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特許7169053ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20221102BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20221102BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
D03D15/267
C08J5/24
H05K1/03 610T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017139769
(22)【出願日】2017-07-19
(65)【公開番号】P2019019431
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】立花 信一郎
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-126917(JP,A)
【文献】特開2017-036527(JP,A)
【文献】特許第6020764(JP,B1)
【文献】特開2017-043873(JP,A)
【文献】国際公開第2011/034055(WO,A1)
【文献】特開2009-144255(JP,A)
【文献】特開2016-084567(JP,A)
【文献】特開2005-213656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
B29B11/16-15/14
C08J5/04-5/24
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、
経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであり、
前記ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である、
ガラスクロス。
【請求項2】
通気度の最大値が、250cm3/cm2/秒以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
経糸及び緯糸の糸幅の開繊度が、各々独立して90%以上である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
経糸及び緯糸の最小の糸幅が、各々独立して100μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項5】
バスケットホールの最大の横幅が、120μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項6】
複数種のシランカップリング剤でガラス糸の表面が処理された、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂とを含む、プリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のプリプレグを有する、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子機器の高機能化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密度化、薄型化が著しく進行している。
このプリント配線板の絶縁材料としては、ガラスクロスをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。特に、最先端のスマートフォンやウェアラブル機器では、プリント配線板は小型化され、構成材料であるガラスクロスには、高品質化、高性能化、極薄化が求められている。
【0003】
ガラスクロスを構成するガラスフィラメントの直径は、安全性及び環境負荷軽減の観点から、一般的に、最小径3μm以上に設計されている。そのため、ガラスクロスメーカー各社は様々な加工を施し、ガラスクロスの極薄化を具体化させている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4446754号公報
【文献】特許第5905150号公報
【文献】特許第6020764号公報
【文献】特許第5936726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、今後の極薄のプリント配線板において、十分な品質、性能を達成する観点から、なお改善の余地があった。具体的には、プリント配線板の絶縁層を薄くするため、厚さが13μm以下のガラスクロスを用い、かつ、RC(ガラスクロスを含む基板の質量(g/m2)に対する樹脂の質量(g/m2)の質量割合)を65質量%以下にした場合、プリプレグを作製する際に、一定頻度でピンホールが発生し、また、高温での実装時に、デラミネーションが発生する課題がある。
【0006】
実際に、特許文献2に開示されたガラスクロスでは、RCを69質量%以下にした場合にピンホールが発生するという課題がある。
【0007】
また、特許文献4に開示されたガラスクロスでは、経糸と緯糸に異なる太さのガラス繊維が用いられているため、高温での実装時に異方性を生じやすいという課題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高品質であり、デラミネーションが発生しにくい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することができるガラスクロス、該ガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討した結果、所定のガラスクロスが上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]
