(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】遮熱コーティング、タービン部材、ガスタービン及び遮熱コーティングの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/11 20160101AFI20221102BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20221102BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20221102BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20221102BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20221102BHJP
C04B 35/119 20060101ALN20221102BHJP
【FI】
C23C4/11
C23C4/134
F01D5/28
F02C7/00 C
F01D25/00 L
C04B35/119
(21)【出願番号】P 2018057716
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 泰治
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 芳史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】妻鹿 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】谷川 秀次
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270245(JP,A)
【文献】特開2003-160852(JP,A)
【文献】特開2018-003103(JP,A)
【文献】特開2006-144061(JP,A)
【文献】特開2015-218379(JP,A)
【文献】特開2017-218635(JP,A)
【文献】特開2013-185202(JP,A)
【文献】特開2008-127614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-30/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上に積層されるボンドコート層と、
前記ボンドコート層上に積層されたセラミックス層であって、
10%以上15%以下の気孔率を有する第1層、及び
0.5%以上
4.0%以下の気孔率を有し、且つ、前記第1層上に積層された第2層、を含むセラミックス層と、を備え、
前記第1層には、その層厚方向に延在する縦割れが導入されて
いない
遮熱コーティング。
【請求項2】
前記第2層の厚さは、前記第1層の厚さの10%以上100%以下である
請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層と同じ材質で構成される
請求項1又は2に記載の遮熱コーティング。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の前記遮熱コーティングを有するタービン部材。
【請求項5】
請求項4に記載の前記タービン部材を有するガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遮熱コーティング、タービン部材、ガスタービン及び遮熱コーティングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ガスタービンの分野では、翼の形状や翼に設けられた冷却構造を変えずに、耐熱部材への熱負荷を低減することができる遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高い遮熱性と熱サイクル耐久性を両立するために、所定の粒度分布を有する溶射粒子を溶射することでセラミックス層を形成する遮熱コーティングの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石油を燃料とした油焚きガスタービンでは、燃焼ガスに含まれる腐食性物質が遮熱コーティングのセラミックス層の気孔からセラミックス層に浸透してセラミックス層を劣化させる場合があることが知られている。そのため、燃焼ガスに含まれる腐食性物質によって遮熱コーティングの耐久性が低下することがある。
そこで、例えば、遮熱コーティングのセラミックス層の気孔率を低減することで腐食性物質がセラミックス層に浸透することを抑制することが考えられる。しかし、セラミックス層の気孔率を低減させると、セラミックス層の熱伝導率が上昇してしまうため、遮熱コーティングの遮熱性が低下してしまう。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、遮熱コーティングの耐久性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングは、
母材上に積層されるボンドコート層と、
前記ボンドコート層上に積層されたセラミックス層であって、
10%以上15%以下の気孔率を有する第1層、及び
0.5%以上9.0%以下の気孔率を有し、且つ、前記第1層上に積層された第2層、を含むセラミックス層と、を備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、セラミックス層が10%以上15%以下の気孔率を有する第1層と0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層とを含むので、第1層によってセラミックス層の熱伝導率の上昇を抑制しつつ、第2層によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
すなわち、第1層の気孔率が小さくなると第1層における熱伝導率が上昇するので、第1層の気孔率が10%未満になると、遮熱性能が不十分になるおそれがある。また、第1層の気孔率が大きくなるとボンドコート層との密着性が低下する傾向にあるので、第1層の気孔率が15%を超えると、ボンドコート層との密着性が不十分になるおそれがある。
その点、上記(1)の構成によれば、第1層の気孔率が10%以上15%以下であるので、第1層の耐久性を確保しつつ、第1層の熱伝導率の上昇を抑制できる。
第2層の気孔率を0.5%未満にするためには、例えば化学蒸着法によるコーティングのように、チャンバを備える大掛かりな装置が必要となる。また、第2層の気孔率が9%を超えると、第2層による腐食性物質の浸透を抑制する効果が不十分となるおそれがある。
その点、上記(1)の構成によれば、第2層の気孔率が0.5%以上9.0%以下であるので、腐食性物質の浸透抑制を容易に実現できる。
このように、上記(1)の構成によれば、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても遮熱コーティングの耐久性を向上できる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記第2層の気孔率は、1.0%以上7.5%以下である。
【0010】
第2層の形成条件を適宜設定することで、第2層の気孔率を0.5%に低減することが可能であるが、第2層の気孔率の下限値を1.0%に引き上げることにより、第2層の形成条件を緩和できる。また、第2層の気孔率が小さいほど、腐食性物質の浸透を抑制する効果が高まるが、発明者らの鋭意検討の結果、第2層の気孔率を7.5%以下とすることで腐食性物質の浸透を抑制する効果がより向上することが見出されている。したがって、第2層の気孔率の上限値は7.5%であってもよい。
その点、上記(2)の構成によれば、第2層の気孔率が1.0%以上7.5%以下であるので、第2層の形成条件の緩和と、腐食性物質の浸透抑制効果の向上を実現できる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記第1層には、その層厚方向に延在する縦割れが導入されておらず、
