(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】還元型無電解インジウムメッキ浴
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
C23C18/31 Z
(21)【出願番号】P 2021212576
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2022-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 薫
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-177357(JP,A)
【文献】特開平03-191070(JP,A)
【文献】特開平04-325688(JP,A)
【文献】特開平06-264248(JP,A)
【文献】特開昭57-005857(JP,A)
【文献】特開平11-021673(JP,A)
【文献】特開昭55-085641(JP,A)
【文献】国際公開第2008/081637(WO,A1)
【文献】特表2020-503457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)可溶性インジウム塩と、
(B)酸又はその塩と、
(C)3価チタン化合物からなる還元剤と、
(D)
オルトリン酸、メタリン酸、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩からなる群より選ばれたリン酸系化合物及びホスホン酸系化合物より選ばれたリン含有化合物からなる錯化剤の少なくとも一種
とを含有することを特徴とする還元型無電解インジウムメッキ浴。
【請求項2】
3価チタン化合物(C)が、3塩化チタン、3ヨウ化チタン、3臭化チタン、硫酸チタン(III)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の還元型無電解インジウムメッキ浴。
【請求項3】
酸(B)が、硫酸、塩酸、硝酸からなる群より選ばれた無機酸、有機スルホン酸、カルボン酸からなる群より選ばれた有機酸の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元型無電解インジウムメッキ浴。
【請求項4】
リン含有化合物(D)
のうちのホスホン酸系化合物が、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸及び
これらの塩からなる群より選ばれた
少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の還元型無電解インジウムメッキ浴。
【請求項5】
さらに、アミノカルボン酸類、ポリカルボン酸類、オキシカルボン酸類からなる群より選ばれた安定剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする
請求項1~4のいずれか1項に記載の還元型無電解インジウムメッキ浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は還元型の無電解インジウムメッキ浴に関して、均一性に優れ、光沢のある白色外観の皮膜を形成できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
インジウムは導電性に優れるうえ、融点がスズ(232℃)に比して156.4℃と低いので、液晶やプラズマなどのパネルディスプレイの電極に利用される外、スズに替わる低融点のハンダ接合材料として、近年とみに注目されている。
【0003】
インジウムを用いた無電解メッキ浴の従来技術は余り多くはないが、還元剤を用いない特許文献1に示す置換型のメッキ浴を初め、還元剤を用いた特許文献2~6の無電解メッキ浴がある。また、特許文献7~9は還元型の無電解スズ浴であり(本発明に関連する部分があるため列挙する)、特許文献10は還元型の酸化インジウム浴である。
(1)特許文献1
インジウムとチオ尿素又はその誘導体を含有した、還元剤を用いない置換型インジウムメッキ浴である。
実施例1のメッキ浴は、可溶性インジウム塩と、チオ尿素と、塩酸からなる(第3頁左上欄)。
実施例2は、可溶性インジウム塩と、チオ尿素と、硫酸からなる(第3頁右上欄)。
また、参考例1には可溶性インジウム塩と、NaBH4(還元剤)と、 エチレンジアミン四酢酸( EDTA)のNa塩と、トリエタノールアミンと、チオジグリコール酸を含有する還元型のインジウムメッキ浴が記載される(第3頁右上欄~左下欄)。
【0004】
(2)特許文献2~3
特許文献2は、可溶性インジウム塩と、還元剤としての水素化ホウ素化合物と、EDTA又はその塩と、トリエタノールアミンからなる還元剤型の無電解インジウムメッキ浴である。
この場合、水素化ホウ素化合物の分解を防止する安定剤として、酢酸鉛、硫酸鉛、チオジグリコール酸などを添加できる(第3頁左上欄及び実施例1参照)。
また、特許文献3は、 インジウム塩と、水素化ホウ素化合物(還元剤)と、ニトリロ三酢酸(NTA)又はその塩(錯化剤)とを含有する還元型無電解インジウムメッキ浴である(特許請求の範囲)。
メッキ浴には、チオジグリコール酸、チオ尿素などの安定剤(第3頁左下欄~右下欄)、或いは、浴の安定性を増し、皮膜光沢を向上するための補助錯化剤(クエン酸、酒石酸、グルコン酸又はこれらの塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又はその塩など;第4頁左上欄~右上欄)を含有できる。
