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特許7168968表面被覆した水素吸蔵合金水素化物含有複合体、その製造方法および使用
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  • 特許-表面被覆した水素吸蔵合金水素化物含有複合体、その製造方法および使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】表面被覆した水素吸蔵合金水素化物含有複合体、その製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 6/24 20060101AFI20221102BHJP
   C07C 15/073 20060101ALI20221102BHJP
   C07C 5/03 20060101ALI20221102BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20221102BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20221102BHJP
   B01J 31/12 20060101ALI20221102BHJP
   C01B 6/00 20060101ALI20221102BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20221102BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221102BHJP
【FI】
C01B6/24
C07C15/073
C07C5/03
B01J37/18
B01J37/02 301Z
B01J31/12 Z
C01B6/00 A
C01B3/00 A
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018087502
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189510
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】竹下 博之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑弥
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-129802(JP,A)
【文献】特開平01-131002(JP,A)
【文献】米国特許第04555395(US,A)
【文献】特開昭63-069543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 6/24
C07C 15/073
C07C 5/03
B01J 37/18
B01J 37/02
B01J 31/12
C01B 6/00
C01B 3/00
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金を、水素ガスと接触させる、
2)工程1)で得た生成物を、液体窒素またはドライアイスを用いた冷却下、活性分子と接触させる、
ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体と、メタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、
工程を含む方法によって製造される、
合体の製造方法であって、
該複合体は、
(A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物、および
(B)該水素吸蔵合金水素化物の表面に存在する、酸化物-有機物の複合皮膜であって、当該酸化物-有機物の複合皮膜は、水素吸蔵合金水素化物の構成金属元素の酸化物の皮膜、および、メタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒に由来する有機物皮膜、とからなる複合体の皮膜である、
を含む、複合体である、
該製造方法。
【請求項2】
工程1)の反応において、水素吸蔵合金が、粒径が100μm以下を有する粒子である、請求項記載の製造方法。
【請求項3】
1)式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金を、水素ガスと接触させる、
2)工程1)で得た生成物を、液体窒素またはドライアイスを用いた冷却下、活性分子と接触させる、
ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体と、メタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、
工程を含む方法によって製造される、
マイクロカプセルの製造方法であって、
該マイクロカプセルは、
(A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物、および
(B)該水素吸蔵合金水素化物の表面に存在する、酸化物-有機物の複合皮膜であって、当該酸化物-有機物の複合皮膜は、水素吸蔵合金水素化物の構成金属元素の酸化物の皮膜、および、メタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒に由来する有機物皮膜、とからなる複合体の皮膜である、
を含む、マイクロカプセルである、
該製造方法。
【請求項4】
不飽和結合を有する有機物の水素添加反応のための、請求項1に記載の製造方法によって得られる複合体または請求項に記載の製造方法によって得られるマイクロカプセルの使用。
【請求項5】
該不飽和結合を有する有機物がスチレンであって、そして水素添加生成物がエチルベンゼンである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法によって得られる複合体または請求項に記載の製造方法によって得られるマイクロカプセルを用いる、不飽和結合を有する有機物の水素添加の方法。
【請求項7】
A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物を、その表面に、酸化物-有機物の複合皮膜を形成させることを特徴とし、
当該酸化物-有機物の複合皮膜は、液体窒素またはドライアイスを用いた冷却下で形成する、水素吸蔵合金水素化物の構成金属元素の酸化物の皮膜、および、メタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒に由来する有機物皮膜、とからなる複合体の皮膜である、
水素吸蔵合金水素化物のマイクロカプセル化方法。
【請求項8】
水素吸蔵合金水素化物を、冷却下、活性分子と接触させることを含み、ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体、とメタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる 1種以上の有機溶媒である、請求項記載のマイクロカプセル化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆した水素吸蔵合金水素化物を含む複合体、およびその製造方法、並びに該複合体を用いた有機物の水素化反応のための使用に関する。とりわけ、水素吸蔵合金水素化物の表面に、無機物-有機物の複合皮膜を有する複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性金属材料としての合金が注目されている。例えば、機能性金属材料としての合金は、水素貯蔵合金、有機合成用不均一触媒、光触媒、ガス貯蔵、ガス分離、ガスセンサーデバイス、磁気ヘッド、形状記憶合金、および電極などに利用することができることが知られる。白金族金属の水素吸蔵合金を用いた、アルケン類(例えば、ベンジルオキシアルケン類)の水素添加反応が報告されている(特許文献1を参照)。
【0003】
環境問題を解決するためのクリーンエネルギーとして、水素が利用されている。ここで、水素吸蔵合金は水素を安全に貯蔵する材料であり、様々なタイプの合金が知られている。水素吸蔵合金は水素と反応することにより、水素が水素吸蔵合金と化学結合して水素吸蔵合金水素化物を与える。水素を吸蔵した水素吸蔵合金水素化物は、その表面を化学的処理することによって水素を安定的に貯蔵することができるが、水素吸蔵合金水素化物のタイプ、あるいはそれぞれの用途に応じて、適当な表面処理の方法が異なり、その処理方法は確立されていない。
【0004】
水素吸蔵合金は、例えば、触媒(例えば、有機物の水素添加反応)、燃料タンク、電池、アクチュエータ、ヒートポンプ、コンプレッサー等として利用することができる。
【0005】
これまでに、水素吸蔵合金水素化物の表面処理方法として、カップリング剤(例えば、アルコール、チタンカップリング剤またはシランカップリング剤)を用いて表面を修飾し、次いでアルコール等に溶解しない高分子材料(例えば、セタノール)とカップリングさせることで、当該高分子をコーティングさせてマイクロカプセル化させる方法が報告されている(特許文献2を参照)。しかしながら、極低温下で、酸素、続いてアルコール等の有機溶媒を用いて処理することで、水素吸蔵合金水素化物の表面に、保護性の無機物-有機物の複合皮膜が形成されることは記載されていない。
