(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】作業機械の油圧制御回路
(51)【国際特許分類】
F15B 11/00 20060101AFI20221102BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
F15B11/00 P
F15B11/00 H
E02F9/20 Q
(21)【出願番号】P 2019026298
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(74)【代理人】
【識別番号】100206106
【氏名又は名称】廣瀬 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀樹
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-009204(JP,A)
【文献】特開平09-105402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプを油圧供給源として駆動する油圧アクチュエータと、操作具操作に基づいて油圧アクチュエータに対する油給排制御を行うコントロールバルブと、油圧ポンプの吐出ラインから分岐形成されて油タンクに至るバイパス油路と、該
バイパス油路の流量を制御するべく開口面積可変なバイパス弁と、前記油圧ポンプの容量可変手段およびバイパス弁を制御するコントローラとを備えてなる油圧制御回路において、
前記コントローラは、
操作具の非操作時には、ポンプ流量を一定に保持し、かつ、ポンプ圧が設定圧に保持されるようにバイパス弁の開口面積をクローズドループ制御する一方、
操作具の操作時には、該操作具の操作量に応じてポンプ流量を増加させ、かつ、操作具操作量に応じて
バイパス弁の開口面積を減少させるオープンループ制御を行うとともに、
前記オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁の開口面積との対応関係を、クローズドループ制御時のバイパス弁の開口面積に基づいて補正する補正手段を具備することを特徴とする作業機械の油圧制御回路。
【請求項2】
請求項1において、補正手段は、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時においてバイパス弁の開口面積が不連続にならないようにオープンループ制御開始時のバイパス弁の開口面積を制御することを特徴とする作業機械の油圧制御回路。
【請求項3】
請求項1または2において、補正手段は、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁の開口面積との対応関係を示す標準マップを備えるとともに、該標準マップをクローズドループ制御時のバイパス弁の開口面積に基づいて補正することを特徴とする作業機械の油圧制御回路。
【請求項4】
請求項1または2において、補正手段は、クローズドループ制御時のポンプ流量とポンプ圧とバイパス弁の開口面積との関係を求め、該関係に基づいてオープンループ制御時の操作具操作量に対応するバイパス弁の開口面積を補正することを特徴とする作業機械の油圧制御回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の油圧制御回路の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば油圧ショベルのような作業機械に設けられる油圧制御回路のなかには、可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプを油圧供給源として駆動する油圧アクチュエータと、操作具操作に基づいて油圧アクチュエータに対する油給排制御を行うコントロールバルブとを備えたものがある。このような油圧制御回路において、燃費向上や作業効率向上を図るためには、油圧ポンプの流量や圧力を適切に制御することが要求され、そこで従来、油圧ポンプの吐出ラインから分岐形成されて油タンクに至るバイパス油路と、該バイパス油路の流量を制御するべく開口面積可変なバイパス弁と、前記油圧ポンプの容量可変手段およびバイパス弁を制御するコントローラとを設けた技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
