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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】スポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20221102BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C22B34/12 103
G01N21/88 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017174987
(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公開番号】P2018062709
(43)【公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-04-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2016201194
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「高品質スポンジチタン高効率製造プロセス技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅田 恒
(72)【発明者】
【氏名】針生 修一
(72)【発明者】
【氏名】谷水 孝司
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-157044(JP,A)
【文献】特開2008-020347(JP,A)
【文献】特開2007-313467(JP,A)
【文献】特開2008-274346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B34/00-34/36
G01N21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロール法によりスポンジチタンを製造するにあたり、スポンジチタン粒子
の色彩画像を撮像し、その色彩画像におけるスポンジチタン粒子の総画素数
(総面積(St))、及び、各RGB信号値からのスポンジチタン粒子中の異
常部の総画素数(総面積(Ss))を求め、各スポンジチタン粒子の総画素数
に対する異常部の総画素数の比率(Ss/St)が、設定した下限値以上であ
って上限値以下のものを異常スポンジチタンとして識別し、これを分離するこ
とと
スポンジチタン塊の鉄濃度が高くなった外周部位をハツリ除去することと
を含むことを特徴とする、クロール法によるスポンジチタンの製造方法であっ
て、
異常スポンジチタンが、鉄濃度の高いスポンジチタンである、クロール法に
よるスポンジチタンの製造方法。
【請求項2】
設定した下限値、及び上限値が、それぞれ、5~10%、及び25~35%
であることを特徴とする請求項1に記載のクロール法によるスポンジチタンの
製造方法。
【請求項3】
クロール法により製造したスポンジチタン粒子のうちの不純物濃度が高い異
常スポンジチタンの識別方法であって、
スポンジチタン粒子の色彩画像を撮像し、その色彩画像におけるスポンジチ
タン粒子の総画素数(総面積(St))、及び、各RGB信号値からのスポン
ジチタン粒子中の異常部の総画素数(総面積(Ss))を求め、各スポンジチ
タン粒子の総画素数に対する異常部の総画素数の比率(Ss/St)が、設定
した下限値以上であって上限値以下のものを異常スポンジチタンとして識別す
ることと
スポンジチタン塊の鉄濃度が高くなった外周部位をハツリ除去することと
を含み、
異常スポンジチタンが、鉄濃度の高いスポンジチタンである、異常スポンジ
チタンの識別方法。
【請求項4】
設定した下限値、及び上限値が、それぞれ、5~10%、及び25~35%
であることを特徴とする請求項3に記載の異常スポンジチタンの識別方法。
【請求項5】
製造されたスポンジチタンの鉄濃度が0.6質量%以下であり、
製造されたスポンジチタンからサンプリングされたスポンジチタンの鉄濃度の
最大値と最小値の差が0.5質量%以下である、
請求項1又は2に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項6】
鉄濃度の低いスポンジチタンを回収することをさらに含み、
鉄濃度の低い前記スポンジチタンの鉄濃度が0.6質量%以下であり、
鉄濃度の低い前記スポンジチタンからサンプリングされたスポンジチタンの鉄
濃度の最大値と最小値の差が0.5質量%以下である、請求項3又は4に記載
