(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】超音波接合装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20221102BHJP
B29C 65/08 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B23K20/10
B29C65/08
(21)【出願番号】P 2020549306
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037660
(87)【国際公開番号】W WO2020067192
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018185356
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518347587
【氏名又は名称】株式会社LINK-US
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光行 潤
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108327297(CN,A)
【文献】特開2017-064779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0360414(US,A1)
【文献】特開2003-180330(JP,A)
【文献】中国実用新案第206605153(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0129062(US,A1)
【文献】特表2018-520881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
B29C 65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合用チップと、当該
接合用チップと対向する位置に配置された
アンビルとの間に重ねられた複数のワークを、当該
接合用チップが押圧する方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該
接合用チップを振動させることにより、当該複数のワークを接合する超音波接合装置であって、
第1支持部材と、当該第1支持部材と前記複数のワークのうち一方のワークとの間に位置する第1弾性部材とからなり、当該第1支持部材を移動させて当該ワークに圧力を加える第1加圧部と、
第2支持部材と、当該第2支持部材と前記
アンビルとの間に位置する第2弾性部材とからなり、当該第2支持部材を移動させて前記
アンビルに圧力を加える第2加圧部と、
前記
接合用チップを介して前記複数のワークに圧力を加える第3加圧部と、を備
え、
前記第2弾性部材の弾性力を前記第1弾性部材の弾性力よりも大きくして前記複数のワークの垂直方向を支持することを特徴とする超音波接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波接合装置において、
前記第1弾性部材と前記一方のワークとの間に、当該ワークの接合箇所を除いて当該ワークと接触するストッパを備えていることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波接合装置において、
前記第1弾性部材は、互いに離間した位置に設けられた複数のばねであり、
前記複数のばねと前記一方のワークとの間に、当該複数のばねのそれぞれに対応して当該ワークと接触するストッパを備えていることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の超音波接合装置において、
前記第1支持部材及び前記第2支持部材の垂直方向の位置を制御する制御部を備えていることを特徴とする超音波接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動により金属、プラスチック等のワークを接合する超音波接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品パック等に用いられるプラスチック、電池部品等の金属を接合するため、超音波接合(超音波溶接)が利用されている。一般的な超音波接合装置は、接合用チップの先端を超音波振動させ、接合対象物に繰り返し圧力を加えることにより接合する。
