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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】成形食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20221102BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20221102BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20221102BHJP
   A23G 3/00 20060101ALN20221102BHJP
【FI】
A23L11/00 F
A23L29/256
A23L29/262
A23G3/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018125700
(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2020000202
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 武彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 友二
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-035798(JP,A)
【文献】特開2014-226083(JP,A)
【文献】特開2016-154452(JP,A)
【文献】特開2001-046037(JP,A)
【文献】特開2013-021948(JP,A)
【文献】特開2003-018970(JP,A)
【文献】特開2010-252708(JP,A)
【文献】特開2004-105169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天及び不溶性セルロースとともに加熱された小豆を含有し、α化度が60%以上であり、水分含有量が20質量%以下であることを特徴とする成形食品。
【請求項2】
渋切りを行わず、小豆粉末、寒天及び不溶性セルロースを含有する湿潤組成物を加熱して、α化度60%以上、水分含有量20質量%以下にする工程を含むことを特徴とする成形食品の製造方法
【請求項3】
前記加熱は、前記湿潤組成物を混錬しつつ行うことを特徴とする請求項2に記載の成形食品の製造方法
【請求項4】
前記加熱は、エクストルーダー又はドラムドライヤーで行うことを特徴とする請求項3に記載の成形食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小豆は、蜜漬け豆及び餡などに加工して製菓材料として、また、赤飯などに使用されている。いずれの場合も、小豆は水洗い後、水に浸漬してから煮熟する。煮熱後の煮汁は、好ましくない臭い、えぐい味、青くさい豆臭などを有しているので、小豆の風味を損なう有機物(あく)を除くために廃棄される。この作業は「渋切り」と称され、最終製品の良し悪しに大きく関与する。
【0003】
近年、小豆の皮に含有されるポリフェノールに抗腫瘍性機能や抗アレルギー機能が発見されたことから、小豆の生理機能材料としての有用性が注目されている(例えば、特許文献1)。また、エピカテキンの重合度の違いにより、癌細胞の発現抑制や増殖抑制活性や癌の転移抑制が報告されている。こうした成分は、小豆の風味を損なう主成分であるため、従来は上述のように取り除かれている。
【0004】
小豆の全体利用を促して有効成分の摂取を可能とし、同時に小豆の風味と良好な食感の両立を図った小豆膨化食品を得るために、小豆粉末とデンプン膨化剤とを主成分とし、エクストルーダーにより加熱混錬することが提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2においては、エクストルーダーのダイスからの吐出時に膨化させることで、小豆膨化食品を製造している。
【0005】
ところで、ポリフェノールの1種のプロアントシアニジンは、強い抗酸化作用に加えて種々の生理活性を有することから、健康食品素材として利用されている。このプロアントシアニジンは、ブドウの種子等の植物体を抽出して得ることができる。プロアントシアニジンの独特の強い渋味を低減するために、抽出液に粉末寒天又はうるち米を添加することが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6023398号公報
【文献】特開2016-154452号公報
【文献】特開2001-46037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