の異常スポンジチタンの識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロール法によるスポンジチタンの製法であって、特に、品質の優れたスポンジチタンの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタンは、航空機のみならず、海水淡水化設備や食品産業、あるいは自動車やスポーツ用品あるいは医療の分野にも広く利用されるようになってきている。
従来から、金属チタンは工業的にはクロール法により製造されたスポンジチタンから製造されている。金属チタンの利用領域をより拡大させるためには、スポンジチタンの製造コストを下げることが重要な課題となってきている。特に、品質が高いスポンジチタンの歩留まりを高めることがスポンジチタンの製造コスト低下の有効な手段として考えられている。
【0003】
クロール法によるスポンジチタンは、四塩化チタンのマグネシウム還元により製造されている。具体的には、ステンレス製の容器内に装入した溶融マグネシウム表面に四塩化チタンを滴下して生成したスポンジチタン塊を製造する。このようにスポンジチタン塊の生成反応は、鉄製容器(ステンレス鋼や鋼等)内で進行する。このため、その中で容器と接触する部位は、ステンレス容器からの金属不純物成分の拡散が助長され、その結果、生成されたスポンジチタン塊中には、鉄濃度が著しく高い部位が存在する。
スポンジチタンは、このスポンジチタン塊の鉄濃度が高くなった外周部位を切断除去(ハツリ除去とも呼ばれる)後、スポンジチタン塊の残りの部分を小さなブロックに切断した上で破砕機及び篩別機を用いて処理して製品化されている。このため、クロール法によれば切断面を有するスポンジチタン粒子が多数形成されるが、これが、以下で説明する本発明での問題点につながる。
【0004】
ここで、チタン中の鉄成分は、最終チタン製品の機械的特性劣化や耐食性劣化にも結び付くため、可能な限り鉄濃度の高いスポンジチタンは排除する必要がある。鉄濃度が低いスポンジチタンの製造方法として、スポンジチタン大塊をプレス切断して得られたスポンジチタン小塊を、更に破砕整粒して得られたスポンジチタン粒を、SQUIDを利用して鉄成分の高いスポンジチタンを分離除去する技術も知られている(特許文献1:特開2008-274406号)。しかしながら、当該設備を使用したスポンジチタンの選別方法においては、超電導磁石を利用した設備となるため、初期投資の点と設備のメンテナンスの点で検討の余地が残されている。
このように、クロール法で製造されたスポンジチタンの表層部の一部に不純物濃度の高い部位を含むスポンジチタンを効率よく分離する技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4828556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、クロール法によるスポンジチタンの製法に関し、特に、従来の方法に比べて、鉄などの不純物の濃度の高いスポンジチタン粒子の選別工程の選別の除去効率がよく、しかも品質に優れたスポンジチタンを製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、スポンジチタン塊の鉄濃度が高い部位(以降、「高鉄部位」と)呼ぶ場合がある。)に着目した。前記高鉄部位は、チタンと鉄が合金化している部位であり、この部位は正常部より光沢を有するため、目視検査により選別することが可能である。しかし、目視検査は官能検査による選別であるため、高鉄部位を有するスポンジチタンを精度よく除去することは困難である。また、検査の精度を向上させるために作業員を増やすことは人件費の増加をもたらし経済的ではない。
そこで、本発明者らは、公知の色彩選別機の利用に着目した。まず、異常スポンジチタンとして高鉄部位を有するスポンジチタンを色彩選別機へ投入し、RGB信号強度を測定し高鉄部位のスポンジチタンの選別基準値を求めた。この選別基準値を用い、ハツリ除去後のスポンジチタンを投入し鉄濃度が高いスポンジチタンの分離を試みたが、鉄濃度が高いスポンジチタン中に鉄濃度が低いスポンジチタンが含まれて良好な結果が得られなかった。
【0008】