前記第2層の前記気孔率は、0.5%以上4.0%未満である。
【0012】
母材とともに遮熱コーティングが加熱される場合、熱膨張による寸法変化は第1層よりも母材の方が大きくなる。したがって、第1層において、その層厚方向に延在する縦割れが導入されている場合、母材とともに遮熱コーティングが加熱されると、第1層の縦割れの隙間の間隔が広がることとなる。そのため、第1層において、その層厚方向に延在する縦割れが導入されていて、第1層上に第2層が形成されている場合、母材とともに遮熱コーティングが加熱されると、第2層には面方向へ伸長させる応力が作用する。そのため、第2層の気孔率が4.0%未満となると第1層の熱膨張の影響により第2層に亀裂が生じ易くなり、第2層に生じた亀裂から腐食性物質が浸透するおそれがあるため、第2層の気孔率を4.0%未満とすることが困難である。しかし、腐食性物質の浸透抑制の観点からは、第2層の気孔率を小さくすることが望ましい。
その点、上記(3)の構成によれば、第1層には、その層厚方向に延在する縦割れが導入されていないので、縦割れが導入されている場合と比べて、第1層における熱膨張による寸法変化を抑制できる。これにより、第2層の気孔率を4.0%未満としても、第2層に亀裂が生じ難くなる。したがって、第2層における亀裂の発生を抑制できるとともに第2層における気孔率を小さくすることができるので、第2層による腐食性物質の浸透を抑制する効果を向上できる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、前記第2層は、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する第1溶射粒子を溶射して形成されている。
【0014】
従来は、平均粒径10μmから150μmの範囲、一般には10μmから100μmで正規分布に近い粒度分布を有する溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することが一般的であった。
発明者らが鋭意検討した結果、上記粒度分布を有する従来の溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することで、セラミックス層の気孔率が上昇してセラミックス層の遮熱性が向上することを見出した。また、発明者らは、上述したように、従来の溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することで、気孔を起点にして伸長する微細な欠陥(層状欠陥)の発生が抑制されて熱サイクル耐久性が向上することを見出した。
具体的には、発明者らは、上記粒度分布を有する従来の溶射粒子よりも積算粒度10%粒径を増大させて、溶射粒子中に含まれる粒径の小さい粒子の割合を低下させることで、セラミックス層の遮熱性が向上するとともに熱サイクル耐久性が向上することを見出した。
【0015】
さらに発明者らが鋭意検討した結果、従来の溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする上述した溶射粒子に対し、さらに大径粒子の割合を減少させることで、熱サイクル耐久性を確保しつつ、セラミックス層の気孔率が小さくなることを見出した。
すなわち、発明者らが鋭意検討した結果、第2層を溶射によって形成するにあたり、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する第1溶射粒子を用いることで、第2層の気孔率を低下させて腐食性物質の浸透を抑制できることが判明した。また、上記第1溶射粒子を用いることで、第2層における気孔を起点にして伸長する微細な欠陥(層状欠陥)の発生が抑制されて熱サイクル耐久性が向上することが判明した。すなわち、第1溶射粒子を用いることで、第2層における気孔率を0.5%以上9.0%以下とすることができることが判明した。
したがって、上記(4)の第1溶射粒子を溶射して第2層を形成することで、第2層の耐久性を確保しつつ、第2層によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、前記第1層は、積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する第2溶射粒子を溶射して形成されている。
【0017】
上述したように、発明者らが鋭意検討した結果、従来の溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することで、気孔率が上昇してセラミックス層の遮熱性が向上するとともに、層状欠陥の発生が抑制されてセラミックス層の熱サイクル耐久性が向上することを見出した。
したがって、第1層を溶射によって形成するにあたり、上記(5)の第2溶射粒子のように、積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する第2溶射粒子を用いることで、第1層における気孔率を10%以上15%以下とすることができ、第1層の耐久性を確保しつつ、第1層の遮熱性を向上できる。
【0018】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、前記第2溶射粒子の積算粒度10%粒径に対する前記第1溶射粒子の積算粒度10%粒径の比率は、前記第2溶射粒子の積算粒度50%粒径に対する前記第1溶射粒子の積算粒度50%粒径の比率、及び、前記第2溶射粒子の積算粒度90%粒径に対する前記第1溶射粒子の積算粒度90%粒径の比率よりも大きい。
【0019】
発明者らが鋭意検討した結果、上述したように、積算粒度10%粒径を大きくすることで、溶射によって形成される層の熱サイクル耐久性が向上することを見出した。逆に言えば、溶射粒子の積算粒度10%粒径を小さくすると、溶射によって形成される層の熱サイクル耐久性が低下することが判明した。また、発明者らが鋭意検討した結果、上述したように、溶射粒子における大径粒子の割合を減少させることで、溶射によって形成される層の気孔率が小さくすることができることが判明した。
したがって、熱サイクル耐久性の観点から、第2溶射粒子の積算粒度10%粒径に対して第1溶射粒子の積算粒度10%粒径があまり小さくならないようにしつつ、第2層による腐食性物質の浸透抑制の観点から、第2溶射粒子の積算粒度50%粒径及び積算粒度90%粒径に対して第1溶射粒子の積算粒度50%粒径及び積算粒度90%粒径を小さくすることが望ましい。
その点、上記(6)の構成によれば、第2溶射粒子の積算粒度10%粒径に対する第1溶射粒子の積算粒度10%粒径の比率が、第2溶射粒子の積算粒度50%粒径に対する第1溶射粒子の積算粒度50%粒径の比率、及び、第2溶射粒子の積算粒度90%粒径に対する第1溶射粒子の積算粒度90%粒径の比率よりも大きいので、第2層の耐久性を確保しつつ、第2層によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
【0020】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの構成において、前記第1層及び前記第2層は、大気プラズマ溶射によって生成された溶射層である。
【0021】
例えば化学蒸着法や物理蒸着法によって第1層及び第2層を生成する場合や、例えば減圧プラズマ溶射によって第1層及び第2層を生成する場合には、チャンバを備える大掛かりな装置が必要となり、装置の費用が高額になる他、段取り等の準備等を含めた工数が多くなりがちである。
その点、上記(7)の構成によれば、第1層及び第2層を大気プラズマ溶射によって生成することで、例えば化学蒸着法や物理蒸着法、減圧プラズマ溶射等によって第1層及び第2層を生成する場合と比べて、装置構成が簡素であるので、装置の費用を安価にできる他、段取り等の準備等を含めた工数を削減でき、タクトタイムを短縮できる。
【0022】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの構成において、前記第2層の厚さは、前記第1層の厚さの10%以上100%以下である。
【0023】
