の存在下での37℃における、生理食塩水(ミリポア水中の0.16M NaCl+0.065M NaHCO)中のGSNO:グルタチオン(GSH)(1:1モル比、それぞれ100μM)のNO放出動態を示すグラフである。
図8】新たに調製した場合と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した後の、GSNO:GSH(1:1モル比)製剤の安定性を、紫外可視分光光度測定法で測定された初期GSNO%対時間で示す棒グラフである。
図9】37℃及び室温(例えば20℃から25℃)における、生理食塩水(ミリポア水中の0.16M NaCl+0.065M NaHCO)中のGSNO:GSH:エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(1:1:0.1モル比、100μMのGSNO)のNO放出動態を示すグラフである。
図10】新たに調製した場合と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した後の、GSNO:GSH:EDTA(1:1:0.1モル比)製剤の安定性を、紫外可視分光光度測定法で測定された初期GSNO%対時間で示す棒グラフである。
図11】37℃における生理食塩水中の異なるモル比のGSNO:アスコルビン酸(Asc)、及び、室温(例えば20℃から25℃)における生理食塩水中のGSNO:Asc(1:1モル比、それぞれ100μM)のNO放出動態を示すグラフである。
図12】新たに調製した場合と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した後の、GSNO:Asc(1:1モル比)製剤の安定性を、紫外可視光で測定された初期GSNO%対時間で示す棒グラフである。
図13】37℃における生理食塩水中の異なるモル比の新たに調製されたGSNO:Asc:EDTA、及び、室温(例えば20℃から25℃)における生理食塩水中のGSNO:Asc:EDTA(1:1:0.1モル比)のNO放出動態を示すグラフである。
図14】新たに調製した場合と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した後の、GSNO:Asc:EDTA(1:1:0:1モル比)製剤の安定性を、紫外可視分光光度測定法で測定された初期GSNO%対時間で示す棒グラフである。
図15】黄色ブドウ球菌バイオフィルム破壊に対する様々な濃度のGSNO:Asc(常に1:1モル比)の効果を示すグラフである。
図16】緑膿菌バイオフィルム破壊に対する様々な濃度のGSNO:Asc(常に1:1モル比)の効果を示すグラフである。
図17】(a)は、嚢胞性線維症(CF:cystic fibrosis)患者から取得した細胞(これらの細胞はNOの内因的産生が欠損し、従って検出される亜硝酸塩は追加のGSNO:Ascによるものである)を用いて確立した粘膜毛様体分化した気道上皮細胞培養物の先端表面上で成長させた黄色ブドウ球菌バイオフィルムの死滅に対する、異なる濃度のGSNO:Asc(1:1モル比)の効果を示すグラフである。(b)は、異なる濃度のGSNO:Ascで処置した後、黄色ブドウ球菌バイオフィルムがコロニー形成されたCF細胞培養物の先端表面上に存在する亜硝酸塩レベルを示す棒グラフである。(c)は、黄色ブドウ球菌バイオフィルムがコロニー形成され、異なる濃度のGSNO:Ascで処置されたCF気道上皮細胞培養物からの、炎症性サイトカインであるインターロイキン-8(IL-8)の放出を示す棒グラフである。
図18】(a)および(b)は、PBSで処置された粘膜毛様体分化した細胞培養物と比べて、GSNO:Ascによる処置が、粘膜毛様体分化した細胞培養物の先端表面上で成長させた細菌性バイオフィルムの密度を低下させることを示す共焦点画像(黒と白)である。
図19】CF気道上皮細胞培養物の頂点表面上に確立された黄色ブドウ球菌バイオフィルムの死滅に対する、GSNO:Asc(1:1モル比、0.625mMのGSNO:Asc)及びゲンタマイシン(50μg/ml)の相乗効果を示すグラフである。
図20】ヒトCF上皮培養物上にコロニー形成された黄色ブドウ球菌の死滅に対するGSH及びアスコルビン酸の効果を個別に示すグラフである。
図21】慢性鼻副鼻腔炎の患者から確立された鼻副鼻腔上皮細胞培養物の頂点表面上で成長させた黄色ブドウ球菌バイオフィルムの死滅に対する、GSNO:Asc(1:1モル比、0.625mM GSNO:Asc)の効果を示すグラフである。
図22】(a)および(b)は、GSNO:Ascで処理する前の、CF気道上皮細胞培養物の頂点表面上で成長させた黄色ブドウ球菌バイオフィルムの走査型電子顕微鏡画像を示す。(c)および(d)は、GSNO:Asc(1:1モル比、0.625mM GSNO:Asc)で処理した3時間後の、CF気道上皮細胞培養物の頂点表面上で成長させた黄色ブドウ球菌バイオフィルムの走査型電子顕微鏡画像を示す。
図23】非感染CF培養物と、黄色ブドウ球菌に感染させた後にPBS又はGSNO:Asc(1:1モル比、0.625mM GSNO:Asc)のいずれかで処置したCF培養物の、線毛運動周波数(ciliary beat frequency)を示す棒グラフである。
図24】GSNO:GSH固定溶液(1:1モル比、それぞれ2mM濃度)を充填したシリコーンゴムカテーテルの外面NO流束を時間に対して示すグラフである。
図25】GSNO:GSH固定溶液(1:1モル比、それぞれ10mM濃度)を充填したポリウレタンカテーテルの外面NO流束を時間に対して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一酸化窒素(NO)は、強力な抗菌物質かつ抗ウイルス物質である。インビボのNO欠損は、遺伝もしくは多型に関連するか、又はNO産生の上流調節を利用する病原体によって誘発される可能性がある。NO産生の欠損は、粘液線毛機能(これは気道上皮における一次自然免疫防御機構の1つであり、線毛運動周波数に直接相関付けられる)を低減させ、微生物感染に対する感受性を増大させ、及び/又は抗生物質に対して無反応である細菌性バイオフィルムの持続性を促進する可能性がある。
【0008】
本明細書に開示される実施例のいくつかにおいて、一酸化窒素発生製剤は、特に、抗菌性鼻副鼻腔処置溶液を作製するために使用できる抗菌性鼻副鼻腔処置製剤として製剤化される。抗菌性鼻副鼻腔処置溶液は、残留鼻副鼻腔製剤が副鼻腔に存在する期間中にNOをゆっくり自然送達することを可能とする。本明細書に開示される抗菌性鼻副鼻腔処置溶液は、上皮細胞及び免疫細胞の外部及び内部のNOレベルを上昇させ、これは線毛運動周波数の制御にも役立つ可能性がある。このため、本明細書に記載される一酸化窒素発生製剤の実施例を含む抗菌性鼻副鼻腔処置溶液は、粘液線毛機能(これは上述のように線毛運動周波数に直接相関付けられる)の回復/向上に役立ち得る。粘液線毛機能の回復/向上によって、慢性的に定着した病原体に対する防御の増大、及び疾患持続化の軽減、更には防止も可能となり得る。更に、処置溶液から放出された一酸化窒素は、鼻副鼻腔を感染させる可能性のある細菌及びウイルスのほとんどのタイプに対して直接的な殺菌活性及び抗ウイルス活性を有する。従って、この鼻副鼻腔処置溶液は、CRSを含む上気道感染の処置に、更には防止にも有利となり得る。
【0009】
本明細書に開示される他の実施例では、一酸化窒素発生製剤は、特に、カテーテル固定溶液として利用できるカテーテル固定溶液製剤として製剤化される。カテーテル固定溶液は、カテーテルの1又は複数の管腔内に注入することができ、ここで溶液は数時間から数日の期間にわたって自然にかつゆっくりとNOを放出する。NOはカテーテルの壁を通って浸透するので、カテーテルの管腔の内壁及び外面の双方においてバイオフィルムの付着及び成長を防止するのに役立ち得る。このため、カテーテル固定溶液は抗菌性カテーテル固定溶液とすることができる。本明細書に開示される実施例のいくつかにおいて、カテーテル固定溶液は、カテーテルの遠位端で局所的な抗凝固剤として機能するか又は抗血栓作用を向上させることができる添加剤も含む。
【0010】