【0003】
例えば、下記の特許文献の超音波複合振動加工装置では、溶接加工時に超音波振動によって試料が加工変形し、静加圧力が減少する。そこで、溶接加工時の印加静加圧力をほぼ一定に保持するため、金属スプリング等を用いた応答速度の速いアクチュエータを用いることにより、より安定な溶接加工を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開2017-064779号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の超音波複合振動加工装置では、金属スプリングのばね圧が一定であるため、ワークによっては押圧が強過ぎて破損してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ワークの種類によらず、確実に接合を行うことができる超音波接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明は、接合用チップと、当該接合用チップと対向する位置に配置されたアンビルとの間に重ねられた複数のワークを、当該接合用チップが押圧する方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該接合用チップを振動させることにより、当該複数のワークを接合する超音波接合装置であって、
第1支持部材と、当該第1支持部材と前記複数のワークのうち一方のワークとの間に位置する第1弾性部材とからなり、当該第1支持部材を移動させて当該ワークに圧力を加える第1加圧部と、第2支持部材と、当該第2支持部材と前記アンビルとの間に位置する第2弾性部材とからなり、当該第2支持部材を移動させて前記アンビルに圧力を加える第2加圧部と、前記接合用チップを介して前記複数のワークに圧力を加える第3加圧部と、を備え、
前記第2弾性部材の弾性力を前記第1弾性部材の弾性力よりも大きくして前記複数のワークの垂直方向を支持することを特徴とする。
【0008】
本発明の超音波接合装置では、接合用チップとアンビルとの配置方向(水平方向、傾斜方向)に関係なく、第3加圧部により接合用チップで接合対象の複数のワークを押圧し、当該押圧の方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に垂直な第2方向の振動成分とを複合させた複合振動により接合用チップを振動させる。
【0009】
第1加圧部(第1支持部材及び第1弾性部材)により接合対象の一方のワークに圧力が加えられ、第2加圧部(第2支持部材及び第2弾性部材)によりアンビルに圧力が加えられる。このため、アンビルに接触したワーク(接合対象の他方のワーク)は、第1加圧部と第2加圧部の付勢により挟持された状態となり、支持される。このとき、第2弾性部材の弾性力を第1弾性部材の弾性力よりも大きくして、ワークの垂直方向を支持する。ワークの支持方向は固定されるものの、支持方向に垂直な方向は、ある程度、変位が許容された状態である。このため、接合時、すなわち、接合用チップから超音波振動(複合振動)を受けたとき、当該ワークは当該垂直な方向に変位して僅かに圧力を逃がすが、ほとんどの静圧力はワークの接合のために用いられる。従って、構造強度が弱いワークであっても接合を行うことができる。
【0010】
本発明の超音波接合装置において、前記第1弾性部材と前記一方のワークとの間に、当該ワークの接合箇所を除いて当該ワークと接触するストッパを備えていることが好ましい。
【0011】
第1弾性部材と一方のワークとの間に、接合箇所を除いて当該ワークと接触するストッパを設けることで、第1加圧部は、第1弾性部材の付勢により当該ワークの大部分を押し下げて支持つつ、接合箇所を接合することができる。
【0012】
また、本発明の超音波接合装置において、前記第1弾性部材は、互いに離間した位置に設けられた複数のばねであり、前記複数のばねと前記一方のワークとの間に、当該複数のばねのそれぞれに対応して当該ワークと接触するストッパを備えていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第1加圧部は、第1弾性部材として複数のばねがあり、ストッパを介して一方のワークを押し下げる方向に加圧する。これにより、当該ワークの形状に応じてばね及びストッパの数を変更することができ、接合箇所に対応させて開口を設けたストッパと比較して、接合を行い易くすることができる。
【0014】