小豆の渋切りを行うことによって、好ましくない臭い、えぐい味、青くさい豆臭などの原因となる成分(n-ヘキサナール、3-メチルブタノール、3-ヘキセンー1-オールなど)を取り除くことができる。しかしながら、渋切りによって、小豆本来の好ましい香り(ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、フルフホラール、エチルフリルケトン、マルトールなど)も流出しやすくなる。
【0008】
特許文献1においては、抗アレルギー剤として小豆の煮汁抽出物を用いるので、煮汁のむれ臭やえぐみは、より濃縮されて回収されることとなる。特許文献2においては、主成分の膨張や食品の食感を考慮して、平均粒径100μm以下に粉砕した小豆粉末が用いられている。粉砕によって小豆の皮組織が事前に壊れることから、えぐみが出やすい状態になっている。
【0009】
特許文献3に具体的に記載されているのは、ブドウ種子抽出物の水溶液に粉末寒天を加えて渋味を低減することである。多量の水が存在しているので、水分を介してポリフェノールは寒天と強固に結合することが推測される。寒天と強固に結合した成分は、容易に水に流出せずにマスキングされることとなる。強固な結合になるため、ブドウ種子の渋味とともに他に好ましい味や香りもマスキングされる可能性がある。
【0010】
本発明は、小豆本来の良好な香りを有するとともに、渋味が低減された成形食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る成形食品は、寒天とともに加熱された小豆を含有し、α化度が60%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る成形食品の製造方法は、渋切りを行わず、小豆粉末及び寒天を含有する湿潤組成物を加熱する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小豆本来の良好な香りを有するとともに、渋味が低減された成形食品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
小豆中に含まれているベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、フルフホラール、エチルフリルケトン、マルトールなどの成分は、渋切りによって流出しやすくなる。本発明者らは鋭意検討した結果、こうした成分を小豆から流出させず、しかも、n-ヘキサナール、3-メチルブタノール、3-ヘキセンー1-オールなどの成分は、呈味としてマスキングすることを可能とした。
【0015】
本発明の成形食品は、寒天とともに加熱された小豆粉末を含む。成形食品中の水分含有量は、20質量%以下である。食品としては、形状を有しそのまま喫食できるものが好ましい。具体的には、クッキー、スナック、煎餅、ビスケット、クラッカー及びシート状食品などが挙げられる。本発明の成形食品は、小豆粉末と寒天とを含有する湿潤組成物を加熱する工程を含む方法によって製造され、小豆の渋切りは行われない。
【0016】
成形食品中の水分含有量は、一般的な方法により測定することができる。水分含有量は、成形食品を恒温乾燥機内で乾燥して、質量の減少分から求めることができる。具体的には、5gの成形食品を105℃の恒温乾燥機で6時間乾燥して、質量の減少分から水分値を算出する。
【0017】
小豆は加熱されることによりα化されるので、本発明の成形食品はα化度が60%以上である。本発明においては、小豆は、平均粒子径20~500μm程度に粉砕した後、寒天を含む湿潤組成物として加熱される。こうしてα化することによって、渋味が低減され、小豆本来の良好な香りを有する成形食品が得られることが、本発明者らにより見出された。
【0018】
湿潤組成物は、所定の成分を混ぜ合わせて調製し、成形した後、焼成オーブン、フライヤー等で加熱することができる。加熱により小豆がα化するとともに、水分が低減されて本発明の成形食品が得られる。あるいは、エクストルーダー、ドラムドライヤーなどを用いて、所定の成分を配合して混錬しつつ加熱してもよい。成形後に乾燥させて、本発明の成形食品が製造される。
【0019】
成形食品の種類に応じて加熱手法を選択することができるが、混錬しつつ加熱を行うこと(加熱混錬)が好ましい。小豆中のポリフェノールやベンズアルデヒドなどの成分と寒天との反応を、より加速することができる。加熱の温度は、小豆がα化する温度であれば特に限定されず、例えば80~200℃程度とすることができる。