【0005】
(3)特許文献4~6
特許文献4は、ニッケル、亜鉛、インジウム、アンチモンなどの特定の金属析出用の還元型の無電解メッキ浴であり、還元剤に三塩化チタンを用いる。
同文献4の実施例4には、可溶性インジウム塩と、三塩化チタンと、インジウムの錯化剤としてのクエン酸と、チタンの錯化剤としてのNTAを含む還元型の無電解インジウム浴が記載される。
特許文献5も上記特許文献4と同様に、ニッケル、亜鉛、インジウム、アンチモンなどの特定の金属析出用の無電解メッキ浴に関して、還元剤には塩化物以外の3価のチタンイオンを含む塩又は化合物(例えば、ヨウ化チタン、トリフェニルチタン、硫酸チタンなど)を用いることを特徴とする。
同文献5の実施例4には、可溶性インジウム塩と、硫酸チタンと、クエン酸(インジウムの錯化剤)と、ニトリロ三酢酸(チタンの錯化剤)を含む無電解インジウム浴が記載される。
特許文献6は、スズ、銀、インジウムなどから選ばれた複数種の特定の金属の塩化物、ヨウ化物、硝酸塩と、三塩化チタン(還元剤)と、EDTA塩と、クエン酸塩と、NTAなどを含有する還元型の無電解メッキ浴である(表2参照)。
【0006】
(4) 特許文献7
水溶性スズ塩と、3塩化チタンなどの還元剤と、ニトリロトリメチレンホスホン酸などの「酸化数が3価のリンを含有する有機錯化剤」([0019])とを含有する還元型無電解スズメッキ浴であり(請求項1~7)、安定した析出速度とメッキ浴の優れた安定性を実現できる([0006]~[0007])。
緩衝剤として、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などのオキシカルボン酸、ホウ酸などを含有できる([0022])。
実施例1の還元型無電解スズメッキ浴は、メタンスルホン酸スズ(スズ塩)と、3塩化チタン(還元剤)と、ニトリロトリメチレンホスホン酸(錯化剤)と、クエン酸カリウム(緩衝剤)を含有する([0040])。
【0007】
(5) 特許文献8
水溶性スズ塩と、3塩化チタンなどの還元剤と、アミノカルボン酸類及びホスホン酸類からなる有機錯化剤と、メルカプタン類及びスルフィド類からなる有機イオウ化合物とを含有する還元型無電解スズメッキ浴であり(請求項1~13)、メッキ浴が安定であり、スズ皮膜をはみ出しなく、速く且つ厚く成長できる([0013])。
上記アミノカルボン酸類はEDTA、NTA、グリシン、グルタミン酸などであり([0023])、ホスホン酸類はニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などである([0024])。
上記メルカプタン類はメルカプト安息香酸、メルカプトピリジンなどである([0031])。上記スルフィド類はメチオニン、ジメチルジスルフィドなどである([0032])。
【0008】
(6) 特許文献9
スズ塩と、チタン塩(還元剤)と、ピロリン酸類及びポリリン酸類からなる錯化剤と、チオール化合物及びジスルフィド化合物からなる安定剤とを含有する還元型無電解スズメッキ浴である(請求項1)。
上記安定剤には、シスチン、システイン、2-メルカプトピリジン、2-メルカプトベンゾチアゾールなどが好ましい([0039])。
実施例1のスズ浴では、錯化剤がピロリン酸、安定剤が2-メルカプトピリジンである([0084])。
【0009】
(7)特許文献10
硝酸イオンと、インジウムイオンと、酒石酸塩とを含有する無電解酸化インジウムメッキ浴である(請求項1)。無電解インジウム浴とは異なるが、インジウムイオンを含有する点で参考的文献として挙げる。
【0010】
【文献】特開平02-004978号公報
【文献】特開昭57-005857号公報
【文献】特開昭59-177357号公報
【文献】特開平03-191070号公報
【文献】特開平04-325688号公報
【文献】特開2004-323872号公報
【文献】WO2008/081637号公報
【文献】WO2009/157334号公報
【文献】特表2020-503457号公報
【文献】特開平11-152578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1は還元剤を用いない置換型のインジウム浴であり、銅板上に置換メッキを行うと、メッキ皮膜の形成自体は可能であるが、析出した皮膜は黒ずんで外観に劣り、メッキむらが目立つため、実用性に乏しい。
また、特許文献2~3は還元剤に水素化ホウ素化合物を用いており、メッキ浴の安定性が悪いうえ、メッキ皮膜の析出自体が容易でない実情がある。
特許文献4~6は還元剤にチタン化合物を用いたもので、皮膜は析出するが、インジウム皮膜の膜厚と外観に劣るうえ、メッキ浴の安定性は良くないという実情である。
【0012】
本発明は、還元剤を用いる無電解インジウムメッキ浴において、メッキ浴の安定性に優れ、白色の均一なインジウム皮膜を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記特許文献2~6に照らして、還元型の無電解インジウム浴において、良好な皮膜析出には、還元剤に水素化ホウ素化合物などではなく、チタン化合物の選択が好適であることを前提したうえで、均一で美麗なインジウム皮膜を得る見地から、特に、特許文献2~6の無電解インジウム浴に加えて、各種添加剤が開示された特許文献7~9の無電解スズ浴の組成を参照して、解決の道筋を探ることにした。