本明細書に開示される一酸化窒素発生製剤の実施例は、S-ニトロソチオール(RSNO)粉末、塩、及び添加剤を含む。以下で更に詳しく記載するように、一酸化窒素発生製剤の構成要素は、単一の組成物の一部である(すなわち、単一のタブレット、ペレット、又は粉末混合物で全てが一緒に混合される)か、又は液体キャリアで一緒に混合される別個の組成物であり得る。別個の組成物の実施例として、RSNO粉末は、1つの容器内に収容されるか又は1つのペレットもしくはタブレットとして製剤化されると共に、塩及び添加剤は、一緒に別の容器内に収容されるか又は別個のペレットもしくはタブレットとして製剤化されるか、あるいは、RSNO粉末、塩、及び添加剤の各々は、それぞれ別個の容器内に収容されるか又は別個のペレットもしくはタブレットとして製剤化される可能性がある。
【0011】
一酸化窒素発生製剤に選択されるRSNOは、人体において自然発生する種であるか、又は人体において自然発生する種に分解できるか、又は人に使用する(例えば摂取、食物摂取等)のに適した薬物である。本明細書に開示される実施例のいずれかにおいて、RSNO又はRSNO粉末は、S-ニトロソグルタチオン(GSNO、人体において自然発生する)、S-ニトロソ-システイン(CYSNO、人体において自然発生する)、S-ニトロソ-N-アセチル-ペニシラミン(SNAP、分解して薬物ペニシラミンになる)、S-ニトロソ-ペニシラミン、及びS-ニトロソ-ヒト血清アルブミン(人体において自然発生する)から成る群から選択される。
【0012】
S-ニトロソグルタチオン(GSNO)は、NO放出S-ニトロソチオール(RSNO)分子の一例である。GSNOは、(内皮細胞、マクロファージ、副鼻腔上皮細胞によって発生した)NOが酸素と反応してNを形成し、これにより提供され得るニトロソニウムイオン(NO)が、グルタチオンのチオール基と反応してGSNOを形成する結果として、人体に存在する。このため、本明細書に開示される一酸化窒素発生製剤においてGSNOを使用しても、カテーテルを介して鼻腔内又は血管内に異物又は毒物は全く混入しない。
【0013】
亜硝酸ナトリウム/グルタチオン(GSH)の混合物を塩酸で酸性化し、次いでGSNO種を(固体結晶として)単離することによって、GSHからGSNOを調製することができる。あるいは、GSNOは市販のサンプルとしてもよい。
【0014】
いくつかの実施例では、一酸化窒素発生製剤において、GSNO以外のS-ニトロソチオール(RSNO)分子を使用することができる。これらの他のS-ニトロソチオールの例には、S-ニトロ-システイン(CYSNO、人体において自然発生する)、S-ニトロソ-N-アセチル-ペニシラミン(SNAP、分解して薬物ペニシラミンになる)、S-ニトロソ-ペニシラミン、及びS-ニトロソ-ヒト血清アルブミン(人体において自然発生する)が含まれる。
【0015】
一酸化窒素発生製剤が抗菌性鼻副鼻腔処置製剤である場合、生理的オスモル濃度を与える任意の塩を使用することができる。抗菌性鼻副鼻腔処置製剤に適した塩の例は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。鼻副鼻腔処置製剤の実施例において、塩は、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウムの組み合わせを含む。
【0016】
一酸化窒素発生製剤がカテーテル固定製剤である場合、生理的オスモル濃度を与えると共に凝結(clotting)を促進しない任意の塩を使用することができる。カテーテル固定製剤に適した塩の例は、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0017】
選択された添加剤は、RSNO粉末、塩、及び添加剤を(例えば鼻副鼻腔洗浄液のため又はカテーテル固定溶液のため)液体キャリアに溶解させた後、又は(例えば鼻腔スプレーのため)エアロゾルスプレーに組み込んだ後に、RSNOからの一酸化窒素の放出速度を制御又は加速することができる。抗菌性鼻副鼻腔処置製剤に添加剤を含ませると、副鼻腔内でのNO放出の時間プロファイルに対する制御が可能となり、これは治療的有効性を高めることができる。カテーテル固定溶液製剤に添加剤を含ませると、カテーテル内及びカテーテルからのNO放出の時間プロファイルに対する制御が可能となり、これは抗菌活性を高めることができる。添加剤の例には、還元グルタチオン(GSH)、システイン、アルコルビン酸又はアスコルビン酸塩、銅イオン、亜鉛イオン、酸化亜鉛粒子、有機セレン種、又はそれらの組み合わせが含まれる。有機セレン種の例は、セレノシステイン及びエブセレンから成る群から選択される。添加剤の組み合わせの一例は、還元グルタチオン及びアスコルビン酸塩である。
【0018】
以下は、RSNOからの、特にGSNOからの一酸化窒素の放出速度を添加剤がどのように制御又は加速できるかのいくつかの例である。グルタチオンは、初期N-ヒドロキシスルフェンアミド種の形成を介してGSNOからNO放出速度を上昇させることができ(例えばGS-N(OH)-SG)、これは次いでラジカルGSに変換し、別のGSNO分子と反応してNOを遊離させると共にGSSGジスルフィド種を形成することができる。システインは、GSNOによってトランスニトロソ化して(transnitrosate)CysNOを形成することができ、これはGSNOよりもはるかに高速でNOを放出する。アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩は、容易に酸化して、より小さいトレオース構造(三炭糖)を形成できる。アスコルビン酸塩の自然酸化は、GSNOの還元と結び付いて、NOとGSHを遊離する。更に、アルコルビン酸塩の酸化生成物、すなわちより小さいトレオース構造も、GSNOに1以上の電子を与えることができ、従ってGSNOのNOへの直接還元に寄与し得る還元剤である。一実施例において、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩は溶液中で最大5日まで酸化させ、乾燥させた後、一酸化窒素発生製剤に組み込むことができる。有機セレン種は、GSNOからのNO発生に触媒作用を及ぼすことができる。銅イオン又は亜鉛イオンは、GSH製剤中に存在するいずれかの微量遊離チオールによって+1酸化状態に還元することができ、次いで、Cu(I)又はZn(I)イオンはGSNOをNO及びGSHに還元することができる。
【0019】
一酸化窒素発生製剤内で、RSNO粉末と添加剤とのモル比は、1:10(0.1)から10:1(10)までの範囲である。一実施例において、RSNO粉末と添加剤とのモル比は約1:1である。
【0020】
また、抗菌性鼻副鼻腔処置製剤(RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とを含む)は、所定量の水又は別の液体キャリアを加えてこれらの構成要素を溶解し、副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液を形成した場合に、鼻副鼻腔処置溶液中のRSNOの濃度が約25μMから約10mMまでの範囲となるように調製することができる。一実施例において、副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液中のRSNOの濃度は約100μMである。
【0021】
また、カテーテル固定溶液製剤(RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とを含む)は、所定量の水又は別の液体キャリアを加えてこれらの構成要素を溶解し、カテーテル固定溶液を形成した場合に、カテーテル固定溶液中のRSNOの濃度が約500μMから約50mMまでの範囲となるように調製することができる。
【0022】
また、抗菌性鼻副鼻腔処置製剤(RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とを含む)は、金属イオンキレート剤も含むことができる。金属イオンキレート剤を用いて、異なる化学物質に又は再構成流体/溶液に存在する遊離銅イオン及び/又は亜鉛イオンのレベルを制御できる。一例として、Cu(II)イオンは、RSNO分解の触媒として作用することができる(ここで、Cu(II)は遊離チオールによってCu(I)に還元され、Cu(I)はRSNOをNO及びRSHに還元する)。これらの効果が望ましくない場合は、金属イオンキレート剤を用いてこれらの効果を除去することができる。金属イオンキレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス四酢酸(EGTA)、クエン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせが含まれる。抗菌性鼻副鼻腔処置製剤は、水又は別の液体キャリアを加えて副鼻腔洗浄液を形成した場合に、金属イオンキレート剤の濃度が約1μMから約1mMまでの範囲となるように調製することができる。