加熱時間は、成形製品の種類及び加熱手法等に応じて適宜設定すればよい。成分を混ぜ合わせた後に加熱して、クッキー、煎餅、ビスケット、クラッカー等を製造する場合には、例えば3~15分程度とすることができる。一方、成分を加熱混錬してスナック等を製造する場合には、例えば10秒~10分程度とすることができる。
【0020】
本発明の成形食品は、α化と同時又はα化の後に乾燥させて製造される。乾燥させることによって、寒天とポリフェノールとの結合が乾燥前より強固なものとなって、苦みや異臭を感じ難くなるものと推測される。
【0021】
本発明の成形食品は、n-ヘキサナール、3-メチルブタノール、及び3-ヘキセンー1-オールなどが呈味としてマスキングされているので、渋味やえぐ味を低減することができる。しかも、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、フルフホラール、エチルフリルケトン、及びマルトールなどは流出されないことから、小豆本来の良い香りが引き立っている。寒天とともに加熱することでポリフェノールの捕捉が促されて、優れたマスキング効果が発揮されたものと推測される。寒天が香りを包摂する作用を有していないことも、良い香りの一因である。
【0022】
上述とは異なって、小豆単独で加熱してα化した後に粉砕、又は粉砕した後にα化し、これに寒天を配合して得られた成形食品は、えぐい好ましくない味が発現してしまった。このことから、小豆の好ましくない味(渋味、えぐ味)を発現させることなく、小豆として感じる好ましい味を発現させるには、寒天とともに小豆を加熱してα化させることが必要であることがわかった。こうした知見は、本発明者らによって始めて見出されたものである。
【0023】
本発明の成形食品の原料となる湿潤組成物は、小豆粉末及び寒天とともに水分を含有する。湿潤組成物における小豆粉末の含有量は、最終の成形食品中で20質量%以上となるように選択することができる。本発明の成形食品には、必要に応じて任意の成分を配合することができるため、小豆粉末の含有量の上限は特に規定されない。場合によっては、水分を極力含まない成形食品もあり得る。
【0024】
成形食品における小豆粉末の好ましい配合量は、食品の種類に応じて選択される。例えばクッキー及びビスケット等の場合には、小豆粉末の含有量は、20~50質量%程度とすることが好ましく、スナックの場合には、20~60質量%程度とすることが好ましいが特に限定されるものではない。
【0025】
小豆粉末は、未洗浄の小豆を、例えば気流式粉砕機又はハンマー型粉砕機等を用いて粉砕して準備することができる。小豆粉末の平均粒子径は、20~500μm程度であることが好ましい。本明細書における「平均粒子径」とは、粒度分布計により求めた平均径を意味する。小豆粉末の最大粒子径は、特に規定されないが300μm以下であることが好ましい。平均粒子径及び最大粒子径が所定の条件を満たす小豆粉末を用いることで、目的の成形食品を得ることができる。
【0026】
湿潤組成物における寒天の含有量は、最終の成形食品中で0.05~10質量%程度となるように選択することができる。成形食品における寒天の含有量は、0.2~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0027】
湿潤組成物中の水分量は、5~60質量%であることが好ましく、10~40質量%であることが、より好ましい。水分は、水そのものに限らず、配合される成分に含まれている場合もある。水分を含有している成分としては、例えば小豆や寒天等が挙げられる。
【0028】
湿潤組成物は、不溶性セルロースを含有することが好ましい。不溶性セルロースは吸水性であり、加熱分解しにくい。湿潤組成物中の不溶性セルロースは、他の成分より多くの水分を吸収するので、組成物中の保水状態には偏りが生じる。加熱された際、不溶性セルロースは分解しにくいため、水分が放出されて寒天とポリフェノールとの結合がより強固なものとなる。その結果、苦みを感じにくくなる。
【0029】
不溶性セルロースが含有されることで、小豆の好ましい味がさらに引き立ち、食感も向上した成形食品が得られる。不溶性セルロースを含有する成形食品は、硬くなりすぎず、好ましいサクサク感を有する。不溶性セルロースの含有量は、0.05~10質量%が好ましく、0.2~10質量%がより好ましく、2~5質量%が特に好ましい。
【0030】
湿潤組成物は、糖を含有することができる。糖は一般に食品に使用するものであれば特に限定されず、例えば白糖、麦芽糖、オリゴ糖、トレハロース、ブドウ糖、果糖、ソルビトール、及びオリゴ糖などが挙げられる。中でも黒糖、和三盆糖、三温糖、及び廃糖蜜が好ましい。黒糖、和三盆糖、三温糖、及び廃糖蜜は、精製の度合いが低いため特有のコクや味を有し、成形食品の味の向上や嫌な味のマスキングに寄与する。こうした糖は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。小豆本来の味がマスキングされない範囲であれば、糖の含有量は特に規定されない。さらにこうした糖は、メイラード反応によってマスキング効果を促進する。