また、本発明の超音波接合装置において、前記第1支持部材及び前記第2支持部材の垂直方向の位置を制御する制御部を備えていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、制御部は、第1加圧部の第1支持部材及び第2加圧部の第2支持部材の垂直方向の位置を制御可能であるため、接合するワークの大きさ又は形状に応じてばね圧を調整し、一方のワークに適切な圧力を加えることができる。
【0018】
第2発明は、接合用チップの先端部が、重ねられた複数のワークを押圧し、当該押圧の方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該接合用チップを振動させることにより、当該複数のワークを接合する超音波接合装置であって、支持部材と、当該支持部材と前記複数のワークのうち一方のワークとの間に位置する弾性部材とからなり、当該支持部材を移動させて当該ワークに圧力を加える加圧部と、押圧部材を移動させて、前記複数のワークのうち他方のワークに圧力を加えるエアシリンダと、前記接合用チップを介して前記複数のワークに圧力を加える加圧装置と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明の超音波接合装置では、加圧部の支持部材により接合対象の一方のワークに圧力が加えられ、エアシリンダの押圧部材により接合対象の他方のワークに圧力が加えられる。このため、接合対象のワークは、エアシリンダと加圧部の付勢により挟持された状態となり、支持される。エアシリンダは、加圧機構と上下機構が備わっているため、シンプルな構造でワークを挟んで固定することができ、構造強度が弱いワークであっても、確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る超音波接合装置の全体構成を説明する図。
【
図2A】超音波接合装置のアンビル及びその上下の部材の断面図を説明する図。
【
図2B】超音波接合装置の変更例(エアシリンダ)を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の超音波接合装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
初めに、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る超音波接合装置1の全体構成を説明する。超音波接合装置1は、金属板等の接合対象物(ワーク)を後述する超音波複合振動を利用して接合(溶接)する装置である。超音波接合装置1は、主にリチウムイオン電池、半導体素子等の電極、同種又は異種の金属の接合に用いられるが、以下の説明では、構造強度が比較的弱い箱型のワークを用いる。
【0023】
超音波接合装置1は、超音波振動子2と、超音波拡大ホーン3と、超音波LT(Langevin Type)ホーン4と、ホーンチップ6と、アンビル7とで構成されている。また、発振装置8、加圧装置10、センサ12、制御装置13、表示装置14も超音波接合装置1の一部である。
【0024】
電源(図示省略)から発振装置8に電源電圧を印加すると、超音波振動子2の+電極及び-電極に電圧信号が伝達され、超音波振動子2が振動し、超音波振動(約20KHz)が発生する。超音波振動子2で発生した超音波振動は、超音波振動子2の一端部に取り付けられた円筒状の超音波拡大ホーン3に伝達され、振動振幅が拡大される。さらに、超音波振動は、超音波拡大ホーン3の一端部(超音波振動子2でない側の端部)に取り付けられた円筒状の超音波LTホーン4に伝達される。
【0025】
ここまで、超音波振動子2で発生した超音波振動は、超音波拡大ホーン3と超音波LTホーン4の長軸方向に伝達されたが(超音波の縦振動)、超音波LTホーン4の複数の斜めスリット4aにより、縦振動から横振動に変換した振動成分が生じる。そして、超音波振動(複合振動)は、超音波LTホーン4の一端部(超音波拡大ホーン3でない側の端部)にネジ止めされたホーンチップ6(本発明の「接合用チップ」及び「第1部材」に相当)に伝達される。
【0026】
ホーンチップ6は、円錐台状の基体部6aと、接合時にワークと接触する先端部6bとからなる。すなわち、発振装置8で超音波振動の位相を調整することにより、超音波LTホーン4の一端部で複合振動(例えば、楕円振動)が生じ、ホーンチップ6の先端部6bがワーク表面を楕円軌道を描いて振動する。この振動はワーク表面の不純物を排除し、さらにワーク表面の塑性変形を促進する。なお、ホーンチップ6はワークの種類に応じて交換可能であるが、今回、先端部6bが長い円柱状のホーンチップを用いる。