【0023】
また、カテーテル固定溶液製剤(RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とを含む)は、抗凝固剤も含むことができる。抗凝固剤は、カテーテル外へ拡散する際に、カテーテルの先端で局所的な抗凝固活性を与えることができる。適切な抗凝固剤の例には、ヘパリン、EDTA、クエン酸ナトリウム、及びそれらの組み合わせが含まれる。ヘパリンを含ませると、カテーテル先端において抗血栓作用も高めることができる。カテーテル固定溶液製剤は、水又は別の液体キャリアを加えてカテーテル固定溶液を形成した場合に、抗凝固剤の濃度が有効量で存在するように調製することができる。ヘパリンの有効量の一例は、約2単位/mL(U/mL)から約100U/mLまでの範囲である。EDTA又はクエン酸ナトリウムの有効量の一例は、約0.5mMから約25mMまでの範囲である。
【0024】
本明細書に開示される実施例のいずれかにおいて、RSNO粉末、塩、及び添加剤は、一緒に単一の粉末組成物(これは単一のパケット、容器等に収容され得る)において、又は単一のペレット、タブレット等として、製剤化することができる。いくつかの例では、抗菌性鼻副鼻腔処置製剤のための金属イオンキレート剤、又はカテーテル固定溶液製剤のための抗凝固剤のような他の添加剤も、単一の粉末組成物又は単一のペレット、タブレット等の一部とすることができる。あるいは、本明細書に開示される実施例のいずれかにおいて、RSNO粉末を第1の容器内に収容し、塩及び添加剤を第1の容器とは別個の第2の容器に収容してもよい。各容器の内容物を液体キャリアに加えて、本明細書に開示される溶液の一実施例を形成することができる。更に、本明細書に開示される実施例のいずれかにおいて、RSNO粉末、塩、及び添加剤の各々をそれぞれ別個の第1、第2、及び第3の容器に収容してもよい。この実施例では、各容器の内容物を液体キャリアに加えて、本明細書に開示される溶液の一実施例を形成することができる。
【0025】
更に、本明細書に開示される実施例のいずれかにおいて、RSNO粉末、塩、及び添加剤は、一緒に液体キャリアにおいて製剤化することができる。このため、いくつかの実施例では、鼻副鼻腔処置製剤(RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とを含む)は、液体キャリアも含む。これらの実施例において、液体キャリアは、水、生理食塩水溶液(saline solution)、重炭酸ナトリウムを伴う生理食塩水溶液(NaHCO)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化カルシウムを伴う水溶液(CaCl)、及び、リン酸ナトリウム緩衝液又はリン酸カリウム緩衝液を伴う水溶液から成る群から選択することができる。他の実施例では、カテーテル固定溶液製剤(RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とを含む)は、液体キャリアも含む。これらの実施例において、液体キャリアは、水、生理食塩水溶液、重炭酸ナトリウムを伴う生理食塩水溶液(NaHCO)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、及び、リン酸ナトリウム緩衝液又はリン酸カリウム緩衝液を伴う水溶液から成る群から選択することができる。
【0026】
一酸化窒素発生製剤は、一酸化窒素発生キット内に含めることができる。NO発生キットは、抗菌性副鼻腔処置キット又はカテーテル固定溶液キットであり得る。NO発生キットでは、RSNOは第1の粉末組成物の一部であり、添加剤は第2の粉末組成物の一部であり、塩は第1もしくは第2の粉末組成物のいずれかの一部であるか、又はそれ自身が別個の(第3の)粉末組成物であり得る。NO発生キットは、第1及び第2の粉末組成物(それらのうち一方が塩を含む)、又は第1、第2、及び第3の粉末組成物を液体キャリアに溶解するための容器も含む。
【0027】
キットのいくつかの実施例において、一酸化窒素発生製剤の全ての構成要素は、単一の粉末組成物(これは列挙した構成要素の乾燥混合物であるか、又は列挙した構成要素を含むペレット、タブレット等である)に含まれる。言い換えると、前述の第1及び第2の粉末組成物、又は第1、第2、及び第3の粉末組成物は、一緒に組み合わされて、単一の粉末組成物又は単一のペレット、タブレット等を形成する。キット内で、この単一の粉末組成物は、パウチ、アンプル、バイアル、もしくはその他の適切な容器内に収容するか、又は、所与の体積の液相/液体キャリアに溶解できるペレット、タブレット等に圧縮することができる。鼻副鼻腔処置キットの実施例において、RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とは、金属イオンキレート剤を含む場合も含まない場合も、一緒に組み合わされて単一の乾燥ペレット又は粉末になる。カテーテル固定溶液キットの実施例において、RSNO粉末と、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された塩と、添加剤とは、抗凝固剤を含む場合も含まない場合も、一緒に組み合わされて単一の乾燥ペレット又は粉末になる。
【0028】
他の実施例では、一酸化窒素発生製剤は、第1の粉末組成物及び第2の粉末組成物を別個の組成物としての含み、それらのうち一方が塩を含む。更に別の実施例では、一酸化窒素発生製剤は、第1の粉末組成物、第2の粉末組成物、及び第3の粉末組成物を別個の組成物として含む。キット内で、別個の粉末組成物は別個のパウチ、パケット、又は他の適切な容器内に収容されるか、又は別個の粉末組成物はそれぞれ2つもしくは3つの異なるペレット、タブレット等に圧縮される。
【0029】
また、一酸化窒素発生キットは、1又は複数の粉末組成物を液体キャリアに溶解させるための(任意のタイプの)容器も含むことができる。鼻副鼻腔処置キットのための容器の例には、鼻洗浄用ボトル又はネティポット(neti-pot)が含まれる。カテーテル処置キットのための容器の例には、アンプル、又はバイアル、又はシリンジが含まれる。
【0030】
本明細書に開示される一酸化窒素発生製剤のいくつかの実施例を、所定量の水又は別の液体キャリアに加えて、副鼻腔洗浄液又は鼻副鼻腔処置溶液を形成することができる。これによって得られる副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液は、4から10までの範囲のpHを有する。副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液は、ユーザによって調製して即座に使用することができる。
【0031】
副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液の実施例において、液体キャリアは、鼻腔を介して人の上気道に導入することができる任意の適切な液体とすればよい。液体キャリアは、水、生理食塩水溶液、重炭酸ナトリウムを伴う生理食塩水溶液(NaHCO)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化カルシウムを伴う水溶液(CaCl)、又は、リン酸ナトリウム緩衝液もしくはリン酸カリウム緩衝液を伴う水溶液とすればよい。液体キャリア中に存在する塩は、一酸化窒素発生製剤(塩を含む)を溶解させた場合に導入され得ることは理解されよう。例えば、重炭酸ナトリウム及び塩化ナトリウムは、水に加えられて副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液を形成する一酸化窒素発生製剤に含ませるか、又は、RSNO及び添加剤構成要素と共に水に加えられる別個のパケットとすることができる。この特定の実施例では、塩を水に溶解させた場合、形成される溶液は重炭酸ナトリウム/塩化ナトリウム溶液である。一実施例において、この溶液は、約0.16Mの塩化ナトリウム及び約0.065Mの重炭酸ナトリウムを含む。
【0032】