【0006】
そこで、簡便な表面処理方法により、長期間にわたって安定的に水素吸蔵特性を有する、水素吸蔵合金水素化物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-145818号
【文献】特開平7-41301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水素の長期間安定な保存性を有する、水素吸蔵合金水素化物を含む複合体を提供することを目的とする。本発明はまた、それら複合体の簡便な製造方法を提供することをも目的とする。本発明は更に、それら複合体を用いた、有機物の水素添加反応を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは上記目的を達成すべく、水素吸蔵合金水素化物を、極低温下で活性分子存在下に曝露することによって、水素吸蔵合金水素化物の表面に、酸化物皮膜および有機物皮膜からなる、無機物-有機物の複合皮膜が形成し、当該複合皮膜によって吸蔵した水素が水素吸蔵合金水素化物から放出されることを制御することができ、安定的に長期間、水素を合金内に貯蔵することができることを見出した。また、かかる水素を貯蔵した複合体を用いた、有機物の水素添加反応を行ったところ、高収率で水素添加物が得られることも見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
(水素吸蔵合金水素化物を含む複合体)
項[1] (A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物、および
(B)該水素吸蔵合金水素化物の表面に存在する、酸化物-有機物の複合皮膜、
を含む、複合体(以下、「本発明の複合体」と称する)。
項[2] (B)の酸化物-有機物の複合皮膜が、水素吸蔵合金水素化物の構成金属元素の酸化物の皮膜、および、メタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒に由来する有機物皮膜、とからなる複合体の皮膜である、項[1]に記載の複合体。
項[3] (A)の水素吸蔵合金部が、TiFe、TiNi、またはTiFe0.8Ni0.2から選ばれる、項[1]または項[2]のいずれか記載の複合体。
項[4] 有機溶媒が、メタノールまたはエタノールである、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合体。
項[4-1] 酸化物皮膜が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムのいずれか1つ以上含まれる皮膜である、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の複合体。
【0011】
(複合体の製造方法)
項[5] 1)式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金を、水素ガスと接触させる、
2)工程1)で得た生成物を、活性分子と接触させる、
ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体、またはメタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、
工程を含む方法によって製造される、項[1]記載の複合体の製造方法(以下、「本発明の複合体の製造方法」と称する)。
項[6] 工程1)の反応において、水素吸蔵合金が、粒径が100μm以下を有する粒子である、項[5]記載の製造方法。
項[7] 工程2)および3)の反応を、液体窒素またはドライアイスを用いる冷却下で行う、項[5]または項[6]のいずれか記載の製造方法。
項[7-1] 工程2)および3)の反応を、-50℃以下の冷却下で行う、項[7]記載の製造方法。
【0012】
(プロダクトバイプロセス(PBP)クレーム)
項[8] 1)式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金を、水素ガスと接触させる、
2)工程1)で得た生成物を、冷却下、活性分子と接触させる、
ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体、またはメタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、
工程を含む方法によって製造される、複合体。
【0013】
(マイクロカプセル)
項[9] (A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物、および
(B)該水素吸蔵合金水素化物の表面に存在する、酸化物-有機物の複合皮膜、