前記特許文献1のものは、操作具の非操作時(スタンバイ状態)には、ポンプ流量を最小に制御するとともにバイパス弁の開口面積を予め設定された設定値まで絞る位置に制御する一方、操作具の操作時には、ポンプ流量を操作量の増加に応じて増加させるとともにバイパス弁の開口面積を前記設定値から操作量に応じて減少させる位置に制御する構成となっている。このように構成することにより、操作具の非操作時には燃費向上が図れるとともに操作開始時の応答性向上が図れ、また、操作具の操作時においては、操作量に応じたポンプ流量およびポンプ圧を確保できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1のものでは、操作具の非操作時において、前述したように、バイパス弁の開口面積を設定値まで絞っており、これによりポンプ圧を一定以上にして操作開始時の応答性向上を図っているが、この場合、ポンプ圧を安定させて更なる燃費向上を図るためには、ポンプ圧の検出値をバイパス弁の開口面積制御にフィードバックさせてポンプ圧を一定に保持する制御、つまり、ポンプ圧を設定圧に保持するクローズドループ制御を行う方が望ましい。一方、操作具の操作時には、油圧アクチュエータの状況によってポンプ圧が変動するため、バイパス弁の開口面積制御にポンプ圧の検出値をフィードバックするクローズドループ制御は適さない。
そこで、操作具の非操作時にはポンプ圧を設定圧に保持するクローズドループ制御を行う一方、操作具の操作時には操作具操作量に応じてバイパス弁の開口面積を制御するオープンループ制御を行うことが提唱される。
しかるに、操作具の非操作時にクローズドループ制御を行う場合、ポンプ圧を設定圧にするためのバイパス弁の開口面積は、作動油温度や油圧機器の個体差等の条件により都度異なる値となる。このため、操作具が操作されてオープンループ制御を開始する場合に、操作具操作量に対するバイパス弁の開口面積が予め設定されていると、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時に、クローズドループ制御時のバイパス弁の開口面積とオープンループ制御開始時のバイパス弁の開口面積とのあいだに差異が生じて不連続となることがあって、該不連続点においてポンプ圧が急に変動して操作性を悪化させるという問題がある。さらに、オープンループ制御におけるバイパス弁の開口面積が操作具操作量に対応して予め設定されている場合、該設定値には作動油温度や油圧機器の個体差等の都度の条件が反映されないため、これら都度の条件を考慮したバイパス弁の開口面積によるポンプ圧の制御を行えないという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプを油圧供給源として駆動する油圧アクチュエータと、操作具操作に基づいて油圧アクチュエータに対する油給排制御を行うコントロールバルブと、油圧ポンプの吐出ラインから分岐形成されて油タンクに至るバイパス油路と、該バイパス油路の流量を制御するべく開口面積可変なバイパス弁と、前記油圧ポンプの容量可変手段およびバイパス弁を制御するコントローラとを備えてなる油圧制御回路において、前記コントローラは、操作具の非操作時には、ポンプ流量を一定に保持し、かつ、ポンプ圧が設定圧に保持されるようにバイパス弁の開口面積をクローズドループ制御する一方、操作具の操作時には、該操作具の操作量に応じてポンプ流量を増加させ、かつ、操作具操作量に応じてバイパス弁の開口面積を減少させるオープンループ制御を行うとともに、前記オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁の開口面積との対応関係を、クローズドループ制御時のバイパス弁の開口面積に基づいて補正する補正手段を具備することを特徴とする作業機械の油圧制御回路である。
請求項2の発明は、請求項1において、補正手段は、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時においてバイパス弁の開口面積が不連続にならないようにオープンループ制御開始時のバイパス弁の開口面積を制御することを特徴とする作業機械の油圧制御回路である。
請求項3の発明は、請求項1または2において、補正手段は、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁の開口面積との対応関係を示す標準マップを備えるとともに、該標準マップをクローズドループ制御時のバイパス弁の開口面積に基づいて補正することを特徴とする作業機械の油圧制御回路である。