即ち、特許文献7~9は本発明の対象であるインジウム浴とは浴種が異なるが、チタン化合物を還元剤とすることで本発明の無電解インジウム浴と共通し、さらに各種の錯化剤や安定剤の開示がなされているため、特許文献2の安定剤の記述に加えて、これらの技術的事項を活用することにした。
【0014】
先ず、無電解インジウム浴である前記特許文献2には、チオジグリコール酸、チオ尿素などの安定剤、或いは、浴の安定性を増し、皮膜光沢を向上するための補助錯化剤としてクエン酸、酒石酸、グルコン酸又はこれらの塩、DTPA又はその塩などが開示されている。一方、例えば、特許文献7~8には、錯化剤として所定のホスホン酸類、或いはアミノカルボン酸類、又はメッキ浴の安定剤としてメルカプタン類やスルフィド類が開示され、また、特許文献9にも、錯化剤としてピロリン酸類やポリリン酸類、又は浴の安定剤としてチオール類やジスルフィド類が開示されている。
そこで、本発明者は、インジウム塩と、酸又はその塩と、還元剤としてのチタン化合物を含有する還元型の無電解インジウムメッキ浴を基本としたうえで、当該メッキ浴において、皮膜形成の補強成分として、上記先行文献に挙げられたクエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸類、或いは、メルカプタン類やスルフィド類ではなく、所定のリン含有化合物を選択的に加えると、上記メッキ浴の安定性が増し、美麗で均一なインジウム皮膜が得られることを見い出して、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明1は、
(A)可溶性インジウム塩と、
(B)酸又はその塩と、
(C)還元剤からなる3価チタン化合物と、
(D)オルトリン酸、メタリン酸、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩からなるリン酸系化合物及びホスホン酸系化合物より選ばれたリン含有化合物からなる錯化剤の少なくとも一種
とを含有することを特徴とする還元型無電解インジウムメッキ浴である。
【0016】
本発明2は、上記本発明1において、3価チタン化合物(C)が、3塩化チタン、3ヨウ化チタン、3臭化チタン、硫酸チタン(III)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする還元型無電解インジウムメッキ浴である。
【0017】
本発明3は、酸(B)が、硫酸、塩酸、硝酸からなる群より選ばれた無機酸、有機スルホン酸、カルボン酸からなる群より選ばれた有機酸の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元型無電解インジウムメッキ浴である。
【0019】
本発明4は、上記本発明1~3のいずれかにおいて、リン含有化合物(D)のうちのホスホン酸系化合物が、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸及びこれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする還元型無電解インジウムメッキ浴である。
【0020】
本発明5は、上記本発明1~4のいずれかにおいて、さらに、アミノカルボン酸類、ポリカルボン酸類、オキシカルボン酸類からなる群より選ばれた安定剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする還元型無電解インジウムメッキ浴である。
【発明の効果】
【0021】
前述の通り、還元剤にチタン化合物を用いた特許文献4~6では、析出したインジウム皮膜は外観に劣り、黒ずんだ析出物しか得られない(後述の比較例1参照)。
これに対して、本発明の還元型無電解インジウム浴では、還元剤に3価チタン化合物を用いるとともに、所定のホスホン酸系並びにリン酸系の化合物から選ばれた特定のリン含有化合物を錯化剤に併用するため、 メッキ浴の安定性に優れ、且つ、均一で美麗な白色外観を有するインジウム皮膜を形成することができる。
尚、還元剤にチタン化合物ではなく水素化ホウ素類を用いた無電解インジウム浴では、本発明の所定のリン含有化合物を含有しても、メッキ浴の安定性が悪く、従って、メッキ皮膜の形成は望めない(後述の比較例2参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は可溶性インジウム塩と、酸又はその塩と、還元剤である3価チタン化合物と、錯化剤である所定のリン含有化合物(所定のリン酸系並びにホスホン酸系の化合物から選択)とを含有する還元型無電解インジウムメッキ浴である。
上記還元型インジウム浴を適用対象とする被メッキ物には銅及び銅合金が適している。
【0023】
本発明1は、上述の通り、
(A)可溶性インジウム塩と、
(B)酸又はその塩と、
(C)還元剤からなる価チタン化合物と、
(D)オルトリン酸、メタリン酸、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩からなるリン酸系化合物及びホスホン酸系化合物より選ばれたリン含有化合物からなる錯化剤の少なくとも一種
とを含有する還元型無電解インジウムメッキ浴である。
上記可溶性インジウム塩(A)は、酸化インジウム、硫酸インジウム、ホウフッ化インジウム、スルファミン酸インジウム、メタンスルホン酸インジウム、2-ヒドロキシエタンスルホン酸インジウム、2-ヒドロキシプロパンスルホン酸インジウムなどある。