また、本明細書に開示される一酸化窒素発生製剤の実施例をエアロゾルに加えて鼻腔スプレーを形成することも可能である。この実施例では、エアロゾルスプレー容器に水を充填し、次いでこの容器に乾燥粉末鼻腔製剤を加えることで、エアロゾルスプレーとして鼻腔及び副鼻腔に投与できるRSNO含有溶液を作製することができる。エアロゾルスプレー中のRSNOの濃度は、副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液手法で用いられるものと同等とすればよい。いくつかの実施例では、エアロゾルスプレー中のRSNOの濃度は、副鼻腔洗浄液手法で用いられるものよりも高くすることができる。
【0033】
本明細書に開示される実施例において、一酸化窒素発生製剤又はキットは、鼻腔一酸化窒素(NO)レベルを上昇させるための方法で使用することができる。これの一例が図1に示されている。この方法は、鼻腔/副鼻腔洗浄液10又はエアロゾルスプレー(適切な容器12に収容されている)を介して、S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン(GSNO))及び添加剤を鼻腔に導入することを含む。
【0034】
鼻腔/副鼻腔洗浄液を利用する場合、容器12において洗浄液10を新たに調製することが望ましい場合がある。これは、一酸化窒素発生製剤を液体キャリアに加え、1又は複数の粉末、1又は複数のタブレット、1又は複数のペレット等が溶解するように撹拌又は振り動かし、次いでこの洗浄液を鼻腔に導入することによって行われる。エアロゾルスプレーを利用する場合、エアロゾル容器は、エアロゾル溶液を新たに調製するように構成できる。これは、1又は複数の粉末、1又は複数のタブレット、1又は複数のペレット等を液体キャリアに導入し、この溶液を鼻腔に投与する際にエアロゾル化することによって行われる。
【0035】
副鼻腔洗浄液/鼻副鼻腔処置溶液(生理食塩水/HCO溶液中の一酸化窒素発生製剤の実施例を含む)を鼻腔に導入した場合、RSNO及び添加剤(ここで、図1ではRSNO=GSNOである)も鼻腔に導入される。副鼻腔洗浄液を鼻孔に導入すると、一酸化窒素発生製剤のかなりの量が、(図1に示されているように)副鼻腔の内壁を覆う副鼻腔/鼻腔の粘膜組織の表面に沿ったポケット内で鼻副鼻腔処置溶液の層として維持される。溶液中のRSNOは、制御された速度で(使用される添加剤によって制御できる)自然に分解して、NOを放出する。これは、エアウェーブ内の、及びバイオフィルムが存在し得る副鼻腔/鼻腔の粘膜組織の表面のNOレベルを上昇させる。
【0036】
発生するNOのレベル上昇は、治療的(therapeutic)であり、細菌及びウイルスの死滅、細菌性バイオフィルム形成の破壊、微生物膜形成の分散又は防止(例えば抗生物質耐性バイオフィルムの分散)、炎症の軽減、並びに線毛運動周波数の増大を助けるのに充分であり、これによって粘膜毛様体クリアランス(mucociliary clearance)が改善される。NO産生の増大は、ほぼ即座に、長期にわたって(例えば最大約4~6時間まで)観察され得る。本明細書に開示される鼻腔製剤を用いて感染と闘うことができる。更に、本明細書に開示される鼻腔製剤を毎日使用する(例えば1日に1~2回)ことで、NOレベルを健康な個体のレベルと同等に維持するのに役立てることができ(すなわち、人体が感染と闘うのと一致した方法で鼻腔を健康に保つことに役立ち得る)、これは、細菌性バイオフィルム形成及びCRS疾患持続化の防止を可能とする。
【0037】
本明細書に開示される実施例によってNOを大量に産生し過ぎる(毒性レベル)リスクの可能性は低い。例えば、典型的な副鼻腔は約60mLの体積を有する。従って、副鼻腔洗浄液の250mL体積の10%が副鼻腔内に残り(副鼻腔壁に沿って、及び隙間(crevice)内に)、洗浄液が10μMのGSNOを含有する場合、もしも全てのNOが即座に放出されたとしたら(これは、GSNOからNOが数時間かけてゆっくり放出されることを考えると起こり得ない。例えば図3及び図6を参照のこと)、鼻副鼻腔内に存在し得る気相NOの最高レベルは約80ppmvである。本明細書に開示される実施例では、洗浄液又はエアロゾルスプレーを介して一酸化窒素発生製剤を導入する結果としての副鼻腔内の気相NOレベルは、ターゲットとする正常な200~500ppbvレベルよりもはるかに低いか又はこれに近い。
【0038】
本明細書に開示される一酸化窒素発生製剤の他の実施例は、所定量の液体キャリアに加えてカテーテル固定溶液を形成することができる。これによって得られるカテーテル固定溶液は4から10までの範囲のpHを有する。カテーテル固定溶液は、ユーザによって調製して即座に使用することができる。
【0039】
カテーテル固定溶液を形成するために使用される液体キャリアは、カテーテル内に導入することができると共に患者の血液凝固を促進しない任意の適切な液体とすればよい。これらの実施例において、液体キャリアは、水、生理食塩水溶液、重炭酸ナトリウムを伴う生理食塩水溶液(NaHCO)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又は、リン酸ナトリウム緩衝液もしくはリン酸カリウム緩衝液を伴う水溶液とすればよい。液体キャリア中に存在する塩は、カテーテル固定溶液製剤(塩を含む)を溶解させた場合に導入され得ることは理解されよう。例えば、重炭酸ナトリウム及び塩化ナトリウムは、水に加えられてカテーテル固定溶液を形成するカテーテル固定溶液製剤に含ませるか、又は、RSNO及び添加剤構成要素と共に水に加えられる別個のパケットとすることができる。
【0040】
本明細書に開示される実施例において、カテーテル固定溶液又はキットは、患者に注入されるカテーテルの内部及び外部の双方における抗菌一酸化窒素(NO)レベルを上昇させるための方法で使用することができる。これの一例が図2に示されている。
【0041】
この方法は、容器12’において液体キャリア16にカテーテル固定溶液製剤14を加え、1又は複数の粉末、1又は複数のタブレット、1又は複数のペレット等の製剤14が液体キャリア16に溶解するように撹拌又は振り動かすことによって、カテーテル固定溶液10’を調製することを含む。一実施例では、約2mLから約3mLの純水を、RSNO、塩、及び添加剤のタブレットに加えて、カテーテル固定溶液10’を形成する。他の例では、容器12’において液体キャリア16に異なる粉末組成物を加え、撹拌するか又は他の方法で混合して組成物を溶解して、カテーテル固定溶液10’を形成する。
【0042】
この方法は次いで、カテーテル固定溶液10’をカテーテル20の管腔(これは患者の血管22内に配置されている)に導入することを含む。シリンジ18(又は他の適切な機器)を用いて、カテーテル固定溶液10’を(容器12’から)取り出し、カテーテル固定溶液10’を管腔に導入することができる。
【0043】
再構成されたカテーテル固定溶液10’は、長期間にわたって低レベルのNOを放出する。カテーテル管腔の少なくとも遠位端が、発生されたNOを放出する。遠位端におけるNOは、局所的な血小板活性、血栓形成、及び遠位の閉塞を阻害する。管腔及びカテーテル20の壁が一酸化窒素に対して透過性である場合(図2に示されているように)、NOは管腔及びカテーテルの壁の外へ良好に分割することができる。管腔及びカテーテル20に使用され得るNO透過性材料の例には、シリコーンゴム(SR)、ポリウレタン(PU)、SR及びPUの共重合体、PU及びポリカーボネートの共重合体、並びにその他のNO透過性材料が含まれる。管腔及びカテーテル20の壁が一酸化窒素に対して透過性である場合、NOはカテーテル20の外面全体で放出され得る。これにより、細菌付着、バイオフィルム形成、及びカテーテル外面での凝固が少なくとも実質的に防止される。例えば、発生するNOのレベル上昇は、治療的であり、細菌及びウイルスの死滅、細菌性バイオフィルム形成の破壊、並びに微生物膜形成の分散又は防止(例えば抗生物質耐性バイオフィルムの分散)を助けるのに充分である。同時に、カテーテル20の管腔内の固定溶液にはもっと高いレベルのNOが存在し、これは、デバイス20がマルチルーメンカテーテルである場合、その管腔及び他の管腔内の感染を防止する。更に、カテーテル固定溶液10’を形成するために使用される一酸化窒素発生製剤14に抗凝固剤が含まれている場合、カテーテル20の遠位端におけるカテーテル固定溶液10’の抗血栓効果は更に向上する可能性がある。
【0044】