を含む、マイクロカプセル。
【0014】
(複合体の用途に関するクレーム)
項[10] 不飽和結合を有する有機物の水素添加反応のための、項[1]もしくは項[8]のいずれか記載の複合体または項[9]記載のマイクロカプセルの使用。
項[11] 該不飽和結合を有する有機物がスチレンであって、そして水素添加生成物がエチルベンゼンである、項[10]記載の使用。
項[12] 項[1]もしくは項[8]のいずれか記載の複合体または項[9]記載のマイクロカプセルを用いる、不飽和結合を有する有機物の水素添加反応。
項[12-1] 項[1]もしくは項[8]のいずれか記載の複合体または項[9]記載のマイクロカプセルの使用量が、不飽和結合を有する有機物の1モル当たり0.2~10.0モルである、項[12]記載の水素添加反応。
項[13] A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物を、その表面に、酸化物-有機物の複合皮膜を形成させることを特徴とする、水素吸蔵合金水素化物のマイクロカプセル化方法。
項[14] 水素吸蔵合金水素化物を、冷却下、活性分子と接触させることを含み、
ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体、またはメタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒である、項[13]記載のマイクロカプセル化方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、簡便な製造方法により、水素の高い長期間安定保存性を有する、水素吸蔵合金水素化物を含む複合体を得ることができる。また、得られる水素吸蔵合金水素化物を含む複合体は、有機物の水素添加反応試薬として優れた活性を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の複合体の表面におけるチタン(Ti)、鉄(Fe)、およびニッケル(Ni)の元素に関する、XPS分析測定の結果を示す図面である。
図2】本発明の複合体の表面における炭素(C)および酸素(O)の元素に関する、XPS分析測定の結果を示す図面である。
図3】本発明の複合体の脱水素温度に関する、DSC分析測定の結果を示す図面である。
図4】本発明の複合体の脱水素化温度の経時変化を示す図面である。
図5】ドライアイス冷却下、メタノールで処理した本発明の複合体の脱水素化処理前後の構成相に関する、XRD分析結果を示す図面である。
図6】液体窒素冷却下、エタノールで処理した本発明の複合体の脱水素化処理前後の構成相に関する、XRD分析結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
(定義)
以下に、本明細書および特許請求の範囲中で使用する用語の定義を示す。
【0018】
(複合体)
本発明は、水素吸蔵合金水素化物を含む複合体に関する。具合的には、本発明は、
(A)水素を含有する、式:XY(ここで、XとYのモル比は1:1である)
[式中、
Xは、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群から選ばれる1つ以上の金属原子であり、そして、
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子である。]
で示される水素吸蔵合金水素化物、および
(B)該水素吸蔵合金水素化物の表面に存在する、酸化物-有機物の複合皮膜、
を含む、複合体に関する。
【0019】
本発明の複合体における、前記(A)で示される構成成分は、水素吸蔵能力を有する式:XYで示される合金(以下、「本発明の水素吸蔵合金」と呼称する)が水素ガスを吸蔵して、水素の単体を含有する水素吸蔵合金である(以下、「本発明の水素吸蔵合金水素化物」と呼称する)。ここで、Xは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子を表し、チタンが好ましい。
Yは、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、および銅からなる群から選ばれる1つ以上の金属原子が表し、具体的には、鉄、ニッケル、または鉄とニッケルの組み合わせ(但し、鉄とニッケルの各モル組成比率の総モル数は、鉄またはニッケルの各単独の場合のモル数と同数である)が挙げられ、鉄単独、または鉄とニッケルの組み合わせ(例えば、Fe0.8Ni0.2)が好ましい。
また、上記式:XYにおける、構成要素Xと構成要素Yとのモル組成比率は、1:1である。
本発明の水素吸蔵合金の具体例としては、TiFe、TiNi、またはTiFe0.8Ni0.2が挙げられ、TiFeまたはTiFe0.8Ni0.2が好ましい。