請求項4の発明は、請求項1または2において、補正手段は、クローズドループ制御時のポンプ流量とポンプ圧とバイパス弁の開口面積との関係を求め、該関係に基づいてオープンループ制御時の操作具操作量に対応するバイパス弁の開口面積を補正することを特徴とする作業機械の油圧制御回路である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行をスムーズに行うことができるとともに、オープンループ制御におけるバイパス弁の開口面積制御を、クローズドループ制御と同じく作動油温度や油圧機器の個体差等の都度の条件を加味した制御とすることができ、よって、バイパス弁の開口面積によるポンプ圧制御を、都度の条件に左右されない精度の高い制御とすることができる。
請求項2の発明とすることにより、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時にバイパス弁の開口面積が不連続となることに起因するポンプ圧の変動をなくすことができて、操作性向上に貢献できる。
請求項3または4の発明とすることにより、オープンループ制御におけるバイパス弁の開口面積制御を、クローズドループ制御と同じく都度の条件を加味した制御とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】コントローラの入出力を示すブロック図である。
【
図3】操作具操作量とポンプ流量、コントロールバルブの供給用弁路の開口面積、バイパス弁の開口面積、ポンプ圧との関係を示す図である。
【
図4】オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁の開口面積との対応関係が予め設定されている場合の、操作具操作量とバイパス弁の開口面積、ポンプ圧との関係を示す図である。
【
図5】補正例1における操作具操作量とバイパス弁の開口面積、ポンプ圧との関係を示す図である。
【
図6】(A)は補正例2における操作具操作量とポンプ圧との関係を示すマップ、(B)は補正例2の制御手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、油圧ショベル等の作業機械に設けられる油圧制御回路を示す図であって、該
図1において、1は作業機械に搭載されるエンジン、2は該エンジン1により駆動される容量可変型の油圧ポンプ、2aは後述するコントローラ9からの制御信号に基づいて油圧ポンプ2の容量を可変せしめるポンプ容量可変手段(油圧ポンプ2の容量可変手段)、3は油圧ポンプ2の吐出ライン、4は油タンク、5は油圧ポンプ2を油圧供給源として駆動する複数の油圧アクチュエータ、6は対応する操作具7の操作に基づいて各油圧アクチュエータ5に対する油給排制御をそれぞれ行うコントロールバルブである。尚、
図1には複数の油圧アクチュエータとして3つの油圧アクチュエータ5を図示したが、これに限定されないことは勿論であって、例えば油圧ショベルでは、左右の走行用モータ、旋回用モータ、ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダ等の多くの油圧アクチュエータが設けられる。
【0009】
前記コントロールバルブ6は、パイロットポート6a、6bを備えたスプール弁であって、これらパイロットポート6a、6bにパイロット圧が入力されていない場合には、油圧アクチュエータ5に対する油給排制御を行わない中立位置Nに位置しているが、パイロットポート6a、6bにパイロット圧が入力されることにより該パイロット圧に応じた変位方向およぴ変位量で作動位置XまたはYに変位して、油圧ポンプ2の吐出油を油圧アクチュエータ5に供給する供給用弁路6cを開き、これにより油圧ポンプ2の吐出油を方向制御および流量制御された状態で油圧アクチュエータ5に供給するようになっている。
【0010】
また、8a、8bは前記コントロールバルブ6のパイロットポート6a、6bにパイロット圧を出力する電磁比例式のパイロット弁であって、該パイロット弁8a、8bは、コントローラ9から出力される制御信号に基づいて、操作具7の操作量に対応するパイロット圧を出力する。そして、該パイロット弁8a、8bから出力されるパイロット圧に応じた変位方向およぴ変位量でコントロールバルブ6が変位することで、操作具7の操作に対応した油圧アクチュエータ5への油給排制御が行われるようになっている。尚、前記パイロット弁8a、8bは、各コントロールバルブ6用のものがそれぞれ設けられるが、