【0031】
湿潤組成物は、αサイクロデキストリン、βサイクロデキストリン、γサイクロデキストリン、クラスターデキストリンなどの環状オリゴ糖をさらに含有することができる。環状オリゴ糖は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。環状オリゴ糖もまた、マスキング効果を促進する。
【0032】
湿潤組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、多糖類、機能性成分、食品添加物、及び強化剤等を加えてもよい。多糖類としては特に限定されず、食品に使用される任意のものを用いることができる。例えば、アラビアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ペクチン、アルギン酸及びその塩、カラギーナン、ファーセレラン、ジェランガム、ネーティブ型ジェランガム、サイリウムシードガム、キサンタンガム、プルラン、及び大豆多糖類などが挙げられる。さらに、成形上必要に応じて、小麦粉や澱粉などを加えてよい。
【0033】
本発明の成形食品は、上述した湿潤組成物から水分が低減されたものである。したがって、本発明の成形食品中の小豆粉末の含有量は20質量%以上となる。一般的には、小豆粉末の含有量が20質量%以上の成形食品は、小豆の渋味や不快臭が顕著となる。これに対して本発明の成形食品は、上述したようなα化及び乾燥を経て製造されることから、渋味や不快臭が低減されている。
【実施例
【0034】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
成形食品の製造に使用する資材は、以下のとおりである。
寒天1:伊那寒天S-7(伊那食品工業社製)
寒天2:伊那寒天ZR(伊那食品工業社製)
寒天3:ウルトラ寒天UX-30(伊那食品工業社製)
寒天4:伊那寒天UP-37(伊那食品工業社製)
寒天5:伊那寒天大和(伊那食品工業社製)
不溶性セルロース1:アビセルFD101(旭化成社製)
不溶性セルロース2:アップルファイバー(三昌社製)
不溶性セルロース3:大豆ファイバー(みすずコーポレーション社製)
不溶性セルロース4:オーツ麦ファイバー(三昌社製)
小豆粉末A:未洗浄の小豆を粉砕機(気流式)で粉砕した(平均粒子径106μm)
小豆粉末B:未洗浄の小豆をハンマー型粉砕機で粉砕した(平均粒子径150μm)
黒糖:伊勢喜社製
和三盆糖:伊勢喜社製
三温糖:大日本明治製糖社製
白糖:三井製糖社製
αサイクロデキストリン:シクロケム社製
βサイクロデキストリン:シクロケム社製
サイクロデキストリン:シクロケム社製
クラスターデキストリン:グリコ社製
アラビアガム:アラビアガムA(伊那食品工業社製)
特に明記しない限り、%表示は質量%である。
【0036】
成形食品は、喫食時の香り、渋味、及び食感について官能試験を行って評価する。官能試験は、10名のパネラーにより以下の方法により行った。10名のパネラー中、最も多かった評価で判定する。
(香り)
AA:喫食した直後に小豆の良い香りを特に感じ、Aよりも良い。
A:喫食した直後に小豆の良い香りを感じる。
B:Aより劣るが良い香りを感じる。
C:Bより劣り、良い香りを感じにくくなり、逆に嫌な香りを感じる。
D:Cより劣り、嫌な香りを感じる。
(渋味)
AA:喫食しても渋味を感じない。
口の中に長時間あっても渋味を感じることはなく、Aよりも良い。
A:喫食しても渋味を感じない。
B:Aに比べ若干渋味を感じる。
C:渋味を感じる。
D:Cより渋味を感じる。
(食感)
AA:Aよりサクサクしてより美味しい。
A:サクサクしていて美味しい。
B:Aより劣るがサクサク感を感じる。
C:少し硬く感じる
D:硬く感じる。
【0037】
成形食品のα化度は、以下に説明する手法に従って求めることができる。
成形食品は、粉砕して分析試料とする。約0.6gの分析試料を100ml容のメスフラスコに収容し、水を加えて定容する。調製された懸濁液を、10mlずつ4本のフラスコに分取して、37℃の恒温水槽中に載置する。2本のフラスコには、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2mlを加えて小豆をα化させる。
【0038】