複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスであって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、95~130本/inchであり、
経糸及び緯糸の平均フィラメント径、フィラメントの数、打ち込み密度が同じであり、
前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであり、
前記ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である、
ガラスクロス。
[2]
通気度の最大値が、250cm3/cm2/秒以下である、[1]に記載のガラスクロス。
[3]
経糸及び緯糸の糸幅の開繊度が、各々独立して90%以上である、[1]又は[2]に記載のガラスクロス。
[4]
経糸及び緯糸の最小の糸幅が、各々独立して100μm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のガラスクロス。
[5]
バスケットホールの最大の横幅が、120μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のガラスクロス。
[6]
複数種のシランカップリング剤でガラス糸の表面が処理された、[1]~[5]のいずれかに記載のガラスクロス。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載のガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂とを含む、プリプレグ。
[8]
[7]に記載のプリプレグを有する、プリント配線板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高品質であり、デラミネーションが発生しにくい基板を作製することができるガラスクロス、該ガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
〔ガラスクロス〕
本実施形態のガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として製織してなるガラスクロスである。
また、本実施形態のガラスクロスは、前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの数が、20~50本であり、ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/inchであり、前記ガラスクロスの厚さが、7~13μmであり、前記ガラスクロスの任意の位置に存在するバスケットホールの最大面積が、50,000μm2以下である。
【0014】
バスケットホールの最大面積が50,000μm2以下の場合、ガラスクロスに樹脂を含浸させてプリプレグを作製する際、ピンホールが著しく発生しにくくなる。バスケットホールの最大面積は、好ましくは45,000μm2以下であり、より好ましくは40,000μm2以下である。
また、バスケットホールの最小面積は、好ましくは3,000μm2以上であり、より好ましくは4,000μm2以上であり、さらに好ましくは5,000μm2以上である。バスケットホールの最小面積が3,000μm2以上であることにより、デラミネーションが発生しにくい傾向にある。
【0015】
さらに、バスケットホールの平均面積は、好ましくは、5,000μm2以上、20,000μm2以下であり、より好ましくは、6,000μm2以上、19,000m2以下であり、さらに好ましくは、7,000μm2以上、18,000m2以下である。バスケットホールの平均面積が5,000μm2以上、20,000μm2以下であることにより、ピンホールが発生しにくく、かつ、デラミネーションが発生しにくい傾向にある。
【0016】
本実施形態におけるバスケットホールとは、経糸と緯糸に挟まれた隙間を指すものであり、ピンホールとは、バスケットホール部分に樹脂が埋まらずに生じた空隙欠陥を指すものである。
通常、バスケットホールの平均面積を小さくすると、ピンホールは生じにくくなるが、樹脂の塗布量が小さくなり、高温実装時のデラミネーションが生じ易くなる。本発明では、バスケットホールの平均面積の大小よりも、バスケットホールの最大面積が、プリプレグのピンホール品質と基板のデラミネーション発生の抑制に対し、最も重要であることを見出した。ここでいうバスケットホールの最大面積とは、ガラスクロスロールを引き出し、任意の位置から100mm×100mmを切り出し、走査型電子顕微鏡でガラスクロスの表面を観察し、全てのバスケットホールの面積を測定し、その中で最大であったバスケットホールの面積を指す。
【0017】
バスケットホールの平均面積を一定に保ちながら、バスケットホールの最大面積を下げる方法としては、例えば、整経、製織、脱糊、処理、及び開繊の工程において、張力と加工条件とを管理する方法が挙げられる。
張力と加工条件とを管理する方法として、具体的には、ガラスクロスを構成する全ての経糸の張力をモニタリングし、張力が管理値から外れる経糸を除去する方法、整経時の糊付着量、製織時の回転数、脱糊時の昇温速度、開繊工程の水圧を一定にする方法等が挙げられる。