【0027】
複合振動について補足すると、これは、ホーンチップ6の先端部6b(端面6c)がワークを押圧したとき、押圧の方向に垂直な第1方向の振動成分と、第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた振動である。第1方向の振動成分と第2方向の振動成分が1:1であれば円形振動、2:1ならば楕円振動となる。
【0028】
また、超音波拡大ホーン3のフランジ部3aに剛性の高い加圧用ブロック(図示省略)が接触している。このため、制御装置13(本発明の「制御部」に相当)により加圧装置10(本発明の「第3加圧部」に相当)を制御し、昇降動作する加圧用ブロックを介して超音波接合装置1を垂直方向に移動させることができる。
【0029】
そして、台座であるアンビル7(本発明の「第2部材」の一例)上にワーク(ボックスB、キャップC)を載置しておくことで、ホーンチップ6の先端部6bがワーク(ここでは、上側に位置するキャップC)に接触して静圧力(接合時は200~800N)が加わるようになっている。
【0030】
詳細は後述するが、アンビル7の下方には、アンビル7を押し上げる方向に圧力を加える下方加圧部22が設けられている。また、ここでは図示していないが、ボックスBを押し下げる方向に圧力を加える上方加圧部21もあり、ボックスBは、両加圧部の付勢により挟持された状態となって、垂直方向で支持される。なお、制御装置13は、上方加圧部21及び下方加圧部22の垂直方向の動作を制御する。
【0031】
さらに、加圧用ブロックの変位を検出するセンサ(ストロークセンサ)12があり、ホーンチップ6のワークの押し込み量を取得している。センサ12は、接合時のホーンチップ6の垂直方向の座標変化を制御装置13にフィードバック(破線は帰還信号)することで、押し込み量が一定に保持される。このため、加圧装置10には、応答速度が速いアクチュエータが用いられている。
【0032】
押し込み量は、表示装置14から作業者が設定することができる。また、センサ12に加えて圧力センサを備え、静圧力を一定に保持するように制御してもよい。このように、ワークの接合時には、押し込み量又は静圧力を調整しながら複合振動を与えることで確実に接合(固相接合)が促進される。
【0033】
ここで、固相接合について補足すると、例えば、金属原子は、その表面が油脂、酸化被膜等で覆われ、原子同士の接近が妨げられた状態となっている。超音波接合では、金属に超音波振動を与えて、金属表面に強力な摩擦力を発生させる。これにより、金属表面の酸化被膜等が除去され、接合面に清浄かつ活性化した金属原子が現れる。
【0034】
この状態で、さらに金属表面に超音波振動を与えることにより、摩擦熱による温度上昇で原子の運動が活発となり、原子間の相互引力が発生し、固相接合の状態が生成される。
【0035】
次に、
図2Aに、超音波接合装置1のアンビル7及びその上下の部材の断面図を示す。
【0036】
図示するように、ワークの一方であるボックスBはアンビル7上に載置され、ワークの他方であるキャップCは、ボックスBの上面側(中央)に載置されている。また、ボックスBの上面側には板状のストッパ20が設けられ、さらにその上部に上方加圧部21(本発明の「第1加圧部」に相当)が設けられている。ストッパ20は板状に限られず、立方体、球状等のワークに当接して抑える効果のある構造であればよい。
【0037】
上方加圧部21は、板部材21a(本発明の「第1支持部材」又は「支持部材」に相当)と、板部材21aとストッパ20との間に位置するコイルばね21b(本発明の「第1弾性部材」又は「弾性部材」に相当)とで構成されている。そして、制御装置13により板部材21aを垂直方向に移動させてばね圧を調整し、ストッパ20を介してボックスBを押し下げる方向に圧力を加える。なお、板部材21aには、ホーンチップ6の先端部6bの直径よりも大きな開口21a’が空けられている。
【0038】
コイルばね21bは、ストッパ20に均一に圧力がかかるように複数設けられていることが好ましいが、ホーンチップ6の先端部6bが中心に挿入される大型のコイルばね1つの構成としてもよい。なお、コイルばねを
図2のように複数配置する場合には、コイルばねの代わりに板ばねを用いてもよい。
【0039】
ストッパ20についても、ホーンチップ6の先端部6bが接合のため通過する開口20’が空けられている。開口20’を除いて、ストッパ20と、重ねられたワークのうち下側に位置するボックスBとが接触しているため、板部材21aが下方向へ移動したとき、ボックスBの大部分を押し下げることができる。