本明細書に開示される実施例では、液体キャリアに乾燥一酸化窒素発生製剤を加えて活性溶液を形成する。鼻腔で又はカテーテルで使用する直前に、液体キャリアにおいて一酸化窒素発生製剤を再構成することが望ましい場合がある。これは、新たに調製した溶液の方が、RSNOが長期間(例えば数日間)にわたって存在している溶液に比べて安定しているからである。
【0045】
本開示を更に説明するため、本明細書では実施例が与えられる。これらの実施例は例示の目的のためのものであり、本開示の範囲を限定するものと解釈されないことは理解されよう。
【0046】
実施例1
2つの異なる溶液、すなわち、生理的pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水中に10μMのGSNOを含むもの及び25μMのGSNOを含むものを調製した。これらの溶液は本明細書に開示される添加剤を含まなかった。
【0047】
化学発光検出によって、2つの溶液のNO放出プロファイルを37℃で測定した。その結果が図3に示されている。図示のように、双方の溶液は7時間超にわたって連続的にNOを発生し、高い濃度のGSNOを含む溶液の方が高いレベルのNOを発生した。この実施例においてこれらの溶液で観察されたNOレベルは、概ね5ppbvから40ppbvまでの範囲内であるが、副鼻腔内で実際に観察されるはずの気体レベルに比べ、放出されたNOを化学発光NO分析装置内へ押し流す窒素流で試験溶液を連続的に洗い流すことによって著しく希釈されていることに留意すべきである。
【0048】
2つの追加の溶液、すなわち、0.16M NaCl/0.03M NaHCO中に100μMのGSNOを含むもの、及び、100μMのGSNOと100μMのアスコルビン酸塩(すなわち本明細書に開示される添加剤の1例)とを含むものを調製した。
【0049】
化学発光検出によって2つの追加の溶液のNO放出を測定した。その結果が図4に示されている。図示のように、アスコルビン酸塩を含ませるとNO放出プロファイルが向上し、NO放出は全て2~3時間ウィンドウ内で生じた。試験を行った追加の溶液は、窒素でパージして、GSNOから放出されたNOを化学発光NO気相分析装置内へ押し流したので、放出速度は、製剤が副鼻腔洗浄液又はエアロゾルスプレーとして使用される場合に観察されるよりも高速である可能性があることに留意すべきである。
【0050】
実施例2
製剤
この実施例では、前もって合成したS-ニトロソグルタチオン(GSNO)を、単独で用いて、又は還元L-グルタチオン(GSH、>98%)もしくはL-アスコルビン酸(Asc)と組み合わせて用いて、いくつかの鼻孔製剤かを調製した。これらの製剤のうちいくつかは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び/又は生理食塩水塩(NaCl及びNaHCO)も含んだ。構成物質を乾燥粉末として混合し、4mLの茶色のバイアルで、冷凍室(-18℃)、4℃、室温(RT、約20℃から約25℃)、又は37℃で貯蔵した。
【0051】
様々な乾燥粉末鼻腔製剤は、GSNO、GSNO及びGSH(1:1モル比)、GSNO、GSH、及びEDTA(1:1:0.1モル比)、GSNO:Asc(1:1モル比)、GSNO:Asc:EDTA(1:1:0.1モル比)を含んだ。
【0052】
GSNO及びEDTAの乾燥粉末鼻腔製剤を生理食塩水塩で調製し、GSNO及びGSHの乾燥粉末鼻腔製剤を生理食塩水塩で調製した。これらの製剤は双方とも、(水で)200mLに希釈した場合に最終的なGSNO濃度が100μMになるように調製した。
【0053】
NO放出速度
ガラスピペットによって50mL/分の窒素でパージしながら、茶色のNOAセルにおいて、化学発光一酸化窒素分析装置(NOA:nitric oxide analyzer)により、いくつかの溶液製剤のNO放出速度を室温及び37℃で測定した。溶液製剤は、新たに調製した(初期データ)(すなわち、測定直前に乾燥粉末鼻腔製剤を10mLの生理食塩水溶液(水中のNaCl及びNaHCO)に溶解させた)か、又は、測定直前に10mLの生理食塩水溶液(水中のNaCl及びNaHCO)に新たに溶解させた貯蔵乾燥粉末アリコートから調製した。以下の時間期間で、すなわち、0(新たに調製した)、1か月、2か月、4か月、及び6か月にわたって、NO放出速度を試験した。
【0054】
NOAはシーバス(Sievers)NOAであった。放出動態の研究は、過渡曲線の全体的な形状、半減期、及び理論GSNO含有量(%)と比べて放出された全NOを分析することを含んだ。主に、異なる機械は異なる定数のために異なるPPB/mL値を生じるので、グラフの形状は非常に定性的であると見なした。必要な場合、GSNOからNO全てを極めて迅速に放出するため、銅/システイン法によって、各製剤におけるGSNO定量化を試験した。
【0055】
安定性の測定
紫外/可視分析によって、及び/又は(前述のような)シーバス一酸化窒素(NO)分析装置によって、乾燥粉末製剤のうちいくつかの安定性を試験した。
【0056】
紫外/可視分析では、各時間間隔(0(新たに調製した)、1か月、2か月、4か月、及び6か月)で、乾燥粉末製剤からの3つのサンプル(それぞれ3~5mg)を4mLの茶色のバイアルに入れた(各温度で行ったので、1製剤当たり12のバイアル)。次いで、各製剤を4mL PBS+0.1mM EDTA(PBSE)溶液に希釈し、30秒間混合し、この希釈製剤の1mLを使い捨て紫外/可視キュベット内の3mL PBSEに注入した。PBSEスペクトルをブランクとして測定した後、典型的に300~600nmで吸光度スペクトルを測定した。
【0057】
334nmで測定した吸光度によってGSNOを定量化した。次いでこれらの値を、各製剤の初期又は理論GSNO含有量の百分率の計算値と比較した。以下で検討するように、GSH、アスコルビン酸塩、及びEDTAは、334nmでは吸光度を持たず、従ってこの波長を各製剤におけるGSNOの選択的な定量化のために使用した。
【0058】
GSHの安定性
GSH安定性を検出するため、エルマンのアッセイを使用した。このアッセイは、化合物を5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)と反応させて412nmで吸光度を有する黄色の生成物を産生した後、この化合物中の遊離チオール基の量を検出する。これは、GSHが334nmで干渉吸光度を持たないことを示している。
【0059】
アスコルビン酸の安定性
アスコルビン酸塩(すなわちビタミンC)は、乾燥状態で極めて長期間にわたって安定であることが知られている。以下で更に詳しく検討するように、アスコルビン酸と混合したGSNOの紫外/可視分析は、新たに調製したサンプルと、乾燥粉末製剤を数か月貯蔵した後に調製したサンプルで、同様である。これらの結果は、アスコルビン酸が比較的安定であることを示している。
【0060】
EDTAの安定性
EDTAも、乾燥条件で極めて長期間にわたって安定であることが知られている。以下で更に詳しく検討するように、GSH又はアスコルビン酸及びEDTAと混合したGSNOのNO放出パターンは、新たに調製したサンプルと、乾燥粉末製剤を数か月貯蔵した後に調製したサンプルとで、同様である。これらの結果は、EDTAが安定であることを示している。
【0061】
GSNOの結果
図5は、37℃及び室温における様々なGSNO製剤のNO放出動態を示す。様々な乾燥粉末混合物を調製し、NO放出測定を行う直前に溶液を調製した。37℃の溶液では、GSNO濃度は1μM、5μM、10μM、25μM、50μM、及び100であった。室温の溶液では、GSNO濃度は100μMであった。図5の結果は、添加剤を加えていないGSNOからのNO放出では、かなり長い遅延時間があり、全ての濃度において5~6時間期間内にピークがあることを示している。更に、図示のように、NO放出量は試験溶液中のGSNO濃度に直接関連している。
【0062】