そこで、表面に光沢部を有するスポンジチタンについて更に検討を行った。その結果、表面に光沢部を有するスポンジチタンには、高鉄部位を有するスポンジチタン以外に、高鉄部位を含まないスポンジチタン塊をプレス切断した際に形成される切断面を有するスポンジチタンも含まれることが判明した。このため、色彩選別機によれば、高鉄部位と切断面の両者が光沢部となり、異常部として検出されていたことになる。本発明者らは、更にこれらのスポンジチタンの分離を検討したものの、各RGB信号強度の調整では、この切断面を有するスポンチタンを精度よく分離できなかった。そこで、本発明者らは、高鉄部位を有するスポンジチタンと切断面を有するスポンチタンのスポンジチタン上の光沢部の分布に着目した結果、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るスポンジチタンの製造方法は、スポンジチタン粒子の色彩画像を撮像し、スポンジチタン粒子1個の総画素数(総面積(St))を求めるとともに、色彩画像において、各RGB信号の値からスポンジチタン粒子中の異常部の総画素数(面積(Ss))を求め、各スポンジチタン粒子の総画素数(総面積(St))に対する異常部の総画素数(面積(Ss))の比率(Ss/St)より、異常スポンジチタンとして不純物濃度の高いスポンジチタンを識別し、不純物濃度の高いスポンジチタンを分離することを特徴とするものである。
【0009】
このような特徴を有する本発明に係るスポンジチタンの製造方法によれば、光沢部の分布に着目することで、異常部を有するスポンジチタンのうちから、高鉄部位を有するスポンジチタンと切断面を有するスポンジチタンとを区別することが可能となり、この結果、鉄濃度が高いスポンジチタンのみを分離することが可能となったのである。
【0010】
具体的には、高鉄部位を有するスポンジチタンは、前記したように、ステンレス容器からの鉄の拡散により汚染され、ハツリ除去によっても充分に除去し切れなかった部分からなるものである。このため、スポンジチタン粒子が全面的に高鉄部位によって覆われていることはありえず、Ss/Stの比をとった場合には、高鉄部位を有するスポンジチタンのSs/Stの値は通常は、0.05~0.35程度の範囲に収まるのである。
すなわち、Ss/St値の過度に高いスポンジチタンは切断面を有するスポンジチタンであるので、Ss/St値の違いにより、高鉄部位を有するスポンジチタンと切断面を有するスポンジチタンとを区別することができるのである。つまり、本発明は、Ss/Stの数値範囲(下限値と上限値)を設定し、その範囲内のスポンジチタンを高鉄部位を有する異常スポンジチタンとして分離することにより、高不純物部位を有するスポンジチタンのみを分離することができる、という新たな知見に基づいてなされたものである。
【0011】
また、以上の説明は、不純物が鉄である例を説明したが、クロール法によるスポンジチタンの製造においては、鉄の他に酸素や窒素が不純物となることが知られており、本発明は、これら酸素や窒素についても有効であると考えられる。また、異常スポンジチタンとは、鉄等の不純物を高濃度で含有するスポンジチタンをいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の方法に比べて、コストが安く、かつ、不純物濃度、特に鉄濃度が低い品質に優れたスポンジチタンを得ることができ、かつ不純物濃度の高いスポンジチタン粒子を効率的に識別し除去できるスポンジチタンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】スポンジチタン粒を製造するプロセス・フロー図である。
図2】本願発明に係るスポンジチタンの選別方法を実現するための設備態様の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1は、本発明の選別対象のスポンジチタン粒の製造工程図の一実施形態を示す。図2は、その中の目視選別工程で利用される本発明のスポンジチタンの製造方法を実現するための選別装置の一例を示す 。
【0015】
本実施形態では、図1に示すように、はつり、大割、小割・粗粉砕、粉砕・篩別、目視選別、容器充填 サンプル検査の各工程を経てスポンジチタン粒が製造される。大割・小割・粗粉砕・粉砕・篩別工程では、クロール法により還元工程、真空分離工程を経て製造されたスポンジチタン大塊が、例えば、ギロチン式シャーにより直径50mm程度まで段階的に小塊化される。この小塊化はスポンジチタン塊の部位ごとに部位別に独立粉砕が行われ、スポンジチタンケーキの中心部は高純度品に、それ以外の部位は一般品に仕分けされる。
粗砕に続く粉砕は、粗砕工程で得られた小塊が、ジョークラッシャーなどの粉砕機により粒径が例えば1/2インチ(約12.5mm)から20メッシュ(約0.8mm)のサイズ範囲のチタン粒に粉砕・篩別され、整粒される。この粉砕工程も採取部位別に独立して行われる。なお、粗砕工程は、製造されたスポンジチタン塊のままでは粉砕処理が不可能なため、事前に行う、小サイズ化の処理で、スポンジチタン自体の機械的性質(展延性)のために、粉砕がしにくいので、シャー切断の方式で行われる。