【0018】
経糸の張力を一定範囲にすることで、経糸の集束状態を制御でき、糸幅を一定に保つことができる。また、整経時の糊付着量を一定にすることで、開繊工程での開繊効果を制御でき、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができる。また、製織時の回転数を一定にすることで、緯糸の張力を制御でき、開繊工程での開繊効果を制御でき、緯糸の糸幅を一定に保つことができる。また、脱糊時の昇温速度を一定の範囲にすることで、脱糊工程後の残留糊量を制御でき、開繊工程での開繊効果を制御でき、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができる。また、開繊工程の水圧を一定にすることで、開繊効果を制御でき、経糸及び緯糸の糸幅を一定に保つことができる。
これらの張力と加工条件を管理することで、バスケットホールの平均面積を一定に保ちながら、バスケットホールの最大面積を下げることができる。
【0019】
本実施形態における、ガラスクロスの通気度の最大値は、250cm3/cm2/秒以下であることが好ましい。通気度の最大値が、250cm3/cm2/秒以下であることにより、プリプレグのピンホール品質を大きく改善することができる。通気度の最大値は、より好ましくは240cm3/cm2/秒以下であり、さらに好ましくは230cm3/cm2/秒以下である。
また、通気度の最小値は、好ましくは50cm3/cm2/秒以上であり、より好ましくは60cm3/cm2/秒以上であり、さらに好ましくは70cm3/cm2/秒以上である。通気度の最小値が、50cm3/cm2/秒以上であることにより、デラミネーションの発生を抑制できる傾向にある。
【0020】
本実施形態における通気度とは、JIS R 3420に記載されている方法に従って測定することができる通気度である。
具体的には、試験用機械器具としては、フランジール形試験機の手動形または自動形の試験機を用いる。円筒の一端にガラスクロス試験片を置き、クランプで押さえて取付ける。手動形の場合は、加減抵抗器によって傾斜形油気圧計が124.5Paの圧力を示すように空気を吸い込み、吸込みファンを調整するときの垂直形油気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験片を通過する空気量cm3/cm2/秒を求める。
同測定法をガラスクロスの幅方向で3点測定し、通気度の最大値、最小値を求める。
通気度を調整する方法としては、例えば、整経、製織、脱糊、処理、及び開繊の工程において、張力と加工条件とを管理する方法が挙げられる。
【0021】
本実施形態における、ガラスクロスの経糸及び緯糸の糸幅の開繊度は、各々独立して90%以上が好ましい。経糸と緯糸の開繊度が90%以上であることにより、ピンホール品質とデラミネーションの発生を改善でき、かつ基板の剛性を高めることができる。経糸と緯糸の開繊度は、より好ましくは91%以上であり、さらに好ましくは92%以上である。
また、経糸と緯糸の開繊度の上限は、好ましくは120%以下であり、より好ましくは115%以下であり、さらに好ましくは110%以下である。経糸と緯糸の開繊度の上限が120%以下であることにより、バスケットホールの面積を一定にでき、ピンホール品質を改善できる傾向にある。
【0022】
本実施形態における開繊度[%]とは、次式のとおり、糸幅[μm]、フィラメント径[μm]、フィラメント数[本]により算出される値である。
開繊度[%]=糸幅[μm]÷(フィラメント径[μm]×フィラメント数[本])×100
【0023】
開繊度を調整する方法としては、例えば、整経、製織、脱糊、処理、及び開繊の工程において、張力と加工条件とを管理する方法が挙げられる。
【0024】
本実施形態における、経糸及び緯糸の最小の糸幅は、ピンホール品質を改善する観点から、各々独立して、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは110μm以上であり、さらに好ましくは120μm以上である。
本実施形態における、経糸及び緯糸の最大の糸幅は、デラミネーションの発生を抑制する観点から、各々独立して、好ましくは240μm以下であり、より好ましくは230μm以下であり、さらに好ましくは220μm以下である。
経糸及び緯糸の糸幅は、ガラスフィラメントの平均フィラメント径及びガラスフィラメント数を調整する方法や、整経、製織、脱糊、処理、及び開繊の工程において、張力と加工条件とを管理する方法によって調整することができる。
【0025】
バスケットホールの緯糸方向の最大幅(バスケットホールの最大の横幅ともいう。)は、好ましくは120μm以下であり、より好ましくは115μm以下であり、さらに好ましくは110μm以下である。
バスケットホールの緯糸方向の最大幅を120μm以下とすることにより、ピンホール品質を改善できる。
バスケットホールの緯糸方向の最小幅は、好ましくは50μm以上であり、より好ましくは60μm以上であり、さらに好ましくは70μm以上である。バスケットホールの緯糸方向の最小幅を50μm以上とすることにより、デラミネーションの発生を抑制できる傾向にある。
バスケットホールの緯糸方向の幅は、例えば、整経、製織、脱糊、処理、及び開繊の工程において、張力と加工条件とを管理する方法によって調整することができる。
【0026】