【0040】
ストッパ20は、超音波接合装置1に必須の構成ではない。ストッパ20を用いない場合には、コイルばね21bが直接、ボックスBの上面側を押し下げるように、コイルばね21bを配置する必要がある。
【0041】
また、アンビル7の下面側には、下方加圧部22(本発明の「第2加圧部」に相当)が設けられている。下方加圧部22は、板部材22a(本発明の「第2支持部材」に相当)と、板部材22aとアンビル7との間に位置するコイルばね22b(本発明の「第2弾性部材」に相当)とで構成されている。そして、制御装置13により板部材22aを垂直方向に移動させてばね圧を調整し、アンビル7を介してボックスBを押し上げる方向に圧力を加える。
【0042】
コイルばね22bについても大型のコイルばね1つで構成することができる。この場合、アンビル7及び下方加圧部22の中心と、コイルばねの直径の中心とを揃えて配置すればよい。
【0043】
ボックスBはその上面側に開口があり、開口の上面にキャップCを配置して、ホーンチップ6を超音波振動(複合振動)させて封止する。また、ボックスBの構造強度は比較的弱いため、ホーンチップ6から受ける静圧力を構造強度以下とする必要がある。なお、最大静加圧力は、制御装置13により板部材21a,22aを上下動させることにより制御する。
【0044】
このように、アンビル7に載置されたボックスBは、上方加圧部21と下方加圧部22の付勢により挟持された状態となり、垂直方向で支持される。このとき、ボックスBは垂直方向の支持によりある程度固定されるものの、水平方向の変位は許容された状態(フローティング状態)である。
【0045】
接合時、すなわち、ホーンチップ6から超音波振動を受けたとき、ボックスBは水平方向に変位して静圧力を僅かに逃がすが、ほとんどの静圧力はワークの接合のために用いられる。従って、ワークの構造強度が弱い場合であっても接合を行うことができる。
【0046】
上方加圧部21は、板部材21aの垂直方向の中心軸を対称に、4個以上のコイルばね21bで構成するとよい。下方加圧部22についても、アンビル7の垂直方向の中心軸を対称に、4個以上のコイルばね22bで構成するとよい。これにより、ボックスBの上面及び下面に対して均一の力で支持することができる。
【0047】
ボックスBのような箱型のワークの場合、その高さが部位により異なることがある。このため、下方加圧部22のばね機構(コイルばね22b)で、それぞれの部位を個別に加圧することにより、それぞれの部位の加圧力を一定に保つことができる。
【0048】
上方加圧部21のコイルばね21bと、下方加圧部22のコイルばね22bとを比較すると、実際の弾性力はほぼ同じであるが、下方加圧部22のコイルばね22bの弾性力の方を大きくすることが好ましい。
【0049】
接合のためワークを超音波振動させたとき、ホーンチップ6とワーク(キャップC)との間に、数ミクロン程度の僅かな隙間ができ、圧力抜けが起こることがある。すなわち、超音波接合装置1では、接合時の圧力を一定に保つため、当該隙間を埋めるべくホーンチップ6を追従制御するが、ホーンチップ6がワークの沈み込みに対しておいていかれることがある。このため、コイルばね22bの弾性力の大きくしてワークを常に上向きに強く押圧し、当該間隔の発生を防止する。
【0050】
なお、上方加圧部21のコイルばね21bの弾性力を、下方加圧部22のコイルばね22bの弾性力よりも大きくしてもよく、この場合も、ワークを確実に抑えるという効果がある。
【0051】
図2Bに示すように、下方加圧部22をエアシリンダ25に置き換えることもできる。エアシリンダ25の上面板部25a(本発明の「押圧部材」に相当)を移動させて、上方加圧部21とでワーク(ここでは、ボックスB)を挟んで圧力を加え、固定する構造とする。ワークを固定する際、
図2Aの構造では下方加圧部22を上下させる機構が追加で必要となるが、エアシリンダ25であれば、加圧機構(加圧部25b)と上下機構とが備わっているので、簡易な構造でワークを固定することができる。
【0052】
エアシリンダは上下動作の速度が遅く、ワークを超音波振動させたとき、ホーンチップがワークの沈み込み速度に追従できないという難点がある。すなわち、加圧力が下がり、ワークの接合が不十分となる。特に、弱い加圧力で超音波接合を行うとき、エアシリンダ内部の摩擦抵抗により、上下動作の速度が著しく低下することがある。
【0053】