例えば第2層の厚さが第1層の厚さの10%未満であると、例えば第1層の厚さを0.5mmとすると、第2層の厚さが0.05mm(50μm)未満となるため、局所的に層の厚さが薄い場所があると、気孔が第2層を貫通するおそれがある。一方、例えば第2層の厚さが第1層の厚さの100%を超えると、第2層の気孔率が第1層よりも低く熱伝導率が高いため、セラミックス層における遮熱効果が不十分となるおそれがある。
その点、上記(8)の構成によれば、第2層の厚さが第1層の厚さの10%以上100%以下であるので、遮熱性を確保しつつ、腐食性物質の浸透を抑制できる。
【0024】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の構成において、前記第2層は、前記第1層と同じ材質で構成される。
【0025】
上記(9)の構成によれば、第2層が第1層と同じ材質で構成されるので、同じ組成の材料で第1層と第2層との成膜条件の急変をなくすことができ、第1層と第2層との界面の密着性が高い。また、第1層と第2層とで、高温環境下における線膨張係数や相安定性等が同じになるので、高温環境下における遮熱コーティングの品質劣化を抑制できる。
【0026】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係るタービン部材は、上記構成(1)乃至(9)の何れかの遮熱コーティングを有するので、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であってもタービン部材の耐久性を向上できる。
【0027】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスタービンは、上記構成(10)のタービン部材を有するので、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であってもガスタービンにおけるタービン部材の耐久性を向上できる。
【0028】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、
母材上にボンドコート層を積層させる工程と、
前記ボンドコート層上に、第1層を積層させる工程と、
前記第1層上に、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第2層を積層させる工程と、を含む。
【0029】
上記(12)の方法によれば、第1層上に、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第2層を積層させる工程によって、0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層を形成できる。これにより、第2層によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
このように、上記(12)の方法によれば、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても遮熱コーティングの耐久性を向上できる。
【0030】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の方法において、
前記第1層を積層させる工程は、前記ボンドコート層上に、積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第1層を積層させる工程である。
【0031】
上記(13)の方法によれば、ボンドコート層上に、積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第1層を積層させる工程によって、10%以上15%以下の気孔率を有する第1層を形成できる。これにより、第1層の耐久性を確保しつつ、第1層の熱伝導率の上昇を抑制できる。
【0032】
(14)本発明の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、
母材上に積層されたボンドコート層と、前記ボンドコート層上に積層された第1層とを有する既設コーティング層に対し、前記第1層上に、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第2層を積層させる工程
を含む。
【0033】
上記(14)の方法によれば、ボンドコート層とボンドコート層上に積層された第1層とを有する既設コーティング層に対して、上述した第2層を積層させる工程によって、0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層を形成できる。これにより、第2層によって腐食性物質の浸透を抑制できる。したがって、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても既設コーティング層の耐久性を向上できる。
【0034】
(15)本発明の少なくとも一実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、
母材上に積層されたボンドコート層と、前記ボンドコート層上に積層された第1層と、前記第1層上に積層された第2層とを有する既設遮熱コーティング層に対し、前記第2層を除去する工程と、
前記第2層を除去した後の前記既設遮熱コーティング層に対し、前記第1層上に、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第2層を積層させる工程と、
を含む。
【0035】
上記(15)の方法によれば、既設遮熱コーティング層の第2層を除去して新たに0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層を形成できる。したがって、既設遮熱コーティング層における第2層が劣化した場合などに、第2層を新たに積層させることが可能となる。これにより、新たに積層させた第2層によって腐食性物質の浸透を抑制できる。したがって、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても既設遮熱コーティング層の耐久性を向上できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、遮熱コーティングの耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施形態に係る遮熱コーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。
【
図2】溶射粒子の粒度分布を頻度分布で表したグラフの一例である。
【
図3】
図2に示した溶射粒子の粒度分布を累積分布で表したグラフである。
【
図4A】溶射粒子の違いによるセラミックス層の特性の差を表した図であり、熱サイクル耐久性についての示す図である。
【
図4B】溶射粒子の違いによるセラミックス層の特性の差を表した図であり、熱伝導率について示す図である。
【
図4C】溶射粒子の違いによるセラミックス層の特性の差を表した図であり、セラミックス層への腐食性物質の溶融塩の浸透量を示す図である。
【
図4D】溶射粒子の違いによるセラミックス層の特性の差を表した図であり、エロ―ジョン量を示す図である。
【
図5】溶射粒子の粒度分布を累積分布で表したグラフである。
【
図6】幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造工程についてのフローチャートである。
【
図7】ガスタービン動翼の構成例を示す斜視図である。
【
図8】ガスタービン静翼の構成例を示す斜視図である。
【
図10】一実施形態係るガスタービンの部分断面構造を模式的に示す図である。
【
図11】既設コーティング層を備えるタービン部材の断面の模式図である。
【
図12】既設コーティング層に対して第2層を形成する遮熱コーティングの製造工程についてのフローチャートである。
【
図13】既設遮熱コーティング層を備えるタービン部材の断面の模式図である。
【
図14】既設遮熱コーティング層の古い第2層を除去して新たな第2層を形成する遮熱コーティングの製造工程についてのフローチャートである。
【
図15】第2層除去工程において古い第2層を除去した後のタービン部材の断面の模式図である。