図1では、1つのコントロールバルブ6(右端のコントロールバルブ6)にパイロット圧を出力するパイロット弁8a、8bのみを図示し、他のコントロールバルブ6用のパイロット弁は省略してある。
【0011】
さらに、10は前記油圧ポンプ2の吐出ライン3から分岐形成されて油タンク4に至るバイパス油路であって、該バイパス油路10には、バイパス油路10の流量を制御するバイパス弁11が配設されている。該バイパス弁11は、前記コントローラ9からの制御信号に基づいて、バイパス油路11を全開する全開位置からバイパス油路を全閉する全閉位置まで開口面積が可変制御されるように構成されている。
【0012】
また、12は油圧ポンプ2の吐出ライン3に接続されるパイロット圧源用減圧弁であって、該パイロット圧源用減圧弁12は、油圧ポンプ2の吐出圧を所定圧まで減圧してパイロット圧供給油路13に出力する。該パイロット圧供給油路13は、前記パイロット弁8a、8bおよびバイパス弁11のパイロット圧供給源となる油路であって、該パイロット圧供給油路13には、パイロット圧供給油路13を所定圧に保持するためのアキュムレート14が接続されている。勿論、パイロット圧供給源としては、一般的なパイロットポンプを用いた回路でも構成可能である。
【0013】
一方、前記コントローラ9は、
図2のブロック図に示す如く、入力側に、各操作具7の操作方向および操作量を検出する操作検出手段15、油圧ポンプ2の吐出圧を検出する圧力センサ16等が接続される一方、出力側に、前記バイパス弁11、ポンプ容量可変手段2a、各コントロールバルブ用のパイロット弁8a、8b等が接続されている。そしてコントローラ9は、入力信号に基づいてバイパス弁11やポンプ容量可変手段2aに制御信号を出力して油圧ポンプ2の流量や圧力を制御するポンプ制御や、パイロット弁8a、8bに制御信号を出力して油圧アクチュエータ5の作動を制御する油圧アクチュエータ制御等の各種制御を行うように構成されている。
【0014】
次いで、前記コントローラ9の行うポンプ制御について、
図3に基づいて説明する。
まず、コントローラ9は、操作検出手段15からの検出信号に基づいて、操作具7の非操作、操作を判断する。そして、操作具7が非操作であると判断された場合、コントローラ9は、ポンプ容量可変手段2aに対し、油圧ポンプ2の流量を最小流量にするように制御指令を出力するとともに、バイパス弁11に対し、圧力センサ16の検出値をフィードバックして油圧ポンプ2の吐出圧を予め設定される設定圧に保持するべく開口面積を可変せしめるように制御信号を出力する。これにより、操作具7の非操作時には、ポンプ流量が最小流量に保持されるとともに、ポンプ圧が設定圧に保持されるようバイパス弁11の開口面積が制御されるクローズドループ制御が行われることになって、低燃費化を達成できるとともに、吐出ライン3の圧力が設定圧に保持されているため操作具7の操作開始時の応答性向上を達成できる。
【0015】
尚、本実施の形態において、前記操作具7の非操作、操作を判断するにあたり、コントローラ9は、操作具7が実際に操作されていない場合(
図3に示す操作具操作量「0」)だけでなく、操作具7の不感帯D内での操作も含めて、操作具7の非操作と判断する一方、不感帯Dを超えての操作具7の操作を、操作具7の操作と判断する。この場合の操作具7の不感帯Dとは、操作具7が操作されてもコントロールバルブ6が中立位置N付近に位置していて供給用弁路6cが閉じている状態の操作具7の操作範囲であって、
図3に示す如く、不感帯Dを超えての操作具7の操作で、コントロールバルブ6の供給用弁路6cが開いて油圧アクチュエータ5への圧油供給が開始されるとともに、操作具7の操作量増加に応じて供給用弁路6cの開口面積が大きくなって、油圧アクチュエータ5への圧油供給量が増加するようになっている。
【0016】
一方、操作具7が操作(前述したように、不感帯Dを超えての操作)されたと判断されると、コントローラ9は、ポンプ容量可変手段2aに対し、操作具7の操作量(操作具操作量)に対応したポンプ流量にするように、つまり、操作具7の操作量増加に応じてポンプ流量を増加させるように制御指令を出力するとともに、バイパス弁11に対し、操作量7の操作量増加に応じてバイパス弁11の開口面積を減少させるオープンループ制御を行うように制御指令を出力する。これにより、操作具7の操作量増加に応じてポンプ流量が増加するとともに、バイパス弁11の開口面積が減少することでポンプ圧が増加し、これにより操作具7の操作量増加に伴う油圧アクチュエータ5への圧油供給量増加に対応して、ポンプ流量およびポンプ圧力を増加させることができて、作業効率向上を達成できる。