30分後、2mol/Lの酢酸水溶液3mlを加え、一方のフラスコに酵素溶液2mlを加えて2時間反応させる。このように小豆をα化して酵素分解したものを、検液Cとする。α化したのみで、酵素分解していないものは検液Dとする。検液C及び検液Dは、2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液1mlを加えて中和しておく。分析試料の懸濁液のみを収容したフラスコのうちの1本は、酵素溶液2mlを加えて2時間反応させて酵素分解する。これを検液Aとする。分析試料の懸濁液のみで酵素分解しない液は、検液Bとする。
【0039】
検液A,B,C,Dについて、ハーネス法による還元糖分の滴定により、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液の消費量VA,VB,VC,及びVDを得る。得られた消費量を用いて、下記式により製品のα化度を求めることができる。
α化度(%)=(VA-VB)/(VC-VD)×100
ここで、VA,VB,VC及びVDは、それぞれ以下の通りである。
A:検液Aのチオ硫酸ナトリウム溶液消費量(mL)
B:検液Bのチオ硫酸ナトリウム溶液消費量(mL)
C:検液Cのチオ硫酸ナトリウム溶液消費量(mL)
D:検液Dのチオ硫酸ナトリウム溶液消費量(mL)
【0040】
<実施例1,2、比較例1,2>
成形食品として、小豆クッキーを製造する。下記表1に示す成分を用いて、湿潤組成物を調製した。無塩バターに食塩及び三温糖を加えて混ぜ合わせた後、卵黄を加えてさらに混ぜ合わせた。これに小豆粉末A、薄力粉を加え混ぜ合わせ、最後に生クリームを加えた。寒天及び/又は不溶性セルロースを用いる場合には、小豆粉末A、薄力粉とともに混ぜ合わせた。得られた湿潤組成物は、小豆クッキーの生地である。
【0041】
【表1】
【0042】
生地を所定の形状に成型し、170℃のオーブンで15分焼成して小豆クッキーを製造した。小豆クッキー中の水分含有量は、3質量%程度であった。なお、水分含有量は、上述した方法による測定した。各小豆クッキーについて官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表2にまとめる。
【0043】
【表2】
【0044】
170℃で15分間焼成したので、得られた小豆クッキーのα化度は、いずれも98%であった。実施例の小豆クッキーは、寒天とともに加熱された小豆粉末を含有している。こうした実施例の小豆クッキーは、小豆の香りが良好であり、渋味も低減されていた。不溶性セルロースをさらに含む場合(実施例2)には、食感も良好であった。
【0045】
実施例の成形食品について渋味及び不快臭を分析して、従来品と比較した。
<渋味の分析>
実施例の成形食品の粉末から溶出液を調製した。まず、実施例2の小豆クッキー5gを乳鉢で粉砕し、篩分けを行って、無処理小豆粉末(小豆粉末A)と同等の平均粒子径の試料粉末を得た。
(溶出液サンプル1)
試料粉末を、95gの蒸留水に浸漬し、15秒後に直ちにろ過して、溶出液サンプル1を得た。
(溶出液サンプル2,3)
浸漬時間を30秒、60秒に変更した以外は前述と同様にして、溶出液サンプル2、3を得た。
(溶出液サンプル4~6)
試料粉末中に含まれる小豆粉末Aと同量となる小豆粉末Aを、試料粉末の代わりに用いて蒸留水に浸漬した。この点を変更した以外は溶出液サンプル1~3と同様にして、溶出液サンプル4~6を得た。
【0046】
(渋味レベルの測定方法)
フェノール類量を指標として、各溶出液サンプル中の渋味のレベルを比較した。フェノール類量は、フォーリンチオカルト法により測定した。90μLの溶出液サンプルに、450μLの50%フォーリンチオカルト溶液を添加して、攪拌した。これを3分静置した後、炭酸ナトリウム水溶液(0.4M)を450μL添加した後、55℃で5分間反応させた。
反応後30分間放冷し、分光光度計にて765nmにおける吸光度を測定した。検量線は、エピカテキン溶液を用いて作成した。フェノール類量は、小豆5g相当量から蒸留水95gに溶出されたエピカテキン相当量(mg-エピカテキン相当量)として、各溶出液サンプル中のフェノール類量を求めた。
得られた結果を、下記表3にまとめる。
【0047】
【表3】
【0048】
溶出液サンプル1~3は、実施例の小豆クッキーから得られたものであり、溶出液サンプル4~6は、無処理小豆から得られたものである。実施例の小豆クッキーは、無処理小豆と比較して、浸漬60秒後までに溶出されるエピカテキン相当量が少ない。このことから、実施例の小豆クッキー中の渋味成分は、無処理小豆中の渋味成分より溶出が遅いことがわかる。渋味成分は、口腔内でも同様に溶出するため、本発明の成形食品は渋味を感じにくいことが示されている。
【0049】
溶出液サンプル1~3を高速液体クロマトグラフ質量分析法(Liquid Chromatography-Mass spectrometry;LC/MS)により分析したところ、4量体及び5量体の割合が、ポリフェノール総量の3質量%以上であった。4量体以上のポリフェノールは、抗酸化力が強く健康維持に寄与するものと推測される。