【
図16】遮熱コーティング層の気孔率を算出するにあたっての皮膜断面の光学顕微鏡写真の一例である。
【
図17】遮熱コーティング層の気孔率を算出するにあたっての皮膜断面の光学顕微鏡写真を2値化した画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。但し、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0039】
(遮熱コーティング)
図1は、実施形態に係る遮熱コーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。幾つかの実施形態では、タービンの動翼、静翼などの耐熱基材(母材)11上に、遮熱コーティングとして金属結合層(ボンドコート層)12及びセラミックス層13が順に形成される。即ち、
図1に示すように、幾つかの実施形態では、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : TBC)層10は、ボンドコート層12及びセラミックス層13を含んでいる。
ボンドコート層12は、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)などで構成される。
【0040】
図1に示した幾つかの実施形態では、セラミックス層13は、第1層14と第2層15とを含んでいる。幾つかの実施形態における第1層14及び第2層15は、それぞれYbSZ(イッテルビア安定化ジルコニア)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SmYbZr
2O
7、DySZ(ジスプロシア安定化ジルコニア)、ErSZ(エルビア安定化ジルコニア)などの何れかで構成される。
【0041】
図1に示した幾つかの実施形態では、第2層15は、第1層14と同じ材質で構成される。
これにより、第2層15が第1層14と同じ材質で構成されるので、同じ組成の材料で第1層14と第2層15との成膜条件の急変をなくすことができ、第1層14と第2層15との界面の密着性が高い。また、第1層14と第2層15とで、高温環境下における線膨張係数や相安定性等が同じになるので、高温環境下における遮熱コーティング層10の品質劣化を抑制できる。
【0042】
図1に示した幾つかの実施形態では、第1層14は、気孔16を多く含むポーラスな組織とされる。ここでいう「多く含む」とは、第2層15と比較して気孔率(体積%)が高いことを意味する。第1層14の気孔率及び厚さは、要求される熱伝導性に応じて適宜設定される。幾つかの実施形態では、後述するように、第1層14の気孔率は、10%以上15%以下とされる。
【0043】
なお、気孔率は、遮熱コーティング層10の断面における気孔の面積の割合として定義され、気孔の面積を断面の面積で除した値を百分率で表した値である。具体的には、次のようにして気孔率を求める。例えば、遮熱コーティング層10の断面を研磨して光学顕微鏡で観察される像を撮影する。そして、撮影によって得られた写真(例えば
図16)に対して二値化処理を行うことで、気孔部(空隙部)と被膜部とを別々に抽出可能とする。そして、二値化した画像(例えば
図17)から気孔部の面積と被膜部の面積を算出し、気孔部の面積を気孔部と被膜部の面積の和、すなわち断面の面積で除して気孔率を算出する。または、二値化した画像から気孔部の面積と断面の面積を算出し、気孔部の面積を断面の面積で除して気孔率を算出する。第1層14の気孔率を算出する場合、上述のようにして求めた第1層14における気孔16の面積を第1層14の断面の面積で除すことで第1層14の気孔率を求める。
なお、
図16は、遮熱コーティング層の気孔率を算出するにあたっての皮膜断面の光学顕微鏡写真の一例である。また、
図17は、遮熱コーティング層の気孔率を算出するにあたっての皮膜断面の光学顕微鏡写真を2値化した画像の一例である。
【0044】
図1に示した幾つかの実施形態では、第2層15は、第1層14よりも緻密な組織とされ、第1層14上に形成されている。ここでいう「緻密な組織」とは、具体的には、第1層14やボンドコート層12、耐熱基材11への後述するような腐食成分(腐食性物質)の浸透を抑制することができる気孔率を有する組織のことである。
第2層15の気孔率及び厚さは、腐食性物質の浸透を抑制する効果(以下、浸透抑制効果と呼ぶ)、及びセラミックス層13としたときに要求される熱伝導性などを考慮して適宜設定される。幾つかの実施形態では、後述するように、第2層15の気孔率は、0.5%以上9.0%以下とされる。
なお、セラミックス層13の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上1mm以下などとされる。
【0045】
すなわち、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10は、耐熱基材11上に積層されるボンドコート層12と、ボンドコート層12上に積層されたセラミックス層13とを備える。セラミックス層13は、10%以上15%以下の気孔率を有する第1層14、及び0.5%以上9.0%以下の気孔率を有し、且つ、第1層14上に積層された第2層15を含む。
【0046】
幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10では、セラミックス層13が10%以上15%以下の気孔率を有する第1層14と0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層15とを含むので、第1層14によってセラミックス層13の熱伝導率の上昇を抑制しつつ、第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
すなわち、第1層14の気孔率が小さくなると第1層14における熱伝導率が上昇するので、第1層14の気孔率が10%未満になると、遮熱性能が不十分になるおそれがある。また、第1層14の気孔率が大きくなるとボンドコート層12との密着性が低下する傾向にあるので、第1層14の気孔率が15%を超えると、ボンドコート層12との密着性が不十分になるおそれがある。
その点、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10では、第1層14の気孔率が10%以上15%以下であるので、第1層14の耐久性を確保しつつ、第1層14の熱伝導率の上昇を抑制できる。
【0047】
第2層15の気孔率を0.5%未満にするためには、例えば化学蒸着法によるコーティングのように、チャンバを備える大掛かりな装置が必要となる。また、第2層15の気孔率が9%を超えると、第2層15による腐食性物質の浸透を抑制する効果が不十分となるおそれがある。
その点、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10では、第2層15の気孔率が0.5%以上9.0%以下であるので、腐食性物質の浸透抑制を容易に実現できる。
このように、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10では、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても遮熱コーティング層10の耐久性を向上できる。
【0048】
なお、後述するように、第2層15を大気プラズマ溶射等の溶射方法によって形成する場合、溶射距離や溶射温度等の溶射条件、すなわち第2層15の形成条件を適宜設定することで、第2層15の気孔率を0.5%に低減することが可能であるが、第2層15の気孔率の下限値を1.0%に引き上げることにより、溶射条件を緩和できる。したがって、第2層15の気孔率の下限値は1.0%であってもよい。
また、第2層15の気孔率が小さいほど、腐食性物質の浸透を抑制する効果が高まるが、発明者らの鋭意検討の結果、第2層15の気孔率を7.5%以下とすることで腐食性物質の浸透を抑制する効果がより向上することが見出されている。したがって、第2層15の気孔率の上限値は7.5%であってもよい。
【0049】
(一実施形態に係る遮熱コーティング層10について)