図6は、新たに調製した場合(すなわち初期)と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した場合の、GSNO製剤の安定性を、(紫外可視分光光度測定法で測定された)初期GSNO%対時間で示す棒グラフである。図6に示されている結果では、乾燥粉末製剤は全て100μMのGSNOを含有した。上述のように、紫外/可視光では、各乾燥粉末製剤を4mL PBS+0.1mM EDTA(PBSE)溶液に希釈し、30秒間混合し、この希釈製剤の1mLを使い捨て紫外/可視キュベット内の3mL PBSEに注入した。GSNO製剤の安定性試験は6か月間で完了した。紫外/可視分析によって、安定性は著しく低下しないことが示されたが、37℃アリコートは最大の安定性の低下を示し、6か月後では(新たに調製した/初期サンプルの100%に比べて)67%が残っていた。GSNO製剤を貯蔵するために使用したバイアル内のヘッドスペースは室内の空気であり、いくらかの水分を含んでいた。従って、完全に乾燥したヘッドスペース雰囲気におけるGSNO製剤の真の保存期間安定性は、はるかに良好である可能性がある。
【0063】
GSNO:GSH(1:1)の結果
図7は、37℃、室温、及び酸素(空気)の存在下での37℃における、生理食塩水中のGSNO:グルタチオン(GSH)(1:1)のNO放出動態を示すグラフである。これらの溶液の各々は、貯蔵されていない乾燥粉末製剤を用いて新たに調製した。各溶液において、GSNO及びGSHの濃度はそれぞれ100μMであった。図7の結果は、高い温度ではNO放出速度が上昇することを示している。更に、溶液がGSHなしで構成されている場合(図5を参照のこと)に比べ、NO放出速度は、特に初期においてわずかに上昇している。
【0064】
図8は、新たに調製した場合(すなわち初期)と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した場合の、GSNO:GSH(1:1)製剤の安定性を、(紫外可視分光光度測定法で測定された)GSNO%対時間で示す棒グラフである。図8に示されている結果では、乾燥粉末製剤は全て、100μM GSNO:100μ GSHを含有した。上述のように、紫外/可視光では、各乾燥粉末製剤を4mL PBS+0.1mM EDTA(PBSE)溶液に希釈し、30秒間混合し、この希釈製剤の1mLを使い捨て紫外/可視キュベット内の3mL PBSEに注入した。GSNO:GSH製剤の安定性試験は6か月間で完了した。紫外/可視分析により、6か月間にわたって安定性は著しく低下しないことが示された。GSNO製剤を貯蔵するために使用したバイアル内のヘッドスペースは室内の空気であり、いくらかの水分を含んでいた。従って、完全に乾燥したヘッドスペース雰囲気におけるGSNO製剤の真の保存期間安定性は、はるかに良好である可能性がある。
【0065】
GSNO:GSH:EDTA(1:1:0.1)の結果
図9は、37℃及び室温における、生理食塩水中のGSNO:GSH:エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(1:1:0.1)のNO放出動態を示すグラフである。これらの溶液の各々は、貯蔵されていない乾燥粉末製剤を用いて新たに調製した。各溶液において、GSNO及びGSHの濃度はそれぞれ100μMであった。図9の結果は、EDTAの存在下において、溶液を調製するため使用される化学物質内の微量の金属イオン濃度をEDTAがキレートするのでNO放出速度がいくらか低速になること、及び、これらの微量金属イオン、特に銅イオンが、GSNO分解の触媒として作用し得ることを示している。
【0066】
図10は、新たに調製した場合(すなわち初期)と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した場合の、GSNO:GSH:EDTA(1:1:0.1)製剤の安定性を、(紫外可視分光光度測定法で測定された)GSNO%対時間で示す棒グラフである。図10に示されている結果では、乾燥粉末製剤は全て、100μM GSNO:100μ GSH:10μM EDTAを含有した。上述のように、紫外/可視光では、各乾燥粉末製剤を4mL PBS+0.1mM EDTA(PBSE)溶液に希釈し、30秒間混合し、この希釈製剤の1mLを使い捨て紫外/可視キュベット内の3mL PBSEに注入した。GSNO:GSH製剤の安定性試験は6か月間で完了した。紫外/可視分析によって、4℃及び-18℃のサンプルでは2か月期間で安定性のわずかな低下が示されたが、6か月期間で全体的な安定性が示された。GSNO製剤を貯蔵するために使用したバイアル内のヘッドスペースは室内の空気であり、いくらかの水分を含んでいた。従って、完全に乾燥したヘッドスペース雰囲気におけるGSNO製剤の真の保存期間安定性は、はるかに良好である可能性がある。
【0067】
GSNO:Ascの結果
図11は、37℃における生理食塩水中の異なる比のGSNO:アスコルビン酸(Asc)、及び、室温における生理食塩水中のGSNO:Asc(1:1)のNO放出動態を示すグラフである。これらの溶液の各々は、貯蔵されていない乾燥粉末製剤を用いて新たに調製した。37℃の溶液では、GSNO:Ascの濃度は、100μM:1000μM、100μM:10μM、及び100μM:100μMであった。図11の結果は、アスコルビン酸塩の高い濃度で、2時間期間よりも前に大きいスパイクが観察されることを示し、アスコルビン酸塩の存在によってGSNOからのNO放出が大幅に加速することが実証されている。37℃における生理食塩水中の100μM:100μMの濃度も初期スパイクを生じるが、ベースラインに到達するまでに要する時間が長い。アスコルビン酸塩添加剤の最低濃度である10μMは、NO放出速度に及ぼす効果が極めて小さく、5~6時間ポイントで最大の産生を示し、これは生理食塩水中に他の添加剤を含まないGSNOのみの場合と同様である。
【0068】
図12は、新たに調製した場合(初期)と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した場合の、GSNO:Asc(1:1)製剤の安定性を、(紫外可視光で測定された)GSNO%対時間で示す棒グラフである。図12に示されている結果では、乾燥粉末製剤は全て、100μM GSNO:100μ Ascを含有した。上述のように、紫外/可視光では、各乾燥粉末製剤を4mL PBS+0.1mM EDTA(PBSE)溶液に希釈し、30秒間混合し、この希釈製剤の1mLを使い捨て紫外/可視キュベット内の3mL PBSEに注入した。GSNO:Asc製剤の安定性試験は6か月間で完了した。紫外/可視分析によって、全てのサンプルで良好な安定性が示されたが、室温で貯蔵したサンプルの安定性は4か月で著しく低下した。GSNO製剤を貯蔵するために使用したバイアル内のヘッドスペースは室内の空気であり、いくらかの水分を含んでいた。従って、完全に乾燥したヘッドスペース雰囲気におけるGSNO製剤の真の保存期間安定性は、はるかに良好である可能性がある。
【0069】
GSNO:Asc:EDTA(1:1:0.1)の結果
図13は、37℃における生理食塩水中の異なる比のGSNO:Asc:EDTA、及び、室温における生理食塩水中のGSNO:Asc:EDTA(1:1:0.1)のNO放出動態を示すグラフである。これらの溶液の各々は、貯蔵されていない乾燥粉末製剤を用いて新たに調製した。すでにGSNO:Asc製剤で見たように、NO放出ppb/mLにおける大きい初期スパイク及び急激な低下を回避するようにアスコルビン酸塩の濃度を制御することが重要である。EDTAの存在は、微量の遊離銅イオンレベル(又は他の微量金属イオン)を低下させると共にこの低下を長引かせたので、EDTAを含まない場合は3~4時間であったのに対し、5時間近くまでNO放出が継続した。
【0070】
図14は、新たに調製した場合と、異なる時間期間にわたって異なる温度で乾燥粉末として貯蔵した場合の、GSNO:Asc:EDTA(1:1:0.1)製剤の安定性を、(紫外可視光で測定された)GSNO%対時間で示す棒グラフである。図14に示されている結果では、乾燥粉末製剤は全て、100μM GSNO:100μ Asc:10μM EDTAを含有した。上述のように、紫外/可視光では、各乾燥粉末製剤を4mL PBS+0.1mM EDTA(PBSE)溶液に希釈し、30秒間混合し、この希釈製剤の1mLを使い捨て紫外/可視キュベット内の3mL PBSEに注入した。GSNO:Asc:EDTA製剤の安定性試験は6か月間で完了した。紫外/可視分析によって、全てのサンプルで良好な安定性が示された。室温サンプルのデータは、4か月で安定性の低下を示している。しかしながらこの低下は、バイアルを充填する場合の計量誤差に起因するか、又は、乾燥粉末製剤を異なる貯蔵温度バッチに分類した場合に均質でないことに起因する可能性がある。更に、GSNO製剤を貯蔵するために使用したバイアル内のヘッドスペースは室内の空気であり、いくらかの水分を含んでいた。従って、完全に乾燥したヘッドスペース雰囲気におけるGSNO製剤の真の保存期間安定性は、はるかに良好である可能性がある。