【0017】
さらに前記コントローラ9は、前記オープンループ制御においてバイパス弁11に制御信号を出力するにあたり、操作具7の操作量とバイパス弁11の開口面積との対応関係を、クローズドループ制御時のバイパス弁11の開口面積に基づいて補正する補正手段17を具備しており、オープンループ制御時には該補正手段17による補正がなされた状態でバイパス弁11に制御信号が出力される。
【0018】
つまり、クローズドループ制御では、バイパス弁11の開口面積は油圧ポンプ2の吐出圧を設定圧に保持するように可変制御されるため、作動油の温度や油圧機器の個体差等によりバイパス弁11の開口面積は都度異なる値となる。一方、オープンループ制御時には操作具7の操作量に応じてバイパス弁の開口面積が決まることになるが、この場合に、オープンループ制御時のバイパス弁11の開口面積が操作具操作量に対して予め設定された設定値であると、
図4に示す如く、クローズドループ制御時の実際のバイパス弁11の開口面積(実際値)とオープンループ制御開始時のバイパス弁11の開口面積とのあいだに差異が生じて不連続となる場合がある。このようにバイパス弁11の開口面積が不連続となると、該不連続点においてポンプ圧が急に変動して操作性を悪化させる要因となる。また、オープンループ制御において操作具操作量に対応するバイパス弁11の開口面積が、そのときの作動油の温度や油圧機器の個体差等の条件には関係なく予め設定された設定値であると、都度の条件を考慮したバイパス弁11の開口面積制御を行えないことになる。そこで、前記補正手段17によって、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との対応関係を、クローズドループ制御時のバイパス弁11の開口面積に基づいて補正し、これによりクローズドループ制御からオープンループ制御への移行時におけるバイパス弁11の開口面積の不連続の発生を回避できるようにするとともに、オープンループ制御において都度の条件を加味したバイパス弁11の開口面積制御を行えるようになっている。
【0019】
次いで、前記補正手段17が行う補正について説明するが、該補正は、オープンループ制御における操作具7の操作量とバイパス弁11の開口面積との関係の設定の仕方によって異なるため、補正例1として、操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との関係が一義的な関係として設定されている場合の補正を説明し、また補正例2として、操作具操作量に応じて設定されたポンプ圧となるように操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との関係が設定される場合の補正を説明する。
【0020】
まず、補正例1について
図5に基づいて説明すると、該補正例1は、オープンループ制御において、操作具操作量とバイパス弁11の開口面積(以降、該バイパス弁11の開口面積をバイパス開口とも称する)との関係が一義的な関係として設定される場合であって、具体的には、クローズドループ制御時においてポンプ圧を設定圧に保持するためのバイパス開口の標準値Asが予め設定されているとともに、該標準値Asをオープンループ制御開始時のバイパス開口の初期値として、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス開口との関係、つまり、操作具操作量の増加に応じてバイパス開口が減少する関係が予め標準マップMAsとして設定されている。このような標準マップMAsが設定されている場合の補正は、クローズドループ制御においてポンプ圧を設定圧に保持するためのバイパス弁の開口面積の実際値Anと前記標準値Asとの比R(R=An/As)を求め、該比Rを標準マップMAsの値に乗じて補正マップMAnの値(MAn=C×MAs)とする。そして、オープンループ制御には、このようにして作成された補正マップMAnを用いて、操作具操作量に対応した開口面積となるようにバイパス弁11を制御する。これにより、オープンループ制御開始時の
バイパス弁11の開口面積はクローズドループ制御時の
バイパス弁11の開口面積と同等となって、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時におけるバイパス開口の不連続の発生を回避できるとともに、オープンループ制御においてもクローズドループ制御と同じように都度の条件に対応したバイパス弁11の開口面積制御を行える。