耐熱基材11とともに遮熱コーティング層10が加熱される場合、熱膨張による寸法変化はセラミックス層13よりも耐熱基材11の方が大きくなるため、セラミックス層13には、面方向へ伸長させる応力が作用する。このような応力が作用した際に、セラミックス層13に、その膜厚方向に延在する縦割れが導入されていれば、縦割れが広がることで、セラミックス層13自体に作用する応力は小さくなり、セラミックス層13を剥離させ得る面方向の亀裂が生じるのを抑制できる。
しかし、セラミックス層13に縦割れが導入されていると、その縦割れから腐食性物質が浸透して、セラミックス層13を劣化させてしまう。
【0050】
そこで、セラミックス層13のうち、第1層14に、その膜厚方向に延在する縦割れを導入し、第2層15に縦割れを導入しなかった場合、縦割れが導入されていない第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
しかし、第1層14において、その層厚方向に延在する縦割れが導入されている場合、耐熱基材11とともに遮熱コーティング層10が加熱されると、第1層14の縦割れの隙間の間隔が広がることとなり、縦割れが導入されていない第2層15には面方向へ伸長させる応力が作用する。そのため、縦割れが導入されていない第2層15では、その気孔率が4.0%未満となると第1層14の熱膨張の影響により第2層15に亀裂が生じ易くなり、第2層15に生じた亀裂から腐食性物質が浸透するおそれがあるため、第2層15の気孔率を4.0%未満とすることが困難である。しかし、腐食性物質の浸透抑制の観点からは、第2層15の気孔率を小さくすることが望ましい。
【0051】
そこで、一実施形態に係る遮熱コーティング層10では、第1層14及び第2層15には、その層厚方向に延在する縦割れを導入せず、且つ、第2層15の気孔率を0.5%以上4.0%未満とした。
これにより、第1層14に縦割れが導入されている場合と比べて、第1層14における熱膨張による寸法変化を抑制できるので、第2層15の気孔率を4.0%未満としても、第2層15に亀裂が生じ難くなる。したがって、第2層15における亀裂の発生を抑制できるとともに第2層15における気孔率を小さくすることができるので、第2層15による腐食性物質の浸透を抑制する効果を向上できる。
【0052】
(第1層14及び第2層15の形成方法について)
幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10では、第1層14及び第2層15は、大気プラズマ溶射によって生成された溶射層である。
【0053】
例えば化学蒸着法や物理蒸着法によって第1層14及び第2層15を生成する場合や、例えば減圧プラズマ溶射によって第1層14及び第2層15を生成する場合には、チャンバを備える大掛かりな装置が必要となり、装置の費用が高額になる他、段取り等の準備等を含めた工数が多くなりがちである。
その点、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10では、第1層14及び第2層15を大気プラズマ溶射によって生成することで、例えば化学蒸着法や物理蒸着法、減圧プラズマ溶射等によって第1層14及び第2層15を生成する場合と比べて、装置構成が簡素であるので、装置の費用を安価にできる他、段取り等の準備等を含めた工数を削減でき、タクトタイムを短縮できる。
【0054】
(第2層15の形成に用いる溶射粒子について)
図2は、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子や、幾つかの実施形態に係る第1層14及び第2層15の形成に用いた溶射粒子の粒度分布を頻度分布で表したグラフの一例である。また、
図3は、
図2に示した溶射粒子の粒度分布を累積分布で表したグラフである。
従来は、平均粒径10μmから150μmの範囲、一般には10μmから100μmで正規分布に近い粒度分布を有する溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することが一般的であった。
図2,3では、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子の粒度分布を破線で表している。
【0055】
発明者らが鋭意検討した結果、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することで、セラミックス層の気孔率が上昇してセラミックス層の遮熱性が向上することを見出した。また、発明者らは、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することで、気孔を起点にして伸長する微細な欠陥(層状欠陥)の発生が抑制されて熱サイクル耐久性が向上することを見出した。
具体的には、発明者らは、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子よりも積算粒度10%粒径を増大させて、溶射粒子中に含まれる粒径の小さい粒子の割合を低下させることで、セラミックス層の遮熱性が向上するとともに熱サイクル耐久性が向上することを見出した。
【0056】
さらに発明者らが鋭意検討した結果、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする上述した溶射粒子に対し、さらに大径粒子の割合を減少させることで、熱サイクル耐久性を確保しつつ、セラミックス層の気孔率が小さくなることを見出した。
すなわち、発明者らが鋭意検討した結果、第2層15を溶射によって形成するにあたり、例えば積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、例えば積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、例えば積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する第1溶射粒子1を用いることで、第2層15の気孔率を低下させて腐食性物質の浸透を抑制できることが判明した。また、第1溶射粒子1を用いることで、第2層15における気孔を起点にして伸長する微細な欠陥(層状欠陥)の発生が抑制されて熱サイクル耐久性が向上することが判明した。すなわち、第1溶射粒子1を用いることで、第2層15における気孔率を0.5%以上9.0%以下とすることができることが判明した。
したがって、第1溶射粒子1を溶射して第2層15を形成することで、第2層15の耐久性を確保しつつ、第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
図2,3では、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する第1溶射粒子1の粒度分布の一例を示している。
【0057】
(第1層14の形成に用いる溶射粒子について)
上述したように、発明者らが鋭意検討した結果、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子よりも、小径粒子の割合を低減し、比較的大きい粒子を主とする溶射粒子を用いてセラミックス層を形成することで、気孔率が上昇してセラミックス層の遮熱性が向上するとともに、層状欠陥の発生が抑制されてセラミックス層の熱サイクル耐久性が向上することを見出した。
すなわち、発明者らが鋭意検討した結果、第1層14を溶射によって形成するにあたり、例えば積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、例えば積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、例えば積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する第2溶射粒子2を用いることで、第1層14の熱サイクル耐久性が向上することを見出した。すなわち、第2溶射粒子2を用いることで、第1層14における気孔率を10%以上15%以下とすることができ、第1層14の耐久性を確保しつつ、第1層14の遮熱性を向上できる。