また、上記リン含有化合物(D)がリン酸系化合物である場合、当該リン酸系化合物は上述の通り、オルトリン酸、メタリン酸、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩からなる群より選ぶ必要がある。
【0024】
上記酸又はその塩(B)は、無機酸、有機酸或いはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などである。
無機酸は塩酸、硫酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸などであり、有機酸は有機スルホン酸、カルボン酸などである。
【0025】
上記有機スルホン酸は、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、スルホコハク酸、芳香族スルホン酸などであり、アルカンスルホン酸としては、化学式CnH2n+1SO3H(例えば、n=1~11)で示されるものが使用でき、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1―プロパンスルホン酸、2―プロパンスルホン酸、1―ブタンスルホン酸、2―ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などが挙げられる。
【0026】
上記アルカノールスルホン酸としては、化学式
CmH2m+1-CH(OH)-CpH2p-SO3H(例えば、m=0~6、p=1~5)
で示されるものが使用でき、具体的には、2―ヒドロキシエタン―1―スルホン酸(イセチオン酸)、2―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸(2-プロパノールスルホン酸)、3―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシペンタン―1―スルホン酸などの外、1―ヒドロキシプロパン―2―スルホン酸、4―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシヘキサン―1―スルホン酸などが挙げられる。
【0027】
上記芳香族スルホン酸は、基本的にベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフトールスルホン酸などであり、具体的には、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、スルホサリチル酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、ジフェニルアミン-4-スルホン酸などが挙げられる。
上記有機スルホン酸では、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが好ましい。
【0028】
上記カルボン酸は、特に脂肪族カルボン酸が好ましく、モノカルボン酸、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸、ポリカルボン酸などであり、モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などが挙げられる。
オキシカルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、グリコール酸などが挙げられる。
アミノカルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、テトラエチレンペンタミン七酢酸(TPHA)及びその塩などが挙げられる。
ポリカルボン酸としては、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、マロン酸、グルタル酸及びその塩などが挙げられる。
【0029】
上記3価チタン化合物(C)は、3塩化チタン、3ヨウ化チタン、3臭化チタン、硫酸チタン(III)などから1種、或いは複数2種選ばれるが、3塩化チタンが好ましい。
本発明では、還元剤(C)には 水素化ホウ素類やアミンボラン類などではなく、 3価チタン化合物を選択する必要があるが、 水素化ホウ素類などの他の還元剤を併用することを排除するものではない。
【0030】
上記リン含有化合物は所定のリン酸系化合物及び所定のホスホン酸化合物から選択される。当該リン含有化合物は、本発明のインジウム浴において錯化剤として機能し、メッキ浴の安定性を増し、皮膜外観(白色外観)や均一性を向上する。
所定のリン酸系化合物は、上述の通り、オルトリン酸、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩などから選ばれた1種、或いは複数種である。
所定のホスホン酸系化合物は、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸及びこれらの塩などから選ばれた1種、或いは複数種である。
【0031】
本発明1において、上記可溶性インジウム塩(A)は単用又は併用でき、無電解インジウムメッキ浴に対する含有量は0.01~1.0モル/L、好ましくは0.03~0.8モル/L、より好ましくは0.05~0.5モル/Lである。