ガラスクロスの布重量(目付け)は、好ましくは5~12g/m2であり、より好ましくは6~11g/m2であり、さらに好ましくは7~10g/m2である。上記範囲内であることにより、得られる基板の薄型化でき、ピンホール品質の改善でき、デラミネーションの発生を抑制させることができる。
【0027】
ガラスクロスの織り構造については、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り、等の織り構造が挙げられる。このなかでも、平織り構造がより好ましい。
【0028】
ガラスクロスを構成するガラス糸(ガラスフィラメントを含む)は、好ましくはシランカップリング剤により表面処理される。シランカップリング剤としては、例えば、下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤を使用することが好ましい。
【0029】
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
【0030】
式(1)中、Xはアミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも1つを有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは1以上3以下の整数であり、Rは、メチル基、エチル基及びフェニル基からなる群より選ばれる基である。
【0031】
Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも3つ以上を有する有機官能基であることがより好ましく、Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも4つ以上を有する有機官能基であることがさらに好ましい。
上記のアルコキシ基としては、何れの形態も使用できるが、ガラスクロスへの安定処理化のためには、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましい。
【0032】
具体的に使用できるシランカップリング剤としては、例えば、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリ同エトキシシラン及びその塩酸塩、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の公知の単体、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
シランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600であり、より好ましくは150~500であり、さらに好ましくは200~450である。
このなかでも、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いることが好ましい。分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いてガラス糸表面を処理することにより、ガラス表面での処理剤密度が高くなり、マトリックス樹脂との反応性がさらに向上する傾向にある。
【0034】
ガラスクロスの強熱減量値は、好ましくは0.12質量%以上1.0質量%以下であり、より好ましくは0.13質量%以上0.90質量%以下であり、さらに好ましくは0.14質量%以上0.80質量%以下である。
強熱減量値が0.12質量%以上1.0質量%以下であることにより、従来よりもプリプレグの搬送性(ハンドリング性)を改善できる。また、樹脂とガラスクロスが界面ではがれやすくなることに由来する基板の絶縁信頼性の低下を抑制でき、また、メッキ液がガラスクロスに染み込むことに由来する基板の絶縁信頼性の低下を抑制できる傾向にある。
【0035】
ここでいう「強熱減量値」とは、JIS R 3420に記載されている方法に従って測定することができる。すなわち、まずガラスクロスを110℃の乾燥機の中に入れ、60分間乾燥する。乾燥後、ガラスクロスをデシケータに移し、20分間置き、室温まで放冷する。放冷後、ガラスクロスを0.1mg以下の単位で量る。次に、ガラスクロスをマッフル炉で625℃、20分間加熱する。マッフル炉で加熱後、ガラスクロスをデシケータに移し、20分間置き、室温まで放冷する。放冷後、ガラスクロスを0.1mg以下の単位で量る。以上の測定方法で求める強熱減量値により、ガラスクロスのシランカップリング剤処理量を定義する。
【0036】
積層板に使用されるガラスクロスには、通常Eガラス(無アルカリガラス)と呼ばれるガラスが使用されるが、本実施形態のガラスクロスにおいては、Lガラス、NEガラス、Dガラス、Sガラス、Tガラス、シリカガラス、石英ガラス、高誘電率ガラス等を使用してもよい。安価であるという点からは、Eガラスが最も好適に使用される。
【0037】
〔ガラスクロスの製造方法〕
本実施形態のガラスクロスの製造方法は、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤の濃度が0.1~3.0wt%である処理液によってほぼ完全にガラスフィラメントの表面をシランカップリング剤で覆う被覆工程と、加熱乾燥によりシランカップリング剤をガラスフィラメントの表面に固着させる固着工程と、ガラスクロスのガラス糸を開繊する開繊工程と、を有する方法が好適に挙げられる。
【0038】