【0071】
生理食塩水と組み合わせた製剤
2つの製剤(GSNO:EDTA及び生理食塩水と、GSNO:GSH及び生理食塩水)を形成して、副鼻腔洗浄液のパッケージングを試験した。最初の1か月間が経過し、この時点で分解は検出されなかった。
【0072】
実施例3
3A 黄色ブドウ球菌バイオフィルム破壊に対するGSNO:Asc(1:1)の効果
3株(SA817、SA1691、及びSA1681)の黄色ブドウ球菌(1×10コロニー形成単位/100μL、又はCFU/100μL)を、それぞれ、96ウェルのマイクロタイタープレートに定着させ(plate)、一晩インキュベートした。プランクトン状の細菌を除去し、生理食塩水で1度洗浄した。様々な濃度のGSNO:アスコルビン酸(1:1又は等モル濃度)を生理食塩水に希釈し、この生理食塩水溶液(0.12M、100μl)を、ウェルの表面に残っている細菌バイオフィルムに加えた。細菌を室温(RT)で4時間インキュベートした後、クリスタルバイオレットで染色することによってバイオフィルム密度を測定した。各株について6の複製(replicate)を用いて(すなわち、図15の各データポイントでN=6、プラスマイナス標準偏差)、実験を3回実行した。実験結果が図15に示されている。具体的には、図15は、3つの異なる黄色ブドウ球菌分離株(SA817、SA1691、及びSA1681)に対するGSNO/Ascの効果を示す。図15に示されているように、GSNO/Asc濃度が0mMから1mMまで増大するにつれて、バイオフィルム密度の著しい低下が観察された。細菌性バイオフィルムをGSNO/Asc溶液に1度、4時間にわたって暴露すると、黄色ブドウ球菌株のバイオフィルム密度は約0.3mM濃度においてほぼ50%低下した。
【0073】
3B CF培養物上の緑膿菌バイオフィルム成長の死滅に対するGSNO:Asc(1:1)の効果
緑膿菌(1×10コロニー形成単位/100μL、又はCFU/100μL)を、96ウェルのマイクロタイタープレートに配置し、一晩インキュベートした。プランクトン状の細菌を除去し、生理食塩水で1度洗浄した。様々な濃度のGSNO:アスコルビン酸(1:1又は等モル濃度)を生理食塩水に希釈し、この生理食塩水溶液(0.12M、30μl)を、ウェルの表面に残っている細菌バイオフィルムに加えた。細菌を室温(RT)で4時間インキュベートした後、クリスタルバイオレットで染色することによってバイオフィルム密度を測定した。6の複製を用いて(すなわち、図16の各データポイントでN=6、プラスマイナス標準偏差)、実験を2回実行した(図16の実験1及び実験2)。実験結果が図16に示されている。具体的には、図16は、緑膿菌分離株に対するGSNO/Ascの効果を示す。図16に示されているように、GSNO/Asc濃度が0mMから2.5mMまで増大するにつれて、バイオフィルム密度の著しい低下が観察された。図16のこれらの結果は図15の結果と同様であるが、緑膿菌の前もって形成されたバイオフィルムの破壊を最大限にするために必要なGSNO/Asc用量はやや多かった。これは、緑膿菌が内部にいくらかのNO還元酵素活性を有する硝化生物であることに関連している可能性がある。更に、高用量で観察されるプラトーは、バイオフィルムの表面に適用された薄いGSNO/Asc溶液層からバイオフィルム/ウェル上の大気中にNOが急速に失われることに関連している可能性がある。高濃度ではNO発生速度は上昇するが、これは、NOがフィルム上の空気中に急速に失われることによって相殺される。
【0074】
3C CF培養物上の黄色ブドウ球菌バイオフィルム成長の死滅に対するGSNO:Asc(1:1)の効果
嚢胞性線維症患者から単離した前駆(基底)気道上皮細胞を空気/液体界面で培養して、インビボの気道上皮に類似した粘膜毛様体分化を促進した。本明細書において、これらの培養物をCF気道上皮細胞と呼ぶ。
【0075】
CF気道上皮細胞の先端表面をPBSで洗浄し、先端で10μLの黄色ブドウ球菌(1×10CFU/ウェル、又は0.01感染増殖(multiplication of infection))に感染させ、24時間インキュベートした。対照サンプル(IL-8の決定及び亜硝酸塩分析のため)は、同様に洗浄したが、黄色ブドウ球菌に感染させなかった。側底培地を交換し、先端表面を生理食塩水で1度洗浄した後、様々な濃度のGSNO/Asc(すなわち、0mM、0.3mM、0.625mM、1.25mM、2.5mM、及び5mM)を含む30μLのPBSを先端表面に加え、4時間インキュベートした。先端表面を、0.2mLの0.15%重炭酸塩を含むPBSで1度洗浄した。洗浄液は亜硝酸塩分析のために使用した(図17(b))。細胞を1%トリトンX-100に溶解させ、連続希釈した細胞溶解物を定着させ、細菌密度を決定した(図17(a))。側底培地におけるIL-8タンパク質をELISAによって決定した(図17(c))。図17(a)のデータは3回から6回の実験の中央値及び範囲を表し、図17(b)及び(c)は平均±標準偏差(S.D.)を表している。図17(a)において、*p<0.05であり、これは生理食塩水のみで処置した細胞培養物とは異なっている。全体として、図17(a)から(c)の結果は、0.625mMのGSNO/Ascが、炎症性サイトカインであるIL-8を誘発することなく、細菌密度を2対数単位以上低下させることを示している。更に、GSNO/Asc処置は、最大5mMまでの用量で細胞毒性又は炎症性効果(IL-8放出によって決定される)を誘発しなかった。図17(b)は、予想されたように、使用するGSNO溶液レベルが上昇するにつれて、頂点表面における亜硝酸レベルが上昇することを示している。
【0076】
生きている細菌数の減少がバイオフィルムの破壊と関連していることを確認するため、共焦点顕微鏡検査を実行した。頂点表面上に黄色ブドウ球菌バイオフィルムが確立されたCF細胞培養物を、前述のようにPBS又はGSNO/Ascで処置した。培養物を軽く洗浄し、パラホルムアルデヒドで固定し、5%正常ロバ血清でブロックし、次いで黄色ブドウ球菌に対する抗体を用いて4℃で一晩インキュベートした。非結合抗体を洗浄し、結合抗体をアレクサフルオル(Alexafluor)-488と共役させた第2の抗体によって検出し、細胞をDAPIで対比染色して核を検出した。培養物を共焦点顕微鏡に搭載し可視化した。PBS処置培養物に比べてGSNO/Asc処置培養物は、極めて少数の細菌を示し、視覚的に細菌性バイオフィルムは観察されなかった。これは、GSNO/Ascが細菌を死滅させることに加えて細菌性バイオフィルムを破壊することを示している。これらの結果は、元々は色付きであり、緑色が細菌を示すと共に青色が核を示すが、図18(a)及び(b)では黒と白で示されている。これらの図で、明るいスポットは細菌を示し、暗いスポットは核を示す。PBS処置培養物は図18(a)に示され、元々の画像は主として緑色である。これに対して、GSNO/Asc処置培養物は図18(b)に示され、元々の画像は主として青色である。GSNO/Ascによる処置は、粘膜毛様体分化した細胞培養物の先端表面上における細菌性バイオフィルム成長の密度を著しく低減させた。
【0077】
3D CF気道上皮細胞上にコロニー形成された黄色ブドウ球菌の死滅に対するGSNO:Asc(1:1)及びゲンタマイシンの相乗効果
CF気道上皮細胞の先端表面をPBSで洗浄し、先端で10μLの黄色ブドウ球菌(2×10CFU/ウェル)に感染させ、24時間インキュベートした。側底培地を交換し、先端表面を生理食塩水で1度洗浄し、30μLのPBS、又は1.25mM GSNO/Ascを含む生理食塩水、又は50μgのゲンタマイシンを含む生理食塩水、又は1.25mM GSNO/Ascと50μgのゲンタマイシンの混合物を含む生理食塩水で、先端を処置した。全ての細胞を4時間インキュベートした。先端表面を、0.2mLの0.15%重炭酸塩を含むPBSで1度洗浄し、次いでPBSで洗浄した。細胞を1%トリトンX-100に溶解させ、連続希釈した細胞溶解物を定着させ、細菌密度を決定した。結果が図19に示されている(N=3)。データは3回の実験からの中央値及び範囲を表している。図19において、*p<0.05であり、これはPBSで処置した培養物とは異なっていた。#P<0.05であり、これはGSNO/Ascで処置した培養物とは異なっていた。これらの結果は、GSNO/Ascを1度適用することが、表面上に残っている生きている黄色ブドウ球菌細胞の数に大きな影響を及ぼす(20~30倍の減少)ことを示している。また、これらの結果は、ゲンタマイシンとGSNO/Ascの組み合わせが、GSNO/Asc単独の場合よりも、細菌の死滅において著しく効果的であることも示している。