しかしながら、エアシリンダ25(上面板部25a)と上方加圧部21との組み合わせによりワークを挟み、固定する構造にすると、エアシリンダ25の加圧力は上方加圧部21の加圧分だけ大きくなる。このため、エアシリンダ25の動作速度が上昇し、適切な加圧力が維持され、十分な接合力を得ることができる。
【0054】
次に、
図3A、
図3Bを参照して、上述の上方加圧部21の変更形態について説明する。
【0055】
図3Aに示すように、接合対象であるボックスBは、アンビル7上に載置され、ボックスBの上面側のストッパ30A,30Bを介して、上方加圧部31が設けられている。
【0056】
上方加圧部31は、板部材31aと、板部材22aとストッパ30A,30Bとの間にそれぞれ位置するコイルばね31bとで構成されている。そして、制御装置13により板部材31aを垂直方向に移動させてばね圧を調整し、ストッパ30A,30Bを介してボックスBを押し下げる方向に圧力を加える。なお、板部材31aには、ホーンチップ6の先端部6bの直径よりも大きい開口31a’が空けられている。
【0057】
ここで、ストッパ30A,30Bは、各コイルばね31bに対応した部材であり、それぞれ独立してボックスBの上面側を押し下げる。
図2のような1枚のストッパ20を用いると、ボックスBの上面が平坦でない場合にストッパ20とボックスBの間に隙間が生じて、支持が不十分な箇所が生じる。
【0058】
この点、互いに独立したストッパ30A,30Bは、ワークの大きさ又は形状に応じてコイルばね及びストッパの数を変更することができる。このため、開口を有する1枚のストッパを用いる場合と比較して、垂直方向で確実に支持することができる。なお、水平方向の変位が許容されている点は同じである。
【0059】
最後に、
図3Bに、
図3AのボックスBを上方から見たときの図を示す。ここでは、説明のため、上方加圧部31は省略してある。
【0060】
ホーンチップ6の先端部6bは、図示するような楕円振動(破線)をしながら、ボックスB(開口)に対して、キャップCを接合する。このとき、
図3Aでは図示しなかったストッパ30Cを含めて3箇所でボックスBの上面側を押さえている。これにより、接合時にボックスBとキャップCとの位置ずれを防止することができる。
【0061】
ここでは、ストッパ30A~30Cを用いてボックスBの上面側を押さえたが、ストッパ及びコイルばねのセットを増やして、4カ所以上を押さえてもよい。また、
図2にように、アンビル7の下方に下方加圧部を設けて、ボックスBを2つの加圧部の付勢により挟持した状態としてもよい。
【0062】
上記説明は、本発明の実施形態の一部であり、これ以外にも種々な実施形態が考えられる。今回、ワークが箱型(ボックス形状)であったが、これに限られるものではない。
【0063】
例えば、ワークは、板状の部材であってもよい。この場合、ストッパは、重ねられたワークのうち上側に位置する一方のワークと接触する。また、ストッパがない形態では、上方加圧部が上側に位置するワークを押し下げる方向に圧力を加える。
【0064】
図2A、
図2Bでは、ワークがアンビル(又はエアシリンダ)に載置され、ワークの上方にホーンチップがある位置関係(垂直方向)であったが、これに限られない。すなわち、ホーンチップとアンビルは水平方向の配置でもよいし、傾斜方向の配置でもよい。そして、ワークは、ホーンチップとアンビル(又はエアシリンダ)の方向によらず、これらの間に位置し、アンビルに接触して配置される。このような態様であっても、ワークを挟んで固定することができ、構造強度が弱いワークであっても、確実に接合することができる。
【0065】
上述のホーンチップ6は、基体部6aに先端部6bをネジ止めして取り付けるが、この場合、先端部の取り付け位置が振動ノードとならないように注意する。
【0066】
ホーンチップ6の押し込み量は、どのような方法で検出してもよい。例えば、加圧用ブロックを駆動するアクチュエータ(サーボモータ)にエンコーダを取り付け、基準位置からの変位により押し込み量を検出する方法がある。
【符号の説明】
【0067】
1…超音波接合装置、2…超音波振動子、3…超音波拡大ホーン、3a…フランジ部、4…超音波LTホーン、4a…斜めスリット、6…ホーンチップ、6a…基体部、6b…先端部、6c…端面、7…アンビル、8…発振装置、10…加圧装置、12…センサ、13…制御装置、14…表示装置、20,30A~30C…ストッパ、21,31…上方加圧部、22…下方加圧部、21a,22a,31a…板部材、21b,22b,31b…コイルばね、20a’,21a’,31a’…開口、25…エアシリンダ、25a…上面板部、25b…加圧部、B…ボックス、C…キャップ。