上記酸又はその塩(B)は単用又は併用でき、メッキ浴に対する含有量は0.1~7.0モル/L、好ましくは0.2~6.0モル/L、より好ましくは0.3~5.0モル/Lである。
上記還元剤である3価チタン化合物(C)は単用又は併用でき、メッキ浴に対する含有量は0.01~3.0モル/L、好ましくは0.05~2.5モル/L、より好ましくは0.07~2.0モル/Lである。
上記錯化剤であるリン含有化合物(D)は単用又は併用でき、メッキ浴に対する含有量は0.01~3.0モル/L、好ましくは0.05~2.5モル/L、より好ましくは0.07~2.0モル/L、特に好ましくは0.07~0.16モル/Lである。
この場合、メッキ浴に対する還元剤(C)と錯化剤(D)の含有量は特には限定されないが、還元剤(C)と錯化剤(D)の含有モル比率を制御することが好ましい。
還元剤(C)と錯化剤(D)の含有モル比率C/Dについては、好ましくは0.2~30、より好ましくは0.4~15である。
【0032】
本発明の還元型無電解インジウムメッキ浴には、安定剤、界面活性剤などの各種添加剤を含有することができる。
上記安定剤は、アミノカルボン酸類、オキシカルボン酸類、ポリカルボン酸類からなる群より選ばれ、上記錯化剤(D)との相乗効果により、メッキ浴の安定性、析出皮膜の外観向上に資することができる。
この場合、メッキ浴に用いる酸(B)が有機酸、特にカルボン酸である場合、その例示としてアミノカルボン酸類、オキシカルボン酸類などを挙げたが、これらのカルボン酸を酸成分(B)に用いる場合には、当該安定剤の機能をも兼備することができる。
当該安定剤のメッキ浴に対する含有量は0.1~7.0モル/L、好ましくは0.2~6.0モル/L、より好ましくは0.3~5.0モル/Lである。
【0033】
上記界面活性剤には通常のノニオン系、アニオン系、両性、或はカチオン系などの各種界面活性剤が挙げられ、メッキ皮膜の外観、均一性などの改善に寄与する。
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、モノ~トリアルキルアミン塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、トリメチルアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、C1~C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、或いは、C1~C25アルキルフェノール、アリールアルキルフェノール、C1~C25アルキルナフトール、C1~C25アルコキシルリン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1~C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2~300モル付加縮合させたものなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。
当該界面活性剤のメッキ浴に対する含有量は0.01~100g/L、好ましくは0.1~50g/Lである。
【0034】
還元型無電解インジウムメッキの条件は任意であるが、浴温は25~90℃であり、析出速度を増す見地から30~80℃が好ましく、より好ましくは35~70℃である。
浸漬時間は30秒~180分であり、好ましくは1分~120分であり、浴温にも左右される。
一方、本発明の還元型インジウムメッキに際しては、前処理としてパラジウムなどの触媒付与、或いは、下地用の置換型インジウムメッキでの活性化処理の実施は必須ではない。但し、実施しない場合には、実施した場合に比して皮膜外観が低下する恐れはある。
また、メッキ速度が速い浴組成では、浴が不安定になる恐れがあるが、前処理は不要であり、逆に、浴が安定であり、従ってメッキ速度が遅い浴組成では前処理が必要になる。この場合、触媒付与工程や下地用の置換型インジウムメッキ浴の組成などは、特に限定されない。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の還元型無電解インジウムメッキ浴の実施例、当該インジウム浴を用いて銅板(基材)に還元メッキして得られる皮膜外観の優劣の評価試験例、並びに還元型インジウム浴の安定性の評価試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0036】
《本発明の還元型無電解インジウムメッキ浴の実施例》
下記の実施例1~15のうち、実施例1は可溶性インジウム塩とクエン酸塩(酸成分としての有機酸塩)と3塩化チタン(還元剤)とニトリロトリメチレンホスホン酸(ホスホン酸系化合物;錯化剤)とニトリロ三酢酸(NTA;安定剤)を用いた還元型無電解インジウムメッキ浴である。
実施例2~9は上記実施例1を基本とした各例であり、実施例2~3は可溶性インジウム塩の種類を変更した例、実施例4~6は有機酸塩の種類を変更した例、実施例7は還元剤の種類を硫酸チタン(III)に変えた例、実施例8~9は錯化剤の種類を変えたもので、実施例8はエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸に、実施例9はホスホノブタントリカルボン酸に夫々変えた例である。