粗砕、粉砕の各工程を経て製造されたチタン粒は、異物および高濃度不純物粒子を識別し除去する、目視選別工程に送られる。このラインへの材料搬送の手段はベルトコンベアが用いられる。選別工程では、選別対象となるチタン粒が目視選別ラインへフィードされ、投入される。
【0016】
図2の選別装置は、スポンジチタン粒子貯蔵用ホッパー1、振動フィーダー2から排出されたスポンジチタン粒子6を検出手段4に送るための搬送手段3、検出手段(フルカラー3CCDラインスキャンカメラ)4、選別手段(空気噴射ノズル)5から構成されている。
【0017】
特に、検出手段4の構成は、
光源:色彩選別機の撮像用照明の光源としては、自然光の色スペクトルに近い発光ができる、白熱電球、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、白色蛍光灯、レーザー光、白色LED等があるが、高演色(自然光に近い)特性のCIE(国際照明委員会)規格の平均演色評価数Ra=95以上の白色LED光源(近紫外LED+RGB蛍光体の方式タイプ:たとえば、シーシーエス株式会社製 LEDバー照明LDL2シリーズ等)が、より好ましい。
【0018】
カメラ:画像解析用の画像データを撮像するカメラとしては、高解像度(画像処理走査の画素数:1ラインの処理が1024ビット以上)のCCD方式のラインスキャン・カラーカメラが好ましく、より忠実な色彩再現性が得られる方式である、レンズからの入射光をダイクロイックプリズムで光の3原色(RGB)に分解し、3枚のCCDでそれぞれ独立して撮影する3CCD方式のフルカラー・ラインスキャンカメラが、より好ましい。
【0019】
デジタル画像処理のビット処理速度:デジタル画像処理エンジン=DSP(Digital Signal Processor)の処理能力は、1基のカメラに対し、R(赤)、G(緑)、B(青)それぞれに1024素子以上のビット処理が好ましく、さらに高解像度の2048素子または4096素子のビット処理がより好ましい。
【0020】
撮像のスキャン速度:カメラのスキャン速度は、画像解析データの識別精度の信頼性向上のためには、走査速度が高速であるほど、動画からの分解写真である静止画像の取り込み精度が良くなるので、1秒間に4000回以上のスキャン速度が好ましく、1秒間に約10000回の速度が、より好ましい 。
【0021】
検出手段4から、図示していない識別手段に画像信号が伝送される。識別手段からは、画像信号を基に識別した結果が、選別手段に伝送される。選別手段は、この結果を受け、鉄濃度が高いスポンジチタン等の異常スポンジチタンを分離する。選別手段は、例えば、空気ノズル、ロボットアーム、エアシリンダー付跳ね板等が用いられる。
本発明のスポンジチタンの製造方法において、不純物濃度の高いスポンジチタン等の異常スポンジチタンの識別は、3CCDのフルカラー・ラインスキャン・カメラからの色彩画像データに基づき、スポンジチタン粒子の占める画素数から総面積(St)を求め、各画素の赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度を基にスポンジチタン粒子上の異常部を判定し、異常部有りと判断された画素数から異常部の面積(Ss)を求め、異常部の面積(Ss)と総面積(St)の面積比率(Ss/St)に基づいて異常スポンジチタンの識別を行う。
【0022】
スポンジチタン粒子上の異常部の判定基準は、例えば、目視により抽出した不純物濃度が高いスポンジチタンの不純物濃度が高い部位とその部位の色彩画像データを基に決定する。異常部の部位(画素)の決定方法としては、例えば、(1) 赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度が特定の値以上にある部位(画素)、(2) 赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の少なくとも1つの強度が特定の値以上である部位(画素)、(3) 赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度の平均値が特定の値以上である部位(画素)等が有る。前記した以外の決定方法も適用することができるが、目視により判別された不純物濃度が高い部位とその部位の色彩画像データの比較により、精度の高い決定方法を選ぶ。例えば、不純物が鉄の場合には、赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の全ての強度が、最大強度の70%以上(256段階に分解されている場合は180以上)の部位を異常部位と判断することが好ましい。