【0078】
3E CF気道上皮細胞にコロニー形成された黄色ブドウ球菌の死滅に対するGSH及びアスコルビン酸の効果
CF気道上皮細胞の先端表面をPBSで洗浄し、先端で10μLの黄色ブドウ球菌(2×10CFU/ウェル)に感染させ、24時間インキュベートした。側底培地を交換し、先端表面を生理食塩水で1度洗浄し、30μLのPBS、又は1.25mMのGSHを含む生理食塩水、又は1.25mMのアスコルビン酸を含む生理食塩水で、先端を処置した。全ての細胞を4時間インキュベートした。先端表面を、0.2mLの0.15%重炭酸塩を含むPBSで1度洗浄し、次いでPBSで洗浄した。細胞を1%トリトンX-100に溶解させ、連続希釈した細胞溶解物を定着させ、細菌密度を決定した。結果が図20に示されている。データは4回から5回の実験の中央値及び範囲を表している。図20において、GSH又はアスコルビン酸で処置した培養物において、細菌密度の著しい変化は観察されなかった。これは、図17(a)及び図19で見られる効果が、GSNOからのNO放出に起因することを示唆している。
【0079】
3F CRS患者から取得した鼻副鼻腔上皮細胞から確立した細胞培養物上で成長させた黄色ブドウ球菌バイオフィルムの死滅に対するGSNO/Asc(1:1)の効果
CRSの2人の患者(A及びB)から鼻副鼻腔上皮細胞培養物を確立した。実施例3Cで記載したように、細胞培養物を黄色ブドウ球菌に感染させた。側底培地を交換し、先端表面を生理食塩水で1度洗浄し、30μLの生理食塩水、又は1.25mM GSNO/Ascを含む生理食塩水で先端を処置し、4時間インキュベートした。先端表面を、0.2mLの0.15%重炭酸塩を含むPBSで1度洗浄し、次いでPBSで洗浄した。細胞を1%トリトンX-100に溶解させ、連続希釈した細胞溶解物を定着させ、細菌密度を決定した。結果が図21に示されている。データは4回又は6回の実験からの中央値及び範囲を表している。図21において、*p<0.05であり、これはPBSで処置した各培養物とは異なっている。図21の結果は、GSNO/Asc処置がCRS細胞培養物上の細菌密度を著しく低下させたことを示している。更に具体的には、GSNO/Ascを1度適用したことが、細胞表面上の生きている細胞数の約10倍の減少を引き起こした。
【0080】
3G CF気道上皮細胞上の黄色ブドウ球菌バイオフィルム成長に対するアスコルビン酸の効果
CF気道上皮細胞の先端表面を10μLの黄色ブドウ球菌(1×1010CFU/ml)に先端で感染させ、24時間インキュベートした。側底培地を交換し、先端表面を生理食塩水で洗浄し、30μLのPBS、又は1.25mM GSNO/Ascを含む生理食塩水で先端を処置し、3時間インキュベートした。培養物をPBSで1度洗浄し、グルタルアルデヒドで固定し、走査型電子顕微鏡用に処理した。図22(a)及び(b)は、GSNO-Ascで処置しなかったCF気道上皮細胞の表面上の細胞性バイオフィルムを示し、図22(c)及び(d)はGSNO-Ascで処置したCF気道上皮細胞の表面上の細胞性バイオフィルムを示す。図22(a)及び(b)を図22(c)及び(d)
と比較すると、GSNO-Ascで処置したサンプルでは、細菌は比較的少なく、バイオフィルムのサイズは小さい。
【0081】
3H 線毛運動周波数に対するアスコルビン酸の効果
対照のCF気道上皮細胞は非感染であった。他のCF気道上皮細胞は、先端で10μLの黄色ブドウ球菌(2.5×10CFU/ml)に感染させ、24時間インキュベートした。側底培地を交換し、先端表面を生理食塩水で洗浄し、感染させた培養物を、30μLのPBS、又は1.25mM GSNO/Ascを含む生理食塩水で先端を処置し、3時間インキュベートした。培養物を、0.2mlの0.15%の重炭酸ナトリウムで洗浄し、高速ビデオ顕微鏡法を用いて撮像した。先端表面からの液体を吸引し、10μlの媒質を加えて、高速ビデオ顕微鏡法を用いた細胞の撮像中の乾燥を防いで、線毛運動周波数を定量化した。具体的には、NIH画像Jソフトウェアを用いてランダムフィールドで線毛運動周波数を測定した。結果が図23に示されている。データは6回の実験からの中央値を表している。*p<0.05であり、これはPBSで処置して感染させた各培養物とは異なっている。図23における、PBSで処置した感染培養物の結果は、黄色ブドウ球菌の感染がCF気道上皮細胞の線毛運動周波数を低下させることを示している。図23における、GSNO:Ascで処置した感染培養物の結果は、(PBSで処置した感染培養物に比べ)線毛運動周波数を改善する傾向を示している。
【0082】
実施例4
GSNO及びGSHの濃度が異なる2つのカテーテル固定溶液を、PBS(すなわちキャリア及び塩)において調製した。第1のカテーテル固定溶液は1:1モル(等モル)比のGSNO:GSHを含み、GSNO及びGSHの各々は2mMの濃度であった。第2のカテーテル固定溶液は1:1モル(等モル)比のGSNO:GSHを含み、GSNO及びGSHの各々は10mMの濃度であった。
【0083】
シリコーンゴムカテーテルチューブ(内径=1.58mm、外径=3.18mm、体積176μL)を使用し、プラグを用いて遠位端を閉鎖した。チューブに第1のカテーテル固定溶液を充填した。NOはシリコーンゴムカテーテルチューブを透過したので、チューブの外面からのNO放出を化学発光により監視した。結果が図24に示されている。図示のように、NO放出を少なくとも4時間観察し、流束は、抗血小板及び抗菌活性に必要である生理的に適切なレベルに近かった。
【0084】
また、ポリウレタン(PU)カテーテルチューブを使用し、プラグを用いて遠位端を閉鎖した。PUチューブに第2のカテーテル固定溶液を充填した。NOはPUチューブを透過したので、チューブの外面からのNO放出を化学発光により監視した。結果が図25に示されている。図示のように、NO放出を少なくとも15時間観察した。流束は、最初は生理的に適切なレベルよりもいくらか高く(従って高い抗菌活性が存在した)、その後、時間をかけて徐々に低下し、抗血小板及び抗菌活性に必要である、より生理的に適切なレベルに達した。
【0085】
本明細書全体を通して、「1つの実施例」、「別の実施例」、「ある実施例」等という場合は、その実施例に関連付けて記載された特定の要素(例えば特徴(feature)、構造、及び/又は特性)が、本明細書に記載される少なくとも1つの実施例に含まれ、他の実施例には存在するか又は存在しない可能性があることを意味する。更に、文脈上明らかに他の意味に解釈すべき場合を除いて、任意の実施例で記載される要素を様々な実施例において任意の適切な方法で組み合わせ得ることは理解されよう。
【0086】
本明細書で与えられる範囲は、明記された範囲及び明記された範囲内の任意の値又は部分的な範囲(sub-range)を含むことは理解されよう。例えば、約25μMから約10mMまでの範囲は、約25μMから約10mMという明示的に述べられた境界値を含むだけでなく、例えば29μM、250μM、1000μM(1mM)、5.75mMのような個々の値、及び、約50μMから約7mM、約550μMから約1.5mMのような部分的な範囲も含むと解釈するべきである。更に、値を記載するために「約(about)」が用いられる場合、これは、明記された値からのわずかな変動(最大で±10%)も包含することが意図される。
【0087】
本明細書に開示される実施例を記述し特許請求する際に、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、及び「the(その)」は、文脈上明らかに他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の言及を含む。
【0088】
いくつかの実施例を詳細に記載したが、開示される実施例を変更できることは理解されよう。従って、前述の記載は非限定と見なされるものとする。
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