【0020】
本発明の水素吸蔵合金水素化物は、まず極低温での冷却条件下(液体窒素(77K、-196℃))またはドライアイス-有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン)(ドライアイス-エタノール(201K、-72℃))で、大気(空気)に曝露させる等、酸素と接触させることによって、水素吸蔵合金水素化物の表面上に、酸化物皮膜が形成し、次いで、同冷却条件下で、特定の疎水性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、シクロヘキサン)中に浸漬曝露させることにより、更に酸化物皮膜の表面上に、該有機溶媒に由来する有機物皮膜が形成することによって、酸化物-有機物の複合皮膜が存在する。
よって、本発明の複合体は、前記(A)水素を含有する、式:XYで示される水素吸蔵合金水素化物、および、前記(B)該水素吸蔵合金水素化物の表面に存在する、酸化物-有機物の複合皮膜、を含む。
【0021】
前記「酸化物皮膜」とは、水素吸蔵合金を構成する金属元素の酸化物(主に、チタン、ジルコニウム、またはハフニウムの酸化物(例えば、酸化チタン(TiO))の皮膜または有機物の皮膜に由来する皮膜を意味する。かかる酸化物皮膜または有機物皮膜の存在および/またはその皮膜の厚さは、例えば、X線光電子分光測定(XPS)によって測定することができる。酸化物皮膜の厚さは、水素が放出されるのを妨げない限度での薄膜であってよく、数nm程度(例えば、1nm~30nm)であってよい。
【0022】
本明細書中で使用する「酸化物-有機物の複合皮膜」とは、前記酸化物皮膜と前記有機物皮膜とからなる複合皮膜を表す。したがって、当該酸化物-有機物の複合皮膜の存在および/またはその皮膜の厚さは、例えば、XPSによって測定することができる。また、当該酸化物-有機物の複合皮膜の厚さは、数nm程度(例えば、1nm~30nm)であってよい。
【0023】
酸化物皮膜および有機物皮膜の存在または結合状態は、具体的には、下記の通り、水素吸蔵合金水素化物を含む複合体から水素が放出される際の脱水素化温度を、XPS測定法を用いて測定することによって分かる。
例えば、上記の通り酸化物膜を形成後の水素吸蔵合金水素化物を、本発明で使用する有機溶媒を用いて処理した場合と、該有機溶媒を用いずに水(例えば、超純水(UPW))を用いて処理した場合とを、XPS測定法を用いて、各構成元素(すなわち、チタン、鉄、ニッケル、炭素、酸素)に関する結合エネルギー、すなわち、結合ピークの位置およびピーク強度を比較してその変化の有無、差異を測定し、その結果から、本発明の複合体において、酸化物皮膜および有機物皮膜、すなわち、酸化物-有機物の複合皮膜が存在すること、および、該有機物皮膜が該酸化物皮膜に化学結合によって吸着していること、が分かる(図1および2を参照)。尚、文献(Materials Characterization 49 (2003) 129-137)によれば、チタンを大気中で焼いて(酸化する)酸化物を生成させたものを、タンパク質溶液に浸漬させて吸着した際の結合エネルギーの変化が、化学的に吸着したことによる変化であるとの説明の記載がある(同文献135頁、左欄第2段落から右欄第1段落を参照)。
【0024】
本発明の複合体は、水素吸蔵合金水素化物の内部に、A元素1原子当たり、水素単体を、最大1分子の割合で吸蔵する。吸蔵された水素単体の量は、例えば示差走査熱量測定(DSC)および熱重量測定(TG)によって、測定することができる。
【0025】
脱水素化温度は、構成する合金の種類(例えば、TiFe、TiFe0.8Ni0.2)、あるいは処理する有機溶媒の種類(例えば、メタノール、エタノール)に応じて、水素を放出する脱水素化温度が一定の温度を示し、且つ異なる温度を示し得ることが分かる(図3および4を参照)。本発明の複合体は、長期間、安定的に水素を保存(カプセル化)する。本発明の複合体は、水素を含有する、水素合金水素化物のマイクロカプセルである。
【0026】
(複合体の製造方法)
本発明の複合体は、下記の工程を含む方法(以下、「本発明の複合体の製造方法」と称する)によって製造することができる。
工程1)本発明の水素吸蔵合金を、水素ガスと接触させる;
工程2)工程1)で得た生成物を、冷却下、活性分子と接触させ、ここで、活性分子とは、酸素もしくは水を含む気体、またはメタノール、エタノール、アセトン、およびシクロヘキサンからなる群から選ばれる有機溶媒である。
【0027】
工程1
当該工程1)において、水素化処理前の水素吸蔵合金は、水素吸蔵の効率等の観点から、粉砕された粒子であることが好ましい。粒径は、特に制限されるものではないが、100μm以下が挙げられ、例えば約10μm~約100μm、約30μm~約80μmが挙げられる。