実施例10は実施例2を基本とし、錯化剤をエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸に変えた例である。実施例11は実施例3を基本とし、錯化剤をホスホノブタントリカルボン酸とエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸の組み合わせに変えた例である。
実施例12は実施例4を基本として、錯化剤をジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸に変えた例である。
実施例13~15は実施例1を基本として、錯化剤をホスホン酸系化合物からリン酸系化合物に夫々変えたもので、実施例13はオルトリン酸に、実施例14は次亜リン酸に、実施例15はメタリン酸に夫々変えた例である。
実施例16は実施例1を基本として、ホスホン酸の含有量を上記リン含有化合物の特に好ましい含有量(以下、「優良域」という;0.07~0.16モル/L)の中央付近の数値(0.10モル/L)に設定した例である。
実施例17は実施例13を基本として、オルトリン酸の含有量を上記リン含有化合物の優良域の中央付近の数値(0.10モル/L)に設定した例である。
また、実施例18は実施例1を基本として、ホスホン酸の含有量を同じく上記リン含有化合物の優良域の下限の数値(0.07モル/L)に設定した例である。
【0037】
一方、比較例1は実施例1を基本として、錯化剤であるホスホン酸系化合物を含まない例である。
比較例2は実施例1を基本として、還元剤を3価チタン化合物から水素化ホウ素化合物に変えた例である。
比較例3は実施例1を基本として、錯化剤であるホスホン酸系化合物に代えて、上記特許文献3に安定剤として開示されたチオ尿素を用いた例である。
比較例4は実施例1を基本として、錯化剤であるホスホン酸系化合物に代えて、上記特許文献9に安定剤として開示されたメルカプタン類(具体的には、システイン)を用いた例である。
比較例5は実施例1を基本として、錯化剤であるホスホン酸系化合物に代えて、上記特許文献8(請求項1)にスルフィド類として開示されたメチオニンを用いた例である。
【0038】
(1)実施例1
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
ニトリロ三酢酸(NTA) 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0039】
(2)実施例2
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0040】
(3)実施例3
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
水酸化インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0041】
(4)実施例4
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
リンゴ酸ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0042】
(5)実施例5
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
ジエチレントリアミン五酢酸 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0043】
(6)実施例6
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
酒石酸カリウムナトリウム 0.50モル/L
エチレンジアミン四酢酸 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0044】
(7)実施例7
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
水酸化インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
硫酸チタン(III) 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0045】
(8)実施例8
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0046】
(9)実施例9
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ホスホノブタントリカルボン酸 0.15モル/L
【0047】
(10)実施例10
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0048】
(11)実施例11
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
水酸化インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ホスホノブタントリカルボン酸 0.10モル/L
エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸 0.10モル/L
【0049】
(12)実施例12
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
リンゴ酸ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0050】