【0050】
<不快臭の分析>
(気体サンプル1)
実施例2の小豆クッキー5gを容器に収容して密閉し、90℃に加温した。加温開始から60分経過後、デッドスペース内の気体を回収して、気体サンプル1とした。
(気体サンプル2)
小豆クッキーを小豆粉末Aに変更した以外は気体サンプル1の場合と同様の手法により、気体サンプル2を得た。
(不快臭の測定方法)
n-ヘキサナール、3-メチルブタノール、及び3-ヘキセンー1-オールを指標として、各気体検体サンプル中の不快臭のレベルを比較した。不快臭成分は、ガスクロマトグラフマススペクトロメーター法により測定した。測定された成分量を、下記表4に相対値で示す。
【0051】
【表4】
【0052】
実施例の小豆クッキーから採取された気体サンプル1は、無処理小豆から採取された気体サンプル2より、揮発するn-ヘキサナール、3-メチルブタノール、3-ヘキセンー1-オール量が少ない。実施例の小豆クッキーは無処理小豆と比較して、不快臭の揮発が遅いことがわかる。不快臭成分は、口腔内でも同様に揮発するため、本発明の成形製品は不快臭を感じにくいことが示されている。
【0053】
<実施例3,4、比較例3,4>
成形食品として、小豆スナックを製造する。下記表5に示す成分を加熱混錬して、小豆スナックの生地となる湿潤組成物を調製した。加熱混錬には、エクストルーダー(TEX-32F,日本製鋼所社製)を使用し、回転数170rpm,加熱温度125℃の条件で、約1分程度行った。混錬物は、エクストルーダーの長方形状のダイス(縦5mm、横1.5mm)から吐出された。
【0054】
【表5】
【0055】
ダイスから吐出された成型物を100℃の送風乾燥機中で2分間乾燥して、小豆スナックを製造した。小豆スナック中の水分含有量は、4質量%程度であった。各小豆スナックについて官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表6にまとめる。
【0056】
【表6】
【0057】
125℃で約1分間加熱混錬したので、得られた小豆スナックのα化度は、いずれも99%だった。実施例の小豆スナックは、寒天とともに加熱された小豆粉末を含有している。こうした実施例の小豆スナックは、小豆の香りが良好であり、渋味も低減されていた。不溶性セルロースをさらに含む場合(実施例4)には、食感も良好であった。
【0058】
<実施例5,6、比較例5,6>
成形食品として、小豆煎餅を製造する。下記表7に示す成分を用いて、小豆煎餅の生地となる湿潤組成物を調製した。湿潤組成物の調製にあたっては、まず、食塩以外の成分を水とともに煉り合せた。
【0059】
【表7】
【0060】
生地を所定の形状に成型し、200℃のオーブン中で7分間焼成した。焼成品の表面に食塩をまぶして、小豆煎餅を製造した。小豆煎餅中の水分含有量は、6質量%程度であった。各小豆煎餅について官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表8にまとめる。
【0061】
【表8】
【0062】
200℃で7分焼成したので、得られた小豆煎餅のα化度は、いずれも87%であった。実施例の小豆煎餅は、寒天とともに加熱された小豆粉末を含有している。こうした実施例の小豆煎餅は、小豆の香りが良好であり、渋味も低減されていた。不溶性セルロースを含む場合(実施例6)には、食感も良好であった。
【0063】
<実施例7~11>
成形食品として、小豆スナックを製造する。下記表9に示す成分を加熱混錬して、小豆スナックの生地となる湿潤組成物を調製した。加熱混錬には、エクストルーダー(TEX-32F,日本製鋼所社製)を使用し、回転数170rpm,加熱温度125℃の条件で、約1分程度行った。混錬物は、エクストルーダーの長方形状のダイス(縦5mm、横1.5mm)から吐出された。
【0064】
【表9】
【0065】
ダイスから吐出された成型物を100℃の送風乾燥機中で2分間乾燥して、小豆スナックを製造した。小豆スナック中の水分含有量は、3質量%程度であった。各小豆スナックについて官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表10にまとめる。
【0066】
【表10】
【0067】
125℃で約1分間加熱混錬したので、得られた小豆スナックのα化度は、いずれも64%だった。実施例の小豆スナックは、寒天とともに加熱された小豆粉末に加えて不溶性セルロースを含有している。こうした実施例の小豆スナックは、小豆の香りが良好で渋味も低減なく、食感も良好であった。黒糖、和三盆糖、又は三温糖を含む場合(実施例8~11)には、全てにおいてより良好な結果となっている。
【0068】