【0028】
工程1)における水素化処理は、予め活性化処理の操作(水素加圧、高温(例えば、673K)下で)1回またはそれ以上行った後、水素吸蔵合金の水素化処理(例えば、水素加圧、加温(例えば、323K)下で)を行い、本発明の水素吸蔵合金水素化物を得る。得られた水素吸蔵合金水素化物は、単離することなく、冷却下(例えば、液体窒素)で保存する。
【0029】
工程2
当該工程2)において、工程1)で得た生成物を、冷却下、特に、極低温条件下(液体窒素(77K、-196℃))またはドライアイス-有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン)(ドライアイス-エタノール(201K、-72℃))、平衡温度に達するまでの期間、大気に曝露させる等の操作によって酸素と接触させる。かかる処理操作により、酸化物皮膜が形成する。
【0030】
工程3
工程2)で得た生成物を単離することなく、冷却下、特に、極低温条件下(液体窒素(77K、-196℃))またはドライアイス-有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン)(ドライアイス-エタノール(201K、-72℃))(工程2と同一な条件であっても異なる条件でもよいが、同一条件が好ましい)、特定の疎水性有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトン、またはシクロヘキサン)中に曝露(例えば、有機溶媒中に浸漬)させる等の操作によって、当該有機溶媒と接触させる。かかる処理操作により、有機物皮膜が形成する。
【0031】
工程2および工程3は、工程1)で得た生成物を、上記冷却下、大気に曝露させながら、特定の有機溶媒中に浸漬させて曝露させてもよい。その結果、酸化物皮膜の形成と、有機物の皮膜の形成が同時に起こり、酸化物-有機物の複合皮膜が形成される。
【0032】
上記本発明の複合体の製造方法によって得られた、本発明の複合体は、前記の工程3)で使用した有機溶媒中に浸漬した状態で、常温、例えば約273K(0℃)~約313K(40℃)で水素が放出されることなく、安定的に保存することができる。
【0033】
(複合体の用途)
次に、本発明の複合体の用途について記載する。
本発明の複合体は、吸蔵した水素を安定的に保存する、つまり、水素をカプセル化することができるため、有機化学反応(例えば、有機物の水素添加反応)の水素供給源として使用することができる。
具体的には、不飽和結合を有する有機物の水素添加反応に利用することができる。当該不飽和結合を有する有機物としては、特に限定されるものではないが、例えば、不飽和結合(例えば、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合)を有する有機化合物、具体的には、アルケン、アルキン、シクロアルケン、あるいはアリール、またはこれらアルケンもしくはシクロアルケンを置換基として有するアリール等、が挙げられる。当該有機物の具体例としては、プロピレン、プロピン、シクロヘキセン、スチレンなどを挙げられる。
【0034】
水素添加反応
本発明の複合体を、有機物の水素添加反応に用いる場合には、本発明の複合体を、有機物の1モルに対して、化学両論的な量または過剰量で使用することができる。例えば、本発明の複合体の使用量は、水素添加の対象としての有機物の種類に応じて変わり得るが、例えば、約0.2モル~約100.0モル、約0.2モル~約10.0モル、約0.5モル~約10.0モル、約0.5モル~約5.0モル、約1.0モル~約3.0モル等が挙げられる。
水素添加反応は、通常、溶媒の存在下で行う。反応に用いる溶媒としては、例えばハロゲン化炭化水素類(例えば、クロロホルム、四塩化炭素)、および炭化水素(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン)等、およびこれらの混合物が挙げられる。
反応は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)の雰囲気下で行うことが好ましい。
反応は、常圧下または加圧下で行うことができ、例えば耐圧管を用いて、約2気圧~約10気圧下で行うことができる。
反応温度は、通常、室温~高温の範囲であり、例えば20℃(293K)~150℃(423K)、30℃(303K)~120℃(393K)を挙げることができる。
反応時間は、通常、数分間~数日間、例えば数時間~24時間を挙げることができる。