(13)実施例13
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
オルトリン酸 0.15モル/L
【0051】
(14)実施例14
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
次亜リン酸 0.15モル/L
【0052】
(15)実施例15
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
メタリン酸 0.15モル/L
【0053】
(16)実施例16
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.10モル/L
【0054】
(17)実施例17
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
オルトリン酸 0.10モル/L
【0055】
(18)実施例18
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.07モル/L
【0056】
(16)比較例1
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
【0057】
(17)比較例2
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
水素化ホウ素ナトリウム 0.20モル/L
ニトリロトリメチレンホスホン酸 0.15モル/L
【0058】
(18)比較例3
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
チオ尿素 0.15モル/L
【0059】
(19)比較例4
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
システイン 0.15モル/L
【0060】
(20)比較例5
下記の組成で還元型無電解インジウムメッキ浴を建浴した。
硫酸インジウム(In3+として) 0.15モル/L
クエン酸三ナトリウム 0.50モル/L
NTA 0.04モル/L
三塩化チタン 0.20モル/L
メチオニン 0.15モル/L
【0061】
《還元型無電解インジウムメッキ浴により析出したインジウム皮膜の外観評価試験例》
そこで、厚み0.3mm、25mm×25mmの矩形の圧延銅板を試験片として用意し、上記実施例1~18並びに比較例1~5で建浴した各無電解インジウムメッキ浴に上記試験片を浸漬し、浴温65℃、メッキ時間60分の条件で還元メッキを行い、試験片に析出したインジウム皮膜について、下記の基準で皮膜外観の優劣を目視評価した。
○:均一な白色外観を呈した。
△:黒い外観を呈した。
×:皮膜が形成されなかった。
【0062】
《還元型無電解インジウムメッキ浴の安定性の評価試験例》
実施例1~18並びに比較例1~5の各還元型無電解メッキ浴について、建浴後のメッキ浴を浴温65℃に保持した状態で経時的に目視観察し、メッキ浴の安定性を下記の基準で評価した。
○:建浴後、72時間以上分解しなかった。
×:建浴後、24時間以内に分解した。
【0063】
《還元型無電解インジウムメッキによる皮膜外観と膜厚、及びメッキ浴の安定性の評価試験結果》
上記実施例1~18並びに比較例1~5の各評価試験の結果は下表1の通りである。
但し、下表1の膜厚の項目において、単位はμmであり、「--」は皮膜が析出しなかったことを示す。
[表1]
皮膜外観 膜厚 浴安定性 皮膜外観 膜厚 浴安定性
実施例1 ○ 1.1 〇 実施例15 ○ 0.6 〇
実施例2 ○ 0.8 〇 実施例16 ○ 0.9 〇
実施例3 ○ 0.7 〇 実施例17 ○ 0.5 〇
実施例4 ○ 0.9 〇 実施例18 ○ 0.7 〇
実施例5 ○ 1.0 〇
実施例6 ○ 1.2 〇 比較例1 △ 0.5 ×
実施例7 ○ 0.6 〇 比較例2 × -- ×
実施例8 ○ 1.1 〇 比較例3 △ 0.4 ×
実施例9 ○ 0.7 〇 比較例4 △ 0.1 ×
実施例10 ○ 0.5 〇 比較例5 △ 0.2 ×
実施例11 ○ 0.9 〇
実施例12 ○ 1.0 〇
実施例13 ○ 0.6 〇
実施例14 ○ 0.5 〇
【0064】
《置換型無電解インジウムメッキによる皮膜外観とメッキ浴の総合評価》
上表1に基づいて比較例1~5を評価すると、先ず、本発明の還元型インジウムメッキ浴の必須成分のうち、所定のリン含有化合物(具体的には、ホスホン酸系化合物)(D)を含まない比較例1では、メッキ浴の安定性が悪く、皮膜は形成されたが、黒ずんで粗い皮膜しか得られず、膜厚も例えばホスホン酸系化合物を用いた実施例1~12に比べて劣り、実用水準には遠く及ばなかった。従って、3価チタン化合物を用いた還元型インジウム浴では、均一で白色美麗な皮膜を得るにはホスホン酸系或いはリン酸系から選ばれた所定のリン含有化合物を錯化剤として用いることの重要性が判断できる。
逆に、本発明の所定のリン含有化合物(D)を含むが、還元剤(C)を3価チタン化合物に代えて水素化ホウ素化合物を用いた比較例2では、メッキ浴の安定性は悪く、皮膜は形成されなかった。従って、所定のリン含有化合物を錯化剤に用いた還元型インジウム浴にあっては、還元剤に水素化ホウ素化合物ではなく、3価チタン化合物を選択することの重要性が判断できる。
【0065】