【0023】
本発明のスポンジチタンの製造方法において、スポンジチタン粒子の総面積(St)に対する異常部位の面積(Ss)の比率(Ss/St)から不純物濃度が高い異常スポンジチタンとして分離する。
特に、不純物が鉄の場合は、比率(Ss/St)が、特定の下限値から、比率(Ss/St)=100%ではない特定の上限値の間にあるスポンジチタンを、鉄濃度の高いスポンジチタンとして分離することが好ましい。特定の下限値を設けることで、鉄濃度の高いスポンジチタンを精度良く分離することができ、特定の上限値を設けることで、スポンジチタン塊をプレス切断した際に形成される切断面を有するスポンジチタンを、鉄濃度の低いスポンジチタンとして精度よく分離できる。また、その結果、得られたスポンジチタンの鉄濃度のばらつきは小さいものとなる。
【0024】
上限値と下限値は、スポンジチタンに要求されるスペックから決定される。
具体的には、スポンジチタンを、様々な面積比率(Ss/St)の設定の基で選別を行い、得られたスポンジチタンの鉄濃度、鉄濃度のばらつき及び歩留まりから面積比率(Ss/St)の範囲を決定する。
例えば、目視により抽出した不純物濃度が高いスポンジチタンの不純物濃度が高い部位とその部位の色彩画像データに基づいて、面積比率(Ss/St)の仮の下限と決定し、目視により抽出した不純物濃度が低いがプレス切断した際に形成される切断面を有するスポンジチタンの切断面の部位とその部位の色彩画像データに基づいて、面積比率(Ss/St)の仮の上限と決定する。
次に、面積比率(Ss/St)の仮の下限値、仮の上限値を中心に面積比率(Ss/St)を変動させてスポンジチタンを選別し、得られたスポンジチタンの鉄濃度、鉄濃度の成分範囲( 鉄濃度の最大値と最小値の差)及び歩留まりを求める。この中で、スポンジチタンの鉄濃度、鉄濃度のばらつきが要求されるスペック内であり、歩留まりが最も良い面積比率(Ss/St)を下限値、上限値として決定する。
例えば、鉄濃度0.4%以下、鉄濃度の成分範囲0.5%のスポンジチタンを歩留まり良く分離する下限値と上限値の一例としては、下限値は5~10%、上限値は25%~35%である。
【0025】
また、本発明のスポンジチタンの製造方法において、スポンジチタン粒子の色彩画像データから、不純物濃度の高いスポンジチタンの分離以外に、スポンジチタン粒子の占める画素数より粒径(例えば円相当径)を求め、特定の粒径のスポンジチタンの分離を行っても良い。
【0026】
また、本発明のスポンジチタンの製造方法のスポンジチタン粒子は、クロール法により製造されたスポンジチタン塊から得られたスポンジチタン粒子である。例えば、通常のスポンジチタン塊をハツリ除去した後、切断して得たスポンジチタン粒子だけでなく、ハツリ除去した部位を切断して得たスポンジチタン粒子、ハツリ除去を行わず、スポンジチタン塊をプレス切断して得られたスポンジチタン小塊を、破砕整粒して得られたスポンジチタン粒子へも適用可能であり、不純物濃度の高いスポンジチタン粒子を効率よく分離することができ、品質の優れたスポンジチタンを得ることができる。
【0027】
また、本発明のスポンジチタンの製造方法においてスポンジチタン粒子中の異常部に含まれる不純物としては、鉄、酸素、窒素等が挙げられ、特に鉄に注目することが好ましい。
【0028】
また、本発明のスポンジチタンの製造方法のスポンジチタン粒子の平均粒径は、1mm~50mmであることが好ましい。また、スポンジチタンの嵩密度は、2g/cm以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、空気ノズルを利用した選別手段により不純物濃度が高いスポンジチタンを分離することができる。平均粒径は、顕微鏡写真などからの画像解析によって測定することができる。具体的には、1000~1500個程度についてその粒子径を測定し、それを平均することにより求められる。嵩密度は、JIS Z2504に準じて測定することができる。
【実施例
【0029】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の例により何ら制限されるものではない。
【0030】
1.スポンジチタン粒子
スポンジチタン粒子として、クロール法で製造されたスポンジチタン塊からハツリ除去したスポンジチタンを破砕・整粒されて得たスポンジチタン粒子を用いた。スポンジチタン粒子は篩目1mmと篩目50mmの篩で篩別したスポンジチタン粒子であり、その鉄濃度は0.1~3.0質量%である。
2.色彩選別器
色彩選別機(製品名:アルソマック色彩選別機 LEO-300D3,メーカー:株式会社安西総業)を使用した。