反応終了後は、反応溶液を冷却(例えば、氷冷)し、反応溶液中に有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン(THF))を加えてクエンチする。反応混合物を必要に応じて濃縮し、その後、残渣に有機溶媒を加えて抽出する。有機層を乾燥、濃縮することにより、目的の水素添加物を得ることができる。
【実施例
【0035】
以下、実施例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
水素吸蔵合金の製造
原料は、それぞれ市販のスポンジチタン(Ti)(純度:97.0%)、鉄(Fe)(純度:99.9%)、ニッケル(Ni)(純度:99.9%)を使用した。アーク溶解炉を用いてスポンジチタンを一度溶解し、ボタン状チタン(Ti)インゴットを作製した。ボタン状チタン(Ti)インゴットの重量から、各組成のモル比で1:1になるようにチタン鉄合金(TiFe)組成物を秤量した。また、ニッケル(Ni)を加えたチタン鉄ニッケル合金(TiFe0.8Ni0.2)組成物をも秤量した。各組成物を、アーク溶解炉を用いてチタン鉄合金(TiFe)およびチタン鉄ニッケル合金(TiFe0.8Ni0.2)を溶製した。
【0037】
(実施例2)
水素吸蔵合金水素化物の製造
実施例1で作製した各水素吸蔵合金試料をグローブボックス中で超硬乳棒・乳鉢を用いて粉砕した。粉砕した各試料の粒径は、約38~約75μmとなるようにふるいにかけた。粉砕した各試料を試料管に入れ、ロータリーポンプを用いて試料管内を真空排気した。その後、試料管内に水素ガスを導入し、水素吸蔵合金試料の水素化処理を行った。水素化処理は、まず水素吸蔵合金試料の活性化処理を行い、その後に水素化処理を行った。活性化処理条件は水素圧力:3.0 MPa、温度:673 Kであり、673 K到達後に273 Kまで急冷する工程を4回繰り返し行った。その後、試料管内に水素ガスを導入し、水素吸蔵合金試料の水素化処理を行って、水素吸蔵合金水素化物を得た。水素化処理条件は、水素圧力:3.0 MPa、温度:323 Kとした。
【0038】
(実施例3)
複合体の製造
実施例2にて水素化処理後、試料管を液体窒素で急冷した。液体窒素、またはドライアイスとエタノールを用いた氷浴を用いて冷却した後、ロータリーポンプで真空排気を行った。試料管を冷却したまま蓋を開け、大気(Air)中に曝露しながら、種々のそれぞれの液体(メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、アセトン、シクロヘキサン(Cy))中に浸漬曝露して、酸化物-有機物の複合皮膜を形成させて、複合体を得た。
【0039】
(実施例4)
複合体(マイクロカプセル)の表面分析
1.分析用試料の調製
TiFe合金又はTiFe0.8Ni0.2合金を水素化処理後に、大気中、メタノール、エタノール、アセトン、またはシクロヘキサンを用いて、24時間浸漬曝露した。
【0040】
2.表面分析
XPS測定は、定性分析(ワイドスキャン分析およびナロースキャン分析)により行った。XPS測定条件は、X線源 AlKα線 1486.6 eV、X線径 100 μm、光電子取出角度 45°で行った。Ar中和銃を使用した。水素化処理後の溶媒処理は、メタノール、エタノール、超純水を用いて処理した。測定元素ごとの条件を下記表1に示す。
【表1】
【0041】
上記条件の下で、XPS測定を行った結果を、図1に示す。
1)まず、チタン(Ti)については、チタンに特有のピークはほとんど観察されなかった。一方で、酸化チタン(TiO2)に特有のピークが観察されたが、メタノールまたはエタノールを用いて曝露処理した場合には、超純水で処理した場合と比較して、酸化チタンに特有のピークは、高結合エネルギー側へのシフトが観察された。また、メタノールまたはエタノールで曝露処理した場合には、いずれの場合もピーク強度の低下が観察されたが、特にメタノールの場合に、強度の低下が顕著であった。
2)また、鉄(Fe)については、メタノールまたはエタノールのいずれかを用いて曝露処理した場合には、鉄に特有のピークの強度の低下が観察され、特に、メタノールを用いて曝露処理した場合には、強度の低下が顕著であった。
3)また、ニッケル(Ni)については、特に、メタノールを用いて曝露処理した場合には、ニッケルに特有のピークがほとんど見られなかった。
以上のことから、メタノール、エタノールを用いて曝露処理した場合に得られる複合体の表面では、酸化物皮膜が形成されており、該酸化物皮膜は有機物皮膜と化学結合していることを示唆する。
【0042】
更に、炭素(C)および酸素(O)についてのXPS測定の結果を、図2に示す。
4)まず、炭素(C)については、メタノールまたはエタノールのいずれかを用いて曝露処理した場合には、超純水で処理した場合と比較して、炭素に特有のピークは、高結合エネルギー側へのシフトが観察された。また、超純水で処理した場合には、ピークの強度の低下が顕著であった。