<実施例12~16>
成形食品として、小豆ビスケットを製造する。下記表11に示す成分を用いて、湿潤組成物を調製した。マーガリン及び牛乳以外の成分を混合した後、マーガリン及び牛乳を混ぜ合わせた。得られた湿潤組成物は、小豆ビスケットの生地である。
【0069】
【表11】
【0070】
生地を所定の形状に成型し、170℃のオーブン中で15分焼成して小豆ビスケットを製造した。小豆ビスケット中の水分含有量は、5質量%程度であった。各小豆ビスケットについて、官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表12にまとめる。
【0071】
【表12】
【0072】
170℃で15分間焼成したので、得られた小豆ビスケットのα化度は、いずれも85%であった。実施例の小豆ビスケットは、寒天とともに加熱された小豆粉末に加えて不溶性セルロースを含有している。こうした実施例の小豆のビスケットは、小豆の香りが良好で渋味もなく、食感も良好であった。α、β、γ、クラスターの各種デキストリンを含む場合(実施例13~16)には、より良好な結果が得られている。
【0073】
<実施例17~21>
成形食品として、小豆クラッカーを製造する。下記表13に示す成分を用いて、小豆クラッカーの生地となる湿潤組成物を調製した。湿潤組成物の調製にあたっては、まず、無塩バターに和三盆糖を加え、更に食塩を加えて滑らか混ぜ合わせた。次いで、小豆粉末B、薄力粉及び水を加えて混ぜ合わせた。そこに、ベーキングパウダー、寒天、及び不溶性セルロースを加えて混ぜ合わせた。
【0074】
【表13】
【0075】
生地を所定の形状に成型し、170℃のオーブン中で10分間焼成して、小豆クラッカーを製造した。小豆クラッカー中の水分含有量は、3質量%程度であった。各小豆クラッカーについて官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表14にまとめる。
【0076】
【表14】
【0077】
170℃で10分焼成したので、得られた小豆クラッカーのα化度は、いずれも97%であった。実施例の小豆クラッカーは、寒天とともに加熱された小豆粉末に加えて不溶性セルロースを含有している。こうした実施例の小豆クラッカーは、小豆の香りが良好で渋味もなく、食感も良好であった。
【0078】
<実施例22~26>
下記表13に示す成分を用いて、実施例17~21と同様の手法により小豆クラッカーを製造した。
【0079】
【表15】
【0080】
小豆クラッカー中の水分含有量は、4質量%程度であった。各小豆クラッカーについて官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表16にまとめる。
【0081】
【表16】
【0082】
170℃で10分焼成したので、得られた小豆クラッカーのα化度は、いずれも98%であった。実施例の小豆クラッカーは、寒天とともに加熱された小豆粉末に加えて不溶性セルロースを含有している。こうした実施例の小豆クラッカーは、小豆の香りが良好で渋味もなく、食感も良好であった。
【0083】
<実施例27~30、比較例7~10>
成形食品として、小豆スナックを製造する。下記表17に示す成分を加熱混錬して、小豆スナックの生地となる湿潤組成物を調製した。加熱混錬には、エクストルーダー(TEX-32F,日本製鋼所社製)を使用し、回転数250rpm,加熱温度110℃の条件で、約1.5分程度行った。混錬物は、エクストルーダーの長方形状のダイス(縦5mm、横1.5mm)から吐出された。
【0084】
【表17】
【0085】
ダイスから吐出された成型物について、乾燥する前に官能試験を行った。その結果を下記表18にまとめる。
【0086】
【表18】
【0087】
水分値が20%を超えていると、香りや渋味に問題があった。また、良い香りが抑えられることにより若干の渋みを感じた。
【0088】
ダイスから吐出された成型物を100℃の送風乾燥機中で2分間乾燥して、小豆スナックを製造した。小豆スナック中の水分含有量は、4質量%程度であった。各小豆スナックについて官能試験を行って、香り、渋味及び食感を調べた。その結果を、α化度とともに下記表19にまとめる。
【0089】
【表19】
【0090】
110℃で約1.5分間加熱混錬したので、得られた小豆スナックのα化度は、いずれも92%以上だった。実施例の小豆スナックは、寒天とともに加熱された小豆粉末を含有している。こうした実施例の小豆スナックは、小豆の香りが良好で渋味もなく、食感も良好であった。不溶性セルロースが含まれた場合には、香りはより良好となって、渋味もより低減されている。不溶性セルロールに加えて馬鈴薯澱粉が含有されることによって、よりいっそう優れた食感が得られている。