図2,3では、積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する第2溶射粒子2の粒度分布の一例を示している。
【0058】
図4は、溶射粒子の違いによるセラミックス層13の特性の差を表した図である。
図4(a)は、熱サイクル耐久性についての示す図である。
図4(b)は、熱伝導率について示す図である。
図4(c)は、セラミックス層13への腐食性物質の溶融塩の浸透量を示す図である。
図4(d)は、エロ―ジョン量を示す図である。
図4(a)~(d)に示す値は、それぞれ、
図3に示した粒度分布を有する従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層における特性値を1としたときの相対値として表している。
図4(a)~(d)では、
図3に示した粒度分布を有する従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層を「従来TBC」と表記する。同様に、
図3に示した粒度分布を有する第1溶射粒子1のみによって形成された単層のセラミックス層を「第1溶射粒子1のみ」と表記し、
図3に示した粒度分布を有する第2溶射粒子2のみによって形成された単層のセラミックス層を「第2溶射粒子2のみ」と表記する。そして、
図3に示した粒度分布を有する第1溶射粒子1によって形成された第2層15と
図3に示した粒度分布を有する第2溶射粒子2によって形成された第1層14とを有するセラミックス層13を「第1溶射粒子1+第2溶射粒子2」と表記する。
【0059】
図4(a)~(d)に示すように、第2溶射粒子2のみによって形成された単層のセラミックス層では、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層と比較すると、溶射粒子の小径粒子の割合を低減していることから、熱サイクル耐久性が向上し、熱伝導率が略同等となっている。また、第2溶射粒子2のみによって形成された単層のセラミックス層では、溶融塩浸透量及びエロ―ジョン量が従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層と同等である。
【0060】
第1溶射粒子1のみによって形成された単層のセラミックス層では、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層と比較すると、溶射粒子の小径粒子及び大径粒子の割合をそれぞれ低減していることから、熱サイクル耐久性が向上し、溶融塩浸透量及びエロ―ジョン量が低減する。しかし、第1溶射粒子1のみによって形成された単層のセラミックス層では、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層と比較すると、気孔率が低下することから、熱伝導率が大きくなる。
【0061】
これらに対して、第1溶射粒子1によって形成された第2層15と第2溶射粒子2によって形成された第1層14とを有するセラミックス層13では、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層と比較すると、熱サイクル耐久性が向上し、熱伝導率が略同等となり、溶融塩浸透量及びエロ―ジョン量が低減する。
すなわち、第1溶射粒子1によって形成された第2層15と第2溶射粒子2によって形成された第1層14とを有するセラミックス層13では、熱サイクル耐久性、熱伝導率、溶融塩浸透量及びエロ―ジョン量の点で、従来のセラミックス層の形成に用いた溶射粒子によって形成された従来のセラミックス層よりも優れた特性を有する。
【0062】
(第1溶射粒子1及び第2溶射粒子2の他の実施形態について)
発明者らが鋭意検討した結果、上述したように、積算粒度10%粒径を大きくすることで、溶射によって形成される層の熱サイクル耐久性が向上することを見出した。逆に言えば、溶射粒子の積算粒度10%粒径を小さくすると、溶射によって形成される層の熱サイクル耐久性が低下することが判明した。また、発明者らが鋭意検討した結果、上述したように、溶射粒子における大径粒子の割合を減少させることで、溶射によって形成される層の気孔率が小さくすることができることが判明した。
したがって、熱サイクル耐久性の観点から、第2溶射粒子2の積算粒度10%粒径に対して第1溶射粒子1の積算粒度10%粒径があまり小さくならないようにしつつ、第2層15による腐食性物質の浸透抑制の観点から、第2溶射粒子2の積算粒度50%粒径及び積算粒度90%粒径に対して第1溶射粒子1の積算粒度50%粒径及び積算粒度90%粒径を小さくすることが望ましい。
そのため、例えば以下で説明する、
図5に示した第1溶射粒子1Aのように、第2溶射粒子2の積算粒度10%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度10%粒径の比率を、第2溶射粒子2の積算粒度50%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度50%粒径の比率、及び、第2溶射粒子2の積算粒度90%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度90%粒径の比率よりも大きいことが望ましい。
【0063】
図5は、
図3に示した溶射粒子の粒度分布を累積分布で表したグラフに、
図3に示した第1溶射粒子1の粒度分布とは異なる粒度分布を有する第1溶射粒子1Aの粒度分布を追記したグラフである。
例えば、
図5に示す第1溶射粒子1Aでは、上述した第1溶射粒子1に比べて、積算粒度10%粒径がわずかに大きく、積算粒度50%粒径及び積算粒度90%粒径がそれぞれ小さい。
図5に示す第1溶射粒子1Aでは、積算粒度10%粒径は例えば38μmであり、積算粒度50%粒径は例えば50μmであり、積算粒度90%粒径は例えば75μmである。
また、
図5に示す第2溶射粒子2では、積算粒度10%粒径は例えば42μmであり、積算粒度50%粒径は例えば63μmであり、積算粒度90%粒径は例えば86μmである。
すなわち、
図5に示す第1溶射粒子1A及び第2溶射粒子2では、第2溶射粒子2の積算粒度10%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度10%粒径の比率(38μm/42μm=0.905)は、第2溶射粒子2の積算粒度50%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度50%粒径の比率(50μm/63μm=0.794)、及び、第2溶射粒子2の積算粒度90%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度90%粒径の比率(75μm/86μm=0.872)よりも大きい。
【0064】
このように、第2溶射粒子2の積算粒度10%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度10%粒径の比率を、第2溶射粒子2の積算粒度50%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度50%粒径の比率、及び、第2溶射粒子2の積算粒度90%粒径に対する第1溶射粒子1Aの積算粒度90%粒径の比率よりも大きくすることで、第2層15の耐久性を確保しつつ、第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
【0065】
(第1層14及び第2層15の厚さについて)
第1層14及び第2層15の厚さは、例えば大気プラズマ溶射によって生成する場合、安定した被膜を得るために30μm以上とすることが望ましい。
なお、第2層15の厚さが50μm未満になる場合、局所的に層の厚さが薄い場所が存在すると、気孔が第2層15を貫通するおそれがあるため、腐食性物質の浸透抑制の観点からは、第2層15の厚さは50μm以上とすることが望ましい。
また、第2層15の厚さが100μmを超えると、セラミックス層13全体の熱サイクル耐久性が低下するおそれがあるため、第2層15の厚さは100μm以下とすることが望ましい。
【0066】