5)次に、酸素(O)については、超純水で処理した場合が、最もピークの強度が大きく、メタノールを用いて曝露処理した場合には、ピーク強度の低下が観察された。
【0043】
以上のXPS測定の結果から、メタノールまたはエタノールのいずれかを用いて曝露処理した場合には、酸化チタン特有のピークがシフトし、且つピーク強度が低下していたこと、および、炭素特有のピークがシフトし、且つピーク強度が低下していたことから、複合体試料の表面は、有機物皮膜で被覆されており、また、酸化物皮膜が有機物皮膜と化学結合しており、酸化物-有機物の複合皮膜が形成されていることを示唆する。
【0044】
(実施例5)
脱水素化処理Ar雰囲気中での脱水素化処理
DSCを用いて、TiFe合金又はTiFe0.8Ni0.2合金を用いた各種溶液に、1、3、7、14、または42日後まで浸漬した複合体試料を脱水素化した。基準試料はアルミニウム(Al)(46 mg)を用い、測定試料及び基準試料にはアルミニウム製の試料容器を用いて測定を行った。測定条件は、温度範囲:291 K~673 K、初期導Ar圧力:1 MPa、昇降温速度:10 K min-1とした。
【0045】
DSCの測定結果を、図3を示す。
その結果、TiFe合金とTiFe0.8Ni0.2合金の場合を比較すると、TiFe0.8Ni0.2合金の場合の方がより高温で脱水素化反応が起きていることが示唆された。
【0046】
TiFe0.8Ni0.2合金を用いて、メタノール、エタノール、または超純水を用いて曝露処理した場合の、脱水素化温度の経時変化を図4に示す。
その結果、メタノールの場合には、14日後には、脱水素化温度は一定になっており、最も高温で脱水素化していることが分かった。一方で、エタノールの場合には、測定期間の間、脱水素化温度はほとんど変化していないことを示した。
以上の結果から、メタノールまたはエタノールのいずれかを用いて曝露処理した場合にも、長期間、安定的に水素を保存(カプセル化)することができることを示した。
【0047】
(実施例6)
本発明の複合体を用いる、スチレンの水素添加反応
1)実験操作
プレッシャーチューブにオクタゴン撹拌子を入れ、そこにTiFe0.8Ni0.2又はTiFe合金を含む本発明の複合体を量り取って(0.1184 g)加えた後、セプタムを付けた。真空ラインに針付きの耐圧チューブ管を取り付け、真空排気およびアルゴンガス導入を何度か繰り返すことで、容器内をアルゴンに置換した。容器内に、ヘキサン(1.0 mL)を入れ、そこにスチレン(0.1548 g、1.49 mmol)を加えた。その後、アルゴンを吹かしながら、素早くセプタムを外してプレッシャーチューブ用の蓋に付け変えた。393 Kに加熱したオイルバスにプレッシャーチューブを浸け、7時間加熱・撹拌を行った。
【0048】
2)処理方法
反応溶液を氷冷し、THFを加えて希釈することで反応を終了させた。ガスクロマトグラフィー(GC)を用い、トリデカンを内部標準として用いて生成物の収量を求めた。生成物であるエチルベンゼンの確認はGC-MSによる分析で行った。
収量:0.241 mmol
【0049】
(実施例7)
X線回折装置を用いる、構成相の同定
TiFe合金を、メタノールを用いてドライアイス(-78.5℃)の冷却下で浸漬曝露、あるいはエタノールを用いて液体窒素(-196℃)の冷却下で浸漬曝露させた、本発明の複合体を、1、3、7、14、42日浸漬した試料を、脱水素化処理の前後の構成相の同定をするために、X線回折装置(XRD)Miniflex II (株) リガク製を用いて粉末X線測定を行った。測定試料は、各浸漬溶液中からスパチュラーを用いて取り出し、試料台のSi製の無反射板に平滑になるように試料を充填した。測定条件は、X線源:CuKα、管電圧:30 kV、管電流:15 mA、スキャン速度:2.0、スキャン範囲:10°~120°で行った。
【0050】
粉末X線分析の測定結果を、メタノールを用いてドライアイス冷却下浸漬曝露の場合を図5に、エタノールを用いて液体窒素冷却下浸漬曝露の場合を図6に示す。
図5または図6に示す通り、脱水素化処理の前の試料では、例えばTiFeHおよびTiFeHのそれぞれに特有の特性ピークが観察されたが、脱水素化処理後の試料では、当該TiFeHおよびTiFeHの特性ピークは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
水素吸蔵合金水素化物を含む本発明の複合体は、長期間、安定的に水素を保存(カプセル化)することができるため、水素吸蔵材料として使用することができるため、産業利用上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6