【0021】
次に、補正例2について説明すると、該補正例2は、オープンループ制御における操作具操作量とポンプ圧との対応関係が予めマップMPs(
図6(A)参照)として設定されているとともに、該マップMPsとポンプ流量とに基づいて
バイパス弁11の開口面積を制御するように設定されている場合であって、このように設定されている場合に、オープンループ制御において操作具操作量に対応するバイパス弁11の開口面積を補正するには、
図6(A)のフローチャード図に示す如く、まず、操作具操作量とポンプ圧との関係を示す前記マップMPsを用いて、操作検出手段15から入力される操作具操作量に対応するポンプ圧Ppを求める(ステップS1)。
次いで、クローズドループ制御時のポンプ流量(本実施の形態では、最小ポンプ流量)Qminとポンプ圧(設定圧)Psとバイパス開口の実際値Anとを下記の式(1)に入力して、後述する式(2)で用いる係数Crを求める(ステップS2)。
Qmin=Cr×An×(Ps)
1/2 ・・・(1)
上記式(1)を用いて求められた係数Crは、クローズドループ制御における実際の値を用いて計算されたものであって、作動油の密度の変化も含む変数として求められる。
次いで、前記ステップS1で求めた操作具操作量に対応するポンプ圧Ppと、前記ステップS2で求めた係数Crと、操作具操作量に対応するポンプ流量Qとを下記の式(2)に入力して、オープンループ制御時における操作具操作量に対応するバイパス弁11の開口面積Aを求める(ステップS3)。
Q=Cr×A×(Pp)
1/2 ・・・(2)
そして、上記式(2)を用いて求めた開口面積となるようにバイパス弁11に制御信号を出力する(ステップS4)。
これにより、オープンループ制御時のバイパス開口は、クローズドループ制御時の条件下(クローズドループ制御時のポンプ流量(最小流量)とポンプ圧(設定圧)とバイパス開口の実際値)で補正された値となって、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時におけるバイパス開口の不連続の発生を回避できるとともに、オープンループ制御においてもクローズドループ制御時と同じように都度の条件に応じたバイパス弁11の開口面積制御を行える。
尚、前記式(1)、(2)におけるポンプ流量Qmin、Qの値は、コントローラ9からポンプ容量可変手段2aに制御信号を出力するときに用いるポンプ流量値である。また、式(1)、(2)におけるポンプ圧Ppは、タンク圧を略ゼロ(≒0)とみなして、バイパス弁11の前後の差圧ΔPの値として用いられている(Pp≒ΔP)。
【0022】
ところで、作業機械の油圧制御回路には、図示しないが、油圧ロック手段が設けられている。油圧ロック手段は、該油圧ロック手段を解除しないかぎり、操作具7が操作されても油圧アクチュエータ5への圧油供給が行われない(油圧アクチュエータ5が作動しない)油圧ロック状態にするためのものであって、例えば、運転室に配設される油圧ロックレバー(図示せず)と、該油圧ロックレバーの操作に基づいて前記パイロット圧供給油路13をアンロード状態にするアンロード弁(図示せず)等を用いて構成される。そして、前記油圧ロック手段が解除されていない場合、つまり、操作具7が操作されても油圧アクチュエータ5が作動しない油圧ロック状態では、コントローラ9は、ポンプ容量可変手段2aに対し、油圧ポンプ2の流量を最小流量にするように制御指令を出力するとともに、バイパス弁11に対し、バイパス油路10を全開する全開位置に位置するよう制御信号を出力する。これにより、ポンプ流量が最小流量に保持されるとともに、油圧ポンプ2の吐出油を油タンク4に流すバイパス油路10が全開しているためポンプ吐出圧が低下して、油圧ロック状態における低燃費化を達成できることになる。尚、本発明における操作具の操作、非操作は、油圧ロック状態での操作具7の操作、非操作は含まない。
【0023】