第2層15の厚さが第1層14の厚さの10%未満であると、例えば第1層14の厚さを0.5mmとすると、第2層15の厚さが0.05mm(50μm)未満となるため、上述したように、気孔が第2層15を貫通するおそれがある。一方、例えば第2層15の厚さが第1層14の厚さの100%を超えると、第2層15の気孔率が第1層14よりも低く熱伝導率が高いため、セラミックス層13における遮熱効果が不十分となるおそれがある。
したがって、第2層15の厚さは、第1層14の厚さの10%以上100%以下であることが望ましい。
第2層15の厚さを第1層14の厚さの10%以上100%以下とすることで、遮熱性を確保しつつ、腐食性物質の浸透を抑制できる。
【0067】
なお、上述したように、第2層15の厚さは、50μm以上100μm以下とすること、及び、第1層14の厚さの10%以上100%以下とすることが望ましい。このことから、第1層14の厚さが採り得る範囲の下限値は、第2層15の厚さの下限値である50μmが、第1層14の厚さの100%に該当する場合となる、50μmとすることが望ましい。同様に、第1層14の厚さが採り得る範囲の上限値は、第2層15の厚さの上限値である100μmが、第1層14の厚さの10%に該当する場合となる、1000μmとすることが望ましい。
【0068】
なお、例えばセラミックス層13の厚さを0.5mmとした場合、第2層15の厚さをその下限値である50μmとすると、第1層14の厚さは450μmとなる。この場合、第2層15の厚さは、第1層14の厚さの11.1%となる。また、例えばセラミックス層13の厚さを0.5mmとした場合、第2層15の厚さをその上限値である100μmとすると、第1層14の厚さは400μmとなる。この場合、第2層15の厚さは、第1層14の厚さの25%となる。
【0069】
(遮熱コーティングの製造方法について)
図6を参照して、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法について説明する。
図6は、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造工程についてのフローチャートである。
幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、ボンドコート層積層工程S10と、第1層積層工程S20と、第2層積層工程S30とを含む。
【0070】
ボンドコート層積層工程S10は、耐熱基材11上にボンドコート層12を積層させる工程である。ボンドコート層積層工程S10では、例えば、前述のMCrAlY合金等の溶射粉を耐熱基材11の表面に溶射することでボンドコート層12を形成する。
【0071】
第1層積層工程S20は、ボンドコート層12上に、溶射粒子を溶射して第1層14を積層させる工程である。第1層積層工程S20では、例えば、積算粒度10%粒径が40μm以上50μm以下とされ、積算粒度50%粒径が60μm以上70μm以下とされ、積算粒度90%粒径が80μm以上100μm以下とされる粒度分布を有する第2溶射粒子2を大気プラズマ溶射によってボンドコート層12の表面に溶射することで第1層14を形成する。
【0072】
第2層積層工程S30は、第1層14上に、溶射粒子を溶射して第2層15を積層させる工程である。第2層積層工程S30では、例えば、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する第1溶射粒子1を大気プラズマ溶射によって第1層14の表面に溶射することで第2層15を形成する。
【0073】
幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法では、ボンドコート層12上に、10%以上15%以下の気孔率を有する第1層14を形成できる。これにより、第1層14の耐久性を確保しつつ、第1層14の熱伝導率の上昇を抑制できる。
また、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法では、第1層14上に、0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層15を形成できる。これにより、第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。
このように、幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法では、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても遮熱コーティング層10の耐久性を向上できる。
【0074】
(タービン部材及びガスタービン)
上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングは、産業用ガスタービンの動翼や静翼、あるいは燃焼器の内筒や尾筒、分割環などの高温部品に適用して有用である。また、産業用ガスタービンに限らず、自動車やジェット機などのエンジンの高温部品の遮熱コーティング膜にも適用することができる。これらの部材に上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングを設けることで、耐食性及び熱サイクル耐久性に優れるガスタービン翼や高温部品を構成することができる。
【0075】
図7乃至9は、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングを適用可能なタービン部材の構成例を示す斜視図である。
図10は、一実施形態係るガスタービン6の部分断面構造を模式的に示す図である。上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングを適用可能なタービン部材の構成例として、
図7に示すガスタービン動翼4や、
図8に示すガスタービン静翼5、
図9に示す分割環7、及び
図10に示すガスタービン6の燃焼器8を挙げることができる。
図7に示すガスタービン動翼4は、ディスク側に固定されるタブテイル41、プラットフォーム42、翼部43等を備えて構成されている。また、
図8に示すガスタービン静翼5は、内シュラウド51、外シュラウド52、翼部53等を備えて構成されており、翼部53にはシールフィン冷却孔54、スリット55等が形成されている。
【0076】
図9に示す分割環7は、環状の部材を周方向に分割した部材であり、ガスタービン動翼4の外側に複数配置され、タービン62のケーシングに保持される。
図9に示す分割環7には冷却孔71が形成されている。
図10に示すガスタービン6が備える燃焼器8は、ライナとして内筒81と尾筒82とを有する。
【0077】
次に、上述したタービン部材を適用可能なガスタービンについて
図10を参照して以下に説明する。
図10は、一実施形態係るガスタービンの部分断面構造を模式的に示す図である。このガスタービン6は、互いに直結された圧縮機61とタービン62とを備える。圧縮機61は、例えば軸流圧縮機として構成されており、大気又は所定のガスを吸込口から作動流体として吸い込んで昇圧させる。この圧縮機61の吐出口には、燃焼器8が接続されており、圧縮機61から吐出された作動流体は、燃焼器8によって所定のタービン入口温度まで加熱される。そして所定温度まで昇温された作動流体がタービン62に供給されるようになっている。
図10に示すように、タービン62のケーシング内部には、上述したガスタービン静翼5が、複数段設けられている。また、上述したガスタービン動翼4が、各静翼5と一組の段を形成するように主軸64に取り付けられている。主軸64の一端は、圧縮機61の回転軸65に接続されており、その他端には、図示しない発電機の回転軸が接続されている。
【0078】
このような構成により、燃焼器8からタービン62のケーシング内に高温高圧の作動流体を供給すれば、ケーシング内で作動流体が膨張することにより、主軸64が回転し、このガスタービン6と接続された図示しない発電機が駆動される。即ち、ケーシングに固定された各静翼5によって圧力降下させられ、これにより発生した運動エネルギは、主軸64に取り付けられた各動翼4を介して回転トルクに変換される。そして、発生した回転トルクは、主軸64に伝達され、発電機が駆動される。