【0031】
(実施例1)
上記の色彩選別機にスポンジチタン粒子を供給し、鉄濃度の高いスポンジチタン粒子を分離した。平均演色評価数Ra=98の超高演色タイプ自然光の白色LEDのバー照明(シーシーエス製、バー照明LDL2-314)を用いて、フルカラー3CCDラインスキャン・カメラで撮像した画像の赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度は0~255の256段階に分解されており、異常部の部位(画素)の識別は、赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度(濃淡)、全ての赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度が180以上(最大強度の72%以上)を判断基準とした。また、異常部の面積(Ss)と総面積(St)の面積比率(Ss/St)は、5%~30%とし、この範囲のスポンジチタン粒子を鉄濃度の高いスポンジチタン粒子として分離した。
なお、本実施例、比較例のスポンジチタンの鉄濃度の測定方法は、得られたスポンジチタン250kgから5ヶ所よりサンプリングし、波長分散型蛍光X線分析装置より測定したものであり、スポンジチタンの鉄濃度が0.6質量%以下、鉄濃度の成分範囲(鉄濃度の最大値と最小値の差)が0.5%以下を合格品とした。また、歩留まりは、供給したスポンジチタン粒子全体量(kg)に対する鉄濃度の高いスポンジチタン粒子を分離したスポンジチタン回収量(kg)の割合である。
その結果、回収したスポンジチタンの鉄濃度は0.5質量%以下、鉄濃度の成分範囲は
0.4質量%であり、合格品と判断する規格内であった。また、歩留まりは80%であった。
【0032】
(実施例2~4)
面積比率(Ss/St)の上限値を30%から、25%、35%、40%とした以外は、実施例1と同様にスポンジチタン粒子を分離した。
その結果、回収したスポンジチタンの鉄濃度と歩留まりを表1に示す。分離したスポンジチタンは、合格と判断する規格内であった。
【0033】
【表1】
【0034】
(参考例1)
面積比率(Ss/St)の上限値を30%から、20%とした以外は、実施例1と同様にスポンジチタン粒子を分離した。
その結果、回収したスポンジチタンの鉄濃度と歩留まりを表1に示す。分離したスポンジチタンは、鉄濃度が0.6質量%を超えており、また鉄濃度の成分範囲が1.0質量%を超えており規格外であり、本発明において仮に設定した基準値を超えたので参考例とした。
【0035】
(実施例5~8)
面積比率(Ss/St)の下限値5%から、1%、3%、7%とした以外は、実施例1と同様にスポンジチタン粒子を分離した。
その結果、回収スポンジチタンの鉄濃度と歩留まりを表2に示す。分離したスポンジチタンは、規格内であった。
【0036】
【表2】
【0037】
(参考例2)
面積比率(Ss/St)の下限値5%から、11%とした以外は、実施例1と同様にスポンジチタン粒子を分離した。
その結果、回収されたスポンジチタンの鉄濃度と歩留まりを表2に示す。回収したスポンジチタンは、鉄濃度が0.6質量%を超えており、また鉄濃度の成分範囲が1.0質量%を超えており規格外であり、本発明で仮に設定した基準値を超えたので参考例とした。
【0038】
(比較例1~4)
面積比率(Ss/St)の上限値を設定しなかった以外は、実施例1、5~7と同様にスポンジチタン粒子を分離した。
その結果、回収スポンジチタンの鉄濃度と歩留まりを表3に示す。分離したスポンジチタンは、鉄濃度や鉄濃度の成分範囲においては、実施例と同等の特性であったが、本来不純物濃度が低くて回収されるべき切断面を有するスポンジチタン粒子を、高鉄部位を有するスポンジチタンとして分離してしまったので、歩留まりが悪く、実用に耐えられない結果となった。
【0039】
【表3】
【0040】
上記実施例、参考例に示すように、鉄濃度の高いスポンジチタン粒子の識別を、フルカラー3CCDラインスキャンカメラからの色彩画像データに基づいて、スポンジチタン粒子の占める画素数から総面積(St)を求め、各画素の赤(R)信号、青(B)信号、緑(G)信号の強度を基にスポンジチタン粒子上の異常部の有無を判断し、異常部有りと判断された画素数から異常部の面積(Ss)を求め、異常部の面積(Ss)と総面積(St)の面積比率(Ss/St)に基づいて識別を行うことにより、精度良くかつ効率的に識別することができる。
また、比較例の結果から明らかなように、本発明の特徴とする面積比率(Ss/St)の上限値の設定がないものは、歩留まりの点で実施例に劣るものであった。
図1
図2