シランカップリング剤を溶解又は分散させる溶媒としては、水、又は有機溶媒の何れも使用できるが、安全性、地球環境保護の観点から、水を主溶媒とすることが好ましい。水を主溶媒とした処理液を得る方法としては、シランカップリング剤を直接水に投入する方法、シランカップリング剤を水溶性有機溶媒に溶解させて有機溶媒溶液とした後に該有機溶媒溶液を水に投入する方法、の何れかの方法が好ましい。シランカップリング剤の処理液中での水分散性、安定性を向上させるために、界面活性剤を併用することも可能である。
【0039】
処理液をガラスクロスに塗布する方法としては、(ア)処理液をバスに溜め、ガラスクロスを浸漬、通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(イ)ロールコーター、ダイコーター、またはグラビアコーター等で処理液をガラスクロスに直接塗布する方法、等が可能である。上記(ア)の浸漬法にて塗布する場合は、ガラスクロスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上、1分以下に選定することが好ましい。
【0040】
また、ガラスクロスに処理液を塗布した後、溶媒を加熱乾燥させる方法としては、熱風、電磁波等公知の方法が挙げられる。
加熱乾燥温度は、シランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。また、加熱乾燥温度は、シランカップリング剤が有する有機官能基の劣化を防ぐために、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは200℃以下である。
【0041】
また、開繊工程の開繊方法としては、特に限定されないが、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水、マングル等で開繊加工する方法が挙げられる。バスケットホールの平均面積を一定に保ちながら、バスケットホールの最大面積を下げるために、スプレー水により開繊工程を行うことが好ましい。
スプレー水で開繊する場合、水圧は適宜設定すればよく、ガラスクロスに存在するバスケットホールの最大面積を50,000μm2以下に調整するために、水圧は一定にすることが好ましい。ここで、水圧を一定にするとは、開繊を実施するために設定したスプレーの水圧と、実際の水圧の最大値、最小値との差を小さくすることを指す。
開繊を実施するために設定したスプレーの水圧と、実際の水圧の最大値、最小値との差は、開繊を実施するために設定したスプレーの水圧に対し、6%未満にすることが好ましく、5%以内にすることがより好ましく、4%以内にすることがさらに好ましい。
開繊工程後においても、加熱乾燥させる工程を有していてもよい。
【0042】
〔プリプレグ〕
本実施形態のプリプレグは、上記ガラスクロスと、該ガラスクロスに含侵されたマトリックス樹脂と、を有する。これにより、薄くて、ピンホール品質に優れ、基板のデラミネーションの発生が抑制されたプリプレグを提供することができる。
【0043】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、a)エポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応するアミノ基、フェノール基、酸無水物基、ヒドラジド基、イソシアネート基、シアネート基、及び水酸基等の少なくとも1つを有する化合物と、を、無触媒で、又は、イミダゾール化合物、3級アミン化合物、尿素化合物、燐化合物等の反応触媒能を持つ触媒を添加して、反応させて硬化させるエポキシ樹脂;b)アリル基、メタクリル基、及びアクリル基の少なくとも1つを有する化合物を、熱分解型触媒、または光分解型触媒を反応開始剤として使用して、硬化させるラジカル重合型硬化樹脂;c)シアネート基を有する化合物と、マレイミド基を有する化合物と、を反応させて硬化させるマレイミドトリアジン樹脂;d)マレイミド化合物と、アミン化合物と、を反応させて硬化させる熱硬化性ポリイミド樹脂;e)ベンゾオキサジン環を有する化合物を加熱重合により架橋硬化させるベンゾオキサジン樹脂等が例示される。
【0044】
また、熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、不溶性ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂等が例示される。また、熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂を併用してもよい。
【0045】
〔プリント配線板〕
本実施形態のプリント配線板は、上記プリプレグを有する。これにより、高品質であり、デラミネーションの発生が抑制されたプリント配線板を提供することができる。
【実施例
【0046】
次に、本発明を実施例、比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数40本、経糸の打ち込み密度95本/inch、緯糸の打ち込み密度95本/inch、質量10g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.1kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0048】
(実施例2)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数33本、経糸の打ち込み密度105本/inch、緯糸の打ち込み密度105本/inch、質量9g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.1kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0049】