【0079】
一般に、ガスタービン動翼に用いられる材料は、耐熱合金(例えばIN738LC=インコ社の市販の合金材料)であり、ガスタービン静翼に用いられる材料は、同様に耐熱合金(例えばIN939=インコ社の市販の合金材料)である。即ち、タービン翼を構成する材料は、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングにおいて耐熱基材11として採用可能な耐熱合金が使用されている。従って、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングを、これらのタービン翼に適用すれば、遮熱効果と、耐食性及び耐久性に優れたタービン翼を得ることができるので、より高い温度環境で使用することができ、長寿命のタービン翼を実現することができる。また、より高い温度環境において適用可能であることは、作動流体の温度を高められることを意味し、これによりガスタービン効率を向上させることも可能となる。
このように、幾つかの実施形態に係るタービン部材であるタービン翼4,5は、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングを有するので、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であってもタービン部材の耐久性を向上できる。
また、幾つかの実施形態に係るガスタービン6は、上記タービン部材であるタービン翼4,5を有するので、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であってもガスタービン6におけるタービン部材の耐久性を向上できる。
【0080】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、ボンドコート層積層工程S10と、第1層積層工程S20と、第2層積層工程S30とを含む。しかし、既にボンドコート層12及び第1層14が形成された耐熱基材11に対して、上述した第2層積層工程S30によって第1層14の表面側に第2層15を形成するようにしてもよい。
これにより、例えば、第1層14と同様の層を有する従来のタービン部材に対して、第2層15を形成できる。
【0081】
具体的には、例えば
図11に示すように、母材11上にボンドコート層12及び第1層14と同様の第1層14Aとが積層された既設コーティング層10Aに対して、
図12に示す遮熱コーティングの製造工程において、第2層15を形成できる。なお、
図11は、第1層14と同様の第1層14Aとが積層された既設コーティング層10Aを備えるタービン部材の断面の模式図である。
図12は、既設コーティング層10Aに対して第2層15を形成する遮熱コーティングの製造工程についてのフローチャートである。
【0082】
図12に示す実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、第2層積層工程S30を含む。
図12に示す実施形態に係る第2層積層工程S30は、上述した
図6に示す幾つかの実施形態に係る第2層積層工程S30と同じである。
【0083】
図12に示す実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法では、例えば、ガスタービン6の運転に供された、第2層15が形成されていないタービン部材や、第2層15が形成されていない未使用品のタービン部材に対し、第2層積層工程S30において、第1層14の表面に第2層15を形成する。
【0084】
これにより、ボンドコート層12とボンドコート層12上に積層された第1層14Aとを有する既設コーティング層10Aに対して、第2層積層工程S30によって、0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層15を形成できる。これにより、第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。したがって、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても既設コーティング層10Aの耐久性を向上できる。
【0085】
上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、ボンドコート層積層工程S10と、第1層積層工程S20と、第2層積層工程S30とを含む。しかし、上述した幾つかの実施形態に係る遮熱コーティング層10を有するタービン部材のメンテナンスに際し、古い第2層15を除去した後に新たな第2層15を形成できる。
具体的には、例えば
図13に示すように、母材11上に積層されたボンドコート12層と、ボンドコート層12上に積層された第1層14と、第1層14上に積層された第2層15Bとを有する既設遮熱コーティング層10Bに対し、
図14に示す遮熱コーティングの製造工程において、古い第2層15Bを除去して新たな第2層15を形成できる。なお、
図13は、既設遮熱コーティング層10Bを備えるタービン部材の断面の模式図である。
図14は、既設遮熱コーティング層10Bの古い第2層15Bを除去して新たな第2層15を形成する遮熱コーティングの製造工程についてのフローチャートである。
【0086】
図14に示す実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、第2層除去工程S50と、第2層積層工程S30とを含む。
図14に示す実施形態に係る第2層積層工程S30は、上述した
図6に示す幾つかの実施形態に係る第2層積層工程S30と同じである。
【0087】
図14に示す実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法では、まず、第2層除去工程S50において、
図13に示す既設遮熱コーティング層10Bの古い第2層15Bを除去する。第2層除去工程S50では、例えばブラスト処理などによって、古い第2層15Bを除去する。
図15は、第2層除去工程S50において古い第2層15Bを除去した後のタービン部材の断面の模式図である。
【0088】
次いで、第2層積層工程S30において、第2層除去工程S50において古い第2層15Bを除去した後の既設遮熱コーティング層10Bの第1層14の表面に第2層15を形成する。
【0089】
すなわち、
図14に示す実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、母材11上に積層されたボンドコート層12と、ボンドコート層12上に積層された第1層14と、第1層14上に積層された第2層15Bとを有する既設遮熱コーティング層10Bに対し、第2層15Bを除去する第2層除去工程S50を含む。また、
図14に示す実施形態に係る遮熱コーティングの製造方法は、第2層15Bを除去した後の既設遮熱コーティング層10Bに対し、第1層14上に、積算粒度10%粒径が30μm以上40μm以下とされ、積算粒度50%粒径が40μm以上60μm以下とされ、積算粒度90%粒径が70μm以上80μm以下とされる粒度分布を有する溶射粒子を溶射して第2層15を積層させる第2層積層工程S30を含む。
【0090】
これにより、既設遮熱コーティング層10Bの第2層15Bを除去して新たに0.5%以上9.0%以下の気孔率を有する第2層15を形成できる。したがって、既設遮熱コーティング層10Bにおける第2層15Bが劣化した場合などに、第2層15を新たに積層させることが可能となる。これにより、新たに積層させた第2層15によって腐食性物質の浸透を抑制できる。したがって、燃焼ガスに腐食性物質が含まれる環境下であっても既設遮熱コーティング層10Bの耐久性を向上できる。
【符号の説明】
【0091】
1,1A 第1溶射粒子
2 第2溶射粒子
4 ガスタービン動翼
5 ガスタービン静翼
6 ガスタービン
7 分割環
8 燃焼器
10 遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating : TBC)層
11 耐熱基材(母材)
12 金属結合層(ボンドコート層)
13 セラミックス層
14 第1層
15 第2層