叙述の如く構成された本実施の形態において、作業機械の油圧制御回路は、可変容量型の油圧ポンプ2と、該油圧ポンプ2を油圧供給源として駆動する油圧アクチュエータ5と、操作具7の操作に基づいて油圧アクチュエータ5に対する油給排制御を行うコントロールバルブ6と、油圧ポンプ2の吐出ライン3から分岐形成されて油タンク4に至るバイパス油路10と、該バイパス油路10の流量を制御するべく開口面積可変なバイパス弁11と、前記油圧ポンプ2の容量可変手段2aおよびバイパス弁11を制御するコントローラ9とを備えているとともに、該コントローラ9は、操作具7の非操作時(操作具7の不感帯D内での操作を含む)には、ポンプ流量を一定(最小流量)に保持し、かつ、ポンプ圧が設定圧に保持されるようにバイパス11弁の開口面積をクローズドループ制御する一方、操作具7の操作時(操作具7の不感帯Dを超えての操作)には、該操作具7の操作量に応じてポンプ流量を増加させ、かつ、操作具操作量に応じてバイパス弁の開口面積を減少させるオープンループ制御を行うことになり、これにより、操作具7の非操作時にはポンプ圧が安定した状態で設定圧に保持されて低燃費化を図れる一方、操作具7の操作時には、操作具操作量に応じてポンプ流量およびポンプ圧が増加して作業効率向上を図れることになるが、さらにこのものにおいて、コントローラ9には、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との対応関係を、クローズドループ制御時のバイパス弁11の開口面積に基づいて補正する補正手段17が具備されていることになる。
【0024】
このように、本実施の形態にあっては、油圧ポンプ2の吐出ライン3から分岐形成されて油タンク4に至るバイパス油路10の流量制御を行うバイパス弁11の開口面積を、操作具7の非操作時にはポンプ圧が設定圧に保持されるようクローズドループ制御する一方、操作具7の操作時には操作具操作量に対応して開口面積が増加するようにオープンループ制御し、これにより低燃費化と作業効率向上とを達成できるようにしたものでありながら、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との対応関係は、補正手段17によって、クローズドループ制御時のバイパス弁11の開口面積に基づいて補正されることになる。この結果、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行をスムーズに行うことができるとともに、オープンループ制御におけるバイパス弁11の開口面積制御を、クローズドループ制御時と同じ条件、つまり、作動油温度や油圧機器の個体差等の都度の条件を加味した制御とすることができ、よって、バイパス弁11の開口面積によるポンプ圧制御を、都度の条件に左右されない精度の高い制御とすることができる。
【0025】
このものにおいて、前記補正手段17は、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時においてバイパス弁11の開口面積が不連続にならないようにオープンループ制御開始時のバイパス弁11の開口面積を制御するように構成されている。これにより、クローズドループ制御からオープンループ制御への移行時にバイパス弁11の開口面積が不連続となることに起因するポンプ圧の変動をなくすことができて、操作性向上に貢献できる。
【0026】
さらにこのものにおいて、前記補正手段17によってオープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との対応関係を補正するにあたり、補正手段17は、オープンループ制御における操作具操作量とバイパス弁11の開口面積との対応関係を示す標準マップMAsを備えるとともに、該標準マップMAsをクローズドループ制御時のバイパス弁11の開口面積に基づいて補正する構成とすることにより、オープンループ制御におけるバイパス弁11の開口面積制御を、クローズドループ制御と同じく都度の条件を加味した制御とすることができる。
【0027】
また、補正手段17によって、クローズドループ制御時のポンプ流量とポンプ圧とバイパス弁の開口面積との関係を求め、該関係に基づいてオープンループ制御時の操作具操作量に対応するバイパス弁の開口面積を補正する構成にすることもでき、このように構成しても、オープンループ制御におけるバイパス弁11の開口面積制御を、クローズドループ制御と同じく都度の条件を加味した制御とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の油圧制御回路に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
2 油圧ポンプ
2a ポンプ容量可変手段
3 吐出ライン
4 油タンク
5 油圧アクチュエータ
6 コントロールバルブ
7 操作具
9 コントローラ
10 バイパス油路
11 バイパス弁
17 補正手段