(実施例3)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径3.5μm、フィラメント数40本、経糸の打ち込み密度110本/inch、緯糸の打ち込み密度110本/inch、質量7g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.1kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0050】
(比較例1)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数40本、経糸の打ち込み密度95本/inch、緯糸の打ち込み密度95本/inch、質量10g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.3kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0051】
(比較例2)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数33本、経糸の打ち込み密度105本/inch、緯糸の打ち込み密度105本/inch、質量9g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.3kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0052】
(比較例3)
ガラスクロス(ガラスフィラメントの平均フィラメント径3.5μm、フィラメント数40本、経糸の打ち込み密度110本/inch、緯糸の打ち込み密度110本/inch、質量7g/m2)を、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(東レダウコーニング株式会社製;Z6032)、を水に分散させた処理液に浸漬し、加熱乾燥した。次に、水圧を5.0±0.3kg/cm2の水圧に調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、加熱乾燥して製品を得た。
【0053】
<ガラスクロスのバスケットホール、経糸幅、緯糸幅の評価方法>
走査型電子顕微鏡により、ガラスクロスの任意の位置の100mm×100mmを観察し、すべての経糸幅、緯糸幅、及び、バスケットホールの面積を計測し、各平均値、及び、最大値を求めた。
【0054】
<ガラスクロスのフィラメント径の評価方法>
ガラスクロスの任意の位置のガラス糸束30本の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、その平均値を算出し、平均フィラメント径を求めた。
【0055】
<開繊度の評価方法>
上記で求めた経糸幅、緯糸幅、及び、フィラメント径を用いて、以下の式により、開繊度を求めた。
開繊度[%]=糸幅[μm]÷(フィラメント径[μm]×フィラメント数[本])×100
【0056】
<ガラスクロスの厚さの評価方法>
JIS R 3420の7.10に準じて、マイクロメータを用いて、スピンドルを静かに回転させて測定面に平行に軽く接触させ、ラチェットが3回音をたてた後の目盛を読み取った。
【0057】
<プリプレグの作製方法とプリプレグのピンホール品質の評価方法>
上記の実施例及び比較例で得たガラスクロスに、エポキシ樹脂ワニス(低臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂40質量部、o-クレゾール型ノボラックエポキシ樹脂10質量部、ジメチルホルムアミド50質量部、ジシアンジアミド1質量部、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール0.1質量部の混合物をメチルエチルケトン溶媒で50wt%に希釈したもの)を含浸させ、速度2m/分で引き上げ、RCが65%になるよう隙間を調整したスリットを通して余分な樹脂をかき落し、160℃で1分間乾燥後プリプレグを得た。作製したプリプレグの任意の500mm×500mmを、携帯型顕微鏡で観察し、ピンホール個数を求めた。ピンホール個数が少ないほど、高品質であることを表す。
【0058】
<基板の作製方法>
上記で得たプリプレグを重ね、さらに上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、175℃、40kg/cm2で60分間加熱加圧して積層板を得た。
【0059】
<基板のデラミネーション性の評価方法>
上記のようにして厚さ0.1mmとなるように基板を作製し、銅箔をエッチング液にて除去後、温度121℃、湿度100%(2気圧)下に1週間暴露し、取り出し後、288℃のハンダ浴に20秒浸漬し、基板上の膨れやクラックの有無を目視確認した。表1中、基板上の膨れやクラックが見られないものを○とし、基板上の膨れやクラックが見られたものを×として示した。
【0060】
実施例と比較例で示したガラスクロスの評価結果を表1にまとめた。
実施例のガラスクロスを用いることにより、プリプレグのピンホール品質に優れ、基板のデラミネーションの発生を抑制できることが分かった。
【0061】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のガラスクロスは、電子及び電気分野で使用されるプリント配線板に用いられる基材として産業上の利用可能性を有する。