還元剤(C)に3価チタン化合物を用いるが、本発明の所定のリン含有化合物(D)に代えて、前記特許文献3に安定剤として開示されたチオ尿素を用いた比較例3では、やはり比較例2と同じく、メッキ浴の安定性は悪く、皮膜は形成されたが、黒ずんで粗い皮膜しか得られなかった。
また、還元剤(C)に3価チタン化合物を用いるが、本発明の所定のリン含有化合物(D)に代えて、前記特許文献9に安定剤として開示されたメルカプタン類のうち、好ましい例であるシステイン(特許文献9の[0039])を用いた比較例4では、上記比較例3と同じく、メッキ浴の安定性は悪く、皮膜は形成されたが、黒ずんで粗い皮膜しか得られなかった。
同じく、還元剤(C)に3価チタン化合物を用いるとともに、本発明の所定のリン含有化合物(D)に代えて、例えば、前記特許文献8(請求項1)のスルフィド類に属するメチオニン([0032])を用いた比較例5では、上記比較例4と同様に、やはりメッキ浴の安定性は悪い反面、皮膜は形成されたが、黒ずんで粗い皮膜しか得られなかった。
この結果、3価チタン化合物を用いた還元型インジウム浴にあっては、錯化剤にチオ尿素、メルカプタン類、或いはスルフィド類を選択しても実用的なインジウム皮膜の析出は期待できず、均一で白色美麗な皮膜を得るには、ホスホン酸系或いはリン酸系から選ばれた所定のリン含有化合物を錯化剤に選択することの必要性が明らかになった。
以上のように、還元型無電解インジウム浴においては、均一で美麗な白色のインジウム皮膜を得るには、実施例1~18に見るように、還元剤に3価チタン化合物を選択するとともに、錯化剤に所定のホスホン酸系又はリン酸系のリン含有化合物(D)を併用することの必要性が裏付けられた。
【0066】
次いで、実施例1~18の評価を詳述する。
ホスホン酸系化合物(C)にニトリロトリメチレンホスホン酸を使用した実施例1では、メッキ浴の安定性は良好であり、もってインジウム皮膜の膜厚は1.1μmで、メッキ皮膜は均一で美麗な白色外観を呈した。
この場合、実施例2~18の各メッキ浴の安定性は、全て実施例1と同様に〇の評価であった。
次いで、実施例2~7は実施例1を基本としたもので、実施例2~3は可溶性インジウム塩(A)を変え、実施例4~6は酸成分(B)を変え、実施例7は還元剤(C)の種類を変えたものであるが、実施例1と同じく、メッキ皮膜は均一で美麗な白色外観であった。
また、実施例8~9も実施例1を基本としたもので、実施例8~9は錯化剤(D)の種類を変えたものであり、特に、実施例8は実施例1と同様の膜厚を得ることができた。
実施例10~12は夫々実施例2~4を基本として錯化剤の種類を変えた例であるが、特に実施例12では良好な膜厚を形成できた。尚、実施例2と、これを基本とした実施例10を対比すると、錯化剤にニトリロトリメチレンホスホン酸を選択した場合、他のホスホン酸類を用いるより、膜厚の点で優位性があることが分かる。
また、実施例16と実施例18は実施例1を基本として、ホスホン酸系化合物の含有量を変化させたものであり、膜厚は実施例1より低減するが、実用域にあることが分かる。
錯化剤(D)をホスホン酸系からリン酸系化合物に変えた実施例13~15、17を見ると、ホスホン酸系化合物を用いた場合の方が、形成されるインジウム皮膜の膜厚の点で有利であることが分かる。
【0067】
実施例1~18では、実施例11を除いて、本発明の所定のリン含有化合物(D)は上記特に好ましい範囲(「優良域」;0.07~0.16モル/L)に全て含まれるが、実施例15はリン酸系化合物であるメタリン酸の含有量が優良域の上限付近(0.15モル/L)の例、実施例16はホスホン酸系化合物の含有量が優良域の中央付近(0.10モル/L)の例、実施例17はリン酸系化合物に属するオルトリン酸の含有量が優良域の中央付近の例、実施例18はホスホン酸系化合物の含有量が優良域の下限付近(0.08モル/L)の例である。これら実施例15~18については、リン酸系化合物及びホスホン酸系化合物共に、この優良域内で中央付近、或いは下限付近を問わず、実用的なインジウム皮膜が得られた。
また、メッキ浴の性状も、前述の通り、上記実施例15~18では実施例1~14と同じく優れた安定性を示した。
特に、実施例18に示すように、本発明の所定のリン含有化合物(D)を当該優良域の下限に設定しても、実用的な皮膜の形成性と浴の安定性を両立できることが判断できる。
ちなみに、実施例11はホスホン酸系化合物を併用した例(ホスホノブタントリカルボン酸とエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)で、その含有量の合計は0.20モル/Lであって、本発明の所定のリン含有化合物の含有量のうち、上記優良域(0.07~0.16モル/L)の上限を越えるが、前述した通り、所定のリン含有化合物(D)のより好ましい範囲内(0.07~2.0モル/L)に収まっている。
【要約】
【課題】 還元剤を用いる無電解インジウムメッキ浴において、メッキ浴の安定性を向上し、均一で白色の美麗なインジウム皮膜を形成する。
【解決手段】(A)可溶性インジウム塩と、(B)酸又はその塩と、(C)還元剤からなる3価チタン化合物と、(D)リン酸系化合物及びホスホン酸系化合物より選ばれたリン含有化合物からなる錯化剤の少なくとも一種とを含有する還元型無電解インジウムメッキ浴である。3価チタン化合物を還元剤とし、 所定のホスホン酸系及びリン酸系の化合物から選ばれたリン含有化合物を錯化剤に用いるため、 メッキ浴の安定性に優れ、且つ、均一で白色の美麗なインジウム皮膜が得られる。
【選択図】 なし